説明

六価クロムを含有する特定廃棄物の無害化処理剤

【課題】 本発明が無害化処理の対象とする六価クロムを含有する特定廃棄物、即ち火葬場の骨灰、クロムをなめし材とした皮革のなめし処理後の皮革や廃液、耐火クロム煉瓦に係わる廃棄物、クロムメッキ廃液等廃棄物、木造建築物の廃材、その他土壌埋め戻し剤の廃棄物に存在する六価クロムを人体に悪影響を及ぼさず、容易且つ迅速に、無害な三価のクロムに還元する無害化処理剤を提供せんとするにある。
【解決手段】 上記課題に対し、アスコルビン酸及びその異性体若しくはそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩の一種又は二種以上を主成分とする溶液よりなる六価クロムを含有する特定廃棄物の無害化処理剤をもって解決の手段とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼等の含クロム合金鋼やフェロクロム、金属クロム等の溶解、圧延、溶接、溶断等の加熱処理に伴って発生する含クロム鉱滓以外の、本発明が無害化処理の対象とする六価クロムを含有する特定廃棄物即ち、火葬場の骨灰、クロムをなめし材とする皮革なめし処理後の廃液及び皮革並びにその焼却灰、耐火クロム煉瓦などを焼く窯業廃棄物、クロムメッキ業界のメッキ廃液等廃棄物やその他六価クロムを含有する廃棄物、例えば、木造建築の廃材やその焼却灰、或いは某社の土壌埋め戻し剤、製品名フェロシルトに、六価クロムを含有した不要廃硫酸を意図的に混入して埋め戻し剤として販売し、埋め立てに使用して、その結果六価クロムが浸出流出して深刻な環境汚染を発生したが、このような汚染土壌埋め戻し剤等により汚染された廃棄物を特定しこれを処理対象とする無害化処理剤に係る。
【背景技術】
【0002】
上記のステンレス鋼等の含クロム合金鋼やフェロクロム、金属クロム等の溶解,圧延,溶接、溶断等の加熱処理に伴って発生する含クロム鉱滓の無害化処理については、本出願人の先願である発明の名称、含クロム鉱滓の処理方法(特許第3687014号)によって、極めて有効に無害化処理する方法を開発し、提案しているが、上記の如き特定廃棄物に関しては、従来有効な処理方法がなく、その極めて有害な廃棄物はそのまま放置され、危険な環境を作っていることが判明した。
上記の六価クロムの人体に対する危険性は、粘膜や皮膚を侵し、鼻中隔の穿孔や鼻、肺、咽喉などへの腫瘍の発生の恐れがある。
上記の特定廃棄物の一つである骨灰にも六価クロムが混入していることが、ジフェニルカルバジット法に準拠して発色させると、極めて明瞭に赤紫色の発色が認められることを発見した。これは火葬釜内の火格子がステンレス鋼製や含クロム鋼製であるため、火葬の際、釜は高温となり、火格子の鋼材のクロムが酸化されて鉱滓となり、脱落して骨灰に混入したものと推定される。
同じく、特定廃棄物に指定した、皮革のなめし工程でクロム錯塩の溶液をなめし剤として吸収させた際、その皮革の廃棄物に六価クロムが混入していることを上記検査法により確認した。
同様に、多様な耐火レンガの内、クロム鉄鉱を主原料とする耐火レンガは焼成の際、高温に曝されたクロム質が酸化して六価クロムが生成するものと推定され、上記検査法によりその存在を確認した。
更に、クロムメッキ法におけるメッキ浴には、クロム酸に少量の酸根を加えたものが使用されるが、電解に伴ってクロム量の一部が六価クロムに変性して廃液中に存在していることを上記検査法により確認した。
更に、木造建築物の廃材に塗布されていたと思われる薬種は定かではないが防腐剤や白蟻駆除剤の影響か、その廃材やその焼却灰から六価クロムの存在が同検査法により確認された。
これら六価クロムの還元により無害な三価クロムに変性させる手段として、従来は硫酸第一鉄か亜硫酸ソーダを還元剤として使用し、六価クロムを三価クロムに還元処理し、更に消石灰などのアルカリ剤を添加することにより水酸化クロムとして沈殿させ、これを分離除去する方法が採用されているが、斯かる処理方法は極めて煩雑で面倒なうえ、これらの還元剤は化学反応が穏やかなために、処理に長時間を必要とする欠点があり、且つ硫酸第一鉄の場合は多量の鉄イオンがやがては水酸化第二鉄として沈殿副生する欠点があり、また亜硫酸ソーダの場合は、その取扱いに際して亜硫酸ガスを発生するため、人体に対し有害であるなどの欠点があった。
これらの欠点を理由として、上記従来の処理法が普及せず、止むなく、無視放置されているのが実状である。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
叙上の実態に対し、本発明は上記特定した廃棄物中の六価クロムを従来にない簡単な方法で迅速に無害な三価クロムに還元可能な無害化処理剤を提供するにある。
【課題を解決する為の手段】
【0004】
叙上の課題に鑑み、これを解決するための手段として次のごとく提案する。即ちアスコルビン酸及びその異性体若しくはそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩の一種又は二種以上を主成分とする溶液より成る、六価クロムを含有する特定廃棄物の無害化処理剤を解決の骨子とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
アスコルビン酸及びその異性体若しくはそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の誘導体の単体又は二種以上を含む溶液より成る本無害化処理剤を、本発明において特定した各廃棄物に散布するか浸漬する等の手段により、アスコルビン酸及びその誘導体の強力な且つ速効的な還元力によって当該各廃棄物に含まれている六価クロムを無害な三価クロムに還元する作用を奏するものである。尚、上記の溶液に対し、pH変化によって変色するpH指示薬を添加配合することにより、当該廃棄物に含有の六価クロムのアルカリ性に対しアスコルビン酸は酸性のため当該溶液の使用時にその色調の変化から、当該溶液の使用量の適量を決定する上で極めて有効である。
尚、当該溶液の溶媒は水が好適であるが、これに限定するものではなく、アルコール等他の溶媒の採用を妨げるものではなく、また溶液の浸透を助けるために界面活性剤を,湿潤性を付与するためにグリセリンなどを配合すれば更に効果的である。
尚又、アスコルビン酸水溶液の濃度について、その有効度を調査したところ、0.1重量%以下では還元効果はそれなりに有るものの、使用量が多くなり実用性に難点があるが、0.5重量%以上からは適度な使用量で顕著な還元効果が認められ、更にそれ以上の高濃度の場合は、より少量の使用量で足りるなど、処理すべき廃棄物の処理量や、含有する六価クロム量に応じて適宜選択すればよい。
【実施例】
【0006】
【実施例1】
本発明の処理対象とする特定廃棄物の一つである骨灰の少量を採取して、これに0.25%のジフェニルカルバジットのアセトン溶液を滴下したところ、赤紫色の発色が明瞭に認められ、明らかに六価クロムの存在が確認された。
そこで、同一の骨灰に対し、アスコルビン酸の5重量%水溶液を散布し、数分放置した後、上記アセトン溶液を滴下したところ、赤紫色の発色は全く認められず、六価クロムの存在は完全に消滅し、無害な三価のクロムに還元されたものと推定された。
【実施例2】
皮革のなめし剤として多用されるものに、クロム錯塩の溶液をなめし剤としているが、このなめし剤を使用してなめした皮革、焼却灰、及びその廃液に上記六価クロムの検知薬のアセトン溶液を滴下したところ、明瞭に赤紫色の発色が認められ、明らかに六価クロムの存在が確認できた。
そこで、同一の皮革及びその廃液に、上記実施例1と同様にアスコルビン酸の5重量%水溶液を散布し、数分放置した後、上記アセトン溶液を滴下したところ、赤紫色の発色は全然認められず、六価クロムの不存在を確認した。
【実施例3】
クロム鉄鉱を主原料とする耐火煉瓦、通称クロム煉瓦を粉砕して、その粉末に上記の六価クロム検知薬たるアセトン溶液を滴下したところ、赤紫色の発色を確認した。明らかに六価クロムの存在が確認できた。
そこで、実施例1,2と同様、同濃度のアスコルビン酸の水溶液を散布後しばらく放置して、上記アセトン溶液を滴下したところ、六価クロムの存在を示す赤紫色の発色は全く認められなかった。即ち、六価クロムは三価のクロムに還元された。
【実施例4】
被メッキ材を陰極に、陽極材に鉛板を使用し、メッキ浴として、クロム酸に少量の酸根を加えて直流による電気分解処理を行って、被メッキ材にクロムメッキ処理を施した後、当該メッキ処理材の水洗後の排水を採取して、上記組成より成る六価クロムの検知薬であるアセトン溶液を滴下したところ、赤紫色の発色を見た。この現象から、当該メッキ処理後の排水中には明らかに六価クロムの存在が確認できた。
そこで、上記実施例と同様濃度のアスコルビン酸の水溶液を滴下して攪拌し、しばらく放置後、上記アセトン溶液を滴下して反応を観察したところ、なんら変化は無く、勿論赤紫色の発色は認められず、六価クロムの存在は全く確認できなかった。
【実施例5】
最近、木造建築の廃材を採取し、念のため、六価クロムの存否を上記同様の検査手段により、分析したところ、中に六価クロムの存在を示す発色反応が出たものがあった。
そこで、当該被検体に、上記実施例に示したと同じ濃度のアスコルビン酸を散布して、しばらく放置後、上記アセトン溶液を滴下して発色反応をの有無を観察したが、全く発色反応は認められず、六価クロムの存在は認められなかった。当該廃材の焼却灰についても同様な結果を得ている。
【実施例6】
六価クロムの流出で深刻な環境汚染問題を発生した土壌埋め戻し材、製品名フェロシルトは、酸化チタンの製造過程で発生する廃硫酸から製造されるものであるが、六価クロムを含有すると推定される不要廃酸液を無害化処理することなく、当該製品に混入して起こした事件であるが、その原因はフェロシルト自体にはなく、問題は、不当に混入した不要廃硫酸液にある。この廃硫酸液中には既に六価クロムが存在していることが判明しているので、その無害化処理は本発明の処理剤の採用で完遂出来ることは敢えて実験するまでもなく推量できるものである。
また、これに類する六価クロム含有の産業廃棄物の無害化処理についても、本発明の無害化処理剤の適用によって処理可能なることは説明するまでもないと思料する。
【実施例7】
前記実施例におけるアスコルビン酸に代えて、エリソルビン酸若しくはアスコルビン酸又はエリソルビン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの各誘導体を単体若しくは二種以上を用いて同様手法により各特定廃棄物の六価クロムの還元効果を試験したところ、同量のアスコルビン酸よりも若干その還元効果において劣るものの、濃度を適宜高めることにより、略同様な還元効果が得られることを確認した。
【発明の効果】
【0007】
本発明の六価クロム無害化処理剤によれば、本発明で特定した六価クロムを含有する廃棄物に対して、人体に健康を阻害する恐れなく安心して容易且つ迅速に無害化することを可能にしたものであり、六価クロムの存在に起因する深刻な環境汚染を防止する上で産業上極めて有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸及びその異性体若しくはそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩の一種又は二種以上を主成分とする溶液より成る、六価クロムを含有する特定廃棄物の無害化処理剤。

【公開番号】特開2008−231388(P2008−231388A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108707(P2007−108707)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(591120837)株式会社ケミカル山本 (11)
【Fターム(参考)】