免震装置
【課題】案内レールと球体を用いた免震層において、球体の位置に基づく案内レール側との接触圧の変動や回転率の変動を改善し、被支持体側と支持体側との相対的な位置関係に関わらずほぼ一定の免震性能が得られる安定した免震装置を提供する。
【解決手段】互いに離間して配設した一定の傾斜角からなる対向した傾斜面5,6を備え、それらの傾斜面5,6相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように構成した案内レール1と、この案内レール1のそれぞれの傾斜面5,6に対して内側から当接して転動する球体2とを備え、その球体2が傾斜面5,6に当接しながら中央部から外端部側へ転動する際に生じる該球体2自体の高さ方向の変位により復帰機能を付与する。
【解決手段】互いに離間して配設した一定の傾斜角からなる対向した傾斜面5,6を備え、それらの傾斜面5,6相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように構成した案内レール1と、この案内レール1のそれぞれの傾斜面5,6に対して内側から当接して転動する球体2とを備え、その球体2が傾斜面5,6に当接しながら中央部から外端部側へ転動する際に生じる該球体2自体の高さ方向の変位により復帰機能を付与する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被支持体側と支持体側との間に設置する免震装置に関する。より詳しくは、被支持体側と支持体側との相対的な位置関係を元の位置関係に復帰させる原点復帰機能を備えた免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、球体や、ローラ、車輪などの転動体を使用する転がり系の支承方式を採用した免震装置は広く知られている。これらの転がり系の支承方式を採用した免震装置は、被支持体側と支持体側との間の絶縁性に優れているものの、正確な軌道を維持したり円滑な原点復帰機構を確保するための構造が複雑になり、延いてはコスト高の要因になるといった基本的な問題があった。そこで、これらの問題を解決するため、平板状の案内レールを用い、その案内レールに離間させて形成した両側の案内支持縁部によって転動体を支持案内するように構成するとともに、その両側の案内支持縁部相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように形成することにより、直線的な軌道と原点復帰機能を実現した免震装置が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−48837号公報
【0003】
ところで、上記従来技術は、案内レールに形成した両側の案内支持縁部相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように形成するという簡素な構成により、正確な軌道と円滑な原点復帰機構を確保し得る点で優れたものであるが、転動体の位置によって案内支持縁部との当接位置が転動軸方向に変位するため、例えば転動体が球体の場合には、図13の(A)及び(B)に示したように、球体と案内レールとの当接部における接触角が、案内レールの中央部と両外端部ではθaからθbに変動し、それに伴って接触圧も変動するという技術的問題があった。また、転動体の回転半径も転動体の位置によって変動し、案内レールの中央部の方が両外端部より回転半径が小さくなり、同じ距離を移動する間の回転率が高くなるという技術的問題もあった。そして、それらの転動体の位置に基づく接触圧や回転率の変動は、被支持体側と支持体側との相対的な位置関係、すなわち免震装置による相対的な移動量によって免震性能が変動する要因にもなっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑み、転動体として球体を採用した場合に生じる球体の位置に基づく案内レール側との接触圧の変動や回転率の変動を改善し、被支持体側と支持体側との相対的な位置関係に関わらずほぼ一定の免震性能が得られ、動作的にも強度的にもより安定した免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、前記課題を解決するため、互いに離間して配設した一定の傾斜角からなる対向した傾斜面を備え、それらの傾斜面相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように構成した案内レールと、該案内レールのそれぞれの傾斜面に対して内側から当接して転動する球体とを備えるとの技術手段を採用した。この球体が前記傾斜面に当接しながら中央部から外端部側へ転動する際に生じる該球体自体の高さ方向の変位により復帰機能が付与される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)両側の傾斜面の傾斜角を一定に構成したので、軌道上における球体と傾斜面との接触角や接触圧がほぼ一定に保持される。これにより、球体の位置に関わらずほぼ一定の免震性能が得られ、球体のより円滑で安定した転動動作が可能になる。また、球体の位置に関わらず接触圧がほぼ一定に保持されることから、案内レールや球体の設計及び製造を含めて強度管理が容易であり、より簡便かつ的確に所期の免震性能を実現及び維持することができる。
(2)両側の傾斜面の傾斜角を一定に構成したので、軌道上における球体と傾斜面との接触角や球体の転動軸周りの回転半径がほぼ一定に保持される。これにより、従来技術に伴った回転率の変動が改善されることから、この点からも、球体の位置に関わらず安定した円滑な転動動作が得られ、より安定した免震動作を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る免震装置は、支持体側である地盤等の下部構造物側と被支持体側である躯体等の上部構造物側との間に設置して各種の建造物用の免震装置として広く適用することが可能である。場合に応じ、躯体の中間に設置することも可能である。さらに、例えばコンピュータ室のように既存あるいは新設の建造物の一室の床部の下方に設置して、当該室内のハードウェア機器等を保護する場合や、既存あるいは新設の建造物の内部に設置する展示物支持用の上部構造物と床部との間に設置して、美術品等の当該展示物を保護する場合などにも広く適用することが可能である。前記転動体としては球体を採用するが、その大きさに関しては場合に応じて適宜の選定が可能である。また、案内レールに互いに離間させて対向設置される球体の支持案内面としての傾斜面に関しては、共に一定の傾斜角から形成され、その一定の傾斜角を維持しながら、それらの傾斜面相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように構成されたものであれば足りる。その傾斜面相互間の間隔を変化させるために採用する転動方向に沿った傾斜面の具体的な形状に関しては、直線的に変化させることにより前記間隔を変化させるものが、軌道上における球体と傾斜面との接触角を常に一定に保持させることから望ましいが、特段、これに限定されるわけではなく、緩やかな曲線により変化させたものであってもよい。なお、案内レールの傾斜面の具体的な角度に関しては、上部構造物の質量や球体の軌道上の高低差すなわち原点復帰機能の強弱、球体の径と傾斜面相互間の間隔との比率などを勘案して適宜選定することができる。また、案内レールと球体との上下関係に関する制約はなく、どちらが上でも下でも適用が可能である。
【0008】
図1は本発明に係る免震装置の要部を示した概略斜視図である。図中1は案内レールであり、2はその案内レール1により支持案内される転動体としての球体である。本形態の案内レール1では、2つに分割されたレール部3,4から構成した場合を示したが、レール部3,4が互いに底面部側で連続的につながっている一体的な形態のものでもよい。案内レール1を構成するレール部3,4には、球体2の案内支持面としての傾斜面5,6が、それぞれ一定の傾斜角θを維持しながら球体2の転動方向に沿ってそれらの傾斜面5,6相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように直線的に変化するように形成されている。なお、ここでいう傾斜角θとは、球体2が転動する案内レール1の軸線方向に対して垂直な断面においてそれぞれ傾斜面5,6により形成される角度である。
【0009】
図2及び図3は本発明に係る免震装置の基本的な動作原理を説明するための説明図であり、図2は案内レール1の中央付近における球体2とレール部3,4に形成された傾斜面5,6との当接状態を示したものであり、図3は案内レール1の両外端部における球体2とレール部3,4に形成された傾斜面5,6との当接状態を示したものである。ここで、図2に示すように、案内レール1の中央付近における球体2との当接状態において、球体2の転動方向に対して垂直な断面で見ると、図4や図5で示すように球体2の中心Cからレールの設置方向の角度φ(球体2の転動方向と案内レール1の転動面に沿う方向とがなす角度φ)分だけずれた見かけ上の中心C′(断面上の中心C′)と傾斜面5,6の当接点を含む断面で表される。そして、この断面上の中心C′から重力(鉛直)方向に下ろした垂線と、その中心C′から傾斜面5,6の当接点を結ぶ線とがなす角度はレール部3,4の傾斜角θと同じになる。以上のことから、上部構造物からの荷重Wによって傾斜面5,6に生じる接触圧Paは、球体2の中心Cからその球体2の当接部に向けて働くことから次の式により算出することができる。
【数1】
【0010】
さらに、球体2と傾斜面5との当接部及び球体2と傾斜面6との当接部相互間の間隔Laは、上記内容から次の式により算出することができる(rは球体2の半径)。
【数2】
【0011】
同様に、図3に示すように、案内レール1の両外端部における当接状態において、球体2の転動方向に対して垂直な断面で見ると、球体2の中心Cからレールの設置方向の角度φ(球体2の転動方向と案内レール1の転動面に沿う方向とがなす角度φ)分だけずれた見かけ上の中心C″(断面上の中心C″)と傾斜面5,6の当接点を含む断面で表される。そして、この断面上の中心C″から重力(鉛直)方向に下ろした垂線と、その中心C″から傾斜面5,6の当接点を結ぶ線とがなす角度はレール部3,4の傾斜角θと同じであることからして、上部構造物からの荷重Wによって球体2の中心Cから傾斜面5,6の当接部に生じる接触圧Pbと、球体2と傾斜面5との当接部及び球体2と傾斜部6との当接部相互間の間隔Lbは次の式により算出することができる(rは球体2の半径)。
【数3】
【0012】
しかして、上述の図2に示した案内レール1の中央付近における球体2とレール部3,4に形成された傾斜面5,6との当接状態と、図3に示した案内レール1の両外端部における球体2とレール部3,4に形成された傾斜面5,6との当接状態とを比較すれば、接触角θ及びレール部3,4の設置方向の角度φが一定であることから、接触圧PaとPb及び当接部相互間の間隔LaとLbは変化しないことが明らかである。すなわち、本発明に係る免震装置における案内レール1の傾斜面5,6は、その案内レール1の全長において適宜設定された一定の接触角θに形成されているので、球体2の位置に関わらず、傾斜面5,6と球体2との当接部における接触圧P及び当接部相互間の間隔Lは、常に一定であり変化はしない。また、当接部相互間の間隔La,Lbが常に一定していることから、球体2の転動軸を中心とする回転半径も常に一定で変化しないので、球体2の位置に関わらず、球体2の回転率は常に一定になる。なお、案内レール1の中央における傾斜面5,6と球体2との当接状態においては、その当接部が4点になるため、上部構造物からの荷重Wに基づく接触圧Pはこの一瞬だけ半分になるが、球体2の全体の動きから見ると非常に僅かな時間に過ぎず、免震性能上の問題はない。因みに、案内レール1の中央付近における球体2と傾斜面5,6との当接状態を示した図2中の球体2の中心C′の高さと、案内レール1の両外端部における球体2と傾斜面5,6との当接状態を示した図3中の球体2の中心C″の高さとの差分が、中央部から両外端部まで転動した場合に生じる球体2自体の高さ方向の変位に相当し、これにより復帰機能が付与されることになる。
【実施例】
【0013】
以下に、上述の本発明の基本的構成を適用して具体化した実施例に関して説明する。図6〜図8は本発明の第1実施例を示したものであり、図6はその正面図、図7は平面図、図8はA−A断面図である。図示のように、本実施例に係る免震装置13は、中間に平板状の中間部材14を挟んで、下方に前記案内レール1と同様の基本的構成からなる下部案内レール15〜18を配設し、上方に同様の構成からなり上下を逆転した上部案内レール19〜22を前記下部案内レール15〜18と直交する方向に配設したものである。そして、それらの案内レール15〜22の傾斜面間にそれぞれ1個ずつの球体23を係合させた状態で中間部材14との間に介在させることにより、上部構造物24と下部構造物25との間のいかなる方向の相対的移動に対しても免震動作が得られるように構成している。すなわち、上部構造物24と下部構造物25との間の紙面左右方向の相対的移動に対しては下部案内レール15〜18と球体23と中間部材14との組合わせにより、また紙面前後方向の相対的移動に対しては上部案内レール19〜22と球体23と中間部材14との組合わせによりそれぞれ対応し、それらの案内レール15〜22と各球体23と中間部材14との組合わせによっていかなる方向の相対的移動に対しても免震動作が得られるように構成されている。
【0014】
図9及び図10は本発明の第2実施例を示したものであり、図9はその正面図、図10は平面図である。図示のように、本実施例に係る免震装置26は、中間に平板状の中間部材27を挟んで、下方に前記案内レール1や案内レール7と同様の基本的構成からなる下部案内レール28と同様の構成からなり上下を逆転した上部案内レール29とそれらの傾斜面間に係合された球体30との組合わせからなり、それぞれ免震装置として機能し得る免震ユニット31〜34を配設するとともに、上方に同様の構成からなる免震ユニット35〜38を前記免震ユニット31〜34と直交する方向に配設することにより、前記第1実施例と同様に上部構造物24と下部構造物25との間のいかなる方向の相対的移動に対しても免震動作が得られるように構成している。
【0015】
図11及び図12は本発明の第3実施例を示したものであり、図11はその正面図、図12は平面図である。本実施例は、前記第2実施例の変形例である。図示のように、本実施例に係る免震装置39では、中間部材として十字状の平板からなる中間部材40を採用し、その中間部材40を挟んで、上下に前記免震ユニットと同様の下部案内レール28と上部案内レール29とそれらの傾斜面間に係合された球体30との組合わせからなる免震ユニット41,42と、免震ユニット43,44とを前記中間部材40の形状に合わせて十字状に配設することにより、上部構造物24と下部構造物25との間のいかなる方向の相対的移動に対しても免震動作が得られるように構成している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る免震装置の要部を示した概略斜視図である。
【図2】本発明に係る免震装置の基本的な動作原理を説明するための説明図である。
【図3】同免震装置の基本的な動作原理を説明するための説明図である。
【図4】本発明に係る免震装置の案内レールと球体との当接状態を説明するための概略斜視図である。
【図5】同免震装置の案内レールと球体との当接状態を説明するための説明図である。
【図6】本発明の第1実施例を示した正面図である。
【図7】同実施例を示した平面図である。
【図8】図6のA−A断面図である。
【図9】本発明の第2実施例を示した正面図である。
【図10】同実施例を示した平面図である。
【図11】本発明の第3実施例を示した正面図である。
【図12】同実施例を示した平面図である。
【図13】従来技術における球体と案内レールとの当接状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1…案内レール、2…球体、3,4…レール部、5,6…傾斜面、13…免震装置、14…中間部材、15〜18…下部案内レール、19〜22…上部案内レール、23…球体、24…上部構造物、25…下部構造物、26…免震装置、27…中間部材、28…下部案内レール、29…上部案内レール、30…球体、31〜38…免震ユニット、39…免震装置、40…中間部材、41〜44…免震ユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、被支持体側と支持体側との間に設置する免震装置に関する。より詳しくは、被支持体側と支持体側との相対的な位置関係を元の位置関係に復帰させる原点復帰機能を備えた免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、球体や、ローラ、車輪などの転動体を使用する転がり系の支承方式を採用した免震装置は広く知られている。これらの転がり系の支承方式を採用した免震装置は、被支持体側と支持体側との間の絶縁性に優れているものの、正確な軌道を維持したり円滑な原点復帰機構を確保するための構造が複雑になり、延いてはコスト高の要因になるといった基本的な問題があった。そこで、これらの問題を解決するため、平板状の案内レールを用い、その案内レールに離間させて形成した両側の案内支持縁部によって転動体を支持案内するように構成するとともに、その両側の案内支持縁部相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように形成することにより、直線的な軌道と原点復帰機能を実現した免震装置が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−48837号公報
【0003】
ところで、上記従来技術は、案内レールに形成した両側の案内支持縁部相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように形成するという簡素な構成により、正確な軌道と円滑な原点復帰機構を確保し得る点で優れたものであるが、転動体の位置によって案内支持縁部との当接位置が転動軸方向に変位するため、例えば転動体が球体の場合には、図13の(A)及び(B)に示したように、球体と案内レールとの当接部における接触角が、案内レールの中央部と両外端部ではθaからθbに変動し、それに伴って接触圧も変動するという技術的問題があった。また、転動体の回転半径も転動体の位置によって変動し、案内レールの中央部の方が両外端部より回転半径が小さくなり、同じ距離を移動する間の回転率が高くなるという技術的問題もあった。そして、それらの転動体の位置に基づく接触圧や回転率の変動は、被支持体側と支持体側との相対的な位置関係、すなわち免震装置による相対的な移動量によって免震性能が変動する要因にもなっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑み、転動体として球体を採用した場合に生じる球体の位置に基づく案内レール側との接触圧の変動や回転率の変動を改善し、被支持体側と支持体側との相対的な位置関係に関わらずほぼ一定の免震性能が得られ、動作的にも強度的にもより安定した免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、前記課題を解決するため、互いに離間して配設した一定の傾斜角からなる対向した傾斜面を備え、それらの傾斜面相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように構成した案内レールと、該案内レールのそれぞれの傾斜面に対して内側から当接して転動する球体とを備えるとの技術手段を採用した。この球体が前記傾斜面に当接しながら中央部から外端部側へ転動する際に生じる該球体自体の高さ方向の変位により復帰機能が付与される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)両側の傾斜面の傾斜角を一定に構成したので、軌道上における球体と傾斜面との接触角や接触圧がほぼ一定に保持される。これにより、球体の位置に関わらずほぼ一定の免震性能が得られ、球体のより円滑で安定した転動動作が可能になる。また、球体の位置に関わらず接触圧がほぼ一定に保持されることから、案内レールや球体の設計及び製造を含めて強度管理が容易であり、より簡便かつ的確に所期の免震性能を実現及び維持することができる。
(2)両側の傾斜面の傾斜角を一定に構成したので、軌道上における球体と傾斜面との接触角や球体の転動軸周りの回転半径がほぼ一定に保持される。これにより、従来技術に伴った回転率の変動が改善されることから、この点からも、球体の位置に関わらず安定した円滑な転動動作が得られ、より安定した免震動作を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る免震装置は、支持体側である地盤等の下部構造物側と被支持体側である躯体等の上部構造物側との間に設置して各種の建造物用の免震装置として広く適用することが可能である。場合に応じ、躯体の中間に設置することも可能である。さらに、例えばコンピュータ室のように既存あるいは新設の建造物の一室の床部の下方に設置して、当該室内のハードウェア機器等を保護する場合や、既存あるいは新設の建造物の内部に設置する展示物支持用の上部構造物と床部との間に設置して、美術品等の当該展示物を保護する場合などにも広く適用することが可能である。前記転動体としては球体を採用するが、その大きさに関しては場合に応じて適宜の選定が可能である。また、案内レールに互いに離間させて対向設置される球体の支持案内面としての傾斜面に関しては、共に一定の傾斜角から形成され、その一定の傾斜角を維持しながら、それらの傾斜面相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように構成されたものであれば足りる。その傾斜面相互間の間隔を変化させるために採用する転動方向に沿った傾斜面の具体的な形状に関しては、直線的に変化させることにより前記間隔を変化させるものが、軌道上における球体と傾斜面との接触角を常に一定に保持させることから望ましいが、特段、これに限定されるわけではなく、緩やかな曲線により変化させたものであってもよい。なお、案内レールの傾斜面の具体的な角度に関しては、上部構造物の質量や球体の軌道上の高低差すなわち原点復帰機能の強弱、球体の径と傾斜面相互間の間隔との比率などを勘案して適宜選定することができる。また、案内レールと球体との上下関係に関する制約はなく、どちらが上でも下でも適用が可能である。
【0008】
図1は本発明に係る免震装置の要部を示した概略斜視図である。図中1は案内レールであり、2はその案内レール1により支持案内される転動体としての球体である。本形態の案内レール1では、2つに分割されたレール部3,4から構成した場合を示したが、レール部3,4が互いに底面部側で連続的につながっている一体的な形態のものでもよい。案内レール1を構成するレール部3,4には、球体2の案内支持面としての傾斜面5,6が、それぞれ一定の傾斜角θを維持しながら球体2の転動方向に沿ってそれらの傾斜面5,6相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように直線的に変化するように形成されている。なお、ここでいう傾斜角θとは、球体2が転動する案内レール1の軸線方向に対して垂直な断面においてそれぞれ傾斜面5,6により形成される角度である。
【0009】
図2及び図3は本発明に係る免震装置の基本的な動作原理を説明するための説明図であり、図2は案内レール1の中央付近における球体2とレール部3,4に形成された傾斜面5,6との当接状態を示したものであり、図3は案内レール1の両外端部における球体2とレール部3,4に形成された傾斜面5,6との当接状態を示したものである。ここで、図2に示すように、案内レール1の中央付近における球体2との当接状態において、球体2の転動方向に対して垂直な断面で見ると、図4や図5で示すように球体2の中心Cからレールの設置方向の角度φ(球体2の転動方向と案内レール1の転動面に沿う方向とがなす角度φ)分だけずれた見かけ上の中心C′(断面上の中心C′)と傾斜面5,6の当接点を含む断面で表される。そして、この断面上の中心C′から重力(鉛直)方向に下ろした垂線と、その中心C′から傾斜面5,6の当接点を結ぶ線とがなす角度はレール部3,4の傾斜角θと同じになる。以上のことから、上部構造物からの荷重Wによって傾斜面5,6に生じる接触圧Paは、球体2の中心Cからその球体2の当接部に向けて働くことから次の式により算出することができる。
【数1】
【0010】
さらに、球体2と傾斜面5との当接部及び球体2と傾斜面6との当接部相互間の間隔Laは、上記内容から次の式により算出することができる(rは球体2の半径)。
【数2】
【0011】
同様に、図3に示すように、案内レール1の両外端部における当接状態において、球体2の転動方向に対して垂直な断面で見ると、球体2の中心Cからレールの設置方向の角度φ(球体2の転動方向と案内レール1の転動面に沿う方向とがなす角度φ)分だけずれた見かけ上の中心C″(断面上の中心C″)と傾斜面5,6の当接点を含む断面で表される。そして、この断面上の中心C″から重力(鉛直)方向に下ろした垂線と、その中心C″から傾斜面5,6の当接点を結ぶ線とがなす角度はレール部3,4の傾斜角θと同じであることからして、上部構造物からの荷重Wによって球体2の中心Cから傾斜面5,6の当接部に生じる接触圧Pbと、球体2と傾斜面5との当接部及び球体2と傾斜部6との当接部相互間の間隔Lbは次の式により算出することができる(rは球体2の半径)。
【数3】
【0012】
しかして、上述の図2に示した案内レール1の中央付近における球体2とレール部3,4に形成された傾斜面5,6との当接状態と、図3に示した案内レール1の両外端部における球体2とレール部3,4に形成された傾斜面5,6との当接状態とを比較すれば、接触角θ及びレール部3,4の設置方向の角度φが一定であることから、接触圧PaとPb及び当接部相互間の間隔LaとLbは変化しないことが明らかである。すなわち、本発明に係る免震装置における案内レール1の傾斜面5,6は、その案内レール1の全長において適宜設定された一定の接触角θに形成されているので、球体2の位置に関わらず、傾斜面5,6と球体2との当接部における接触圧P及び当接部相互間の間隔Lは、常に一定であり変化はしない。また、当接部相互間の間隔La,Lbが常に一定していることから、球体2の転動軸を中心とする回転半径も常に一定で変化しないので、球体2の位置に関わらず、球体2の回転率は常に一定になる。なお、案内レール1の中央における傾斜面5,6と球体2との当接状態においては、その当接部が4点になるため、上部構造物からの荷重Wに基づく接触圧Pはこの一瞬だけ半分になるが、球体2の全体の動きから見ると非常に僅かな時間に過ぎず、免震性能上の問題はない。因みに、案内レール1の中央付近における球体2と傾斜面5,6との当接状態を示した図2中の球体2の中心C′の高さと、案内レール1の両外端部における球体2と傾斜面5,6との当接状態を示した図3中の球体2の中心C″の高さとの差分が、中央部から両外端部まで転動した場合に生じる球体2自体の高さ方向の変位に相当し、これにより復帰機能が付与されることになる。
【実施例】
【0013】
以下に、上述の本発明の基本的構成を適用して具体化した実施例に関して説明する。図6〜図8は本発明の第1実施例を示したものであり、図6はその正面図、図7は平面図、図8はA−A断面図である。図示のように、本実施例に係る免震装置13は、中間に平板状の中間部材14を挟んで、下方に前記案内レール1と同様の基本的構成からなる下部案内レール15〜18を配設し、上方に同様の構成からなり上下を逆転した上部案内レール19〜22を前記下部案内レール15〜18と直交する方向に配設したものである。そして、それらの案内レール15〜22の傾斜面間にそれぞれ1個ずつの球体23を係合させた状態で中間部材14との間に介在させることにより、上部構造物24と下部構造物25との間のいかなる方向の相対的移動に対しても免震動作が得られるように構成している。すなわち、上部構造物24と下部構造物25との間の紙面左右方向の相対的移動に対しては下部案内レール15〜18と球体23と中間部材14との組合わせにより、また紙面前後方向の相対的移動に対しては上部案内レール19〜22と球体23と中間部材14との組合わせによりそれぞれ対応し、それらの案内レール15〜22と各球体23と中間部材14との組合わせによっていかなる方向の相対的移動に対しても免震動作が得られるように構成されている。
【0014】
図9及び図10は本発明の第2実施例を示したものであり、図9はその正面図、図10は平面図である。図示のように、本実施例に係る免震装置26は、中間に平板状の中間部材27を挟んで、下方に前記案内レール1や案内レール7と同様の基本的構成からなる下部案内レール28と同様の構成からなり上下を逆転した上部案内レール29とそれらの傾斜面間に係合された球体30との組合わせからなり、それぞれ免震装置として機能し得る免震ユニット31〜34を配設するとともに、上方に同様の構成からなる免震ユニット35〜38を前記免震ユニット31〜34と直交する方向に配設することにより、前記第1実施例と同様に上部構造物24と下部構造物25との間のいかなる方向の相対的移動に対しても免震動作が得られるように構成している。
【0015】
図11及び図12は本発明の第3実施例を示したものであり、図11はその正面図、図12は平面図である。本実施例は、前記第2実施例の変形例である。図示のように、本実施例に係る免震装置39では、中間部材として十字状の平板からなる中間部材40を採用し、その中間部材40を挟んで、上下に前記免震ユニットと同様の下部案内レール28と上部案内レール29とそれらの傾斜面間に係合された球体30との組合わせからなる免震ユニット41,42と、免震ユニット43,44とを前記中間部材40の形状に合わせて十字状に配設することにより、上部構造物24と下部構造物25との間のいかなる方向の相対的移動に対しても免震動作が得られるように構成している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る免震装置の要部を示した概略斜視図である。
【図2】本発明に係る免震装置の基本的な動作原理を説明するための説明図である。
【図3】同免震装置の基本的な動作原理を説明するための説明図である。
【図4】本発明に係る免震装置の案内レールと球体との当接状態を説明するための概略斜視図である。
【図5】同免震装置の案内レールと球体との当接状態を説明するための説明図である。
【図6】本発明の第1実施例を示した正面図である。
【図7】同実施例を示した平面図である。
【図8】図6のA−A断面図である。
【図9】本発明の第2実施例を示した正面図である。
【図10】同実施例を示した平面図である。
【図11】本発明の第3実施例を示した正面図である。
【図12】同実施例を示した平面図である。
【図13】従来技術における球体と案内レールとの当接状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1…案内レール、2…球体、3,4…レール部、5,6…傾斜面、13…免震装置、14…中間部材、15〜18…下部案内レール、19〜22…上部案内レール、23…球体、24…上部構造物、25…下部構造物、26…免震装置、27…中間部材、28…下部案内レール、29…上部案内レール、30…球体、31〜38…免震ユニット、39…免震装置、40…中間部材、41〜44…免震ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間して配設した一定の傾斜角からなる対向した傾斜面を備え、それらの傾斜面相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように構成した案内レールと、該案内レールのそれぞれの傾斜面に対して内側から当接して転動する球体とを備えたことを特徴とする免震装置。
【請求項1】
互いに離間して配設した一定の傾斜角からなる対向した傾斜面を備え、それらの傾斜面相互間の間隔が中央部より両外端部へ向けて徐々に小さくなるように構成した案内レールと、該案内レールのそれぞれの傾斜面に対して内側から当接して転動する球体とを備えたことを特徴とする免震装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−239892(P2007−239892A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63420(P2006−63420)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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