説明

免疫調節及び抗腫瘍ペプチド

本発明は、リポ多糖類結合能を断つことを保証し、抗腫瘍効果及び免疫調節効果を強化するアミノ酸置換が導入された、配列HYRIKPTFRRLKWKKYKGKFWに由来するペプチドの開発に関する。前記ペプチド及びそれらの組み合わせは、癌の治療でも、他の標準的な治療と相乗的にも使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌免疫療法の分野に含まれる。より正確には、リムルス(Limulus)抗LPS因子タンパク質の配列32〜51由来のペプチド又はそれらの組み合わせは、リポ多糖類に結合できず、癌及び転移を治療するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
主に現在の治療と併用して治療の利点を増強する、癌を治療するための生物学的応答の調節因子の使用が、最近報告されている(US2004/0101511)。他方、Toll様レセプター9(TLR9)のアゴニストであるCpG配列の使用は、複数の治療適応症(即ち、非小細胞肺癌、黒色腫及び腎癌)の一部である癌を治療、制御及び防止するための新規薬物として開発された(Klinman D.M.ら、(2004)CpGオリゴデオキシヌクレオチドの免疫療法的使用(Immunotherapeutic uses of CpG oligodeoxynucleotides.)Nat Rev Immunol.4:249−258)。Toll様レセプター7(TLR7)アゴニストは、免疫系を活性化するために、第I相臨床試験で現在試験されており、黒色腫及び他の腫瘍を治療するための新規薬物として結果が展望されている(Dudek A.Z.ら(2005)ASCO Annual Meeting)。上述のTLR7及びTLR9のアゴニストは、宿主において有効な免疫応答を促進するそれらの能力に基づいて、ウイルス感染症においても評価されている。さらに、ヒートショックタンパク質(Hsp)と名づけられた、TLR4に結合するタンパク質が開発されており、ヒトパピローマウイルス(HPV)E7オンコプロテインとの融合タンパク質として製造されている。この新規免疫療法アプローチは、治療ワクチンとしても知られており、ヒトパピローマウイルス関連疾患を治療するための広い展望を有する(Chu N.R.ら、(2000)ウシ結核菌カルメット・ゲラン菌(BCG)hsp65及びHPV16 E7を含む融合タンパク質の投与による、ヒト16型パピローマウイルス(HPV)E7発現腫瘍の免疫療法(Immunotherapy of a human papillomavirus(HPV)type 16 E7−expressing tumour by administration of fusion protein comprising Mycobacterium bovis bacille Calmette−Guerin(BCG)hsp65 and HPV16 E7.)Clin Exp Immunol 121:216−225)。Toll様レセプターは、免疫系の細胞に存在し、LPS、リポテイコ酸、非メチル化CpG配列並びにウイルスの二本鎖RNA及び一本鎖RNAなどの病原体関連分子のパターンを認識するレセプター分子である。TLRによる侵入病原体の認識は、免疫系が生物から感染症を効率よく撲滅するためのバランスのとれたTh1/Th2免疫応答を誘導することを助ける。癌を治療するための薬物としてのTLRアゴニストの使用は、主な機構としてI型インターフェロン(例えば、αIFN及びβIFN)及びインターロイキン12(IL−12)によって媒介されるTh1免疫応答を活性化することによって、自然免疫系及び獲得免疫系を活性化することに基づく。したがって、高度に特異的かつ持続性の免疫応答が達成される(Switaj T.、Jalili A.ら、(2004)CpG免疫刺激オリゴデオキシヌクレオチド1826は、マウスの黒色腫モデルにおいて、インターロイキン12遺伝子改変腫瘍ワクチンの抗腫瘍効果を増強する(CpG Immunostimulatory oligodeoxynucleotide 1826 enhances antitumor effect of interleukin 12 gene−modified tumor vaccine in a melanoma model in mice.)Clinical Cancer Research、Vol.10:4165−4175)。この免疫系の二重の活性化は、獲得免疫応答において持続性の効果を生じさせることができず、また引き続く望まれない影響を伴って自然免疫系を非特異的に活性化する、いくつかの他の免疫療法アプローチとは対照的である(Speiser D.Eら(2005)ペプチド、IFA及びCpGオリゴデオキシヌクレオチド7909を用いたワクチン接種に対する、迅速かつ強力なヒトCD8+T細胞の応答(Rapid and strong human CD8+T cell responses to vaccination with peptide,IFA,and CpG oligodeoxynucleotide 7909.)The Journal of Clinical Invest.Vol.115(3))。
【0003】
樹状細胞(DC)は、細胞−細胞相互作用及びサイトカイン産生を介して自然免疫応答と獲得免疫応答とを連結する、専門的な抗原提示細胞である。DCは、一連の表面分子マーカー及びまたTLRの差次的発現に基づいて、その起源によって骨髄系又はリンパ系に分類される。形質細胞様DCとしても知られるリンパ系DCは、I型インターフェロンの主な供給源である。これらの特性を考慮して、DCは、癌及び慢性ウイルス感染症に対する治療ワクチンを開発するための有望な細胞性アジュバントとして操作されてきた(Santini S.M.ら(2003)高度に活性な樹状細胞への単球の迅速な分化のための、新規I型IFN媒介性経路(A new type I IFN−mediated pathway for rapid differentiation of monocytes into highly active dendritic cells.)Stem Cells、21:357−362)。しかし、これは非常に高価で難しい技術であり、他のより実際的かつ廉価な治療戦略が開発中である(Van Epps H.L.(2005)腫瘍ワクチンへの新たな希望(New hope for tumor vaccines.)The Journal of Experimental Medicine、Vol.202:1615)。
【0004】
その抗ウイルス活性によって元々記載されたI型インターフェロン(αIFN、βIFN)は、DCに対するそれらのアジュバント効果を介して細胞性免疫応答及び体液性免疫応答を促進し、免疫系に対して重要な影響を及ぼすことが最近示されている(Bogdan,C.(2000)抗菌免疫におけるI型インターフェロンの機能(The function of type I interferons in antimicrobial immunity.)Curr,Opin Immunol.12:419−424)。最近の研究により、高度に免疫原性のあるシンジェニックマウス肉腫の退縮を媒介し、原発性発癌性腫瘍の発生に対して宿主を保護するプロセスにおける、内因性I型インターフェロンの重要な役割が明らかになっている(Gavin P.Dunnら(2005)癌免疫編集におけるI型インターフェロンに重要な機能(A critical function for type I interferons in cancer immunoediting.)Nature Immunology、June 12)。さらに、IFN−αは、インフルエンザなどのウイルス感染症において、CD4+Tリンパ球又はCD8+Tリンパ球の直接的活性化を介して抗ウイルス性Tリンパ球応答を開始することにおいて、重要な役割を果たす(Fonteneau J.Fら(2003)インフルエンザウイルス特異的なCD4及びCD8T細胞の活性化:獲得免疫における形質細胞様樹状細胞の新規役割(Activation of influenza virus−specific CD4 and CD8 T cells:a new role for plasmacytoid dendritic cells in adaptive immunity.)Immunobiology、101:3520−3526)。
【0005】
Hoess(WO95/05393)は、自身の発明で、グラム陽性又はグラム陰性細菌媒介性の敗血症、細菌感染症一般及び真菌感染症などの感染症を防止又は治療するのに有用な、高い親和性でLPSに結合する物質について述べている。このような物質は、エンドトキシン結合ドメインを保有するLPS結合ペプチドである(Hoess A.ら、(1993)1.5Aの分解能での、カブトガニ由来のエンドトキシン中和タンパク質リムルス抗LPS因子の結晶構造(Crystal structure of an endotoxin−neutralizing protein from the horseshoe crab,Limulus anti−LPS factor,at 1.5A resolution.)The EMBO J.12:3351−3356)。元のリムルス抗LPS因子(LALF)タンパク質の結晶構造は、ポリミキシンBに類似し、正に荷電し、両親媒性の、露出した疎水性及び芳香族残基を含むループを明らかにしている。この原理に基づいて、彼は、LALFタンパク質上のアミノ酸31〜52に対応する配列が、ヘパリンに結合し、ヘパリンに関連する効果(抗凝固、血管形成並びに内皮及び腫瘍細胞の増殖の阻害など)を中和できることを報告した。しかし、上記特許中には、この主張を支持する実験データは存在しない。実際、特許されたクレームは、溶液中のLPSを除去するためのデバイスに関し、このデバイスは、固相支持体中に固定化されたペプチドを含むものである(US6,384,188)。
【0006】
一方、Vallespi(US6,191,114)は、自身の発明で、αインターフェロン及びγインターフェロンの産生によって媒介される、Hep−2細胞及びMDBK細胞に対するLALF31〜52ペプチドの抗ウイルス効果について述べ、また、ウイルス感染症及び免疫抑制関連障害を治療するためのこのペプチドの使用についても述べている。さらに、同じ著者は、敗血症の動物モデルにおけるこのペプチドの抗感染症効果を実証している(Vallespi M.G.ら(2003)リムルス抗LPS因子由来のペプチドは、サイトカイン遺伝子の発現を調節し、マウスにおいて急性細菌感染症の解決を促進する(A Limulus anti−LPS factor−derived peptide modulates cytokine gene expression and promotes resolution of bacterial acute infection in mice.)International Immunopharmacology、3:247−256)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化学療法、放射線照射及び遺伝子治療を含む、癌に対するいくつかの治療が存在する。毒性はこれら全ての治療の1つの主要な不利益であり、高い用量が、いくつかの有利な治療効果を最終的に達成するために、長期間投与される。したがって、より有効な治療を得るための新規薬物の開発がなお必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
腫瘍を検出し腫瘍に対する有効な応答を誘導する免疫系の重要な役割に基づいて、宿主の自然防御機構及び獲得防御機構を活性化するように設計された薬物は、癌治療の強力なツールとなり得る。
【0009】
そのLPS結合能を消失させ、免疫調節効果を増強し、またいくつかの腫瘍に対するin vivoの抗腫瘍効果を付与する、LALFタンパク質の配列HYRIKPTFRRLKWKKYKGKFWについてアミノ酸置換は以前に記載されていない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、LALFタンパク質の配列HYRIKPTFRRLKWKKYKGKFW(配列番号13)の32〜51領域由来のペプチドを提供して上述の問題点を解決し、この配列では、LPS結合能を除去し、抗腫瘍効果及び免疫調節効果を増強するためにアミノ酸が置換されている。
【0011】
LPS結合又はヘパリン結合を禁じ、また元のペプチドと比較して増大した抗腫瘍効果及び免疫調節効果をもたらす置換によってこの配列から誘導される類似ペプチドは、以下の配列からなる:
【化1】

【0012】
Hoess及びVallespiによって記載されたLPS結合ペプチドは、混合Th1/Th2プロフィールを、癌患者に有害な優勢Th2プロフィールに向かわせるという点で、不利である。これらの患者では共通して、免疫抑制に起因する付随的感染症を示し、血中のLPS粒子の存在は除外されない。LPSの存在下での優勢なTh2プロフィールを誘導するペプチドの投与から、患者の免疫学的状態をさらに増悪させ、腫瘍に対する宿主の応答を悪化させる、望まない影響が生じる。さらに、Vallespiにより記載されたペプチドとLPSの結合によって、このペプチドの免疫調節効果が最小となる。
【0013】
一方、本発明中に記載されたペプチドのヘパリンへの結合の欠如により、そのペプチドは、Hoess及びVallespiによって以前に記載されたものよりも優れたものとなる。虚血性心疾患、脳血管疾患、静脈血栓塞栓疾患(深部静脈血栓症及び肺塞栓症)及び後脚虚血に罹患した患者などの重篤な患者において、ヘパリンが治療として示される(D.Cabestrero Alonsoら(2001)重篤な患者における低分子量ヘパリン:使用、適応症及び型(Heparinas de bajo peso molecular en pacientes criticos:usos,indicaciones y tipos.)Medicina Intensiva、Vol.95:18−26)。引き続いてヘパリン結合ペプチドを投与することは、この薬物の効果を妨害するため、この場面では禁忌であり得る。癌及び血栓塞栓疾患(深部静脈血栓症及び肺塞栓症など)の関連は、癌患者における罹患率及び死亡率に有意に寄与し得る充分に記載された現象である。前記で言及したこれらの理由に基づき、ヘパリンに結合できず、かつ癌患者(これらの患者の有意な割合が共通して手術を受け、凝固亢進などの他の障害を示す)の治療において抗腫瘍効果及び免疫調節効果を示すペプチドが利用可能であることは有利となる(Castelli R.ら(2004)ヘパリンと癌:臨床試験及び生物学的特性の総説(The heparins and cancer:Review of clinical trials and biological properties.)Vascular Medicine、Vol.9:1−9)。
【0014】
本発明はまた、アラニンによって2つ又はそれ以上のアミノ酸が置換されたペプチドであって、以下のアミノ酸配列:
【化2】


を含むペプチド、及びこれら上記ペプチドの任意の他の相同又は模倣変異体を含み、それらは合成手順又は組換え手順により任意の融合ペプチドの一部として得られる。相同変異体とは、LPS結合能又はヘパリン結合能を欠き、抗腫瘍効果及び免疫調節効果を保有する任意のペプチドをいう。同様に、前記模倣変異体とは、その構造がLPS結合能又はヘパリン結合能を欠き、抗腫瘍効果及び免疫調節効果を保持する、化学物質起源の(非タンパク質性の)任意の分子をいう。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、医薬組成物は、1種又は複数のペプチド及び化合物又はそのそれぞれの医薬的に許容される塩、並びに医薬的に許容される賦形剤又はビヒクルを含む。
【0016】
本発明の他の好ましい実施形態において、医薬組成物はさらに、細菌抗原、ウイルス抗原又は癌抗原を含む群から選択される抗原を含む。
【0017】
同様に、本発明のペプチドは、化学療法、手術、放射線照射などの、癌に対する従来の治療と併用して使用され得る。
【0018】
本発明はまた、有効なTh1免疫応答を要求する免疫学的障害を治療及び/又は防止するため、癌の治療又は防止のため、並びに細菌若しくはウイルス起源の感染症に対する有効な免疫応答を発生させるための医薬組成物の調製のための、これらのペプチド及び化合物の使用を含む。
【0019】
記載されたペプチドは、LPS結合のためのコンセンサス最適ドメインとして以前に記載された元のHYRIKPTFRRLKWKYKGKFW配列の代わりに、LPS結合能を欠くことによって規定された(Hoessら、(1993)1.5Aの分解能での、カブトガニ由来のエンドトキシン中和タンパク質リムルス抗LPS因子の結晶構造(Crystal structure of an endotoxin−neutralizing protein from the horseshoe crab,Limulus anti−LPS factor,at 1.5A resolution.)The EMBO J.12:3351−3356)。同様に、本発明中に記載したペプチドは、Vallespiが自身の特許(US6,191,114)で抗ウイルス及び免疫調節ペプチドとして言及したアミノ酸31〜51を含むLALFタンパク質由来のペプチドと比較して、IFN−αの分泌によって媒介される免疫調節効果を増強する。
【0020】
同様に、本発明中に記載したペプチドは、後天性免疫不全症候群(AIDS)に罹患した患者及び複雑な手術を受けた患者などの、免疫抑制患者及び免疫状態の活性化を必要とする患者に投与され得る。
【0021】
in vivoの実験データにより、マウスに移植された腫瘍において、類似ペプチドの有効性が実証された。これらの腫瘍は、マウス黒色腫B16細胞、C57Bl/6マウス由来の悪性肺上皮細胞及びマウス肺癌から得られた3LL−D122細胞由来である。
【0022】
別の実施形態では、ペプチドを投与して、転移事象を最小化することができる。
【0023】
本発明の他の結果は、記載されたペプチドが、組織学的起源が様々な腫瘍細胞系に対して抗増殖効果を示すことを示しており、癌細胞に対する直接的細胞傷害効果を実証している。
【0024】
原則的に、記載されたペプチドは、単独で使用することができ、又は手術、放射線照射若しくは化学療法などの、癌を治療するための現在の治療と併用することができる。
【0025】
同様に、本発明中に記載したペプチドは、予防的に投与した場合、腫瘍に対する迅速な自然免疫応答を生じ、引き続いて抗原特異的な獲得免疫応答を発生させ、癌に対する予防的又は治療的なワクチンにおけるそれらの使用を強調する。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
ペプチド合成
本発明のペプチドは、固相手順に従って合成する。粗ペプチドを、30%酢酸溶液で抽出し、凍結乾燥し、さらにRP−HPLCで精製する。精製ペプチドの分子量は、FAB銃を備えた質量分析器JEOL JMS−HX110HFを使用してチェックする。得られた調製物は非抗原性で非発熱性であり、動物及びヒトにおける投与について医薬的に許容される。置換は、ペプチドHYRIKPTFRRLKWKYKGKFWの元の配列の各々の位置にアラニンアミノ酸を導入することによって実施した。
【0027】
(実施例2)
リポ多糖(LPS)結合能を欠く類似ペプチドの選択
このアッセイは、競合ELISAシステムからなる(Hardy E.ら(1994)固相への生物学的に活性なLPS又はリピドAの有効なコーティングのためにTCAを使用して増強されたELISAの感受性(Enhanced ELISA sensitivity using TCA for efficient coating of biologically active LPS or Lipid A to the solid phase.)J.Immunol.Meth.Vol.176:111−116)。ポリスチレンプレート(Costar、USA)を、0.2%のトリクロロ酢酸(TCA)を用いて大腸菌(E.coli)0111:B4由来のLPS(1μg/ml)でコーティングした。プレートを37℃で一晩インキュベートし、さらに1×リン酸緩衝化生理食塩水(1×PBS)+0.1% tween−20(洗浄溶液)で10回洗浄した。固相表面に固定されたLPSに対する類似ペプチドの結合を、最大のLPS結合の90%を得る0.2μMのビオチン化LALF32〜51ペプチドを用いた競合ELISAにより評価した。阻害曲線を推定するために、10μM〜0.01μMの種々の濃度の類似ペプチドを使用し、LALF32〜51ペプチドの曲線を実験対照とした。ビオチン化LALF32〜51を、37℃で2時間類似ペプチドの存在下でインキュベートし、その後プレートを洗浄溶液で5回洗浄した。LPSに結合したビオチン化LALF32〜51を、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼコンジュゲートと共に1:2,000希釈で37℃で45分間インキュベートすることによって検出した。プレートを洗浄溶液で5回洗浄し、基質溶液(0.05Mクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.5)、1錠の3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン及び0.025%過酸化水素)を添加した。15分間のインキュベーション後、2M硫酸を添加することによって反応を停止させた。吸光度を、プレートリーダー(Sensident Scan)で450nmで定量した。光学密度値と類似ペプチドのLPS結合能との間には相関がある。より高いLPS結合能を有する類似ペプチドは、LALF32〜51ペプチドの阻害曲線と比較して、より低いO.D.の阻害曲線を示す。
【0028】
より低いLPS結合能を有する類似ペプチドは、LALF32〜51ペプチドの阻害曲線と比較して、O.D.値を有する阻害曲線を示す。結果を図1Aに示す。これは、L−2、L−8、L−12及びL−20と命名されたペプチドがLPSに結合する能力を失っており、ペプチドL−9及びL−19がLALF32〜51ペプチドに類似した能力を保持していることを示す。一方、L−3ペプチドはより高いLPS結合能を示している。
【0029】
図1Bは、固相表面に吸着したLPSに対するビオチン化LALF32〜51(0.2μM)の結合を置き換えるそれらの能力による、0.5Mの固定濃度での類似ペプチドの阻害割合を示す。
阻害%={1−(([O.D.]試料−[O.D.]最小)/([O.D.]最大−[O.D.]最小))}×100
[O.D.]試料:固定濃度の類似ペプチドの存在下での光学密度値;
[O.D.]最小:ELISAバックグラウンド;
[O.D.]最大:類似ペプチドなしでの光学密度値。
【0030】
表1.実施例において使用したペプチドの配列
【表1】

【0031】
これらの分析の結果として、LPS結合能を欠くペプチドから開始して、二重、三重及び四重の変異を実施した:
【化3】

【0032】
(実施例3)
類似ペプチドL−2、L−8、L−12及びL−20のヘパリン結合能の評価
このアッセイは、上記したものと類似の競合ELISAシステムからなる。ビオチン化LALF32〜51ペプチドを、1×PBS中でポリスチレンプレート(Costar、USA)に吸着させ、4℃で一晩インキュベートした。類似ペプチドL−2、L−8、L−12及びL−20を、2μMで、250単位のヘパリン(Sodic Heparin、5,000U/ml、Liorad)と、1×PBS+0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)中で混合した。その後、混合物を、固相表面に吸着した0.02μMのビオチン化LALF32〜51ペプチドを含むELISAプレートに添加した。室温で1時間のインキュベーション後、プレートを洗浄溶液で5回洗浄し、固相表面に固定化されたビオチン化LALF32〜51ペプチドを、1:2,000でストレプトアビジン−ペルオキシダーゼコンジュゲートと共に37℃で45分間インキュベートすることによって検出した。その後、プレートを洗浄溶液で5回洗浄し、基質溶液を添加した。15分間さらにインキュベートした後、2M硫酸溶液を添加することによって反応を停止させた。類似ペプチドへのヘパリンの結合の欠如は、光学密度の低下と相関する。なぜなら、これらの類似ペプチドは、固相表面に吸着したビオチン化LALF32〜51ペプチドに結合したヘパリンを置き換えることができないからである。100×モル過剰の未標識のLALF32〜51ペプチドをこのアッセイの対照として使用した。未標識LALF32〜51ペプチドのヘパリンへの結合は、光学密度値の増加により実証される。なぜなら、過剰の未標識ペプチドがヘパリンへの結合について競合するからである。図2に示されるように、結果は、本発明に記載したペプチドL−2、L−8、L−12及びL−20がヘパリンに結合できないことを示している。
【0033】
(実施例4)
ヒト単核細胞におけるIFN−α、IFN−γ及びIL−12の発現に対する類似ペプチドL−2、L−8、L−12及びL−20の影響
このアッセイのために、ヒト単核細胞を、ドナーの白血球濃縮物即ち「バフィーコート」からFicoll−Hypaque勾配によって単離した。最大5×10を、10%ウシ胎仔血清を補充したRPMI 1640培地中、24穴プレートに播種した。各ペプチドを、0.1ml体積のRPMI培地中40μg/mlでさらに添加し、細胞を37℃及び5%COで18時間培養した。総RNAを、TriReagent法を用いて抽出した。その後、IFN−α遺伝子、IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子の発現を、逆転写反応及びPCR増幅によって決定した(RT−PCRキット、Perkin Elmer)。結果を、β−アクチンハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して標準化したメッセンジャーRNAの相対的な量として示す。このアッセイで得られた結果は、図3Aに示すように、本発明に記載したペプチドL−2、L−8、L−12及びL−20が、IFN−α遺伝子、IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子の発現を誘導することが可能であることを実証した。図3Bに示すように、類似ペプチドL−2、L8及びL−12は、LALF32〜51ペプチドよりもIFN−α遺伝子の発現の誘導において特により効果的である。この実施例は、元のLALF32〜51配列におけるアミノ酸置換が、LPSに結合する能力を消失させ、引き続いて得られたペプチドの免疫調節効果を増強することを実証している。
【0034】
(実施例5)
TC−1腫瘍モデルにおける類似ペプチドL−2、L−8、L−12及びL−20の抗腫瘍効果
8〜10週齢のC57Bl/6雌マウスをこのアッセイに使用した(1実験群当たりn=10の動物)。腫瘍移植のために、C57Bl/6悪性肺上皮細胞由来のTC−1腫瘍細胞を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に再懸濁して使用した。200μlの体積中細胞50,000個の量を、右後脚中に皮下経路によってマウスに接種した。最初のペプチド投与を、腫瘍が100mmの体積に達したところで、右わき腹に皮下経路で実施し、2回目のペプチド投与を10日後に実施した。このアッセイにおいて、体重1kg当たり4mgの用量を評価した(80μg/マウス)。図4A及び4Bに示すように、動物の生存及び腫瘍塊を、目的のペプチドの抗腫瘍効果を測定するのに評価したパラメーターとした。類似ペプチドL−2、L−8、L−12及びL−20はそれぞれ、腫瘍進行を阻害し、マウスを延命させるのに有効であった。これらの結果は、マウスの固形腫瘍モデルにおける類似ペプチドの抗腫瘍効力を証明している。Log Rank法を、群間の有意な差異を検出するための統計的分析として使用した。結果は、類似ペプチドL−2、L−8、L−12及びL−20が、LALF32〜51ペプチドと比較して、動物の生存を有意に増大させることを証明した(p<0.05)。これらの結果は、LALFタンパク質の元の32〜51配列中のアミノ酸の置換が、ペプチドの抗腫瘍能を有意に増大させ得ることを実証している。
【0035】
(実施例6)
黒色腫モデルにおける類似ペプチドL−2の抗腫瘍効果
8〜10週齢のC57Bl/6雌マウスをこのアッセイに使用した(1実験群当たりn=10の動物)。腫瘍移植のために、MB16−F10腫瘍細胞を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に再懸濁して使用した。200μlの体積中細胞15,000個の量を、右後脚中に皮下経路によって接種した。4日後、L−2ペプチドを投与し、2回目の注射を最初の注射の7日後に投与し、3回目の免疫を14日後に投与した。このアッセイにおいて、動物の体重1kg当たり4mgのペプチドの用量を評価した。このアッセイの間に与えられたペプチドの抗腫瘍効果を測定するために評価したパラメーターは、腫瘍移植の時間及び動物の生存であった。図5A中に示すように、L−2類似ペプチドは、腫瘍移植を有意に遅延させた(p<0.05、Log Rank法)。Log Rank法による生存の分析は、L−2ペプチドが動物の生存を有意に増大させたことを実証し(p<0.05)、図5Bに示すように、これはLALF32〜51ペプチドよりも有効であった。これらの結果は、肺上皮性癌細胞に対してだけでなく身体の他の組織学的及び解剖学的部分由来の癌細胞(黒色腫など)に対しても、L−2ペプチドに抗腫瘍効力があることを証明している。
【0036】
(実施例7)
TC−1腫瘍モデルにおける、治療の予防的スケジュールにおけるL−2類似ペプチドの抗腫瘍効果
8〜10週齢のC57Bl/6雌マウスをこのアッセイに使用した(1実験群当たりn=10の動物)。腫瘍移植のために、TC−1腫瘍細胞を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に再懸濁した。マウスに、最初にL−2ペプチド(体重1kg当たり4mgのペプチド)を注射した。7日後、マウスに同じ用量の2回目の注射を受けさせ、最初のペプチド注射の14日後、動物に200μlの体積中細胞50,000個を、右後脚中に皮下経路によって接種した。ペプチドの抗腫瘍効果を測定するために評価したパラメーターは、腫瘍移植の時間(図6A)及び動物の生存(図6B)を含んだ。このアッセイで得られた結果は、本発明のL−2ペプチドが腫瘍の発生を防止するのに有効であり、また動物の生存を増大させたことを実証した。これらの結果は、本発明のペプチドが、腫瘍の樹立を防止する予防効果を示すことを証明している。
【0037】
(実施例8)
二重誘発スケジュールにおけるL−2類似ペプチドの抗腫瘍効果
上記実施例のスケジュールにおいて腫瘍が樹立されていない動物(n=6)に、PBS中200μlの体積中50,000個のTC−1細胞で、左後脚中に皮下経路によって2回目のさらなる誘発を行った(最初の誘発の49日後)。同量の腫瘍細胞を、齢数の均一性を保証するために実験の対照群と同じ同腹仔由来の「ナイーブ」マウスに接種し、ペプチドを受けない同じ条件下で維持した(n=10の動物)。L−2ペプチドの抗腫瘍効果を測定するために評価したパラメーターには、腫瘍移植の時間及び動物の生存が含まれた。このアッセイで得られた結果は、L−2ペプチドが、腫瘍細胞による2回目の誘発からマウスを保護し、腫瘍の樹立を遅延させ(図7A)、動物の生存を増大させる(図7B)ことができることを実証している。この結果は、本発明のペプチドが持続性の抗腫瘍応答を誘導でき、腫瘍細胞での2回目の誘発に対してなお機能的であることを証明しており、抗原特異的な獲得免疫応答の発生を証明している。
【0038】
(実施例9)
ルイス癌の転移モデルにおけるL−2類似ペプチドの抗腫瘍効果
8〜10週齢のC57Bl/6雌マウスをこのアッセイに使用した(1実験群当たりn=8の動物)。これらの動物に、250,000個のマウス肺癌3LLD122細胞を右後足蹠に接種した。7日後、体重1kg当たり4mgの用量のL−2類似ペプチドを皮下注射した。腫瘍が直径8mmに達した段階で、原発性腫瘍を担体の脚から外科的に除去した。この外科的手順の21日後にマウスを屠殺した。肺を計量して、肺上の転移の量を示した。図8に示す結果は、本発明のL−2類似ペプチドが、転移性腫瘍事象を減少させることが可能であることを示している。
【0039】
(実施例10)
腫瘍細胞の増殖に対するL−2類似ペプチドの効果
このアッセイのために、TC−1、H−125(ヒト非小細胞肺癌)及びL929(マウス線維芽細胞)細胞を、ウシ胎仔血清(Gibco)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco)1ml中細胞2×10個で、96穴培養プレート(Costar)中に播種した。24時間後、ペプチドを9μM〜300μMの範囲で培養物に添加した。5%のCOで72時間プレートをインキュベートし、その時間の後、アッセイをクリスタルバイオレットで明らかにした。プレートを水道水で完全に洗浄し、プレートを562nmで読み取った。結果を図9に示す。顕著なin vitro抗増殖効果を有するアポトーシス促進性ペプチドを陽性対照として使用した(Perea,S.ら(2004)プロテインキナーゼ2によるリン酸化を損なう新規アポトーシス促進性ペプチドの抗腫瘍効果(Antitumor Effect of a Novel Proapoptotic Peptide that Impairs the Phosphorylation by the Protein Kinase 2.)Cancer Research 64:7127−7129)。得られた結果は、L−2ペプチドがTC−1細胞及びH−125細胞に対して用量依存的な抗増殖効果を生じることを実証した。しかし、マウス線維芽細胞L929細胞系では本発明のペプチドによる影響は検出されなかった。この結果は、本発明のペプチドが、in vitroで腫瘍細胞に対する選択的細胞傷害効果を示すことを実証している。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】細菌リポ多糖(LPS)結合能に対するペプチドの影響を示す図である。図1A、これらの実験は、3連で実施した。1つの実験の阻害曲線を示す。図1Bに示す阻害の割合は、3つの独立した実験の平均を示す。
【図2】アニオン性化合物ヘパリンに結合する能力に対するペプチドの影響を示す図である。3つの独立した実験の平均を示す。
【図3】ヒト単核細胞におけるα及びγインターフェロン並びにIL−12の産生に対するペプチドの影響を示す図である。3つの実験を異なるドナーで実施し、それらのうち1つの結果を示す。
【図4】TC−1腫瘍モデルにおけるペプチドの抗腫瘍効果を示す図である。
【図5】黒色腫モデルにおけるL−2ペプチドの抗腫瘍効果を示す図である。
【図6】TC−1腫瘍モデルの予防的投与スケジュールにおける類似L−2ペプチドの抗腫瘍効果を示す図である。
【図7】TC−1腫瘍細胞での二重誘発スケジュールにおける類似L−2ペプチドの抗腫瘍効果を示す図である。
【図8】類似ペプチドL−2の抗転移能を示す図である。
【図9】TC−1細胞、H−125細胞及びL929細胞の増殖に対する類似ペプチドL−2の効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜4及び8〜12のアミノ酸配列を含む、抗腫瘍能及び免疫調節能を有し、LPS結合能及びヘパリン結合能を欠く、LALFタンパク質の32〜51領域由来のペプチド、並びにこれらのペプチドの相同変異体。
【請求項2】
抗腫瘍効果を保有し、LPS結合能又はヘパリン結合能を欠く、請求項1に記載のペプチドを模倣する化合物。
【請求項3】
請求項1及び請求項2に記載のペプチド及び化合物のうち1つ又は複数を含み、賦形剤又は医薬的に許容されるビヒクルも含む医薬組成物。
【請求項4】
免疫原をさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記免疫原が、ペプチド性、ガングリオシド性又はタンパク質性の免疫原からなる群より選択され、粒子などのウイルス又は細菌起源のタンパク質性小胞である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
免疫学的障害及び癌を治療及び/又は防止するための医薬組成物を製造するための、請求項1及び請求項2に記載のペプチド及び化合物の使用。
【請求項7】
ヒトにおいて自然免疫応答を刺激するための有効量をも含む、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
転移を阻害するためにそれを適用することを特徴とする、請求項6に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−527510(P2009−527510A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555601(P2008−555601)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/CU2007/000006
【国際公開番号】WO2007/095867
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】