説明

免疫調節化合物によるアレルギー性疾患の治療

被験者において、アレルギー性疾患又はその影響を治療、予防、阻害又は低減する治療方法が、被験者に、有効量の免疫調節化合物(芳香族アミノ酸残基若しくは複素環アミノ酸残基、又はそれらの誘導体を含む)を投与することを含む。好ましくは、免疫調節化合物がD−トリプトファン残基又はL−トリプトファン残基を含むジペプチドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー性疾患の治療の分野に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2007年5月17日に出願されたロシア特許出願第2007118237号明細書の優先権と、2007年8月22日に出願された米国仮特許出願第60/957,201号明細書の利点とを主張する。
【背景技術】
【0003】
アトピー性気管支喘息は、産業先進国で広まっている疾患である。現在では、喘息の発症におけるTリンパ球及びTリンパ球によって産生されるサイトカインの役割は明らかである。1つの有力な仮説によれば、インターロイキン−4(IL−4)の顕著な産出を伴う、ヘルパーT細胞のバランスが第2の型のヘルパーT細胞方向へと移行することが、肺組織において喘息過程を誘起及び維持するのに重要な因子である。
【0004】
アレルギー状態は、患者の身体の免疫状態の低下及び環境汚染の進行に併せて産業先進国で広がっている。
【0005】
現在、様々な医薬群に属する製剤が、アレルギーを予防及び治療するのに使用されている。特に、抗炎症薬の使用が提唱されており(アスピリン、イブプロフェン、ボルタレン、ヒドロコルチゾン)、抗ヒスタミン製剤(ジメドロール、ピポルフェン)が、症候性剤(symptomatic agents)、気管支拡張薬、吸着薬、天然起源及び合成起源の様々なホメオパシー製剤、コルチコステロイド等と併用して、様々なスキーム、及び脂肪細胞のカルシウムチャンネル遮断薬(クロマリン(chromalin)ナトリウム)とホルモン療法との様々な組合せで使用されている(特許文献1(2002年)、特許文献2(1996年)、特許文献3(1994年)、非特許文献1、特許文献4(1990年)、非特許文献2、非特許文献3)。
【0006】
最も知られている製剤の欠点は、比較的効率が低く、また非常に多くの禁忌があることである。特に、クロモグリク酸ナトリウム(インタール)は、吸入曝露中で且つアレルギー性疾患の症状が非常に小さい場合でしか効果がなく、抗ヒスタミン製剤は喘息には効果がなく、またアスピリントライアドは顕著な副作用を示す(特許文献5(1994年))といったことがある。
【0007】
近年、一般的に受け入れられている或る理論が考慮されており、これによるとアレルギー性疾患は、2型ヘルパーT細胞(Th2)と呼ばれるヘルパーTリンパ球のアレルゲン特異的なクローンの活性化に付随した、免疫系の調節における障害によって引き起こされる(非特許文献4)。これに関連して、対となる(opposing)1型ヘルパーT細胞クローン(Th1)の分化誘導因子を導入すること、又はTh1によって合成されるサイトカインを使用することによるヘルパーT細胞クローンの相互調節の利用が、アレルギーの治療に提唱されている。特に、インターロイキン−12、γインターフェロン(IFN−γ)及び他の物質がこれらの目的で使用されている。
【0008】
しかしながら、得られた結果は信頼性が不十分であり、多くの場合で矛盾していることが分かった。このため、IFN−γのレベルが、炎症性アレルギー反応の強度及び疾患の臨床症状の重症度と相関関係にあることが示された(非特許文献5)。同時に、マウスでの多くの喘息モデルにおいて、動物でのIFN−γの投与が、気管支過敏性の増大を引き起こし得ることが示された(非特許文献6)。
【0009】
喘息の患者での組換えインターロイキン−12製剤の投与は、好酸球増加の低減を引き起こしたが、全体毒性が十分に高いという背景では、過敏性及び気管支痙攣症状の軽減を引き起こさなかった(非特許文献7)。
【0010】
インターロイキン−18(IL−18)は、アレルギー性疾患の治療に使用されている(非特許文献8)。全体として生物に正の効果を与える、動物でのIL−18の投与は、アレルギー症状の増大を引き起こすこともある。おそらくは、このことは、IL−18が両方の種類のヘルパーT細胞クローンを活性化すると共に、IFN−γ及びIL−4の両方の合成を強める可能性があるということに関連する。
【0011】
IL−18及び上述の他の製剤の欠点は、免疫系のポリクローナル活性化、効果の選択性の欠如、及び高い毒性であり、これは臨床試験中に見られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】ロシア特許第2240126号明細書
【特許文献2】ロシア特許第2139100号明細書
【特許文献3】ロシア特許第21167691号明細書
【特許文献4】旧ソ連特許第1544438号明細書
【特許文献5】ロシア特許第2170091号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Handbook for the Practical Physician, Moscow, Meditsina, 1988, Vol.1, p. 60-68
【非特許文献2】Immunocorrection on Pulmonology/A. G. Chuchalin編、Moscow, Meditsina, 1989, p. 202-210
【非特許文献3】Allergology. General Allergology, Vol. 1/G. B. Fedoseev編、St. Petersburg, Nordmed Publishers, 2001, p. 816
【非特許文献4】Allergology. General Allergology, Vol. 1/G. B. Fedoseev編、St. Petersburg, Nordmed Publishers, 2001, 816 pages
【非特許文献5】Leonardi A., Curnow S., Zhan H., Calder V. Multiple cytokines in human tear specimens in seasonal and chronic allergic eye disease and in conjunctival fibroblast culture. Clin. Exp. Allergy, 2006, V. 36, p. 777-784
【非特許文献6】Hessel E., Van Oosterhout A., Van Ark I. et al. Development of airway hyperresponsiveness is dependent of IFN-gamma and independent of eosinophil infiltration. Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol., 1997, V. 16, p. 325-335
【非特許文献7】Bryan S., O'Connor B., Matti S. et al. Effects of recombinant human IL-12 on eosinophils, airway hyper-responsiveness, and the late asthmatic response. Lancet, 2000, V. 356, p. 2149-2153
【非特許文献8】Wild J., Sigounas A., Sur N. et al. IFN-γ-inducing factor (IL-18) increases allergic sensitization, serum IgE, Th2 cytokines, and airway eosinophilia in a mouse model of allergic asthma. J. Immunol., 2000, V. 164, p. 2701-2710
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
当該技術分野において、被験者においてアレルギー性疾患又はその影響を治療、予防、阻害又は低減する治療方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、被験者において、アレルギー性疾患又はその影響を治療、予防、阻害又は低減する治療方法は、被験者に、有効量の式Aの免疫調節化合物を投与することを含む。
【0016】
【化1】

【0017】
式Aにおいて、nが1又は2であり、Rが水素、アシル、アルキル又はペプチド断片であり、且つXが芳香族アミノ酸若しくは複素環アミノ酸、又はそれらの誘導体である。好ましくは、XがL−トリプトファン又はD−トリプトファンである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施形態による結果を示す図である。
【図2】本発明によるさらなる結果を示す図である。
【図3】本発明によるさらなる結果を示す図である。
【図4】本発明によるさらなる結果を示す図である。
【図5】本発明によるさらなる結果を示す図である。
【図6】本発明によるさらなる結果を示す図である。
【図7】本発明によるさらなる結果を示す図である。
【図8】本発明によるさらなる結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
一実施形態によれば、本発明は、被験者、好ましくはヒト患者において、喘息等のアレルギー性疾患又はその影響を治療、予防、阻害又は低減する治療方法に関する。或る特定の実施形態では、アトピー性気管支喘息が治療される。
【0020】
本発明による免疫調節化合物は式Aの免疫調節剤を含む。
【0021】
【化2】

【0022】
式Aにおいて、nが1又は2であり、Rが水素、アシル、アルキル又はペプチド断片であり、且つXが芳香族アミノ酸若しくは複素環アミノ酸、又はそれらの誘導体である。好ましくは、XがL−トリプトファン又はD−トリプトファンである。
【0023】
「X」に対する芳香族アミノ酸又は複素環アミノ酸の適切な誘導体は、アミド、モノ−又はジ−(C1〜C6)アルキル置換アミド、アリールアミド、及び(C1〜C6)アルキルエステル又はアリールエステルである。「R」に適切なアシル部又はアルキル部は、炭素数1〜約6の分岐アルキル基又は非分岐アルキル基、炭素数2〜約10のアシル基、並びにカルボベンジルオキシ及びt−ブチルオキシカルボニル等の保護基である。nが2のとき、式Aに示されるCH基の炭素は、Xの立体配置と異なる立体配置を有していることが好ましい。
【0024】
好ましい実施形態では、γ−D−グルタミル−L−トリプトファン、γ−L−グルタミル−L−トリプトファン、γ−L−グルタミル−Nin−ホルミル−L−トリプトファン、N−メチル−γ−L−グルタミル−L−トリプトファン、N−アセチル−γ−L−グルタミル−L−トリプトファン、γ−L−グルタミル−D−トリプトファン、β−L−アスパルチル−L−トリプトファン、及びβ−D−アスパルチル−L−トリプトファン等の化合物が利用される。特に好ましい実施形態では、γ−D−グルタミル−L−トリプトファン(SCV−07と称することもある)が利用される。これらの化合物と、これらの化合物、これらの化合物の医薬的に許容可能な塩、及びこれらの製剤処方を調製する方法とは、米国特許第5,916,878号明細書(参照されて本明細書の一部とする)に開示される。
【0025】
γ−D−グルタミル−L−トリプトファンであるSCV−07は、γ−グルタミル部又はβ−アスパルチル部を有する免疫調節剤群の成員であり、これはロシアの科学者によって発見され、SciClone Pharmaceuticals, Inc.により米国で幾つかの症状に対する有効性が試験されている。SCV−07は、in vivo及びin vitroで多くの免疫調節活性を有している。SCV−07はCon−A誘導性の胸腺細胞及びリンパ細胞の増殖を高め、Con−A誘導性のインターロイキン−2(IL−2)の産生及び脾臓リンパ細胞によるIL−2受容体の発現を高めると共に、骨髄細胞におけるThy−1.2の発現を刺激する。in vivoでは、SCV−07は、5−FU免疫阻害動物及びヒツジの赤血球による免疫付与モデルにおいて強い免疫刺激効果がある。
【0026】
任意の有効用量、例えば約0.001mg〜10mgの範囲の用量で、式Aの化合物を投与することができる。1日に1回又は複数回の調剤の投与で、1週間に1回又は複数回、例えば毎日、調剤を投与してもよい。経口、鼻孔、経皮、舌下、注射による、定期的な注入、連続注入等を含む任意の好適な方法で、投与することができる。この調剤は、筋肉内注射で投与することができるが、他の形態の注射及び注入を利用してもよく、経口吸入若しくは鼻孔吸入、又は経口摂取等の他の投与形態を用いることができる。
【0027】
好ましい実施形態において、式Aの化合物を約0.001mg〜10mg、より好ましくは約0.01mg〜1mgの範囲内の用量で、最も好ましくは約0.1mgの用量で投与する。
【0028】
また用量は、1kg当たりのμgで測定することができ、約0.00001mg/kg〜100mg/kgの範囲、より好ましくは約0.0001mg/kg〜1mg/kg、さらにより好ましくは約0.001mg/kg〜0.01mg/kgの範囲内である。
【0029】
SCV−07は、化学合成によって得られ、均質になるまで高速液体クロマトグラフィで精製した有効成分ジペプチド−γ−D−Glu−L−Trp(γ−D−グルタミル−L−トリプトファン)を含有する(ロシア特許第2091389号明細書(1997年)、ロシア特許第2120298号明細書(1998年))。製剤はこれまで、感染症において、及び外科手術後に免疫力を回復させるのに使用されてきた。製剤には、体重1kg当たり0.00001mg〜0.01mgという低い用量で免疫刺激効果があり、即ち製剤は極めて低い濃度で効果を示す。
【0030】
アレルギー性疾患を治療するために、製剤を薬局方で許可された用量で投与する。身体への投与形態及び疾患の特徴に応じて、或る特定の実施形態では、製剤の1日用量は0.1mg〜1.5mgである。より低い用量での製剤の使用が可能ではあるが、治療効果が低減し、1.5mgを超える用量での使用は経済的に得策ではない。製剤は、用いられる用量の最低100000倍であっても非毒性である。
【0031】
非経口(筋肉内又は腹腔内)で用いる場合、或る特定の実施形態では、製剤は、1mLの容量の塩化ナトリウム等張溶液中で使用し、その溶液中に、賦形剤(D−マンニトール 9.0mg、塩化ナトリウム 1.0mg)と共に有効成分を溶解する(γ−D−Glu−L−Trp 100μg)。或る特定の実施形態での単回用量は、0.1mg(0.001mg/kg)である。或る特定の実施形態では、5回〜10回の注射の形で製剤による治療が行われる。
【0032】
経口で用いる場合、或る特定の実施形態では、製剤は、0.35mg又は1.5mgの有効成分を含有する錠剤の形で使用する。或る特定の実施形態では、製剤は、1週間〜2週間、1日1回又は2回使用する。
【0033】
置換部(substituted)、欠失部、伸長部、置き換え部(replaced)、又はそうでなければSCV−07と実質的に同等の生物活性のある修飾部を有する生物学的に活性な類似体、例えばSCV−07と実質的に同等の活性を伴って、実質的に同じように機能するような、SCV−07と十分に相同性であるSCV−07由来ペプチドが含まれる。
【0034】
一実施形態によれば、治療期間又は予防期間、患者の循環系において有効量の式A化合物を実質的に継続して維持するように、式A化合物を患者に投与することができる。本発明に従うと治療期間が非常に長くなると考えられるが、本発明の実施形態は、少なくとも約6時間、10時間、12時間、又はそれ以上の治療期間、患者の循環系において有効量の式A化合物を実質的に継続して維持することを包含する。他の実施形態では、治療期間は、少なくとも約1日、さらには数日、例えば1週間又はそれ以上である。しかしながら、上記で規定したように、有効量の式A化合物が患者の循環系において実質的に継続して維持される治療は、同様の又は異なる長さの非治療期間で分断されていてもよいと考えられる。
【0035】
一実施形態によれば、患者の循環系において有効量の式A化合物を実質的に継続して維持するように、治療期間中、例えば静注によって式A化合物を患者に継続して注入する。注入は、ミニポンプのような任意の好適な手段によって実施し得る。
【0036】
代替的には、患者の循環系において有効量の式A化合物を実質的に継続して維持するように、式A化合物の注射レジメンを維持することができる。好適な注射レジメンは、治療期間中、患者の循環系において有効量の免疫調節化合物ペプチドを実質的に継続して維持するように、1時間、2時間、4時間、6時間等ごとの注射を包含し得る。
【0037】
式A化合物の継続注入の間、実質的に投与期間が長くなると考えられるが、一実施形態によれば、式A化合物の継続注入による治療期間は少なくとも約1時間である。より好ましくは、より長い期間、例えば少なくとも約6時間、8時間、10時間、12時間又はそれ以上の期間、継続注入を実施する。他の実施形態では、少なくとも約1日、さらには数日、例えば1週間又はそれ以上、継続注入を行う。
【0038】
実施形態によっては、式A化合物は、注射用水、生理学的濃度の生理食塩水等のような医薬的に許容可能な液体担体中に存在する。
【0039】
式A化合物の有効量は、日常の用量漸増実験によって求めることができる。
【0040】
式A化合物を他の喘息治療剤と共に投与することもできる。
【0041】
以下の非限定的な実施例で、本発明を説明する。
【実施例】
【0042】
実施例1:アトピー性気管支喘息の治療
SCV−07は、免疫系に対して広範な作用を有する、具体的にはIL−2及びインターフェロン-γ産生を高めることができる合成免疫調節剤である。この活性は、製剤の影響下で、ヘルパーT細胞のバランスが第1の型のヘルパーT細胞へと移行することに明らかに起因している。この研究の目的は、マウスにおける実験的なアレルギー性喘息に対するSCV−07の効果を調べることであった。このために、本発明者らは、アレルゲンの吸入投与によるアレルギー性オボアルブミン喘息モデルを用いた。予め感作した生物にアレルゲンが接触した状態をモデル化するために、予備全身免疫付与後、SCV−07を動物に投与した。
【0043】
材料及び方法
実験的なアレルギー性喘息のモデル化
Balb/C株の非病原性の雌マウス(「Pushchtino」の実験動物のブリーダー)を、一定温度、12時間の昼/夜サイクルで、SPFビバリウム(vivarium:動物施設)条件下に置き、自由に殺菌飼料及び水を与えた。2系統の実験では、6週齢〜8週齢のマウスと、18週齢〜20週齢のマウスとをそれぞれ、実験開始時に用いた。
【0044】
動物に、1匹のマウス当たり8μgの用量で硫酸アンモニウムを基にしたアジュバント中のオボアルブミン溶液(Sigma)を5日間隔で2回免疫付与した。SCV−07を、1回目の免疫付与後6日目〜11日目に1日1回、200μL量のPBS中0.1μg/kg又は1.0μg/kgの用量で腹腔内投与した。対照群は、同じ日に生理食塩水を摂取した。各群には6匹〜10匹の動物が含まれていた。1回目の免疫付与後、12日目、16日目及び20日目に、動物を密封箱に入れ、そこに空気を連続混合させながら、1分間、超音波ネブライザLD−207U(Little Doctor)によって、1%オボアルブミンのPBS溶液(OvA)のエアロゾルを発生させた。動物のエアロゾルへの曝露時間は15分であった。実験的なアレルギー性喘息の重症度の解析は、最後のエアロゾル曝露の24時間後に実施した。
【0045】
SCV−07の使用中における実験的なアレルギー性喘息の重症度変化の解析は、気管支肺胞洗浄液の細胞学的組成、組織学的試験及び抗原特異的なIgE抗体の力価の決定に従って実施した。
【0046】
マウスを、致死用量のバルビタールナトリウムの腹腔内投与によって屠殺した。気管支肺胞洗浄液(BAL)は、PBS溶液1mLを気管に通し肺を洗浄することによって得た。BAL細胞を遠心分離して沈殿させ、沈殿物を再懸濁し、細胞濃度をGoryaevチャンバで計算して、塗抹標本(smears)を調製した。塗抹標本を乾燥させ、固定し、ロマノフスキー色素で染色した。気管支肺胞洗浄液の細胞学的組成は、油浸レンズを備えた光学顕微鏡(接眼レンズ×16、対物レンズ×100)下で調べた。細胞200個当たりの単球/マクロファージ、好中球、好酸球及びリンパ球の数を計測し、これは少なくとも5つの視野で観察した。各細胞集団の相対的な細胞数を総細胞数の割合として表した。
【0047】
気管支肺胞洗浄液を回収した後、3日〜7日間、肺を4%パラホルムアルデヒドで固定し、アルコール(2%セルイジン(celluidine)−ヒマシ油)とクロロホルムとを増大させながら、ぺテルフィ溶液を通し、パラフィンに流し込んだ。5μm厚の切片を調製した。細胞浸潤及びシッフヨード酸の強度を評価するのに、切片をヘマトキシリン−エオシンで染色し、杯細胞の数を計算した。
【0048】
気管支周囲浸潤及び血管周囲浸潤の定量評価を、Scion Imageプログラムパッケージによって形態計測的に実施した。各動物由来の肺切片の3つの気管支と3つの血管とを解析した。浸潤領域を、気管支又は血管及びその周囲の浸潤を含有する組織領域と、血管又は気管支自体の領域との間の差として算出した。浸潤指数を、浸潤領域と、血管又は気管支の領域との比として算出した。実験群は、解析に含まれる気管支及び血管の領域に関しては同程度であった(群間の差は有意なものではなかった、p>0.6)。
【0049】
気管支切片での杯細胞と上皮細胞との数は、各動物由来の肺切片で少なくとも5つの視野で算出し、全細胞数の割合として表した。実験群は、解析に含まれる気管支の大きさでは同程度であった(気管支における細胞数に関しては、群間の差は有意なものではなかった、p>0.5)。
【0050】
末梢血を後眼窩洞から採取した。血清及び気管支肺胞洗浄液において抗OvA IgEの力価を、以下のスキームに従って固相IFAによって求めた。ビオチンで標識したマウスIgEに対するラット抗体(Caltag)を製造業者が推奨する希釈で(100μL/ウェル)IFAに対する96ウェルプレート((Corning Costar)に導入し、室温で1時間インキュベートして洗浄した。それから、血清試料又はBALを段階希釈して導入し、室温で1時間インキュベートして洗浄した。その後、OvAを加え、ホースラディッシュペルオキシダーゼで標識して、室温で1時間振盪器でインキュベートして洗浄し、ペルオキシダーゼ用の基質を導入して(OPD、Sigma)、15分間インキュベートした。1MのH2SO4を添加することで反応を停止させ、プレートを450nmの波長で、Victor2分光光度計(Wallac)で解析した。バックグラウンドを差し引いた後、抗原特異的なIgEの力価の定量比較のために、本発明者らは、動物対照群の試料での各希釈における平均光学密度を算出し、実験の全ての動物由来の試料での対応する希釈における光学密度を、得られた値の割合として表した。
【0051】
結果の統計処理を、Microsoft社のエクセルとウィンドウズ(登録商標)用のSPSSプログラム(バージョン13)とで実施した。コルモゴロフ・スミルノフ基準を用いて、分布の正規性を求めた。正規分布した値に対する群間の差の有意性を評価するために、本発明者らは、偏差が等しくない両側スチューデント検定を使用し、非正規分布した差には、マンホイットニー検定を使用した。差は、p<0.05で有意性があると考えられた。特に明記しない限り、データは平均±標準偏差の形で表す。
【0052】
得られた結果によれば、幼若動物(実験開始時で6週齢〜8週齢)での実験におけるBALの細胞組成の解析は、SCV−07の有意な効果を示してはいなかった。全ての群におけるBALの総細胞性(cellularity:細胞充実度)はおおよそ同じであった(対照群では2.00±0.34×106個の細胞、0.1μg/kgの製剤を摂取した群では1.96±0.99×106個、及び1μg/kgの製剤を摂取した群では2.21±1.16×106個)。BALでの個々の白血球集団の相対的割合を比較することによって、本発明者らは、対照動物に比べて1μg/kgのSCV−07を摂取した群で、好酸球の割合が有意に低くなり、マクロファージの割合が有意に高くなったことに気が付いた(表1を参照されたい)。BALにおける個々の集団の細胞絶対量は、群間で有意に異なっていなかった。
【0053】
【表1】

【0054】
18週齢〜20週齢の動物での実験において、SCV−07を摂取した群におけるBALの細胞組成の変化が本質的に異なっていた。本発明者らは、0.1μg/kgの製剤を摂取した群での洗浄液における総細胞数の有意な低減(対照群の2.03±0.78×106個に比べて1.12±0.15×106個、p<0.05)、及び1μg/kgのSCV−07を摂取した群でのこの指数における異なる低減傾向(1.32±0.23×106個)に気が付いた。個々の亜集団の白血球含有率において有意差がない場合、絶対値の解析は、0.1μg/kgのSCV−07を摂取した群での好酸球、好中球及びリンパ球の数、並びに1.0μg/kgの製剤を摂取した群での単球/マクロファージ、好中球及びリンパ球の数の有意な低減を示した(表2、図1を参照されたい、SCV−07はSCV−07と呼ばれる)。
【0055】
【表2】

【0056】
6ヶ月齢〜8ヶ月[sic]齢の動物の血清及び気管支肺胞洗浄液におけるモデルで使用されたIgE抗原に特異的な力価の測定は、対照群に比べて、0.1μg/kgのSCV−07を摂取した群の血清における力価において有意な低減を示す。1μg/kgのSCV−07を摂取したマウスでは、抗OvA IgEの力価は、血清と気管支肺胞洗浄液との両方で有意に低くなった(表3、図2を参照されたい、SCV−07はSCV−07と呼ばれる)。
【0057】
【表3】

【0058】
18週齢〜20週齢のマウスを使用した実験では、本発明者らは、SCV−07を使用した後にIgEに特異的な力価において減少傾向も観察したが、全ての群の指数で、非常に高い変動性があり、統計的に有意な差はなかった(表4を参照されたい)。
【0059】
【表4】

【0060】
マウス切片の形態解析は、0.1μg/kgのSCV−07を摂取した動物の気管支上皮における杯細胞の割合において2倍を超える低減を示し、対照群に比べて有意であった(表5を参照されたい)。今のところ、気管支周囲浸潤及び血管周囲浸潤の強度の形態学的評価は完了していない。
【0061】
【表5】

【0062】
気管支周囲浸潤及び血管周囲浸潤の強度の形態学的評価によって、SCV−07を摂取した両方の群の気管支周囲浸潤において信頼性のある低減が実証された。また血管周囲浸潤の強度は、SCV−07を摂取した群において異なる減少傾向であったが、兆候の変動性が高かったために、対照との差は統計的に信頼できるものではなかった(表6を参照されたい)。
【0063】
【表6】

【0064】
結論
得られた結果は、アレルギー性喘息モデルにおいてSCV−07を使用する間、実験的プロセスの重症度の低減が観察され、具体的には気管支内腔への白血球の発生及び気管支周囲の浸潤が少なくなり、気管支肺胞洗浄液の好酸球増加が軽減し、血清及び洗浄液における抗原特異的なIgEの量が少なくなり、且つ気管支上皮における粘液形成杯細胞の数も減少することを示している。
【0065】
実施例2.クローンTh1及びTh2によるサイトカインの産生に対するSCV−07の効果
体重1kg当たり0.1μg及び1.0μgの用量で1日5回、腹腔内注射の形でSCV−07を無処理の野生型マウスに投与した。この後、脾臓細胞の単離を行い、細胞を5μg/mLの用量でコンカナバリンAで刺激することによって、培養液中でサイトカイン合成を誘導した。合成サイトカインの量を定量的な免疫酵素解析によって求めた。実験結果を図1に示し、これはSCV−07の腹腔内投与後、マウス脾臓細胞によるインターロイキン−4及びインターフェロン−γのマイトジェン誘導性の産生を示す。図1で明らかなように、2つの異なる[sic]サイトカイン、IFN−γ及びIL−4のConA誘導性の産生変化は実際は相互に関係していた。SCV−07の影響下で(1μg/kg)、脾臓細胞によるIL−4産生における2倍の低減と、IFN−γ産生におけるおよそ5倍の増大に気が付いた。これらのデータは、SCV−07が脾臓のT細胞の機能的反応を刺激し、IL−2産生を高めるだけでなく、同時に主に1型ヘルパーT細胞を活性化することによって、ヘルパーT細胞の極性化に影響を与えることを示唆している。
【0066】
実施例3.SCV−07による気管支喘息の治療
1952年生まれの患者B-skiiは、1日に6、7回の呼吸困難の発作、退院を困難にする痰を伴う咳、息切れ及び鼻閉を訴えていたことが報告された。1985年以降、彼は気管支喘息を患い、疾患の憎悪に併せてアレルギー科の救急医療センターに数回入院していたことが病歴から知られている。1997年以降、彼はグルココルチコイドの全身投与を受けている(プレドニゾロン1日2錠−維持用量)。彼は、ベクラゾン LD 250(1000μg以下/日)、Flixotide 250(1000μg以下/日)、持続性気管支拡張薬(セレベント 25μg/単位 50μg/s)、Teotard 200(2k/日、400mg/日)も服用している。発作はサルブタモール(ベントリン)で治療する。
【0067】
1994年に、彼は、Municipal Allergy Officeでアレルギー試験を受け、家庭内アレルゲンが見つかった(ハウスダスト(household dust)、イエダニ)。重篤な疾患経過を考慮して、ダストASITは行わなかった。最近の憎悪は2週間前であり、この時ベース療法を背景に呼吸困難の発作が起こり、β−2アゴニスト(短期間)での治療が困難であり、気管支痙攣及び息切れが増大した。彼は、通院治療の不応期に併せて、GUZ2号病院のアレルギー科に入院した。
【0068】
アレルギー病理に関する遺伝性を材料系に沿って追跡した。
アレルギー歴:
薬剤−陰性、
食べ物−ハチミツ、柑橘類、スイカ、メロン(鼻閉、呼吸困難発作、咳)、
家庭内(ハウスダスト)−呼吸困難の発作、咳、鼻閉、鼻漏、
表皮−陰性、
鼻炎のダストによる季節性の憎悪(Dust-seasonal exacerbation)、結膜炎、10年間の夏秋期間(7月〜10月)における呼吸困難頻度の増大、
昆虫−陰性。
【0069】
検査時:平均の重症状態。誘導した患者の体位(座位)。皮膚片−清潔、蒼白、乾燥。皮下リンパ節は肥大していない。甲状腺は触診しない。鼻呼吸は重度に妨げられており、わずかな粘液しか鼻孔から分離しないが、患者は匂いを認識しない。結膜−桃色。鼻粘膜(検鼻法中)−蒼白、浮腫。口腔粘膜−桃色。呼気の呼吸困難特性。呼吸数=1分間当たり24回。胸腔 樽状。打診−肺音の夾膜共鳴(capsular resonance)。聴診−全ての肺野にわたって散在した大量の乾性ラ音。心音は律動的である。HR=P5=1分当たり78回。BP=130/85mmHg。
【0070】
舌が白色痂皮に覆われている。腹部は柔らかく無痛である。肝臓は肋骨弓の縁に沿っている。腎臓域は変わらず、パステルナーク症候群は両側で陰性である。
【0071】
入院時に、検査を実施した:
一般的な血液解析:赤血球=5.07×1012/L、ヘモグロビン=167g/L、白血球=11.6×109/L、ESR=5mm/時間、B=1%、E=3%、杆状核(rod nuclears)=10%、分葉核=70%、リンパ球=11%、MON=5%。
【0072】
一般的な痰解析:色−灰色、特性−粘液性、粘稠度(constitution)−粘性、扁平上皮−10〜12×、肺胞上皮−3〜5×、L−10〜12×、赤血球−なし、杯細胞−見られず。
【0073】
血液生化学解析:グルコース−5.9mmol/L、総ビリルビン−11μmol/L、ALT−0.24、AST−0.16mmol/時間/L、尿素−5.12mmol/L、クレアチニン−0.108mmol/L、L−アミラーゼ−7.0mmol/L。
ホルモン状態:血清コルチゾール−39.8nmol/L
免疫状態の評価:
CD3+−53% IgG−8.74 TSIK−40相対単位
CD4+−34% IgA−0.67 NST−94/158/1.7
CD8+−15% IgM−1.39
CD16+−12% IgE−1130.6
CD20+−18%
CD25+−1.3%
EKG:洞律動。HR=76拍動/分
画像:病変なし
FVD:FVC=66%、FEV=52%、FEV/FVC=61%、
MOC75=37%、MOC50=34%、MOC25=51%。
PTM:L/exp−2.0L/s L/exp−1.0L/s。
胸部x線:気腫性の肺野、より小さい区画でのびまん性肺硬化症
ENT診察:診断:持続性アレルギー鼻炎。慢性咽頭炎。
【0074】
患者は以下のように診断された:DS:気管支喘息、持続性の疾患経過が重篤なホルモン依存性の憎悪。合併症:DN2。肺気腫、肺硬化症。
【0075】
付随疾患:持続性アレルギー鼻炎。憎悪しない花粉症。
患者に以下のような治療を指示した:
1.呼吸困難の発作中のネブライザによるベントリン−2日間、その後多くても1日3、4回の呼吸困難中のアスタリン(DAI)、
2.点滴:
1.200.0mLの生理食塩水中、プレドニゾロン90nu−60nu−30nu、
2.Euphylline 2.4%−10.0mL〜5.0mL。
3.ヘパリン 5000単位。
4.Benacort200(800μg/日)。
5.プレドニゾロン 4錠/日(8:00、12:00)
6.ネブライザによるLazolvan、その後1日3回の1錠のAmbrohexal。
【0076】
急性疾患の減衰中に(入院8日目)、毎日、5回の(No. 5)[sic]筋肉内で1日1回、1.0mLの生理食塩水中0.1mgの量でSCV−07を処方した。治療過程を実施した(5回の筋肉内注射)後、患者は、健康、陽性気分の大幅な改善が見られ、副作用もなく、製剤が良好な耐容性を示し、体温は正常値内であった。
患者は、動的条件下で別の検査を受けた(SCV−07の5回目の筋肉内注射の24時間後):
総血液解析:赤血球−5.12×1012/L、HB−159g/L、白血球−9.7×109/L、ESR=6mm/時間、b−、e−2%、杆状核−5%、分葉核−67%、リンパ球−20%、M−6%。
血液生化学解析:糖類−5.7、総ビリルビン−8.9、ALT−0.12、AST−0.13、尿素−5.12、クレアチニン−0.073。
一般的な痰解析−特性−粘液性、色 灰色、粘稠度 粘性、扁平上皮 7〜8、肺胞上皮−なし、白血球−視野で1〜2×。
ホルモン状態−コルチゾール−72.4
免疫状態の評価:
CD4+−36 IgG−11.5
CD3+−52 IgA−1.11
CD8+−15 IgM−0.9
CD16+−7 IgE−672.1 NST−100/163
CD20+−11 κ−1.6
CD25+−1.3 TSIK−77
【0077】
患者で疾患の陽性の動きがあった:呼吸困難の発作、咳、鼻炎の減衰、(1分当たり16回までの)息切れ、鼻閉の軽減。患者は匂いを感じ始めた。
【0078】
患者は入院15日目で満足な状態で退院し、コルチコステロイド療法が維持用量(1日当たりプレドニゾロン2錠)まで減少し、ベース療法と1ヶ月以内の再検査を薦められた。
【0079】
実施例4.花粉症の特定の免疫療法の有効性を高めるためのSCV−07の使用
患者−45歳のP-na M. N.。1回目の診察日−2004年10月。
診断:研究所で花粉症が、樹木花粉に対する感作があり、鼻結膜型で、閑散期に寛解することが確認された。
最初の臨床検査の結果:中程度の好酸球増加(7%)、中程度の高(hyper)IgE免疫グロブリン血症(165ME/mL)、カバノキ及びハシバミの花粉に対する高い(MASTクラス 3)レベルの血清アレルゲン特異的なIgE、低減した(0.88)免疫調節指数。
【0080】
2004年11月下旬から2005年3月中旬まで、患者は、以下のスキームに従ってアレルゴイド(「Puretal木」)を使用して、花粉症に特異的な免疫療法(SIT)を受けた:1週間に1回皮下、0.025mLの単回用量のアレルゴイド投与から始め、続いて治療過程中に、単回用量が0.5mLに達するまで用量を徐々に上げ(0.025mL−0.05mL、−0.1mL−0.2mL−0.3mL−0.4mL−0.5mL)、その後用量はこの用量を維持する。
【0081】
続く花粉症の季節性増悪期間の性質(2005年4月〜6月)が、SITの有効性が極めて低いことを示し、顕著な鼻結膜症状には、必須用法の全身性経口抗ヒスタミン剤(Erius)と局所性ステロイド治療(Nasonex)との使用が依然として必要であった。
【0082】
上記の状況を考慮して、2005年10月中に、開始状態又は予想状態下でのSITの臨床効果を増大させるために、免疫刺激である製剤「SCV−07」治療(course)を以下のように経口で施した:連続して10日間毎日、1日1回1.5mg。
【0083】
「SCV−07」治療が完了したら、患者は、2005年11月中旬から2006年3月中旬に、前のスキームに従ってアレルゴイド「Puretal木」を使用して、花粉症のために別のSIT治療を受けた。「SCV−07」治療と、花粉症のためのSIT治療の開始との間の間隔は15日であった。
【0084】
続く花粉症の季節性増悪期間の性質(2006年4月〜6月)が、実行されたSITの有効性が有意に増大したことを示唆し、季節性の鼻結膜炎症状が実質的になくなり、樹木花粉の時期には、患者に抗ヒスタミン薬も局所ステロイドも使用しなかった。
【0085】
得られた結果は、アレルギー性疾患を予防及び治療するのに「SCV−07」を使用することの有効性を示している。製剤の無害性と、その比較的低いコストとによって、この製剤が、独立療法として及び統合療法という状況においてこの目的に広く使用するのに有望となる。
【0086】
実施例5:アレルギー性疾患のモルモットモデルにおけるSCV−07の有効性
要約
喘息は、気管支収縮、炎症細胞の肺(特に好酸球)への浸潤、気道過敏性及び粘液分泌の増大を特徴とする肺障害である。アレルギー性喘息は、アレルゲンに対する有意な即時の気管支収縮反応と、炎症細胞浸潤と、肺損傷とを伴うモルモットでモデル化することができ、これはアレルゲン曝露の24時間後に現れた。本研究の目的は、SCV−07がアレルゲン攻撃(challenge)後に炎症細胞の肺への浸潤を減衰することができるか否かを判定することであった。モルモットは、オボアルブミンの腹腔内注射によって感作させた。17日目〜21日目に、モルトットを、PBSビヒクル、1ug/kgのSCV−07又は10ug/kgのSCV−07で腹腔内処理した。21日目に、全ての動物を抗ヒスタミン薬で前処理し、死に至る可能性がある即時の気管支収縮反応を低減させた。その後、動物をエアロゾル化したオボアルブミンに曝し、アレルギー反応を開始した。対照動物はオボアルブミンで感作し、対照として生理食塩水で攻撃した。
【0087】
SCV−07処理
即時のアレルギー反応中、動物の咳、呼吸困難及び全身疲労の軽減。
肺組織に常在する好酸球及び好中球の減少
気管支肺胞洗浄液中の赤血球漏出の有意な減衰から明らかなアレルギー性の肺損傷の軽減
アレルギー性肺への炎症細胞の浸潤、又はオボアルブミン特異的な抗体産生は目に見えて阻害はされなかった
【0088】
結論:SCV−07は、即時のアレルギー反応と、その後の肺損傷を軽減するのに有望であるが、アレルギー性肺への炎症細胞の浸潤を防ぐ効果はない。今後の研究では、SCV−07がアレルゲン誘導性の気管支収縮を阻害する能力を調べる必要がある。さらに、赤血球浸出に対するSCV−07の保護効果を考慮すると、微小血管透過性におけるアレルギー誘導性の変化、及びマスト細胞メディエータの放出を防ぐSCV−07の能力を評価する必要がある。
【0089】
略称
EPO 好酸球ペルオキシダーゼ
MPO ミエロペルオキシダーゼ
WBC 白血球
RBC 赤血球
BAL 気管支肺胞洗浄液
NSS 標準生理食塩水溶液
PBS リン酸緩衝生理食塩水
OVA オボアルブミン
ip 腹腔内
【0090】
背景:事例証拠は、他の兆候のためにSCV−07を摂取している慢性喘息のヒトが、喘息用の救急薬の使用を減らすことができたことを示唆している。仮説:患者におけるβ2アゴニストの使用が減り、このことは気道過敏性及び/又はアレルゲン誘導性の初期及び後期気管支収縮がSCV−07によって減衰することを示唆する。また喘息のマウスモデルの研究は、細胞浸潤がアレルゲン攻撃後にわずかに低減し得ることも示唆している(SciCloneとのコミュニケーション)。
【0091】
目的:SCV−07が喘息のモルモットモデルにおける喘息症状を軽減するか否かを判定すること。
【0092】
具体的な目的:感作後であるが、アレルゲン攻撃前のSCV−07投与が、喘息のモルモットモデルにおける細胞浸潤を低減するか否かを判定する。
【0093】
材料及び方法
動物
雌のダンキン・ハートレーモルモット(200g〜350g)を、Charles River, Kingston, New York facility, Barrier K81から購入した。動物をミネソタ州ダールスに搬送し、実験開始前5日〜7日間、本発明者らの動物施設に収容した。実験処理群は表7に概説する。
【0094】
【表7】

【0095】
1つの実験当たり8匹〜10匹の動物で5つの別々の実験をおよそ6ヶ月間にわたって実施した。第1の実験は、実験系が適切に働き、且つOVAで攻撃した動物が有意に好酸球を発生することを確認するために、4匹のPBS NSS動物と、4匹のPBS OVA動物とから成っていた。続く4つの実験はいずれも、表7に示されたように、1つの処理群当たりの最終のNを7、8匹の動物とするため、それぞれ6つの処理群で1匹〜3匹の動物から成っていた。
【0096】
実験手順
0日目に、動物を50mg/kgのOVAで腹腔内感作した。17日目、18日目、19日目及び20日目の午前8時〜10時の間に、動物に、PBS、1ug/kgのSCV−07、又は10ug/kgのSCV−07(ペプチド処理)を腹腔内注射した。21日目の午前8時〜10時の間に、OVA又は生理食塩水(NSS)エアロゾル攻撃の2時間前、動物にペプチドを投与した。OVA又はNSSエアロゾル攻撃の30分前、各動物に、抗ヒスタミン剤(6.1mg/kgのマレイン酸ピリラミン)を腹腔内注射して、エアロゾルOVA攻撃に付随するアナフィラキシー反応による致死を予防した。デビルビスモデル35Bの超音波ネブライザを使用して、プレキシガラス室(22cm×22cm×29cm)内で5分間、動物を2匹1組で1% OVA溶液又はNSSのいずれかのエアロゾルに曝した。全体で5分のエアロゾル投与(aerosolization)の間、動物を観察し、コメントを記録した。攻撃後22時間〜24時間以内に、動物を安楽死させ、心穿刺によって挽血し、洗浄して、細胞浸潤の測定のために肺葉を取り出した。OVA又はNSS攻撃及び安楽死の時点で、動物の体重はおよそ350g〜550gの範囲であり、平均体重はおよそ420gであった。この実験プロトコルは、以前に公開された研究(Regal and Fraser, 1996、Regal et al., 2000)で用いたものと同様のものである。
【0097】
細胞浸潤の測定
動物をペントバルビタール(100mg/kg〜200mg/kg)で安楽死させ、心穿刺によって挽血し、室温のPBSで洗浄した。気管支肺胞洗浄液(BAL)のために、気管にカニューレを挿入し、4倍容量のPBSを気管カニューレに導入して、ゆっくりと回収した。洗浄液の総容量は60ml/kgであった。BALを遠心分離し、細胞を堆積させ(sediment)、各動物のBALで回収した白血球(WBC)の総数を決定するために、1.0mlのPBS中でBAL細胞ペレットを再懸濁した。Lowry et al.(1951)の方法を用いて、BAL上清中で回収した総タンパク質を求めるために、BAL上清を−70℃で凍結させた。チュルク液を用いた血球計における標準的な方法によって、BAL中の総白血球を計測した。変法ライト染料(Diff Quik, American Scientific Products, McGraw Park, IL)で染色したBAL細胞(3×104個の細胞)のサイトスピン調製から白血球百分率(Differential counts)が得られた。400個の細胞を計測し、好酸球、好中球又は単核細胞として同定した。BAL細胞の白血球百分率及び白血球数は、BALから1匹の動物あたりに回収した各細胞型の総数を算出するのに使用した。肺組織中の好酸球及び好中球の数を推定するために、それぞれ左肺葉を好酸球ペルオキシダーゼ(EPO)の測定用に処理し、右肺葉をミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性用に処理した(Fraser et al., 1995)。肺の残りをグラム乾燥重量の測定のために、80℃で3日〜5日間乾燥した。洗浄後の均質化肺由来のEPO活性を、左後葉由来の総OD/分として表した。洗浄後の均質化肺由来のMPO活性を、右後葉由来の酵素活性の総単位として表した。1ug/mlのSCV−07は、EPOアッセイ又はMPOアッセイを阻害しなかった。BAL中のRBCの数は、上記のように、RBC溶解後の再懸濁BAL細胞ペレットのOD412を求めることによって定量化した(Fraser et al., 1995)。洗浄手順中、及び計測のための細胞の再懸濁前に溶解したRBCの数を推定するために、BAL上清のOD412も求めた。0.3ug/mlのSCV−07はin vitroでOD412測定に干渉しなかった。
【0098】
OVA特異的なIgG1
上記のように、ELISAによって、血清中のOVA特異的なIgG1を求めた(Fraser et al., 1998、Regal et al., 2000)。データを、標準におけるOVA特異的なIgG1の濃度(これを1と規定した)で除算した試料におけるOVA特異的なIgG1の濃度で表した。プロテインAセファロースカラム上に、OVAで感作したモルモット由来の血清プールを通すことによって、IgG標準を調製した。回収したIgGをNSSで透析し、アッセイにおける標準として使用するために等分した。
【0099】
試薬
SCV−07
SciCloneのSCV−07 200mgをダルースに搬送し、−70℃で保存した。消灯しながら、研究所で化合物を秤量し、暗所に保存した。20ug/mlのストック溶液及び2ug/mlのSCV−07をPBS中で作製し、−70℃の冷凍室でアリコート1mlが入ったポリプロピレン管(Sarstedt管、Ref 72.694.105)で保存した。SCV−07溶液を作製するのに使用するPBSも等分し、対照のPBS注射のために凍結させた(PBSカタログ番号、Gibco 10010、カルシウム又はマグネシウムなし、エンドトキシンは、0.03EU/ml未満であるとして試験した)。使用日にアリコートを解凍し、アルミホイルに包まれた試験管中、暗所で氷上に置いた。その日に完全に使用しなかった場合、冷蔵室中、暗所で保存して、次の日までに使用するか又は廃棄した。動物に、0.5ml/kgのPBS、2ug/mlのSCV−07又は20ug/mlのSCV−07を投与し、それにより送達用量のSCV1(1ug/kg)又はSCV10(10ug/kg)を得た。
【0100】
感作用のOVA
25mg/mlのオボアルブミン(Sigma製のA5503)の生理食塩水溶液(Baxter、滅菌、非発熱性)100mlを調製した。アリコート4mlをNuncのcryotubeバイアル(カタログ番号337516)中で−70℃で保存した。動物に、21gニードルでこのOVA溶液を2ml/kg腹腔内投与して、最終送達用量50mg/kgを得た。この実験の全ての動物をOVAで感作した。
【0101】
エアロゾル攻撃用のOVA
室温のNSS(Baxter、滅菌、非発熱性)中で1%のOVA溶液をエアロゾル攻撃の日に新たに調製した。
【0102】
統計学的解析
全てのデータを対数変換して、分散を均等にし、正常なパラメトリックモデリングを行った。OVA特異的なIgG1の値に対して、統計学的解析前に、定数0.01を全ての値に加えて、対数尺度での分散に対する非常に小さい値の影響を最小にした。全ての図の値は、7個、8個の値の幾何平均+標準誤差(SE)を表す。統計学的解析には、JMPソフトウェア(SAS Institute Inc., Cary, N. C., USA)を用いた対比(contrast:コントラスト)によるANOVAを使用した。統計学的有意性は、p<0.05と規定した。
【0103】
結果
OVAエアロゾルとの即時反応に対するSCV−07の効果
OVAエアロゾル投与中に動物を観察し、記録したコメントを表8にまとめる。実験者は、処理に対して盲検ではなかった。表8の左側に見られるように、NSSエアロゾルで攻撃した動物は通常の挙動を示し、呼吸パターン又は運動の変化は記録されなかった。概して、抗ヒスタミン剤を前処理し、OVAで感作及び攻撃した動物は、アレルゲンの攻撃により死に至ることはないが、呼吸困難になり、しばしば咳及び息切れを起こす。PBS OVA処理群における7匹の動物全てが、予想通り幾らかの可視反応を有していた。注目すべき結果は、OVAエアロゾルとの明らかな反応がなかった、SCV1 OVA処理群及びSCV10 OVA処理群における動物の数であった。これらのデータは、1ug/kg又は10ug/kgのいずれかでのSCV−07の前処理が、アレルゲン感作及び攻撃の即時アナフィラキシー効果を保護することを示唆している。SCV−07が、アレルゲン攻撃に対する即時気管支収縮を減衰することが明らかに推測される。追跡実験はこの所見によって明らかに示される。
【0104】
【表8】

【0105】
肺へのOVA誘導性の細胞浸潤に対するSCV−07の効果
全ての動物をOVAで感作し、SCV−07の効果をNSSエアロゾルで攻撃した動物(陰性対照、アレルギー反応なし)と、OVAエアロゾルで攻撃した動物との両方で求めた。均質化肺中の好酸球ペルオキシダーゼの測定によって肺組織中の好酸球が、またミエロペルオキシダーゼの測定によって肺組織中の好中球が推測された(図4)。本発明者らの研究室と他の研究室との両方でのこれまでの研究によって、組織中の炎症性細胞の推量としてのこれらの測定結果の有効性が確認されている。さらに、本発明者らは、空域(airspace)中に存在していた白血球、即ちBAL細胞の数及び種類を求めた(図5、図6)。
【0106】
肺における常在細胞に対するSCV−07の効果
統計学的解析は、肺組織又は空域中での常在好酸球又は好中球に対するSCV−07の有意な効果が存在していたか否かを判定するために、NSSエアロゾルのみによって攻撃した対照動物(n=24)の対比によるANOVAを初めに包含していた。図4で示されるように、1ug/kgのSCV−07は、NSSエアロゾルで攻撃した動物においてMPOを有意に低減し、10ug/kgのSCV−07は、EPOを有意に低減した(*PBS NSS対照に対してp<0.05)。これらのデータは、肺組織中でSCV−07処理が常在好酸球及び好中球の数を有意に減少させることを示唆している(図4)。しかしながら、NSSで攻撃した対照動物のBALでは、SCV−07は、細胞の組成に有意な影響を与えなかった(図5、NSS)。
【0107】
OVA誘導性細胞浸潤に対するSCV−07の効果
図4及び図5で明らかなように、ANOVA解析は、肺EPOと、全てのBAL細胞型とにおける有意な全体的なOVAの効果を示していた。本発明者らのこれまでの結果と一致して、肺MPOは、OVA攻撃によっては有意に増大しなかった。SCV−07処理によって、常在好酸球及び好中球が変化したので、本発明者らは、以下のANOVA対比を実施した:
(PBS NSSからのPBS OVAへの変化)対(SCV1 NSSからのSCV1 OVAへの変化)
(PBS NSSからPBS OVAへの変化)対(SCV10 NSSからSCV10 OVAへの変化)。
図4で示されるように、肺EPOにおける変化は、PBS処理(#)よりも10ug/kgのSCV−07処理でより大きかった。肺MPOにおける変化は、SCV−07処理と変わらなかった。BAL細胞を考慮すると、BAL好中球における変化は、1ug/kgのSCV−07処理で異なっていた。これらの差は一部、SCV−07処理による常在好酸球及び好中球の減少によるものであった。%で表される細胞差は、マウス喘息モデル(SciCloneのdoc43−10718)におけるSCV−07の研究との比較のために図6A〜図6Cでも表される。BALにおける好酸球%は、OVAエアロゾル攻撃したSCV−07処理動物においては低減傾向にあった(図6A)。しかしながら、BALにおける総好酸球は変わらなかった(図5B)。
【0108】
OVA誘導性肺損傷及び/又は微小血管透過性の変化に対するSCV−07の効果
アレルゲン攻撃は、肺における微小血管透過性の増大、及び空域中への赤血球の漏出を引き起こし得る肺損傷の原因となることが知られている。これらの事象のいずれかが、血漿タンパク質又は間質液の空域中への漏出によるBAL液のタンパク質含量の増大を引き起こし得る。肺損傷及び/又は微小血管透過性の変化は、BALにおけるRBC(図7A、図7B)と、BAL液の総タンパク質含量(図7C)とを求めることによって評価した。BALにおけるRBCの数は、細胞ペレットを溶解し、放出ヘモグロビンのOD412を測定することによって推測した(図7A)。さらに、計測用に洗浄手順前又は洗浄手順中、及び細胞再懸濁前に溶解したRBCの数を推測するために、BAL上清のOD412も求めた(図7B)。図7で明らかなように、PBS処理動物のOVA攻撃が、BALにおけるRBC数と、BALにおける総タンパク質を有意に増大した。NSSからOVAへの変化のANOVA対比は、1ug/kg又は10ug/kgのSCV−07のいずれかが、BALにおけるRBC数を有意に減衰させたことを示していた(#、図7A)。さらに、BAL上清のOD412もSCV−07によって有意に低減し、これは洗浄液回収プロセス中に溶解させるのに有意に少ないRBCしか利用することができなかったことを示している(#、図7B)。BAL液における総タンパク質は、SCV−07処理による影響を受けなかった(図7C)。
【0109】
血清OVA特異的なIgG1抗体に対するSCV−07の効果
モルモットでアレルギー性肺反応に関与するマスト細胞を感作する抗体には、IgE抗体とIgG1抗体との両方が含まれる。アジュバント非存在下でOVAで感作したモルモットは最初に、OVA特異的なIgG1抗体を作製する。本発明者らの研究室でのこれまでの研究によって、本研究で動物を感作するのに使用する方法は、OVA特異的なIgEを産生する可能性が低いと判断されている(Fraser et al., 1995、Regal and Fraser, 1996)。SCV−07処理で見られるいずれの効果も産生されたOVA特異的なIgG1抗体における変更によるものではなかったことを確認するために、血清中の濃度をELISAで求めた(図8)。本研究では全て動物をOVAで感作したので、OVA特異的なIgG1抗体は全ての群で検出可能であった。SCV−07処理又はOVA攻撃は、血清中のOVA特異的なIgG1抗体の濃度に有意な影響を与えなかった。
【0110】
一般的な結論及び考察
喘息の制御は、重要な医療の課題である
近年の研究は、大多数の喘息患者は、市販の薬物では十分に制御されていないことを明示している。喘息の制御及び治療の実社会評価(The Real world Evaluation of Asthma Control and Treatment)(REACT)の研究は、制御できない喘息が広く流行していることを示している。これらの結果は、標準的な喘息薬を使用する患者の55%が制御できない喘息であったことを示唆していた。これらの患者の大多数が医療を利用できるにもかかわらず、このようなことが起こっていた(Peters et al., 2007)。この喘息制御の不足が、既存の薬物の準最適使用、又は既存の薬物が多くの喘息患者において正しいメディエータ及び/又は事象を標的としていないことに起因するか否かは明らかではない。したがって、新規の喘息療法は、アレルゲンに対する即時反応、又はアレルゲン曝露のより慢性的な炎症効果を標的とするか否かにかかわらず必要となる。即時アレルギー反応におけるメディエータの放出が、炎症性疾患のより慢性的な効果に寄与するという証拠は確かに存在する(Paul, 1999)。
【0111】
モルモットモデルの即時アレルギー反応における本研究の主な結論
モルモットにおけるSCV−07処理によって、咳、呼吸困難及びOVAエアロゾル攻撃で見られた即時アレルギー反応中の動物の全身疲労の低減が観察された。マウスモデルのこれまでの研究では、エアロゾルアレルゲン攻撃中の即時アレルギー反応に関しては全く所見が報告されていなかった。一般的に、マウスは、モルモットに比べて、肺機能において最小限の変化でアレルゲン攻撃に対して反応し、且つ、即時アレルギー反応中、死を防ぐために抗ヒスタミン剤の前処理を必要としない。モルモットモデルにおける即時反応に対するSCV−07効果の本発明者らの所見は、アレルギー性疾患において臨床的に非常に有用なSCV−07の特性を示唆している。皮膚及び肺における即時アレルギー反応におけるSCV−07処理の有用性は、さらに研究する必要がある。
【0112】
アレルギー性肺炎症
モルモットは、アレルゲン感作と、アレルゲン攻撃後24時間以内の炎症性細胞の肺への浸潤を伴う攻撃とに対して反応する。細胞の総数を調べると、5日間のSCV−07前処理は、モルモット肺への好酸球浸潤における変化を阻害しなかった(図5)。SCV−07では、BALにおけるアレルゲン攻撃後に集積した好酸球の%は減少傾向であった(図6)。しかしながら、これは統計的に有意なものではなかった。空域中の細胞型の割合が臨床的に重要であるか否か、又は空域中の細胞型の総数が評価に重要な変数であるか否かを考察することができる。これらのいずれかの評価(図5、図6)によって、同じ結論が得られる。SCV−07処理は、モルモット肺へのアレルゲン誘導性の炎症細胞浸潤をはっきりとは阻害しなかった。しかしながら、SCV−07処理は、対照動物における総肺EPO及びMPOを明らかに低減し、このことは、この化合物が正常状態の肺における常在好酸球及び好中球の数に影響を与えたことを示唆している。この所見は、SCV−07処理単独で常在細胞の数が変わるか否かを確かめるために、異なる処理群におけるモルモットの肺の組織病理学的試験によって追跡する必要がある。
【0113】
SCV−07によるアレルギー及び喘息のモデルシステムにおけるこれまでの調査には限界がある。本発明者は、喘息のマウスモデルにおけるSCV−07の研究を再検討している(SciCloneのDoc43−10718)。マウス研究では、2つの異なる年齢群のマウスを感作し、OVAで攻撃して、細胞浸潤が報告された。2つの異なる年齢群のマウスにおいて試験を実施する根拠は明らかではなかった。モルモットによる本発明者らの研究では、1つの年齢群だけを評価した。幼若及び成体の雄及び雌のモルモットにおける本発明者らのこれまでの研究は、この性別及び年齢の動物が一貫して強いアレルギー性肺炎症を起こしたことを示していたため、本発明者らは、200g〜350gの雌モルモットを選択して使用した(Regal et al., 2006)。これらの動物は、研究中に活発に成長し、この体重範囲の動物は、アレルギー性炎症のモルモットモデルに一般的に使用される。報告されたマウス試験では、6週齢〜8週齢のマウスのBALにおいて、総細胞数は変化せずに、好酸球の%で軽度の減少が報告された。18週齢〜20週齢の動物では、SCV−07処理による細胞型の割合に差は見られなかったが、SCV−07は、18週齢〜20週齢のBALにおける総好酸球を減少させた。マウス研究では、非感作動物又は感作したが、エアロゾルOVAで攻撃しなかった動物でのBALの細胞差又は総数は報告されていない。正常なモルモットは、肺において好酸球の常在集団を有する一方で、正常なマウス肺では好酸球は明らかなものではない。本発明者らの研究において、ベースラインEPO及びMPO測定に対するSCV−07処理の効果のために、適切な対照ペプチド前処理群を用いて、NSSとOVAエアロゾルとの間の変数の変化を統計学的に解析することは重要であった。このような比較はマウスデータには利用不可能であった。
【0114】
肺損傷又は微小血管透過性における変化
モルモット肺における重度のアレルギー反応は、24時間後のBALにおける赤血球数の増加と共に起こる。明らかに、SCV−07はこの事象を有意に阻害した(図7)。このことが動物における即時アレルギー反応の観察された減衰を反映しているか(最初の5分)、又は即時反応の後であるが、最初の24時間以内で肺で生じる損傷を反映しているかは、本発明者らの研究設計からは求めることはできない。しかしながら、SCV−07処理後のBALにおけるRBC数の顕著な差は、この化合物が非常に有意な保護的効果を有することを示唆している。この保護的効果には、非常に重要な臨床上の意義があり、今後の実験によって追跡をする必要がある。
【0115】
体液性免疫反応
SCV−07処理は、一次免疫反応がペプチド処理による影響を受けないように、OVAによる初期感作の17日後に開始した。OVA特異的なIgG1の血清濃度は、アレルゲン攻撃後の洗浄時に求めた。予測通り、処理群におけるIgG1の血清レベルに有意な差はなかった。このことは、アレルギー反応で見られるいずれの変化も反応を媒介する細胞親和性抗体のアベイラビリティにおける差によるものではないと考えられることを示している。これは、OVA特異的なIgEに対する、小さいが有意な効果が、SCV−07処理マウスで見つかったマウス研究とは一部異なる。しかしながら、マウスモデルでは、SCV−07処理が異なり、OVA+ミョウバンの二次感作注射のわずか1日後に開始した。
【0116】
研究の強度及び制限
アレルギー性肺炎症のモルモットモデルがヒトにおける喘息を反映しているか否かは常に考慮され得るものである。モルモットモデルの利点は、肺への好酸球浸潤が容易に起こることである。さらに、モルモットは、アジュバントなしでOVAに対する抗体を容易に産生する。欠点は、モルモットはヒトの様にIgE抗体を容易には産生しないが、細胞親和性IgG1抗体を産生することである。ヒトと同様に、モルモットは、アレルゲン攻撃に対する顕著な即時気管支収縮反応を有する一方で、マウスモデルでのこの反応は、最小且つ短期間である。また、モルモットは、抗ヒスタミン剤で前処理しなければならず、又はモルモットの最大50%が本発明者らのモデルでの5分のエアロゾル投与中に死滅する。このため、この付加的な薬物治療は、解釈を複雑にし得る。
【0117】
EPO及びMPOの測定によって、それぞれ肺葉での総好酸球及び好中球の様子が与えられるが、それらの細胞の位置に関する情報は与えられない。炎症細胞の位置を調べ、生化学的所見を確認するのに、組織病理学的追跡試験(Follow-up histopathology)が必要である。即時反応中に記録したコメントは、SCV−07が、アレルゲン曝露による即時気管支収縮反応から動物を保護したことを示唆している。しかしながら、肺機能の測定によって、この興味深い所見を追跡する必要がある。
【0118】
結論
喘息のこのロバスト(robust)モルモットモデルにおいて、SCV−07は、即時アレルギー反応と、その後の肺損傷との低減には有望であるが、アレルギー性肺への炎症細胞浸潤を防ぐ効果はない。今後の研究で、SCV−07がアレルゲン誘導性気管支収縮を阻害する能力を調べる必要がある。さらに、肺損傷に対するSCV−07の予防的効果を考慮すると、微小血管透過性におけるアレルギー誘導性の変化と、皮膚及び肺におけるマスト細胞メディエータの放出とを防ぐSCV−07の能力を評価する必要がある。
【0119】
参考文献
Fraser DG, Regal JF, and Arndt ML: Trimellitic anhydride-induced allergic response in the lung: Role of the complement system in cellular changes. J. Pharmacol exp Ther 273:793- 801 , 1995.

Fraser DG, Graziano FM, Larsen CP and Regal JF: The role of IgGI and lgG2 in trimellitic anhydride-induced allergic response in the guinea pig lung. Toxicology and Applied Pharmacology 150: 218-227, 1998.

Larsen CP and Regal JF: Trimellitic anhydride-induced cellular infiltration into guinea pig lung varies with age but not gender, lnt Arch Allergy Immunol 127:63-72, 2002.

Lowry OJ, Rosebrough NJ, Farr AL, Randall PJ: Protein measurement with the Folin phenol reagent. J Biol Chem 1951 ;193:265-275.

Paul WE: Fundamental Immunology, 4th edition, 1999. Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia.

Peters SP, Jones CA, Haselkorn T, Mink DR, Valacer DJ, and Weiss ST: Real-world evaluation of asthma control and treatment (REACT): Finding from a national Web-based survey. J Allergy Clin Immunol 119: 1454-1461 , 2007.

Regal JF and Fraser DG: Systemic complement system depletion does not inhibit cellular accumulation in antihistamine pretreated allergic guinea pig lung, lnt Arch Allergy Immunol 109:150-160, 1996.

Regal JF, Fraser DG, Weeks CD, Greenberg NA: Dietary phytoestrogens have antiinflammatory activity in a guinea pig model of asthma. PSEBM 223:372-378, 2000.

Regal JF, Regal RR, Meehan JL, Mohrman ME: Primary prevention of asthma: Age and sex influence sensitivity to allergen-induced airway inflammation and contribute to asthma heterogeneity in guinea pigs, lnt Arch Allergy Immunol 141 :241-256, 2006.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者において、アレルギー性疾患又はその影響を治療、予防、阻害又は低減する治療方法であって、該被験者に、有効量の式A
【化1】

(式中、nが1又は2であり、Rが水素、アシル、アルキル又はペプチド断片であり、且つXが芳香族アミノ酸若しくは複素環アミノ酸、又はそれらの誘導体である)の免疫調節化合物を投与することを含む、治療方法。
【請求項2】
XがL−トリプトファン又はD−トリプトファンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物がSCV−07である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記疾患が喘息である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記喘息がアトピー性気管支喘息である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物を約0.001mg〜10mgの範囲内の用量で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物を約0.01mg〜1mgの範囲内の用量で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物を約0.0001mg/kg(被験者の体重)〜100mg/kg(被験者の体重)の範囲内の用量で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物を約0.001mg/kg(被験者の体重)〜1mg/kg(被験者の体重)の範囲内の用量で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物がSCV−07である、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物がSCV−07である、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
SCV−07を約0.01mg〜1mgのγ−D−グルタミル−L−トリプトファンの1日用量で等張液の形で非経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
SCV−07を約1.5mg以下の1日用量で経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
SCV−07を約5日〜14日間の治療中、1日1回投与する、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−527354(P2010−527354A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508389(P2010−508389)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/006072
【国際公開番号】WO2008/143824
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(593199563)サイクローン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】SciClone Pharmaceuticals,Inc.
【住所又は居所原語表記】950 Tower Lane, Suite 900, Foster City, California 94404, United States of America
【Fターム(参考)】