光電面、それを備える電子管及び光電面の製造方法
【課題】実効的な量子効率について高い値を示すことができる光電面、それを備える電子管、及び光電面の製造方法を提供すること。
【解決手段】 光電面10は、入射光を透過する基板12と、HfO2からなる中間層14と、下地層16と、アルカリ金属を含む光電子放出層18とを備える。すなわち、光電面10は、基板12と光電子放出層18との間に形成された中間層14を備える。
【解決手段】 光電面10は、入射光を透過する基板12と、HfO2からなる中間層14と、下地層16と、アルカリ金属を含む光電子放出層18とを備える。すなわち、光電面10は、基板12と光電子放出層18との間に形成された中間層14を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の入射により光電子を外部に放出する光電面、それを備える電子管及び光電面の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電面は、入射した光に応じて発生する電子(光電子)を放出する素子であり、例えば光電子増倍管に用いられている。光電面は基板上に光電子放出層が形成されたものであり、基板を透過した入射光が光電子放出層に入射し、そこで光電子が放出される。
【特許文献1】米国特許第3254253号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
入射光に対する光電面の感度は高いことが好ましい。光電面の感度を高くするには、基板及び光電子放出層を備える光電面に入射する光子の数に対する光電面外部に放出される光電子の数の割合を示す実効的な量子効率を高くする必要がある。例えば、特許文献1においては、基板と光電子放出層との間に反射防止膜を備える光電面が検討されている。しかしながら、光電面においては、さらなる量子効率の向上が望まれている。
【0004】
本発明は、実効的な量子効率について高い値を示すことができる光電面、それを備える電子管、及び光電面の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ところで、本願発明者は、量子効率の高い光電面を実現すべく鋭意研究を重ねたところ、アルカリ金属を含む光電子放出層を備える光電面では製造時に高温にさらされることで、実効的な量子効率が低下してしまうという新たな事実を見出すに至った。本願発明者はこうした量子効率の低下の原因は光電子放出層からアルカリ金属が基板に移動してしまうことにあると考え、基板と光電子放出層との間に酸化ハフニウムからなる中間層を設けることに思い至った。
【0006】
このような検討結果を踏まえ、本発明に係る光電面は、入射光を透過する基板と、アルカリ金属を含む光電子放出層と、基板と光電子放出層との間に形成された中間層とを備え、中間層が酸化ハフニウムからなることを特徴とする。
【0007】
また、本発明による光電面の製造方法は、入射光を透過する基板上に、酸化ハフニウムからなる中間層を形成する工程と、中間層の基板に接する面と反対側に、アルカリ金属を含む光電子放出層を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記の光電面では、製造時に施す熱処理によって光電面の実効的量子効率が低減することが抑制され、高い量子効率を維持することが可能となる。これは、基板と光電子放出層との間に酸化ハフニウム(HfO2)からなる中間層を備え、この中間層が光電子放出層から基板へのアルカリ金属の移動を抑制するバリア層として機能することによると考えられる。また、基板と光電子放出層との間に挿入された酸化ハフニウム(HfO2)からなる中間層は、反射防止膜として機能する。そのため、光電子放出層に入射する光について所望の波長の反射率が低減され、高い実効的量子効率を示すことが可能となる。このように、上記の光電面では、実効的量子効率について高い値を示すことが可能である。ここで、実効的な量子効率とは、光電子放出層についてだけでなく、基板等を含む光電面全体での量子効率をいう。したがって、実効的な量子効率には、基板の透過率などの要素も反映されている。
【0009】
中間層と光電子放出層との間に下地層が形成されていてもよい。この場合、光電子放出層を形成する際に形成されるSb膜を、より一層均質な膜として形成することが可能となる。
【0010】
光電子放出層は、アンチモン(Sb)とアルカリ金属との化合物であることが好適である。アルカリ金属は、セシウム(Cs)、カリウム(K)、またはナトリウム(Na)であるのが好適である。
【0011】
また、本発明による電子管は、上記の光電面と、光電面から放出された電子を収集する陽極と、光電面及び陽極を収納する容器と、を備えることを特徴とする。このような構成とすることにより感度の良い電子管を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実効的な量子効率について高い値を示すことができる光電面、それを備える電子管、及び光電面の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面とともに、本発明による光電面、それを備える電子管及び光電面の製造方法の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、実施形態に係る光電面の構成を一部拡大して示す断面図である。この光電面10では、図1に示すように、基板12上に中間層14、下地層16、及び光電子放出層18がこの順で形成されている。図1においては、光電面10は、基板12側から光hνが入射し、光電子放出層18側から光電子e−が放出される透過型として模式的に図示されている。
【0015】
基板12は、酸化ハフニウム(HfO2)からなる中間層14をその上に形成することが可能な基板からなる。基板12は、波長300nm〜1000nmの光を透過するものが好ましい。このような基板として、例えば石英ガラス、あるいは硼珪酸ガラスからなる基板がある。
【0016】
中間層14は、HfO2から形成されている。HfO2は、波長300nm〜1000nmの光に対して高い透過率を示す。また、HfO2は、その上にSbが形成される場合、Sbのアイランド構造を細かくする。中間層14の膜厚は、例えば50Å〜1000Åの範囲である。
【0017】
下地層16は、例えばMnOx、MgO、あるいはTiO2などからなる。下地層16は、波長300nm〜1000nmの光を透過するものが好ましい。また、下地層16がなく、中間層14上に光電子放出層18が形成されていてもよい。下地層16の膜厚は、例えば5Å〜800Åの範囲である。
【0018】
光電子放出層18は、例えばK−CsSb、Na−KSb、Na−K−CsSb、あるいはCs−TeSbからなる。光電子放出層18は、光電面10の活性層として機能する。光電子放出層18の膜厚は、例えば50Å〜2000Åの範囲である。
【0019】
次に、本発明による電子管の実施形態について説明する。図2は、光電面10を透過型として適用した光電子増倍管の断面構成を説明する図である。光電子増倍管30は、入射光を透過する入射窓34と、容器32とを備える。容器32内には光電子を放出する光電面10、放出された光電子を増倍部40へ導く集束電極36、電子を増倍する増倍部40、及び増倍された電子を収集する陽極38が設けられている。このように、容器32は、光電面10及び陽極38を収納する。なお、光電子増倍管30では、光電面10の基板12が入射窓34として機能するように構成されていてもよい。
【0020】
集束電極36と陽極38との間に設けられる増倍部40は、複数のダイノード42で構成されている。各電極は、容器32を貫通するように設けられたステムピン44と電気的に接続されている。
【0021】
次に、光電子増倍管30の製造方法について、図3〜図6に基づいて説明する。図3〜図6は、光電子増倍管30の製造方法における各工程を模式的に説明するための図である。
【0022】
まずは、図3を参照して、HfO2からなる中間層を基板上に形成する工程を説明する。図3に示されるように、洗浄処理を行ったガラスバルブの容器32の入射窓34に相当する基板部分12にHfO2を蒸着する。蒸着は、例えばEB(electron beam;エレクトロンビーム)蒸着装置50を用いたEB蒸着法によってなされる。すなわち、真空容器内において、容器52に収容されたHfO2の蒸着源51を電子ビーム(図示は省略)で加熱蒸発させ、ヒータ(図示は省略)によって加熱された基板部分12上に薄膜として成長させる。これにより、基板部分12上にHfO2からなる中間層14が形成される。
【0023】
次に、図4に示すように、Sb蒸着源53を備える集束電極36、ダイノード42、及びアルカリ金属源54が一体に組み立てられたステム板57を用意する。ステム板57には、各電極に制御電圧を供給するための複数のステムピン44が貫通状態で固定されている。Sb蒸着源53及びアルカリ金属原54は導線56を介して、ステム板57に貫通状態で固定された電極55に接続している。こうして用意されたステム板57と容器32とを封止する。
【0024】
次に、図5に示すように、容器32の基板部分12上に形成されたの中間層14上に、MnOxを蒸着して下地層16を形成する。さらに、Sb蒸着源53を通電加熱することにより、下地層16の上にSbを蒸着し、Sb膜58を形成する。
【0025】
次に、図6を参照して、光電子放出層を形成する工程を説明する。Sb膜58及びダイノード42に対してアルカリ金属(例えば、K、Csなど)蒸気を送り、活性化処理を施す。このとき、中間層14に対し、当該中間層14の基板部分12に接する面と反対側に、アルカリ金属蒸気が送られる。これにより、アルカリ金属(例えば、K、Csなど)を含む光電子放出層(例えば、K−Cs−Sbからなる膜)18が形成される。
【0026】
以上の製造方法により、光電面10及び当該光電面10を備える光電子増倍管30が形成される。
【0027】
光電面10及び光電子増倍管30の動作を説明する。光電子増倍管30において、入射窓34を透過した入射光hνが光電面10に入射する。光hνは、基板12側から入射し、基板12、中間層14、及び下地層16を透過して光電子放出層18に達する。光電子放出層18は活性層として機能し、ここで光子が吸収されて光電子e−が発生する。光電子放出層18で発生した光電子e−は、光電子放出層18表面から放出される。放出された光電子e−は増倍部40で増倍され、陽極38によって収集される。
【0028】
光電面10では、製造時に施す熱処理によって光電面の実効的な量子効率が低減することが抑制され、高い量子効率を維持することが可能となる。これは、基板12と光電子放出層18との間にHfO2からなる中間層14を備え、この中間層14が光電子放出層18から基板12へのアルカリ金属の移動を抑制するバリア層として機能することに起因すると考えられる。アルカリ金属が移動してしまうと光電子放出層18の感度が低下し、さらに移動してきたアルカリ金属によって基板12が着色し透過率を低下させてしまう。したがって、アルカリ金属の基板12への移動を抑制することによって、光電子放出層18の感度上昇、及び基板12の透過率向上が達成でき、その結果高い量子効率を維持することが可能となる。
【0029】
中間層14を構成するHfO2は、非常に緻密な構造であるため、アルカリ金属を通しにくいと考えられる。したがって、光電子放出層18から基板12へのアルカリ金属の移動を抑制するバリア層としての機能が期待される中間層14を構成する材料としてはHfO2は非常に好適である。
【0030】
図7は、中間層14がバリア層として機能しているとの考えを説明するための概念図である。図7(a)に示すように、中間層14のない光電面10A、すなわち基板12と光電子放出層18とからなる光電面10Aでは、製造工程における熱処理時に光電子放出層に含まれるアルカリ金属(例えば、K、Csなど)が基板12に移動してしまうと考えられる。実効的な量子効率の低減はその結果によるものと推察される。
【0031】
一方、図7(b)に示すように、中間層14を備える光電面10Bでは、製造工程における熱処理時に光電子放出層18に含まれるアルカリ金属(例えば、K、Csなど)が基板12に移動してしまうことを中間層14が抑制すると考えられる。中間層を備える光電面において高い実効的量子効率を実現できるのは、その結果によるものと推察される。
【0032】
光電子放出層に含まれるアルカリ金属の種類が複数の場合、複数回に渡ってアルカリ蒸気を送らなければならない。そのため、熱処理による量子効率の低減が抑制されることは、非常に有効である。
【0033】
光電面10では、基板12と光電子放出層18との間に中間層14を備える。そのため、中間層14の膜厚を適宜制御することで、所望の波長の光について反射率を低減することが可能となる。このように中間層14が反射防止膜として機能することで、高い実効的量子効率を示すことが可能となる。
【0034】
光電面10は下地層16を備える。この場合、光電子放出層18を形成する際に下地層16上に蒸着されるSb膜58を、より一層均質な膜として形成することが可能となる。なお、光電面10は、下地層16を備えなくてもよい。
【0035】
光電子増倍管30は、上記したように高い実効的量子効率を示す光電面10を備える。そのため、感度の良い光電子増倍管を実現することができる。
【0036】
続いて、光電面の具体的なサンプルA〜C及び比較例であるサンプルD〜Eについて説明する。サンプルA〜C及びサンプルD〜Fはそれぞれ、光電子放出層を構成する材料が異なる。サンプルD〜Fはいずれも、HfO2からなる中間層を備えていない。また、これらのサンプルについて測定された量子効率は、上述の実効的量子効率に相当する。
【0037】
具体的には、サンプルAは、石英ガラスからなる基板と、HfO2からなる中間層と、Na−K−CsSbからなる光電子放出層とを備える。一方、サンプルAに対する比較例であるサンプルDは、石英ガラスからなる基板と、Na−K−CsSbからなる光電子放出層とを備える。
【0038】
また、サンプルBは、硼珪酸ガラスからなる基板と、HfO2からなる中間層と、Na−KSbからなる光電子放出層とを備える。一方、サンプルBに対する比較例であるサンプルEは、硼珪酸ガラスからなる基板と、Na−KSbからなる光電子放出層とを備える。
【0039】
また、サンプルCは、硼珪酸ガラスからなる基板と、HfO2からなる中間層と、MnOxからなる下地層と、K−CsSbからなる光電子放出層とを備える。一方、サンプルCに対する比較例であるサンプルFは、硼珪酸ガラスからなる基板と、MnOxからなる下地層と、K−CsSbからなる光電子放出層とを備える。
【0040】
HfO2の屈折率は約2.05であり、これらのサンプルA〜Fにおいて、基板(石英ガラス、あるいは硼珪酸ガラス)の屈折率と光電子放出層(Na−K−CsSb、あるいはNa−KSb、あるいはK−CsSb)の屈折率との中間の値である。
【0041】
以下の表1に、サンプルE、すなわち硼珪酸ガラスからなる基板とNa−KSbからなる光電子放出層とを備える光電面における基板のアルカリの含有量(wt%)を、光電子放出層側とその反対側とで測定した結果を示す。なお、表1に示す測定結果は、基板の表面に付着したアルカリ金属を洗い流した後に測定した結果である。また、サンプルEの基板としてZKN7(ショット社製)を用いた。
【表1】
【0042】
表1より、光電子放出層側とその反対側とで含有されているアルカリ金属(K、Na)の量が大きく異なり、光電子放出層側の方が多くなっていることがわかる。また、サンプルEの光電子放出層側と反対側は、着色されず透明のままであったのに対し、光電子放出層側は透明のままであった。これは、製造時の熱処理によって、光電子放出層に含まれるアルカリ金属(K、Na)が基板に侵入したためと考えられる。
【0043】
図8は、サンプルA及びサンプルDを焼成したときの、量子効率の温度依存性を表すグラフである。図8に示すグラフの横軸は焼成温度(℃)を、縦軸は規格化量子効率(%)をそれぞれ表す。規格化量子効率とは、各サンプルについて、焼成温度が10℃の時の量子効率を100%として各温度での量子効率を規格化した値である。ここでは、各サンプルに対し、焼成温度を10℃から220℃まで10℃ごとに変化させたときの規格化量子効率を求めた結果を示す。図8に示すグラフでは、サンプルAを円で、サンプルDを四角形で表している。
【0044】
図8から、サンプルDは、焼成温度が180℃を超えてから規格化量子効率の値が小さくなってしまい、220℃では71.2%の規格化量子効率を示すまでに低減する。一方、サンプルAは、焼成温度が220℃に至るまで略一定の規格化量子効率を示し、220℃においても規格化量子効率98.3%を維持することがわかる。このように、中間層を備えるサンプルAは焼成温度を上昇させても量子効率を低減させないことが明確に示されている。光電面を製造する工程においては温度を約200℃以上に上昇させるため、200℃を超えても量子効率が低減しないということは、最終的に高い量子効率を示す光電面を得るのに非常に有効である。その結果、サンプルAでは製造時に熱処理を施しても量子効率を低減することが抑制されることがわかる。
【0045】
図9〜図11に、サンプルA〜Fの分光感度特性を示す。図9はサンプルA及びサンプルDについて、図10はサンプルB及びサンプルEについて、図11はサンプルC及びサンプルFについて、それぞれ波長に対する量子効率を示すグラフである。図9〜図11それぞれに示すグラフの横軸は波長(nm)を、縦軸は量子効率(%)を表す。図9において実線で示したグラフはサンプルAを、点線で示したグラフはサンプルDを、図10において実線で示したグラフはサンプルBを、点線で示したグラフはサンプルEを、図11において実線で示したグラフはサンプルCを、点線で示したグラフはサンプルFをそれぞれ示す。
【0046】
図9から理解されるように、サンプルAは300nm〜1000nmの波長帯域の光に対し、サンプルDより高い量子効率を示す。具体的には、例えば波長400nmの光に対してサンプルAは約23.1%の量子効率、サンプルDは約16.7%の量子効率と、サンプルAはサンプルDの約40%増の量子効率を示す。
【0047】
また、図10から理解されるように、サンプルBは300nm〜700nmの波長帯域の光に対し、サンプルEより高い量子効率を示す。具体的には、例えば波長370nmの光に対してサンプルBは30.4%の量子効率、サンプルEは22.9%の量子効率と、サンプルBはサンプルEの約30%超増の量子効率を示す。
【0048】
また、図11から理解されるように、サンプルCは300nm〜700nmの波長帯域の光に対し、サンプルFより高い量子効率を示す。具体的には、例えば波長420nmの光に対してサンプルCは36.5%の量子効率、サンプルFは25.6%の量子効率と、サンプルCはサンプルFの約40%増の量子効率を示す。
【0049】
続いて、基板とHfO2からなる中間層とNa−Kからなる光電子放出層とを備える光電面の量子効率、及び基板と光電子放出層とを備え中間層を備えない光電面の量子効率をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。測定では、波長370nmの光を入射光として用いた。
【表2】
【0050】
中間層を備える光電面については、23個のサンプルを用意し測定を行った。中間層を備えない光電面については、3個のサンプルを用意し測定を行った。その結果、表2から理解されるように、中間層を備える光電面では、平均値が28.4%に達するのに対し、中間層を備えない光電面では、平均値が22.7%にしか至らない。したがって、表2から、HfO2からなる中間層を備えることで光電面は高い量子効率を実現できることを明確に理解することができる。
【0051】
さらに、基板とHfO2からなる中間層とK−Csからなる光電子放出層とを備える光電面の量子効率、及び基板とK−Csからなる光電子放出層とを備え中間層を備えない光電面の量子効率を測定した。測定では、波長420nmの光を入射光として用いた。中間層を備える光電面については9つのサンプルを用意し、中間層を備えない光電面については1つのサンプルを用意した。これらのサンプルから得られた量子効率を、中間層を備える光電面及び中間層を備えない光電面それぞれについて平均値を求め、その結果を表3に示す。
【表3】
【0052】
表3から理解されるように、中間層を備える光電面では、平均値が36.2%に達するのに対し、中間層を備えない光電面では、平均値が27.6%にしか至らない。したがって、表3から、HfO2からなる中間層を備えることで光電面は高い量子効率を実現できることを理解することができる。
【0053】
また、図12(a)にHfO2からなる中間層が形成されたガラス基板の当該中間層上に形成されたSb膜表面のAFM像を、図12(b)にガラス基板上に形成されたSb膜表面のAFM像をそれぞれ示す。AFM像とは、原子間力顕微鏡(AFM)によって得られた像をいう。図12から、中間層をその下に有するSb膜(図12(a))は、中間層を有さないSb膜(図12(b))に比べ平坦で且つ空間的に均質な膜であることがわかる。このようにHfO2からなる中間層を備えることで、均質なSb膜を得ることができ、したがってアルカリ金属蒸気を均質なSb膜に反応させて光電子放出層を形成することができる。その結果、粒界等の欠陥部の形成が少なく良質な光電子放出層を得ることができ、量子効率の向上に寄与すると考えることができる。
【0054】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、基板12、下地層16、及び光電子放出層に含まれる物質は上記に記載した物質に限定されない。光電面10は、下地層16を備えていなくてもよい。光電面10の中間層14、下地層16、及び光電子放出層18を形成する方法はそれぞれ、上記実施形態に記載された方法に限らない。
【0055】
また、光電子放出層18が含むアルカリ金属の種類は、上記実施形態に記載したセシウム(Cs)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)に限らず、例えばルビジウム(Rb)、あるいはリチウム(Li)でもよい。また、光電子放出層18が含むアルカリ金属の種類の数は、1種類であっても、あるいは2種類(バイアルカリ)であっても、あるいは3種類以上(マルチアルカリ)であってもよい。また、光電面10の中間層14、下地層16、及び光電子放出層18の膜厚は上記実施形態において例示した厚さに限られない。また、上記実施形態に係る光電面の製造方法及びサンプルでは、下地層16としてMnOxからなる例を示したが、光電面10の説明で例示したようにMnOxに限らず例えばMgO、あるいはTiO2などからなる下地層であってもよい。
【0056】
また、光電子増倍管以外に光電管、イメージインテンシファイア(II管)などの電子管に本発明による光電面を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、実効的な量子効率について高い値を示すことができる光電面、それを備える電子管、及び光電面の製造方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施形態に係る光電面の構成を一部拡大して示す断面図である。
【図2】実施形態に係る光電子増倍管の断面構成を説明する図である。
【図3】中間層を形成する工程を説明するための図である。
【図4】ステムによって、容器を封止する工程を説明するための図である。
【図5】下地層を形成する工程を説明するための図である。
【図6】光電子放出層を形成する工程を説明するための図である。
【図7】中間層がバリア層として機能していることを説明するための概念図である。
【図8】実施例及び比較例について、量子効率の温度依存性を表すグラフである。
【図9】実施例の分光感度特性及び比較例の分光感度特性を表すグラフである。
【図10】実施例の分光感度特性及び比較例の分光感度特性を表すグラフである。
【図11】実施例の分光感度特性及び比較例の分光感度特性を表すグラフである。
【図12】実施例に係るSb膜のAFM像と比較例に係るSb膜のAFM像とを表す。
【符号の説明】
【0059】
10…光電面、12…基板、14…中間層、16…下地層、18…光電子放出層、30…光電子増倍管、32…容器、34…入射窓、36…集束電極、38…陽極、40…増倍部、42…ダイノード、44…ステムピン、50…EB装置、51…HfO2の蒸着源、52…容器、53…Sb蒸着源、54…アルカリ金属原、55…電極、56…導線、57…ステム板、58…Sb膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の入射により光電子を外部に放出する光電面、それを備える電子管及び光電面の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電面は、入射した光に応じて発生する電子(光電子)を放出する素子であり、例えば光電子増倍管に用いられている。光電面は基板上に光電子放出層が形成されたものであり、基板を透過した入射光が光電子放出層に入射し、そこで光電子が放出される。
【特許文献1】米国特許第3254253号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
入射光に対する光電面の感度は高いことが好ましい。光電面の感度を高くするには、基板及び光電子放出層を備える光電面に入射する光子の数に対する光電面外部に放出される光電子の数の割合を示す実効的な量子効率を高くする必要がある。例えば、特許文献1においては、基板と光電子放出層との間に反射防止膜を備える光電面が検討されている。しかしながら、光電面においては、さらなる量子効率の向上が望まれている。
【0004】
本発明は、実効的な量子効率について高い値を示すことができる光電面、それを備える電子管、及び光電面の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ところで、本願発明者は、量子効率の高い光電面を実現すべく鋭意研究を重ねたところ、アルカリ金属を含む光電子放出層を備える光電面では製造時に高温にさらされることで、実効的な量子効率が低下してしまうという新たな事実を見出すに至った。本願発明者はこうした量子効率の低下の原因は光電子放出層からアルカリ金属が基板に移動してしまうことにあると考え、基板と光電子放出層との間に酸化ハフニウムからなる中間層を設けることに思い至った。
【0006】
このような検討結果を踏まえ、本発明に係る光電面は、入射光を透過する基板と、アルカリ金属を含む光電子放出層と、基板と光電子放出層との間に形成された中間層とを備え、中間層が酸化ハフニウムからなることを特徴とする。
【0007】
また、本発明による光電面の製造方法は、入射光を透過する基板上に、酸化ハフニウムからなる中間層を形成する工程と、中間層の基板に接する面と反対側に、アルカリ金属を含む光電子放出層を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記の光電面では、製造時に施す熱処理によって光電面の実効的量子効率が低減することが抑制され、高い量子効率を維持することが可能となる。これは、基板と光電子放出層との間に酸化ハフニウム(HfO2)からなる中間層を備え、この中間層が光電子放出層から基板へのアルカリ金属の移動を抑制するバリア層として機能することによると考えられる。また、基板と光電子放出層との間に挿入された酸化ハフニウム(HfO2)からなる中間層は、反射防止膜として機能する。そのため、光電子放出層に入射する光について所望の波長の反射率が低減され、高い実効的量子効率を示すことが可能となる。このように、上記の光電面では、実効的量子効率について高い値を示すことが可能である。ここで、実効的な量子効率とは、光電子放出層についてだけでなく、基板等を含む光電面全体での量子効率をいう。したがって、実効的な量子効率には、基板の透過率などの要素も反映されている。
【0009】
中間層と光電子放出層との間に下地層が形成されていてもよい。この場合、光電子放出層を形成する際に形成されるSb膜を、より一層均質な膜として形成することが可能となる。
【0010】
光電子放出層は、アンチモン(Sb)とアルカリ金属との化合物であることが好適である。アルカリ金属は、セシウム(Cs)、カリウム(K)、またはナトリウム(Na)であるのが好適である。
【0011】
また、本発明による電子管は、上記の光電面と、光電面から放出された電子を収集する陽極と、光電面及び陽極を収納する容器と、を備えることを特徴とする。このような構成とすることにより感度の良い電子管を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実効的な量子効率について高い値を示すことができる光電面、それを備える電子管、及び光電面の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面とともに、本発明による光電面、それを備える電子管及び光電面の製造方法の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、実施形態に係る光電面の構成を一部拡大して示す断面図である。この光電面10では、図1に示すように、基板12上に中間層14、下地層16、及び光電子放出層18がこの順で形成されている。図1においては、光電面10は、基板12側から光hνが入射し、光電子放出層18側から光電子e−が放出される透過型として模式的に図示されている。
【0015】
基板12は、酸化ハフニウム(HfO2)からなる中間層14をその上に形成することが可能な基板からなる。基板12は、波長300nm〜1000nmの光を透過するものが好ましい。このような基板として、例えば石英ガラス、あるいは硼珪酸ガラスからなる基板がある。
【0016】
中間層14は、HfO2から形成されている。HfO2は、波長300nm〜1000nmの光に対して高い透過率を示す。また、HfO2は、その上にSbが形成される場合、Sbのアイランド構造を細かくする。中間層14の膜厚は、例えば50Å〜1000Åの範囲である。
【0017】
下地層16は、例えばMnOx、MgO、あるいはTiO2などからなる。下地層16は、波長300nm〜1000nmの光を透過するものが好ましい。また、下地層16がなく、中間層14上に光電子放出層18が形成されていてもよい。下地層16の膜厚は、例えば5Å〜800Åの範囲である。
【0018】
光電子放出層18は、例えばK−CsSb、Na−KSb、Na−K−CsSb、あるいはCs−TeSbからなる。光電子放出層18は、光電面10の活性層として機能する。光電子放出層18の膜厚は、例えば50Å〜2000Åの範囲である。
【0019】
次に、本発明による電子管の実施形態について説明する。図2は、光電面10を透過型として適用した光電子増倍管の断面構成を説明する図である。光電子増倍管30は、入射光を透過する入射窓34と、容器32とを備える。容器32内には光電子を放出する光電面10、放出された光電子を増倍部40へ導く集束電極36、電子を増倍する増倍部40、及び増倍された電子を収集する陽極38が設けられている。このように、容器32は、光電面10及び陽極38を収納する。なお、光電子増倍管30では、光電面10の基板12が入射窓34として機能するように構成されていてもよい。
【0020】
集束電極36と陽極38との間に設けられる増倍部40は、複数のダイノード42で構成されている。各電極は、容器32を貫通するように設けられたステムピン44と電気的に接続されている。
【0021】
次に、光電子増倍管30の製造方法について、図3〜図6に基づいて説明する。図3〜図6は、光電子増倍管30の製造方法における各工程を模式的に説明するための図である。
【0022】
まずは、図3を参照して、HfO2からなる中間層を基板上に形成する工程を説明する。図3に示されるように、洗浄処理を行ったガラスバルブの容器32の入射窓34に相当する基板部分12にHfO2を蒸着する。蒸着は、例えばEB(electron beam;エレクトロンビーム)蒸着装置50を用いたEB蒸着法によってなされる。すなわち、真空容器内において、容器52に収容されたHfO2の蒸着源51を電子ビーム(図示は省略)で加熱蒸発させ、ヒータ(図示は省略)によって加熱された基板部分12上に薄膜として成長させる。これにより、基板部分12上にHfO2からなる中間層14が形成される。
【0023】
次に、図4に示すように、Sb蒸着源53を備える集束電極36、ダイノード42、及びアルカリ金属源54が一体に組み立てられたステム板57を用意する。ステム板57には、各電極に制御電圧を供給するための複数のステムピン44が貫通状態で固定されている。Sb蒸着源53及びアルカリ金属原54は導線56を介して、ステム板57に貫通状態で固定された電極55に接続している。こうして用意されたステム板57と容器32とを封止する。
【0024】
次に、図5に示すように、容器32の基板部分12上に形成されたの中間層14上に、MnOxを蒸着して下地層16を形成する。さらに、Sb蒸着源53を通電加熱することにより、下地層16の上にSbを蒸着し、Sb膜58を形成する。
【0025】
次に、図6を参照して、光電子放出層を形成する工程を説明する。Sb膜58及びダイノード42に対してアルカリ金属(例えば、K、Csなど)蒸気を送り、活性化処理を施す。このとき、中間層14に対し、当該中間層14の基板部分12に接する面と反対側に、アルカリ金属蒸気が送られる。これにより、アルカリ金属(例えば、K、Csなど)を含む光電子放出層(例えば、K−Cs−Sbからなる膜)18が形成される。
【0026】
以上の製造方法により、光電面10及び当該光電面10を備える光電子増倍管30が形成される。
【0027】
光電面10及び光電子増倍管30の動作を説明する。光電子増倍管30において、入射窓34を透過した入射光hνが光電面10に入射する。光hνは、基板12側から入射し、基板12、中間層14、及び下地層16を透過して光電子放出層18に達する。光電子放出層18は活性層として機能し、ここで光子が吸収されて光電子e−が発生する。光電子放出層18で発生した光電子e−は、光電子放出層18表面から放出される。放出された光電子e−は増倍部40で増倍され、陽極38によって収集される。
【0028】
光電面10では、製造時に施す熱処理によって光電面の実効的な量子効率が低減することが抑制され、高い量子効率を維持することが可能となる。これは、基板12と光電子放出層18との間にHfO2からなる中間層14を備え、この中間層14が光電子放出層18から基板12へのアルカリ金属の移動を抑制するバリア層として機能することに起因すると考えられる。アルカリ金属が移動してしまうと光電子放出層18の感度が低下し、さらに移動してきたアルカリ金属によって基板12が着色し透過率を低下させてしまう。したがって、アルカリ金属の基板12への移動を抑制することによって、光電子放出層18の感度上昇、及び基板12の透過率向上が達成でき、その結果高い量子効率を維持することが可能となる。
【0029】
中間層14を構成するHfO2は、非常に緻密な構造であるため、アルカリ金属を通しにくいと考えられる。したがって、光電子放出層18から基板12へのアルカリ金属の移動を抑制するバリア層としての機能が期待される中間層14を構成する材料としてはHfO2は非常に好適である。
【0030】
図7は、中間層14がバリア層として機能しているとの考えを説明するための概念図である。図7(a)に示すように、中間層14のない光電面10A、すなわち基板12と光電子放出層18とからなる光電面10Aでは、製造工程における熱処理時に光電子放出層に含まれるアルカリ金属(例えば、K、Csなど)が基板12に移動してしまうと考えられる。実効的な量子効率の低減はその結果によるものと推察される。
【0031】
一方、図7(b)に示すように、中間層14を備える光電面10Bでは、製造工程における熱処理時に光電子放出層18に含まれるアルカリ金属(例えば、K、Csなど)が基板12に移動してしまうことを中間層14が抑制すると考えられる。中間層を備える光電面において高い実効的量子効率を実現できるのは、その結果によるものと推察される。
【0032】
光電子放出層に含まれるアルカリ金属の種類が複数の場合、複数回に渡ってアルカリ蒸気を送らなければならない。そのため、熱処理による量子効率の低減が抑制されることは、非常に有効である。
【0033】
光電面10では、基板12と光電子放出層18との間に中間層14を備える。そのため、中間層14の膜厚を適宜制御することで、所望の波長の光について反射率を低減することが可能となる。このように中間層14が反射防止膜として機能することで、高い実効的量子効率を示すことが可能となる。
【0034】
光電面10は下地層16を備える。この場合、光電子放出層18を形成する際に下地層16上に蒸着されるSb膜58を、より一層均質な膜として形成することが可能となる。なお、光電面10は、下地層16を備えなくてもよい。
【0035】
光電子増倍管30は、上記したように高い実効的量子効率を示す光電面10を備える。そのため、感度の良い光電子増倍管を実現することができる。
【0036】
続いて、光電面の具体的なサンプルA〜C及び比較例であるサンプルD〜Eについて説明する。サンプルA〜C及びサンプルD〜Fはそれぞれ、光電子放出層を構成する材料が異なる。サンプルD〜Fはいずれも、HfO2からなる中間層を備えていない。また、これらのサンプルについて測定された量子効率は、上述の実効的量子効率に相当する。
【0037】
具体的には、サンプルAは、石英ガラスからなる基板と、HfO2からなる中間層と、Na−K−CsSbからなる光電子放出層とを備える。一方、サンプルAに対する比較例であるサンプルDは、石英ガラスからなる基板と、Na−K−CsSbからなる光電子放出層とを備える。
【0038】
また、サンプルBは、硼珪酸ガラスからなる基板と、HfO2からなる中間層と、Na−KSbからなる光電子放出層とを備える。一方、サンプルBに対する比較例であるサンプルEは、硼珪酸ガラスからなる基板と、Na−KSbからなる光電子放出層とを備える。
【0039】
また、サンプルCは、硼珪酸ガラスからなる基板と、HfO2からなる中間層と、MnOxからなる下地層と、K−CsSbからなる光電子放出層とを備える。一方、サンプルCに対する比較例であるサンプルFは、硼珪酸ガラスからなる基板と、MnOxからなる下地層と、K−CsSbからなる光電子放出層とを備える。
【0040】
HfO2の屈折率は約2.05であり、これらのサンプルA〜Fにおいて、基板(石英ガラス、あるいは硼珪酸ガラス)の屈折率と光電子放出層(Na−K−CsSb、あるいはNa−KSb、あるいはK−CsSb)の屈折率との中間の値である。
【0041】
以下の表1に、サンプルE、すなわち硼珪酸ガラスからなる基板とNa−KSbからなる光電子放出層とを備える光電面における基板のアルカリの含有量(wt%)を、光電子放出層側とその反対側とで測定した結果を示す。なお、表1に示す測定結果は、基板の表面に付着したアルカリ金属を洗い流した後に測定した結果である。また、サンプルEの基板としてZKN7(ショット社製)を用いた。
【表1】
【0042】
表1より、光電子放出層側とその反対側とで含有されているアルカリ金属(K、Na)の量が大きく異なり、光電子放出層側の方が多くなっていることがわかる。また、サンプルEの光電子放出層側と反対側は、着色されず透明のままであったのに対し、光電子放出層側は透明のままであった。これは、製造時の熱処理によって、光電子放出層に含まれるアルカリ金属(K、Na)が基板に侵入したためと考えられる。
【0043】
図8は、サンプルA及びサンプルDを焼成したときの、量子効率の温度依存性を表すグラフである。図8に示すグラフの横軸は焼成温度(℃)を、縦軸は規格化量子効率(%)をそれぞれ表す。規格化量子効率とは、各サンプルについて、焼成温度が10℃の時の量子効率を100%として各温度での量子効率を規格化した値である。ここでは、各サンプルに対し、焼成温度を10℃から220℃まで10℃ごとに変化させたときの規格化量子効率を求めた結果を示す。図8に示すグラフでは、サンプルAを円で、サンプルDを四角形で表している。
【0044】
図8から、サンプルDは、焼成温度が180℃を超えてから規格化量子効率の値が小さくなってしまい、220℃では71.2%の規格化量子効率を示すまでに低減する。一方、サンプルAは、焼成温度が220℃に至るまで略一定の規格化量子効率を示し、220℃においても規格化量子効率98.3%を維持することがわかる。このように、中間層を備えるサンプルAは焼成温度を上昇させても量子効率を低減させないことが明確に示されている。光電面を製造する工程においては温度を約200℃以上に上昇させるため、200℃を超えても量子効率が低減しないということは、最終的に高い量子効率を示す光電面を得るのに非常に有効である。その結果、サンプルAでは製造時に熱処理を施しても量子効率を低減することが抑制されることがわかる。
【0045】
図9〜図11に、サンプルA〜Fの分光感度特性を示す。図9はサンプルA及びサンプルDについて、図10はサンプルB及びサンプルEについて、図11はサンプルC及びサンプルFについて、それぞれ波長に対する量子効率を示すグラフである。図9〜図11それぞれに示すグラフの横軸は波長(nm)を、縦軸は量子効率(%)を表す。図9において実線で示したグラフはサンプルAを、点線で示したグラフはサンプルDを、図10において実線で示したグラフはサンプルBを、点線で示したグラフはサンプルEを、図11において実線で示したグラフはサンプルCを、点線で示したグラフはサンプルFをそれぞれ示す。
【0046】
図9から理解されるように、サンプルAは300nm〜1000nmの波長帯域の光に対し、サンプルDより高い量子効率を示す。具体的には、例えば波長400nmの光に対してサンプルAは約23.1%の量子効率、サンプルDは約16.7%の量子効率と、サンプルAはサンプルDの約40%増の量子効率を示す。
【0047】
また、図10から理解されるように、サンプルBは300nm〜700nmの波長帯域の光に対し、サンプルEより高い量子効率を示す。具体的には、例えば波長370nmの光に対してサンプルBは30.4%の量子効率、サンプルEは22.9%の量子効率と、サンプルBはサンプルEの約30%超増の量子効率を示す。
【0048】
また、図11から理解されるように、サンプルCは300nm〜700nmの波長帯域の光に対し、サンプルFより高い量子効率を示す。具体的には、例えば波長420nmの光に対してサンプルCは36.5%の量子効率、サンプルFは25.6%の量子効率と、サンプルCはサンプルFの約40%増の量子効率を示す。
【0049】
続いて、基板とHfO2からなる中間層とNa−Kからなる光電子放出層とを備える光電面の量子効率、及び基板と光電子放出層とを備え中間層を備えない光電面の量子効率をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。測定では、波長370nmの光を入射光として用いた。
【表2】
【0050】
中間層を備える光電面については、23個のサンプルを用意し測定を行った。中間層を備えない光電面については、3個のサンプルを用意し測定を行った。その結果、表2から理解されるように、中間層を備える光電面では、平均値が28.4%に達するのに対し、中間層を備えない光電面では、平均値が22.7%にしか至らない。したがって、表2から、HfO2からなる中間層を備えることで光電面は高い量子効率を実現できることを明確に理解することができる。
【0051】
さらに、基板とHfO2からなる中間層とK−Csからなる光電子放出層とを備える光電面の量子効率、及び基板とK−Csからなる光電子放出層とを備え中間層を備えない光電面の量子効率を測定した。測定では、波長420nmの光を入射光として用いた。中間層を備える光電面については9つのサンプルを用意し、中間層を備えない光電面については1つのサンプルを用意した。これらのサンプルから得られた量子効率を、中間層を備える光電面及び中間層を備えない光電面それぞれについて平均値を求め、その結果を表3に示す。
【表3】
【0052】
表3から理解されるように、中間層を備える光電面では、平均値が36.2%に達するのに対し、中間層を備えない光電面では、平均値が27.6%にしか至らない。したがって、表3から、HfO2からなる中間層を備えることで光電面は高い量子効率を実現できることを理解することができる。
【0053】
また、図12(a)にHfO2からなる中間層が形成されたガラス基板の当該中間層上に形成されたSb膜表面のAFM像を、図12(b)にガラス基板上に形成されたSb膜表面のAFM像をそれぞれ示す。AFM像とは、原子間力顕微鏡(AFM)によって得られた像をいう。図12から、中間層をその下に有するSb膜(図12(a))は、中間層を有さないSb膜(図12(b))に比べ平坦で且つ空間的に均質な膜であることがわかる。このようにHfO2からなる中間層を備えることで、均質なSb膜を得ることができ、したがってアルカリ金属蒸気を均質なSb膜に反応させて光電子放出層を形成することができる。その結果、粒界等の欠陥部の形成が少なく良質な光電子放出層を得ることができ、量子効率の向上に寄与すると考えることができる。
【0054】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、基板12、下地層16、及び光電子放出層に含まれる物質は上記に記載した物質に限定されない。光電面10は、下地層16を備えていなくてもよい。光電面10の中間層14、下地層16、及び光電子放出層18を形成する方法はそれぞれ、上記実施形態に記載された方法に限らない。
【0055】
また、光電子放出層18が含むアルカリ金属の種類は、上記実施形態に記載したセシウム(Cs)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)に限らず、例えばルビジウム(Rb)、あるいはリチウム(Li)でもよい。また、光電子放出層18が含むアルカリ金属の種類の数は、1種類であっても、あるいは2種類(バイアルカリ)であっても、あるいは3種類以上(マルチアルカリ)であってもよい。また、光電面10の中間層14、下地層16、及び光電子放出層18の膜厚は上記実施形態において例示した厚さに限られない。また、上記実施形態に係る光電面の製造方法及びサンプルでは、下地層16としてMnOxからなる例を示したが、光電面10の説明で例示したようにMnOxに限らず例えばMgO、あるいはTiO2などからなる下地層であってもよい。
【0056】
また、光電子増倍管以外に光電管、イメージインテンシファイア(II管)などの電子管に本発明による光電面を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、実効的な量子効率について高い値を示すことができる光電面、それを備える電子管、及び光電面の製造方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施形態に係る光電面の構成を一部拡大して示す断面図である。
【図2】実施形態に係る光電子増倍管の断面構成を説明する図である。
【図3】中間層を形成する工程を説明するための図である。
【図4】ステムによって、容器を封止する工程を説明するための図である。
【図5】下地層を形成する工程を説明するための図である。
【図6】光電子放出層を形成する工程を説明するための図である。
【図7】中間層がバリア層として機能していることを説明するための概念図である。
【図8】実施例及び比較例について、量子効率の温度依存性を表すグラフである。
【図9】実施例の分光感度特性及び比較例の分光感度特性を表すグラフである。
【図10】実施例の分光感度特性及び比較例の分光感度特性を表すグラフである。
【図11】実施例の分光感度特性及び比較例の分光感度特性を表すグラフである。
【図12】実施例に係るSb膜のAFM像と比較例に係るSb膜のAFM像とを表す。
【符号の説明】
【0059】
10…光電面、12…基板、14…中間層、16…下地層、18…光電子放出層、30…光電子増倍管、32…容器、34…入射窓、36…集束電極、38…陽極、40…増倍部、42…ダイノード、44…ステムピン、50…EB装置、51…HfO2の蒸着源、52…容器、53…Sb蒸着源、54…アルカリ金属原、55…電極、56…導線、57…ステム板、58…Sb膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を透過する基板と、アルカリ金属を含む光電子放出層と、前記基板と前記光電子放出層との間に形成された中間層とを備え、
前記中間層が酸化ハフニウムからなることを特徴とする光電面。
【請求項2】
前記中間層と前記光電子放出層との間に下地層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の光電面。
【請求項3】
前記光電子放出層は、アンチモンとアルカリ金属との化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の光電面
【請求項4】
前記アルカリ金属は、セシウム、カリウム、またはナトリウムである請求項1〜3の何れか一項記載の光電面。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の光電面と、
前記光電面から放出された電子を収集する陽極と、
前記光電面及び前記陽極を収納する容器と、
を備えることを特徴とする電子管。
【請求項6】
入射光を透過する基板上に、酸化ハフニウムからなる中間層を形成する工程と、
前記中間層の前記基板に接する面と反対側に、アルカリ金属を含む光電子放出層を形成する工程と、を備えることを特徴とする光電面の製造方法。
【請求項1】
入射光を透過する基板と、アルカリ金属を含む光電子放出層と、前記基板と前記光電子放出層との間に形成された中間層とを備え、
前記中間層が酸化ハフニウムからなることを特徴とする光電面。
【請求項2】
前記中間層と前記光電子放出層との間に下地層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の光電面。
【請求項3】
前記光電子放出層は、アンチモンとアルカリ金属との化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の光電面
【請求項4】
前記アルカリ金属は、セシウム、カリウム、またはナトリウムである請求項1〜3の何れか一項記載の光電面。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の光電面と、
前記光電面から放出された電子を収集する陽極と、
前記光電面及び前記陽極を収納する容器と、
を備えることを特徴とする電子管。
【請求項6】
入射光を透過する基板上に、酸化ハフニウムからなる中間層を形成する工程と、
前記中間層の前記基板に接する面と反対側に、アルカリ金属を含む光電子放出層を形成する工程と、を備えることを特徴とする光電面の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−242412(P2007−242412A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63031(P2006−63031)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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