説明

共重合ポリカーボネート

【課題】成形加工することが容易であって、機械的強度と透明性に優れ、かつ植物化度の高いポリカーボネートを提供する。
【解決手段】糖由来のアルコールとポリジオールとからなる共重合ポリカーボネートであって、カーボネート結合部以外の繰り返し構造部分の全量に対して、該糖由来のアルコールに由来する構造が90mol%より大きい共重合ポリカーボネート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス資源であるデンプンなどの糖質から誘導することができる構成単位を高い割合で含有し、かつ透明性、機械強度、表面硬度に優れたポリカーボネート共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネートの提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が気候変動などをもたらすことからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな植物由来モノマーを原料としたポリカーボネートの開発が求められている。植物由来モノマーとして、イソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換反応により、ポリカーボネートを得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
イソソルビドから得られるポリカーボネートは光学歪みが小さいなどの優れた光学特性を有することが知られているが、一方でその剛直な構造のために、ガラス転移温度や溶融粘度が非常に高くなり、成形加工が困難であることや、機械強度が低いという問題を抱えており、様々なジヒドロキシ化合物との共重合により改良されることが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。しかしながら、共重合モノマーであるジヒドロキシ化合物は一般的に石油由来原料から製造されるものであり、それらを共重合することによりポリマー中の植物由来原料の占める割合が減少し、植物化度が低減してしまう。機械強度を向上させるために、柔軟な構造を有する長鎖のジヒドロキシ化合物を共重合成分に用いる方法があり、例えば、ポリカーボネートにおいてもポリシロキサンを共重合成分に用いて材料の改質が行われている(例えば、特許文献4参照)。しかし、このような高分子量ジヒドロキシ化合物との共重合を行う場合、異なる構造のポリマーは一般的に非相容で、屈折率も異なるため、得られるポリカーボネートの透明性を低下してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】英国特許第1079686号明細書
【特許文献2】国際公開第04/111106号パンフレット
【特許文献3】特開2008−024919公報
【特許文献4】特表2006−518803公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように高い植物化度と優れた透明性や機械強度を両立させたポリカーボネートの開発が望まれているにも関わらず、そのようなポリカーボネートは報告されていない。本発明の目的は、上記従来の問題点を解消し、成形加工することが容易で、機械的強度と透明性に優れ、かつ植物化度の高いポリカーボネートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、糖由来のアルコールを含むジヒドロキシ化合物とポリジオールとからなる共重合ポリカーボネートが、高い植物化度を維持したまま優れた機械的強度および光学特性を有することを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[9]に存する。
[1]
糖由来のアルコールとポリジオールとからなる共重合ポリカーボネートであって、カーボネート結合部以外の繰り返し構造部分の全量に対して、該糖由来のアルコールに由来する構造が90mol%より大きい共重合ポリカーボネート。
[2]
ガラス転移温度が60℃以上である[1]に記載の共重合ポリカーボネート。
[3]
ヘーズが10.0%以下である、[1]または[2]に記載の共重合ポリカーボネート。
[4]
引張伸びが10%以上である、[1]から[3]のいずれか1つに記載の共重合ポリカーボネート。
[5]
鉛筆硬度がF以上である、[1]から[4]のいずれか1つに記載の共重合ポリカーボネート。
[6]
剪断速度1000sec−1 における240℃での溶融粘度が800Pa・s以下である、[1]から[5]のいずれか1つに記載の共重合ポリカーボネート。
[7]
前記糖由来のアルコールが、下記式(1)で表される化合物である[1]から[6]のいずれか1つに記載の共重合ポリカーボネート。
【0007】
【化1】

【0008】
[8]
前記ポリジオールが下記式(2)で表されるポリジオールである[1]から[7]のいずれか1つに記載の共重合ポリカーボネート。
【0009】
【化2】

【0010】
(式(2)において、nは、2〜120である。RはHまたはメチル基である。)
[9]
前記糖由来のアルコールと、前記ポリジオールと、下記式(3)で表される炭酸ジエステルとを、溶融重縮合して得られる[1]から[8]のいずれか1つに記載の共重合ポリカーボネート。
【0011】
【化3】

【0012】
(式(3)中において、A、及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の置換基を有していてもよい炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数18の置換基を有していてもよい芳香族基であり、AとAは同一であっても異なっていてもよい。)
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリカーボネート共重合体は、透明性と機械強度に優れ、用途に応じてガラス転移温度を幅広く調整できる。さらに光学歪みが小さく、表面硬度が高く、耐溶剤性に優れるなどの特性を持つことから、柔軟性が必要なフィルム、シート分野、耐熱性が必要な、ボトル、容器分野、さらには、カメラレンズ、ファインダーレンズ、CCDやCMOS用レンズなどのレンズ用途、液晶やプラズマディスプレイなどに利用される位相差フィルム、拡散シート、偏光フィルムなどのフィルム、シート、光ディスク、光学材料、光学部品、色素、電荷移動剤等を固定化するバインダー用途といった幅広い分野への材料提供が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されず適宜変形して実施することができる。
本発明の共重合ポリカーボネートは、糖由来のアルコールとポリジオールとからなるものであって、カーボネート結合部以外の繰り返し構造の全量に対して、糖由来のアルコール由来構造が90mol%より大きい割合を占めるものである。
【0015】
〔共重合ポリカーボネート〕
<糖由来のアルコール>
本発明における糖由来のアルコールとは、ポリジオールと共重合ポリカーボネートを生成するものであれば如何なるものも使用することが可能であって、糖そのものでも良く、アルドースやケトースを還元したものでも良く、更に分子内脱水環化したものでも良い。また、複数種の糖由来のアルコールを使用することも妨げない。当該糖由来のアルコールは共重合ポリカーボネートを生成するために、通常2価の糖由来のアルコールが用いられるが、3価もしくはそれ以上の水酸基を有する糖由来のアルコールであっても構わない。
【0016】
中でも得られるポリカーボネートの光学特性、機械物性、耐熱性の観点からは、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコールが好ましい。
【0017】
【化4】

【0018】
上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にあるイソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのジヒドロキシ化合物の中でも、植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性、カーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0019】
上記式(1)で表される無水糖アルコールは、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を含んでいても良く、無水糖アルコールは特に酸性下で変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。塩基性安定剤としては、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、エチレンジアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジイソプロピルエタノールアミン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物、ジ−(tert−ブチル)アミン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。安定剤の中でも安定化の効果からはアミン系化合物が好ましく、特にモルホリンとジイソプロピルエタノールアミンが好ましい。
【0020】
これら塩基性安定剤の本発明の糖由来のアルコール中の含有量に特に制限はないが、本発明の糖由来のアルコールは酸性状態で分解が促進されるため、上記の安定剤を含む本発明の糖由来のアルコールの水溶液のpHが7から8となるように安定剤を添加することが好ましい。少なすぎると本発明の糖由来のアルコールの変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎると本発明の糖由来のアルコールの変性を招く場合がある。通常、本発明の糖由来のアルコールに対して、0.0001重量%〜1重量%、好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
【0021】
また、これら塩基性安定剤を含有した本発明の糖由来のアルコールをポリカーボネートの製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度や品質の制御が困難になるだけでなく、樹脂色相の悪化を招くため、ポリカーボネートの製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂や蒸留等で除去することが好ましい。
上記酸化分解物を含まない本発明の糖由来のアルコールを得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するためには、蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、250℃以下、好ましくは200℃以下、特には180℃以下の条件で行うことが好ましい。
このような蒸留精製で、前記本発明の糖由来のアルコールを含むジヒドロキシ化合物をポリカーボネートの製造原料として使用した際に、重合反応性を損なうことなく色相や熱安定性に優れたポリカーボネートの製造が可能となる。
【0022】
<ポリジオール>
本発明の共重合ポリカーボネートに係るポリジオールしては、糖由来のアルコールと共重合ポリカーボネートを生成するものであれば如何なるものも使用することが可能であって、直鎖状の構造のものであっても、環状構造を有するものであっても、分岐構造を有するものであっても構わず、分子内に水酸基における酸素以外のヘテロ原子を有するものであっても構わない。また、複数種のポリジオールを使用することも妨げない。
本発明の共重合ポリカーボネートの透明性を高めるため、共重合に用いるポリジオールは糖由来のアルコールと相容性の高いものを選択することが好ましい。二成分の相容性は溶解度パラメータ(SP値)やχパラメータなどで表され、ポリジオールの分子量も相容性に影響する。
【0023】
ポリジオールの分子量が高いほど共重合ポリカーボネートに柔軟性や機械的強度を付与することができるが、分子量が大きすぎると透明性が得られない場合があるため、用いるポリジオールの数平均分子量としては好ましくは100〜20000、より好ましくは100〜5000、特に好ましくは200〜2000である。 本発明に用いるポリジオールとしてより具体的には、ポリアルキレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール、ポリシロキサンが挙げられる。ヒドロキシル基との反応性を有するポリジオールは重合反応に影響を及ぼし、ポリマーの色調に悪影響を及ぼす場合や望まれる機械物性が得られないことがあるため、上記ポリジオールの中でもポリアルキレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリシロキサンが好ましく、特には糖由来のアルコールとの相容性が良好であるポリエーテルジオールが好ましい。なかでも、下記式(4)で表されるポリオキシアルキレングリコールが好適に用いられる。
【0024】
【化5】

【0025】
式(4)中のmは1〜4、nは2〜120であり、Rはメチル基または水素原子を表す。中でも、mは2〜4であるものが好ましく、特には2のものが好ましい。また、nは2〜100であるものが好ましく、より好ましくは2〜80のものが用いられる。式(4)で表されるポリオキシアルキレングリコールとしてより具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどがあげられる。
特には、下記式(2)で表されるポリオキシアルキレングリコール、すなわちポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールが好適に用いられる。
【0026】
【化6】

【0027】
式(2)中のnは2〜120であり、Rはメチル基または水素原子を表す。
ポリジオールの含有率が多過ぎると、耐熱性の低下を招くため、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対するポリジオールの構造単位の割合は、好ましくは20mol%以下、より好ましくは10mol%以下、特には5mol%以下であることが好ましい。<その他のジヒドロキシ化合物>
本発明の共重合ポリカーボネートは、上記本発明に係る糖由来のアルコールとポリジオール以外のジヒドロキシ化合物(以下「その他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいても構わない。その他のジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオールのなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール等の脂環式ジヒドロキシ化合物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等の芳香族ビスフェノール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等のビス(ヒドロキシアルコキシ)アリール類が挙げられる。これらのその他のジヒドロキシ化合物は、複数種を使用することを妨げない。
【0028】
<末端構造>
本発明の共重合ポリカーボネートは、本発明に係る糖由来のアルコール並びにポリジオールから選ばれる構造およびそれらの構造に由来する構造以外の末端構造を有していても構わない。この末端構造としては、ポリカーボネートの末端構造として通常知られる如何なる構造も採用することができる。
【0029】
<共重合比率>
本発明の共重合ポリカーボネートは、カーボネート結合部以外の繰り返し構造部分の全量に対して、該糖由来のアルコール由来構造が90mol%より大きいものである。
本発明における糖由来のアルコール由来構造のモル比率は、共重合ポリカーボネートのカーボネート結合部以外の繰り返し構造部分、すなわち共重合ポリカーボネートから、カーボネート構造と末端構造を除いた、糖由来のアルコール由来構造、ポリジオール由来構造、およびその他のジヒドロキシ化合物由来構造の全量に対する糖由来のアルコール由来構造のモル比率により定義される。
より具体的には、共重合ポリカーボネートを製造する際に用いる2価以上のアルコール成分全量に対する、糖由来のアルコールのモル比率であって、共重合ポリカーボネートにおいてはH−NMRや13C−NMRにより測定される。
【0030】
<分子量>
本発明のポリカーボネートの分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、通常0.30dL/g以上であり、0.35dL/g以上が好ましく、還元粘度の上限は、1.20dL/g以下、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。
【0031】
ポリカーボネートの還元粘度が低すぎると成形品の機械強度が小さい可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性を低下させる傾向がある。
尚、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度計を用いて測定する。
さらに本発明のポリカーボネート中の下記式(6)で表される末端基の濃度の下限量は、通常20μeq/g、好ましくは40μeq/g、特に好ましくは50μeq/gであり、上限は通常160μeq/g、好ましくは140μeq/g、特に好ましくは100μeq/gである。
【0032】
下記式(5)で表される末端基の濃度が、高すぎると残存モノヒドロキシ化合物や残存炭酸エステルの量が多くなってしまい、逆に低すぎると熱安定性が低下する恐れがある。
下記式(5)で表される末端基の濃度を制御するには、本発明のポリカーボネートを製造する際に、原料である本発明の糖由来のアルコールとポリジオールを含むジヒドロキシ化合物と、後述する式(3)で表される炭酸ジエステルのモル比率を制御する他、エステル交換反応時の触媒の種類や量、重合圧力や重合温度を制御する方法等が挙げられる。
【0033】
【化7】

【0034】
<ガラス転移温度>
本発明の共重合ポリカーボネートは、耐熱性や成形性の観点から、ガラス転移温度が50℃以上であることが好ましく、より好ましくは60℃以上であって、特には70℃以上であることが好ましい。 本発明におけるガラス転移温度は、JIS K7121に規定される方法に準拠して測定される。より具体的には、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220)を用いて測定を行い、測定条件としては、ポリカーボネートサンプル約10mgを同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で室温から250℃まで昇温し、3分間温度を保持した後、0℃まで20℃/分の速度で冷却する。この状態で0℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温し、2回目の昇温で得られたDSCデータより、補外ガラス転移開始温度を決定することができ、この温度をガラス転移温度とすることができる。
本発明の共重合ポリカーボネートのガラス転移温度は、糖由来のアルコールとポリジオールとその他のジヒドロキシ化合物の共重合組成によって調節することが可能である。
【0035】
<ヘーズ>
本発明の共重合ポリカーボネートを透明材料や光学材料として使用するためには、ヘーズが10.0%以下であることが好ましく、より好ましくは5.0%以下であって、特には3.0%以下が好ましい。本発明におけるヘーズは前述のとおり、特にポリジオールの分子構造と分子量に影響されるため、それらを適宜調節することによって、これら好ましい範囲とすることが可能である。
本発明の共重合ポリカーボネートのヘーズは、ポリカーボネートから成形された厚さ3mmの成形体のJIS K7361−1に準拠して測定したものであり、ヘーズメーターで測定することができる。具体的には、厚さ3mmのプレート成形品を成形し、日本電色工業株式会社製ヘーズメーター(1001DP)を用いて測定できる。
【0036】
<引張伸び>
本発明の共重合ポリカーボネートの引張伸びは、成形品の成形性や耐久性の観点から、10%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上であって、特には20%以上が好ましい。
本発明の共重合ポリカーボネートの引張伸びは、ポリジオールの共重合比率を上げることによって向上することができるが、共重合比率は共重合ポリカーボネートの耐熱性や機械物性とのバランスを考慮して調整する。また、引張伸びは共重合ポリカーボネートの分子量が高いほど向上するため、重合反応で成形性を損なわない範囲で分子量を上げることが好ましい。
本発明の共重合ポリカーボネートの引張伸びはISO 527に準拠して測定される。具体的には1A形試験片を成形し、温度23℃、相対湿度50%、引張速度50mm/分の条件で測定される。
【0037】
<鉛筆硬度>
本発明の共重合ポリカーボネートの鉛筆硬度は、成形品の表面傷付き性に関わるため、F以上であることが好ましく、より好ましくはH以上であって、特には2H以上が好ましい。
本発明の共重合ポリカーボネートの鉛筆硬度は特に本発明の糖由来のアルコールの共重合比率に影響される。糖由来のアルコールの含量が高いほど高い鉛筆硬度が得られるが、糖由来のアルコールの共重合比率は機械物性や成形性などとのバランスを考慮して調節するのが好ましい。
本発明の共重合ポリカーボネートの鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4に記載の方法で測定される。具体的には、厚さ3mmのプレート成形品を作成し、東洋精機株式会社製鉛筆引掻塗膜硬さ試験機を用いて測定される。
【0038】
<溶融粘度>
本発明の共重合ポリカーボネートの溶融粘度は、剪断速度1000sec−1 における240℃での溶融粘度が800Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは700以下であって、特には600以下が好ましい。溶融粘度が高すぎると成形時にシルバーが発生しやすく成形品の外観不良が起こりやすくなる。また、成形性改善のために成形温度を高くすると着色の原因となるため好ましくない。
本発明の共重合ポリカーボネートの溶融粘度は、分子量に依存するため、適当な分子量が得られるように重合反応をコントロールすることが重要である。
本発明の共重合ポリカーボネートの溶融粘度はキャピログラフを用いて測定される。より具体的には例えば、キャピログラフ(東洋精機株式会社製細管粘度計、ノズル直径1mm×長さ10mm)を用いて、剪断速度1000sec−1における240℃での溶融粘度を測定する。
【0039】
〔共重合ポリカーボネートの製造方法〕
本発明の共重合ポリカーボネートは、上述した糖由来のアルコールとポリジオールと炭酸ジエステルとを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
<炭酸ジエステル>
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(3)で表されるものが挙げられる。 これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
【化8】

【0041】
(式(3)中において、A、及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の置換基を有していてもよい炭素数1〜炭素数18の脂肪族基または置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数18の置換基を有していてもよい芳香族基であり、AとAは同一であっても異なっていてもよい。)
【0042】
上記式(3)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネートの色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0043】
<エステル交換反応触媒>
本発明のポリカーボネートは、上述のように本発明の糖由来のアルコールとポリジオールを含むジヒドロキシ化合物と上記式(3)で表される炭酸ジエステルをエステル交換反応させてポリカーボネートを製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
本発明のポリカーボネートの製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に触媒、重合触媒と言うことがある)は、反応速度やポリカーボネートの色調に影響を与え得る。
【0044】
(触媒の種類)
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネートの透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されないが、長周期型周期表における1族または2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
【0045】
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
また、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0046】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられ、中でもリチウム化合物が好ましい。
【0047】
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく用いられ、重合活性と得られるポリカーボネートの色相の観点からマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく用いられ、特に好ましくはカルシウム化合物が用いられる。
【0048】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0049】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0050】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0051】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン、グアニジン等が挙げられる。
【0052】
(使用量)
上記重合触媒の使用量は、通常、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol〜300μmol、好ましくは0.5μmol〜100μmolであり、中でもリチウム及び長周期型周期表における2族からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/またはカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常、0.1μmol以上、好ましくは0.5μmol以上、特に好ましくは0.7μmol以上とする。また上限としては、通常20μmol、好ましくは10μmol、さらに好ましくは3μmol、特に好ましくは1.5μmol、中でも1.0μmolが好適である。
【0053】
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため結果的に所望の分子量のポリカーボネートを得ようとすると、重合温度を高くせざるを得なくなり、得られたポリカーボネートの色相が悪化したり、未反応の原料が重合途中で揮発して本発明の糖由来のアルコールとポリジオールを含むジヒドロキシ化合物と前記式(2)で表される炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネートの色相の悪化や成形加工時の樹脂の着色を招く可能性がある。
【0054】
また、1族金属、中でもナトリウム、カリウム、セシウムは、特にはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムは、ポリカーボネート中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があり、該金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート中のこれらの合計量は、金属量として、通常1重量ppm以下、好ましくは0.8重量ppm以下、より好ましくは0.7重量ppm以下である。
ポリカーボネート中の金属量は、湿式灰化などの方法でポリカーボネート中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
【0055】
<モノマーの保管方法>
本発明のポリカーボネートの原料であるイソソルビドやポリオキシアルキレングリコール等、エーテル構造を有する場合には、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や製造時には酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤等を用いたり、窒素雰囲気下で取り扱うことが肝要である。上記の化合物が酸化されると、蟻酸等の分解物が発生する場合がある。例えば、これら分解物を含む原料を使用すると、得られるポリカーボネートの着色を招く可能性があり、又、物性を著しく劣化させる可能性があるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られない場合もあり、好ましくない。
【0056】
<原料の調製方法>
本発明のポリカーボネートは、本発明の糖由来のアルコールを含むジヒドロキシ化合物と前記式(3)の炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合させることによって得られるが、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも100℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化等の不具合を招く。混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、重合反応性の低下を招く場合や得られるポリカーボネートの色相が悪化する可能性がある。
【0057】
本発明のポリカーボネートの原料である本発明の糖由来のアルコールとポリジオールを含むジヒドロキシ化合物と前記式(3)で表される炭酸ジエステルとを混合する操作は、酸素濃度10vol%以下、更には0.0001vol%〜10vol%、中でも0.0001vol%〜5vol%、特には0.0001vol%〜1vol%の雰囲気下で行うことが、色相悪化防止の観点から好ましい。
【0058】
本発明の樹脂を得るためには、前記式(3)で表される炭酸ジエステルは、反応に用いる本発明の糖由来のアルコールとポリジオールを含むジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜1.20のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.95〜1.10のモル比率である。
このモル比率が小さくなると、製造されたポリカーボネートの末端水酸基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、成型時に着色を招いたり、エステル交換反応の速度が低下したり、所望する高分子量体が得られない可能性がある。
【0059】
また、このモル比率が大きくなると、エステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネートの製造が困難となる場合がある。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネートの色相を悪化させる可能性がある。
また、本発明の糖由来のアルコールとポリジオールを含むジヒドロキシ化合物に対して、前記式(3)で表される炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート中の残存炭酸ジエステル量が増加し、成形加工時の臭気の原因となったり、金型の付着物が多くなったりする場合があり、好ましくない。 本発明のポリカーボネートに残存する炭酸ジエステルの濃度は、好ましくは200重量ppm以下、更に好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは60重量ppm以下、中でも30重量ppm以下が好適である。現実的にポリカーボネートは未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、濃度の下限値は通常1重量ppmである。
【0060】
さらに、式(3)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用い、本発明のポリカーボネートを製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールは成型時の臭気の原因となる場合がある。ポリカーボネート中には、通常のバッチ反応後は1000重量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する、芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、好ましくは700重量ppm以下、更に好ましくは500重量ppm以下、特には300重量ppm以下にすることが好ましい。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1重量ppmである。
尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
【0061】
<反応装置>
本発明において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、通常、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが安定的に反応を行う上で、また色相の観点からも重要である。例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量や末端基を持つポリマーが得られない場合がある。
【0062】
更には、留出するモノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることが有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45℃〜180℃であり、好ましくは、80℃〜150℃、特に好ましくは100℃〜130℃である。還流冷却器に導入される冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
【0063】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的なポリカーボネートの色相や熱安定性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
本発明のポリカーボネートは、触媒を用いて、複数の反応器により多段階で重合させて製造することが好ましいが、重合を複数の反応器で実施する理由は、重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の重合反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。
【0064】
本発明の方法で使用される反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上、好ましくは3〜5つ、特に好ましくは、4つである。
本発明において、反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
【0065】
本発明において、重合触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、重合槽に直接添加することもできるが、供給の安定性、重合の制御の観点からは、重合槽に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
重合反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネートの分解や着色を助長する可能性がある。
【0066】
<反応条件>
具体的には、第1段目の反応は、重合反応器の内温の最高温度として、140℃〜270℃、好ましくは180℃〜240℃、更に好ましくは200℃〜230℃で、110kPa〜1kPa、好ましくは70kPa〜5kPa、更に好ましくは30kPa〜10kPa(絶対圧力)の圧力下、0.1時間〜10時間、好ましくは0.5時間〜3時間、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。
【0067】
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を200Pa以下にして、内温の最高温度200℃〜270℃、好ましくは210℃〜250℃で、通常0.1時間〜10時間、好ましくは、1時間〜6時間、特に好ましくは0.5時間〜3時間行う。
【0068】
特にポリカーボネートの着色や熱劣化を抑制し、色相の良好なポリカーボネートを得るには、全反応段階における内温の最高温度が250℃未満、特に210℃〜240℃であることが好ましい。 また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0069】
所定の分子量のポリカーボネートを得るために、重合温度を高く、重合時間を長くし過ぎると、得られるポリカーボネートの色相や熱安定性は悪化する傾向にある。
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジフェニルやビスフェノールA等の原料として再利用することが好ましい。
本発明のポリカーボネートは、上述の通り重縮合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。
【0070】
<ペレット化>
ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
【0071】
(押出機)
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮や、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することも出来る。
押出機中の溶融混練温度は、ポリカーボネートのガラス転移温度や分子量に依存するが、通常150℃〜300℃、好ましくは200℃〜270℃、更に好ましくは230℃〜260℃である。溶融混練温度が150℃より低いと、ポリカーボネートの溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネートの熱劣化が激しくなり、分子量の低下による機械的強度の低下や着色、ガスの発生を招く。
【0072】
本発明のポリカーボネートを製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下、さらには10μm以下が好ましい。
【0073】
本発明のポリカーボネートの押出は、押出後の異物混入を防止するために、好ましくはJISB 9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが望ましい。
また、押出されたポリカーボネートを冷却し、チップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10μm〜0.45μmであることが好ましい。
【0074】
〔成形方法〕
本発明のポリカーボネートは、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の通常知られている方法で成形物にすることができる。
また、本発明のポリカーボネートは、種々の成形を行う前に、必要に応じて、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等の添加剤を、タンブラー、スーパーミキサー、フローター、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、押出機などで混合することもできる。
また、本発明のポリカーボネートは例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、AS、MBSなどの合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、ゴムなどの1種又は2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
【0075】
本発明によれば、高い植物化度を維持したまま、透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度に優れたポリカーボネートを提供することができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
<略号>
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ社製、商品名POLYSORB PS)
PEG−400:ポリエチレングリコール、数平均分子量400(三洋化成社製)
PEG−1000:ポリエチレングリコール、数平均分子量1000(三洋化成社製)
PTMG−1000:ポリテトラメチレングリコール、数平均分子量1000(三菱化学社製)
PPG−1000:ポリプロピレングリコール、数平均分子量1000(三洋化成社製)
PDMS−1000:ポリジメチルシロキサン、数平均分子量1000(信越化学社製)
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール (新日本理化社製)
DEG:ジエチレングリコール(三菱化学社製)
DPC:ジフェニルカーボネート(三菱化学社製)
【0077】
<物性>
以下の実施例において、ポリカーボネートの物性ないし特性の評価は次の方法により行った。
(1)酸素濃度の測定
酸素計(AMI社製:1000RS)を使用し、測定した。
(2)還元粘度
溶媒として塩化メチレンを用い、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間tと溶液の通過時間tから次式より相対粘度ηrelを求め、
【0078】
ηrel=t/t
相対粘度から次式より比粘度ηspを求めた。
【0079】
ηsp=(η−η)/η=ηrel−1
比粘度を濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
【0080】
(3)ポリカーボネート中のモノマーユニット比
ポリカーボネート30mgを秤取し、重クロロホルム約0.7mLに溶解させた。これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、日本電子社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)を用いて常温でH-NMRスペクトルを測定し、各ユニットに基づくシグナル強度比より求めた。
【0081】
(4)ポリカーボネートのガラス転移温度(Tg)
ポリカーボネートのガラス転移温度は、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220)を用いて測定した。ポリカーボネートサンプル約10mgを同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で室温から250℃まで昇温した。3分間温度を保持した後、0℃まで20℃/分の速度で冷却した。0℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温した。2回目の昇温で得られたDSCデータより、補外ガラス転移開始温度を採用した。
【0082】
(5)ヘーズ
ポリカーボネートのペレットを窒素雰囲気下、110℃で10時間乾燥する。次に、乾燥したポリカーボネートのペレットを射出成形機(日本製鋼所社製J75EII型)に供給し、シリンダー温度230℃、金型温度80℃で、幅60mm×長さ60mm×厚さ3mmの試験片を成形し、日本電色工業株式会社製ヘーズメーター(1001DP)を用いて測定した。
【0083】
(6)引張伸び
ISO 527に準拠して測定した。前述の射出成形により、1A形試験片を成形し、温度23℃、相対湿度50%、引張速度50mm/分の条件で測定した。
(7)溶融粘度
東洋精機株式会社製キャピログラフを用いて、直径1mm×長さ10mmのダイを使用して温度240℃、剪断速度1000sec−1における溶融粘度を測定した。
【0084】
(8)鉛筆硬度
前述のヘーズ測定と同じ試験片を使用し、東洋精機株式会社製鉛筆引掻塗膜硬さ試験機を用いて、JIS K5600−5−4に記載の方法で鉛筆硬度を測定した。
(9)光弾性係数C
He−Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製DVE−3)を組み合わせた装置を用いて測定した。(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19,p.93〜97(1991)を参照。)
80℃で5時間真空乾燥したポリカーボネートサンプル4.0gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度250℃で、予熱1分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し、水管冷却式プレスで、圧力20MPaで3分間加圧冷却しシートを作製した。シートから幅5mm、長さ20mmの試料を切り出し、粘弾性測定装置に固定し、25℃の室温で貯蔵弾性率E’を周波数96Hzにて測定した。同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O’を求めた。このとき、偏光子と検光子の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。
【0085】
光弾性係数Cは、貯蔵弾性率E’とひずみ光学係数O’を用いて次式より求めた。
C=O’/E’
【0086】
[実施例1]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとPEG#400と、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比でISB/PEG#1000/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.99/0.01/1.00/8.0×10−7になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005〜0.001vol%)。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温を開始後40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに30分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の凝縮器に導いて回収した。
【0087】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、50分で内温230℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレットにした。
【0088】
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.421dL/g、ガラス転移温度は137℃であり、透明性が良好であった。続いて、前述の方法で各種試験サンプルを成形し、機械物性、ヘーズ、及び光弾性係数の測定を実施した。これらの結果を表1に示す。
【0089】
[実施例2]
ISB、PPG#1000、DPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比でISB/PPG#400/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.99/0.01/1.00/2.0×10−6になるように仕込んだ他は実施例1と同様に実施した。
得られたポリカーボネート共重合体は白濁しており、透明な成形体が得られなかった。
【0090】
[実施例3]
ISB、PTMG#1000、DPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比でISB/PTMG#1000/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.99/0.01/1.00/2.0×10−6になるように仕込んだ他は実施例1と同様に実施した。
得られたポリカーボネート共重合体は白濁しており、透明な成形体が得られなかった。
【0091】
[実施例4]
ISB、PDMS#550、DPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比でISB/PTMG#1000/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.99/0.01/1.00/3.0×10−6になるように仕込んだ他は実施例1と同様に実施した。
得られたポリカーボネート共重合体は白濁しており、透明な成形体が得られなかった。
【0092】
[実施例5]
ISB、PEG#400、DPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比でISB/PEG#1000/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.97/0.03/1.00/8.00×10−7になるように仕込んだ他は実施例1と同様に実施した。
得られたポリカーボネート共重合体は透明性が良好であり、ヘーズは実施例1よりも低かった。
【0093】
[実施例6] ISB、PEG#400、DPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比でISB/PEG#1000/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.93/0.07/1.00/8.00×10−7になるように仕込んだ他は実施例1と同様に実施した。
得られたポリカーボネート共重合体は透明性が良好であり、ヘーズは実施例1よりも低かった。
【0094】
[比較例1]
ISB、DPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比でISB/DPC/酢酸カルシウム1水和物=1.00/1.00/8.00×10−7になるように仕込み、最終重合温度を240℃にした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.389dl/g、ガラス転移温度は159℃であり、透明性な樹脂が得られたが、引張試験では低い引張伸びしか示さなかった。
【0095】
[比較例2]
ISB、DPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比でISB/DPC/酢酸カルシウム1水和物=1.00/1.00/1.00×10−6になるように仕込み、最終重合温度を250℃にした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.475dl/g、ガラス転移温度は161℃であり、透明性な樹脂が得られた。
非常に溶融粘度が高いために射出成形の際の成形性が悪く、成形品にシルバーが発生し、ヘーズが悪化した。引張試験では十分な引張伸びが得られた。
【0096】
[比較例3]
ISB、CHDM、DPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.90/0.10/1.00/1.0×10−6になるように仕込んだ他は実施例1と同様に実施した。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.460dl/g、ガラス転移温度は143℃であった。
透明性が良好な樹脂が得られたが、引張試験では低い引張伸びしか示さなかった。
【0097】
[比較例4]
ISB、CHDM、DPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.70/0.30/1.00/1.0×10−6になるように仕込んだ他は実施例1と同様に実施した。
得られたポリカーボネート共重合体の還元粘度は0.480dl/g、ガラス転移温度は122℃であった。透明性は良好であった。これらの結果を表1に示す。 ヘーズは低く、引張伸びも優れていたが、鉛筆硬度が低下し、光弾性係数が増加した。
【0098】
以上の結果を、各種評価から総合的に評価し下記表1に示す。ガラス転移温度(Tg)、ヘーズ、引張伸び、溶融粘度、鉛筆硬度、光弾性係数を総合的に勘案して欠点の少ないものを総合的に優れるものとし、特に優れるものを◎、好ましいものを○、やや劣るものを△、劣るものを×で表記した。
【0099】
【表1】

【0100】
糖由来のアルコールのみからなるポリカーボネートに比べ、本発明のポリカーボネートは、引張伸びが大きいこと、ヘーズが低く透明性に優れること、充分な鉛筆硬度を示し表面硬度が高いこと、と同時にガラス転移温度が低く成形加工が良好であるという観点から、総合的に優れるものである。糖由来のアルコールのみからなるポリカーボネートでは、引張伸びが小さく低い値を示しているものか、引張伸びが大きいものでは溶融粘度が著しく高いために成形性が悪いものしか得られなかった。
【0101】
また、低分子量ジヒドロキシ化合物を共重合成分に用いた共重合ポリカーボネートに比べても、引張伸びが大きく、しかも鉛筆硬度が高く優れているため、同様に総合的に優れるものである。低分子量ジヒドロキシ化合物を共重合成分に用いた共重合ポリカーボネートでは、引張伸びが小さく低い値を示しているものか、引張伸びが大きいものでは鉛筆硬度がFで表面硬度の劣るものしか得られなかった。
【0102】
更に、本発明の共重合ポリカーボネートは、低分子量ジヒドロキシ化合物を共重合成分に用いるよりも高い植物化度を有しており、同時に機械物性や表面硬度にも優れている。さらに、透明性が高く、且つ光学歪みが小さい特性も有するものも得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
発明のポリカーボネート共重合体は、鉛筆硬度が高く、表面硬度が高く、表面の傷つきを嫌う、フィルム用途や、筐体などの構造材料用途に好適に用いることができることが可能である。
本発明のポリカーボネート共重合体は、柔軟性が必要なフィルム、シート分野、耐熱性が必要なボトル、容器分野、衝撃強度が要求される種々の構造材料に適している。さらには光学歪みが小さいことから、カメラレンズ、ファインダーレンズ、CCDやCMOS用レンズなどのレンズ用途、液晶やプラズマディスプレイなどに利用される位相差フィルム、拡散シート、偏光フィルムなどのフィルム、シート、光ディスク、フィルム、シート、光学材料、光学部品、色素や電荷移動剤等を固定化するバインダーなどの用途への使用に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖由来のアルコールとポリジオールとからなる共重合ポリカーボネートであって、カーボネート結合部以外の繰り返し構造部分の全量に対して、該糖由来のアルコールに由来する構造が90mol%より大きい共重合ポリカーボネート。
【請求項2】
ガラス転移温度が60℃以上である、請求項1に記載の共重合ポリカーボネート。
【請求項3】
ヘーズが10.0%以下である、請求項1または請求項2に記載の共重合ポリカーボネート。
【請求項4】
引張伸びが10%以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の共重合ポリカーボネート。
【請求項5】
鉛筆硬度がF以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の共重合ポリカーボネート。
【請求項6】
剪断速度1000sec−1 における240℃での溶融粘度が800Pa・s以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の共重合ポリカーボネート。
【請求項7】
前記糖由来のアルコールが、下記式(1)で表される化合物である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の共重合ポリカーボネート。
【化1】

【請求項8】
前記ポリジオールが下記式(2)で表されるポリジオールである請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の共重合ポリカーボネート。
【化2】

(式(2)において、nは、2〜120である。RはHまたはメチル基である。)
【請求項9】
前記糖由来のアルコールと、前記ポリジオールと、下記式(3)で表される炭酸ジエステルとを、溶融重縮合して得られる請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の共重合ポリカーボネート。
【化3】

(式(3)中において、A、及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の置換基を有していてもよい炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、または置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数18の置換基を有していてもよい芳香族基であり、AとAは同一であっても異なっていてもよい。)

【公開番号】特開2011−241277(P2011−241277A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113527(P2010−113527)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】