説明

六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法及び六方晶系窒化ホウ素焼結体

【課題】低温で焼結することが可能な六方晶系窒化ホウ素焼結体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】粒子の表面のみならず内部にも酸素が含まれている六方晶系窒化ホウ素粉末を圧力成形してプレ成形体とし(プレ成形工程)、プレ成形体を非酸化性ガス雰囲気中又は真空中において600℃以上1100℃未満で焼結する(焼結工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、600〜1100℃という低い温度で焼結することが可能な六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法及び六方晶系窒化ホウ素焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶系窒化ホウ素(h−BN)は、周期表におけるIIIb属の元素であるホウ素(B)と、Vb属の元素である窒素(N)から構成されている。これらの構成元素は、IVb属の炭素(C)の直前及び直後に位置しており、黒鉛に類似の結晶構造を有する。例えば、六方晶系窒化ホウ素のc面内は強固なπ結合で結びついている一方、c軸方向は結合力の弱いファンデル・ワールス結合で結びついているため、板状結晶で劈開面を有している。また、黒鉛と同様、高融点であると同時に、潤滑性、離形性、機械加工性及び耐食性に優れた特性を有している。その一方、六方晶系窒化ホウ素は黒鉛と異なり、電気絶縁性が高く、約1000℃まで耐酸化性を有する。こうした特長を生かして、金属溶融るつぼ、潤滑材、高周波電気絶縁材、製鋼用ノズル、保護管、セッター等に利用されている。
【0003】
しかし、六方晶系窒化ホウ素は、高融点で且つ非酸化物であるため、焼成によって焼き固めることが非常に難しい(難焼成性)という問題点があった。また、バインダーの役割を担う焼結用助剤を用いて焼結させようとしても、濡れ性が悪いため溶融した焼結剤が六方晶系窒化ホウ素表面を濡らさず、焼結用助剤としての役割を充分に発揮することができないという問題もあった。さらには、高温下において酸素の存在下では、六方晶系窒化ホウ素が酸化ホウ素(B)に変化するという問題もあった。
【0004】
こうした問題点を解決するため、次のような方法で六方晶系窒化ホウ素の焼結が行われている。すなわち、真空中やアルゴン雰囲気中や窒素雰囲気中(一般には窒素雰囲気中)で、ホットプレス装置等を用いて1500〜2300℃という高温下、10MPaを超える圧力で焼結させる方法である。
【0005】
しかし、この方法は、次のような問題があり、製造が困難で且つ製造コストが高いものとなっていた。
(1)加圧状態で焼成するため、炉内にホットプレス機構を備える必要があり、気密性を保ちつつ油圧等の駆動によりプレスラムや型・パンチ等で試料を加圧する構造とする必要がある。
(2)ホットプレス装置が高温まで耐える構造とする必要があるために、高温耐久性のある材料を用いるのみならず、加熱に多大なエネルギー(一般には電力)が必要であると同時に、さらに炉の保護のために充分な冷却機構と膨大な量の冷却水も必要である。
(3)ホットプレスで焼成するという制約から、大型品や複雑な形状の物品の作製が極めて困難である。また、このように大変過酷な製造条件であるため環境負荷が非常に大きい。
【0006】
従って、六方晶系窒化ホウ素の焼結体の製造のためには、製造装置もランニングコストも非常に大きなものとなり、製品自身も非常に高価なものとならざるを得なかった。このため、上記のようにユニークな特性を有するにもかかわらず、必然的にその用途も極めて限られたものとなっていた。さらに、高温で焼成しなければならないことから、環境負荷が非常に大きいため、環境負荷低減に向けての対策も講じる必要があった。
【0007】
こうしたホットプレスによる加圧焼成法の問題点を解決し、製造コストを低下させるとともに、大型品や複雑形状品の作製の製造を容易にするために、様々な常圧焼成法が提案されている(特許文献1〜6参照)。
【0008】
例えば、特許文献1では、SiO2を窒化ホウ素の焼結用助剤として添加した場合に、還元雰囲気中でSiO2が還元されてSiOとして揮散するという欠点を改良するために、これらの系にさらにB23を添加することにより問題解決を図っている。
【0009】
また、特許文献2では、窒化ホウ素に結合剤として無水硼酸(B23)や窒化アルミニウム(AlN)を用いる際、アルミニウムと珪素の混合粉末、またはこれらの合金粉末等を窒化ホウ素と混合して、窒素気流中又は窒素を主として含む微酸化性雰囲気中で焼成する方法が記載されている。この方法によれば、高温電気特性の低下や溶融物に対する耐食性の劣化が防止され、さらには、AlNを用いた場合の成形体の機械的強度の低下や溶融物に対する耐食性の不足といった問題点が解決できると述べられている。
【0010】
さらに特許文献3では、焼成前の成形段階で、可能な限り高密度な成形体を作り、低膨張率のモールド内にて不活性雰囲気中で焼成するという、六方晶系窒化ホウ素の焼結方法が記載されている。この方法によれば、無加圧で焼成する場合にサンプルが焼成中に膨張するために緻密化しないという欠点を解決することができると記載されている
【0011】
また、特許文献4では、相手材(焼結用助剤や結合剤)を多量に添加することにより、六方晶系窒化ホウ素の焼成性を向上させ、機械的強度の向上を図っている。さらには、原料粒度、焼結用助剤の種類と量、焼成温度を制御することによって、窒化ホウ素の高温安定性を改善し、実用に耐える特性を有するものとすることが図られている。
【0012】
さらに、特許文献5では、アルカリ土類金属硼酸塩を適量含有させ、非酸化性雰囲気において常圧で焼成することにより、大型形状品や複雑形状品を安価に製造することが図られている。
【0013】
また、特許文献6では、窒化ホウ素を主体とする焼成体中に炭素及び炭化ホウ素を分散含有させるということにより、常圧焼成法による焼成体が高温度で強度低下特に耐熱衝撃性が低下するという問題の解決を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公昭47−38047号公報
【特許文献2】特公昭48−43648号公報
【特許文献3】特開昭61−132563号公報
【特許文献4】特開昭63 −303862号公報
【特許文献5】特許第2614874号公報
【特許文献6】特開2001−146477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上記特許文献1〜6の六方晶系窒化ホウ素の焼成方法では、焼成温度が1,200〜2,100℃と極めて高い温度であった。このため、エネルギーの消費量が多くなり、ランニングコストが高価となり、生産効率も良くなく、製品の価格が高価となり、且つ環境負荷の低減も実現できなかった。
【0016】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、常圧下での焼成が可能であって、低温で焼結することが可能な六方晶系窒化ホウ素焼結体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記従来の課題を解決するため、六方晶系窒化ホウ素の焼結助剤として酸化ホウ素を添加することを考えた。これは、酸化ホウ素が長石等他の焼結助剤よりも融点が低く、焼結温度を低くすることが予想されたからである。ところが、予想に反し、六方晶系窒化ホウ素と酸化ホウ素とを混合してプレ成形し、これを非酸化雰囲気中で焼結しようとしても焼結は困難であった。発明者らはこの焼結失敗について検討を重ねた結果、次の理由により十分な結果が得られなかったのではないかと考えた。
【0018】
すなわち、六方晶系窒化ホウ素と酸化ホウ素とを混合しても、酸化ホウ素は均質に分散されず、あるいは、六方晶系窒化ホウ素の粒子が混合時に破砕されて破断面が現れた場合において、その破断面には酸化ホウ素が存在しないことから濡れ性が悪く、これが焼結を困難としている理由であると推定した。
【0019】
そして、さらに研究を重ねた結果、焼結に用いる六方晶系窒化ホウ素からなる粉体の各粒子の表面のみならず内部にも酸素が含まれている場合(すなわち、1粒の六方晶系窒化ホウ素の結晶粒子に、酸化ホウ素が内部まで分散して存在している場合)には、特に焼結助剤を用いなくても、焼結が低温で可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明の六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法は、六方晶系窒化ホウ素を非酸化性ガス雰囲気中又は真空中において焼結する窒化ホウ素焼結体の製造方法であって、原料となる六方晶系窒化ホウ素粉体の各粒子には表面のみならず内部にも酸素が含まれており、焼結温度は600℃以上1100℃未満であることを特徴とする。
【0021】
本発明の六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法では、焼結が非酸化性ガス雰囲気中又は真空中において行われるため、六方晶系窒化ホウ素の酸化を防止することができる。ここで、非酸化性ガスとは、焼結時に窒化ホウ素と反応しないガスをいい、アルゴンガスやヘリウムガス等の希ガスの他、窒素ガスも含む。
また、原料となる六方晶系窒化ホウ素粉体の各粒子には表面のみならず内部にも酸素が含まれているため(すなわち、六方晶系窒化ホウ素粉体を構成する各粒子において、酸化ホウ素が内部まで分散して存在しているため)、焼結助剤を用いなくても、六方晶系窒化ホウ素粉体の各粒子には表面のみならず内部にも存在する酸化ホウ素が焼結材の役割を果たし、六方晶系窒化ホウ素の一粒の粒子内部においても焼結効果が得られ、その結果、ホットプレスを用いなくても、焼結前にプレ成形しておくだけで焼結が可能となる。また、酸化ホウ素の融点は480℃と低いため、600℃以上1100℃未満という低温での六方晶系窒化ホウ素の焼結が可能となる。
【0022】
六方晶系窒化ホウ素の内部に酸素が含まれているか否かを調べる方法としては、オージェ電子分光分析におけるイオンミリング法を用いた深さ方向の測定によって、確認することができる。発明者らは、この方法により、SiO換算で300nmの深さにおいて酸素の存在が確認された六方晶系窒化ホウ素を用いて焼結体を製造することにより、焼結体の相対密度が高くなり、機械的強度も優れたものとなることを確認している。さらに好ましいのは600nmの深さにおいて酸素の存在が確認される六方晶系窒化ホウ素であり、最も好ましいのは900nmの深さにおいて酸素の存在が確認される六方晶系窒化ホウ素である。
【0023】
また、六方晶系窒化ホウ素の酸素含有量は10重量%以上であることが好ましい。
【0024】
本発明の六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法では、まずプレ成形工程として、粒子の表面のみならず内部にも酸素が含まれている六方晶系窒化ホウ素粉末を圧力成形してプレ成形体とし、さらに焼結工程として、非酸化性ガス雰囲気中又は真空中において600℃以上1100℃未満で焼結する。
【0025】
原料となる六方晶系窒化ホウ素の平均粒径は10μm以下とされていることが好ましい。平均粒径を10μm以下まで細かくすれば、焼結体が緻密となり、機械的強度の高い焼結体をより低い温度で得ることができるからである。
【0026】
本発明において、焼結工程では、特に圧力をかけなくても、焼結を行うことができる。このため、ホットプレス装置等の複雑な装置を用意しなくてもよく、製造装置の設備費が低廉化し、ひいては製造コストを低廉化することができる。
【0027】
発明者らは、本発明の六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法により、相対密度が60%以上の焼結体が得られることを確認している。また、得られた焼結体の走査型電子顕微鏡による観察から、焼結体中の六方晶系窒化ホウ素の結晶は、非板状の形態をなすことを確認している。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によれば、相対密度が高く、機械的強度の優れた六方晶系窒化ホウ素焼結体を600℃以上1000℃以下という低い温度で製造することができる。製造コスト及び環境負荷を低く抑えることができる。
また、ホットプレスのような加圧焼成を必要としないので、低コストでしかも大型形状品や複雑形状品を容易、且つ生産効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1及び実施例2で使用した窒化ホウ素粉末粒子のオージェ電子分光測定による深さ方向の元素分析結果である。
【図2】実施例1及び実施例2の焼成体の外観写真である。
【図3】実施例1及び実施例2の焼成体の破断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1及び実施例2の焼成体及び原料のXRD測定のチャートである。
【図5】比較例1及び比較例2で使用した窒化ホウ素粉末粒子のオージェ電子分光測定による深さ方向の元素分析結果である。
【図6】比較例1及び比較例2の焼成体の外観写真である。
【図7】比較例1及び比較例2の焼成体の破断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】比較例1及び比較例2の焼成体及び原料のXRD測定のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に使用する六方晶系窒化ホウ素は、六方晶系窒化ホウ素粒子の表面のみならず内部にも分布してなる(すなわち、六方晶系窒化ホウ素の結晶粒子の内部にまで酸化ホウ素が分散して存在している)六方晶系窒化ホウ素であれば、特に制限はない。具体的には、例えば市販品としては、六方晶系窒化ホウ素(有限会社オクトム製、商品名:SFM、BNとしての純度40重量%、Bを57重量%含有)が挙げられる。六方晶系窒化ホウ素粉末粒子表面の酸素の存在の有無についてはオージェ電子分光測定によって確認できる。またその内部の酸素の存在については、その窒化ホウ素粒子の観察面をイオンエッチング装置によりエッチングを行うことにより粉体粒子内部の測定を行うことができる。
【0031】
また、本発明に使用する六方晶系窒化ホウ素は、表面のみならず各粒子の内部まで酸素が存在するため、解砕・粉砕して生じる新生面にも酸素が分布している。このため、酸化処理を特に施さなくても、濡れ性が良好であることが特徴である。解砕・粉砕処理を行なう場合の方法については、得に制限は無いが、湿式が好ましい。ただし、湿式における媒体として水を用いると、窒化ホウ素に含まれている酸化ホウ素(B)が水に溶出するため、水を含む媒体は避けるべきである。好ましくは、エタノールやイソプロピルアルコール等の有機溶媒中で行う。また解砕・粉砕処理に用いるボールミルは、5mm以下のアルミナ製ボールを用いた遊星ボールミルによる処理が好適であるがこれに制限するものではない。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の実施例について詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1では、原料として、六方晶系窒化ホウ素粉末(有限会社オクトム製、商品名:SFM、BNとしての純度40重量%、Bを57重量%含有)を用いた。この窒化ホウ素粉末は、蛍光X線による定量分析では、酸素含有量は25重量%であった。また、オージェ電子分光測定により、この六方晶系窒化ホウ素の深さ方向の元素分析を行った。その結果を図1に示す。図1において200eV、410eV及び540eV付近にあるピークがそれぞれホウ素(B)、窒素(N)及び酸素(O)のピークに相当する。また、イオンエッチングする前の測定結果(すなわちB、N及びOの各プロファイルにおいて、最も手前側のプロファイル)が粒子表面での分析結果である。さらに、イオンエッチング装置によりSiO換算で30nm/1分となるような条件(イオンガンの加速電圧は3kV、イオン生成用のエミッション電流は20mA)で10分間ずつ粉末粒子を表面からエッチングを行って削り取り、粉末内部の分析も行った。その結果、少なくともSiO換算で900nmまでは、相当量の酸素原子が存在していることが分かった。
【0033】
<プレ成形工程>
次に、直径約16mm、厚さ約7mmの円筒形の金型に上記六方晶系窒化ホウ素粉末を充填し、CIP(Cold Isostatic Press)を用いて200MPaでプレ成形体を作製した。
【0034】
<焼成工程>
このプレ成形体を窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で昇温し,1000℃で1時間保持して焼成した。その後、炉冷して六方晶系窒化ホウ素焼結体を得た。
【0035】
(実施例2)
実施例2では、焼成工程における焼成温度を800℃とした。その他については実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0036】
−評 価−
(外観観察及び走査電子顕微鏡による観察)
こうして得られた実施例1及び実施例2の六方晶系窒化ホウ素焼成体の外観写真を図2に示す。また、それらの破断面の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。図2及び図3から、実施例1及び実施例2の六方晶系窒化ホウ素焼結体は、均質な窒化ホウ素焼結体が得られていることが分かる。なお、図3に示す破断面には、通常の六方晶系窒化ホウ素において観察される板状結晶が認められなかった。これは、実施例1及び実施例2において用いた六方晶系窒化ホウ素は、酸化ホウ素が粒子内部にまで存在することに起因するものと推定される。そして、粒子内部にまで存在する酸化ホウ素が焼結助剤の役割を示して、800℃、1000℃といった低い温度での焼結を可能としているものと考えられる。
【0037】
(相対密度及び曲げ強度)
実施例1及び実施例2の窒化ホウ素焼結体の密度を焼結体の寸法及び重量から算出した。なお、理論密度は2.27g/cmとした。さらに、3点曲げ強度も測定した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、実施例1及び実施例2ともに相対密度は60%を超えており、また、曲げ強度も実施例1で13.5MPa、実施例2で19.0MPaという高い値を示した。このような高強度の窒化ホウ素焼結体が得られた理由は、原料として使用した窒化ホウ素に含まれている酸化ホウ素が、焼結助剤として機能したものと考えられる。ただし、酸化ホウ素の粉末と高純度の窒化ホウ素の粉末との混合物を焼結させても、このような高強度の焼結体は得られなかった。このことから、焼結には、表面のみならず各粒子の内部にも酸素が含まれている六方晶系窒化ホウ素粉体を用いなければならないことが分かった。
【0040】
(XRD測定)
実施例1及び実施例2の六方晶系窒化ホウ素焼結体のXRDを測定した。その結果図4に示すように、どちらの焼結体も、六方晶系窒化ホウ素の回折ピークが明瞭に認められた。
【0041】
(比較例1)
比較例1では、「純度99%の六方晶系窒化ホウ素粉末(昭和電工製 UHP)」を用いた。その他の条件については実施例1と同様にして1000℃で焼結を行った。
【0042】
比較例1で用いた純度99重量%の六方晶系窒化ホウ素粉末のオージェ電子分光測定を行い、深さ方向の元素分析を行った。その結果を図8に示す。図8において184eV及び405eV付近にあるピークがそれぞれホウ素(B)及び窒素(N)のピークに相当する。また、酸素は存在していれば540eV付近に出現するはずであるが、認められなかった。イオンエッチングする前の測定結果(すなわちB、N及びOの各プロファイルにおいて、最も手前側のプロファイル)が粒子表面での分析結果である。さらに、イオンエッチング装置によりSiO換算で30nm/1分となるような条件(イオンガンの加速電圧は3kV、イオン生成用のエミッション電流は20mA)で10分間ずつ粉末粒子を表面からエッチングを行って削り取り、粉末内部の分析も行った。その結果、表面から少なくともSiO換算で900nmまでは、酸素原子がほとんど検出されなかった。
【0043】
(比較例2)
比較例2では、「純度99%の六方晶系窒化ホウ素粉末(昭和電工製 UHP)」を用いた。その他の条件については実施例2と同様にして800℃で焼結を行った。
【0044】
−評 価−
(外観観察及び走査電子顕微鏡による観察)
こうして得られた比較例1及び比較例2の焼結体の外観写真を図9に示す。また、それらの破断面の走査型電子顕微鏡写真を図10に示す。これらの図から、比較例3及び比較例4の六方晶系窒化ホウ素焼結体は、一応、均質な窒化ホウ素焼結体が得られていることが分かる。また、図10の破断面から、通常の六方晶系窒化ホウ素において観察される、板状結晶が認められた。
【0045】
(相対密度及び曲げ強度)
比較例1及び比較例2の窒化ホウ素焼結体の密度を焼結体の寸法及び重量から算出するとともに、3点曲げによる試験を行った。理論密度は2.27g/cmとした。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2より、窒化ホウ素の融点より低い温度で相対密度60%以上の焼結体を調製することができるものの、曲げ強度は実施例1〜実施例4と比較して低いことが分かった。これは、原料としての高純度六方晶系窒化ホウ素には、焼結助剤として機能する酸化ホウ素がほとんど存在しなかったためと考えられる。
【0048】
(XRD測定)
また、比較例1及び比較例2の六方晶系窒化ホウ素焼結体のXRDを測定した。その結果図11に示すように、どちらの焼結体も、六方晶系窒化ホウ素の回折ピークが明瞭に認められた。
【0049】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の方法によれば、六方晶系窒化ホウ素基焼成体を従来の方法に比べて低温で製造することができ、潤滑材、電気絶縁材、耐熱材等の部材に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶系窒化ホウ素を非酸化性ガス雰囲気中又は真空中において焼結する窒化ホウ素焼結体の製造方法であって、原料となる六方晶系窒化ホウ素粉体の各粒子には表面のみならず内部にも酸素が含まれており、焼結温度は600℃以上1100℃未満であることを特徴とする六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記六方晶系窒化ホウ素からなる粉体の粒子は、オージェ電子分光分析におけるイオンミリング法を用いた深さ方向の測定において、SiO換算で少なくとも300nmの深さまでは酸素の存在が確認されることを特徴とする請求項1記載の六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記六方晶系窒化ホウ素の酸素含有量は10重量%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項4】
粒子の表面のみならず内部にも酸素が含まれている六方晶系窒化ホウ素粉末を圧力成形してプレ成形体とするプレ成形工程と、
該プレ成形体を非酸化性ガス雰囲気中又は真空中において600℃以上1100℃未満で焼結する焼結工程と、
を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記焼結工程は、圧力をかけることなく焼結を行なうことを特徴とする請求項3又は4に記載の六方晶系窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の製造方法で製造されており、相対密度が60%以上であることを特徴とする六方晶系窒化ホウ素焼結体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の製造方法で製造されており、焼結体中の六方晶系窒化ホウ素の結晶が非板状の形態をなすことを特徴とする六方晶系窒化ホウ素焼結体。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−148932(P2012−148932A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9211(P2011−9211)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】