全バリアエラストマーゲル充填型乳房プロテーゼ
単一のゲルバリア層で形成されたシェルを有するエラストマーゲル充填型補綴用インプラント(10)。バリア層(14)は、均一なシリコーンエラストマーから形成され、これは、シェルを通るシリコーンゲルの浸透を立体的に遅らせることができ、内部バリア層を持つサンドイッチ構造を採用した従来のシェルのブリード速度の約40%未満のブリード速度を持つ。さらに、バリア層シェルの材料は、従来のシェルと同等またはそれを上回る湿潤強度を示す。このシリコーンエラストマーはポリジメチルシロキサンであってよく、置換化学基は少なくとも13%の最小モルパーセントのジフェニル基である。本インプラントは、乳房再建または増大用に設計することができ、それにしたがってシェルを造形しうる。シェル壁の厚さは少なくとも0.254mm(0.010インチ)、好ましくは約0.456mm(0.018インチ)である。本インプラントシェルは、浸漬成形、噴霧成形または回転成形によって製造しうる。外面は平滑であるか、テクスチャ加工しうる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軟質補綴用インプラントに関し、より具体的にはシリコーンゲル充填型乳房インプラントおよびその構築に関する。
【背景技術】
【0002】
体組織の置換又は増大には植込み型プロテーゼがよく使用される。乳がんの処置では乳腺およびその周囲組織の一部または全部を除去することが必要な場合がある。乳房の再建では、周囲組織を支えると共に乳房の外観を復元するプロテーゼの外科的植込みが、よく用いられる。身体の正常な外観の復元は、術後の患者に対して極めて有益な心理学的作用を持ち、大規模な外科手術後にしばしば起こるショックおよび抑うつの多くを解消する。植込み型プロテーゼは、臀部、顎、腓腹などといった、身体のさまざまな領域にある軟部組織の正常な外観を復元するためにも、より広く使用されている。
【0003】
軟質植込み型ゲル充填プロテーゼは、典型的には、シリコーンゲルコアを包む硬化シリコーン系エラストマーでできた柔軟なエンベロープまたはシェルを含む。破裂に対しても、また、シェルを通したシリコーンゲルブリーディングの可能性に対しても、高い耐性を持つシェルが、極めて望ましいことは、明白である。乳房インプラントは、これらの目標を念頭に置いて設計されてきた。
【0004】
従来の乳房インプラントシェルは多層体または積層体である。具体的に述べると、そのようなシェルは、外側の「耐破裂性」層と、該外側層の間に挟まれていてゲルブリードを阻止するのに有効な内側の「バリア」層とを含む。例えば、Allergan, Inc.から入手可能なシリコーン充填型乳房インプラントのいくつかは、5%のジフェニルポリマーモルパーセントを持つジメチル-ジフェニルシリコーンエラストマーの外側層と、15%のジフェニルポリマーモルパーセントを持つジメチル-ジフェニルシリコーンエラストマーのバリア層とでできた、低拡散性シリコーンエラストマーシェルを含む。
【0005】
Mentor Corp.は、ジメチルシリコーンエラストマーの外側層と、15%のジフェニルポリマーモルパーセンテージを持つジメチルジフェニルシリコーンコポリマーの中間バリア層とでできた、層状シリコーンエラストマーシェルを含む、ゲル充填型乳房インプラントを生産している。
【0006】
層状または積層インプラントシェルを利用することの短所の一つは、シェルの形成時に、隣り合う層の混合が目に見える曇りをもたらしうることである。外科医は比較的透明なシェルを好む。そのうえ、層状構造を持つシェルには、離層という潜在的問題がある。
【0007】
軟質補綴用インプラントシェルの構築における数多くの進歩にもかかわらず、ゲルブリードを最小限に抑える、より柔軟なゲル充填型プロテーゼが、今なお必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、シリコーンゲルコアと、そのコアを包む柔軟なシェルとを含む、ゲル充填型軟質補綴用インプラント、例えば乳房インプラントを提供する。本発明の一態様において、シェルは、その実質的に均一な層が前記シリコーンゲルで実質的に飽和されるように、コアと直接接触してそのコアを包み込むシリコーンエラストマーの層を含む。本発明は、少なくとも一つには、シェルのシリコーンエラストマー層が、その乾燥強度(すなわち前記ゲルの非存在下におけるその強度)と少なくとも同程度の湿潤強度(すなわち前記シリコーンゲルで飽和された時の強度)を持つという、驚くべき発見に基づいている。
【0009】
さらに具体的に述べると、シェルは、シリコーンエラストマー(ポリシロキサン骨格を含み、その層を通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせる置換またはペンダント化学基を少なくとも10%の最小モルパーセントで含むもの)の実質的に均一な層によって規定される。さらに具体的に述べると、シリコーンエラストマーはポリジメチルシロキサンであり、ペンダント化学基は、フェニル基の一つ、例えばジフェニル基またはメチル-フェニル基、トリフルオロプロピル基、およびその混合物である。
【0010】
とりわけ有利な実施形態では、シリコーンエラストマーが、透過を立体的に遅らせる前記ペンダント化学基を与えるために十分なジフェニルシロキサン単位を介在させたジメチルシロキサン単位を含むポリマーを含む。この実施形態では、前記ジフェニルシロキサン単位のモルパーセントが少なくとも13%であり、かつ約25%を上回らない。例えば、前記ジフェニルシロキサン単位のモルパーセンテージは約15%である。
【0011】
シェルは、実質上その全体が、前記シリコーンエラストマーの前記実質的に均一な層によって規定されうる。例えば、一定の実施形態では、シェルが、本質的に、シリコーンエラストマー材料の単層からなる。
【0012】
別の実施形態では、シェルが、実質的に均一な層の外側に位置する、もう一つの材料でできた少なくとも一つの追加層(その少なくとも一つの追加層は、実質的均一層を包み込む)を、さらに含みうる。
【0013】
シェルは、好ましくは、約0.1mm〜約0.5mmの実質的に一様な厚さを持つ。例えば、単層実施形態では、シェルが約0.3mmの実質的に一様な厚さを持つ。
【0014】
好都合なことに、本発明インプラントのシェルは、同一の方法で使用され、同一のシリコーンゲルで満たされた場合に、従来の三層構造を持つ実質的に類似するシェルと比較して、優れた(すなわち低い)ブリード速度を持つ。例えば、ジフェニル基のモルパーセントが15%である中間シリコーンエラストマー層が、ジフェニル基のモルパーセントがそれぞれ5%である2つの外側シリコーンエラストマー層の間に挟まれてなる、「層状」シェルと比較した場合、本発明インプラントの単層シェルは、有意に低いブリード速度を持つ。例えば、いくつかの実施形態において、本発明インプラントのシェルのブリード速度は、少なくとも2層の5%モルパーセントジフェニルシリコーンエラストマーの間に挟まれた15%モルパーセントジフェニルの内層からなるシェルのブリード速度の約40%未満である。
【0015】
本発明のもう一つの態様では、シリコーンゲル充填型補綴用インプラントを製造する方法が提供される。例えば、本発明のシリコーンゲル充填型インプラントを製造する方法は、一般に、シリコーンエラストマー(ポリシロキサン骨格を含み、シェルを通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基を少なくとも10%の最小モルパーセントで含むもの)の実質的に均一な層を含むエンベロープを形成させるステップを含む。本方法は、シリコーンゲル前駆体材料を、その材料がシェルの内表面と直接接触するように、シェル中に導入すること、および該シリコーンゲル前駆体材料を硬化させて、軟質シリコーンゲル充填型補綴用インプラントを得ることを、さらに含む。
【0016】
とりわけ好都合な実施形態では、シリコーンエラストマーが、約15%というジフェニル基のモルパーセントを持つポリジメチルシロキサンである。シリコーンゲル前駆体材料を導入するステップは、シェルが乾燥または硬化した状態にある時に行なうことができる。例えば、シェルを形成させたら、それを貯蔵し、後に取り出してシリコーンゲル前駆体材料を充填し、硬化させて、シリコーンゲル充填型インプラント製品を形成させることができる。
【0017】
本発明のインプラントのエラストマーシェルを形成させる(例えばキャストする)のに役立つシステムおよび方法は、いくつか考えられる。いくつかの実施形態では、シェルを形成させるステップが、マンドレルに液状シリコーンエラストマーをコーティングすることを含む。例えば、適切な形状をした従来のマンドレルを、シリコーンエラストマーと溶媒との分散液に浸漬し、その溶媒を蒸発させ、エラストマーをマンドレル上で硬化または固化させることによって、シェルを形成させることができる。
【0018】
別の実施形態では、シェルを形成させるステップが、例えば未硬化シリコーンエラストマー材料を使って、シェルを回転成形することを含む。この実施形態では、キャスティング工程が、適切な形状をした金型が取り付けられた多軸回転成形機の使用を含みうる。操作中は、減圧を適用しながら、シリコーンエラストマーまたは他の適切な材料を、金型に投入する。シリコーンエラストマーが金型の内壁を被覆して単層インプラントシェルを形成するように、例えば少なくとも2つの異なる軸の周りに、金型を回転させる。
【0019】
本発明はさらに、シリコーンエラストマー分散液を形成させるステップ、その分散液で型をコーティングするステップ、分散液の溶媒を蒸発させて型上でシリコーンエラストマーフィルムを形成させるステップ、およびシリコーンエラストマーフィルムを型から外すステップを含む方法によって製造される物品を提供する。さらにまた、本方法は、シリコーンエラストマーフィルムをシリコーンゲルで飽和させること、およびシリコーンエラストマーフィルムを飽和させたシリコーンゲルを硬化させて複合材料を形成させることを含む。好都合なことに、本発明によれば、本複合材料は、シリコーンゲルで飽和されていない実質的に同一のシリコーンエラストマーフィルムと同程度の引張強さを持つ。
【0020】
本発明のさらにもう一つの態様では、インプラントであって、シリコーンゲルコアと、そのコアを包み込む、シリコーンエラストマー(ポリシロキサン骨格を含み、その層を通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基のモルパーセントが少なくとも約10%であるもの)の実質的に均一な層を含むシェルとを含み、その実質的に均一な層が、シェルの厚さの少なくとも約20%、好ましくは約50%以上を構成するインプラントが提供される。実質的に均一な層は、例えば本明細書のどこか別の箇所で言及されるシェルの厚さの少なくとも約90%を構成することができ、シェルは、実質上その全体が、上述の実質的に均一な層によって規定されてもよい。
【0021】
特定の実施形態では、本発明インプラントがヒト乳房への植込みに適し、柔軟なシェルがそれに応じたサイズおよび形状を持つ。
【0022】
本発明の一定の特徴、態様および利点は、下記の詳細な説明を添付の図面と併せて参照することにより、より明解に理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1A〜1Cは、本発明のいくつかの実施形態により乳房インプラントのシェルを浸漬成形する方法における連続ステップを示す。
【図2】図2は、本発明のゲル充填型乳房インプラントの多少図式的な断面図である。
【図3】図3は、先行技術の乳房インプラントの一部分の断面図である。
【図4】図4は、先行技術のもう一つの乳房インプラントの一部分の断面図である。
【図5】図5は、単層シェルを持つ本発明インプラントの一部分の断面図である。図5Aは、多層シェルを持つ別の本発明インプラントの一部分の断面図である。
【図6】図6は、単層テクスチャ加工シェルを持つ本発明インプラントの一部分の断面図である。
【図7】図7は、本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した例示的回転成形システムの図式的断面図である。
【図8】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【図9】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【図10】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【図11】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【図12】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【図13】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、シリコーンゲルコアと直接接触して取り囲んでいる、有効な耐ブリード性耐破裂性シェルで構築された、ゲル充填型インプラントまたはプロテーゼを提供する。
【0025】
本発明の一態様では、シェルが(例えば実質上その全体が)、単一の実質的に均一なシリコーンエラストマー層によって規定される。すなわち、本発明のインプラントの多くのシェルは、従来の補綴用インプラントによくある積層または層状構成ではなく、組成が均一または一様な単一材料で作られている。
【0026】
本発明のインプラントは、ヒト乳房の再建または増大における使用に適しうる。他の潜在的用途は、臀部、精巣、腓腹、その他の身体領域のためのインプラント、およびそれらのための組織拡張器である。
【0027】
図1A〜1Cに、本発明の植込み型プロテーゼまたはインプラント用の柔軟なインプラントシェルを形成させるのに適した方法を、多少簡略化した形で図解する。
【0028】
まず図2を参照して手短に説明すると、本発明の一態様では、シリコーンゲルインプラント10、例えば乳房インプラントが提供される。インプラント10は、シリコーンゲルコア12と、実質的に均一なシリコーンエラストマー層16(シェル14を通るシリコーンゲルの透過を立体的に遅らせる置換化学基のモルパーセントが少なくとも10%、例えば少なくとも13%であるシリコーンエラストマーポリマーを含むもの)を含むシェル14とを含む。
【0029】
図1A〜1Cに戻って、適切な方法では、一般に、型またはマンドレル20(図1A)を、シリコーンエラストマー分散液22(図1B)でコーティングする。分散液22は適切な溶媒中の液状未硬化エラストマー材料である。本発明の一定の実施形態においてそうであるように、シリコーンエラストマーがジフェニルジメチルシロキサンポリマーである場合、溶媒はC6以上の芳香族または直鎖脂肪族のいずれか一つ以上、例えばキシレンであることができる。マンドレル20を分散液22に浸漬し(図1B)、そこから引き上げる。被覆マンドレル20a(図1C)から過剰のシリコーンエラストマー分散液を切り(除去し)、分散液の溶媒の少なくとも一部を蒸発させて、マンドレル上のシリコーンエラストマーコーティングを安定化させる。
【0030】
この方法は、所望する厚さのコーティングを形成させるために、複数回繰り返すことができる。好ましくは、コーティングするたびに、溶媒を蒸発させる。本発明では、好ましくは、所望する厚さの実質的に均一なエラストマーシェルが形成されるまで、被覆マンドレルを、同じまた同一のシリコーンエラストマー分散液に、繰り返し浸漬する。
【0031】
シリコーンエラストマー分散液コーティングを、従来の手段を使って、マンドレル上で硬化させる。例えば、いくつかの実施形態では、コーティング20aを熱硬化させる。硬化は循環空気または他の既知手段を利用して加速させることができる。硬化した材料は軟質であり、柔軟であり、弾性である。
【0032】
シリコーンエラストマーコーティングをマンドレル上で硬化させ終わってから、マンドレル取付け部位にあるコーティングの孔を広げることによって、硬化した材料をマンドレルから剥離させる。マンドレルから剥離されたコーティングは、中空の実質的に均一なシリコーンエラストマーエンベロープの形をとり、これは、未硬化シリコーンゲルを充填すると、図2に示すインプラント10のシェル14の平均厚の、少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%以上を構成することになる。いくつかの実施形態では、実質的に均一なシリコーンエラストマーエンベロープが、シェル14の実質的に全厚を構成する。
【0033】
シェル14にシリコーンゲル前駆体材料を充填する前に、シェル14上の孔32(マンドレル取付け部位に形成されるもの)を、例えば未硬化シリコーンエラストマー部分34および硬化シリコーンエラストマー部分36を孔32の周縁部に取付けることなどによって、封止する。シェル14の封止後に、コア12を形成することになる未硬化または前駆体シリコーンゲル材料を、シェル14中に、例えばパッチ部位34、36を通して挿入された針を利用するなどして、導入(例えば注入)する。シリコーンゲル前駆体は、主ゲル成分と架橋成分との二液系として供給することができる。針の入口は、適切な手段を使って、例えばそこに接着剤を適用することなどによって、封止することができる。そのようなシリコーンゲル前駆体材料と、乳房インプラントの生産におけるそれらの使用は、当技術分野ではよく知られているので、ここではこれ以上詳しく説明しない。
【0034】
また、マンドレルをシリコーンエラストマー分散液に浸漬してインプラントシェルを形成させ、シェルの孔にパッチをあて、シェルを満たすことを含む、乳房プロテーゼを形成させる方法も、当技術分野ではよく知られており、ここではこれ以上詳しく説明しない。Murphyの米国特許第6,074,421号(その開示は全て本明細書に組み込まれる)には、乳房プロテーゼのシェルの孔にパッチをあてる有利な方法が記載されている。Murphyの特許に記載されている製造ステップ、特にシェルの孔にパッチをあててシームレスインプラントシェルを形成させることに関するステップの多くは、本発明インプラントの製造に使用することができる。
【0035】
図2に示すように、コア12を構成するシリコーンゲル材料は、シリコーンエラストマーシェル14と直接接触している。本明細書の別の箇所で改めて詳しく説明するが、シリコーンエラストマーシェル14は、エラストマーポリマー(ポリシロキサン骨格を持ち、実質的に均一な層16を通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基を約10%の最小モルパーセントで含むもの)の実質的に均一な単層によって規定されうる。インプラントの形成中に、シリコーンゲルは、実質的に均一な層16の内表面を飽和または実質的に飽和させる。シリコーンゲルによるそのような飽和のない、層16を構成するポリマー材料は、先行技術の多層インプラントシェルにおける従来の中間層またはいわゆる「バリア層」を形成するポリマー材料と実質的に等価または同一でありうる。
【0036】
図3に、シリコーンゲルコア6および平滑壁多層シェル8を含む先行技術乳房インプラント2の一部分の断面を図解する。シェル壁8を通したシリコーンゲルブリードに対する主なバリアは、内側のいわゆる「バリア層」40によって与えられる。先行技術のこの例では、2つのベースコート層42、44が、バリア層40から半径方向内側に存在し、前記ベースコート層の一つ42は、コア6を構成するシリコーンゲル材料と直接接触していて、それで実質的に飽和されている。この例では、さらに3つのベースコート層46、48、50が、図に示すとおり、バリア層40の外側に設けられている。典型的には、ベースコート層42〜50は、ゲルコア6と直接接触している層を含めて、ジフェニル置換基を持たないジメチルシリコーンコポリマーであるか、またはジフェニルポリマー置換基のパーセンテージが低い(例えばモルパーセントが5%の)ジメチル-ジフェニルシリコーンコポリマーである。ベースコート層42〜50は耐破裂性を持つように設計される。ベースコート層42〜50とは異なり、中間バリア層40は、シェル8を通したゲルブリードを減少させるように設計されるので、ジフェニルポリマー成分のパーセンテージが比較的高い(モルパーセントが15%の)ジメチルジフェニルシリコーンコポリマーである。
【0037】
先行技術インプラントの多層シェル8は約0.5mmの平均厚を持つ。バリア層40の厚さは典型的には全シェル壁厚の約10%を超えないか、または約0.025〜0.050mmである。そのような先行技術インプラントシェルでは、バリア層40がシェルの総壁厚に対して比較的低い比率に制限される。これは、このポリマーが一般に、例えば引張強さに関して、比較的弱いエラストマーであり、耐ブリード性を増進するための「中間層」として含まれるに過ぎないという、従来の知識に基づいている。また従来、これらのシリコーンエラストマーは、いわゆるバリア層材料を構成するものを含めて、シリコーンゲルで飽和されると引張強さが低下するとも考えられている。薄いバリア層40はまた、従来的には、ベースコート層の間に「サンドイッチ」され、コア6を構成するシリコーンゲル充填物と直接接触した状態に置かれることはない。
【0038】
図4に、先行技術のテクスチャ加工インプラント9の層状部分の断面を図解する。図3に示す先行技術インプラント2と同様に、シェル壁を通したゲルブリードに対する主なバリアは、内側のバリア層60によって与えられる。2つのいわゆるベースコート層62、64は、バリア層60から半径方向内側に存在する。バリア層60の外側には、さらに3つのベースコート層66、68、70が設けられている。さらにまた、外側ベースコート層60〜70の外側に、タックコート層72、テクスチャ加工結晶の層74、およびオーバーコート層78が設けられる。図3の平滑壁先行技術インプラントの場合と同様に、ベースコート層62〜70はジメチルシリコーンコポリマーであるか、またはジフェニル成分のモルパーセンテージが低い(例えば5%)ジメチル-ジフェニルシリコーンコポリマーであり、バリア層60は、ジフェニルポリマーのモルパーセンテージがより高い(例えば15%)ジメチル-ジフェニルシリコーンコポリマーである。
【0039】
先行技術におけるポリジフェニルシロキサン材料のシェルの強度、例えば引張強さが、ひとたびシリコーンゲルと接触するか、シリコーンゲルで飽和されると、低下することは、よく知られている。本発明の開発に際してなされた驚くべき発見は、従来の多層インプラントシェルにおいて中間層またはバリア層(例えば図3に示す層40および図4に示す層60)として典型的に使用される材料が、そのバリア層材料を、インプラントの充填時にシリコーンゲルと直接接触した状態に置くか、またはシリコーンゲルで実質的に飽和させ、完成したインプラント製品中でシリコーンゲルと直接接触させた場合に、同程度の引張強さを持ち、さらには、より高い引張強ささえ持ちうるというものである。
【0040】
先行技術インプラントでは、ペンダントジフェニル基のモルパーセンテージが比較的高い(すなわち10%を上回る)いわゆるバリア層材料が、シリコーンゲルコアから隔離されていて、シリコーンゲルコアとは直接接触していない(例えばジフェニル基のモルパーセントが比較的低いベースコート層の間に「サンドイッチ」されている)のに対して、本発明のインプラントの多くは、シリコーンゲルコアと直接接触して包み込む、そのようなバリア層材料を含む。
【0041】
さらにまた、先行技術インプラントでは、ペンダントジフェニル基のモルパーセンテージが比較的高い(すなわち10%を上回る)いわゆるバリア層材料が、インプラントのシェルを構成するそのような材料の量に関して、最小限に抑えられるのに対して、本発明のインプラントの多くは、インプラントシェルの厚さに対してかなりのパーセンテージを構成する、そのようなバリア層材料を含む。
【0042】
例えば、本発明のいくつかの実施形態によれば、シェルは、ジフェニルシロキサン単位のモルパーセンテージが少なくとも約10%である実質的に均一な層を含むことができ、前記実質的に均一な層は、シェルの厚さの少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約50%以上を構成する。本発明のいくつかの実施形態では、前記実質的に均一な層がシェルの平均厚の約50%〜約90%を構成する。いくつかの実施形態では、前記実質的に均一な層がシェルの厚さの実質上全てを構成する。
【0043】
具体的には、図5に、図2に示す本発明の例示的インプラント10の一部分の断面を、拡大して図解する。この実施形態では、シェル14が、均一なシリコーンエラストマー(シェル14を通るシリコーンゲルの透過を立体的に遅らせる置換化学基を少なくとも10%、より好ましくは約13%、例えば約15%の最小モルパーセントで含むもの)を含む単一の実質的に一様なバリア層16を含む。いくつかの実施形態では、シェル14の実質上全体が、単一のバリア層16によって規定される。層16は、コア12を構成するゲル材料12aと直接接触してゲル材料12aで実質的に飽和される内表面16aを有する。
【0044】
次に図5Aには、本発明のもう一つのインプラント10aの一部分の断面図が示されている。インプラント10aは、シェル14(実質上その全体が、単一の実質的に均一な層16を含むか、または単一の実質的に均一な層16からなるもの)を含むのではなく、インプラント10aのシェル14aが、前記実質的に均一な層16を覆ってそれを包み込む少なくとも一つの追加層100を含む点以外は、インプラント10と同一であることができる。追加層100は、ジフェニル置換基を含まないジメチルシリコーンコポリマー、またはジフェニルポリマー置換基のパーセンテージが比較的低い(例えばモルパーセントが10%未満、例えば約5%の)ジメチル-ジフェニルシリコーンコポリマーを含みうる。
【0045】
図5に戻って、シェル14の外表面102は、従来の平滑壁インプラントの場合と同様に、平滑であることができる。あるいは、図6に示すように、本発明のもう一つの実施形態によるインプラント10bは、テクスチャ加工外表面106を持つシェル14bを含んでもよく、この場合、インプラント10とインプラント10bは、シェル14aのテクスチャ加工を除けば、互いに実質上同一であることができる。そのようなテクスチャ加工は、例えばシェル14aの外表面106を形成させるために使用する金型上のテクスチャ加工など、さまざまな方法によって形成させることができる。
【0046】
定義として、シロキサンは、二酸化ケイ素および酸素が交互する分子のポリシロキサン骨格に基づくさまざまな化合物のいずれかであると定義される。側鎖置換基またはペンダントが有機基である場合、それらはシリコーンである。ポリジメチルシロキサンは、2つのメチル(CH3)置換基を持つシロキサンからなり、ポリジフェニルシロキサンは、2つのフェニル(C6H5)置換基を持つシロキサンからなる。
【0047】
本発明のインプラントの「全バリア」シェル(例えばシェル14)に使用することができる好ましい例示的材料を明確に定義することは重要である。第1に、それらの材料はポリシロキサンまたはシリコーンポリマーである。これらの材料は、カリフォルニア州カーピンテリアのNuSil Technologyなどの供給者から販売されている。医療用ポリシロキサンの基本式は、メチル基に代わる他の基を含むかまたは含まないポリジメチルシロキサン(シリコーンエラストマー鎖)である。次の式は、Mentor MemoryGel(商標)インプラントに外側層として現在使用されているポリジメチルシロキサンまたはジメチルシリコーンエラストマーである。
【0048】
【化1】
【0049】
次の式は、メチル-フェニル置換基を持つ上記ポリジメチルシロキサンである。
【化2】
【0050】
大きなフェニル基の立体障害により、ポリマー鎖上では、高濃度のジフェニル単位が、顕著に妨げられる。立体障害または立体抵抗は、ある分子内の基のサイズが、それより小さい関連分子で観察される化学反応を妨げる場合に見出される。概して、他の分子を立体的に妨害する分子は、一般に、それらの自由運動を妨害する。隣接基間の立体障害は結合ねじれ角も制限しうる。
【0051】
最後に、次の式IIIは、ジフェニル置換基を持つ上記ポリジメチルシロキサンである。
【化3】
【0052】
ここでも、大きなフェニル基の立体障害が、ポリマーにおけるそれらの濃度を、しばしば、ある最大モルパーセントに制限する。ジフェニル置換基に関する最大モルパーセントは約25%であり、これを過ぎると、大きなフェニル基の立体障害が化合物を不安定にし始めると考えられている。この不安定性は、ポリマーの製造を、不可能ではないにしても、困難にする。
【0053】
当技術分野で周知の他のペンダント基は、25%を上回るモルパーセントでポリマー中に存在しうる。例えばいくつかのペンダント基、例えばフルオロ基は、ポリマーの安定性を損なうことなく、100%に近い置換化学基のモルパーセントで存在することができる。そのようなポリマーは、本発明のインプラントのシェルの成分として役立つと思われ、本発明の範囲に包含されると考えられる。
【0054】
補綴用インプラントシェルのための材料の設計者にとって、主要目標の一つは、シェルを通した充填材ゲルのブリーディングの量を減少させることである。軟質補綴用インプラントにおける充填材ゲルは、シリコーンオイルを包含する、10〜20%架橋シリコーンである。シリコーンゲルとその周囲のシリコーンエラストマーシェルとの相溶性により、シリコーンオイルの一部はシェルに吸収されて、シェルを膨潤させる。そのような膨潤はシェルの引張強さを低下させる。しかし、シェルを通したゲルのブリーディングが多少は起こるものの、シェルがひとたび飽和または膨潤すると、シェルの外側におけるシリコーンの存在が、シェルを通してさらにブリードしようとするゲルの傾向を低下させる。これは、シェルを横切る化学的勾配が減少し、したがってブリーディングにつながる浸透圧が減少した結果である。
【0055】
ゲル飽和後も、多少のブリーディングは依然として起こり、それを最小限に抑えることが望ましい。シリコーン系シェルは少なくとも少量をブリードする傾向があるものの、軟らかさまたはしなやかさという材料特性が、それらを事実上唯一の材料選択肢にしている。ポリウレタンまたはポリウレタン-シリコーンコポリマーシェルに関する研究がいくつか進行中であるが、これらはまだ商業的に採用されるには至っていない。シリコーン以外の適切な材料がいつか利用可能になることも考えられ、その場合は、単層バリアシェルの概念がそれに当てはまりうる(本発明はシリコーンエラストマーに関するが)。
【0056】
本発明の作用に関してどの特定理論にも束縛されることは望まないが、大きなフェニル基は、置換基の比率を制限するだけでなく、シェルを通るシリコーンゲルの透過またはブリーディングを立体的に遅らせると考えられる。これは、大きなフェニル基がシェルにおけるゲル充填材の自由運動を物理的に制限するために起こる。これが、シェルにおけるゲルの溶解度を低下させ、飽和点を下げ、それが結果として、シェルの強さなどの物理的性質を維持するのに役立つ(そのような置換基のパーセンテージが低いシリコーンエラストマーまたはそのような置換基が存在しないシリコーンエラストマーでできたシェルまたは層と比較して)。
【0057】
飽和およびブリーティングの程度は、シリコーンエラストマーにおけるゲルの溶解度に基づきうる。例えば、約15%という置換フェニル基のモルパーセントは、より低い飽和度を可能にする。
【0058】
本発明によれば、シェルを通るシリコーンゲルの透過を立体的に遅らせる置換ジフェニル基の最小モルパーセントは、少なくとも約10%、例えば約13%である。本発明の好ましい実施形態では、シェル12の少なくとも一部分を形成するバリア層16のための好ましい材料が、ペンダントまたは置換ジフェニル基の最小モルパーセントが約15%であるジメチルポリシロキサンの実質的に均一な層、例えば単一の実質的に均一な層である(上記式III参照)。したがって、本発明インプラントのシェルのための好ましい材料は、置換ジフェニル基のモルパーセントが約10%(好ましくは約13%)と約25%の間にあるジメチルポリシロキサンである。
【0059】
置換ジフェニル基の有効性は分かっているが、他の置換基もうまく機能しうる。例えば置換基はフルオロ基であることができる。次の式IVは、トリフルオロプロピル置換基を持つ上記ポリジメチルシロキサンである。
【化4】
【0060】
シェルを通るシリコーンゲルの透過を立体的に遅らせる置換フルオロ基の最小モルパーセントは、ジフェニル置換基の場合とは異なるだろう。本明細書に記載する材料は、シリコーンゲル透過を立体的に遅らせるその能力を調べるために、実験的に試験することができる。一つの方法は、材料を試験して、片側でシリコーンゲルと接触させた時に膨潤がどのくらい起こるかをみることである。そのような試験は材料のシートで行なうことができる。作用に関してどの特定理論にも束縛されることは望まないが、材料の膨潤量が大きいほど、ゲル透過を遅らせる材料の能力は低いと考えられる。
【0061】
あるいは、キャストシェルを形成させ、ゲルを充填した後で、ゲルブリード試験を行なうこともできる。ブリード試験では、基本的に、ある期間中にインプラントシェルを通過するゲルの量が測定される。試験はASTM規格F703に従って行われ、ブリード結果は通例、質量/表面積/時間、例えばμg/cm2/日という単位で与えられる。本発明に関して、次の表では、本明細書で議論するいくつかの材料のブリード速度を、ジメチルシリコーンエラストマーのブリード速度(任意に100という値をこれに割り当てる)との比較で定量化する。シェル材料欄のパーセント単位はモルパーセントを指す。
【0062】
【表1】
【0063】
Allerganが生産するインプラントシェルに現在使用されている5%ジフェニルシリコーンエラストマーに挟まれた15%ジフェニルと比較して、全体が15%ジフェニルシリコーンエラストマーでできた本発明のシェルは、約40%低いブリード速度を持つ。そのうえ、単層シェルの均一性により、層状シェルでは起こりうる曇りと離層の可能性がどちらも排除される。
【0064】
適切なインプラントシェルは、ゲルブリーディングを遅らせる能力に加えて、破裂に抵抗するために最低限の強度も持たなければならない。実際、インプラントシェルの主要設計基準は、今までも、そしてこれからも、破裂に抵抗する能力である。強いと思われる材料を内側の弱いバリア層と組み合わせる層状アプローチが過去に用いられた理由は、そこにあった。本発明のシェルに使用されるようなシリコーン材料の強度を測定する標準的方法は、ドッグボーン(dog-bone)サンプルを利用する周知のASTM引張強さ試験である。サンプルは、要求される形状に製造されるか、または形成されたインプラントシェルから切り出される。サンプルの両端を、サンプルが破損するまで、反対向きに一軸的に引っ張る。本発明の単層シェルは、乾燥していると、以前の層状シェルより弱いが、ゲルで濡れるかゲルで飽和させると、同程度の強度を持ち、ことになるとさらに強い強度を持つ。すなわち、インプラントシェルにシリコーンゲルを充填すると、それは膨潤し、飽和状態になる。シリコーンシェルの強度は、通例、膨潤後に低下する。しかし強度の低下は本発明のシェルでは少ないか、または有意でない。これはおそらく、従来の層材料および以前のシェル構造と比較して、ゲルによる膨潤が少ないせいだと思われる。
【0065】
次の表はこの現象を例証している。
平均引張強さ(psi)n=15
【表2】
【0066】
これらの試験で、バリア層を持たない以前の材料(A)と、現在の層状材料(B)は、シリコーンゲルへのばく露後に(すなわち湿潤強度)、それぞれ30%および18%の強度低下を示す。しかし、全バリア材料Cは、実際に、その乾燥強度と比較して、同程度のまたは増大した湿潤強度を持つ。実際、シリコーンゲルへのばく露後に得られる全バリア材料Cの強度は、材料AおよびBの湿潤強度よりも絶対値が大きい。望ましくは、本発明のいくつかのインプラントのシェルは、従来の層状材料の湿潤強度と同程度であるかまたはそれより大きい湿潤強度を持つ、単層の実質的に均一なバリア材料で構築される。
【0067】
実質的に均一な層16の壁厚は、好ましくは約0.1mm〜約0.5mm、例えば少なくとも約0.3mmである。シェル14中の任意の点における厚さは、キャスティングの不精密ゆえに、より大きい場合も小さい場合もありうることに、注意すべきである。例えば、いくつかの実施形態では、実質的に均一な層16の厚さが、約0.3mmから約1mmの範囲にわたる。
【0068】
さらにまた、図6のテクスチャ加工シェル層14bの場合、厚さは、起伏面106の山と谷のせいで変動する。テクスチャ加工外表面106は、キャスティング表面をテクスチャ加工することによって、または他の適切な手段によって、形成させることができる。図6に示すインプラント10bのテクスチャ加工シェル14b(これは、実質上その全体が、単一の実質的に均一な層14bによって規定されうる)は、従来の層状テクスチャ加工シェルよりもはるかに薄く作製することができ、先行技術の層状テクスチャ加工インプラントと比較して、極めて柔軟なテクスチャ加工インプラントをもたらす。
【0069】
単層構造に作られたシェル14および14bは、サンドイッチ構造または層状構造を持つ先行技術のシェルより小さいヤング率(E)を持ちうる。ある実施形態では、単一の均一層14、14bが、もっぱら、置換ジフェニル基の最小モルパーセントが約15%であるジメチルポリシロキサンで形成され、そのような材料のヤング率が、ジフェニル成分のモルパーセントが5%であるジメチル-ジフェニルシリコーンコポリマー(これは図3および4の層状シェルで使用されるものである)のヤング率よりも小さい。
【0070】
本発明のシェル14、14aおよび14bは、図1A〜1Cに関して上述した浸漬法を含むいくつかの方法で形成させることができるが、好ましいシステムおよび方法は、Schuesslerの米国特許第6,602,452号に開示されており、この特許は特に参照により本明細書に組み込まれる。Schuesslerは、医療用品を形成させるための、特に乳房インプラント用のシリコーンエラストマーシェルを成形するための、回転成形機を開示している。
【0071】
図7は、本発明のインプラントシェルを形成させるために使用することができる、Schuesslerの特許に開示されているものに似た回転成形システムの一実施形態の模式図である。2ピースケース金型120は、上側金型ピース124および下側金型ピース126をクランプベース128にそれぞれ上側係止溝130および下側係止溝132で固定するクランプによって、多軸回転成形機122に固定される。減圧連結134は、成形機122の一つのアームを通って、減圧開口部135まで延びている。また、材料連結管136(これを通して、シリコーンエラストマー、ライナー材料、および/または空気が金型キャビティ140内に注入される)は、減圧連結134と同じアーム142を通ってもしくはそれに沿って、またはもう一つのアーム144を使って、延びることができる。次に、流体は、下側金型ピース122の円形開口部(符番なし)にはめ込まれた円形スプルー管145を通って進む。スプルー管145は、下側金型ピース122と上側金型ピース124とが接合した時に、2ピースケース金型120内に材料が入ることを可能にする中空孔を規定する。
【0072】
二本のアームのハブ146は、軸Aの周りを水平方向に回転し、一方、アーム142、144は、軸Aに対して垂直であることができる軸Bの周りを回転する。これにより、ライナー材料およびシリコーンエラストマー材料を、金型キャビティ140の面に一様にコーティングすることが可能になる。2ピースケース金型120は銅、アルミニウム、または他の材料から作製することができる。上側金型ピース124および下側金型ピース126はその接合面で合わされ、Oリング150で封止された後、多軸回転成形機122のクランプベース128中に係止される。
【0073】
材料溜め152は、シリコーンエラストマー、ライナー材料および/または空気をキャビティ140に供給するために、連結管136に連通的に連結される。減圧源154および溶媒凝縮器156は減圧連結134に連通的に連結される。スプルー管145の中空孔は内側減圧管(図示していない)と連通し、続いてそれが減圧開口部135および減圧連結134に連結される。
【0074】
図7の回転成形システムは、軟質インプラントシェルを形成させるための以前の方法と比較して、少なくとも2つの明確な利点を持つ。
【0075】
第1に、医療用品での使用に必要な物理的性質を持つシリコーンエラストマーは通常、分子量が高いか、または充填材を必要とするので、シリコーンおよび他の溶媒ベース材料または気体放出材料の回転成形は、以前は実現可能でなかった。これらの材料は通例、粘度が高すぎるので、溶媒と混合して適切な粘度を持つ分散液を作る必要がある。この溶媒ベースの、粘度を低下させた分散液により、シリコーンポリマーを噴霧または浸漬によってマンドレルに適用することができ、その後、溶媒を蒸発させることができる。しかし、閉じた金型に閉じ込められる相当な体積の溶媒蒸気を除去するための手段がないため、溶媒ベースの分散液は回転成形方法に用いるには実用的でなかった。図7のシステムは、装置の回転アームを通る金型への減圧通気路を含み、それにより、アームが回転し分散液材料が流動して金型の内表面上に沈積しつつある間に、溶媒を除去する。
【0076】
この回転成形システムの第2の利点は、シームレス物品の形成を可能にすることである。他の方法では半分の金型が互いに交わる点に形成されるであろう金型分割線が、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、フルオロポリマー、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、エポキシなどの成形材料の薄層で、複数パートから組み立てた金型の内側をまずコーティングして金型ライナーを作ることにより、本発明の方法では排除される。ライナーをキャストした後、所望するインプラントシェルの原材料、例えばシリコーンエラストマーを、金型キャビティ内に注入し、ライナーの内側に同様に回転的にキャストして、一時的な積層構造物を得る。金型を分解し、構造物を金型から剥離すると、ライナー材料とインプラントとが物理的に分離されて、シームレス形状を持つ所望の物品が得られる。
【0077】
図7の多軸回転成形システムを利用してインプラントシェルを製造する際の第1ステップは、2ピースケース金型120の内表面を被覆するライナーを作ることである。ライナーは上側および下側半分ずつの金型124、126のドーム状内表面を覆うべきである。こうして、金型内表面を覆うことで、例えば金型分割線、金型内表面にある機械加工跡、または金型内表面の小さな損傷などといった、表面の中断が全てマスクされる。
【0078】
ライナーは任意の適切な材料であってよいが、いくつかの要件は満たすべきである。第1に、ライナーは、インプラントシェルまたは他の成形品と共に生体適合性であるように、低レベルの抽出性を持つべきである。またライナーは、インプラントシェルまたは他の成形品の製造に用いられるシリコーンエラストマーに使用されているあらゆる溶媒に対する耐性も持つべきである。ライナー材料は、多軸回転成形機による金型の回転中に、金型内表面を完全にかつ一様に被覆することができるべきである。成形工程中に熱を使ってシリコーンエラストマーを硬化させるのであれば、ライナーは高レベルの耐熱性を持つべきである。ライナーは、金型表面および硬化したシェルから容易に除去または剥離することができるべきである。最後に、ライナーを使って、シリコーンエラストマーに、例えば光沢仕上げ、マット仕上げ、テクスチャ仕上げなどといった所望の表面仕上げを付与することができる。適切なライナー材料には、ポリエチレン(Equistar(商標)#MP658-662)、ポリプロピレン(A. Schulman(商標)#PD8020)、ナイロン(Capron(登録商標)#8280);フルオロポリマー(DuPont(登録商標)Teflon(登録商標)PFA)、ポリエステル樹脂(Hypol(商標)#320300-10)、ポリウレタン(Smooth-On Smooth Cast #305)およびエポキシ(Polytek(登録商標)Development Corp. Polypoxy(登録商標)1010)などがあり、これらは全て一般市場で販売されている。列挙したこれらのライナー材料の代わりに他の類似する材料を使用できることは、当業者にはわかるだろう。
【0079】
所望の厚さのライニングが生成するように、前もって決定した体積または重量の、選択したライナー材料を、金型に入れる。ライナー材料は、選択した材料が流動性である限り、ライナー材料の選択に依存して、微粉末状または液状のどちらかである。ライナー材料は円形スプルー管145を通して2ピースケース金型120に投入される。スプルー管145はケース金型120の内部キャビティ140のほぼ中央まで延び、ライナーおよびシェルまたは他の物品を形成させる全工程にわたって、その位置に留まる。ライナー材料は、ケース金型を多軸回転成形機の回転アーム内に係止する前に、またはケース金型を回転アーム内に係止した後に、ケース金型中に投入することができる。閉じた金型120を、2つ以上の軸の周りに回転させて、内部のライナー材料に、キャビティ140の内表面に沿ったむらのないコーティングを形成させる。これらの軸に対する金型の回転により、一様な厚さのライナーが形成される。ライナー材料が熱可塑性樹脂で構成される場合は、従来の回転成形技法により、ライナー材料が融解して金型内表面を被覆するように、熱を加える。ポリエステル樹脂のようにライナー材料系に化学的硬化が用いられる場合には、熱を加える必要がない。さらにまた、気泡を最小限に抑えるために、またはライナーの表面仕上げに所望する形で影響を及ぼすために、空気圧、減圧、窒素などの不活性ガスもしくは他の蒸気、または固体粒子を、金型の内部に適用してもよい。
【0080】
ライナーが形成されたら、次のステップは、インプラントシェルを形成させることである。円形スプルー管145は、ライナーおよび成形材料を硬化させる工程全体にわたって、金型キャビティ140内に延びたままである。スプルー管145を清浄に保ち、キャスティングステップ中の減圧を維持するために、スプルーの外部末端は取り外し可能な蓋を持つ。シリコーンエラストマーを金型の内部に注入する。所望する完成シェルまたは完成品のサイズおよび厚さに基づいて、前もって決定した量の成形材料を投入する。単層インプラントを形成させるために使用される、ゲルブリーディングを遅らせるための置換基を持つ望ましいポリシロキサンについては、上述した。
【0081】
ライナーを持つ金型キャビティ140中にスプルー管145を通してシリコーンエラストマーを入れた後、金型を少なくとも2つの軸の周りに回転させ、その間、その内部には減圧が適用される。減圧はさまざまな形で適用することができる。減圧は、封止された金型のスプルーに、減圧開口部135を利用して適用することができる。減圧は、開放スプルー金型が回転している内部キャビティまたはチャンバーに適用することもできる。あるいは、多孔性材料で金型を構築し、そのような多孔性金型の外部に減圧を適用してもよい。さらにまた、シリコーンエラストマー内の気泡除去を補助するために、空気、窒素または他の気体のいずれかを使うか、それらを併用して、陽圧を間欠的に適用してもよい。ライナーの、そして最終的にはシェルまたは他の成形品の、一様な平滑面を可能にするために、気泡は除去する必要がある。
【0082】
回転成形機のアームをその軸の周りに回転させながら、シリコーンエラストマーを回転させ、硬化させることによって、所望の形状を形成させる。金型を異なる速度で回転させることにより、投入される材料の粘度の相違に対応することができる。必要であれば、または硬化工程を加速するために、加熱する。シリコーンエラストマーは、ライナー材料上で回転させられ、その場で硬化するにつれて、固化し、流動しなくなる。シェルまたは他の成形品にとって壁厚の追加が望ましい場合は、これらのステップを繰り返すこともできるが、完成品は、単一の均一な材料または層になるべきである。すなわち、回転成形工程を(そしてまた上述の浸漬工程も)、多段階または多ステップで行なって、各ステップで、材料を付加することができる。ただし、完成品は異なる層を示さず、シェル壁全体が均一または一様な組成を持つ。
【0083】
硬化サイクルが完了して、シリコーンエラストマーを所望の厚さに硬化させた後、ライナーによって取り囲まれている、形成されたシェルまたは物品を、金型から取り出す。シェルまたは他の成形品は、そのライナー系に適した下記の方法の一つによって、ライナーから分離される:適切な溶媒にライナーを溶解する方法;ライナーを融解するか、ライナーを燃やして、より耐熱性の高いシェルまたは成形品から取り除く方法;ライナーを引き裂くか、ライナーを破壊して、シェルから取り除く方法;または形成された柔軟なシェルをライナーからはぎ取り、スプルー開口部によってライナー中に作られたライナーの開口部を通して、それを取り出す方法。ライナーは捨てられる場合もあるし、シェルまたは成形品からライナーを分離する工程次第で、ライナーが損傷を受けず、溶解もされていない場合には、ライナーが再びその方法で再利用される場合もある。
【0084】
図8〜13に、本発明のインプラントシェルを形成させるために使用することができる、図7を参照して説明したような回転成形システム用の、もう一つの金型200を図解する。上述の実施形態の場合と同様に、図9に断面を図解する金型200は、フランジ208に差し込まれるボルト206によって一つに合わせられる上側金型ピース202および下側金型ピース204、ならびに内側ライナー210を含む。ここでも、内側ライナー210の存在は大きな利点である。なぜなら、他の方法では二つの金型ピース202、204の合わさる点に生じるであろうシームを持たないインプラントシェルを形成させることができるからである。望ましくは、金型ピース202、204はアルミニウムなどの金属で形成され、内側ライナー210は、テフロンなどの非付着性材料、例えばETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン)で形成される。
【0085】
先に述べた実施形態とは対照的に、内側ライナー210は、補綴用インプラントシェルが金型によって形成されるたびに再利用されるように意図されている。内側ライナー210は、いくつかのインプラントが形成される間、金型ピース202、204によって形成されるキャビティ内に留まり、よって金型200の内表面を規定する。好ましくは内側ライナー210は、数百回の使用にわたって、金型ピース202、204内に留まりうる。上述した実施形態の場合と同様に、内側ライナー210は、最初は、金型ピース202、204内に流動性ライナー材料を注入し、回転成形することによって形成される。
【0086】
金型200は、下部フランジ214内に比較的大きな円形開口部212を含み、それを通して、またはその中に、スプルー管(図7のスプルー管145など)が挿入される点で、前述の2ピースケース金型120と、ほぼ同じように機能する。図示していないが、スプルー管は中空孔を規定し、その中空孔は、補綴用インプラントシェルを形成させるために材料を金型200内に入れるための通路、および溶媒または他の気体を排出するための通路になる。好ましいインプラント材料については上述した。金型200を使って層状シェルを形成させることもできるが、好ましい実施形態は、単層インプラントシェルを形成させることである。しかしこの場合も、完成品が異なる層を示さず、シェル壁全体が均一または一様な組成を持つように、単層インプラントシェルを、一連の薄層により、多ステップで形成させることができる。金型200を使ってインプラントシェルを形成させるための具体的ステップは、図7のシステムに関して上述したものと本質的に同じであるので、ここではこれ以上説明しない。
【0087】
前述の金型120と比較して、金型200が異なるもう一つの点は、その壁厚が相対的に薄く、外形が内部の成形品の形状を実質的に反映するようになっていることである。このデザインは、金型200の熱伝達特性を改善するので、内壁または内側ライナー210における温度の一様性を、より良く制御できるようになる。
【0088】
図10〜13に金型200の形成におけるいくつかのステップを図解する。2つの金型パート202、204の下に分解表示した、ライナープラグまたはスプルー管220を、図10に示す。図11は、ライナースプルー管220が下部フランジ214の円形開口部内に緊密に嵌合されている金型200の下部末端の拡大図である。ライナースプルー管220は中心貫通孔222を規定し、内側ライナー210の形成中は、この貫通孔をライナー材料が通過でき、この貫通孔を通して気体を排気できる。さらにまた、好ましくは、金型キャビティ内に延びる二次スプルー管224を使って、材料が金型キャブティから出ていくのを防ぐのに役立たせる。図11に、形成後の内側ライナー210を図解する。
【0089】
内側ライナー210の形成後にライナースプルー管220を取り除く。図12に、内側からライナー材料に管状ネック開口部を開けた後の、金型200のネック部を図解する。すなわち、図11に見られる小さな環状部分230を取り除いて、直径Aを持つネック開口部を形成させる。例示的実施形態では、直径Aが約2.413〜2.540cm(0.950〜1.000インチ)である。図13は、ライナー材料210によって形成されるネック開口部の一つの角232の拡大図である。ライナー材料には、角232が直角になって、インプラントプロテーゼを形成させるために使用されるスプルー管の周りに緊密に嵌合するように、孔が開けられる。
【0090】
乳房インプラントの場合、形成されたシェルは、最終乳房インプラント製品を作製する通常の方法に準ずるさらなる組み立てまたは加工に、そのまま使用することができる。例えばスプルーによって残された孔にパッチを当てる。最終的にはインプラントシェルに、シリコーンゲルまたは当業者に周知の他の生体適合性ゲル材料である充填材料を充填する。
【0091】
本発明をある程度詳しく説明し例証したが、この開示は例示のためになされたに過ぎず、当業者は、特許請求の範囲に記載する本発明の範囲から逸脱することなく、構成要素の組合せおよび配置に数多くの改変を加えることができると理解される。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【技術分野】
【0001】
本発明は軟質補綴用インプラントに関し、より具体的にはシリコーンゲル充填型乳房インプラントおよびその構築に関する。
【背景技術】
【0002】
体組織の置換又は増大には植込み型プロテーゼがよく使用される。乳がんの処置では乳腺およびその周囲組織の一部または全部を除去することが必要な場合がある。乳房の再建では、周囲組織を支えると共に乳房の外観を復元するプロテーゼの外科的植込みが、よく用いられる。身体の正常な外観の復元は、術後の患者に対して極めて有益な心理学的作用を持ち、大規模な外科手術後にしばしば起こるショックおよび抑うつの多くを解消する。植込み型プロテーゼは、臀部、顎、腓腹などといった、身体のさまざまな領域にある軟部組織の正常な外観を復元するためにも、より広く使用されている。
【0003】
軟質植込み型ゲル充填プロテーゼは、典型的には、シリコーンゲルコアを包む硬化シリコーン系エラストマーでできた柔軟なエンベロープまたはシェルを含む。破裂に対しても、また、シェルを通したシリコーンゲルブリーディングの可能性に対しても、高い耐性を持つシェルが、極めて望ましいことは、明白である。乳房インプラントは、これらの目標を念頭に置いて設計されてきた。
【0004】
従来の乳房インプラントシェルは多層体または積層体である。具体的に述べると、そのようなシェルは、外側の「耐破裂性」層と、該外側層の間に挟まれていてゲルブリードを阻止するのに有効な内側の「バリア」層とを含む。例えば、Allergan, Inc.から入手可能なシリコーン充填型乳房インプラントのいくつかは、5%のジフェニルポリマーモルパーセントを持つジメチル-ジフェニルシリコーンエラストマーの外側層と、15%のジフェニルポリマーモルパーセントを持つジメチル-ジフェニルシリコーンエラストマーのバリア層とでできた、低拡散性シリコーンエラストマーシェルを含む。
【0005】
Mentor Corp.は、ジメチルシリコーンエラストマーの外側層と、15%のジフェニルポリマーモルパーセンテージを持つジメチルジフェニルシリコーンコポリマーの中間バリア層とでできた、層状シリコーンエラストマーシェルを含む、ゲル充填型乳房インプラントを生産している。
【0006】
層状または積層インプラントシェルを利用することの短所の一つは、シェルの形成時に、隣り合う層の混合が目に見える曇りをもたらしうることである。外科医は比較的透明なシェルを好む。そのうえ、層状構造を持つシェルには、離層という潜在的問題がある。
【0007】
軟質補綴用インプラントシェルの構築における数多くの進歩にもかかわらず、ゲルブリードを最小限に抑える、より柔軟なゲル充填型プロテーゼが、今なお必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、シリコーンゲルコアと、そのコアを包む柔軟なシェルとを含む、ゲル充填型軟質補綴用インプラント、例えば乳房インプラントを提供する。本発明の一態様において、シェルは、その実質的に均一な層が前記シリコーンゲルで実質的に飽和されるように、コアと直接接触してそのコアを包み込むシリコーンエラストマーの層を含む。本発明は、少なくとも一つには、シェルのシリコーンエラストマー層が、その乾燥強度(すなわち前記ゲルの非存在下におけるその強度)と少なくとも同程度の湿潤強度(すなわち前記シリコーンゲルで飽和された時の強度)を持つという、驚くべき発見に基づいている。
【0009】
さらに具体的に述べると、シェルは、シリコーンエラストマー(ポリシロキサン骨格を含み、その層を通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせる置換またはペンダント化学基を少なくとも10%の最小モルパーセントで含むもの)の実質的に均一な層によって規定される。さらに具体的に述べると、シリコーンエラストマーはポリジメチルシロキサンであり、ペンダント化学基は、フェニル基の一つ、例えばジフェニル基またはメチル-フェニル基、トリフルオロプロピル基、およびその混合物である。
【0010】
とりわけ有利な実施形態では、シリコーンエラストマーが、透過を立体的に遅らせる前記ペンダント化学基を与えるために十分なジフェニルシロキサン単位を介在させたジメチルシロキサン単位を含むポリマーを含む。この実施形態では、前記ジフェニルシロキサン単位のモルパーセントが少なくとも13%であり、かつ約25%を上回らない。例えば、前記ジフェニルシロキサン単位のモルパーセンテージは約15%である。
【0011】
シェルは、実質上その全体が、前記シリコーンエラストマーの前記実質的に均一な層によって規定されうる。例えば、一定の実施形態では、シェルが、本質的に、シリコーンエラストマー材料の単層からなる。
【0012】
別の実施形態では、シェルが、実質的に均一な層の外側に位置する、もう一つの材料でできた少なくとも一つの追加層(その少なくとも一つの追加層は、実質的均一層を包み込む)を、さらに含みうる。
【0013】
シェルは、好ましくは、約0.1mm〜約0.5mmの実質的に一様な厚さを持つ。例えば、単層実施形態では、シェルが約0.3mmの実質的に一様な厚さを持つ。
【0014】
好都合なことに、本発明インプラントのシェルは、同一の方法で使用され、同一のシリコーンゲルで満たされた場合に、従来の三層構造を持つ実質的に類似するシェルと比較して、優れた(すなわち低い)ブリード速度を持つ。例えば、ジフェニル基のモルパーセントが15%である中間シリコーンエラストマー層が、ジフェニル基のモルパーセントがそれぞれ5%である2つの外側シリコーンエラストマー層の間に挟まれてなる、「層状」シェルと比較した場合、本発明インプラントの単層シェルは、有意に低いブリード速度を持つ。例えば、いくつかの実施形態において、本発明インプラントのシェルのブリード速度は、少なくとも2層の5%モルパーセントジフェニルシリコーンエラストマーの間に挟まれた15%モルパーセントジフェニルの内層からなるシェルのブリード速度の約40%未満である。
【0015】
本発明のもう一つの態様では、シリコーンゲル充填型補綴用インプラントを製造する方法が提供される。例えば、本発明のシリコーンゲル充填型インプラントを製造する方法は、一般に、シリコーンエラストマー(ポリシロキサン骨格を含み、シェルを通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基を少なくとも10%の最小モルパーセントで含むもの)の実質的に均一な層を含むエンベロープを形成させるステップを含む。本方法は、シリコーンゲル前駆体材料を、その材料がシェルの内表面と直接接触するように、シェル中に導入すること、および該シリコーンゲル前駆体材料を硬化させて、軟質シリコーンゲル充填型補綴用インプラントを得ることを、さらに含む。
【0016】
とりわけ好都合な実施形態では、シリコーンエラストマーが、約15%というジフェニル基のモルパーセントを持つポリジメチルシロキサンである。シリコーンゲル前駆体材料を導入するステップは、シェルが乾燥または硬化した状態にある時に行なうことができる。例えば、シェルを形成させたら、それを貯蔵し、後に取り出してシリコーンゲル前駆体材料を充填し、硬化させて、シリコーンゲル充填型インプラント製品を形成させることができる。
【0017】
本発明のインプラントのエラストマーシェルを形成させる(例えばキャストする)のに役立つシステムおよび方法は、いくつか考えられる。いくつかの実施形態では、シェルを形成させるステップが、マンドレルに液状シリコーンエラストマーをコーティングすることを含む。例えば、適切な形状をした従来のマンドレルを、シリコーンエラストマーと溶媒との分散液に浸漬し、その溶媒を蒸発させ、エラストマーをマンドレル上で硬化または固化させることによって、シェルを形成させることができる。
【0018】
別の実施形態では、シェルを形成させるステップが、例えば未硬化シリコーンエラストマー材料を使って、シェルを回転成形することを含む。この実施形態では、キャスティング工程が、適切な形状をした金型が取り付けられた多軸回転成形機の使用を含みうる。操作中は、減圧を適用しながら、シリコーンエラストマーまたは他の適切な材料を、金型に投入する。シリコーンエラストマーが金型の内壁を被覆して単層インプラントシェルを形成するように、例えば少なくとも2つの異なる軸の周りに、金型を回転させる。
【0019】
本発明はさらに、シリコーンエラストマー分散液を形成させるステップ、その分散液で型をコーティングするステップ、分散液の溶媒を蒸発させて型上でシリコーンエラストマーフィルムを形成させるステップ、およびシリコーンエラストマーフィルムを型から外すステップを含む方法によって製造される物品を提供する。さらにまた、本方法は、シリコーンエラストマーフィルムをシリコーンゲルで飽和させること、およびシリコーンエラストマーフィルムを飽和させたシリコーンゲルを硬化させて複合材料を形成させることを含む。好都合なことに、本発明によれば、本複合材料は、シリコーンゲルで飽和されていない実質的に同一のシリコーンエラストマーフィルムと同程度の引張強さを持つ。
【0020】
本発明のさらにもう一つの態様では、インプラントであって、シリコーンゲルコアと、そのコアを包み込む、シリコーンエラストマー(ポリシロキサン骨格を含み、その層を通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基のモルパーセントが少なくとも約10%であるもの)の実質的に均一な層を含むシェルとを含み、その実質的に均一な層が、シェルの厚さの少なくとも約20%、好ましくは約50%以上を構成するインプラントが提供される。実質的に均一な層は、例えば本明細書のどこか別の箇所で言及されるシェルの厚さの少なくとも約90%を構成することができ、シェルは、実質上その全体が、上述の実質的に均一な層によって規定されてもよい。
【0021】
特定の実施形態では、本発明インプラントがヒト乳房への植込みに適し、柔軟なシェルがそれに応じたサイズおよび形状を持つ。
【0022】
本発明の一定の特徴、態様および利点は、下記の詳細な説明を添付の図面と併せて参照することにより、より明解に理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1A〜1Cは、本発明のいくつかの実施形態により乳房インプラントのシェルを浸漬成形する方法における連続ステップを示す。
【図2】図2は、本発明のゲル充填型乳房インプラントの多少図式的な断面図である。
【図3】図3は、先行技術の乳房インプラントの一部分の断面図である。
【図4】図4は、先行技術のもう一つの乳房インプラントの一部分の断面図である。
【図5】図5は、単層シェルを持つ本発明インプラントの一部分の断面図である。図5Aは、多層シェルを持つ別の本発明インプラントの一部分の断面図である。
【図6】図6は、単層テクスチャ加工シェルを持つ本発明インプラントの一部分の断面図である。
【図7】図7は、本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した例示的回転成形システムの図式的断面図である。
【図8】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【図9】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【図10】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【図11】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【図12】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【図13】本発明の乳房インプラントのシェルを形成させるのに適した回転成形システムの構成部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、シリコーンゲルコアと直接接触して取り囲んでいる、有効な耐ブリード性耐破裂性シェルで構築された、ゲル充填型インプラントまたはプロテーゼを提供する。
【0025】
本発明の一態様では、シェルが(例えば実質上その全体が)、単一の実質的に均一なシリコーンエラストマー層によって規定される。すなわち、本発明のインプラントの多くのシェルは、従来の補綴用インプラントによくある積層または層状構成ではなく、組成が均一または一様な単一材料で作られている。
【0026】
本発明のインプラントは、ヒト乳房の再建または増大における使用に適しうる。他の潜在的用途は、臀部、精巣、腓腹、その他の身体領域のためのインプラント、およびそれらのための組織拡張器である。
【0027】
図1A〜1Cに、本発明の植込み型プロテーゼまたはインプラント用の柔軟なインプラントシェルを形成させるのに適した方法を、多少簡略化した形で図解する。
【0028】
まず図2を参照して手短に説明すると、本発明の一態様では、シリコーンゲルインプラント10、例えば乳房インプラントが提供される。インプラント10は、シリコーンゲルコア12と、実質的に均一なシリコーンエラストマー層16(シェル14を通るシリコーンゲルの透過を立体的に遅らせる置換化学基のモルパーセントが少なくとも10%、例えば少なくとも13%であるシリコーンエラストマーポリマーを含むもの)を含むシェル14とを含む。
【0029】
図1A〜1Cに戻って、適切な方法では、一般に、型またはマンドレル20(図1A)を、シリコーンエラストマー分散液22(図1B)でコーティングする。分散液22は適切な溶媒中の液状未硬化エラストマー材料である。本発明の一定の実施形態においてそうであるように、シリコーンエラストマーがジフェニルジメチルシロキサンポリマーである場合、溶媒はC6以上の芳香族または直鎖脂肪族のいずれか一つ以上、例えばキシレンであることができる。マンドレル20を分散液22に浸漬し(図1B)、そこから引き上げる。被覆マンドレル20a(図1C)から過剰のシリコーンエラストマー分散液を切り(除去し)、分散液の溶媒の少なくとも一部を蒸発させて、マンドレル上のシリコーンエラストマーコーティングを安定化させる。
【0030】
この方法は、所望する厚さのコーティングを形成させるために、複数回繰り返すことができる。好ましくは、コーティングするたびに、溶媒を蒸発させる。本発明では、好ましくは、所望する厚さの実質的に均一なエラストマーシェルが形成されるまで、被覆マンドレルを、同じまた同一のシリコーンエラストマー分散液に、繰り返し浸漬する。
【0031】
シリコーンエラストマー分散液コーティングを、従来の手段を使って、マンドレル上で硬化させる。例えば、いくつかの実施形態では、コーティング20aを熱硬化させる。硬化は循環空気または他の既知手段を利用して加速させることができる。硬化した材料は軟質であり、柔軟であり、弾性である。
【0032】
シリコーンエラストマーコーティングをマンドレル上で硬化させ終わってから、マンドレル取付け部位にあるコーティングの孔を広げることによって、硬化した材料をマンドレルから剥離させる。マンドレルから剥離されたコーティングは、中空の実質的に均一なシリコーンエラストマーエンベロープの形をとり、これは、未硬化シリコーンゲルを充填すると、図2に示すインプラント10のシェル14の平均厚の、少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%以上を構成することになる。いくつかの実施形態では、実質的に均一なシリコーンエラストマーエンベロープが、シェル14の実質的に全厚を構成する。
【0033】
シェル14にシリコーンゲル前駆体材料を充填する前に、シェル14上の孔32(マンドレル取付け部位に形成されるもの)を、例えば未硬化シリコーンエラストマー部分34および硬化シリコーンエラストマー部分36を孔32の周縁部に取付けることなどによって、封止する。シェル14の封止後に、コア12を形成することになる未硬化または前駆体シリコーンゲル材料を、シェル14中に、例えばパッチ部位34、36を通して挿入された針を利用するなどして、導入(例えば注入)する。シリコーンゲル前駆体は、主ゲル成分と架橋成分との二液系として供給することができる。針の入口は、適切な手段を使って、例えばそこに接着剤を適用することなどによって、封止することができる。そのようなシリコーンゲル前駆体材料と、乳房インプラントの生産におけるそれらの使用は、当技術分野ではよく知られているので、ここではこれ以上詳しく説明しない。
【0034】
また、マンドレルをシリコーンエラストマー分散液に浸漬してインプラントシェルを形成させ、シェルの孔にパッチをあて、シェルを満たすことを含む、乳房プロテーゼを形成させる方法も、当技術分野ではよく知られており、ここではこれ以上詳しく説明しない。Murphyの米国特許第6,074,421号(その開示は全て本明細書に組み込まれる)には、乳房プロテーゼのシェルの孔にパッチをあてる有利な方法が記載されている。Murphyの特許に記載されている製造ステップ、特にシェルの孔にパッチをあててシームレスインプラントシェルを形成させることに関するステップの多くは、本発明インプラントの製造に使用することができる。
【0035】
図2に示すように、コア12を構成するシリコーンゲル材料は、シリコーンエラストマーシェル14と直接接触している。本明細書の別の箇所で改めて詳しく説明するが、シリコーンエラストマーシェル14は、エラストマーポリマー(ポリシロキサン骨格を持ち、実質的に均一な層16を通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基を約10%の最小モルパーセントで含むもの)の実質的に均一な単層によって規定されうる。インプラントの形成中に、シリコーンゲルは、実質的に均一な層16の内表面を飽和または実質的に飽和させる。シリコーンゲルによるそのような飽和のない、層16を構成するポリマー材料は、先行技術の多層インプラントシェルにおける従来の中間層またはいわゆる「バリア層」を形成するポリマー材料と実質的に等価または同一でありうる。
【0036】
図3に、シリコーンゲルコア6および平滑壁多層シェル8を含む先行技術乳房インプラント2の一部分の断面を図解する。シェル壁8を通したシリコーンゲルブリードに対する主なバリアは、内側のいわゆる「バリア層」40によって与えられる。先行技術のこの例では、2つのベースコート層42、44が、バリア層40から半径方向内側に存在し、前記ベースコート層の一つ42は、コア6を構成するシリコーンゲル材料と直接接触していて、それで実質的に飽和されている。この例では、さらに3つのベースコート層46、48、50が、図に示すとおり、バリア層40の外側に設けられている。典型的には、ベースコート層42〜50は、ゲルコア6と直接接触している層を含めて、ジフェニル置換基を持たないジメチルシリコーンコポリマーであるか、またはジフェニルポリマー置換基のパーセンテージが低い(例えばモルパーセントが5%の)ジメチル-ジフェニルシリコーンコポリマーである。ベースコート層42〜50は耐破裂性を持つように設計される。ベースコート層42〜50とは異なり、中間バリア層40は、シェル8を通したゲルブリードを減少させるように設計されるので、ジフェニルポリマー成分のパーセンテージが比較的高い(モルパーセントが15%の)ジメチルジフェニルシリコーンコポリマーである。
【0037】
先行技術インプラントの多層シェル8は約0.5mmの平均厚を持つ。バリア層40の厚さは典型的には全シェル壁厚の約10%を超えないか、または約0.025〜0.050mmである。そのような先行技術インプラントシェルでは、バリア層40がシェルの総壁厚に対して比較的低い比率に制限される。これは、このポリマーが一般に、例えば引張強さに関して、比較的弱いエラストマーであり、耐ブリード性を増進するための「中間層」として含まれるに過ぎないという、従来の知識に基づいている。また従来、これらのシリコーンエラストマーは、いわゆるバリア層材料を構成するものを含めて、シリコーンゲルで飽和されると引張強さが低下するとも考えられている。薄いバリア層40はまた、従来的には、ベースコート層の間に「サンドイッチ」され、コア6を構成するシリコーンゲル充填物と直接接触した状態に置かれることはない。
【0038】
図4に、先行技術のテクスチャ加工インプラント9の層状部分の断面を図解する。図3に示す先行技術インプラント2と同様に、シェル壁を通したゲルブリードに対する主なバリアは、内側のバリア層60によって与えられる。2つのいわゆるベースコート層62、64は、バリア層60から半径方向内側に存在する。バリア層60の外側には、さらに3つのベースコート層66、68、70が設けられている。さらにまた、外側ベースコート層60〜70の外側に、タックコート層72、テクスチャ加工結晶の層74、およびオーバーコート層78が設けられる。図3の平滑壁先行技術インプラントの場合と同様に、ベースコート層62〜70はジメチルシリコーンコポリマーであるか、またはジフェニル成分のモルパーセンテージが低い(例えば5%)ジメチル-ジフェニルシリコーンコポリマーであり、バリア層60は、ジフェニルポリマーのモルパーセンテージがより高い(例えば15%)ジメチル-ジフェニルシリコーンコポリマーである。
【0039】
先行技術におけるポリジフェニルシロキサン材料のシェルの強度、例えば引張強さが、ひとたびシリコーンゲルと接触するか、シリコーンゲルで飽和されると、低下することは、よく知られている。本発明の開発に際してなされた驚くべき発見は、従来の多層インプラントシェルにおいて中間層またはバリア層(例えば図3に示す層40および図4に示す層60)として典型的に使用される材料が、そのバリア層材料を、インプラントの充填時にシリコーンゲルと直接接触した状態に置くか、またはシリコーンゲルで実質的に飽和させ、完成したインプラント製品中でシリコーンゲルと直接接触させた場合に、同程度の引張強さを持ち、さらには、より高い引張強ささえ持ちうるというものである。
【0040】
先行技術インプラントでは、ペンダントジフェニル基のモルパーセンテージが比較的高い(すなわち10%を上回る)いわゆるバリア層材料が、シリコーンゲルコアから隔離されていて、シリコーンゲルコアとは直接接触していない(例えばジフェニル基のモルパーセントが比較的低いベースコート層の間に「サンドイッチ」されている)のに対して、本発明のインプラントの多くは、シリコーンゲルコアと直接接触して包み込む、そのようなバリア層材料を含む。
【0041】
さらにまた、先行技術インプラントでは、ペンダントジフェニル基のモルパーセンテージが比較的高い(すなわち10%を上回る)いわゆるバリア層材料が、インプラントのシェルを構成するそのような材料の量に関して、最小限に抑えられるのに対して、本発明のインプラントの多くは、インプラントシェルの厚さに対してかなりのパーセンテージを構成する、そのようなバリア層材料を含む。
【0042】
例えば、本発明のいくつかの実施形態によれば、シェルは、ジフェニルシロキサン単位のモルパーセンテージが少なくとも約10%である実質的に均一な層を含むことができ、前記実質的に均一な層は、シェルの厚さの少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約50%以上を構成する。本発明のいくつかの実施形態では、前記実質的に均一な層がシェルの平均厚の約50%〜約90%を構成する。いくつかの実施形態では、前記実質的に均一な層がシェルの厚さの実質上全てを構成する。
【0043】
具体的には、図5に、図2に示す本発明の例示的インプラント10の一部分の断面を、拡大して図解する。この実施形態では、シェル14が、均一なシリコーンエラストマー(シェル14を通るシリコーンゲルの透過を立体的に遅らせる置換化学基を少なくとも10%、より好ましくは約13%、例えば約15%の最小モルパーセントで含むもの)を含む単一の実質的に一様なバリア層16を含む。いくつかの実施形態では、シェル14の実質上全体が、単一のバリア層16によって規定される。層16は、コア12を構成するゲル材料12aと直接接触してゲル材料12aで実質的に飽和される内表面16aを有する。
【0044】
次に図5Aには、本発明のもう一つのインプラント10aの一部分の断面図が示されている。インプラント10aは、シェル14(実質上その全体が、単一の実質的に均一な層16を含むか、または単一の実質的に均一な層16からなるもの)を含むのではなく、インプラント10aのシェル14aが、前記実質的に均一な層16を覆ってそれを包み込む少なくとも一つの追加層100を含む点以外は、インプラント10と同一であることができる。追加層100は、ジフェニル置換基を含まないジメチルシリコーンコポリマー、またはジフェニルポリマー置換基のパーセンテージが比較的低い(例えばモルパーセントが10%未満、例えば約5%の)ジメチル-ジフェニルシリコーンコポリマーを含みうる。
【0045】
図5に戻って、シェル14の外表面102は、従来の平滑壁インプラントの場合と同様に、平滑であることができる。あるいは、図6に示すように、本発明のもう一つの実施形態によるインプラント10bは、テクスチャ加工外表面106を持つシェル14bを含んでもよく、この場合、インプラント10とインプラント10bは、シェル14aのテクスチャ加工を除けば、互いに実質上同一であることができる。そのようなテクスチャ加工は、例えばシェル14aの外表面106を形成させるために使用する金型上のテクスチャ加工など、さまざまな方法によって形成させることができる。
【0046】
定義として、シロキサンは、二酸化ケイ素および酸素が交互する分子のポリシロキサン骨格に基づくさまざまな化合物のいずれかであると定義される。側鎖置換基またはペンダントが有機基である場合、それらはシリコーンである。ポリジメチルシロキサンは、2つのメチル(CH3)置換基を持つシロキサンからなり、ポリジフェニルシロキサンは、2つのフェニル(C6H5)置換基を持つシロキサンからなる。
【0047】
本発明のインプラントの「全バリア」シェル(例えばシェル14)に使用することができる好ましい例示的材料を明確に定義することは重要である。第1に、それらの材料はポリシロキサンまたはシリコーンポリマーである。これらの材料は、カリフォルニア州カーピンテリアのNuSil Technologyなどの供給者から販売されている。医療用ポリシロキサンの基本式は、メチル基に代わる他の基を含むかまたは含まないポリジメチルシロキサン(シリコーンエラストマー鎖)である。次の式は、Mentor MemoryGel(商標)インプラントに外側層として現在使用されているポリジメチルシロキサンまたはジメチルシリコーンエラストマーである。
【0048】
【化1】
【0049】
次の式は、メチル-フェニル置換基を持つ上記ポリジメチルシロキサンである。
【化2】
【0050】
大きなフェニル基の立体障害により、ポリマー鎖上では、高濃度のジフェニル単位が、顕著に妨げられる。立体障害または立体抵抗は、ある分子内の基のサイズが、それより小さい関連分子で観察される化学反応を妨げる場合に見出される。概して、他の分子を立体的に妨害する分子は、一般に、それらの自由運動を妨害する。隣接基間の立体障害は結合ねじれ角も制限しうる。
【0051】
最後に、次の式IIIは、ジフェニル置換基を持つ上記ポリジメチルシロキサンである。
【化3】
【0052】
ここでも、大きなフェニル基の立体障害が、ポリマーにおけるそれらの濃度を、しばしば、ある最大モルパーセントに制限する。ジフェニル置換基に関する最大モルパーセントは約25%であり、これを過ぎると、大きなフェニル基の立体障害が化合物を不安定にし始めると考えられている。この不安定性は、ポリマーの製造を、不可能ではないにしても、困難にする。
【0053】
当技術分野で周知の他のペンダント基は、25%を上回るモルパーセントでポリマー中に存在しうる。例えばいくつかのペンダント基、例えばフルオロ基は、ポリマーの安定性を損なうことなく、100%に近い置換化学基のモルパーセントで存在することができる。そのようなポリマーは、本発明のインプラントのシェルの成分として役立つと思われ、本発明の範囲に包含されると考えられる。
【0054】
補綴用インプラントシェルのための材料の設計者にとって、主要目標の一つは、シェルを通した充填材ゲルのブリーディングの量を減少させることである。軟質補綴用インプラントにおける充填材ゲルは、シリコーンオイルを包含する、10〜20%架橋シリコーンである。シリコーンゲルとその周囲のシリコーンエラストマーシェルとの相溶性により、シリコーンオイルの一部はシェルに吸収されて、シェルを膨潤させる。そのような膨潤はシェルの引張強さを低下させる。しかし、シェルを通したゲルのブリーディングが多少は起こるものの、シェルがひとたび飽和または膨潤すると、シェルの外側におけるシリコーンの存在が、シェルを通してさらにブリードしようとするゲルの傾向を低下させる。これは、シェルを横切る化学的勾配が減少し、したがってブリーディングにつながる浸透圧が減少した結果である。
【0055】
ゲル飽和後も、多少のブリーディングは依然として起こり、それを最小限に抑えることが望ましい。シリコーン系シェルは少なくとも少量をブリードする傾向があるものの、軟らかさまたはしなやかさという材料特性が、それらを事実上唯一の材料選択肢にしている。ポリウレタンまたはポリウレタン-シリコーンコポリマーシェルに関する研究がいくつか進行中であるが、これらはまだ商業的に採用されるには至っていない。シリコーン以外の適切な材料がいつか利用可能になることも考えられ、その場合は、単層バリアシェルの概念がそれに当てはまりうる(本発明はシリコーンエラストマーに関するが)。
【0056】
本発明の作用に関してどの特定理論にも束縛されることは望まないが、大きなフェニル基は、置換基の比率を制限するだけでなく、シェルを通るシリコーンゲルの透過またはブリーディングを立体的に遅らせると考えられる。これは、大きなフェニル基がシェルにおけるゲル充填材の自由運動を物理的に制限するために起こる。これが、シェルにおけるゲルの溶解度を低下させ、飽和点を下げ、それが結果として、シェルの強さなどの物理的性質を維持するのに役立つ(そのような置換基のパーセンテージが低いシリコーンエラストマーまたはそのような置換基が存在しないシリコーンエラストマーでできたシェルまたは層と比較して)。
【0057】
飽和およびブリーティングの程度は、シリコーンエラストマーにおけるゲルの溶解度に基づきうる。例えば、約15%という置換フェニル基のモルパーセントは、より低い飽和度を可能にする。
【0058】
本発明によれば、シェルを通るシリコーンゲルの透過を立体的に遅らせる置換ジフェニル基の最小モルパーセントは、少なくとも約10%、例えば約13%である。本発明の好ましい実施形態では、シェル12の少なくとも一部分を形成するバリア層16のための好ましい材料が、ペンダントまたは置換ジフェニル基の最小モルパーセントが約15%であるジメチルポリシロキサンの実質的に均一な層、例えば単一の実質的に均一な層である(上記式III参照)。したがって、本発明インプラントのシェルのための好ましい材料は、置換ジフェニル基のモルパーセントが約10%(好ましくは約13%)と約25%の間にあるジメチルポリシロキサンである。
【0059】
置換ジフェニル基の有効性は分かっているが、他の置換基もうまく機能しうる。例えば置換基はフルオロ基であることができる。次の式IVは、トリフルオロプロピル置換基を持つ上記ポリジメチルシロキサンである。
【化4】
【0060】
シェルを通るシリコーンゲルの透過を立体的に遅らせる置換フルオロ基の最小モルパーセントは、ジフェニル置換基の場合とは異なるだろう。本明細書に記載する材料は、シリコーンゲル透過を立体的に遅らせるその能力を調べるために、実験的に試験することができる。一つの方法は、材料を試験して、片側でシリコーンゲルと接触させた時に膨潤がどのくらい起こるかをみることである。そのような試験は材料のシートで行なうことができる。作用に関してどの特定理論にも束縛されることは望まないが、材料の膨潤量が大きいほど、ゲル透過を遅らせる材料の能力は低いと考えられる。
【0061】
あるいは、キャストシェルを形成させ、ゲルを充填した後で、ゲルブリード試験を行なうこともできる。ブリード試験では、基本的に、ある期間中にインプラントシェルを通過するゲルの量が測定される。試験はASTM規格F703に従って行われ、ブリード結果は通例、質量/表面積/時間、例えばμg/cm2/日という単位で与えられる。本発明に関して、次の表では、本明細書で議論するいくつかの材料のブリード速度を、ジメチルシリコーンエラストマーのブリード速度(任意に100という値をこれに割り当てる)との比較で定量化する。シェル材料欄のパーセント単位はモルパーセントを指す。
【0062】
【表1】
【0063】
Allerganが生産するインプラントシェルに現在使用されている5%ジフェニルシリコーンエラストマーに挟まれた15%ジフェニルと比較して、全体が15%ジフェニルシリコーンエラストマーでできた本発明のシェルは、約40%低いブリード速度を持つ。そのうえ、単層シェルの均一性により、層状シェルでは起こりうる曇りと離層の可能性がどちらも排除される。
【0064】
適切なインプラントシェルは、ゲルブリーディングを遅らせる能力に加えて、破裂に抵抗するために最低限の強度も持たなければならない。実際、インプラントシェルの主要設計基準は、今までも、そしてこれからも、破裂に抵抗する能力である。強いと思われる材料を内側の弱いバリア層と組み合わせる層状アプローチが過去に用いられた理由は、そこにあった。本発明のシェルに使用されるようなシリコーン材料の強度を測定する標準的方法は、ドッグボーン(dog-bone)サンプルを利用する周知のASTM引張強さ試験である。サンプルは、要求される形状に製造されるか、または形成されたインプラントシェルから切り出される。サンプルの両端を、サンプルが破損するまで、反対向きに一軸的に引っ張る。本発明の単層シェルは、乾燥していると、以前の層状シェルより弱いが、ゲルで濡れるかゲルで飽和させると、同程度の強度を持ち、ことになるとさらに強い強度を持つ。すなわち、インプラントシェルにシリコーンゲルを充填すると、それは膨潤し、飽和状態になる。シリコーンシェルの強度は、通例、膨潤後に低下する。しかし強度の低下は本発明のシェルでは少ないか、または有意でない。これはおそらく、従来の層材料および以前のシェル構造と比較して、ゲルによる膨潤が少ないせいだと思われる。
【0065】
次の表はこの現象を例証している。
平均引張強さ(psi)n=15
【表2】
【0066】
これらの試験で、バリア層を持たない以前の材料(A)と、現在の層状材料(B)は、シリコーンゲルへのばく露後に(すなわち湿潤強度)、それぞれ30%および18%の強度低下を示す。しかし、全バリア材料Cは、実際に、その乾燥強度と比較して、同程度のまたは増大した湿潤強度を持つ。実際、シリコーンゲルへのばく露後に得られる全バリア材料Cの強度は、材料AおよびBの湿潤強度よりも絶対値が大きい。望ましくは、本発明のいくつかのインプラントのシェルは、従来の層状材料の湿潤強度と同程度であるかまたはそれより大きい湿潤強度を持つ、単層の実質的に均一なバリア材料で構築される。
【0067】
実質的に均一な層16の壁厚は、好ましくは約0.1mm〜約0.5mm、例えば少なくとも約0.3mmである。シェル14中の任意の点における厚さは、キャスティングの不精密ゆえに、より大きい場合も小さい場合もありうることに、注意すべきである。例えば、いくつかの実施形態では、実質的に均一な層16の厚さが、約0.3mmから約1mmの範囲にわたる。
【0068】
さらにまた、図6のテクスチャ加工シェル層14bの場合、厚さは、起伏面106の山と谷のせいで変動する。テクスチャ加工外表面106は、キャスティング表面をテクスチャ加工することによって、または他の適切な手段によって、形成させることができる。図6に示すインプラント10bのテクスチャ加工シェル14b(これは、実質上その全体が、単一の実質的に均一な層14bによって規定されうる)は、従来の層状テクスチャ加工シェルよりもはるかに薄く作製することができ、先行技術の層状テクスチャ加工インプラントと比較して、極めて柔軟なテクスチャ加工インプラントをもたらす。
【0069】
単層構造に作られたシェル14および14bは、サンドイッチ構造または層状構造を持つ先行技術のシェルより小さいヤング率(E)を持ちうる。ある実施形態では、単一の均一層14、14bが、もっぱら、置換ジフェニル基の最小モルパーセントが約15%であるジメチルポリシロキサンで形成され、そのような材料のヤング率が、ジフェニル成分のモルパーセントが5%であるジメチル-ジフェニルシリコーンコポリマー(これは図3および4の層状シェルで使用されるものである)のヤング率よりも小さい。
【0070】
本発明のシェル14、14aおよび14bは、図1A〜1Cに関して上述した浸漬法を含むいくつかの方法で形成させることができるが、好ましいシステムおよび方法は、Schuesslerの米国特許第6,602,452号に開示されており、この特許は特に参照により本明細書に組み込まれる。Schuesslerは、医療用品を形成させるための、特に乳房インプラント用のシリコーンエラストマーシェルを成形するための、回転成形機を開示している。
【0071】
図7は、本発明のインプラントシェルを形成させるために使用することができる、Schuesslerの特許に開示されているものに似た回転成形システムの一実施形態の模式図である。2ピースケース金型120は、上側金型ピース124および下側金型ピース126をクランプベース128にそれぞれ上側係止溝130および下側係止溝132で固定するクランプによって、多軸回転成形機122に固定される。減圧連結134は、成形機122の一つのアームを通って、減圧開口部135まで延びている。また、材料連結管136(これを通して、シリコーンエラストマー、ライナー材料、および/または空気が金型キャビティ140内に注入される)は、減圧連結134と同じアーム142を通ってもしくはそれに沿って、またはもう一つのアーム144を使って、延びることができる。次に、流体は、下側金型ピース122の円形開口部(符番なし)にはめ込まれた円形スプルー管145を通って進む。スプルー管145は、下側金型ピース122と上側金型ピース124とが接合した時に、2ピースケース金型120内に材料が入ることを可能にする中空孔を規定する。
【0072】
二本のアームのハブ146は、軸Aの周りを水平方向に回転し、一方、アーム142、144は、軸Aに対して垂直であることができる軸Bの周りを回転する。これにより、ライナー材料およびシリコーンエラストマー材料を、金型キャビティ140の面に一様にコーティングすることが可能になる。2ピースケース金型120は銅、アルミニウム、または他の材料から作製することができる。上側金型ピース124および下側金型ピース126はその接合面で合わされ、Oリング150で封止された後、多軸回転成形機122のクランプベース128中に係止される。
【0073】
材料溜め152は、シリコーンエラストマー、ライナー材料および/または空気をキャビティ140に供給するために、連結管136に連通的に連結される。減圧源154および溶媒凝縮器156は減圧連結134に連通的に連結される。スプルー管145の中空孔は内側減圧管(図示していない)と連通し、続いてそれが減圧開口部135および減圧連結134に連結される。
【0074】
図7の回転成形システムは、軟質インプラントシェルを形成させるための以前の方法と比較して、少なくとも2つの明確な利点を持つ。
【0075】
第1に、医療用品での使用に必要な物理的性質を持つシリコーンエラストマーは通常、分子量が高いか、または充填材を必要とするので、シリコーンおよび他の溶媒ベース材料または気体放出材料の回転成形は、以前は実現可能でなかった。これらの材料は通例、粘度が高すぎるので、溶媒と混合して適切な粘度を持つ分散液を作る必要がある。この溶媒ベースの、粘度を低下させた分散液により、シリコーンポリマーを噴霧または浸漬によってマンドレルに適用することができ、その後、溶媒を蒸発させることができる。しかし、閉じた金型に閉じ込められる相当な体積の溶媒蒸気を除去するための手段がないため、溶媒ベースの分散液は回転成形方法に用いるには実用的でなかった。図7のシステムは、装置の回転アームを通る金型への減圧通気路を含み、それにより、アームが回転し分散液材料が流動して金型の内表面上に沈積しつつある間に、溶媒を除去する。
【0076】
この回転成形システムの第2の利点は、シームレス物品の形成を可能にすることである。他の方法では半分の金型が互いに交わる点に形成されるであろう金型分割線が、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、フルオロポリマー、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、エポキシなどの成形材料の薄層で、複数パートから組み立てた金型の内側をまずコーティングして金型ライナーを作ることにより、本発明の方法では排除される。ライナーをキャストした後、所望するインプラントシェルの原材料、例えばシリコーンエラストマーを、金型キャビティ内に注入し、ライナーの内側に同様に回転的にキャストして、一時的な積層構造物を得る。金型を分解し、構造物を金型から剥離すると、ライナー材料とインプラントとが物理的に分離されて、シームレス形状を持つ所望の物品が得られる。
【0077】
図7の多軸回転成形システムを利用してインプラントシェルを製造する際の第1ステップは、2ピースケース金型120の内表面を被覆するライナーを作ることである。ライナーは上側および下側半分ずつの金型124、126のドーム状内表面を覆うべきである。こうして、金型内表面を覆うことで、例えば金型分割線、金型内表面にある機械加工跡、または金型内表面の小さな損傷などといった、表面の中断が全てマスクされる。
【0078】
ライナーは任意の適切な材料であってよいが、いくつかの要件は満たすべきである。第1に、ライナーは、インプラントシェルまたは他の成形品と共に生体適合性であるように、低レベルの抽出性を持つべきである。またライナーは、インプラントシェルまたは他の成形品の製造に用いられるシリコーンエラストマーに使用されているあらゆる溶媒に対する耐性も持つべきである。ライナー材料は、多軸回転成形機による金型の回転中に、金型内表面を完全にかつ一様に被覆することができるべきである。成形工程中に熱を使ってシリコーンエラストマーを硬化させるのであれば、ライナーは高レベルの耐熱性を持つべきである。ライナーは、金型表面および硬化したシェルから容易に除去または剥離することができるべきである。最後に、ライナーを使って、シリコーンエラストマーに、例えば光沢仕上げ、マット仕上げ、テクスチャ仕上げなどといった所望の表面仕上げを付与することができる。適切なライナー材料には、ポリエチレン(Equistar(商標)#MP658-662)、ポリプロピレン(A. Schulman(商標)#PD8020)、ナイロン(Capron(登録商標)#8280);フルオロポリマー(DuPont(登録商標)Teflon(登録商標)PFA)、ポリエステル樹脂(Hypol(商標)#320300-10)、ポリウレタン(Smooth-On Smooth Cast #305)およびエポキシ(Polytek(登録商標)Development Corp. Polypoxy(登録商標)1010)などがあり、これらは全て一般市場で販売されている。列挙したこれらのライナー材料の代わりに他の類似する材料を使用できることは、当業者にはわかるだろう。
【0079】
所望の厚さのライニングが生成するように、前もって決定した体積または重量の、選択したライナー材料を、金型に入れる。ライナー材料は、選択した材料が流動性である限り、ライナー材料の選択に依存して、微粉末状または液状のどちらかである。ライナー材料は円形スプルー管145を通して2ピースケース金型120に投入される。スプルー管145はケース金型120の内部キャビティ140のほぼ中央まで延び、ライナーおよびシェルまたは他の物品を形成させる全工程にわたって、その位置に留まる。ライナー材料は、ケース金型を多軸回転成形機の回転アーム内に係止する前に、またはケース金型を回転アーム内に係止した後に、ケース金型中に投入することができる。閉じた金型120を、2つ以上の軸の周りに回転させて、内部のライナー材料に、キャビティ140の内表面に沿ったむらのないコーティングを形成させる。これらの軸に対する金型の回転により、一様な厚さのライナーが形成される。ライナー材料が熱可塑性樹脂で構成される場合は、従来の回転成形技法により、ライナー材料が融解して金型内表面を被覆するように、熱を加える。ポリエステル樹脂のようにライナー材料系に化学的硬化が用いられる場合には、熱を加える必要がない。さらにまた、気泡を最小限に抑えるために、またはライナーの表面仕上げに所望する形で影響を及ぼすために、空気圧、減圧、窒素などの不活性ガスもしくは他の蒸気、または固体粒子を、金型の内部に適用してもよい。
【0080】
ライナーが形成されたら、次のステップは、インプラントシェルを形成させることである。円形スプルー管145は、ライナーおよび成形材料を硬化させる工程全体にわたって、金型キャビティ140内に延びたままである。スプルー管145を清浄に保ち、キャスティングステップ中の減圧を維持するために、スプルーの外部末端は取り外し可能な蓋を持つ。シリコーンエラストマーを金型の内部に注入する。所望する完成シェルまたは完成品のサイズおよび厚さに基づいて、前もって決定した量の成形材料を投入する。単層インプラントを形成させるために使用される、ゲルブリーディングを遅らせるための置換基を持つ望ましいポリシロキサンについては、上述した。
【0081】
ライナーを持つ金型キャビティ140中にスプルー管145を通してシリコーンエラストマーを入れた後、金型を少なくとも2つの軸の周りに回転させ、その間、その内部には減圧が適用される。減圧はさまざまな形で適用することができる。減圧は、封止された金型のスプルーに、減圧開口部135を利用して適用することができる。減圧は、開放スプルー金型が回転している内部キャビティまたはチャンバーに適用することもできる。あるいは、多孔性材料で金型を構築し、そのような多孔性金型の外部に減圧を適用してもよい。さらにまた、シリコーンエラストマー内の気泡除去を補助するために、空気、窒素または他の気体のいずれかを使うか、それらを併用して、陽圧を間欠的に適用してもよい。ライナーの、そして最終的にはシェルまたは他の成形品の、一様な平滑面を可能にするために、気泡は除去する必要がある。
【0082】
回転成形機のアームをその軸の周りに回転させながら、シリコーンエラストマーを回転させ、硬化させることによって、所望の形状を形成させる。金型を異なる速度で回転させることにより、投入される材料の粘度の相違に対応することができる。必要であれば、または硬化工程を加速するために、加熱する。シリコーンエラストマーは、ライナー材料上で回転させられ、その場で硬化するにつれて、固化し、流動しなくなる。シェルまたは他の成形品にとって壁厚の追加が望ましい場合は、これらのステップを繰り返すこともできるが、完成品は、単一の均一な材料または層になるべきである。すなわち、回転成形工程を(そしてまた上述の浸漬工程も)、多段階または多ステップで行なって、各ステップで、材料を付加することができる。ただし、完成品は異なる層を示さず、シェル壁全体が均一または一様な組成を持つ。
【0083】
硬化サイクルが完了して、シリコーンエラストマーを所望の厚さに硬化させた後、ライナーによって取り囲まれている、形成されたシェルまたは物品を、金型から取り出す。シェルまたは他の成形品は、そのライナー系に適した下記の方法の一つによって、ライナーから分離される:適切な溶媒にライナーを溶解する方法;ライナーを融解するか、ライナーを燃やして、より耐熱性の高いシェルまたは成形品から取り除く方法;ライナーを引き裂くか、ライナーを破壊して、シェルから取り除く方法;または形成された柔軟なシェルをライナーからはぎ取り、スプルー開口部によってライナー中に作られたライナーの開口部を通して、それを取り出す方法。ライナーは捨てられる場合もあるし、シェルまたは成形品からライナーを分離する工程次第で、ライナーが損傷を受けず、溶解もされていない場合には、ライナーが再びその方法で再利用される場合もある。
【0084】
図8〜13に、本発明のインプラントシェルを形成させるために使用することができる、図7を参照して説明したような回転成形システム用の、もう一つの金型200を図解する。上述の実施形態の場合と同様に、図9に断面を図解する金型200は、フランジ208に差し込まれるボルト206によって一つに合わせられる上側金型ピース202および下側金型ピース204、ならびに内側ライナー210を含む。ここでも、内側ライナー210の存在は大きな利点である。なぜなら、他の方法では二つの金型ピース202、204の合わさる点に生じるであろうシームを持たないインプラントシェルを形成させることができるからである。望ましくは、金型ピース202、204はアルミニウムなどの金属で形成され、内側ライナー210は、テフロンなどの非付着性材料、例えばETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン)で形成される。
【0085】
先に述べた実施形態とは対照的に、内側ライナー210は、補綴用インプラントシェルが金型によって形成されるたびに再利用されるように意図されている。内側ライナー210は、いくつかのインプラントが形成される間、金型ピース202、204によって形成されるキャビティ内に留まり、よって金型200の内表面を規定する。好ましくは内側ライナー210は、数百回の使用にわたって、金型ピース202、204内に留まりうる。上述した実施形態の場合と同様に、内側ライナー210は、最初は、金型ピース202、204内に流動性ライナー材料を注入し、回転成形することによって形成される。
【0086】
金型200は、下部フランジ214内に比較的大きな円形開口部212を含み、それを通して、またはその中に、スプルー管(図7のスプルー管145など)が挿入される点で、前述の2ピースケース金型120と、ほぼ同じように機能する。図示していないが、スプルー管は中空孔を規定し、その中空孔は、補綴用インプラントシェルを形成させるために材料を金型200内に入れるための通路、および溶媒または他の気体を排出するための通路になる。好ましいインプラント材料については上述した。金型200を使って層状シェルを形成させることもできるが、好ましい実施形態は、単層インプラントシェルを形成させることである。しかしこの場合も、完成品が異なる層を示さず、シェル壁全体が均一または一様な組成を持つように、単層インプラントシェルを、一連の薄層により、多ステップで形成させることができる。金型200を使ってインプラントシェルを形成させるための具体的ステップは、図7のシステムに関して上述したものと本質的に同じであるので、ここではこれ以上説明しない。
【0087】
前述の金型120と比較して、金型200が異なるもう一つの点は、その壁厚が相対的に薄く、外形が内部の成形品の形状を実質的に反映するようになっていることである。このデザインは、金型200の熱伝達特性を改善するので、内壁または内側ライナー210における温度の一様性を、より良く制御できるようになる。
【0088】
図10〜13に金型200の形成におけるいくつかのステップを図解する。2つの金型パート202、204の下に分解表示した、ライナープラグまたはスプルー管220を、図10に示す。図11は、ライナースプルー管220が下部フランジ214の円形開口部内に緊密に嵌合されている金型200の下部末端の拡大図である。ライナースプルー管220は中心貫通孔222を規定し、内側ライナー210の形成中は、この貫通孔をライナー材料が通過でき、この貫通孔を通して気体を排気できる。さらにまた、好ましくは、金型キャビティ内に延びる二次スプルー管224を使って、材料が金型キャブティから出ていくのを防ぐのに役立たせる。図11に、形成後の内側ライナー210を図解する。
【0089】
内側ライナー210の形成後にライナースプルー管220を取り除く。図12に、内側からライナー材料に管状ネック開口部を開けた後の、金型200のネック部を図解する。すなわち、図11に見られる小さな環状部分230を取り除いて、直径Aを持つネック開口部を形成させる。例示的実施形態では、直径Aが約2.413〜2.540cm(0.950〜1.000インチ)である。図13は、ライナー材料210によって形成されるネック開口部の一つの角232の拡大図である。ライナー材料には、角232が直角になって、インプラントプロテーゼを形成させるために使用されるスプルー管の周りに緊密に嵌合するように、孔が開けられる。
【0090】
乳房インプラントの場合、形成されたシェルは、最終乳房インプラント製品を作製する通常の方法に準ずるさらなる組み立てまたは加工に、そのまま使用することができる。例えばスプルーによって残された孔にパッチを当てる。最終的にはインプラントシェルに、シリコーンゲルまたは当業者に周知の他の生体適合性ゲル材料である充填材料を充填する。
【0091】
本発明をある程度詳しく説明し例証したが、この開示は例示のためになされたに過ぎず、当業者は、特許請求の範囲に記載する本発明の範囲から逸脱することなく、構成要素の組合せおよび配置に数多くの改変を加えることができると理解される。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゲルを含むコア;および
シリコーンエラストマー(ポリシロキサン骨格を含み、その層を通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基のモルパーセントが少なくとも約10%であるもの)の実質的に均一な層を含む柔軟なシェル
を含み、実質的に均一な層がコアのシリコーンゲルを包み込んで、コアのシリコーンゲルと直接接触している、ゲル充填型軟質補綴用インプラント。
【請求項2】
シリコーンエラストマーが、ペンダント化学基を提供するのに十分なジフェニルシロキサンを介在させた、ジメチルシロキサン単位を含むポリマーを含む、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
ジフェニルシロキサン単位のモルパーセントが約25%未満である、請求項2に記載のインプラント。
【請求項4】
ジフェニルシロキサン単位のモルパーセントが約15%である、請求項3に記載のインプラント。
【請求項5】
シェルの実質上全体が、シリコーンエラストマーの均一な層によって規定される、請求項1に記載のインプラント。
【請求項6】
シェルが、実質的に均一な層を覆ってそれを包み込む少なくとも一つの追加層を含む、請求項1に記載のインプラント。
【請求項7】
シリコーンエラストマーが、シェルを通るシリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基で置換されたポリジメチルシロキサンである、請求項1に記載のインプラント。
【請求項8】
ペンダント化学基がフェニル基、トリフルオロプロピル基およびその混合物からなる群より選択される、請求項7に記載のインプラント。
【請求項9】
ペンダント化学基がジフェニル基、メチル-フェニル基、トリフルオロプロピル基およびその混合物からなる群より選択される、請求項7に記載のインプラント。
【請求項10】
ペンダント化学基がフェニル基である、請求項7に記載のインプラント。
【請求項11】
ペンダント化学基がジフェニル基である、請求項7に記載のインプラント。
【請求項12】
ジフェニル基のモルパーセントが約25%未満である、請求項11に記載のインプラント。
【請求項13】
ジフェニル基のモルパーセントが約15%である、請求項11に記載のインプラント。
【請求項14】
シェルが約0.3mmの実質的に均一な厚さを持つ、請求項1に記載のインプラント。
【請求項15】
シェルが、前記ゲルで飽和された時に、前記ゲルの非存在下におけるその強度と少なくとも同程度である強度を持つ、請求項1に記載のインプラント。
【請求項16】
シェルが、5モルパーセント未満のジフェニル基を持つ2つのシリコーンエラストマー層の間に挟まれた、15モルパーセントのジフェニル基を持つ中間シリコーンエラストマー層からなる三層構造を持つシェルと比較して、低いブリード速度を持つ、請求項1に記載のインプラント。
【請求項17】
シリコーンゲルを含むコア;および
そのシリコーンゲルを包み込み、そのシリコーンゲルで飽和された柔軟なシェル;
を含み、シェルが、単一の実質的に均一なシリコーンエラストマー層(ポリシロキサン骨格を含み、ジフェニル基を少なくとも約10%の最小モルパーセントで含むポリマーを含むもの)を含む、ゲル充填型軟質補綴用インプラント。
【請求項18】
シェルが、5モルパーセント以下のジフェニル基を持つ2つのシリコーンエラストマー層の間に挟まれた、15モルパーセントのジフェニル基を持つ中間シリコーンエラストマー層からなる三層構造を持つシェルと比較して、低いブリード速度を持つ、請求項17に記載のインプラント。
【請求項19】
シリコーンエラストマーが、ジフェニルシロキサン単位を介在させたジメチルシロキサン単位を含むポリマーである、請求項17に記載のインプラント。
【請求項20】
シリコーンゲル充填型補綴用インプラントの製造方法であって、
シリコーンエラストマーポリマー(ポリシロキサン骨格を持ち、フェニル基、トリフルオロプロピル基およびその混合物からなる群より選択されるペンダント化学基を約10%の最小モルパーセントで含むもの)を含むエンベロープを形成させるステップ;
そのエンベロープに、シリコーンゲル前駆体材料を、その材料が前記ポリマー層と直接接触して、前記ポリマー層を実質的に飽和させるように、導入するステップ;
シリコーンゲル前駆体材料を硬化させて、シリコーンゲルコアを持つ軟質補綴用インプラントを得るステップ
を含む方法。
【請求項21】
シリコーンエラストマーポリマーが、約15%というジフェニル基のモルパーセントを持つポリジメチルシロキサンである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
エンベロープを形成させるステップがエンベロープを回転成形することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
シリコーンゲル;および
ジフェニル基のモルパーセントが約15%であるポリジメチルシロキサン材料の実質的に均一な層によって規定される、シリコーンゲルを収容する柔軟なシェル
を含み、その層はシリコーンゲルと直接接触しており、その材料は、前記ゲルで飽和された時に、前記ゲルの非存在下における実質的に同一の材料の強度と少なくとも同程度である強度を持つ、シリコーンゲル充填型軟質補綴用インプラント。
【請求項24】
シリコーンエラストマーと溶媒との分散液を形成させ;
その分散液で型をコーティングし;
分散液の溶媒を蒸発させて、型上でシリコーンエラストマーフィルムを形成させ;
シリコーンエラストマーフィルムを型から外し;
シリコーンエラストマーフィルムをシリコーンゲルで飽和させ;
シリコーンエラストマーフィルムを飽和させたシリコーンゲルを硬化させて複合材料を形成させる
方法(これにより、複合材料は、シリコーンゲルで飽和されていない実質的に同一のシリコーンエラストマーフィルムの引張強さよりも引張強さが高いという性質を持つ)
によって製造される物品。
【請求項25】
シリコーンエラストマー分散液が、少なくとも約10%というジフェニル基のモルパーセントを持つポリジメチルシロキサンである、請求項24に記載の物品。
【請求項26】
シリコーンエラストマー分散液が、約25%未満というジフェニル基のモルパーセントを持つポリジメチルシロキサンである、請求項24に記載の物品。
【請求項27】
シリコーンエラストマー分散液が、約15%というジフェニル基のモルパーセントを持つポリジメチルシロキサンである、請求項24に記載の物品。
【請求項28】
シリコーンゲルを含むコア;および
シリコーンエラストマー(ポリシロキサン骨格を含み、その層を通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基のモルパーセントが少なくとも約10%であるもの)の実質的に均一な層を含む柔軟なシェル
を含み、実質的に均一な層がシェルの厚さの少なくとも約20%を構成する、ゲル充填型軟質補綴用インプラント。
【請求項29】
実質的に均一な層が、ジフェニル基のモルパーセントが少なくとも約15%であるポリジメチルシロキサンを含む、請求項28に記載のインプラント。
【請求項30】
実質的に均一な層がシェルの厚さの少なくとも約50%を構成する、請求項29に記載のインプラント。
【請求項31】
実質的に均一な層がシェルの厚さの少なくとも約90%を構成する、請求項30に記載のインプラント。
【請求項1】
シリコーンゲルを含むコア;および
シリコーンエラストマー(ポリシロキサン骨格を含み、その層を通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基のモルパーセントが少なくとも約10%であるもの)の実質的に均一な層を含む柔軟なシェル
を含み、実質的に均一な層がコアのシリコーンゲルを包み込んで、コアのシリコーンゲルと直接接触している、ゲル充填型軟質補綴用インプラント。
【請求項2】
シリコーンエラストマーが、ペンダント化学基を提供するのに十分なジフェニルシロキサンを介在させた、ジメチルシロキサン単位を含むポリマーを含む、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
ジフェニルシロキサン単位のモルパーセントが約25%未満である、請求項2に記載のインプラント。
【請求項4】
ジフェニルシロキサン単位のモルパーセントが約15%である、請求項3に記載のインプラント。
【請求項5】
シェルの実質上全体が、シリコーンエラストマーの均一な層によって規定される、請求項1に記載のインプラント。
【請求項6】
シェルが、実質的に均一な層を覆ってそれを包み込む少なくとも一つの追加層を含む、請求項1に記載のインプラント。
【請求項7】
シリコーンエラストマーが、シェルを通るシリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基で置換されたポリジメチルシロキサンである、請求項1に記載のインプラント。
【請求項8】
ペンダント化学基がフェニル基、トリフルオロプロピル基およびその混合物からなる群より選択される、請求項7に記載のインプラント。
【請求項9】
ペンダント化学基がジフェニル基、メチル-フェニル基、トリフルオロプロピル基およびその混合物からなる群より選択される、請求項7に記載のインプラント。
【請求項10】
ペンダント化学基がフェニル基である、請求項7に記載のインプラント。
【請求項11】
ペンダント化学基がジフェニル基である、請求項7に記載のインプラント。
【請求項12】
ジフェニル基のモルパーセントが約25%未満である、請求項11に記載のインプラント。
【請求項13】
ジフェニル基のモルパーセントが約15%である、請求項11に記載のインプラント。
【請求項14】
シェルが約0.3mmの実質的に均一な厚さを持つ、請求項1に記載のインプラント。
【請求項15】
シェルが、前記ゲルで飽和された時に、前記ゲルの非存在下におけるその強度と少なくとも同程度である強度を持つ、請求項1に記載のインプラント。
【請求項16】
シェルが、5モルパーセント未満のジフェニル基を持つ2つのシリコーンエラストマー層の間に挟まれた、15モルパーセントのジフェニル基を持つ中間シリコーンエラストマー層からなる三層構造を持つシェルと比較して、低いブリード速度を持つ、請求項1に記載のインプラント。
【請求項17】
シリコーンゲルを含むコア;および
そのシリコーンゲルを包み込み、そのシリコーンゲルで飽和された柔軟なシェル;
を含み、シェルが、単一の実質的に均一なシリコーンエラストマー層(ポリシロキサン骨格を含み、ジフェニル基を少なくとも約10%の最小モルパーセントで含むポリマーを含むもの)を含む、ゲル充填型軟質補綴用インプラント。
【請求項18】
シェルが、5モルパーセント以下のジフェニル基を持つ2つのシリコーンエラストマー層の間に挟まれた、15モルパーセントのジフェニル基を持つ中間シリコーンエラストマー層からなる三層構造を持つシェルと比較して、低いブリード速度を持つ、請求項17に記載のインプラント。
【請求項19】
シリコーンエラストマーが、ジフェニルシロキサン単位を介在させたジメチルシロキサン単位を含むポリマーである、請求項17に記載のインプラント。
【請求項20】
シリコーンゲル充填型補綴用インプラントの製造方法であって、
シリコーンエラストマーポリマー(ポリシロキサン骨格を持ち、フェニル基、トリフルオロプロピル基およびその混合物からなる群より選択されるペンダント化学基を約10%の最小モルパーセントで含むもの)を含むエンベロープを形成させるステップ;
そのエンベロープに、シリコーンゲル前駆体材料を、その材料が前記ポリマー層と直接接触して、前記ポリマー層を実質的に飽和させるように、導入するステップ;
シリコーンゲル前駆体材料を硬化させて、シリコーンゲルコアを持つ軟質補綴用インプラントを得るステップ
を含む方法。
【請求項21】
シリコーンエラストマーポリマーが、約15%というジフェニル基のモルパーセントを持つポリジメチルシロキサンである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
エンベロープを形成させるステップがエンベロープを回転成形することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
シリコーンゲル;および
ジフェニル基のモルパーセントが約15%であるポリジメチルシロキサン材料の実質的に均一な層によって規定される、シリコーンゲルを収容する柔軟なシェル
を含み、その層はシリコーンゲルと直接接触しており、その材料は、前記ゲルで飽和された時に、前記ゲルの非存在下における実質的に同一の材料の強度と少なくとも同程度である強度を持つ、シリコーンゲル充填型軟質補綴用インプラント。
【請求項24】
シリコーンエラストマーと溶媒との分散液を形成させ;
その分散液で型をコーティングし;
分散液の溶媒を蒸発させて、型上でシリコーンエラストマーフィルムを形成させ;
シリコーンエラストマーフィルムを型から外し;
シリコーンエラストマーフィルムをシリコーンゲルで飽和させ;
シリコーンエラストマーフィルムを飽和させたシリコーンゲルを硬化させて複合材料を形成させる
方法(これにより、複合材料は、シリコーンゲルで飽和されていない実質的に同一のシリコーンエラストマーフィルムの引張強さよりも引張強さが高いという性質を持つ)
によって製造される物品。
【請求項25】
シリコーンエラストマー分散液が、少なくとも約10%というジフェニル基のモルパーセントを持つポリジメチルシロキサンである、請求項24に記載の物品。
【請求項26】
シリコーンエラストマー分散液が、約25%未満というジフェニル基のモルパーセントを持つポリジメチルシロキサンである、請求項24に記載の物品。
【請求項27】
シリコーンエラストマー分散液が、約15%というジフェニル基のモルパーセントを持つポリジメチルシロキサンである、請求項24に記載の物品。
【請求項28】
シリコーンゲルを含むコア;および
シリコーンエラストマー(ポリシロキサン骨格を含み、その層を通る前記シリコーンゲルの透過を立体的に遅らせるペンダント化学基のモルパーセントが少なくとも約10%であるもの)の実質的に均一な層を含む柔軟なシェル
を含み、実質的に均一な層がシェルの厚さの少なくとも約20%を構成する、ゲル充填型軟質補綴用インプラント。
【請求項29】
実質的に均一な層が、ジフェニル基のモルパーセントが少なくとも約15%であるポリジメチルシロキサンを含む、請求項28に記載のインプラント。
【請求項30】
実質的に均一な層がシェルの厚さの少なくとも約50%を構成する、請求項29に記載のインプラント。
【請求項31】
実質的に均一な層がシェルの厚さの少なくとも約90%を構成する、請求項30に記載のインプラント。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図5A】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図5A】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−534551(P2010−534551A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520079(P2010−520079)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/071068
【国際公開番号】WO2009/018105
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/071068
【国際公開番号】WO2009/018105
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】
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