説明

全芳香族ポリアミドフィラメント及びその製造方法

【課題】全芳香族ポリアミドフィラメント及びその製造方法を提供する。
【解決手段】凝固液噴射浴槽内を通過する紡糸物に、後段階に行くほど硫酸濃度が低くなる凝固液を多段階に噴射することを特徴とする。本発明は紡糸物の表面と内部が均一に凝固することによって、糸切れなしに紡糸巻取速度を高めることができる。また、本発明は一度使用した凝固液または水を回収して前段階で再使用するので、製造コストが安価であり、環境汚染問題が減少するようになる。それによって、本発明で製造した全芳香族ポリアミドフィラメントは結晶化度(X)が高く、結晶サイズ(ACS)が大きく、結晶自体の欠点が減少してより向上した強度及び弾性率などの物性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全芳香族ポリアミドフィラメント及びその製造方法に関するもので、より詳細には高強度と高弾性の物性を有する全芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミドフィラメントは特許文献1及び特許文献2等に掲載されているように、芳香族ジアミンと芳香族二塩基酸塩化物をN−メチル−2−ピロリドンを含む重合溶媒の中で重合させて全芳香族ポリアミド重合体を製造する工程と、重合体を濃硫酸溶媒に溶解させて紡糸原液を製造する工程と、紡糸原液を紡糸口金から紡糸し、紡糸した紡糸物を非凝固性流体層を通じて凝固浴槽内に通過させてフィラメントを形成する工程と、フィラメントを水洗、乾燥及び熱処理する工程を通じて製造する。
【0003】
図1は、従来の乾湿式紡糸方式で全芳香族ポリアミドフィラメントを製造する工程を示す概略図である。
【0004】
従来方法においては図1に示すように、紡糸した紡糸物を非凝固性流体層を通じて凝固浴槽50内に通過させて凝固するために、紡糸物の表面が内部より速く、より多く凝固して紡糸物の表面と内部の物性に不均一が生じる問題がある。それによって、紡糸巻取速度を高速とする場合には糸切れが多く発生して紡糸巻取速度を600m/分以上に高めることができなかった。
【0005】
このような紡糸巻取速度の限界によって、最終製品である全芳香族ポリアミドフィラメントの強度及び弾性率を一定水準以上に向上することができず、生産性も向上しない問題が発生する。
【0006】
一方、特許文献3は一つの凝固浴槽50内に二つの噴射ノズルを設けた後、上部にある一つの噴射ノズルでは水または硫酸水溶液を紡糸物に噴射し、下部にある残りの一つの噴射ノズルでは水を紡糸物に噴射する全芳香族ポリアミド繊維の製造方法を提案している。
【0007】
しかし、前述した方法では使用した凝固液を再使用するシステムを備えないため、製造コストが高く、環境汚染が深刻になる問題がある。
【0008】
さらに、前述した方法では凝固液内の硫酸濃度が希薄の程度によって噴射速度を高めるメカニズムを適用しないため、紡糸物の表面と内部を均一に凝固することができない問題がある。
【0009】
本発明はこのような従来の問題点を解決することによって、強度及び弾性率がさらに向上した全芳香族ポリアミドフィラメントを環境汚染の問題なしに安価の製造コストで製造するためのものである。
【特許文献1】米国特許第3,869,429号公報
【特許文献2】米国特許第3,869,430号公報
【特許文献3】韓国特許公開公報第1995−934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は紡糸した紡糸物の表面と内部を均一に凝固させて糸切れなしに高速紡糸を可能にすることによって、最終製品である全芳香族ポリアミドフィラメントの強度及び弾性率をさらに向上することができる全芳香族ポリアミドフィラメント及びその製造方法を提供することにその目的がある。
【0011】
また、本発明の他の目的は一度使用した凝固液または水を回収して前段階の凝固工程で再使用して製造コストを低下し、環境汚染も減少することができる全芳香族ポリアミドフィラメント及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
さらに、本発明の他の目的は紡糸した紡糸物の表面と内部を均一に凝固させることによって、結晶化度(Crystallinity、「X」という)が高く、見かけ上の結晶サイズ(Apparent Crystal Size、「ACS」という)が大きく、結晶自体の欠点を示すパラ結晶パラメーター(Paracrystalline parameter、「gII」という)が減少する構造的変化が起きて外部応力に耐える性質、即ち強度及び弾性率が大きく向上した全芳香族ポリアミドフィラメント及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために、本発明に係る全芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法は、全芳香族ポリアミド重合体を濃硫酸溶媒に溶解させて製造した紡糸原液を紡糸口金で紡糸し、紡糸した紡糸物を非凝固性流体層を通じて凝固液噴射浴槽内に通過させて全芳香族ポリアミドフィラメントを製造する方法において、前記凝固液噴射浴槽を通過する紡糸物に、後段階に行くほど硫酸濃度が低くなる凝固液を多段階に噴射することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の全芳香族ポリアミドフィラメントは熱処理前の結晶化度(X)が70〜79%であり、熱処理前の結晶サイズ(ACS、200平面基準)が42〜50Åであることを特徴とする。
【0015】
以下、添付した図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明では芳香族ジアミンと芳香族二塩基酸塩化物をN−メチル−2−ピロリドンを含む重合溶媒の中で重合させて全芳香族ポリアミド重合体を製造する。
【0017】
ここで、芳香族ジアミンはp−フェニレンジアミンなどであり、芳香族二塩基酸塩化物は塩化テレフタロイルなどである。
【0018】
また、重合溶媒は塩化カルシウムが溶解しているN−メチル−2−ピロリドンなどである。
【0019】
フィラメントの強度及び弾性率向上のために、全芳香族ポリアミド重合体の固有粘度は5.0以上であることが好ましい。
【0020】
重合体の重合条件は前述の特許文献1等に掲載された公知の重合条件と同一である。
【0021】
重合体を製造する一例としては、1モルのパラ−フェニレンジアミンを約1モルの塩化カルシウムを含むN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた溶液と1モルの塩化テレフタロイルを重合用反応器内に投入した後、攪拌してゲル状の重合体を製造し、これを粉砕、水洗及び乾燥して微細粉末状の重合体を製造する。この時、塩化テレフタロイルは2段階に分けて重合用反応器内に投入することができる。
【0022】
次に、前述のように製造した全芳香族ポリアミド重合体を濃硫酸溶媒に溶解させて紡糸原液を製造する。
【0023】
紡糸原液の製造時に使用する濃硫酸濃度を97〜100%であることが好ましく、クロロ硫酸やフルオロ硫酸なども使用することができる。
【0024】
この時、硫酸の濃度が97%未満の場合にはポリマーの溶解性が低下し、非等方性溶液の液晶性発現が困難であるため、一定の粘度を有する紡糸原液を製造することが難しくなり、紡糸時工程管理が難しくて最終繊維の機械的物性が低下する恐れがある。
【0025】
反対に、濃硫酸の濃度が100%を超過すると、過硫酸(SO)を含有する発煙硫酸におけるSOが多すぎるため取扱上好ましくないだけでなく、高分子の部分的溶解が起きるため紡糸原液としては不適当である。また、たとえ紡糸して得た繊維であっても繊維の内部構造が緻密でなく外観上光沢がないと共に、凝固溶液内に広がる硫酸の速度が遅くて繊維の機械的物性が低下する問題が生じる恐れがある。
【0026】
一方、優れた繊維物性を得るために、紡糸原液内重合体の濃度は10〜25質量%であることが好ましい。
【0027】
しかし、本発明では濃硫酸の濃度及び紡糸原液内重合体の濃度を特に限定するものではない。
【0028】
次に、図2に示すように、紡糸原液を紡糸口金40を通じて紡糸した後、紡糸した紡糸物に後段階に行くほど硫酸濃度が低くなる凝固液を多段階、好ましくは2〜5段階に噴射する。凝固液としては硫酸水溶液及び水の中から選択された1種を使用することができる。好ましい実施形態においては、図2に示すように紡糸した紡糸物を非凝固性流体層を通じて第1凝固液噴射浴槽10と第2凝固液噴射浴槽20と第3凝固液噴射浴槽30を順に通過しながら紡糸物に凝固液を噴射してフィラメントを形成する。
【0029】
非凝固性流体層は主に空気層や不活性気体層を使用することができる。
【0030】
図2は本発明に係る乾湿式紡糸方式で全芳香族ポリアミドフィラメントを製造する工程を示す概略図である。
【0031】
紡糸性及びフィラメントの物性を向上するために、非凝固性流体層の長さ、言い換えれば紡糸口金40の底面と凝固浴槽50内に含まれている凝固液の表面までの距離は0.1〜15cmであることが好ましい。
【0032】
3個の凝固液噴射浴槽10、20、30には凝固液噴射ノズル11,21,31がそれぞれ設けられて、通過する紡糸物に凝固液紡糸ノズル11,21,31から凝固液を噴射する。
【0033】
また、噴射した凝固液を容易に回収して前段階に循環するために、3個の凝固液噴射浴槽10、20、30の底面は傾斜した形態であるものが好ましく、紡糸物が通過できるように穴を穿孔した形態であるものが良い。
【0034】
それぞれの凝固液噴射浴槽10、20、30で噴射した凝固液中の一部は当該凝固液噴射浴槽の底面に貯蔵された後、前段階で再使用し、残りの一部は紡糸物と共に下方に流れて凝固液受容器51に貯蔵される。
【0035】
第1凝固液噴射浴槽10では凝固液噴射ノズル11を通じて硫酸濃度が10〜20%である硫酸水溶液を1〜10m/秒の速度で紡糸物に噴射する。噴射後、第1凝固液噴射浴槽10に貯蔵される硫酸水溶液は外部に排出する。
【0036】
この時使用する硫酸水溶液は第2凝固液噴射浴槽20で使用した凝固液として、凝固液移送管L1を通じて第2凝固液噴射浴槽20から凝固液噴射ノズル11に供給される。
【0037】
第2凝固液噴射浴槽20では凝固液噴射ノズル21を通じて硫酸濃度が3〜10%である硫酸水溶液(凝固液)を13〜20m/秒の速度で紡糸物に噴射する。
【0038】
噴射後、第2凝固液噴射浴槽20に貯蔵される硫酸水溶液は前述のように凝固液移送管L1を通じて第1凝固液噴射浴槽10内にある凝固液噴射ノズル11に移送されて再使用する。
【0039】
第2凝固液噴射浴槽20で使用する硫酸水溶液(硫酸濃度3〜10%)は、噴射処理後に硫酸濃度が10〜20%に高まるため、これを第1凝固液噴射浴槽10で噴射する凝固液としての使用が可能である。
【0040】
一方、第2凝固液噴射浴槽20で噴射される硫酸水溶液は、第3凝固液噴射浴槽30で使われた凝固液として、凝固液移送管L2を通じて第3凝固液噴射浴槽30から凝固液噴射ノズル21に供給される。
【0041】
また、第3凝固液噴射浴槽30では凝固液噴射ノズル31を通じて水(純水:凝固液)を20〜25m/秒の速度で紡糸物に噴射する。
【0042】
噴射後、第3凝固液噴射浴槽30に貯蔵される凝固液は前述のように凝固液移送管L2を通じて第2凝固液噴射浴槽20内にある凝固液噴射ノズル21に移送されて再使用する。
【0043】
第3凝固液噴射浴槽30で使用する水は、噴射処理後に硫酸濃度が3〜10%に高まるため、これを第2凝固液噴射浴槽20で噴射する凝固液としての使用が可能である。
【0044】
一方、第3凝固液噴射浴槽30で噴射される水(純水)は水供給管32を通じて凝固液噴射ノズル31に供給される。
【0045】
以上で説明したように、本発明では非凝固性流体層を通過した紡糸物に多段階にわたって、後段階に行くほど硫酸濃度が低くなる凝固液を噴射することを特徴とする。
【0046】
好ましくは、後段階に行くほど凝固液の噴射速度を漸進的に上昇させることが良い。
【0047】
それによって、紡糸物の表面と内部が均一に凝固して高速紡糸時にも糸切れが発生しないので結晶化度(X)が高く、結晶サイズ(ACS)が大きく、結晶自体の欠点を示すパラ結晶パラメーター(gII)が減少する構造的変化が起きて外部応力に耐える性質、即ち形成したフィラメントの強度及び弾性率が向上する。
【0048】
次に、形成したフィラメントを水洗、乾燥及び熱処理して全芳香族ポリアミドを製造する。
【0049】
この時、紡糸巻取速度は700〜1,500m/分である。
【0050】
前述した方法で製造した本発明の全芳香族ポリアミドは、紡糸した紡糸物の表面と内部が均一に凝固して結晶化度(X)が高く、結晶サイズ(ACS)が大きく、結晶自体の欠陥を表すパラ結晶パラメーター(gII)が減少するので、熱処理前後の強度が26g/d以上であり、熱処理前の弾性率が750g/d以上であり、熱処理後の弾性率が950g/d以上で優れる。
【0051】
より具体的に、本発明の全芳香族ポリアミドフィラメントは熱処理前の結晶化度(X)が70〜95%、好ましくは76〜79%であり、熱処理前の結晶サイズ(ACS、200平面基準)が42〜50Å、好ましくは47〜50Åである。
【0052】
また、本発明の全芳香族ポリアミドフィラメントは熱処理前のパラ結晶パラメーター(gII)が1.7〜1.9%であり、2%張力下で300℃で2秒間熱処理後のパラ結晶パラメーター(gII)が1.3〜1.6%である。
【0053】
また、2%張力下で300℃で2秒間熱処理後の結晶化度(X)が76〜83%であり、2%張力下で300℃で2秒間熱処理後の結晶サイズ(ACS、200平面基準)が46〜55Åである。
【0054】
結晶化度(X)及び結晶サイズ(ACS)が前述した範囲を超過する場合には弾性率が増加するが、強度が低下する問題点があり、前述した範囲未満の場合には弾性率増加効果が微小となる。
【0055】
また、パラ結晶パラメーター(gII)が前述した範囲を超過する場合には弾性率が低下し、前述した範囲未満の場合には弾性率が増加するが、本発明では達成することが難しい領域に該当する。
【0056】
このように本発明の全芳香族ポリアミドフィラメントは従来の全芳香族ポリアミドフィラメントに比べて、フィラメント表面と内部が均一に凝固して熱処理前後の結晶化度(X)が高く、熱処理前後の結晶サイズ(ACS)も大きく、熱処理前後のパラ結晶パラメーター(gII)が低いので結晶完全度が向上する。それによって、本発明の全芳香族ポリアミドは強度及び弾性率が大きく向上する。
【発明の効果】
【0057】
本発明は紡糸物の表面と内部が均一に凝固することによって、糸切れなしに紡糸巻取速度を高めることができる。
【0058】
これによって、本発明で製造した全芳香族ポリアミドフィラメントは表面と内部が均一に凝固して結晶化度(X)が高く、結晶サイズ(ACS)が大きく、結晶欠陥(gII)が減少して強度及び弾性率が大きく向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、実施例及び比較実施例を通じて本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は下記の実施例にその保護範囲が限定されるものではない。
【実施例1】
【0060】
1,000kgのN−メチル−2−ピロリドンを80℃で維持し、ここに塩化カルシウム80kgと48.67kgのパラ−フェニレンジアミンを溶かして芳香族ジアミン溶液を製造した。
【0061】
芳香族ジアミン溶液を重合用反応器20内に投入すると同時に、パラ−フェニレンジアミンと同モル量の溶融塩化テレフタロイルを重合用反応器20内に同時に投入した後、これらを攪拌して固有粘度が6.8のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)重合体を製造した。
【0062】
次に、製造した重合体を99%濃硫酸に溶解させて重合体の含有量が18質量%の光学的非等方性紡糸原液を製造した。
【0063】
次に、前述のように製造した紡糸原液を図2に示すように紡糸口金40を通じて紡糸した。紡糸した紡糸物を7mmの空気層を通過させた後、第1凝固液噴射浴槽10を通過しながら硫酸濃度が13%である硫酸水溶液を3m/秒の速度で紡糸物に噴射した。続いて、第2凝固液噴射浴槽20を通過しながら硫酸濃度が5%である硫酸水溶液を15m/秒の速度で紡糸物に噴射した。最後に、第3凝固液噴射浴槽30を通過しながら水(純水)を23m/秒の速度で噴射してフィラメントを製造した。
【0064】
この時、第3凝固液噴射浴槽30で使用した凝固液を第2凝固液噴射浴槽20の凝固液として再使用した。同様に、第2凝固液噴射浴槽20で使用した凝固液を第1凝固液噴射浴槽10の凝固液として再使用した。
【0065】
次に、前述のように形成したフィラメントに25℃の水を噴射させて水洗した後、続いてこれを150℃の表面温度を有する2段乾燥ローラ(dry roller)を通過させ、これを巻取して熱処理前のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントを製造した。
【0066】
次に、熱処理前のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントを2%張力下で300℃で2秒間熱処理し、熱処理後のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントを製造した。
【0067】
製造した熱処理前及び熱処理後のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントの各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【実施例2】
【0068】
1,000kgのN−メチル−2−ピロリドンを80℃で維持させ、ここに塩化カルシウム80kgと48.67kgのパラ−フェニレンジアミンを溶かして芳香族ジアミン溶液を製造した。
【0069】
芳香族ジアミン溶液を重合用反応器20内に投入すると同時に、パラ−フェニレンジアミンと同モル量の溶融塩化テレフタロイルを重合用反応器20内に同時に投入した後、これらを攪拌して固有粘度が6.8のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)重合体を製造した。
【0070】
次に、製造した重合体を99%濃硫酸に溶解させて重合体の含有量が18質量%の光学的非等方性紡糸原液を製造した。
【0071】
次に、前述のように製造した紡糸原液を図2に示すように紡糸口金40を通じて紡糸した。紡糸した紡糸物を7mmの空気層を通過させた後、第1凝固液噴射浴槽10を通過しながら硫酸濃度が18%である硫酸水溶液を5m/秒の速度で紡糸物に噴射した。続いて、第2凝固液噴射浴槽20を通過しながら硫酸濃度が8%である硫酸水溶液を13m/秒の速度で紡糸物に噴射した。最後に、第3凝固液噴射浴槽30を通過しながら水(純水)を20m/秒の速度で噴射してフィラメントを製造した。
【0072】
この時、第3凝固液噴射浴槽30で使用した凝固液を第2凝固液噴射浴槽20の凝固液として再使用した。同様に、第2凝固液噴射浴槽20で使用した凝固液を第1凝固液噴射浴槽10の凝固液として再使用した。
【0073】
次に、前述のように形成したフィラメントに25℃の水を噴射させて水洗した後、続いてこれを150℃の表面温度を有する2段乾燥ローラを通過させ、これを巻取して熱処理前のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントを製造した。
【0074】
次に、熱処理前のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントを2%張力下で300℃で2秒間熱処理し、熱処理後のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントを製造した。
【0075】
製造した熱処理前及び熱処理後のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントの各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【0076】
[比較例1]
紡糸した紡糸物を図1に示すように、凝固浴槽50内に通過させたことを除いては、実施例1と同一条件で処理して熱処理前及び熱処理後のポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントを製造した。
【0077】
製造したポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントの各種物性を測定し、その結果を表1に示した。
【表1】

本発明において、フィラメントの各種物性は下記のような方法で測定した。
・強度(g/d)
【0078】
インストロン試験機(Instron Engineering Corp、Canton、Mass)で長さが25cmのサンプル糸を利用してサンプル糸が破断する時の強力(g)を測定した後、これをサンプル糸のデニールで分けて強度を求めた。同じく5回のテストを行った後、その平均値を求めて強度とした。この時、引長速度は300mm/分とし、初荷重は繊度×1/30gとした。
・弾性率(g/d)
【0079】
前述の強度測定条件でサンプル糸の応力−変形曲線を求めた後、この応力−変形率曲線上の勾配から計算する。
・固有粘度
【0080】
98%硫酸25.0mlに試料(重合体またはフィラメント)0.1250gを溶かして試料溶液を製造する。次に、30℃の恒温水槽で毛細管粘度計(Cannon Fenske Viscometer:Type300)で試料溶液の流動時間(秒当り落流回数)と溶媒(硫酸)の流動時間をそれぞれ測定した後、試料溶液の流動時間(秒当り落流回数)を溶媒の流動時間(秒当り落流回数)で割って相対粘度(hrel)を求める。
【0081】
次に、相対粘度(hrel)を試料溶液の濃度で割って固有粘度を計算する。
・結晶化度(X)
【0082】
リガク(Riguku)X線回折計(X−ray Diffractometer、以下「XRD」という)12Kw及びコンピュータオペレーティングシステムを使用して下記のような方法で測定する。
(i)サンプリング(Sampling)
【0083】
全芳香族ポリアミドフィラメント(試料)を最大限に揃えて配列した後、太さを約1,000〜2,000デニールにし、長さを2〜3cmになるようにサンプルホルダーに取り付ける。
(ii)測定手順
【0084】
−用意した試料を試料固定具(Sample attachment)に設けてb−位置(Position)を0°にセットする。
【0085】
−ウォームアップ(Warming−up)を終えたXRD機器を測定条件の電圧(50kV)及び電流(180mA)に徐々に上げて測定準備段階に移行する。
【0086】
−結晶化度を算出できる赤道のパターン(Equatorial patern)を測定する。
【0087】
−主要測定条件は下記のように設定する。
角度計(Goniometer)、連続スキャンモード(Continuous scan mode)、スキャン角度範囲(Scan angle range):10〜40°、スキャンスピード(Scan speed):2.
【0088】
−スキャンを行ったプロファイル(Profile)で20〜21°及び22〜23°間に現れる2個のピーク(Peak)の2q位置(Position)を測定する。
【0089】
−測定したプロファイル(Profile)によってマルチピーク分離方式プログラム(Multi peak seperation method program)で処理する。
【0090】
−2q15〜35°まで一直線にバックグラウンド(Back ground)を指定した後、2個の結晶ピーク(Peak)を分離した。続いて、次の式を用いて結晶化度(X)を決定する。
【数1】

(上式で、Resolved peak area:溶けた部分のピーク面積、Amorphous region:無定形の領域、Total area of the curve:曲線の総面積)
・見かけ上の結晶サイズ(ACS)
【0091】
XRDを使用して下記のような方法で測定する。
(i)サンプリング
【0092】
全芳香族ポリアミドフィラメント(試料)を最大限に揃えて配列した後、太さを約1,000〜2,000デニールにし、長さを2〜3cmになるようにサンプルホルダーに取り付ける。
(ii)測定手順
【0093】
−用意した試料を試料固定具に設けてb−位置を0°にセットする(フィラメントの軸方向に試料を試料固定具に設けてb−位置をセットする)。
【0094】
−ウォームアップを終えたXRD機器を測定条件の電圧(50kV)及び電流(180mA)に徐々に上げて測定準備段階に移行する。
【0095】
−結晶サイズ(ACS)を算出できる赤道のパターンを測定する。
【0096】
−主要測定条件は下記のように設定する。
【0097】
角度計、連続スキャンモード、スキャン角度範囲:10〜40°、スキャンスピード:2。
【0098】
−スキャンを行ったプロファイルで20〜21°及び22〜23°間に現れる2個のピークの2q位置を測定する。
【0099】
−測定したプロファイルによってマルチピーク分離方式プログラムで処理する。
【0100】
−2q15〜35°まで一直線にバックグラウンドを指定し、2個の結晶ピーク(Peak)を分離した後、因子(2θ位置、強度、半値幅(FWHM))を用いたScherrer方程式によりそれぞれの結晶面のKがlである時、結晶サイズ(ACS)を求める。ここで、結晶サイズ(ACS)は各面における結晶の平均サイズを意味する。
・パラ結晶パラメーター(gII
【0101】
ホーゼマン(Hosemann)のユニット−セル面積による回折理論及びXRDにより下記の方法で測定する。
(i)サンプリング
【0102】
全芳香族ポリアミドフィラメント(試料)を最大限に揃えて配列した後、太さを約1,000〜2,000デニールにし、長さを2〜3cmになるようにサンプルホルダーに取り付ける。
(ii)測定手順
【0103】
−用意した試料を試料固定具に設けてb−位置を0°にセットする(フィラメントの軸方向に試料を試料固定具に設けてb−位置をセットする)。
【0104】
−ウォームアップを終えたXRD機器を測定条件の電圧(50kV)及び電流(180mA)に徐々に上げて測定準備段階に移行する。
【0105】
−パラ結晶パラメーター(gII)を算出できる子午線のパターン(Meridional pattern)を測定する。
【0106】
−主要測定条件は下記のように設定する。
【0107】
−角度計、連続スキャンモード、スキャン角度範囲:10〜40°、スキャンスピード:0.5(ステップ/スキャン時間はピークの強度が微小であるため、2,000CPS(秒当りカウント)が得られるように充分なビーム(Beam)の露出時間を与える)。
【0108】
−スキャンを行ったプロファイルで10〜15°間に現れるピーク(002平面)の2q位置を測定する。
【0109】
−測定したプロファイルによって得た値を下記のホーゼマン方程式に代入してパラ結晶パラメーターgIIを算出する。
【数2】

【0110】
上式で、ds回折ピーク(Diffraction peak)の分散度、Lは結晶サイズ(Crystal size)、dは格子面の空間(Space)、mは回折ピークの次数(Order)を、それぞれ表す。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上のように、本発明は向上した強度及び弾性率などの物性を有する全芳香族ポリアミドフィラメントの製造に有効である。従って、本発明の産業利用性はきわめて高いものといえる。
【0112】
一方、本明細書内で本発明をいくつかの好ましい実施形態によって記述したが、当業者ならば、添付の特許請求範囲に開示した本発明の範疇及び思想から外れずに、多くの変形及び修正がなされ得ることがわかるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】従来の乾湿式紡糸方式で全芳香族ポリアミドフィラメントを製造する工程を示す概略図である。
【図2】本発明に係る乾湿式紡糸方式で全芳香族ポリアミドフィラメントを製造する工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0114】
10 第1凝固液噴射浴槽
20 第2凝固液噴射浴槽
30 第3凝固液噴射浴槽
11,21,31 凝固液噴射ノズル
32 水供給管
L1、L2 凝固液移送管
40 紡糸口金
50 凝固浴槽
51 凝固液受容器
60 水洗装置
70 乾燥装置
80 熱処理装置
90 巻取機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリアミド重合体を濃硫酸溶媒に溶解させて製造した紡糸原液を紡糸口金で紡糸し、紡糸した紡糸物を非凝固性流体層を通じて凝固液噴射浴槽内に通過させて全芳香族ポリアミドフィラメントを製造する方法において、
前記凝固液噴射浴槽を通過する紡糸物に、後段階に行くほど硫酸濃度が低くなる凝固液を多段階に噴射することを特徴とする全芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法。
【請求項2】
紡糸物に凝固液は2ないし5段階に噴射することを特徴とする請求項1に記載の全芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法。
【請求項3】
凝固液は硫酸水溶液及び水の中から選択された1種であることを特徴とする請求項1に記載の全芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法。
【請求項4】
紡糸物に1段階で硫酸濃度が10〜20%である硫酸水溶液を1〜10m/秒の速度で噴射し、続いて2段階で硫酸濃度が3〜10%である硫酸水溶液を13〜20m/秒の速度で噴射し、続いて3段階に水を20〜25m/秒の速度で噴射することを特徴とする請求項1に記載の全芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法。
【請求項5】
第3段階で紡糸物に噴射させた水を回収し、これを第2段階で紡糸物に噴射する硫酸水溶液として再使用することを特徴とする請求項4に記載の全芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法。
【請求項6】
第2段階で紡糸物に噴射させた硫酸水溶液を回収し、これを第1段階で紡糸物に噴射する硫酸水溶液として再使用することを特徴とする請求項4に記載の全芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法。
【請求項7】
紡糸巻取速度が1,000〜1,500m/分であることを特徴とする請求項1に記載の全芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法。
【請求項8】
熱処理前の結晶化度(X)が70〜79%であり、熱処理前の結晶サイズ(ACS、200平面基準)が42〜50Åであることを特徴とする全芳香族ポリアミドフィラメント。
【請求項9】
熱処理前のパラ結晶パラメーター(gII)が1.7〜1.9%であることを特徴とする請求項8に記載の全芳香族ポリアミドフィラメント。
【請求項10】
2%張力下で300℃で2秒間熱処理後のパラ結晶パラメーター(gII)が1.3〜1.6%であることを特徴とする請求項8に記載の全芳香族ポリアミドフィラメント。
【請求項11】
2%張力下で300℃で2秒間熱処理後の結晶化度(X)が76〜83%であることを特徴とする請求項8に記載の全芳香族ポリアミドフィラメント。
【請求項12】
2%張力下で300℃で2秒間熱処理後の結晶サイズ(ACS、200平面基準)が46〜55Åであることを特徴とする請求項8に記載の全芳香族ポリアミドフィラメント。
【請求項13】
熱処理前の結晶化度(X)が76〜79%であることを特徴とする請求項8に記載の全芳香族ポリアミドフィラメント。
【請求項14】
熱処理前の結晶サイズ(ACS、200平面基準)が47〜50Åであることを特徴とする請求項8に記載の全芳香族ポリアミドフィラメント。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−500534(P2009−500534A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520180(P2008−520180)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【国際出願番号】PCT/KR2006/002624
【国際公開番号】WO2007/004848
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(597114649)コーロン インダストリーズ インク (99)
【Fターム(参考)】