共振器及び磁気共鳴測定装置
【課題】 振動によるノイズを抑えた高感度な磁気共鳴測定を実現する。
【解決手段】 発振器1から出力された周波数変調波は、分配器12により、主変調波及び参照変調波に分岐される。主変調波は、サーキュレータ(又はハイブリッド)8に供給されて共振器2に導かれる。試料15を内包する(又は近傍に置く)共振器1からの反射波は、サーキュレータ(又はハイブリッド)8を経てミキサ4に供給される。ミキサ4は、反射波と移相器6から供給された参照波とに基づいて検波を行う。検波出力は、ロックインアンプ11により、変調周波数成分が抽出される。直流磁界コイル5により直流磁界が掃引され、計測処理部14は電子スピン共鳴を測定する。
【解決手段】 発振器1から出力された周波数変調波は、分配器12により、主変調波及び参照変調波に分岐される。主変調波は、サーキュレータ(又はハイブリッド)8に供給されて共振器2に導かれる。試料15を内包する(又は近傍に置く)共振器1からの反射波は、サーキュレータ(又はハイブリッド)8を経てミキサ4に供給される。ミキサ4は、反射波と移相器6から供給された参照波とに基づいて検波を行う。検波出力は、ロックインアンプ11により、変調周波数成分が抽出される。直流磁界コイル5により直流磁界が掃引され、計測処理部14は電子スピン共鳴を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴測定装置及び測定方法及び共振器に係り、特に、周波数変調を用いて高感度に電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance :ESR)又は核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)を測定する磁気共鳴測定装置及び測定方法、及び、主に磁気共鳴測定に用いることのできる共振器に関する。磁気共鳴には、ESRとNMRを含む。ESRは、電子のスピンが示すもので、主にマイクロ波等の高い周波数(例えば10GHz等)で、弱い磁束密度(例えば0.3T程度等)でおこる。これに対し、NMRは、原子核のスピンが示すもので、主に低い周波数(例えば30MHz等)で、強い磁束密度(例えば数T程度等)でおこる。以下の説明では、一例として、ESRを中心に説明するが、これらESRとNMRは物理現象としては同様のものであるので、本発明は、これら両者に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
一般に、ESR法は、電子が有する磁気モーメントの運動を利用して、フリーラジカルのような不対電子をもつ原子や分子について測定する方法である。通常、電子は、原子又は分子軌道に対をなして含まれるが、遷移金属イオンやラジカルでは、それらの軌道に例えば1個の電子のみが存在する場合がある。このような電子を不対電子という。ESRの応用分野は、化学、物理学、生物学、医学及び薬学等のように広範囲にわたる。最近、生体に自然発生するフリーラジカル(不対電子をもつ分子)が、癌や老化等に関係しているのではないかと言われ、医学及び薬学などの分野で話題になっている。フリーラジカルは、化学反応性が高いため、ESRはこれを非破壊的に測定する現在唯一の有効な方法である。
【0003】
ESR装置には、主に、パルスESR法と連続波ESR法(Continuous Wave−ESR法、CW−ESR法)がある。従来のCW−ESR法は、マイクロ波の周波数を一定にし、磁界掃引を行うことにより、ESR信号を測定する。さらに、高感度化のために磁界変調をかけて測定するようにしている。
【0004】
図10に、従来のCW−ESR装置の構成図を示す。
CW−ESR装置は、発振器101、共振器102、変調磁界用コイル103、ミキサ104、直流磁界用コイル105、移相器106、パワーアンプ107、サーキュレータ108、シグナルアンプ109、変調用発振器110、ロックインアンプ111、分配器112、結合度可変1ターンコイル113、計測処理部114を備える。
【0005】
発振器101は、マイクロ波等の測定用搬送波を発生するものである。発振周波数としては、例えば、700MHz等のLバンドなどが用いられる。共振器102は、サーフェイスコイル型では試料に接触又は近接させ(近傍に配置し)、ループ・ギャップ型では内部に試料を配置する。共振器102の詳細構成は、後述する。変調磁界用コイル103は、変調磁界を印加することで、高感度の測定を実現するためのものである。ミキサ104は、ダブルバランスドミキサ(DBM)等が用いられる。直流磁界用コイル105は、試料の測定部位に直流磁界を印加して磁界掃引を行う。サーキュレータ108は、方向性結合器やハイブリッド等により構成されてもよい。1ターンコイル113は、例えば同軸ケーブル及び1ターンコイル等を有する。
【0006】
図11に、従来のLバンドCW−ESR装置に用いられる共振器と変調磁界用コイルについての構成図を示す。
周波数一定のマイクロ波が、同軸ケーブル及び1ターンコイルを有する1ターンコイル113を介して、共振器102内の試料115に与えられる。試料115の挿入された共振器102から反射された反射波は、1ターンコイル113の1ターンコイルを介してサーキュレータ108に戻される。測定の際、直流磁界用コイル105が、試料に印加する直流磁界を掃引するとともに、変調磁界用コイル103が磁界の時間的変化を発生する。
【0007】
次に、CW−ESR装置の動作概略を説明する。
変調用発振器110から発信された変調信号は、変調磁界用コイル103に供給されるとともに、ロックインアンプ111に供給され、位相、振幅及び直流成分が調整される。なお、変調信号は、通常弱いため、変調磁界用コイルにはパワーアンプを介して供給される(図中略)。発振器101から出力されたマイクロ波は、分配器112により、主線路マイクロ波及び参照マイクロ波に分岐される。主線路マイクロ波は、パワーアンプ107により目的とする電力に調整され、サーキュレータ108に供給される。サーキュレータ108により分岐された主線路マイクロ波は、1ターンコイル113を経て共振器102に導かれ、共振器102内の試料115に供給される。このとき、1ターンコイル113と共振器102との距離を調整することで、反射を最小とするように調整する。試料115が内包される共振器102から反射された反射波は、再び1ターンコイル113を経て、サーキュレータ108に戻される。反射波は、シグナルアンプ109で増幅された後、ミキサ104に供給される。
【0008】
一方、分配器112で分配された参照マイクロ波は、移相器106により、共振器102からの反射波と位相が合うように調整され、ミキサ104に供給される。ミキサ104は、サーキュレータ108から出力された反射波と、移相器106から供給された参照マイクロ波とに基づいて混合及び検波を行う。ミキサ104から出力された検波出力は、ロックインアンプ111により、位相・振幅等が調整される。ロックインアンプ111の出力であるESR信号は、計測処理部114に導かれる。計測処理部114では、直流磁界用コイル105により、直流磁界を掃引することで、求められたESR信号に基づいて電子スピン共鳴が測定される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、CW−ESR装置において、変調磁界用コイルを流れる電流は、直流磁界用コイルにより発生された直流磁界により力を受け、変調磁界用コイルが機械的な振動を引き起こす。また、変調磁界中の共振器には、渦電流が複雑に流れる。さらに、同様に、渦電流は直流磁界から力を受けるので、共振器は振動を引き起こす。これらの機械的振動が電気的ノイズの原因となり、ESR装置の感度の向上を妨げている。
【0010】
また、従来の技術では、感度が不足していたため、生体内に自然に発生するような希薄なフリーラジカルを測定することは困難であった。
本発明は、以上の点に鑑み、振動によるノイズを抑えた高感度な磁気共鳴測定装置、及び、主に磁気共鳴測定に用いることのできる共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の解決手段によると、
試料が内包されるためのループ部とギャップ部とを有するループ・ギャップ共振素子と、
前記ループ・ギャップ共振素子のギャップ部近傍に設けられたスペーサと、
前記スペーサを挟んで前記ループ・ギャップ共振素子の反対側でギャップの両側近傍にそれぞれ設けられた複数の電極と、
複数の前記電極間に接続された可変容量ダイオードと、
一方又は各々の前記電極に設けられたチョークコイルを備え、
前記チョークコイルを介して前記電極に電圧を印加することにより、共振周波数を可変とする共振器を提供する。
【0012】
また、本発明の第2の解決手段によると、上述のような共振器を用いた磁気共鳴測定装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に、本発明に係るESR装置の構成図を示す。ここでは、一例として、周波数変調ESR装置(Frequency Modulation−ESR装置、FM−ESR装置)が示されている。
【0014】
FM−ESR装置は、発振器1、共振器2、変調信号コントローラ3、ミキサ4、直流磁界用コイル5、移相器6、パワーアンプ7、サーキュレータ8、シグナルアンプ9、変調用発振器10、ロックインアンプ11、分配器12、結合度可変1ターンコイル13、計測処理部14を備える。
【0015】
発振器1は、マイクロ波等の測定用搬送波を発生するものである。発振周波数は、(例えば10MHz以上の)ラジオ波から準光学及び光学領域の周波数とする。具体例としては、例えば、従来からESRに用いられている200MHz、300MHz、700MHz、1−2GHz、10GHz、その他ミリ波帯、サブミリ波帯の周波数等を用いることができる。また、発振器1は、供給された変調信号により周波数変調された変調波を発振する。ここでは一例としてマイクロ波を発振器1の発振源として説明する。共振器2は、サーフェイスコイル型では試料に接触又は近接させ(近傍に配置し)、ループ・ギャップ型では内部に試料を配置する。共振器2は、変調信号により共振周波数が可変とされる。共振器2の詳細構成は、後述する。なお、ここでは、主にループ・ギャップ型共振器について説明するが、サーフェイスコイル型共振器を用いて、本発明の磁気共鳴装置を適用することもできる。
【0016】
変調信号コントローラ3は、発振器への変調信号に追従して共振器の共振周波数を変化するように、発振器1及び共振器2に変調信号を供給する。また、変調信号コントローラ3は、ロックインアンプ11にも変調信号を供給し、位相、振幅及び直流成分を調整する。本発明では、発振器1から発振された周波数変調波と共振器2の共振周波数とを一致させて整合をとることで、不要な反射を抑えることができる。ミキサ4は、例えば、ダイオードによる回路、又は、検波効率の優れたダブルバランスドミキサ(DBM)が用いられる。直流磁界用コイル5は、共振器2に直流磁界を印加して磁界掃引を行う。サーキュレータ8は、方向性結合器やハイブリッド等により構成されてもよい。ロックインアンプ11は、例えば100kHz等の変調周波数の成分を通過させる帯域フィルタを備えることができる。このような帯域フィルタは、ロックインアンプ11の前段に別個に設けても良い。1ターンコイル13は、同軸ケーブル及び1ターンコイル等を備える。なお、サーキュレータ8は、主変調波供給部と反射波検出部としての機能を有する。
【0017】
次に、FM−ESR装置の動作概略を説明する。
変調用発振器10から発信された変調信号は、変調信号コントローラ3に供給される。変調信号コントローラ3は、発振器1及び共振器2に変調信号を供給する。発振器1から出力された周波数変調波は、分配器12により、主変調波及び参照変調波に分岐される。主変調波は、パワーアンプ7により目的とする電力に調整され、サーキュレータ8に供給される。サーキュレータ8により分岐された主変調波は、1ターンコイル13を経て共振器2に導かれ、共振器2内の試料15に供給される。このとき、1ターンコイル13と共振器2との距離を調整することで、反射を最小とするように調整することができる。試料15が内包された又は近傍に置かれた共振器2から反射された反射波は、再び1ターンコイル13を経て、サーキュレータ8に戻される。サーキュレータ8から出力された反射波は、シグナルアンプ9で増幅された後、ミキサ4に供給される。
【0018】
一方、分配器12で分配された参照変調波は、移相器6により、共振器2からの反射波と位相が合うように調整され、ミキサ4に供給される。ミキサ4は、サーキュレータ8から出力された反射波と、移相器6から供給された参照変調波とに基づいて混合及び検波を行う。ミキサ4から出力された検波出力は、ロックインアンプ11により、変調周波数成分が抽出され、増幅される。ロックインアンプ11の出力であるESR信号は、計測処理部14に導かれる。計測処理部14では、直流磁界コイル5により、直流磁界を掃引することで求められた検波出力に基づいて電子スピン共鳴吸収の微分曲線が測定される。
【0019】
図2に、本発明に係る共振器の構成図及び等価回路図を示す。
図2(A)に示されるように、共振周波数可変共振器は、ループ・ギャップ共振素子21、スペーサ22、電極23、可変容量ダイオード24、チョークコイル25、内部スペーサ26、内部電極27を備える。
【0020】
共振器には、ループ・ギャップ共振素子21のギャップ上に、テフロン等によるスペーサ22を介して電極23が設けられる。このループ・ギャップ共振素子21は、例えば銅に金メッキを施した素材を用いることができる。また、サイズとしては、例えば、高さ28mm、内径28mm、外径30mm及びギャップ幅1mmのものを用いることができる。ループ・ギャップ共振素子のギャップの両側にこのようなスペーサ22及び電極23が設けられる。可変容量ダイオード24は、これら複数の電極23間に接続される。また、チョークコイル25が、各々の電極23に接続される。一方のチョークコイル25は、適宜省略することもできる。
【0021】
なお、ループ・ギャップ共振素子21の内部に、内部スペーサ26及び内部電極27を備えることもできる(なお、これらは、適宜省略しても良い。)。内部スペーサ26は、テフロンなどの適宜の誘電体で構成される。内部スペーサ26及び内部電極27の大きさは、例えば、横幅はループ内周の1/3程度(約10mm)、縦の長さはループ・ギャップ共振素子21と同程度(約28mm)とすることができる。一般に、ループ・ギャップ共振素子21のギャップ部からは、ループ・ギャップ共振素子21内部へマイクロ波電界の漏れが生じる。この電界が漏れると、試料の誘電損失によって共振器に蓄えられるエネルギーの一部が消費されるため、共振器のQ値が低下する。内部スペーサ26及び内部電極27により、内部への漏れを防止し、共振器のQが低下しないようにすることができる。
【0022】
また、図2(B)に、本発明に係る共振器の等価回路を示す。
FM−ESR法では、周波数変調されたマイクロ波を共振器に供給するので、供給された変調波と整合をとるためには、共振器の共振周波数も変化させる必要がある。そこで、本発明では、上述のように、ループ・ギャップ共振素子21に可変容量ダイオード24等を取り付けることにより、共振周波数を可変にできるようにした。すなわち、チョークコイル25を介して電極23に変調電圧等の電圧を印加し、可変容量ダイオード24の逆バイアスを変化させることでその容量を変化させるようにする。なお、可変容量ダイオード24は、なるべくQが高いものを用いて、共振器のQの低下を防ぐとよい。
【0023】
図3に、本発明に係る共振器の第2及び第3の実施の形態に関する構成図を示す。
図3(A)に示される共振器は、図2(A)のスペーサ22を改良したものである。すなわち、ここでは、スペーサ33は、両方の電極32に共通にひとつのもので構成されている。また、図3(B)に示される共振器は、スペーサ35上に他の電極34をさらに備えたものである。これにより、可変容量ダイオードの結合を減らして、共振器のQを上げることができる。また、図3(C)は、図3(B)の電極34を変更したものであり、形状をテーパ状にした他の電極36を有するものである。電極36を、キャップ付近の幅が変化するような方向(図示の矢印方向)に対して移動させることにより、共振周波数を微調整することもできる。なお、内部スペーサ26及び内部電極27は、適宜付加又は省略することができる。
【0024】
つぎに、ミキサ4による検波動作を説明する。
図4に、ミキサの回路図の一例を示す。この実施の形態では、一例として検波効率が良いミキサ4にDBMを用いている。入力(a)は、試料からの反射波であり、入力(b)は、参照変調波である。また、出力(c)には、入力(a)及び(b)の積に比例した値が検波出力として出力される。
【0025】
つぎに、説明を単純にするために、反射波の振幅変調には正弦波の振幅変調がかかると仮定して説明する。
図5に、ミキサの検波動作を説明する波形概略図を示す。
発振器から共振器へ向かうマイクロ波(主変調波)は周波数変調波であり、次式のように表され、また、図5(A)のような波形となる。
【0026】
【数1】
また、電子スピン共鳴現象の起きている試料を内包する又は近傍に置く共振器で反射したマイクロ波(反射波)は、次式のように表され、また、図5(B)のような波形となる。
【0027】
【数2】
つぎに、DBMの検波後の波形、即ち出力(c)は、入力(a)及び(b)の積に比例する信号となり、次式のように表され、また、図5(C)のような波形となる。
【0028】
【数3】
以上のようにして、DBM検波後のスペクトラムが求められる。
【0029】
図6に、DBM出力のスペクトラム図の一例を示す。この図は、発振器1の搬送波700MHz、変調周波数100kHz、周波数偏移1MHzとした結果である。また、振幅変調の変調度を、図6(A)では0.2、図6(B)では0.3としたものである。ESRによるマイクロ波エネルギーの吸収(以下、吸収という。)が生じると、反射波の周波数変調波に振幅変調がかかる。その際、図示されるように、その変調度が大きくなると変調周波数100kHzの周波数成分が変調度に比例して大きくなることがわかる。
【0030】
このような検波出力に基づいてロックインアンプが備える狭帯域周波数選択特性により、100kHz以外のスペクトラムを除去して、この100kHz成分のみを抽出することにより、この振幅に比例した直流出力が得られる。
【0031】
ここで、DBM検波した場合に得られるスペクトラムについて説明する。図7に、周波数変調により測定されるESR信号の説明図を示す。
周波数変調されたマイクロ波が共振器内の試料に与えられ、電子スピン共鳴現象を起こしている状態を想定する。図7(A)に示されるように、試料に与えられる主変調波には周波数変調がかかっているので、試料の電子スピン共鳴による吸収量は変調され、直流磁界を掃引すると吸収量の変化の度合いは、共鳴吸収曲線に沿って変化する。すなわち、試料を内包する(又は近傍に置く)共振器の入力インピーダンスに変調がかかることになり、FM−ESR法の電子スピン共鳴状態では、共振器から周波数変調波に振幅変調がかかった反射波が生じることになる。よって、図7(B)のような吸収型ESR信号は、周波数変調により図7(C)のような一次微分型のESR信号に変換される。すなわち、一次微分型のESR信号により、ゼロクロスの位置を測定することで、高感度に電子スピン共鳴磁界Hが求められる。
【0032】
また、上述のようなESR信号を測定する際に磁界掃引の代わりに、周波数掃引を用いても同様のESR信号吸収曲線を得ることができる。すなわち、
hf=gβH
(ここで、h:プランク定数、f:周波数、g:定数、β:定数、H:直流磁界)
の関係から、磁界Hと周波数fが比例しているからである。
周波数掃引によると、掃引時間を短縮することができ、多量の信号を測定することができる。そのためS/N比を改善し、一層高感度とすることができる。本発明は、磁界掃引の代わりに周波数掃引を用いた磁気共鳴測定装置に、同様に適用することができる。
【0033】
次に、図8に、ESR信号の測定値を表す説明図を示す。この図では、一例として、試料をDPPH(1−diphenyl−2−picrylhydrazyl)粉末20mgとした場合の、ESR信号の直流磁界に対する変化が示される。
【0034】
また、図9に、従来の磁界変調CW−ESR法と本発明のFM−ESR法との比較説明図を示す。図9(A)は従来の磁界変調CW−ESR法、図9(B)は本発明に係るFM−ESR法によるESR信号をそれぞれ示す。
これらは、中心周波数700MHz及び変調周波数100kHzと同一とし、共振器も条件を同じくするために、可変容量ダイオードを取り付けた同一のものを用いた。CW−ESRの変調磁界は、FM−ESRの周波数編移1MHzに相当する0.0714mTpp(ミリテスラ・ピーク・ツウ・ピーク)とした。このとき、S/Nは、CW−ESRによる測定では約10.5であったのに対し、FM−ESRでは約12.4であり、本発明の方がやや高感度であるという結果が得られた。
【0035】
ESR装置の感度をさらに上げるためには以下のことが考えられる。例えば、大きなESR信号を得るためには、発振器の周波数偏移をESR信号の波形が歪まない程度に大きくすると良い。このとき、共振器での不要な反射を抑え、周波数変調波に対して共振器の整合をしっかりとると良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によると、以上のように、振動によるノイズを抑えた高感度な磁気共鳴測定装置及び測定方法及び主に磁気共鳴測定に用いることのできる共振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るESR装置の構成図。
【図2】本発明に係る共振器の第1の実施の形態に関する構成図及び等価回路図。
【図3】本発明に係る共振器の第2及び第3の実施の形態に関する構成図。
【図4】ミキサの回路図。
【図5】ミキサの検波動作を説明する波形概略図。
【図6】DBM出力のスペクトラム図
【図7】周波数変調により測定されるESR信号の説明図。
【図8】ESR信号の測定値を表す説明図。
【図9】従来の磁界変調CW−ESR法と本発明のFM−ESR法との比較説明図。
【図10】従来のCW−ESR装置の構成図。
【図11】従来のLバンドCW−ESR装置に用いられる共振器と変調磁界用コイルについての構成図。
【符号の説明】
【0038】
1 発振器
2 共振器
3 変調信号コントローラ
4 ミキサ
5 直流磁界用コイル
6 移相器
7 パワーアンプ
8 サーキュレータ
9 シグナルアンプ
10 変調用発振器
11 ロックインアンプ
12 分配器
13 結合度可変1ターンコイル
14 計測処理部
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴測定装置及び測定方法及び共振器に係り、特に、周波数変調を用いて高感度に電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance :ESR)又は核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)を測定する磁気共鳴測定装置及び測定方法、及び、主に磁気共鳴測定に用いることのできる共振器に関する。磁気共鳴には、ESRとNMRを含む。ESRは、電子のスピンが示すもので、主にマイクロ波等の高い周波数(例えば10GHz等)で、弱い磁束密度(例えば0.3T程度等)でおこる。これに対し、NMRは、原子核のスピンが示すもので、主に低い周波数(例えば30MHz等)で、強い磁束密度(例えば数T程度等)でおこる。以下の説明では、一例として、ESRを中心に説明するが、これらESRとNMRは物理現象としては同様のものであるので、本発明は、これら両者に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
一般に、ESR法は、電子が有する磁気モーメントの運動を利用して、フリーラジカルのような不対電子をもつ原子や分子について測定する方法である。通常、電子は、原子又は分子軌道に対をなして含まれるが、遷移金属イオンやラジカルでは、それらの軌道に例えば1個の電子のみが存在する場合がある。このような電子を不対電子という。ESRの応用分野は、化学、物理学、生物学、医学及び薬学等のように広範囲にわたる。最近、生体に自然発生するフリーラジカル(不対電子をもつ分子)が、癌や老化等に関係しているのではないかと言われ、医学及び薬学などの分野で話題になっている。フリーラジカルは、化学反応性が高いため、ESRはこれを非破壊的に測定する現在唯一の有効な方法である。
【0003】
ESR装置には、主に、パルスESR法と連続波ESR法(Continuous Wave−ESR法、CW−ESR法)がある。従来のCW−ESR法は、マイクロ波の周波数を一定にし、磁界掃引を行うことにより、ESR信号を測定する。さらに、高感度化のために磁界変調をかけて測定するようにしている。
【0004】
図10に、従来のCW−ESR装置の構成図を示す。
CW−ESR装置は、発振器101、共振器102、変調磁界用コイル103、ミキサ104、直流磁界用コイル105、移相器106、パワーアンプ107、サーキュレータ108、シグナルアンプ109、変調用発振器110、ロックインアンプ111、分配器112、結合度可変1ターンコイル113、計測処理部114を備える。
【0005】
発振器101は、マイクロ波等の測定用搬送波を発生するものである。発振周波数としては、例えば、700MHz等のLバンドなどが用いられる。共振器102は、サーフェイスコイル型では試料に接触又は近接させ(近傍に配置し)、ループ・ギャップ型では内部に試料を配置する。共振器102の詳細構成は、後述する。変調磁界用コイル103は、変調磁界を印加することで、高感度の測定を実現するためのものである。ミキサ104は、ダブルバランスドミキサ(DBM)等が用いられる。直流磁界用コイル105は、試料の測定部位に直流磁界を印加して磁界掃引を行う。サーキュレータ108は、方向性結合器やハイブリッド等により構成されてもよい。1ターンコイル113は、例えば同軸ケーブル及び1ターンコイル等を有する。
【0006】
図11に、従来のLバンドCW−ESR装置に用いられる共振器と変調磁界用コイルについての構成図を示す。
周波数一定のマイクロ波が、同軸ケーブル及び1ターンコイルを有する1ターンコイル113を介して、共振器102内の試料115に与えられる。試料115の挿入された共振器102から反射された反射波は、1ターンコイル113の1ターンコイルを介してサーキュレータ108に戻される。測定の際、直流磁界用コイル105が、試料に印加する直流磁界を掃引するとともに、変調磁界用コイル103が磁界の時間的変化を発生する。
【0007】
次に、CW−ESR装置の動作概略を説明する。
変調用発振器110から発信された変調信号は、変調磁界用コイル103に供給されるとともに、ロックインアンプ111に供給され、位相、振幅及び直流成分が調整される。なお、変調信号は、通常弱いため、変調磁界用コイルにはパワーアンプを介して供給される(図中略)。発振器101から出力されたマイクロ波は、分配器112により、主線路マイクロ波及び参照マイクロ波に分岐される。主線路マイクロ波は、パワーアンプ107により目的とする電力に調整され、サーキュレータ108に供給される。サーキュレータ108により分岐された主線路マイクロ波は、1ターンコイル113を経て共振器102に導かれ、共振器102内の試料115に供給される。このとき、1ターンコイル113と共振器102との距離を調整することで、反射を最小とするように調整する。試料115が内包される共振器102から反射された反射波は、再び1ターンコイル113を経て、サーキュレータ108に戻される。反射波は、シグナルアンプ109で増幅された後、ミキサ104に供給される。
【0008】
一方、分配器112で分配された参照マイクロ波は、移相器106により、共振器102からの反射波と位相が合うように調整され、ミキサ104に供給される。ミキサ104は、サーキュレータ108から出力された反射波と、移相器106から供給された参照マイクロ波とに基づいて混合及び検波を行う。ミキサ104から出力された検波出力は、ロックインアンプ111により、位相・振幅等が調整される。ロックインアンプ111の出力であるESR信号は、計測処理部114に導かれる。計測処理部114では、直流磁界用コイル105により、直流磁界を掃引することで、求められたESR信号に基づいて電子スピン共鳴が測定される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、CW−ESR装置において、変調磁界用コイルを流れる電流は、直流磁界用コイルにより発生された直流磁界により力を受け、変調磁界用コイルが機械的な振動を引き起こす。また、変調磁界中の共振器には、渦電流が複雑に流れる。さらに、同様に、渦電流は直流磁界から力を受けるので、共振器は振動を引き起こす。これらの機械的振動が電気的ノイズの原因となり、ESR装置の感度の向上を妨げている。
【0010】
また、従来の技術では、感度が不足していたため、生体内に自然に発生するような希薄なフリーラジカルを測定することは困難であった。
本発明は、以上の点に鑑み、振動によるノイズを抑えた高感度な磁気共鳴測定装置、及び、主に磁気共鳴測定に用いることのできる共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の解決手段によると、
試料が内包されるためのループ部とギャップ部とを有するループ・ギャップ共振素子と、
前記ループ・ギャップ共振素子のギャップ部近傍に設けられたスペーサと、
前記スペーサを挟んで前記ループ・ギャップ共振素子の反対側でギャップの両側近傍にそれぞれ設けられた複数の電極と、
複数の前記電極間に接続された可変容量ダイオードと、
一方又は各々の前記電極に設けられたチョークコイルを備え、
前記チョークコイルを介して前記電極に電圧を印加することにより、共振周波数を可変とする共振器を提供する。
【0012】
また、本発明の第2の解決手段によると、上述のような共振器を用いた磁気共鳴測定装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に、本発明に係るESR装置の構成図を示す。ここでは、一例として、周波数変調ESR装置(Frequency Modulation−ESR装置、FM−ESR装置)が示されている。
【0014】
FM−ESR装置は、発振器1、共振器2、変調信号コントローラ3、ミキサ4、直流磁界用コイル5、移相器6、パワーアンプ7、サーキュレータ8、シグナルアンプ9、変調用発振器10、ロックインアンプ11、分配器12、結合度可変1ターンコイル13、計測処理部14を備える。
【0015】
発振器1は、マイクロ波等の測定用搬送波を発生するものである。発振周波数は、(例えば10MHz以上の)ラジオ波から準光学及び光学領域の周波数とする。具体例としては、例えば、従来からESRに用いられている200MHz、300MHz、700MHz、1−2GHz、10GHz、その他ミリ波帯、サブミリ波帯の周波数等を用いることができる。また、発振器1は、供給された変調信号により周波数変調された変調波を発振する。ここでは一例としてマイクロ波を発振器1の発振源として説明する。共振器2は、サーフェイスコイル型では試料に接触又は近接させ(近傍に配置し)、ループ・ギャップ型では内部に試料を配置する。共振器2は、変調信号により共振周波数が可変とされる。共振器2の詳細構成は、後述する。なお、ここでは、主にループ・ギャップ型共振器について説明するが、サーフェイスコイル型共振器を用いて、本発明の磁気共鳴装置を適用することもできる。
【0016】
変調信号コントローラ3は、発振器への変調信号に追従して共振器の共振周波数を変化するように、発振器1及び共振器2に変調信号を供給する。また、変調信号コントローラ3は、ロックインアンプ11にも変調信号を供給し、位相、振幅及び直流成分を調整する。本発明では、発振器1から発振された周波数変調波と共振器2の共振周波数とを一致させて整合をとることで、不要な反射を抑えることができる。ミキサ4は、例えば、ダイオードによる回路、又は、検波効率の優れたダブルバランスドミキサ(DBM)が用いられる。直流磁界用コイル5は、共振器2に直流磁界を印加して磁界掃引を行う。サーキュレータ8は、方向性結合器やハイブリッド等により構成されてもよい。ロックインアンプ11は、例えば100kHz等の変調周波数の成分を通過させる帯域フィルタを備えることができる。このような帯域フィルタは、ロックインアンプ11の前段に別個に設けても良い。1ターンコイル13は、同軸ケーブル及び1ターンコイル等を備える。なお、サーキュレータ8は、主変調波供給部と反射波検出部としての機能を有する。
【0017】
次に、FM−ESR装置の動作概略を説明する。
変調用発振器10から発信された変調信号は、変調信号コントローラ3に供給される。変調信号コントローラ3は、発振器1及び共振器2に変調信号を供給する。発振器1から出力された周波数変調波は、分配器12により、主変調波及び参照変調波に分岐される。主変調波は、パワーアンプ7により目的とする電力に調整され、サーキュレータ8に供給される。サーキュレータ8により分岐された主変調波は、1ターンコイル13を経て共振器2に導かれ、共振器2内の試料15に供給される。このとき、1ターンコイル13と共振器2との距離を調整することで、反射を最小とするように調整することができる。試料15が内包された又は近傍に置かれた共振器2から反射された反射波は、再び1ターンコイル13を経て、サーキュレータ8に戻される。サーキュレータ8から出力された反射波は、シグナルアンプ9で増幅された後、ミキサ4に供給される。
【0018】
一方、分配器12で分配された参照変調波は、移相器6により、共振器2からの反射波と位相が合うように調整され、ミキサ4に供給される。ミキサ4は、サーキュレータ8から出力された反射波と、移相器6から供給された参照変調波とに基づいて混合及び検波を行う。ミキサ4から出力された検波出力は、ロックインアンプ11により、変調周波数成分が抽出され、増幅される。ロックインアンプ11の出力であるESR信号は、計測処理部14に導かれる。計測処理部14では、直流磁界コイル5により、直流磁界を掃引することで求められた検波出力に基づいて電子スピン共鳴吸収の微分曲線が測定される。
【0019】
図2に、本発明に係る共振器の構成図及び等価回路図を示す。
図2(A)に示されるように、共振周波数可変共振器は、ループ・ギャップ共振素子21、スペーサ22、電極23、可変容量ダイオード24、チョークコイル25、内部スペーサ26、内部電極27を備える。
【0020】
共振器には、ループ・ギャップ共振素子21のギャップ上に、テフロン等によるスペーサ22を介して電極23が設けられる。このループ・ギャップ共振素子21は、例えば銅に金メッキを施した素材を用いることができる。また、サイズとしては、例えば、高さ28mm、内径28mm、外径30mm及びギャップ幅1mmのものを用いることができる。ループ・ギャップ共振素子のギャップの両側にこのようなスペーサ22及び電極23が設けられる。可変容量ダイオード24は、これら複数の電極23間に接続される。また、チョークコイル25が、各々の電極23に接続される。一方のチョークコイル25は、適宜省略することもできる。
【0021】
なお、ループ・ギャップ共振素子21の内部に、内部スペーサ26及び内部電極27を備えることもできる(なお、これらは、適宜省略しても良い。)。内部スペーサ26は、テフロンなどの適宜の誘電体で構成される。内部スペーサ26及び内部電極27の大きさは、例えば、横幅はループ内周の1/3程度(約10mm)、縦の長さはループ・ギャップ共振素子21と同程度(約28mm)とすることができる。一般に、ループ・ギャップ共振素子21のギャップ部からは、ループ・ギャップ共振素子21内部へマイクロ波電界の漏れが生じる。この電界が漏れると、試料の誘電損失によって共振器に蓄えられるエネルギーの一部が消費されるため、共振器のQ値が低下する。内部スペーサ26及び内部電極27により、内部への漏れを防止し、共振器のQが低下しないようにすることができる。
【0022】
また、図2(B)に、本発明に係る共振器の等価回路を示す。
FM−ESR法では、周波数変調されたマイクロ波を共振器に供給するので、供給された変調波と整合をとるためには、共振器の共振周波数も変化させる必要がある。そこで、本発明では、上述のように、ループ・ギャップ共振素子21に可変容量ダイオード24等を取り付けることにより、共振周波数を可変にできるようにした。すなわち、チョークコイル25を介して電極23に変調電圧等の電圧を印加し、可変容量ダイオード24の逆バイアスを変化させることでその容量を変化させるようにする。なお、可変容量ダイオード24は、なるべくQが高いものを用いて、共振器のQの低下を防ぐとよい。
【0023】
図3に、本発明に係る共振器の第2及び第3の実施の形態に関する構成図を示す。
図3(A)に示される共振器は、図2(A)のスペーサ22を改良したものである。すなわち、ここでは、スペーサ33は、両方の電極32に共通にひとつのもので構成されている。また、図3(B)に示される共振器は、スペーサ35上に他の電極34をさらに備えたものである。これにより、可変容量ダイオードの結合を減らして、共振器のQを上げることができる。また、図3(C)は、図3(B)の電極34を変更したものであり、形状をテーパ状にした他の電極36を有するものである。電極36を、キャップ付近の幅が変化するような方向(図示の矢印方向)に対して移動させることにより、共振周波数を微調整することもできる。なお、内部スペーサ26及び内部電極27は、適宜付加又は省略することができる。
【0024】
つぎに、ミキサ4による検波動作を説明する。
図4に、ミキサの回路図の一例を示す。この実施の形態では、一例として検波効率が良いミキサ4にDBMを用いている。入力(a)は、試料からの反射波であり、入力(b)は、参照変調波である。また、出力(c)には、入力(a)及び(b)の積に比例した値が検波出力として出力される。
【0025】
つぎに、説明を単純にするために、反射波の振幅変調には正弦波の振幅変調がかかると仮定して説明する。
図5に、ミキサの検波動作を説明する波形概略図を示す。
発振器から共振器へ向かうマイクロ波(主変調波)は周波数変調波であり、次式のように表され、また、図5(A)のような波形となる。
【0026】
【数1】
また、電子スピン共鳴現象の起きている試料を内包する又は近傍に置く共振器で反射したマイクロ波(反射波)は、次式のように表され、また、図5(B)のような波形となる。
【0027】
【数2】
つぎに、DBMの検波後の波形、即ち出力(c)は、入力(a)及び(b)の積に比例する信号となり、次式のように表され、また、図5(C)のような波形となる。
【0028】
【数3】
以上のようにして、DBM検波後のスペクトラムが求められる。
【0029】
図6に、DBM出力のスペクトラム図の一例を示す。この図は、発振器1の搬送波700MHz、変調周波数100kHz、周波数偏移1MHzとした結果である。また、振幅変調の変調度を、図6(A)では0.2、図6(B)では0.3としたものである。ESRによるマイクロ波エネルギーの吸収(以下、吸収という。)が生じると、反射波の周波数変調波に振幅変調がかかる。その際、図示されるように、その変調度が大きくなると変調周波数100kHzの周波数成分が変調度に比例して大きくなることがわかる。
【0030】
このような検波出力に基づいてロックインアンプが備える狭帯域周波数選択特性により、100kHz以外のスペクトラムを除去して、この100kHz成分のみを抽出することにより、この振幅に比例した直流出力が得られる。
【0031】
ここで、DBM検波した場合に得られるスペクトラムについて説明する。図7に、周波数変調により測定されるESR信号の説明図を示す。
周波数変調されたマイクロ波が共振器内の試料に与えられ、電子スピン共鳴現象を起こしている状態を想定する。図7(A)に示されるように、試料に与えられる主変調波には周波数変調がかかっているので、試料の電子スピン共鳴による吸収量は変調され、直流磁界を掃引すると吸収量の変化の度合いは、共鳴吸収曲線に沿って変化する。すなわち、試料を内包する(又は近傍に置く)共振器の入力インピーダンスに変調がかかることになり、FM−ESR法の電子スピン共鳴状態では、共振器から周波数変調波に振幅変調がかかった反射波が生じることになる。よって、図7(B)のような吸収型ESR信号は、周波数変調により図7(C)のような一次微分型のESR信号に変換される。すなわち、一次微分型のESR信号により、ゼロクロスの位置を測定することで、高感度に電子スピン共鳴磁界Hが求められる。
【0032】
また、上述のようなESR信号を測定する際に磁界掃引の代わりに、周波数掃引を用いても同様のESR信号吸収曲線を得ることができる。すなわち、
hf=gβH
(ここで、h:プランク定数、f:周波数、g:定数、β:定数、H:直流磁界)
の関係から、磁界Hと周波数fが比例しているからである。
周波数掃引によると、掃引時間を短縮することができ、多量の信号を測定することができる。そのためS/N比を改善し、一層高感度とすることができる。本発明は、磁界掃引の代わりに周波数掃引を用いた磁気共鳴測定装置に、同様に適用することができる。
【0033】
次に、図8に、ESR信号の測定値を表す説明図を示す。この図では、一例として、試料をDPPH(1−diphenyl−2−picrylhydrazyl)粉末20mgとした場合の、ESR信号の直流磁界に対する変化が示される。
【0034】
また、図9に、従来の磁界変調CW−ESR法と本発明のFM−ESR法との比較説明図を示す。図9(A)は従来の磁界変調CW−ESR法、図9(B)は本発明に係るFM−ESR法によるESR信号をそれぞれ示す。
これらは、中心周波数700MHz及び変調周波数100kHzと同一とし、共振器も条件を同じくするために、可変容量ダイオードを取り付けた同一のものを用いた。CW−ESRの変調磁界は、FM−ESRの周波数編移1MHzに相当する0.0714mTpp(ミリテスラ・ピーク・ツウ・ピーク)とした。このとき、S/Nは、CW−ESRによる測定では約10.5であったのに対し、FM−ESRでは約12.4であり、本発明の方がやや高感度であるという結果が得られた。
【0035】
ESR装置の感度をさらに上げるためには以下のことが考えられる。例えば、大きなESR信号を得るためには、発振器の周波数偏移をESR信号の波形が歪まない程度に大きくすると良い。このとき、共振器での不要な反射を抑え、周波数変調波に対して共振器の整合をしっかりとると良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によると、以上のように、振動によるノイズを抑えた高感度な磁気共鳴測定装置及び測定方法及び主に磁気共鳴測定に用いることのできる共振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るESR装置の構成図。
【図2】本発明に係る共振器の第1の実施の形態に関する構成図及び等価回路図。
【図3】本発明に係る共振器の第2及び第3の実施の形態に関する構成図。
【図4】ミキサの回路図。
【図5】ミキサの検波動作を説明する波形概略図。
【図6】DBM出力のスペクトラム図
【図7】周波数変調により測定されるESR信号の説明図。
【図8】ESR信号の測定値を表す説明図。
【図9】従来の磁界変調CW−ESR法と本発明のFM−ESR法との比較説明図。
【図10】従来のCW−ESR装置の構成図。
【図11】従来のLバンドCW−ESR装置に用いられる共振器と変調磁界用コイルについての構成図。
【符号の説明】
【0038】
1 発振器
2 共振器
3 変調信号コントローラ
4 ミキサ
5 直流磁界用コイル
6 移相器
7 パワーアンプ
8 サーキュレータ
9 シグナルアンプ
10 変調用発振器
11 ロックインアンプ
12 分配器
13 結合度可変1ターンコイル
14 計測処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が内包されるためのループ部とギャップ部とを有するループ・ギャップ共振素子と、
前記ループ・ギャップ共振素子のギャップ部近傍に設けられたスペーサと、
前記スペーサを挟んで前記ループ・ギャップ共振素子の反対側でギャップの両側近傍にそれぞれ設けられた複数の電極と、
複数の前記電極間に接続された可変容量ダイオードと、
一方又は各々の前記電極に設けられたチョークコイルを備え、
前記チョークコイルを介して前記電極に電圧を印加することにより、共振周波数を可変とする共振器。
【請求項2】
前記スペーサは、複数の前記電極に対して共通にひとつ設けられているか又は前記電極毎にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
前記スペーサを挟んで前記ループ・ギャップ共振素子の反対側でギャップの近傍に設けられた他の電極をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の共振器。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれかに記載の共振器を用いた磁気共鳴測定装置。
【請求項1】
試料が内包されるためのループ部とギャップ部とを有するループ・ギャップ共振素子と、
前記ループ・ギャップ共振素子のギャップ部近傍に設けられたスペーサと、
前記スペーサを挟んで前記ループ・ギャップ共振素子の反対側でギャップの両側近傍にそれぞれ設けられた複数の電極と、
複数の前記電極間に接続された可変容量ダイオードと、
一方又は各々の前記電極に設けられたチョークコイルを備え、
前記チョークコイルを介して前記電極に電圧を印加することにより、共振周波数を可変とする共振器。
【請求項2】
前記スペーサは、複数の前記電極に対して共通にひとつ設けられているか又は前記電極毎にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
前記スペーサを挟んで前記ループ・ギャップ共振素子の反対側でギャップの近傍に設けられた他の電極をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の共振器。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれかに記載の共振器を用いた磁気共鳴測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−78696(P2007−78696A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286451(P2006−286451)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【分割の表示】特願平10−232479の分割
【原出願日】平成10年8月19日(1998.8.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【分割の表示】特願平10−232479の分割
【原出願日】平成10年8月19日(1998.8.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
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