説明

入浴装置及び入浴システム

【課題】
入浴者の後頭部や耳が湯に浸かることなく安全に入浴を行えるようにするとともに、肩まで湯に充分浸かることができる入浴装置及び入浴システムを提供すること。
【解決手段】
背もたれ部11全体を傾動可能にした担架4と、この担架4を受ける受け部7が内方に設けられる浴槽3と、を備え、受け部7上に担架4を載せた状態で浴槽3を上昇動作させて入浴を行う入浴装置であって、背もたれ部11を少なくとも二つ以上の部分に分割するとともに、各部分の間を関節軸を介して連結し、背もたれ部11上において少なくとも入浴者の頭部が載置される載置部分の水平線に対する傾斜角度を背もたれ部の他の部分の水平線に対する傾斜角度より増角して傾動させて入浴を行えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や身体障害者等の入浴者を仰臥位姿勢で浴槽に浸漬させ入浴させる入浴装置及び入浴システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、仰臥位姿勢の入浴者を載せた担架を浴槽内の支持台上に移乗させた後、浴槽を昇降機構により上昇させて入浴者を入浴させる入浴装置が知られている。この入浴装置では、浴槽の上昇に随伴して担架の背もたれ部の下面が浴槽内壁に当接して押し上げられ、背もたれ部が一定角度まで自動リクライニングする構成となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】GENERAL CATALOG2009、オージー技研株式会社、63〜68頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の入浴装置にあっては、背もたれ部全体が座部に対して一軸の関節軸を支点としてリクライニング自在に構成されているのみであるから、特に、低身長者の入浴者が入浴する場合に、後頭部や耳が湯に浸かってしまう危険性があり、安全性の面で課題を有していた。
【0005】
また、後頭部や耳が湯に浸からないリクライニング角度にして入浴を行う場合には、湯面から入浴者の肩が出てしまい充分に湯に浸かって入浴ができないものとなっていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、入浴者の後頭部や耳が湯に浸かることなく安全に入浴を行えるようにするとともに、肩まで湯に充分浸かることができる入浴装置及び入浴システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現する為、請求項1記載の発明は、
背もたれ部全体を傾動可能にした担架と、
該担架を受ける受け部が内方に設けられる浴槽と、を備え、
前記受け部上に前記担架を載せた状態で前記浴槽を上昇動作させて入浴を行う入浴装置であって、
前記背もたれ部を少なくとも二つ以上の部分に分割するとともに、各部分の間を関節軸を介して連結し、
前記背もたれ部上において少なくとも入浴者の頭部が載置される載置部分の水平線に対する傾斜角度を、背もたれ部の他の部分の水平線に対する傾斜角度より増角して傾動させて入浴できるようにしたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、
請求項1記載の入浴装置において、
前記浴槽の上昇動作に随伴して、前記載置部分の水平線に対する傾斜角度を背もたれ部の他の部分の水平線に対する傾斜角度より増角して傾動させることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、
請求項2記載の入浴装置において、
前記担架に、前記載置部分が前記背もたれ部の他の部分に対して前記浴槽の上昇動作以外の動作によって傾動することを防止する傾動防止手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、
請求項1ないし3の何れかに記載の入浴装置と、
前記担架を上方に載置支持するストレッチャーと、を備え、
前記ストレッチャーを前記浴槽に横付けした状態で、前記担架を前記受け部上と前記ストレッチャー上との間で受け渡し可能とした入浴システムであって、
前記ストレッチャー上において前記担架の載置面をフルフラット状態にできることを特徴とする入浴システムである。
【0011】
請求項5記載の発明は、
請求項4記載の入浴システムにおいて、
前記担架はフルフラット状態以外の姿勢で前記受け部上と前記ストレッチャー上との間で受け渡しされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、背もたれ部上において少なくとも入浴者の頭部が載置される載置部分の水平線に対する傾斜角度を、背もたれ部の他の部分の水平線に対する傾斜角度より増角して傾動させて入浴できるようにしたので、入浴者の後頭部や耳が湯に浸かる心配はなく、安全に入浴を行うことができる。また、円背(猫背)の入浴者が入浴を行う場合であっても、背もたれ部が入浴者の背形状により沿い易くなるので、背中が背もたれ部で密着支持され安定した姿勢で入浴が行えることになる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、浴槽の上昇動作に随伴して、背もたれ部上における入浴者の頭部が載置される載置部分の水平線に対する傾斜角度を背もたれ部の他の部分の水平線に対する傾斜角度より増角して傾動させるようにしたので、前記載置部分の背もたれ部の傾動を入浴介助者が手動操作で行う必要性はなく、操作手数を軽減することができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、担架に、背もたれ部上における入浴者の頭部が載置される載置部分が背もたれ部の他の部分に対して浴槽の上昇動作以外の動作によって傾動することを防止する傾動防止手段を備えたものであるから、前記載置部分が不用意に傾動することはなく、よって入浴者が不安感等を感じることはない。
【0015】
従来の担架では、背もたれ部が間接軸を有しない一体構成になっていたことにより、入浴時に入浴者の後頭部や耳が湯に浸からないようにするため、背もたれ面を予め湾曲状に形成しておく必要があり、これが担架の載置面をフルフラット状態にすることができない一因となっていたが、請求項4記載の発明によれば、これを払拭することができ、寝台等に寝る入浴者を担架上へ移乗させる動作が行い易くなり、ゆえに、入浴介助者の労力も軽減できる。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、担架はフルフラット状態以外の姿勢で受け部上とストレッチャー上との間で受け渡しされるので、担架の受け渡し時において頭部が下方に下がっているという錯覚を入浴者が体感し難くなるというメリットを有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る入浴システムの斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る担架の平面図である。
【図3】図2におけるA−A矢視方向の要部断面図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る担架を背面方向から見た部分拡大斜視図である。
【図5】本発明の第一の実施形態に係る浴槽の上昇動作と担架の傾動との関連を説明する図で、a)は浴槽が所定下限位置にある状態、b)は浴槽が上昇途中にある状態、c)は浴槽が所定上限位置にある状態を示すものである。
【図6】本発明の第二の実施形態に係る担架要部の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1ないし5を参照しつつ本発明の第一の実施形態について説明する。図1に示すように、本発明の入浴システム1は、浴槽3と担架4とからなる入浴装置2と、ストレッチャー5とから構成される。入浴システム1は、入浴者が仰臥姿勢で横たわる担架4を載せた平面視略長方形状のストレッチャー5の一方長辺方向を、平面視略長方形状の浴槽3の一方長辺方向に対して横付けし両者を係合し、担架4をストレッチャー5上から浴槽3の入浴部6内に設けられる受け部7方向に渡した後、入浴部6内に湯を給湯した浴槽3を上昇させることにより入浴者を湯に浸漬して入浴を行わせるものである。
【0019】
浴槽3は不図示のパンタグラフや油圧シリンダ等より構成される浴槽昇降手段によって、所定下限位置と所定上限位置の区間を上下に昇降可能に構成され、入浴部6内には、底壁3aを貫通して鉛直状に延設される支柱部7aと、この支柱部7aの上端部に担架4を支持する受け枠部7bとから構成される受け部7が設けられている。
入浴部6長辺方向において対向する内壁面の形状は、ストレッチャー5と浴槽3とを係合したときの入浴者の頭部が位置する側の内壁面3bが上方から下方にかけて傾斜面66ないし垂直面に形成され、入浴者の脚部が位置する側の内側面3cが階段状に形成されている(図5参照)。
【0020】
受け枠部7bの上面左右端の各位置には、入浴者が仰臥姿勢で載置される担架4を受け枠部7b上の所定位置に案内する案内レール8・8が、所定の間隔を有して浴槽3の短辺と同方向に平行態様に配設されている。受け枠部7bの中央部付近には担架4の下面に設けられるセンターロックピン25が嵌入する嵌入孔26と、センターロックピン25が嵌入し担架4と受け部7とがロックされたことを検知する近接センサ9が固着される。図1中、10は入浴者の肩が湯面から出た場合等に肩口にシャワーを充てる肩掛けシャワーである。
【0021】
次に、図2における担架4の下側を前側とし、上側を後側として担架4の説明を行う。図2に示すように、担架4は、大別して背もたれ部11と、臀部12及び脚受け部13を備える座部45と、からなる平面視略長方形状の載置部14がベースフレーム15上に載置されて構成される。背もたれ部11は概ね入浴者の頭部から腰部にかけての範囲を支持し、脚受け部13は概ね入浴者の脚から下の部位を支持する。
【0022】
ベースフレーム15は、載置部14の前後方向に延在され所定間隔をあけて離間して左右に並行配設されるパイプ状部材21・21と、このパイプ状部材21・21の各端部に連結され載置部14の左右方向にわたって横架される側面視逆凹形状の横架材22・22とから構成される。各横架材22の裏面には、受け部7の案内レール8・8上及び後述のストレッチャー5上に配設される案内レール69・69上を転動するガイドローラ23が複数個配設されている。
また、各パイプ状部材21の外側には介助者が担架4を操作する際に掴む握り手24が前後方向に延在して設けられる。センターロックピン25はパイプ状部材21・21間に架け渡される連結板50の左右中央位置に設けられる。
【0023】
図2、3に示すように、背もたれ部11は、後側から前側にかけて順次配列される第一の背もたれ部11aと第二の背もたれ部11bとを有し、両部間が関節軸16によって連結され、後述するように第一の背もたれ部11aが関節軸16を支軸として傾動可能になっている。第一の背もたれ部11aは入浴者の頭部から背中にかけての部位が載置され、ここには、入浴者の頭部を宛がう枕17が前後方向に位置調整可能に設けられている。また、第二の背もたれ部11bは入浴者の背中下方から腰部付近にかけての部位が載置される。
【0024】
同様に脚受け部13も、後側から前側にかけて順次配列される第一の脚受け部13aと第二の脚受け部13bとを有し、両部間が関節軸18によって連結されている。また、第二の背もたれ部11bの前側と臀部12の後側も関節軸19によって、臀部12の前側と第一の脚受け部13aの後側が関節軸20によって連結されている。載置部14はパイプ状部材21に関節軸19を介して軸着されている。
【0025】
背もたれ部11は、第一の背もたれ部11aと第二の背もたれ部11bが側面視で略水平状態を維持しつつ全体が一体となって関節軸19を支軸として傾動可能であって、水平線に対する背もたれ部11全体の傾斜角度が、0°(フラット状態)、11°、33°のいずれかの位置で固定できるようになっている。以下、主に、図3、4を用いて、この構成について説明する。第二の背もたれ部11b下面に一方部が螺着され前後方向に延在する角管27側面の中途位置において支持腕30の一端が回動軸29により軸着され、この他端に形成される凸部31がパイプ状部材21の内側に取着される取着部材33の案内溝32に係合している。
【0026】
支持腕30は左右に配設され、各支持腕30の中途位置が連結棒72にて連結され、この連結棒72にリンク34の一方側が連結して設けられている。リンク34の他方側には入浴介助者が把持できる傾動レバー28が連結されている。従って、入浴介助者が傾動レバー28を手動にて操作し、案内溝32に対する支持腕30の凸部31の係合する位置を変更することによって背もたれ部11全体の角度が上記のいずれかに選択できるようになっている。
より詳しくは、図3中、右上端の水平溝32aに凸部31が係合しているときは、背もたれ部11全体の角度が0°になり、そこから一段下の水平溝32bに嵌ると11°の角度になり、さらに、一山を乗り越え左端の水平溝32cに嵌ると33°の角度となる。
【0027】
また、第一の背もたれ部11aが、浴槽3の上昇動作に随伴して第一の背もたれ部11aの水平線に対する傾斜角度が第二の背もたれ部11bの水平線に対する傾斜角度より増角して傾動できるようになっている。以下、この構成について、図3、4を用いて説明する。
第一の背もたれ部11a裏面の左右の各上方位置には、略コ字形状の金具53が取着されていて、各金具53の外側方向の面には前後方向に延在する溝54が形成されている。また、各角管27後端の内側面に突出片51が固着され、突出片51の先端に支軸52を介して回動自在に軸着される回動片55の一端が軸着されていて、回動片55の他端に設けられる挿入ピン56が溝54から抜け出ないように溝54に対して挿通されている。
【0028】
また、溝54の後側における金具53の対向面の間には、対向面にわたって架け渡される回動軸57を支軸として回動自在なレバー片58が設けられ、レバー片58は、回動軸57に介装され各端がそれぞれレバー片58及び金具53に止着される捻りバネ73(図4参照)によって、図3中、右回り方向に付勢されている。
レバー片58の後端には傾動用ローラ60が軸着され、傾動用ローラ60のローラ軸60aは金具53の対向面の後端部にそれぞれ形成される長孔59に抜け出ないように挿通され、傾動用ローラ軸60aが長孔59内を遊動自在となっている。
【0029】
傾動用ローラ60の軸着位置と反対側のレバー片58の前端には突出ピン61が担架4の外側方向に向かって突出状に設けられ、金具53の内側寄り面の前端付近に回動軸64により回動可能なフック形状の係止部材63が突出ピン61に係止可能に設けられている。回動軸64には捻りバネ62が介装され、その一端及び他端がそれぞれ係止部材63及び金具53に止着され、係止部材63は捻りバネ62によって突出ピン61に係止される方向へ付勢され、金具53の内側面により突出されるボルト75に係止部材63に形成される凸部が当接することによって図3に示す位置で右回り方向の回動が規制されるようになっている。
【0030】
係止部材63が突出ピン61に係止されている状態にあっては、挿入ピン56が溝54内を移動不自在になっていて回動片55が支軸52を支点として回動できないので、第一の背もたれ部11aの関節軸16を支軸とする傾動が防止される。このレバー片58の突出ピン61と係止部材63とは、第一の背もたれ部11aが浴槽3の上昇動作以外の動作によって傾動することを防止する傾動防止手段65の主たる構成要素となっている。
【0031】
一方側が臀部12下面に螺着されるととともに他方側が第二の脚受け部13bの先端付近まで延在する角管35が左右に平行状に設けられ、各角管35の外側面には逆凹形状の溝36が形成されたプレート37が取着されている。左右の溝36に対して操作棒38が挿通されており、この操作棒38には、一端が操作棒38に固定されるとともに他端が関節軸18に回動自在に取着される連結片71が連結されている。操作棒38両端には入浴介助者が把持する把持部材39(図1参照)が設けられている。
【0032】
従って、担架4は、入浴介助者が把持部材39を把持し溝36に対する操作棒38の嵌る位置を変更することによって、脚受け部13が水平状態と、関節軸18を頂上とする山形状態に形態を変更できるようになっている。膝を立てた姿勢で入浴させる場合は、脚受け部13を山形状態に変更する。
【0033】
各角管35の前後中央位置付近の内側面には水平溝40が形成されるプレート41が固着され、この水平溝40には一端が横架材22に回動自在に軸着された回動片42の他端に形成される凸部46が嵌っている。各角管35先端部の下面には転動ローラ43が設けられている。
【0034】
従って、浴槽3がある位置まで上昇すると階段面44に転動ローラ43が当接し、さらに浴槽3が上昇動作すると、座部45(臀部12と脚受け部13)が浴槽3の上昇動作に随伴して持ち上げられる結果として、座部45全体が関節軸19を支軸として座部45の前側が上方に位置するように一体となり傾動する構成となっている。
【0035】
また、角管35先端の外側面には円弧溝48が形成される円弧状プレート47が設けられ、この円弧溝48には、第二の脚受け部13b前端近傍の下面に取着され不図示のバネ等によって円弧溝48方向に通常付勢される操作ピン49が挿入されている。両側の操作ピン49を円弧溝48から抜脱すると、脚受け部13全体が関節軸20を支軸として上方に跳ね上げることが可能になっており、脚受け部13裏面の清掃等を行う際に利用する。
【0036】
平面視略長方形状のストレッチャー5は、入浴者が仰臥姿勢で横たわる担架4を上方に支持し浴槽3が設置される浴室まで入浴者を運搬するとともに、ストレッチャー5の一方長辺方向を浴槽3の一方長辺方向に横付けし係合した後、担架4を受け部7上へ渡したり、逆に受け部7から受け入れたりする役割を果たすものである。ストレッチャー5上において、担架4は載置部14が略水平状のフルフラット状態になる姿勢がとれるようになっていて、寝台等に横たわる入浴者を載置部14上に移乗へさせる動作を行い易くなっている(図1参照)。
【0037】
前述したように水平線に対する背もたれ部11全体の傾斜角度は、ストレッチャー5上において、0°のほか、11°または33°の傾斜角度にて固定できるようになっている。11°の傾斜角度は、担架4を受け部7側へ渡す場合等に設定し、一方、33°の角度は、背中を洗う際やフルフラット状態では横臥位姿勢をとることのできない入浴者の場合等に用いる。
【0038】
また、詳細な説明は省略するが、ストレッチャー5は、前後左右の四箇所位置に配設される四節平行リンク67と、この四節平行リンク67を同期駆動させる不図示の駆動動力源とによって、担架4を支持する高さ位置を調節可能となっているので、入浴者の体を洗浄する際など必要に応じて高さ位置の調節を行うことが可能である。ストレッチャー5の担架4を支持する高さ位置は、通常はストレッチャー5を浴槽3に横付けし係合すると、ストレッチャー5の案内レール69・69と受け部7の案内レール8・8とが同高に同一直線上になる位置に設定されている。図1中、68は入浴介助者が担架4を受け部7へ渡したり、逆に受け部7から担架4をストレッチャー5上に受け入れたりする際に搭乗するステップ台である。
【0039】
以下、前述した入浴システム1及び入浴装置2の作用について説明する。浴槽3は所定下限位置にあり、ストレッチャー5上の担架4の載置部14はフルフラット状態にあるものとする。
寝台等に横たわる入浴者を載置部14上に移乗させる。入浴者の身長に合わせて枕17の位置を前後に調整する。ストレッチャー5を操縦し入浴者の脚部側が浴槽3の階段面44側に位置するように、担架4の一方長辺方向を浴槽3の一方長辺方向に対して横付けし係止する。担架4がストレッチャー5上に載置されているときは、係止部材63が突出ピン61に係止され傾動防止手段65が作用しており、第一の背もたれ部11aと第二の背もたれ部11bとは一体となって傾動し、第一の背もたれ部11aは関節軸16を支軸として傾動不自在となっている。
【0040】
担架4の受け部7方向への渡し動作に際して、最初に、担架4の傾動用ローラ60と、浴槽3の肩掛けシャワー10が干渉しないように、背もたれ部11全体の傾斜角度が11°となるよう前傾動させる。脚受け部13は、水平状態、または、入浴時に入浴者の浴湯内へのずり込み等を防止するため、握り孔74に手指を差し込み脚受け部13を持ち上げた状態で、把持部材39を操作し溝36に対する操作棒38の嵌る位置を変更することによって、山形状態に変更しておいてもよい。
【0041】
その後、入浴介助者はストレッチャー5上においてロックされている担架4のロックを解除し(図示省略)、ステップ台68に搭乗して握り手24を握持し担架4を浴槽3方向へスライドさせて受け部7上面へ渡す。担架4のセンターロックピン25が受け枠部7bの嵌入孔26に嵌入し近接センサ9がONとなり、近接センサ9によって担架4がロックされたことが検知されると、浴槽3の上昇動作が可能となる(図5(a)の状態となる)。
【0042】
浴槽3の傾斜面66が担架4の傾動用ローラ60に当接する上昇位置までは、傾動防止手段65が作用しており、背もたれ部11全体の傾斜角度は、浴槽3の上昇動作の開始前の11°を維持しているが、浴槽3がある上昇位置に至ると浴槽3の傾斜面66が傾動用ローラ60に当接し、さらに浴槽3が上昇動作を続けると、傾動用ローラ60が長孔59の範囲内で僅かに押し上げられ、レバー片58が回動軸57を支点として、図3中、左回りに回動する結果として、突出ピン61に対する係止部材63の係止状態が解除される(傾動防止手段65が作用しなくなる)。これによって、以後浴槽3の上昇動作に随伴して、第一の背もたれ部11aが関節軸16を支軸として前傾動できるようになる。
【0043】
挿入ピン56が前側溝54aの内壁に当接する位置にて第一の背もたれ部11aの傾動が規制される(図5(b)の状態となる)。浴槽3がさらに上昇動作を続けると、浴槽3の上昇動作に随伴し今度は第二の背もたれ部11bが関節軸19を支軸として前傾動を開始する。このとき支持腕30の凸部31は水平溝32b下面に摺接しながら前方向へ移動する。
浴槽3が所定上限位置まで上昇すると、浴槽3は上昇動作を自動的に停止し、このときの第一の背もたれ部11aの水平線に対する傾斜角度は34°となり、一方、第二の背もたれ部11bの水平線に対する傾斜角度は19°となる(図5(c)の状態となる)。従って、低身長の入浴者が入浴を行う場合であっても、後頭部や耳が湯に浸かる心配はなく、安全に入浴を行うことができる。
【0044】
一方、浴槽3の上昇過程において、ある位置まで浴槽3が上昇すると階段面44に担架4の転動ローラ43が当接し、さらに浴槽3が上昇動作を行うと、座部45(臀部12と脚受け部13)が浴槽3の上昇動作に随伴し持ち上げられる結果として、座部45全体が関節軸19を支軸として自動的に上方に傾動する。浴槽3が所定上限位置に至り上昇動作が停止した際の座部45の水平線に対する傾斜角度は5°となるように設定されている。これによって、入浴中の浮力による入浴者のずり込みを防止することができる。
【0045】
入浴が完了すると、浴槽3を下降動作させて退浴を行う。浴槽3の下降動作に随伴して、座部45が水平状態まで復帰傾動することになる。
その一方で、浴槽3の下降動作に随伴して、支持腕30の凸部31が水平溝32b下面に摺接しながら後方向へ移動し水平溝32bの後端内壁にて移動が規制され、第二の背もたれ部11bの傾斜角度が19°から11°になる位置まで復帰するよう後傾動する。
【0046】
さらに浴槽3が下降動作を続けると、挿入ピン56が後側溝54bの内壁に当接する位置にて第一の背もたれ部11aの後傾動が規制され、第一の背もたれ部11aの傾斜角度が11°まで復帰する。このとき第一の背もたれ部11aは角管27にて支持されるように設計されている。
【0047】
また、傾斜面66と傾動用ローラ60が非当接状態になると、傾動用ローラ60が自重で長孔59内を下方に移動しレバー片58が回動軸57を支点として図3中、右回りに回動することになり、これに連動して係止部材63がレバー片58の突出ピン61に自動的に係止される(傾動防止手段65が作用する)。
浴槽3が所定下限位置まで下降した後、入浴介助者は、担架4と受け部7とのロックを解除して担架4を案内レール69上へスライドさせてストレッチャー5上で受け取る。
【0048】
次に、図6を参照して本発明の第二の実施形態を説明する。尚、図6において、図1ないし5と同一又は同等の構成要素については、同一符号を付記して、特に説明を要する場合を除いて構成要素の説明は省略する。第二の実施形態は、第一の実施形態の担架4に、浴槽3の上昇動作に随伴しない状態、例えば、担架4がストレッチャー5上に載置されている状態等であっても、関節軸16を支軸として第一の背もたれ部11aを前傾動させて固定できるようにした構成を付加したものである。
【0049】
即ち、第一の実施形態における前側溝54aに連続するとともに溝54方向に直交する上方向に挿入ピン56が嵌入する嵌入溝70を形成し、傾動防止手段65を手動操作にて作用させたり、逆に作用しないように適宜変更できるようにしたものである。
具体的には、左右の傾動用ローラ60のローラ軸60aを連結し、これを把持して傾動用ローラ60を長孔59内において上方に手動で持ち上げることにより、突出ピン61に係止されている係止部材63の係止状態を解除し、傾動防止手段65が作用しないように変更操作する。
【0050】
この状態で第一の背もたれ部11aを上方に持ち上げるようにして前傾動させて、挿入ピン56を嵌入溝70に嵌入させた後、第一の背もたれ部11aから手を離すことにより、第一の背もたれ部11aを前傾動させた状態にて固定できる。よって、この姿勢状態を保ったまま担架4をストレッチャー5上から受け部7上へ渡して入浴を行うことも可能である。
【0051】
尚、本発明は前述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、高齢者や身体障害者等の入浴者を仰臥位姿勢で浴槽に浸漬させ入浴させる入浴装置及び入浴システムに適用できるもので、産業上の利用可能性は高いものである。
【符号の説明】
【0053】
1 入浴システム
2 入浴装置
3 浴槽
4 担架
5 ストレッチャー
11 背もたれ部
11a 第一の背もたれ部
11b 第二の背もたれ部
16 関節軸
19 関節軸
65 傾動防止手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背もたれ部全体を傾動可能にした担架と、
該担架を受ける受け部が内方に設けられる浴槽と、を備え、
前記受け部上に前記担架を載せた状態で前記浴槽を上昇動作させて入浴を行う入浴装置であって、
前記背もたれ部を少なくとも二つ以上の部分に分割するとともに、各部分の間を関節軸を介して連結し、
前記背もたれ部上において少なくとも入浴者の頭部が載置される載置部分の水平線に対する傾斜角度を、背もたれ部の他の部分の水平線に対する傾斜角度より増角して傾動させて入浴できるようにしたことを特徴とする入浴装置。

【請求項2】
請求項1記載の入浴装置において、
前記浴槽の上昇動作に随伴して、前記載置部分の水平線に対する傾斜角度を背もたれ部の他の部分の水平線に対する傾斜角度より増角して傾動させることを特徴とする入浴装置。

【請求項3】
請求項2記載の入浴装置において、
前記担架に、前記載置部分が前記背もたれ部の他の部分に対して前記浴槽の上昇動作以外の動作によって傾動することを防止する傾動防止手段を備えたことを特徴とする入浴装置。

【請求項4】
請求項1ないし3の何れかに記載の入浴装置と、
前記担架を上方に載置支持するストレッチャーと、を備え、
前記ストレッチャーを前記浴槽に横付けした状態で、前記担架を前記受け部上と前記ストレッチャー上との間で受け渡し可能とした入浴システムであって、
前記ストレッチャー上において前記担架の載置面をフルフラット状態にできることを特徴とする入浴システム。

【請求項5】
請求項4記載の入浴システムにおいて、
前記担架は前記フルフラット状態以外の姿勢で前記受け部上と前記ストレッチャー上との間で受け渡しされることを特徴とする入浴システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−62437(P2011−62437A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217508(P2009−217508)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000103471)オージー技研株式会社 (109)
【Fターム(参考)】