説明

入浴剤

【課題】 手軽に扱えるうえにレジオネラ菌に対して強い殺菌効果や抗菌効果を示す藺草抽出液を主成分とする入浴剤を提供する。
【解決手段】 粉末状の藺草を、藺草1重量部に対し9〜199重量部の量の脱イオン水に浸漬し、温度が25℃になるまで加熱したあとその温度を約24時間保持し、24時間経過後に、比較的目の粗いろ紙でろ過することによって繊維分を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌作用を有する植物由来の抽出液に関し、詳しくは、レジオネラ菌に対して強い殺菌作用を有する藺草抽出液を主成分とする入浴剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レジオネラ菌(Legionella pneumophila)は、1976年米国フィラデルフィアで集団発生した原因不明の肺炎の感染患者から分離されたことに端を発し、感染すると死に至る場合もあることから、現在日本を含めた先進国で社会問題になりつつある。
【0003】
レジオネラ菌を原因菌とするレジオネラ症の症状としては、肺炎を引き起こすレジオネラ肺炎と、肺炎にならない自然治癒型のポンティアック熱の二つが確認されている。このうち、レジオネラ肺炎については、欧米で市中肺炎の2〜8%を占めており、レジオネラ菌が肺炎球菌に次いで深刻な肺炎の原因菌にあげられている。
【0004】
日本においても、1990年代からレジオネラ症の報告が増え始め、1999年4月に施行された、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(新感染症法)において、レジオネラ症を4類感染症に分類し、診断した医師は、1週間以内に患者の年齢、性別、症状、診断方法などを最寄の保健所に届け出ることが義務付けられた。
【0005】
更に、厚生労働省は、2000年12月に、「公衆浴場における衛生等管理要領等の改正について」を発令し、公衆浴場業、旅館業などにおける浴槽水中の水質管理項目にレジオネラ菌を追加して、レジオネラ症予防対策に指針を示した。これによると、浴槽水等のレジオネラ属菌は、菌体濃度10CFU/100ml未満であることが定められている。
【0006】
その後、厚生労働省は、営業者による適切な管理が行なわれるように、2001年9月に「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルについて」を作成し、具体的なレジオネラ症防止対策および管理方向等をマニュアル化した。
【0007】
このマニュアルには、浴槽水などの消毒方法は(1)浴槽水の消毒に用いる塩素系薬剤の注入(投入)口は、浴槽水が循環ろ過装置内に入る直前に設置することが望ましい。(2)浴槽水の消毒に用いる塩素系薬剤は、浴槽水中の遊離残留塩素濃度を1日2時間以上0.2〜0.4mg/lに保つことが望ましい。(3)浴槽水の遊離残留塩素濃度を、適宜測定し、その記録を3年以上保存すること。(4)温泉の泉質等のため塩素消毒ができない場合には、オゾン殺菌または紫外線殺菌により消毒を行うこと。この場合、温泉の泉質等に影響を与えない範囲で塩素消毒を併用することが望ましいことなどが記載されている。
【0008】
なお、2003年に厚生労働省がまとめた調査結果によると、全国の公衆浴場や旅館を対象にして浴槽中のレジオネラ菌について検査したところ、17614施設の浴槽のうち2946施設でレジオネラ菌が検出された(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−71463号公報(第2〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記のように、浴槽水の衛生管理は塩素消毒が望ましいとされているものの、菌を死滅させる働きをする遊離残留塩素は、浴槽水中の体表皮由来有機物等と反応し
て消費されるため、比較的短時間のうちに濃度が低下する。更に、循環式浴槽システムではろ過装置により遊離残留塩素などの有効塩素が失われてしまう場合もあるため、塩素の濃度管理に非常に手間がかかり、且つ、塩素系薬剤を注入するための高価な自動注入器も必要となる。また、塩素濃度が高いと肌のかさつきや配管の錆などの問題も生じるとともに、温泉の泉質を変化させてしまう場合もあることから、取り扱いが面倒な塩素による殺菌を嫌う施設が多い。
【0010】
そこで本発明は、手軽に扱えるうえにレジオネラ菌に対して強い殺菌効果や抗菌効果を示す藺草抽出液を主成分とする入浴剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる請求項1記載の入浴剤は、粉砕した藺草を水に浸漬した状態で一定時間経過した後、ろ過して抽出した藺草抽出液からなることを特徴としている。
【0012】
このようにして得られる入浴剤は、レジオネラ菌に対して強い殺菌作用や抗菌作用を有しており、しかも、その殺菌作用・抗菌作用は温度やpH値(水素イオン濃度)の影響を受けにくく、レジオネラ菌に対して安定した殺菌力および抗菌力を発揮する。また、本入浴剤は食品素材としても利用されている藺草から抽出しているため、安全で、塩素系薬剤のような刺激臭もなく扱い易い。しかも、次亜塩素酸などによる塩素消毒と併用しても抗菌性が低下せず、両者を併用することで一層高い殺菌性や抗菌性を発揮し、塩素系薬剤の使用量を最小限に抑えることが可能になる。
【0013】
なお、粉砕した藺草と浸漬する水の種類については特に限定されるものではなく、例えば、水道水、脱イオン水、蒸留水、超純水などを挙げることができる。
【0014】
同入浴剤はレジオネラ菌の他に、大腸菌O157、大腸菌O26、大腸菌O111、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、枯草菌、ミクロコッカス菌、非病原性大腸菌に対する殺菌作用や抗菌活性も有する。
【0015】
請求項2記載の入浴剤は、粉砕した藺草を重量比9倍以上の水に浸漬し、25℃以上の温度で15時間以上保持した後ろ過して抽出した藺草抽出液からなることを特徴としている。このようにすると、粉砕した藺草の有効成分が前記水に溶出しやすくなり、前記藺草抽出液のレジオネラ菌に対する殺菌力や抗菌力を増強することができる。
【0016】
請求項3記載の入浴剤は、水に代えてアセトンまたはメタノールに粉砕した上記藺草を浸漬し、25〜60℃の温度で一定時間保持したのちに減圧してアセトンまたはメタノールの一部を気化させて除去してろ過し抽出した藺草抽出液からなることを特徴としている。
【0017】
このようにしてアセトンやメタノールを用いて抽出された藺草抽出液は、請求項1に記載している藺草抽出液と同様、レジオネラ菌に対し強い殺菌作用と抗菌作用とを備えたものになる。なお、前記藺草抽出液はアセトンやエタノールが除去されているので、水を用いて抽出した場合と同様に安全である。
【0018】
請求項4記載の入浴剤は、藺草抽出液に藺草の粉末を混合することを特徴としている。このようにして得られる入浴剤は、前記藺草の有効成分を豊富に含んだものとなり、レジオネラ菌に対して強い殺菌作用や抗菌作用を示すだけでなく、藺草が本来有している肌の保湿効果の優れたものになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる入浴剤は、公衆浴場や旅館等の循環式浴槽の浴槽水に使用すれば、その安定した殺菌作用および抗菌作用により、浴槽水を衛生的に保つことができるためレジオネラ症への感染を効果的に予防することができる。
【0020】
また、この入浴剤は塩素系薬剤と併用することも可能であるため、刺激臭のある塩素系薬剤の使用量の割合を減らし、お湯の入り心地を良くすることができる。さらに、温度やpH値に影響を受けにくいため、泉質に関係なく使用することができ、且つ、食品素材として利用されている藺草の抽出液を主成分にしているため安全で、天然の温泉を利用している浴槽水にも安心して使用することができる。しかも、この入浴剤は藺草の保湿機能も有しており、肌をしっとりさせる入浴効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明にかかる入浴剤の実施の形態について説明する。
【0022】
本実施形態の入浴剤を得るために用いた藺草は、2004年5月に収穫された熊本県鏡町産のものと、沖縄県与那城町産のものとを用いた。各藺草は殺菌作用や抗菌作用などに影響を与えないようにするため無農薬で栽培し、長さ150cm程度まで生育した頃に刈り取ったものである。収穫した各藺草はそれぞれ、粉砕機(MKアトマイザーMKA−5J:増幸産業株式会社製)で、平均粒子径が18.6μmになるまで細かく粉砕して粉末状にした。こうして粉末状にした藺草を脱イオン水、アセトン、エタノールなどの抽出媒体に所定の条件下でそれぞれ浸漬し入浴剤となる藺草抽出液の抽出を行った。
【0023】
a.産地の異なる粉末状の各藺草を、藺草1重量部に対し9〜199重量部の量の脱イオン水に浸漬し、温度が25℃になるまで加熱したあとその温度を約24時間保持し、24時間経過後に比較的目の粗いろ紙でろ過することによって繊維分を除去し藺草抽出液を得た。この藺草抽出液は、黄金色で粘り気の無いさらりとした液状のもので、畳の様な香を有している。
【0024】
b.粉末状の各藺草を、藺草1重量部に対し9〜199重量部の量のアセトンに浸漬し、温度が40℃になるまで加熱したあとその温度を2〜3時間保持したのちに減圧してアセトンの一部(60%)を気化して除去し、その後、比較的目の粗いろ紙でろ過することによって繊維分を除去して藺草抽出液を得た。
【0025】
c.粉末状の各藺草を、藺草1重量部に対し9〜199重量部の量のエタノールに浸漬し、温度が40℃になるまで加熱したあとその温度を2〜3時間保持したのちに減圧してエタノールを気化して除去し、その後、比較的目の粗いろ紙でろ過することによって繊維分を除去して藺草抽出液を得た。
【0026】
これらの藺草抽出液の抗菌活性に対する評価を行った。
【0027】
1.抗菌活性に対する評価
上記抽出方法で得た二種類の藺草抽出液の抗菌活性について、ペーパーディスク法を用いて評価を行った。その評価は、ペーパーディスク周囲に阻止円が現れる限界の濃度(最小発育阻止濃度:MIC、minimum inhibitory concentration)として表した。なお、混釈用の培地として、BCYE−α寒天培地(酵母エキス10g、ピロリン酸鉄0.25g、ACES緩衝剤10g、粉末状活性炭2.0g、αケトグルタル酸1.0g、Agar15g/l)を使用し、レジオネラ菌の株菌は熊本県保健環境研究所から分与された血清群1群を用いた。
【0028】
まずレジオネラ菌を接種した寒天培地をシャーレに入れ、各藺草抽出液を含浸させた直
径8mmのペーパーディスク(ADVANTEC社製)をそれぞれ別々のシャーレに置き、35℃の温度で4日間レジオネラ菌の培養を行って、ペーパーディスクの周囲に現れる阻止円の有無を目視にて確認した。
【0029】
その結果、熊本県鏡町産の藺草から抽出した藺草抽出液と、沖縄県与那城町産の藺草から抽出した藺草抽出液とのMICの値はいずれも20mg/mlであり、産地間の差は認められなかった。その結果を表1に示す。
なお、表1には、アセトン、エタノールで抽出した各藺草抽出液のMICを合わせて記載している。
【0030】
【表1】

【0031】
その結果、アセトンで抽出された各藺草抽出液のMICはいずれも、脱イオン水で抽出した場合と同じ20μm/mlを示し、また産地間の差は認められなかった。一方、エタノールで抽出した各藺草抽出液は、ペーパーディスクの周囲に阻止円を確認することはできなかった。なお、表には記載しないがメタノールを用いて抽出した藺草抽出液にもアセトンの場合と同様の20μm/mlのMIC値を示し抗菌活性のあることが確認できた。
【0032】
次に、上記の脱イオン水を用いて抽出した藺草抽出液について、温度安定性、pH安定性、菌の生育阻止、塩素との併用効果に対する評価を行った。
【0033】
2.温度安定性に対する評価
評価方法は、熊本県鏡長産の藺草から抽出した藺草抽出液(濃度100mg/ml)をシャーレにそれぞれ注入し、各シャーレを25℃、40℃、60℃、80℃、100℃の温水中でそれぞれ60分間保持したあと、ペーパーディスク法を用いて抗菌活性を観察しMICで表した。また、オートクレーブ処理(121℃、15分)した藺草抽出液の抗菌
活性についても、同じ方法で評価を行った。各評価は、25℃の温水で処理した場合の藺草抽出液のMICを100%とした相対抗菌活性で表した。
【0034】
その結果、25℃の温水で処理した藺草抽出液のMICは20mg/mlであった。そして、40℃、60℃、80℃、100℃の温水およびオートクレーブ処理した藺草抽出液のMICは全て、25℃の温水で処理した場合と同じ20mg/mlを示し、抗菌性の低下が見られなかった。したがって、全ての藺草抽出液で相対抗菌活性が100%を示した。これらの結果を、図1(a)のグラフに示す。グラフは、縦軸を相対抗菌活性(%)とし、横軸を温度(℃)としている。
【0035】
この結果から、藺草抽出液は、少なくとも25〜121℃の温度範囲においては抗菌活性を示し安定した抗菌作用を有していることがわかる。
【0036】
3.pH安定性に対する評価
評価方法は、熊本県鏡長産の藺草から抽出した藺草抽出液(濃度100mg/ml)100mlに、0.1M緩衝液100ml(pH3〜5は酢酸緩衝液、pH6〜8はリン酸緩衝液、pH9は炭酸緩衝液)を加え、温度が4℃になるまで冷却し、その4℃の温度を60分間保持したのちに、塩酸、或は、水酸化ナトリウム水溶液を100ml追加して全量300mlのpH調整水にした。
【0037】
この各pH調整水について、ペーパーディスク法により抗菌活性を評価した。評価は、pH6.0に調整したpH調整水(リン酸緩衝液を添加したもの)のMIC(20mg/m)を100%とし相対抗菌活性で表した。
【0038】
その結果、pH3の調整水のMICは26.6mg/mlであったため、133%の相対抗菌活性を示した。pH4、pH5、pH7、pH8の調整水のMICは20mg/mlであったため、100%の相対抗菌活性を示した。また、pH9の調整水のMICは16mg/mlであったため、80%の相対抗菌活性を示した。
【0039】
この結果を、図1(b)のグラフに示す。なおグラフは、縦軸に相対抗菌活性(%)と、横軸をpH値としている。
【0040】
この結果から、藺草抽出液の抗菌性は、酸性および塩基性のどちらの条件下においても、80%以上の相対抗菌活性を示しおり、pH値によらず安定した抗菌作用を発揮することがわかる。
【0041】
4.菌の生育阻止に対する評価
容量300mlの三角フラスコに、BCYE―α液体培地100ml(酵母エキス10g、ピロリン酸鉄0.25g、ACES緩衝剤10g、粉末状の活性炭2.0g、αケトグルタル酸1.0g)を入れ、藺草抽出液(熊本県鏡町産)を添加して綿栓をする。
このようして、藺草抽出液の濃度が0、5、10、20、50、100mg/mlの液体培地を作り、各液体培地を121℃の温度で15分間オートクレーブ処理をしたのちに、レジオネラ菌を初発菌濃度1×104CFU/mlになるように接種してから、37℃の
温度下で70rpmの振とう培養を行なった。
【0042】
その後、各三角フラスコ内の液体培地を計時的にサンプリングし、サンプリングした液体培地を、希釈操作を行いながらBCYE―α寒天培地に添加して、さらに4日間35℃の温度下でレジオネラ菌を培養し、出現するコロニー数を計測することによって培養液1ml当りのコロニー数(菌体濃度:CFU/ml)にて評価した。すなわち、評価は、培養液1ml当りのコロニー数(菌体濃度:CFU/ml)として表した。
【0043】
各三角フラスコ内の液体培地のサンプリングは、振とう培養終了直後、振とう培養終了後から24、62、72、96、120、144時間後にそれぞれ行なった。
【0044】
この結果、藺草抽出液を添加していない液体培地(藺草抽出液濃度が0mg/ml)を添加した場合の菌体濃度は、振とう培養終了直後にサンプリングしたもので104オーダ
ー、24時間後で107オーダー、62時間後で109オーダー、72時間後で109オー
ダー、96時間後で1010オーダー、120時間後で1010オーダー、144時間後で109オーダーを示した。
【0045】
藺草抽出液の濃度が5、10、20、50、100mg/mlの液体培地をBCYE―α寒天培地に添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度については、上記の結果とともに表1に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表1に記載しているように、藺草抽出液濃度5mg/mlの液体培地を添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度は、振とう培養終了から24時間後にサンプリングしたしたものを添加すると107オーダーを示し、96時間後にサンプリングしたものを添加す
ると1010オーダーを示し、藺草抽出液を含まない液体培地を添加した場合と同じような増殖パターンを示した。
【0048】
藺草抽出液濃度10mg/mlの液体培地を添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度は、振とう培養終了から24時間後にサンプリングしたものを添加すると104オー
ダーを示したが、96時間後にサンプリングしたものを添加すると109オーダーを示し
、藺草抽出液を含まない液体培地を添加した場合と比べて有意な差は認められなかった。
【0049】
藺草抽出液濃度20mg/mlの液体培地を添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度は、振とう培養終了から24時間後にサンプリングしたものを添加するとレジオネラ菌は検出されなかった。また、62時間後および72時間後にサンプリングしたものを添加すると104
ーダーを示し、96時間後にサンプリングしたものを添加すると109オーダーを示し、
藺草抽出液を含まない液体培地を添加した場合と比べて有意な差が認められた。
【0050】
藺草抽出液濃度50mg/mlの液体培地を添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度は、振とう培養終了から24、62、72時間後にそれぞれサンプリングした各液体培地を添加すると、レジオネラ菌は検出されず0であったし、藺草抽出液濃度100mg/mlの液体培地を添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度は、振とう培養終了から24、62、72、96時間後にそれぞれサンプリングした各液体培地を添加するとレジオネラ菌は検出されず0となった。
【0051】
これらのことから、液体培地中の藺草抽出液の濃度が高くなるほど、レジオネラ菌の生育を抑制する効果のあることが確認できる。これらの結果を図2にグラフで示す。
図2のグラフは、縦軸をレジオネラ菌濃度(CFU/ml)とし、横軸を培養液をサンプリングした時間(h)としている。また、図2のマークはそれぞれ、○(0mg/ml)、●(5mg/ml)、△(10mg/ml)、▲(20mg/ml)、□(50mg/ml)、■(100mg/ml)を表している。
【0052】
5.塩素との併用効果に対する評価
常温下(25℃)において、藺草抽出液の濃度が10mg/ml、遊離塩素濃度がそれぞれ0、0.1、0.2、0.4mg/lになるように調製した藺草抽出液(熊本県産の藺草使用)と次亜塩素酸ナトリウムとの調製液に、初発菌数が5×106CFU/mlに
なるようにレジオネラ菌を接種する。その後各調製液からレジオネラ菌接種直後および接種後5、15、30、60分後にそれぞれサンプリングを行い、サンプリングした各調製液と、塩素を不活性化させる働きのある25%チオ硫酸ナトリウムとを1:500の割合で混合する。
【0053】
そして、これらの各調整液を、希釈操作を行いながらBCYE―α寒天培地に添加し、4日間35℃の温度下でレジオネラ菌を培養して出現するコロニー数を計測した。その結果を培養液1ml当りのコロニー数(菌体濃度:CFU/ml)で表した。
【0054】
また、藺草抽出液を含有していない遊離塩素濃度0、0.1、0.2、0.4mg/lの各調製液についても、同様の方法で寒天培地に出現するコロニー数を計測し評価を行った。
【0055】
なお、藺草抽出液の濃度を10mg/mlに設定しているのは、藺草抽出液のMIC値が20mg/mlであったことから、藺草抽出液の抗菌力のみでレジオネラ菌の生育が完全に抑制されないようにするためである。
【0056】
この結果、藺草抽出液(10mg/ml)を含有している調製液において、遊離塩素が存在していない調製液(遊離塩素濃度0mg/l)を添加した場合の菌体濃度は、いずれのタイミングでサンプリングした場合も106オーダーを示した。
【0057】
また、遊離塩素濃度が0.1mg/lの調製液を添加した場合の菌体濃度は、接種直後のもので106オーダー、5分後のもので104オーダー、15分後のもので102オーダ
ー、30分後のもので101オーダーを示し、60分後にサンプリングしたものではレジ
オネラ菌は検出されなかった。
【0058】
遊離塩素濃度が0.2、0.4mg/lの各混合液を添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度はいずれもレジオネラ菌の接種直後で106オーダーを示し、それ以後に接
種したものではレジオネラ菌は検出されなかった。
【0059】
これらの結果を下記の表2に示すとともに、図3にグラフで示す。グラフは、縦軸をレジオネラ菌濃度(CFU/ml)とし、横軸を培養液をサンプリングした時間(min)としている。また、グラフ中のマークはそれぞれ、○(0mg/ml)、●(0.2mg/ml)、△(0.4mg/ml)、を表している。
【0060】
【表3】

【0061】
一方、藺草抽出液を含まない調製液において、遊離塩素濃度が存在していない調製液(遊離塩素濃度0mg/l)を添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度は、いずれのタイミングでサンプリグした場合も106オーダーを示した。
【0062】
また遊離塩素濃度が0.1mg/lの調製液を添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度は、接種直後のもので106オーダー、5分後のもので106オーダー、15分後のもので104オーダー、30分後のもので101オーダーを示し、60分後にサンプリングしたものではレジオネラ菌は検出されなかった。
【0063】
また遊離塩素濃度が0.2mg/lの調製液を添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度はそれぞれ、接種直後106オーダー、5分後105オーダー、10分後103オー
ダー、30分後101オーダーを示したが、60分後にサンプリングしたものではレジオ
ネラ菌は検出されなかった。
【0064】
また遊離塩素濃度が0.4mg/lの調製液を添加した場合におけるレジオネラ菌の菌体濃度はそれぞれ、接種直後106オーダー、5分後105オーダー、10分後103オー
ダーを示したが、30分以降にサンプリングしたものではレジオネラ菌は検出されなかった。
【0065】
この結果を表3に示すとともに、図4にグラフで示す。グラフは、縦軸をレジオネラ菌濃度(CFU/ml)とし、横軸を培養液をサンプリングした時間(min)としている。またグラフ中のマークはそれぞれ、○(0mg/ml)、●(0.2mg/ml)、△(0.4mg/ml)、を表している。
【0066】
【表4】

【0067】
これらの結果から、藺草抽出液からなる入浴剤は次亜塩素酸との共存下においても抗菌活性を示し、次亜塩素酸と併用しても安定した抗菌作用を発揮することを示している。
【0068】
上記1〜5の各評価から、藺草抽出液がレジオネラ菌に対して強い殺菌作用や抗菌作用を備えており、しかも、その殺菌作用・抗菌作用が、温度やpH値に影響を受けにくく安定していることがわかる(相対抗菌活性80%)。また、次亜塩素酸と共存した状態でも殺菌力や抗菌力を発揮することができるため、消毒剤として塩素系薬剤と併用が可能である。
【0069】
このように、藺草抽出液からなる入浴剤は優れた殺菌作用・抗菌作用を備えているため、浴槽水の他にも、空調用冷却塔水、給湯水、修景用水、浴室などの消毒剤や抗菌剤、ウェットティッシュの保水液としても使用することが可能で、藺草の需要拡大を図ることができる。
【0070】
なお、本実施形態では便宜上、抽出媒体として脱イオン水を用いているが、これに限定されるものではなく水道水や蒸留水、超純粋などを用いて良い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(a)は藺草抽出液の温度に対する安定性を示すグラフで、(b)は藺草抽出液のpH値に対する安定性を示すグラフである。
【図2】藺草抽出液のレジオネラ菌の最小生育阻止濃度を示すグラフである。
【図3】塩素(字亜塩素酸)共存下における10mg/ml濃度の藺草抽出液のレジオネラ菌に対する最少生育阻止濃度を示すグラフである。
【図4】塩素(次亜塩素酸)のレジオネラ菌に対する最少生育阻止濃度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕した藺草を水に浸漬した状態で一定時間経過した後、ろ過して抽出した藺草抽出液からなることを特徴とする入浴剤。
【請求項2】
上記藺草抽出液は、粉砕した上記藺草を重量比で9倍以上の水に浸漬し、25℃以上の温度で15時間以上保持した後にろ過したものであること
を特徴とする請求項1記載の入浴剤。
【請求項3】
上記藺草抽出液は、上記水に代えてアセトンまたはメタノールに粉砕した上記藺草を浸漬し、25〜60℃の温度で一定時間保持したのちに減圧してアセトンまたはメタノールの一部を気化させて除去してろ過したものであること
を特徴とする請求項1記載の入浴剤。
【請求項4】
上記藺草抽出液に藺草の粉末を混合したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の入浴剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−249043(P2006−249043A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71319(P2005−71319)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(593227028)株式会社エス・エフ・シー (7)
【出願人】(598094713)株式会社王樹製薬 (5)
【Fターム(参考)】