説明

全芳香族ポリアミド繊維

【課題】機械的物性を損なうことなく、熱伝導性に優れた全芳香族ポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】分散粒子平均相当径が特定範囲となるカーボン系粒子が、特定量配合された全芳香族ポリアミド繊維であり、具体的には、分散粒子平均相当径が10〜200nmのカーボン系粒子を、繊維中の配合量が5〜30重量%となるよう、当該繊維中に分散させた全芳香族ポリアミド繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族ポリアミド繊維にカーボンを主体とする粒子をナノサイズで分散させた、熱伝導性の改善された全芳香族ポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性および難燃性に優れていることは周知である。また、これらの全芳香族ポリアミドは、アミド系極性溶媒に可溶であり、全芳香族ポリアミドを該溶媒に溶解した重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸などの方法により繊維となし得ることもよく知られている。特に、全芳香族ポリアミド繊維は、耐熱・難燃性繊維として非常に有用なものであるため、これらの特性を発揮する分野、例えば、フィルター、電子部品などの産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣などの防災安全衣料用途などに用いられている。
【0003】
なかでも、全芳香族ポリアミド繊維を用いた防護衣は、溶鉱炉、電気炉、焼却炉などの高温炉前で着用する防護衣、消火作業に従事する人のための消防衣料、高温火花を浴びる溶接作業用の溶接防護衣、引火性の強い薬品を取り扱う人のための難燃作業服などとして幅広く使用されている。また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、その優れた耐熱性、難燃性、自己消化性に加えて、一般の糸質が、衣料用繊維、例えば綿、羊毛などの天然繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維によく似ているため、加工性、着心地、洗濯性、衣裳性などの面で、従来防護衣に使用されていたガラス繊維、石綿繊維、フェノール樹脂繊維、金属箔コーティング素材などと比較して、防護衣素材としてより優れていることが認められている。
【0004】
しかし、現有の全芳香族ポリアミド繊維製の防護衣は、高温の炎または火の玉に接触した際の外部からの熱伝播により防護衣内の人体に著しい火傷を及ぼしていた。そこで、熱伝播により防護衣内の人体の火傷を軽減することを目的として、布帛目付けを上げる方法が挙げられるが、この方法によれば、防護衣自体の重量が増加するため消火作業に著しく弊害を及ぼすのに加え、防護衣内の熱を外部放出することが困難となり、消火作業時にヒートストレスを発生する原因にもなる。このため、防護性能、特に防火性に限界があるため、消火活動・人命救助活動の範囲に限界が生じてしまう。
【0005】
したがって、全芳香族ポリアミド繊維製の防護衣素材の耐火性、耐炎性、耐熱性などを維持しつつ、熱防護性能が飛躍的に向上すれば、例えば、消火活動において、火災の進行状況にかかわらず、火災現場内部へ進入して早期の消火・救出活動を可能とすることが可能となり、あるいは、最盛期の火災であっても、火元に接近して直接注水できるため、早期に消火することが可能となる。そして、消火活動における水損の大幅な低減、救助の迅速・早期化の実現、消防隊員の安全性の向上など、様々なメリットも期待できる。このため、全芳香族ポリアミド繊維製の防護衣には、素材の熱防護性能を向上させることが望まれている。
【0006】
これに対して、従来、全芳香族ポリアミド繊維の熱伝導性向上を唱えた先行技術は提案されていない。別の目的として、熱伝導率の高いカーボンの如く粒子を繊維に含有させる方法が提案されているが(特許文献1参照)、熱伝導性向上に関する言及はされておらず、また、特許文献1に記載の配合組成は、カーボン粒子を高混率で含有するものではないため、熱伝導性向上の効果は殆ど発現していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−081211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のごとき従来技術の問題を解消するためになされたもので、その目的とするところは、機械的物性を損なうことなく、熱伝導性に優れた全芳香族ポリアミド繊維(以下「全芳香族ポリアミド繊維」ともいう)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、分散粒子平均相当径が特定範囲となるカーボン系粒子を繊維中に特定量配合した全芳香族ポリアミド繊維は、機械的物性を損なうことなく、熱伝導性に優れたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第一の構成は、全芳香族ポリアミドからなる繊維であって、分散粒子平均相当径が10〜200nmのカーボン系粒子を、当該繊維中に5〜30重量%含有する全芳香族ポリアミド繊維である。
上記のカーボン系粒子を使用することで、カーボン系粒子の重量あたりの個数や表面積を大幅に増加させることができ、少ない配合量でも、繊維に熱伝導性を付与しつつ優れた機械強度を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、繊維の機械的特性を損なうことなく、飛躍的に熱伝導性が向上した繊維となる。このため、本発明の繊維によれば、熱伝導性が要求される各種繊維製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明における全芳香族ポリアミドは、溶液中でのジカルボン酸ジクロライド(以下「酸クロライド」ともいう)とジアミンとの低温溶液重合、または界面重合から得ることができる。具体的に本発明において使用されるジアミン成分としては、p−フェニレンジアミン、2−クロルp−フェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロルp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
なかでも、ジアミン成分として、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましく、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0013】
また、具体的に本発明において使用される酸クロライドとしては、例えばイソフタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、2−クロルテレフタル酸クロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライドなど挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも、酸クロライドとして、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドが好ましい。従って、本発明における全芳香族ポリアミドの例としては、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、およびポリメタフェニレンテレフタルアミドなどを挙げることができる。
【0014】
全芳香族ポリアミドを重合する際の溶媒としては、具体的にN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。これらの溶媒は、単独あるいは2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、上記溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0015】
この場合、溶解性を上げるために、重合前、途中、終了時に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として、例えば塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0016】
本発明の全芳香族ポリアミドの製造において用いられる全芳香族ポリアミド溶液のポリマー濃度は、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。ポリマー濃度が0.5重量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30重量%を超える場合、ノズルから吐出する際に流動が不安定になりやすく、安定的に紡糸することが困難となる。
【0017】
また、全芳香族ポリアミドを製造する際、これらのジアミンと酸クロライドは、ジアミン対酸クロライドのモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いるのが好ましい。
【0018】
この全芳香族ポリアミドの末端は、封止されていてもよい。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えばフタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
【0019】
一般に用いられる酸クロライドとジアミンの反応においては、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩を併用できる。
反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加し中和反応する。
【0020】
反応条件は、特別な制限を必要としない。酸クロライドとジアミンとの反応は、一般に急速であり、反応温度は、例えば−25℃〜100℃好ましくは−10℃〜80℃である。
このようにして得られる全芳香族ポリアミドは、アルコール、水といった貧溶媒に投入して、沈澱させ、パルプ状にして取り出すことができる。これを、再度、他の溶媒に溶解して成形に供することができるが、重合反応によって得た溶液をそのまま成形用溶液として用いることもできる。再度、溶解させる際に用いる溶媒としては、全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定されないが、上記全芳香族ポリアミドの重合に使用する溶媒が好ましい。
【0021】
次に、本発明に用いられるカーボン系粒子の動的光散乱法で測定した平均粒径は、通常、10〜500nm、好ましくは10〜200nmである。ここで、平均粒径は、カーボン系粒子が分散媒中に5重量%濃度で分散された状態で、動的光散乱法により測定された値である。
カーボン系粒子の平均粒径を上記範囲内にすると、カーボン系粒子自体が非常に細かいので、カーボン系粒子の重量あたりの個数や表面積を大幅に増加させることができ、少ない配合量でも、繊維に熱伝導性を付与しつつ優れた機械強度を得ることができる。
【0022】
なお、分散媒中でのカーボン系粒子は、必ずしも一次粒子にまで分散されているとは限らず、凝集状態にあるものも存在する。この凝集状態にあるカーボン系粒子については、凝集塊の大きさを当該カーボン系粒子の粒径として、平均粒径が求められる。つまり、本発明において、「平均粒径」とは、分散媒中におけるカーボン系粒子の一次粒子または凝集塊の大きさの平均値を意味するものとする。
【0023】
本発明の繊維中におけるカーボン系粒子の分散粒子平均相当径は、10〜200nmであり、好ましくは10〜100nmである。
カーボン系粒子の分散粒子平均相当径を上記の範囲内(10〜200nm)にするには、本発明に用いられるカーボン系粒子の平均粒径を上記範囲内(10〜500nm)とし、さらにこのカーボン系粒子をビーズミルなどで微粉砕または分散し、ポリマーに配合することにより調整される。
なお、ここでいうカーボン系粒子の分散粒子平均相当径とは、繊維を繊維長に対して直角方向に切断し、その繊維断面を電子顕微鏡により倍率10万倍で観察した際の25μmの観察断面積当りの平均粒子分散面積S(μm)としたとき、下記式により求められる値(Y)である。
Y(nm)=2×√(S/π)
【0024】
本発明では、カーボン系粒子、例えばカーボンブラックを分散粒子平均相当径が10〜200nmの範囲内で分散させることで、カーボン系粒子が繊維中に均一に分散し、得られる繊維に一定の遮熱性を付与することができる。
【0025】
本発明に用いられるカーボン系粒子の具体例としては、ケッチェン・ブラック・インターナショナル製のケッチェンブラックEC300J(1次粒子径:39nm)やEC600JD(1次粒子径:34nm)、電気化学工業製のデンカブラック(1次粒子径:35nm)やFX−35(1次粒子径:26nm)、旭カーボン製のSUNBLACK305、325、285(1次粒子径:18、20、40nm)、AX−010(1次粒子径:nm)やAX015(1次粒子径:nm)、東海カーボン製のシースト9H、9、7HM、6、600、KH、3H、3、N、NH、116HM、116、FM、SO(1次粒子径:18、19、19、22、23、24、27、29、28、29、38、38、50、43nm)や#8500、#8300、#7550、#7400、#7360、#7350、#5500、#4500、#4400、#3855、3845(1次粒子径:14、16、21、28、28、28、25、40、38、25、40nm)、キャボットジャパン製のIP1000、1500(1次粒子径:19、21nm)、三菱化学製のMA100、MA230、MA600、MA100R、MA100S(1次粒子径:24、30、30、20、24nm)や#30、#32、#40、#990、#650B、#750B、#3230B、#2350、#2650(1次粒子径:24、30、24、16、22、22、23、15、13nm)、三菱マテリアル製のCNF−T、−P(直径:10〜20、20〜100nm)、日本エコカーボン製のナノカーボンCD、AB(直径:10〜30、1〜10nm)などが挙げられる。
【0026】
なお、上記カーボン系粒子は、シラン系カップリング剤もしくはチタン系カップリング剤、好ましくはシラン系カップリングなどのカップリング剤、または界面活性剤などの表面処理剤によって、表面処理された表面処理層をさらに有することが好適である。
【0027】
この表面処理剤は、被覆層の表面に存在し、表面処理層を形成する。かくして、表面処理剤の種類を適切に選択することにより、カーボン系粒子の表面処理層の表面状態が調整され、ポリマーとの親和性を向上させ、ポリマー中へのカーボン系粒子の分散性が良くなって、機械強度を損なうことなく高い熱伝導性を付与することができる。
【0028】
ここで、シラン系カップリング剤としては、下記式(I)で表されるシラン系カップリングが挙げられる。
(R−Si−X(4−n) (I)
(Rは炭素数が1〜300からなる有機基であり、N、O、S、ハロゲンといったヘテロ原子を含んでも良い。また、XはORといったアルコキシル基もしくは、ハロゲン原子であって、ここでRは炭素数1〜18の有機基である。)
【0029】
として具体的にはエチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基など脂肪族アルキル基、シクロヘキシル基などの脂環族基、またフェニル基、トルイル基、ナフチル基といった芳香族基が挙げられる。また、これらにN,O,S、ハロゲンといったヘテロ原子を含んでよく、その場合、アミノ基、クロロ基、ブロモ基、シアノ基、酸無水物、エポキシ基、メルカプト基などが挙げられる。Xに含まれるORのRとしてはメチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0030】
このような式(I)で示されるシラン系カップリング剤の具体的な化合物としては、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン,n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン,n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン,n−ペンチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルルトリメトキシシラン,n−ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、トルイルトリメトキシシラン、トルイルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、P−アミノフェニルトリエトキシシラン、3−シアノエチルメチルジメトキシシラン、3−シアノエチルトリメトキシシラン、3−シアノメチルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリル)プロピルスクシン酸無水物、2−(3,4,−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2,3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5、6―エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、3−ニトロプロピルジメトキシメチルシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、11−ブロモウンデシルトリメトキシシラン、11−ブロモウンデシルトリクロロシラン、11−ブロモウンデシルジメチルクロロシラン、特開2006−124698号公報の段落「0079」−「0085」に記載されているイミダゾールシランなどのシラン系カップリング剤を挙げることができる。
【0031】
これらのシラン系カップリング剤のうち、エポキシシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン、アルコキシシランが好ましい。
これらのシラン系カップリング剤は、1種単独で、あるいは2種以上を併用することができる。
【0032】
シラン系カップリング剤は、カーボン系粒子の分散性を極めて良好にすることができる。従って、繊維の機械強度を損なうことなく高い遮熱性を付与することができる。
【0033】
また、界面活性剤としては、イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などを用いることができる。ここで、イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系、リン酸系などの陰イオン界面活性剤、アンモニウム系界面活性剤などの陽イオン系界面活性剤、カルボン酸系、リン酸エステル系などの両性イオン系界面活性剤を利用することができ、非イオン系界面活性剤としてはカルボン酸系、リン酸エステル系などのものを使用することができる。
【0034】
カーボン系粒子に対する表面処理の方法としては、高精度な処理が可能となる湿式法が好適に利用される。この湿式法は、カーボン系粒子が分散した溶媒中にシラン系カップリング剤を添加してカーボン系粒子の表面にシラン系カップリング剤を結合させ、その後、溶媒を除去して乾燥させる方法である。なお、溶媒を用いない乾式法により、表面処理を行ってもよい。また、上記したような他の表面処理剤を用いて、表面処理を行ってもよい。
なお、以上のシランカップリング剤や界面活性剤などのカーボン系粒子に対する付与量は、40重量%以下、好ましくは2〜30重量%程度である。
【0035】
以上、説明した本発明のカーボン系粒子の繊維への配合量は、全芳香族ポリアミド繊維に対し、5〜30重量%、好ましくは7〜20重量%であり、このような少量の配合量で繊維に対して遮熱性することができる。5重量%未満では、所定の遮熱性向上効果が発現しない。一方、30重量%を超えると、繊維の成形性が乏しくなり好ましくない。
なお、カーボン系粒子の繊維への配合量を30〜50重量%とすることもできる。この場合は、繊維の機械的強度が多少犠牲になるが、熱伝導性を大幅に向上させることができる。
【0036】
なお、本発明において、物性を損なわない範囲で、本発明のカーボン系粒子以外のフィラーを併用することができる。用いるフィラーとしては、繊維状、もしくは板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品など非繊維状の充填剤が挙げられ、具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、全芳香族ポリアミド繊維以外の有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、二酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、マイカ、層状粘土鉱物、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、二酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物、本発明のカーボン系粒子以外の、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。また、上記のフィラーは、2種以上を併用して使用することもできる。
【0037】
また、本発明に用いられるポリマーや得られる繊維には、そのほか、種々の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤などの劣化防止剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、可塑剤、顔料などの着色剤などを併用してもよい。上記添加剤の使用量は、得られる繊維本来の物性を損なわない範囲で、添加剤の種類に応じて適当に選択できる。
【0038】
本発明の繊維を製造するには、全芳香族ポリアミド溶液(全芳香族ポリアミド製造時の生成ポリマードープであってもよい)と、カーボン系粒子分散液とを混合し、湿式紡糸あるいは乾式紡糸したのち、溶媒を除去することによって、繊維が得られる。
すなわち、本発明のカーボン系粒子を含有する全芳香族ポリアミド繊維を得るには、まず全芳香族ポリアミドとカーボン系粒子の均一な混合液を調製する。ここで、全芳香族ポリアミド溶液とカーボン系粒子の分散液に用いられる溶媒としては、該全芳香族ポリアミドの上記溶媒を使用することができ、これらの溶媒を、1種単独で、あるいは2種以上を併用してもよい。
紡糸上、全芳香族ポリアミド溶液とカーボン系粒子の分散に用いられる溶媒は、同一であることが好ましい。
混合後の固形分濃度(全芳香族ポリアミドおよびカーボン系粒子の合計の濃度)は、通常、1〜20重量%、好ましくは3〜15重量%程度である。
【0039】
このようにして得られるポリマー組成物である混合液を用いて、湿式法あるいは乾式法により、繊維に成形し、溶媒を除去することにより、本発明の低収縮繊維を製造することができる。また、得られた繊維を、延伸、熱処理などの後処理することにより、さらに得られる繊維の物性を向上させることができる。
【0040】
さらに、本発明の全芳香族ポリアミド繊維の製造方法の具体例を以下に示す。
すなわち、以上の本発明のカーボン系粒子を含有する全芳香族ポリアミド繊維を製造するには、上記全芳香族ポリアミドを有機溶媒に溶解させて等方性のドープとし、同じ有機溶媒に高濃度に分散させたカーボン系粒子を添加して湿式紡糸する。ここで、ドープは、全芳香族ポリアミドが溶解している限り、溶液重合を行った後の有機溶媒ドープそのままでも、別途得られた全芳香族ポリアミドを有機溶媒に溶解させたものでもよい。特に、溶液重合反応を行った後のそのままのものが好ましい。
【0041】
この際、全芳香族ポリアミドへ高濃度にカーボン系粒子を混合する際は、カーボン系粒子の凝集を抑制する必要がある。全芳香族ポリアミド繊維用ドープを調製するに際し、その方法は特に限定されるものではないが、カーボン系粒子分散液を一定の圧力で注入し、ダイナミックミキシングおよび/またはスタティックミキシングする方法が好ましい。しかし、カーボン系粒子分散液では、カーボン系粒子が凝集しやすいという問題がある。上記カーボン系粒子分散液の凝集を抑制させるためには、全芳香族ポリアミド溶液を少量添加することが効果的である。すなわち、全芳香族ポリアミド溶液と、カーボン系粒子の100重量部に対して好ましくは全芳香族ポリアミドを1〜5重量部含有するカーボン系粒子分散液とを混合する。全芳香族ポリアミドがカーボン系粒子の100重量部に対して1.0重量部未満の場合は、カーボン系粒子の凝集を抑制することが困難となる。一方、全芳香族ポリアミドがカーボン系粒子の100重量部に対して5.0重量部を超えると、カーボン系粒子分散液の粘度が高くなり、配管輸送を必要とするプロセスでは取り扱いが困難となる。
【0042】
ここで、重合溶媒あるいは有機の再溶解溶媒としては、一般に公知の非プロトン性有機極性溶媒を用いるが、例を挙げるとN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルブチルアミド、N,N−ジメチルイソブチルアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2、N,N’−ジメチルエチレン尿素、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N’,N’−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシドなどである。
【0043】
なお、本発明における全芳香族ポリアミドの重合度は特に制限されないが、該ポリアミドが溶媒に溶けるならば、成形加工性を損なわない範囲内で重合度は大きい方が好ましい。本発明の全芳香族ポリアミドを溶液重合する場合、酸クロライドとジアミンの比は実質的に等モルで反応させるが、重合度制御のためいずれかの成分を過剰に用いることもできる。また、末端封鎖剤として単官能性の酸成分、アミン成分を使用しても良い。
【0044】
上記のごとくして得られる等方性のドープは、湿式紡糸される。この場合、上記ドープを凝固浴の中に直接吐出しても良いし、あるいはエアギャップを設けてもよい。凝固浴は、全芳香族ポリアミドの貧溶媒が用いられるが、全芳香族ポリアミドドープの溶媒が急速に抜け出して全芳香族ポリアミド繊維に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。一般には、貧溶媒としては水、良溶媒としては全芳香族ポリアミドドープ用の溶媒を用いるのが好ましい。良溶媒/貧溶媒の重量比は、全芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性にも依るが、15/85〜40/60が一般的に好ましい。
【0045】
得られた繊維は、この段階では充分に配向していないので、この後、熱延伸して広角X線回折より求めた結晶配向度が89%以上、結晶化度が74%以上と高度に配向および結晶化させることが好ましい。これより、結晶配向度、結晶化度のどちらか一方または両方が低い場合には、熱(延伸)処理を施しても、得られる繊維の機械的物性が不充分となりやすい。熱延伸の温度は、全芳香族ポリアミドのポリマー骨格にもよるが、好ましくは300℃以上600℃以下、さらに好ましくは350〜550℃、また、延伸倍率は好ましくは10倍以上、さらに好ましくは10〜15倍である。
【0046】
なお、得られる全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、好ましくは0.5〜50dtex、さらに好ましくは1.0〜10dtexである。0.5dtex未満の場合は添加されたカーボン系粒子が糸欠陥として作用し製糸性が不安定となる場合がある。また、繊維の比表面積が大きくなるので耐光劣化を受け易い。一方、50dtexを超える場合は、繊維の比表面積は小さくなり、耐光劣化を受けにくい。反面、製糸工程で比表面積が小さいので凝固が不完全になりやすく、その結果、紡糸や延伸工程で工程調子が乱れやすく、物性も低下しやすい。
【0047】
強度は高い程好ましいが、カーボン系粒子の濃度を上げるにつれて強度は低下の傾向があり、10cN/dtex未満では高強度繊維としての特長が不足する。さらに好ましくは、15cN/dtex以上30cN/dtex以下である。
さらに、伸度は、3.0%以上である。3.0%未満の場合は撚糸して使用する場合に撚り歪が大きくなり、撚糸コードの強力利用率が低下する。従って、耐光性が特に要求される屋外使用のロープやネットの場合、高強力耐久性が問題になる。伸度は、好ましくは3.5〜5.0%である。
【0048】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、繊維の引張り強さ(T)の、カーボン系粒子を含有していないことを除き、その他は上記繊維と同一の繊維からなる比較繊維の引張り強度(To)に対する比(T/To)が0.7以上、好ましくは0.8以上である。上記比が0.7未満では、高強度性が失われる。この比を0.7以上にするには、繊維中に分散する分散粒子平均相当径を200nm以下にする必要がある。
【0049】
かくして得られる本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、織物、編物、不織布などの布帛のほか、組紐、ロープ、撚糸コード、ヤーン、綿などの繊維構造物を構成する。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、以下の項目について、以下の方法で測定・評価を実施した。
【0051】
[カーボン系粒子の平均粒径]
カーボン系粒子を、5重量%のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散した状態で、NMP分散径として求めた。NMP分散径は、濃厚系粒径アナライザー「FPIR−1000」(大塚電子(株)製)を用いて、動的光散乱法により求めた。
【0052】
[分散性(繊維中におけるカーボン系粒子の分散粒子平均相当径)]
繊維を切断し、断面を電子顕微鏡により倍率10万倍で観察した際の25μmの観察断面積当りの平均粒子分散面積S(μm)としたとき、下記式により計算される(Y)を分散平均相当径とした。
Y(nm)=2×√(S/π)
【0053】
[繊度]
JIS−L−1015に準じ、測定した。
[繊維の引張強度]
引張試験機(オリエンテック社製、商品名:テンシロン万能試験機、型式:RTC−1210A)を用いて、ASTM D885の手順に基づき、測定試料長500mm、チャック引張速度250mm/min、初荷重0.2cN/dtexの条件にて測定を実施した。
T/Toは、繊維の引張り強度(T)の、カーボン系粒子を含有していないことを除き、その他は上記繊維と同じ繊維からなる比較繊維の引張り強度(To)に対する比として求めた。
【0054】
[熱伝導性]
熱伝導性の指標として繊維の熱拡散率を用いた。
〔測定〕
光交流法により対象繊維長手方向(軸方向)の熱拡散率を求めた。熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社製、型式:LaserPIT)を用いて、照射光 半導体レーザー、温度センサー
E熱伝対(線径100μm、銀ペースト接着)、真空雰囲気下、25℃の条件で測定を実施した。
【0055】
<カーボン系表面改質粒子の製造>
一次粒子径30nmのカーボンブラック粒子(電気化学工業社製、商品名:FX−35)10gを、純水500gに対して1時間、分散・撹拌し、その後、フェニルトリエトキシシランを4g添加して、さらに24時間、分散・撹拌を行った。続いて、得られた分散液をろ過し、ろ過後に得られた沈殿物を110℃で24時間乾燥した。乾燥後に得られた凝集体を解砕し、外表面に表面処理層を有するカーボン系表面改質粒子を得た。
【0056】
<実施例1>
上記で得られたカーボン系表面改質粒子を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に5重量%となるように、ビーズミル(淺田鉄工(株)製、Nano Grain Mill)を用いて分散させた。このとき、メディアとして、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。この分散液を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した固有粘度(IV)は3.4)の濃度6重量%のNMP溶液中に添加し、60℃で2時間、攪拌機の周速度が0.81m/sの条件で撹拌混合した(栗本鐵工所製、KRCニーダー使用)。このとき、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに対するカーボン系粒子の配合量は、10重量%となるようにした。得られたドープを用い、孔数25ホールの紡糸口金から吐出し、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し凝固した後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度530℃下で10倍に延伸した後、巻き取ることによりカーボン系粒子が良好に分散した状態で添加された全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0057】
<実施例2>
カーボン系表面改質粒子の含有量を5重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、カーボン系粒子が分散した全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0058】
<実施例3>
カーボン系表面改質粒子の含有量を20重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、カーボン系粒子が分散した全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0059】
<比較例1>
カーボンブラック未添加のコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた繊維に対し、評価を行った結果を表1に示す。
【0060】
<比較例2>
カーボン系表面改質粒子の含有量を1重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、カーボン系粒子が分散した全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0061】
<比較例3>
カーボン系表面改質粒子の含有量を40重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、カーボン系粒子が分散した全芳香族ポリアミド繊維を得た。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、熱伝導性が高く高温時の遮熱性に優れるため、溶接防護衣、炉前服、工場やガソリンスタンドなどの耐熱性防護服の用途に、非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリアミドからなる繊維であって、分散粒子平均相当径が10〜200nmのカーボン系粒子を、当該繊維中に5〜30重量%含有することを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
上記全芳香族ポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
上記全芳香族ポリアミド繊維が、下式を満たす請求項1〜2いずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維。
T/To≧0.7
但し、式中、Tはカーボン系粒子含有全芳香族ポリアミド繊維の引張り強度、Toは上記粒子を含有していないことを除き、その他は上記繊維と同一の繊維からなる比較繊維の引張り強度とする。
【請求項4】
上記全芳香族ポリアミド繊維が、延伸配向されてなる、請求項1〜3いずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
上記カーボン系粒子が、表面処理剤にて表面処理されたものである請求項1〜4のいずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項6】
上記表面処理剤が、シラン系カップリング剤である請求項5に記載の全芳香族ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2011−149122(P2011−149122A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10587(P2010−10587)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構「ナノ構造ファイバーを適用した遮熱、耐熱、快適性に優れる先進消防服の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【出願人】(000113355)ホソカワミクロン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】