説明

入れ子成形方法、金型

【課題】金型に固定される入れ子の端部の変形を、より簡易的な方法で防止する。
【解決手段】成形品11に穴を形成するために、金型31の意匠成形面32に固定され、且つ成形品11の穴13のエッジをR面取り形状とするために、意匠成形面32側の端部に、意匠成形面32に向かって末広がりとなる逆R形状の鍔部34が形成される入れ子33を成形する場合、鍔部34が削り出される前の入れ子母材61を金型31とは異なる治具62に固定し、先端形状がR面取り形状に対応する刃具を備えた切削加工機にて、入れ子母材61の側面を、刃具の先端が治具62に食い込む位置まで切削し、入れ子母材61から鍔部34を削り出すことにより、入れ子33を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型に固定される入れ子の成形方法、及びそれによって成形された入れ子を有する金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鏡面光沢のある意匠面を有する成形品を作成する目的などのため、金型の意匠成形面に、鏡面磨きを要求される場合がある。そして、成形品の意匠面に穴を設けるときには、金型の意匠成形面に、成形品に穴を形成するための凸部が設けられる。意匠成形面に凸部がある状態では、鏡面磨きを行いにくいので、凸部を別体の入れ子で構成することが考えられる。つまり、先ず凸部のない平面な意匠成形面に鏡面磨きを行い、それから意匠成形面に入れ子を固定することで凸部を形成する。
【0003】
また、成形品における上記穴のエッジに、R面取りの要求がある場合、入れ子の意匠成形面側の端部に、意匠成形面に向かって末広がりとなる逆R形状(裾野状又はラッパ状)の鍔部を形成することになるが、その鍔部が先端に向かうほど薄肉となるため、剛性が低下し、変形しやすくなってしまう。
特許文献1に記載された従来技術では、入れ子の端部やエッジ部の破損発生を防止するために、入れ子をジルコニアセラミックで構成すると共に、この表面に活性金属膜と金属層を成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−300941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、入れ子をジルコニアセラミックで構成し、その表面に活性金属膜と金属層を成形する場合、工数やコストが増大してしまう。また、薄肉となる鍔部の先端に、活性金属膜と金属層を成形するとこと自体が容易ではない。
本発明の課題は、金型に固定される入れ子の端部の変形を、より簡易的な方法で防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
成形品に穴を形成するために、金型の意匠成形面に固定され、且つ前記成形品の穴のエッジをR面取り形状とするために、前記意匠成形面側の端部に、前記意匠成形面に向かって末広がりとなる逆R形状の鍔部が形成される入れ子を成形する場合、
前記鍔部が削り出される前の入れ子母材を前記金型とは異なる治具に固定し、
先端形状が前記R面取り形状に対応する刃具を備えた切削加工機にて、前記入れ子母材の側面を、前記刃具の先端が前記治具に食い込む位置まで切削し、前記入れ子母材から前記鍔部を削り出すことにより、前記入れ子を成形することを特徴とする。
【0007】
刃具の先端が治具に接する位置で切削を止めると、鍔部の先端で逆R形状と意匠成形面とがなす接線角は0度となる。しかしながら、刃具の先端が治具に食い込む位置まで切削し、入れ子母材から鍔部を削り出すと、鍔部の先端で逆R形状と意匠成形面とがなす接線角が0度よりも大きくなる。したがって、刃具の先端が治具に接する位置で切削を行う場合と比べて、刃具の先端が治具に食い込む位置で切削を行うと、鍔部の先端側の肉厚が増加するので、剛性が高まり、変形しにくくなる。すなわち、金型に固定される入れ子の端部の変形を、より簡易的に防止することができる。
また、意匠成形面に入れ子を固定して成形品に穴を形成する構造なので、入れ子を固定する前のフラットな意匠成形面に対して、鏡面磨きなどの仕上げ加工を行いやすくなる。したがって、意匠成形面の歪みを防ぎ、平面度を向上させることができる。また、意匠成形面の磨き工数を削減することもできる。
【0008】
本発明の他の形態は、
前記鍔部の先端位置で前記逆R形状と前記意匠成形面とがなす接線角が28度〜29度となるように、前記刃具の先端が前記治具に食い込む位置まで切削することを特徴とする。
このように、接線角を28度〜29度の範囲に設定することで、穴のエッジに必要とされるR面取り形状を維持できる範囲で、鍔部の先端側の肉厚を増加させ、剛性を高めることができる。
【0009】
本発明の他の形態は、
金型の意匠成形面に、上記の方法によって成形された入れ子が固定されることを特徴とする。
このように、上記の方法によって成形された入れ子を用いることで、入れ子を固定する前の意匠成形面を、全面に亘って要求精度まで均一に磨くことが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】成形品の概観図である。
【図2】入れ子を用いない金型構造の断面図である。
【図3】入れ子を用いた金型構造の断面図である。
【図4】入れ子の固定方法を示す金型構造の断面図である。
【図5】逆R形状となる鍔部の拡大図である。
【図6】刃具の先端が治具に接する位置で切削を行っている図である。
【図7】刃具の先端が治具に食い込む位置で切削を行っている図である。
【図8】刃具先端のR寸法の違いを示す図である。
【図9】入れ子を意匠成形面に嵌合させる金型構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第一実施形態》
(成形品)
先ず、射出成形によって得たい成形品について説明する。
図1は、成形品の概観図である。
略板状の成形品11には、鏡面光沢のある意匠面12が形成され、且つ複数の穴13が形成される。
【0012】
意匠面12には、段差、面ウネリ、面粗さを可及的に抑制することが要求される。要求レベルは、段差が05μm以下、面ウネリが05μm以下、面粗さがRa005μm以下とする。
成形品11は、各種ボタンが配設されるパネルとして使用され、穴13は、各種ボタンが配設される穴である。すなわち、成形品11の特に穴13の周りは、人が操作する部位となるので、穴13のエッジをR面取り形状とする。
成形品11の成形樹脂には、例えばABS樹脂を使用する。
【0013】
(金型構造)
次に、金型構造について説明する。
上記のような成形品11を成形する金型構造として、先ず入れ子を用いない構造が考えられる。
図2は、入れ子を用いない金型構造の断面図である。
金型21は、キャビティであって、底面に意匠成形面22が形成され、意匠成形面22には、成形品11に穴を形成するための凸部23が形成される。つまり、金型21に凸部23が一体形成されている。
なお、成形品11には、前述したように複数の穴13が配設されるため、意匠成形面22には、実際は穴13に対応する数だけ凸部23が形成されるが、便宜上、ここでは一つの凸部23だけを描いている。
【0014】
凸部23は、例えば金型母材に対して放電加工(EDM:Electrical Discharge Machining)を行うことによって削り出される。凸部23と意匠成形面22との角は、穴13のR面取り形状に対応した逆R形状(裾野状又はラッパ状)となるように形成される。
このように、意匠成形面22に凸部23がある状態では、意匠成形面22に鏡面磨きを行いにくい。つまり、凸部23を避けながら鏡面磨きを行うと、意匠成形面22を全面に亘って要求精度まで均一に磨くことが難しくなる。
【0015】
そこで、本実施形態では、入れ子を用いた構造を採用する。
図3は、入れ子を用いた金型構造の断面図である。
金型31は、キャビティであって、底面には全体がフラットな意匠成形面32が形成される。この意匠成形面32には、フライス加工によって、予め鏡面磨きが行われる。この場合、前述したような凸部23のないフラットな平面なので、要求精度まで均一に磨くことが容易となる。
【0016】
そして、前述したような凸部23に相当する入れ子33を置き駒として意匠成形面32に載置して固定することで、成形品11を成形するための金型構造とする。すなわち、入れ子33には、意匠成形面32側の端部に、この意匠成形面32に向かって末広がりとなる逆R形状(裾野状又はラッパ状)の鍔部34が形成される。入れ子33は、意匠成形面32に対して所謂Rエンドで分割されており、そのR終点が薄肉の突端となるため、取り扱いに注意を要する。
【0017】
(入れ子の固定方法)
次に、入れ子33の固定方法について説明する。
図4は、入れ子の固定方法を示す金型構造の断面図である。
入れ子33には、厚み方向に貫通する二つのガイド穴41と一つのボルト穴42とが形成される。また、金型31には、入れ子33に対応して、二つのガイド穴43と一つのボルト穴44とが形成される。入れ子33のガイド穴41及び金型31のガイド穴43にノックピン45を挿通することで、金型31に対して入れ子33が位置決めされる。ガイド穴41及びガイド穴43に対するノックピン45の嵌め合いは隙間ばめとする。また、金型31のボルト穴44に挿通したボルト46を入れ子33のボルト穴42に締結することで、金型31に対して入れ子33が固定される。入れ子33は、厚みが薄いため、金型31の外側からボルト46で固定する。
【0018】
(鍔部の形状)
次に、鍔部34の形状について説明する。
図5は、逆R形状となる鍔部の拡大図である。
前述したように、入れ子33は、意匠成形面32に対して所謂Rエンドで分割されており、そのR終点が薄肉の突端となる。鍔部34は、その先端位置で逆R形状と意匠成形面32とがなす接線角αが28度〜29度となるように形成される。
【0019】
(金型の加工方法)
次に、金型31の加工方法について説明する。
金型31の厚みは、なるべく薄くすることが望ましい。これは取り扱いの容易性と、磨き易さと、加工のし易さを考慮してのことである。
意匠成形面32は、鏡面研削を基本とする。
意匠成形面32における外周部の逆R形状はMC加工とし、一本のフライスで加工を行い、刃具の交換に伴う段差の発生を抑制する。面粗さは可及的に細かくする。
鏡面磨き代(例えば5μm)を考慮して、加工深さを決める。
【0020】
(入れ子の成形方法)
次に、入れ子33の成形方法について説明する。
鍔部34を削り出す前の入れ子母材61と、この入れ子母材61を固定して加工するための治具62と、を用意する。入れ子母材61には、厚み方向に貫通する前述した二つのガイド穴41及び一つのボルト穴42を加工しておき、意匠成形面32と接する面には、鏡面研削を行っておく。治具62には、入れ子母材61に対応して、二つのガイド穴63及び一つのボルト穴64を加工しておき、入れ子母材61と接する面には、鏡面研削を行っておく。
【0021】
そして、入れ子母材61のガイド穴41及び治具62のガイド穴63にノックピン45を挿通することで、治具62に対して入れ子母材61が位置決めされる。また、治具62のボルト穴64に挿通したボルト46を入れ子母材61のボルト穴42に締結することで、治具62に対して入れ子母材61が固定される。入れ子33は、厚みが薄いため、治具62の外側からボルト46で固定する。なお、入れ子母材61と治具62との接触面を予め洗浄し、ごみ等を除去しておく。
【0022】
そして、MC加工によって鍔部34を削り出すために、入れ子母材61を粗削りし、不要なブランク部分を除去してゆく。
それから、仕上げ加工によって鍔部34を成形する。使用する刃具は、先端が球状のボールエンドミルや、フラットエンドミルの下部コーナがR形状になっているラジアスエンドミルを用いる。何れにしても刃具の先端形状は、鍔部34の逆R形状に対応している。
【0023】
ここで、詳細な切削方法について説明する。
通常は、刃具の先端が治具62に接する位置で切削を行う。
図6は、刃具の先端が治具に接する位置で切削を行っている図である。
しかしながら、刃具の先端が治具62に接する位置で切削を止めると、鍔部34の先端で逆R形状と治具62の表面とがなす接線角は0度となる。すなわち、鍔部34が先端に向かうほど薄肉となるため、剛性が低下し、変形しやすくなってしまう。
【0024】
そこで、刃具の先端が治具62に食い組む位置まで切削を行う。
図7は、刃具の先端が治具に食い込む位置で切削を行っている図である。
治具62への食い込み深さは、例えば002〜003mm程度である。このように、刃具の先端が治具62に食い込む位置まで切削し、入れ子母材61から鍔部34を削り出すと、鍔部34の先端で逆R形状と治具62の表面とがなす接線角が0度よりも大きくなる。したがって、刃具の先端が治具62に接する位置で切削を行う場合と比べて、刃具の先端が治具に食い込む位置で切削を行うと、鍔部34の先端側の肉厚が増加するので、剛性が高まり、変形しにくくなる。すなわち、金型31に固定される入れ子33の鍔部34の変形を、より簡易的に防止することができる。
なお、刃具の先端が治具62に接する位置で切削を行う場合と、刃具の先端が治具62に食い込む位置で切削を行う場合とで、鍔部34の先端位置が変化してしまう。そこで、刃具先端のR寸法を大きくできるか検討する。
【0025】
図8は、刃具先端のR寸法の違いを示す図である。
例えば、R0201からR025へと拡径すると、鍔部34の先端位置の変化を抑制することができる。
このように、刃具の先端が治具62に食い込む位置まで切削を行うと、鍔部34の先端位置が変化してしまうことにはなる。しかしながら、入れ子33の鍔部34の変形を防止でき、入れ子33を取り扱いやすくなるというメリットは、鍔部34の先端位置よりも、優先されるべき事項である。
こうして、鍔部34を削り出したものが入れ子33として成形される。
入れ子33の側面にも、鏡面磨きを行う。
【0026】
そして、ボルト46を抜き、より長い操作ネジに交換し、この操作ネジで入れ子33を持ち上げて、取り扱うようにする。このとき、ノックピン45は入れ子33に付いてくるような形状とすることが望ましい。また、鍔部34には、手を触れないように注意する。
そして、洗浄はスプレー洗浄剤で行い、操作ネジで保持しながら行う。
保管する際には、PL面を下向きにしておく。
そして、入れ子33を金型31に固定する。
なお、入れ子33の鍔部34が薄肉になることを回避するために、入れ子33を意匠成形面32に載置する構造ではなく、入れ子33を意匠成形面32に嵌合させる構造も考えられる。
【0027】
図9は、入れ子を意匠成形面に嵌合させる金型構造の断面図である。
このように、入れ子33を意匠成形面32に嵌合させる構造であれば、入れ子33の鍔部34が薄肉になることを回避できる。しかしながら、この金型構造を採用すると、意匠成形面32からバリが突起する可能性がある。前述したように、成形品11の特に穴13の周りは、人が操作する部位となるので、意匠成形面32からバリが突起し得る設計は回避したい。そのため、本実施形態では、金型31と入れ子33との分割面を、意匠成形面32と同一にしている。
【符号の説明】
【0028】
11…成形品、12…意匠面、13…穴、21…金型、22…意匠成形面、23…凸部、31…金型、32…意匠成形面、33…入れ子、34…鍔部、41…ガイド穴、42…ボルト穴、43…ガイド穴、44…ボルト穴、45…ノックピン、46…ボルト、61…入れ子母材、62…治具、63…ガイド穴、64…ボルト穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品に穴を形成するために、金型の意匠成形面に固定され、且つ前記成形品における穴のエッジをR面取り形状とするために、前記意匠成形面側の端部に、前記意匠成形面に向かって末広がりとなる逆R形状の鍔部が形成される入れ子を成形する場合、
前記鍔部が削り出される前の入れ子母材を前記金型とは異なる治具に固定し、
先端形状が前記R面取り形状に対応する刃具を備えた切削加工機にて、前記入れ子母材の側面を、前記刃具の先端が前記治具に食い込む位置まで切削し、前記入れ子母材から前記鍔部を削り出すことにより、前記入れ子を成形することを特徴とする入れ子成形方法。
【請求項2】
前記鍔部の先端位置で前記逆R形状と前記意匠成形面とがなす接線角が28度〜29度となるように、前記刃具の先端が前記治具に食い込む位置まで切削することを特徴とする請求項1に記載の入れ子成形方法。
【請求項3】
意匠成形面に、請求項1又は2に記載の入れ子成形方法によって成形された入れ子が固定されることを特徴とする金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−192660(P2012−192660A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59055(P2011−59055)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】