説明

共役リノール酸の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は共役リノール酸の製造方法に関し、更に詳しくは、リノール酸含有油脂を特定条件下での共役化反応に付すことにより、油脂中のリノール酸を高効率で共役リノール酸に転化させる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、共役脂肪酸の製造方法としては、エチレングリコールに代表される有機溶媒を使用するアルカリ共役化法(J.Am.Oil Chem.Soc.,36,631(1959)、第34回油化学討論会講演要旨集p171(1995)、基準油脂分析試験法 2.4.16−71)が知られている。J.Am.Oil Chem.Soc.,36,631(1959)は、リノレン酸メチルを水酸化カリウム−エチレングリコール溶液中で200℃、7時間加熱すると約82%程度の共役化が行われると報告している。しかし、この共役化方法では環化およびその他の副反応も起こり、食品に直接用いることはできないと指摘されている。
【0003】さらに、第34回油化学討論会講演要旨集p171(1995)では、基準油脂分析試験法2.4.16−71に準じて試験しており、リノール酸メチルを水酸化カリウム−エチレングリコール溶液中で180℃、2時間反応すると共役ジエン生成率が約80%以上に達し、その時の水酸化カリウムの使用量は1,4−ブタジエン構造に対して6倍モル量であったと報告している。また、溶媒としてジメチルスルホキシドおよびジメチルホルムアミドを用い、アルカリとしてナトリウムメトキシド(1,4−ブタジエン構造に対して2倍モル量)を用いてサフラワー油の共役化反応を行った場合、反応温度30℃、反応時間1.5時間で共役化ジエン生成率が約73%に達したことが報告されている。ここに報告されている三種類の溶媒の中では、アルカリ溶解性の点でエチレングリコールが最も好ましいものである(他の二つの溶媒の場合には使用するアルカリが限定され、かつ多量の溶媒を用いる必要がある)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述のアルカリ共役化法による従来の共役脂肪酸の製造方法では、溶媒としてエチレングリコール、ジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムアミドを使用しているが、これらはいずれも毒性を有する化合物であり、従って、得られる共役化生成物を食品用途に使用することができないという問題があった。そこで本発明は、共役化効率が高く、しかも共役化生成物が食品用途に使用可能な共役リノール酸の製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】アルカリ共役化法により共役リノール酸を製造するに際し、溶媒としてプロピレングリコールを使用することにより上記目的が達成されることが本発明者らにより見出された。即ち、本発明による共役リノール酸の製造方法は、リノール酸含有油脂をアルカリ−プロピレングリコール溶液中にてアルカリ共役化反応に付すことを特徴とするものである。プロピレングリコールを溶媒として使用する本発明の方法によれば、従来のアルカリ共役化法における代表的な溶媒であるエチレングリコールの使用に比してより高い共役化率で共役リノール酸が得られ、かつ、油脂の共役化生成物の着色の程度がはるかに小さい。更に、溶媒に使用するプロピレングリコールは毒性を有さないので、生成物を食品として使用することが可能となる。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明の方法によれば、アルカリ−プロピレングリコール溶液中にてリノール酸含有油脂をアルカリ共役化反応に付すことにより、油脂中のリノール酸を共役リノール酸に転化させる。リノール酸含有油脂としては、サフラワー油、ヒマワリ油、コーン油、大豆油、綿実油、小麦胚芽油、等のリノール酸を含有する任意の油脂類が使用できるが、中でもリノール酸含量の高いサフラワー油およびヒマワリ油が好ましい。本発明において使用可能なアルカリとしては、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、t−ブチルアルコキシド等が挙げられ、中でも水酸化カリウムおよびナトリウムメトキシドが好ましい。これらアルカリは、油脂中のリノール酸に対して一般に1〜8倍モル量、好ましくは3〜6倍モル量の量で使用される。
【0007】本発明の方法においては、溶媒として使用されるプロピレングリコールの使用量は、リノール酸含有油脂に対して一般に1〜10倍量、好ましくは1.5〜5倍量(重量基準)である。リノール酸含有油脂の共役化反応は、上記アルカリのプロピレングリコール溶液中にて窒素気流下で行われ、反応温度は一般に110〜180℃、好ましくは130〜170℃であり、反応時間は一般に1〜5時間、好ましくは2〜3時間である。後述の実施例に示されるように、上記の好ましい反応温度条件下では約80%以上の高共役化率で共役リノール酸が生成される。溶媒として人体に無害なプロピレングリコールを使用する本発明の方法によれば、得られる共役リノール酸含有油脂をゴム用添加剤、IC用絶縁材料といった従来知られている用途に使用できるのは勿論のこと、筋肉増強剤、栄養補助食品等の、従来のアルカリ共役化法では不可能であった食品用途への使用が可能となり、そのメリットは極めて大きい。
【0008】
【実施例】以下の実施例により本発明を更に具体的に説明する。
実施例1プロピレングリコール150gに水酸化カリウム50gを溶解し、溶解後20分間窒素バブリングを行い、110℃まで昇温した。昇温後、サフラワー油100gを加え、窒素気流下で110℃、2.5時間反応させた(使用したサフラワー油の脂肪酸組成を表1に示す)。反応終了後、反応溶液を室温まで冷却し、塩酸を加えて中性にし、15分間撹拌した。続いて、反応溶液をpH3に調整し、蒸留水を加えて5分間撹拌した。次いで、ヘキサン抽出を3回行い、ヘキサン溶液を5%NaCl溶液および蒸留水で洗浄し、脱水ロ過を行った。ロ過後、ヘキサンを留去し、生成共役リノール酸を含む生成物を得た。得られた生成物につきガスクロマトグラフィーにより共役リノール酸含量の測定を行い、リノール酸から共役リノール酸への共役化率を求めたところ、26.5%であった。また、生成物の着色の程度をガードナー法(ASTM D 1544)により測定した結果、ガードナー色度は3であった。
表1−サフラワー油の脂肪酸組成(%) 脂肪酸 反応前 反応後 パルミチン酸 7.0 7.0 ステアリン酸 2.6 2.6 オレイン酸 14.4 14.4 リノール酸 76.0 55.9 共役リノール酸 0 20.1
【0009】実施例2〜7反応温度をそれぞれ120℃(実施例2)、130℃(実施例3)、140℃(実施例4)、150℃(実施例5)、160℃(実施例6)、170℃(実施例7)に変えた以外は実施例1と全く同様に操作し、各々の共役化生成物を得た。得られた生成物についての共役化率およびガードナー色度の測定結果を表2および表3に示す。
【0010】比較例1〜7溶媒をプロピレングリコールからエチレングリコールに変えた以外は実施例1〜7と全く同様に操作した。得られた生成物についての共役化率およびガードナー色度の測定結果を表2および表3に示す。
表2−共役化率(%) 反応温度(℃) プロピレングリコール エチレングリコール 110 26.5(実施例1) 1.6(比較例1)
120 58.4( 〃 2) 14.1( 〃 2)
130 78.2( 〃 3) 35.7( 〃 3)
140 85.7( 〃 4) 52.8( 〃 4)
150 90.0( 〃 5) 63.9( 〃 5)
160 97.2( 〃 6) 91.5( 〃 6)
170 99.1( 〃 7) 99.0( 〃 7) 表3−ガードナー色度 反応温度(℃) プロピレングリコール エチレングリコール 110 3(実施例1) 9(比較例1)
120 3( 〃 2) 9( 〃 2)
130 3( 〃 3) 9( 〃 3)
140 3( 〃 4) 8( 〃 4)
150 3( 〃 5) 8( 〃 5)
160 2( 〃 6) 6( 〃 6)
170 2( 〃 7) 5( 〃 7)
【0011】表2に示される反応温度と共役化率との関係をグラフ化したものを図1に示す。図1から明らかなように、溶媒としてプロピレングリコールを用いる本発明の方法は、エチレングリコールを用いる従来法と比べてリノール酸から共役リノール酸への共役化率が向上しており、その相違は150℃迄の反応温度において顕著である。また、表3から明らかなように、本発明の方法で得られた共役リノール酸含有生成物は、従来法で得られた生成物に比べて着色の程度が著しく低い(ガードナー色度2:淡黄色〜ガードナー色度9:褐色)。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例および比較例で得られた共役化生成物についての共役化率(リノール酸から共役リノール酸への転化率)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】リノール酸含有油脂をアルカリ−プロピレングリコール溶液中にてアルカリ共役化反応に付すことを特徴とする、共役リノール酸の製造方法。
【請求項2】リノール酸含有油脂が、サフラワー油、ヒマワリ油、コーン油、大豆油、綿実油および小麦胚芽油から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】アルカリが水酸化カリウムまたはナトリウムメトキシドである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】反応を130〜170℃で行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
image rotate


【特許番号】特許第3017108号(P3017108)
【登録日】平成11年12月24日(1999.12.24)
【発行日】平成12年3月6日(2000.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−288094
【出願日】平成8年10月30日(1996.10.30)
【公開番号】特開平10−130199
【公開日】平成10年5月19日(1998.5.19)
【審査請求日】平成9年5月13日(1997.5.13)
【出願人】(591184437)リノール油脂株式会社 (1)
【参考文献】
【文献】英国特許1141690(GB,B)
【文献】国際公開97/46230(WO,A1)
【文献】第34回油化学討論会要旨集,34(1995),171.