説明

免疫グロブリンのエンジニアリング方法

【課題】改良された抗原結合特性を有する免疫グロブリン及び可変免疫グロブリンドメイン、並びに、改良された可変ドメインを有する免疫グロブリンのエンジニアリング及び調製方法を提供すること。
【解決手段】免疫グロブリンのエンジニアリング方法。詳細には、当該免疫グロブリンは、可変ドメイン及び前記免疫グロブリンの少なくとも2つの構造ループに少なくとも1つの修飾を有し、抗原のエピトープへの前記免疫グロブリンの結合を決定できる。未修飾の免疫グロブリンは前記エピトープと顕著に結合しない。少なくとも2つの構造ループを有してなる免疫グロブリンをコードする核酸を準備するステップと、前記構造ループ中の各々の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、発現システム中に前記修飾された核酸を移すステップと、前記修飾免疫グロブリンを発現させるステップと、エピトープと発現された前記修飾免疫グロブリンを接触させるステップと、前記修飾免疫グロブリンが前記エピトープと結合するか否かを測定するステップと、を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は修飾免疫グロブリン可変ドメインポリペプチドからなる分子のエンジニアリング及び調製方法に関する。
【0002】
本発明は広義には、特異的な結合特性をタンパク質に付与することを目的とする、エンジニアリングに関する。より詳細には、上記でエンジニアリングされたタンパク質は、免疫グロブリン(抗体)であって、より詳細には、可変ドメイン、又は免疫グロブリンの1つの可変ドメインのペア若しくはそれらの組合せ、又は他の免疫グロブリンドメインとの組合せから選択される。免疫グロブリンの特異的な結合特性は重要な特徴である。なぜなら、それらは抗原などの他の分子との相互作用を制御し、かかる免疫グロブリンは診断及び治療のアプリケーションにとり有用となるからである。
【背景技術】
【0003】
抗体の構造
抗体の基本構成は、様々な抗体の種類において、様々な種において類似しているため、本発明では例として、完全長IgG1免疫グロブリンを使用して説明する。
【0004】
同一の2つの重鎖(H)及び同一の2つの軽鎖(L)が結合し、Y字形の抗体分子を形成する。重鎖は各々4つのドメインを有する。アミノ末端可変ドメイン(VH)はY字の先端部に存在する。これに続く形で、Y字のステム側に、3つの定常ドメインが存在する(CH1、CH2、及びカルボキシ末端側のCH3)。短いストレッチ(スイッチ)が、重鎖可変領域と定常領域を連結する。ヒンジ部が、CH2及びCH3(Fc断片)を、抗体の残りの部分(Fab断片)と連結する。完全抗体分子のヒンジ部のタンパク質を分解させることにより、1つのFc及び2つの同一のFab断片を生じさせることができる。軽鎖は2つのドメインから構成され(可変部(VL)及び定常部(CL))、スイッチにより分離されている。
【0005】
ヒンジ領域のジスルフィド結合により、2つの重鎖が連結される。更なるジスルフィド結合によって、軽鎖が重鎖に連結される。
【0006】
Yの「先端」部に、重鎖及び軽鎖の可変領域(VH及びVL)が存在し、それらが抗原と反応するために配置されている。この分子の先端は、アミノ酸配列のN末端が位置する側である。
【0007】
Yのステム部分は幾つか突出しており、能率的にエフェクター機能を媒介する(例えば補体の活性化、及びFc受容体、又はADCC及びADCPとの相互作用)。そのCH2及びCH3ドメインは、エフェクタータンパク質との相互作用を促進するために膨張する。アミノ酸配列におけるC末端は先端とは反対側に位置し、Yの「ボトム部」と称される。
【0008】
免疫グロブリン可変ドメイン(Vドメイン)
抗体分子中の各ドメインは、コーンプレス型の逆平行βバレル構造中に、各々強固にパックされた、2つのβシートからなる同様の構造を有する。この保存された構造は、免疫グロブリンフォールディング構造と称される。参考のため、非特許文献1:Borkら、(1994)J.Mol.Biol.242:309−320、非特許文献2:Halabyら、(1999)Protein Engineering 12:563−571、非特許文献3:Immunobiology.5th ed.Janeway,Charles A.、Travers,Paul、Walport,Mark、Shlomchik,Mark.New York and London:Garland Publishing、2001を参照。
【0009】
可変ドメイン中のフォールディング構造は、4鎖及び5鎖の2つのシート中に整列された、9つのβ鎖を有する。5鎖シートは、構造的に定常ドメインの3鎖シートに対応するが、余分のC鎖及びC’鎖を有する。残りの鎖(A、B、C、D、E、F、G)は、定常ドメインの免疫グロブリンフォールディング構造中のそれらの対応する鎖と同じトポロジー及び類似の構造を有する。定常ドメインの場合と同様、ジスルフィド結合は逆向きシート中のB鎖とF鎖を連結する。免疫グロブリン中の軽鎖及び重鎖の可変ドメインは、3つの超可変ループ又は相補性決定領域(CDRs)を有する。Vドメイン中の3つのCDRs(CDR1、CDR2、CDR3)は、βバレルの一端でクラスターを形成する。CDRsは、免疫グロブリンフォールディング構造中のβ鎖B−C、C−C’1及びF−Gを連結するループである。CDRs中の残基は各免疫グロブリン分子間で様々に異なり、抗原特異性を各抗体に与える。
【0010】
抗体分子の先端のVL及びVHドメインは密接にパックされ、6つのCDRs(各ドメイン3つずつ)が集まり、その結果、抗原との特異的な結合を可能にする表面(又は空腔)を形成する。天然における抗体の抗原結合部位はすなわち、軽鎖可変ドメインのB−C、C−C’’及びF−G鎖を連結するループ、並びに重鎖可変ドメインのB−C、C−C’’及びF−G鎖を連結するループから構成される。
【0011】
タンパク質エンジニアリングのための足場:
タンパク質の3D構造を、デザインのための援助として使用し、多くのタンパク質の表面に存在するアミノ酸残基を、足場としてタンパク質のコア構造体を使用してランダム化する。例として、以下の先行技術文献(本願明細書に援用する)に、このストラテジーが記載又は概説されている:非特許文献4:Nygren PA,Uhlen M.,Curr Opin Struct Biol.(1997)7:463−9、非特許文献5:Binz HK,Amstutz P,Kohl A,Stumpp MT,Briand C,Forrer P,Grutter MG,Pluckthun A.Nat Biotechnol.(2004)22:575−82、非特許文献6:Vogt M,Skerra A.Chembiochem.(2004)5:191−9、特許文献1:米国特許第6562617号、非特許文献7:Huftonら、FEBS Letters.(2000)475:225、非特許文献8:Binzら、Nat Biotechnol.(2005)23:1257−68、非特許文献9:Hosseら、Protein Sci.(2006)15:14−27。
【0012】
この技術の基本的な原則は、多くのタンパク質が安定な核を有し、それらが二次的構造エレメント(例えばβシート又はαヘリックス(それらはループ、ターン若しくはランダムコイル構造などにより相互に連結している))の特異的なアレンジにより形成されているという観察に基づく。典型的には、これらの3つの構造要素は、タンパク質の全体構造にとりあまり重要でなく、これらの構造エレメント中のアミノ酸残基は、タンパク質の通常のフォールディング構造を破壊せずに置換することができる。この設計原理のための、天然に存在する例としては、抗体中に存在する免疫グロブリン様ドメインのCDR、T細胞受容体、及び免疫グロブリンスーパーファミリーの他の分子が挙げられる。人工物の例としては、リポカリン、アンキリン、クニッツドメイン阻害剤、ノッティング(knottin)及び他のタンパク質足場などが挙げられる。
【0013】
免疫グロブリン可変ドメインのCDRループの操作:
従来技術の多くは、免疫グロブリンなどの足場が既存の抗原結合部位又はリガンド結合部位を操作するために使用され、それによって新規な結合特性が導入されることを記載している。より正確には、主にCDRドメインは、その結合親和性又は特異性を変化させるために修飾され、換言すれば、免疫グロブリンフォールディング構造の場合、天然の抗原結合部位は、抗原との結合に関してエンジニアリングされる。膨大な量の文献が存在し、それらはかかる操作された免疫グロブリンに関する様々なフォーマットを記載しており、通常全長抗体、融合生成物及び/又は断片(例えば単鎖Fv断片(scFv)、二特異性抗体、ミニ本体、シングルドメイン又はFab断片など)の形で、ファージ粒子又は他のウイルス及び細胞の表面にディスプレイするか、又は様々な原核若しくは真核生物発現システムにおいて可溶性発現させる方法が存在する。当該技術は、例えば非特許文献10:Holliger&Hudson,Nat.Biotechnol.(2005)23:1126−36、及び非特許文献11:Hoogenboom,Nat.Biotechnol.(2005)23:1105−16.において概説される。
【0014】
免疫グロブリン可変ドメインのフレームワーク、又は非CDRドメイン:
免疫グロブリン可変ドメインのCDRループは、抗原特異性を定める。当該分子の残りの部分は、フレームワーク(FR)と称される。これらのフレームワークドメインはしかしながらβ鎖及びループ構造からなる。
【0015】
天然の免疫グロブリンのCDRループでないループ、又はCDRループによって定まる抗原結合ポケットの一部でないループは、抗原結合又はエピトープ結合特異性を有しない。しかしながら、免疫グロブリン分子全体の正しいフォールディング、及び/又はそのエフェクター機能若しくはその他の機能に貢献し、それゆえ、本発明においては構造ループと称される。
【0016】
抗体可変ドメインは通常、多くの理由から操作される:例えば様々な抗体フォーマットの構築、CDRグラフティング(他のフレームワークへの特異的な抗体の特異性のグラフティング、例えば非特許文献12:Jonesら、Nature(1986)321:522−525、非特許文献13:Kashmiriら、Methods(2005)36:25−34)、可変ドメインの表層を変化させ、それにより可溶性及び安定性を向上させること(例えば非特許文献14:Ewertら、Methods(2004)34:184−99、非特許文献15:Conrathら、J Mol Biol.(2005)350:112−125)、単量体化(例えば非特許文献16:Dottoriniら、Biochemistry (2004)43:622−628)、又は、可変ドメイン間の相互作用の研究(例えば非特許文献17:Masudaら、FEBS J.(2006)273:2184−94)。それらの操作の多くは、分子のフレームワークドメインの変化を伴うものであり、例えば可変ドメインの構造ループ内の若干のアミノ酸変異を実施するものである。
【0017】
CDRループのポジショニングに対する、遠隔したフレームワークドメインの影響は、CDRグラフティングの結果から明白であり、それは、1つのフレームワークから他方へのCDRsのグラフティングの後、フレームワークアミノ酸の変異が通常、抗原結合を回復するのに必要であることを示す(例えば非特許文献18:Foote&Winter(1992)J.Mol.Biol.224:487−499、非特許文献19:Kettleboroughら、Protein Eng.(1991)4:773−783、非特許文献20:Wuら、J.Mol.Biol.(1999)294:151−162)。
【0018】
非特許文献21:Simon及びRajwesky(Protein Sci.(1992)5:229−234)は、抗NP抗体B1−8からの重鎖可変ドメイン中のFR3ループへの、4つの残基挿入の効果を研究している。挿入変異体は、生合成における顕著な支障なく分泌された抗体として得られており、それは、抗体可変ドメインが、相補性決定ドメイン(CDRs)のみならず、フレームワークドメイン(FR)ループにおいても、鎖長変化に適応できることを示している。この場合、CDRループにより形成される元の抗原結合部位は、隣接した構造ループの修飾に影響を受けない。
【0019】
構造ループ領域へのCDRループのグラフティング:
特許文献2:欧州特許出願公告第0640130B1号は、複数の生物学的結合部位(単一のVドメイン又はFvs)を有するキメラ免疫グロブリンスーパーファミリータンパク質のアナログ(χタンパク質)を記載している。これらのタンパク質上の結合部位は分子の免疫グロブリンスーパーファミリーに関連する分子に由来する超可変ドメインからなり、例えば免疫グロブリン、細胞表面抗原(例えばT細胞抗原)及び細胞受容体(例えばFc受容体)などが挙げられる。超可変ドメインとは「CDR様ドメイン」と呼ばれ、リガンド結合部位を定める。更に、χタンパク質は少なくとも更に1つのリガンド結合部位部分、及びCDR様ドメインを有し、β−バレルドメインのFR様領域にスプライスされる。
【0020】
χタンパク質の各リガンド結合部位はゆえに、免疫グロブリンスーパーファミリーの分子に由来するCDR様ドメインからなる。例えば、リガンド結合部位はリガンドが抗原である免疫グロブリン分子に由来するCDRsからなる。
【0021】
特許文献2:欧州特許出願公告第0640130B1はすなわち、可変ドメインの構造ループに、免疫グロブリンスーパーファミリー分子に由来する所定の特異性を有するCDR様ドメインをスプライシングする方法を教示する。χタンパク質の発明者は、機能的な二重特異的な抗体がこの技術により調製できることを示唆している。しかしながら、この技術の要件として、可変ドメインのためのCDR様ループの相対的な方向(CDRループの左右対称性)が、構造ループの相対的な方向と近似するように再生されていることが挙げられる。特許文献2:欧州特許出願公告第0640130B1は、CDR様ループ左右対称のかかる近似が、構造ループにとり必要であることを記載している。しかしながら、CDRループ及び構造ループの相対的な方向が、充分な詳細及び解像度において同様であることは疑わしい。ゆえに、この技術によって二重特異的な分子を開発することが可能であることは、実は現在まで開示されていなかった。
【0022】
特許文献2:欧州特許出願公告第0640130B1は、R19.9(p−アゾベンゼンアルソネートに特異的なマウスモノクローナル抗体)、及び26−10(ウアバインに特異的なマウスモノクローナル抗体)が、それぞれ主要なCDRループを提供するフレームワークとして使用できることを例示している。マウス抗リゾチーム抗体D1.3のCDRループは、構造ループ領域とグラフトしている。しかしながら、グラフト後の機能的な特異性は記載されていない。
【0023】
他の実施例では、ウアバインに特異的な単鎖抗体26−10は、ウアバインに特異的な単鎖Fv抗体断片の構造ループ中にリゾチームに特異的な抗体からの2つのCDRsをグラフトした後にそのウアバイン特異性が保持されていることを記載している。しかしながら、この方法に従って作られた抗体断片が、リゾチーム特異的な結合特異性を有することは記載されていない。
【0024】
構造ループ領域へのペプチドのグラフティング:
特許文献3:国際公開第00244215A2号は、特異的な標的結合部位及びFcエフェクターペプチドからなる結合分子を記載している。Fcエフェクターペプチドは、エフェクター分子と相互作用する最高100のアミノ酸のペプチドである。抗原との結合能力が悪影響を受けない場合には、エフェクターペプチドは例えば抗体のループ領域に挿入できる。免疫グロブリン断片のCH1−ドメインの非CDRループへのエフェクターペプチドの挿入が例として挙げられる。但し可変ドメインに関しては、同様の挿入をしたという記載は存在しない。この開示に従って調製される非CDRループとグラフト化したあらゆるペプチドは、それが配置された部位における異なる構造的環境のため、不活性となる可能性が高い。更に、ペプチドが可変ドメインの構造ループにグラフトする場合、親免疫グロブリンの特異的なCDRループ形態の保持が困難となる可能性もある。したがって、抗原との結合又はエフェクター分子との結合の損失なしに、エフェクターペプチドをいずれかの可変ドメインにグラフとさせることに関しては記載されていない。
【0025】
特許文献4(国際出願第PCT/EP2006/050059号)では、構造ループ領域中を修飾免疫グロブリンの設計方法が記載され、それにより新規な抗原結合部位を形成させている。この方法は免疫グロブリンに広く適用でき、様々な抗原を標的とする、免疫グロブリンのシリーズを作製する用途に使用できる。
【0026】
特許文献5(米国特許出願公開第2005/266000A1号)では、変異型の重鎖可変フレームワークドメイン(VFR)を有するポリペプチドを記載する。VFRは抗原結合ポケット又は溝の一部であり、抗原と接触できる。VFRはCDRループ領域の一部であって、CDRループの側部の可変ドメインに位置し、CDRループ領域を介して抗原結合を支持する機能を有する。VFR以外のフレームワークループは、抗原結合部位の設計上の理由から変異を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】米国特許第6562617号
【特許文献2】欧州特許出願公告第0640130B1号
【特許文献3】国際公開第00244215A2号
【特許文献4】国際出願第PCT/EP2006/050059号
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/266000A1号
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Borkら、(1994)J.Mol.Biol.242:309−320
【非特許文献2】Halabyら、(1999)Protein Engineering 12:563−571
【非特許文献3】Immunobiology.5th ed.Janeway,Charles A.、Travers,Paul、Walport,Mark、Shlomchik,Mark.New York and London:Garland Publishing、2001
【非特許文献4】Nygren PA,Uhlen M.,Curr Opin Struct Biol.(1997)7:463−9
【非特許文献5】Binz HK,Amstutz P,Kohl A,Stumpp MT,Briand C,Forrer P,Grutter MG,Pluckthun A.Nat Biotechnol.(2004)22:575−82
【非特許文献6】Vogt M,Skerra A.Chembiochem.(2004)5:191−9
【非特許文献7】Huftonら、FEBS Letters.(2000)475:225
【非特許文献8】Binzら、Nat Biotechnol.(2005)23:1257−68
【非特許文献9】Hosseら、Protein Sci.(2006)15:14−27
【非特許文献10】Holliger&Hudson,Nat.Biotechnol.(2005)23:1126−36
【非特許文献11】Hoogenboom,Nat.Biotechnol.(2005)23:1105−16
【非特許文献12】Jonesら、Nature(1986)321:522−525
【非特許文献13】Kashmiriら、Methods(2005)36:25−34
【非特許文献14】Ewertら、Methods(2004)34:184−99
【非特許文献15】Conrathら、J Mol Biol.(2005)350:112−125
【非特許文献16】Dottoriniら、Biochemistry (2004)43:622−628
【非特許文献17】Masudaら、FEBS J.(2006)273:2184−94
【非特許文献18】Foote&Winter(1992)J.Mol.Biol.224:487−499
【非特許文献19】Kettleboroughら、Protein Eng.(1991)4:773−783、
【非特許文献20】Wuら、J.Mol.Biol.(1999)294:151−162
【非特許文献21】Simon及びRajwesky(Protein Sci.(1992)5:229−234
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明の目的は、改良された抗原結合特性を有する免疫グロブリン及び可変免疫グロブリンドメイン、並びに、改良された可変ドメインを有する免疫グロブリンのエンジニアリング及び調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記の課題は、以下の本発明の内容により解決される。
【0031】
本発明は免疫グロブリンのエンジニアリング方法の提供に関し、詳細には、当該免疫グロブリンは、可変ドメインと、前記免疫グロブリンの少なくとも2つの構造ループに少なくとも1つの修飾と、を有し、抗原のエピトープへの前記免疫グロブリンの結合を決定する。未修飾の免疫グロブリンは前記エピトープと顕著に結合しない。上記方法は以下のステップを有してなる:
−少なくとも2つの構造ループを有してなる免疫グロブリンをコードする核酸を準備するステップと、
−前記構造ループ中の各々の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、
−発現システム中に前記修飾された核酸を移すステップと、
−前記修飾免疫グロブリンを発現させるステップと、
−エピトープと発現された前記修飾免疫グロブリンを接触させるステップと、
−前記修飾免疫グロブリンが前記エピトープと結合するか否かを測定するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を示す。
【図2】ラクダの抗−TNF−α VHHドメインをコードする合成遺伝子を示す核酸配列、並びに1文字コードで表記した翻訳後のアミノ酸配列を示す。クローニングに使用する制限部位を、ヌクレオチド配列中の下線で示す。ライブラリにおけるランダム化されたアミノ酸残基を、アミノ酸配列中の下線で示す(挿入されたアミノ酸はこの配列に示さない)。
【図3】PCR反応及びライゲーション手順の模式図を示す。水平の矢印は、PCRプライマの位置及び方向を示す。(左から右の)垂直線は、それぞれNcoI、BglII及びNotI部位を示す。
【図4】実施例6のライブラリの構築の際の、PCR反応の模式図を示す。
【図5】scFv 2F5 wtの合成遺伝子ライブラリ1(VH−リンカー−VL)及びその翻訳(ランダム化された2つの構造ループを有する)を示す。
【図6】scFv 2F5 wtの合成遺伝子ライブラリ2(VH−リンカー−VL)及びその翻訳(ランダム化された2つの構造ループを有する)を示す。
【図7】scFv 2F5 wtの合成遺伝子ライブラリ3(VH−リンカー−VL)及びその翻訳(ランダム化された3つの構造ループを有する)を示す。
【図8】scFv 2F5 wtの合成遺伝子及びその翻訳(VH−リンカー−VL)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明により設計される構造ループは、好ましくは1つ又は2つの構造ループ領域中に位置し、若干の場合には、修飾が2つ以上の構造ループ領域内に設けられる。
【0034】
抗体可変ドメインの構造ループ領域に結合部位を設計する際の、国際公開第00/244215A2号及び欧州特許出願公告第0640130B1号にて説明される現在の技術水準の欠点を克服するために、本発明は、その天然の前後関係(すなわち抗体可変ドメイン)中のポリペプチド(すなわち修飾された構造ループ領域からなる可変ドメインペプチド)における特異的な結合を選抜する方法を提供する。抗原結合に関して選抜できる変異型の免疫グロブリンドメイン構造の数を増加させるため、少なくとも2つの構造ループ又はループ領域を本発明により修飾する。すなわち、それにより全体のドメイン構造の妨害を最小化しつつ、多くの修飾を選抜することが可能となる。少なくとも2つのループ又はループ領域を修飾することによる他の効果は、特異的な結合(パートナー)と相互作用できる表面を拡大できるということである。このようにして修飾された免疫グロブリン可変ドメインは、特定の機能又は結合に基づき選抜される。本発明は、結合パートナーに対して、高い親和性で結合し、及び/又は高い特異性で、修飾された構造ループ又はループ領域を介して結合する、修飾免疫グロブリン可変ドメイン及び修飾免疫グロブリンのエンジニアリングを可能とする。上記の方法は、最小の修飾で、可変免疫グロブリンドメインの全体構造の破壊を伴わない、特異的な結合分子の選抜を可能にする。
【0035】
親免疫グロブリンの特異的なCDRループ形態を保持するという課題を克服するため、可変ドメインの構造ループを本発明により修飾する。すなわち、親抗体の免疫グロブリンが有する、抗原との結合又はエフェクター分子との結合能力の顕著な損失を伴うことなく、抗原との結合特性を付与することに、最初に成功したのが本発明である。本発明では以外にも、親免疫グロブリンが有する、特異的なCDRループ形態による結合特性(例えば結合親和性、アビディティ及び特特異性)を顕著に妨げることなく、免疫グロブリンを設計できることを見出した。
【0036】
特異的なCDRループ形態は、CDRループ又はCDRループ領域による抗原−結合を提供する。かかるCDRループ形態による抗原結合を行ういかなる免疫グロブリンも、本発明により修飾されることにより、免疫グロブリンの構造ループ中に更なる結合部位を形成させることができる。好ましくは、親分子の有する、特異的なCDRコンホメーション及び元の抗原結合特性が保持されるか又は変化しない。CDRループ形態の結合特性は、親分子の結合親和性が著しく減少しない限りにおいて、維持されるのが好ましく、例えば、解離定数Kdが著しく増加しないことである(Kdの差異が要因であり、10未満、好ましくは10未満、好ましくは10未満、若しくは10未満であることを意味する)。
【0037】
本発明においては、本発明の鍵となる特徴の1つは、免疫グロブリン若しくは免疫グロブリン可変ドメインのエンジニアリングが、抗原との結合に通常関係しない領域において、換言すれば、抗体可変ドメインのCDRs以外の領域において行われるということである。免疫グロブリンドメインの特異的なフォールディング構造により、構造的にCDRsに類似しているが、配列中の位置及び構造において異なる領域への、ランダムな変異導入が可能となることを見出した。本発明により同定される領域は、CDRs様の、免疫グロブリンフォールディング構造のβ鎖を連結しているループ領域である。これらの構造ループ領域は、CDRループにより媒介される免疫グロブリンの可変ドメインの結合に影響を及ぼすことなく、本発明にて説明したように変異されうる。前記構造ループ領域を変異させることにより、新規な分子結合面又は結合ポケットが形成され、それはサイズ及び形状において、抗体の天然の抗原結合部位のCDRループにより形成される結合面又は結合ポケットと類似している。構造ループは、更なるアミノ酸の挿入により延長できるため、新規に形成された結合部位の構造は、それが結合すべき標的に応じて調整できる。例えば、特に小分子との結合に適する深い結合ポケットは、長いループ(すなわちそれらの配列中に更なるアミノ酸を挿入された構造ループ)によって、優先的に形成されうる。平坦な結合表面(大きい、平坦な分子表面を有する標的と結合することに適する)は、構造ループ中の残余部分が更なる残余部分の挿入なしで変異する場合に、優先的に形成される。より詳細には、ヒト又はヒト化重鎖可変ドメインのβ鎖A−B、C’−D及びE−Fを連結しているループ中に、ランダム若しくはセミランダムに突然変異を導入することによって、ヒト血清アルブミン又はFc受容体(通常ヒト若しくはヒト化免疫グロブリン可変ドメインにより認識若しくは結合されない。)にも特異的に結合する変異ドメインが選抜されうることが、本願明細書に記載されている。導入される突然変異には、野生型配列中の選択されたアミノ酸残基鎖が、ランダムに選ばれた残基と置換される突然変異が包含され、また、上記のループへの更なるアミノ酸残基の挿入も包含される。すなわち、本発明では、上記した方法に従って得られる、若しくは調製されうる、好適に修飾された免疫グロブリンの提供に関する。それは、抗原(特に血清アルブミン、細胞受容体及び補体因子、より詳しくはヒト血清アルブミン及びFcレセプタ)に特異的に結合する部位を有する。
【0038】
特に本発明は、抗原のエピトープに特異的に結合するドメインを有する、免疫グロブリン可変ドメイン及び免疫グロブリンのエンジニアリング(engineering)方法に関する。
【0039】
特に本発明に係る方法は、以下のステップを有してなる:
−少なくとも1つの第1のエピトープにに特異的に結合し、少なくとも2つの構造ループ又はループ領域を有してなる免疫グロブリンをコードする核酸を準備するステップと、
−前記核酸によってコードされる前記構造ループ又はループ領域の各々の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、
−発現システム中に前記修飾された核酸を移すステップと、
−前記修飾免疫グロブリンを発現させるステップと、
−前記少なくとも1つの第2のエピトープと、発現された前記修飾免疫グロブリン可変ドメインを接触させるステップと、
−前記修飾免疫グロブリン可変ドメインが第2のエピトープと特異的に結合するか否かを測定するステップ。
【0040】
この方法は、好ましくは免疫グロブリン可変ドメインペプチドに係る。好ましくは、本発明の本実施形態にかかる方法は、CDR領域、又は特異的なCDRループ立体構造を介して、前記第1のエピトープと結合する免疫グロブリンに関する。
【0041】
本発明に係る方法は更に、前記免疫グロブリン可変ドメインの少なくとも2つの構造ループ又はループ領域における各々の少なくとも1つの修飾であって、少なくとも1つの抗原に対する前記構造ループ又はループ領域の特異的な結合を決定定する修飾に関し、未修飾の構造ループ又はループ領域を含有する免疫グロブリン可変ドメインは、かかる抗原と特異的に結合しない。
【0042】
本明細書で用いられる用語「免疫グロブリン」には、免疫グロブリン又はその部分、断片又は免疫グロブリンの誘導体が包含される。すなわち、本発明により修飾される「免疫グロブリン可変ドメインペプチド」(本明細書では、用語「免疫グロブリン」と「抗体」が同義的に用いられる)、並びに、構造ループ(例えばミニドメイン)を有する免疫グロブリン可変ドメイン又はそのドメイン若しくは部分、又はかかるドメインの構造ループが包含される。上記免疫グロブリンは、単離されたペプチドとして、又は他のペプチドとの組合せ分子として使用できる。場合によっては、単離された分子として、結合又は組合せを目的として、特定の修飾された構造ループ若しくは構造ループ領域、又はその部分を使用することが好ましい。「免疫グロブリン可変ドメイン」とは、本明細書では、修飾及び設計により、特異的な結合特性を有しうる免疫グロブリン可変ドメインペプチド又はポリペプチドを包含するものとして、定義される。上記ペプチドは、免疫グロブリン可変ドメイン配列に相応し、好ましくは少なくとも5アミノ酸長、好ましくは少なくとも10、又は少なくとも50若しくは100アミノ酸長であり、少なくとも構造ループ又は構造ループ領域を部分的に構成するか、あるいは当該可変ドメイン中の非CDRループ領域を構成する。上記ペプチドは好ましくは、機能を有さないアミノ酸、ハイブリッド若しくはキメラCDR−領域、又はCDR様領域、及び/又はCDR領域の標準的な構造と考えられる挿入物が除外される。上記結合特性は、特異的なエピトープ結合、親和性及び結合活性(アビディティ)に関連する特性である。
【0043】
本発明に係る免疫グロブリンの誘導体は、本発明の1つ以上の免疫グロブリン及び/又は融合タンパク質のあらゆる組合せであり、詳細には、本発明に係る免疫グロブリンのドメイン又はミニドメインは、他の1つ以上のタンパク質(例えば他の免疫グロブリン、リガンド、足場タンパク質、酵素、毒素など)の任意の部位において融合させてもよい。本発明の免疫グロブリンの誘導体はまた、組換え技術又は様々な化学的方法(例えば共有結合、静電的な相互作用、ジスルフィド結合など)によって、他の物質と結合させることにより調製できる。
【0044】
免疫グロブリンに結合する他の物質は、脂質、炭水化物、核酸、有機及び無機分子(例えばPEG、プロドラッグ又は薬剤)、又はそれらの任意の組み合わせでもよい。誘導体とは、同じアミノ酸配列を有するが、全部又は部分的に、非天然の又は化学的に合成したアミノ酸で修飾された免疫グロブリンである。
【0045】
本発明に係る設計された分子は、同様にそれ単独のタンパク質としても有用であるが、融合タンパク質又は誘導体としても有用であり、典型的には、大きな抗体構造体又は全長抗体分子の一部として融合してもよく、又は、その一部(例えばFab断片、Fc断片、Fv断片など)であってもよい。二重特異的、三重特異的な分子、あるいは同時により多くの特異性を有する分子の作製を目的として、設計されたタンパク質を使用することができ、それにより、かかる分子の所望の使用条件に従って、同時に結合の多重性を制御し、あらかじめ選択することが可能となる。
【0046】
本発明の別の態様は、可変ドメインのCDRループ形態の他に、少なくとも1つのループ領域を有する免疫グロブリンに関し、特徴としては、前記少なくとも1つのループ領域が、少なくとも1つのアミノ酸修飾からなる少なくとも1つの修飾されたループ領域を形成し、前記少なくとも1つの修飾されたループ領域が、抗原中の少なくとも1つのエピトープと特異的に結合する。
【0047】
少なくとも1つの修飾された抗体ドメイン(非可変的な配列又は構造ループを介して特定のパートナーと結合するする)と、少なくとも1つの他の結合分子(抗体、抗体断片、可溶性の受容体、リガンド若しくは他の修飾された抗体ドメインであってもよい)を結合させた分子であるのが好ましい。
【0048】
本発明に係る免疫グロブリンによって特異的に認識される結合ペアの一部として機能する分子は、好ましくはタンパク性分子、核酸分子及び炭水化物からなる群から選択される。
【0049】
修飾免疫グロブリンのループ又はループ領域は、特に抗原、タンパク性分子、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、グリカン、炭水化物、脂質、小さい有機分子、無機分子、又はその組合せ又は融合物など、あらゆる種類の結合分子又は構造とも特異的に結合できる。もちろん、上記修飾免疫グロブリンは、少なくとも2つのループ又はループ領域を有してもよく、それにより、当該ループ又はループ領域の各々が異なる分子又はエピトープと特異的に結合することができる。
【0050】
本発明では、各種の細胞表面抗原に対する抗原結合ドメイン又は抗原結合部位は、ある特定の抗体構造中の構造ループに導入されてもよい。
【0051】
本発明に係る免疫グロブリンの結合は、一方では好ましくはCDR−ドメインを介して、他方では、免疫グロブリンがかかるCDR−ドメインを含む場合、少なくとも2つの構造ループを修飾することにより形成される更なる結合部位によって行われる。それらの構造ループは、1つ以上の修飾された構造ループを有する、1つ又は少なくとも2つの可変ドメインにも配置される。すなわち、本発明に係る免疫グロブリンは、少なくとも2つの可変ドメイン中に少なくとも1つの修飾、又は少なくとも1つの可変ドメイン中に少なくとも2つの修飾を有することにより、可変ドメインの構造ループ中少なくとも2つの修飾を有する。好ましくは、修飾免疫グロブリンはすなわち、タンパク質の一次構造を変化させるか、又は三次構造を変化させてコンホメーション特異的な結合部位を得ることにより、結合部位を提示する。
【0052】
類推するに、いかなる種類、及びいかなる種からの免疫グロブリンの免疫グロブリン可変ドメインも、この種の設計を行うことができる。更に本発明では、目標とされる特異的なループを操作できるのみならず、免疫グロブリン可変ドメイン中のβ鎖を連結するいかなるループも同様に操作できる。
【0053】
いかなる生物体からの、いかなる種類の免疫グロブリンから設計された免疫グロブリン若しくは免疫グロブリン可変ドメインも、本発明により、シングルドメインとして、又はより大きな分子の一部として調製できる。例えば、それらは全長の免疫グロブリンの一部であってもよく、したがって、6つのCDRsにより形成されるその「通常の」抗原結合ドメイン、及び新規に設計された抗原結合ドメインを有する。このように、多重特異性、例えば二重特異性の免疫グロブリンを調製できる。設計された免疫グロブリンドメインは、いかなる融合タンパク質の一部であってもよい。
【0054】
本発明の免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、全長抗体分子又は抗体の一部(例えばIgG、IgA、IgM、IgD、IgEなど)でもよい。本発明の免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、Fab、Fab2、scFv、Fv若しくはその部分、又は免疫グロブリンの他の誘導体又はそれらの組合せ(例えばミニボディ(minibody))、可変ドメインの重鎖及び軽鎖のドメイン(例えばFd、VL(Vλ及びVκを含む)、VH、VHH)、並びに少なくとも2つの構造ループにより連結される免疫グロブリンドメインの2つのβ鎖からなるミニドメイン(Lafflyその他、(2005)Hum Antibodies.2005、14:33−55など)(単離されたドメインとして、又は、天然分子の前後において)、などの機能的な抗体断片を含有するか、又はそれらからなってもよい。
【0055】
本発明に係る修飾免疫グロブリンは、可能であれば、1つ以上の修飾免疫グロブリンによって、又は、未修飾の免疫グロブリン又はそのパーツによって更に結合され、それにより組合せ免疫グロブリンを得る。当該組合せは好ましくは、コンビナトリアル技術によって得られるが、吸着、静電的な相互作用等、あるいはリンカーの有無における化学結合によっても得られる。好適なリンカー配列は、天然のリンカー配列若しくは機能的に適切な人工配列である。
【0056】
用語「免疫グロブリン」、「免疫グロブリン可変ドメインペプチド」、又は「免疫グロブリン可変ドメイン」は、同様に誘導体を含むものと理解される。本発明に係る免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインの誘導体は、本発明の1つ以上の免疫グロブリン及び/又は融合タンパク質のあらゆる組合せであり、詳細には、本発明に係る免疫グロブリンのドメイン又はミニドメインは、他の1つ以上のペプチド若しくはタンパク質(例えば他の免疫グロブリン、免疫グロブリンドメイン、Fc部分、リガンド、足場タンパク質、酵素、毒素、血清蛋白質など)の任意の部位において結合若しくは融合させてもよい。本発明の免疫グロブリンの誘導体はまた、組換え技術又は様々な化学的方法(例えば共有結合、静電的な相互作用、ジスルフィド結合など)によって、他の未修飾若しくは修飾された免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインと結合させることにより調製できる。
【0057】
免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインに結合させる他の物質は、脂質、炭水化物、核酸、有機及び無機分子(例えばPEG、プロドラッグ又は薬剤)、又はそれらの任意の組み合わせでもよい。誘導体とは、同じアミノ酸配列を有するが、全部又は部分的に、非天然の又は化学的に合成したアミノ酸で修飾された免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインでもある。
【0058】
本発明に係る設計された分子は融合タンパク質又は誘導体と同様、独立型タンパク質としても有用であり、最も典型的には、修飾の前後に、大きな抗体構造又は全長抗体分子の一部となるような方法で融合させる。本発明に係る免疫グロブリンはすなわち、Fab断片、Fc断片、Fv断片、単鎖抗体、特に単鎖Fv断片、二重又は多重特異性scFv、二重特異的抗体(diabody)、マルチボディ、免疫グロブリンドメインの多価体又は多量体などを有するか、又はそれらからなってもよい。一重特異的、二重特異的、三重特異的な分子、並びに多くの特性を有する分子を産生するために、設計されたタンパク質を使用することも可能である。本発明によって、かかる分子を使用する際の条件に従って、結合の原子価を制御し、同時に予め選択することも可能である。
【0059】
本発明によれば、抗原に対する1つ以上の結合部位、又は1つ以上の抗原に対する抗原結合部位は、所定の抗体可変ドメイン構造の構造ループ又はループ領域に導入ことができる。当該抗原は、天然に存在する分子、化学合成した分子又は組換え分子であってもく、溶液又は懸濁液に存在(固相のような粒子の表面若しくは内部、又は細胞又はウイルスの表面若しくは内部)に存在してもよい。抗原に対する免疫グロブリンの結合が本発明に従って達成できることが予想外であり、特に抗原が、その結合を妨げる分子及び構造に付着又は結合するときであっても、それが達成できることが予想外である。修飾された及び設計された免疫グロブリンを選抜するために、その選抜されたか若しくは天然の前後関係若しくは構造において標的抗原を使用することによって、診断若しくは治療用途で最も適切な、それらの修飾免疫グロブリンを同定し、得ることが可能となる。
【0060】
本明細書で用いられる用語「抗原」には、アレルゲン、腫瘍関連抗原、アルブミンなどの自己抗原、T細胞受容体、FcRn、細胞表面マーカー、酵素、Fc受容体、補体系のタンパク質、血清分子、細菌抗原、菌類の抗原、原生動物の抗原及びウイルス抗原、また海綿状脳炎(TSE)に関連するプリオン(伝染性の有無を問わない)、及びアルツハイマー病に関連するマーカー又は分子、からなる群から選択される分子などが包含される。本発明により設計される免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインによって、抗原は、少なくとも修飾された構造ループの一部を介して目標とされ、結合されることができる。
【0061】
好ましい実施形態では、当該免疫グロブリンは修飾された構造ループを介して、少なくともかかる2つの(各々同一若しくは異なる、同じ抗原若しくは異なる抗原中の)エピトープと特異的に結合する。
【0062】
例えば、本発明に係る方法は、少なくとも1つの第1のエピトープに特異的に結合し、前記免疫グロブリンの少なくとも2つの構造ループ又はループ領域の各々に少なくとも1つの修飾を有し、少なくとも1つの第2のエピトープに対する、前記ループ又はループ領域の特異的な結合を決定する、免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインの設計に関し、当該エピトープは上記した抗原のグループから選択され、未修飾の構造ループ又はループ領域(非CDRドメイン)は、前記少なくとも1つの第2のエピトープと特異的に結合しない。
【0063】
本発明の抗原という用語は特に、免疫グロブリン又は抗体構造の結合部位によって、全部の標的分子として、又はかかる分子の断片(特に標的のサブ構造、「エピトープ」と一般に呼ばれる)として認識されうる、全ての抗原及び標的分子のことをさす。
【0064】
本発明に係る免疫グロブリンによって目標とされる好適な抗原は、免疫原性がある又は有しうることが証明され、免疫反応因子と結合でき、又は、免疫学的若しくは治療的に有効な(特にその臨床有効性がすでに試験されている)抗原又は分子である。
【0065】
本発明に係る用語「抗原」とは、免疫グロブリンのCDRループ領域と相互作用するか又は相互作用できることが公知である、分子又は構造のことを意味する。天然抗体に係る従来公知の構造ループ領域は、抗原と相互作用せず、むしろ全体的な構造維持、及び/又はエフェクター分子に対する結合に関与するものである。本発明に係る設計を行うことにより、初めて、当該構造ループは、CDRループ又はCDR領域とは無関係に抗原結合ポケットを形成できる。
【0066】
好ましい実施形態では、本発明に係る免疫グロブリンにより結合される抗原は、細胞表面抗原である。本発明に係る用語「細胞表面抗原」には、細胞表面上に存在する、抗体構造によって認識されうる全ての抗原、ならびにかかる分子の断片が包含される。好適な「細胞表面抗原」とは、免疫学的又は治療的に有用である、又は有用でありうると証明されている抗原であり、特にかかる有用性が前臨床的若しくは臨床的に試験されている抗原のことを指す。それらの細胞表面分子は本発明において特異的な有用性を発揮し、細胞を殺傷する活性を示す。本発明に係る免疫グロブリンの、それらの細胞の少なくとも2つの表面分子に対する結合により、免疫系が細胞崩壊又は細胞死を生じさせ、それにより、ヒト細胞を攻撃するための有力な手段の提供が可能となる。
【0067】
好ましくは、上記抗原は細胞表面抗原(受容体を含む)から選抜され、特に、erbB受容体チロシンキナーゼ、(限定されないがEGFR、HER2、HER3及びHER4など)、TNF−受容体スーパーファミリー分子(例えばApo−1受容体、TNFR1、TNFR2)、神経成長因子受容体NGFR、CD40、T細胞表面分子、T細胞受容体、T細胞抗原OX40、TACI−受容体、BCMA、Apo−3、DR4、DR5、DR6おとり受容体(限定されないがDcR1、DcR2、CAR1、HVEM、GITR、ZTNFR−5、NTR−I、TNFL1など)、B細胞表面抗原(例えばCD10、CD19、CD20、CD21、CD22)、抗原又は固形腫瘍又は血液癌細胞マーカー、リンパ腫又は白血病細胞、血小板などの他の血球などが挙げられる。
【0068】
本発明の更に好ましい実施形態では、修飾された構造ループ領域に対する分子結合は、以下からなる群から選択される:腫瘍関連抗原、特にEpCAM、腫瘍関連のグリコプロテイン−72(TAG−72)腫瘍関連抗原CA125、前立腺特異的な膜抗原(PSMA)、高分子量黒色腫関連抗原(HMW−MAA)、ルイスY関連炭水化物、癌胎児性抗原(CEA)、CEACAM5、HMFG PEM、ムチンMUC1、MUC18及びサイトケラチン腫瘍関連抗原、細菌抗原、ウイルス抗原、アレルゲン、アレルギー関連分子IgE、cKIT及びFc−ε−受容体Iを発現する腫瘍関連抗原、IRp60、IL−5受容体、CCR3、赤血球受容体(CR1)、ヒト血清アルブミン、マウス血清アルブミン、マウス血清アルブミン、新生児Fc−γ−受容体FcRn、Fc−γ−受容体Fc−γRI、Fc−γ−RII、Fc−γRIII、Fc−α受容体、Fc−ε−受容体、フルオレセイン、リゾチーム、Toll様受容体9、エリトロポイエチン、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD10、CD11、CD11a、CD14、CD16、CD18、CD19、CD20、CD22、CD23、CD25、CD28、CD29、CD30、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD38、CD40、CD40L、CD52、CD54、CD56、CD64、CD80、CD147、GD3、IL−1、IL−1R、IL−2、IL−2R、IL−4、IL−5、IL−6、IL−6R、IL−8、IL−12、IL−15、IL−18、IL−23、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、TNF−α、TNFβ2、TNFα、TNFαβ、TNF−R1、TNF−RII、FasL、CD27L、CD30L、4−1BBL、TRAIL、RANKL、TWEAK、APRIL、BAFF、LIGHT、VEG1、OX40L、TRAIL受容体−1、A1 アデノシン受容体、リンホトキシンΒ受容体、TACI、BAFF−R、EPO、LFA−3、ICAM−1、ICAM−3、インテグリンβ1、インテグリンβ2、インテグリンα4/β7、インテグリンα2、インテグリンα3、インテグリンα4、インテグリンα5、インテグリンα6、インテグリンαv、αVβ3インテグリン、FGFR−3、ケラチノサイト成長因子、VLA−1、VLA−4、L−セレクチン、抗Id、Eセレクチン、HLA、HLA−DR、CTLA−4、T細胞受容体、B7−1、B7−2、VNRインテグリン、TGFβ1、TGFβ2、エオタキシン1、BLyS(B−リンパ球刺激因子)、補体C5、IgE、IgA、IgD、IgM、IgG、因子VII、CBL、NCA90、EGFR(ErbB−1)、Her2/neu(ErbB−2)、Her3(ErbB−3)、Her4(ErbB4)、組織因子、VEGF、VEGFR、エンドセリン受容体、VLA−4、血液型抗原などの炭水化物及び関連する炭水化物、ガリリ−グリコシル化、ガストリン、ガストリン受容体、腫瘍関連の炭水化物、ハプテンNP−キャップ又はNIP−キャップ、T細胞受容体α/β、Eセレクチン、P糖タンパク質、MRP3、MRP5、グルタチオン−S−転移酵素π(多剤耐性タンパク質)、α−顆粒膜タンパク質(GMP)140、ジゴキシン、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)、睾丸PLAP様アルカリホスファターゼ、トランスフェリン受容体、ヘパラナーゼI、ヒト心臓ミオシン、グリコプロテインIIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)gHエンベロープグリコプロテイン、HIV gp120、HCMV、RSウイルス(RSV) F、RSVF Fgp、VNRインテグリン、HepB gp120、CMV、gpIIbIIIa、HIV IIIB gp120 V3ループ、RSウイルス(RSV)Fgp、ヘルペスシンプレックスウイルス(HSV)gDグリコプロテイン、HSV gBグリコプロテイン、HCMV gBエンベロープグリコプロテイン、ウェルシュ菌毒素、並びにそれらの断片。
【0069】
好ましくは、上記抗原は、病原抗原、腫瘍関連抗原、酵素、基質、自己抗原、有機分子又はアレルゲンからなる群から選択される。より好適な抗原は、ウイルス抗原、細菌抗原又は真核生物若しくはファージの病原体に由来する抗原からなる群から選択される。好適なウイルス抗原としては、HAV、HBV、HCV、HIVI、HIVII、パルヴォウイルス、インフルエンザ、HSV、肝炎ウイルス、フラビウイルス、ウェストニルウイルス、エボラウイルス、Poxウイルス、小poxウイルス、麻疹ウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、パピロマウイルス、ポリオーマウイルス、パルヴォウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、ポリオウイルス、エコウイルス、日本脳炎ウイルス、デングウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、ラクロスウイルス、ラサウイルス、狂犬病ウイルス、ロタウイルス抗原が挙げられる。好適な細菌抗原としては、シュードモナス、マイコバクテリウム、スタフィロコッカス、サルモネラ、メニンゴコッカル、ボレリア、リステリア、ネイセリア、クロストリジウム、エシェリチア、レジオネラ、バシラス、ラクトバシラス、ストレプトコッカス、エンテロコッカス、コリネバクテリウム、ノカルジア、ロードコッカス、モラキセラ、ブルセラ、カンピロバクター、カルジオバクテリウム、フランシセラ、ヘリコバクター、ハエモフィラス、クレブシエラ、シゲラ、イエルシニア、ビブリオ、クラミジア、レプトスピラ、リケッチア、マイコバクテリウム、トレポネマ、バルトネラ抗原が挙げられる。病原性真核生物の好適な真核生物抗原としては、ジアルジア、トキソプラズマ、シクロスポラ、クリプトスポリジウム、トリチネラ、酵母、カンディダ、アスペルギルス、クリプトコッカス、ブラストマイセス、ヒストプラズマ、コッキジオイデスに由来する抗原が挙げられる。
【0070】
本発明に係る修飾免疫グロブリンは好ましくは、上記の分子のうちの1つと結合できる。これらの分子はまた、アレルゲン及びハプテンを含んでなる。
【0071】
免疫学的に同等のもの(すなわち天然抗体若しくはモノクローナル抗体で判別可能である)限り、抗原の下部構造を一般に「エピトープ」(例えばB細胞エピトープ、T細胞エピトープ)と呼ぶ場合もある。本発明に係る用語「エピトープ」とは、本発明の結合ドメイン又は免疫グロブリンと、特異的な結合パートナー又は特異的な結合パートナーの一部を完全に形成しうる分子構造を意味する。
【0072】
エピトープは、炭水化物、ペプチド、脂肪酸、有機物質、生体物質若しくは無機物質又はその誘導体、並びにそれらの任意の組み合わせから化学的に調製してもよく、それらに由来してもよい。エピトープがポリペプチドである場合、通常少なくとも3アミノ酸、好ましくは8〜50アミノ酸、より好ましくは約10〜20アミノ酸からなるペプチドである。特にペプチド長に関して上限はなく、ほとんどポリペプチド配列の全長であってもよい。エピトープは、直鎖状であってもよく、高次構造を有するエピトープであってもよい。直鎖状のエピトープは、ポリペプチド鎖の一次配列の単一セグメントからなる。直鎖状エピトープは隣接若しくは重複していてもよい。高次構造を有するエピトープは、ポリペプチドのフォールディングによる三次構造を形成するアミノ酸からなり、当該アミノ酸は、直鎖状配列中で必ずしも互いに隣接する必要はない。
【0073】
具体的には、エピトープは診断にとり有用な分子の少なくとも一部である(すなわち、サンプル中のエピトープの不在又は存在が、質的又は量的に、疾患若しくは健康状態、製造プロセス中の状況、又は環境及び食品の状況と対応する)。エピトープは、治療にとり有用な分子の少なくとも一部でもよい(すなわち、特異的結合ドメインの標的となり、疾患の過程を変化させる)。
【0074】
本発明により設計される免疫グロブリンの抗原結合部位の他に、更なる結合能を、可変ドメインの構造ループ領域の側部又は内部に導入することができる例えば小分子、薬剤若しくは酵素、酵素の触媒部位若しくは酵素基質に対する結合能、又は、酵素基質の遷移状態アナログに対する結合能である。
【0075】
好ましくは、構造ループ中の新しい抗原結合部位は、未修飾の免疫グロブリン可変ドメインポリペプチドとは適合しない。すなわち、エフェクター分子、血清タンパク質又はFc受容体及び細胞表面分子などの標的は、本発明に係るT細胞受容体ドメインポリペプチドの結合パートナーとして好ましい。
【0076】
本明細書において、「異質な」の用語は、抗原が免疫グロブリンの特異的なCDR結合ドメイン又は他の天然若しくは固有の結合ドメインにより認識されないことを意味する。異質な結合パートナーはすなわち、免疫グロブリンの天然の結合パートナーでなく、構造ループの新しく形成された抗原結合部位に結合してもよい。これは、天然の結合パートナー(例えばFc受容体又は免疫系のエフェクター)が未修飾の免疫グロブリンとは異質の抗原結合部位により結合されるとは考えられないことを意味する。
【0077】
本発明で使用する「特異的に結合する」という用語は、異質な分子集団の中から、関心の同族リガンドのみと結合する反応のことを指す。すなわち、所定の抗体は、所定の条件(例えば免疫グロブリンの場合、イムノアッセイ条件)下で、その特異的な「標的」と結合し、一方サンプル中に存在する他の分子とは顕著な量において結合しない。抗体のCDRsと同様、修飾された構造ループ領域は、抗原、構造又は分子と結合するタンパク質部分であり、それ自体抗原ではない。通常、結合定数又は結合動態が少なくとも10倍異なる場合、選択的な結合が可能となる。
【0078】
「発現システム」という用語は、コード配列と、操作可能に結合した所望の制御配列とを含む核酸分子のことを指し、これらの配列によって形質転換又はトランスフェクションされた宿主は、コードされたタンパク質を産生できる。形質転換を遂行するため、発現システムをベクター中に導入してもよいが、同様のDNAを宿主の染色体に導入してもよい。あるいは、当該発現システムをin vitro転写/翻訳に使用してもよい。
【0079】
本発明に係る「構造ループ」又は「非CDRループ」とは、以下のとおり理解される:すなわち免疫グロブリンは「いわゆる免疫グロブリンフォールド」と呼ばれるドメインから構成される。本質的には、逆平行βシートがループに結合し、圧縮型の逆平行βバレルを形成する。可変ドメインにおいて、ドメインのループのいくつかは、基本的に抗体の特異性(抗原に対する結合)に関与する。これらのループはCDRループと呼ばれる。
【0080】
CDRループは、CDRループ領域の中で位置し、若干の場合において、CDRループに可変フレームワークドメイン(「VFR」と呼ばれる)が隣接する。VFRが抗体の抗原結合ポケットに関与することが知られ、それは通常、主にCDRループにより決定される。すなわち、それらのVFRはCDRループ領域の一部として考慮されるため、本発明への使用は適切でない。CDRループ領域内の、又はCDRループの最も近位側のVFRとは反対に、可変ドメイン内の他のVFRの使用は、本発明において特に適切である。それらは、CDRループ領域の反対側に、又は可変免疫グロブリンドメインのC末端側に位置するVFRの構造ループである。
【0081】
CDRループ領域の外側の抗体可変ドメインの全てのループは、むしろ分子の構造形成に関与する。これらのループは、構造ループ又は非CDRループとして本願明細書において定義される。
【0082】
免疫グロブリンのアミノ酸配列の全ての番号付けはIMGT付番に従う(IMGT,the international ImMunoGeneTics information system@imgt.cines.fr、http://imgt.cines.fr;Lefrancら、,1999,Nucleic Acids Res.27:209−212、Ruizら、,2000 Nucleic Acids Res.28:219−221、Lefrancら、,2001,Nucleic Acids Res.29:207− 209、Lefrancら、,2003,Nucleic Acids Res.31:307−310、Lefrancら、,2005,Dev Comp Immunol 29:185−203)。
【0083】
本発明の好ましい実施形態では、免疫グロブリン可変ドメインはヒト若しくは動物の由来であり、好ましくはラクダ科の動物、ウサギ、チキン、マウス、イヌ、ウマ、ヒツジ又はマウス由来である。
【0084】
修飾された免疫グロブリンは様々な目的のために使用されることができるため、特に医薬組成物では、当該免疫グロブリンはヒト、ラクダ若しくはマウス由来であるのが好ましい。
【0085】
当然ながら、修飾された免疫グロブリンは、ヒト化若しくはキメラT細胞受容体ドメインポリペプチドでもよい。最も多くの本発明の好ましい実施形態では、修飾された可変ドメインは、ヒト由来であるか、又はヒト化したいかなる種の可変ドメインであってもよい。
【0086】
ヒト化免疫グロブリン可変ドメインは、天然のヒト免疫グロブリン可変ドメイン配列に対して、少なくとも50%のアミノ酸配列同一性、好ましくは少なくとも55%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約65%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約70%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約75%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0087】
ヒト化免疫グロブリン可変ドメインは更に、全ての表層アクセス可能なアミノ酸を、表層でアクセス可能な、天然のヒト免疫グロブリン可変ドメイン配列のアミノ酸と比較したとき、少なくとも約50%のアミノ酸配列同一性、好ましくは少なくとも約55%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約65%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約70%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約75%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0088】
好適な相同性又は配列同一性は具体的には、フレームワークドメインのそれらの配列に関連する。
【0089】
本発明に係る好適な免疫グロブリンは、未修飾のドメインと少なくとも50%の相同性を有するドメインを有してなる。
【0090】
「相同性」という用語は、ポリペプチドがそれらの一次若しくは二次若しくは三次構造において、対応する位置で同じ若しくは保存された残基を有することを意味する。当該用語はまた、相応するポリペプチドをコードする2つ以上のヌクレオチド配列にも適用される。
【0091】
本願明細書に開示されるように、「相同な免疫グロブリンドメイン」とは全長の天然の配列を有する免疫グロブリンドメイン配列又は全長の免疫グロブリンドメイン配列の他のいかなる断片に対して、少なくとも約50%のアミノ酸配列同一性を有する、本発明に係る免疫グロブリンドメインを意味する。好ましくは、相同な免疫グロブリンドメインとは、少なくとも約50%のアミノ酸配列同一性、好ましくは少なくとも55%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも60%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約65%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約75%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を、天然の免疫グロブリンドメイン配列、あるいは本願明細書において開示される他の全長免疫グロブリンドメイン配列の断片の配列と共有する免疫グロブリンドメインのことを指す。
【0092】
本願明細書において同定される免疫グロブリンドメイン配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、特異的な免疫グロブリン可変ドメイン配列中のアミノ酸残基と同一な、候補配列のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。それは、配列をアラインして、必要に応じてギャップを導入することにより、最大のパーセント配列同一性となるようにしたものであり、但し保存的な置換は配列同一性の一部としてはカウントしないことに留意すべきである。アミノ酸配列同一性パーセントの決定のためのアラインメントは、従来技術に公知の様々な方法により実施可能であり、一般公開されているコンピュータソフトウェア(例えばBLAST、BLAST−2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェア)を使用して行われる。当業者はアラインメントを測定するために適当なパラメータを決定できる。例えば、比較される配列の全長にわたり最大限のアラインメントを可能とする、必要なあらゆるアルゴリズムなどである。
【0093】
後述するように、WU−BLAST−2コンピュータプログラム(Altschulら、Methods in Enzymology 266:460−480(1996))を用いてアミノ酸配列同一性パーセント(%)の数値を得ることができる。大部分のWU−BLAST−2サーチパラメータは、デフォルト値に設定される。デフォルト値にセットされないそれら(すなわち可調パラメータ)は、以下の値に設定される:
overlap span=1、
overlap fraction=0.125、
word threshold(T)=11、
及びscoring matrix=BLOSUM62。
WU−BLAST−2を使用するとき、アミノ酸配列同一性%は、以下の(a)/(b)により算出される:
(a)天然の免疫グロブリン可変ドメインに由来する、目的の配列を有する免疫グロブリン可変ドメインのアミノ酸配列と、目的の比較用アミノ酸配列(すなわち、目的の免疫グロブリン可変ドメインと比較するための配列。未修飾の免疫グロブリン可変ドメインであってもよい)との間で一致する同一アミノ酸残基の数(WU−BLAST−2として定義される);
(b)目的の免疫グロブリン可変ドメイン中の非ランダム化部分のアミノ酸残基の総数。例えば「アミノ酸配列Aを含んでなり、アミノ酸配列Bと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチド」というときは、アミノ酸配列Aが、目的の比較用アミノ酸配列であり、アミノ酸配列Bが、目的の免疫グロブリン可変ドメインのアミノ酸配列である。
【0094】
好ましい実施形態では、本発明に係るポリペプチドは、二重特異的な抗体、又は二重特異的な単鎖抗体、又は二重特異的なFab、又は二重特異的なsdAbである。更に好適なポリペプチドは、二重特異的なドメイン又はその一部である。具体例としては、CDRドメインの反対側において、新規な結合部位を介した更なる機能を有するFab又はdAb分子が挙げられる。本発明に係る好適な免疫グロブリン(Fab分子であるとき)は、例えばCH1及び/又はCLドメインのC末端ループ側に、更に1又は2個の結合部位を有してもよい。本発明に係る好適な免疫グロブリン(dAb分子であるとき)は、例えばVh、Vhh又はVlドメインのC末端ループ側で、更なる結合部位を有してもよい。かかる更なる結合部位によって、更なる機能、長期にわたる半減期(例えばFcRn又は血清タンパク質(例えばアルブミン又はIgG)に対する結合を介する)など、又はエフェクター機能(例えばT細胞受容体、C1q又はCD64に対する結合を介する)を分子に付与することが可能となる。かかる例によれば、専用のFab又はdAbライブラリは、特異的な結合パートナーに特異的な結合剤の選抜を可能にするために、適当なサイズで調製される。
【0095】
本発明に係る好適な可変ドメインは、VH、VL(Vκ及びVλを含む)、VHH及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。それらの修飾が、VH、Vκ、Vλ又はVHHのループ又はループ領域に導入され、その修飾されたループ又はループ領域がアミノ酸7〜21、アミノ酸25〜39、アミノ酸41〜81、アミノ酸83〜85、アミノ酸89〜103又はアミノ酸106〜117の範囲内で少なくとも1つの修飾を有するときに、特徴的な効果を発揮しうることがわかった。
【0096】
本発明により修飾されるヒト由来若しくはヒト化された免疫グロブリン又は免疫グロブリンの構造的ループ又は可変ドメインのループ領域は、アミノ酸8〜20、アミノ酸44〜50、アミノ酸67〜76及びアミノ酸89〜101、最も好ましくはアミノ酸位12〜17、アミノ酸位45〜50、アミノ酸位69〜75及びアミノ酸位93〜98を有してなる構造ループから好ましくは選択される。
【0097】
他の好ましい実施形態では、アミノ酸93〜98を有する構造ループ又はループ領域の修飾は、アミノ酸8〜20を有する構造ループ又はループ領域の修飾と組み合わせる。
【0098】
上記で同定されたそれぞれの免疫グロブリンのアミノ酸ドメインは、本発明に係る修飾目的に適していることが示されているループ若しくは又はループ領域である。好ましくは、かかる修飾の組合せ(例えば指定されたループ又はループ領域のうちの少なくとも2つ)を、本発明に係る免疫グロブリン中に設計する。
【0099】
好ましくは、アミノ酸93〜98を有する構造ループ又はループ領域の修飾を、他の構造ループの1つ以上の修飾と組み合わせる。
【0100】
好ましい実施形態では、アミノ酸93〜98を有する構造ループ又はループ領域の修飾を、アミノ酸69〜75からなる構造ループ領域の修飾と組み合わせる。
【0101】
最も好ましくは、アミノ酸93〜98、アミノ酸69〜75及びアミノ酸8〜20を有する構造ループの各々は、少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する。
【0102】
他の好ましい例として、アミノ酸93〜98、アミノ酸69〜75、アミノ酸44〜50及びアミノ酸8〜20を有する構造ループの各々は、少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む。
【0103】
本発明の好ましい実施形態では、免疫グロブリン又はマウス由来(例えばVH)の免疫グロブリンの可変ドメインの構造ループ又はループ領域は、アミノ酸6〜20、アミノ酸44〜52、アミノ酸67〜76及びアミノ酸92〜101を有する。
【0104】
本発明の他の好適な実施形態では、免疫グロブリン又は免疫グロブリンの可変ドメイン中の構造ループ又はループ領域は、ラクダ科の動物由来(例えばVHH)であり、アミノ酸7〜18、アミノ酸43〜55、アミノ酸68〜75及びアミノ酸91〜101を有する。
【0105】
ラクダ科の動物由来の、又はラクダ科の動物由来のヒト化変異型の可変ドメインは、例えばラクダ科の動物由来の他のVHH(修飾されるか又は天然である)などの他の可変ドメインと容易に結合できるという効果がある。ラクダ科の動物由来のVHHの可能な組合せは、多価免疫グロブリンの基礎である。すなわち、本発明では、ラクダ科の動物由来の特異的な修飾された可変ドメインは、多価を有する組合せであり、好ましくは少なくとも3、好ましくは少なくとも4又は5つの価数又はVHHsを有する組合せである。
【0106】
好ましくは、構造ループ中の新しい抗原結合部位は、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、欠失及び/又は挿入により選抜される核酸によってコードされる免疫グロブリンに導入される。
【0107】
他の本発明の好ましい実施形態では、少なくとも2つの構造ループ又はループ領域の各々における少なくとも1つのヌクレオチドの修飾は、前記核酸によってコードされる免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインにおける置換、欠失及び/又は挿入を生じさせる。
【0108】
修飾免疫グロブリン又は抗体可変ドメインの少なくとも2つのループ又はループ領域における修飾により、2つ以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入、好ましくは点変異、全部ループのアミノ酸の変更を生じさせ、より好適には少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14(最高30)のアミノ酸の変化を生じさせる。しかしながら、特殊な例において、免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメイン中の構造ループ又はループ領域に挿入できるアミノ酸の最大数は、30、好ましくは25、好ましくは20アミノ酸の数を上回らない。
【0109】
それにより、かかる修飾された配列は、構造ループ中の保存されたドメイン中に元々含まれないアミノ酸を有してなり、新規に導入されたアミノ酸は天然に生じるが修飾部位においては外来アミノ酸であるか、又は天然に存在するアミノ酸を置換するものとなる。上記外来アミノ酸が特定のアミノ酸のグループ(例えば特定の極性又は疎水性を有するアミノ酸)から選択される場合、本発明の方法によって、ランダムな位置で上記の特定のアミノ酸グループでリッチにされたライブラリを得ることができる。かかるライブラリは、「フォーカスド」ライブラリとも称される。
【0110】
少なくとも2つのループ若しくはループ領域は、好ましくはランダム、セミランダム若しくは特に部位特異的ランダム変異導入方法により、変異導入若しくは修飾される。
【0111】
修飾を導入する好適な方法は、部位特異的なランダム突然変異導入である。この方法により、ループ内の2つ以上の特異的なアミノ酸残基が、かかる構造ループへのランダムに生成された挿入物により、置換若しくは挿入される。他の好適な方法は、コンビナトリアルアプローチの使用である。
【0112】
他の好ましい実施形態では、少なくとも3つの免疫グロブリン可変ドメインの構造ループ若しくはループ領域がランダム、セミランダム、特に部位特異的ランダム変異導入方法によって変異導入若しくは修飾される。
【0113】
これらの方法は、本発明の免疫グロブリン可変ドメインの所望の位置でアミノ酸修飾を行うために使用できる。これらの場合、当該位置はランダムに選択されるか、又はアミノ酸変化が特異的な規則によりもたらされる。例えば、特定の残基をいかなるアミノ酸にも変異できるが、他の残基は一定限度内のアミノ酸に変異できる。これは、突然変異及び選抜のサイクルを変化させることによる、段階的な方法により、又は同時に実施することが可能である。
【0114】
ランダムに修飾された核酸分子は、本願明細書で同定される繰り返し単位を有してもよく、それらは全ての周知の天然アミノ酸又はそのサブセットをコードする。修飾された配列を含むそれらのライブラリ(特異的なアミノ酸のサブセットが修飾のために使われる)は、「フォーカスド」ライブラリと呼ばれている。かかるライブラリのメンバーは、修飾された位置における、かかるサブセットのアミノ酸を有する確率が高く、通常少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍、又は少なくとも4倍高い。かかるライブラリはまた、限られたか若しくは少ない数のライブラリメンバーを有する。その結果、実際のライブラリメンバーの数は理論的なライブラリメンバーの数に達する。場合によっては、フォーカスドライブラリのライブラリメンバーの数は、の10倍(理論的な数)未満でなく、好ましくは10倍未満でなく、最も好ましくは10倍未満でない。
【0115】
本発明に係るライブラリは、特異的な免疫グロブリンフォーマットのライブラリメンバーを含有するか又はそれらからなるライブラリとしてデザインできる。特異的な免疫グロブリン分子フォーマットからなるそれらのライブラリは、本発明のために専用のライブラリとも呼ばれる。専用のライブラリは好ましくは多数の特異的なフォーマットを、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%含むか、又は実質的に特異的な抗体フォーマットからなる。特異的な抗体フォーマットの使用が好適であり、本発明に係る好適なライブラリとしては、VHライブラリ、VHHライブラリ、Vκライブラリ、Vλライブラリ、Fabライブラリ、CH1/CLライブラリ及びCH3ライブラリからなる群から選択される。複数の抗体ドメイン、例えばIgGライブラリ又はFcライブラリを含む複合分子を含んでなることを特徴とするライブラリが特に好ましい。他の好適なライブラリは、T細胞受容体を含有し、T−細胞受容体ライブラリを形成するそれらである。更に好適なライブラリはエピトープライブラリであり、上記融合タンパク質は変異エピトープを有する分子を含んでなり、また、類似する結合性を有するが機能が異なる競争分子の選抜を可能にする。典型的にはTNFαライブラリであり、TNFα融合タンパク質の三量体が単一の遺伝子パッケージにより発現する。
【0116】
しかしながら、免疫グロブリンのループ領域に挿入されるアミノ酸の最大数は好ましくは30以下であり、好ましくは25、より好ましくは20アミノ酸以下である。アミノ酸の置換及び挿入は好ましくは、公知技術及び本特許出願にて開示する方法により、全ての可能なアミノ酸、又はランダム化にとり好適なアミノ酸を選択して用い、ランダム若しくはセミランダムに行う。
【0117】
上記修飾部位は、特異的な単一の構造ループ又は構造ループ領域であってもよい。ループ領域は通常、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ又は少なくとも4つのループから構成され、それらは各々隣接し、抗原結合部位又は抗原結合ポケットを形成することにより抗原の結合に関与できる。1つ以上の修飾部位は、10アミノ酸、好ましくは20、30、40、50、60、70、80、90〜100アミノ酸の範囲内で、特に構造領域内に存在し、表面又はポケットを形成し、その位置において抗原が当該ループ領域に立体的にアクセスできる。
【0118】
上記少なくとも1つのループ領域は、好ましくはランダム、セミランダム、又は特に部位特異的なランダム突然変異導入によって変異又は修飾がなされているのが好ましく、それにより得られるライブラリに欠失、置換もしくはランダムな挿入が構造ループ内に付与される。あるいは好適な方法を適宜組合せてもよい。あらゆる周知の突然変異導入方法を使用できるが、中でもカセット突然変異導入が好ましい。これらの方法は、本発明の免疫グロブリンの所望の位置でアミノ酸修飾を行うために使用できる。若干の場合において、例えば、いずれかの変異可能なアミノ酸、好適なアミノ酸をランダムに適宜選択してループ配列をランダム化してもよく、あるいは、簡便な規則を使用してアミノ酸変異を導入する。例えば、全ての残基を特定のアミノ酸(例えばアラニン、アミノ酸若しくはアラニンスキャンと呼ばれる)に変異させるのが好ましい。かかる方法を、より高いレベルでの配列多様性をスクリーニングするための選抜方法を採用する、より高度なエンジニアリング方法と組み合わせてもよい。
【0119】
本発明に係る好適な方法は、免疫グロブリン、免疫グロブリンドメイン又はその一部をコードする、ランダムに修飾された核酸分子を用いる方法であり、当該分子は、配列5’−NNS−3’、5’−NNN−3’、5’−NNB−3’又は5’−NNK−3’を有し、構造ループをコードする領域内の、少なくとも1つのヌクレオチド反復ユニットを有してなる。若干の実施形態では、上記修飾された核酸は、TMT、WMT、BMT、RMC、RMG、MRT、SRC、KMT、RST、YMT、MKC、RSA、RRC、NNK、NNN、NNS又はいかなるそれらの組み合わせ(そのコードはIUPACによる)からなる群から選択されるヌクレオチドコドンを有してなる。
【0120】
ランダムに修飾された上記核酸分子は、全ての周知の天然アミノ酸またはそのサブセットをコードする上記の繰り返し単位を有してもよい。
【0121】
核酸分子の修飾は、核酸のより大きな部分に合成オリゴヌクレオチドを導入すること、又は、完全な核酸分子のde novo合成によって実施できる。核酸の合成はトリヌクレオチドのビルディングブロックを用いて実施でき、それにより、アミノ酸のサブセットがコードされる場合、ナンセンス配列が組合わされる数を減少させることができる(例えばYanezら、Nucleic Acids Res.(2004)32:el58、 Virnekasら、ucleic Acids Res.(1994)22:5600−5607)。
【0122】
好ましくは、修飾される位置は表層に露出するアミノ酸である。構造ループのアミノ酸の表層への露出は、抗体可変ドメインの周知のタンパク質構造から、実験的に決定された構造が利用できないかかるアミノ酸配列に対する類似性(相同性)により判断できる。
【0123】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの構造ループに導入される修飾は、非修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインの構造ループのそれぞれの部位で天然に発生しない、少なくとも1、2、3、4、5、又は6個のアミノ酸からなる。
【0124】
アミノ酸の修飾はバイアスを有するのが好ましく、それにより、タンパク質−タンパク質相互作用に通常関与することが公知であるアミノ酸を構造ループ領域又はループ領域に導入できる(例えばLea&Stewart(1995)FASEB J.9:87−93、Fellhouseら、(2006)J.Mol.Biol.357:100−114、Adib−Conquuyら、(1998)International Immunology 10:341−346、Lo Conteら、(1999)J.Mol.Biol.285:2177−2198、Zemlinら、(2003)J.Mol.Biol.334:733−749)。
【0125】
本発明の一実施形態では、本発明に係る方法により得られる免疫グロブリンが、本発明に係る免疫グロブリン、特にタンパク質のライブラリ、融合タンパク質、細胞(特に細菌又は酵母細胞などの微生物細胞)、ファージ、ウイルス、核酸又はリボソームなどをディスプレイするか又はコードするライブラリメンバーを有するライブラリの調製のために用いられる。
【0126】
本発明は、ポリペプチド又はタンパク質変異型のライブラリ以外にも、当然ながら、本発明に係る免疫グロブリンを発現させるために使用する代替的なライブラリにも関連する。
【0127】
好ましい実施例では、本発明の免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインからなるポリペプチドの変異型のライブラリを、選抜のためのプールとして使用できる。当該修飾は、好ましくはアミノ酸のトリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、セリン、メチオニン、アラニン及びアスパラギンからなる群のうちの少なくとも1つ(好ましくは修飾された構造ループあたり少なくとも2つのアミノ酸)を含有するか又は導入する。
【0128】
本発明により、変異型の可変ドメインポリペプチドが、天然のポリペプチドとは異質な、特異的な突然変異により提供されることができることがわかった。ヒト天然の免疫グロブリンの構造ループに存在しないアミノ酸である、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、セリン、メチオニン、アラニン及びアスパラギンのいずれも、「異質」であると考えられる。本発明に係る変種ポリペプチドは、少なくとも1つの構造ループを修飾して結合部位を形成することにより、構造ループ中に前記異質なアミノ酸のうちの少なくとも2つを含むことができる。
【0129】
修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインがヒト由来又はヒト化免疫グロブリン可変ドメインである場合、好適な修飾は、位置12〜17、45〜50、69〜75及び93〜98のいずれか1つにおける少なくとも1つのチロシンの導入、及び/又は、位置12〜17、位置45〜50、69、71〜75、93〜94及び96〜98のいずれか1つにおける少なくとも1つのトリプトファンの導入、、及び/又は、12〜17、46、47、49、50、69〜74、及び93〜98のいずれか1つにおける少なくとも1つのヒスチジンの導入、及び/又は、位置12〜17、45〜47、49、50、70〜73、75、94〜96及び98のいずれか1つにおける少なくとも1つのアスパラギンの導入、及び/又は、位置12〜17、46〜50、69〜71、73〜75、93、95、96及び98のいずれか1つにおける少なくとも1つのメチオニンの導入、及び/又は、位置13、71、75、94、95及び98のいずれか1つにおける少なくとも1つのセリンの導入、及び/又は、位置12、14〜17、45〜50、69、70、72〜75、93及び96〜98のいずれか1つにおける少なくとも1つのイソロイシンの導入、及び/又は、位置15、46、48、70〜73、75、93、95及び98のいずれか1つにおける少なくとも1つのフェニルアラニンの導入である。
【0130】
他の本発明の好ましい実施形態では、ヒト若しくはヒト化シングルドメイン抗体の位置15〜17、29〜34、85.4〜85.3、92〜94、97〜98及び/又は108〜110の少なくとも2つのアミノ酸残基が修飾される。
【0131】
修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメイン(常に明細書の全体にわたって、免疫グロブリン及び修飾免疫グロブリン可変ドメインを有する免疫グロブリン断片を包含する)をコードする核酸分子を宿主細胞にクローニングし、発現させ、それらの結合特異性をアッセイできる。これらは周知の手順用して実施でき、本発明で使用できる様々な方法は、Molecular Cloning−A Laboratory Manual,3.sup.rd Ed.(Maniatis,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,2001),and Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley&Sons)に記載されている。本発明の修飾された免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインをコードする核酸は、前記免疫グロブリンを発現させるために、発現ベクターに組み込まれることができる。発現ベクターは典型的には、調節若しくは制御配列、選抜可能なマーカー、いかなる融合パートナー、及び/又は更なるエレメントと、使用可能な状態で連結されている(すなわち機能的な関係に置かれている)T細胞受容体ドメインポリペプチドを有してなる。本発明の修飾された免疫グロブリンは、核酸、好ましくは発現ベクター(修飾されたT細胞受容体ドメインポリペプチドをコードする核酸を含む)によって形質転換されて宿主細胞を、修飾されたT細胞受容体ドメインポリペプチドの発現を誘導するか又は生じさせる適当な条件下で培養することによって得られる。外生の核酸分子を宿主にもたらす方法は公知技術で、使用する宿主によって適宜変更できる。当然ながら、修飾された免疫グロブリンの発現のために、無細胞発現システムを使用できる。
【0132】
本発明の好ましい実施形態では、修飾された免疫グロブリンは、発現させた後、精製若しくは単離されうる。修飾された免疫グロブリンを、当業者に公知の様々な方法で分離又は精製できる。標準的な精製方法としては、クロマトグラフィ技術が挙げられ、例えば親和性クロマトグラフィ、イオン交換又は疎水性クロマトグラフィ、電気泳動、免疫学的、沈殿、透析、濾過、濃縮及びクロマトフォーカス技術が挙げられる。精製は通常、特異的な融合パートナーを用いて行われる。例えば、GST融合タンパクの場合、抗体はグルタチオン樹脂を使用して精製でき、His−タグの場合、Ni2+親和性クロマトグラフィを使用し、flag−タグの場合、固定した抗flag抗体を使用する。適切な精製技術の一般的なガイダンスは、Antibody Purification:Principles and Practice,3.sup.rd Ed.,Scopes,Springer− Verlag,NY,1994を参照。当然ながら、宿主の表面に本発明に係る免疫グロブリンを発現させることも可能であり、特に細菌、昆虫又は酵母細胞の表面、又は、ファージ又はウイルスの表面に発現させてもよい。
【0133】
免疫グロブリンは、限定されないがin vitro分析、in vivo及び細胞ベースの分析及び選抜技術などの、様々な方法を使用して選抜できる。オートメーション及びハイスループットスクリーニング技術を、スクリーニング手順に利用してもよい。スクリーニングでは融合パートナー又はラベルを使用してもよく、例えば酵素、イムノラベル、アイソトープラベル又は小分子ラベル(例えば蛍光若しくは比色色素若しくは発光分子)を使用してもよい。
【0134】
好ましい実施形態では、免疫グロブリンの機能的及び/又は生物物理学的特性を、in vitroアッセイにおいてスクリーニングされる。好ましい実施形態では、抗体は、機能(例えばその標的に対する結合親和性、交叉反応性又は触媒作用を及ぼす能力)を基に選抜される。
【0135】
他の好ましい例として、好ましい修飾された免疫グロブリンを、例えば細胞又は生物体に導入することによって、in vivoで選抜できる。修飾されたドメインの必要な特性に応じて、特異的に結合する変異型物質を、血液又はリンパ液などの体液から、又は特定の器官から分離することもできる。
【0136】
アッセイでは、発色、蛍光、発光又はアイソトープラベルを含むがこれに限らない様々な検出方法を使用できる。
【0137】
従来技術において周知のように、特異的な結合特性及び親和性を有するタンパク質の同定及び単離に使用できる様々な選抜技術が存在し、例えば様々なディスプレイ技術(例えばファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、細胞表面ディスプレイなど、後述する)が挙げられる。変異型抗体の生産及びスクリーニングのための方法は、従来技術において周知である。抗体に関する分子生物学、発現、精製及びスクリーニングのための一般方法は、Antibody Engineering,edited by Duebel&Kontermann,Springer−Verlag,Heidelberg,2001、及びHayhurst&Georgiou,2001,Curr Opin Chem Biol 5:683−689、及びMaynard&Georgiou,2000,Annu Rev Biomed Eng 2:339−76に記載されている。
【0138】
周知のように、スクリーニング方法のサブセットは、ライブラリの好ましいメンバーを選抜するものである。上記方法は本願明細書では「選抜方法」と称し、これらの方法では本発明の修飾免疫グロブリンのスクリーニングのために使用できる。免疫グロブリン可変ドメインライブラリが選抜方法を使用してスクリーニングされるとき、ライブラリ中の好適な(すなわち幾つかの選抜基準を満たす)メンバーのみが選抜され、分離され、及び/又は観察される。明らかなように、最も適当な変異型だけが観察されるため、かかる方法は、ライブラリメンバーの合理性を個々に検定する方法によってスクリーニングできるものより大きなライブラリのスクリーニングが可能となる。選抜は、いかなる方法、技術又は融合パートナー(共有結合又は非共有結合的)によっても行うことができる。免疫グロブリンの発現型はその遺伝子型と連結し、すなわち、抗体の機能は、それをコードする核酸と連結している。例えば、選抜方法としてのファージディスプレイの使用は、ファージコートタンパク質へのライブラリメンバーの融合によって可能となる(繊維状のファージ遺伝子IIIタンパク質が最も頻繁に使われるが、タンパク質VIIIのような他のコートタンパク質、タンパク質VII、タンパク質VI及びタンパク質IXも同様に使用できる)。このようにして、また、若干の基準(例えば免疫グロブリンの標的に対する結合親和性)を満たす修飾免疫グロブリンの選抜又は単離においては、それをコードする核酸の選抜又は分離が行われる。一旦分離されると、修飾免疫グロブリンをコードする遺伝子を更に増幅できる。この単離及び増幅のプロセスはパニングと呼ばれ、繰り返すことができ、それによりライブラリ中の良好な抗体変異体を増加させることができる。結合する核酸の塩基配列決定により、最終的な遺伝子同定が可能となる。
【0139】
様々な選抜方法が公知であり、本発明において免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインのライブラリのスクリーニング技術において使用できる。かかる技術としては、限定されないが、ファージディスプレイ(Phage display of peptides and antibodies:a laboratory manual,Kayら、,1996,Academic Press,San Diego,Calif.,1996;Low−manら、,1991,Biochemistry 30:10832−10838;Smith,1985,Science 228:1315−1317)、およびその変形方法(例えば選択的ファージ感染)、(Malmborgら、1997,J MoI Biol 273:544−551),選択的感染ファージ(Krebberら、,1997,J MoI Biol 268:619−630)、及び遅延感染性パニング(Benharら、,2000,J MoI Biol 301:893−904)、細胞表面ディスプレイ(Witrrup,2001,CurrOpin Biotechnol,12:395−399)、例えば細菌ディスプレイ(Georgiouら、,1997,Nat Biotechnol 15:29−34;Georgiouら、,1993,Trends Biotechnol 11:6−10;Leeら、,2000,Nat Biotechnol 18:645−648;Junら、,1998,Nat Biotechnol 16:576−80)、酵母(Boder&Wittrup,2000,Methods Enzymol 328:430−44;Boder&Wittrup,1997,Nat Biotechnol 15:553−557)、及び哺乳動物細胞(Whitehornら、,1995,Bio/technology 13:1215−1219)、並びにin vitroディスプレイ技術(Amstutzら、,2001,Curr Opin Biotechnol’ 12:400−405)、例えばポリソームディスプレイ(Mattheakisら、,1994,Proc Natl Acad Sci USA 91:9022−9026)、リボソームディスプレイ(Hanesら、,1997,Proc Natl Acad Sci USA 94:4937−4942)、mRNAディスプレイ(Roberts&Szostak,1997,Proc Natl Acad Sci USA 94:12297−12302;Nemotoら、,1997,FEBS Lett 414:405−408)、及びリボソーム不活化ディスプレイシステム(Zhouら、,2002,J Am Chem Soc 124,538−543)などが挙げられる。
【0140】
本発明で使用できる他の選抜方法には、ディスプレイに依存しない方法も含まれ、例えばペリプラズム発現及びサイトメトリによるスクリーニングなどのin vivo方法(Chenら、,2001,Nat Biotechnol 19:537−542)、抗体フラグメント相補性アッセイ(Johnsson&Varshavskiy,1994,Proc Natl Acad Sci USA 91:10340−10344; Pelletierら、,1998,Proc Natl Acad Sci USA 95:12141−12146)、酵母ツーハイブリッド法(Fields&Song,1989,Nature 340:245−246)選抜モード(Visintinその他、1999、Proc Natl Acad Sci USA 96:11723−11728)などが挙げられる。代替的な実施形態では、発現ベクター上の特異的な配列と結合する融合パートナーによって選抜が可能となり、すなわち、融合パートナー及び付随するFc変異型のライブラリメンバーを、共有結合又は非共有結合的に、それらをコードする核酸と結合させることを特徴とする。例えば、国際公開第9308278号では、本発明で使用できるかかる融合パートナー及び技術を記載している。代替的な実施形態では、抗体の発現が細胞の成長、再生又は生存にとり有利である場合、in vivo選抜を実施できる。
【0141】
選抜方法として「誘導型進化」という方法が存在する。「誘導型進化」方法と言われる選抜のサブセット方法は、選抜の間、好ましい配列の交雑又は繁殖が行われ、しばしば新しい突然変異の取り込みも行われる。当業者に周知のように、誘導型進化方法は、複数のポリペプチド中の最も好ましい配列の同定を容易に可能とし、スクリーニングされる配列の多様性を増加させることができる。様々な誘導型進化方法が公知であり、本発明において変異抗体の生成及びスクリーニング技術として使用でき、限定されないが例えばDNAシャッフリング(国際公開第00/42561A3号、国際公開第01/70947A3号)、エキソンシャッフリング(米国特許第6365377号;Kolkman&Steinmer,2001,Nat Biotechnol 19:423−428)、ファミリーシャッフリング(Crameriら、,1998,Nature391:288−291;米国特許第6376246号)、RACHITT.TM.(Cocoら、2001,Nat Bio−technol 19:354−359;国際公開第02/06469号)、STEP及びin vitro組み換えのランダムプライミング(Zhao.ら、1998,Nat Biotechnol 16:258−261;Shaoら、,1998,Nucleic Acids Res 26:681−683)、エキソヌクレアーゼによる遺伝子アセンブリ(米国特許第6352842号;米国特許第6361974号)、遺伝子部位飽和変異導入(商標)(米国特許第6358709号)、遺伝子リアセンブリ(商標)(米国特許第6358709号)、SCRATCHY(Lutzら、,2001,Proc Natl Acad Sci USA 98:11248−11253)、DNA断片化方法(Kikuchiら、,Gene 236:159−167)、一本鎖DNAシャッフリング(Kikuchiら、,2000,Gene 243:133−137)、及び進化抗体エンジニアリング技術(応用分子進化)(米国特許第5824514号、米国特許第5817483号、米国特許第5814476号、米国特許第5763192号、米国特許第5723323号)などが挙げられる。
【0142】
好ましい実施形態では、免疫グロブリン又は抗体可変ドメインを、1つ以上の細胞ベース若しくはin vivoアッセイを使用してスクリーニングする。かかるアッセイでは典型的には、精製若しくは未精製の修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインを外因的に添加し、細胞を、個々の免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメイン、又はライブラリに属する免疫グロブリン可変ドメインのプールに曝露する。しかしこれらのアッセイは典型的には、常にではないがT細胞受容体ドメインポリペプチドの機能に基づく。すなわち、その標的と結合し、若干の生化学応答を媒介する、本発明の方法により修飾されたT細胞受容体ドメインポリペプチドの能力(例えばエフェクター機能、リガンド/受容体結合阻害、アポトーシスなど)である。かかるアッセイでは、抗体に対する細胞の応答(例えば細胞生存、細胞死、細胞形態の変化)又は転写活性化(例えば天然遺伝子又はリポーター遺伝子の細胞発現)をモニターすることが必要な場合もある。例えば、かかるアッセイでは、ADCC、ADCP又はCDCを引き出す変異抗体の能力を測定できる。幾つかのアッセイでは、標的細胞以外にも、例えば血清補体、又はエフェクター細胞(例えば末梢血単球(PBMCs)、NK細胞、大食細胞など)などの細胞若しくは構成要素を添加する必要がある場合もある。かかる更なる細胞は、いかなる生物体(好ましくはヒト、マウス、ネズミ、ウサギ及びサル)から調製してもよい。免疫グロブリンは標的を発現する特異的な細胞系のアポトーシスを引き起こすことができ、又は、アッセイに加えられた免疫細胞による標的細胞への攻撃を媒介できる。細胞死又は生存度のモニタリング方法は公知技術で、色素、免疫化学的手段、細胞化学的手段及び放射性物質の使用に基づくものが挙げられる。例えば、カスパーゼ染色アッセイはアポトーシスの測定を可能とし、放射性基質若しくはalamar blueのような蛍光色素の取り込み若しくは放出により、細胞増殖若しくは活性化をモニターすることが可能となる。
【0143】
あるいは、死細胞若しくは傷害性標的細胞を、1つ以上の天然の細胞内構成要素(例えば乳酸脱水素酵素)の放出を測定することによってモニターしてもよい。転写活性化は、細胞ベースのアッセイにおいて、機能をアッセイする方法として有用でありうる。この場合、上方制御されうる天然遺伝子又は免疫グロブリンをアッセイすることにより、反応をモニターできる。例えば、特異的なインターロイキンの放出を測定するか、あるいはリポーターシステムを測定してもよい。細胞ベースのアッセイでは、修飾免疫グロブリン可変ドメインの存在への応答としての、細胞の形態的な変化の測定を行ってもよい。かかるアッセイのための細胞タイプは原核生物でも真核生物でもよく、従来技術において周知である様々な細胞系を使用できる。
【0144】
あるいは、細胞ベースのスクリーニングは、変異型の免疫グロブリン可変ドメインをコードする核酸によって形質転換又はトランスフェクションされた細胞を使用して実施できる。この場合、本発明の変異型の抗体可変ドメインを外因的に細胞に添加するのではない(例えばAuf der Maur,2004,Methods,34:215−224と同様の方法)。他の代替的な方法では、細胞ベースのスクリーニングにおいて細胞表面ディスプレイを利用する。細胞表面における修飾免疫グロブリン可変ドメインのディスプレイを可能にする融合パートナーを使用してもよい(Witrrup,2001,Curr Opin Biotechnol,12:395−399)。
【0145】
好ましい実施形態では、修飾免疫グロブリンの免疫原性は、1つ以上の細胞ベースのアッセイを使用して実験的に測定できる(Korenら、2002,Current Pharmaceutical Biotechnology 3:349−360;Chirinoら、2004,Drug Discovery Today 9:82−90;Tangriら、2005,J.Immunol.174:3187−3196;Hermelingら、2004,Pharm.Res.21:897−903)。好ましい実施形態では、ex vivoでのT−細胞活性化アッセイを用いて、実験的に免疫原性を定量する。この方法では、マッチするドナーからの抗原提示細胞及び天然のT細胞は、1回以上、ペプチド又は目的の全長抗体の曝露を受ける。例えばサイトカインの産生をモニタするか又はトリチル化されたチミジンの取り込みを測定するなど、多くの方法を使用してT細胞活性化を検出できる。他の好ましい実施形態では、サイトカイン放出を測定するためにLUMINEX技術(例えばde Jagerら、,Clin.Diagn.Lab.Immunol.,2003,10:133−139)を用いるか、又はElispotアッセイ(Schmittel et.al.,2000,J.Immunol.Meth.,24:17−24)によりインターフェロンγ産生をモニターする。
【0146】
本発明の修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインの生物学的若しくは機能的な特性は、細胞、組織及び全生物体を用いた実験において特徴づけることが可能である。周知のように、限定されないがマウス、ネズミ、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ及びサルなどの動物において、in vivoにおいて薬剤を試験し、それにより当該薬の、治療への有効性を疾患又は疾患モデルと比較し、あるいは薬物動態学、薬力学、毒性及び他の特性を測定することが可能となる。当該動物は疾患モデルと称することもある。当該治療は、ヌードマウス、SCIDマウス、異種移植片マウス及びトランスジェニックマウス(ノックイン及びノックアウトを含む)などのマウスを用いて通常試験される。かかる実験により、当該抗体を治療薬として使用する際における、使用可能性を決定するために有用なデータが提供されうる。いかなる生物体(好ましくは哺乳類)も、試験に使用できる。例えばサルは、ヒト(霊長類)に対するそれらの遺伝子の類似性のため、適切な治療のモデルであり、ゆえに、本発明の修飾免疫グロブリンの有効性、毒性、薬物動態学又は他の特性を試験するために使用できる。ヒトにおける臨床試験は、薬剤として承認を受けるために最終的に必要とされ、また当然ながら、これらの試験も本発明に包含される。このように本発明の修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、それらの治療有効性、毒性、免疫原性、薬物動態学及び/又は他の臨床特性を決定するため、ヒトにおける試験にも使用できる。
【0147】
本発明に係る免疫グロブリンは、免疫グロブリンの用途として公知のいかなるものにも使用可能であるのみならず、本発明によって導入される特異性の組合せに応じて、その他の応用も可能となる。
【0148】
一実施形態では、本発明の抗体変異体は、治療又は予防に使用でき、例えば能動又は受動免疫療法、調製若しくは分析用途、診断用途、工業用化合物又は試験用試薬など(好ましくは治療用途)への応用が可能である。当該変異抗体の使用により、モノクローナル若しくはポリクローナル抗体の合成が可能となる。好ましい実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンを用いて、標的抗原を運ぶ標的細胞(例えば癌細胞)を捕捉するか又は殺傷する。代替的な実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンを用いて、標的抗原をブロック、アンタゴナイズ又はアゴナイズし、例えばサイトカイン又はサイトカイン受容体をアンタゴナイズする。他の好適な実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンを用いて、標的抗原をブロック、アンタゴナイズ又はアゴナイズし、それにより標的抗原を運ぶ標的細胞の殺傷が可能となる。
【0149】
他の好適な実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンを用いて、成長因子又は成長因子受容体をブロック、アンタゴナイズ又はアゴナイズし、それにより標的抗原を運ぶか又は必要とする標的細胞の殺傷が可能となる。好適な代替的実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンを用いて、酵素及び酵素基質をブロック、アンタゴナイズ又はアゴナイズする。他の好適な実施形態では、本発明の修飾されたT細胞受容体ドメインポリペプチドを用いて、伝染性の物体(例えばウイルス、小ウイルス、プリオン、バクテリア又は菌類)を中和する。
【0150】
本発明の修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、様々な治療に使用できる。好ましい実施形態では、修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインからなるT細胞受容体を患者に投与し、特異性障害を治療する。本発明のための「患者」は、ヒト及び他の動物(好ましくは哺乳類及び最も好ましくはヒト)を指す。本願明細書における「特異性障害」とは、本発明の修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインを含有する医薬組成物の投与により改善されうる障害のことを意味する。
【0151】
一実施形態では、本発明に係る修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、患者に投与される唯一の治療的有効成分である。あるいは、本発明に係る修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、1つ以上の他の治療薬と組み合わせて投与してもよく、かかるものとしては限定されないが、細胞障害剤、化学療法剤、サイトカイン、成長抑制剤、抗ホルモン剤、キナーゼ阻害剤、抗血管新生剤、心臓保護剤又は他の治療薬が挙げられる。上記修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、1つ以上の他の治療に付随して投与してもよい。例えば、本発明の抗体変異体を、化学療法、放射線療法、又は化学療法及び放射線療法の両方において、患者に投与できる。一実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、1つ以上の抗体との組み合わせで投与してもよく、それは本発明の抗体変異体を含んでも含まなくてもよい。本発明の他の実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメイン及び1つ以上の他の制癌治療を用いて、癌細胞をex vivoで治療してもよい。かかるex vivoな治療は、骨髄移植、及び特に自家骨髄移植において有用であると考えられる。本発明の抗体が更に他の治療技術(例えば手術)と組み合わせて使用できることは当然である。
【0152】
様々な他の治療薬を、本発明の修飾免疫グロブリンと組み合わせて投与することができる。一実施形態では、上記修飾免疫グロブリンを、抗血管新生剤(血管の形成をブロックするか、ある程度阻害する化合物)と共に投与する。抗血管形成因子とは、例えば、成長因子又は成長因子受容体に結合することにより、脈管形成を促進しうる、小分子又はタンパク質(例えば抗体、Fc融合分子又はサイトカイン)である。本願明細書において、好適な抗血管新生因子とは、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と結合する抗体である。代替の実施形態では、上記修飾免疫グロブリンは、適応免疫反応を誘発するか又は強化する治療薬(例えばCTLA−4を標的とする抗体)と共に投与される。代替的な実施形態では、修飾免疫グロブリンはチロシンキナーゼ阻害剤(ある程度チロシンキナーゼのチロシンキナーゼ活性を阻害する分子)と共に投与される。代替の実施形態では、本発明の修飾免疫グロブリンは、サイトカインと共に投与される。本明細書で用いられる「サイトカイン」とは、1つの細胞集団から放出され、細胞間メディエータ(ケモカインなど)として他の細胞において機能する、タンパク質の総称を意味する。
【0153】
医薬組成物とは、本発明に係る修飾免疫グロブリン及び1つ以上の治療的活性薬剤を処方したものである。本発明の変異ポリペプチドを含有する安定な製剤は、所望の純度の前記免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインと、任意の薬理学的に許容できる担体、賦形剤又は安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.,1980)を混合することによって調製され、保存の際には凍結乾燥又は水溶液の形で調製される。in vivo投与のために使用される製剤は、好ましくは無菌状態である。これは滅菌フィルター又は他の方法による濾過によって容易に実施できる。本願明細書に開示される修飾免疫グロブリンと他の治療的有効成分は、免疫リポソームとして製剤化でき、及び/又はマイクロカプセル中に封入できる
【0154】
本発明の修飾された免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインからなる医薬組成物又は異なる修飾された免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインの混合物の投与は、好ましくは滅菌水溶液の形で、限定されないが以下のような様々な形態で実施できる:経口的、皮下、静脈注射、鼻腔内、耳内、経真皮、局所投与(例えばゲル、塗剤、ローション剤、クリームなど)、腹膜内、筋肉注射、肺内、経膣、非経口、直腸内又は眼内投与。
【0155】
本発明の別の態様は、免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインを含んでなり、少なくとも1つの修飾を前記免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインの2つの構造ループ又はループ領域の各々に含み、抗原のエピトープ対する前記分子の結合を決定する、分子の調製方法又はそれを含有する医薬品に関する。未修飾の当該分子は前記エピトープと顕著に結合しない。上記方法は以下のステップからなる、
−少なくとも2つの構造ループ又はループ領域からなる免疫グロブリン可変ドメインをコードする核酸を準備するステップと、
−前記構造ループ又はループ領域の各々の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、
−発現システム中に前記修飾された核酸を移すステップと、
−前記修飾免疫グロブリンを発現させること、
−エピトープと、発現された修飾免疫グロブリンとを接触させるステップと、
−前記修飾免疫グロブリンが前記エピトープと結合するか否かを測定するステップと、
−前記エピトープに結合する修飾免疫グロブリンを準備し、任意に医薬品として調製するステップ。
【0156】
特に本発明は、少なくとも1つの第1の分子又は医薬品に特異的に結合する、多重特異的分子の調製方法に関し、当該分子は、免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインの少なくとも2つの構造ループ又はループ領域の各々に、少なくとも1つの修飾を有し、抗原から選抜される少なくとも1つの第2の分子に対する、前記少なくとも2つのループ又はループ領域の特異的な結合を決定する。未修飾の構造ループ又はループ領域を含有する免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、前記少なくとも1つの第2の分子と特異的に結合しない。
【0157】
具体的には、上記方法は以下のステップを有してなる:
−少なくとも1つの構造ループ又はループ領域を有し、少なくとも1つの第1の分子に特異的に結合する免疫グロブリンをコードする核酸を準備するステップと、
−前記核酸によってコードされる少なくとも1つの前記ループ又はループ領域の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、
−発現システム中に前記修飾された核酸を移すステップと、
−前記修飾免疫グロブリンを発現させるステップと、
−少なくとも1つの第2の分子と、発現された修飾免疫グロブリンとを接触させるステップと、
−前記修飾免疫グロブリンが第2の分子と特異的に結合するか否かを測定するステップと、
−前記少なくとも1つの第2の分子に特異的に結合する修飾免疫グロブリンを準備し、任意にそれを医薬品として調製するステップ。
【0158】
特異的な結合ペアのメンバーへの複数の結合部位又は少なくとも2つの特異性のエンジニアリングを行うのが好適である(Kuferその他。Trends in Biotechnology、第22巻、ページ238−244(2004))。
【0159】
多重特異的な抗体を調製するための多数の試み(例えば二重特異的、モノクローナル抗体又は抗体断片)が行われてきた。2つの異なるポリペプチド鎖(重鎖及び軽鎖)で構成されている二重特異的な抗体の産生の1つの課題は、1つの細胞中で4つの異なる鎖(2つの重鎖及び2つの軽鎖)を発現させる必要であることであり、それは分子の多くの様々な組合せを生じさせるため、混合物から、所望の二重特異的な分子を分離させる必要がある。それらの類似性のため、これらの分子の分離は困難かつ高コストである。かかる不必要な組合せの発生を最小化するために、多くの方法が使用されてきた(Carter(2001)Journal of Immunological Methods,vol 248,p7−15)。
【0160】
1つの解決法は、2つの特性を有する1つのポリペプチド鎖の産生(例えば2つのscFvsを各々結合させるか、又はいわゆる二重特異性抗体の産生)である。かかる分子は、天然分子のフォールディング構造からは大きく異なることが示されており(Le−GaIlら、(2004)Protein Engineering,Design&Selection vol 17 pages 357−366)、文字どおり調製が困難である。
【0161】
本発明の好ましい実施形態では、上記発現システムはベクターを有してなる。必要に応じて、公知技術のいかなる発現ベクターを使用してもよい。
【0162】
修飾された免疫グロブリンを、好ましくは、宿主(より好ましくはバクテリア、イースト、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞若しくは哺乳動物細胞、又は植物若しくは動物の器官、又は完全な植物体又は動物体)において発現させる。
【0163】
多種多様な適当な宿主細胞を、修飾免疫グロブリンの発現に使用でき、限定されないが例えば哺乳動物細胞(動物細胞)又は植物細胞、バクテリア(例えば枯草菌、大腸菌)昆虫細胞及び酵母(例えばPichia pastoris、Saccharomyces cerevisiae)などが使用できる。例えば、本発明で使用できる様々な細胞系は、ATCC cell lineカタログ(American Type Culture Collectionから入手可能な)に記載されている。更に、動植物を、本発明に係る免疫グロブリンの発現のための宿主として使用できる。発現用又はトランスフェクション用のベクター若しくはカセットは、使用する宿主に従って選択できる。
【0164】
当然ながら、無細胞タンパク質発現システムを使用してもよい。in vitro転写/翻訳タンパク質発現プラットフォーム(充分な量のタンパク質を産生する)は無細胞タンパク質発現において多くの効果を発揮し、細胞ベースの発現システムにおいて典型的に存在する面倒な上流及び下流の工程(例えば宿主細胞の形質転換、培養又は溶解)の必要がない。
【0165】
二重特異的な抗体の設計における他の課題としては、親抗体がそれらのそれぞれの結合パートナー(例えばIgG)に対する二価的な結合を示す場合であっても、得られる二重特異的な抗体が、それぞれの結合パートナーの各々に対しては一価であるという事実が挙げられる。
【0166】
本発明の好適な多重特異的分子は、これらの課題を解決する。
【0167】
1つのポリペプチド鎖としての二重特異的な分子の発現が可能であり(2つの特異的結合を示す修飾された修飾免疫グロブリンドメイン、実施例を参照)、それは2つの抗体ポリペプチド鎖の発現よりも実施が容易である(Cabillyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3273−3277(1984))。
【0168】
それはまた、抗体様分子(2つのポリペプチド鎖からなるホモ二量体若しくはヘテロ二量体)として調製することもできる。すなわち、第2の特性が分子の非可変的な部分に位置するため、2つの異なる重鎖又は異なる軽鎖を準備する必要がない。すなわち、2つの鎖の間違った組合せの可能性がない。
【0169】
本発明の抗体は重鎖及び軽鎖を有してもよく、それらは共に、特異的な結合パートナーに結合する可変CDRループ領域(すなわち特異的なCDRループ形態)を形成し、また第2の特異性は、免疫グロブリン分子中に含まれる修飾された構造ループ又はループ領域(例えば重鎖若しくは軽鎖可変ドメインの構造ループ)によって形成され、その際、特異的なCDRループ形態が維持される。結合部位は、少なくとも1又は2つの可変ドメイン(例えば構造的に隣接してもよい重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメイン)上の複数の非CDRループにより形成されてもよい。
【0170】
修飾された抗体は、全長抗体に少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメイン及び修飾を有する抗体断片(例えばFab、scFv、Fv、ミニ本体、dAb)、又は構造ループ若しくはループ領域、又はその誘導体であってもよい。
【0171】
デザイン次第で、それは同じ若しくは異なる結合パートナーに、一価的、又は多価的に結合してもよく、又は異なる結合パートナーごとに異なる価数で結合してもよい。例えば、Fab断片、又は同等にscFvを設計する際は、両方のVH及びVLドメインの構造ループが別に設計され、CDRsによって形成される結合部位と同じエピトープと結合するような方法で行い、それにより、それぞれ三価Fab又はscFvが得られる。他の実施形態では、同じように設計されたVH、VLドメインを含有する完全な免疫グロブリンは、六価でその標的エピトープと結合する。例えば、CDRsにより形成される天然の結合部位が、設計されたVh及びVlドメインとは異なる標的エピトープを認識する場合、得られるFab断片又はscFvは、一価で第1の標的と結合し、二価で第2の標的に結合する。その際、それぞれVh及びVlドメインの修飾された構造ループにより独立に結合する。当業者にとり自明であるが、このモジュラー設計の原理は、多数の異なる方法で応用することが可能である。
【0172】
重鎖及び軽鎖の非CDRドメイン中に、特異的な結合部位の選抜及び設計が可能な、多くのループが存在するため、上記の課題のない2つ以上の特性を有する抗体誘導体を設計することが可能となる。例えば、CDRsによって第1の標的を認識するVH及びVLドメインを別に設計し、それにより、修飾された構造ループによって媒介される相互作用により、異なる(第2及び第3の)標的と特異的に結合させることが可能となる。すなわち、三重特異的なFab断片又はscFvを調製し、それにより、その様々な標的の各々に対して一価結合させてもよい。このFabの修飾された可変ドメインがフルサイズのIgGの形で設計される場合、三重特異的に設計されたIgGを調製することができ、各々3重特異的である場合、二価で結合する。
【0173】
1つのポリペプチド鎖内の特異的な結合ドメインを、ペプチドリンカーの有無にかかわらず、連結してもよい。
【0174】
一部の抗体クラスは、多重特異的(特に二重特異的な性質)であると考えられる。それらは、可変領域により抗原(典型的には、外来異物の構造又は癌に関連する構造)に結合し、またFc部分(例えば様々な免疫細胞又は補体タンパク質上のFc受容体)によりFcエフェクター分子に結合し、それにより、ADCC、ADCP又はCDCなどの効果を発揮させる。
【0175】
Fc−エフェクター分子は免疫グロブリン分子(IgG1の場合、ドメインCH2及びCH3からなる)のFc部分に結合する。糖鎖工学技術(米国特許第6602684号)、又は直接Fcへのタンパク質エンジニアリング(米国特許出願公開第2005/0054832号)、又はFcの外側への間接的なエンジニアリング(米国特許出願公開第2005/02444403号)のいずれかによって、抗体分子のFc部分の結合能を改良し、エフェクター機能を最適化するための多くの方法が開示されている。Fc受容体に対するFcドメインの結合、及び/又はCq1などの補体タンパク質に対する結合は、いずれもかかる技術によって変化することが示されている。通常、エフェクター機能を改良しようとする場合、Fcエフェクター分子に対する結合親和性を改善しようとする。
【0176】
本発明では、天然のFc結合ドメインの外側における、Fc−エフェクター分子との抗体結合をエンジニアリングすることが可能である。「天然の」Fc−エフェクター分子結合に関係するループ以外の抗体可変ドメインの修飾されたループは、修飾されたループ構造のライブラリから選抜されてもよく、又は1つ以上のFc−エフェクター分子と結合するように設計されてもよい。かかる更なるFc−エフェクター分子結合部位を有する抗体は、特異的なFc−エフェクター分子又はFc−エフェクター分子をディスプレイするエフェクター細胞に対する強いアビディティを有し、それにより、糖鎖設計された抗体又はそうでなければ改良型Fcドメインより更に強い効果を発揮しうる。
【0177】
抗体断片は、全抗体と比較して特徴的な効果を発揮する。断片は通常、良好な生物学的な分布特性を有し、また調製が容易である。しかしながら、大部分の抗体断片のデザインは、エフェクター機能が欠如し、短いin vivo半減期である(Holliger P、その他、Nat.Biotechnol.(2005)23:1126−36。)。CH1、Cκ又はCλドメインも、エフェクター機能を媒介することができず、それはFab分子が通常ADCC、ADCP又はCDCを示さない理由でもある。
【0178】
国際公開第02/44215号は、抗体の抗原結合部位、及びペプチド結合Fc−エフェクター分子を有する、結合分子を記載している。当該技術においては、エフェクター機能を示す抗体断片を調製することが可能である。当該ペプチドは、結合分子中において、ペプチドの抗原結合能力が破壊されず、Fc−エフェクター分子との結合能力が破壊されない位置に導入される。
【0179】
しかしながら本発明では、Fc−エフェクター分子に対する結合は、修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインによりなされ、それらは、免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインの固定された足場内の、2、3又は4つのランダム化された構造ループ配列のライブラリから、Fc−エフェクター分子結合を基に選抜される。したがって、Ig−ドメイン足場から分離された場合に、Fc−エフェクター分子と結合しないと考えられる特異的なループ配列に基づいて選抜することが可能である。本発明により得られるポリペプチドはゆえに、好ましくは100以上のアミノ酸からなり、1つ以上の免疫グロブリン可変ドメインを有するのが好ましい。
【0180】
本発明に係るかかる可変ドメインの潜在的エフェクター機能を選抜するためには、変異可変ドメインを含んでなる抗体若しくは抗体断片ライブラリを、Fc受容体及び/又は補体因子(例えばC1q)に対する結合に基づいて選抜するのが好ましい。選抜に供されるFcγ受容体は、天然にそれぞれの受容体を発現する細胞の表面に提示させてもよく、又は受容体の細胞外部分を各々発現及び精製してもよい。IFN−g刺激されたU937細胞(CRL−1503、ATCC)を標的細胞として用いて、ファージディスプレイされた修飾免疫グロブリン可変ドメインを単離してもよい。具体的には、高親和性IgG受容体(FcγRI)に対して結合する(Berntzenら、,2006,Protein Eng Des Sel.19(3):121−8と同様)。Fc受容体に対する結合は、選抜された修飾された免疫グロブリン可変ドメインで特異的に染色される標的として、U937細胞を使用したFACSによって試験できる。更に、ヒトのFcγ受容体の細胞外ドメインをクローニングし、可溶性タンパク質又は融合タンパク質として発現させることができ、潜在的結合パートナーの特異的な結合アッセイに使用できる(例えばBerntzenら、,2005,J Immunol Methods.298(1−2):93−104)。補体因子C1qに対して特異的に結合する修飾免疫グロブリン可変ドメインの同定及び評価は、基本的に同様に実施できる(例えばLauvrakら、1997 Biol Chem.378(12):1509−19)。
【0181】
かかる可変ドメインを有する分子のin vivo半減期を長期化させるため、FcRnに対する結合を基に、本発明に係る変異可変ドメインのライブラリを用いて選抜してもよい。それらの修飾された構造ループ(その血清タンパク質又は補体タンパク質への特異的な結合により、分子の半減期を長期化できる)は、単離された構造ループとして、又は、免疫グロブリンの前後関係又はその部分において使用し、それにより、in vivoでの増加した半減期を有する分子としてエンジニアリングされる分子との組合せが可能となる。
【0182】
選抜に供されるFcRn受容体は、それぞれの受容体を天然に発現する細胞の表面に、又は、それぞれの受容体の細胞外部分のディスプレイ及び精製により調製できる。本発明においては、FcRnの第1のスクリーニングにより、変異可変ドメイン(又はかかる変異可変ドメインを有する分子)を選抜でき、それを更にin vitroで試験し、FcRn受容体を発現する細胞への結合を基に、FACS実験において更に解析できる。スクリーニング及び選抜は、FcRnへの結合のpH依存を考慮してもよい(国際公開第02/060919号、国際公開第97/34631号)。それは更に、例えば表面プラスモン共鳴技術などにより、様々な組換えFcRn、アイソフォーム及びアロタイプへの結合親和性のランキングによって特徴づけることが可能である(例えばDall’ Acquaら、Journal of Immunology,2002,169:5171 5180)。
【0183】
本発明に係る修飾免疫グロブリンは、重鎖及び/又は軽鎖を有してもよく、また少なくとも1つの可変及び/又は定常ドメインを有してもよい。
【0184】
本発明に係る免疫グロブリンには、免疫グロブリンの好ましくは少なくとも1つの定常及び/又は少なくとも1つの可変ドメイン、又はその一部を有してなる。
【0185】
可変ドメインとは、免疫グロブリンの可変部分を構成する免疫グロブリンフォールディング構造単位であり、可変ドメイン(例えばVh、Vk、Vl、Vd)と称されることもある。
【0186】
本発明に係る他の好適な免疫グロブリンは、重鎖若しくは軽鎖の可変ドメイン又はその一部、並びに少なくとも2つの構造ループ又はループ領域を有してなり、前記少なくとも2つの構造ループ又はループ領域が、少なくとも2つの修飾された構造ループ若しくはループ領域を形成する少なくとも2つのアミノ酸修飾を有し、前記少なくとも2つの修飾された構造ループ又はループ領域が抗原の少なくとも1つのエピトープと特異的に結合する。本発明に係るかかる好適な免疫グロブリンにおいては、少なくとも2つのアミノ酸修飾を、1若しくは2つの構造ループ又はループ領域に、又は1若しくは2つの構造ループに配置し、抗原との結合部位を形成させる。
【0187】
本発明の好ましい実施形態では、分子に対する修飾ポリペプチドの特異的な結合は、以下からなる群から選択される結合アッセイにより測定される:免疫学的アッセイ、好ましくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、表面プラスモン共鳴アッセイ、飽和転送差核磁気共鳴分光アッセイ、転送NOE(trNOE)核磁気共鳴分光アッセイ、競争的アッセイ、組織結合アッセイ、生細胞結合アッセイ及び細胞抽出アッセイ。
【0188】
当該結合アッセイは、限定されないが、以下のような公知の様々な方法を用いて実施することができる:FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)及びBRET(生物発光共鳴エネルギー移動)−ベースのアッセイ、ΑlphaScreen(TM)(増幅蛍光近接ホモジニアスアッセイ)、シンチレーション近接アッセイ、ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)、SPR(表層プラスモン共鳴、別名「BIACORE」(TM))、等温滴定熱量測定、示差走査熱量測定、ゲル電気泳動、及びクロマトグラフィなどのゲル濾過。
【0189】
修飾ポリペプチドは、好ましくは以下からなる群から選択されるラベル又はリポーター分子とコンジュゲートしている:有機分子、酵素ラベル、放射性ラベル、染色ラベル、蛍光ラベル、発色ラベル、発光ラベル、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属複合体、金属、コロイド状金及びそれらの混合物。
【0190】
ラベル又はリポーター分子にコンジュゲートした修飾ポリペプチドは、例えば診断で使用できる。
【0191】
修飾免疫グロブリンを他の分子にコンジュゲートさせることにより、例えば結合アッセイ(例えばELISA)や結合試験において前記コンジュゲートを単純に検出することができる。
【0192】
本発明の別の態様は、軽鎖又は重鎖の可変ドメイン又はそれらの組み合わせ、並びに少なくとも2つの構造ループ又はループ領域を有してなるポリペプチドに関し、前記少なくとも2つの構造ループ又はループ領域が各々少なくとも2つの修飾された構造ループ又はループ領域を形成する少なくとも1つのアミノ酸修飾を有し、前記少なくとも2つの修飾された構造ループ又はループ領域は抗原の少なくとも1つのエピトープと特異的に結合する。
【0193】
少なくとも1つの修飾された抗体可変ドメイン(非可変的な配列又は構造ループを介して特定のパートナーと結合する)と、少なくとも1つの他の結合分子(抗体、抗体断片、可溶性の受容体、リガンド若しくは他の修飾された抗体ドメインであってもよい)を結合させた分子であるのが好ましい。
【0194】
少なくとも1つの本発明に係る抗体可変ドメインと組み合わせる多の結合分子は、好ましくはタンパク性分子、核酸分子及び炭水化物からなる群から選択される。
【0195】
修飾免疫グロブリンの構造ループ若しくはループ領域は、特に抗原、タンパク性分子、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、グリカン、炭水化物、脂質、小さい有機分子、無機分子、又はその組合せ又は融合物など、あらゆる種類の結合分子又は構造とも特異的に結合できる。もちろん、上記修飾免疫グロブリンは、少なくとも2つのループ又はループ領域を有してもよく、それにより、当該ループ又はループ領域の各々が異なる分子又はエピトープと特異的に結合することができる。
【0196】
本発明の別の態様は、本発明に係るか若しくは本発明の方法によって入手できる免疫グロブリン可変ドメインの、能動免疫のためのワクチンの調製のための使用に関する。これによって、当該免疫グロブリンを、ワクチンを調製する際の抗原性薬剤として用いるか、又はワクチンを調製する際の、抗原性構造をフィッシング又は捕捉するための物質として用いることとなる。
【0197】
本発明の別の態様は、修飾免疫グロブリン可変ドメインを有してなる分子のタンパク質ライブラリの調製のための、本発明に係る、又は本発明の方法によって入手できるT細胞受容体ドメインポリペプチドの使用に関する。
【0198】
本発明の更に別の態様は、以下のステップからなる、標的分子を特異的に結合させる、及び/又は検出する方法に関する:
(a)本発明に係る修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインか、又は、本発明に係る方法によって入手できる修飾免疫グロブリン可変ドメインを有する分子を含有する、分子と、前記標的分子を含むと考えられる試験サンプルと、を接触させるステップと、
(b)特異的な免疫グロブリン/分子若しくは免疫グロブリン可変ドメイン/標的分子複合体の潜在的形成を検出するステップ。
【0199】
本発明に係る好適な方法は、以下のステップからなる、分子を特異的に結合させる、及び/又は検出する方法に関する:
(a)修飾免疫グロブリンのライブラリ又は本発明に係る修飾免疫グロブリンと、前記分子を含有する試験サンプルとを接触させるステップと、任意に、
(b)特異的な免疫グロブリン/分子複合体の潜在的な形成を検出するステップ。
【0200】
試験試料はヒト若しくは動物性の試料(例えば血液サンプル又は他の体液及び細胞サスペンション)でもよく、かかるサンプルは、標的を補足し、及び/又は検出するための免疫グロブリンに特異的に結合する標的分子を含有する。
【0201】
本発明の別の態様は、以下のステップからなる、標的分子を特異的に分離する方法に関する:
(a)本発明に係る修飾された免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインか、又は、本発明に係る方法によって入手できる修飾された免疫グロブリン可変ドメインを有する分子を含有する、分子と、前記標的分子を含むと考えられる試験サンプルと、を接触させるステップと、
(b)形成された、特異的な免疫グロブリン可変ドメイン/標的分子複合体を分離するステップと、
(c)任意に標的分子を前記複合体から分離するステップ。
【0202】
本発明の好適な態様は、以下のステップからなる、分子を特異的に分離する方法に関する:
(a)修飾免疫グロブリンのライブラリ又は本発明に係る修飾免疫グロブリンと、前記分子を含有する試験サンプルとを接触させるステップと、任意に、
(b)形成された、特異的な免疫グロブリン可変ドメイン/標的分子複合体を分離するステップと、
(c)任意に分子を前記複合体から分離するステップ。
【0203】
それらのサンプルは通常、調製的に単離される分子の給源であると考えられ、例えば、天然の複雑な給源(動物、ヒト若しくは植物由来、又は微生物由来の給源、又は細胞懸濁液若しくは培養液)が挙げられる。
【0204】
本発明に係る免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、標的分子をサンプルから特異的に分離するのに使用できる。多重特異的免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインが用いられる場合、複数の標的分子をサンプルから分離できる。かかる方法において修飾された免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインを使用することは特に有利である。なぜなら、例えば、所定の量の結合パートナー(すなわち修飾された免疫グロブリン可変ドメイン)を表面上に固定した、均一な表面を有するマトリックスを調製して、標的分子と結合させ、分離することが可能となるからである。それに対して、単一の特異的結合パートナーを用いる場合、1つの結合パートナーはマトリックスに同じ効率で結合しないため、均一なマトリックスの調製が困難である。
【0205】
本発明の別の態様は、以下のステップを有してなる、標的への化合物のターゲッティング方法に関する:
(a)特異的に結合できる、本発明に係る修飾免疫グロブリン可変ドメインを有する分子か、又は、本発明による方法により得られる修飾免疫グロブリン可変ドメインを有する分子を、前記化合物と接触させるステップと、
(b)標的に免疫グロブリン可変ドメイン/化合物複合体からなる分子を輸送するステップ。
【0206】
本発明に係る修飾免疫グロブリン若しくは免疫グロブリン可変ドメインは、CDRs及び/又は修飾ループ領域と結合した、少なくとも1つの化合物を標的に輸送するために使用できる。かかる免疫グロブリンを用いることにより、疾患の治療の経過で、好適な標的部位に、治療用の物質をターゲッティングできる。
【0207】
本発明の別の態様は、本発明に係る、又は本発明に係る方法によって入手できる免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインを、含有するか、発現するか、又はコードする分子ライブラリに関する。
【0208】
本発明に係る免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインの好適なライブラリには、少なくとも2つの構造ループ又はループ領域中に修飾を有する、少なくとも10の免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメイン、好ましくは100、より好ましくは1000、より好ましくは10000、より好ましくは100000、最も好ましくは1000000以上の変異型の免疫グロブリン又は可変ドメインを含有する。
【0209】
通常、本発明に係るライブラリは、少なくとも10の融合タンパク質又は結合物質を、好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも1000、より好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも1010、より好ましくは少なくとも1012、より好ましくは少なくとも1011で含む。リボソームディスプレイではそれより大きい数である。
【0210】
ライブラリの大部分の好適なメンバーは、少なくとも2つの構造ループ若しくはループ領域中に、少なくとも4つ、又は少なくとも5つ、又は少なくとも6つのアミノ酸変異を有することがわかっている。すなわち、本発明に係る特に好適なライブラリは、少なくとも2つの構造ループ中に、少なくとも2つ、3つ、又は4つのアミノ酸変異を有するメンバーからなる。
【0211】
本発明に係るライブラリはまた、VH、Vκ、Vλ及びVHHからなる群から選択される免疫グロブリン可変ドメインのうちの1つ又は混合物を含むか又はそれらのみからなり、商業的な理由から、結合パートナーを同定する際に適切である。
【0212】
前記ライブラリを構築する好適な方法は、上記、及び実施例に記載されている。本発明に係るライブラリは、様々な分子に対する免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインの結合を同定するために使用できる。
【0213】
特に本発明は、本発明に係る免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインを含有するか、又は本発明に係る方法により得られるタンパク質ライブラリの、免疫グロブリン誘導体の設計のための使用に関する。既存の免疫グロブリンは、それぞれの修飾された野生型ドメインのタンパク質ライブラリを用いて、抗原結合部位をドメインに導入するために変化させることができ、ライブラリは少なくとも10、好ましくは100、好ましくは1000、より好ましくは10000、より好ましくは100000、最も好ましくは1000000の変異型のドメインを有し、各々、少なくとも1つの修飾された構造ループを有する。好ましくは、変異型の構造ループドメインは少なくとも2の修飾を有する。ライブラリは更に、抗原との特異的な結合に関してスクリーニングされる。所望の特性に関する分子評価の後、選抜された免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインを、遺伝子工学的方法によって元の免疫グロブリンにクローニングし、それにより野生型領域の置換を行う。あるいは、修飾ループ領域のみをコードするか、又は変異アミノ酸のみをコードするDNAを交換することにより、特異的な抗原との更なる結合部位を有する免疫グロブリンを得ることもできる。あるいは、可変ドメインの構造ループの修飾は、例えばin Fab、scFv又は完全な免疫グロブリン分子の形で、その天然の前後関係の可変ドメインと共に実施できる。単一ドメインの免疫グロブリンの場合を除き、1つの免疫グロブリンドメイン鎖又は単鎖免疫グロブリン(例えばscFv又はユニボディ(一価の免疫グロブリン断片))が得られ、通常、本発明に係る免疫グロブリンは、好ましくはヘテロ二量体として提供される。
【0214】
変異した、抗原特異的な構造ループの位置の選択は、元の免疫グロブリンの構造、及び更なる結合部位の目的に依存する。例えば、元の若しくは親免疫グロブリンがFab又はscFvである場合、軽鎖及び/又は重鎖の可変ドメイン中の少なくとも2つの構造ループの修飾が可能である。また、CH1/CLの少なくとも2つの構造ループの修飾は、本発明に係る免疫グロブリンの産生にとり好ましい。すなわち、本発明に係るFab分子は、CH1又はCLドメインの修飾されたループ領域を介した新しい結合部位を有することができる。。本発明では、特異的なCDRループの構造、及び親免疫グロブリン、scFv又はFabの本来の結合特性を維持することが最も重要である。
【0215】
ライブラリを構築するために、1つ以上の可変ドメインの1つ以上の構造ループ中に変異を有する元の変異体分子のライブラリを調製できる。完全な変異型の元の分子を用いた選抜は、修飾された構造ループと抗原との結合の選抜を行うことにより、立体配置的に有利な修飾が得られるため、有効であると考えられる。例えば、完全な分子がscFvである場合、抗原への結合を基に、変異型の元のscFvのライブラリをスクリーニングし、更にCDRループ(元の特性)により認識される抗原への結合のための特異的な結合物質をスクリーニングすることは有利であると考えられる。代替的な選抜手順では、元の(第一の)抗原は、修飾された構造ループと抗原との結合のスクリーニングの間、CDRループに結合するのが好ましい。この同時スクリーニングは、当該抗原の結合が第一の抗原への結合に影響を受ける場合に、構造ループ中に突然変異を有するクローンの優先的な選抜を可能とする。
【0216】
本発明の好ましい実施形態は、構造ループのうちの少なくとも2つの各々に、少なくとも1つの変異型のアミノ酸を有する可変ドメインを有するか又はそれらのみからなる変異型の免疫グロブリンのライブラリである。当該ライブラリは、重鎖及び軽鎖又はそれらの混合物及び組み合わせ分子の免疫グロブリンドメインを含んでもよい。
【0217】
他の好ましい実施形態は、VHHドメイン又は少なくとも2つの構造ループ又はループ領域の各々に、少なくとも1つの変異型のアミノ酸を有する、上記ラクダ科の動物由来のヒト化ドメインを有するか若しくはそれらのみからなるライブラリである。
【0218】
他の本発明の好ましい実施形態は、単鎖抗体(例えば構造ループのうちの少なくとも2つの各々に、少なくとも1つの変異型のアミノ酸を有するscFvライブラリ、又は単鎖抗体若しくはscFvの可変ドメインのいずれかのループ領域)を有するか若しくはそれらのみからなるライブラリである。
【0219】
他の本発明の好ましい実施形態は、二重特異性抗体の可変ドメインのいずれかの構造ループ又はループ領域のうちの少なくとも2つの各々に、少なくとも1つの変異型のアミノ酸を有するか若しくはそれらのみからなる二重特異性抗体のライブラリである。
【0220】
他の本発明の好ましい実施形態は、ミニボディの可変ドメインのいずれかの構造ループ又はループ領域のうちの少なくとも2つの各々に、少なくとも1つの変異型のアミノ酸を有するか若しくはそれらのみからなるミニボディのライブラリである。
【0221】
更に別の本発明の好ましい実施形態は、Fabの可変ドメインのいずれかの構造ループ又はループ領域のうちの少なくとも2つの各々に、少なくとも1つの変異型のアミノ酸を有するか若しくはそれらのみからなるFabのライブラリである。
【0222】
更に別の本発明の好ましい実施形態は、抗体又はIgGライブラリ(好ましくはヒト抗体ライブラリ)であり、詳細には、当該抗体又はIgGドメインの可変ドメインのいずれかの構造ループ又はループ領域のうちの少なくとも2つの各々に、少なくとも1つの変異型のアミノ酸を有するか若しくはそれらのみからなる。
【0223】
免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメイン、又は変異型可変抗体ドメインの融合分子を含んでなるタンパク質ライブラリのサイズ条件(すなわち変異型のタンパク質の数)は、その使用目的に応じて変化する。一般に、抗原結合部位をde novoで生成するためのライブラリは、修飾された構造ループ若しくはループ領域により形成される、既存の設計された抗原結合部位を、(例えば親和性を強化するか又は抗原の良好な特異性を変化させるために)更に修飾したライブラリより大きい必要がある。
【0224】
本発明はまた、免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメイン又はミニドメインに含まれる少なくとも2つの構造ループ若しくはループ領域を有してなる複数のポリペプチド、又はそれをコードする核酸分子からなる、ポリペプチドライブラリ又は核酸ライブラリに関する。上記ライブラリは異なる修飾を有するメンバーを有し、それらの複数は、少なくとも1つの構造ループ領域中に修飾を有するとして定義される。核酸ライブラリは、好ましくは少なくとも10の異なるメンバー(少なくとも2つの潜在的アミノ酸修飾を有する)、好ましくは少なくとも100、より好ましくは1000又は10000の異なるメンバー(例えばランダム化ストラテジー又はコンビナトリアル技術でデザイン)を含有する。リボソームディスプレイの場合、更に多様化された個々のメンバーの数として、例えば少なくとも1000000又は少なくとも10000000が好ましく、より好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも1010、 より好ましくは少なくとも1011、又は1012まで数を増加させることも可能である。
【0225】
本発明の更なる態様は、本発明によって、少なくとも2つのライブラリから選抜した2つの異なる免疫グロブリン又は免疫グロブリンの可変ドメインのが組合せにより、多重特異性免疫グロブリンを調製することである。これらの選抜された特異的な免疫グロブリン可変ドメインを、各々他の分子と組み合わせ(建築用ブロックと同様)、所望の特性(例えば特異性及び/又は価数の組合せ)となるようにドメインの最適配列をデザインする。
【0226】
更に、本発明に係る1つ以上の修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインを、タンパク質構造の崩壊を生じさせることなく、タンパク質中の様々な又は全部の部位に導入することもできる。かかる「ドメインシャッフリング」テクニックによって、所望の特性に基づき再度選抜されうる新規なライブラリが構築できる。
【0227】
好適なライブラリは、本発明に係る免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメイン又はその誘導体を含む。
【0228】
本発明の好ましい実施形態は、少なくとも1つの免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメイン、及びその少なくとも2つの構造ループ若しくはループ領域(本発明により修飾され、抗原と結合する)を含んでなる、抗原に対する結合分子(抗原結合分子)である。前記結合分子は、そのCDRループとは同様の及び/又は特異的な結合活性を有しない。それは抗体活性のために使用できる他の部分を有してもよい(例えば天然若しくは修飾されたエフェクタードメイン(配列))が、それは抗体の「天然の」結合領域(それらの天然の位置における活性のCDRループ)を欠いている。本発明に係るこれらの抗原結合分子は、本発明の分子に関して上記した効果を有するが、抗体の特異的な結合活性を有さない。しかしながら、当該構造ループ若しくはループ領域中に新しく導入された特異的な結合活性を有する。
【0229】
また、本発明にかかる抗原結合分子においては、ランダム化技術によって(すなわちランダム化技術によって構造ループ中の1つ以上のアミノ酸残基を置換すること)、又はランダムに生成されたインサートをかかる構造ループ中に導入することによって、構造ループ中に新しい抗原結合部位を導入してもよい。その他の好適な方法としては、コンビナトリアル技術の使用が挙げられる。
【0230】
他の態様では、本発明は、未修飾の免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインとは異質の、1つ、2つ若しくは3つ以上の構造ループに導入された特性を示す抗原結合部位を有する、修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインに関する。「異質の」という用語は、当該抗原結合部位が、免疫グロブリン可変ドメインの特異的な構造ループ若しくはループ領域により形成されないことを意味する。
【0231】
更に別の態様では、本発明は、未修飾の免疫グロブリンとは異質であり、少なくとも1つのドメイン中の、少なくとも1つ、2つ、3つ又はそれ以上の構造ループ中に導入された抗原結合部位を有する、修飾された免疫グロブリンに関する。前記修飾された免疫グロブリンは、少なくとも10mol−1、少なくとも10mol−1、少なくとも10mol−1、少なくとも10mol−1、少なくとも10mol−1、少なくとも10mol−1又は少なくとも10mol−1の親和性で前記抗原と結合する。
【0232】
本発明は、中程度又は高い親和性を有する結合物質の提供に関する。中程度の親和性を有するそれらは好ましくは10−5〜10−7の範囲の解離率Kdを有し、高親和性を有するそれらは10−8〜10−10の範囲の証明されたKdを有する(高親和性結合物質として最も好適な態様は、10−9未満のKdを有するものである)。場合によっては、更により低いKd(例えば10−12以下、通常10−11以下)を有する結合物質を選抜してもよい。
【0233】
本発明に係る好適な免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、少なくとも2つの抗原結合部位、第1のエピトープに結合する第1の部位、及び第2のエピトープに結合する第2の部位を有してなる。
【0234】
好適な実施形態では、本発明の免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは少なくとも3つのループ領域(第1のエピトープに結合する第1のループ若しくはループ領域、第2のエピトープに結合する第2及び第3のループ若しくはループ領域)からなる。少なくとも第1のループ若しくはループ領域又は少なくとの第2及び第3のループ若しくはループ領域のいずれか、又はそれらの両方は、構造ループを有してなるのが好ましい。本発明に係る免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、従来技術において機能的であることが公知の断片を有し、それは本発明において必須の要素、すなわち本発明により修飾された構造ループ若しくはループ領域を有してなる。
【0235】
好ましくは、本発明に係る免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインは、少なくとも2つのT細胞受容体ドメイン又はその一部(ミニドメインを含む)から構成され、各ドメインは少なくとも1つの抗原結合部位を含む。免疫グロブリンドメインの好適なペアのうちの1つは、CL/CH1のペアである。それはCL/CH1ペアのC末端に位置する構造ループ領域においてエンジニアリングできる。そsれにより、1又は2個の新しい結合部位がエンジニアリングされる。特異的なCL/CH1結合ドメインペアの選抜の後、それを可変ドメインVL及びVHに組み合わせ、CDRドメイン中に1つの「天然の」結合部位、及び反対側(CH1/CLドメインのC末端の構造ループ領域)に更に1又は2個の結合部位を有する、本発明に係るFab分子を得ることが可能となる。
【0236】
すなわち、本発明に係る免疫グロブリンは、可変ドメインを含む免疫グロブリン親分子を修飾することによって得ることができる。あるいは、免疫グロブリン定常ドメインをエンジニアリング(設計)し、構造ループ領域中に結合部位を形成させることができ、そのドメインは更に、建築用ブロックとして使用でき、免疫グロブリン可変ドメイン及び任意に他の定常ドメインと組合せて、可変ドメイン、及び構造ループ又は構造ループ領域により形成される新しい結合部位を有してなる、本発明に係る免疫グロブリンが得られる。
【0237】
かかる本発明の好ましい実施形態では、免疫グロブリンの可変領域の少なくとも1つのドメインと、免疫グロブリンの定常領域の少なくとも1つのドメイン(例えば可変ドメイン。CH1ドメインに結合する少なくとも2つの構造ループが修飾されている)と、を有してなる免疫グロブリンの提供に関する。
【0238】
本発明の別の態様は、以下を含んでなる結合パートナーのキットに関する:
(a)抗原結合部位を有して、それが1つ以上の構造ループに導入されている修飾免疫グロブリン可変ドメインと、
(b)前記抗原のエピトープを有する結合分子。
【0239】
本発明の別の態様は、以下を含んでなる結合パートナーのキットに関する:
(a)本発明に係る修飾免疫グロブリンのライブラリと、
(b)抗原のエピトープを有する結合分子。
【0240】
本発明に係るこのキットのかかる結合分子は、サンプル又は本発明のライブラリ中の、天然若しくは修飾された免疫グロブリンを選抜し、識別するために使用できる。それは更に、本発明に係る修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインを有してなるポリペプチドの結合特性を同定するためにも使用できる。本発明に係るこのキットの結合分子を用いて、本発明に係る修飾ポリペプチドの力価を測定できる。
【0241】
本発明で定められる力価とは、本発明に係る分子のその抗原に対する結合特性のことを指す。当該結合は、品質管理目的で用いる場合は、特異性及び/又は親和性及び/又は選択性に関して、量的に及び/又は質的に、公知の方法を用いて測定できる。
【0242】
更に、構造ループ中に異なる修飾を有する、少なくとも10、好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも1000、より好ましくは少なくとも10000、特に好ましくは少なくとも100000の免疫グロブリンからなるライブラリから、本発明に係る修飾免疫グロブリン若しくは免疫グロブリン可変ドメインを有するポリペプチドを選抜するために、本発明に係るキット中の当該結合分子を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0243】
本発明を、以下の実施例で更に例示する。
実施例1:VHHライブラリのデザイン
結晶構造の、ラクダのVHHドメインD2−L24と、鶏卵White Lysozyme(Brookhaven Databaseにおいて、エントリー1ZVH.pdbとして公知)との複合体を用いて、変異VHHドメインのデザインの補助に用いた。構造ファイル1ZVH.pdbの鎖Aの配列を、配列番号1に示す。
配列番号1
【表1】

【0244】
VHHライブラリの構築の基本として用いられる配列は、国際公開第04/041862A2号の抗−TNF−αVHHドメインの配列(クローン3E)であり、配列番号2に示す。
配列番号2
【表2】

【0245】
1ZVH.pdbの構造の詳細アッセイ及びβ鎖を連結するループを形成する残基の解析の後、配列番号2の残基13、15(すなわちβ鎖A及びB間のループ)、89、90、92及び93(すなわちβ鎖E及びF間のループ)を、ライブラリの生成のためにランダム化することとした。更に、3つのランダム化部位は残基14及び15の間に挿入することとし、3つのランダム化部位は配列番号2の残基92及び93の間に挿入することとした。
【0246】
実施例2:VHHライブラリの構築
VHH配列のコード遺伝子のデザインは、PCRアセンブリによる合成遺伝子の形で実施できる。配列及びその翻訳を図2に示す。ライブラリ構造のためにランダム化されるアミノ酸残基を下線で示す。クローニングのための以下の制限部位を、図2に示すようにヌクレオチド配列中に下線で示す部分として含有させた:NcoI、BglII及びNotI。
【0247】
合成遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を、配列番号3に示す。
配列番号3
【表3】

【0248】
最初の2つの残基及び最後の2つの残基は、クローニングに使用する制限部位によって生じたものである。配列番号3をコードするヌクレオチド配列を、配列番号4に示す。
配列番号4:
【表4】

【0249】
最初の2つのコドン及び最後の2つのコドンは、クローニングのために使用する制限部位によって生じたものである。
【0250】
合成遺伝子のPCR組立のためのオリゴヌクレオチドは、一般公開されているソフトウェアツールであるDNAWorks 3.1(http://helixweb.nih.gov/dnaworks/)を用いてデザインし、表1において、及び配列番号5から配列番号22に示される18のオリゴヌクレオチド((Hoover DM,Lubkowski J.,DNAWorks:an automated method for designing oligonucleotides for PCR−based gene synthesis,Nucleic Acids Res.2002 May 15;30(10):e43)から、標準的な方法を用いてPCRによりアセンブリした。
【0251】
【表5】

表1:デザインされたVHH遺伝子をコードする合成遺伝子のアセンブリに使用するオリゴヌクレオチド。
【0252】
簡潔には、等しい量のオリゴヌクレオチド溶液(〜1mg/mlの濃度の各々)を混合し、水でオリゴヌクレオチドごとに〜1ng/μlの最終濃度に希釈した。オリゴヌクレオチド混合物は、PCR溶液で5倍希釈した。成分の最終濃度は、各オリゴヌクレオチド 0.2ng/μl、トリス−HCl(pH8.8) 20mM、KCl 10mM、(NHSO 10mM、MgSO 6mM、トリトンX−100 0.1%(v/v)、ウシ血清アルブミン 0.1mg/ml、各dNTP 0.2mM、及びPfuポリメラーゼ 2.5Uである。遺伝子アセンブリのためのPCRプロトコルは、95℃で5分の変性ステップ1回から開始され、その間、起こりうるあらゆるミスプライミングを回避するためにポリメラーゼを添加した(ホットスタートPCR)。このステップの後、30秒の95℃の変性温度、30秒の55℃のアニーリング温度、及び1.5分間の72℃の伸長温度がを25サイクル継続させた。このプロトコルの最終ステップにおいて、10分間の72℃のインキュベーションサイクルを実施した。遺伝子増幅においては、遺伝子アセンブリ反応により得られる混合物1μlをテンプレートとして用い、最も外部のオリゴヌクレオチド(配列番号5及び配列番号22)をプライマとして使用した。遺伝子増幅のためのPCRプロトコルは、遺伝子アセンブリのためのそれと基本的に同様である。アセンブルされた合成VHH遺伝子を、ベクターpET27b(Novagen(http)://www.merckbiosciences.co.uk/product/69863、http://www.novagen.com)のNcoI及びNotI制限部位にクローニングし、その配列をDNA塩基配列決定した。
【0253】
更に、ランダム化されたライブラリを構築するためにPCRを用いた。最初の2つのPCR反応のテンプレートは、上記でクローニングした合成VHH遺伝子である。最初の2つのPCR反応に使用するプライマ対は、以下の通りである:
3esynmu1
(gactccatgg caagtgcaac tgcaggaaag cggaggcggt ctggttnnsc cannsnnsnn snnsggcagc ctgcgtctga(配列番号23));
3esynmu2
(catgagatct acggtgttct tggcg(配列番号24));
3esynmu3
(catgagatct tacgatgnns nnsttgnnsn nsnnsnnsnn sgaagatacg gcggtgtatt attg(配列番号25))
;3esyn2
(aatagcggcc gcagagctca cggtcacc(配列番号26))。
得られるPCR産物をBglIIにより切断し、ライゲーションし、ライゲーション生成物を、プライマ3esynl
(acgtccatgg caagtgcaac tgcag(配列番号27))
及び3esyn2
(aatagcggcc gcagagctca cggtcacc(配列番号26))
によるPCR反応のテンプレートとして用いた。プライマ3esynmul(配列番号23)及び3esynmu3(配列番号25)のNNSコドンは、配列のランダム化部位を導入するためのものである。コドンNNS(IUPACコード(SがC又はGを意味する))は、全ての20の天然アミノ酸をコードするが、3つの停止コドン中2つを回避するように選択した。図3は、模式的なPCR反応及びライゲーション手順を示す。水平の矢印はPCRプライマの位置及び方向を示し、それぞれの垂直のラインはNcoI、BglII及びNotI部位(左から右)を示す。
【0254】
このランダム化されたPCR産物を更に、NcoI制限部位を用いて、pelB分泌シグナルとインフレームで、ファージミドクローニングベクターpHEN1にクローニングした(Hoogenboom HR,Griffiths AD,Johnson KS,Chiswell DJ,Hudson P,Winter G.Multi−subunit proteins on the surface of filamentous phage:methodologies for displaying antibody(Fab) heavy and light chains.Nucleic Acids Res.1991 Aug 11;19(15):4133−7)。遺伝子の3’末端のNotI制限部位に、ベクターpHEN1に含まれる繊維状ファージfdの小コートタンパク質(プロテインIII)をコードする遺伝子とインフレームでVHHライブラリを挿入した。ランダム化されたVHHライブラリインサートのデザインされた配列を、配列番号28のヌクレオチド配列として示し、またアミノ酸配列を配列番号29に示す。配列番号29の文字Xは、ランダム化されたアミノ酸残基を意味する。
【0255】
配列番号28:
【表6】

【0256】
配列番号29:
【表7】

【0257】
ライゲーション生成物を用いて更に大腸菌TG1を形質転換し、得られたコロニーの数を測定し、多くの選抜されたクローンは制限酵素アッセイ及びDNA塩基配列決定により解析した。次の表層ディスプレイライブラリファージの調製ステップは、標準的なプロトコルに従い実施した。簡潔には、ライゲーション混合物をエレクトロポレーションによってE.coli TG1細胞に導入して形質転換する。その後、ファージ粒子を、ヘルパーファージM13−KO7をもちいてE.coli TG1細胞からレスキューした。ファージ粒子は更に、2つのステップで、PEG/NaClを用いて培養上清から沈殿させ、水に溶解させ、パニングによる選抜に用いたか、又は−80℃で保存した。
【0258】
実施例3:ヒト血清アルブミン(HSA)の、VHHのパニング−ファージライブラリ
標準的なプロトコル(例えばペプチド及び抗体のファージディスプレイ、a laboratory manual,Kayら、1996,Academic Press,San Diego,Calif.)に従い、3ラウンドのパニングを実施した。簡潔には、以下の方法を実施した。Maxisorp 96穴プレート(ヌンク)をHSAでコーティングした。以下の溶液200μlを、ウェルに添加した:
以下の濃度のHSAを有する、0.1MのNa−炭酸塩バッファ(pH9.6):
1回目のパニングラウンド:2mg/mlのHSA;
2回目のパニングラウンド:1mg/mlのHSA;
3回目のパニングラウンド:1mg/mlのHSA;
37℃で1時間インキュベートし、更に室温で1時間、ウェルあたり200μlの2%のスキムミルク(M−PBS)でブロッキングした。表層ディスプレイファージライブラリを更に、100μlファージ懸濁液及び100μlの4%スキムミルク(M−PBS)を添加することにより、結合したHSAと反応させ、45分間振とうしてインキュベートし、更に振とうさせずに90分間インキュベートした。
【0259】
未結合ファージ粒子を、以下の通りに洗浄除去した:
−1パニングラウンドの後:10×300μl T−PBS、5×300μl T−PBS;
−1パニングラウンドの後:15×300μl T−PBS、10×300μl T−PBS;
−1パニングラウンドの後:20×300μl T−PBS、20×300μl T−PBS。
【0260】
結合した粒子の溶出は、培養ウェルあたり0.1Mのグリシン(pH=2.2)を200μl添加し、室温で30分間振とうすることにより実施した。その後、ファージ懸濁液を60μl 2Mトリス−ベースの添加によって中和し、更に、0.5mlの抽出したファージと、10mlの指数的に成長する培養液とを混合し、37℃で30分間培養することにより、E.coli TG1細胞をトランスフェクションした。最後に、感染したバクテリアを、1%のブドウ糖及び100μg/mlアンピシリンを有するTYE培地で平板培養し、30℃で一晩インキュベートした。
【0261】
実施例4:可溶性発現のための、HSAに対して選抜されるVHH変異体の選抜されたクローンのクローニング
3パニングラウンドにより選抜されるファージ由来のファージミドDNAを、ミディプレップで単離した。変異VHHドメインドメインをコードするDNAをPCRでバッチ増幅し、ベクターpNOTBAD/Myc−His(クローニングを容易にする挿入されたNotI制限部位を有する、E.coli発現ベクターpBAD/Myc−His(Invitrogen社製))にNcoI−NotIをクローニングした。ライゲーションした構築物を、エレクトロポレーションでE.coli LMG194細胞(Invitrogen社製)に導入して形質転換し、1%のブドウ糖及びアンピシリンを有するTYE培地で30℃で一晩増殖させた。選抜されたクローンを、アンピシリンを有する200μl 2×YT培地に植継ぎ、30℃で一晩増殖させ、L−アラビノースを0.1%の最終濃度に添加して誘導した。16℃で一晩発現させた後、細胞を遠心分離により回収し、ペリプラズム抽出液を、100μl Na−ホウ酸塩バッファ(pH8.0)で4℃で一晩処理した。ペリプラズム抽出物50μlをELISA(下記参照)で使用した。
【0262】
実施例5:HSAに対して選抜されたVHH変異体のELISA
ヒト血清アルブミン−結合に関して選抜されたVHH変異体のペリプラズム抽出液を、以下のプロトコルでELISA試験した。
【0263】
コーティング:マイクロタイタープレート(NUNC、.Maxisorp)、ウェルあたり100μl、100μg HSA/ml(PBS中)で、4℃で一晩。
洗浄:3×200μlのPBS。ブロッキング:PBS(Pierce社製)中の1%のブロッカーカゼイン、室温で1時間。
洗浄:3×200μlのPBS。
ペリプラズム抽出物の結合:50μlペリプラズム抽出物(実施例4)、50μlのPBS、0.05% Tween20、室温で一晩。
洗浄:3×200μlのPBS。
第1抗体:抗His4(Qiagen)、PBS、0.05% Tween20で1:1000希釈、室温で90分、ウェルあたり100μl。
洗浄:3×200μlのPBS。
第2抗体:ヤギ抗マウスHRP(SIGMA)、PBS、0.05% Tween20で1:1000希釈、室温で90分、ウェルあたり100μl。
洗浄:3×200μlのPBS。
検出:Na−クエン酸塩/リン酸塩バッファ(pH4.5)中の3mg/mlのOPD、0.4μlの30%H。バックグラウンドが高くなりすぎる前に、100mlの3M HSOで停止。
吸光度測定:492/620nm。
【0264】
実施例6:1つのループだけがランダム化されたライブラリの例:C”Dループ
実施例2に記載した、デザインされたVHH遺伝子をコードする合成遺伝子を、以下のプライマ対を用いて、2つのPCR反応のテンプレートとして用いた:
配列番号26(3esyn2)と
配列番号30
(actgctcgag agacatcgcc aagaacac、 esynmu4)、並びに配列番号27(3esynl)と
配列番号31
(cacactcgag atcgcaaasn nsnnsnncac snnsnncgca tagtaggtat tgcc、 3esynmu5)。
得られるPCR産物をXhoIで切断し、ライゲーションし、ライゲーション生成物を、プライマ3esynl(配列番号27)及び3esyn2(配列番号26)を用いて、PCR反応のテンプレートとして用いた。プライマ3esynmu4(配列番号30)及び3esynmu5(配列番号31)のNNSコドンは、実施例2にて説明したのと同様なランダム化配列導入部位である。図4は、模式的なPCR反応及びライゲーション手順を示す。水平の矢印はPCRプライマの位置及び方向を示し、それぞれの垂直のラインはNcoI、XhoI及びNotI部位(左から右)を示す。このランダム化されたPCR産物を更に、実施例2と同様、pelB分泌シグナルとインフレームで、ファージミドクローニングベクターpHEN1にクローニングした(Hoogenboom HR,Griffiths AD,Johnson KS,Chiswell DJ,Hudson P,Winter G.Multi−subunit proteins on the surface of filamentous phage:methodologies for displaying antibody(Fab) heavy and light chains.Nucleic Acids Res.1991 Aug 11;19(15):4133−7)。ランダム化されたVHHライブラリインサートのデザインされた配列を、配列番号32のヌクレオチド配列として示し、配列番号33にアミノ酸配列を示す。配列番号33の文字Xは、ランダム化したアミノ酸残基を意味する。
【0265】
配列番号32
【表8】

【0266】
配列番号33
【表9】

【0267】
ライゲーション生成物を用いて更に大腸菌TG1を形質転換し、得られたコロニーの数を測定し、多くの選抜されたクローンは制限酵素アッセイ及びDNA塩基配列決定により解析した。次の表層ディスプレイライブラリファージの調製ステップは、標準的なプロトコルに従い、実施例2と同様に実施した。特異的結合クローンのパニング、選抜及び評価のステップは、基本的に実施例3、4及び5にて説明したのと同様に実施した。
【0268】
実施例7:3つのループがランダム化されたライブラリの例:AB、EF及びC’Dループ
実施例2にて説明したようにABループ及びEFループがランダム化された残基を有するライブラリをPCRのテンプレートとして用い、実施例6と同じプライマ対を用いた:配列番号26(3esyn2)と配列番号30(esynmu4)及び配列番号27(3esynl)と配列番号31(3esynmu5)。次の特異的結合クローンのライブラリ構造、クローニング、パニング、選抜及び評価のためのステップを、基本的に実施例2、3、4及び5にて説明したとおりに実施した。
【0269】
実施例8:1つ、2つ及び3つの構造ループのランダム化されたアミノ酸を有する可変ドメインライブラリの比較
パニングにおいて、様々な抗原を有するライブラリを用いた。抗原としての鶏卵リゾチーム:3つのパニングラウンドを実施した。ウェルあたり以下の溶液200μlを添加して、Maxisorp 96穴プレート(Nunc)を鶏卵リゾチームでコーティングした:
PBS(以下の濃度の鶏卵リゾチーム(HEL)を含有する):
1回目のパニングラウンド:2mg/mlのHEL;
2回目のパニングラウンド:1mg/mlのHEL;
3回目のパニングラウンド:1mg/mlのHEL。
【0270】
37℃で1時間インキュベートし、室温で1時間、ウェルあたり200μlの2%のスキムミルク(M−PBS)でブロッキングした。表層ディスプレイファージライブラリを更に、100μlのファージ懸濁液、及び100μlの4%スキムミルク(M−PBS)を添加して、結合した鶏卵リゾチームと反応させ、振とうしながら室温で45分間、及び振とうせずに90分間インキュベートした。未結合ファージ粒子を、以下の通りに洗浄除去した:
−1パニングラウンドの後:10×300μl T−PBS、5×300μl T−PBS;
−1パニングラウンドの後:15×300μl T−PBS、10×300μl T−PBS;
−1パニングラウンドの後:20×300μl T−PBS、20×300μl T−PBS。
【0271】
結合した粒子の溶出は、培養ウェルあたり0.1Mのグリシン(pH=2.2)を200μl添加し、室温で30分間振とうすることにより実施した。その後、ファージ懸濁液を60μl 2Mトリス−ベースの添加によって中和し、更に、0.5mlの抽出したファージと、10mlの指数的に成長する培養液とを混合し、37℃で30分間培養することにより、E.coli TG1細胞をトランスフェクションした。最後に、感染したバクテリアを、1%のブドウ糖及び100μg/mlアンピシリンを有するTYE培地で平板培養し、30℃で一晩インキュベートした。
【0272】
抗原としてのヒト血清アルブミン:
実施例2、6及び7のライブラリを用い、上記の通りパニングラウンドを実施した。簡潔には、ファージライブラリは、結合用緩衝液(PBS、1%のオバルブミン、0.005%のTween 20)に懸濁し、maxisorpプレートに直接固定したヒト血清アルブミン(PBS中の10μg/ml、4℃一晩)に対してパニングした。プレートを、ブロッカーカゼイン(Pierce社製)によってブロッキングした。2時間後に、未結合のファージを反復して洗浄(PBS、0.05%のTween20)して除去し、結合したファージを、500mMのKCl、10mMのHCl、pH2で溶出させた。各HSAに特異的なパニングラウンドの後、得られるクローンを選抜するか、又はTNFαに対する結合を解析した。TNF−αに対する特異性に関する選抜及試験は、国際公開第2004/041862の実施例1に記載のように実施した。
【0273】
抗原としてのFcRn:
国際公開第02/060919号パンフレット(実施例6.2)に説明されるようにパニングを実施した。簡潔には、ファージライブラリを5mlの20mMのMES(pH6.0/5%スキムミルク/0.05%のTween20)中に再懸濁し、事前に1マイクログラムのマウスFcRnでコーティングし、5%のスキムミルクでブロックしたMaxisorp免疫プレート(Nunc社製)の20ウェルに添加した(5×1012PFU/ml/ウェルで、100μL)。37℃で2時間培養した後、ウェルを、20mMのMES(pH6.0/0.2%のTween20/0.3MのNaCl)で10〜30回洗浄し、100μLのPBS(pH7.4/ウェル)によって37℃で30分間処理し、ファージを溶出させた。実施例3のように、ファージを用いて、指数関数的に増殖する大腸菌TG1に再度感染させた。FcRn上の各パニングラウンドの後、得られるクローンを選抜し、又はTNFαへの結合を解析した。
【0274】
抗原としてのFc−γ受容体:
Fc−γRI、Fc−γRIIA及びFc−γRIIAの組換え融合タンパク質に対するパニングは、Berntzenら(2006)Protein Eng Des SeI 19:121−128に記載のとおり実施した。Fc受容体上の各パニングラウンドの後、得られるクローンを選抜するか、又は上記の通りにTNFαに対する結合を解析した。
【0275】
実施例9:
この実施例は、新規な機能又は更なる結合特性を抗体断片にもたらす可能性を示すものである。修飾の開始材料として使用する分子は、マウス単鎖抗体断片sFv26−10(Hustonら、(1988)Proc Natl Acad Sci USA.85:5879−5883)である。5つの異なるライブラリを構築し、ランダムアミノ酸配列によって、それぞれの構造ループ配列を修飾した:
【0276】
ライブラリ26−10−1:(配列番号34)
【表10】

【0277】
ライブラリ26−10−2:(配列番号35)
【表11】

【0278】
ライブラリ26−10−3:(配列番号36)
【表12】

【0279】
ライブラリ26−10−4:(配列番号37)
【表13】

【0280】
ライブラリ26−10−5:(配列番号38)
【表14】

【0281】
ライブラリは配列の逆翻訳によって得られ、ランダム化されたアミノ酸を、3つの連続するヌクレオチドNNKとしてコードする。
【0282】
ライブラリ26−10−1遺伝子:(配列番号39)
【表15】

【0283】
ライブラリ26−10−2遺伝子:(配列番号40)
【表16】

【0284】
ライブラリ26−10−3遺伝子:(配列番号41)
【表17】

【0285】
ライブラリ26−10−4遺伝子:(配列番号42)
【表18】

【0286】
ライブラリ26−10−5遺伝子:(配列番号43)
【表19】

【0287】
それぞれの遺伝子を、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドでアセンブルし、上記の通りファージ表面ディスプレイのためのファージディスプレイベクターにクローニングした。リーダーペプチド、sFv−変異型の及びファージのコートプロテインIIIとのインフレーム翻訳を可能にすべく、必要な修飾を行った。
【0288】
ファージディスプレイされたライブラリを、実施例8にて説明したように、ヒト血清アルブミン、リゾチーム、FcRn及びFcγ受容体への結合により選抜した。あるいは、遺伝子を、Binzその他、(2005)Nat Biotechnol.22:575−582に記載の方法でベクターpRDVアナログとライゲーションし、Schaffitzelその他、(1999)J Immunol Methods 231:119−135に記載の方法で、ヒト血清アルブミン、Fc受容体及びリゾチームに関してパニングした。
【0289】
実施例10:
HIV−ペプチドELDKWAに特異的なヒト抗体(2F5)を、構造ループのランダム化のための足場として用い、scFvとして発現させた。発現ベクター及びファージディスプレイベクターの構築を、実施例9にて説明したように実施した。ファージ選抜も同様に実施した。
【0290】
野生型scFv配列及びそれぞれのライブラリを図5から8に示す。
【0291】
実施例11:Fabライブラリ(定常ドメインの構造ループがランダム化)
免疫グロブリンドメイン(構造ループに位置する残基がランダム化)のライブラリからの特異的結合分子の選抜のために、様々なフォーマットを適用できる。シングルドメイン(例えばVL、VH、CH1、CH2、CH3、CH4又はCLドメイン)が使用でき、CH2及びCH3ドメインからなるFc断片(ヒンジ部位又はそのパーツを含むか又は含まない)が使用でき、Fv又は単鎖Fv断片を使用でき、全長抗体を使用でき、又は免疫グロブリンドメインの他の組合せを使用できる。特異的結合分子の選抜のために特に好適な1つのフォーマットはFab断片であり、それは2つの鎖(すなわち抗体のVL−CL部分と、VH−CH1部分)のヘテロ二量体である。Fab断片は従来公知で、プロテアーゼのパパインによるIgGのタンパク質分解によって調製でき、それらは広範囲にわたる発現システム(例えば大腸菌、酵母、Pichia pastoris、昆虫細胞又は哺乳動物細胞)においてリコンビナント的に調製することもできる。
【0292】
表層ディスプレイシステム、例えばファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、及びリボソームディスプレイなどの他のシステムが、特異的結合分子(例えば大きなライブラリからのFab断片)の濃縮及び選抜に使用できることは公知である(例えばHoogenboom HR,Griffiths AD,Johnson KS,Chiswell DJ,Hudson P,Winter G.、Multi−subunit proteins on the surface of filamentous phage:methodologies for displaying antibody(Fab) heavy and light chains.Nucleic Acids Res.1991 Aug 11;19(15):4133−7.;Kang AS,Barbas CF,Janda KD,Benkovic SJ,Lerner RA.Linkage of recognition and replication functions by assembling combinatorial antibody Fab libraries along phage surfaces.Proc Natl Acad Sci U S A.1991 May 15; 88 (10):4363−6.;Kang X,Yang BA,Hu Y,Zhao H,Xiong W,Yang Y,Si B,Zhu Q.Human neutralizing Fab molecules against severe acute respiratory syndrome coronavirus generated by phage display.Clin Vaccine Immunol.2006 Aug; 13 (8):953−7.;Weaver−Feldhaus JM,Lou J,Coleman JR,Siegel RW,Marks JD,Feldhaus MJ.Yeast mating for combinatorial Fab library generation and surface display. FEBS Lett.2004 Apr 23;564(1−2):24−34.).
【0293】
例えば、ファージディスプレイシステムがFab断片(例えばFab断片のライブラリ)のディスプレイのために適用される場合、Fab断片の1つの鎖(例えばVH−CH1鎖)を、例えばファージM13のプロテインIIIとの融合タンパク質として発現させることができ、それによりファージ表面上にこの鎖がディスプレイされ、一方、他の鎖(VL−CL)が可溶形態として発現され、表面にアンカーされたVH−CH1鎖と天然ヘテロ二量体を形成する。典型的なFab表面ディスプレイライブラリにおいて、異なるVH及びVL配列が存在し、それはドナーから得られ、典型的にはマウス又はヒトから得られる。しかしながら、その多様性はin vitroによる方法(例えばサイト誘導された突然変異生成)により生じる。それにより様々な結合部位が得られ、適切なディスプレイ又は他の強化又は選抜方法を用いて、かかるライブラリから、VH及びVLにより形成される結合部位を経てそれらの結合パートナーと結合する特異的結合クローンを単離できる。
【0294】
Fab断片を調製することにより、VH及びVLにより形成されるそれらの天然の結合部位を経て1つの標的と結合させることができ、またそれらの構造ループにより形成される結合部位を経て他の結合(又は同じものに2回目の結合)を形成させることもできる。かかるデザインされたFab断片を得るために、構造ループの残基がランダム化された配列と置換されている、Fabのライブラリを最初に構築した。更なる残基の挿入を行ってもよい。この方法によりデザインできる構造ループは、VH若しくはVLのC末端ループ(「ボトム」ループ)、又はCH1若しくはCLドメインのN端末(「トップ」ループ)又はC末端(「最後の」ループ)であってもよい。これらのいずれかの位置でデザインされた構造ループを有するドメインの様々な組合せを行ってもよい。特異的結合ドメインの選抜に使用できる1つのフォーマットは、シングルドメイン、Fv又は単鎖Fv断片、又は以下に詳細に記載のFabフラグメントである。
【0295】
抗体4D5のそれぞれVH−CH1及びVL−CLをコードする遺伝子(ヒトHer2と結合する)を、本実施例に使用する(Cho HS,Mason K,Ramyar KX,Stanley AM,Gabelli SB,Denney DW Jr,Leahy DJ.Structure of the extracellular region of HER2 alone and in complex with the Herceptin Fab.Nature.2003 Feb 13;421(6924):756−60)。上記遺伝子の4D5 VL−CL部分をコードする部分、その5’末端のNcoI部位にインフレームで連結させた、ファージミドベクターpHEN1中のpelBシグナル配列、並びに停止コドンを有する合成遺伝子を構築した(Hoogenboom HR,Griffiths AD,Johnson KS,Chiswell DJ,Hudson P,Winter G.Multi−subunit proteins on the surface of filamentous phage:methodologies for displaying antibody (Fab) heavy and light chains.Nucleic Acids Res.1991 Aug 11;19(15):4133−7)。CLへのVLからの配列置換で、特有のBsiWI制限部位が形成され、それを更に用いて、野生型CL配列を、VL−CLをコードする遺伝子の停止コドンの下流に位置する固有のAsc1制限酵素部位との組合せで、ランダム化された構造ループを有するライブラリインサートへの置換を行った。それは、Carterその他から得られるリボソーム結合部位(シャイン−ダルガノ配列)を含む配列に続き(Carter P,Kelley RF,Rodrigues ML,Snedecor B,Covarrubias M,Velligan MD,Wong WL,Rowland AM,Kotts CE,Carver ME,et al. High level Escherichia coli expression and production of a bivalent humanized antibody fragment.Biotechnology(NY).1992 Feb;10(2):163−7)、その後に抗体4D5のVH−CH1をコードする部分にインフレームで融合する熱安定エンテロトキシンII(stll)シグナル配列をコードする遺伝子部分が続き、更にベクターpHEN1へインフレーム挿入されたNotI部位が続く。このジシストロン構築物は、一方ではVL−CLを発現させ(そのタンパク質配列を配列番号44に示す)、一方ではファージM13のプロテインIIIに融合したVH−CH1(pHEN1にコードされる)(そのタンパク質配列を配列番号45に示す)を発現させる。4D5 Fabディスプレイベクターの全配列を、配列番号46のヌクレオチド配列として示す。
【0296】
構造ループの残基がランダム化されたCLドメインのライブラリの構築のため、ヒトκ定常ドメイン(CL)をコードする合成遺伝子を作製した。特定のコドンが縮重コドンで置換されている(例えばNNB(IUPACコード、NはC、G、T及びAであり、BはT、C及びGである)。更なる残基を配列に挿入することも可能である。この例では、3つ、4つ又は、5つの残基を、残基127と128の間にそれぞれ挿入し、残基182−185及び187−189をランダム化した(カバット付番)。得られる遺伝子の配列を、配列番号47、48及び49(それぞれ残基127と128の間に3つ、4つ又は、5つの挿入)のヌクレオチド配列として示し、また配列番号50、51及び52(文字Xは20の自然にコードされたアミノ酸のいずれか)のアミノ酸配列としても示す。上記ヌクレオチド配列は、クローニングのため、5’末端にBsiWI部位を、また3’末端にAscI部位を導入した(配列番号46)。
【0297】
ファージディスプレイライブラリを構築するために、Fab 4D5ディスプレイベクター(配列番号46)を、制限酵素BsiWI及びAscIで切断し、大きな断片を、調製用のアガロースゲル電気泳動により調製した。小さい断片(野生型CLをコードする遺伝子に対応する)を単離した。上記ライブラリインサートの混合物(配列番号47から49)を同様にBsiWI及びAscIで切断し、精製されたベクター断片にライゲーションした。ライゲーション混合物は例えばエレクトロポレーションによって、TG1などの適切なE.coliを形質転換し、多数の独立コロニーを発生させる(例えば10exp8、10exp9又はそれ以上)。形質転換させた細菌をプールし、ファージ粒子のレスキューのため、ヘルパーファージ(例えばM13K07)に感染させた。ファージ粒子を、標準的方法によって調製し、ライブラリのパニングに用いた。
【0298】
所定の標的に対するライブラリのパニングにより、Her2に結合するのみならず、(抗体4D5のVH及びVLによって形成される結合部位により)選抜の対象となる標的にも結合する、Fab断片を得た。
【0299】
この実施例において、Fabディスプレイライブラリのデザイン、調製及び使用(CLドメインの構造ループが修飾されている)を記載した。同様の方法により、他のドメイン(例えばCH1、VH又はVLドメイン)の構造ループをランダム化したライブラリを調製し、使用できることは明白である。
【0300】
配列番号44
【表20】

【0301】
配列番号45
【表21】

【0302】
配列番号46
【表22】

【表23】

【表24】

【0303】
配列番号47
【表25】

【0304】
配列番号48
【表26】

【0305】
配列番号49
【表27】

【0306】
配列番号50
【表28】

【0307】
配列番号51
【表29】

【0308】
配列番号52
【表30】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリンのエンジニアリング方法であって、
前記免疫グロブリンが、可変ドメインと、前記免疫グロブリンの少なくとも2つの構造ループ中の少なくとも1つの修飾と、を有し、抗原エピトープに対する前記免疫グロブリンの結合を決定し、未修飾の免疫グロブリンが前記エピトープと顕著に結合せず、
前記方法が、
−少なくとも2つの構造ループからなる免疫グロブリンをコードする核酸を準備するステップと、
−前記構造ループの各々の少なくとも1つのヌクレオチド残基を修飾するステップと、
−発現システム中に前記修飾された核酸を移すステップと、
−前記修飾免疫グロブリンを発現させるステップと、
−エピトープと発現された修飾免疫グロブリンとを接触させるステップと、
−前記修飾免疫グロブリンが前記エピトープと結合するか否かを測定するステップと、
を有してなる方法。
【請求項2】
前記免疫グロブリンが、少なくとも2つの異なるエピトープに特異的に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記免疫グロブリンが、ヒト、ラクダ科の動物又はマウス由来である、請求項1から2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
前記可変ドメインがVH、Vκ、Vλ、VHH及びそれらの組み合わせのからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
VH、Vκ、Vλ又はVHHのループが、アミノ酸7〜21、アミノ酸25〜39、アミノ酸41〜81、アミノ酸83〜85、アミノ酸89〜103又はアミノ酸106〜117の範囲内で少なくとも1つの修飾を有し、ドメインのアミノ酸位の付番がIMGTに従う、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ヒト由来のVH、Vκ又はVλのループが、アミノ酸8〜20、アミノ酸44〜50、アミノ酸67〜76及びアミノ酸89〜101、最も好ましくはアミノ酸位12〜17、アミノ酸位45〜50、アミノ酸位69〜75及びアミノ酸位93〜98の範囲内で少なくとも1つの修飾を有し、ドメインのアミノ酸位の付番がIMGTに従う、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
マウス由来のVHのループが、アミノ酸6〜20、アミノ酸44〜52、アミノ酸67〜76及びアミノ酸92〜101の範囲内で少なくとも1つの修飾を有し、ドメインのアミノ酸位の付番がIMGTに従う、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ラクダ科の動物由来のVHHのループが、アミノ酸7〜18、アミノ酸43〜55、アミノ酸68〜75及びアミノ酸91〜101の範囲内で少なくとも1つの修飾を有し、ドメインのアミノ酸位の付番がIMGTに従う、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記修飾免疫グロブリンが、1つ以上の修飾免疫グロブリン又は未修飾の免疫グロブリン又はその部分と更に組み合わせ、組合せ免疫グロブリンを得る、請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記免疫グロブリンが組換え技術によって組み合わされている、請求項9記載の方法。
【請求項11】
核酸中の少なくとも1つのヌクレオチドの修飾により、前記核酸によってコードされる免疫グロブリンの1つ以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入が生じる、請求項1から10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記構造ループ中の各々の少なくとも1つのアミノ酸が、部位特異的ランダム変異導入により修飾される、請求項1から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
ランダムに修飾された前記核酸分子が、配列5’−NNS−3’、5’−NNN−3’又は5’−NNK−3’を有する少なくとも1つのヌクレオチドの反復単位を有してなる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
免疫グロブリンのライブラリの調製への、請求項1から13のいずれか1項記載の方法により得られる免疫グロブリンの使用。
【請求項15】
少なくとも2つの構造ループに修飾を有し、請求項1から13のいずれか1項記載の方法により得られる、少なくとも10個の免疫グロブリンを有してなるライブラリ。
【請求項16】
少なくとも2つの構造ループに少なくとも4つのアミノ酸変異を有する免疫グロブリンを有してなる、請求項15記載のライブラリ。
【請求項17】
構造ループ中に修飾を有する可変ドメインを有する少なくとも10個の免疫グロブリンを有してなる、請求項15又は16記載のライブラリ。
【請求項18】
各ドメインの構造ループに少なくとも1つの修飾を有する少なくとも2つの修飾された可変ドメインを有する免疫グロブリンを有してなる、請求項15から17のいずれか1項記載のライブラリ。
【請求項19】
少なくとも2つの構造ループに少なくとも4つの修飾を有する免疫グロブリンを有してなる、請求項15から18のいずれか1項記載のライブラリ。
【請求項20】
各単鎖免疫グロブリンの構造ループに少なくとも2つの修飾を有する修飾された単鎖免疫グロブリンを有する少なくとも10個の免疫グロブリンを有してなる、請求項15から19のいずれか1項記載のライブラリ。
【請求項21】
各VHHドメインの構造ループに少なくとも2つの修飾を有する修飾されたVHHドメインを有する少なくとも10個の免疫グロブリンを有してなる、請求項15から20のいずれか1項記載のライブラリ。
【請求項22】
各ヒト抗体の構造ループ領域に少なくとも2つの修飾を有する修飾されたヒト抗体を含む少なくとも10の免疫グロブリンを有してなる、請求項15から21のいずれか1項記載のライブラリ。
【請求項23】
各Fab断片の構造ループ領域に少なくとも2つの修飾を有する修飾されたFab断片を有する少なくとも10個の免疫グロブリンを有してなる、請求項15から22のいずれか1項記載のライブラリ。
【請求項24】
VH、Vκ、Vλ及びVHHからなる群から選択される免疫グロブリンを有してなる、請求項15から23のいずれか1項記載のライブラリ。
【請求項25】
請求項1から13のいずれか1項記載の方法により得られ、構造ループ中に、少なくとも2つの修飾による抗原特異的な結合部位を有する、修飾免疫グロブリン。
【請求項26】
前記抗原がヒト血清アルブミンである、請求項25記載の修飾免疫グロブリン。
【請求項27】
前記抗原がFc受容体である、請求項26記載の修飾免疫グロブリン。
【請求項28】
分子を特異的に結合させる及び/又は検出する方法であって、
(a)請求項15から24のいずれか1項記載の修飾免疫グロブリンのライブラリか、又は請求項1から13のいずれか1項記載の方法により得られる修飾免疫グロブリンと、前記分子を含有する試験サンプルと、を接触させるステップと、
(b)特異的な免疫グロブリン/分子複合体の潜在的形成を検出するステップと、
を有してなる方法。
【請求項29】
分子に特異的に結合する修飾免疫グロブリンを分離する方法であって、
(a)請求項15から24のいずれか1項記載の修飾免疫グロブリンのライブラリか、又は請求項1から13のいずれか1項記載の方法により得られる修飾免疫グロブリンと、前記分子を含有するサンプルと、を接触させるステップと、
(b)形成された特異的な修飾免疫グロブリン/分子複合体を分離するステップと、
(c)任意に修飾免疫グロブリンを前記複合体から分離するステップと、
を有してなる方法。
【請求項30】
結合パートナーのキットであって、
(a)請求項15から24のいずれか1項記載の修飾免疫グロブリンのライブラリか、又は、請求項1から13のいずれか1項記載の方法によって得た修飾免疫グロブリンと、
(b)抗原のエピトープを含有する結合分子と、
を有してなるキット。
【請求項31】
請求項15から24のいずれか1項記載の修飾免疫グロブリンをライブラリから選抜するための、請求項30記載のキットの結合分子の使用。
【請求項32】
少なくとも2つの修飾された構造ループを有し、各構造ループ中の少なくとも1つのアミノ酸が、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、セリン、メチオニン、アラニン及びアスパラギンからなる群から選択されるアミノ酸で修飾されている、変異型可変ドメインポリペプチド。
【請求項33】
少なくとも1つの修飾された構造ループが、前記アミノ酸のうちの少なくとも2つを有する、請求項32記載の変異型可変ドメインポリペプチド。
【請求項34】
修飾免疫グロブリン又は免疫グロブリン可変ドメインがヒト由来又はヒト化免疫グロブリン可変ドメインであって、
位置12〜17、45〜50、69〜75及び93〜98のいずれか1つにおける少なくとも1つのチロシン、
及び/又は、位置12〜17、位置45〜50、69、71〜75、93〜94及び96〜98のいずれか1つにおける少なくとも1つのトリプトファン、
及び/又は、12〜17、46、47、49、50、69〜74、及び93〜98のいずれか1つにおける少なくとも1つのヒスチジン、
及び/又は、位置12〜17、45〜47、49、50、70〜73、75、94〜96及び98のいずれか1つにおける少なくとも1つのアスパラギン、
及び/又は、位置12〜17、46〜50、69〜71、73〜75、93、95、96及び98のいずれか1つにおける少なくとも1つのメチオニン、
及び/又は、位置13、71、75、94、95及び98のいずれか1つにおける少なくとも1つのセリン、
及び/又は、位置12、14〜17、45〜50、69、70、72〜75、93及び96〜98のいずれか1つにおける少なくとも1つのイソロイシン、
及び/又は、位置15、46、48、70〜73、75、93、95及び98のいずれか1つにおける少なくとも1つのフェニルアラニンを有する、請求項32又は33記載の変異型可変ドメインポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−541361(P2009−541361A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516819(P2009−516819)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際出願番号】PCT/AT2007/000343
【国際公開番号】WO2008/003116
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(509000552)
【Fターム(参考)】