説明

共鳴機構設計装置、共鳴機構設計方法及びプログラム

【課題】一自由度系の等価パラメータでモデル化された共鳴機構の物理的構造を特定し、特定した物理的構造の共鳴機構を実際の制御対象の音場に配置して制御対象の固有振動の振幅値を低減し、制御対象である音(騒音)の音響エネルギーを低減させる。
【解決手段】設計装置は、共鳴機構が配置される位置をモデル化された音場において設定する。また、設計装置は、共鳴機構を等価質量、等価バネ定数および損失を表す係数でモデル化し、モデル化された共鳴機構をモデル化された音場に配置する。設計装置は、モデル化された音場の周波数特性を表示し、設計者の所望の周波数を特性を表示した時にモデル化された音場に配置されている共鳴機構の構造を、この共鳴構造の等価質量、等価バネ定数および損失を表す係数から特定し、特定した構造の共鳴構造を音場に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場の固有振動を制御する共鳴機構の設計に関する。
【背景技術】
【0002】
音場にFEM(Finite Element Method)を適用する発明として、特許文献1に開示された発明がある。特許文献1に開示された発明は、振動する構造体(例えば車両)と音場(例えば車室内空間)との間に吸音機能又は遮音機能を有する部材が配設されている構造物に対してFEMを適用するものであり、吸音機能又は遮音機能を有する部材を、構造体と音場の接点との間に配設されたバネ・マス・ダンパモデルとしてモデル化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−65466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、音場の周波数特性を制御する際には、吸音機能又は遮音機能を有する部材を音場に配置して周波数特性が制御されるが、特定の音について周波数特性を制御する際には、吸音機能又は遮音機能を有する部材を最適化する必要がある。特許文献1に開示された発明によれば、音場と、吸音機能又は遮音機能を有する部材とがモデル化され、音場の周波数特定が得られるが、周波数特性を得られるに止まり、音場の周波数特性を制御するのに最適化された部材を得ることはできていない。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、その目的は、音場に配置する一自由度系の等価パラメータでモデル化された共鳴機構の物理的構造を特定し、特定した物理的構造の共鳴機構を実際の音場に配置して音場の固有振動の振幅値を低減し、音場の音(騒音)の音響エネルギーを低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、等価質量、等価バネ定数および損失を表す係数でモデル化された共鳴機構の前記等価質量、前記等価バネ定数および前記係数を取得するパラメータ取得手段と、前記共鳴機構の構造を、前記パラメータ取得手段で取得された等価質量、等価バネ定数および係数から特定する構造特定手段とを有し、前記共鳴機構の音場における配置位置は、前記音場の特定の固有振動姿態の腹の位置であることを特徴とする共鳴機構設計装置を提供する。
【0007】
上記共鳴機構設計装置においては、前記共鳴機構は管型共鳴機構であり、前記等価質量をM、前記等価バネ定数をKとしたとき、次式で表される当該Mと当該Kに基づき、前記共鳴機構の物理的構造を特定する構成であってもよい。
【数1】

【0008】
上記共鳴機構設計装置においては、前記共鳴機構は屈曲板共鳴機構であり、前記等価質量をM、前記等価バネ定数をKとしたとき、次式で表される当該Mと当該Kに基づき、前記共鳴機構の物理的構造を特定する構成であってもよい。
【数2】

【0009】
上記共鳴機構設計装置においては、前記音場において前記共鳴機構が配置される位置を取得する配置位置取得手段と、前記音場において音の周波数特性を算定する位置を設定する算定位置取得手段と、前記パラメータ取得手段で取得された等価質量、等価バネ定数および損失を表す係数の前記共鳴機構が前記配置位置取得手段で取得された位置に配置された前記音場について、前記算定位置取得手段で取得された位置における音の周波数特性を算定して表示する周波数特性表示手段とを有する構成であってもよい。
【0010】
上記共鳴機構設計装置においては、複数種類の共鳴機構の中から前記音場に配置する共鳴機構の種類を選択する共鳴機構選択手段を有し、前記構造特定手段は、前記共鳴機構選択手段で選択された種類の共鳴機構の構造を、前記取得手段で取得された等価質量、等価バネ定数および係数から特定する構成であってもよい。
【0011】
また、本発明は、コンピュータが、等価質量、等価バネ定数および損失を表す係数でモデル化された共鳴機構の前記等価質量、前記等価バネ定数および前記係数を取得する取得ステップと、コンピュータが、前記共鳴機構の構造を、前記取得ステップで取得された等価質量、等価バネ定数および係数から特定する構造特定ステップとを有し、前記共鳴機構の音場における配置位置は、前記音場の特定の固有振動姿態の腹の位置であることを特徴とする共鳴機構設計方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、コンピュータを、等価質量、等価バネ定数および損失を表す係数でモデル化された共鳴機構の前記等価質量、前記等価バネ定数および前記係数を取得する取得手段と、前記共鳴機構の構造を、前記取得手段で取得された等価質量、等価バネ定数および係数から特定する構造特定手段と、前記共鳴機構の音場における配置位置として、前記音場の特定の固有振動姿態の腹の位置を取得する配置位置取得手段として機能させるためのプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一自由度系の等価パラメータでモデル化された共鳴機構の物理的構造を特定し、特定した物理的構造の共鳴機構を実際の制御対象の音場に配置して制御対象の固有振動の振幅値を低減し、制御対象である音(騒音)の音響エネルギーを低減させる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る設計装置1のハードウェア構成のブロック図である。
【図2】設計装置1が実行する処理の流れを示したフローチャートである。
【図3】音場の固有振動の一例を表した図である。
【図4】音場の周波数特性の算定結果を示した図である。
【図5】音場の周波数特性の算定結果を示した図である。
【図6】音場の周波数特性の測定結果を示した図である。
【図7】共鳴機構の等価質量Mと等価バネ定数Kを表す式を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態]
(実施形態の概要)
従来、吸音機構を配設して音場の音を抑制する際には、吸音機構の数値解析モデルから求められる共鳴周波数を、抑制すべき音の周波数に合致させる方法が用いられているが、最適化のために吸音機構の詳細な形状を数値解析で表現しようとすると膨大な要素数が必要となり、モデルの作成に多大な時間を要するため現実的でなく、最適化はできない。
そこで本発明においては、音場の音を抑制する共鳴機構について、一自由度系の等価パラメータ、即ち、等価質量M、等価バネ定数K、損失を表す係数gで表現し、これらの等価パラメータを有する共鳴機構を設計して音場に配置する方法を提供する。共鳴機構を一自由度系の等価パラメータで表現すれば、FEMで音場の解析を行っても要素数が膨大とならず、FEMのモデル作成の時間を短縮できる。
【0016】
なお、従来、制御対象とする音場はいわゆる拡散音場または拡散音場と見なせる音場であり、制御対象とする周波数帯域は当該帯域内で多数の固有振動がほぼ一様に分布する周波数帯域である。
これに対して、本発明を適用する音場は非拡散音場または拡散音場とみなせない音場である。また、制御対象とする周波数帯域は当該帯域内で複数の固有振動が互いに孤立して分布する周波数帯域である。勿論、1つの固有振動(この場合は1次の一次元モード即ち当該音場の最低共振周波数)が独立して成立する周波数帯域であってもよい。
本発明は、これらの孤立した固有振動の内、特定の周波数の固有振動を制御対象として、この固有振動の振幅値を低減するものであり、具体的な制御対象とする周波数帯域は、例えば2m程度の寸法を有する空間であれば、数百Hz以下の周波数帯域であり、一次元モード(軸波)や二次元モード(接線波)が主要な固有振動(ノーマルモード)であって、これらのモードが孤立して成立する周波数帯域である。
【0017】
なお、本発明においては、共鳴機構としては、ヘルムホルツ共鳴を利用したヘルムホルツ型共鳴機構、管共鳴を利用した片閉管の管型共鳴機構、ピストン板共鳴機構、屈曲板共鳴機構を採用する。
ここで、ピストン板共鳴機構とは、背後空気層のバネで支持された板や膜等の振動部材の質量(マス)がピストン運動をする共鳴機構であり、いわゆるバネマス系でモデル化される。
これに対して、振動部材の面積が相対的に小さく、当該振動部材の支持条件(拘束条件)が強く当該振動部材に影響する系では、当該振動部材の固有の屈曲振動(即ち固有振動)が励起され、前記ピストン運動では説明できない複雑な共鳴周波数特性を、特に固有振動が孤立して成立している低い周波数帯域で、発生する場合がある。このような振動の態様を屈曲板振動と称し、この屈曲板振動による共鳴を発生する機構を、屈曲板共鳴機構と称して、前記ピストン板共鳴機構と区別する。
【0018】
共鳴機構の仕様を決定するまでの流れとしては、まず、共鳴機構を配置する音場の形状や寸法、音場内の音源の位置などを設定し、設定された音場のモデルをFEMで解析して音場の固有振動の態様(音場における定在波のパターン、即ち固有振動姿態)を得る。
次に、音場において音場の使用者に影響を与える固有振動の態様と、音場内において音圧の周波数特性を算定する評価位置とを設定し、評価位置における音圧の周波数特性を算定する。評価位置における音圧の周波数特性が得られると、当該周波数特性のピークの振幅値を低減する共鳴機構の配置位置と、当該共鳴機構の等価パラメータを設定し、ピークの音圧の音を低減するのに有効な等価パラメータを算定する。そして、共鳴機構の最適な等価パラメータ、即ち当該周波数特性のピークの振幅値を適切に低減し、所望の周波数特性を実現するために最適な等価パラメータを決定すると、決定した等価パラメータを実現する共鳴機構の仕様(共鳴機構の種類や寸法、材料、共鳴機構に使用する抵抗材など)を決定する。決定した仕様に基づいて製作した共鳴機構を音場に配置すれば、制御対象とする固有振動を最適に制御した音場が実現できる。
以上が、本発明に係る共鳴機構の設計方法の概要である。以下、この方法に係る設計装置の構成および動作について説明する。
【0019】
(実施形態の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る設計装置1のハードウェア構成を示したブロック図である。設計装置1は、CPU(Central Processing Unit)102が記憶部105に記憶されているプログラムを実行することにより特定の機能が実現するコンピュータ装置であり、設計装置1の各部は、各部を接続するバス101を介して各部間で情報のやり取りを行う。なお、本実施形態においては、音場の音を減衰させる共鳴機構を設計する設計機能が実現する。
【0020】
表示部107は、画像を表示する表示装置として液晶ディスプレイを備えており、CPU102の制御の下、設計装置1を操作するための画面やCPU102の演算結果などを表示する。なお、表示装置は液晶ディスプレイに限定されるものではなく、CRT(Cathode Ray Tube)やEL(electroluminescence)を用いたディスプレイなど他の表示装置であってもよい。
操作部106は、設計装置1を操作するためのキーボードやマウスを備えている。ユーザがキーボードを操作したり、マウスを操作したりすることにより、設計装置1に対する各種入力が行われる。
【0021】
記憶部105はハードディスク装置を具備しており、共鳴機構を設計する設計機能を実現するプログラムを記憶している。また、記憶部105は、共鳴機構の設計に用いる情報を記憶する。
【0022】
ROM(Read Only Memory)103は、IPL(Initial Program Loader)を記憶している。CPU102に対して図示せぬ電源から電力が供給されるとROM103に記憶されているIPLがCPU102により実行される。CPU102がIPLを実行すると、記憶部105に記憶されているプログラムが実行され、上述した設計機能が実現する。
【0023】
(実施形態の動作)
図2は、設計装置1における処理の流れを示したフローチャートである。まず設計装置1においては、設計者により操作部106が操作され、設計装置1は、共鳴機構を配置する音場の形状や寸法、音場内の音源の位置などの情報を取得する(ステップSA1)。なお、音場の形状や寸法については、予め複数の音場の形状や寸法の情報を音場毎に記憶部105に記憶させておき、記憶された情報のいずれかを設計者が選択して音場の形状や寸法を設定してもよい。また、音源の位置についても、予め複数の位置の情報を音場の情報に対応付けて記憶部105に記憶させておき、記憶された情報のいずれかを設計者が選択して音場内の音源の位置を設定してもよい。
【0024】
音場の形状や寸法および音源の位置などの情報が取得された後、音場の視覚化を指示する操作が操作部106で行われると、設計装置1は、設定された情報から例えば音場の3次元形状を表示部107に表示する(ステップSA2)。
そして、音場の視覚化が終了した後、音場の固有振動の態様の解析を指示する操作が操作部106において行われると、設計装置1は、音場の固有振動の周波数(固有周波数)を求め、周波数軸上での分布を算定する。また設計装置1は、算定した各固有周波数の振動姿態(固有振動姿態)を算定し(ステップSA3)、算定した音場の固有振動の態様を表示部107に表示する(ステップSA4)。
【0025】
次に設計者は、この表示された固有振動の態様のうち、音場の使用者に影響を与える固有振動の態様、即ち、本装置で制御対象とする特定の一の固有振動の態様を操作部106を操作して選択する。設計者は、固有振動の態様を選択した後、音場内において周波数特性を算定する位置を設定する。
【0026】
ここで、図3は、ステップSA3でFEM解析により得られた音場の固有振動の態様を音圧の分布で例示した図であり、縦が1.8m、横が1.8m、高さが2.2mの直方体の音場における上下方向(即ち1次元モードである軸波)の2次の固有振動の態様を示している。なお、図3においては、音場の高さ方向に直交する線の間隔の広狭で音場内の音圧を示しており、線の間隔が狭いほど音圧が高く、間隔が広くなるに従って音圧が低いことを示している。
図3の態様においては、音場の高さ方向の中央部分に固有振動の腹が位置するため、音場で楽器を演奏する場合を想定すると、楽器に近い位置や椅子に座って演奏する演奏者の頭部近辺に固有振動の腹が位置することとなり、楽器演奏へ影響を与えることとなる。
【0027】
この場合、設計者は、図3に示した固有振動の態様のうち、特定の1つの固有振動の態様を音場の利用者に影響を与える、即ち、本装置で制御対象とする固有振動の態様として設定し、設計装置1は、音場内において周波数特性を算定する評価位置として、音場の使用者の頭部に最も近い固有振動の腹の位置、例えば図3の態様であれば音場の高さ方向中央部の位置を取得する(ステップSA5)。なお、この評価位置は、後述する共鳴機構の配置位置となる。そして、取得した位置における周波数特性の算定を設計者が操作部106から設計装置1に指示すると、周波数特性の算定が設計装置1において行われ、設計装置1は、算定した周波数特性を表示部107に表示させる(ステップSA6)。
ここで、図4は、図3の音場の高さ方向中央(評価位置)における音圧の周波数特性の算定結果を示したグラフであり、ラインL10は、音場に共鳴機構を配置していない場合の周波数特性を示している。この図から、当該評価点において158Hz付近に音圧のピーク、即ち、固有振動の周波数(固有周波数)が空間固有の音場特性としてあることが分かる。
【0028】
評価位置における周波数特性が得られると、次に設計者は、音圧のピークの音を抑制する(ピークの振幅値を低減する)共鳴機構の配置位置と、共鳴機構の等価質量Mおよび等価バネ定数Kを、操作部106を操作して設定すると、これらの設定が設計装置1に取得される(ステップSA7)。そして、設計者は、決定された等価質量Mおよび等価バネ定数Kでモデル化された共鳴機構が配置された音場の評価位置における周波数特性の算定を設計装置1に指示する。なお、本実施形態においては、共鳴機構の配置位置は、設計者が操作部106を操作して固有振動の腹の位置のうち、音場の使用者の頭部に最も近い固有振動の腹の位置を指定する。また、この時点においては、共鳴機構の損失を表す係数gは0にされ、損失を表す係数gを考慮しない状態で周波数特性の算定が行われる。
【0029】
設計装置1は、モデル化された音場において、モデル化された共鳴機構を配置し、モデル化された音場の周波数特性の算定が終了すると、設計装置1は、共鳴機構を音場に配置した時の評価位置における周波数特性を表示部107に表示させる(ステップSA8)。ここで、図4のラインL11は、表示部107に表示された周波数特性の一例であり、音圧の周波数特性である。
設計者は、表示部107に表示されるグラフを参照し、音場の固有振動を抑えるのに有効な等価質量Mと等価バネ定数Kを設定する。
例えば、図4のグラフの場合、ラインL11を見ると、共鳴機構を配置しない場合と比較して160Hz付近の音圧が低くなっているため、設計者は、ラインL11の周波数特性を得られる共鳴機構の等価質量Mと等価バネ定数Kを音場に配置する共鳴機構の等価質量Mおよび等価バネ定数Kとして決定する(ステップSA9;YES)。
なお、等価質量Mと等価バネ定数Kは、固有振動を抑えるのに適切な値があり、等価質量Mと等価バネ定数Kが適切な値と比較して大きいと音場に与える影響は少なく、当該等価質量Mと等価バネ定数Kの共鳴機構を音場に配置しても音場の周波数特性は変化しない。一方、等価質量Mと等価バネ定数Kが適切な値と比較して小さいと、当該等価質量Mと等価バネ定数Kの共鳴機構が音場と連成した結果、本来の共鳴周波数とは異なる周波数に共鳴のピークが移動し、音波の周波数特性のピークを低減できない。
設計者は、設定した等価質量Mおよび等価バネ定数Kで所望の周波数特性が得られない場合は、ステップSA7に戻り、再度等価質量Mと等価バネ定数Kを設定する。
【0030】
設計者は、上述したステップで共鳴機構の等価質量Mと等価バネ定数Kとを決定すると、次に、操作部106を操作して共鳴機構の損失を表す係数gを入力する。すると、設計装置1は、共鳴機構の損失を表す係数gを取得する(ステップSA10)。そして、設計者は、先に決定した等価質量Mと等価バネ定数Kおよび入力した損失を表す係数gでモデル化された共鳴機構が配置された音場の評価位置における音圧の周波数特性の算定を設計装置1に指示する。設計装置1は、視覚化された音場においてモデル化された共鳴機構を配置し、設計装置1において音圧の周波数特性の算定が終了すると、設計装置1は、算定した音圧の周波数特性を表示部107に表示させる(ステップSA11)。
【0031】
ここで、図5のラインL21,L22は、ステップSA11で表示部107に表示された周波数特性の一例である。なお、図5のラインL20は、音場に共鳴機構を配置していない時の評価位置の周波数特性を示している。例えば、図5のグラフの場合、ラインL21は、損失を表す係数g=0.02の共鳴機構の周波数特性を示しており、ラインL22は、損失を表す係数g=0.15、の共鳴機構の周波数特性を示している。
ここで、損失を表す係数g=0.15のラインL22を見ると、共鳴機構を配置しない場合と比較して、160Hz付近の音圧のピーク値が低くなっており、損失を表す係数g=0.15とした共鳴機構が音場の固有振動を抑えるのに有効であることが分かる。また、ラインL22について、損失を表す係数g=0・02のラインL21と比較すると、損失を表す係数g=0.02では150Hz付近と166Hz付近にピークが表れているのに対して、損失を表す係数g=0.15では損失を表す係数g=0.02より周波数特性が平坦となっており、音場の固有振動を抑えつつ、ピークの分割を抑えるのにも有効であることが分かる。設計者は、表示部107に表示されるグラフを参照し、音場の固有振動を抑えるのに有効な損失を表す係数gを設定する。なお、所望の周波数特性が得られない場合は、ステップSA10に戻り、再度損失を表す係数gを設定する。
【0032】
設計者は、損失を表す係数gを決定すると(ステップSA12;YES)、決定した等価パラメータを有する共鳴機構の物理的構造を決定する(ステップSA13)。具体的には、まず設計者は、共鳴機構の種類として、ヘルムホルツ型共鳴機構、管型共鳴機構、ピストン板共鳴機構、屈曲板共鳴機構のいずれかを操作部106を操作して選択する。
共鳴機構の種類が選択されると、設計装置1は、上述したステップで設計者が決定した等価質量Mと等価バネ定数Kから共鳴機構の仕様(物理的構造)を算定する。なお、設計装置1は、図7に示した等価質量Mと共鳴機構の仕様(物理的構造)との関係を示した式と、等価バネ定数Kと共鳴機構の仕様(物理的構造)との関係を示した式とを記憶している。設計装置1は、この式に基づいて共鳴機構の仕様(物理的構造)を算定し、共鳴機構の仕様(物理的構造)を表示部107に表示する(ステップSA14)。これにより、決定および表示された仕様(物理的構造)に基づき共鳴機構を具体的に製作できる。
【0033】
なお、図7の屈曲板共鳴機構の等価質量Mと等価バネ定数の式において、以下の数3の式は、モード関数を示しており、数4の式は、(1,1)モードと(1,3)縮退モードの振幅比を示している。また、数3のΨmnは板のモード関数を表している。また、図7のヘルムホルツ型共鳴機構と管型共鳴機構の式において、ΔlとΔLは開口端補正を表している。
【0034】
【数3】

【数4】

【0035】
また、損失を表す係数gについては、設計装置1は、例えば、ヘルムホルツ型共鳴機構や管型共鳴機構の場合、開口部に設ける抵抗材による損失を表す係数gを、抵抗材の種類や厚さ毎に予め記憶部105に記憶し、設計者が設定した損失を表す係数gと同じ損失を表す係数となる抵抗材の種類と厚さとを、記憶部105を検索して表示部107に表示する(ステップSA14)。
また、ピストン板共鳴機構や屈曲板共鳴機構の場合、振動する板の材質と、この材質の板を用いた場合の共鳴機構の損失を表す係数gを板の材質毎に予め記憶部105に記憶し、設計者が設定した損失を表す係数gと同じ損失を表す係数となる板の種類を、記憶部105を検索して表示部107に表示する(ステップSA14)。
【0036】
設計者は、表示部107に共鳴機構の寸法や部材の材質など共鳴機構の物理的構造(仕様)に関する情報が表示されると、表示された情報に従って共鳴機構を作成し、作成した共鳴機構を音場に配置する。
図6は、設計装置1で得られた仕様の管共鳴機構を実際の音場に配置した時の評価位置における周波数特性の測定結果を示したグラフである。ここで、図6のラインL31は、損失を表す係数g=0.03で作成した共鳴機構の周波数特性を示している。また、ラインL32は、損失を表す係数g=0.12で作成した共鳴機構の周波数特性を示している。なお、図6のラインL30は、音場に共鳴機構を配置していない時の評価位置の周波数特性を示している。損失を表す係数g=0.03の共鳴機構の周波数特性は、設計装置1において損失を表す係数g=0.02とした時の共鳴機構の周波数特性に近い周波数特性となっている。また、損失を表す係数g=0.12の共鳴機構の周波数特性は、設計装置1において損失を表す係数g=0.15とした時の共鳴機構の周波数特性に近い周波数特性となっており、設計装置1により設計した共鳴機構が、音場内の音圧を低減させ実際の音場において特定の固有振動の音圧の腹の振幅を抑えるのに有効であることが示されている。なお、音場内の音圧を低減させることにより音場外への音漏れも低減される。
また、本実施形態においては、従来の方法と比較すると、図7の式により、等価質量Mおよび等価バネ定数Kから各共鳴機構の物理的な構造を具現化することが可能となっており、さらに損失を表す係数gから特定の固有振動の音圧の腹の振幅を抑えるのに有効な共鳴機構の構造を特定できるようになっている。
【0037】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。
【0038】
上述した実施形態においては、音場の固有振動の態様を得る際にはFEMによる解析で固有振動の態様を得ているが、予め音場の形状及び寸法と、当該音場の固有振動の態様を記憶部105に記憶させておき、記憶部105に記憶されている態様から選択するようにしてもよい。また、予め音場の形状及び寸法と、実際の測定により得た当該音場の固有振動の態様とを対応付けて記憶部105に記憶させておき、記憶部105に記憶されている態様から選択するようにしてもよい。
また、評価位置における周波数特性を得る際にも、予め音場の複数位置における周波数特性を算定して記憶部105に記憶させておき、記憶部105に記憶されている周波数特性から選択するようにしてもよい。また、周波数特性については、実際の測定により得た音場の周波数特性を記憶部105に記憶させておき、記憶部105に記憶されている周波数特性から選択するようにしてもよい。
また、共鳴機構の配置位置についても、設計者が操作部106を操作して、予め評価者の評価領域(例えば、音場の使用者の頭部)に最も近い固有振動の腹の位置を記憶部105に記憶させておき、記憶部105に記憶されている配置位置を選択して配置位置を設定してもよい。
【0039】
本発明においては、共鳴機構の配置位置を設定する際には、固有振動の腹を構成する全ての腹の位置に共鳴機構を配置する設定としてもよい。
本発明においては、共鳴機構の仕様を決定する際には、予め等価パラメータの組み合わせと、この組み合わせを実現する共鳴機構の仕様とを対応づけてテーブルとして記憶部105に記憶させておき、決定した等価パラメータの組み合わせに対応した共鳴機構の仕様を検索して表示するようにしてもよい。
【0040】
上述した実施形態では、音場の固有振動の態様において音圧をその物理量として算定しているが、音圧に替えて粒子速度(空気の粒子速度)を対象として、その固有振動の態様を算定して表示するようにしてもよい。要するに、固有振動を表現する物理量は、「音圧」でもよいし「粒子速度」でもよい。なお、振動体であれば、振動速度と振動変位がある。
また、粒子速度の態様を使用する際には、音圧の周波数特性に替えて粒子速度の周波数特性を算定すればよい。
【0041】
上述した実施形態または変形例に係る共鳴機構は、音響特性を制御する各種の音響室に配置することが可能である。ここで各種音響室とは、例えば、防音室、ホール、劇場、音響機器のリスニングルーム、会議室等の居室、各種輸送機器の空間、スピーカや楽器などの筐体などがある。
【0042】
上述した実施形態においては、4種類の共鳴機構のいずれかから共鳴機構を選択しているが、予め定められた一つの共鳴機構についてのみ等価質量Mと等価バネ定数の式を記憶し、記憶した式により共鳴機構の構造を特定するようにしてもよい。
また、本発明においては、複数種類の共鳴機構の中から音場に配置する共鳴機構を選択する場合、4種類未満または5種類以上の共鳴機構の中から音場に配置する共鳴機構を選択してもよい。
【0043】
上述した実施形態では、例えば、等価質量Mと等価バネ定数をある値に設定すると、図4においてラインL11で示したように音圧のピークとして2つのピークが表れる。設計装置1は、共鳴機構を配置しない場合の音圧のピーク値の周波数をfres0、等価質量Mと等価バネ定数が設定された共鳴機構を配置した時にfres0の両側に表れる新たな音圧のピーク値の周波数をfres1、fres2(fres1<fres2)とした場合、fres2/fres0≒fres0/fres1、要するにlog(fres0−fres1)とlog(fres2−fres0)とが略同じ値となる値を求め、求めた値をそれぞれ最適な等価質量Mおよび最適な等価バネ定数Kとして決定してもよい。
また、設計装置1においては、この構成に替えて、最適な等価質量Mおよび最適な等価バネ定数Kを決定する際、fres1の音圧のピーク値≒fres2の音圧のピーク値、要するに、fres1とfres2とで一方の周波数のピーク値が突出しないような状態となるように、最適な等価質量Mおよび最適な等価バネ定数Kを算定して決定してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1・・・設計装置、101・・・バス、102・・・CPU、103・・・ROM、104・・・RAM、105・・・記憶部、106・・・操作部、107・・・表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
等価質量、等価バネ定数および損失を表す係数でモデル化された共鳴機構の前記等価質量、前記等価バネ定数および前記係数を取得するパラメータ取得手段と、
前記共鳴機構の構造を、前記パラメータ取得手段で取得された等価質量、等価バネ定数および係数から特定する構造特定手段と
を有し、
前記共鳴機構の音場における配置位置は、前記音場の特定の固有振動姿態の腹の位置であることを特徴とする共鳴機構設計装置。
【請求項2】
前記共鳴機構は管型共鳴機構であり、前記等価質量をM、前記等価バネ定数をKとしたとき、次式で表される当該Mと当該Kに基づき、前記共鳴機構の物理的構造を特定することを特徴とする請求項1に記載の共鳴機構設計装置。
【数1】

【請求項3】
前記共鳴機構は屈曲板共鳴機構であり、前記等価質量をM、前記等価バネ定数をKとしたとき、次式で表される当該Mと当該Kに基づき、前記共鳴機構の物理的構造を特定することを特徴とする請求項1に記載の共鳴機構設計装置。
【数2】

【請求項4】
前記音場において前記共鳴機構が配置される位置を取得する配置位置取得手段と、
前記音場において音の周波数特性を算定する位置を設定する算定位置取得手段と、
前記パラメータ取得手段で取得された等価質量、等価バネ定数および損失を表す係数の前記共鳴機構が前記配置位置取得手段で取得された位置に配置された前記音場について、前記算定位置取得手段で取得された位置における音の周波数特性を算定して表示する周波数特性表示手段と
を有する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の共鳴機構設計装置。
【請求項5】
複数種類の共鳴機構の中から前記音場に配置する共鳴機構の種類を選択する共鳴機構選択手段を有し、
前記構造特定手段は、前記共鳴機構選択手段で選択された種類の共鳴機構の構造を、前記取得手段で取得された等価質量、等価バネ定数および係数から特定すること
を特徴とする請求項4に記載の共鳴機構設計装置。
【請求項6】
コンピュータが、等価質量、等価バネ定数および損失を表す係数でモデル化された共鳴機構の前記等価質量、前記等価バネ定数および前記係数を取得する取得ステップと、
コンピュータが、前記共鳴機構の構造を、前記取得ステップで取得された等価質量、等価バネ定数および係数から特定する構造特定ステップと
を有し、
前記共鳴機構の音場における配置位置は、前記音場の特定の固有振動姿態の腹の位置であることを特徴とする共鳴機構設計方法。
【請求項7】
コンピュータを、
等価質量、等価バネ定数および損失を表す係数でモデル化された共鳴機構の前記等価質量、前記等価バネ定数および前記係数を取得する取得手段と、
前記共鳴機構の構造を、前記取得手段で取得された等価質量、等価バネ定数および係数から特定する構造特定手段と、
前記共鳴機構の音場における配置位置として、前記音場の特定の固有振動姿態の腹の位置を取得する配置位置取得手段
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−59829(P2011−59829A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206498(P2009−206498)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】