説明

免疫抑制剤の腎毒性を制限するためのTGF−βアンタゴニストの使用

本開示は、免疫抑制活性が、例えば、シクロスポリン(CsA)などのTGF−βのアップレギュレーションを介して仲介される免疫抑制剤の腎毒性の副作用を緩和する方法に関する。本開示は、免疫抑制を必要とする患者、例えば、移植拒絶の危険性にあるかまたは自己免疫疾患の患者に使用するための処置の様相を提供する。本発明の方法では、TGF−βアンタゴニスト、例えば、抗TGF−β抗体は、免疫抑制剤によって処置される患者に投与される。そのようなTGF−βアンタゴニストは、薬剤の免疫抑制活性を実質的に妨げずに免疫抑制剤の腎毒性作用を緩和するのに十分な治療有効量で投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年9月22日に出願された米国仮出願第60/612,187号明細書(参考としてその全体が本明細書に引用される)に対し優先権を主張する。
【0002】
本発明の技術分野は、臓器移植(移植学)、臨床免疫学、および腎臓病学の分野に関する。本発明は、シクロスポリンを含む所定の免疫抑制剤の腎毒性の副作用を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
免疫抑制は、組織/臓器移植ならびに自己免疫および炎症性障害の治療における拒絶の危険性を低減するために日常的に使用される。シクロスポリンA(CsA)は、現在最も広範に使用されている免疫抑制剤である。タクロリムス(TAC)(FK506としても公知である)およびシロルムス(sirolumus)(ラパマイシンとしても公知である)は、他の2つの一般に使用される免疫抑制薬である。多様な免疫抑制療法のレビューについては、例えば、シュウアマン(Schuurman)ら(2001年)Modern Immunosuppressives(Milestones in Drug Therapy),Birkhauser,Boston;およびセイグ(Sayegh)ら(2001年)Current and Future Immunosuppressive Therapies Following Transplantation,Kluwer Academic Publishersを参照のこと。
【0004】
改善された治療ストラテジーが開発されているが、免疫抑制剤に関連する有害な副作用については重要な課題として残されたままである。腎毒性は、多くの免疫抑制療法、特に、カルシニューリンインヒビターを利用する療法の重大な合併症である。
【0005】
急性シクロスポリン(CsA)毒性は、糸球体濾過量(GFR)および腎血流の減少、低マグネシウム血症、ならびに尿細管損傷を特徴とする腎炎を引き起こす。同様に、慢性CsA毒性は、間質の繊維化、管萎縮、および動脈虚血などの管変化を特徴とする進行性の状態の腎機能障害を生じる。これらの変化は、最終的に、末期の腎疾患および腎不全をもたらす。腎毒性は、例えば、タクロリムス(例えば、イングリッシュ(English)ら(2002年)Am.J.Transplant.,2:769−273を参照のこと)およびシロルムス(sirolumus)(例えば、フェルベンザ(Fervenza)ら(2004年)Nephrol.Dial.Transplant.,19(5):1288−1292を参照のこと)で処置された移植レシピエントにおいて観察された。
【0006】
最近の研究は、CsA、タクロリムス、およびラパマイシンを含む所定の免疫抑制薬の免疫抑制活性ならびに/または腎毒性の両方のメディエーターとしてのトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に関与している(カナ(Khanna)ら(2000年)Transplantation,70(4):90−694)。抗TGF−β抗体の投与によるCsA腎毒性の非移植モデルにおいてTGF−βをブロックすることによって、組織線維化全体が実質的に低減することが示された(カナ(Khanna)ら(1999年)Transplantation,67:882−889;イスラム(Islam)(2001年)59:498−506;リング(Ling)ら(2003年)J.Am.Soc.Nephrol.,14:377−388)が、しかし、それはまた、薬剤の免疫抑制効果も阻害する。
【0007】
腎毒性を低減する一方、このクラスの薬物における免疫抑制を保持することを目的とした多くの実験ストラテジーが試験されている。TGF−βに関連するが間接的な機構によって腎毒性を和らげ得る薬剤として:ミコフェノール酸モフェチル(MMF)(シハブ(Shihab)ら(2003年)Am.J.Transplant.,3:1550−1559)、スピロノラクトン(フェリア(Feria)ら(2003年)Kidney Int.,63:43−52)、ロサルタン(ヤン(Yang)ら(2003年)Transplantation,75:309−315)、ビタミンE(ジェンキンズ(Jenkins)ら(2001年)Transplantation,71:331−334)、パーフェニドン(シハブ(Shihab)(2002年)Am.J.Transplantation,2:111−119)、およびアンギオテンシン受容体拮抗薬(バファ(Boffa)ら(2003年)J.Am.Soc.Nephrol.,14:1132−1144)が挙げられる。しかし、完全に満足できるものはない。
【0008】
従って、CsAまたは他の免疫抑制剤の腎毒性の低減を可能にする一方、それらの免疫抑制活性を維持する処置モダリティの必要性がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
TGF−βは、所定の免疫抑制剤の免疫抑制および腎毒性作用の両方を仲介する。この二重の活性のため、本発明より以前は、例えば、抗TGF−β抗体などの直接的なTGF−βアンタゴニストによる補助療法がこれらの薬剤の腎毒性作用を十分に減少し得、同時にそれらの免疫抑制活性を実質的に妨げないかどうかについては不明であった。
【0010】
本発明は、特に、臓器移植または自己免疫疾患について、免疫抑制剤の腎毒性を低減するための方法および組成物を提供する。従って、方法は、移植片拒絶を防止するかまたは自己免疫疾患を処置するために免疫抑制療法を経験している患者を処置するのに有用である。
【0011】
本発明は、低(高ではない)用量の抗TGF−β抗体が、同種移植生存率によって判定されるように、CsAの免疫抑制活性を実質的に妨げることなく、CsA仲介腎毒性を軽減することの発見および実証に部分的に基づく。
【0012】
本発明に関連して行われた実験では、心臓移植を施されたCsA免疫抑制ラットに抗TGF−β抗体を投与した。より低い用量(1mg/kg)の抗TGF−β抗体で処置されたラットは腎毒性作用の低減を実証した一方、それらの移植片生存率は、CsA単独で処置したコントロールに類似した。同じ条件下で、より高い用量(2.5mg/kg)の抗TGF−β抗体は、CsAの免疫抑制効果をほぼ完全に撤廃した。
【0013】
従って、本発明は、少なくとも部分的に、TGF−βのアップレギュレーションを介して、それらの免疫抑制活性を仲介する該免疫抑制剤の腎毒性の副作用の緩和のための補助療法を提供する。典型的に、そのような薬剤は、投与時に、TGF−βの発現を誘発する。そのような免疫抑制剤の例として、シクロスポリン、タクロリムス、およびシロリムスが挙げられるが、これらに限定されない。本発明は、そのような薬剤によって誘発される腎炎を処置または防止する方法を提供する。
【0014】
本発明の方法は、免疫抑制剤で処置される免疫抑制を必要とする哺乳動物に、TGF−βアンタゴニストを投与することを含む。TGF−βアンタゴニストは、薬剤の免疫抑制活性を実質的に妨げずに免疫抑制剤の腎毒性作用を緩和するのに十分な治療有効量で投与される。
【0015】
TGF−βアンタゴニストが投与される用量は、免疫抑制剤の腎毒性作用の低減が達成される一方、免疫抑制剤の治療効力を維持するようなものである。典型的に、TGF−βアンタゴニストが投与される用量は、免疫抑制剤の非存在下で腎炎を処置するために投与される推奨用量より(例えば、20%)低い。
【0016】
いくつかの実施態様では、TGF−βアンタゴニストは、例えば、抗TGF−β抗体、抗TGF−β受容体抗体、または可溶性TGF−β受容体などの直接的なTGF−βアンタゴニストである。特定の実施態様では、TGF−βアンタゴニストは、抗TGF−β抗体1D11、抗TGF−β抗体CAT192、もしくは抗TGF−β抗体CAT152、または該抗体のいずれかの誘導体である。非制限的な好適な実施態様では、TGF−βアンタゴニストは、米国仮出願第60/651,343号明細書において開示されているPET1073G12、PET1074B9またはPET1287A10などのヒトpan特異的抗体である。
【0017】
本発明は、免疫抑制剤の腎毒性を検出するための方法ならびに免疫抑制剤の腎毒性作用を低減する能力について試験化合物または組成物を評価するための方法をさらに提供する。そのような方法は、免疫抑制剤で処置した哺乳動物から生物学的サンプルを得ること、ならびにTGF−β、NOX−1、p22phox、RAC−1、SOD、およびTRXからなる群から選択される1つもしくはそれ以上の分子の発現レベルを決定することを含んでなる。発現レベルは、免疫抑制剤の腎毒性および/または該腎毒性を低減する際の化合物または組成物の有効性を示す。
【0018】
配列の簡単な説明
配列番号1〜12は、実施例において記載の腎臓における遺伝子発現レベルを評価するために使用されるPCRプライマーを表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の方法は、免疫抑制剤で処置されている哺乳動物に、TGF−βアンタゴニストを投与することを含む。本発明の方法は、免疫抑制薬剤による処置に関連する腎毒性を低減するが、薬剤の免疫抑制活性を実質的に低減しない。
【0020】
TGF−βアンタゴニスト
TGF−βは、成熟TGF−βを産生するために分泌前に切断される約400アミノ酸(aa)のプレプロタンパク質として合成されるジスルフィド結合ダイマーである。「潜伏関連ペプチド」(LAP)として公知であるN末端切断フラグメントは、ダイマーへの非共有結合を保持し得、それによって、TGF−βを不活化する。インビボで単離されたTGF−βは、この不活性な「潜伏」形態(即ち、LAPに関連する)において主に見出される。潜伏TGF−β複合体は、いくらかの方法、例えば、カチオン非依存性マンノース−6−リン酸/インスリン様増殖因子II受容体と呼ばれる細胞表面受容体に結合することによって、不活化され得る。結合は、LAP内のグリコシル化部位に付着したマンノース−6−リン酸残基を介して生じる。受容体に結合する際に、TGF−βは、その成熟形態で放出される。次いで、成熟型の活性なTGF−βは、自由にその受容体に結合し、その生物学的機能を発揮する。II型TGF−β受容体における主要なTGF−β結合性ドメインは、19アミノ酸配列にマッピングされている(ディミートリオウ(Demetriou)ら(1996年)J.Biol.Chem.,271:12755)。
【0021】
本明細書において使用される用語「TGF−β」は、任意の1つもしくはそれ以上のアイソフォームのTGF−βを指す。同様に、他に明記しない限り、用語「TGF−β受容体」は、少なくとも1つのTGF−βアイソフォームに結合する任意の受容体を指す。現在、5つの既知のTGF−βのアイソフォーム(TGF−β1〜TGF−β5)が存在し、それらのすべてが相互に相同(60〜80%同一性)であり、約25kDaのホモダイマーを形成し、共通のTGF−β受容体(TβR−I、TβR−II、TβR−IIB、およびTβR−III)に作用する。TGF−β1、TGF−β2、およびTGF−β3は哺乳動物において見出される。TGF−βならびにTGF−β受容体の構造および機能的局面については、当該分野において周知である(例えば、Cytokine Reference、オペンハイム(Oppenheim)ら編、Academic PressSan Diego、カリフォルニア州、2001年を参照のこと)。TGF−βは、種間で顕著に保存されている。例えば、ラットおよびヒト成熟TFG−β1のアミノ酸配列はほぼ同一である。従って、TGF−βのアンタゴニストは、高い種交差反応性を有することが予想される。
【0022】
用語「TGF−βアンタゴニスト」ならびに「インヒビター」、「中和する」、および「ダウンレギュレートする」などのその同系用語は、TGF−βの生物学的活性のアンタゴニストとして作用する化合物(または該当する場合はその特性)を指す。TGF−βアンタゴニストは、例えば、結合して、TGF−βの活性を中和する;TGF−β発現レベルを低減する;安定性または前駆体分子の活性な成熟型への変換に影響を及ぼす;TGF−βの1つもしくはそれ以上の受容体への結合を妨げ得;またはそれはTGF−β受容体の細胞内シグナル伝達を妨げ得る。用語「直接的なTGF−βアンタゴニスト」は、一般的に、TGF−βの生物学的活性を直接ダウンレギュレートする任意の化合物を指す。分子は、それが、TGF−β遺伝子、TGF−β転写物、TGF−βリガンド、またはTGF−β受容体を妨げることによって活性をダウンレギュレートする場合、TGF−βの生物学的活性を「直接ダウンレギュレートする」。
【0023】
TGF−βおよびTGF−βアンタゴニストの生物学的活性を中和することを評価するための方法は、当該分野において公知である。より頻繁に使用されるインビトロバイオアッセイのいくつかの例として、以下のものが挙げられる:
(1)EGFの存在下における軟寒天中のNRK細胞のコロニー形成の誘導(ロバーツ(Roberts)ら(1981年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:5339−5343);
(2)軟骨表現型を発現させるための初代間葉系細胞の分化の誘導(セイェヂン(Seyedin)ら(1985年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:2267−2271);
(3)Mv1Luミンク肺上皮細胞(ダニエルポール(Danielpour)ら(1989年)J.Cell.Physiol.,138:79−86)およびBBC−1サル腎臓細胞(ホリー(Holley)ら(1980年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:5989−5992)の増殖の阻害;
(4)C3H/HeJマウス胸腺細胞の有糸分裂誘発の阻害(ラン(Wrann)ら(1987年)EMBO J.,6:1633−1636);
(5)ラットL6筋芽細胞の分化の阻害(フロリニ(Florini)ら(1986年)J.Biol.Chem.,261:16509−16513);
(6)フィブロネクチン産生の測定(ラナ(Wrana)ら(1992年)Cell,71:1003−1014);
(7)ルシフェラーゼレポーター遺伝子に融合されたプラスミノーゲンアクチベーターインヒビターI(PAI−1)プロモーターの誘導(アベ(Abe)ら(1994年)Anal.Biochem.,216:276−284);
(8)サンドイッチ酵素免疫測定法(ダニエルポール(Danielpour)ら(1989年)Growth Factors,2:61−71);ならびに
(9)シング(Singh)ら(2003年)Bioorg.Med.Chem.Lett.,13(24):4355−4359に記載の細胞アッセイ。
【0024】
本発明の方法において使用され得るTGF−βアンタゴニストの例として:TGF−βの1つもしくはそれ以上のアイソフォームに対して指向されたモノクローナルおよびポリクローナル抗体(米国特許第5,571,714号明細書;国際公開第97/13844号パンフレット;国際公開第00/66631号パンフレット;主要なネガティブおよび可能性のTGF−β受容体またはTGF−β受容体に対して指向された抗体(フラベル(Flavell)ら(2002年)Nat.Rev.Immunol.,2(1):46−53);米国特許第5,693,607号明細書;米国特許第6,001,969号明細書;米国特許第6,008,011号明細書;米国特許第6,010,872号明細書;国際公開第92/00330号パンフレット;国際公開第93/09228号パンフレット;国際公開第95/10610号パンフレット;および国際公開第98/48024号パンフレット;LAP(国際公開第91/08291号パンフレット);LAP関連TGF−β(国際公開第94/09812号パンフレット);フェチュインなどのTGF−β結合性糖タンパク質/プロテオグリカン(米国特許第5,821,227号明細書);デコリン、バイグリカン、フィブロモデュリン、ルミカン、およびエンドグリン(米国特許第5,583,103号明細書;米国特許第5,654,270号明細書;米国特許第5,705,609号明細書;米国特許第5,726,149号明細書;米国特許第5,824,655号明細書;米国特許第5,830,847号明細書;米国特許第6,015,693号明細書;国際公開第91/04748号パンフレット;国際公開第91/10727号パンフレット;国際公開第93/09800号パンフレット;および国際公開第94/10187号パンフレット);マンノース−6−リン酸またはマンノース−1−リン酸(米国特許第5,520,926号明細書);プロラクチン(国際公開第97/40848号パンフレット);インスリン様増殖因子II(国際公開第98/17304号パンフレット);植物、真菌、および細菌の抽出物(EU813875号明細書;特開平8119984号公報;および米国特許第5,693,610号明細書);アンチセンスオリゴヌクレオチド(米国特許第5,683,988号明細書;米国特許第5,772,995号明細書;米国特許第5,821,234号明細書;米国特許第5,869,462号明細書;および国際公開第94/25588号パンフレット);SMADおよびMADを含むTGF−βシグナル伝達に関与するタンパク質(EP874046号明細書;国際公開第97/31020号パンフレット;国際公開第97/38729号パンフレット;国際公開第98/03663号パンフレット;国際公開第98/07735号パンフレット;国際公開第98/07849号パンフレット;国際公開第98/45467号パンフレット;国際公開第98/53068号パンフレット;国際公開第98/55512号パンフレット;国際公開第98/56913号パンフレット;国際公開第98/53830号パンフレット;国際公開第99/50296号パンフレット;米国特許第5,834,248号明細書;米国特許第5,807,708号明細書;および米国特許第5,948,639号明細書)、スキー(Ski)およびスノ(Sno)(ボーゲル(Vogel)(1999年)Science,286:665およびストロシャイン(Stroschein)ら(1999年)Science,286:771−774);ならびにTGF−βの生物学的活性を直接阻害する能力を保持する上記で同定される分子の任意の変異体、フラグメント、または誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の方法において使用され得るTGF−βアンタゴニストの例として:セリン/スレオニンキナーゼインヒビターなどの小分子インヒビター、例えば、WO04/21989;WO03/87304;WO04/26871;WO04/26302;WO04/24159、米国特許第6,184,226号明細書;WO03/97639;およびWO04/16606に記載のものが挙げられる。
【0026】
いくつかの実施態様では、TGF−βアンタゴニストは、直接的なTGF−βアンタゴニスト、例えば、その受容体に結合するTGF−βをブロックする抗体である。
【0027】
本明細書において使用する用語「抗体」は、免疫グロブリンまたはその部分を指し、供給源、産生の方法、および他の特徴にかかわらず、抗原結合部位を含んでなる任意のポリペプチドを包含する。該用語は、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異性、多特異性、ヒト化、ヒト、一本鎖、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、変異、およびCDR移植抗体を含むが、これらに限定されない。用語「抗原結合性ドメイン」は、抗原の部分もしくはすべてに特異的に結合するかまたは相補的である領域を含んでなる抗体分子の部分を指す。抗原が大きい場合、抗体は、抗原の特定の部分にのみ結合し得る。「エピトープ」、または「抗原決定基」は、抗体の抗原結合性ドメインとの特異的相互作用を担う抗原分子の一部である。抗原結合性ドメインは、抗体軽鎖可変領域(V)および抗体重鎖可変領域(V)を含んでなり得る。抗原結合性ドメインは、1つもしくはそれ以上の抗体可変ドメイン(例えば、VドメインよりなるFd抗体フラグメント、VドメインおよびVドメインよりなるF抗体フラグメント、またはリンカーによって接続されたVドメインおよびVドメインよりなるscF抗体フラグメント)によって提供され得る。用語「抗TGF−β抗体」、または「TGF−βの少なくとも1つのアイソフォームに対する抗体」は、TGF−βの少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する任意の抗体を指す。用語「TGF−β受容体抗体」および「TGF−β受容体に対する抗体」は、TGF−β受容体(例えば、I型、II型、またはIII型)の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する任意の抗体を指す。
【0028】
本発明の方法において有用な抗体は、それらがTGF−βの少なくとも1つのアイソフォームまたは少なくとも1つのTGF−β受容体の細胞外ドメインに特異的に結合するようなものである。本明細書において使用する用語「特異的相互作用」、もしくは「特異的に結合する」、またはそれらの同系用語は、2つの分子が、生理学的条件下で比較的安定である複合体を形成することを意味する。特異的結合は、高い親和性および低〜中等度の能力によって特徴付けられる。非特異的結合は通常、中等度〜高い能力を伴う低い親和性を有する。典型的に、結合は、親和定数Kが10−1より高い、または好ましくは、10−1より高い場合、特異的とみなされる。
【0029】
他のいくつかの実施態様では、抗TGF−β抗体は、TGF−β1、TGF−β2、およびTGF−β3からなる群から選択されるTGF−βの少なくとも1つのアイソフォームに特異的に結合する。さらに他の実施態様では、抗TGF−β抗体は、少なくとも:(a)TGF−β1、TGF−β2、およびTGF−β3(「pan中和抗体」);(b)TGF−β1およびTGF−β2;(c)TGF−β1およびTGF−β3;ならびに(d)TGF−β2およびTGF−β3に特異的に結合する。多様な実施態様では、それが特異的に結合するTGF−βの少なくとも1つのアイソフォームに対するTGF−β抗体の親和定数Kは、好ましくは、10−1、10−1、10−1、10−1、1010−1、1011−1、または1012−1を超える。さらなる実施態様では、本発明の抗体は、ヒトTGF−β1、TGF−β2、および/またはTGF−β3に実質的に同一なタンパク質に特異的に結合する。また、引用文献に記載の任意の脊椎動物種由来の非ヒト抗体のヒト化および完全なヒト形態ならびに誘導体も、ヒトに使用するために考慮される。そのような変種を産生させることは、当業者内において良好である(例えば、Antibody Engineering、ボレベック(Borrebaeck)編、第2版、Oxford University Press、1995年を参照のこと)。
【0030】
非制限的な例示的実施態様では、抗TGF−β抗体は、ハイブリドーマ1D11.16(米国特許第5,571,714号明細書;同第5,772,998号明細書;および同第5,783,185号明細書においても記載のATCC寄託番号HB9849)によって産生されるマウスモノクローナル抗体1D11である。1D11重鎖可変領域の配列は、受託番号AAB46787下で入手可能である。従って、関連する実施態様では、抗TGF−β抗体は、1D11の誘導体、例えば、ヒト化抗体などのAAB46787におけるそれらに同一のCDR配列を含んでなる抗体である。さらなる実施態様では、抗TGF−β抗体は、国際公開第00/66631号パンフレット、米国特許第6,492,497号明細書、ならびに米国特許出願公開番号第2003/0091566号明細書および同第2003/0064069号明細書に記載のCAT192およびCAT152、または本明細書において開示するCDR配列を含んでなる抗体などのファージディスプレイによって作製される完全なヒト組換え抗体である。なおさらなる実施態様では、抗TGF−β抗体は、1D11、CAT192、またはCAT152からのガイド選択によって産生される抗体である。
【0031】
非制限的な好適な実施態様では、抗TGF−β抗体は、米国仮出願第60/651,343号明細書において開示されているPET1073G12、PET1074B9またはPET1287A10などのヒトpan特異的抗体である。
【0032】
1D11抗体は、TGF−βの3つのすべての哺乳動物アイソフォームに特異的に結合する一方、CAT192はTGF−β1のみに特異的に結合する。1D11およびCAT192に対する抗原親和性は、それぞれ約1nMおよび8.4pMである。1D11(ダシュ(Dasch)ら(1998年)J.Immunol.,142:1536−1541)およびCAT192に対するエピトープは、成熟TGF−βのC末端部分に対してマッピングされている。
【0033】
免疫抑制剤
本発明は、少なくとも部分的に、TGF−βのアップレギュレーションを介して、それらの免疫抑制活性を仲介する該免疫抑制剤の腎毒性の副作用の緩和のための補助療法を提供する。本明細書において使用する用語「免疫抑制剤」、「免疫抑制薬」および「免疫抑制薬剤」は、免疫抑制を誘導する化合物または組成物(即ち、それは、免疫学的応答の発達を防止または妨げる)を指す。免疫抑制剤の例として、SandimmuneTM(シクロスポリン);PrografTM、ProtopicTM(タクロリムス);RapamuneTM、NeoralTM(シロリムス);FTY720;CerticanTM(エベロリムス、ラパマイシン誘導体);CampathTM−1H(アレムツズマブ、抗CD52抗体);RituxanTM(リツキシマブ、抗CD20抗体);OKT4;LEA29Y(BMS−224818、CTLA4Ig);インドリル−ASC(タクロリムスおよびアスコマイシンの32−インドールエーテル誘導体);ImuranTM(アザチオプリン);AtgamTM(公共線細胞/グロブリン);OrthocloneTM(OKT3;ムロモナブ−CD3);CellceptTM(ミコフェノール酸モフェチル);ZenapaxTM(ダクリズマブ)、CytoxanTM(シクロホスファミド)、プレドニゾン、プレドニゾロンならびに他の副腎皮質ステロイドマロノニトリラマイド(MNA(レフルノミド、FK778、FK779))、および15−デオキシスパガリン(DSG)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
薬剤の免疫抑制活性を評価するための方法は当該分野において公知である。実施例に記載のように、薬理学的介入を伴うおよび伴わない移植された臓器のインビボでの生存時間の長さは、免疫応答の抑制に対する定量測定としての役割を果たす。また、インビトロアッセイ、例えば、混合リンパ球反応(MLR)アッセイ(例えば、ファスマン(Fathman)ら(1977年)J Immunol.,118(4):1232−1238を参照のこと);CD3アッセイ(抗CD3抗体(例えば、OKT3)を介する免疫細胞の特異的活性化)(例えば、カンナ(Khanna)ら(1999年)Transplantation,67(6):882−889およびカンナ(Khanna)ら(1999年)Transplantation,67(7):S58を参照のこと);ならびにIL−2Rアッセイ(外部から添加したサイトカインIL−2による免疫細胞の特異的活性化)(例えば、ファラー(Farrar)ら、(1981年)J.Immunol.,126(3):1120−1125を参照のこと)を使用することもできる。
【0035】
本発明は、少なくとも部分的にTGF−βのアップレギュレーションを介してそれらの免疫抑制活性を仲介する腎毒性のある免疫抑制剤による特定の使用に関する。そのような薬剤は、投与時に急性または慢性腎炎を誘発し得る。典型的に、誘発は、薬剤の投与時におけるTGF−βの発現の上昇と相関関係がある。本発明は、そのような薬剤によって誘発される腎炎を処置または防止する方法を提供する。
【0036】
特定の免疫抑制剤がTGF−βのアップレギュレーションを介してその免疫抑制活性を仲介するかどうかは、例えば、実施例に記載のような当該分野において既知の方法を使用して決定することができる。TGF−βのアップレギュレーションを介してそれらの免疫抑制活性を仲介する薬剤の特定の例として、シクロスポリン、タクロリムス、およびシロリムスが挙げられるが、これらに限定されない(例えば、カンナ(Khanna)(2000年)Transplantation,70(4):690−694;カンナ(Khanna)ら(1999年)Transplantation,67(7):S84;およびカンナ(Khanna)ら(1999年)Transplantation,67(6):882−889を参照のこと)。
【0037】
シクロスポリンA(CAS番号59865−13−3;米国特許第3,737,433号明細書)は、[R−[RR(E)}]環式(L−アラニル−D−アラニル−N−メチル−L−ロイシル−N−メチル−L−ロイシル−N−メチル−L−バリル−3−ヒドロキシ−N,4−ジメチル−L−2−アミノ−6−オクテノイル−L−α−アミノ−ブチリル−N−メチルグリシル−N−メチル−L−ロイシル−L−バリル−N−メチル−L−ロイシル)として表される。その免疫抑制効果は、1972年以来公知である(ボレル,J.F.(Borel,J.F.):シクロスポリン:デール(Dale)ら(編):Textbook of Immunology(第3版)、Blackwell Scient.Publ.Oxford 1994年、320−329頁)。免疫抑制活性を示す他の多くのシクロスポリン系薬剤ならびにそれらの誘導体およびアナログが公知である。シクロスポリン系薬剤およびそれらの処方については、例えば、2004Physicians’Desk Reference(登録商標)(2003年)Thomson Healthcare、第58版、ならびに米国仮出願第5,766,629号明細書;同第5,827,822号明細書;同第4,220,641号明細書;同第4,639,434号明細書;同第4,289,851号明細書;および同第4,384,996号明細書;同第5,047,396号明細書;同第4,388,307号明細書;同第4,970,076号明細書;および同第4,990,337号明細書;同第4,822,618号明細書;同第4,576,284号明細書;同第5,120,710号明細書;および同第4,894,235号明細書に記載されている。
【0038】
タクロリムス(FK506)は、その作用分子様式およびその臨床効力に関して、CsAにかなり類似の効果を発揮するマクロライドである(リュウ(Liu)(1993年)Immunol.Today,14:290−295;シュライバー(Schreiber)ら(1992年)Immunol.Today,13:136−142)が;しかし、これらの効果は、CsAより20〜100倍低い用量で示される(ペータース(Peters)ら(1993年)Drugs,46:746−794)。化学的に、タクロリムスは[3S−[3R[E(1S,3S,4S)],4S,5R,8S,9E,12R,14R,15S,16R,18S,19S,26aR]]−5,6,8,11,12,13,14,15,16,17,18,19,24,25,26,26a−ヘキサデカヒドロ−5,19−ジヒドロキシ−3−[2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル)−1−メチルエテニル]−14,16−ジメトキシ−4,10,12,18−テトラメチル−8−(2−プロペニル)−15,19−エポキシ−3H−ピリド[2,1−c][1,4]オキサアザシクロトリコシン−1,7,20,21(4H,23H)−テトロン一水和物である。タクロリムスおよびその処方については、例えば、2004 Physicians’Desk Reference(登録商標)(2003年)Thomson Healthcare、第58版、ならびに米国特許第4,894,366号明細書;同第4,929,611号明細書;および同第5,164,495号明細書に記載されている。
【0039】
シロリムス(ラパマイシン)は、例えば、ストレプトマイセス・ヒグロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)より産生可能な免疫抑制性ラクタムマクロライド(immunosuppressive lactam macrolide)である。化学的に、シロリムスは、(3S,6R,7E,9R,10R,12R,14S,15E,17E,19E,21S,23S,26R,27R,34aS)−9,10,12,13,14,21,22,23,24,25,26,27,32,33,34,34a−ヘキサデカヒドロ−9,27−ジヒドロキシ−3−[(1R)−2−[(1S,3R,4R)−4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル]−1−メチルエチル]−10,21−ジメトキシ−6,8,12,14,20,26−ヘキサメチル−23,27−エポキシ−3H−ピリド[2,1−c][1,4]−オキサアザシクロヘントリ−アコンチン−1,5,11,28,29(4H,6H,31H)−ペントンである。シロリムスの構造は、例えば、ケスラー(Kesseler)ら(1993年)Helv.Chim.Acta,76:117に付与されている。
【0040】
シロリムスおよびそのアナログの多数の誘導体ならびにそれらの処方は公知であり、例えば、2004Physicians’Desk Reference(登録商標)(PDR)(2003年)Thomson Healthcare、第58版、国際公開第94/02136号パンフレット、国際公開第94/09010号パンフレット、国際公開第92/05179号パンフレット、国際公開第93/11130号パンフレット、国際公開第94/02385号パンフレット、国際公開第95/14023号パンフレット、国際公開第94/02136号パンフレットならびに米国特許第5,258,389号明細書;同第5,118,677号明細書;同第5,118,678号明細書;同第5,100,883号明細書;同第5,151,413号明細書;同第5,120,842号明細書;および同第5,256,790号明細書に記載されている。
【0041】
使用および投与の方法
本発明の方法は、腎毒性のある免疫抑制剤を伴う哺乳動物に、TGF−βアンタゴニストを投与することを含む。
【0042】
本発明の方法に従って処置される哺乳動物として、ヒトおよび他の霊長類、げっ歯類(例えば、マウス、ラット)、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、およびブタが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明の方法に従って処置される哺乳動物として、免疫抑制を必要とする患者、例えば、自己免疫疾患の患者が挙げられる。本発明の方法に従い得る自己免疫疾患の例として、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病(炎症性腸疾患)、1型糖尿病、重症筋無力症、乾癬、グレーブス病、バーガー病、強皮症、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血、アジソン病、橋本甲状腺炎、特発性血小板減少性紫斑病、悪性貧血、および自発不妊(spontaneous infertility)が挙げられる。
【0044】
本発明の方法に従って処置される哺乳動物として、さらに、免疫抑制を必要とする患者、例えば、免疫抑制療法を経験している臓器または組織移植を伴う患者が挙げられる。「移植」は、任意の移植片もしくは組織または臓器の全体もしくは部分、またはレシピエント(宿主)に対して外来性である細胞を指す。移植の例として、心臓、腎臓、肺、肝臓、角膜、骨髄、血管および島細胞移植が挙げられるが、これらに限定されない。移植は、レシピエントと同じ種(同種移植)由来またはレシピエント以外の種(異種移植)由来のいずれでもあり得る。
【0045】
移植患者の免疫抑制管理は、導入期、周術期および移植直後から開始する。導入療法は、促進性および急性拒絶の可能性を低減するために、移植の免疫系を「スイッチオフ」する目的を伴う術直後の約2週間(但し、しばしば、術直前に開始される)の集中的免疫抑制のコースである。次いで、維持療法は、同種移植片の寿命期間継続する。導入および維持ストラテジーは、異なる免疫抑制薬を、特定の用量または至適移植片生存率を提供する治療レベルを達成するために調整された用量で使用することができる。所定の実施態様では、TGF−βアンタゴニストは、免疫抑制療法の導入期中、維持期中、またはその両方で、患者に投与される。
【0046】
TGF−βアンタゴニストは、薬剤の免疫抑制活性を実質的に妨げずに免疫抑制剤の腎毒性作用を緩和するのに十分な治療有効量で投与される。
【0047】
用語「腎毒性効果を緩和するのに十分な」は、免疫抑制剤による腎機能の消失または腎構造の悪化を遅延もしくは反転することを指す。「腎機能」は、腎臓が、加圧ろ過、選択的な再吸収、細尿管分泌、および/または全身血圧調節などのその生理学的機能を達成する能力を指す。
【0048】
腎機能を評価するための方法は当該分野において周知であり、全身血圧および糸球体毛細管圧の測定、タンパク尿(例えば、アルブミン尿(albuminurea))、顕微鏡的および肉眼的血尿(hematurea)、血清中クレアチニンレベル(例えば、ヒトにおける腎機能を評価するための1つの公式は、2.0mg/dlのクレアチニンレベルを正常腎臓機能の50パーセントに、および4.0mg/dlを25パーセントに換算する)、糸球体濾過量(GFR)(例えば、クレアチニンクリアランスの速度)の低下、ならびに管損傷の程度を含むが、これらに限定されない。
【0049】
腎機能および疾患状態の詳細なレビューについては、The Kidney:Physiology and Pathophysiology、セルヂン(Seldin)ら編、第3版、Lippincott Williams&Wilkins Publishers、2000年を参照のこと。通常、24時間の期間あたり0.15g未満のタンパク質が尿中に排泄される。ほぼすべてのタイプの腎臓疾患が、尿への軽度(1日あたり500mgまで)〜中等度(1日あたり4gまで)のタンパク質漏出を引き起こす。尿におけるアルブミンの正常濃度は、1.0mg/dl未満である。一般的に、30〜300mg/dlの尿中アルブミンは微量アルブミン尿とみなされ、300mg/dl以上はマクロアルブミン尿とみなされる。血清中クレアチニンの正常値は、男性では0.6〜1.5mg/dlおよび女性では0.6〜1.1mg/dlである。クレアチニンレベル、腎機能、および腎疾患の病期との間の関係を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
本発明の方法は、免疫抑制剤の腎毒性に少なくとも部分的に帰すことができる腎機能不全、腎不全、または末期腎疾患を伴う患者において特に有用であり得る。免疫抑制療法を経験している患者において、他の適応症は、97(男性)および88(女性)ml/minより低いクレアチニンクリアランスレベル、20〜25mg/dlもしくはそれより高い血中尿素を含み得る。さらに、処置は、微量アルブミン尿、マクロアルブミン尿、および/または24時間の期間あたり1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10gもしくはそれを超えるタンパク尿レベル、ならびに/あるいは約1.0、1.5、2.0、2.5、3、3.5、4.0、4.5、5、5.5、6、7、8、9、10mg/dlもしくはそれより高い血清中クレアチニンレベルを伴う患者において有用であり得る。
【0052】
本発明の方法は、腎機能がコントロール被験体と比べて正常より25%、40%、50%、60%、75%、80%、90%もしくはそれ以上低い患者における腎疾患の進行を遅延するかまたは反転するために使用することができる。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、コントロール被験体と比べて、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%もしくはそれ以上腎機能の消失を遅延する。他の実施態様では、本発明の方法は、コントロール被験体と比べて、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、もしくはそれ以上、患者の血清中クレアチニンレベル、タンパク尿、および/または尿中アルブミン排泄を改善する。腎機能を評価するための非制限的な例示的方法については、本明細書、および例えば、国際公開第01/66140号パンフレットに記載されている。
【0053】
腎構造の悪化を評価する方法もまた周知である。例示的方法を実施例に示す。そのような方法として、腎臓の画像化(例えば、MRI、超音波)、または腎生検の組織学的評価が挙げられる。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、例えば、尿細管間質または糸球体損傷の程度ならびに/または腎線維症の程度(例えば、コラーゲンおよびフィブロネクチンの沈着)によって判定されるように、腎構造の悪化を低減する。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%もしくはそれ以上、構造的変化を改善する。
【0054】
治療医師は、TGF−βアンタゴニストの正確な用量およびレジメンを決定する。一般的に、TGF−βアンタゴニストの用量は、アンタゴニストの投与による拒絶の危険性が治療的に許容可能(即ち、それは、免疫抑制薬の免疫抑制活性を実質的に妨げない)以下の量だけ増加されるようなものであるべきである。さらに、用量は、免疫抑制剤の腎毒性効果の低減が治療的に許容可能であるようなものであるべきである。例えば、維持期における拒絶比の5、10、15、20、25、30、40もしくは50%以下の増加は、治療的に許容可能であり得る。
【0055】
本発明の方法では、TGF−βアンタゴニストは、一般に、免疫抑制剤の非存在下で投与するのに推奨される用量より低い治療有効量で投与される。所定の実施態様では、この用量は、免疫抑制剤の非存在下で腎炎を処置するために推奨される用量より少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、もしくはそれ以上低い。いくつかの実施態様では、TGF−βアンタゴニストの治療有効量は、免疫抑制剤の非存在下で投与される最大治療有効量よりも少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、もしくはそれ以上低い。
【0056】
所定の実施態様では、げっ歯類において、例えば、実施例に記載のような条件下で投与される場合、TGF−βアンタゴニストは、2、1.9、1.8、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、もしくは1.0mg/kg体重の1D11抗体に等価な用量未満の用量で投与される。治療医師は、TGF−βアンタゴニストについて正確な用量およびレジメンならびに補助治療を決定する。開始時点で、抗TGF−β抗体、抗TGF−β受容体抗体、可溶性TGF−β受容体、または別のTGF−βアンタゴニストの治療有効量は、0.005〜50、0.05〜5、または0.5〜5mg/kg/dayの範囲であり得る。
【0057】
1つの動物において達成される治療有効量は、当該分野において公知の変換因子を使用して、ヒトを含む別の動物に使用するために、変換することができる(例えば、フレイレイヒ(Freireich)ら(1966年)Cancer Chemother.Reports,50(4):219−244および等価な表面積用量因子に関する表2を参照のこと)。
【0058】
【表2】

【0059】
「投与」は、任意の特定の処方、送達システム、または経路に限定されず、例えば、非経口(皮下、静脈内、脊髄内、関節内、筋肉内、もしくは腹腔内注入を含む)、直腸、局所、経皮、または経口(例えば、カプセル、懸濁液、もしくは錠剤中)を含んでもよい。個体への投与は、単回用量または反復用量で、ならびに生理学的に許容可能な塩形態および/または許容可能な薬学的キャリアおよび/または薬学的組成物の部分としての添加物を含有する様々な薬学的組成物のいずれかで、生じ得る。生理学的に許容可能な塩形態および標準的な薬学的処方技術ならびに賦形剤は公知である(例えば、Physicians’Desk Reference(登録商標)2003年、第57版、Medical Economics Company、2002年;およびレミングトン(Remington):The Science and Practice of Pharmacy、ジェンナド(Gennado)ら編、第20編、Lippincott,Williams&Wilkins、2000年を参照のこと)。
【0060】
アンタゴニストの個体への投与はまた、遺伝子治療によって達成してもよい、ここで、アンタゴニストをコードする核酸配列は、インビボで患者に投与されるか、またはインビトロで細胞に投与され、次いで、患者に導入され、アンタゴニスト(例えば、アンチセンスRNA、可溶性TGF−β受容体)が、核酸配列によってコードされる産物の発現によって産生される。TGF−βアンタゴニストを送達する遺伝子治療のための方法が説明されている(例えば、ファクライ(Fakhrai)ら(1996)Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.,93:2909−2914を参照のこと)。TGF−βアンタゴニストの投与は、例えば、米国特許出願公開番号第2003/0180301号明細書に記載のように、アンタゴニストをコードするcDNA、最も好ましくは、II型TGF−β(rsTGFBIIR)またはIII型受容体(rsTGFBIIIR)の細胞外ドメインをコードするcDNAを含んでなるベクターを使用する遺伝子導入によって行われる。
【0061】
TGF−βアンタゴニストおよび免疫抑制剤は、同時に、または重複するかもしくは重複しない間隔で連続的に投与してもよい。連続投与では、TGF−βアンタゴニストおよび免疫抑制剤は、任意の順序で投与することができる。アンタゴニストは、唯一活性な化合物としてまたは別の化合物もしくは組成物との組み合わせで投与される。Physicians’Desk Reference(登録商標)に示されるような免疫抑制剤の特定の用量使用してもよい。
【0062】
本発明は、免疫抑制を必要とし、免疫抑制のための薬剤が投与されている哺乳動物において免疫抑制剤(例えば、CsA、TAC、ラパマイシン、または別の免疫抑制剤)の腎毒性を検出するための方法をさらに提供する。方法は、哺乳動物から生物学的サンプルを得ること、ならびにTGF−β、NOX−1、p22phox、RAC−1、SOD、およびTRXからなる群から選択される1つもしくはそれ以上の分子の発現レベルを決定することを含んでなる。本発明は、免疫抑制を必要とし、免疫抑制のための薬剤が投与されている哺乳動物において免疫抑制剤(例えば、CsA、TAC、ラパマイシン、または別の免疫抑制剤)の腎毒性を検出するための方法をさらに提供する。
【0063】
本発明は、免疫抑制剤の腎毒性作用を低減する能力について、試験化合物または組成物(例えば、抗TGF−β抗体などのTGF−βアンタゴニスト)を評価するための方法をなおさらに提供する。これらの方法は、免疫抑制剤および目的の試験化合物または組成物の両方が投与されている哺乳動物から生物学的サンプルを得ること、およびTGF−β、NOX−1、p22phox、RAC−1、SOD、およびTRXからなる群から選択される1つもしくはそれ以上の分子(1、2、3、4、5、もしくは6種すべて)の発現レベルを決定することを含んでなる。
【0064】
適切なコントロールを超える発現レベルは、免疫抑制剤の腎毒性および/または該腎毒性を低減する際の化合物または組成物の有効性を示す。例えば、適切なコントロールから20、30、40、もしくは5パーセント、または少なくとも2、4、5、もしくは10倍だけ異なる発現レベルは、薬剤が腎毒性を誘発しているおよび/または試験化合物もしくは組成物が該腎毒性を低減するのに有効であることを示す。発現レベルは、例えば、任意の適切な方法によって、タンパク質および/またはmRNAレベルで決定することができる。
【0065】
得られる生物学的サンプルは、例えば、組織サンプル(例えば、いくつかの実施態様における腎臓生検)、血液、または血清であり得る。
【0066】
以下の実施例は、本発明の例示的実施態様を提供する。当業者は、本発明の精神または範囲を変更することなく、実施され得る多数の改変および変種を認識する。そのような改変および変種は、本発明の範囲内に包含される。実施例は、いかなる方法においても本発明を制限しない。
【実施例】
【0067】
材料および方法(第1部)
以下の材料および方法を実施例1および2において使用した。
【0068】
実験群
ラットを、以下を含む6群(それぞれにおいてn=6)に分けた:
(1)非処置コントロール;
(2)2.5mg/kg CsA;
(3)2.5mg/kg CsA+2.5mg/kgコントロール抗体;
(4)2.5mg/kg CsA+2.5mg/kg抗TGF−β抗体;
(5)2.5mg/kg CsA+1.0mg/kg抗TGF−β抗体;および
(6)同系移植コントロール;
【0069】
実験期間中、移植日に開始して、2.5mg/kg(筋肉内)の用量でCsAを使用することによって、免疫抑制を達成した。屠殺時または臓器拒絶まで、3日ごとの腹腔内注入によって、抗TGF−β抗体またはコントロール抗体を投与した。
【0070】
調製および移植
ホウセンパド(Hosenpud)ら(2000年)Transplantation,69:2173−2178に記載のように、研究集団全体に対して異所性心移植を実施した。ドナーラットをヘパリン処置(1000単位、腹腔内)し、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg、腹腔内)で麻酔した。腹部切開を行って、胸腔から拡げ、胸壁を取り出した。心臓、大動脈、および肺動脈の鈍的切開を実施した。肺静脈および下大静脈を結紮し、移植片を摘出して、氷冷した生理食塩水中に置いた。次いで、レシピエントラットを、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg、腹腔内)で麻酔した。正中開腹を実施した。腹部大動脈および大静脈を解剖し、ストレート型血管鉗子でクランプして出血を防止した。長さ約5mmの大動脈および静脈の縦切開を実施した。8−0プロリン縫合糸による標準的な微小血管技術を使用して、大動脈から腹部大動脈および肺動脈から下大静脈への端側吻合を行った。止血を達成し、切開部を3−0VicrylTM縫合糸で閉鎖した。
【0071】
動物のモニタリング、屠殺、組織回収
同種移植片の低速化および不全の証拠についてラットを連日モニターした。次いで、それらを、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg、腹腔内)で麻酔した。動物を、生来の心室穿刺を介して放血させた。血漿サンプルを、ELISAキット(Promega,Madison、ウィスコンシン州)を使用して、TGF−βタンパク質についてアッセイした。両方の腎臓を入手した(一方は遺伝子発現用として、一方は組織学および免疫組織学用として)。
【0072】
免疫抑制プロトコル
適切な群においてCsAを使用して、免疫抑制を達成した。CsAは、抗TGF−β抗体(1D11)またはコントロール抗体を伴うおよび伴わない研究の期間中、2.5mg/kgの用量で使用した。屠殺時または臓器拒絶まで、3日ごとの腹腔内注入によって、抗TGF−β抗体またはコントロール抗体の処置を投与した。
【0073】
コントロール抗体(13C4)はまた、赤痢菌(Shigella)毒素に特異的に結合するマウスモノクローナル抗体(IgG1)である。両抗体を産生させ、Genzyme Corporationで精製した。抗体は、検出可能な内毒素を含まないことが決定された。
【0074】
ラット血漿におけるTGF−βタンパク質の測定
TGF−β1タンパク質を、(カンナ(Khanna)ら(1999年)Transplantation,67:882−889)に先に記載されているように測定した。ラットから血漿を分離し、−70℃で貯蔵した。TGF−β1タンパク質を、酸活性化したサンプルに対し、市販のTGF−β1特異的キット(Promega,Madison、ウィスコンシン州)を使用するサンドイッチELISAによって、アッセイした。
【0075】
TGF−β1についての病理組織学および免疫組織化学
各動物由来の1つの腎臓をホルマリン中に固定化し、パラフィン包埋した。ヘマトキシリンおよびエオシンならびにマッソントリクローム染色を使用して、組織学的変化を評価した。TGF−βを、標準的な免疫組織化学的方法(カンナ(Khanna)ら(1999年)Transplantation,67:882−889)を使用して、同定した。ホルマリン固定化、パラフィン包埋された組織を、5μmで切片化し、キシレン中で脱パラフィンし、PBSに対し段階別に調製したエタノール中で再水和した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、メタノール/過酸化物(18:1vol/vol)で30分間ブロックした後、非特異的結合を、10%正常ウマ血清、および3%BSAを補充したPBS中に希釈した1.5%アビジン/ビオチンで1時間、ブロックした。次いで、組織切片を、1晩、4℃で、上記のPBS中1D11mAb(50mg/ml)と共にインキュベートした。PBSによる複数回の洗浄後、スライドを、1時間、1:1000希釈ビオチン標識抗マウスIgGウマ抗血清と共に、室温でインキュベートし、再度、PBS中で広範に洗浄し、次いで、ABC溶液中で30分間洗浄した。次いで、スライドを、10分間、ジアミノベンジジン(DAB)中で展開し、水で10分間、濯いだ。次いで、スライドを、ヘマトキシリンで対比染色し、続いて、段階的に調製したエタノールおよびキシレン中で脱水した。スライドを、評価のために、PermountTMでマウントした。各群由来のサンプルを、病理組織学的変化および免疫組織化学染色のために等級付けした。免疫染色の強度を、0(非染色)〜4+(最大染色)に等級付けした。
【0076】
腎臓組織における逆転写およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるmRNAの検出
SV TotalTMRNA単離System(Promega Madison、米国)を使用して、ラット由来の腎臓組織の小片から全RNAを単離し、RNAの質を260/280nm比によって確認した。1マイクログラムのRNAを、RT−PCRのためのSuperscript First Strand SynthesisTMシステム(Life Technologies Rockville、メリーランド州、米国)を使用して、cDNAに逆転写した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅を、1μlのcDNA、ならびに2μlのそれぞれの2.5mMコーディングおよび非コーディングオリゴヌクレオチドプライマーならびにPlatinum PCR SupermixTM(Life Technologies,Rockville、メリーランド州、米国)を使用して、行った。使用したプライマー配列および対応する参考文献は以下に列挙したとおりである。
【0077】
1)TGF−β1(チィエン(Qian)ら(1990年)Nucleic Acid Res.,18:3059)
コーディング:ACG CCT GAG TGG CTG TCT TTT (配列番号1)
非コーディング:ACG TGG AGT TTG TTA TCT TTG(配列番号2)
2)β−アクチン(ポンテ(Ponte)ら(1984年)Nucleic Acids Res.,12:1687)
コーディング:GAT CTG GCA CCA CAC CTT CTA (配列番号3)
非コーディング:GCA GGA TGG CGT GAG GGA GAG(配列番号4)
3)コラーゲンI(フランケル(Frankel)ら(1988年)DNA,7:347−354)
コーディング:CCC ACG TAG GTG TCC TAA AGT (配列番号5)
非コーディング:CCG TGG TGC TAA AAT AAT AAA(配列番号6)
4)フィブロネクチン(シュバルツバウアー(Schwarzbauer)(1987年)EMBO J.,6:2573−2580)
コーディング:ATG ATG AGG TGC ACG TGT GT (配列番号7)
非コーディング:GAT GGG GTC ACA TTT CCA TC (配列番号8)
5)MMP−2(ポロック(Pollock)ら(1995年)J.Biol.Chem.,270:18786−18796)
コーディング:GTG CTG AAG GAC ACA CTA AA (配列番号9)
非コーディング:TTG CCA TCC TTC TTT TCA AA (配列番号10)
6)TIMP−2(バッタリア(Battaglia)ら(1994年)Exp.Cell Res.,213:398−403)
コーディング:AAA CGA CAC TTA TGG CAA AC (配列番号11)
非コーディング:ACA GGA AGC GTC ACT TCT CT (配列番号12)
【0078】
このような遺伝子の発現の半定量的評価のために、各プライマー対についてサイクル分析を実施し、至適増幅のサイクル数を決定した。PCR産物を、1%アガロースゲル電気泳動において分離した。エチジウムブロマイド染色した特定のバンドをUV光下で可視化し、写真撮影した。特定のバンドのデンシトメトリー分析を、Alpha−ImagerTM(Alpha Innotech Corp.,San Leandro、カリフォルニア州、米国)を使用して行い、データを、β−アクチンに対する特定の遺伝子の比として表す。
【0079】
データ解析
報告されたデータを平均±SEMとして表す。次いで、適切な群間の差異を、分散分析を使用して解析した。
【0080】
実施例1:CsAの免疫抑制効果に対する抗TGF−β抗体の効果
これらの研究において使用したWF(RT1)からLEW(RT1)への完全な不一致株に組み合わせを用いるラット異所性心移植モデルは、拒絶を防止するための長期免疫抑制を必要とする。TGF−β中和抗体またはアイソタイプ一致コントロール抗体を投与して、TGF−β発現が、最初の30日以内のCsA処置動物の同種移植片生存率に影響を及ぼすかどうかを決定した。
【0081】
非処置動物由来の移植片は、移植の平均11日後に拒絶した(n=6、11±1.5)。対照的に、CsA処置動物由来の移植片は、平均で117日間、生存した(n=6、117±9、p<0.001)。慢性拒絶の病因におけるTGF−βの役割をより良好に理解するため、心臓移植レシピエントに、移植3日後に開始して、週3回、1.0または2.5mg/kgの抗TGF−β抗体を投与した。コントロール抗体を、同一濃度および投与スケジュールで投与した。非処置同種移植片と、CsA+2.5mg/kg抗TGF−β抗体で処置した群との間で、生存率の統計的有意差は観察されず、12.7±1.2日の平均生存時間を有した(図1)。CsA+2.5mg/kgコントロール抗体は拒絶しなかったが、組織学的変化の比較の目的のために、CsA+抗TGF−β抗体処置動物と類似の日数で屠殺した。
【0082】
全く対照的に、1.0mg/kgの抗体を注入した動物は、CsA+2.5mg/kgの抗TGF−β抗体を受容した動物と同様に拒絶せず、平均生存時間は99±8日であった。これは、より高い抗体群と比較して高度に有意であった(p<0.01)。この時点でのデータは、2.5mg/kgの濃度での抗TGF−βはCsAの効力を全廃するため、CsAの免疫抑制効果がTGF−βによって仲介されるという仮説を強く支持する。現在のデータは、おそらく、TGF−βの線維形成特性が抗TGF−β抗体によって中和されたため、より低い用量の抗TGF−β抗体を注入したラットはより低い重症度の腎病理学的変化を有したことを実証する。
【0083】
実施例2:CsAの腎毒性作用に対する抗TGF−β抗体の効果
これらの実験は、CsAの腎毒性作用におけるTGF−βの役割を研究するために実施した。CsAと共に、レシピエントを、拒絶時まで、1週間に3回、TGF−βまたはコントロール抗体(1.0mg/kg)でも処置した。群には次のものが含まれた:非処置同種移植;CsA処置同種移植;CsA+コントロール抗体(1.0mg/kg)処置同種移植およびCsA+抗TGF−β抗体(1.0mg/Kg)、処置されたおよびアイソタイプコントロール。
【0084】
腎機能
研究したすべての実験動物から屠殺後に得られるラットの血漿におけるクレアチニンおよび血中尿素窒素(BUN)レベルを定量化することによって、腎機能を測定した。定量化は、Sigma(St.Louis、米国)製のキットを使用して実施した。BUNレベルは、CsA処置動物において、同系移植コントロールと対比して上昇し(18.6±0.85対12.6±0.4mg/dl;p<0.0001)、CsA+抗TGF−β抗体処置した動物(13.8±0.63、p<0.03)においてレベルの低減が観察されたが、CsA+コントロール処置した動物(17.8±0.45)では認められなかった。血清クレアチニンの有意な増加(0.75±0.03対0.43±0.2mg/dl;p<0.0001)が同系移植と比較してCsA処置レシピエントに観察された。BUNレベルと同様に、CsA+抗TGF−β抗体で処置した動物(0.49±0.06.p<0.003)はクレアチニンレベルの低減を示したが、コントロール抗体(0.68±0.08)では示さなかった。
【0085】
TGF−β、コラーゲン、およびフィブロネクチンmRNAの腎内発現
(遺伝子/β−アクチン比、それぞれn=6)として表される結果(図2)は、TGF−β、コラーゲンおよびフィブロネクチンの腎内mRNA発現に対する抗TGF−βまたはコントロール抗体を伴うおよび伴わないCsAの長期処置の効果を実証する。
【0086】
TGF−β
CsAの長期処置は、同系移植と比較して、TGF−βmRNAの腎内発現の増加(p<0.01)を生じた。同系移植およびCsA抗TGF−β抗体(1.0mg/kg)で処置したレシピエント間においてTGF−βmRNA発現の差異(p=0.12)は認められなかった一方;CsAおよびCsA+抗TGF−β抗体(2.5mg/kg)処置レシピエント間においては有意差(p<0.003)が観察された。CsAおよびCsA+コントロール抗体処置レシピエント間では差異が観察されなかった。
【0087】
コラーゲン
CsAの長期処置は、同系移植と比較して、コラーゲンmRNAの腎内発現の増加(p<0.0001)を生じた。CsAおよびCsA+抗TGF−β抗体処置レシピエント間では、有意差(p<0.008)が観察された(図2)。CsAおよびCsA+コントロール抗体処置レシピエント間では差異が観察されなかった。
【0088】
フィブロネクチン
類似の結果が、フィブロネクチンmRNAで得られ(図2)、CsAの長期処置は、同系移植と比較して、フィブロネクチンmRNAの腎内発現の増加を生じた(p<0.0001)。CsAおよびCsA+抗TGF−β抗体処置レシピエント間では、有意差(p<0.002)が観察された。CsAおよびCsA+コントロール抗体処置レシピエント間では差異が観察されなかった。
【0089】
MMP−2およびTIMP−2の腎内発現
結果(図3)は、CsAの長期処置は、同系移植と比較して、MMP−2mRNAの腎内発現の増加(p<0.0002)を生じたことを実証する。CsAおよびCsA+抗TGF−β抗体処置レシピエント間では、有意差(p<0.004)が観察された。CsAおよびCsA+コントロール抗体処置レシピエント間では差異が観察されなかった。抗TGF−β抗体処置レシピエントは、TIMP−2mRNAの腎内発現の低減を実証したが、統計的に有意な差異ではなかった。CsAおよびCsA+コントロール抗体処置レシピエント間では差異が観察されなかった。
【0090】
TGF−βタンパク質の循環レベルに対する抗TGF−β抗体の効果
これらの結果(図4)は、同系移植と比較して、CsAの長期処置がTGF−βタンパク質の循環レベルの有意な(p<0.0001)増加を生じたことを実証する。同系移植およびCsA+コントロール抗体処置レシピエント間ではTGF−βレベルの差異は認められなかった;しかし、CsAおよびCsA+抗TGF−β抗体処置レシピエント間では統計的に有意な差異(p<0.003)が観察された。
【0091】
TGF−βタンパク質の腎内発現に対する抗TGF−β抗体の効果
腎内TGF−βタンパク質発現の有意に高い(3+−4+)染色がCsA処置レシピエントにおいて観察されたが、これは、コントロール抗体+CsAで処置した群において異ならなかった。CsA+抗TGF−β抗体(1.0mg/kg)で処置した動物におけるTGF−βタンパク質染色は減少したが、同系移植コントロールより若干高い状態を保持した。
【0092】
腎組織学に対する抗TGF−β抗体の効果
CsAによる処置は、CsAによる長期処置を受容している患者に類似の病理組織学的変化を生じた。I)CsA単独;II)CsA+コントロール抗体;およびIII)CsA+抗TGF−β抗体(1.0mg/kg)で処置した心移植レシピエントラットの腎組織由来のPASおよびH&E染色スライドの病理組織学的分析を実施した。管構造のPAS染色の増加を含む管空胞化および脈管変化が、CsAおよびCsA+コントロール抗体処置動物において見出された。群IIIのすべての動物が完全に正常な腎組織学を有したわけではないが、変化は、時折しか観察されず、この群において顕著ではなかった。PAS染色もまた、抗TGF−β処置レシピエントにおいて減少した。結果は、CsAおよびCsA+コントロール抗体処置動物における基底膜の肥厚および空胞化を含む管および脈管変化を実証する。
【0093】
材料および方法(第2部)
以下の材料および方法を実施例3〜9において使用した。
【0094】
実験群
Lewis(LEW RT1)ラットを以下の5群に分けた:
(1)非処置同種移植コントロール;
(2)非処置同系移植コントロール;
(3)TAC;
(4)TAC+抗TGF−β抗体;および
(5)TAC+コントロール抗体。
【0095】
TACを、0.25mg/kgで筋肉内に90日間投与し;抗TGF−β抗体、1D11を、1mg/kgで週2回投与した。使用したコントロール抗体は13C4であった。
【0096】
ラット腎移植
LEW RT1またはWistar−Furth WF RT1ドナーの腎臓を、それぞれ、同系および同種移植のために、LEW RT1レシピエントに移植した。(LEW RT1およびWF RT1)ラットは、主要およびマイナー組織適合性遺伝子座の両方において完全な遺伝子不均衡を示す。)
【0097】
移植は、以下のとおりに行った。50mg/kgペントバルビタール(腹腔内)による全身麻酔の導入後に、腎臓ドナーに対して正中開腹を実施した。左腎臓をその血管茎に対して動員し、尿管を分割した。ヘパリン処置(1,000U、腹腔内)後、豊富な周囲大動脈および大静脈を伴う左腎臓を取り出した。次いで、腎臓に氷冷食塩水を軽く流し、移植するまで貯蔵した。レシピエント(上記のように麻酔した)では、正中開腹を介して、下大動脈および静脈を暴露した。標準的な微小血管外科技術を使用して、左ドナー腎臓を、端側形式でレシピエントの管に吻合し、血流を回復させた。尿管を膀胱壁に挿入し、短いセグメントのPE50管でステントした。
【0098】
動物のモニタリング、屠殺、組織回収
代謝ゲージに収容したラットを移植片拒絶の証拠について毎日モニターした(即ち、有意な重量増加および尿量の減少)。腎機能を、血清中クレアチニンおよびBUNレベルの変化によって決定した。拒絶の時点または観察期間の終了時に、動物をペントバルビタールナトリウム(50mg/kg、腹腔内)で麻酔した。心臓穿刺を介する放血後、同系移植および同種移植を、以下に記載の日常的な組織学、免疫組織化学、ウエスタンブロッティング、およびRT−PCRを使用して、分析した。
【0099】
BUNおよびクレアチニンレベル
腎機能を評価するために、それぞれWako Chemicals,Richmond、バージニア州およびOxford Biomedical Research,Oxford、ミシガン州由来の市販のキットを使用して、血清中BUNおよびクレアチニンを分析した。
【0100】
同種移植片の組織学、免疫組織化学および病理組織学的変化の定量化
各動物由来の移植した腎臓の一部をホルマリンで固定化し、パラフィン中に包埋した。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)ならびに過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色を使用して、組織学的変化を評価した。腎臓の組織学的変化については、本発明者らは、標準的な手順によって定量した。糸球体障害の重症度を、カンナ(Khanna)ら(2000年)Transplantation,73:1543−1549に記載のようにスコア評価した。簡単に説明すると、各領域において、少なくとも50〜60個の糸球体を各標本について計数し、病変を、5ポイントスケール(0、増殖なし、ほとんど正常な組織学;1、約25%のセグメント状病巣;2、25%を超えるが50%を超えないセグメント病巣;3、広汎な増殖を伴う繊維化病巣;4、ほとんど完全な繊維化変化)に対してスコア評価した。PAS染色を使用して、細胞外マトリックスタンパク質蓄積の程度を決定した(スコア評価せず)。H&E染色スライドにおける小葉間動脈および病巣をスコア評価した。
【0101】
血漿中TGF−βタンパク質および腎臓組織における免疫化学
TGF−βタンパク質の血漿中レベルを、カンナ(Khanna)ら(1999年)Transplantation,67:882−889に記載されているように測定した。TGF−βの腎内タンパク質発現を、カンナ(Khanna)ら(2000年)Transplantation,73:1543−1549;カンナ(Khanna)ら(2002年)Kidney Intl.,62:2257−63;およびカンナ(Khanna)ら(1999年)Transplantation,67:614−619に本質的に記載のように、免疫組織化学的に調べた。ホルマリン固定化パラフィン包埋された組織を、細かい切片にスライスし、キシレン中で脱パラフィンし、リン酸緩衝化食塩水(PBS)に対し段階別に調製したエタノール中で再水和した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、メタノール/H(18:1vol/vol)で30分間ブロックした後、非特異的結合を、10%正常ウマ血清および3%BSAを補充したPBS中に希釈した1.5%アビジン/ビオチンで1時間、ブロックした。組織切片を、1晩、4℃で、上記のPBS中の特異的第一抗体(50μg/ml)と共にインキュベートした。PBS中での広範な洗浄後、スライドを、室温で、1時間、希釈した(1:1,000)ビオチン標識抗マウスIgGウマ抗血清と共にインキュベートし、PBS中で再度広範に洗浄し、次いで、ABC溶液中で30分間洗浄した。スライドを、10分間、ジアミノベンジジン(DAB)中で展開し、水で10分間、濯いだ。次いで、スライドを、ヘマトキシリンで対比染色し、段階的に調製したエタノールおよびキシレン中で脱水した。
【0102】
スライドを、評価のために、PermountTMでマウントした。各群由来のサンプルを、病理組織学的変化および免疫組織化学染色のために等級付けした。免疫染色の強度を、0(非染色)〜4+(最大染色)に等級付けした。各動物についての腎臓組織化学の重症度を、次のパラメータ:間質の線維化、動脈変化、および糸球体硬化症のそれぞれについて2名の個体によって盲検的に等級付けした。
【0103】
リアルタイムPCRによるmRNAの検出
RT−PCRを、Bio−Rad iCyclerTMシステム(Bio−Rad,Hercules、カリフォルニア州)を使用して実施した。Promega(Madison、ニュージャージー州)製キットを使用して腎組織からRNAを単離し、Invitrogen(Carlsbad、カリフォルニア州)製cDNA合成キットを使用してcDNAに逆転写した。プライマーの特異性を、95℃で20秒間および60℃で1分間の40サイクルの正規のPCRを稼動し、続いて、エチジウムブロマイド含有アガロースゲルにおいて分離することによって、試験した。リアルタイムPCRを、SYBR Supermixキット(Bio−RAD)(95℃で20秒間および60℃で1分間の40サイクル)を使用して、実施した。PCR効率は、テンプレートcDNAを連続的に希釈することによって調べた。融解曲線データを回収して、PCR特異性を確認し、各アッセイに適切なネガティブコントロールを含めた。各サンプルの各遺伝子についてのmRNAレベルを、β−アクチンmRNAに対して正規化し、カンナ(Khanna)ら(2005年)Nephron Exp.Nephrol.,101:119−126に記載のように2[(Ct/β−アクチン−Ct/目的の遺伝子)]として提示した。
【0104】
ウエスタンブロッティング
凍結組織を、1%トリトン(Triton)X−100、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル、35ng/mlペプスタチンAおよび10ng/mlロイペプチンを伴う氷冷PBSにおいて均質化した。遠心分離後、50μgのタンパク質を、カンナ(Khanna)ら(2005年)Nephron Exp.Nephrol.,101:119−126に記載のようにSDS PAGEによって遠心分離した。ブロットを、適切な希釈のポリクローナル抗p22phox抗体(R5554、Marsh Lab,Bozeman、モンタナ州より贈与)または抗NOX抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz、カリフォルニア州)でプロービングし、1:5,000希釈の西洋ワサビペルオキシダーゼ−コンジュゲート第二抗体と共にインキュベートし、増強された化学発光によって可視化した。
【0105】
統計解析
ANOVAおよびスチューデントのt検定を使用して、TGF−βの遺伝子発現および血漿レベルについての群の平均間の差異を評価した。GraphPad,San Diego、カリフォルニア州製の統計ソフトウェアプログラムを使用して、解析を実施した。結果を平均±SEMで表し、両側検定の有意水準を、p<0.05のレベルで決定した。
【0106】
実施例3:腎臓機能に対するTACの影響を低減する抗TGF−β抗体
BUNレベル(図5A)は、90日間の処置後のTAC処置ラットにおいて、移植90日後に回収した同系移植コントロールと対比して上昇した(29.9±1.3対17.3±1.3mg/dl;p<0.0001)。抗TGF−β抗体(21.3±0.9、p<0.01)はBUNレベルを減少させたが、コントロール抗体(26.6±1.1mg/dl)は減少させなかった。同様に、TAC処置レシピエントでは、同時に行われた同系移植コントロールと比較して、血清中クレアチニンの有意な増加(0.83±0.06対0.52±0.09mg/dl;p<0.04)が観察された。BUNレベルと同様に、抗TGF−β抗体(0.48±0.08mg/dl;p<0.02)はTAC誘導性クレアチニンレベルを阻害したが、コントロール抗体(0.78±0.09)は阻害しなかった(図5B)。
【0107】
実施例4:TGF−β、NOX−1、p22phoxならびにRAC−1mRNAの抗TGF−β抗体およびTAC誘導性腎内発現
移植90日後の(1)同系移植、(2)TAC、(3)TAC+抗TGF−β抗体、および(3)TAC+コントロール抗体処置動物由来の腎臓組織におけるTGF−β、NOX−1およびp22phoxの腎内発現を、RT−PCRによって分析した。TACによる処置は、TGF−β(37倍)、NOX−1(18倍)、およびp22phox(31倍)、およびRAC−1(20倍)のmRNA発現を増加した。遺伝子発現の増加は、抗TGF−β抗体(それぞれ、p<0.01;p<0.008、p<0.04、およびp<0.03)によって減少したが、コントロール抗体では減少しなかった(図6)。同系移植コントロールに関する結果を提示する。
【0108】
実施例5:TGF−β、SODおよびTRXの特異な腎内mRNA発現
TACによる長期処置の抗酸化遺伝子に対する効果についてさらに調べるために、SODおよびTRXの腎内mRNA発現を決定した。データは、SODおよびTRXmRNAが減少した一方、同系移植コントロールと比較して、TAC処置ラットではTGF−βmRNAが増加したことを実証した(図7)。TACによる処置は、TGF−βmRNAの37倍の増加生じた一方、SODおよびTRXのmRNA発現は、それぞれ27および80倍減少した。SODmRNAは、抗TGF−β抗体を部分的に反転する一方、TRXmRNAは、完全に反転された。
【0109】
実施例6:p22phoxおよびNOX−1タンパク質の移植片内発現
同系移植、非処置同種移植、およびTACによって処置された動物由来の腎臓組織において、p22phoxおよびNOX−1タンパク質の発現を分析した。タンパク質溶解物(10μg)を電気泳動し、ニトロセルロース紙に移し、抗p22phoxおよび抗NOX−1抗体でプロービングした。図8に示されるように、TACによる処置は、p22phoxおよびNOX−1の移植片内(intragraft)発現の増加を生じた。
【0110】
実施例7:TACによる処置は、腎移植における腎毒性特異的組織学的変化を生じる。
H&EおよびPAS染色腎臓薄切片における病理組織学的試験によって、形態学的変化に対するTAC、TAC+コントロール抗体およびTAC+抗TGF−β抗体処置の効果を評価した。
【0111】
コントロールラットの腎臓(同系移植)の光学顕微鏡的所見は、正常な糸球体、輸入細動脈および細管細胞を示した。全く対照的に、TACを受容したラットの腎臓組織は、重度〜中等度の尖端突起の形成(epical blebbing)、硝子化、糸球体基底膜肥厚、尿細管間質の線維化のパターンならびに輸入細動脈および小葉間動脈の末端部分の細動脈病変を含む顕著な組織学的変化を示した。これらの変化は、TACおよび抗TGF−β抗体の同時投与では観察されなかった。しかし、類似の変化が、TAC+コントロール抗体で処置した動物において認められた。PAS染色切片もまた、抗TGF−β抗体処置レシピエントにおいて、ほぼ正常と比較して、基底膜の肥厚を示す。抗TGF−β抗体によるTAC誘導性変化の反転が観察された。TAC+コントロール抗体処置動物における組織学は、TAC単独のそれと異ならなかった。硝子化および細動脈病変尿細管間質の線維化および糸球体基底膜肥厚が、TACおよびTAC+コントロール抗体処置レシピエントにおいて観察されたが、TAC+抗TGF−β抗体処置レシピエントでは観察されなかった。腎毒性に特異的な近位尿細管上皮細胞特異的変化が、TACおよびTAC+コントロール抗体処置ラット移植レシピエントにおいて認められ、同系移植またはTAC+抗TGF−β抗体処置ラットでは認められなかった。定量分析は、TAC+抗TGF−β抗体処置同種移植と統計的に異ならない同系移植と比較して、TAC処置レシピエントでは統計的有意(p<0.036)差を実証した。
【0112】
実施例8:TACはTGF−βの腎内発現を増加する。
免疫組織化学を使用して、TAC、TAC+抗TGF−β抗体、TAC+コントロール抗体処置または非処置同種移植で処置した腎臓移植のレシピエント由来の腎臓組織におけるTGF−βタンパク質の腎内発現について分析した。腎臓切片を、カンナ(Khanna)ら(2004年)Circulation,110:3822−3829に記載のように抗TGF−β抗体で染色した。TACおよびTAC+コントロール抗体処置レシピエントでは、硝子化および細動脈病変尿細管間質の線維化および糸球体基底膜肥厚の他に、TGF−βタンパク質についての染色の増加が観察されたが、TAC+抗TGF−β抗体処置レシピエントではほぼ正常であった(図8)。
【0113】
実施例9:TGF−βの循環レベルに対するTACの効果
図9は、TACによる長期処置が、同系移植コントロールと比較して、TGF−βタンパク質の循環レベルの有意な増加を生じた(9.8±1.7対57±6ng/ml;p<0.01)ことを実証した。TGF−βレベルでは、同系移植とTAC+コントロール抗体処置レシピエント(57±6対52±6ng/ml)との間に差異が認められなかった;しかし、TACおよびTAC+抗TGF−β抗体処置レシピエントの間では統計的有意差(9±1.3対57±6ng/ml;p<0.01)が観察された。
【0114】
本明細書は、本明細書内において引用した参考文献の教示内容と照らし合わせて、ほぼ完全に理解される。本明細書内の実施態様は、本発明の実施態様の例示を提供するが、これは、本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。当業者であれば、他の多くの実施態様が本発明に包含されることを容易に認識する。本開示物において引用したすべての刊行物、特許、特許出願、および生物学的配列は、それらの全体が参考として引用される。本明細書におけるいずれの参考文献の引用も、そのような参考文献が本発明に先行する技術であることを認めていない。
【0115】
他に明記しない限り、特許請求の範囲を含む本明細書において、成分、細胞培養、処置条件などの数量を表現するすべての数は、すべての場合において、用語「約」によって修飾されることが理解されるべきである。従って、対照的に、他に明記しない限り、数的パラメータは近似値であり、本発明によって得られることが求められる所望される特性に依存して、変動してもよい。他に明記しない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、連続しているすべての要素を指すと理解されるべきである。当業者であれば、本明細書に記載の本発明の特定の実施態様に対する多くの等価物を認識し、日常的域を超えない程度の実験を使用して、これを確かめることが可能である。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】CsAの免疫抑制効果に対する高用量の抗TGF−β抗体のネガティブな効果および腎毒性に対するより低用量の抗体の有益な効果を示すKaplan−Meierグラフを示す。CsAに加えて、レシピエントはまた、抗TGF−βまたはコントロール抗体(それぞれ2.5もしくは1.0mg/kg)で、週3回処置された。群には次のものが含まれた:同系移植、非処置同種移植、CsA処置同種移植、CsA+コントロール抗体(2.5mg/kg)、CsA+抗TGF−β抗体(2.5mg/kg)、CsA+コントロール抗体(1.0mg/kg)、CsA+抗TGF−β抗体(1.0mg/kg)、およびアイソタイプ抗体コントロール。2.5mg/kg用量の抗TGF−β抗体はCsAの免疫抑制効果を無効にするが、1.0mg/kgでは無効にしない。CsA+コントロール抗体処置レシピエントは、抗TGF−β抗体処置レシピエントと比較して、移植片拒絶を示さなかったが、屠殺した。
【図2】図1に記載の多様な処置群におけるTGF−β、コラーゲン、およびフィブロネクチンmRNAの腎内発現レベルを示す。結果を、ハウスキーピング遺伝子、β−アクチンに対するTGF−β、コラーゲンまたはフィブロネクチンの比として表す。同系移植と比較して、CsA処置レシピエントにおいて、TGF−β、コラーゲン、およびフィブロネクチンmRNAの発現の統計的に有意な増加が認められる。CsA処置動物と比較して、CsA+抗TGF−β抗体群において、TGF−β、コラーゲン、およびフィブロネクチンmRNAの発現の統計的に有意な減少が認められる一方、CsA+コントロール抗体群との差異は存在しない。(P値は次のとおりである:TGF−βp<0.02および**p<0.003;コラーゲン!p<0.0001および!!p<0.008;フィブロネクチン#p<0.0001および##p<0.002。)
【図3】MMP−2およびTIMP−2mRNAの腎内発現を示す。結果を、ハウスキーピング遺伝子、β−アクチンに対するMMP−2およびTIMP−2の比として表す。同系移植と比較して、CsA処置レシピエントにおいて、MMP−2およびTIMP−2の発現の統計的に有意な増加が認められる。CsA処置動物と比較して、CsA+抗TGF−β抗体群において、MMP−2の発現の統計的に有意な減少が認められる一方、CsA+コントロール抗体群との差異は存在しない。TIMP−2については、CsA処置動物と比較して、CsA+抗TGF−β抗体群において、発現の減少が認められる(但し、統計的に有意ではない)。(P値は次のとおりである:MMP−2p<0.0002および**p<0.004;TIMP−2!p<0.03および!!p<0.18。)
【図4】図1に記載の1mg/kg抗TGF−β抗体で処置した動物におけるTGF−βの血漿レベルを示す。同系移植コントロールと比較して、CsAで処置した動物において、血漿中TGF−βレベルの統計的に有意な増加が認められる。CsA処置動物と比較して、CsA+抗TGF−β抗体群において、TGF−βレベルの統計的に有意な減少が認められる。(P値は次のとおりである:p<0.0001および**p<0.003。)
【図5】腎移植レシピエントの腎機能に対するTACおよび/または抗TGF−β抗体の効果を実証する。図5Aは、0.25mg/kgのTACで90日間処置した動物または同系移植コントロールにおけるBUNレベルを示す。TACに加えて、レシピエントをまた、抗TGF−βまたはコントロール抗体(それぞれ1mg/kg)で、週2回処置した。群には次のものが含まれた:同系移植、TAC処置同種移植、TAC+コントロール抗体、およびTAC+抗TGF−β抗体。同系移植コントロール(p<0.0001)またはコントロール抗体と比較して、TAC処置動物において、BUNレベルの統計的に有意な増加を観察した。抗TGF−β抗体を伴う処置では、TAC単独と比較して、BUNレベルが減少した(p<0.01)。コントロール抗体を伴う処置においてもまた、BUNレベルが若干減少したが、この減少は統計的に有意ではなかった。図5Bは、TACで処置した動物または同系移植コントロールのクレアチニンレベルを示す。動物を、図5Aについて記載のように処置した。同系移植コントロール(p<0.04)またはコントロール抗体と比較して、TAC単独で処置した動物において、クレアチニンレベルの統計的に有意な増加を観察した。抗TGF−β抗体を伴う処置では、TAC単独と比較して、BUNレベルが減少した(p<0.02)。コントロール抗体を伴う処置においてもまた、クレアチニンレベルが若干減少したが、この減少は統計的に有意ではなかった。
【図6】TGF−β、NOX−1、p22phox、およびRac−1mRNAの腎内発現に対する抗TGF−β抗体の効果を示す。動物を、図5Aについて記載のように処置した。抗TGF−β抗体は、TAC誘導性腎内TGF−β、NOX−1、p22phox、およびRac−1mRNA発現を阻害したが、コントロール抗体は阻害しなかった。
【図7】ラット腎移植におけるTGF−β、SOD、およびTRXmRNA発現に対するTACの効果を示す。動物を、図5Aについて記載のように処置した。TGF−β対SODおよびTRXmRNAは、TAC処置ラット移植レシピエントにおいてレシプロカルに発現されることを見出した。抗TGF−β抗体は腎内TGF−βを阻害するが、SODおよびTRXmRNA発現を部分的に回復した。
【図8】図5Aについて記載のように処置された動物におけるp22phoxおよびNOX−1発現のウエスタンブロット分析の結果を示す。p22phoxおよびNOX−1の腎内発現は、非処置同種移植(最後の2つのレーン)および同系移植コントロール(最初の2つのレーン)の両方と比較して、TACによる処置後に上昇した。
【図9】腎移植レシピエントのTGF−βタンパク質の循環レベルに対するTACおよび/または抗TGFβ抗体の効果を示す。動物を、図5Aについて記載のように処置した。血漿サンプル中のTGF−βタンパク質の循環レベルをELISAによって定量した。TAC処置レシピエントは、同系移植コントロールと比較して、TGF−β発現の統計的に有意な増加を示した。TAC処置動物と比較して、TAC+抗TGF−β抗体群において、TGF−βレベルの統計的に有意な減少を観察した;TAC単独による処置に関しては、TAC+コントロール抗体処置レシピエントと比較して、TGF−β発現の統計的に有意な差異は観察されなかった。(P値は次のとおりである:p<0.01および**p<0.01)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫抑制の必要があり、免疫抑制剤で処置される哺乳動物において免疫抑制剤によって誘発される腎炎を処置または防止する方法であって、哺乳動物に、薬剤の免疫抑制活性を実質的に妨げずに免疫抑制剤の腎毒性作用を緩和するのに十分な治療有効量のTGF−βアンタゴニストを投与することを含んでなる、方法。
【請求項2】
哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
哺乳動物に投与する場合、免疫抑制剤がTGF−βの発現を誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
免疫抑制剤が、シクロスポリン、タクロリムス、およびシロリムス、または薬学的に許容可能なその誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
シクロスポリンがシクロスポリンAである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
TGF−βアンタゴニストが、抗TGF−β抗体、抗TGF−β受容体抗体、および可溶性TGF−β受容体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
抗体が1D11またはそのヒトもしくはヒト化誘導体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
抗体がCAT192またはその誘導体である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物が自己免疫障害を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物が移植を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
移植が同種移植片である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
移植が、心臓、腎臓、肺、肝臓、角膜、骨髄、血管および膵島細胞移植からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
TGF−βアンタゴニストが、免疫抑制剤の非存在下で腎炎を処置するために推奨される用量より低い用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
TGF−βアンタゴニストが投与される用量が、免疫抑制剤の非存在下で腎炎を処置するために推奨される用量より少なくとも20%低い、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
TGF−βアンタゴニストが、免疫抑制剤の非存在下で通常投与される最大値治療有効量の少なくとも30%未満の用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
TGF−βアンタゴニストが、ラットに投与される場合、1D11抗体の2mg/kg体重に等価な用量未満の用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
TGF−βアンタゴニストが、ラットに投与される場合、1D11抗体の1mg/kg体重に等価な用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
抗TGF−β抗体をヒトに投与することを含んでなる、ヒトを処置する方法であって、ヒトが、移植を有し、かつシクロスポリン、タクロリムス、およびシロリムス、または薬学的に許容可能なその誘導体からなる群から選択される免疫抑制剤による免疫抑制療法を経験している、方法。
【請求項19】
TGF−β抗体の投与による拒絶の危険性が治療的に許容可能である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
免疫抑制剤の腎毒性作用の低減が治療的に許容可能である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
免疫抑制を必要とする患者に投与される免疫抑制剤によって誘発される腎炎を処置または防止するためのTGF−βアンタゴニストの使用。
【請求項22】
免疫抑制を必要とする患者に投与される免疫抑制剤によって誘発される腎炎を処置または防止するための医薬品の製造におけるTGF−βアンタゴニストの使用。
【請求項23】
免疫抑制剤の腎毒性を検出する方法であって、
(a)免疫抑制剤(immunusuppressive agent)が投与されている哺乳動物から生物学的サンプルを入手すること、および
(b)TGF−β、NOX−1、p22phox、RAC−1、SOD、およびTRXからなる群から選択される1つもしくはそれ以上の分子の発現レベルを決定すること、
を含んでなり、
発現レベルが哺乳動物に対して腎毒性であるかどうかを示す、方法。
【請求項24】
免疫抑制剤の腎毒性を低減する能力について組成物の化合物を評価する方法であって、
(a)免疫抑制剤(immunusuppressive agent)および試験化合物または組成物が投与されている哺乳動物から生物学的サンプルを入手すること、および
(b)TGF−β、NOX−1、p22phox、RAC−1、SOD、およびTRXからなる群から選択される1つもしくはそれ以上の分子の発現レベルを決定すること、
を含んでなり、
発現レベルが、試験化合物または組成物は、免疫抑制剤の腎毒性を低減するのに有効であるかどうかを示す、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−513542(P2008−513542A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533623(P2007−533623)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/033942
【国際公開番号】WO2006/036729
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(593119583)ジェンザイム・コーポレイション (17)
【氏名又は名称原語表記】Genzyme Corporation
【出願人】(507092104)ジ・エムシーダブリュー・リサーチ・ファウンデイション・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】THE MCW RESEARCH FOUNDATION, INC.
【Fターム(参考)】