説明

共振センサの測定位置検出方法及び装置

【課題】測定時間を短縮して高速測定を可能にすると共に、共振センサの誤差要因の影響を減少させ、より高精度な測定を可能にして、使い勝手及び信頼性を向上し、更に、低価格化する。
【解決手段】加振手段(圧電素子24)により測定子22を長手方向に共振振動させ、検出手段(圧電素子26)により測定子22の共振に応じた出力信号を得て、測定子先端22Aと測定対象10との接触を検知するようにした共振センサの測定位置検出に際して、共振状態の変化に追従させて安定な振動を持続するための発振制御を行なうと共に、該発振制御のための制御量の過渡的な変化から、測定子先端22Aと測定対象10との接触を検知して測定位置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振特性を利用した共振センサの測定位置検出方法及び装置に係り、特に、形状測定機、3次元測定機、画像測定機等の共振センサが装着可能な測定機器に用いるのに好適な、加振手段により測定子を長手方向に共振振動させ、検出手段により測定子の共振に応じた出力信号を得て、測定子先端と測定対象との接触を検知するようにした共振センサの測定位置検出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触針によるナノレベルでの表面形状測定で従来から用いられている手法を図1に示す。
【0003】
図1(A)は、測定対象10の上でプローブ12を移動させ、測定対象10の凹凸によりプローブ12にかかる原子間力が微妙に変化することを読取って、測定対象10の凹凸を可視化する原子間力顕微鏡(AFM)である。このAFMによれば、原子レベルの凹凸を観測することが可能であるが、計測しているのは、原子間力が一定の面である。
【0004】
一方、図1(B)に示す粗さ計のような古典的な表面形状計測手法では、測定力がmN程度あるため、測定対象10の表面に引掻き傷が残り、硬さ一定の面を計測していることに相当する。
【0005】
このように、センシング技術により、測定している物理量が異なる。
【0006】
現在開発されている共振特性を利用した共振センサ(特許文献1参照)は、図1(C)に示す如く、測定対象10とプローブ12の相互作用を共振特性の変化として捉えようとするものである。この共振センサは、プローブ12の先端径がμmオーダーであり、測定対象10の表面を傷付けない測定が可能であることから、局所的な弾性力一定の面を測定していると考えられる。
【0007】
出願人が特許文献1で提案した共振センサは、図2に示す如く、μmオーダーの径を持つダイヤモンドチップやルビー球等を先端22Aに付けた測定子(スタイラスと称する)22に、加振用と検出用の2枚の圧電素子24、26を貼り付けた構造をしている。加振回路28により共振センサ20の加振用圧電素子24を駆動して、スタイラス22を長手方向(図の上下方向)に共振振動させると、検出用圧電素子26からは、スタイラス22の共振に応じた出力信号が得られる。この共振状態にあるスタイラス22の先端22Aが測定対象と接触すると、その押込み量に応じて共振特性(周波数、位相、振幅)が変化し、検出用圧電素子26の出力信号(検出信号とも称する)の振幅、周波数、位相が変化するので、検出回路30で、この出力信号の変化を捉えることで、スタイラス先端22Aと測定対象との接触を検知することができる。接触を検知した時点での座標位置を読取るためのスケールとセンサ、あるいは測定対象の走査機構を備えることで、表面形状測定が可能になる。
【0008】
このように、スタイラス22の先端が測定対象と接触すると、検出用圧電素子26の出力信号の振幅、周波数、位相が変化するが、ここでは、簡単のため、検出信号の振幅の変化を使って説明する。スタイラス22が測定対象と接触した瞬間に、相互作用によりエネルギーの散逸が起こり、共振信号の振幅が減少する。ここで、更にスタイラスを押込んでいくと、検出信号の振幅は、スタイラス−測定対象間の距離に対して、図3に例示するように、スタイラス22が測定対象10の表面に接触を開始する位置(接触点)を境に、押込み量に比例して信号振幅が徐々に減少していく特性曲線となる。従って、信号振幅に閾値(図の例では90%)を設定しておき、信号振幅が閾値を横切った時点でトリガー信号を発生させ、その時点での座標位置を測定点として読み取れば、タッチトリガー方式のセンサとして利用して座標計測が可能になる。
【0009】
【特許文献1】特開2002−393737号公報
【特許文献2】特開平10−111143号公報
【特許文献3】特開平6−3140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、スタイラス22−測定対象10間の相互作用が瞬間的に大きく変化する、スタイラス22が測定対象10と接触した瞬間を考えてみる。このとき、スタイラス22のQ値や共振周波数の変化量にも依存するが、検出信号は、図4に例示するように、過渡状態を経て定常状態へと変化する。
【0011】
一般には、検出信号が過渡状態にある間は計測を行なわず、定常状態になって検出信号が安定してから計測を行なう。因みに、強制振動調和振動子を考えれば分かるように、共振周波数をω0とすると、時定数τは、次式で表わされる。
【0012】
τ=2Q/ω0 …(1)
【0013】
しかしながら、従来の測定方法であると、スタイラス22−測定対象10間の相互作用が変化した直後から整定時間を経過するまでの過渡状態の間は計測できないので、例えポイント測定であっても、長い測定時間を必要とするという問題点を有していた。
【0014】
即ち、共振センサ20では、図3に示したように、スタイラス22−測定対象10間の相互作用により検出信号の振幅が変化することを利用して、検出信号振幅が閾値を超えた時点でトリガーサンプリングを行なっている。このときの検出信号振幅は、定常状態での信号振幅である。
【0015】
従って、スタイラス22が測定対象10に接触直後から押し込んでいく過程において、常に定常状態の検出信号を観測するように、スタイラス22の押し込み速度と時定数を考慮したサンプリングが必要である。例えば共振周波数300KHz、Q値300程度である場合、時定数τは約300μ秒となり、nmオーダーでの表面形状測定を行なう場合、押し込み速度をかなり低速にする必要がある。このように、定常状態における検出信号振幅の現象を利用したトリガーサンプリングでは、図5に例示するように、座標計測に長い時間を必要とする。
【0016】
又、共振センサ20においては、スタイラス22の形状が薄い板状で、測定対象10からの弾性力に対して等方的なセンサではないため、方向依存性によって特性曲線が変化する。又、測定対象表面に傷を付けない範囲では、スタイラスと測定対象表面との弾性的な相互作用によるものと考えられることから、スタイラス先端22A、測定対象10の材質や、共振センサ20に使っている圧電素子24、26の製造ロットによっても特性曲線が変化する。更には、共振センサ20が置かれている温度や湿度といった環境によっても特性曲線は影響を受ける。これらの影響は、図6に例示するように、特性曲線の傾きの違いとなって現われる。そのため、閾値(図の例では80%)によるトリガーサンプリングを行なうと、サンプリング時の特性曲線の傾きの違いにより大きな測定誤差を生じるという問題点を有していた。
【0017】
一方、特許文献2には、タッチ信号プローブの正弦波状の検出出力信号から振幅情報を検波抽出することにより得られた、低周波の状態変動成分と高周波のノイズ成分が重量された直流センサ信号から急激な振幅変化点でトリガー信号を生成する際に、低周波の状態変動成分のみの信号から基準信号を生成し、これと直流センサ信号を比較して、直流センサ信号の急激な直流レベル変動成分を高精度に検知することが記載され、特許文献3には、予め登録されたパターンとの相関により測定位置を推定することが記載されている。しかしながら、共振センサにそのまま用いても、十分な効果を上げることはできなかった。
【0018】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、測定時間を短縮して高速測定を可能にすると共に、共振センサの誤差要因の影響を減少させ、より高精度な測定を可能にして、使い勝手及び信頼性を向上し、更に、低価格化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、加振手段により測定子を長手方向に共振振動させ、検出手段により測定子の共振に応じた出力信号を得て、測定子先端と測定対象との接触を検知するようにした共振センサの測定位置検出方法において、共振状態の変化に追従させて安定な振動を持続するための発振制御を行なうと共に、該発振制御のための制御量の過渡的な変化から、測定子先端と測定対象との接触を検知して測定位置とすることにより、前記課題を解決したものである。
【0020】
前記接触を検知した後、測定子が測定対象に押し込まれて確認信号が得られた時に、正しい接触検知と判定するができる。
【0021】
本発明は、又、加振手段により測定子を長手方向に共振振動させ、検出手段により測定子の共振に応じた出力信号を得て、測定子先端と測定対象との接触を検知するようにした共振センサの測定位置検出装置において、共振状態の変化に追従させて安定な振動を持続するための発振制御手段と、該発振制御のための制御量の過渡的な変化から、測定子先端と測定対象との接触を検知して測定位置とする手段と、を備えたことを特徴とする共振センサの測定位置検出装置を提供するものである。
【0022】
更に、前記接触を検知した後、測定子が測定対象に押し込まれた時に確認信号を出力する手段と、該確認信号が得られた時に、正しい接触検知と判定する手段とを備えることができる。
【0023】
共振センサを使った測定の目的は、スタイラス22が測定対象10の表面に接触したその瞬間での座標位置を求めることにある。この本来の目的を達成するには、非接触の定常状態にあった検出信号が、接触により過渡状態に突入するその瞬間を捉えることでも可能な筈である。非接触状態にあるスタイラス22は、共振周波数ω0で定常状態にある。スタイラス22が測定対象10の表面に接触すると、共振周波数がω0+Δωへ変化する。この共振周波数の変化に追従していく制御回路を考えると、追従のための制御量は、図7に示すように、スタイラスが測定対象表面と接触した直後に最大となり、時間経過と共に減少していく。即ち、スタイラス22−測定対象10間の相互作用の変化によって起きる共振周波数の変化に追従するための制御量(目標値に対する誤差)は、相互作用変化の発生直後に最大となる(厳密に言うと応答時間のため少し遅延する)。一般に、このような制御量の外乱に対する応答性は、時定数に比べて短く、接触発生検出のためのトリガーとして好ましい特性を持っている。
【0024】
本発明はこのような点に着目してなされたものである。なお、制御量を検出するための手段としては、PLL、DDS、あるいは適応信号処理等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、測定に要する時間を短くすることが可能であると同時に、測定子−測定対象間の接触時点を高精度に検出することができるので、共振センサの方向依存性や測定対象材質に起因する測定誤差を極めて小さく抑え込むことが可能となる。又、検出回路の削減が可能で低価格化でき、煩雑な校正測定や補正処理が不要で使い勝手が向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0027】
共振センサは、接触により出力信号の振幅、位相、周波数が変化する。従って、これら3つの物理量のうちいずれか1つを制御量として採用し、その変化を捉えることで接触位置を検知できる。そこで、出力信号の変化を捉える1つの方法として、適応信号処理を使った本発明の第1実施形態を図8に示す。
【0028】
図8において、共振センサ出力信号20に追随する回路で、共振センサ出力信号20の中心周波数ωを周波数検出回路30で検出する。検出した周波数ωの正弦波を正弦波発生回路42で発生させ、遅延回路44、位相シフタ46、可変増幅器48、50、加算器52を使って、共振センサ出力信号20に追随する周波数ωの参照信号を生成する。このとき、適応アルゴリズム40により、参照信号は、共振センサ出力信号20との差(誤差信号)が最小になるように制御される。
【0029】
このように、共振センサ出力信号20が、接触により急激にその振幅、周波数、位相を変化させた時、適応アルゴリズム40によって、誤差信号がゼロになるようにパラメータAs、Bs、ωsが制御されることによって、参照信号は、共振センサ出力信号に追従しようとする。このとき、誤差信号は、図7に示したように、スタイラス接触直後に最大となり、徐々にゼロに収束していく。従って、この誤差信号を図7の制御量として利用することで、過渡応答を利用した接触検知が実現できる。
【0030】
PLLを使っても同様のことができる。PLLでは、基準信号と入力信号の位相を比較して、その差に相当する信号を出力とする。そこで、図8での正弦波発生回路42の出力に相当する信号を基準信号(共振センサの非接触状態での発振周波数は制御できるので、その発振周波数の正弦波発生回路の出力でもよい)とする。ここで、入力信号に共振センサ出力信号20を使い、非接触状態でロックインし、PLL出力を安定(≒0)させる。この状態から、センサの接触により入力信号が変化すると、その瞬間にPLL出力が大きくなり、同期してくると、またPLL出力が安定(≒0)になる。従って、このPLL出力を図7の制御量として使うこともできる。
【0031】
なお、環境因子の変化のような外乱ノイズには弱いので、外乱ノイズの程度によっては対策を施すことが望ましい。即ち、第1実施形態のように、スタイラス22が測定対象10に接触した瞬間を検知するのみでは、スタイラス22自体の加減速や外乱によって誤検出が発生することがある。そこで、本発明の第2実施形態では、接触の瞬間を検出すると共に、スタイラス22を測定対象10に更に押し込んで、振動振幅が所定量減衰した時点で確認信号を検出する。つまり、接触信号検出の後に確認信号を検出できた場合にのみ、正しい接触検出と判定する。
【0032】
ところが、通常、共振センサにおいては、接触と共に共振条件が変化してしまい、安定な振動を持続することが困難となる。そこで、本実施形態では、接触後に共振条件が変化した後でも、安定な発振を持続できるよう発振制御を行ない、これによって確認信号を安定に検出可能としている。
【0033】
このように、制御量の過渡応答を利用して接触検出を行なうことにより、信号検出処理を独立に設ける必要も無い上、高速、高精度、高信頼度の接触検出を行なうことが可能となる。
【0034】
なお、前記実施形態においては、振幅を利用していたが、出力信号の周波数や位相を用いても良い。加振手段や検出手段も圧電素子に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】触針による表面測定の原理を比較して示す図
【図2】本発明で用いる共振センサの測定原理を示す図
【図3】同じくスタイラス−測定対象間距離と検出信号の振幅の関係の例を示す図
【図4】同じく検出信号の応答を示す図
【図5】同じくスタイラスを測定対象に接触直後から押し込んでいく過程の信号検出状態を示す図
【図6】同じくスタイラス−測定対象間距離と検出信号の振幅の関係の変化の例を示す図
【図7】本発明の原理を示す図
【図8】本発明の第1実施形態の構成を示す図
【符号の説明】
【0036】
10…測定対象
20…共振センサ
22…測定子(スタイラス)
24…加振用圧電素子
26…検出用圧電素子
28…加振回路
30…検出回路
40…適応アルゴリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加振手段により測定子を長手方向に共振振動させ、検出手段により測定子の共振に応じた出力信号を得て、測定子先端と測定対象との接触を検知するようにした共振センサの測定位置検出方法において、
共振状態の変化に追従させて安定な振動を持続するための発振制御を行なうと共に、
該発振制御のための制御量の過渡的な変化から、測定子先端と測定対象との接触を検知して測定位置とすることを特徴とする共振センサの測定位置検出方法。
【請求項2】
前記接触を検知した後、測定子が測定対象に押し込まれて確認信号が得られた時に、正しい接触検知と判定することを特徴とする請求項1に記載の共振センサの測定位置検出方法。
【請求項3】
加振手段により測定子を長手方向に共振振動させ、検出手段により測定子の共振に応じた出力信号を得て、測定子先端と測定対象との接触を検知するようにした共振センサの測定位置検出装置において、
共振状態の変化に追従させて安定な振動を持続するための発振制御手段と、
該発振制御のための制御量の過渡的な変化から、測定子先端と測定対象との接触を検知して測定位置とする手段と、
を備えたことを特徴とする共振センサの測定位置検出装置。
【請求項4】
前記接触を検知した後、測定子が測定対象に押し込まれた時に確認信号を出力する手段と、
該確認信号が得られた時に、正しい接触検知と判定する手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の共振センサの測定位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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