説明

光電子増倍管

【課題】小型化された場合でも耐電圧の低下を抑制すること。
【解決手段】この光電子増倍管1は、上側フレーム2及び下側フレーム4からなる筐体5と、下側フレーム4上に配列されたダイノード33a〜33lを有する電子増倍部33と、光電面41と、陽極部34とを備え、上側フレーム2の対向面20a上には導電膜202が設けられ、電子増倍部33は、ダイノード33a〜33dそれぞれの下側フレーム4側に設けられた基台部52a〜52dと、それぞれの基台部52a〜52dの対向面40aに沿った方向の一端部で導電膜202に接続される給電部53a〜53dとを有し、基台部52a〜52dは、その両端部が該対向面40aに接合され、その中央部が該対向面40aから離間するように構成されており、給電部53a〜53d側の一端部の断面積が他端部における断面積よりも大きくなるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの入射光を検出する光電子増倍管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、微細加工技術を利用した小型の光電子増倍管の開発が進められている。例えば、透光性の絶縁基板上に光電面、ダイノード、及びアノードが配置された平面型の光電子増倍管が知られている(下記特許文献1参照)。このような構造によって、微弱光の検出が実現されるとともに、装置の小型化も図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,264,693号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような従来の光電子増倍管では、絶縁基板上に電位の異なる構造物が近接して配置されているために、小型化された場合に各構造物間の耐電圧が低下することが問題となる。特に、電子増倍部においては、生成された二次電子が絶縁基板上に入射することで、絶縁基板が帯電して隣接するダイノード間の耐電圧が低下してしまうおそれがある。また、小型化されるに従って、ダイノードの物理的な強度は低下してしまうため、給電部材の接続によるダイノードの変形や破損等が生じることで、やはり耐電圧が低下してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、小型化された場合でも耐電圧の低下を抑制することが可能な光電子増倍管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の光電子増倍管は、互いに対向して配置され、それぞれの対向面が絶縁材料からなる第1及び第2の基板を含む外囲器と、第1の基板の対向面上の一端側から他端側に向けた一方向に沿って、順に離間して配列された複数段のダイノードを有する電子増倍部と、外囲器内の一端側に電子増倍部から離間して設けられ、外部からの入射光を光電子に変換して、光電子を放出する光電面と、外囲器内の他端側に電子増倍部から離間して設けられ、電子増倍部によって増倍された電子を信号として取り出す陽極部とを備え、第2の基板の対向面上には、電子増倍部に対して給電するための給電部が設けられ、電子増倍部は、複数段のダイノードそれぞれの第1の基板側の端部に電気的に接続されて、複数段のダイノードによって形成された電子増倍路を跨るように設けられた支持台と、それぞれの支持台の第1の基板の対向面に沿った方向の両端部の一方の端部から第2の基板に向けて伸びるように形成され、給電部と電気的に接続される給電部材と、を有し、支持台は、両端部が、該対向面に接合され、且つ、両端部によって挟まれる中央部が、該対向面から離間するように構成されており、両端部のうち給電部材側の一方の端部における該対向面に沿った断面積が、両端部のうちの他方の端部における断面積よりも大きくなるように形成されている。
【0007】
このような光電子増倍管によれば、入射光が光電面に入射することによって光電子に変換され、この光電子が、外囲器内の第1の基板の内面上の複数段のダイノードによって形成された電子増倍部に入射することによって増倍され、増倍された電子が電気信号として陽極部から取り出される。ここで、各ダイノードには、その第1の基板側の端部に支持台が設けられ、この支持台には、その一方の端部から第1の基板と対向する第2の基板に向けて伸びる給電部材が電気的に接続され、この給電部材が第2の基板の内面に設けられた給電部に接続されることにより、各ダイノードが給電される。さらに、支持台は、その両端部が第1の基板の対向面に接合され、その中央部が対向面から離間されており、給電部材側の一方の端部の対向面に沿った断面積が、他方の端部の断面積よりも大きくされている。これにより、二次電子等の入射によって基板の絶縁面が耐電しやすい電子増倍路の領域において、各ダイノードが基板の絶縁面から離間しているので、耐電圧の低下を抑制することができる。さらに、基板の給電部と接触する部位側の支持台の端部の強度を高めることで、給電のための接触による加圧に対して電子増倍部の物理的な強度が確保されるため、変形や破損等を起こすことなく、耐電圧の低下を抑制することができる。
【0008】
第1の基板の対向面上には凹部が形成されており、支持台の中央部は、凹部上に配置されることにより、該対向面から離間される、ことが好適である。この場合、電子増倍部の強度を低下させることなく支持台の中央部を基板から離間させることができるため、さらに耐電圧の低下を抑制することができる。
【0009】
また、凹部は、複数段のダイノードのそれぞれに接続された複数の支持台を跨って形成されている、ことも好適である。かかる構成を採れば、複数段のダイノード間を通過する二次電子による帯電を防止することにより、耐電圧の低下をさらに抑制することができる。
【0010】
さらに、複数段のダイノードに対応する複数の支持台は、第1の基板の対向面に沿って一方の端部と他方の端部とが互い違いに並べられるように配置されている、ことも好適である。こうすれば、それぞれの支持台の給電部材側の端部の基板に沿った断面積を大きくすることができるので、電子増倍部の物理的強度をさらに高めることが可能となり、さらに耐電圧の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型化された場合でも耐電圧の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の好適な一実施形態に係る光電子増倍管の斜視図である。
【図2】図1の光電子増倍管の分解斜視図である。
【図3】図1の側壁フレームの平面図である。
【図4】図1の側壁フレーム及び下側フレームの要部を示す一部破断斜視図である。
【図5】図1の光電子増倍管のV-V線に沿った断面図である。
【図6】(a)は、図1の上側フレームを裏面側から見た底面図、(b)は、図1の側壁フレームの平面図である。
【図7】図6の上側フレームと側壁フレームとの接続状態を示す斜視図である。
【図8】図1の側壁フレーム及び下側フレームの一部破断斜視図である。
【図9】本発明の比較例に係る電子増倍部の平面図である。
【図10】本発明の別の比較例に係る電子増倍部の平面図である。
【図11】本発明の変形例に係る下側フレームの斜視図である。
【図12】図11の下側フレームを裏面側から見た底面図である。
【図13】本発明の別の変形例に係る下側フレームの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る光電子増倍管の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の好適な一実施形態に係る光電子増倍管1の斜視図、図2は、図1の光電子増倍管1の分解斜視図である。
【0015】
図1に示す光電子増倍管1は、透過型の光電面を有する光電子増倍管であって、上側フレーム(第2の基板)2と、側壁フレーム3と、上側フレーム2に対して側壁フレーム3を挟んで対向する下側フレーム(第1の基板)4により構成された外囲器である筐体5を備える。この光電子増倍管1は、光電面への光の入射方向と、電子増倍部での電子の増倍方向が交差する、つまり図1の矢印Aで示された方向から光が入射されると、光電面から放出された光電子が電子増倍部に入射し、矢印Bで示された方向に二次電子をカスケード増幅し、陽極部から信号を取り出す電子管である。
【0016】
なお、以下の説明においては、電子増倍方向に沿って、電子増倍路(電子増倍チャネル)の上流側(光電面側)を“一端側”とし、下流側(陽極部側)を“他端側”とする。引き続いて、光電子増倍管1の各構成要素について詳細に説明する。
【0017】
図2に示すように、上側フレーム2は、矩形平板状の絶縁性のセラミックスを主材料とする配線基板20を基材として構成されている。このような配線基板としては、微細な配線設計が可能で、かつ表裏の配線パターンを自由に設計できるLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)等の多層配線基板が用いられる。配線基板20には、その主面20b上に、側壁フレーム3、後述する光電面41、集束電極31、壁状電極32、電子増倍部33、及び陽極部34と電気的に接続されて外部からの給電や信号の取り出しを行う複数の導電性端子201A〜Dが設けられている。導電性端子201Aは側壁フレーム3の給電用として、導電性端子201Bは、光電面41、集束電極31、及び壁状電極32の給電用として、導電性端子201Cは、電子増倍部33の給電用として、導電性端子201Dは、陽極部34の給電及び信号取り出し用として、それぞれ設けられている。これらの導電性端子201A〜Dは、配線基板20の内部で主面20bに対して対向する絶縁性の対向面20a上の導電膜や導電性端子(詳細は後述する。)と相互に接続され、これらの導電膜、導電性端子と側壁フレーム3、光電面41、集束電極31、壁状電極32、電子増倍部33、及び陽極部34とが接続される。また、上側フレーム2は、導電性端子201を設けた多層配線基板に限らず、外部からの給電や信号の取り出しを行う導電性端子が貫通して設けられた、ガラス基板等の絶縁材料からなる板状部材でもよい。
【0018】
側壁フレーム3は、矩形平板状のシリコン基板30を基材として構成されている。シリコン基板30の主面30aからそれに対向する面30bに向かって、枠状の側壁部302に囲まれた貫通部301が形成されている。この貫通部301はその開口が矩形であって、その外周はシリコン基板30の外周に沿うように形成されている。
【0019】
この貫通部301内には、一端側から他端側に向かって、壁状電極32、集束電極31、電子増倍部33、及び陽極部34が配置されている。これらの壁状電極32、集束電極31、電子増倍部33、及び陽極部34は、シリコン基板30をRIE(Reactive Ion Etching)加工等によって加工することにより形成され、シリコンを主要材料としている。
【0020】
壁状電極32は、後述するガラス基板40の対向面40aと正対する方向(対向面40aに対する略垂直方向)から見て、後述する光電面41を取り囲むように形成された枠状の電極である。また、集束電極31は、光電面41から放出された光電子を集束して電子増倍部33へと導くための電極であり、光電面41と電子増倍部33との間に設けられている。
【0021】
電子増倍部33は、光電面41から陽極部34に向う電子増倍方向(図1の矢印Bで示された方向、以下同じ。)に沿って異なる電位に設定されるN段(Nは2以上の整数)のダイノード(電子増倍部)から構成されており、各段を跨って複数の電子増倍路(電子増倍チャネル)を有している。また、陽極部34は光電面41とともに電子増倍部33を挟む位置に配置される。
【0022】
これら壁状電極32、集束電極31、電子増倍部33、及び陽極部34は、それぞれ、下側フレーム4に陽極接合、拡散接合、さらには低融点金属(例えばインジウム)等の封止材を用いた接合等によって固定されており、これにより該下側フレーム4上に二次元的に配置される。
【0023】
下側フレーム4は、矩形平板状のガラス基板40を基材として構成されている。このガラス基板40は、絶縁材料であるガラスによって配線基板20の対向面20aに対向し、筐体5の内面である対向面40aを形成する。対向面40a上における、側壁フレーム3の貫通部301に対向する部位(側壁部302との接合領域以外の部位)であって、陽極部34側と反対側の端部には、透過型光電面である光電面41が形成されている。また、対向面40a上の電子増倍部33及び陽極部34が搭載される部位には、増倍電子の対向面40aへの入射を防止するための矩形状の窪み部(凹部)42が形成されている。
【0024】
図3〜図5を参照して、光電子増倍管1の内部構造について詳細に説明する。図3は、図1の側壁フレーム3の平面図、図4は、図1の側壁フレーム3及び下側フレーム4の要部を示す一部破断斜視図、図5は、図1の光電子増倍管のV-V線に沿った断面図である。
【0025】
図3に示すように、貫通部301内の電子増倍部33は、対向面40a上の一端側から他端側に向けて(電子増倍方向である矢印Bの示す方向に向けて)、順に離間して配列された複数段のダイノード33a〜33lから構成されている。これらの複数段のダイノード33a〜33lは、矢印Bの示す方向に沿って、一端側の第1段目のダイノード33aから他端側の最終段(第N段目)のダイノード33lにかけて連続するように設けられたN個の電子増倍孔から構成された電子増倍チャネルCを複数並列に形成している。
【0026】
また、光電面41は、一端側の第1段目のダイノード33aから、集束電極31を挟んだ対向面40a上の一端側に離間して設けられている。この光電面41は、ガラス基板40の対向面40a上に矩形状の透過型光電面として形成されている。外部から下側フレーム4であるガラス基板40を透過した入射光が光電面41に到達すると、この入射光に応じた光電子が放出され、その光電子は壁状電極32及び集束電極31によって第1段目のダイノード33aへと導かれる。
【0027】
また、陽極部34は、他端側の最終段のダイノード33lから対向面40a上の他端側に離間して設けられている。この陽極部34は、電子増倍部33によって電子増倍チャネルC内を矢印Bの示す方向に増倍してきた電子を、電気信号として外部に取り出すための電極である。
【0028】
図4に示すように、複数段のダイノード33a〜33dは、下側フレーム4の対向面40a上に形成された窪み部42の底部から離間して配置されている。ダイノード33aは、対向面40aに沿って電子増倍方向に対してほぼ垂直な方向に配列され、上側フレーム2の対向面20aに向かってほぼ垂直に延びる複数の柱状部51aと、複数の柱状部51aの窪み部42側の端部に連続的に形成され、窪み部42の底部に沿って電子増倍方向に対してほぼ垂直な方向に延びる基台部(支持台)52aとを含む。また、ダイノード33b〜33dに関しても、それぞれの複数の柱状部51b〜51d、及びそれぞれの基台部52b〜52dに関して、ダイノード33aと同様の構造を有する。それぞれの柱状部51a〜51dにおける隣接する部材間に電子増倍チャネルCが形成され、基台部52a〜52dはこの電子増倍チャネルCが形成される領域A(図3)を跨るように設けられている。ここで、基台部52a〜52dは、それぞれの複数の柱状部51a〜51dを互いに電気的に接続するとともに、複数の柱状部51a〜51dを窪み部42の底部から離間して保持する役目を有する。なお、本実施形態においては、ダイノード33a〜33dにおいて、複数の柱状部51a〜51d、及び基台部52a〜52dはそれぞれ一体に形成されているが、柱状部と基台部を別体にしても良い。また、図示していないが、ダイノード33e〜33lも同様の構造を有する。
【0029】
さらに、この基台部52b,52dの電子増倍方向に垂直な方向の一方の端部には、その端部から上側フレーム2に向けてほぼ垂直に伸びるように略円柱形状を有する給電部53b,53dが、一体的に形成されている。この給電部53b,53dは、基台部52b,52dを経由して複数の柱状部51b,51dを給電するための部材である。
【0030】
図5に示すように、上記のような構造を有するダイノード33bは、電子増倍方向に対して垂直であり、且つ対向面40aに沿った方向の基台部52bの両端部が、対向面40aに接合されることによって下側フレーム4に対して固定され、基台部52bにおけるこれらの両端部によって挟まれる中央部54bは、その対向面40a側の面が窪み部42の底部から離間するように配置される。言い換えると、ダイノード33bにおいて、電子増倍チャネルCが形成される電子増倍領域が下側フレーム4から離間して配置され、電子増倍方向に対して垂直であり、且つ対向面40aに沿った方向の両端部が下側フレーム4に対する固定部となるように、下側フレーム4の対向面40aに窪み部42が形成されている。また、細かい形状上の差異はあるが、その他のダイノード33a,33c〜33lも柱状部、基台部、給電部に関して同様の基本構造を有している。また、これに対応して対向面40a上の窪み部42は、電子増倍方向において複数段のダイノード33a〜33lの基台部及び陽極部34を跨るような幅で形成されている。つまり、窪み部42は、ダイノード33a〜33l及び陽極部34に対応する部位のみではなく、これらで挟まれた領域も含めて一体的に窪む底面を有しており、第1段ダイノード33aにおける電子増倍チャネルCが形成される電子増倍領域から、陽極部34における最終段ダイノード33lの電子増倍領域との対向領域までを、下側フレーム4から離間するように連続的に形成されている。
【0031】
次に、図6及び図7を参照して、光電子増倍管1の配線構造について説明する。図6において、(a)は、上側フレーム2を裏面20a側から見た底面図、(b)は、側壁フレーム3の平面図であり、図7は、上側フレーム2と側壁フレーム3との接続状態を示す斜視図である。
【0032】
図6(a)に示すように、上側フレーム2の対向面20aには、導電性端子201B,201C,201Dのそれぞれに上側フレーム2の内部で電気的に接続された複数の導電膜(給電部)202と、導電性端子201Aに上側フレーム2の内部で電気的に接続された導電性端子203が設けられている。また、図6(b)に示すように、電子増倍部33には、既に述べたように、導電膜202との接続用の給電部53a〜53lが立設されており、陽極部34の端部には、導電膜202との接続用の給電部37が立設されている。さらに、壁状電極32の隅部には、導電膜202との接続用の給電部38が立設されている。また、集束電極31は、壁状電極32と下側フレーム4側で一体形成されることで壁状電極32に対して電気的に接続されている。さらに、壁状電極32には、下側フレーム4の対向面40a側に矩形平板状の接続部39が一体的に形成されており、この接続部39と、対向面40a上で光電面41に電気的に接触して形成された導電膜(図示せず)とが接合されることで、壁状電極32と光電面41とが電気的に接続されている。
【0033】
上記構成の上側フレーム2と側壁フレーム3とを接合すると、導電性端子203が側壁フレーム3の側壁部302に電気的に接続される。併せて、電子増倍部33の給電部53a〜53l、陽極部34の給電部37,及び壁状電極32の給電部38が、それぞれ、金(Au)などからなる導電部材を介して対応する導電膜202に独立に接続される。このような接続構成により、側壁部302、電子増倍部33、陽極部34が、それぞれ、導電性端子201A、201C,201Dに電気的に接続されて外部から給電可能にされるとともに、壁状電極32が、集束電極31及び光電面41とともに、導電性端子201Bに電気的に接続されて外部から給電される(図7)。
【0034】
ここで、図6(b)に示すように、ダイノード33bの基台部52bの両端部のうちの給電部53bに繋がる一方の端部の対向面40aに沿った断面積Sは、その両端部のうちの他方の端部における対向面との接合部位に相当する断面積Sよりも大きくなるように、ダイノード33bの基台部52b及び給電部53bの形状が規定されている。このダイノード33bにおける、給電部53bが設けられた一方の端部と他方の端部との大小関係は、ダイノード33bの端部全体、つまり上側フレーム2側の面に到るまで連続的に満たされている。そのため、対向面40aから正対する方向から見た場合の面積や、その体積においても、給電部53bが設けられた一方の端部の方が他方の端部よりも大きい。このように、給電部53bが設けられた一方の端部の方が物理的な強度に優れていることに加え、上側フレーム2側の面が大きいことから、金(Au)などからなる導電部材との接触面積も稼ぐことができ、確実な電気的接続にも有効となる。そして、電子増倍部33を構成するその他のダイノード33a,33c〜33lも、同様な関係を満たす断面形状に規定されている。また、複数段のダイノード33a〜33lは、対向面40a上において、電子増倍方向に沿って給電部53a〜53l側の一方の端部と、それと反対側の他方の端部とが互い違いに並ぶように配置されている。換言すれば、複数段のダイノード33a〜33lは、その給電部53a〜53lの配置方向を基準にした基台部の向き(給電部の設けられた一方の端部から他方の端部に延びる方向で規定した基台部の向き)が交互に反対向きになるように対向面40a上に配設されている。
【0035】
以上説明した光電子増倍管1によれば、入射光が光電面41に入射することによって光電子に変換され、この光電子が、筐体5内の下側フレーム4の内面40a上の複数段のダイノード33a〜33lによって形成された電子増倍チャネルCに順次入射することによって増倍され、増倍された電子が電気信号として陽極部34から取り出される。
【0036】
ここで、ダイノード33a〜33dを例に説明すれば、各ダイノード33a〜33dには、その下側フレーム4側の端部に基台部52a〜52dが設けられ、この基台部52a〜52dには、その片端部から下側フレーム4と対向する上側フレーム2に向けて伸びる給電部53a〜53dが電気的に接続され、この給電部53a〜53dが上側フレーム2の内面20aに設けられた導電膜202に接続されることにより、各ダイノード33a〜33dが給電される。さらに、基台部52a〜52dは、その両端部が下側フレーム4の対向面40aに接合され、その中央部が対向面40aから離間されており、給電部53a〜53d側の一方の端部の対向面40aに沿った断面積Sが、他方の端部の断面積Sよりも大きくされている。これにより、二次電子や光電子の入射によって下側フレーム4の絶縁面が帯電しやすい電子増倍経路の領域において、各ダイノード33a〜33dが下側フレーム4の絶縁面から離間しているので、耐電圧の低下を抑制することができる。それと同時に、上側フレーム2の導電膜202と接触する部位側の基台部52a〜52dの端部の強度を高めることで、給電のための接触による加圧に対して電子増倍部33の物理的な強度を確保することができるため、変形や破損等を起こすことがなく、耐電圧の低下を抑制することができる。
【0037】
また、下側フレーム4の対向面40a上には窪み部42が形成されており、基台部52a〜52dの中央部は、窪み部42上に配置されているので、電子増倍部33の強度を低下させることなく基台部52a〜52dの中央部を下側フレーム4の絶縁面から離間させることができる。さらに、窪み部42は、複数の基台部52a〜52dの中央部を跨って形成されているので、複数段のダイノード33a〜33d間を通過する二次電子の絶縁面への入射による帯電を防止することにより、耐電圧の低下をさらに抑制することができる。
【0038】
そして、各ダイノード33a〜33lが下側フレーム4の対向面40aから離間することで、次のような効果も有する。すなわち、ダイノード33a,33bで例示すれば、その柱状部51a,51bの表面の二次電子面の活性時において、ダイノード33a,33b段間及びダイノード33a,33b下部において(図8の矢印で示す方向において)、アルカリ金属(K、Cs等)蒸気の流れが良くなり、均一な二次電子面を形成することが容易になる。また、電子増倍部33と下側フレーム4との間の接合面積を小さくできるため、電子増倍部33と下側フレーム4との間に異物を挟み込んでしまうことによる接合不良を防止して信頼性を高めることができる。さらに、窪み部42を設けてダイノード33a〜33lを離間させるような構造により、筐体5の内部容積を大きくすることができるので、内部構成部材からガスの放出があっても真空度の低下を抑制することができる。例えば、ダイノード33a〜33lの厚さが1mmであって窪み部42のない光電子増倍管に対して、ダイノード33a〜33lの厚さが等しく、窪み部42の深さを0.2mm、窪み部42の対向面40aに対する加工面積の割合を50%とした光電子増倍管は、その内部容積を10%程度大きくすることが可能になる。さらに言えば、筐体5内に異物があるような場合であっても、ダイノード33a〜33lと離間している窪み部42内に異物が落ちやすいためにダイノード33a〜33l間に異物が挟まりにくく、異物による耐電圧不良が少なくなる。また、筐体5とダイノード33a〜33lとの接触面積が小さくなるため、筐体5での温度変化の影響が電子増倍部33に及びにくくなり、周囲温度の上昇に伴う二次電子面のダメージを軽減できる。特に、この効果は筐体5の内面に直接に電子増倍部等の電極が配置された構造において重要である。
【0039】
さらに、複数段のダイノード33a〜33lに対応する複数の基台部は、下側フレーム4の対向面40aに沿って、給電部53a〜53l側の一端部とそれと反対側の他端部とが互い違いに並べられている。つまり、例えば隣り合うダイノード33b、ダイノード33cにおいて、ダイノード33bの給電部53b側の一方の端部と対面するダイノード33cの端部は他端部であり、ダイノード33bの他端部と対面するダイノード33cの端部は給電部53c側の一方の端部となるように並べられている。そして、複数段のダイノード33a〜33lにわたってこの関係を満たすように並べられている。つまり、給電部53a〜53l側の一方の端部に隣接するのは、隣り合うダイノードの他方の端部であることから、それぞれの基台部の給電部53a〜53l側の端部の下側フレーム4に沿った断面積を大きくすることができるので、電子増倍部33の物理的強度をさらに高めることが可能になる。また、複数段のダイノード33b〜33lの他方の端部は、上側フレーム2に向けてほぼ垂直に伸びた柱状部となっており、下側フレーム4の対向面40aと正対する方向から見て、その最先端部が給電部53a〜53lよりも窪み部42側に引っ込んでいる。よって、他方の端部と給電部53a〜53lとの間隔が大きくなる。さらに、他方の端部の下側フレーム4に沿った断面形状(下側フレーム4の対向面40aと正対する方向から見た形状)は、電子増倍方向に対してほぼ垂直な方向(各ダイノードにおいて一方の端部から他方の端部に向かう方向)に向かって延びる尖頭形状を備えている。このように尖頭形状を有することで、給電部53a〜53lとの間隔を保ちつつ、下側フレーム4への接合面積も大きくすることができ、耐電圧の低下を抑制することができる。これに対して、図9に示すように、給電部53a〜53l側の端部を対向面40aに沿って隣接して並べるような配置の場合は、給電部53a〜53l間の耐電圧を考慮するとダイノード間の間隔を大きく(例えば、ダイノードの厚さが0.35mmの場合は0.5mm)設定する必要がある。その結果、同数のダイノードを配置する場合は大きな面積を必要とし、シリコン基板をバッチ処理にて加工する場合には1チップあたりの面積を増大させてしまい、しいてはチップコストを上昇させることにもなる。また、ダイノード間隔が大きくなることで電子増倍率の低下を招き、光電子増倍管としての性能を低下させてしまう。一方、ダイノード間隔を狭めるためには、図10に示すように、ダイノード33a〜33fの給電部53a〜53fを対向面40aに沿って蛇行するように交互にずらして隣接して配置することも考えられる。これにより、ダイノード間隔が狭められ(例えば、0.2mm)、電子増倍率をある程度高くすることができるが、給電部53b,53dが突出したダイノード33b,33dにおいて段間の耐電圧を維持するために給電部53b,53d側の端部とダイノード33b,33dの中央部との間の部位を著しく細く(例えば、0.05mm)する必要がある。その結果、ダイノード33b,33dの強度が低下してクラックが発生して破損したりして、二次電子面への給電が不可能になる場合がある。あるいは、クラックの発生が無くても電気抵抗値が大きくなり、給電部53b,53dから二次電子面を有するダイノード中央部への電位供給の妨げになることも考えられる。このことから、本実施形態におけるダイノード33a〜33lの配置が、耐電圧の低下を抑制するとともに、ダイノード間隔を狭めた配置を可能とすることから電子増倍率の面からも有利であることがわかった。
【0040】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、図11及び図12に示すように、下側フレーム4の窪み部42の底面上に、電子増倍部33のダイノード33a〜33lにおける各段間、及び電子増倍部33(ダイノード33l)と陽極部34との間の位置に対応して、下側フレーム4の絶縁面が露出しないように、複数の帯状の導電膜43が形成されてもよい。この導電膜43は、下側フレーム4に貫通して設けられた導電性端子44によって給電される。これにより、電子増倍部33を通過する電子の下側フレーム4への入射による耐電を確実に防止することができる。さらには、図13に示すように、電子増倍部33の全体に跨って窪み部42の底面上に導電膜45を設けることによっても、下側フレーム4の帯電を防止することができる。ただし、この場合は導電膜45と電子増倍部33の各ダイノードとの電位差が大きくなってしまうので、図11の構成の方がより好ましい。
【0041】
なお、本実施形態においては、光電面41は透過型光電面であったが、反射型光電面でも良いし、光電面41は上側フレーム2側に配置されてもよい。光電面41を上側フレーム2側に配置した場合、上側フレーム2としてはガラス基板等の光透過性を有する絶縁性基板に給電端子を埋め込んだものを使用することができ、下側フレーム4としてはガラス基板以外に様々な絶縁性基板を用いることができる。また、陽極部34は、ダイノード33kとダイノード33lの間に配置されても良い。
【符号の説明】
【0042】
1…光電子増倍管、2…上側フレーム(第2の基板)、4…下側フレーム(第1の基板)、5…筐体(外囲器)、20a,40a…対向面、33…電子増倍部、33a〜33l…ダイノード、51a〜51d…柱状部、52a〜52d…基台部(支持台)、53a〜53l…給電部(給電部材)、54b…中央部、34…陽極部、41…光電面、42…窪み部(凹部)、202…導電膜(給電部)、S,S…断面積。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して配置され、それぞれの対向面が絶縁材料からなる第1及び第2の基板を含む外囲器と、
前記第1の基板の前記対向面上の一端側から他端側に向けた一方向に沿って、順に離間して配列された複数段のダイノードを有する電子増倍部と、
前記外囲器内の前記一端側に前記電子増倍部から離間して設けられ、外部からの入射光を光電子に変換して、前記光電子を放出する光電面と、
前記外囲器内の前記他端側に前記電子増倍部から離間して設けられ、前記電子増倍部によって増倍された電子を信号として取り出す陽極部とを備え、
前記第2の基板の前記対向面上には、前記電子増倍部に対して給電するための給電部が設けられ、
前記電子増倍部は、
前記複数段のダイノードそれぞれの前記第1の基板側の端部に電気的に接続されて、前記複数段のダイノードによって形成された電子増倍路を跨るように設けられた支持台と、
それぞれの前記支持台の前記第1の基板の前記対向面に沿った方向の両端部の一方の端部から前記第2の基板に向けて伸びるように形成され、前記給電部と電気的に接続される給電部材と、
を有し、
前記支持台は、
前記両端部が、該対向面に接合され、且つ、前記両端部によって挟まれる中央部が、該対向面から離間するように構成されており、
前記両端部のうち前記給電部材側の一方の端部における該対向面に沿った断面積が、前記両端部のうちの他方の端部における断面積よりも大きくなるように形成されている、
ことを特徴とする光電子増倍管。
【請求項2】
前記第1の基板の前記対向面上には凹部が形成されており、
前記支持台の前記中央部は、前記凹部上に配置されることにより、該対向面から離間される、
ことを特徴とする請求項1記載の光電子増倍管。
【請求項3】
前記凹部は、前記複数段のダイノードのそれぞれに接続された複数の支持台を跨って形成されている、
ことを特徴とする請求項2記載の光電子増倍管。
【請求項4】
前記複数段のダイノードに対応する複数の前記支持台は、前記第1の基板の前記対向面に沿って前記一方の端部と前記他方の端部とが互い違いに並べられるように配置されている、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の光電子増倍管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−267414(P2010−267414A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115833(P2009−115833)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)