説明

入眠誘導システム

【課題】利用者を入眠状態に誘導するのに適した感覚刺激を与える。
【解決手段】呼吸センサ12は利用者の呼吸を検出し、入眠センサ11は利用者の入眠状態を検出する。刺激付加部30は、利用者に音刺激を与えるスピーカ部31を備え、制御部20は、呼吸センサ12と入眠センサ11による検出内容に応じて刺激付加部30を制御する。すなわち、制御部20は、スピーカ部31から出力される音の音像を呼吸センサ12により検出される利用者の呼吸に合わせて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者の生理的な状態に連動して感覚刺激を与えることにより、利用者をリラックス状態に導くとともに入眠状態に誘導する入眠誘導システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、利用者の特定の生理的な状態(たとえば、呼吸)を監視し、生理的な状態の特徴に対して特定の感覚刺激(たとえば、音刺激)を与えることにより、睡眠の各段階に誘導する技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1には、入眠者を所望の睡眠段階に誘導するために、入眠者が息を吸うたびに、短い静かな音をスピーカから生成する技術が開示されている。すなわち、感覚刺激としての音を生理的な状態である呼吸に合わせて生成することにより、入眠者のペーシングを行い、さらに、感覚刺激を変化させることにより、入眠者のリーディングを行って異なる睡眠段階に誘導している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−512086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の技術では、入眠者の眠りを妨げない程度に感覚刺激(具体的には音)を与えている(0037段落)。また、別の睡眠段階に導くために、感覚刺激に関して、大きさ、量、トーン、質、パターン、周波数、角度、組成、音源の位置、適用の位置などを調整する旨の記載がある(0017段落)。
【0005】
ただし、特許文献1に記載の技術は、入眠前の利用者を入眠状態に誘導することは想定されていない。すなわち、特許文献1に記載の技術において、感覚刺激を調整するのは、ある睡眠段階から別の睡眠段階に導くことが目的であり、入眠前の利用者を入眠状態に誘導するために、感覚刺激を変化させることについては考慮されていない。
【0006】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、利用者を入眠状態に誘導するのに適した感覚刺激を与える入眠誘導システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、利用者の呼吸を検出する呼吸センサと、利用者の入眠状態を検出する入眠センサと、利用者に刺激を与える刺激付加部と、呼吸センサと入眠センサによる検出内容に応じて刺激付加部を制御する制御部とを備え、刺激付加部は、利用者に音刺激を与える音刺激部を備え、制御部は、音刺激部から出力される音の音像を呼吸センサにより検出される利用者の呼吸に合わせて制御することを特徴とする。
【0008】
音刺激部は、少なくとも2個のスピーカ部を備え、制御部は、人の頭部伝達関数を畳み込んだ音声信号をスピーカ部に与えることにより擬似的に三次元の音像を生成する構成を採用することができる。
【0009】
刺激付加部は、利用者に映像による刺激を与える映像表示部を備えるのが望ましい。
【0010】
この場合、制御部は、映像表示部により表示する映像として利用者をリラックスさせる背景映像と、呼吸センサにより検出される利用者の呼吸を可視化する誘導映像とを生成することが望ましい。
【0011】
また、映像表示部はプロジェクタであって、制御部は、映像表示部が投影する映像の歪みを補正する歪み補正部を備えることが望ましい。
【0012】
刺激付加部は、利用者に光刺激を与える光刺激部を含んでいてもよい。
【0013】
また、刺激付加部は、利用者に振動刺激を与える振動刺激部を含んでいてもよい。
【0014】
さらに、起床時刻を設定する起床時刻設定部が付加され、制御部は、起床時刻設定部により設定された起床時刻から求められる入眠時刻に基づいて刺激付加部の動作を開始するようにしてもよい。
【0015】
入眠センサは、利用者の入眠を非接触で検出する構成を採用することができる。
【0016】
呼吸センサと入眠センサと制御部と刺激付加部とをマッサージチェアに設けてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の構成によれば、音刺激部から出力される感覚刺激としての音の音像を呼吸センサにより検出される利用者の呼吸に合わせて制御するので、呼吸に合わせた音像の制御によって利用者の呼吸を誘導することが可能になり、利用者をリラックスさせて入眠状態への誘導が容易になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1を示すブロック図である。
【図2】同上の使用例を示し、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図3】同上の他の使用例を示し、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図4】同上の動作説明図である。
【図5】実施形態2を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態1)
本実施形態は、図1に示すように、利用者の生理的な状態を検出するセンサ部10と、利用者に感覚刺激を与える刺激付加部30と、センサ部10の出力に基づいて刺激付加部30から利用者に与える刺激を制御する制御部20とを備える。また、本実施形態では、利用者が寝具としてのベッドに横たわった状態を想定しているが、以下に説明する実施形態は、布団やリクライニング式の椅子、あるいはマッサージチェアを利用している利用者に本実施形態の技術を適用することを妨げない。
【0020】
センサ部10は、利用者が覚醒状態か入眠状態かを検出する入眠センサ11と、利用者の呼吸を検出する呼吸センサ12とを備える。
【0021】
入眠センサ11は、ベッドに横たわっている利用者の体動を検出し、体動の程度を評価することにより覚醒状態か入眠状態かを検出する。具体的には、ベッドのマットなどに圧力センサあるいは加速度センサを設け、圧力センサあるいは加速度センサの出力波形を用いて体動の程度を評価する。利用者に体動が生じると、圧力センサあるいは加速度センサの出力波形のピーク値が大きくなるから、出力波形の振幅を閾値と比較することにより、体動の有無を検出することができる。
【0022】
体動は、ベッドに設けた圧力センサあるいは加速度センサのように、利用者の動作を直接的または間接的に検出する構成のほか、ベッド上の利用者を非接触で撮像した画像からコンピュータ画像処理により検出する構成などを採用することができる。
【0023】
入眠センサ11は、体動が検出されない状態が規定した判定時間に達すると、利用者が入眠したと判断し、覚醒状態から入眠状態に移行したことを検出する。なお、体動が生じる頻度は、一般に入眠状態よりも覚醒状態のほうが多いから、体動の頻度から覚醒状態か入眠状態かを判断してもよい。すなわち、単位時間における体動の頻度を検出し、単位時間における体動の頻度が規定値以下になる状態が複数回連続したときに、利用者が覚醒状態から入眠状態に移行したと判断してもよい。つまり、複数の連続した単位時間において体動の頻度が規定値以下になる状態が継続すると入眠状態に移行したと判断する。
【0024】
なお、入眠センサ11として使用可能な場合には、脳波や心拍を用いて覚醒状態から入眠状態への移行を検出してもよい。脳波は、利用者が頭部に装着するネットに多数の赤外線センサを装着した脳波センサにより検出することが可能である。心拍は、利用者の胸部に巻き付けるベルトに圧力センサあるいは加速度センサを設けた構成を採用するか、ベッドのマットに圧力センサあるいは加速度センサを設けた構成を採用する。
【0025】
一方、呼吸センサ12は、利用者の腹部に着脱可能に巻き付けるベルトと、ベルトに取り付けられ腹部の膨張と収縮とを検出する加速度センサあるいは圧力センサとを備える。ベルトは面状ファスナを端部に備えており、端部を重ね合わせる寸法を広範囲に調節することが可能になっている。
【0026】
面状ファスナは、パイル状に起毛した第1の布材と、先端部をフック状に形成して起毛した第2の布材とからなり、第1の布材と第2の布材とを重ね合わせたときに、第1の布材に第2の布材が引っ掛かることにより互いに結合されるように構成されている。したがって、利用者の腹部にベルトを巻き付けた状態で、ベルトの端部が重なるようにベルトの長さを設定し、互いに重なる部位の一方に第1の布材を設け、他方に第2の布材を設けている。この構成により、利用者の腹部へのベルトの巻き付け量を自由に調節することが可能になる。
【0027】
なお、呼吸センサ12としてベルト状の構成を採用すると、利用者は使用のたびに呼吸センサ12を装着しなければならないから、利用に支障をきたす場合がある。また、利用者の身体に装着する構成を採用すると睡眠を妨げる可能性もある。そこで、呼吸センサ12としては、ベッドのマットなどに圧力センサあるいは加速度センサを設けた構成を採用することが望ましい。
【0028】
同様の問題は、呼吸センサ12だけではなく、入眠センサ11においても生じるから、入眠センサ11も利用者の身体に装着せずに用いる構成を採用することが望ましい。上述の構成から明らかなように、ベッドのマットなどに圧力センサあるいは加速度センサを設けると、圧力センサあるいは加速度センサの出力を用い、出力に対する処理を異ならせることにより、圧力センサあるいは加速度センサを入眠センサ11と呼吸センサ12との両方に兼用することが可能になる。
【0029】
一方、刺激付加部30は、利用者に音刺激を与える音刺激部としてのスピーカ部31と、利用者に映像刺激を与える映像刺激部としての映像表示部32とを備える。スピーカ部31は、図2に示すように、ベッド40のヘッドボード41に設けた左右2個のスピーカ35を備える。スピーカ35の個数はとくに制限されないが、少なくとも2個のスピーカ35が必要である。また、左右のスピーカ35の距離は、利用者の頭部の左右寸法よりも大きくすることが望ましい。
【0030】
一方、映像表示部32は、図2に示すように、ベッド40の上の利用者1から表示内容が見える位置に配置される。実際には、利用者がベッド40の上で仰臥しているときに表示内容が見えるように天井面42に画面44を形成し、さらに、ベッド40の足元側の壁面43にも画面45を形成することが望ましい。したがって、映像表示部32としては、プロジェクタを用い、ミラーのような光学要素を用いて映像の投影方向を変更可能に構成するのが望ましい。
【0031】
映像表示部32には、天井面42や壁面43に画面44,45を形成することができる装置であれば、プロジェクタ以外を用いることも可能である。たとえば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイのようなフラットパネルディスプレイを採用することも可能である。また、天井面42と壁面43との一方にフラットパネルディスプレイを配置し、他方にはプロジェクタにより画面を形成してもよい。
【0032】
制御部20は、センサ部10により検出した利用者1の生理的な状態に基づいて、スピーカ部31から出力する音の内容を制御するとともに、映像表示部32により表示する映像の内容を制御する。以下では、音の内容および映像の内容を区別しないときには、「コンテンツ」という。すなわち、制御部20は、センサ部10の出力に基づいてスピーカ部31および映像表示部32から利用者1に提示するコンテンツを制御する。
【0033】
制御部20には、スピーカ部31に設けた2個のスピーカ35から出力される音を用いて擬似的に3次元の音像を形成する機能を設けてある。すなわち、擬似的にサラウンド効果が得られるように、平均的な人の頭部伝達関数を音声信号に畳み込む畳込み演算部23を設けている。畳込み演算部23に入力される音声信号は統合制御部21において生成され、畳込み演算部23に与える頭部伝達関数は伝達関数記憶部22に記憶されている。
【0034】
畳込み演算部23は、音声信号に畳み込む伝達関数を調節して音像を制御するフィルタと、スピーカ35の位置に応じたクロストークのような再生系の特性を補償するための補償処理部とを備えている。フィルタは、統合制御部21から与えられた音声信号を左右のスピーカ35から出力するために2チャンネルの音声信号を生成するとともに、音声信号の周波数ごとの伝達関数を調節する。なお、頭部伝達関数を用いて擬似的にサラウンド効果を得る技術は、周知であるから詳述しない。
【0035】
伝達関数記憶部22に記憶される頭部伝達関数は、実際には個々人で異なるが、個人差を考慮せずに平均的な人の頭部伝達関数を用いる。たとえば、ダミーヘッドを用いて計測した頭部伝達関数や、特定の個人を被験者として計測した頭部伝達関数を用いることができる。また、頭部伝達関数の個人差を考慮する場合は、複数人の被験者についての計測値から求めた平均的な頭部伝達関数を用いてもよい。さらに、伝達関数記憶部22に、複数種類の頭部伝達関数を用意しておき、利用者の好みに応じて頭部伝達関数を選択させることも可能である。頭部伝達関数を複数種類から選択する場合は、利用者がスイッチなどの操作により選択するほか、利用者の頭部の形状を推定するためのセンサを設け、選択肢の中から最適と判断される頭部伝達関数を自動的に選択する構成を採用してもよい。
【0036】
この場合のセンサには、ベッド40のマットあるいは枕に設けた複数個の圧力センサを用い、頭部から受ける圧力の分布を用いる構成を採用することができる。また、ヘッドボード41に頭部の三次元計測を行う計測装置(光切断法、飛行時間法などによる)を用いて、頭部や耳の形状を計測する構成を採用してもよい。
【0037】
統合制御部21は、伝達関数記憶部22から畳込み演算部23のフィルタに与える伝達関数を指示し、音声信号の内容に応じて音像を制御する。音像の制御には、利用者1に対して音像を特定位置に定位させる制御だけではなく、利用者1の周囲全体に広がり定位しない音像を形成する制御などが含まれる。
【0038】
一方、映像表示部32を用いて表示する映像の内容は、統合制御部21から与えられる映像信号により定められる。ここで、映像表示部32としてプロジェクタを用いる場合、図2に示すように、ベッド40に仰臥する利用者1から見て映像表示部32が左右に偏りのない位置に配置されていれば、天井面42や壁面43に形成された画面44,45は、矩形状もしくは台形状になる。つまり、利用者1の体幹を通る平面上に、プロジェクタである映像表示部32が配置されている場合、映像には歪みが生じないか、もしくは、台形歪みが生じることになる。
【0039】
一方、図3に示すように、ベッド40に仰臥する利用者1から見てプロジェクタである映像表示部32が左右の一側(図示例では右側)に偏って配置されている場合には、天井面42や壁面43に形成される画面44,45は不等辺四角形状に歪むことになる。要するに、元の映像が矩形状であるとして、映像表示部32から天井面42あるいは壁面43に投影された画面44,45の四隅までの距離が等距離であれば歪みは生じないが、映像表示部42から四隅までの距離が等距離でなければ画面44,45は歪むことになる。
【0040】
そこで、制御部20には、映像表示部32から投影する映像をあらかじめ変形させるための歪み補正部24を設けている。歪み補正部24では、映像を変形させるために、天井面42や壁面43に投影される映像の歪みを考慮した適宜の変換行列を映像に適用する。変換行列は、映像表示部32から天井面42や壁面43に適宜の映像を表示した状態で、利用者1が手動で調節することにより決定する。なお、映像表示部32と映像を投影する面との位置関係の実測値を用いて、変換行列を幾何学的に決定することも可能である。さらに、映像表示部32においてレンズやミラーのような光学系を操作することにより、歪み補正が可能である場合には、変換行列を用いて映像信号に対する歪み補正を行わずに、光学系の調節のみで歪みを補正してもよい。
【0041】
以下では、統合制御部21がセンサ部10の出力に基づいて生成するコンテンツの例について説明する。制御部20の動作には、利用者1を覚醒状態から入眠状態に誘導する「入眠誘導」モードと、利用者1が睡眠中であるときの「睡眠中」モード、利用者1を起床させる「起床誘導」モードなどがある。図示例において、制御部20は、スピーカ部31と映像表示部32とを制御する構成としているが、他に、室内の環境を制御する機能を備えていてもよい。たとえば、照明機器により室内照度や照明機器の色温度を調節する機能、空調機器(加湿器や除湿器を含む)により室内の温度および湿度を調節する機能、室内の香りを調節する機能など、睡眠に関連した室内環境を制御する機能を備えていてもよい。なお、室内の香りを調節する装置としては、複数種類の芳香成分の混合比を調節して芳香成分を飛散させる装置が知られている。
【0042】
以下では、主として入眠誘導モードの動作について説明する。入眠誘導モードでは、統合制御部21において、呼吸センサ12を用いて検出している利用者1の呼吸に合わせたコンテンツを生成する。図4に示すように、入眠誘導モードが開始されると(S1)、利用者1の呼吸を整えるように呼吸支援プログラムが開始される(S2)。
【0043】
ここに、入眠誘導モードは、利用者がスイッチを操作することにより開始するか、あるいは、図示しない時計部で計時している時刻があらかじめ設定した開始時刻になることにより開始する構成を採用する。また、入眠誘導モードが開始されると呼吸支援プログラムの開始前に、室内の環境が睡眠に適した環境になるように図示しない機器を制御する。たとえば、照明機器の照度や色温度を引き下げ、スピーカ部31や映像表示部32を用いてテレビ放送を視聴している場合には、テレビ放送の受信を終了させる。
【0044】
呼吸支援プログラムは、利用者1の呼吸において呼気の時間を延長するように誘導する環境を形成する動作であって、呼気の時間を延長することにより、利用者1をリラックスした状態に誘導する。呼気の時間を延長するように誘導するには、スピーカ部31および映像表示部32から以下のように、呼吸センサ12により検出される利用者1の呼吸に合わせて変化するコンテンツを利用者1に提示すればよい。
【0045】
このようなコンテンツの一例を説明する。音としては、背景音として、自然界の音、ヒーリングミュージック、無機的な音を定位させずに与えるとともに、呼吸音に似た誘導音を含める。背景音を用いることにより、利用者1をリラックスさせる効果が期待できる。誘導音は、ホワイトノイズのような音源を用いて呼気と吸気とを表すように音量および音像の制御が行われる。
【0046】
たとえば、呼吸センサ12により呼気が開始されると、時間経過に伴って誘導音の音量を減少させるとともに音像を収束させ、さらに音像が利用者1に離れるように誘導音の制御を行う。一方、呼吸センサ12により吸気が開始されると、時間経過に伴って誘導音の音量を増大させるとともに音像を発散させ、さらに音像が利用者1に近付くように誘導音の制御を行う。誘導音の音像は、収束と発散とを行わずに利用者1の前後方向に移動させたり、移動を伴わずに収束と発散とのみを行うように制御してもよい。
【0047】
誘導音の音量および音像をこのように制御すれば、呼吸に伴って空気が流れているかのような感覚が得られるから、利用者は呼吸に対する意識が高まることになる。また、利用者1は、呼吸に合わせて呼吸音に似た誘導音を聴くことになるから、自身の呼吸音がフィードバックされているかのような感覚を持つことになり呼吸が誘導されることになる。
【0048】
さらに、映像表示部32では、多数の点群が左右の一方向に緩やかに移動する背景映像を表示し、さらに、呼吸に合わせて形状が変化する誘導映像を背景映像と合わせて表示する。背景映像として上述のような点群を用いると、利用者1に星空を見ているかのような感覚を与えることができ、利用者1をリラックスさせる効果が得られる。また、背景映像には、点群ではなく自然界(森や海や空)の映像、あるいは宇宙を想起させる映像を用いることも可能である。
【0049】
一方、誘導映像は、呼吸センサ12により検出された利用者1の呼吸を可視化する映像であって、たとえば、呼吸に合わせて点群が離合集散するように変形する映像を用いればよい。このような誘導映像を用いる場合は、呼気の開始からの時間経過に伴って誘導映像を収束させ、吸気が開始されると誘導映像を発散させるように映像信号を生成する。誘導映像を構成する点群は、呼気が開始される前には画面上に不規則に分散させておき、呼気が開始されると呼気が継続している間に、時間経過に伴ってあらかじめ定められた形(四角形など)に収束するように移動させる。したがって、定められた形に収束するまでの時間を調節することにより、呼気が延長されるように誘導することができる。
【0050】
上述した呼吸支援プログラムの動作は一例であって、誘導映像の形状に制限はなく、また、誘導音の収束および発散と誘導映像の収束および発散とは、上述した動作とは異なる対応関係としてもよい。
【0051】
呼吸支援プログラムが開始されると、上述のように誘導音や誘導映像が利用者1に提示されることにより利用者1は入眠するように誘導されるから、呼吸支援プログラムの実行中に入眠センサ11において利用者1が覚醒状態か入眠状態かを判別する。入眠センサ11において利用者1が入眠状態になったことが検出されると(S3)、統合制御部21では、呼吸支援プログラムを停止する(S4)。さらに、上述した睡眠中モードに移行する(S5)。睡眠中モードでは、室内が睡眠に適した環境になるように刺激付加部30などの制御を行う。たとえば、スピーカ部31から音の出力を停止し、映像表示部32による映像の提示を停止する。さらに、室内の照明装置の消灯などを行う。
【0052】
上述した動作では、ステップS3において入眠センサ11が利用者の入眠を検出したときに呼吸支援プログラムを停止させているが、利用者1がスイッチなどにより手動で呼吸支援プログラムを停止させてもよい。また、統合制御部21が出力するコンテンツは、上述した内容に限られるものではなく、センサ部10が検出した利用者1の生理的な状態に応じて、コンテンツを選択するようにしてもよい。
【0053】
さらに、上述の構成例では、スピーカ部31として2個のスピーカ35をヘッドボード41の一面に並べて配置しているが、3個以上のスピーカ35を用いるとともに、少なくとも1個のスピーカ35をヘッドボード41とは異なる場所に配置する構成を採用してもよい。スピーカ35の個数を増やせば、利用者1の頭部の位置や向きが音像の位置に与える影響を軽減することができる。すなわち、利用者1の頭部の位置が変化しても音像の位置がほとんど変化しなくなる。
【0054】
(実施形態2)
本実施形態は、図5に示すように、センサ部10において入眠センサ11および呼吸センサ12に加えて非接触で入眠を検出するカメラ13を付加している。さらに、図示例では、刺激付加部30において、図1に示したスピーカ部31および映像表示部32に加えて、光刺激部33と振動刺激部34とを設けている。制御部20は、基本的には実施形態1と同様の構成であるが、刺激付加部30に設けた光刺激部33および振動刺激部34に指示を与える機能を有している。さらに、制御部20には、起床時刻設定部50が付設されている。
【0055】
カメラ13は、ベッド40に仰臥している利用者1の表情を撮像するように配置された撮像装置を有し、撮像装置により撮像した利用者1の表情に基づいて、覚醒状態から入眠状態への移行を利用者に非接触で検出する。すなわち、撮像装置により撮像した画像により、利用者1の瞼などの表情を監視し、入眠状態と判断される表情になると(たとえば、瞼を閉じた状態が所定時間継続していると)、入眠状態と判断する。カメラ13による入眠状態の検知は、入眠センサ11に代えて単独で用いることも可能であるが、入眠センサ11と併用することが望ましい。
【0056】
このように、入眠センサ11とカメラ13とを組み合わせて利用者1の入眠を検出することにより、入眠状態の精度を高めることができる。カメラ13を入眠センサとして単独で用いる場合には、非接触で入眠を検出することにより、ベッド40のマットに違和感が生じるのを防止できる。すなわち、接触刺激に対して敏感な利用者であっても睡眠を妨げることなく入眠状態への移行を検出することができる。
【0057】
一方、刺激付加部30に設けた光刺激部31は、室内に配置した照明装置を用いて利用者1に光刺激を与える機能を有する。たとえば、室内の照明に用いるベース灯と、呼吸センサ12により検出される呼吸に合わせて光環境を変化させるリズム灯とを設ける。リズム灯は、照度(発光光度)、色温度、配光(照射方向)のうちの少なくとも1要素が可変であって、誘導音や誘導映像と同様に、可変である要素が呼吸に合わせて調節される。一例を挙げると、吸気の際には色温度を低くし、呼気の際には時間経過に伴って色温度を上げる。
【0058】
刺激付加部30に設けた振動刺激部34は、ベッド40の複数箇所に配置したバイブレータを備える。制御部20は、駆動するバイブレータを選択し、バイブレータの振動強度を変化させる制御を行う。したがって、制御部20では、センサ部10で検出した利用者1の生理的な状況に応じて、駆動するバイブレータの位置と振動強度とを制御することにより、利用者1を覚醒状態から入眠状態に誘導する。
【0059】
たとえば、入眠状態に誘導するために、電車の座席に座っているかのような振動を与えることができる。この種の振動は、ほぼ一定周期の周期性を有するとともに、周期・振動波形・位置・方向などに揺らぎを伴っている。したがって、この種の振動を模擬する振動を与えることにより、利用者1をリラックスさせて入眠状態に誘導することができる。
【0060】
また、音や映像による刺激と同様に、呼吸センサ12により検出される利用者1の呼吸に合わせて振動刺激を与える周期、振動強度、刺激場所を変化させるようにしてもよい。たとえば、吸気の際にはベッド40のマット全体を振動させ、呼気の際には局所的に振動させることにより呼吸の誘導を行い、リラックスさせることが可能になる。
【0061】
また、睡眠中においては、呼吸センサ12により無呼吸状態が検出されると、振動刺激部34(あるいはスピーカ部31)により、利用者1に刺激を与えて、寝返りをさせるようにしてもよい。このように睡眠中に刺激を与えることによって、無呼吸の状態が継続するのを回避することができる。呼吸センサ12では、いびきの状態を検出することも可能であるから、同様にして、いびきを回避させるように刺激を与えることが可能である。なお、いびきの検出には、呼吸センサ12ではなく、マイクロホンを別に設けてもよい。
【0062】
起床時刻設定部50は、利用者1が起床する時刻を入力するためのマンマシンインターフェースである。制御部20では、起床時刻設定部50により起床時刻が設定されていると、適正な入眠時刻を算出し、入眠時刻に応じて入眠モードを自動的に開始する。すなわち、起床時刻設定部50により起床時刻を設定することにより、入眠誘導モードの起動がなされる。なお、起床時刻設定部50の設定内容は、利用者1によるスイッチの操作により、スピーカ部31から音声ガイダンスとして確認できるようにしてもよい。この機能では、設定されている起床時刻が音声によるメッセージとして報知される(たとえば、「起床時刻は7時にセットされています」など)。
【0063】
本実施形態において、上述した構成および動作のほかは、実施形態1と同様である。また、刺激付加部30として、本実施形態では、光刺激と振動刺激とを与える例について説明したが、温熱、気流などの刺激を与えることも可能である。
【0064】
温熱刺激を与えるには、ベッドのマットや枕にペルチェ素子のような温度調節を可能にする装置を配置しておき、頭部を冷やし、足部を暖めるように制御すれば、頭寒足熱を実現することができるから、入眠状態への誘導に寄与する。睡眠中モードにおいては、暑く寝苦しくならないように、適正な温度に制御する。
【0065】
また、気流による刺激を与えるには、呼吸センサ12により検出される利用者1の呼吸に合わせて、気流の方向、強さ、温度を変化させるようにしてもよい。たとえば、吸気中には前方から顔に向かう気流を生成し、呼気中には顔の前方に向かう気流が生成されるように気流を制御する。
【0066】
上述の例では、センサ部10、制御部20、刺激付加部30をベッド40に付属させているが、これらを布団、リクライニング式の椅子、マッサージチェアなどに設けることも可能である。とくに、マッサージチェアに付属させることにより、マッサージチェアの機能との兼用が可能になり、一部の機能の変更および追加により、実現することが可能になる。
【符号の説明】
【0067】
11 入眠センサ
12 呼吸センサ
13 カメラ
20 制御部
24 歪み補正部
30 刺激付加部
31 スピーカ部
32 映像表示部
33 光刺激部
34 振動刺激部
35 スピーカ
50 起床時刻設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の呼吸を検出する呼吸センサと、利用者の入眠状態を検出する入眠センサと、利用者に刺激を与える刺激付加部と、前記呼吸センサと前記入眠センサによる検出内容に応じて前記刺激付加部を制御する制御部とを備え、前記刺激付加部は、利用者に音刺激を与える音刺激部を備え、前記制御部は、前記音刺激部から出力される音の音像を前記呼吸センサにより検出される利用者の呼吸に合わせて制御することを特徴とする入眠誘導システム。
【請求項2】
前記音刺激部は、少なくとも2個のスピーカ部を備え、前記制御部は、人の頭部伝達関数を畳み込んだ音声信号を前記スピーカ部に与えることにより擬似的に三次元の音像を生成することを特徴とする請求項1記載の入眠誘導システム。
【請求項3】
前記刺激付加部は、利用者に映像による刺激を与える映像表示部を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の入眠誘導システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記映像表示部により表示する映像として利用者をリラックスさせる背景映像と、前記呼吸センサにより検出される利用者の呼吸を可視化する誘導映像とを生成することを特徴とする請求項3記載の入眠誘導システム。
【請求項5】
前記映像表示部はプロジェクタであって、前記制御部は、前記映像表示部が投影する映像の歪みを補正する歪み補正部を備えることを特徴とする請求項3又は4記載の入眠誘導システム。
【請求項6】
前記刺激付加部は、利用者に光刺激を与える光刺激部を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の入眠誘導システム。
【請求項7】
前記刺激付加部は、利用者に振動刺激を与える振動刺激部を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の入眠誘導システム。
【請求項8】
起床時刻を設定する起床時刻設定部が付加され、前記制御部は、前記起床時刻設定部により設定された起床時刻から求められる入眠時刻に基づいて前記刺激付加部の動作を開始することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の入眠誘導システム。
【請求項9】
前記入眠センサは、利用者の入眠を非接触で検出することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の入眠誘導システム。
【請求項10】
前記呼吸センサと前記入眠センサと前記制御部と前記刺激付加部とをマッサージチェアに設けたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の入眠誘導システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate