説明

入浴システムの着座部揺動機構

【課題】着座部を効率よく容易に移動させる。
【解決手段】長尺に形成されて下端部52bに着座部が取り付けられるとともに上端部52a近傍に設けられた揺動支点52cを中心に鉛直面内において揺動可能な揺動部材52と、揺動部材52の揺動をアシストする付勢手段55と、を備える。付勢手段55は、揺動部材52の揺動支点52cよりも上方に位置する部位を下方へ付勢している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽内に設置される着座部を備える入浴システムにおいて、着座部を揺動させてその位置を変更させる着座部揺動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、病人や寝たきりの老人、身体障害者等の介護を必要とする要介護者を入浴させるための入浴システムが使用されている。
例えば、特許文献1には、入浴する要介護者が座ることのできる着座部が設けられた入浴システムが開示されている。この入浴システムでは、要介護者を乗降させる乗降位置から、浴槽中央側に位置し要介護者を入浴させる入浴位置まで着座部が回転しながら移動し、入浴位置で着座部が昇降可能に構成されていて、着座部を回転および移動可能に支持する支持機構を備えている。
このような、着座部が設けられた入浴システムでは、着座部の位置を移動させて、要介護者の姿勢や浴槽に対する向きを要介護者や介護者にとって最適な状態とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−22546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、移動可能な着座部が設けられた入浴システムは、要介護者に合わせて着座部の位置を移動させるため、着座部の移動に手間がかかっている。特に介護施設などでは、多くの要介護者毎に着座部を移動させるため、着座部の移動に時間と手間がかかっている。
また、着座部を上昇させるときには、着座部を持ち上げる力が必要であり、下降させるときには、重力による加速を抑える必要があるため、着座部の昇降に手間がかかっている。
【0005】
本発明は、上述する事情に鑑みてなされたもので、着座部を効率よく移動させることができる入浴システムの着座部揺動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る入浴システムの着座部揺動機構は、浴槽内に着座部が設置された入浴システムにおいて、前記着座部を揺動可能に保持する入浴システムの着座部揺動機構であって、長尺に形成されて長さ方向の一方の端部が他方の端部よりも下方に配され前記一方の端部に前記着座部が取り付けられるとともに前記他方の端部近傍に設けられた揺動支点を中心に鉛直面内において揺動可能な揺動部材と、該揺動部材の揺動をアシストする付勢手段と、を備え、該付勢手段は、前記揺動部材の前記揺動支点よりも上部側を下方へ付勢していることを特徴とする。
【0007】
本発明では、付勢手段は、揺動部材の揺動支点よりも上部側を下方へ付勢している。これにより、揺動支点よりも下方に位置する着座部が高い位置から低い位置へ揺動するときには、揺動部材の揺動支点よりも上部側は、低い位置から高い位置へ移動するため、付勢部材の下向きの付勢力によって移動速度が抑制される。このため、着座部が高い位置から低い位置へ揺動するときに、揺動する着座部が重力によって過度に加速されることを抑えることができる。
一方、着座部が低い位置から高い位置へ揺動するときには、揺動部材の揺動支点よりも上部側は、高い位置から低い位置へ移動するため、付勢部材の下向きの付勢力によって移動する方向へ加力される。このため、着座部を低い位置から高い位置へ容易に揺動させて移動させることができる。
【0008】
また、本発明に係る入浴システムの着座部揺動機構では、前記揺動部材は、前記揺動支点よりも上部側に前記鉛直面に交差する方向へ突出する突起部が形成され、前記付勢手段は、水平に配設されて上下方向に変位可能な平板部材と、該平板部材を下方に付勢する付勢部材とを備え、前記平板部材は、前記突起部の上部と当接して該突起部へ前記付勢部材の付勢力を伝達するとともに、前記突起部と水平方向に相対変位可能となっていることが好ましい。
このように、揺動部材は、揺動支点よりも上部側に突起部が形成され、付勢手段は、水平に配設されて上下方向に変位可能な平板部材と、平板部材を下方に付勢する付勢部材とを備え、平板部材は、突起部の上部と当接して該突起部へ付勢部材の付勢力を伝達するとともに、突起部と水平方向に相対変位可能となっていることにより、付勢部材は、揺動部材の上部側を突起部および平板部材介して確実に付勢することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、着座部が高い位置から低い位置へ揺動するときに、揺動する着座部が重力によって過度に加速されることを抑えることができるとともに、着座部を低い位置から高い位置へ容易に移動させることができるため、着座部を効率よく移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態による入浴システムの一例を示す図である。
【図2】浴槽の扉部が上昇した様子を示す図である。
【図3】着座部が取りつけられていない様子を示す図である。
【図4】(a)は取付部が折りたたまれた様子を示す上面図、(b)は(a)の前面図である。
【図5】着座部揺動機構を説明する図である。
【図6】付勢部材を示す図である。
【図7】着座部揺動機構を説明する図である。
【図8】着座部の向きを変えた図である。
【図9】着座部揺動機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態による入浴システムの着座部揺動機構について、図1乃至図4に基づいて説明する。
(入浴システム)
図1に示すように、本実施形態による入浴システム1は、浴槽2と、浴槽2内に設置され要介護者(不図示)が着座する着座部3と、着座部3を揺動させて所定の位置に支持する着座部揺動機構5と、給湯手段(不図示)や浴槽2に張るために十分な湯を蓄えることのできるタンク61を備える給湯部6と、入浴システム1の操作を行うための操作部7とを備えている。
【0012】
浴槽2は、平面視略長方形の底部21と、その四辺から立設する4つの側壁22a〜22dとを備えている。4つの側壁22a〜22dのうちの第1側壁22aは、他の側壁22b〜22dと比べて高さが低く形成されている。ここで、第1側壁22aの直上で、第1側壁22aの上端部の高さから他の側壁22b〜22cの上端部の高さまでの領域を開口23として以下説明する。
そして、浴槽2には、開口23が形成されていることにより、要介護者および着座部3をこの開口23を通過させて、浴槽2の内側から外側、または浴槽2の外側から内側へ移動させることができる。
【0013】
また、第1側壁22aの外側には、第1側壁22aに沿って上下方向にスライド可能な扉部24が設けられている。
扉部24は、図2に示すように、上昇したときに上端部24aが他の側壁22b〜22cの上端部の高さに達するように構成されていて、上下にスライドすることで第1側壁22a上方の開口23を開閉することができる。また、扉部24は、上方へ移動して開口23を閉じた状態において、扉部24の浴槽2側の面の両側端部および下端部に設けられた不図示のシール部材が、この開口23の上方を除く周囲3方を密閉できるよう構成されている。
ここで、第1側壁22aと、第1側壁と対向する第2側壁22cとを結ぶ方向(矢印Aの方向)を前後方向とし、第1側壁22a側を前側、第2側壁22c側を後側として以下説明する。
【0014】
着座部3は、座面31と、この座面と31と連結された背もたれ32と、着座部揺動機構5に支持され座面31が着脱可能な座面取付部材33と、を備えている。
図3に示すように、座面取付部材33は、後端部が着座部揺動機構5の接続部材54(後述する。)に接続された略矩形板状の第1板部材41と、第1板部材41の前端部に接続された第2板部材42とを備えている。
第1板部材41は、浴槽2内に座面31および背もたれ32を設置するときに座面31が取り付けられている。そして、第1板部材41および第2板部材42は、座面31がこの上面をスライド可能となっている。
【0015】
接続部材54と第1板部材41との間には第1ヒンジ43が介装されている。これにより、第1板部材41は、接続部材54に第2側壁22cに直交する鉛直面内において回転可能に保持されている。
また、第1板部材41と第2板部材42との間には第2ヒンジ44が介装されている。これにより、第2板部材42は、第1板部材41に第2側壁22cに直交する鉛直面内において回転可能に保持されている。
なお、着座部3は、第1板部材41および第2板部材42をそれぞれの面方向が水平状態および鉛直状態となるように固定する固定部材(不図示)を備えている。
【0016】
そして、浴槽2の扉部24が下降しているときには、第1板部材41および第2板部材42を水平状態とすることができる。このとき、第1板部材41は浴槽2の内部に配され、第2板部材42は第1側壁22aおよび扉部24の上方に配されている。
また、図2に示すように、浴槽2の扉部24が上昇しているときには、第1板部材41を水平状態とし、第2板部材42を扉部24の内面に接触して傾斜状態とすることで、第1板部材41および第2板部材42を浴槽2の内部に配することができる。
また、図4(a),(b)に示すように、第1板部材41に着座部3(図1参照)が装着されていないときには、第1板部材41および第2板部材42を鉛直状態とすることで、第1板部材41および第2板部材42を浴槽2内部の後方に配することができる。このとき、浴槽2の中央部が開放されるため、要介護者は浴槽2の底部21(図4(b)参照)に座るようにして入浴することができる。
【0017】
(着座部揺動機構)
図1に示すように、着座部揺動機構5は、第1側壁22aと対向する第2側壁22cの外方に立設する支柱51と、棒状に形成され一方の端部52a近傍が支柱51に揺動可能に保持された揺動部材52と、棒状に形成され揺動部材52と所定の間隔をあけて平行に設置されるとともに一方の端部53a近傍が支柱51に揺動可能に保持されたリンク部材53と、揺動部材52の他方の端部52bおよびリンク部材53の他方の端部53b取り付けられた接続部材54と、揺動部材52の揺動をアシストする付勢手段55(図5参照)と、を備えている。
【0018】
図5に示すように、支柱51は、第2側壁22cの幅方向の略中央に位置し、上端部51aが第2側壁22cの上端部よりも上方となるように設置されている。
揺動部材52は、一方の端部52aが他方の端部52bよりも上側となり、この一方の端部52aから他方の端部52b側へやや移動した位置に揺動支点52cが設けられている。そして、揺動部材52は、この揺動支点52cを中心として第2側壁22cと平行な鉛直面内において揺動可能に構成されている。
揺動支点52cは、支柱51の上端部51a近傍で第2側壁22cの上端部よりも上方に位置している。
また、揺動部材52は、他方の端部52bが浴槽2内に入るように設置されている。
【0019】
揺動部材52は、介護者が手動で揺動させるように構成されている。
また、図5および図6に示すように、揺動部材52には、揺動支点52cよりも上方に位置し前方へ突出するピン(突起部)57が取り付けられている。このピン57は、付勢手段55によって下方へ付勢されている。
【0020】
また、揺動部材52には、上端部近傍の両側部に、正面視半円状の凹部58が形成されている。そして、支柱51には、その前面から前方へ突出する円柱状のストッパー部材59が設けられていて、このストッパー部材59と一方の凹部58とが嵌合することで揺動部材52を所定の位置で固定することができる。揺動部材52には、2つの凹部58が形成されているため、ストッパー部材59は揺動部材52を図5に示す位置および図7に示す位置の2つの位置で固定することができる。
なお、ストッパー部材59は、揺動する揺動部材52とあたらないように、人為的に支柱51の前面よりも後方へ移動可能となっている。本実施形態では、支柱51の上部にストッパー部材59を前後に移動させることができる操作部材59aが設けられている。
【0021】
図5に示すように、リンク部材53は、一方の端部53aが他方の端部53bよりも上側となり、この一方の端部53aに揺動支点53cが設けられていて、この揺動支点53cを中心として揺動部材52と平行な状態を保ちながら揺動可能に構成されている。この揺動支点53cは、揺動部材52の揺動支点52cと同じ高さに位置している。
また、リンク部材53は、他方の端部53bが浴槽2内に入るように設置されている。
【0022】
接続部材54は、揺動部材52およびリンク部材53の先端部(他方の端部42b,43b)に、揺動部材52およびリンク部材53が揺動する鉛直面内において回転可能に保持されている。これにより、接続部材54は、揺動部材52およびリンク部材53が揺動したときに、その向きを変えずに揺動部材52およびリンク部材53とともに移動することができる。
【0023】
ここで、上述した座面取付部材33は、接続部材54を介して揺動部材52と連結されているため、揺動部材52が揺動したときに、その向きを変えずに揺動部材52とともに移動することができる。そして、座面取付部材33は、揺動部材52が揺動して所定の位置に固定されることで、その位置が決定される。例えば、図8に示すように、座面取付部材33の位置を図1に示す座面取付部材33の位置から変更することができる。このとき、座面取付部材33に設置される着座部3の向きも変更することができる。
【0024】
図5および図6に示すように、付勢手段55は、水平に配設されて上下方向に変位可能な平板部材71と、平板部材71を下方に付勢する2つのバネ部材(付勢部材)72,72とを備えている。
平板部材71は、ピン57の上側に配されて、バネ部材72,72の下向きの付勢力によって上方からピン57に当接している。そして、バネ部材72,72の下向きの付勢力は、平板部材71を介してピン57に伝達されている。
また、平板部材71とピン57とは、固定されておらず互いに水平方向へ相対移動可能となっている。
【0025】
次に、着座部揺動機構5の動作について説明する。
まず、図5に示す位置に固定された揺動部材52が、ストッパー部材59が解除されて揺動可能となると、揺動部材52の他方の端部52bに取り付けられた接続部材54は、上方から下方に向かって揺動し、ピン57は下方から上方に向かって揺動する。
このとき、揺動部材52は、ピン57にバネ部材72,72の下向きの付勢力が加えられているため、このバネ部材72,72の下向きの付勢力が抵抗力となって揺動する速度が抑えられる。これにより、接続部材54に取り付けられている着座部3(図1参照)が下向きに移動する速度が抑えられ、上方から下方へ移動する着座部3が重力によって過度に加速されることが防止される。
【0026】
そして、図9に示すように、揺動部材52の軸方向が鉛直な状態となって、接続部材54が下降し、ピン57が上昇すると、ピン57に押された平板部材71も上昇する。これにより、バネ部材72,72の下向きの付勢力が増加する。
そして、この状態から図中の矢印の方向に揺動部材52を揺動させると、接続部材54は上方へ向かい、ピン57は下方へ向かう。このとき、ピン57には、バネ部材72,72の下向きの付勢力が加えられているため、ピン57は下向きに加力され、下方へ移動しやすくなる。これにより、接続部材54に取り付けられている着座部3が上方へ移動しやすくなる。
そして、このまま着座部3を図7に示す位置まで上昇させ、ストッパー部材59を他方の凹部58と嵌合させることで、この位置に固定される。
【0027】
次に、上述した入浴システム1の着座部揺動機構5の効果について図面を用いて説明する。
本実施形態による入浴システム1の着座部揺動機構5によれば、着座部3を上方から下方へ移動させるために揺動部材52を揺動させると、バネ部材72,72の下向きの抵抗力によって着座部3が揺動する速度を抑制することができる。これにより、着座部3が上方から下方に向かって移動することによって過度に加速することがなく、安全に着座部3を揺動させて移動させることができる。
また、着座部3を下方から上方へ移動させるために揺動部材52を揺動させると、バネ部材72,72の下向きの付勢力によって着座部3を容易に上方へ移動させることができる。
そして、着座部3を効率よく移動させることができるため、着座部3の移動にかかる労力を軽減させることができる。
【0028】
以上、本発明による入浴システム1の着座部揺動機構5の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、介護を必要とする要介護者を入浴させているが、介護を必要としない入浴者も使用できる入浴システムとしてもよい。
また、上述した実施形態では、第1側壁22aは、他の側壁22b〜22dよりも低い高さに形成されているが、第1側壁22aの一部がその他よりも低い高さに形成されて、第1側壁22aに凹部が形成されている形態としてもよい。
また、上述した実施形態では、揺動部材52に凹部58が形成され、支柱51にストッパー部材59が設けられていて、このストッパー部材59と凹部58とが嵌合することで揺動部材52の揺動を所定の位置で停止させているが、揺動部材52を停止させる手段は、これ以外のものでもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 入浴システム
2 浴槽
3 着座部
5 着座部揺動機構
52 揺動部材
55 付勢手段
57 ピン(突起部)
71 平板部材
72 バネ部材(付勢部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽内に着座部が設置された入浴システムにおいて、前記着座部を揺動可能に保持する入浴システムの着座部揺動機構であって、
長尺に形成されて長さ方向の一方の端部が他方の端部よりも下方に配され前記一方の端部に前記着座部が取り付けられるとともに前記他方の端部近傍に設けられた揺動支点を中心に鉛直面内において揺動可能な揺動部材と、
該揺動部材の揺動をアシストする付勢手段と、を備え、
該付勢手段は、前記揺動部材の前記揺動支点よりも上部側を下方へ付勢していることを特徴とする入浴システムの着座部揺動機構。
【請求項2】
前記揺動部材は、前記揺動支点よりも上部側に前記鉛直面に交差する方向へ突出する突起部が形成され、
前記付勢手段は、水平に配設されて上下方向に変位可能な平板部材と、該平板部材を下方に付勢する付勢部材とを備え、
前記平板部材は、前記突起部の上部と当接して該突起部へ前記付勢部材の付勢力を伝達するとともに、前記突起部と水平方向に相対変位可能となっていることを特徴とする請求項1に記載の入浴システムの着座部揺動機構。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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