説明

八面体シート構造を有する光触媒材料

【課題】基本構造内に形成される八面体シートに鉄、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、リチウム,アルミニウムのうちの少なくとも1つが入る層状化合物からなる光触媒材料であって、構成する化学組成を制御すると共に、他の構造要素である四面体シートとの組み合わせを制御することにより触媒能に好適に制御された光触媒材料を提供する。
【解決手段】基本構造内に形成される八面体シートに鉄、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、リチウム,アルミニウムのうちの少なくとも1つが入り、他の構造要素である四面体シートとの組み合わせを制御することにより層状化合物を形成し、光触媒活性を生み出し、光触媒活性は、紫外線照射下での色素(メチレンブルー、ローダミンB、ダイサルフィン ブルー(Disulfine blue)、オレンジIIなど)の分解により明らかにした光触媒材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射にて有機物質を分解する八面体シート構造を有する光触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン系光触媒は現在最も注目される機能性材料の一つで、防汚や防曇、室内脱臭分野で広く応用され、産業化が進む一方で、空気浄化や水質浄化などの環境浄化分野での実用化が期待されている。実用化には環境中に拡散する有害物質を濃縮する強力な吸着性能が不可欠であるほか、酸化チタン光触媒粉末の基材や結合材への担持方法に問題があった。そこで従来、粘土鉱物のケイ酸塩層をホストとして、層間を微細なセラミックス粒子で架橋した粘土層間架橋体を触媒として活用することが検討されていた。特に、スメクタイトに代表される粘土鉱物の層間に酸化チタンの柱を立てて細孔構造を形成し、光触媒として機能させるための研究例が多く報告されている。しかし、実用化に至るような、充分な光触媒活性を備えた材料の作製例は、今までほとんど見られなかった。
【0003】
<スメクタイトを用いた光触媒として>
特許文献1に示す酸化チタン含有スメクタイト光触媒複合材料は以下のような概要のものであった。
酸化チタンは、安価であり光触媒活性が高いことから現在も精力的に研究が進められている物質である。その効果的な利用には、ハンドリングを容易にする薄膜化、あるいは担体などへの担持が必要である。酸化チタンの高比表面積化と担持を同時に達成する方法の一つに、粘土の層間架橋体を利用する方法がある。粘土層間架橋体は、粘土の層間に異種物質を挿入し、それを利用して層を拡げ、高比表面積化や吸着性能を向上させた材料である。高活性な酸化チタン粒子を層間に保持することで、酸化チタンの表面を反応場として有効に利用することが可能となる。我々は試料調製時の温度条件を制御することで、調製後の熱処理を伴わずにアナターゼ相からなる酸化チタン−粘土複合体が作製できることを見いだした。この複合体は比較的大きなメソ細孔を有する多孔体であり、分解物の大きさに対する選択性を持つことが示された。
【0004】
本文献の発明では、酸化チタン−粘土層間架橋体としてはこれまでに報告のないルチル相を担持したルチル−粘土複合体を作製し、アナターゼ単独では分解が困難な難分解性の有害有機物の完全分解を達成することを目的としたものであった。
しかし、有機物親和性・吸着能の大幅な向上が確立されず、対象有機物との接触確立が期待ほど大きくなく、有機物分解効率の大幅な向上が認められなかった。さらに、酸化チタンを架橋したために、スメクタイト本来の性質である有機物親和性・吸着能の低下を招いた問題が生じていた。
【0005】
スメクタイトに代表される陽イオン交換粘土鉱物、ハイドロタルサイトに代表される陰イオン交換粘土鉱物そのものが、光触媒機能を発現すれば以上の問題点を解決できるはずである。
【0006】
スメクタイトは、マグネシウム八面体層もしくはアルミニウム八面体層を2層のシリカ四面体層が挟んだ三層構造を有する層状珪酸塩であり、陽イオン交換能、さらには金属多核水酸化イオンや各種有機物を層間にインターカレートする機能を有する(非特許文献1、非特許文献2)。
【0007】
八面体層に三価のアルミニウムを主として含む2−八面体型スメクタイトであるモンモリロナイト、バイデライトおよび八面体層に二価のマグネシウムを主として含む3−八面体型スメクタイトであるサポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイトなどが知られている。八面体層中のイオンは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、鉛、カドミウムなどの金属イオンで置換される。シートを構成するOHイオンはFイオンと置換されることがある。
【0008】
マイカは、スメクタイトと同様に、マグネシウム八面体層もしくはアルミニウム八面体層を2層のシリカ四面体層が挟んだ三層構造を有する層状珪酸塩である。スメクタイト結晶に比べて、a、b軸方向の結晶性が高く、一枚のシート面積も大きいが、層間には難交換性のカリウムイオンを持つものが多い(非特許文献1)。
【0009】
八面体層に三価のアルミニウムを主として含む2−八面体型マイカであるマスコバイト、パラゴナイトおよび八面体層に二価のマグネシウムを主として含む3−八面体型マイカであるフロゴパイト、バイオタイトなどが知られている。マイカの八面体層中のイオンは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、鉛、カドミウムなどの金属イオンで置換される。シートを構成するOHイオンはFイオンと置換されることがある。合成物として、すべてFイオンで置換されたフロゴパイトなども知られている。
【0010】
ハイドロタルサイトに代表される層状複水酸化物、陰イオン交換粘土鉱物は2価の金属イオンと、3価の金属イオンから構成される酸化物で、これら2価及び3価の金属イオンが中心に位置する酸素八面体が2次元に連なって、1つの層を構成し、この八面体層と陰イオンが交互に積層し、層間に複水した構造を持つ。
【0011】
ハイドロタルサイトおよびハイドロタルサイト様化合物はプラスに電荷した基本層と、そのプラスを電気的に中和するアニオンと結晶水を持つ中間層からなる構造単位を有し、構造破壊温度に違いがある他は殆ど似た性質を示すことが知られており、固体塩基性及び陰イオン交換能をもち、インターカレーション反応・再生反応といった特異的な反応を示す。なお、これらの化合物については非特許文献3に詳しく説明されている。上記の層状複水酸化物の具体例としては、スティヒタイト、パイロオーライト、リーベサイト、タコヴァィト、オネサイト、アイオワイト等が挙げられる。
【0012】
上記いずれのスメクタイト、マイカに代表される陽イオン交換粘土鉱物、ハイドロタルサイトに代表される陰イオン交換粘土鉱物そのものが、光触媒機能を発現すれば以上の問題点を解決できるはずである。しかしながら、上記いずれのスメクタイト、マイカ、ハイドロタルサイトおよびハイドロタルサイト様化合物に関する報告も、その光触媒能の発現に関しては言及していない。
【0013】
サステナブル社会、省エネルギー社会の創製に際して、入手が容易な元素(ユビキタス元素)を用いた機能性材料・光触媒材料の開発が望まれる。
【特許文献1】特開2006−326453
【非特許文献1】MacEwan,D.M.C., and Wilson, M.J., Interlayer and Intercalation Complexes of Clay Minerals, In “Crystal Structure of Clay Minerals and their X-ray identification” Brindley G.W., Brown, G editors, London: Mineralogical Society, (1980)197-248
【非特許文献2】Micas: Crystal Chemistry & Metamorphic Petrology, Mottana, A., Sassi, F.P., Thompson, J.B., Guggenheim, Jr. S. editors, Washington, DC, The Mineralogical Society of America (2002)
【非特許文献3】「スメタイト研究会会報」”スメクタイト”(第6巻第1号P.12−26、1996,5月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
酸化チタン系光触媒は現在最も注目される機能性材料の一つで、防汚や防曇、室内脱臭分野で広く応用され、産業化が進む一方で、空気浄化や水質浄化などの環境浄化分野での実用化が期待されている。実用化には環境中に拡散する有害物質を濃縮する強力な吸着性能が不可欠であるほか、酸化チタン光触媒粉末の基材や結合材への担持方法に問題があった。そこで粘土鉱物のケイ酸塩層をホストとして、層間を微細なセラミックス粒子で架橋した粘土層間架橋体を触媒として活用することが検討されていた。特に、スメクタイトに代表される粘土鉱物の層間に酸化チタンの柱を立てて細孔構造を形成し、光触媒として機能させるための研究例が多く報告されている。しかし、実用化に至るような、充分な光触媒活性を備えた材料の作製例は、今までほとんど見られなかった。
【0015】
本発明は、基本構造内に形成される八面体シートに鉄、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、リチウム,アルミニウムのうちの少なくとも1つが入る層状化合物からなる光触媒材料であって、構成する化学組成を制御すると共に、他の構造要素である四面体シートとの組み合わせを制御することにより触媒能に好適に制御された光触媒材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、かかる課題について鋭意研究を重ねた結果、光の照射にて有機物質を分解する光触媒材料を見出した。その材料は、基本構造内に形成される八面体シートに鉄、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、リチウム,アルミニウムのうちの少なくとも1つが入り、他の構造要素である四面体シートとの組み合わせを制御することにより層状化合物を形成し、光触媒活性を生み出し、この知見に基づいて本発明をなすにいたった。光触媒活性は、紫外線照射下での色素(メチレンブルー、ローダミンB、ダイサルフィン ブルー(Disulfine blue)、オレンジIIなど)の分解により明らかにした。
【0017】
即ち、本発明は、八面体シートを2枚の四面体シートでサンドイッチした基本構造をもち、その一般式が(1)であるスメクタイト組成の層状化合物であることを特徴とする光触媒材料。
(式1)

【0018】
八面体シートを、2枚の四面体シートでサンドイッチした基本構造をもち、その一般式が(2)であるマイカ組成の層状化合物であることを特徴とする光触媒材料。
(式2)

【0019】
八面体シートを基本構造とし、その一般式が(3)である層状複水酸化物であることを特徴とする光触媒材料。
(式3)

【発明の効果】
【0020】
従来は、スメクタイトに代表される粘土鉱物の層間に酸化チタンの柱を立てて細孔構造を形成し、光触媒として機能させるための研究例が多く報告されている。しかし、有機物親和性・吸着能が大きく、対象有機物との接触確立・比表面積の問題から、実用化に至るような光触媒活性を備えた材料の作製例は、今までほとんど見られなかった。本光触媒材料は、ナノシートの集積物である層状構造が光触媒活性を有しており、その比表面積の増加・コーティング化等が容易であり、その適用範囲は従来材料に比較して広いと考えられる。さらに光触媒材料は有機物親和性・吸着能が大きく、対象有機物との接触確立が大きくなり、有機物分解効率が向上する。また有機物親和性にすぐれておることより、フィルム形成能、ポリマーとの複合化に適用が容易となる。さらに有機物親和性、無機化合物との親和性に優れており、界面活性剤などを鋳型としたメソポア化が用意であり、比表面積の増加が可能となり、有機物分解効率が進むことが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を具体的な実施の形態をもって説明するが、本発明は、後述の形態に限定されるものでない。本発明の光の照射にて有機物質を分解する光触媒材料は、基本構造内に形成される八面体シートに鉄、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、リチウム、アルミニウムのうちの少なくとも1つが入る層状化合物からなる光触媒材料であって、構成する化学組成を制御すると共に、他の構造要素である四面体シートとの組み合わせを制御することにより触媒能に好適に制御されたものである。
【0022】
即ち、本発明は、八面体シートを2枚の四面体シートでサンドイッチした基本構造をもち、その一般式が(1)であるスメクタイト組成の層状化合物であることを特徴とする光触媒材料。
(式1)

【0023】
対象となるスメクタイトは、天然物および合成物である。天然物は、その化学組成、構造、欠陥、不純物などの材料特性が変動する傾向があり、その制御が不可能に近く、さらなる高機能性光触媒材料としての応用を考えた場合は、スメクタイト構造を有する層状化合物の合成物が推奨される。
【0024】
所定の割合のケイ素、アルミニウム及び/又はマグネシウムの酸化物、鉄、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、リチウム、マンガン、クロムの中から選ばれる金属酸化物、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩を混合し、溶融ガラスを調製した後、該ガラス組成物と水の混合物を80〜500℃の温度において水熱反応させることによりスメクタイトが合成される。
【0025】
構成元素を所定量含有する複合含水酸化物を調整した後、該複合含水酸化物を80〜500℃の温度において水熱反応させることによりスメクタイトが合成される。複合含水酸化物の調整方法としては、(1)コロイド状シリカ又はケイ酸、そして目的の組成に必要となる金属塩からなる酸性水溶液とアルカリ水溶液とを混合して沈殿を形成させ、ろ過などにより回収後、十分に洗浄して副生塩を除去する方法、(2)ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウムなどを含有するアルカリ水溶液と目的の組成に必要となる金属塩を含有する酸性水溶液とを混合して沈殿を形成させ、以下前記(1)と同様に処理する方法、(3)ケイ素及びアルミニウムなど金属アルコキシド、目的の組成に必要となる金属塩を含有する酸性水溶液とアルカリ水溶液とを混合して沈殿を形成させ、以下前記(1)と同様に処理する方法、(4)金属アルミニウム及び/又は金属マグネシウムを酸で溶解した酸性水溶液に目的の組成に必要となる金属塩を混合して、アルカリ水溶液とを混合して沈殿を形成させ、以下前記(1)と同様に処理する方法などを好ましく用いることができる。
【0026】
たとえばこのようにして得た本発明の八面体シート内に亜鉛を含むスメクタイト光触媒材料の適切な濃度の水溶液(0.05重量%から1重量%)と、適切な濃度のメチレンブルー溶液(1x10−3/100ml ― 1x10−5/100ml)との混合水溶液を、石英ガラス板上に滴下し、室温にて乾燥させ、紫外線の照射下でのメチレンブルーの脱色・分解試験に供した。
【0027】
高輝度光源装置に超高圧UVランプを設置し、紫外線の照射を行い、紫外可視分光光度計による吸光度の測定を行った。メチレンブルーの脱色・分解は、紫外―可視吸収スペクトルの測定により、665nm近傍のメチレンブルーの吸収ピークの強度から見積もった。
【0028】
メチレンブルー単独では、15分の紫外線照射においても、7割強のメチレンブルーの残存が確認できる。しかし、メチレンブルーを担持した八面体シート内に亜鉛を含むスメクタイト光触媒材料では、1分の紫外線照射においても、メチレンブルーの吸収ピークの強度の十分な低下が見られ、15分の照射においてはメチレンブルーの脱色・分解が十分に進み、紫外可視分光光度計の測定限界に近い値を示し、八面体シート内に亜鉛を含むスメクタイトが光触媒活性を有することを明らかに示した。
【0029】
八面体シートを、2枚の四面体シートでサンドイッチした基本構造をもち、その一般式が(2)であるマイカ組成の層状化合物であることを特徴とする光触媒材料。
(式2)

【0030】
対象となるマイカは、天然物および合成物である。天然物は、その化学組成、構造、欠陥、不純物などの材料特性が変動する傾向があり、その制御が不可能に近く、さらなる高機能性光触媒材料としての応用を考えた場合は、マイカ構造を有する層状化合物の合成物が推奨される。
【0031】
所定の割合のケイ素、アルミニウム及び/又はマグネシウムの酸化物、鉄、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、リチウム、マンガン、クロムの中から選ばれる金属酸化物、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩を混合し、溶融ガラスを調製した後、該ガラス組成物と水の混合物を80〜1200℃の温度において水熱反応させることによりマイカが合成される。
【0032】
構成元素を所定量含有する複合含水酸化物を調整した後、該複合含水酸化物を80〜1200℃の温度において水熱反応させることによりマイカが合成される。複合含水酸化物の調整方法としては、(1)コロイド状シリカ又はケイ酸、そして目的の組成に必要となる金属塩からなる酸性水溶液とアルカリ水溶液とを混合して沈殿を形成させ、ろ過などにより回収後、十分に洗浄して副生塩を除去する方法、(2)ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウムなどを含有するアルカリ水溶液と目的の組成に必要となる金属塩を含有する酸性水溶液とを混合して沈殿を形成させ、以下前記(1)と同様に処理する方法、(3)ケイ素及びアルミニウムなど金属アルコキシド、目的の組成に必要となる金属塩を含有する酸性水溶液とアルカリ水溶液とを混合して沈殿を形成させ、以下前記(1)と同様に処理する方法、(4)金属アルミニウム及び/又は金属マグネシウムを酸で溶解した酸性水溶液に目的の組成に必要となる金属塩を混合して、アルカリ水溶液とを混合して沈殿を形成させ、以下前記(1)と同様に処理する方法などを好ましく用いることができる。
【0033】
対象となるマイカの光触媒活性を検討するには、本発明の八面体シート内に目的とする金属イオンを含むマイカ光触媒材料の適切な濃度の水溶液(0.05重量%から1重量%)と、適切な濃度のメチレンブルー溶液(1x10−3/100ml ― 1x10−5/100ml)との混合水溶液を、石英ガラス板上に滴下し、室温にて乾燥させ、紫外線の照射下でのメチレンブルーの脱色・分解を紫外可視分光光度計を用いて、紫外―可視吸収スペクトルの測定により、665nm近傍のメチレンブルーの吸収ピークの強度から、メチレンブルーの脱色・分解を見積もった試験により明らかにする。もしくは上記混合水溶液を紫外可視分光光度測定用の石英セルに充填し、紫外線の照射下でのメチレンブルーの脱色・分解を紫外可視分光光度計を用いて、紫外―可視吸収スペクトルの測定により、665nm近傍のメチレンブルーの吸収ピークの強度から、メチレンブルーの脱色・分解を見積もった試験により明らかにした。
【0034】
八面体シートを基本構造とし、その一般式が(3)である層状複水酸化物であることを特徴とする光触媒材料。
(式3)

【0035】
対象となる層状複水酸化物は、天然物および合成物である。天然物は、その化学組成、構造、欠陥、不純物などの材料特性が変動する傾向があり、その制御が不可能に近く、さらなる高機能性光触媒材料としての応用を考えた場合は、層状複水酸化物構造を有する層状化合物の合成物が推奨される。
【0036】
構成元素を所定量含有する複複合含水酸化物後、該複合含水酸化物を室温〜200℃の温度において水熱反応させることにより層状複水酸化物が合成される。複合含水酸化物の調整方法としては、(1)目的の組成に必要となる金属塩からなる酸性水溶液とアルカリ水溶液とを混合して沈殿を形成させ、ろ過などにより回収後、十分に洗浄して副生塩を除去する方法、(2)、目的の組成に必要となる金属アルコキシドを含有する酸性水溶液とアルカリ水溶液とを混合して沈殿を形成させ、以下前記(1)と同様に処理する方法、(3)目的の組成に必要となる金属を酸で溶解した酸性水溶液にアルカリ水溶液とを混合して沈殿を形成させ、以下前記(1)と同様に処理する方法などを好ましく用いることができる。
【0037】
上記の構成元素を所定量含有する複合含水酸化物の調整において、十分に洗浄して副生塩を除去せず、室温〜200℃の温度において水熱反応させ、ろ過などにより回収後、十分に洗浄して副生塩を除去する方法などを好ましく用いることができる。
【0038】
前記アルカリ水溶液としては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを例示することができる。添加するアルカリ量としては、添加後のスラリーpHが8以上となることが好ましい。
【0039】
対象となる層状複水酸化物の光触媒活性を検討するには、本発明の八面体シート内に目的とする金属イオンを含む層状複水酸化物光触媒材料の適切な濃度の水溶液(0.05重量%から1重量%)と、適切な濃度のダイサルフィン ブルー(Disulfine Blue)溶液(1x10−3/100ml ― 1x10−5/100ml)との混合水溶液を、石英ガラス板上に滴下し、室温にて乾燥させ、紫外線の照射下でのダイサルフィン ブルーの脱色・分解を紫外可視分光光度計を用いて、紫外―可視吸収スペクトルの測定により、ダイサルフィン ブルーの吸収ピークの強度から、ダイサルフィン ブルーの脱色・分解を見積もった試験により明らかにする。もしくは上記混合水溶液を紫外可視分光光度測定用の石英セルに充填し、紫外線の照射下でのダイサルフィン ブルーの脱色・分解を紫外可視分光光度計を用いて、紫外―可視吸収スペクトルの測定により、ダイサルフィン ブルーの吸収ピークの強度から、ダイサルフィン ブルーの脱色・分解を見積もった試験により明らかにした。
【実施例1】
【0040】
1000mlのビーカーにエタノール((和光純薬製、特級試薬)300mlを入れ、これにテトラエトキシシラン(関東化学製、高純度試薬3N)31.11gを50℃で2時間攪拌し均質溶液を調製した。500mlのビーカーに水300mlを入れ、これに塩化亜鉛(関東化学製、特級試薬)16.63gと塩化アルミニウム六水和物(和光純薬製、特級試薬)3.24gを室温にて2時間攪拌・溶解したのち、先のテトラエトキシシラン均質溶液を加え、50℃で2時間攪拌しケイ素−マグネシウム−アルミニウム均質溶液を調製した。次いで、この均質溶液に、3規定水酸化ナトリウム水溶液100mlをかき混ぜながら60分間で滴下した。滴下後の液のpHは10.2であり、複合含水酸化物の沈殿が生成した。この沈殿をただちに吸引・ろ過・水洗したのち、1000mlのビーカー中にて、水400mlとかき混ぜる。このスラリーに、水酸化ナトリウム0.32gを水50mlに溶解させた水溶液をかき混ぜながら加えて、原料スラリーを調整した。この均質スラリーをテフロン容器内装型ステンレス製反応容器に移し、自生圧力下に100℃で5日間水熱反応を行った。冷却後、反応物を取り出し、凍結乾燥したのち乳鉢にて粉砕し、結晶構造中に亜鉛を含むスメクタイト(亜鉛型サポナイト(Zn−SAP):Na0.3Zn(Si3.7Al0.3)O10(OH)・nHO)を得た。
【0041】
光触媒活性を調べるために、上記亜鉛型サポナイト(Zn−SAP)を用いて、メチレンブルーの紫外線光照射下での脱色・分解試験を試み、この時のメチレンブルーの濃度変化を調べた。
メチレンブルー溶液は、メチレンブルー3水和物(和光純薬製、試薬特級)を蒸留水に溶解して調整した。その濃度は、1x10−4/100mlである。次に、亜鉛型サポナイト水溶液を調整した。亜鉛型サポナイト紛粒体0.5gを水1000mlに混合し、スメクタイトが充分に膨潤するまで室温で1日撹拌し、懸濁液を得た。上記亜鉛型サポナイト水溶液100mlとメチレンブルー溶液100mlとを、室温にて1日、混合撹拌し、メチレンブルー担持亜鉛型サポナイト光触媒複合材料を得た。本材料水溶液を、石英ガラス板上に滴下し、室温にて乾燥させ、メチレンブルーの脱色・分解試験に供した。
【0042】
紫外線の照射は、ウシオ電機製のバックミラータイプの高輝度光源装置(オプティカル・モデュレックスSX−UI 251HQ)に超高圧UVランプ(USH−250SC)(定格ランプ入力250W)を組み込み、光源として使用した。試験時の試験表面の紫外線強度を厳密に決めることが困難であったため、紫外線ランプと試験片の距離を20cmとした。吸光度の測定には島津製作所紫外可視分光光度計UV−2450型を用いて664nmの波長を測定した。なお、太陽光や蛍光灯などの光の影響を排除するために、実験室には安全灯を設置し、さらに測定系は暗室に設置した。紫外―可視吸収スペクトルの測定により、665nm近傍のメチレンブルーの吸収ピークの強度から、メチレンブルーの脱色・分解を見積もった。比較試料として、メチレンブルー溶液を石英ガラス板上に滴下し、室温にて乾燥させて、その脱色・分解試験を同様の方法にて見積もった。
【0043】
図1に、メチレンブルー単独での分解挙動と、メチレンブルー担持亜鉛型サポナイト(Zn−SAP)光触媒複合材料の挙動を示した。横軸が紫外線照射時間(単位は分)を、縦軸が紫外線照射前後での665nm近傍のメチレンブルーの吸収ピークの強度から見積もったメチレンブルーの残存率を示した。縦軸の値が小さいほど、メチレンブルーの脱色・分解が進んでいること、及び光触媒活性が高いことを示している。メチレンブルー単独では、15分の紫外線照射においても、7割強のメチレンブルーの残存が確認できる。しかし、メチレンブルー担持亜鉛型サポナイト光触媒複合材料では、1分の紫外線照射においても、メチレンブルーの吸収ピークの強度の十分な低下が見られ、15分の照射においてはメチレンブルーの脱色・分解が十分に進み、紫外可視分光光度計の測定限界に近い値を示した。
【実施例2】
【0044】
ケイ酸ナトリウム(和光純薬:メタ珪酸ナトリウム)0.0976gを蒸留水1000mlに攪拌しながら溶解させ、ケイ酸ナトリウム溶液をつくる。別に塩化亜鉛(関東化学製、試薬特級)0.0818gを蒸留水1000mlに攪拌しながら溶解させ、塩化亜鉛溶液をつくる。このケイ酸ナトリウム溶液500mlと塩化亜鉛溶液500mlを混合・攪拌しながら、1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを10に調整した。この均質溶液を60℃で24時間反応を行った。反応後遠心分離法(15000回転で30分間の処理)にて反応物を回収し、結晶構造中に亜鉛を含むスメクタイト(亜鉛型スティーブンサイト(Zn−STE):Na0.3Zn2.7Si10(OH)・nHO)を得た。
【0045】
亜鉛型スティーブンサイト(Zn−STE)の光触媒活性は、実施例1の方法により、メチレンブルー担持亜鉛型ヘクトライト光触媒複合材料を作成し、そのメチレンブルーの脱色・分解試験により調べた。図1に、メチレンブルー担持亜鉛型スティーブンサイト(Zn−STE)光触媒複合材料の挙動を示した。実施例1のメチレンブルー担持亜鉛型サポナイト光触媒複合材料と同様に、1分の紫外線照射においても、メチレンブルーの吸収ピークの強度の十分な低下が見られ、15分の照射においてはメチレンブルーの脱色・分解が十分に進み、紫外可視分光光度計の測定限界に近い値を示した。
【実施例3】
【0046】
実施例1において、試薬としてテトラエトキシシラン(関東化学製、高純度試薬3N)
35.26g、塩化亜鉛(関東化学製、特級試薬)15.40g及び3規定水酸化ナトリウム水溶液80mlを用い、実施例1と同様な操作により複合含水酸化物を調製した。この際、沈殿形成pHは9.6であった。次に、この複合含水酸化物に、水酸化ナトリウム0.32g(和光純薬製、試薬特級)及び水酸化リチウム1水和物(関東化学製、特級)0.59gを水50mlに溶解させた水溶液をかき混ぜながら加えて、原料スラリーを調整した。この均質スラリーをテフロン容器内装型ステンレス製反応容器に移し、自生圧力下に100℃で5日間水熱反応を行った。冷却後、反応物を取り出し、凍結乾燥したのち乳鉢にて粉砕し、結晶構造中に亜鉛およびリチウムを含むスメクタイト(亜鉛型ヘクトライト(Zn−HEC):Na0.3(Zn2.7Li0.3)Si10(OH)・nHO)を得た。
【0047】
亜鉛型ヘクトライト(Zn−HEC)の光触媒活性は、実施例1の方法により、メチレンブルー担持亜鉛型ヘクトライト光触媒複合材料を作成し、そのメチレンブルーの脱色・分解試験により調べた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により、環境中に拡散する各種有害有機物を効率よく吸着し分解する技術を提供できる。
防汚や防曇、室内脱臭分野での応用、空気浄化や水質浄化などの環境浄化分野での実用化への技術が提供できる。また、酸化チタン光触媒粉末の問題点であった基材や結合材への担持方法が容易になる技術を提供できる。本発明の材料は有機物親和性にすぐれていることより、フィルム形成能、コーティング化、ポリマーとの複合化、界面活性剤などを鋳型としたメソポア化の技術が提供できる。さらに、本発明の光触媒材料は、地球表層のある入手が容易な元素(ユビキタス元素)からなる材料であるため、人体・環境への少なく、上水設備なだへの適用も容易である。これにより、21世紀型サステナブル社会、省エネルギー社会の創製に技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】亜鉛型ヘクトライト、亜鉛型サポナイトおよび亜鉛型スティーブンサイト光触媒複合材料の紫外線照射下でのメチレンブルーの分解挙動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射にて有機物質を分解する光触媒材料であって、基本構造内に形成される八面体シートに鉄、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、リチウム,アルミニウムのうちの少なくとも1つが入る層状化合物
【請求項2】
請求項1の八面体シートを、2枚の四面体シートでサンドイッチした基本構造をもち、その一般式が(1)であるスメクタイト組成の層状化合物であることを特徴とする光触媒材料。
(式1)

【請求項3】
請求項1の八面体シートを、2枚の四面体シートでサンドイッチした基本構造をもち、その一般式が(2)であるマイカ組成の層状化合物であることを特徴とする光触媒材料。
(式2)

【請求項4】
請求項1の八面体シートを基本構造とし、その一般式が(3)である層状複水酸化物であることを特徴とする光触媒材料。
(式3)


【図1】
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【公開番号】特開2009−56391(P2009−56391A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225862(P2007−225862)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】