説明

免疫介在性疾患における臨床応用のための、抑制機能の高められた制御性T細胞のエクスビボ増加方法

CD4+CD25+Tregをエクスビボで増加させる方法を開示する。自己抗原又はアレルゲンに対する望ましくないヒトの免疫応答を阻害するために用いることができる、エクスビボで増加されたTregを生成する方法を更に開示する。更に、エクスビボで増加されたTregは、炎症性/自己免疫疾患の治療を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御性T細胞の抑制機能を高める方法に関する。具体的には、本発明は、制御性T細胞のエクスビボ増加方法であって、前記細胞が高い抑制特性を示す方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
制御性T細胞、即ち、Tregは、免疫系の活性化を抑制することによる自己抗原に対する寛容性の維持において重要であることが知られている。全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematous)、多発性硬化症、関節リウマチ、喘息、潰瘍性大腸炎、及びクローン病等の炎症性/自己免疫疾患を有する患者では、CD4+CD25+Tregを発現させる転写因子Foxp3の機能に欠陥があるか又は頻度が低下している。このような自己免疫疾患では、患者の免疫系は、細胞又は細胞の一部を患者自身として認識することができず、組織を破壊する。
【0003】
関節リウマチ、喘息、及び移植片対宿主病(「GVHD」)を含むが、これらに限定されない様々な動物疾患モデルの治療において、CD4+CD25+Tregの投与の治療効果が示されている。治療応用におけるTregの使用は、Tregがヒトの末梢血単核細胞のほんの僅かな割合、約1〜2%しか存在しないので、問題となる。したがって、特定の疾患の治療において使用するためのTregのエクスビボにおける活性化及び増加、又は増殖方法が開発されている。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】実施例1の集団由来のCD4+Foxp3+Treg頻度を示すグラフ。
【図2】実施例2の精製CD4+Tregを示すグラフ。
【図3】実施例3のTreg増加を示すグラフ。
【図4】Foxp3を発現した実施例3のエクスビボで増加した細胞の割合を示すグラフ。
【図5A】実施例4の増加したTregの阻害活性を示すグラフ。
【図5B】実施例4の増加したTregの阻害活性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明は、CD4+CD25+Tregのエクスビボ増加方法、前記方法から得られる組成物、及び前記組成物の使用方法を提供する。前記方法を使用することにより得られる細胞は、新鮮Treg細胞と比べて、高い抑制活性を示す。本発明は、自己抗原又はアレルゲンに対する望ましくないヒトの免疫応答を阻害するために用いることができる、エクスビボで増加されたTregを生成する方法を提供する。更に、エクスビボで増加されたTregは、炎症性/自己免疫疾患の治療を提供することができる。
【0006】
1つの実施形態では、本発明は、a)個体からT細胞集団を得ることと;b)前記T細胞集団からCD4+CD25+Tregの亜集団を単離及び精製することと;c)前記亜集団のTreg細胞を増加させることとを含む、から本質的になる、及びからなる方法であって、前記増加されたTreg細胞が、個体から新たに精製された増加されていないTregの集団に比べて高い抑制活性を示す方法を提供する。
【0007】
全身性エリテマトーデス(「SLE」)、多発性硬化症(「MS」)、喘息、関節リウマチ(「RA」)、クローン病(「CD」)、及び潰瘍性大腸炎(「UC」)を含むが、これらに限定されない自己免疫/炎症性疾患を有するヒトのTregは、同じヒトから新たに精製されたTregと比べたとき、高い抑制活性を示してT細胞の増殖を阻害することが本発明で見出された。Tregは、向上された抑制機能を有しながら、エクスビボで100〜1,000倍に増加し得ることが本発明で見出された。
【0008】
本発明の方法の最初の工程では、T細胞集団が得られる。T細胞は、個体の末梢血、胸腺、リンパ節、脾臓、又は骨髄を含むが、これらに限定されない任意の好適な源から得ることができる。好ましくは、T細胞は、ヒトの末梢血から得られる。より好ましくは、T細胞は、自己免疫/炎症性疾患を有する個体から得られ、最も好ましくは、寛解期であろうと、活動性である期間中であろうと、SLE、MS、喘息、RA、CD、及びUCのうちの1つ以上を有する個体から得られる。最も好ましくは、ヒトCD4+CD25+T regは、全血ユニット(whole blood units)又はleukpakから精製される。
【0009】
次いで、任意の都合のよい方法によって、フローサイトメトリーを含むがこれらに限定されない、Treg特異的細胞マーカーに基づいた任意の都合のよい分離技術を用いてT細胞集団からCD4+CD25+Tregの亜集団が単離される。例えば、このような単離及び精製を実施するためのキットが多数市販されている。市販のキットとしては、AuotmacsのMiltenyi Tregキット、ClinMACS等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、40%超がFoxp3について陽性であり、かつ90%超がCD4について陽性である集団が得られるまで、単離及び精製を行う。
【0010】
次いで、自己抗原特異的制御性T細胞刺激組成物を用いてTreg亜集団をエクスビボで増加させる。好ましくは、組成物は、抗原特異的に結合して、T細胞の受容体複合体を活性化させる。より好ましくは、増加は、有効量の第1及び第2の活性化剤及び共刺激剤活性化剤の存在下で実施される。有効量とは、制御性T細胞を所望の程度まで刺激するのに有効な量を意味する。
【0011】
第1の活性化剤は、抗CD抗体等の抗原非特異的活性化剤、及びペプチドが自己免疫/炎症性疾患に関連するペプチドであるMHCペプチドマルチマー等の抗原特異的活性化剤を含むが、これらに限定されない、多価抗体又はTCR/CD3のリガンドであってもよいTCR/CD3活性化剤である。好ましくは、TCR/CD3活性化剤は、抗CD3抗体である。
【0012】
組成物は、更なる好適な制御性T細胞刺激剤である第2の活性化剤を含む。この成分としては、インターロイキンを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、IL−2が用いられる。IL−2は、典型的に、組換え型で用いられ、約1,000IU/mLの量で用いられる。
【0013】
TCR共刺激剤に特異的な多価抗体又はリガンドは、共刺激剤活性化剤として用いることができる。好ましくは、共刺激剤活性化剤は、CD28である。活性化剤は、ラパマイシン、P13キナーゼ阻害剤、抗IL6等が挙げられるが、これらに限定されない1つ以上の添加剤を使用することによって強化することができる。
【0014】
TCR/CD3活性化剤及びTCR共刺激剤活性化剤は、好ましくは三次元固体表面上、より好ましくはビーズ上に固定化される。cell Expander Dynalbeads(Invitrogen)等の好適なビーズが市販されている。Tregのビーズに対する比は、好ましくは1:3である。最適なビーズの大きさは、効率的に抗体を集合させるのに必要な大きさに対する考慮に依存し、典型的には、直径約1〜10マイクロメートルである。ビーズ表面上の抗CD3及び抗CD28抗体の比は、約1〜20又は約20〜1で変化し得る。
【0015】
増加は、少なくとも100倍、好ましくは1,000倍超に増加するように実施される。増加は、刺激及び培養の長さに依存する。しかし、培養に他の変更を行ってもよく、培養時間を更に長くしてもよいので、他の好ましくない因子を実質的に組み込むことなく大部分の細胞を得られる培養時間にしてもよい。
【0016】
本発明は、以下の非限定的な実施例を考察することによって明確にされる。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
SLE患者9人、RA患者7人、喘息患者7人、MS患者10人、及びCD患者7人、並びに自己免疫疾患ではない11人から、各50ccの末梢血サンプル約5〜10個を採取した。
【0018】
前記サンプルの末梢血単核細胞(「PBMC」)からCD4+Tregを単離し、精製した。Ficoll Hypaque(Amersham)を用いた密度勾配遠心分離によって血液サンプルからPBMCを単離した。製造業者の説明書に従ってヒトCD4+CD25+制御性T細胞単離キット(Miltenyi Biotec,Auburn,CA)を用いてautoMACSによりPBMCからCD4+CD25+Tregを精製した。簡潔に述べると、ヒトCD8、CD14、CD16、CD19、CD36、CD56、CD123、TCRγ/δ及びCD235aに対するモノクローナル抗体の混合物で非CD4細胞を枯渇させることによって、先ずPBMCからCD4+T細胞を陰性単離した。次いで、濃縮されたCD4+T細胞集団から、抗ヒトCD25抗体がコンジュゲートしたマイクロビーズを用いてヒトCD4+CD25+Tregを陽性単離した。細胞内Foxp3染色を用いてFoxp3発現CD4+Tregの頻度を評価し、フローサイトメトリーによって分析した。以下の図1に結果を示し、これは、各ヒトのCD4+プール集団におけるCD4+Foxp3+Tregの百分率を示す。
【0019】
(実施例2)
SLE患者9人、RA患者7人、喘息患者7人、MS患者8人、及びCD患者7人、並びに自己免疫疾患ではない25人から、各50ccの末梢血サンプル約5〜10個を採取した。
【0020】
前記サンプルのPBMCからCD4+Tregを精製した。精製は、実施例1に記載の通り実施した。0日目における精製したCD4+Tregの純度を細胞内Foxp3染色を用いて評価し、フローサイトメトリーによって分析し、結果を図2のグラフに示す。精製した細胞の約40〜75%がFoxp3を発現していた。
【0021】
(実施例3)
SLE、RA、喘息、MS、CD、及びUC患者から各50ccの約5〜10個の末梢血サンプルを採取した。前記サンプルのPBMCからCD4+Tregを精製した。精製は、実施例1に記載の通り実施した。
【0022】
1000IU/MIのヒトrIL−2(Proleukin)の存在下で、10%のプールしたヒトAB血清(Cambrex)を添加したX−VIVO 15(商標)培地(Cambrex Bio−Whitaker,East Rutherford,NJ)中にて、CD4+Foxp3+Tregを培養した。更に、抗CD3/抗CD28をコーティングしたビーズ(Dynal,Oslo,Norway)を、細胞対ビーズ比1:3で添加した。インキュベータ内で37℃にて3週間培養した後、増加したTregは、図3のグラフに示すように、100〜1,000倍増加した、即ち、10億個の細胞に達した。図4は、2週間目の細胞内染色によって、エクスビボで増加した細胞の平均40〜50%がFoxp3を発現していたことを示すグラフである。
【0023】
(実施例4)
実施例3のTregを、以下の通り標準化された抑制アッセイを用いて2週間目に評価した。抗CD3で刺激する培養では、同じドナー由来のアロジェニックなCD4+CD25+ヒトT細胞(5×10細胞/ウェル)をレスポンダー細胞として用い、1mg/mLの抗CD3(OKT3)及びアロジェニックなヒト樹状細胞(1人のドナー由来、5×10細胞/ウェル)及び段階希釈した増加Tregを、トリプリケートで96ウェルプレートに入れた。アロ抗原で刺激する培養では、1人のドナー由来のCD4+CD25+ヒトTreg細胞(5×10細胞/ウェル)、別のドナー由来の5×10個のヒト樹状細胞、及び段階希釈した増加Tregを、トリプリケートで96ウェルプレートに入れた。
【0024】
図5のグラフに示す結果は、エクスビボで増加されたヒトTregが、インビトロ機能アッセイでT細胞の増殖を阻害する強力な阻害活性を有していたことを示す。更に、Tregの阻害活性は、同じヒトから新たに精製されたTregよりも高かった。この抑制活性を用いて、自己免疫/炎症性疾患における望ましくないヒトの免疫応答を阻害することができ、自己免疫/炎症性疾患に対する臨床的な治療の可能性をもたらす。
【0025】
〔実施の態様〕
(1) a)全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、喘息、関節リウマチ、クローン病、又は潰瘍性大腸炎から選択される免疫介在性疾患の個体からT細胞集団を得ることと;b)前記T細胞集団からCD4+CD25+Tregの亜集団を単離及び精製することと;c)前記亜集団のTreg細胞を増加させることとを含む方法であって、前記増加されたTreg細胞が、前記個体から新たに精製された増加されていないTregの集団に比べて高い抑制活性を示す、方法。
(2) 前記増加が、約100〜1,000倍である、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記増加が、約3週間にわたって行われた、実施態様1に記載の方法。
(4) 免疫介在性疾患の個体を治療する方法であって、a)全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、喘息、関節リウマチ、クローン病、又は潰瘍性大腸炎から選択される免疫介在性疾患の個体からT細胞集団を得ることと;b)前記T細胞集団からCD4+CD25+Tregの亜集団を単離及び精製することと;c)前記亜集団のTreg細胞を増加させることと;d)前記免疫介在性疾患の治療が施されるヒトにCD4+CD25+制御性T細胞の一部を投与することとを含む、方法。
(5) 前記免疫介在性疾患が、全身性エリテマトーデスである、実施態様4に記載の方法。
(6) 前記免疫介在性疾患が、多発性硬化症である、実施態様4に記載の方法。
(7) 前記免疫介在性疾患が喘息、関節リウマチである、実施態様4に記載の方法。
(8) 前記免疫介在性疾患が、関節リウマチである、実施態様4に記載の方法。
(9) 前記免疫介在性疾患が、クローン病である、実施態様4に記載の方法。
(10) 前記免疫介在性疾患が、潰瘍性大腸炎である、実施態様4に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、喘息、関節リウマチ、クローン病、又は潰瘍性大腸炎から選択される免疫介在性疾患の個体からT細胞集団を得ることと;b)前記T細胞集団からCD4+CD25+Tregの亜集団を単離及び精製することと;c)前記亜集団のTreg細胞を増加させることとを含む方法であって、前記増加されたTreg細胞が、前記個体から新たに精製された増加されていないTregの集団に比べて高い抑制活性を示す、方法。
【請求項2】
前記増加が、約100〜1,000倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記増加が、約3週間にわたって行われた、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
免疫介在性疾患の個体を治療する方法であって、a)全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、喘息、関節リウマチ、クローン病、又は潰瘍性大腸炎から選択される免疫介在性疾患の個体からT細胞集団を得ることと;b)前記T細胞集団からCD4+CD25+Tregの亜集団を単離及び精製することと;c)前記亜集団のTreg細胞を増加させることと;d)前記免疫介在性疾患の治療が施されるヒトにCD4+CD25+制御性T細胞の一部を投与することとを含む、方法。
【請求項5】
前記免疫介在性疾患が、全身性エリテマトーデスである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫介在性疾患が、多発性硬化症である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫介在性疾患が喘息、関節リウマチである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫介在性疾患が、関節リウマチである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫介在性疾患が、クローン病である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫介在性疾患が、潰瘍性大腸炎である、請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2012−527237(P2012−527237A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511939(P2012−511939)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/035132
【国際公開番号】WO2010/135255
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511279531)セラコス・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Therakos, Inc.
【住所又は居所原語表記】1001 US Highway Route 202 North, Raritan, NJ 08869, United States of America
【Fターム(参考)】