説明

六価クロムの不溶化方法及び無害化方法

【課題】分析工程での無害化が起きない分析方法を利用した際でも六価クロムの溶出量について適正かつ良好な結果が得られ、セメント系固化体又はセメント系副産物を地盤材料として再利用するのに有用な六価クロムの不溶化方法及び無害化方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る不溶化方法は、セメント系固化体又はセメント系副産物を被処理物とし、これに含まれる六価クロムを対象としたものであり、二酸化炭素の存在下において被処理物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程後の被処理物に水を加える加水工程と、加水工程後の被処理物と、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤とを混合する混合工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系固化体又はセメント系副産物に含まれる六価クロムの不溶化方法及び無害化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムや建物を建設又は解体する現場からはセメント系副産物が大量に発生する。セメント系副産物の具体例としては、セメント系濁水処理で発生する脱水ケーキやコンクリートダムで発生するグリーンカットズリ、RC造建設物の解体で発生するコンクリート塊などが挙げられる。セメント系副産物の全量を産業廃棄物として処理しようとすると、発生量が膨大なため多大な費用がかかったり、有限の処分場容量を消費してしまうことになる。このため、セメント系副産物を地盤材料として再利用することが検討されている(特許文献1参照)。
【0003】
セメント系副産物にはセメント材料に由来する微量の六価クロムが含まれており、地盤として再利用した際には状況によって環境に溶出する恐れが指摘されている。そのため、セメント系副産物を地盤材料として再利用するには、六価クロムに関する土壌環境基準を満たす必要がある。日本の土壌環境基準では所定の前処理によって得た溶出液中の六価クロム含有量を0.05mg/L以下とすることが規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−66570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、2008年3月にJIS K0102に規定する工場排水試験方法が一部改正された。この改正により、分析の過程で六価クロムが無害な三価クロムに変化するのを避けるための前処理の手法が追記された(JIS K0102(2008) 65.2備考9参照)。
【0006】
本発明者らは、複数の種類のセメント系副産物について、上記前処理をしない分析法及び上記前処理をする分析法によって六価クロムの分析をそれぞれ実施した。その結果、セメント系副産物に使用されたセメントの種類によって、上記前処理をしない分析法と上記前処理をする分析法とで六価クロムの溶出量の結果が大きく異なる場合があることを見出した。また、上記前処理を行わないと、還元性物質が含まれている際には分析過程で六価クロムの還元・無害化が起きて、上記前処理を行った場合と比較して溶出値が過度に低く出る場合があることが判明した(図1参照)。六価クロムの分析法として、JIS K0102に規定する方法にはジフェニルカルバジド吸光光度法(DPC法)の他にもICP法などがあるが、分析の種類によって結果が異なる場合があることも判明した。これは、いわゆる誤差の問題ではなく、いずれの場合にも、六価クロムの分析値が低く報告される方向にあることから、分析方法に内在する問題である。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、分析工程での無害化が起きない分析方法を利用した際でも六価クロムの溶出量について適正かつ良好な結果が得られ、セメント系固化体又はセメント系副産物を地盤材料として再利用するのに有用な六価クロムの不溶化方法及び無害化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る不溶化方法は、セメント系固化体又はセメント系副産物を被処理物とし、これに含まれる六価クロムを対象としたものであり、二酸化炭素の存在下において被処理物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程後の被処理物に水を加える加水工程と、加水工程後の被処理物と、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤とを混合する混合工程を備える。
【0009】
本発明における乾燥工程は、二酸化炭素の存在下において実施されるものであり、この工程を経ることでセメント系固化体又はセメント系副産物の炭酸化を加速する。より具体的には、乾燥工程においては、セメント系固化体又はセメント系副産物に含まれる酸化カルシウムと二酸化炭素が反応し、下記の通り、炭酸カルシウムが生成する。
CaO+CO→CaCO
【0010】
加水工程において乾燥工程後の被処理物の含水率を調整し、後述する加水分解に必要不可欠な水分を付与する。その後の混合工程において、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤の作用によって被処理物に含まれる六価クロムを不溶化する。当該薬剤は加水分解を受けると、水酸化アルミニウム(Al(OH))となってゲルを生成し、OHが消費されるためにpHが低下する。当該薬剤の使用による六価クロムの溶出抑制は、水酸化アルミニウムのゲルに六価クロムが取り込まれることが主因と推察される。
【0011】
水酸化アルミニウムのゲルに六価クロムを取り込んだとしても、不溶化処理後のセメント系固化体又はセメント系副産物(処理物)のpHが全体的又は局所的に酸もしくはアルカリ側へシフトすると、ゲルが溶解して六価クロムが溶出するおそれがある。当該薬剤自身が酸性であることから過剰に添加すると六価クロムが再溶出するおそれがある。この点に関し、本発明においては、乾燥工程で十分に炭酸化を進めることでアルカリ性に戻ることを抑制し、当該工程で生成したCaCOが緩衝作用を発揮して酸性である当該薬剤を添加しても、処理物のpHの強酸域へのシフトを抑制する。これにより、処理物からの六価クロムの溶出量を十分に低減でき、処理物を地盤材料として再利用することが可能となる。
【0012】
本発明に係る無害化方法は、セメント系固化体又はセメント系副産物を被処理物とし、これに含まれる六価クロムを対象としたものであり、二酸化炭素の存在下において被処理物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程後の被処理物に水を加える加水工程と、加水工程後の被処理物と亜硫酸カルシウムとを混合する第一混合工程と、第一混合工程後の被処理物と、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤とを混合する第二混合工程とを備える。加水工程と第一混合工程を合わせて、亜硫酸カルシウムを適用溶解した水を適量加水してもよい。また、以下の通り、加水工程と第一混合工程の順序を逆にして、第一混合工程の後に加水工程を実施してもよい。
【0013】
すなわち、本発明に係る無害化方法は、セメント系固化体又はセメント系副産物を被処理物とし、これに含まれる六価クロムを対象としたものであり、二酸化炭素の存在下において被処理物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程後の被処理物と亜硫酸カルシウムとを混合する第一混合工程と、第一混合工程後の被処理物に水を加える加水工程と、加水工程後の被処理物と、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤とを混合する第二混合工程とを備えたものであってもよい。第一混合工程と加水工程を合わせて、亜硫酸カルシウムを適用溶解した水を適量加水してもよい。
【0014】
本発明に係る無害化方法においては、上記不溶化方法と同様、まず、乾燥工程及び加水工程が実施される。その後の第一混合工程においてセメント系固化体又はセメント系副産物に含まれる六価クロムと亜硫酸カルシウムとを均質に接触させる。その後の第二混合工程では、上記薬剤の加水分解により、pH低下、昇温して六価クロムの還元・無害化反応が起き、同時に水酸化アルミニウムのゲルの生成により六価クロムの溶出を一層高度に抑制する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分析工程での無害化が起きない分析方法を利用した際でも六価クロムの溶出量について適正かつ良好な結果が得られ、セメント系固化体又はセメント系副産物を地盤材料として再利用するのに有用な六価クロムの不溶化方法及び無害化方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】試料に添加した還元物質の量と六価クロム溶出値の関係を示すグラフである。
【図2】セメント系濁水の沈殿汚泥に対する不溶化処理の結果を示すグラフである。
【図3】コンクリートダムのグリーンカットズリ(篩下成分)に対する不溶化処理の結果を示すグラフである。
【図4】水酸化アルミニウムのゲルを示す写真である。
【図5】六価クロムの無害化処理におけるpHの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<六価クロムの酸化還元>
六価クロムの還元式は下式で表わされる。
【化1】


式中、EはpH=0、つまり強酸雰囲気における標準電極電位である。左辺に水素があることから、この式は酸性でないと反応が進みにくいこと、pHが上昇すると電極電位Eが小さいくなり、還元反応が進みにくくなることが分かる。つまり、マクロに見るとアルカリ性であるセメント系副産物内部では六価クロムの還元反応は進まない。しかし、酸性物質を添加した際に、マクロにはアルカリ性であってもミクロには酸性物質周辺に酸性雰囲気が形成されるので、還元性物質により還元が進む可能性はある。
【0018】
六価クロムの主たる分析方法はDPC吸光光度法とICP発光分析法であるが、双方とも前処理で酸を添加して酸性まで持っていくので、還元性物質が含まれていればこの前処理の工程で必ず六価クロムの還元・無害化が進む。2008年3月の改正後の新JIS K0102(以下、「新JIS」という。)においては、上述の通り、分析の過程で六価クロムが無害な三価クロムに変化するのを避けるための所定の前処理を実施することを要求している。図1は、試料に添加した還元物質の量と六価クロム溶出値の関係を示すグラフである。図1に示す通り、試料に還元性物質が含まれていると、新JISによる分析結果と、改正前のJIS K0102(以下、「旧JIS」という。)による分析結果とが大きく異なっている。
【0019】
建設業においてはセメント混合による地盤改良によって地盤の強度を確保したり、セメント系副産物を盛土等に利用したりする際に土壌環境基準が問題となる。いずれもセメントの固化体であり、溶出低減(不溶化)や還元(高炉セメント利用)の効果を経た結果としての溶出量で環境基準の達成の有無、地盤利用の可否が判断されている。
【0020】
本実施形態においては、セメント系固化体又はセメント系副産物からの六価クロム溶出を対象とし、高濃度の六価クロムを含む鉱さいは除外する。
【0021】
環境基準を超えるセメント系固化体及びセメント系副産物はそれを扱う建設業者の責任・判断のもとに処理されている。建設業者としては不溶化、還元・無害化を適正に実施し、環境への汚染拡散を起こさないことが求められている。そのために、六価クロムの不溶化と還元・無害化に関する技術を構築した。
【0022】
<六価クロムの不溶化方法>
本実施形態に係る六価クロムの不溶化方法は、セメント系固化体又はセメント系副産物を被処理物とし、これに含まれる六価クロムを対象としたものである。この方法は、二酸化炭素の存在下において被処理物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程後の被処理物に水を加える加水工程と、加水工程後の被処理物と、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤とを混合する混合工程とを備える。
【0023】
セメント系固化体又はセメント系副産物の例としてグリーンカットズリ(コンクリートダム堤体の打ち継ぎ面処理時に発生)、セメント系濁水の沈殿汚泥やRC造建設物の解体で発生するコンクリート塊などが挙げられる。被処理物のサイズが大きい場合には、乾燥工程又は加水工程に先立ち、被処理物を粉砕したり、その後に分級したりする工程を実施することが好ましい。被処理物を地盤材料として再利用するには、被処理物の篩下成分の粒度は5mm以下であることが好ましい。
【0024】
乾燥工程は、二酸化炭素の存在下において被処理物を自然乾燥又は加熱により乾燥させ、被処理物に含まれる酸化カルシウムと二酸化炭素を反応させて炭酸カルシウムを生じさせる工程である。大気中には二酸化炭素が含まれているので、大気雰囲気下で乾燥工程を実施すればよい。なお、被処理物の炭酸化をより確実且つ短時間に行うには、大気よりも二酸化炭素濃度が高いガスを被処理物に供給し、被処理物を攪拌するなどの処置を実施してもよい。乾燥工程後における被処理物の含水率は、10%以下であることが好ましく、これは溶出前処理としての風乾工程後の含水率が概ね10%以下であることから、溶出工程での炭酸化を見込む必要をなくするため、乾燥工程で十分な炭酸化を確保するためである。
【0025】
加水工程は、乾燥工程後の被処理物に水を加えて含水率が所定の範囲となるように調整する工程である。加水工程後における被処理物の含水率は、10〜30%であることが好ましく、下限の10%は反応場に水が必要なことから設定したもの、上限の30%は被処理物を砂質土相当と仮定した上で、塑性を保つことができる含水率として設定したものである。しかし、上記薬剤を添加すると反応が起き、粒子間の摩擦が減って液状化したり、反応場の濃度が低減したりする場合があるので、10〜15%がより好ましい。
【0026】
混合工程は、加水工程後の被処理物と、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤とを混合する工程である。この工程においては、当該薬剤から生じる水酸化アルミニウムのゲルに被処理物に含まれる六価クロムを取り込んで不溶化する。当該薬剤の具体例として、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示すポリマや硫酸バンドが挙げられる。当該ポリマの具体例として、ポリ塩化アルミニウム(PAC)が挙げられる。PACや硫酸バンドは、塩化物や酸性基等を含むものであり、水の存在下において酸性を示す。なお、PAC及び/又は硫酸バンドとアルミン酸ナトリウム(NaAlO)とを併用してもよい。NaAlOは加水分解するとアルカリ性を示すので、酸性化剤の添加を要し、PAC及び/又は硫酸バンドの酸性成分を利用することができる。
【0027】
例えば、グリーンカットズリを被処理物とし、上記薬剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)を使用する場合、PACの配合量は、被処理物100質量部に対して5.0〜10.0質量部であることが好ましい。PACの配合量が少量であると、六価クロム溶出抑制効果が不十分となりやすく、他方、多量であると液状化が起きたり、処理コストが増大したりする傾向となる。
【0028】
(セメント系濁水の沈殿汚泥に対する不溶化処理)
セメント系濁水の沈殿汚泥はハンドリングが悪いので現場では石灰系固化材等で固化が行われる場合がある。そこで、沈殿汚泥の湿重量の8〜9%相当の石灰系固化材を添加した。その結果、溶出量は旧JIS、新JISでともに約0.45mg/Lから約0.2mg/Lへと半減した。石灰系固化材の固化による不溶化効果が働いたものと思われる。
【0029】
この石灰処理汚泥1087gに対して粉体PACを徐々に添加し、六価クロムの溶出量を新JISと旧JISで評価した。PAC添加によって六価クロム溶出量は低下するが、リバウンドが見えた(図2参照)。溶出低下の理由は水酸化アルミニウムへのトラップで、リバウンドは水酸化アルミニウムの溶解であると思われる。通常、水酸化アルミニウムは酸、及びアルカリ溶液に容易に溶解するが、沈殿後時間経過して結晶性になったものは塩基水溶液に対しては溶解しにくくなる。溶出液のpHが高くても、添加量に応じた低減が見えているのは、固体混合の場が不均一であるためと思われる。一方、PACを過剰に加えた場合には内部で酸性雰囲気の部分が増えて水酸化アルミニウムが溶解し、六価クロムが再溶出するものと思われる。つまり、溶出液のpH(平均的なpH)と鉱物表面の部分的なpHは異なっている。
【0030】
【表1】

【0031】
(コンクリートダムのグリーンカットズリに含まれる骨材の再利用)
コンクリートダムの骨材は最大径が80mm程度である。通常、大きな副産物には粗骨材が含まれている。粗骨材部分は表面にセメント成分が付着していても、骨材の重量が大きいために単位重量当たりの溶出ポテンシャルは低いといわれている。そこで、現場で行われている分級の状況を考慮して、現場で採取したグリーンカットズリを自然乾燥させた後(乾燥工程後)、4.75mmのふるいで分級し、篩上成分(>4.75mm)と篩下成分(<4.75mm)とを得た。
【0032】
篩上成分(>4.75mm)を破砕して新JISで溶出試験した。含水率は11.1%、pHは11.2、六価クロムは0.035mg/Lで環境基準を満たした。
【0033】
他方、上述の自然乾燥後の篩下成分(<4.75mm)に表面が完全に湿り、塑性を維持できる程度に加水(含水率:15%)した。その後、ポリ塩化アルミニウム(PAC)を適宜添加して新JISで溶出試験を行ったが、PAC添加時にガスと水分が発生した。ガス分析をしたところCOであった。今回は六価クロム溶出量のリバウンドが見られなかったが、これは自然乾燥によって中性化(炭酸化)が起き、これが酸性であるPACを添加した際に緩衝作用を起こしたためと思われる(図3参照)。つまり、グリーンカットズリを乾燥しつつ炭酸化し(乾燥工程)、分級して篩上成分(粗骨材)を分離すると、これは地盤としてリサイクルすることができる。その後に篩下成分に対して加水工程及び混合工程を実施すると粒度が揃うこと、セメントを含む成分が濃縮されることから安定な不溶化が効率的に可能となる。
【0034】
【表2】

【0035】
PACは水中では[Al(OH)153+、[Al(OH)204+、[Al13(OH)345+などの形態で存在し、pH5.5〜8の範囲で加水分解を受けると、OHを消費して水酸化アルミAl(OH)となり、フロックを生成する。水溶液から新たに生成したゲル状沈殿は酸および塩基水溶液に容易く溶解するが、沈殿後時間が経過したものおよび、結晶性の水酸化アルミニウムは特に塩基水溶液に対し溶解しにくくなる。水酸化アルミニウムAl(OH)は熱的には約200℃までは安定しており、さらに加熱すると水を失って、安定な酸化アルミニウムAlとなる。
【0036】
PAC添加による六価クロムの溶出抑制は、現在のところ水酸化アルミのゲルへの取込みであると思われる(図4参照)。上述の知見から初期の水溶液が酸あるいはアルカリ側へシフトした際には再溶出するが、時間経過したものや固体にPACを混ぜて化学変化を経たものは、Alとまではいかないが安定した状態にあるといえる。
【0037】
乾燥・分級したグリーンカットズリの篩下成分(<4.75mm)に重量比で15%の水を加えた試料をブランク、7.5%のPACを添加した試料をベースとする。これに、酸添加、加温等の外乱を与えた際の六価クロム溶出への影響を調べた。分析は新JIS、土壌環境センター技術標準GEPC・TS02−S1、全クロムとした。土壌環境センターの分析方法は、実際の環境を考慮した酸性抽出試験、全クロムは鉄共沈を行わず、溶解性三価クロムCr3+を含めて定量したものである。いずれも環境基準値よりも1オーダー程度以上小さい値となっており、乾燥・加水前処理をした後にPAC添加した不溶化は安定であるといえる。なお、土壌環境センター技術標準は公定法に準ずるものである。
【0038】
【表3】

【0039】
<六価クロムの無害化方法>
本実施形態に係る六価クロムの無害化方法は、セメント系固化体又はセメント系副産物を被処理物とし、これに含まれる六価クロムを対象としたものである。この方法は、二酸化炭素の存在下において被処理物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程後の被処理物に水を加える加水工程と、加水工程後の被処理物と亜硫酸カルシウムとを混合する第一混合工程と、第一混合工程後の被処理物と、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤とを混合する第二混合工程とを備える。つまり、この無害化方法は、加水工程の後であって水酸化アルミニウムと被処理物とを混合する工程(第二混合工程)の前に、亜硫酸カルシウムと被処理物とを混合する工程(第一混合工程)を備える点において、上述の不溶化方法と相違する。
【0040】
被処理物に水を加える工程(加水工程)と、被処理物と亜硫酸カルシウムとを混合する工程(第一混合工程)は順序を逆にして、第一混合工程の後に加水工程を実施してもよい。また、加水工程と第一混合工程を合わせて、亜硫酸カルシウムを適用溶解した水を適量加水してもよい。なお、PACは水分があると反応し、空気中の湿度でも潮解するので、PACの添加(第二混合工程)は第一混合工程及び加水工程よりも後であることが望ましい。
【0041】
六価クロムの還元・無害化はpHが低いほど促進されるため、六価クロム排水の還元・無害化ではpHは2以下に設定されることが多い。しかし、還元式は水素イオンHがあれば進むことを意味しているので、pHと還元の状況を確認する。
【0042】
水酸化カルシウム水溶液Ca(OH)aqに六価クロム標準液を添加して0.1mg/Lとなるように調整し、硫酸、水酸化ナトリウムを添加してpH調整した後、亜硫酸カルシウム濃度が500mg/Lとなるように亜硫酸カルシウム(還元剤)を添加して、新JISで六価クロムの濃度の変化を分析して、還元状況を調べた。
【0043】
六価クロムの初期濃度0.1mg/Lが還元剤(亜硫酸カルシウムCaSO)を添加することで六価クロム濃度が低下したのは初期pH4以下のケース(No.1〜No.4)であり、これらについてはpHの上下変動が見られた。亜硫酸カルシウムは強アルカリと弱酸の難溶性塩であり、微量に溶けた亜硫酸カルシウムはCa(OH)によってpHが上昇する方向にシフトする。しかし、水溶液中の酸化性物質を還元すると自らは酸化されて強酸の硫酸イオンとなり、pHは元のレベルに戻る(図5参照)。つまり、六価クロムの還元が進むと強酸が発生することから一気に還元が進む反応形態となっている。表4に示す通り、No.1〜No.4については六価クロム濃度が低下した。
【0044】
【表4】

【0045】
有機物も酸化能を有する物質であるが、還元剤の代わりに用い、pHを2まで低下させたが、六価クロムはほとんど還元しなかった。従って、六価クロムの短期の還元・無害化には酸化性物質としての還元剤(短期で酸化可能)とpH管理が重要となる。
【0046】
PACは酸性であり、還元性物質の存在の下で還元・無害化効果を発揮する。対象は上述の不溶化処理と同様にグリーンカットズリを乾燥・加水したものである。還元剤として亜硫酸カルシウム、酸性化剤としてのPACを添加した際の六価クロム溶出試験を実施した。なお、亜硫酸カルシウムを添加すると若干流動性がよくなる。さらに、PACを添加すると、化学反応が進み、二酸化炭素の発生も手伝って流動性がさらに向上するが、こちらは徐々に粘性が増し、硬化していくので、薬剤の添加順序は、まず亜硫酸カルシウム、次にPACである。
【0047】
水溶液中のpHや六価クロム濃度はほぼ均一であるが、固体である亜硫酸カルシウムを添加するとその表面はバルク(水溶液全体)とは異なった状況となる。固体同士の場合はさらに不均一な系が構成され、例えば、全体では溶出液のpHが6であっても、部分的にはpHが4のところができて還元・無害化が進む場合がある。さらに、グリーンカットズリにPACを添加した際には発熱とCO発生という2つの面でエンタルピーの減少による安定化が起き、さらには酸性の余剰水分が一時的に被処理物の表面に発生するため、反応場が活性化する。
【0048】
乾燥したグリーンカットズリに水を15%添加して、亜硫酸カルシウムを1%添加したものと無添加のものについてPAC添加量と六価クロム溶出量の関係を調べた。酸性化剤にPACを用いた場合は、PAC単体での不溶化効果があるために、大量に添加すると不溶化の効果なのか、還元の効果なのか分からなくなる。PAC添加5%の段階で還元剤無添加では0.008mg/L、還元剤添加では<0.005mg/L(定量下限値の小さい全クロムでは0.001mg/L)となっており、還元剤の効果が表れている。
【0049】
【表5】

【0050】
そこで、還元剤とPACの添加量を変えて、全クロムとpHを分析した。全クロムとした理由は、大量の亜硫酸カルシウムにより新JISでも分析工程で還元が起きてしまうことが確認されたためと、定量下限値が低いためである。
【0051】
以下の表6から、不溶化剤かつ酸性化剤としてPACを添加しても、還元剤(亜硫酸カルシウム)を添加しても六価クロム溶出量は低減傾向にあることが分かる。ただし、この実験の設定では溶出液のpHは平均で7.7止まりであった。図5から水溶液のような均質系では亜硫酸カルシウム添加後のpHが7.0以上であると反応が進まないが、反応が進み出すとpH低下が起きる。一方、固体の場合には、溶出液のpHが7.0よりも大きくても、部分的にはpHが低い部分ができて還元が起きている。このことから、溶出液のpHが7よりも小さい状況であれば、還元したことを分析値で示すことはできないが、グリーンカットズリとPACの混合時に還元・無害化可能な状態となり、さらにPACの固化により不溶化したと考えることができる。なお、被処理物の自然乾燥等によって中性化(炭酸化)を進めた場合、不溶化剤としてのPACの必要量は変わらないが、酸性化剤としてのPACの必要量は低減される。
【0052】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系固化体又はセメント系副産物を被処理物とし、これに含まれる六価クロムの不溶化方法であって、
二酸化炭素の存在下において前記被処理物を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後の前記被処理物に水を加える加水工程と、
前記加水工程後の前記被処理物と、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤とを混合する混合工程と、
を備える方法。
【請求項2】
セメント系固化体又はセメント系副産物を被処理物とし、これに含まれる六価クロムの無害化方法であって、
二酸化炭素の存在下において前記被処理物を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後の前記被処理物に水を加える加水工程と、
前記加水工程後の前記被処理物と亜硫酸カルシウムとを混合する第一混合工程と、
前記第一混合工程後の前記被処理物と、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤とを混合する第二混合工程と、
を備える方法。
【請求項3】
セメント系固化体又はセメント系副産物を被処理物とし、これに含まれる六価クロムの無害化方法であって、
二酸化炭素の存在下において前記被処理物を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後の前記被処理物と亜硫酸カルシウムとを混合する第一混合工程と、
前記第一混合工程後の前記被処理物に水を加える加水工程と、
前記加水工程後の前記被処理物と、水の存在下において水酸化アルミニウムを生成するとともに酸性を示す薬剤とを混合する第二混合工程と、
を備える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−255269(P2011−255269A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129997(P2010−129997)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】