説明

共沸溶剤組成物、擬共沸溶剤組成物および混合溶剤組成物

【課題】環境への影響が小さく、油、塵埃、ワックス等に対し充分な洗浄力を有し、金属、プラスチック、エラストマー等への影響が小さく、安定性に優れた共沸溶剤組成物、擬共沸溶剤組成物および混合溶剤組成物の提供。
【解決手段】1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(HFE−347)77.3質量%と、1−ブロモプロパン(1−PB)22.7質量%とからなる共沸溶剤組成物、72〜84質量%のHFE−347と16〜28質量%の1−PBとからなる擬共沸溶剤組成物、60〜90質量%のHFE−347および10〜40質量%の1−PBを含有する混合溶剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄等に用いられる共沸溶剤組成物、擬共沸溶剤組成物および混合溶剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、精密機械工業、光学機器工業、電気電子工業、およびプラスチック加工業等において、製造加工工程等で付着した油、塵埃、ワックス等を除去するための精密洗浄に、フッ素系溶剤等が用いられている。特に、不燃性で化学的および熱的安定性に優れ、油脂類等に対して溶解力のあるフッ素系溶剤として、ジクロロペンタフルオロプロパン(以下、R−225と記す。)およびジクロロフルオロエタン(以下、R−141bと記す。)等のハイドロクロロフルオロカーボン(以下、HCFCと記す。)類が広く使われている。
しかし、HCFC類はオゾン破壊係数を有するため、先進国においては2020年に生産が全廃されることが決まっている。
【0003】
そこで、HCFC類に代わるフッ素系溶剤として、トリデカフルオロヘキサンやデカフルオロペンタン等のハイドロフルオロカーボン(以下、HFCという。)類、パーフルオロヘキサン等のパーフルオロカーボン(以下、PFCという。)類が用いられている(特許文献1参照。)。しかし、これらのフッ素系溶剤も温暖化係数が高いため、地球温暖化防止の目的から京都議定書の規制対象物質となっている。さらに、HFC類およびPFC類は、HCFC類と比較して油脂類等の溶解性が低く、R−225およびR−141bに代替する溶剤としては性能面で充分ではなかった。
【0004】
近年ではHFC類およびPFC類に代わる溶剤の開発が進められており、その1つに、ハイドロフルオロエーテル(以下、HFEという。)類が挙げられる。HFE類は、不燃性であり、化学的および熱的安定性に優れ、乾燥性が良好であり、オゾン破壊係数がゼロで地球温暖化効果が比較的小さい等の利点を有する。HFE類としては、具体的には、(パーフルオロブトキシ)メタン(COCH)、(パーフルオロブトキシ)エタン(COC)、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(CHFCFOCHCF)が挙げられる。しかし、HFE類も、HFC類およびPFC類と同様に、油脂類の汚れ等の溶解性が充分ではなく、さらなる溶解性能の向上が望まれていた。
一方、1−ブロモプロパンは油脂類等に強い洗浄力を示す溶剤として知られている。しかし、1−ブロモプロパンを単独で用いると、プラスチックやエラストマー等に影響を与えやすい。さらに、沸点が71℃と高いため、熱に影響を受け易いプラスチック等が変形するという問題がある。
【0005】
そこで、1−ブロモプロパンとHFE類との混合溶剤が種々検討されている。この場合、蒸発、凝縮を繰り返し行っても組成の変化が少ないように、擬共沸組成物を探索することが行われている。例えば、(パーフルオロブトキシ)メタンと1−ブロモプロパンとアルコール類との共沸様組成物(三元系共沸様組成物)(特許文献2、3参照。)や、(パーフルオロブトキシ)メタンと1−ブロモプロパンとの共沸様組成物(特許文献4参照。)が提案されている。
【特許文献1】特開2001−262171号公報
【特許文献2】特開2000−143568号公報
【特許文献3】特表2002−503762号公報
【特許文献4】特表平11−505249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2〜4に記載の共沸様組成物は、安定性が必ずしも充分ではなかった。
【0007】
本発明は、環境への影響が小さく、油、塵埃、ワックス等に対し充分な洗浄力を有し、金属、プラスチック、エラストマー等への影響が小さく、安定性に優れた共沸溶剤組成物、擬共沸溶剤組成物および混合溶剤組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の共沸溶剤組成物は、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン77.3質量%と、1−ブロモプロパン22.7質量%とからなる。
また、本発明の擬共沸溶剤組成物は、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン72〜84質量%と、1−ブロモプロパン16〜28質量%とからなる。
さらに、本発明の混合溶剤組成物は、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン60〜90質量%および、1−ブロモプロパン10〜40質量%を含有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の共沸溶剤組成物、擬共沸溶剤組成物および混合溶剤組成物は、環境への影響が小さく、油、塵埃、ワックス等に対し充分な洗浄力を有し、金属、プラスチック、エラストマー等への影響が小さく、安定性に優れた組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の共沸溶剤組成物および擬共沸溶剤組成物(以下、両者を併せて本溶剤組成物という。)は、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(以下、HFE−347という。)と、1−ブロモプロパン(以下、1−BPという。)とからなる。
本発明者らは、HFE−347と1−BPとが共沸組成を示すことを見出した。さらに、HFE−347と1−BPとの擬共沸組成となる範囲で、油脂類等に対して充分な洗浄力を示すことと、プラスチック等に対して影響を与えないことの両立が可能であることを見出した。
【0011】
本発明者らが検討したところ、1気圧において、HFE−347が77.3質量%、1−BPが22.7質量%であると共沸溶剤組成物になることがわかった。従って、本発明の共沸溶剤組成物は、HFE−347が77.3質量%、1−BPが22.7質量%の組成物である。
また、1気圧において、HFE−347が72〜84質量%、1−BPが16〜28質量%の範囲で擬共沸溶剤組成物になることがわかった。従って、本発明の擬共沸溶剤組成物は、HFE−347が2〜84質量%、1−BPが16〜28質量%の組成物である。
本溶剤組成物は、蒸発、凝縮を繰り返し行った場合でも組成変化が全くない、またはほとんどない。そのため、蒸気洗浄を行っても安定した洗浄性が得られる、蒸発した溶剤組成物を回収しリサイクルするのが容易である、といった利点を有する。
なお、本発明において擬共沸溶剤組成物とは、比揮発度が0.83〜1.20の組成物のことをいう。
【0012】
また、1気圧における77.3質量%のHFE−347と22.7質量%の1−BPとの共沸溶剤組成物の沸点は53℃であることがわかった。これは1−BP単独の沸点に比べて18℃低いため、熱に影響を受け易いプラスチック製の部品、精密機械部品、光学部品等の洗浄に好適である。
さらに、本溶剤組成物は、引火点を持たないことがわかった。そのため取扱いが容易である。
【0013】
本溶剤組成物はHFE−347と1−BPからなる組成物であるが、実質的にこの2成分からなればよく、後述する任意の安定化剤等の添加剤を含んでもよい。但し、添加剤を含む場合における、本発明で規定するHFE−347と1−BPの組成は、本溶剤組成物中のHFE−347と1−BPの合計量を100質量%とした場合の組成である。
【0014】
本発明の混合溶剤組成物は、60〜90質量%のHFE−347および、10〜40質量%の1−BPを含有する。
また、混合溶剤組成物は、溶解性を調節する等、目的に応じて他の溶剤を含んでもよい。他の溶剤としては、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、エステル類、グリコールエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
他の溶剤の含有量は、混合溶剤組成物100質量%中、20質量%以下が好ましく、より好ましくは、10質量%以下である。また、他の溶剤を添加する場合、共沸組成乃至擬共沸組成であれば、さらに好ましい。
【0015】
炭化水素類としては、炭素数5〜15の鎖状または環状の飽和または不飽和炭化水素類が好ましく、n−ペンタン、2−メチルブタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,4−ジメチルペンタン、n−オクタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,2−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,3−ジメチルヘキサン、2−メチル−3−エチルペンタン、3−メチル−3−エチルペンタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,3,4−トリメチルペンタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2−メチルヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−ノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、n−デカン、n−ドデカン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビシクロヘキサン等が挙げられる。
【0016】
アルコール類としては、炭素数1〜16の鎖状または環状のアルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンチルアルコール、2−ペンチルアルコール、1−エチル−1−プロピルアルコール、2−メチル−1−ブチルアルコール、3−メチル−1−ブチルアルコール、3−メチル−2−ブチルアルコール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキシルアルコール、2−メチル−1−ペンチルアルコール、4−メチル−2−ペンチルアルコール、2−エチル−1−ブチルアルコール、1−ヘプチルアルコール、2−ヘプチルアルコール、3−ヘプチルアルコール、1−オクチルアルコール、2−オクチルアルコール、2−エチル−1−ヘキシルアルコール、1−ノニルアルコール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシルアルコール、1−デキルアルコール、1−ウンデキルアルコール、1−ドデキルアルコール、シクロヘキシルアルコール、1−メチルシクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコール、3−メチルシクロヘキシルアルコール、4−メチルシクロヘキシルアルコール、α−テルピネオール、2,6−ジメチル−4−ヘプチルアルコール、テトラデシルアルコール等が挙げられる。これらアルコール類は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
他の溶剤として、混合溶剤組成物にアルコール類が含まれる場合は、イオン性の汚れに対しても洗浄効果を発揮することができる。
【0017】
ケトン類としては、炭素数3〜9の鎖状または環状のケトン類が好ましく、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン等が挙げられる。
【0018】
ハロゲン化炭化水素類としては、炭素数1〜6の飽和または不飽和のハロゲン化炭化水素類が好ましく、塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレン、trans−1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロプロパン、ジクロロペンタフルオロプロパン、ジクロロフルオロエタン、デカフルオロペンタン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が挙げられる。
【0019】
エーテル類としては、炭素数2〜8の鎖状または環状のエーテル類が好ましく、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アニソール、フェネトール、メチルアニソール、ジオキサン、フラン、メチルフラン、テトラヒドロフラン、(パーフルオロブトキシ)メタン、(パーフルオロブトキシ)エタン等が挙げられる。
【0020】
エステル類としては、炭素数2〜19の鎖状または環状のエステル類が好ましく、具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸メトキシブチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル等が挙げられる。
【0021】
グリコールエーテル類としては、炭素数2〜4である2価アルコールの2〜4量体の一方または両方の水酸基の水素原子が炭素数1〜6のアルキル基で置換されたグリコールエーテル類が好ましく、具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノメトキシメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0022】
本溶剤組成物および混合溶剤組成物には任意の安定化剤を含んでもよい。安定化剤の含有量は、本溶剤組成物または混合溶剤組成物100質量%中、0.001〜5質量%が好ましい。安定化剤の含有量が前記範囲内であれば、本溶剤組成物および混合溶剤組成物の安定性をより高めることができる。
安定化剤としては、例えば、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類:ジエチルアミン、トリエチルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン等のアミン類:フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、チモール、p−t−ブチルフェノール、t−ブチルカテコール、カテコール、イソオイゲノール、o−メトキシフェノール、ビスフェノールA、サリチル酸イソアミル、サリチル酸ベンジル、サリチル酸メチル、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール等のフェノール類:2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−[(N,N−ビス−2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール等のトリアゾール類等が挙げられる。これら安定化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本溶剤組成物および混合溶剤組成物は、従来のR−225およびR−141b等のHCFC類と同様に物品に付着した汚れを除去するための洗浄剤として、好適に使用できる。
前記物品の材質としては、ガラス、セラミックス、プラスチック、エラストマー、金属等が挙げられる。また、物品の具体例としては、電子・電気機器、精密機械・器具、光学機器等、およびそれらの部品であるIC、マイクロモーター、リレー、ベアリング、光学レンズ、プリント基板、ガラス基板等が挙げられる。
【0024】
物品に付着する汚れとしては、物品または物品を構成する部品を製造する際に用いられ、最終的に除去されなければならない物質、または物品の使用時に付着する汚れが挙げられる。汚れを形成する物質としては、グリース類、鉱油類、ワックス類、油性インキ類等の油脂類、フラックス類、塵埃が挙げられる。
このような汚れを除去する手段としては、例えば、手拭き、浸漬、スプレー、揺動、超音波洗浄、蒸気洗浄等が挙げられる。また、これら手段を組み合わせた方法も採用できる。
【0025】
本溶剤組成物および混合溶剤組成物は、油脂類等に対し優れた洗浄性能を発現する。
なお、本溶剤組成物は、蒸気洗浄や蒸留等によりリサイクル使用しても組成の変動が全くない、または小さいため、従来、主として一成分からなる溶剤が用いられていた洗浄装置にそのまま使用でき、洗浄装置の大幅な変更を必要としない。
また、本溶剤組成物および混合溶剤組成物は、金属、プラスチック、エラストマー等への影響が比較的小さいので、これらからなる複合部品に悪影響を与えることが少ない。さらに、本溶剤組成物および混合溶剤組成物は、引火点を持たないので取り扱いが容易である。
【0026】
また、本溶剤組成物および混合溶剤組成物は、油脂類等に対する溶解性が高いため、汚れを除去するための洗浄剤に限らず、種々の化合物の塗布溶剤、抽出剤等としても用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない。なお、例1〜4、例6〜8、例12〜13、例17〜19および例21は実施例、例5、例9〜11、例14〜16、例20および例22は比較例である。
【0028】
<例1:気液平衡測定>
HFE−347および1−BPを種々の質量比で混合した各溶剤組成物300gを、オスマー型気液平衡測定装置の試料容器に入れ、大気圧で還流をかけた。気相凝縮液の滴下速度が適正になるように加熱を調整し、安定した沸騰を2時間保ち、圧力および沸点が安定していることを確認した後、液相側と気相側のサンプルを採取し、ガスクロマトグラフでHFE−347と1−BPの組成を分析した。液相および気相のHFE−347の組成を表1および図1に、比揮発度および沸点を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1および図1より、HFE−347が77.3質量%、1−BPが22.7質量%である溶剤組成物は、気相および液相の組成が一致した共沸溶剤組成物であった。また、沸点(共沸点)は53℃であった。
さらに、HFE−347が71.7〜84.5質量%である溶剤組成物は、比揮発度が0.83〜1.20の擬共沸溶剤組成物であった。また、沸点は53〜54℃であった。
【0031】
<例2〜4:引火点の測定>
HFE−347および1−BPを表2に示す質量比で混合した本溶剤組成物について、引火点の有無を、タグ密閉式引火点測定装置を用いて調べた。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2より、実施例の本溶剤組成物は引火点を持たないことが明らかとなった。
【0034】
<例5〜9:金属加工油の洗浄試験>
表3に記載のHFE−347および1−PBからなる各溶剤組成物を用いて金属加工油の洗浄試験を行った。
SUS−304のテストピース(25mm×30mm×2mm)を、金属加工油(日本グリース社製、テンパーオイル)中に浸漬して金属加工油を付着させた。テストピースを金属加工油中から取り出した後、40℃に保温した各溶剤組成物中に5分間浸漬させ、超音波をかけて5分間洗浄した。金属加工油の除去度を目視で評価した。結果を表3に示す。
なお、表3において、○は良好に除去できた、△は微量に残存した、×はかなり残存したことを示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3より、溶剤組成物が本溶剤組成物である場合(例6〜8)、金属加工油を良好に除去することができた。
一方、溶剤組成物中の1−PBの含有量が少ない場合(例9、10)は、金属加工油が微量に残存していた。
【0037】
<例11〜14:3槽式洗浄機による洗浄試験>
表4に記載のHFE−347と1−PBからなる各溶剤組成物を3槽式洗浄機に入れ、8時間稼動した後の水分離槽中の溶剤をガスクロマトグラフで測定した。測定結果(HFE−347の組成)を表4に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
表4より、溶剤組成物が擬共沸溶剤組成物の場合(例12、13)、初期のHFE−347の組成および8時間後の水分離器中のHFE−347の組成の差は±0.5質量%以下であり、ほとんど組成が変化しなかった。
一方、溶剤組成物が本溶剤組成物でない場合(例11、14)、HFE−347の組成の差は±1.0質量%以上であり、溶剤組成物中の組成が大きく変化した。
【0040】
<例15〜20:プラスチックへの影響の確認試験>
表5に記載のHFE−347と1−PBからなる各溶剤組成物に、各材質からなるプラスチックのテストピース(25mm×30mm×2mm)を常温(25.5℃)で5分間浸漬し、テストピースへの影響を評価した。結果を表5に示す。
なお、表5において、○はほぼ変化なし、△は若干変化が認められた、×はクラックが発生した、白化した、溶解した等大きな変化が認められたことを示す。
【0041】
【表5】

【0042】
表5より、溶剤組成物が本溶剤組成物の場合(例17〜19)、各材質からなるプラスチックに対する影響が小さかった。
一方、溶剤組成物中の1−PBの含有量が多い場合(例15、16)は、各材質からなるプラスチックに対する影響が大きかった。
【0043】
<例21、22:安定性試験>
(例21)
77.3質量%のHFE−347と22.7質量%の1−BPとからなる共沸溶剤組成物200mlに活性炭5gを添加し、JIS K−1508に準拠した酸化加速試験を実施した。共沸溶剤組成物中に、軟鋼片共存下で水分を飽和させた酸素気泡を通しながら、電球で光を照射し、その発熱で72時間加熱還流した。
試験後の共沸溶剤組成物中のフッ素イオン濃度をイオンクロマトグラフで測定したところ、検出限界(0.1ppm)以下であった。
(例22)
溶剤組成物として、78質量%の(パーフルオロブトキシ)メタンと22質量%の1−BPとからなる溶剤組成物を用いた以外は例21と同様にして、加速酸化試験を実施した。
試験後の溶剤組成物中のフッ素イオン濃度をイオンクロマトグラフで測定したところ、3ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の組成物は、IC等の電子部品、精密機械部品、ガラス基板等の物品に付着する油脂類、塵埃などの汚れの除去に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】例1における気液平衡測定結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン77.3質量%と、1−ブロモプロパン22.7質量%とからなる共沸溶剤組成物。
【請求項2】
1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン72〜84質量%と、1−ブロモプロパン16〜28質量%とからなる擬共沸溶剤組成物。
【請求項3】
1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン60〜90質量%および、1−ブロモプロパン10〜40質量%を含有する混合溶剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−1319(P2010−1319A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284969(P2006−284969)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】