説明

免疫グロブリン製剤の製造方法

【課題】ウイルスを効果的に除去し、かつ凝集体や夾雑蛋白による除去膜の目詰まり等の濾過の障害が生じないような免疫グロブリン製剤の製造方法およびウイルスが除去され、医薬品としての品質が確保された免疫グロブリン製剤の提供。
【解決手段】pHが5.2以下である免疫グロブリン溶液を、平均孔径15〜20nmの多孔性膜を用いて濾過処理する工程を含む免疫グロブリン製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリン製剤に関するものである。より詳しくは感染性病原体の夾雑の可能性が低減され、安全性に優れた免疫グロブリン製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血漿蛋白成分であるγ−グロブリンのうち、特にIgGを主成分とする免疫グロブリン製剤は、これまで広く各種感染症の予防並びに治療に役立てられてきた。免疫グロブリンは溶液状態において不安定であり、従来は凍結乾燥の態様で用いられてきた。しかし液状組成物は乾燥組成物に比べると注射用蒸留水等への溶解の必要性もなく、簡単に投与できる等の利点がある。
【0003】
溶液状態においても保存安定性の良好な免疫グロブリン製剤を製造するために、例えば、不溶性異物の核となり得る微粒子を除去するために多孔性膜を用いて濾過処理する工程を含む免疫グロブリン製剤の製造方法が開示されている(特許文献1および2)。
【0004】
また、特許文献3においては、免疫血清グロブリンの単量体濃度が約90%よりも大である免疫グロブリン組成物を得るために、5%蛋白質濃度における免疫血清グロブリンの水溶液が15NTUよりも小さい比濁分析の読み、3.5〜5.0のpH及び生理学的に許容しうる張度を有するようなイオン強度を有することを特徴とする、安定な、無菌の、静脈注射可能な製薬組成物の製造方法が開示されている。
【0005】
一方血漿分画製剤やバイオ医薬品等の製剤中に含まれるかもしれないウイルス、および病原性タンパク質等の病原体を除去する方法には、膜ろ過法がある(特許文献4)。膜ろ過法は、粒子の大きさに応じて分離操作を行うため、病原体の種類、および病原体の化学的な性質や熱的性質に拘わらず、全ての病原体に有効である。
【0006】
病原体の中でも、HIVウイルス等に代表される感染性ウイルスによる感染は重篤な疾病を引き起こすため、混入ウイルス除去の必要性が極めて高い。ウイルスの種類は、最も小さいもので直径18〜24nm程度のパルボウイルスや直径25〜30nm程度のポリオウイルス等があり、比較的大きいものでは直径80〜100nm程度のHIVウイルス等がある。近年、特にパルボウイルス等の小型ウイルスの除去に対するニーズが高まっている。
しかし、パルボウイルス(B19)の単粒子径は上述の通り18〜24nm程度であるので、従来のウイルス除去膜を多段に用いる方法においても除去できないという問題があった。このようなウイルス群を膜ろ過法によって物理的に除去するためには孔径10〜120nm程度の多孔膜が必要であるが、孔径が小さくなれば、濾液中の凝集体や夾雑蛋白が孔を塞ぎ目詰まりを生じるため、効率よくウイルス除去できる膜を使用した血液製剤の製造方法の開発が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開平10−265406号公報
【特許文献2】特開平11−199511号公報
【特許文献3】特開平5−208918号公報
【特許文献4】特開2003−268152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
工業的生産過程において、ウイルスを効果的に除去し、かつ凝集体や夾雑蛋白による除去膜の目詰まり等の濾過の障害が生じないような免疫グロブリン製剤の製造方法およびウイルスが除去され、医薬品としての品質が確保された免疫グロブリン製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、商業的実生産規模でのグロブリン製剤の製造工程に適応するに際し、低pHにすることにより、多孔性膜の良好な濾過特性を保持しつつ、最終製剤におけるウイルス混入の危険性を低減し、かつ医薬品としての品質を担保しうる製法を見出すことにより、完成された。
すなわち、本発明は、
(1)pHが5.2以下である免疫グロブリン溶液を、平均孔径15〜20nmの多孔性膜を用いて濾過処理する工程を含む免疫グロブリン製剤の製造方法。
(2)免疫グロブリン溶液のpHが3.7〜4.8である(1)記載の製造方法。
(3)濾過処理における免疫グロブリン溶液の温度が30〜40℃である(1)または(2)記載の製造方法。
(4)以下の少なくとも1つの工程を含む(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製造方法:
免疫グロブリン溶液を
(a)ポリエチレングリコールで処理する工程、
(b)限外濾過膜で処理する工程、
(c)陰イオン交換体と接触させる工程、
(d)コロイド珪酸と接触させる工程、
(e)ウイルスを不活化処理する工程または
(f)pH3.9〜4.4の条件下で、20℃〜30℃で二週間の保存を行う工程。
(5)(f)の工程を含む(4)記載の製造方法。
(6)免疫グロブリン製剤が静脈注射用である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の製造方法。
(7)免疫グロブリン製剤が液状である(1)〜(6)のいずれか1項に記載の製造方法。
(8)ソルビトールを含み、pH3.9〜4.4である免疫グロブリン製剤。
(9)ソルビトールの含有量が1〜20w/v%である(8)記載の製剤。
(10)静脈注射用である(8)または(9)記載の製剤。
(11)液状である(8)〜(10)のいずれか1項に記載の製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、商業的実生産規模でのグロブリン製剤の製造工程において、良好な濾過特性を有するため大量の蛋白質を処理することができる。さらに本発明によれば、パルボウイルス等の小型ウイルスが除去された、安全で安定な医薬品として適合しうる免疫グロブリン製剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.出発原料
本発明における免疫グロブリン製剤は、ヒト血漿由来の免疫グロブリンを含む画分から製造される。従って出発原料としては、ヒト血漿由来であって、免疫グロブリン画分を含むものであれば特に限定されない。具体的には、コーンのエタノール分画により得られる画分II+III、画分II、および免疫グロブリンを含むこれらと同等の画分のペースト等が挙げられる。また、この出発原料は、ヒト血液型抗体、カリクレイン、プレカリクレイン、IgM、IgG重合体等を含んでいてもよい。
【0012】
2.製造方法
本発明における免疫グロブリン製剤の製造方法は、通常pH5.2以下において、平均孔径19nmの多孔性膜を用いて免疫グロブリン溶液を濾過処理する工程を含む。好ましいpHは、pH3.7〜4.8である。
また本発明における免疫グロブリン製剤の製造方法において使用する多孔性膜の平均孔径は、通常15〜20nmであり、好ましくは、19±2nmである。
また免疫グロブリン溶液を濾過処理する工程におけるグロブリン溶液の温度は、通常5〜50℃であり、好ましくは30〜40℃であり、さらに好ましくは30〜36℃である。
【0013】
本発明にかかる、pHが5.2以下である免疫グロブリン溶液を、平均孔径15〜20nmの多孔性膜を用いて濾過処理する工程を含む免疫グロブリン製剤の製造方法は、以下の少なくとも1つの工程を含んでいてもよい。
免疫グロブリンを含む溶液を
(a)ポリエチレングリコールで処理する工程、
(b)限外濾過膜で処理する工程、
(c)陰イオン交換体と接触させる工程、
(d)コロイド珪酸と接触させる工程、
(e)ウイルスを不活化処理する工程または
(f)pH3.9〜4.4の条件下で20℃〜30℃で二週間の保存を行う工程。
好ましくは、(f)の工程を含む。
以下に各工程について説明するが、これに限定されない。
【0014】
(1)ポリエチレングリコールで処理する工程(a)
本発明における上記工程は、出発原料をポリエチレングリコール(PEG)で処理し、上清を回収する工程である。まず、出発原料を適当な水性溶媒に懸濁して、免疫グロブリンを抽出する。この時当該出発原料の少なくとも2倍容量以上、好ましくは5倍容量以上の水性溶媒が使用される。ここで使用される水性溶媒の溶質としては、例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム等が挙げられ、pHは4.5〜6.5、イオン強度は0.0001〜0.1Mが好ましい。この懸濁液を分子量1,000〜10,000(好適には約2,000〜6,000)のPEGで処理する(このPEGで処理する方法とは、例えば上記の懸濁液とPEGを混合することが挙げられる。)。処理条件としては、PEG濃度4〜10w/v%(特に4〜8w/v%)、pH4.5〜6.5(特にpH5〜6)、イオン強度0.0001〜0.1M(特に0.0001〜0.01M)であることが好ましい。この際、懸濁液中の蛋白濃度は1〜20w/v%(特に5〜15w/v%)であることが好ましい。当該処理は、0〜4℃程度で通常30分〜6時間程度攪拌することによって行われる。その後、例えば遠心分離(6,000〜8,000rpm、10〜30分間)して上清を回収する。
【0015】
(2)限外濾過膜で処理する工程(b)(酸性pHでの濃縮工程)
本発明における上記工程は、例えば(a)の工程で得られた上清画分をpH3.5〜5.0(好ましくはpH4〜4.5)の条件下で濃縮する工程である。具体的には分画分子量5万〜10万、好ましくは7万程度の限外濾過膜を用いて濃縮処理を行う。加圧条件としては1〜10kg/m2 が例示される。
【0016】
(3)陰イオン交換体で処理する工程(c)
本発明における上記工程は、陰イオン交換体で接触処理して非吸着画分を回収する工程である。本工程は、IgM、IgG重合体を除くために行われる。
【0017】
(i)陰イオン交換体の調製
陰イオン交換体は陰イオン交換基を不溶性担体に結合したものであるが、陰イオン交換基としてはジエチルアミノエチル(DEAE)基、四級アミノエチル(QAE)基等を、不溶性担体としてはアガロース、セルロース、デキストラン、ポリアクリルアミド等を用いることができる。その結合は公知の方法で行われる。
【0018】
(ii)処理方法
免疫グロブリンを含有する画分を適当な水性溶媒に溶解する。水性溶媒はpH5〜7(好ましくはpH5.5〜7)、低イオン強度(好ましくは0.0001〜0.1M)の水溶液であることが好ましい。当該水性溶媒は(a)の工程で記載したものと同様の溶質を含んでいてもよい。当該溶液中の蛋白濃度としては1〜15w/v%(特に、3〜10w/v%)が好ましい。さらに、上記の水性溶媒で平衡化した陰イオン交換体と接触処理する。その処理に際してはバッチ法、カラム法のどちらを用いてもよい。例えばバッチ法では、陰イオン交換体1mlに対して処理対象溶液10〜100ml程度と混合させ、0〜4℃で30分〜2時間程度攪拌した後、遠心分離(6,000〜8,000rpm、10〜30分間)して上清を回収する。カラム法でも、陰イオン交換体1mlに対して処理対象溶液10〜100ml程度を接触させ、非吸着画分を回収する。本発明においては、本(c)の工程を所望により省略することもできるが、IgM、IgG重合体の混入が懸念される場合には行うことが有利である。
【0019】
(4)多孔性膜による濾過処理する工程
本発明における上記工程は、不溶性異物の形成の核となり得る微粒子を除去し、病原体などを除去するために行う。
本発明において使用される多孔性膜の素材としては、特に制限はないが、好ましくは再生セルロースが挙げられる。またその形状としては、中空糸状、シート状等が挙げられるが、好ましくは中空糸状である。例えば該再生セルロースの多孔性中空糸は、好ましくはセルロース銅アンモニア溶液からのミクロ相分離法〔アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(Am.Chem.Soc.),9,197−228(1985)〕により調製される。
多孔性膜の平均孔径は15〜20nm、特に好ましくは19nm±2nmであり、その膜は好ましくは多重層構造である。多孔性膜が中空糸状である場合には、好ましくはモジュールの態様で使用される。該モジュールは、膜面積が好ましくは0.001〜4.0m2 である。多孔性中空糸膜とこれを充填するための容器およびこれらを一体化するための接着剤により構成される。
【0020】
多孔性膜による濾過処理は、例えば以下のようにして行われる。
まず、免疫グロブリンを含有する画分を適当な水性溶媒に溶解する。水性溶媒は、通常はpH5.2以下であり、好適な濾過特性および安定性の観点からpH3.7〜4.8が好ましい。イオン強度は低イオン強度(特に0.0001〜0.1M)であることが好ましい。免疫グロブリン溶液の温度条件は、通常5〜50℃であり、好適な濾過特性及び安定性の観点から、好ましくは30〜40℃であり、さらに好ましくは30〜36℃である。当該水性溶媒は(a)の工程で記載したものと同様の溶質を含んでいてもよい。当該溶液中の蛋白濃度としては0.1〜15w/v%(特に、0.7〜10w/v%)が好ましい。
【0021】
当該免疫含有グロブリン溶液は、本発明の目的に反しない範囲で通常医薬品に用いられる薬理的に許容される添加剤(例えば担体、賦形剤、希釈剤等)、安定化剤または製薬上必要な成分を含有していてもよい。安定化剤としては、グルコース等の単糖類、サッカロース、マルトース等の二糖類、マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール、塩化ナトリウム等の中性塩、グリシン等のアミノ酸、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体(プルロニック)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(トゥイーン)等の非イオン系界面活性剤等が例示され、好ましくはソルビトール、D−マンニトール、グリシン、ブドウ糖等が例示される。さらに上記添加剤は、通常1〜10w/v%程度が添加され、1.5〜8.0w/v%添加されていることが好ましい。好適には5w/v%のソルビトールが挙げられる。
【0022】
上記の免疫グロブリン含有溶液を、多孔性膜を用いて濾過処理を行う。この時の濾過圧力は通常は0.098MPa以下、好ましくは0.02〜0.08MPa、特に好ましくは0.03〜0.05MPaである。また、処理温度は通常は4〜50℃であり、処理時間は10分〜24時間、好ましくは1〜18時間である。濾過処理の態様としては、流体にひずみ速度を与えながら濾過するクロスフロー濾過法(循環式)とひずみ速度を与えずに濾過するデッドエンド法(非循環式)があるが、好ましくは加圧空気によるクロスフロー濾過法が採用される。また、このような濾過処理は複数回行うことができる。さらに、この濾過処理前に、予め免疫グロブリン含有溶液に、上述の中空糸膜による濾過処理以外の濾過処理を施してもよい。
【0023】
本発明における上記工程において、不溶性異物の形成の核となり得る、平均粒径100nm以上、好ましくは75nm以上、より好ましくは35nm以上の不溶性の微粒子や、免疫グロブリンの分子量(約15万)よりも大きい分子量を有する可溶性の微粒子が除去することができる。従ってこのようにして調製された免疫グロブリン製剤を25℃、30日間保存しても、免疫グロブリンの凝集、即ち、不溶性異物の発生がなく保存安定性が良好となる。
【0024】
さらに本発明における上記工程において、直径18〜24nm程度のパルボウイルス、直径25〜30nm程度のポリオウイルス、直径80〜100nm程度のHIVウイルス等のウイルスが除去することができる。好ましくはパルボウイルスまでを除去することである。そのためウイルス混入の危険性を低減した免疫グロブリン製剤を得ることができる。
【0025】
また、免疫グロブリンをさらに精製するために公知の手法を用いてもよい。例えば、固定化ジアミノ化合物を用いた処理(カリクレインまたはプレカリクレインを除去するため)、固定化ヒト血液型物質を用いた処理(ヒト血液型抗体を除去するため)等が例示される(特開平9−176045号公報参照)。
【0026】
(5)コロイド珪酸処理による工程(d)
本発明における上記工程は、コロイド珪酸で接触処理して非吸着画分を回収する工程である。本工程は夾雑する血清アルブミンを除去するために行われる。
【0027】
(i)吸着剤
吸着剤として用いられるコロイド珪酸としては、シリカゲル、軽質無水珪酸、ケイソウ土、酸性白土、ベントナイト、カオリン、珪酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。好適には軽質無水珪酸〔商品名エアロジル(日本エアロジル社製)、商品名デリピト(ゼータ社製)等〕が用いられる。
【0028】
(ii)処理条件
免疫グロブリンを含有する画分を適当な水性溶媒に溶解する。水性溶媒はpH4〜7(特にpH5〜6)、低イオン強度(特に0.0001〜0.1M)の水溶液であることが好ましい。当該水性溶媒は(a)の工程で記載したものと同様の溶質を含んでいてもよい。当該溶液中の蛋白濃度としては1〜15w/v%(特に、3〜10w/v%)が好ましい。当該免疫グロブリン溶液は、多孔性膜による濾過処理する工程と同様に、本発明の目的に反しない範囲で通常医薬品に用いられる薬理的に許容される添加剤、安定化剤または製薬上必要な成分を含有していてもよい。添加剤、安定化剤等は、前述の多孔性膜による濾過処理する工程で述べたものと同様のものが同様の量で添加され得る。
次いで、この免疫グロブリン溶液を上記の吸着剤と接触処理する。接触条件としては、免疫グロブリン濃度1〜100g/リットル(好ましくは10〜100g/リットル)に対して吸着剤量1〜30g/リットルが使用される。本処理はバッチ法、カラム法のどちらでも行われ得るが、好ましくはバッチ法を用いる。バッチ法の条件としては、例えば、5〜25℃、5分〜1時間程度、混和、攪拌する。その後、濾過または遠心分離により上清(非吸着画分)を回収する。
【0029】
このように、血清アルブミンを除去する工程を経て調製された免疫グロブリン製剤は、免疫グロブリン50mg当たり血清アルブミンの夾雑量が10μg以下、好ましくは5μg以下の性状を有するものであり、例えば、免疫グロブリンの5w/v%濃度の溶液状態においては、血清アルブミンの夾雑量が10μg/ml以下、好ましくは5μg/ml以下の性状を有する。このような性状の免疫グロブリン製剤は従来のものと比較して保存安定性が良好となり、例えば、37℃、39日の保存においても、不溶性異物の生成が極めて少ないものとなる。また、免疫グロブリン製剤中の血清アルブミンの定量法としては公知のものが利用でき、例えばELISA法、マンシーニー法、比濁法等が採用され得る。本発明においては(d)の工程を所望により省略することもできるが、血清アルブミンの夾雑が懸念される場合には有利に行われ得る。
【0030】
(6)ウイルス不活化処理工程(e)
本発明における上記工程は、例えば所望の段階で、安定化剤の存在下に免疫グロブリンの抗体活性の減少は最小限にとどめるが、夾雑するウイルス、例えばHBウイルス、AIDSウイルス等は実質的に不活化する条件で加熱処理する工程が例示される。このウイルス不活化処理は、例えば出発原料の段階、各実施工程のいずれかの二工程の間、または各実施工程全てを終了した段階等のいずれの処理段階においても行うことができる。加熱処理は、含湿度3%以下の乾燥状態(即ち、乾熱処理:乾燥状態で十分な時間加熱処理することにより、ウイルスを不活化し得る)、または溶液状態、即ち免疫グロブリンの水溶液状態(即ち、液状加熱処理)で行う。より好ましくは液状加熱処理が推奨される。
【0031】
安定化剤としては、いずれの処理の場合も、二糖類(例、サッカロース、マルトース)、糖アルコール(例、ソルビトール、マンニトール)が好適に例示される。より好ましくはソルビトールである。安定化剤の添加量は、溶液状態での添加量として、乾熱処理法では、二糖類、糖アルコール等を0.5〜5w/v%(好ましくは、1〜3w/v%)、液状加熱処理法では二糖類、糖アルコール等を10w/v%以上(好ましくは、10〜50w/v%)の添加が好適に例示される。
【0032】
加熱の対象となる免疫グロブリンの、溶液状態における量としては、乾熱処理では、蛋白量として1〜10w/v%(好ましくは3〜7w/v%)となるように調整することが好適である。液状加熱処理では、蛋白量として0.1〜30w/v%(好ましくは5〜20w/v%)に調整することが好ましい。
【0033】
加熱処理は、乾熱処理の場合、安定化剤を添加後、要すれば除菌濾過し、例えば凍結乾燥等によって含水率3%以下、好ましくは1%以下とする。凍結乾燥の条件としては0.5mmHgの真空下、20〜40℃で24〜96時間程度が例示される。次いで、例えば50〜70℃(好ましくは60℃程度)、10〜200時間(好ましくは50〜100時間程度)で処理する。
【0034】
また、加熱処理工程は不活性ガス雰囲気下で行うことにより、加熱時の安定性をより高めることができる。不活性ガスとしては例えば、窒素ガス、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。
【0035】
液状加熱処理の場合は水溶液のpHを4.5〜6.5、好ましくはpH5〜6に調整し、イオン強度を0.0001〜0.1M(好ましくは0.0001〜0.01M)として、50〜70℃(好ましくは60℃程度)で10分間〜20時間(好ましくは10時間程度)処理する。
【0036】
加熱処理の工程は、乾熱処理の場合は最終工程で行うことが好ましい。液状加熱処理の場合は、出発原料に対して行うのが好適である。
【0037】
また、免疫グロブリン含有組成物(出発原料や(b)の工程を経て得られた濃縮画分等が包含される)をトリアルキルホスフェートに接触させることによってもウイルスを不活化することができる。トリアルキルホスフェートとの接触時の免疫グロブリン含有組成物の精製度は、特に限定されるものでなく、任意の精製度のものに適用可能であり、従ってトリアルキルホスフェートとの接触は前述の工程のどの段階に適用してもよいが、好適には溶液状態の免疫グロブリン含有組成物に接触させる。
【0038】
使用されるトリアルキルホスフェートは特に限定されないが、好適にはトリ−(n−ブチル)ホスフェート、トリ−(tert−ブチル)ホスフェート、トリ−(n−ヘキシル)ホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリ−(n−デシル)ホスフェート等が挙げられる。特に好ましいトリアルキルホスフェートは、トリ−(n−ブチル)ホスフェート(以下TNBPと言う)である。なお、2種類以上の異なるトリアルキルホスフェートの混合物も使用することができる。免疫グロブリンの量は、蛋白質として0.1〜30w/v%(好ましくは1〜20w/v%)に調整することが好適である。トリアルキルホスフェートは、0.01〜10w/v%の範囲の量、好ましくは約0.1〜3w/v%の範囲の量において使用される。当該トリアルキルホスフェートは、0〜60℃(好ましくは20〜40℃)で、30分間以上(好ましくは1〜30時間、より好ましくは3〜10時間)、pH6〜8程度の条件下で接触させる。
【0039】
トリアルキルホスフェートは界面活性剤を伴ってまたは伴わないで使用することができる。好ましくは、トリアルキルホスフェートは界面活性剤と組み合わせて使用する。この界面活性剤はトリアルキルホスフェートを免疫グロブリン含有組成物と接触する前、同時、またはその後の任意の段階で添加することができる。界面活性剤の作用は、ウイルスとトリアルキルホスフェートとの接触を強化することである。界面活性剤としては、脂肪酸のポリオキシエチレン誘導体、ソルビトール無水物の部分エステル(例えばトゥイーン80、トゥイーン20およびポリソルベート80等)、および非イオン性O/W型界面活性剤(例えばトライトンX100(オキシエチル化アルキルフェノール)等)等が挙げられる。さらにデオキシコール酸ナトリウム、およびスルホベタインとして周知の合成両性界面活性剤であるツブイッタージェント(Zwittergents)(例えばN−ドデシル−N,N−ジメチル−2−アンモニオ−1−エタンスルホネート、およびその同族体等)や非イオン性界面活性剤(例えばオクチル−β、D−グルコピラノシド等)等が挙げられる。界面活性剤を使用する場合、その量は臨界的ではなく、例えば約0.001%〜約10%、好ましくは約0.01%〜3%の範囲で使用することができる。
【0040】
トリアルキルホスフェート処理はエンベロープウイルス、例えばB型肝炎ウイルス、非A非B型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、水疱性口内炎ウイルス(Vesicular Stomatitis Virus)、シンドビスウイルス(Sindbis Virus)等の不活化に特に有用である。
【0041】
(7)保存を行う工程(f)
本発明における上記工程は、上記グロブリン溶液を例えば多孔膜処理後において、低pHで長期間保管することにより、酸性領域の環境下で耐性のないウイルス・細菌などを有効に不活化する工程である。
低pHにおける処理時間・処理温度は、対象となるウイルス・細菌種や、目的とする不活化率・除去効率によって適宜選択しうる。
低pHとは、通常pH3.5〜pH5.0であり、好ましくは、pH4.0〜pH4.5である。
保管の期間は通常3日〜1ヶ月であり、好ましくは、7日〜21日であり、さらに好ましくは2週間程度を挙げることができる。
保管の温度は通常10℃〜50℃であり、好ましくは20℃〜30℃である。
また保管は、インキュベーションしてもよいし、そのまま静置してもよいが、インキュベーションするのが好ましい。
該工程で不活化されるウイルスは、一般にはパルボウイルス、レトロウイルス、エンベロープウイルスが挙げられる。
【0042】
3.最終製剤について
本発明における免疫グロブリン製剤は、好ましくはソルビトールを含み、より好ましいpHは3.9〜4.4である。
ソルビトールの含有量は、免疫製剤の通常1〜20w/v%であり、好ましくは、2〜10w/v%であり、さらに好ましくは5w/v%である。
本発明における免疫グロブリン製剤のpHは、3.4〜6.0であり、好ましくはpH3.7〜4.8であり、より好ましくは3.9〜4.4である。
本発明における免疫グロブリン製剤の塩濃度は、通常は0.0001〜0.050Mであり、好ましくは0.0001〜0.020Mであり、より好ましくは0.001〜0.015Mである。
本発明における免疫グロブリン製剤は具体的には以下のように調製されるがこれに限定されない。
【0043】
液状製剤の調製
上述の本発明における製造方法を用いることにより、免疫グロブリン製剤が得られる。特に非化学修飾完全分子型免疫グロブリンを常套手段によって1〜10w/v%(好ましくは3〜7w/v%)になるように水溶液に調整し、さらに安定化剤、例えばソルビトール1〜20w/v%(好ましくは2〜10w/v%)、pH3.9〜4.4になるように、自体既知の手段にて調整した後、通常の製剤化技術に基づいて、除菌濾過、分注等を行い、例えば静脈内投与可能な非化学修飾完全分子型免疫ブロブリン液状組成物(製剤)を調製することができる。かくして調製された製剤は、非化学修飾完全分子型免疫グロブリンを含有し、pH3.9〜4.4である。
【0044】
本発明の免疫グロブリン含有製剤に含まれ得る非化学修飾完全分子型免疫グロブリンとは、(i)自然のままで何らの修飾や変化もうけておらず、従って免疫グロブリンのフラグメントであるFab、F(ab’)2 、Fc等を含まない、(ii)抗体価の低下がなく、同時に抗体スペクトルの低下もない、(iii)抗補体作用(補体結合性)が日本国生物学的製剤基準(以下、生基準ともいう)で安全と見なされる20単位(CH50値)よりも十分に低い、という諸性状を備えたものをいう。
【0045】
本発明における免疫グロブリン製剤は、液状製剤または乾燥製剤など特に限定されないが、使用時に注射用蒸留水等に溶解する必要がなく、簡単に即時に投与できる点で液状製剤が好ましい。具体的には、液状製剤の場合はそのままで、あるいは適当な溶媒(例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、ぶどう糖液等)で希釈し、乾燥製剤の場合は適当な溶媒(例えば注射用蒸留水)に溶解して、静脈内投与等する。
【0046】
本発明における免疫グロブリン製剤の具体的な適応疾患は以下のとおりである。
1.低並びに無ガンマグロブリン血症
2.重症感染症
3.続発性血小板減少性紫斑病
4.川崎病の急性期
【0047】
本発明における免疫グロブリン製剤は、静脈注射用または筋肉注射用など特に限定されないが、直接静脈注射(点滴注射)するのが好ましい。直接静脈注射する場合は、極めて徐々に行うことが望ましい。通常成人に対しては、1回ヒト免疫グロブリンGとして2,500〜5,000mgを、小児に対しては1回ヒト免疫グロブリンGとして100〜150mg/kg体重を使用する。症状によって適宜増減できる。続発性血小板減少性紫斑病に用いる場合、通常1日に、ヒト免疫グロブリンGとして200〜400mg/kg体重を投与する。年齢や症状に応じて適宜増減する。川崎病に用いる場合、通常、人免疫グロブリンGとして1日に400mg(8mL)/kg体重を5日間点滴静注又は直接静注、若しくは人免疫グロブリンGとして2,000mg(40mL)/kg体重を1回点滴静注する。なお、年齢及び症状に応じて適宜減量する。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
(実施例1)免疫グロブリン含有溶液の調製
ヒト血漿から冷エタノール法により得られたコーン画分II+III 1kgに水10リットルを加え、さらにこの溶液100ml当たりソルビトール50gを添加し、pH5.5に調整した後、60℃で10時間加熱処理した。その後pH5.5に調整した後、冷注射用水にて当該溶液を3倍に希釈し、pH5.5の条件下で、ポリエチレングリコール(平均分子量4,000)を終濃度が8%となるように添加し、2℃で遠心分離を行い上清を得た。この上清をpH4に調整した後、分画分子量10万の限外濾過膜(ペリコン2バイオマックス、ミリポア社製)を用いて注射用水に対して溶液の濃縮を行った。pH5〜7に調整した当該溶液に水で平衡化したDEAE−セファデックスを添加(溶液50ml当たり2ml)し、0〜4℃の条件下で約1時間接触処理し、処理後濾過することによりDEAE−セファデックスを除去して濾過液(免疫グロブリン溶液)を回収した。
【0049】
(実施例2)好適な濾過特性の検討
プラノバ20N(旭化成ファーマ(株))を用い、好適な濾過特性(pH、温度)について検討した。
実施例1で得られた免疫グロブリン溶液を用いD-ソルビトールを添加して浸透圧調整を行った(浸透圧:285mOsm、pH:6.46)。D-ソルビトール添加した免疫グロブリン溶液のpHを、pH=5.2、4.75、4.5、4.25、4.0、3.7となるように0.5mol/L HClで調製を行った。各pH製剤の調製においては、D-ソルビトール添加後の浸透圧比(生食対して)を0.8〜1.2になるようにした。
各pHで調整された免疫グロブリン溶液を5℃、30℃、35℃の温度条件でプラノバ20N(0.01m3、旭化成ファーマ(株))で濾過を行い、濾過圧を0.04Mpaに保ち、経時的な濾過量を測定した。
結果を図1から図3に示す。
結果として、各温度における濾過液量は製剤のpHを低くする程、濾過液量が増加した。5℃と比較して、30℃以上における濾過速度は、顕著に上昇した。
pH4.0におけるろ過液量は、20nmBMM/0.01m2/10時間の条件で、30℃及び35℃でそれぞれ、315g(306mL)、392g(381mL)であった。
また、pH4.5におけるろ過液量は、20nmBMM/0.01m2/10時間の条件で、30℃及び35℃でそれぞれ306g(297mL)、360g(350mL)であった。
このようにD-ソルビトール添加後のpHを4.5以下とし、20nmBMMろ過時の液温を30℃以上に保つことにより、プラノバ20Nにおいて良好な濾過特性が得られた。
【0050】
(実施例3)添加物の検討
免疫グロブリン溶液の安定性に関し、至適pH条件下で添加剤について検討を行った。
【0051】
1.検体の調製
実施例1で得られた免疫グロブリン溶液を注射用水で希釈し、280nmにおける吸光度を85に調整した(希釈液)。希釈液50mLに下記の12種類の組成(無添加2種類を含む)となるよう各種の添加剤を添加し溶解させた後、pHを1mol/Lの HClを用いて4.1±0.1(at 20℃)に調整した。このpH調整を行った溶液をZeta Plus 90LAフィルタ−にて清澄ろ過後、0.22μmのフィルタ−を用いて除菌ろ過した。4mL容ガラスバイアル瓶中に2mLずつ小分け分注し、無菌的にゴム栓、スクリュ−キャップで密栓した。
【0052】
2.各種添加剤
下記12種類(無添加2種類を含む)の添加剤を組成とした。
[1] 5.0% ソルビトール(ナカライテスク製)
[2] 4.5% グルコース(ナカライテスク製)
[3] 7.5% スクロース(ナカライテスク製)
[4] 8.0% マルトース(ナカライテスク製)
[5] 4.5% マンニトール(ナカライテスク製)
[6] 1.5% グリシン(和光純薬工業製)
[7] 2.0% グリシン(和光純薬工業製)
[8] 0.9% NaCl(和光純薬工業製)
[9] 無添加:1mol/L HClでpH調整
[10] 2.2% グリセリン(キシダ化学製)
[11] 10mmol/L CaCl(ナカライテスク製)を含む5.0% ソルビトール(ナカライテスク製)
[12] 無添加:酢酸でpH調整
【0053】
3.安定性試験
小分け分注した各添加剤含有免疫グロブリン溶液について苛酷試験及び加速試験で評価した。
【0054】
3−1.苛酷試験
温度条件:(1)37℃、(2)45℃、(3)50℃、(4)55℃、(5)60℃
観察項目:1)外観(色調、濁りの観察)
2)GPC分析(ポリマー IgG比率)
【0055】
3−2.加速試験
温度条件:(1)25℃、(2)37℃
観察期間:1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月の3時点
観察項目:1)外観(色調、濁りの観察)
2)GPC分析1(ポリマー IgG比率)
【0056】
4.試験方法
4−1.外観
検体について色調、透明性および肉眼による不溶性異物の有無を観察した。
【0057】
4−2.HPLCによるゲルろ過分析(GPC分析)
ポリマー IgG比率の分析
検体を分析Bufferで5倍希釈しTSK gel G3000SWXLを装着したBeckman製高速液体クロマトグラフ(SYSTEM GOLD)に注入し分析した。
分析条件
Column :TSK gel G3000SWXL
Buffer :0.3mol/L NaClを含む0.05M 酢酸ナトリウム緩衝液,pH6.7
Flow rate :0.5mL/min
分析時間:30分
ピ−ク検出:A280nm
【0058】
5.試験結果
5−1.苛酷試験
1)外観
苛酷試験(37℃、45℃、50℃、55℃、60℃で1時間反応)後の外観は、[8] NaCl及び[11] CaCl添加の組成のみ乳白色の濁りが観察されたが、他組成は全て無色,澄明で加熱による色調及び透明性の変化は認められなかった。なお、[8] NaCl添加の組成では60℃、1時間の加熱により固化した。
【0059】
2)HPLCによるゲルろ過分析(GPC分析:ポリマー IgG比率)
苛酷試験(37℃、45℃、50℃、55℃、60℃で1時間反応)後の検体のポリマー IgG比率を測定した。37℃と60℃の結果を表1に示す。ポリマー IgG比率は、5.0% ソルビトール、8.0% マルトース、4.5% グルコース、7.5% スクロース、4.5% マンニトール、無添加(酢酸でpH調整)、無添加(HClでpH調整)、1.5% グリシン、2.0% グリシン、10 mmol/L CaClを含む5.0% ソルビトール、0.9% NaClの順となった。他の反応温度も概ね同等の順位(ポリマー IgG比率量)を示し、この順に安定効果は劣ると考えられた。
【0060】
【表1】

【0061】
5−2.加速試験
1)外観
加速試験(25℃及び37℃で1、2、3ヶ月)で観察した。NaCl添加の組成のみ乳白色の濁りが認められたが、他組成は全て無色,澄明であった。
【0062】
2)HPLCによるゲルろ過分析(GPC分析:ポリマー IgG比率)
加速試験(25℃及び37℃で1、2、3ヶ月)検体のポリマー IgG比率を測定した。25℃ 3ヶ月と37℃ 3ヶ月の結果を表2に示した。
その結果、25℃保存検体とも3ヶ月間、NaCl組成を除きポリマーは殆ど認められなかったが、37℃保存では1ヶ月で既に1%を越え、経時的に増加する傾向が認められた。37℃、3ヶ月目のポリマー IgG比率は、5.0% ソルビトール、4.5% マンニトール、7.5% スクロース = 8.0% マルトース、4.5% グルコース、無添加(HClでpH調整)、1.5% グリシン、2.0% グリシン、0.9% NaClの順で、苛酷試験(60℃、1時間)の成績とは僅かに異なったが、両試験ともソルビトール組成が最も高い安定効果を示した。
【0063】
【表2】

【0064】
以上の免疫グロブリン溶液の安定化剤の検討において、37℃〜60℃、1時間の苛酷試験の結果、NaCl及びCaCl添加の組成を除き各添加剤とも外観及び濁度に大きな変化は認められなかった(無色・澄明)。
一方、苛酷試験によるポリマー含量(2量体より大きな免疫グロブリンG重合物)は添加剤間で顕著な差異が認められ、5.0% ソルビトール、8.0% マルトース、4.5% グルコース、7.5% スクロース、4.5% マンニトール、無添加(酢酸でpH調整)、無添加(HClでpH調整)、1.5% グリシン、2.0% グリシン、10 mmol/L CaClを含む5.0% ソルビトール、0.9% NaClの順に含量が増加することが分かった。この結果よりソルビトール組成が最も優れた安定効果を有することが示唆された。
【0065】
加速試験(25℃及び37℃で1、2、3ヶ月)の結果、外観及び濁度とも苛酷試験と同等の成績を示した。ポリマー含量(37℃、3ヶ月)は苛酷試験(60℃、1時間)の成績と僅かながら異なったが、苛酷試験と同様にソルビトール組成が最も高い安定効果を示した。
【0066】
(実施例4)製剤pHが保存安定性に与える影響
実施例1で調製された免疫グロブリン溶液を用い、pHを3.5〜5.2の各種製剤を調製し、25℃及び37℃保存による安定性を検討した。
【0067】
1.検体の調製
実施例1で調製された免疫グロブリン溶液を用い、図4に従い、安定剤としてD−ソルビトール5%(W/V)を添加し、表3に記載したpHに調整後、10mL(ヒト免疫グロブリンGとして500mg)分注したものを検体とした。なお、性状、不溶性異物検査用の検体としては、50mL(ヒト免疫グロブリンGとして2500mg)分注したものを調製し、使用した。また、参考として安定剤をD−ソルビトールに替えマルト−ス10%としpH3.7に調整した。
【0068】
【表3】

【0069】
2.試験方法(「GPC分析:ポリマー IgG比率」のみ記載した。)
2−1.試験項目
各検体を25℃及び37℃で保存し、経時的に各検体のHPLCによるゲルろ過分析(GPC分析:ポリマー IgG比率)を行った。また、目視による性状試験、不溶性異物試験も行った。
2−2.試験方法
HPLCによるゲルろ過分析(GPC分析:ポリマー IgG比率)
検体を分析Bufferで5倍希釈しTSK gel G3000SWXLを装着したBeckman製高速液体クロマトグラフ(SYSTEM GOLD)に注入し分析した。
分析条件
Column :TSK gel G3000SWXL
Buffer :0.3mol/L NaClを含む0.05M 酢酸ナトリウム緩衝液,pH6.7
Flow rate :0.5mL/min
分析時間:30分
ピ−ク検出:A280nm
【0070】
3.試験結果
加速試験(25℃で2、4、6ヶ月)及び苛酷試験(37℃で1、2、3ヶ月)検体のポリマー IgG比率を表4に示した
その結果、加速条件では6ヶ月目でpHが3.7以下でポリマーの出現が認められ、3.5では1%を越えていた。
苛酷条件では苛酷1ヶ月目でpH3.7以下でポリマーが認められ、苛酷3ヶ月で全てのpHでポリマーの出現を認めた。
なおポリマーの出現はpH依存性を認めた。
pH3.7においてソルビトールとマルトースを比較した場合、加速、苛酷条件ともソルビトールが安定であり。苛酷条件ではその差が顕著であった。
【0071】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】5℃における濾過速度と、免疫グロブリン溶液のpHの関係を示す図である。
【図2】30℃における濾過速度と、免疫グロブリン溶液のpHの関係を示す図である。
【図3】35℃における濾過速度と、免疫グロブリン溶液のpHの関係を示す図である。
【図4】検体を作成するためのフローチャートを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが5.2以下の免疫グロブリン溶液を、平均孔径15〜20nmの多孔性膜を用いて濾過処理する工程を含む免疫グロブリン製剤の製造方法。
【請求項2】
免疫グロブリン溶液のpHが3.7〜4.8である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
濾過処理における免疫グロブリン溶液の温度が30〜40℃である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
以下の少なくとも1つの工程を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法:
免疫グロブリン溶液を
(a)ポリエチレングリコールで処理する工程、
(b)限外濾過膜で処理する工程、
(c)陰イオン交換体と接触させる工程、
(d)コロイド珪酸と接触させる工程、
(e)ウイルスを不活化処理する工程または
(f)pH3.9〜4.4の条件下で、20℃〜30℃で二週間の保存を行う工程。
【請求項5】
(f)の工程を含む請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
免疫グロブリン製剤が静脈注射用である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
免疫グロブリン製剤が液状である請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
ソルビトールを含み、pH3.9〜4.4である免疫グロブリン製剤。
【請求項9】
ソルビトールの含有量が1〜20w/v%である請求項8記載の製剤。
【請求項10】
静脈注射用である請求項8または9記載の製剤。
【請求項11】
液状である請求項8〜10のいずれか1項に記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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