説明

全固体電池

【課題】高出力及び長寿命であるとともに安全性が高く、低コストで製造可能な全固体電池を提供する。
【解決手段】正極活物質を含有する正極1、負極活物質を含有する負極2、及び固体電解質を含有する固体電解質層3を備えた全固体電池である。正極活物質、負極活物質、及び固体電解質が、それぞれ下記一般式(1)〜(3)で表される物質である。
(1)
(2)
(3)
(但し、前記一般式(1)〜(3)中、MはH、Li、Na、Mg、Al、K、又はCaであり、X、X、及びXはポリアニオンである。また、N及びNは遷移金属、Al、及びCuからなる群より選択される少なくとも一種であり、NはTi、Ge、Hf、Zr、Al、Cr、Ga、Fe、Sc、及びInからなる群より選択される少なくとも一種である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高出力及び長寿命であるとともに安全性が高く、低コストで製造可能な全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話等のポータブル機器の開発に伴い、その電源としての電池の需要が大幅に拡大している。このような用途に用いられる電池においては、イオンを移動させる媒体として、有機溶媒等の液体の電解質(電解液)が従来使用されている。このような電解液を用いた電池においては、電解液の漏液等の問題を生ずる可能性がある。
【0003】
このような問題を解消すべく、液体の電解質に代えて固体電解質を使用するとともに、その他の要素の全てを固体で構成した全固体電池の開発が進められている。かかる全固体電池は、電解質が固体であるために、発火等を誘引する漏液の心配がなく、また、腐食による電池性能の劣化等の問題も生じ難いものである。なかでも、全固体リチウム二次電池は、容易に高エネルギー密度とすることが可能な二次電池として各方面で盛んに研究が行われている。
【0004】
関連する従来技術として、LiS−SiS−LiPO等のリチウムイオン伝導性電解質を固体電解質として用いたリチウム二次電池が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、固体電解質を電解質として用いた全固体電池は、液状の電解質を用いた電池に比して一般に出力が低く、大電流を取り出すことが困難であった。また、全固体電池は、充放電におけるレート特性やサイクル特性が低く、液状の電解質を用いた電池に比して電池寿命が短いという問題があった。
【0006】
このような問題を解消し、大電流の取り出しや充放電サイクル特性の向上を図った、固体電解質と同じ材料からなる無機酸化物を電極活物質の粒子間に介在させた固体電解質電池が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献2において開示された固体電解質電池であっても、出力特性や充放電サイクル特性に関しては未だ改善の余地がある。従って、更に高出力であるとともに長寿命な全固体電池を開発することが、産業界から要請されている。
【特許文献1】特開平5−205741号公報
【特許文献2】特開2000−311710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、高出力及び長寿命であるとともに安全性が高く、低コストで製造可能な全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、固体電解質のイオン伝導性が低いことに起因して、大電流の取り出しや充放電サイクル特性の向上が困難となることを見出した。そこで本発明者らは、それぞれ所定の一般式(1)〜(3)で表される正極活物質、負極活物質、及び固体電解質を用いることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下に示す全固体電池が提供される。
【0011】
[1]正極活物質を含有する正極、負極活物質を含有する負極、及び固体電解質を含有する固体電解質層を備えた全固体電池であって、前記正極活物質、前記負極活物質、及び前記固体電解質が、それぞれ下記一般式(1)〜(3)で表される物質である全固体電池。
(1)
(2)
(3)
(但し、前記一般式(1)〜(3)中、MはH、Li、Na、Mg、Al、K、又はCaであり、X、X、及びXはポリアニオンであり、a、d、及びgは0〜5の数であり、b、e、及びhは1〜2の数であり、c、f、及びiは1〜3の数である。前記一般式(1)中、Nは遷移金属、Al、及びCuからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記一般式(2)中、Nは遷移金属、Al、及びCuからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記一般式(3)中、NはTi、Ge、Hf、Zr、Al、Cr、Ga、Fe、Sc、及びInからなる群より選択される少なくとも一種である)
【0012】
[2]前記ポリアニオンが、SiO、PO、SO、MoO、WO、BO、及びBOからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の全固体電池。
【0013】
[3]前記一般式(1)及び(2)中、XとXが、同一の前記ポリアニオンを少なくとも一種含み、前記一般式(2)及び(3)中、XとXが、同一の前記ポリアニオンを少なくとも一種含む前記[1]又は[2]に記載の全固体電池。
【0014】
[4]前記一般式(1)〜(3)中のX、X、及びXが、前記物質相互に同一である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の全固体電池。
【0015】
[5]前記一般式(1)〜(3)中のMが、前記物質相互に同一である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の全固体電池。
【0016】
[6]前記正極活物質、前記負極活物質、及び前記固体電解質の骨格構造が、それぞれ、前記一般式(1)中のX、前記一般式(2)中のX、及び前記一般式(3)中のXを各々の共有の頂点とする頂点共有骨格構造である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の全固体電池。
【0017】
[7]前記正極活物質、前記負極活物質、及び前記固体電解質が、NASICON構造を有するカチオン導電体である前記[1]〜[6]のいずれかに記載の全固体電池。
【0018】
[8]前記固体電解質が、前記正極及び/又は前記負極に含有されている前記[1]〜[7]のいずれかに記載の全固体電池。
【0019】
[9]前記一般式(1)及び(2)中のNとNが、前記物質相互に同一である前記[1]〜[8]のいずれかに記載の全固体電池。
【発明の効果】
【0020】
本発明の全固体電池は、高出力及び長寿命であるとともに安全性が高く、低コストで製造可能であるといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0022】
図1は、本発明の全固体電池の一実施形態の構成を説明する部分模式図である。図1に示すように、本実施形態の全固体電池は、正極1、負極2、及びこれらの間に配置される固体電解質層3を備えたものである。なお、正極1には、正極集電体4が電気的に接続されている。また、負極2には、負極集電体5が電気的に接続されている。
【0023】
正極1は、正極活物質を含有する部分であり、その形状は、好ましくは厚み5〜500μm、更に好ましくは20〜100μmの薄膜状である。この正極1に含まれる正極活物質は、下記一般式(1)で表される物質である。
(1)
【0024】
なお、前記一般式(1)中、MはH、Li、Na、Mg、Al、K、又はCaである。なかでも、MはLi、Na、Mgであることが好ましい。また、前記一般式(1)中、Xはポリアニオンである。このポリアニオンの具体例としては、SiO、PO、SO、MoO、WO、BO、及びBOからなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。なかでも、XはPO、MoOであることが好ましい。更に、前記一般式(1)中、a=0〜5、b=1〜2、及びc=1〜3である。
【0025】
また、前記一般式(1)中、Nは、遷移金属、Al、及びCuからなる群より選択される少なくとも一種である。なかでも、NはFe、Co、V、Cuであることが好ましい。
【0026】
正極活物質のより好適な具体例としては、LiFePO、LiCoPO、Li(PO、LiCuPO等を挙げることができる。
【0027】
負極2は、負極活物質を含有する部分であり、その形状は、好ましくは厚み5〜500μm、更に好ましくは20〜100μmの薄膜状である。この負極2に含まれる負極活物質は、下記一般式(2)で表される物質である。
(2)
【0028】
なお、前記一般式(2)中、MはH、Li、Na、Mg、Al、K、又はCaである。なかでも、MはLi、Na、Mgであることが好ましい。また、前記一般式(2)中、Xはポリアニオンである。このポリアニオンの具体例としては、SiO、PO、SO、MoO、WO、BO、及びBOからなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。なかでも、Xは、PO、MoOであることが好ましい。更に、前記一般式(2)中、d=0〜5、e=1〜2、及びf=1〜3である。
【0029】
また、前記一般式(2)中、Nは、遷移金属、Al、及びCuからなる群より選択される少なくとも一種である。なかでも、Nは、Co、Cu、Vであることが好ましい。
【0030】
負極活物質のより好適な具体例としては、LiCoPO、LiCuPO、Li(PO等を挙げることができる。
【0031】
固体電解質層3は、固体電解質を含有する部分である。この固体電解質層3は層状(薄膜状)に形成されており、通常、正極1と負極2を隔てるように配置されている。固体電解質層3の厚みは、好ましくは5〜500μm、更に好ましくは20〜100μmである。
【0032】
本実施形態の全固体電池の固体電解質層3に含まれる固体電解質は、下記一般式(3)で表される物質である。
(3)
【0033】
なお、前記一般式(3)中、MはH、Li、Na、Mg、Al、K、又はCaである。なかでも、MはLi、Na、Mgであることが好ましい。また、前記一般式(3)中、Xはポリアニオンである。このポリアニオンの具体例としては、SiO、PO、SO、MoO、WO、BO、及びBOからなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。なかでも、Xは、PO、MoOであることが好ましい。
【0034】
また、前記一般式(3)中、Nは、Ti、Ge、Hf、Zr、Al、Cr、Ga、Fe、Sc、及びInからなる群より選択される少なくとも一種である。なかでも、Nは、Ti、Ge、Alであることが好ましい。
【0035】
固体電解質のより好適な具体例としては、LiTi(PO、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO等のNASICON(Na Super Ionic Conductor)構造を有するカチオン伝導体を挙げることができる。
【0036】
本実施形態の全固体電池においては、前記一般式(1)及び(2)中、XとXが、同一のポリアニオンを少なくとも一種含み、前記一般式(2)及び(3)中、XとXが、同一のポリアニオンを少なくとも一種含むことが好ましい。これにより、更に高出力であるとともに、より長寿命な電池とすることができる。これは、正極1、負極2、及び固体電解質層3の相互のイオン伝導性が向上し、大電流の取り出しや充放電サイクル特性が向上したためであると推察される。
【0037】
また、本実施形態の全固体電池においては、正極活物質、負極活物質、及び固体電解質のそれぞれを表す、前記一般式(1)〜(3)中のX、X、及びXが、物質相互に同一であることが好ましい。このように、正極活物質、負極活物質、及び固体電解質のそれぞれを構成するポリアニオンとなる元素群(X)を共通化することにより、更に高出力であるとともに、より長寿命な電池とすることができる。これは、前記一般式(1)〜(3)中のX、X、及びXを、物質相互で同一とすることにより、正極1、負極2、及び固体電解質層3の相互のイオン伝導性が向上し、大電流の取り出しや充放電サイクル特性が向上したためであると推察される。なお、正極活物質、負極活物質、及び固体電解質の骨格構造が、それぞれ、前記一般式(1)中のX、前記一般式(2)中のX、及び前記一般式(3)中のXを各々の共有の頂点とする頂点共有骨格構造であることが、更に高出力であるとともに、充放電サイクル特性に優れ、より長寿命な電池とすることができるために好ましい。
【0038】
本実施形態の全固体電池においては、前記一般式(1)〜(3)中のMは、それぞれの物質で、相互に同一の元素であっても、異なる元素であってもよい。但し、前記一般式(1)〜(3)中のMが、正極活物質、負極活物質、及び固体電解質相互に同一であることが好ましい。このように、正極活物質、負極活物質、及び固体電解質のそれぞれを構成する特定の元素(M)を共通化することにより、更に高出力であるとともに、より長寿命な電池とすることができる。これは、前記一般式(1)〜(3)中のMを、物質相互で同一とすることにより、正極1、負極2、及び固体電解質層3の相互のイオン伝導性が向上し、大電流の取り出しや充放電サイクル特性が向上したためであると推察される。更に、正極活物質、負極活物質、及び固体電解質が、NASICON構造を有するカチオン伝導体で統一されていることが好ましい。
【0039】
本実施形態の全固体電池においては、正極活物質及び負極活物質のそれぞれを表す前記一般式(1)及び(2)中のNとNが、物質相互に同一であることが、より長期間の保存が可能となるために好ましく、更には、正極活物質と負極活物質が、同一の組成式で表される物質であることが好ましい。市販されている液系の二次電池には、安全性を確保すべく、所定の電圧枠を外れる電位となった場合に以後の充放電を強制的に禁止するプログラムが保護回路に組まれているのが一般的である。このような状況下、二次電池を満充電の状態で出荷及び保存すると、電解液の劣化が早く進行し易くなるとともに、自己放電もし易くなるという不都合があった。一方、二次電池を放電状態で出荷及び保存すると、自己放電によって電圧が低下し、前述の保護回路が作動してしまうという不都合があった。このため、上記の不都合を解消すべく、所定の電圧枠内の中間電位近傍となるよう、二次電池を半充電した状態で出荷及び保存するのが一般的である。
【0040】
そこで、前記一般式(1)及び(2)中のNとNを、正極活物質と負極活物質で同一とすると、放電状態(電圧=0V)で出荷及び保存することができる。このため、保存時に電解液が極めて劣化し難く、自己放電が抑制され、より長期間の保存が可能となる。更に、前記一般式(1)及び(2)中のNとNを、正極活物質と負極活物質で同一とすると、放電時と充電時における両電極の体積変化率が同調することになる。従って、電池全体でみると体積変化がほとんどないために、電極や固体電解質にクラックが発生する等の不具合が生じ難く、電池の劣化が起こり難いといった利点がある。
【0041】
また、本実施形態の全固体電池は、その全ての構成要素がセラミックス材料、即ち固体であるために、漏液や腐食による電池性能の劣化等の問題も生じ難く、安全性の高い電池である。更に、全ての構成要素をセラミックス材料としたために、簡易なプロセスによって作製可能であり、低コストで製造することができる。
【0042】
図2は、本発明の全固体電池の他の実施形態の構成を説明する部分模式図である。図2において、正極11は、多数の粒子状の正極活物質31が凝集することによって構成されており、正極集電体14が電気的に接続されている。また、負極12は、多数の粒子状の負極活物質32が凝集することによって構成されており、負極集電体15が電気的に接続されている。更に、固体電解質層13は、多数の粒子状の固体電解質33が凝集することによって構成されている。
【0043】
本実施形態の全固体電池においては、正極11及び負極12に固体電解質33が含有されている。このように、正極11及び負極12に固体電解質33が含有されていると、更に高出力であるとともに長寿命化することができるために好ましい。これは、正極11、負極12、及び固体電解質層13の相互のイオン伝導性が、更に向上するためであると推察される。より具体的には、粒子状の多数の固体電解質33が、それぞれの電極を構成する粒子状の活物質(正極活物質31、負極活物質32)の粒界において三次元的に接続した状態でそれぞれの電極に含有されていることが好ましい。
【0044】
なお、固体電解質33は、正極11と負極12のいずれか一方にのみ含有されていてもよいが、正極11と負極12の両方に含有されていると、より高出力であるとともに長寿命化することが可能となるために好ましい。
【0045】
図3は、本発明の全固体電池の更に他の実施形態の構成を説明する部分模式図である。図3に示す実施形態の全固体電池10は、複数の正極21a,21b、及び複数の負極22a,22bを備えるとともに、これらが固体電解質層23を介在させた状態で積層された積層構造を有するものである。ここで、正極21a,21bには、それぞれ正極集電体24が電気的に接続されている。また、負極22a,22bには、それぞれ負極集電体25が電気的に接続されている。このように、複数の正極21a,21b、及び複数の負極22a,22bを備えた積層構造とすることも可能である。なお、図3における符号20は、正極21a,21b、負極22a,22b、及び固体電解質層23を少なくとも収納可能なケースを示す。
【0046】
次に、本発明の全固体電池を製造する方法について、一例を挙げつつ説明する。正極1(図1参照)を作製するには、プレス法、ドクターブレード法、ロールコーター法等の成形方法を用いることができる。プレス法では、正極活物質粉末を金型等に充填し、加圧することで成形体を得る。一方、ドクターブレード法、ロールコーター法では、先ず、正極活物質とポリビニルアルコール等のバインダーを混合して混合物を得る。なお、混合物には、必要に応じて固体電解質を適当量添加してもよい。次に、得られた混合物にトルエン等の有機溶剤を添加して正極スラリーを調製する。調製した正極スラリーを、ドクターブレード法、ロールコーター法等の成形方法によって所定厚みの薄膜状又はシート状に成形する。乾燥後、必要に応じて切断等の加工を施し、焼成することにより、正極1を作製することができる。なお、負極2、及び固体電解質層3についても、上述の正極1と同様の操作によって作製することができる。
【0047】
作製した正極1、負極2、及び固体電解質層3を積層するとともに、正極集電体4、及び負極集電体5を配設する。正極集電体4及び負極集電体5を構成する材料としては、例えば、白金(Pt)、白金(Pt)/パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ITO(インジウム−錫酸化膜)等を挙げることができる。
【0048】
正極集電体4、及び負極集電体5は、例えば、スパッタリング法、抵抗により蒸着源を加熱して蒸着させる抵抗加熱蒸着法、イオンビームにより蒸着源を加熱して蒸着させるイオンビーム蒸着法、電子ビームにより蒸着源を加熱して蒸着させる電子ビーム蒸着法等の方法によって、正極1及び負極2に配設することができる。正極集電体4と負極集電体5の絶縁を確保しつつケース等に収納すれば、本実施形態の全固体電池を製造することができる。
【0049】
なお、正極1、負極2、及び固体電解質層3をそれぞれ別々に作製した後、これらを積層する作製手順について説明したが、これ以外の手順に従って各層を積層してもよい。例えば、固体電解質層3及び負極2を、正極1上に順次形成しつつ積層してもよい。また、各層を逐次焼成してもよいし、一括焼成してもよい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
Li1.3Al0.3Ti1.7(PO(固体電解質)の粉末を金型プレスで成形することにより、直径約φ20mmの円板状の成形体を得た。得られた成形体の一方の面上と他方の面上に、LiFePO(正極活物質)の粉末、及びLiCoPO(負極活物質)の粉末をそれぞれプレスして積層することにより、積層成形体を得た。得られた積層成形体をAr雰囲気中、800℃で焼成することにより、積層焼成体を作製した。作製した積層焼成体の両表面上に、金(Au)をスパッタリングすることにより集電層を形成した。集電層が形成された積層焼成体を、不活性雰囲気のグローブボックス内でCR2032型のコイン電池に組み込み、全固体電池(実施例1)を作製した。なお、断面SEM観察によって測定した正極、負極、及び固体電解質層の厚み(平均値)は、それぞれ50μm、50μm、及び500μmであった。
【0052】
(実施例2〜4,6、比較例1)
表1に示す固体電解質、正極活物質、及び負極活物質をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様にして、全固体電池(実施例2〜4,6、比較例1)を作製した。正極、負極、及び固体電解質層の厚みの測定結果を表1に示す。
【0053】
(実施例5)
Li1.5Al0.5Ge1.5(PO(固体電解質)の粉末を金型プレスで成形することにより、直径約φ20mmの円板状の成形体を得た。LiFePO(正極活物質)の粉末、及びLiCoPO(負極活物質)の粉末を、それぞれLi1.5Al0.5Ge1.5(PO(固体電解質)の粉末と乳鉢を使用して混合することにより、正極活物質−固体電解質混合粉末、及び負極活物質−固体電解質混合粉末を得た。これ以降は、前述の実施例1の場合と同様にして、全固体電池(実施例5)を作製した。正極、負極、及び固体電解質層の厚みの測定結果を表1に示す。なお、電極(正極と負極の合計)に含有される固体電解質の量は、50質量%であった。
【0054】
[サイクル試験]:10μAにて所定の電圧まで、定電流・定電圧充電を行った後、電流を遮断して10分間放置し、次いで10μAにて所定のカットオフ電圧まで放電する。この一連の操作を1サイクルとする充放電サイクルを100サイクル繰り返した後の放電容量の、初期の放電容量に対する割合(容量維持率(%))を算出した。結果を表1に示す。
【0055】
[電池内部抵抗]:10μAにて所定の電圧まで、定電流・定電圧充電を行った後、電流を遮断して10分間放置し、次いで10μAにて放電した。10μAにて放電してから1秒後の電圧降下値から、電池内部抵抗(kΩ)を算出した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
(考察)
実施例1〜6の全固体電池は、比較例1の全固体電池に比して、容量維持率に優れ、電池内部抵抗が小さいことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の全固体電池は、ポータブル機器用電池、ICカード内蔵用電池、インプラント医療器具用電池、基板表面実装用電池、太陽電池をはじめとする他の電池と組み合せて用いられる電池(ハイブリッド電源用電池)等として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の全固体電池の一実施形態の構成を説明する部分模式図である。
【図2】本発明の全固体電池の他の実施形態の構成を説明する部分模式図である。
【図3】本発明の全固体電池の更に他の実施形態の構成を説明する部分模式図である。
【符号の説明】
【0060】
1,11,21a,21b:正極、2,12,22a,22b:負極、3,13,23:固体電解質層、4,14,24:正極集電体、5,15,25:負極集電体、10:全固体電池、20:ケース、31:正極活物質、32:負極活物質、33:固体電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極、負極活物質を含有する負極、及び固体電解質を含有する固体電解質層を備えた全固体電池であって、
前記正極活物質、前記負極活物質、及び前記固体電解質が、それぞれ下記一般式(1)〜(3)で表される物質である全固体電池。
(1)
(2)
(3)
(但し、前記一般式(1)〜(3)中、MはH、Li、Na、Mg、Al、K、又はCaであり、X、X、及びXはポリアニオンであり、a、d、及びgは0〜5の数であり、b、e、及びhは1〜2の数であり、c、f、及びiは1〜3の数である。前記一般式(1)中、Nは遷移金属、Al、及びCuからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記一般式(2)中、Nは遷移金属、Al、及びCuからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記一般式(3)中、NはTi、Ge、Hf、Zr、Al、Cr、Ga、Fe、Sc、及びInからなる群より選択される少なくとも一種である)
【請求項2】
前記ポリアニオンが、SiO、PO、SO、MoO、WO、BO、及びBOからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記一般式(1)及び(2)中、XとXが、同一の前記ポリアニオンを少なくとも一種含み、
前記一般式(2)及び(3)中、XとXが、同一の前記ポリアニオンを少なくとも一種含む請求項1又は2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記一般式(1)〜(3)中のX、X、及びXが、前記物質相互に同一である請求項1〜3のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記一般式(1)〜(3)中のMが、前記物質相互に同一である請求項1〜4のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記正極活物質、前記負極活物質、及び前記固体電解質の骨格構造が、それぞれ、
前記一般式(1)中のX、前記一般式(2)中のX、及び前記一般式(3)中のXを各々の共有の頂点とする頂点共有骨格構造である請求項1〜5のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記正極活物質、前記負極活物質、及び前記固体電解質が、NASICON構造を有するカチオン導電体である請求項1〜6のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記固体電解質が、前記正極及び/又は前記負極に含有されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記一般式(1)及び(2)中のNとNが、前記物質相互に同一である請求項1〜8のいずれか一項に記載の全固体電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−258165(P2007−258165A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43015(P2007−43015)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構「革新技術開発研究事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】