説明

免震装置の設置装置及びその設置方法

【課題】より簡便な作業によって良好な設置精度が得られ、工事期間の短縮にも有効な免震装置の設置技術を提供する。
【解決手段】地盤側に設置される所要数の支持部材19と、該支持部材19によって支持される、少なくとも対向する両側の縁部に下方へ屈曲した屈曲片部5,6を形成した略コ字状断面からなり、下面に所要数のアンカー部材7〜9,13,14を設けたベースプレート1との組合わせから構成され、ベースプレート1の下方にコンクリートを打設し、そのベースプレート1上に免震装置を設置する。ベースプレート1の対向する両側の縁部に形成した屈曲片部5,6の一部をコンクリート中に埋設するようにすれば、それらの屈曲片部5,6による補強効果を更に高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等に適用される免震装置の設置に係る改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等に適用される免震装置の設置の仕方に関しては、基礎コンクリート形成用の型枠の上端部間や、基礎コンクリートに形成したアンカー材設置用の空隙部の両側に支持部材を渡してベースプレートを支持し、その支持状態で基礎コンクリートを打設して前記ベースプレート上に免震装置を設置するという従来技術が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、前者の型枠の上端部間に渡した支持部材を介してベースプレートを設置する従来技術の場合には、型枠の施工精度が免震装置の設置精度に影響することになるが、一般的に型枠の施工精度は悪く、材料や構造的にみても大きな荷重に対しては撓みやすいことから、免震装置に関する高い設置精度を維持することは技術的に困難である。したがって、免震装置の性能、延いては建築物の耐震性に与える影響は大きく無視することはできない。なお、型枠の強度を強化して対応することも不可能ではないが、型枠のコストが加算されるだけでなく、重量が大きくなり作業性も低下されることから現実的ではない。また、後者の基礎コンクリートに形成した空隙部の両側に渡した支持部材を介してベースプレートを設置する従来技術の場合には、そもそも基礎コンクリートにアンカー材設置用の空隙部を形成するという面倒な作業が必要とされるだけでなく、その空隙部に補給されるコンクリートと基礎コンクリートとの間の縁切れによってアンカー材の定着作用が弱められるといった問題があった。なお、ベースプレートの断面形状をコ字状に形成すること自体は、従来から知られているところである(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−256572号公報
【0003】
また、この種の免震装置の設置作業においては、基礎コンクリートの上面の表面精度が十分でないため、基礎コンクリートの上面と免震装置設置用のベースプレートとの間に無収縮性のグラウト材等を充填して、両者間の密着性を確保するのが一般的である。そして、その基礎コンクリートの上面とベースプレートとの間に充填される無収縮性固化材の固化を待って、ベースプレート上への免震装置の設置作業を進めるという作業手順が採られている。すなわち、免震装置設置用のベースプレートには一般的に平板状の鋼板が使用され、それだけでは上方からの荷重に対して撓みやすいことから、前記無収縮性固化材の固化を待って、免震装置の設置作業を開始するという作業手順が採られていた。しかしながら、この従来の作業手順の場合には、基礎コンクリートの上面とベースプレートとの間に充填した無収縮性固化材が固化するのを待たなければならないため、その分、ベースプレート上への免震装置の設置作業の開始時期が遅れ、工事期間が長期化するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑みて開発したものであり、より簡便な作業によって良好な設置精度が得られ、工事期間の短縮にも有効な免震装置の設置技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、請求項1の発明では、地盤側に設置される所要数の支持部材と、該支持部材によって支持される、少なくとも対向する両側の縁部に下方へ屈曲した屈曲片部を形成した略コ字状断面からなり、下面に所要数のアンカー部材を設けたベースプレートとの組合わせから構成され、前記ベースプレートの下方にコンクリートを打設し、そのベースプレート上に免震装置を設置するという技術手段を採用した。前記ベースプレートの対向する両側の縁部に形成した屈曲片部の一部をコンクリート中に埋設するようにすれば、その屈曲片部による補強効果を更に高めることができる(請求項2)。また、地盤側に所要数の支持部材を設置し、該支持部材を介して前記ベースプレートを支持した上、前記屈曲片部の一部がコンクリート中に埋設されるように前記ベースプレートの下方にコンクリートを打設し、そのコンクリートの固化後、該コンクリートと前記ベースプレートとの間隙部に充填される無収縮固化材の固化を待たずに、前記ベースプレート上への免震装置の設置作業を行うことにより、工事期間の短縮も可能である(請求項3)。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)本発明におけるベースプレートは、従来のように型枠を介在させることなく、地盤側に設置した支持部材により直接支持するように構成したので、型枠の施工精度の免震装置の設置精度への影響は解消され、免震装置に係る設置精度の向上に有効である。また、従来のような型枠に対する過大な強度の必要性や、基礎コンクリートに対する面倒なアンカー材設置用の空隙部の形成作業の必要性からも解放される。
(2)しかも、本発明においては、少なくとも対向する両側の縁部に下方へ屈曲した屈曲片部を形成した略コ字状断面からなるベースプレートを採用したので、前記屈曲片部の補強効果によってベースプレートの上方からの荷重に対する撓みが大幅に減少されることから、この略コ字状断面のベースプレートの採用と上述の地盤側に設置した支持部材によるベースプレートの直接的な支持との組合わせが相俟って、より簡便な作業により免震装置に係る所期の設置精度を安定的かつ的確に得られるようになる。
(3)さらに、前記ベースプレートの対向する両側の縁部に形成した屈曲片部の一部をコンクリート中に埋設するようにすれば、それらの屈曲片部による補強作用を更に効果的に高めることができる。
(4)そして、前記屈曲片部の一部がコンクリート中に埋設されるようにベースプレートの下方にコンクリートを打設し、そのコンクリートの固化後、該コンクリートと前記ベースプレートとの間隙部に充填した無収縮固化材の固化を待たずに、前記ベースプレート上への免震装置の設置作業を行うようにすれば、その分、工事期間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、免震装置自体の形式を問わず、各種の免震装置の設置に適用することができる。前記ベースプレートは、少なくとも対向する両側の縁部に下方へ屈曲した屈曲片部を形成した略コ字状断面からなるものであれば、その屈曲片部の具体的な長さや傾斜角度に関しては選定が可能である。また、屈曲片部の下方の一部をコンクリート中に埋設するようにすれば、ベースプレートの強度の増大にきわめて有効であり、ベースプレートの下方の間隙部に充填した無収縮固化材の固化を待たずに、ベースプレート上への免震装置の設置作業を始めて工事期間を短縮する場合に好適であるが、屈曲片部の下端部をコンクリート上に当接した形態も可能である。前記支持部材は、地盤側に設置するものであれば、捨てコンクリート上や、地盤上あるいは捨てコンクリート上に形成された、基礎コンクリートの下部構造としてのコンクリートブロック上などに設置したものでよい。また、支持部材は、地盤側に立設された棒状のものでもよいし、地盤側に固着されたフレーム状のものでもよい。
【実施例1】
【0008】
図1〜図4は本発明に係る免震装置の設置装置に関する第1実施例を示したものであり、図1は一部を断面で表した正面図、図2は平面図、図3は側面図、図4は図3の拡大図である。図中1はベースプレートで、図2に示したように長方形からなる平板部2と、図3及び図4に示したように前記平板部2の長辺側の対向する両側の縁部3,4に一体形成された下方へ屈曲した屈曲片部5,6とから構成されている。本実施例では、屈曲片部5,6が平板部2に対して下方へ垂直に屈曲された場合を例示したが、前述のようにそれらの屈曲片部5,6の具体的な傾斜角度や長さに関しては変更が可能である。
【0009】
図1に示したように、ベースプレート1には、下面に所要数のアンカー部材を設けている。本実施例では、図2に示したようにベースプレート1を構成する平板部2の長辺側の対向する両側の縁部3,4に沿って3個ずつのアンカー部材7〜12を設けている。これらのアンカー部材7〜12の上部には雌ネジが形成されており、それらの雌ネジに対して固定ボルトを螺合することにより免震装置を締付け固定し得るように構成されている。このように、本実施例では、アンカー部材7〜12を平板部2の両側の縁部3,4に沿って長手方向に配設し、それらのアンカー部材7〜12の上部に形成した雌ネジを用いてレール形の免震装置を固定する場合に好適な形態を例示したが、アンカー部材の具体的な配置に関しては免震装置側の固定位置に応じて変更が可能なことはいうまでもない。なお、本実施例では、平板部2の中心線に沿って雌ネジを有しないアンカー部材13,14を設けて定着作用の強化を図っている。なお、図2中の15〜17は、グラウト材の注入孔あるいは排気孔として使用可能な開口部である。
【0010】
次に、前記ベースプレート1の支持手段に関して説明する。図1に示したように、ベースプレート1は、捨てコンクリート18の所定位置に設置された所要数の支持部材19によって所定の高さに支持されるように構成されている。本実施例では、図4に示したように、固定ボルト20により捨てコンクリート18上の所定位置に固定された固定ベース21に立設した2本ずつの支柱22,23によって前記支持部材19を構成している。それらの支柱22,23の外周面には全長に雄ネジが形成されており、その下部は固定ベース21に溶接等により固着された長ナット24に螺入した状態で固定ナット25によって締付け固定し得るように構成されている。また、図1に示したように支柱22,23の上部にも長ナット26が螺合されており、ベースプレート1に形成された挿通孔を介して上方へ突出した貫通部分に固定ナット27を螺合して、それらの長ナット26と固定ナット27の螺合位置の調整を介してベースプレート1を所定の高さに支持し得るように構成されている。
【0011】
しかして、免震装置の設置作業に当っては、先ず捨てコンクリート18の所定位置に固定ボルト20を用いて固定ベース21を固定する。そして、その固定ベース21上に溶接等により固着された長ナット24に対して支柱22,23の下部を螺入して固定ナット25により締付け固定することにより支柱22,23を所定位置に立設する。さらに、各支柱22,23の上部に螺合した長ナット26の高さ調整を行い、しかる後、それらの長ナット26上にベースプレート1を載置し、ベースプレート1に形成した挿通孔を介して上方に突出した支柱22,23の貫通部分に固定ナット27を螺合して締付け固定する。これにより、ベースプレート1は、支持部材19を構成する支柱22,23を介して所定高さに支持される。以上のように、本発明の場合には、従来のように型枠を介在させたり、アンカー部材設置用の空隙部を形成したりする必要性はないので、ベースプレート1を簡便かつ高精度に所期の設置状態に支持することができる。なお、本実施例では捨てコンクリート18上に固定ベース21を固定ボルト20にて固定した上で支柱22,23を立設する場合を例示したが、予め固定ベース21に支柱22,23を立設した状態において捨てコンクリート18上に固定するようにしてもよい。
【0012】
次に、図1に示したように、本実施例では、前記ベースプレート1に形成した屈曲片部5,6の下方の一部が埋設される高さL−Lまで基礎コンクリートを打設する。この基礎コンクリートの固化により、屈曲片部5,6の下部が強固に固定される結果、ベースプレート1の上方からの荷重に対する撓みが大幅に減少されるので、その変形量を免震装置の設置に全く支障のない程度に簡便に抑え込むことが可能である。したがって、基礎コンクリートとベースプレート1との間隙部Aに充填される無収縮固化材の固化を待たずに、ベースプレート1上への免震装置の設置作業を始めることが可能である。すなわち、基礎コンクリートとベースプレート1との間隙部Aへの無収縮固化材の充填作業の時期や固化の時期に拘束されることなく、ベースプレート1上への免震装置の設置作業を進めることができることから、その分、工事期間を短縮することが可能である。
【実施例2】
【0013】
図5〜図7は本発明に係る免震装置の設置装置に関する第2実施例を示したものであり、図5は一部を断面で表した正面図、図6は平面図、図7は一部を断面で表した部分拡大側面図である。図示のように、本実施例は前記第1実施例の変形例であり、前記ベースプレート1を構成する平板部2の長辺側の両側縁部3,4に形成した屈曲片部5,6に加えて、短辺側の対向する両側縁部28,29にも下方へ屈曲した屈曲片部30,31を形成したもので、その余の構成においては異なるところはない。すなわち、本実施例に係るベースプレート32の場合には、平板部2の長辺側及び短辺側の全ての周辺部に屈曲片部5,6,30,31を形成したので、その補強作用が更に強化されるだけでなく、それらの屈曲片部5,6,30,31によって基礎コンクリートとベースプレート1との間に形成される無収縮固化材充填用の間隙部Aの全周囲が閉鎖される点で特徴を有する。したがって、基礎コンクリートとベースプレート1との間に形成される間隙部Aへ無収縮固化材を充填する場合には、前記第1実施例では、屈曲片部が形成されない平板部2の短辺側の開放部を桟木等を用いて塞いだ上でグラウト材等を注入する必要があるが、本実施例の場合には、前記屈曲片部5,6,30,31が型枠としても機能することから、そのまま平板部2に形成した開口部15〜17を適当に用いてグラウト材等を注入するだけで、無収縮固化材の充填が可能である。
【実施例3】
【0014】
図8〜図10は本発明に係る免震装置の設置装置に関する第3実施例を示したものであり、図8は一部を断面で表した正面図、図9は平面図、図10は一部を断面で表した拡大側面図である。本実施例に係るベースプレート33の場合には、図10に示したように、ベースプレート33の免震装置34が載置されない両側の部分を上方へ変形して膨出部35,36を形成し、その内部に無収縮固化材の充填時に巻込まれた空気を排出するための排気空間Bを形成した点で特徴を有し、その余の構成においては前記第1、2実施例と基本的に異なるところはない。図9に示したように、膨出部35,36には排気空間Bに連通した排気孔37,38が形成されている。しかして、本実施例の場合には、図8に示したように例えば高さL−Lまで打設された基礎コンクリートとベースプレート33との間隙部Aに対してグラウト材等の無収縮固化材を充填する際に空気が巻込まれたとしても、その空気は排気空間Bを通って排気孔37,38からスムーズに外部へ排気される。したがって、巣の少ない良好な充填状態が得られるとともに、無収縮性固化材とベースプレート33の免震装置載置部の下面との良好な密接状態が得られるので、強固で高精度かつ安定性のよい免震装置34の設置状態が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に関する第1実施例を一部断面で表した正面図である。
【図2】同実施例を示した平面図である。
【図3】同実施例を示した側面図である。
【図4】図3を拡大して示した拡大図である。
【図5】本発明に関する第2実施例を一部断面で表した正面図である。
【図6】同実施例を示した平面図である。
【図7】同実施例を一部断面で表した部分拡大側面図である。
【図8】本発明に関する第3実施例を一部断面で表した正面図である。
【図9】同実施例を示した平面図である。
【図10】同実施例を一部断面で表した拡大側面図である。
【符号の説明】
【0016】
1…ベースプレート、2…平板部、3,4…縁部、5,6…屈曲片部、7〜14…アンカー部材、15〜17…開口部、18…捨てコンクリート、19…支持部材、20…固定ボルト、21…固定ベース、22,23…支柱、24…長ナット、25…固定ナット、26…長ナット、27…固定ナット、28,29…縁部、30,31…屈曲片部、32…ベースプレート、33…ベースプレート、34…免震装置、35,36…膨出部、37,38…排気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤側に設置される所要数の支持部材と、該支持部材によって支持される、少なくとも対向する両側の縁部に下方へ屈曲した屈曲片部を形成した略コ字状断面からなり、下面に所要数のアンカー部材を設けたベースプレートとの組合わせから構成され、前記ベースプレートの下方にコンクリートを打設し、そのベースプレート上に免震装置を設置するように構成したことを特徴とする免震装置の設置装置。
【請求項2】
前記ベースプレートの対向する両側の縁部に形成した屈曲片部の一部をコンクリート中に埋設することを特徴とする請求項1に記載の免震装置の設置装置。
【請求項3】
地盤側に所要数の支持部材を設置し、該支持部材を介して、少なくとも対向する両側の縁部に下方へ屈曲した屈曲片部を形成した略コ字状断面からなり、下面に所要数のアンカー部材を設けたベースプレートを支持した上、前記屈曲片部の一部がコンクリート中に埋設されるように前記ベースプレートの下方にコンクリートを打設し、そのコンクリートの固化後、該コンクリートと前記ベースプレートとの間隙部に充填される無収縮固化材の固化を待たずに、前記ベースプレート上への免震装置の設置作業を行うことを特徴とする免震装置の設置方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−2127(P2008−2127A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172012(P2006−172012)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】