説明

光音響波測定装置

【課題】光音響波測定の際に、界面信号の影響を軽減しつつ、被検体の様々な深度において適切な画像構成を行うための技術を提供する。
【解決手段】光の照射により発生する音響波を検出する複数の素子を含むプローブと、受信した音響波に基づいて被検体の情報を取得する信号処理部を有し、光は被検体に対してプローブ側から照射され、プローブは、被検体のプローブ側の表面のうち光が照射される領域である明視野照明領域が視野角の中に含まれる明視野配置素子と、明視野照明領域が視野角の中に含まれない暗視野配置素子を含み、信号処理部は、被検体に光が照射されたのち所定の時間が経過する前に受信された音響波に基づいて被検体の情報を取得する際には、暗視野配置素子が受信した音響波を使用する光音響波測定装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報を取得し画像化する光音響波測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光に比べて生体内での散乱が少ない音響波(典型的には超音波)の特性を利用して、生体内の光学特性値分布を高解像度に求める光音響トモグラフィー(Photo-Acoustic
Tomography)が提案されている(非特許文献1参照)。本明細書中では光音響トモグラ
フィーのことをPATとも記述する。
光源から発生したパルス光が生体に照射されると、パルス光は生体内で拡散しながら伝播する。生体組織内に含まれる吸収体は、伝播してきたパルス光のエネルギーを吸収して音響波を発生する。音響波信号を解析処理することにより、生体内の光学特性分布、特に光エネルギー吸収密度分布を得ることができる。
【0003】
PATの臨床応用として、乳房診断用光音響波測定装置(Photo-Acoustic Mammography、本明細ではPAMと称する)が報告されている。PAM装置は、主に腫瘍形成時に腫瘍周囲に形成される新生血管及び新生血管を含む吸収係数の高い領域を画像化することにより乳房中の腫瘍位置を検出する装置である。PAM装置の報告例として、略平行にした2枚の平行平板で乳房を挟み、一方の平板に超音波プローブを配置し相対する他方の平板から光束を照射する(本明細では前方検出型PATと称する)ものがある(非特許文献1参
照)。
【0004】
更に、光音響波技術を用いた生体観察用の光音響波顕微鏡が報告されている(特許文献1参照)。光音響波顕微鏡では、検出器である超音波プローブと生体を照射するパルス光が、生体に対して同側に配置されている(本明細では後方検出型PATと称する)。超音波プローブと生体との界面部分に直接照明しないようにし、生体表面近傍を高詳細に描出している。
【0005】
上記特許文献1記載の後方検出型PATの従来例では、生体表面近傍の局所的な位置を高詳細に観察することが可能である。しかしながら、超音波プローブと生体との界面部分に直接照明しないため、生体深部での光利用効率が減少する。故に、特許文献1の手法は、乳房のような広範囲且つ深部まで観察することが必要な対象には適当ではないという課題が生じる。これに対して、最近では、非特許文献1記載の前方検出型PATの構成であるPAM装置に、後方検出構成を付加して乳房両面より照射する手法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0184042号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Manohar et al, Proc. of SPIE vol. 6437 643702-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、後方検出型の構成で超音波プローブに対向する位置を照明させる明視野照明法では、照射部位界面から生じる大きな光音響波信号が生体内部の浅い部分の信号に影響して、検出感度が減少する問題が生じる。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、光音響波測定の際に、界面信号の影響を軽減しつつ、被検体の様々な深度において適切な画像構成を行うための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、被検体に光が照射されることにより発生する音響波を検出する複数の素子を含むプローブと、前記素子が受信した音響波に基づいて被検体の情報を取得する信号処理部と、を有し、前記光は被検体に対して前記プローブ側から照射され、前記プローブは、被検体の前記プローブ側の表面のうち、前記光が照射される領域である明視野照明領域が、視野角の中に含まれる明視野配置素子と、前記明視野照明領域が、視野角の中に含まれない暗視野配置素子と、を含み、前記信号処理部は、被検体に光が照射されたのち所定の時間が経過する前に受信された音響波に基づいて被検体の情報を取得する際には、前記暗視野配置素子が受信した音響波を使用することを特徴とする光音響波測定装置である。
【0011】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、被検体に光が照射されることにより発生する音響波を検出する複数の素子を含むプローブと、前記素子が受信した音響波に基づいて被検体の情報を取得する信号処理部と、を有し、前記光は被検体に対して前記プローブ側から照射され、前記プローブは、被検体の前記プローブ側の表面のうち、前記光が照射される領域である明視野照明領域が、視野角の中に含まれる明視野配置素子と、前記明視野照明領域が、視野角の中に含まれない暗視野配置素子と、を含み、前記信号処理部は、前記明視野配置素子が受信した音響波および前記暗視野配置素子が受信した音響波をそれぞれ所定の寄与度で使用して被検体の情報を取得を行うものであり、被検体に光が照射された後の時間が経過するほど、前記明視野配置素子が受信した音響波の寄与度を、前記暗視野配置素子が受信した音響波に対して大きくすることを特徴とする光音響波測定装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光音響波測定の際に、界面信号の影響を軽減しつつ、被検体の様々な深度において測定を行うための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】後方型検出配置のPAM装置の概略図。
【図2】両面照射型配置のPAM装置の概略図。
【図3】圧電素子を含む超音波プローブの模式図。
【図4】明視野配置及び暗視野配置の説明図。
【図5】光量分布シミュレーションに用いた模式図。
【図6】明視野配置の素子における光音響信号の説明図。
【図7】超音波プローブの素子配置の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の具体的な実施形態を説明する。本実施形態においては、光音響波測定装置として、乳房を固定して診断を行う乳房用光音響波測定装置(PAM)を取り上げて説明する。なお、被検体の情報とは、被検体内部の組織の音響インピーダンスの違いを反映した情報、音響波の発生源分布や、被検体内の初期音圧分布、あるいは初期音圧分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や、吸収係数分布、組織を構成する物質の濃度分布を示す。物質の濃度分布とは、例えば、酸素飽和度分布や酸化・還元ヘモグロビン濃度分布などである。光音響波測定装置は、被検体の情報のデータとして、例えば上記各種の数値データであっても良いし、上記各種の数値データを可視化し、被検体の画像を形成するためのデータであっても良い。
【0015】
PAMは、光源を含む被検体を照明する照明光学系と、複数の超音波素子を含む超音波プローブと、被検体を固定して保持する平板から構成される。乳房を固定して保持する方法としては、乳房側面から平行平板を用いて固定して保持する方法や、胸部前面より平板を用いて乳房を全体的に押し付けるようにして固定して保持する方法等が採用できる。
【0016】
光音響波測定装置の基本構成を図1、図2を用いて説明する。
図1の光音響波測定装置は、平板105を挟んで被検体である乳房101と対向する側に超音波プローブ104及び照明系103を配置した、後方検出型配置をとる。照射光は超音波プローブ104側から被検体の中を102で示すように照明される。装置はまた、超音波プローブが受信した信号の増幅やデジタル変換、画像構成等を行う信号処理部106を持つ。
【0017】
図2の光音響波測定装置は、乳房201を2枚の平行平板205で挟み、その両面に照明系203a、203bを配置した両面照射型配置をとる。この場合、超音波プローブと逆側の平板にも照明系を設けることになる。超音波プローブ204は片方の平板205に配置されている。照射光は被検体の中を202で示すように照明する。装置はまた、超音波プローブが受信した信
号の増幅やデジタル変換、画像構成等を行う信号処理部206を持つ。
【0018】
本発明は、いずれの配置の装置にも適用することができる。平板と超音波プローブの検出面側表面は略平行に配置される。ここで示す略平行とは、平板やセンサー面の面精度や平行度、並びに装置組み立て時の機械精度等から許容される程度の平行である。
【0019】
超音波プローブは複数の超音波素子により構成され、圧電現象、光共振、容量変化を用いた超音波プローブを用いることができる。特にPZT(チタン酸ジルコニウム)による圧電現象を用いた超音波プローブが広く使用されており、前後面に電極をつけた圧電振動板を用いて音波を送受信する。圧電板に電圧が加わると板が振動して音波を放射する。一方、圧電板が音場中にさらされると、その音圧に比例した電圧が発生する。
【0020】
図3は圧電素子を含む超音波プローブの模式図である。図3に示すように、振動板303
(圧電素子)は電極302に挟まれ、前面には振動板の振動を被検体に効率よく音波を伝え
るために整合層304を入れる。後面には、振動板303の共振を抑えるためのバッキング材301をつけている。バッキング材301がないと振動板303の共振のために,リンギングの多い
送受信波形になり距離方向の分解能が悪くなる。特に圧電素子を用いた超音波プローブでは、超音波プローブ内部の部材の音響インピーダンス(z)が異なるため、強いパルス信号を受信した場合その信号に基づくリンギングを除去することが困難である。また、中心周波数の低い超音波プローブほど距離分解能は低下する。
【0021】
光音響波測定装置は、上記のように超音波プローブが測定した超音波に信号処理を行うことで、被検体内部の様々な情報を求めることができる。例えば、超音波プローブに含まれる超音波素子のそれぞれが受信した超音波の強度に基づき、被検体内部の注目点との距離に応じた計算処理を行うことにより、注目点で発した信号の強度が求められる。
【0022】
ここで、光音響波の初期信号Pは、以下の式(1)で示される。
=Γ・μa・Φ …(1)
ここで、Γは弾性特性値であるグリューナイセン(Gruneisen)係数であり、体積膨張
係数(β)と音速(c)の二乗の積を比熱(Cp)で割ったものである。μaは吸収体の吸収係数である。Φは局所的な領域での光量(吸収体に照射された光量)である。
【0023】
したがって、信号処理により被検体内部の注目点の初期信号を求め、かつ、被検体による減衰を考慮して光量を求めることで、注目点における吸収係数を計算できる。これを被
検体内部の各箇所で行うことにより、吸収係数分布に応じた被検体の画像構成が可能となる。吸収係数分布は、例えば生体の場合、酸化ヘモグロビンなどの物質分布を反映しているので、画像構成により被検体内部の状況を知ることができる。
【0024】
被検体に照明された光束は生体中で拡散されるため、光量Φは被検体表面から深部にいくに連れて減少する。即ち、後方検出型の装置では、照射光量は被検体界面部分の照明領域において最大となる。一方、発生した音響波は、生体中を伝搬することにより強度が減少する。即ち、後方検出型の装置や、両面照射型の装置のプローブ側では、被検体界面で発生した光音響波信号は超音波プローブから近いため、信号の減衰が少ない。故に、被検体界面の光音響信号は非常に強い信号となる。
【0025】
本実施形態では、被検体界面は超音波プローブと略平行とした平板と被検体との界面である。そのため、被検体界面で発生した光音響波信号は位相が一致して平面波のように振舞い、非常に強いパルス信号となる。結果として、被検体界面で生じた光音響信号により、超音波プローブ内部で強いリンギングが発生して生体の浅い部分(プローブに近い部分)から発生する光音響信号が分別しにくくなる。
【0026】
続いて、明視野照明と暗視野照明について説明する。被検体の照明方法は、測定部位に直接光を照射する明視野照明と、測定部位に直接光照射しない暗視野照明に分けられる。暗視野照明は顕微鏡に一般的に用いられる手法である。試料を照らす光線を光軸中心ではなく斜めから照射し、光線が直接視野内に入らないようにして、試料にあたって反射または回折した光のみが光軸に入るようにする。
【0027】
図4(b)は後方検出型の装置での測定時に、被検体に明視野照明領域と暗視野照明領域ができる状況を説明する図である。被検体407と超音波プローブ404の間には一定の厚みを持つ平板403が存在する。そのため、超音波プローブ404の後方から照射された光(L)は、平板を透過して、超音波プローブに対向する被検体界面にも照射される。この照射光が届く、被検体407の表面上の範囲が明視野照明領域405であり、届かない範囲が暗視野照明領域406とされる。
【0028】
あるいは、明視野照明領域を設けるために、光ファイバー等を用いて超音波プローブに対向する領域に光を導き、被検体に光を照射しても良い。
【0029】
図4(a)を用いて本発明に即した照明方法を説明する。図4(a)において、被検体407と平板403の界面に対して直接照明する領域が明視野照明領域405となり、直接照明し
ない領域が暗視野照明領域406となる。明視野照明領域405に対向する所に位置する超音波素子を明視野配置素子401、暗視野照明領域406の対向する所に位置する超音波素子を暗視野配置素子402とする。
【0030】
なお、詳細に見ると、明視野配置素子401と暗視野配置素子402の境界位置と、明視野照明領域405と暗視野照明領域406の境界位置は必ずしも一致しない。ここでは、暗視野配置素子との境界に位置する明視野配置素子が有する視野角を考慮して、素子配置を定める。即ち、図4の符号408に示すように、暗視野配置素子との境界に位置する明視野配置素子
の、被検体界面における視野の端部の位置が、暗視野照明領域405と明視野照明領域406の境界となるようにする。このようにすることで、暗視野配置素子402の前面は完全に暗視
野照明領域406となる。一方、明視野配置素子401の視野角内部には、明視野照明領域405
だけでなく、少なくとも一部は暗視野照明領域406が存在することになる。
【0031】
超音波素子は指向性を有し、各素子に垂直(0°)に伝搬する音圧が最大であり、伝搬角度が増すに連れて強度は減少する。指向性は、素子サイズや形状、音響レンズの有無な
どに依存する。本実施形態では、最大音圧の1/2までの強度で受信できる角度を視野角と
する。このような視野角に基づいて、上述した明視野配置素子401及び暗視野配置素子402の境界が決定される。明視野配置素子401及び暗視野配置素子402の位置は、使用する素子の指向性と、超音波プローブと生体間の平板の厚さに依存して変化する。
【0032】
図5は光量分布シミュレーションに用いた模式図である。シミュレーションでの被検体となるモデル生体501は、生体の光学定数の概算値と同様の光学特性を持つ。モデル生体
に照射される光線502は、50mm角の均一光量分布を有する。ここでは、光線502をモデル生体501に照射した場合の光分布を、モンテカルロシミュレーションにより確認した。
【0033】
被検体表面の照射領域境界から5mm内側の位置505における光量に対して、照射領域境界から5mm外側の位置504の光量は〜1/5倍となり、10mm外側の位置503での光量は〜1/10倍となる。これは、照射領域外でも生体の後方散乱の影響により光は到達するものの、照射領域内に比べて光の強度は大きく減衰することを示す。
【0034】
一方、被検体表面の照射領域境界から5mm外側の位置504と、照射領域境界から25mm内側の位置506(照明領域の中心となる位置)から被検体深部に垂直に15mm入った点で
の光量がほぼ一致する。これは、被検体深部では拡散により光量が減少するものの、被検体界面の照射領域前方(被検体深部)の位置では比較的大きな光量を得ることが可能であることを示す。
【0035】
上述のシミュレーション結果が示すように、被検体界面の明視野照明領域では光量が非常に強く、この領域から発生する光音響信号も非常に強い。故に明視野配置の超音波素子では、界面の信号によりリンギングが発生する。このリンギングの影響により、被検体界面の明視野照明領域近傍に位置する被検体の浅い部分の測定感度は低くなる。一方、リンギングはプローブの構造に応じて周期的に減衰するため、深部における影響は軽微となる。即ち、減衰した強度が被検体の背景信号強度に対して小さい場合は、取得信号のSN比に対する影響は軽微となる。
【0036】
更に、被検体界面の明視野照明領域前方の被検体深部は、暗視野照明領域前方の被検体深部よりも強い照明強度を有するため、強い信号強度の光音響信号を得ることが可能である。故に、明視野配置素子ではリンギング信号の影響の少ない被検体深部の信号を効果的に検出することができる。
【0037】
上述のシミュレーション結果が示すように、被検体界面の暗視野照明領域であっても、照射領域に近い部分であれば、生体内に照明された光が後方散乱することにより、照明強度を有する。しかしながら、被検体界面では照明領域から離れるに連れて照明強度が減少する。被検体に照射された光は奥行き方向に拡散していくが、被検体界面の暗視野照明領域前方は、明視野照明領域前方と比較すると照明強度が低い。故に、暗視野配置素子では被検体界面に直接照明された光から生じる光音響波信号がないため、リンギング等の界面由来のノイズが少なく、生体の浅い部分からの信号を効果的に検出することができる。
【0038】
上記暗視野照明領域と明視野照明領域での光強度の特徴を利用して効果的に画像構成することにより、ノイズの少ない光音響信号に基づく生体情報を取得することが可能となる。ここで、超音波プローブ内の超音波素子のうち、前述の図4(a)に示した暗視野配置素子402のことを素子群A、明視野配置素子401のことを素子群Bと称する。
【0039】
図6に、明視野配置素子である素子群Bにより検出される光音響波信号を示す。素子群Bの検出信号を処理する際には、界面信号604により生じるリンギングに基づく信号601が被検体の背景信号602と同強度となるまでの時刻tまで、信号強度を0とするか、時刻t
までの信号を利用しない。背景信号は、光照射の影響が無い場合でも被検体の活動等により発せられ、検出される信号である。光照射から時刻tが経過するまでの期間が、本発明の所定の時間に相当する。
【0040】
素子群Bの時刻t以降の信号603と暗視野配置である素子群Aで得られた信号を用いて
画像構成することにより良好な光音響信号分布を描出することができる。ここで、素子群Aが取得した信号にはリンギングの影響は少ないため、図6の信号601に相当する期間に
おいても、画像構成に用いることができる。生体領域が広い場合は、超音波プローブを走査して信号を取得する。超音波プローブに対する照射領域を変えずに、所望の領域を走査しながら光音響信号を測定することにより生体全体を測定することが可能である。
【0041】
また、時刻tで画像構成に利用する素子の種類を一気に切り替えるのではなく、画像構成に用いる素子の種類の寄与度を、時刻に応じて変化させていく方法を取ることもできる。例えば、被検体の浅い(プローブに近い)領域では暗視野配置素子が受信した信号を利用し、深い領域では明視野配置素子が受信した信号を利用し、中間の領域では双方の素子が受信した信号を深さに応じた比率で利用して画像構成する方法である。
【0042】
ここで、超音波プローブ内の各超音波素子には、暗視野配置素子と明視野配置素子が異なる特性の素子を用いてもよい。以下、それぞれの素子に好ましい特性を説明する。
【0043】
明視野配置される素子は被検体のより深くからの信号を検出できることが好ましい。その為、音圧の伝搬損失が少ない、中心周波数の低いプローブを用いることが好ましい。また、素子形状やプローブの形状は特に制限はないが、超音波プローブが小さいと一度に測定することが可能な生体情報が限定され、広範囲を測定する場合の測定時間が長くなる。そこで、乳房のように比較的広範囲の生体情報を取得する場合、素子形状の大きな2次元状のプローブとすることが好ましい。
【0044】
素子サイズと分解能は比例し、例えば2mm角ピッチの素子で測定した場合は2mm程度の分解能を有する。故に、測定対象を乳房の悪性腫瘍及び、それに伴う新生血管の検出と仮定すると、素子サイズの上限は5mm角以下、好ましくは2mm角、更に好ましくは1m
m角程度となる。ここに示した適当な素子サイズは、測定の目的が、測定対象が広く測定時間の短縮を目指した目的の場合を示している。例としては、中心周波数1MHz,分解能1mm程度を想定した1mm角の正方形状超音波素子が2次元に配列した素子を用いる。
限定箇所を高精細に測定することが目的の場合は、素子サイズは更に小さい方が好ましい。
【0045】
暗視野配置される素子は、生体の浅い部分を測定するために、高分解能で測定することが可能な中心周波数の高い素子を用いることが好ましい。また、素子形状は特に制限はないが、暗視野配置の素子は光量の少ない部分からの信号を検出するため、素子形状を大きくすると、照射領域から離れるため信号強度が減少する。故に、超音波診断で用いられる比較的小さなリニアアレイ等のプローブを用いることが好ましい。
【0046】
特に、中心周波数7MHz以上、126列リニアアレイ等を用いると、生体に対して超音波送受信を行うことでエコー像を取得できる。その場合、本装置を音響波画像と超音波画像を測定するマルチモダリティーとすることが可能となる。
【0047】
図7(a)は、上記のプローブを、超音波素子を含む側、即ち平板に接する側から見た図である。暗視野配置される素子702は、プローブの中心線に沿ったリニア状となってい
る。暗視野配置の素子の両側に、明視野配置される素子701が位置する。
【0048】
また、暗視野配置の素子は界面部分の非常に大きな信号を取得しない構成であることが必要である。故に、暗視野配置の素子の指向性が明視野配置の素子に対して広い場合は、音響波レンズ等を素子前面に備えることにより視野角を制限することも好ましい。
【0049】
素子全体の配列、即ち暗視野配置及び明視野配置は、被検体を照射する照明領域に依存して自由に選択することが可能である。矩形素子を集積した超音波プローブを用いるだけでなく、円形に素子が配列した超音波プローブを用いることも可能である。図7(b)は円形に素子が配列されたプローブの例であり、中心部に暗視野配置される素子702、周辺
に明視野配置される素子701が位置する。
【符号の説明】
【0050】
401:明視野配置素子、402:暗視野配置素子、403:平板、405:明視野照明領域、406:暗視野照明領域、407:被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に光が照射されることにより発生する音響波を検出する複数の素子を含むプローブと、
前記素子が受信した音響波に基づいて被検体の情報を取得する信号処理部と、
を有し、
前記光は被検体に対して前記プローブ側から照射され、
前記プローブは、
被検体の前記プローブ側の表面のうち、前記光が照射される領域である明視野照明領域が、視野角の中に含まれる明視野配置素子と、
前記明視野照明領域が、視野角の中に含まれない暗視野配置素子と、を含み、
前記信号処理部は、被検体に光が照射されたのち所定の時間が経過する前に受信された音響波に基づいて被検体の情報を取得する際には、前記暗視野配置素子が受信した音響波を使用する
ことを特徴とする光音響波測定装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、被検体に光が照射されたのち前記所定の時間が経過した後に受信された音響波に基づいて被検体の情報を取得する際には、前記明視野配置素子が受信した音響波を使用する
ことを特徴とする請求項1に記載の光音響波測定装置。
【請求項3】
前記所定の時間とは、被検体が光照射を受けたときに前記被検体の表面から発した音響波のリンギングに基づく信号の強度が、被検体の背景信号の強度まで減衰するのに要する時間である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光音響波測定装置。
【請求項4】
前記暗視野配置素子は、前記明視野配置素子よりも中心周波数が高い
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光音響波測定装置。
【請求項5】
前記暗視野配置素子は、前記明視野配置素子よりも素子サイズが小さい
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の光音響波測定装置。
【請求項6】
前記暗視野配置素子は、前記プローブの中心線に沿って配置されており、
前記明視野配置素子は、前記暗視野配置素子の両側に配置されている
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光音響波測定装置。
【請求項7】
前記暗視野配置素子は、前記プローブの中心部に配置されており、
前記明視野配置素子は、前記暗視野配置素子の周辺に配置されている
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光音響波測定装置。
【請求項8】
被検体を挟んで保持する2枚の平行平板をさらに有し、
前記光は、被検体に対して前記プローブと逆側からも照射される
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の光音響波測定装置。
【請求項9】
被検体に光が照射されることにより発生する音響波を検出する複数の素子を含むプローブと、
前記素子が受信した音響波に基づいて被検体の情報を取得する信号処理部と、
を有し、
前記光は被検体に対して前記プローブ側から照射され、
前記プローブは、
被検体の前記プローブ側の表面のうち、前記光が照射される領域である明視野照明領域が、視野角の中に含まれる明視野配置素子と、
前記明視野照明領域が、視野角の中に含まれない暗視野配置素子と、を含み、
前記信号処理部は、前記明視野配置素子が受信した音響波および前記暗視野配置素子が受信した音響波をそれぞれ所定の寄与度で使用して被検体の情報の取得を行うものであり、被検体に光が照射された後の時間が経過するほど、前記明視野配置素子が受信した音響波の寄与度を、前記暗視野配置素子が受信した音響波に対して大きくする
ことを特徴とする光音響波測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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