説明

免疫グロブリン融合タンパク質製剤

本発明は、Ig融合タンパク質の組成物、特に、Ig融合タンパク質、充填剤、二糖類、界面活性物質、および緩衝剤を含む組成物を提供する。1つの態様において、これらの組成物は長期にわたる保管または少なくとも1回の冷凍/解凍サイクルのもとで安定である。本発明はまた、Ig融合タンパク質組成物の調製方法も提供する。1つの態様において、本発明の組成物は凍結乾燥されている。さらなる態様において、前記組成物はアニーリング工程を含むプロセスにより凍結乾燥される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2005年11月22日に出願された米国特許出願60/739271に対して優先権を主張する。
【0002】
本発明は、タンパク質製剤の分野に関する。より具体的には、本発明は免疫グロブリン(Ig)融合タンパク質を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
バイオテクノロジーにおける進歩により、医薬用途のための多種多様なタンパク質を生産することが可能になっている。生産の後、タンパク質医薬品は使用の前に保管しなくてはならないことが多い。タンパク質が「従来の」医薬品よりも通常大きく複雑であるという事実に一部起因して、保管に適したタンパク質医薬品の製剤化および加工は特に困難なものになることがある。タンパク質医薬品の製剤化および加工の設計の総説については、Carpenterら、Pharmaceutical Research 14:969−975(1997);Wang、International Journal of Pharmaceutics 203:1−60(2000);ならびにTangおよびPikalら、Pharmaceutical Research 21:191−200(2004)を参照されたい。
【0004】
タンパク質医薬品の生産のための製剤化および加工の設計において、いくつかの要素を考慮することができる。第一に考えることは、組成物の調製、冷凍、乾燥、保管、輸送、復元、冷凍/解凍サイクル、および最終消費者による復元後の保管を含み得る、製造工程、輸送工程および取扱工程のいずれかまたは全てを通してのタンパク質の安定性である。他の考えられる考慮事項には、製造、取扱および販売の容易性および経済性、患者への投与のための最終生産物の組成、ならびに、復元の際の凍結乾燥製剤の溶解度を含む最終消費者による使用の容易性が含まれる。
【0005】
液体製剤はある特定の目的を満たし得る。液体製剤の考えられる有利性には、製造の容易性および経済性、ならびに最終消費者にとっての利便性が含まれる。
【0006】
凍結乾燥製剤もまた、ある特定の有利性を提供し得る。凍結乾燥の、期待される利点には、輸送および保管の容易性および経済性に加えて、タンパク質の安定性の向上が含まれる。
【0007】
組成物の基本形態(例えば、凍結乾燥、液体、冷凍など)の選択に加えて、タンパク質製剤の最適化は、典型的には、タンパク質の安定性を最大にするように製剤の構成成分とそれらのそれぞれの濃度を変更することを伴う。イオン強度、pH、温度、冷凍/解凍サイクル、せん断力、冷凍、乾燥、撹拌、および復元を含む様々な要素がタンパク質の安定性に影響し得る。タンパク質の不安定性は、物理的分解(例えば変性、凝集、もしくは沈殿)または化学的分解(例えば脱アミド、酸化、もしくは加水分解)に起因し得る。製剤の構成成分および濃度の最適化には、不安定性の原因を克服するための実験的研究および/または論理的アプローチが含まれ得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、様々なタンパク質の安定的な保管を可能にする、タンパク質医薬品の様々なクラス、特に免疫グロブリン(Ig)融合タンパク質に適した製剤を提供する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、長期にわたる保管の間および/または1回もしくは複数回の冷凍/解凍サイクルの後に十分に安定なIg融合タンパク質を含むある特定の組成物の発見に少なくとも部分的に基づいている。本発明は、Ig融合タンパク質と、少なくとも以下の4つの非タンパク質性の構成成分:(1)充填剤、(2)二糖類、(3)界面活性物質、および(4)緩衝剤とを含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前記組成物はさらにNaClを含む。前記組成物はアルギニンまたはシステインを含まない。
【0010】
Ig融合タンパク質は当技術分野で知られており、例えば、米国特許第5516964号、米国特許第5225538号、米国特許第5428130号、米国特許第5514582号、米国特許第5714147号、米国特許第5455165号、および米国特許第6136310号に記載されている。いくつかの実施形態において、Ig融合タンパク質は酸性であり、例えば、6.0より小さいpIを有するIg融合タンパク質である。例示的な実施形態において、酸性のIg融合タンパク質はPSGL−Ig、GP1b−Ig、IL−13R−Ig、およびIL−21R−Igである。
【0011】
いくつかの実施形態において、Ig融合タンパク質は極めて酸性であり、例えば、4.0より小さいpIを有するIg融合タンパク質である。例示的な実施形態において、極めて酸性のIg融合タンパク質はPSGL−Igである。
【0012】
いくつかの実施形態において、Ig融合タンパク質の非Ig部分はサイトカイン受容体であり、例えばインターロイキン受容体である。例示的な実施形態において、サイトカイン受容体はIL−13RおよびIL−21Rである。
【0013】
いくつかの実施形態において、Ig融合タンパク質の非Ig部分は硫酸化、リン酸化、および/またはグリコシル化されている。例示的な実施形態において、硫酸化されたIg融合タンパク質はPSGL−IgおよびGP1b−Igである。例示的な実施形態において、グリコシル化されたIg融合タンパク質はPSGL−Ig、GP1b−Ig、およびIL−13R−Igである。いくつかの実施形態において、グリコシル化されたIg融合タンパク質はフコシル化および/またはシアル化されている。例示的な実施形態において、フコシル化されたIg融合タンパク質はPSGL−IgおよびGP1b−Igである。例示的な実施形態において、シアル化されたIg融合タンパク質はPSGL−Ig、GP1b−Ig、およびIL−13R−Igである。
【0014】
充填剤の例示的な例には、グリシンおよびマンニトールが含まれる。例示的な二糖類には、ショ糖およびトレハロースが含まれる。界面活性物質の例示的な例には、ポリソルベート20およびポリソルベート80が含まれる。緩衝剤の例示的な例には、アミン緩衝剤およびリン酸緩衝剤が含まれる。アミンベースの緩衝剤の例示的な例には、ヒスチジンおよびトロメタミン(Tris)が含まれる。
【0015】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物の構成成分は所定の濃度範囲で存在する。いくつかの実施形態において、タンパク質の濃度は0.025〜60mg/mlであり、充填剤の濃度は0.5〜5%であり、二糖類の濃度は0.5〜5%であり、界面活性物質の濃度は0.001〜0.5%であり、これらは全て互いに独立している。いくつかの実施形態において、NaClの濃度は1〜200mMである。ある特定の実施形態において、NaClの濃度は35mM未満である。詳細な実施形態において、医薬組成物は1〜4%の充填剤、0.5〜2%の二糖類、および0.005〜0.02%の界面活性物質を含む。例示的な実施形態において、組成物は2%の充填剤、1%の二糖類、および0.01%の界面活性物質を含む。
【0016】
本発明はさらに、製剤の物理的状態にも関する。本発明は、限定はしないが、液体の、冷凍された、凍結乾燥された、および復元された製剤である。
【0017】
本発明はさらに、アニーリング工程を含むプロセスにより組成物を凍結乾燥する方法を含む、本発明の組成物を作製する方法を提供する。
【0018】
上述の概要および以下の詳細な記載は、本発明を例示および説明するものにすぎず、特許請求の範囲に記載されているように、制限するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、Ig融合タンパク質を含む組成物を提供する。本発明は、Ig融合タンパク質、緩衝剤、二糖類、充填剤、および界面活性物質を含む組成物が、長期にわたる保管および/または1回もしくは複数回の冷凍/解凍サイクルに対して十分に安定となるという発見に少なくとも部分的に基づいている。本発明はまた、Ig融合タンパク質を調製する方法も提供する。
【0020】
融合タンパク質
本発明は、免疫グロブリン(Ig)融合タンパク質を含む組成物を提供する。
【0021】
Ig融合タンパク質は、(a)(b)に連結している非Ig部分と、(b)免疫グロブリンの定常領域に由来するIg部分とを含むタンパク質である。
【0022】
いくつかの実施形態において、Ig融合タンパク質は酸性であり、例えば、6.0、5.5、5.0、4.5、4.0、3.5、3.0、または2.5より小さい等電点(pI)を有するIg融合タンパク質である。例示的な実施形態において、例えば、酸性のIg融合タンパク質はPSGL−Ig、GP1b−Ig、IL−13R−Ig、およびIL−21R−Igである。タンパク質の等電点とは、タンパク質の正味の電荷が0であるpHである。目的のタンパク質の等電点を決定するための方法は当技術分野で周知であり、限定はしないが、タンパク質のアミノ酸配列に基づいた理論的計算、および等電点電気泳動(IEF)によるpIの直接の測定が含まれる。Skoog,B.およびWichman,A.、Trends Anal.Chem.5:82−83(1986);Patrickios,C.S.およびYamasaki,E.N.、Anal.Biochem.、231:82−91(1995);Albertsら、Molecular Biology of the Cell、第3版、171頁(1994)。
【0023】
いくつかの実施形態において、Ig融合タンパク質は極めて酸性であり、例えば、4.0、3.5、3.0、または2.5より小さいpIを有するIg融合タンパク質である。例示的な実施形態において、極めて酸性のIg融合タンパク質はPSGL−Igである。
【0024】
いくつかの実施形態において、Ig融合タンパク質の非Ig部分は受容体に由来し、例えばサイトカイン受容体に由来する。例示的な実施形態において、サイトカイン受容体はインターロイキン受容体である。例示的な実施形態において、サイトカイン受容体はIL−13RおよびIL−21Rである。他のサイトカイン受容体を用いてもよく、例えばCytokine Reference、第2巻:Receptors、OppenheimおよびFeldman編、Academic Press、2001に記載されているサイトカイン受容体を用いてもよい。
【0025】
いくつかの実施形態において、Ig融合タンパク質は、硫酸化、リン酸化、および/またはグリコシル化されている非Ig部分を含む。例示的な実施形態において、硫酸化されたIg融合タンパク質はPSGL−IgおよびGP1b−Igである。例示的な実施形態において、グリコシル化されたIg融合タンパク質はPSGL−Ig、GP1b−Ig、およびIL−13R−Igである。いくつかの実施形態において、グリコシル化されたIg融合タンパク質はフコシル化および/またはシアル化されている。例示的な実施形態において、フコシル化されたIg融合タンパク質はPSGL−IgおよびGP1b−Igである。例示的な実施形態において、シアル化されたIg融合タンパク質はPSGL−Ig、GP1b−Ig、およびIL−13R−Igである。タンパク質の硫酸化、リン酸化、およびグリコシル化の検出および解析の方法は当技術分野で周知であり、例えば、Posttranslational Modifications of Proteins: Tools for Functional Proteomics (Methods in Molecular Biology)、Christoph Kannicht編(2002)に記載されている。
【0026】
いくつかの実施形態において、Ig融合タンパク質のIg部分は、免疫グロブリン、例えば、ヒト、マウス、または他の種のIgG(IgG、IgG、または別のIgGアイソタイプ)のFcドメインに由来し、天然の状態で生じるIg配列の機能的部分ならびにこのような配列の突然変異および修飾を含む。様々なFcドメインの配列が当技術分野で周知であり、例えば、Sequences of Proteins of Immunological Interest、US Department of Health and Human Services、Kabatら編、1991で提供されている。Ig部分は、以下のFcドメインの部分:CH1、CH2、CH3、およびヒンジ領域のいずれか1つまたは全てを含み得る。例えば、Fcドメインは、CH2、CH3、およびヒンジ領域を含むがCH1を含まないものであり得る。
【0027】
さらに、Ig融合タンパク質は、非Ig部分とIg部分とを繋ぐリンカーを含み得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物におけるIg融合タンパク質の濃度は、100mg/ml未満、90mg/ml未満、80mg/ml未満、70mg/ml未満、60mg/ml未満、50mg/ml未満、40mg/ml未満、30mg/ml未満、20mg/ml未満、15mg/ml未満、10mg/ml未満、または5mg/ml未満である。いくつかの実施形態において、本発明の組成物におけるIg融合タンパク質の濃度は、約0.025〜約60mg/ml、約0.025〜約40ml/ml、約0.025〜約20mg/ml、または約0.025〜約10mg/mlの範囲から選択される。例示的な実施形態において、Ig融合タンパク質の濃度は約10mg/mlである。
【0029】
緩衝剤
本発明の組成物は、pHを所望の範囲に維持する働きを一部で有する緩衝剤を含む。本発明における使用に適した緩衝剤には、限定はしないが、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤およびアミン緩衝剤が含まれる。リン酸緩衝剤は例えば、リン酸カリウムまたはリン酸ナトリウムであり得る。アミン緩衝剤は例えば、ヒスチジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(「tris」)、またはジエタノールアミンであり得る。
【0030】
本発明の組成物における緩衝剤の濃度は、約1〜約1000mM、約1〜約200mM、約1〜約100mM、約1〜約50mM、約1〜約40mM、約1〜約30mM、約1〜約20mM、または約1〜約10mMの範囲から選択し得る。例示的な実施形態において、組成物における緩衝剤の濃度は約10mMである。
【0031】
本発明の組成物のpHは、4〜10、5〜9、好ましくは6〜8の範囲から選択し得る。注射する組成物のpHを生理的レベルまたはそれに近いものに設定することにより、患者の不快を最小限にし得る。そのためには、医薬組成物のpHが約5.8〜約8.4であることが好ましく、またはより好ましくは、約6.2〜約7.4である。これらの範囲の内側または外側での通常のpH調整が、組成物のポリペプチドまたは他の構成成分の溶解度または安定性を向上させるために必要であろう。
【0032】
二糖類
本発明の組成物はさらに二糖類を含む。好ましくは、二糖類は非還元糖であり、例えばショ糖またはトレハロースである。ある特定の実施形態において、組成物における二糖類の濃度は、0.5〜5%、0.5〜4%、0.5〜3%、0.5〜2.5%、0.5〜2%、0.5〜1.5%、0.5〜1%、1〜1.5%、1.5〜2%、2〜2.5%、2.5〜3%、3〜4%、4〜5%、または5%超の範囲から選択される。詳細な実施形態において、組成物における二糖類の濃度は約0.5〜5%であり、例えば約0.5〜2.0%である。例示的な実施形態において、二糖類の濃度は0.9または1.0%である。
【0033】
1つの態様において、二糖類は冷凍の間タンパク質を安定化させる働きを有する。冷凍の間の保護は二糖類の絶対濃度に依存するため(Carpenterら、Pharmaceutical Research 14:969−975(1997))、安定性を最大にするためには5%より高い濃度が必要であろう。
【0034】
1つの態様において、二糖類は乾燥の間タンパク質を安定化させる。乾燥の間の保護は二糖類とタンパク質との間の最終質量の比率に依存し得る。Carpenterら、Pharmaceutical Research 14:969−975(1997)。したがって、いくつかの実施形態において、二糖類の濃度は、典型的には少なくとも1:1である、タンパク質に対する二糖類の所望の質量比を達成するように選択される。いくつかの実施形態において、二糖類:タンパク質の質量比が約5:1の時に安定性は最適となる。他の実施形態において、二糖類:タンパク質の質量比は10:1、20:1、30:1、40:1、50:1、100:1、200:1、300:1、400:1、500:1、600:1、700:1、800:1、900:1、1000:1であるか、または1000:1より高い。
【0035】
二糖類は凍結乾燥保護剤および凍結保護剤として作用し得る。「凍結乾燥保護剤」には、凍結乾燥およびその後の保管の際のタンパク質の化学的または物理的不安定性を防ぐかまたは軽減させる物質が含まれる。1つの態様において、凍結乾燥保護剤は、乾燥プロセスの間に組成物から水分が除去される際の、タンパク質における化学的または物理的不安定性を防ぐかまたは軽減させる。さらなる態様において、凍結乾燥保護剤は、水素結合を介したタンパク質の適切な立体構造の維持を促すことによりタンパク質を安定化させる。
【0036】
「凍結保護剤」には、生産、冷凍、保管、取扱、販売、復元、または使用の間、冷凍タンパク質に安定性を付与する物質が含まれる。詳細な態様において、「凍結保護剤」には冷凍プロセスにより生じるストレスからタンパク質を保護する物質が含まれる。凍結保護剤は凍結乾燥保護剤の効果を有し得る。
【0037】
充填剤
本発明の組成物はさらに、グリシンおよびマンニトールである1つまたは複数の充填剤を含む。充填剤は、凍結乾燥された固形物の質量および物理的構造に寄与する働きを有する。1つの態様において、充填剤は美しい固形物の形成に寄与する。より具体的には、充填剤は、審美的に許容可能な、均一な、または機械的に強い固形物の形成を促進する。充填剤はまた、開孔構造の形成と、復元の容易性および速度とを促進する。充填剤はまた、固形物の崩壊、共晶融解、または残余水蒸気の保持を軽減させるかまたは防ぐ。別の態様において、充填剤は、ストレス(例えば物理的および化学的ストレス)に対するタンパク質の保護を促し、タンパク質活性の維持を促す。
【0038】
ある特定の実施形態において、組成物における充填剤の濃度は、0.5〜1%、1〜1.5%、1.5〜2%、2〜2.5%、2.5〜3%、3〜3.5%、3.5〜4%、4〜4.5%、4.5〜5%、5%超、0.5〜5%、0.5〜4%、0.5〜3%、0.5〜2.5%、0.5〜2%、0.5〜1.5%、または0.5〜1%の範囲から選択される。ある特定の実施形態において、組成物における充填剤の濃度は0.5〜5%であり、例えば0.5〜3%であり、さらに詳細には1.8〜2%である。
【0039】
界面活性物質
好ましくは、本発明の組成物はまた界面活性物質も含む。1つの態様において、界面活性物質は、界面(例えば、空気/溶液の界面、または溶液/表面の界面)で生じたストレスからタンパク質を保護する。1つの実施形態において、界面活性物質は凝集を防ぐかまたは軽減させる。界面活性物質には、ポリソルベート、例えばポリソルベート−20またはポリソルベート−80のような洗浄剤、およびポリエチレングリコールのようなポリマーが含まれる。様々な界面活性物質が当技術分野で知られている(例えば、米国特許第6685940号、第16欄、第10〜35行参照)。例示的な実施形態において、界面活性物質は植物由来のポリソルベート−80である。
【0040】
ある特定の実施形態において、組成物における界面活性物質の濃度は、0.001〜0.5%、0.001〜0.2%、0.001〜0.1%、0.001〜0.05%、0.001〜0.01%、または0.001〜0.005%である。例示的な実施形態において、組成物における界面活性物質の濃度は0.005〜0.01%である。
【0041】
他の構成成分
組成物はまた、医薬的に許容可能な付加的な構成成分を含み得る。適当な付加的な構成成分には、付加的な張度調整剤および当技術分野で知られている他の添加剤が含まれる。
【0042】
張度調整剤は組成物の浸透圧に寄与する物質である。ヒト血清の浸透圧は約300±50mOsM/kgである。タンパク質の安定性を維持し、患者の不快を最小限にするため、医薬組成物は等張であること、すなわちヒト血清とほぼ等しい浸透圧を有することが通常好ましい。したがって、組成物の浸透圧は好ましくは180〜420mOsM/kgである。しかし、組成物の浸透圧が個別の条件の要求に従ってより高いかまたはより低くてもよいことは当業者に理解されよう。様々な張度調整剤が当技術分野で知られている(例えば、米国特許出願20030180287の第0047段落参照)。限定はしないが緩衝剤、二糖類、充填剤、および界面活性物質が含まれる、組成物の他の構成成分もまた、組成物の浸透圧に寄与し得る。
【0043】
添加剤には、限定はしないが、化学添加物、共溶質、および共溶媒が含まれる。好ましくは、添加剤はタンパク質の安定性に寄与するが、添加剤はその他に組成物の物理的、化学的、および生物学的特性に寄与し得ることも理解されたい。様々な添加剤が当技術分野で知られている(例えば、米国特許出願20030180287の第0048〜0049段落参照)。
【0044】
いくつかの実施形態において、組成物はさらに塩化ナトリウムを含む。詳細な実施形態において、組成物は1〜200mM、または50mM未満、40mM未満、35mM未満、30mM未満、25mM未満、20mM未満、15mM未満、10mM未満、もしくは5mM未満のNaClを含む。ある特定の条件下において、NaClは凍結乾燥の間の困難性の原因となるか、または復元した凍結乾燥物において乳白光の出現をもたらすことがある。したがって、詳細な実施形態において、組成物はNaClを含まない。
【0045】
組成物におけるある特定の構成成分を当技術分野で知られている代替物と置き換えてもよいことを理解されたい。しかし、限定はしないが化学的適合性、pH、張度、および安定性が含まれる理由により、ある特定の構成成分を含むことによって他の構成成分、濃度、または医薬組成物の調製方法の使用が除外されようこともまた、当業者には理解されよう。
【0046】
本発明の組成物は、アルギニンもしくはその塩またはシステインもしくはその塩のいずれかを、0.5mM、0.1mM、0.01mM以下含むか、検出不可能なレベルで含むか、または全く含まない。これらの化合物は組成物の調製において加えられないか、または、組成物において前記化合物の限度を超えて検出されることができない。これらの制限は、ポリペプチド内に存在するアルギニンおよび/またはシステインには適用されず、遊離アミノ酸およびそれらの塩にのみ適用される。
【0047】
例示的な実施形態
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、Ig融合タンパク質、緩衝剤、二糖類、充填剤、および界面活性物質から本質的に構成される。いくつかの実施形態において、医薬組成物はIg融合タンパク質、緩衝剤、二糖類、充填剤、および界面活性物質を含む。
【0048】
1つの例示的な実施形態において、医薬組成物は、医薬的に効果的な量のIg融合タンパク質、1mM〜1Mの緩衝剤、0.5〜5%の二糖類、0.5〜5%の充填剤、および0.001〜0.5%の界面活性物質を含む。さらなる実施形態において、医薬組成物は、医薬的に効果的な量のIg融合タンパク質、1mM〜1Mの緩衝剤、0.5〜5%の二糖類、0.5〜5%の充填剤、0.001〜0.5%の界面活性物質、および1〜200mMのNaClを含む。さらなる実施形態において、医薬組成物は、医薬的に効果的な量のIg融合タンパク質、1mM〜1Mの緩衝剤、0.5〜5%の二糖類、0.5〜5%の充填剤、0.001〜0.5%の界面活性物質、および35mM未満のNaClを含む。さらなる実施形態において、医薬組成物は、医薬的に効果的な量のIg融合タンパク質、1mM〜1Mの緩衝剤、0.5〜5%の二糖類、0.5〜5%の充填剤、および0.001〜0.5%の界面活性物質を含み、NaClを含まない。
【0049】
1つの例示的な実施形態において、医薬組成物は、0.025〜20mg/mlのIg融合タンパク質、5〜30mMの緩衝剤、0.5〜2%の二糖類、1.5〜2.5%の充填剤、および0.001〜0.02%の界面活性物質を含む。
【0050】
さらなる実施形態において、医薬組成物は、約10mg/mlのIg融合タンパク質、約10mMの緩衝剤、約1.8〜約2%の充填剤、約0.9〜約1%の二糖類、および約0.005〜約0.01%の界面活性物質を含む。
【0051】
さらなる実施形態において、医薬組成物は、約10mg/mlのIg融合タンパク質、約10mMの緩衝剤、約1.8〜約2%のグリシン、約0.9〜約1%の二糖類、および約0.005〜約0.01%の界面活性物質を含む。
【0052】
さらなる実施形態において、医薬組成物は、約10mg/mlのIg融合タンパク質、約10mMの緩衝剤、約1.8〜約2%のマンニトール、約0.9〜約1%の二糖類、約0.005〜約0.01%の界面活性物質、および35mM未満のNaClを含む。
【0053】
1つの例示的な実施形態において、医薬組成物は、10mg/mlのPSGL−Ig、10mMのヒスチジン、260mMのグリシン、10mMのNaCl、1%のショ糖、および0.005%のポリソルベート−80を含む。
【0054】
1つの例示的な実施形態において、医薬組成物は、10mg/mlのGP1b−Ig、10mMのヒスチジン、1.8%のグリシン、25mMのNaCl、0.9%のショ糖、および0.01%のポリソルベート−80を含む。
【0055】
1つの例示的な実施形態において、医薬組成物は、10mg/mlのIL−13R−Ig、10mMのTris、2%のマンニトール、40mMのNaCl、1%のショ糖、および0.01%のポリソルベート−80を含む。
【0056】
組成物の物理的状態
限定はしないが、液体の、冷凍液体の、凍結乾燥された、および復元された製剤を含む様々な物理的状態が、本発明の医薬組成物に適している。復元製剤には、液体、典型的には注射用水(WFI)内に再懸濁されている凍結乾燥組成物が含まれる。凍結乾燥組成物では、濃度および浸透圧は、凍結乾燥前の液体組成物の濃度および浸透圧を典型的には参照するが、これらの値は代わりに復元組成物を参照してもよい。冷凍液体組成物では、濃度および浸透圧は冷凍前の液体組成物を典型的には参照する。
【0057】
医薬組成物の調製方法
当業者には、本発明の医薬組成物の調製に適した様々な方法が既知であろう。当業者にはまた、いくつかの構成成分の相互作用の結果、ある特定の調製方法または調製順序が不都合なものとなり得ることも理解されよう。
【0058】
1つの実施形態において、組成物は、精製タンパク質を界面活性物質以外の組成物の全ての残りの構成成分を含む溶液にし、その後所望の濃度まで界面活性物質を加えることにより調製される。
【0059】
1つの実施形態において、組成物を、アニーリング工程、すなわち、組成物を最終冷凍温度よりも高い温度に所定の時間保持して、潜在的に結晶性である構成成分の結晶化を促進する工程を含むプロセスにより凍結乾燥する。1つの態様において、アニーリングにより充填剤の完全なまたはより徹底的な結晶化が可能になり、それにより固形物の構造またはタンパク質の安定性が向上し得る。さらに、充填剤の結晶化により非晶質相のT’が上昇し得、それにより、高温で実施される最初の乾燥が可能になることでより効果的な乾燥が容易になり得、この場合もやはり固形物の質または安定性の向上がもたらされる。Wang、International Journal of Pharmaceutics 203:1−60(2000)参照。さらに、充填剤が完全に結晶化されないと、バイアルの破損をもたらし得る最初の乾燥の間の結晶化(TangおよびPikal、Pharmaceutical Research 21:191−200(2004))、または、タンパク質を不安定化させ得る保管の間の結晶化(Carpenterら、Pharmaceutical Research 14:969−975(1997))が生じ得る。
【0060】
例示的な実施形態において、組成物を−40℃未満で冷凍する工程、−5℃〜−40℃の温度で、充填剤の結晶化を促進するのに十分な時間アニーリングする工程、温度を−35℃未満に下げる工程、真空を確立する工程、および組成物を−20℃〜+30℃の温度で乾燥させる工程を含むプロセスにより、医薬組成物を凍結乾燥する。
【0061】
安定性
1つの態様において、本発明は安定的な医薬組成物に関する。「安定的な」組成物とは、組成物内のタンパク質が、保管または使用の際にある特定の物理的および化学的特性を基本的に保持する組成物である。1つの態様において、「保管または使用」には、冷凍/解凍の1回または複数回のサイクルが含まれる。タンパク質の安定性および/または不安定性の様々な分析が実施例に記載され、他の適した方法が当技術分野で周知であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery、247−301、Vincent Lee編、Marcel Dekker,Inc.、New York,N.Y.,Pubs.(1991)およびJones,A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29−90(1993)で見ることができる。このような分析には、限定はしないが、高分子量物質(例えば凝集物)の定量、低分子量物質(例えば分解生成物)の定量、タンパク質濃度の定量、タンパク質活性の定量、および翻訳後のアミノ酸修飾の定量が含まれる。本発明の医薬組成物は、好ましくは、保管または使用の際に10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、または0.5%未満の凝集物質(高分子量)または分解生成(低分子量)物質を含む。同様に、本発明の医薬組成物は、好ましくは、保管または使用の際に80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%のタンパク質活性を保持する。
【0062】
いくつかの実施形態において、組成物はある特定の温度(例えば−80℃〜40℃、−40℃〜40℃、約20℃)で特定の期間(例えば、1、4、7、12もしくは24週間、または1、2、3、4、6、7.5、9もしくは12ヶ月間、またはそれ以上)にわたり安定である。
【0063】
いくつかの実施形態において、組成物は特定の回数の冷凍/解凍サイクル(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、またはそれ以上)の後、安定である。
【0064】
1つの態様において、医薬組成物は、組成物の調製、冷凍、乾燥、保管、輸送、復元、冷凍/解凍サイクル、および最終消費者による復元後の保管を含み得る、製造工程、輸送工程および取扱工程のいずれかまたは全てを通して安定なタンパク質である。
【0065】
イオン強度、pH、温度、冷凍/解凍サイクル、せん断力、冷凍、乾燥、撹拌、および復元を含む様々な要素がタンパク質の安定性に影響し得る。タンパク質の不安定性は、物理的分解(例えば変性、凝集、もしくは沈殿)または化学的分解(例えば脱アミド、酸化、もしくは加水分解)により生じ得る。
【実施例1】
【0066】
PSGL−Ig製剤
A.PSGL−Igの背景
P−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(PSGL−1)は、ヒト白血球上のP−セレクチンに対する主要な高親和性受容体である。PSGL−Igは、米国特許第5827817号に記載されているように、突然変異したヒトIgG1のFcドメインに連結した可溶性PSGLを含む融合タンパク質である。PSGL−Igの等電点電気泳動(IEF)は、およそ3のpIに集合した、2.8から3.3のpH範囲内の顕著なバンドを示す。PSGL−Igの翻訳後修飾には硫酸化およびグリコシル化が含まれる。PSGL−Igのグリコシル化にはO結合型グリカンおよびN結合型グリカンが含まれる。PSGL−IgにおけるO結合型グリカンには、シアル化および/またはフコシル化された構造が含まれる。PSGLの翻訳後修飾およびその生物学的重要性の概観のために、Liuら、Journal of Biological Chemistry 273:7078−7087(1998)を参照されたい。
【0067】
B.PSGL−Ig製剤の最適化
PSGL−IgをQAEカラムで精製し、PBS−CMFまたは「His/Suc/Gly」(10mMのヒスチジン、260mMのグリシン、1%のショ糖)内において約25μg/mlで製剤化した。サンプルを、ポリソルベート−80の不存在下、冷凍/解凍サイクルの前に0.005%まで加えたポリソルベート−80の存在下、または冷凍/解凍サイクルの後、しかしHMW測定の前に0.005%まで加えたポリソルベート−80の存在下(PBS−CMFの場合のみ)のいずれかで処理した。サンプルは20サイクルの冷凍/解凍に付した。高分子量種(HMW)のパーセンテージを、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)−HPLCにより、冷凍/解凍サイクルの前後に決定した。表1に示されているように、ポリソルベート−80はPBS−CMFおよびHis/Suc/Glyの両方においてHMWの蓄積を著しく減少させたが、これは冷凍/解凍サイクルの前に加えた場合のみである。
【0068】
【表1】

【0069】
PSGL−Igの安定性に対する緩衝剤およびpHの寄与を決定するために、PSGL−Igを、15mMの緩衝剤のみ(追加の添加剤なし)において約50μg/mlで製剤化した。5つの緩衝剤(コハク酸、クエン酸、ヒスチジン、リン酸、およびTris)を全7pHで試験した(表2参照)。サンプルは5サイクルの冷凍/解凍に付した。HMWのパーセンテージを冷凍/解凍サイクルの前後にSEC−HPLCにより決定した。表2に示されているように、クエン酸およびヒスチジンでは冷凍/解凍後のHMWのパーセンテージにおける変化が最も小さくなり、一方、tris、リン酸、およびコハク酸ではHMWのパーセンテージがより大きく上昇した。
【0070】
【表2】

【0071】
C.PSGL−Ig製剤の長期にわたる安定性
精製PSGL−Igを、1%のショ糖、260mMのグリシン、10mMのNaCl、および10mMのヒスチジン(pH6.5〜6.6)内において5mg/mLとした。ポリソルベート−80を0.005%の最終濃度まで加えた。1mlのアリコートをタイプIガラスの2mlの管状バイアル内に満たし、ストッパーを付した。サンプルは、凍結乾燥して5℃、25℃、または40℃で保管したか、あるいは冷凍液体として−80℃で保管した。タンパク質の安定性を、HMWの形成、硫酸化の低下の程度、相対結合ユニット(RBU)において測定される生物活性、およびN末端のグルタミンのピログルタミン酸への環化の程度により評価した。時間0のサンプルは凍結乾燥前後の製剤で構成されたものである。サンプルはまた、上記に挙げた温度での保管の3または7.5ヶ月後にも解析した。表3に示されているように、凍結乾燥製剤および冷凍液体製剤は試験した条件下で安定である。
【0072】
【表3】

【実施例2】
【0073】
GP1b−Ig製剤
A.GP1b−Igの背景
GP1b−αは血小板により発現される受容体である。GP1b−αに対する主要なリガンドはフォンヴィレブランド因子(VWF)である。GP1b−Igは、PCT公報WO02/063003に記載されているような、不活性化されたヒトIgG1のFcの225個のアミノ酸に連結したGP1b−αのN末端の290個のアミノ酸からなる可溶性のリガンド結合ドメインを含む融合タンパク質である。GP1b−IgのVWF結合ドメインは、そのVWF結合親和性を高める2つの機能獲得型突然変異、M239VおよびG233Vを含む。GP1b−Igの等電点電気泳動(IEF)は、およそ5のpIに集合した、4.1から5.6のpH範囲内の顕著なバンドを示す。GP1b−Igの翻訳後修飾にはN結合型グリコシル化が含まれる。GP1b−IgにおけるN結合型グリカンには、シアル化および/またはフコシル化された構造が含まれる。
【0074】
B.GP1b−Ig製剤の最適化
GP1b−Igの安定性に対するポリソルベート−80の影響を2mlのポリプロピレンバイアルにおいて評価した。GP1b−Igを、20mMのTris(pH7.2)、50mMのNaCl、および様々な濃度のポリソルベート−80(0%、0.005%、0.01%、または0.02%)内において2mg/mlで製剤化した。バイアルを液体窒素内に1分間沈めることにより冷凍し、20℃のウォーターバスにおけるインキュベーションにより全ての氷がなくなるまで解凍した。サンプルを14回の冷凍/解凍サイクルに付し、アリコートを1サイクルおき後に解析のために取り出した。HMWのパーセンテージをSEC−HPLCにより決定した。タンパク質の回収を、280nmでの吸光シグナル上のタンパク質ピークの領域を積分することにより評価した。図1に示されているように、ポリソルベート−80の添加によりHMWの蓄積は著しく減少した。
【0075】
GP1b−Igの安定性に対するグリシンの影響を同様の様式で評価した。GP1b−Igを、10mMのヒスチジン(pH6.5)、25mMのNaCl、0.9%のショ糖、0.01%のポリソルベート−80、および様々な濃度のグリシン(0%、1.0%、1.8%、2.0%、または4.0%w/v)内において5mg/mlで製剤化した。バイアルを液体窒素内に1分間沈めることにより冷凍し、20℃のウォーターバスにおけるインキュベーションにより全ての氷がなくなるまで解凍した。サンプルを10回の冷凍/解凍サイクルに付し、アリコートを1サイクルおき後に解析のために取り出した。HMWのパーセンテージをSEC−HPLCにより決定した。表4に示されているように、1.8%のグリシンの添加により、6回、8回、または10回の冷凍/解凍サイクルの後のHMWの蓄積が最少となった。
【0076】
【表4】

【0077】
GP1b−Igの安定性に対するpHの影響を同様の様式で評価した。GP1b−Igを、様々なpHレベル(5.0、6.0、7.0、または8.0)の20mMのリン酸ナトリウム内において1mg/mlで製剤化した。バイアルを液体窒素内に1分間沈めることにより冷凍し、20℃のウォーターバスにおけるインキュベーションにより全ての氷がなくなるまで解凍した。サンプルを10回の冷凍/解凍サイクルに付し、アリコートを1サイクルおき後に解析のために取り出した。HMWのパーセンテージをSEC−HPLCにより決定し、タンパク質の回収を、280nmおよび214nmでのHPLC検出器のシグナルによりモニターした。10サイクルの後、pH5.0および6.0のサンプルは濁り、この濁りは可溶性タンパク質の回収の低下を示している。表5に示されているように、pH5.0または6.0での製剤化ではHMWの蓄積が増加し、タンパク質の回収が減少する。
【0078】
【表5】

【0079】
10mMのヒスチジン(pH6.5)、1.8%のグリシン、25mMのNaCl、0.9%のショ糖、および0.01%のポリソルベート−80内において0.25、10、または19mg/mlのGP1b−Igで半分を満たした20mlのボトルにおいて、GP1b−Igの安定性に対するタンパク質濃度の影響を評価した。ボトルを液体窒素内に10分間沈めることにより冷凍し、25℃のウォーターバスにおける15〜20分間のインキュベーションにより解凍した。サンプルを10サイクルの冷凍/解凍に付し、アリコートを0、1、2、4、6、8、および10サイクルの後に解析のために取り除いた。解析に先立って、全サンプルにおけるタンパク質濃度を、それ以外の点においては等しい製剤において0.25mg/mlに希釈することで標準化した。HMWのパーセンテージをSEC−HPLCにより決定した。表6に示されているように、GP1b−Igはこの製剤において広範な濃度にわたって安定であった。
【0080】
【表6】

【0081】
C.GP1b−Ig製剤の長期にわたる安定性
精製GP1b−Igを使用のために解凍するまで−80℃で保管した。タンパク質濃度をA280により19mg/mlと推定した。GP1b−Igを、適当なストック溶液における希釈によって、10mMのヒスチジン(pH6.5)、1.8%のグリシン、25mMのNaCl、0.9%のショ糖、および0.01%のポリソルベート−80内において10mg/mlに製剤化した。得られた製剤を0.2μmのフィルターユニットを通してろ過し、ガラスバイアルに分配した。バイアルをスチールトレイ上に置き、凍結乾燥した。凍結乾燥は、表7にまとめたサイクルのパラメーターに従って行った。
【0082】
【表7】

【0083】
サイクルの完了の際に凍結乾燥チャンバを乾燥窒素で再充填し、その後ストッパーを弱め、残りの真空を解除した。バイアルに速やかにクリンプを付し、ラベルを付し、2〜8℃、25℃、または40℃で保管した。
【0084】
各時点(0、1、2、3、4、6、9、および12ヶ月)において、1つまたは複数の凍結乾燥バイアルを開封した。生産物の固形物を外観について評価し、残余水蒸気をカールフィッシャー滴定により決定した。固形物を次に、外観および復元時間についてモニターしながら1mlの注射用水(WFI)で復元した。復元の後、400μlの製剤を含む2mlのクライオバイアル内に電極を浸すことによりpHを測定した。残りの溶液を3×200μlのアリコートに分割し、そのうちの2つは−80℃で冷凍し、1つは解析用として2〜8℃で保存した。
【0085】
復元したGP1b−Ig製剤を同一の溶液に10回希釈し、1mg/mlの溶液を理論上得た。実際のタンパク質濃度は、UV透過性の96ウェルプレートを用いてUV分光法により測定した。タンパク質濃度は以下の式により計算した:濃度(mg/ml)=希釈係数×(A280−A320)/(1.1)。
【0086】
生物活性を、ヒトの血漿由来VWFに対するGP1b−Igの結合の程度として評価した。測定したタンパク質濃度を、ユニット/μgで表される特異的活性を計算するために用いた。
【0087】
HMWの蓄積をSEC−HPLCにより測定し、全種に対するパーセンテージとして表した。
【0088】
低分子量種(LMW)の蓄積を逆相(RP)−HPLCによりモニターし、全種に対するパーセンテージとして表した。
【0089】
硫酸化されたアイソフォームの分布を陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)により決定した。
【0090】
表8から表10に示されているように、これらの分析は、試験した条件下において少なくとも9ヶ月の間このGP1b−Ig製剤が安定であるということを実証している。表8は2〜8℃での保管の後に得られた結果を示す。表9は25℃での保管の後に得られた結果を示す。表10は40℃での保管の後に得られた結果を示す。
【0091】
【表8】

【0092】
【表9】

【0093】
【表10】

【実施例3】
【0094】
IL−13R−Ig製剤
A.IL−13R−Igの背景
IL−13Rはインターロイキン−13(IL−13)の主要な受容体である。IL−13R−Igは、米国特許第6268480号に記載されているような、スペーサー配列およびヒトIgG1のヒンジCH2CH3領域に連結しているIL−13Rα2の可溶性の細胞外ドメインを含む融合タンパク質である。IL−13R−Igの等電点電気泳動(IEF)は、およそ4.3のpIに集合した、3.8から4.7のpH範囲内の顕著なバンドを示す。IL−13R−Igの翻訳後修飾にはN結合型グリコシル化が含まれる。IL−13R−IgにおけるN結合型グリカンにはシアル化された構造が含まれる。
【0095】
B.IL−13R−Ig製剤の最適化
IL−13R−Igを、4つの異なる製剤:10mMのNaPO、0.01%のポリソルベート−80、1%のショ糖、および2%のマンニトール(pH7.4);10mMのNaPO、0.01%のポリソルベート−80、0.9%のショ糖、および1.8%のグリシン(pH7.4);10mMのTris、0.01%のポリソルベート−80、1%のショ糖、および2%のマンニトール(pH7.4);または10mMのTris、0.01%のポリソルベート−80、0.9%のショ糖、および1.8%のグリシン(pH7.4)内において10mg/mlで製剤化した。凍結乾燥バイアルを最大12週間、4℃、25℃、および40℃で保管した。各時点において、各製剤と温度との組合せの1つまたは複数のバイアルを復元し、タンパク質の回収(A280またはSECによる)、HMWの蓄積(SEC−HPLCによる)、または生物活性(IL−13依存性細胞系の増殖の阻害についての分析におけるIC50による)について分析した。表11は、保管して12週間後の各製剤および温度についての、A280により評価したタンパク質回収のパーセンテージを示す。表12は、保管して12週間後の各製剤および温度についての、SECにより評価したタンパク質回収のパーセンテージを示す。表13は、製剤(上記に挙げた4つ)と、温度(4℃、25℃、または40℃)と、保管期間(0、1ヶ月間、7週間、または12週間)との各組合せ、ならびに凍結乾燥後の出発物質についての、SEC−HPLCにより評価したHMW蓄積のパーセンテージを示す。表14は、4週間(2〜8℃または25℃で)、7週間(2〜8℃または25℃で)、または12週間(2〜8℃、25℃、または40℃で)の各製剤、および凍結乾燥後の出発物質についての、IC50のデータを示す。
【0096】
【表11】

【0097】
【表12】

【0098】
【表13】

【0099】
【表14】

【0100】
C.IL−13R−Ig製剤の長期にわたる安定性
精製IL−13Rを、1%のショ糖、2%のマンニトール、40mMのNaCl、0.01%のポリソルベート−80、および10mMのTris(pH7.4)内において10mg/mlに製剤化した。5mlの管状バイアルを1mlの各製剤で満たし、Lyo−Star(商標)開発乾燥器内で凍結乾燥した。凍結乾燥バイアルを2〜8℃、25℃、または40℃で最長24週間保管し、サンプルを0、4、7、12、および24週間で解析した。サンプルを、外観(復元の前後)、pH、タンパク質濃度(A280による)、HMW(SEC−HPLCによる)、および生物活性(IC50)について分析した。表15〜17に示されているように、IL−13R−Ig製剤は試験した条件下で少なくとも24週間にわたって安定である。表15は2〜8℃での保管の後に得られた結果を示す。表16は25℃での保管の後に得られた結果を示す。表17は40℃での保管の後に得られた結果を示す。
【0101】
【表15】

【0102】
【表16】

【0103】
【表17】

【0104】
本明細書における実施形態は本発明の実施形態の実例を提供するものであり、本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。当業者には、多くの他の実施形態が本発明により包含されることが容易に認識されよう。本明細書の開示において引用された全ての刊行物および特許は、参照により全体が組み込まれる。参照により組み込まれる物質が本明細書と相反するか矛盾する場合に限り、本明細書はあらゆるこれらの物質に優先する。本明細書におけるあらゆる参考文献の引用は、これらの参考文献が本発明に対する先行技術であることを承認するものではない。特に明記しない限り、全てのパーセンテージは重量/重量の値をいう。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】最大14回までの冷凍/解凍サイクル後の、GP1b−Ig製剤におけるタンパク質の凝集およびタンパク質の回収に対するポリソルベート−80の影響を示す図である。GP1b−Igは、20mMのTris(pH7.2)、50mMのNaCl、および0%、0.005%、0.01%、または0.02%のポリソルベート−80内において2mg/mLで製剤化した。各製剤のバイアルを最大14サイクルまでの冷凍/解凍に付し、SEC−HPLCによって高分子量種(HMW)の%について分析した。タンパク質の回収を280および214nmでのHPLC検出器のシグナルによってモニターした。X軸は冷凍/解凍サイクルの回数を示す。Y軸はHMWのパーセンテージを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)6未満のpIを有するIg融合タンパク質、
b)グリシン、
c)二糖類、
d)界面活性剤、および
e)緩衝剤
を含む医薬組成物であって、0.5ないし5%グリシン、0.5ないし5%二糖類および0.001ないし0.5%界面活性剤を含む、医薬組成物。
【請求項2】
さらにNaClを1−200mMの濃度で含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
組成物中のIg融合タンパク質の濃度が0.025ないし60mg/mlである、請求項1または請求項2記載の組成物。
【請求項4】
Ig融合タンパク質が4未満のpIを有する、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
Ig融合タンパク質が受容体から由来の非Ig部分を含む、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
Ig融合タンパク質が硫酸化、リン酸化またはグリコシル化されている非Ig部分を含む、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
グリコシル化された非Ig部分がシアル化またはフコシル化されている、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
Ig融合タンパク質がIL−13R−IgまたはIL−21R−Igである、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
Ig融合タンパク質がPSGL−IgまたはGP1bIgである、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
二糖類がシュークロースまたはトレハロースである、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
界面活性剤がポリソルベートである、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
組成物中の緩衝剤の濃度が5ないし30mMである、請求項1ないし11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
緩衝剤がヒスチジン緩衝剤、トリス緩衝剤、またはリン酸塩緩衝剤である、請求項1ないし12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
NaClを含有しない、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
凍結乾燥されている、請求項1ないし14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
−80℃〜+40℃で少なくとも1週間安定している、請求項1ないし15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
復元されている、請求項15記載の組成物。
【請求項18】
a)6未満のpIを有するIg融合タンパク質、
b)マンニトール、
c)二糖類、
d)界面活性剤、および
e)緩衝剤
を含む医薬組成物であって、0.5ないし5%マンニトール、0.5ないし5%二糖類、0.001ないし0.5%界面活性剤および35mM未満のNaClを含む、医薬組成物。
【請求項19】
Ig融合タンパク質の濃度が0.025ないし60mg/mlである、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
Ig融合タンパク質が4未満のpIを有する、請求項18または請求項19記載の組成物。
【請求項21】
Ig融合タンパク質が受容体から由来の非Ig部分を含む、請求項18ないし20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
Ig融合タンパク質が硫酸化、リン酸化またはグリコシル化されている非Ig部分を含む、請求項18ないし21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
グリコシル化された非Ig部分がシアル化またはフコシル化されている、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
Ig融合タンパク質がIL−13R−IgまたはIL−21R−Igである、請求項18ないし23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
Ig融合タンパク質がPSGL−IgまたはGP1bIgである、請求項18ないし23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
二糖類がシュークロースまたはトレハロースである、請求項18ないし25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
界面活性剤がポリソルベートである、請求項18ないし26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
組成物中の緩衝剤の濃度が5ないし30mMである、請求項18ないし27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
緩衝剤がヒスチジン緩衝剤、トリス緩衝剤、またはリン酸塩緩衝剤である、請求項18ないし28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
NaClを含有しない、請求項18ないし29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
凍結乾燥されている、請求項18ないし30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
−80℃〜+40℃で少なくとも1週間安定している、請求項18ないし31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
復元されている、請求項31記載の組成物。
【請求項34】
実質的に、0.025ないし60mg/mlの酸性のIg融合タンパク質、1ないし4%のグリシン、0.5ないし2%の二糖類、0.005ないし0.02%の界面活性剤、1ないし40mMの緩衝剤、および任意の1−200mMのNaClからなる、医薬組成物。
【請求項35】
実質的に、0.025ないし60mg/mlの酸性のPSGL−IgまたはIL−13R−Ig以外のIg融合タンパク質、1ないし4%のマンニトール、0.5ないし2%の二糖類、0.005ないし0.02%の界面活性剤、1ないし40mMの緩衝剤、および任意の1−200mMのNaClからなる、医薬組成物。
【請求項36】
実質的に、0.025ないし60mg/mlの酸性のIg融合タンパク質、1ないし4%のマンニトール、0.5ないし2%の二糖類、0.005ないし0.02%の界面活性剤、および1ないし40mMの緩衝剤からなる、医薬組成物。
【請求項37】
アニーリング工程を誘発する方法により凍結乾燥される、請求項1、18および34ないし36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
組成物を最終凍結温度よりも高い温度で所定の時間保持することでアニーリング工程が充填剤の結晶化を促進する、請求項37記載の組成物の製法。
【請求項39】
a)組成物を−40℃よりも低い温度に凍結し;
b)組成物中のグリシンまたはマンニトールの結晶化を促進するのに十分な時間、組成物の温度を−5℃から−40℃までの範囲より選択される温度に上げ;
c)組成物の温度を−35℃より下げ;
d)真空を確率し;そして
e)該組成物を−20℃から+30℃の範囲より選択される温度で乾燥させる
ことを含む、請求項38記載の組成物の製法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−516692(P2009−516692A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541422(P2008−541422)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/045059
【国際公開番号】WO2007/062040
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】