説明

免震構造体用ゴム組成物

【課題】繰り返し変形による弾性率の低下が小さく、所期の性能を長期に亘って確実に維持し得る免震構造体用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】シス形の含有割合が90質量%以上の高シス−イソプレンゴムを主なゴム成分として含有することを特徴とする免震構造体用ゴム組成物であり、高シス−イソプレンゴムが全ゴム成分の50質量%以上であり、高シス−イソプレンゴムのシス形の含有割合が90〜99質量%である免震構造体用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高減衰性を有し、かつマリンズ効果の小さい免震構造体用のゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震対策として建造物に免震構造体を取り付けることが普及してきている。この免震構造体は、一般にゴム層と硬質板層とを交互に積層した構造とされ、そのゴム層には破壊物性に優れることから天然ゴムが一般に用いられている(例えば、下記特許文献1等)。
【0003】
しかしながら、加硫ゴムには、一般にマリンズ効果と呼ばれる繰り返し変形により弾性率が低下する現象が発生し、天然ゴムを用いた高減衰ゴムはそのマリンズ効果が大きく、免震構造体としての耐久性は必ずしも十分ではない。特に、大変形時に既にマリンズ効果による弾性率の低下(履歴依存性)が生じていることは、大地震を想定した場合にその影響は非常に大きい。
【0004】
このため、マリンズ効果が小さく良好な性能を確実に維持し得、信頼性の高い免震作用を確実に発揮することができる免震構造体用のゴム材料の開発が望まれる。
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては下記のものが挙げられる。
【特許文献1】特開平2−32135号公報
【特許文献2】特開平5−59219号公報
【特許文献3】特開2002−340089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、繰り返し変形による弾性率の低下が小さく、所期の性能を長期に亘って確実に維持し得る免震構造体用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、免震構造体のゴム層を形成するゴム組成物を調製する場合に、ベースゴムとして天然ゴムに代えてシス形の含有量割合が90質量%以上の高シス−イソプレンゴムを用いることにより、繰り返し変形による弾性率の低下が小さく、所謂マリンズ効果の小さい免震構造体のゴム層を得ることができ、所期の性能を長期に亘って良好に維持することができる信頼性の高い免震構造体が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0008】
従って、本発明は、シス形の含有割合が90質量%以上の高シス−イソプレンゴムを主なゴム成分として含有することを特徴とする免震構造体用ゴム組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム組成物は、繰り返し変形による弾性率の低下が小さく、所期の性能を長期に亘って確実に維持することができ、このゴム組成物を用いて免震構造体のゴム層を形成することにより、信頼性の高い免震構造体が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のゴム組成物は、上述のように、ゴム成分として、高シス−イソプレンゴムを含有するものである。
【0011】
この高シス−イソプレンゴムとは、シス形の含有割合が90質量%以上のイソプレンゴムをいう。この場合、特にされるものではないが、シス形の含有割合は、90〜99質量%、91〜95質量%であることが好ましい。
【0012】
この高シス−イソプレンゴムとしては、リチウム触媒系イソプレンゴム(シス形含有割合:92質量%程度)やチーグラー触媒系イソプレンゴム(シス形含有割合:98質量%程度)が挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができるが、特にリチウム触媒系イソプレンゴムがシス形含有割合がより好適であり、より効果的にマリンズ効果の低下を図ることができる。
【0013】
ここで、このような高シス−イソプレンゴムを用いることにより、マリンズ効果を低下させ得る理由は必ずしも明確ではないが、次の通り推察することができる。即ち、天然ゴムのマリンズ効果は伸張結晶性に起因するものであり、この伸張結晶性の存在により高歪領域で弾性率が立ち上がり、これがマリンズ効果を大きくしている。これに対し、イソプレンゴムは、天然ゴムに比べて伸張結晶性が少ないため弾性率の立ち上がりが起こらず、マリンズ効果が小さくなると推察される。特に、リチウム触媒系のイソプレンゴムは、上記のように、チーグラー触媒系イソプレンゴムよりも適度にシス形含有割合が低く、伸張結晶をより効果的に阻害し、マリンズ効果の低下に好ましいものと考えられる。
【0014】
本発明のゴム組成物は、上記のように高シス−イソプレンゴムをベースゴムとするものであり、組成物中のゴム成分はこの高シス−イソプレンゴムと共に他のゴムを混合して用いてもよい。
【0015】
他のゴムとしては、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPR,EPDM)、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用することができる。なお、これらの中では、加硫ゴムの力学的物性など観点から天然ゴム、ブタジエンゴムが特に好ましく用いられる。
【0016】
ゴム成分として高シス−イソプレンゴムと他のゴムとを混合して用いる場合、高シス−イソプレンゴムの割合は全ゴム成分の50質量%以上とされ、好ましくは60質量%以上とする。
【0017】
本発明のゴム組成物には、特に制限されるものではないが、上記ゴム成分と共に合成樹脂を配合することができる。
【0018】
本発明のゴム組成物に配合される合成樹脂としては、例えばフェノール樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、キシレン樹脂、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、脂環族系石油樹脂、C5系石油樹脂とC9系石油樹脂とを共重合させたもの、テルペン系樹脂、ケトン樹脂及びこれらの樹脂の変性物などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0019】
これら合成樹脂の配合量は、配合する樹脂の種類などに応じて適宜選定され、特に制限されるものではないが、通常は上記全ゴム成分100質量部に対して、2〜60質量部、特に5〜40質量部とすることが好ましい。この場合、配合量が2質量部未満であると、これら合成樹脂による高減衰性能が十分に得られない場合があり、一方60質量部を超えると破断特性や未加硫ゴムの作業性が低下するなどの不都合を生じる場合がある。
【0020】
本発明のゴム組成物には、ゴム成分と共に、上記合成樹脂の他にもゴム組成物に通常配合される公知の配合剤を配合することができる。例えば、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、加硫剤としての硫黄、加硫促進剤、加硫促進助剤、各種プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、各種軟化剤、ワックス、老化防止剤、石油炭化水素、ロジン、クレーや炭酸カルシウムなどの各種充填剤など、公知の配合剤を適量配合することができる。
【0021】
上記加硫促進剤としては、TMTD(テトラメチルジスルフィド)等のチウラム系、EZ(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)等のジチオカルバミン酸塩類を使用することができる。
【0022】
また、これらと組み合わせて、有機過酸化物、キノンジオキシム、多官能性アクリルモノマー[例えば、トリメチロールエタントリアクリレート(TMETA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ジペンタエリスリトールエーテルヘキサアクリレート(DPEHA)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(DPEHA)、ジメチロールプロパンジアクリレート(TMPTA)、ステアリルアクリレート(SA)等]、トリアジンチオールを用いることができる。
【0023】
硫黄系加硫剤及び加硫促進剤としては、粉末硫黄、高分散性硫黄、不溶性硫黄等で、一般にゴム用加硫剤として用いられている硫黄、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム類、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ピペコリルジチオカルバミン酸ピペコリン塩、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジエチルジチオカルバミン酸テルル等のジチオカルバミン酸塩類、ブチルキサントゲン酸亜鉛、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム等のキサントゲン酸塩類、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド類、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール類等を挙げることができる。これらは2種以上を併用することもできる。使用量は、ゴム成分100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜6質量部である。
【0024】
カーボンブラックの例としては、標準品種であるSAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF(以上ゴム用ファーネス)、MTカーボンブラック(熱分解カーボン)を挙げることができる。配合量は、ゴム成分100質量部に対して、20〜70質量部であることが好ましく、25〜65質量部であることがより好ましい。カーボンブラックの他に、更にセバシン酸ジオクチル等の可塑剤を加えても良い。
【0025】
老化防止剤としては、例えばN−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(6C)やN−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン(3C)、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物(RD)などが挙げられる。これらは、ゴム成分100質量部に対して0.5〜5質量部程度を用いることができる。
【0026】
本発明のゴム組成物は、上記各成分を公知のバンバリーミキサー、ロール、ニーダ等の混練装置を使用して混練し、製造することができる。この場合、特に制限されるものではないが、通常は、まずゴム成分、樹脂成分、充填剤、オイルなどを混合して混練し、次いで加硫剤,促進剤を添加して更に混練する2段階の混練操作を行うことが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例,比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0028】
[実施例1〜10及び比較例1〜4]
下記、表1〜3に示すAの各配合成分を混練し、次いでBの亜鉛華混合硫黄及び促進剤CZを配合して更に混練し、実施例1〜10及び比較例1〜4のゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物を2mm厚保に圧延してゴムシートを製造し、下記物性を測定、評価した。結果を表1,2に示す。
【0029】
(1)硬さ(Hd)
JIS K 6301に準拠して、硬さを求めた。
(2)破断伸び(Eb)
JIS K 6301に準拠して、破断伸びを求めた。
(3)引張強度(Tb)
JIS K 6301に準拠して、引張強度を求めた。
(4)100%モジュラス(Md100)
JIS K 6301に準拠して求めた。
(5)200%モジュラス(Md200)
JIS K 6301に準拠して求めた。
(6)300%モジュラス(Md300)
JIS K 6301に準拠して求めた。
【0030】
(7)剪断弾性係数(G)、等価減衰定数(Heq)及びマリンズ効果(G1st/G3rd)
[剪断弾性係数の測定サンプルの作製]
ゴムシートを25mm×25mmの方形状に打ち抜いた1枚の方形状ゴムシートを作製し、これを25mm×60mm×厚み2.3mmの2枚の鉄板で挟んだ。すなわち、図1(A)に示すように.接着剤を塗布した2枚の鉄板22の間に、方形状ゴムシート20を、断面クランク状となるように挟んだ。このように、鉄板22とこれに接するゴムシート20の面とを接着した状態で加硫を行い鉄板22とゴムシート20面との接着をした。これにより図1(B)に示す形状のサンプルを得た。
[剪断弾性係数の測定]
サンプルを、バネ剛性、損失エネルギー測定装置(鷺宮製作所製、型式:EFH−26−8−10)に配置した。上述の2枚の鉄板22(図1(B)参照)に対し、ゴムシート20に対して外側および内側方向に、周波数0.2Hzで50%→100%→200%→300%と剪断率を変えて剪断力を付与した。同剪断率では各3回剪断力を付与した。
そして、各剪断率において、測定値(3回)を平均し、G及びHeqを算出した。なお、「G」は、剪断弾性係数(等価バネ剛性と称されることもある)を意味し、「Heq」は等価減衰定数であり、ヒステリシスロスの大きさの指標とされる。更に、同じ剪断率での1回目の剪断弾性率(G1st)と3回目の剪断弾性率(G3rd)との比(G1st/G3rd)によりマリンズ効果を算出した。
【0031】
なお、各表中の配合成分の詳細は、下記の通りである。
NR:RSS#4
BR:旭化成(株)「旭化成ジエンNF35R」
高トランス形IR:(株)クラレ「高トランスIR」
チーグラー系IR:JSR(株)「JSR IR2200」(シス形割合98質量%)
リチウム系IR:クレイトンポリマージャパン(株)「IR307」(シス形割合92質量%)
カーボン:旭カーボン(株)「旭#80−N」
フェノール樹脂:住友ベークライト(株)「スミライトレジン217」
ジシクロペンタジエン樹脂:日本ゼオン(株)「クイントン1325」
キシレン樹脂:フドー(株)「L5」
芳香族系石油樹脂:新日本石油(株)「E−130」
アロマオイル:出光興産(株)「ダイアナプロセスオイルAH−58」
亜鉛華混合硫黄:鶴見化学工業(株)「Z硫黄」
促進剤CZ:大内新興化学工業(株)「ノクセラーCZ」
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
表1〜3の結果から、実施例のゴム組成物からなるゴムシートは、比較例よりもマリンズ効果が小さく、実用上優れていることがわかった。また、作業性も良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例で作製したサンプルを示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
20 ゴムシート
22 鉄板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス形の含有割合が90質量%以上の高シス−イソプレンゴムを主なゴム成分として含有することを特徴とする免震構造体用ゴム組成物。
【請求項2】
高シス−イソプレンゴムが全ゴム成分の50質量%以上である請求項1記載の免震構造体用ゴム組成物。
【請求項3】
高シス−イソプレンゴムのシス形の含有割合が90〜99質量%である請求項1又は2記載の免震構造体用ゴム組成物。
【請求項4】
上記高シス−イソプレンゴムが、チーグラー系イソプレンゴム又はリチウム系イソプレンゴムである請求項1〜3のいずれか1項に記載の免震構造体用ゴム組成物。
【請求項5】
上記高シス−イソプレンゴムが、チーグラー系イソプレンゴムである請求項4記載の免震構造体用ゴム組成物。
【請求項6】
高シス−イソプレンゴムと共に天然ゴムを含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の免震構造体用ゴム組成物。
【請求項7】
高シス−イソプレンゴムと共に合成ゴムを含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の免震構造体用ゴム組成物。
【請求項8】
上記合成ゴムがブタジエンゴムである請求項7記載の免震構造体用ゴム組成物。
【請求項9】
合成樹脂を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の免震構造体用ゴム組成物。
【請求項10】
上記合成樹脂として、フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、キシレン樹脂、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、脂環族系石油樹脂、C5系石油樹脂とC9系石油樹脂とを共重合させたもの、テルペン系樹脂、ケトン樹脂及びこれらの樹脂の変性物から選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項9記載の免震構造体用ゴム組成物。
【請求項11】
上記合成樹脂の配合量が、全ゴム成分100質量部に対して2〜60質量部である請求項9又は10記載の免震構造体用ゴム組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−269967(P2009−269967A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120151(P2008−120151)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】