内径溝加工方法及び溝切り工具
【課題】周壁部の内周面に突条部が円周方向に形成された内周面に内径溝を溝入れ加工する際に切粉が内径溝に嵌り込むのを防止する。
【解決手段】円筒状の周壁部１０２の内周面に内歯スプライン１０３形成されたクラッチドラム本体１００Ａの内周面に第１スナップリング溝１０５、第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に、スナップリング溝１０５、１０６の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃１３及び前部切刃で削り出された切粉４０の幅を減縮変形せしめる突起１６、１７を備えた溝切り加工具で、スナップリング溝１０５、１０６を順次溝入れ加工する。前部切刃１３で削り出された切粉４０が切粉幅減縮付与手段である突起１６、１７によって幅方向に減縮変形され、加工済みのスナップリング溝１０５、１０６切粉が嵌り込むことが防止される。
【解決手段】円筒状の周壁部１０２の内周面に内歯スプライン１０３形成されたクラッチドラム本体１００Ａの内周面に第１スナップリング溝１０５、第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に、スナップリング溝１０５、１０６の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃１３及び前部切刃で削り出された切粉４０の幅を減縮変形せしめる突起１６、１７を備えた溝切り加工具で、スナップリング溝１０５、１０６を順次溝入れ加工する。前部切刃１３で削り出された切粉４０が切粉幅減縮付与手段である突起１６、１７によって幅方向に減縮変形され、加工済みのスナップリング溝１０５、１０６切粉が嵌り込むことが防止される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、内径溝加工方法及び溝切り工具に関し、特に円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が円周方向に形成された被加工部材の内周面に複数の内径溝を溝入れ加工する内径溝加工方法及び溝切り工具に関する。
【背景技術】
【０００２】
例えば、自動車の自動変速機に使用されるクラッチドラム１００は、図１８に一部破断説明図を示すように円板状の底壁部１０１と、この底壁部１０１の外周縁に形成された円筒状の周壁部１０２とからなり、この周壁部１０２の内周面に半径方向内向きに突出して周壁部１０２の軸方向に延びる複数の内歯スプライン１０３が円周方向に等間隔で形成される。この内歯スプライン１０３は周壁部１０２内に収容される図示しないクラッチ板がクラッチドラム１００に対して相対的に回転するのを防止するために形成されるものであり、クラッチ板の外周に内歯スプライン１０３の山部１０４が嵌入される複数の凹溝が形成されている。周壁部１０２の開口端部側の内周面に第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６が円周方向に形成されて各スナップリング溝１０５及び１０６にそれぞれ図示しない環状のスナップリングが装着される。
【０００３】
このように構成されるクラッチドラム１００の成形は、例えば特許文献１に開示されるように、外周に内歯スプライン成形部を有する円柱状の第１型と、第２型とにより板状材を挟持して回転させながら、板状材にフォーミングローラを押し当てて図１９に示すように周壁部１０２の内周に内歯スプライン１０３を有するクラッチドラム本体１００Ａを成形する。
【０００４】
そして、旋盤等によってクラッチドラム本体１００Ａの内周面に同じ溝幅の第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を順次溝入れ加工して図１８に示すクラッチドラム１００を成形する。
【０００５】
この第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を溝切り工具によって溝入れ加工する際に、図２０に示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１１１ａを有する溝切り工具１１１によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１１１ａによって削り出された切粉１０９は、前部切刃１１１ａの直後のすくい面１１１ｂ上をカールしながら矩形状に分断される。この切粉１０９は、図２１に斜視図を示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと同等の幅を有して湾曲する矩形板状の切粉形状となる。
【０００６】
このため、先に加工されたスナップリング溝１０５或いは１０６に、後から溝入れ加工する際に発生して飛散する切粉１０９が嵌り込むことがある。例えば、第１スナップリング溝１０５を溝入れ加工した後に、第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する場合には、先の第１スナップリング溝１０５を溝切り工具１１１によって溝入れ加工する際に、各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削して発生する切粉１０９が仮に溝入れ加工中の第１スナップリング溝１０５に入り込むことがあっても、溝切り工具１１１の前部切刃１１１ａによって排出されて第１スナップリング溝１０５内に切粉１０９が残存することはない。
【０００７】
一方、第１スナップリング溝１０５の溝入れ加工後に第２スナップリング溝１０６を溝切り工具１１１により溝入れ加工する際には、各内歯スプライン１０３の山部１０４の切削に伴って発生した切粉１０９が飛散し、既に加工された第１スナップリング溝１０５に嵌り込むことがある。この第１スナップリング溝１０５に嵌り込む切粉１０９は第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗと同じ幅を有する矩形板状であり、第１スナップリング溝１０５に嵌合して保持される。
【０００８】
同様に第２スナップリング溝１０６を先に加工し、しかる後第１スナップリング溝１０５を溝入れチップ１１１により溝入れ加工すると、第１スナップリング溝１０５の溝入れ加工の際に発生した切粉１０９が既に加工された第２スナップリング溝１０６に嵌り込むことが懸念される。
【０００９】
この第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６等に嵌入した切粉１０９が残存すると、クラッチドラム１００及びクラッチドラム１００を使用する自動変速機等の品質上の不具合を誘発する要因となることから切粉１０９を除去する必要があり、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の加工後に個々のクラッチドラム１００を目視チェックし、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６に嵌り込んだ切粉１０９を工具等により取り除く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【００１０】
【特許文献１】特開２００５−１０３５６３号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【００１１】
上記クラッチドラム１００の第１スナップリング溝１０５や第２スナックリング溝１０６に嵌入した切粉１０９は、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと一致乃至ほぼ一致した幅寸法を有することから、比較的強固に第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６に嵌り込まれた状態となり、その第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６に嵌り込んだ切粉１０９の目視によるチェック及び除去作業は極めて厄介でかつ作業者に多くの負担を掛ける。また、第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６に嵌り込んだ切粉１０９の除去に使用する際に工具等によって第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６及び内歯スプライン１０３等に不用意に損傷を与えることが懸念される。
【００１２】
同様の不具合は、クラッチドラムに限らず、同様に円筒状の周壁部の内周面に突出して軸方向に延びる複数の内歯スプライン状の突条部が円周方向に形成された部材の内周面に環状の複数の内径溝を溝入れ加工する際にも懸念される。
【００１３】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が円周方向に形成された被加工部材の内周面に複数の内径溝を溝入れ加工する際に切粉が内径溝に嵌り込むのを未然に防止し得る内径溝加工方法及び溝切り加工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【００１４】
請求項1に記載の内径溝加工方法の発明は、円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工する内径溝加工方法において、前記内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び該前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えた溝切り加工具で前記内径溝を溝入れ加工することを特徴とする。
【００１５】
これによると、内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えた溝切り加工具で複数の突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工することで溝幅と一致する幅で切削された切粉の幅が溝幅より小さい寸法に減縮変形されることから、内径溝の溝入れ加工の際に発生して飛散する切粉が溝入れ加工された内径溝内に入り込むことがあっても、内径溝に切粉が嵌り込むことがなくなる。これにより、内径溝に切粉が残存することがなく、内径溝に嵌り込まれた切粉の目視によるチェックや切粉の除去作業が省略或いは除去作業が極めて軽減されて作業者の負担が大幅に軽減されると共に、生産性の向上が得られる。
【００１６】
請求項２に記載の発明は、請求項１の内径溝加工方法において、前記切粉幅減縮付与手段は、前部切刃の後方におけるすくい面に突設された突起であることを特徴とする。これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉が前部切刃の後方の突起に圧接及び摺接して、切粉が幅方向に減縮変形する。
【００１７】
請求項３に記載の発明は、請求項１の内径溝加工方法において、前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面に凹設された凹部であることを特徴とする。
【００１８】
これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉が前部切刃の後方の凹部に倣って突出変形して、切粉が幅方向に減縮変形する。
【００１９】
請求項４に記載の溝切り加工具の発明は、円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に切削して複数の内径溝を溝入れ加工する溝切り加工具において、前記内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び該前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えたことを特徴とする。
【００２０】
これによると、内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び前部切刃で削り出された切粉の幅を減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えた溝切り加工具を用いて複数の突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工することで、溝幅と一致する幅で切削された切粉の幅が溝幅より小さい寸法に減縮変形される。これにより、内径溝の溝入れ加工の際に発生して飛散する切粉が溝入れ加工された内径溝に入り込むことがあっても内径溝に切粉が嵌り込むことが防止される。
【００２１】
請求項５の発明は、請求項４に記載の溝切り加工具において、前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面に幅方向に間隔をおいて突設された一対の突起であることを特徴とする。これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉の両側近傍が各突起に圧接及び摺接して幅方向に減縮変形する。
【００２２】
請求項６の発明は、請求項４に記載の溝切り加工具において、前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に突設された突起であることを特徴とする。これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉の幅方向中央部が突起に圧接及び摺接して変形付与されて、切粉が幅方向に減縮変形する。
【００２３】
請求項７の発明は、請求項４に記載の溝切り加工具において、前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に前後方向に連続して隆起するビード状の突起であることを特徴とする。これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉の幅方向中央部が前後方向に延在する突起に圧接してビード状に変形付与されて、切粉が幅方向に減縮変形する。
【００２４】
請求項８の発明は、請求項４に記載の溝切り加工具において、前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に凹設された凹部であることを特徴とする。これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉が前部切刃の後方の凹部に倣って突出変形して、切粉が幅方向に減縮変形する。
【発明の効果】
【００２５】
本発明によると、内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えた溝切り加工具で複数の突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工することで切粉の幅が溝幅より小さい寸法に減縮変形されて、溝入れ加工の際に発生して飛散する切粉が内径溝に入り込むことがあっても、内径溝に切粉が嵌り込むことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【００２６】
【図１】第１実施の形態にかかる溝切り工具の説明図である
【図２】溝入れチップの斜視図である。
【図３】図２のＡ部拡大図である。
【図４】第１スナップリング溝及び第２スナップリング溝の溝入れ加工の説明図である。
【図５】切粉の説明図である。
【図６】第２実施の形態にかかる溝入れチップの斜視図である。
【図７】図６のＢ部拡大図である。
【図８】第１スナップリング溝及び第２スナップリング溝の溝入れ加工の説明図である。
【図９】切粉の説明図である。
【図１０】第３実施の形態にかかる溝入れチップの斜視図である。
【図１１】図１０のＣ部拡大図である。
【図１２】第１スナップリング溝及び第２スナップリング溝の溝入れ加工の説明図である。
【図１３】切粉の説明図である。
【図１４】第４実施の形態にかかる溝入れチップの斜視図である。
【図１５】図１４のＤ部拡大図である。
【図１６】第１スナップリング溝及び第２スナップリング溝の溝入れ加工の説明図である。
【図１７】切粉の説明図である。
【図１８】クラッチドラムの一部破断説明図である。
【図１９】クラッチドラム本体の一部破断説明図である。
【図２０】従来の溝入れ加工の説明図である。
【図２１】従来の切粉の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【００２７】
以下、本発明による内径溝加工方法及び溝切り加工具の実施の形態をクラッチドラムのスナップリング溝を溝切り加工する場合を例に説明する。
【００２８】
（第１実施の形態）
図１乃至図５及び図１８，図１９を参照して第１実施の形態を説明する。図１８はクラッチドラム１００の斜視図である。図１９は内径溝となるスナップリング溝を溝切り加工する前の被加工部材であるクラッチドラム本体１００Ａの斜視図である。
【００２９】
図１９に示すクラッチドラム本体１００Ａは、円板状の底壁部１０１と、この底壁部１０１の外周縁に形成された円筒状の周壁部１０２とからなり、この周壁部１０２の内周面に半径方向内向きに突出して周壁部１０２の軸方向に延びる突条部となる複数の内歯スプライン１０３が円周方向に等間隔で形成される。
【００３０】
このクラッチドラム本体１００Ａの周壁部１０２の開口端部の内周面に内径溝となる同一溝幅Ｗの第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工することで、図１８に示すようなクラッチドラム１００が形成される。
【００３１】
図１乃至図３は、クラッチドラム本体１００Ａに第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する溝切り工具の説明図である。この溝切り工具は、図１に示すようにホルダ１の先端に溝入れチップ１０がクランプ駒２及びスクリュー３によって固定される。ホルダ１に取り付けられる溝入れチップ１０は、図２に斜視図を示すように略三角形板状で固定部１１とこの固定部１１から突出する３つの切刃部１２を有する。
【００３２】
切刃部１２について図２のＡ部拡大図を示す図３を参照して説明する。切刃部１２は先端の前部切刃１３の幅寸法が第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと一致し、前部切刃１３の後方に緩やかに湾曲して連続形成されたすくい面１４の両側に沿って側部切刃１５が形成される。また、前部切刃１３の直後位置に前部切刃１３で削り出された切粉４０を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段となる一対の突起１６、１７が幅方向に間隔をおいて形成される。各突起１６、１７は前後方向に延在する長形乃至前切刃１３から離れるに従って幅広となる略くさび状ですくい面１４から隆起して頂部が滑らかな球面状に形成される。
【００３３】
そして、旋盤等によって回転駆動される被加工部材であるクラッチドラム本体１００Ａの内周面に溝入れチップ１０により第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を順次溝入れ加工して図１８に示すクラッチドラム１００を成形する。
【００３４】
この第１スナップリング溝１０５を溝入れ加工する際に、図４に示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有し、すくい面１４に一対の突起１６、１７が間隔おいて形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、両側近傍４０ａ、４０ｂが前部切刃１３の直後の各突起１６、１７の頂部に圧接してビード状に変形付与されて幅方向に減縮変形して渦巻き状に湾曲して矩形に分断される。
【００３５】
この切粉４０は、図５に示すように、両側部近傍４０ａ、４０ｂが各突起１６、１７の圧接及び摺接によって湾曲変形し、この湾曲変形に伴って溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）に減縮変形される。これにより加工中に切粉４０が第１スナップリング溝１０５に入り込むことがあっても第１スナップリング溝１０５に嵌り込むことはない。
【００３６】
第１スナップリング溝１０５の溝入れ加工に続いて第２スナップリング溝１０６を溝入れチップ１０によって溝入れ加工する。この第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有し、一対の突起１６、１７が間隔をおいて形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、両側部近傍４０ａ、４０ｂが前部切刃１３の直後の各突起１６及び１７の頂部１６ａ、１７ａ（図に指示願います）に圧接して該部に変形付与されて渦巻き状に湾曲して矩形に分断される。この切粉４０は、図５に示すように両側部近傍４０ａ、４０ｂが各突起１６及び１７の圧接によってビード状に湾曲変形し、この湾曲変形に溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）に減縮変形される。
【００３７】
従って、先に加工された加工済みの第１スナップリング溝１０５に、第２スナップリング溝１０６の溝入れ加工の際に発生して飛散する切粉４０が入り込むことがあっても、第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗに対して渦巻き状に湾曲した切粉４０の幅寸法が小さく、第１スナップリング溝１０５に切粉４０が嵌り込むことが未然に防止される。また、第２スナップリング溝１０６に切粉４０が嵌り込むことが防止できる。
【００３８】
同様に、第２スナップリング溝１０６を先に溝入れチップ１０により溝入れ加工し、その後第１スナップリング溝１０５を溝入れチップ１０により溝入れ加工しても、第１スナップリング溝１０５の溝入れ加工の際に発生した切粉４０が第２スナップリング溝１０６に嵌り込むことが防止できる。
【００３９】
これにより、成形されたクラッチドラム１００の第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６等に切粉４０が残存することがなく、厄介な第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６に嵌り込まれた切粉４０の目視によるチェックや切粉４０の除去作業が省略或いは除去作業が極めて軽減されて作業者の負担が大幅に軽減されると共に、生産性の向上が得られる。また、切粉の除去に伴うに工具等による第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６及び内歯スプライン１０３等の損傷がなくなり、製品品質の向上が得られる。
【００４０】
（第２実施の形態）
第２実施の形態を図６乃至図９を参照して説明する。本実施の形態は、第１実施の形態と溝入れチップ１０の切刃部１２に形成される切粉幅減縮付与手段の形状が異なり、他の構成は第１実施の形態と同様であり、溝入れチップ１０の切刃部１２を主に説明する。
【００４１】
溝入れチップ１０は、図６の斜視図に示すように略三角形板状で固定部１１とこの固定部１１から突出する３つの切刃部１２を有する。図７に図６のＢ部拡大図を示すように、切刃部１２は、その前部切刃１３の幅が第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと一致し、前部切刃１３の後方に緩やかに湾曲して連続するすくい面１４の両側に沿って側部切刃１５が形成される。また、前部切刃１３の直後の幅方向中央部に前部切刃１３で削り出された切粉４０の幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段となる突出する突起２１が形成される。突起２１は前部切刃１３に接離する前後方向に延在する長形乃至前切刃１３から離れるに従って幅広となる略くさび状ですくい面１４から隆起する形状で頂部が滑らかな球面状に形成される。
【００４２】
そして、旋盤等によってクラッチドラム本体１００Ａの内周面に溝入れチップ１０により第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を順次溝入れ加工して図１８に示すクラッチドラム１００を成形する。
【００４３】
この第１スナップリング溝１０５を溝入れ加工する際に、図８に示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有しすくい面１４の幅方向中央部に突起２１が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、幅方向中央部が前部切刃１３の直後の突起２１の頂部に圧接及び摺接して該部がビード状に変形付与されて幅方向が減縮変形されて渦巻き状に湾曲して矩形板状に分断される。この切粉４０は、図９に示すように、幅方向中央部４０ｃが突起２１の圧接によってビード状に湾曲変形し、切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。これにより加工中に切粉４０が第１スナップリング溝１０５に入り込むことがあっても第１スナップリング溝１０５に嵌り込むことはない。
【００４４】
第１スナップリング溝１０５に続いて第２スナップリング溝１０６をチップ１０によって溝入れする。この第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有し幅方向中央部に突起２１が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、幅方向中央部４０ｃが前部切刃１３の直後の突起２１の頂部に圧接して該部に変形が付与されて幅方向が減縮変形して渦巻き状に湾曲して分断される。この切粉４０は、図９に示すように幅方向中央部４０ｃが突起２１の圧接及び摺接によってビード状に湾曲変形し、溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。
【００４５】
従って、先に加工された第１スナップリング溝１０５に、第２スナップリング溝１０６の溝入れ加工の際に発生して飛散する切粉４０が入り込むことがあっても、第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗに対して渦巻き状に湾曲した切粉４０の幅寸法が小さく、第１スナップリング溝１０５に切粉４０が嵌り込むことが未然に防止される。また、第２スナップリング溝１０６に切粉４０が嵌り込むことが防止できる。
【００４６】
同様に、第２スナップリング溝１０６を先に溝入れチップ１０により溝入れ加工し、その後第１スナップリング溝１０５を溝入れチップ１０により溝入れ加工しても第２スナップリング溝１０５の溝入れ加工の際に発生した切粉４０が第２スナップリング溝１０６に嵌り込むことが防止できる。
【００４７】
（第３実施の形態）
第３実施の形態を図１０乃至図１３を参照して説明する。本実施の形態は、第１実施の形態と溝入れチップ１０の切刃部１２に形成される切粉幅減縮付与手段の形状が異なり、他の構成は第１実施の形態と同様であり、溝入れチップ１０の切刃部１２を主に説明する。
【００４８】
溝入れチップ１０は、図１０の斜視図に示すように略三角形板状で固定部１１とこの固定部１１から突出する３つの切刃部１２を有する。図１１に図１０のＣ部拡大図を示すように、切刃部１２には先端の前部切刃１３の幅が第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと一致し、前部切刃１３の後方に緩やかに湾曲して連続形成されるすくい面１４の両側に沿って側部切刃１５が形成される。また、前部切刃１３の直後の幅方向中央部に前部切刃１３で削り出された切粉４０の幅を減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段となる突起２２が形成される。突起２２は前部切刃１３に接離する前後方向に滑らか連続して隆起するビード状であって頂部が曲面に形成される。
【００４９】
そして、旋盤等によってクラッチドラム本体１００Ａの内周面に溝入れチップ１０により第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を順次溝入れ加工して図１８に示すクラッチドラム１００を成形する。
【００５０】
この第１スナップリング溝１０５を溝入れ加工する際に、図１２に示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有しすくい面１４に前後方向に連続する突起２２が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、幅方向中央部が前部切刃１３の直後の突起２２の頂部に連続的に圧接してビード状に変形付与されて幅方向が減縮変形して渦巻き状に湾曲して分断される。この切粉４０は、図１３に示すように、幅方向中央部４０ｃが突起２２の圧接によってビード状に湾曲変形し、この湾曲変形に第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。これにより加工中に切粉４０が第１スナップリング溝１０５に入り込むことがあっても第１スナップリング溝１０５に嵌り込むことはない。
【００５１】
第１スナップリング溝１０５に続いて第２スナップリング溝１０６をチップ１０によって溝入れする。この第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有しすくい面１４の幅方向中央部に突起２２が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、幅方向中央部４０ｃが前部切刃１３の直後に隆起する突起２２の頂部２２ａに圧接して変形付与されて幅方向が減縮変形して渦巻き状に湾曲して分断される。この切粉４０は、図１３に示すように幅方向中央部が突起２２の圧接によってビード状に湾曲変形し、この湾曲変形に溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。
【００５２】
従って、先に加工された第１スナップリング溝１０５に、後から第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に発生して飛散する切粉４０が入り込むことがあっても、第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗに対して渦巻き状に湾曲した切粉４０の幅寸法が小さく、第１スナップリング溝１０５に切粉４０が嵌り込むことが未然に防止される。また、第２スナップリング溝１０６に切粉４０が嵌り込むことが防止できる。
【００５３】
同様に、第２スナップリング溝１０６を先に溝入れチップ１０により溝入れ加工し、その後第１スナップリング溝１０５を溝入れチップ１０により溝入れ加工しても第２スナップリング溝１０５の溝入れ加工の際に発生した切粉２０が第２スナップリング溝１０６に嵌り込むことが防止できる。
【００５４】
（第４実施の形態）
第３実施の形態を図１４乃至図１７を参照して説明する。本実施の形態は、第１実施の形態と溝入れチップ１０の切刃部１２に形成される切粉幅減縮付与手段の形状が異なり、他の構成は第１実施の形態と同様であり、溝入れチップ１０の切刃部１２を主に説明する。
【００５５】
溝入れチップ１０は、図１４の斜視図に示すように略三角形板状で固定部１１とこの固定部１１から突出する３つの切刃部１２を有する。図１５に図１４のＤ部拡大図を示すように、切刃部１２の前部切刃１３の幅が第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと一致し、前部切刃１３の後方に緩やかに湾曲して連続したすくい面１４の両側に沿って側部切刃１５が形成される。また、前部切刃１３の直後の幅方向中央部に前部切刃１３で削り出された切粉４０を幅方向に減縮変形する切粉幅減縮付与手段となる前後方向に連続する溝状の凹部２３が形成される。
【００５６】
そして、旋盤等によってクラッチドラム本体１００Ａの内周面に溝入れチップ１０により第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を順次溝入れ加工して図１８に示すクラッチドラム１００を成形する。
【００５７】
この第１スナップリング溝１０５を溝入れ加工する際に、図１６に示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有しすくい面１４に前後方向に連続する凹部２３が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、すくい面１４に圧接して誘導されるが、その幅方向中央部４０ｃは凹部２３の形成によってすくい面に１４に圧接することなく凹部２３に倣って突出変形して幅方向に減縮変形して渦巻き状に湾曲した矩形板状に分断される。この切粉４０は、図１７に示すように、幅方向中央部４０ｃが外方に膨出変形し、この変形によって第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。これにより加工中に切粉４０が第１スナップリング溝１０５に入り込むことがあっても第１スナップリング溝１０５に嵌り込むことはない。
【００５８】
第１スナップリング溝１０５に続いて第２スナップリング溝１０６をチップ１０によって溝入れする。この第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有しすくい面１４の幅方向中央部に凹部２３が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、すくい面１４に圧接して誘導されるが、その幅方向中央部４０ｃは凹部２３の形成によってすくい面に１４に圧接することなく凹部２３に倣って突出変形が付与されて渦巻き状に湾曲した矩形板状に分断される。この切粉４０は、図１７に示すように、幅方向中央部４０ｃが突出変形し、この突出変形によって第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。
【００５９】
従って、先に加工された第１スナップリング溝１０５に、後から第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に発生して飛散する切粉４０が入り込むことがあっても、第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗに対して渦巻き状に湾曲した切粉４０の幅寸法が小さく、第１スナップリング溝１０５に切粉４０が嵌り込むことが未然に防止される。また、第２スナップリング溝１０６に切粉４０が嵌り込むことが防止できる。
【００６０】
同様に、第２スナップリング溝１０６を先に溝入れチップ１０により溝入れ加工し、その後第１スナップリング溝１０５を溝入れチップ１０により溝入れ加工しても第２スナップリング溝１０５の溝入れ加工の際に発生した切粉４０が第２スナップリング溝１０６に嵌り込むことが防止できる。
【００６１】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第１実施の形態においては溝入れチップ１０のすくい面１４に一対の突起１６、１７を設けたが他の複数の突起を配置することも、また、第３実施の形態で突条２１の突起を幅方向中央部に１つ配置したが幅方向に複数配置することもできる。同様に第３実施の形態において凹部２３を複数形成することもできる。
【００６２】
また、上記実施の形態では工具として溝入れチップの例に説明したが溝入れチップに限らす溝入れバイト等の他の工具に適用することができる。
【００６３】
更に、クラッチドラムに限らず他の円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が円周方向に等間隔で形成された部材の内周面に複数の内径溝を溝入れ加工する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【００６４】
１００ クラッチドラム
１００Ａ クラッチドラム本体（被加工物）
１０２ 周壁部
１０３ 内歯スプライン（突状部）
１０５ 第１スナップリング溝（内径溝）
１０６ 第２スナップリング溝（内径溝）
１０ 溝入れチップ（溝入れ工具）
１２ 切刃部
１３ 前部切刃
１４ すくい面
１６、１７ 突起（切粉幅減縮付与手段）
１６ａ、１７ａ 頂部
２１ 突起（切粉幅減縮付与手段）
２２ 突起（切粉幅減縮付与手段）
２３ 凹部（切粉幅減縮付与手段）
４０ 切粉
４０ａ、４０ｂ 切粉の側部近傍
４０ｃ 切粉の幅方向中央部
【技術分野】
【０００１】
本発明は、内径溝加工方法及び溝切り工具に関し、特に円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が円周方向に形成された被加工部材の内周面に複数の内径溝を溝入れ加工する内径溝加工方法及び溝切り工具に関する。
【背景技術】
【０００２】
例えば、自動車の自動変速機に使用されるクラッチドラム１００は、図１８に一部破断説明図を示すように円板状の底壁部１０１と、この底壁部１０１の外周縁に形成された円筒状の周壁部１０２とからなり、この周壁部１０２の内周面に半径方向内向きに突出して周壁部１０２の軸方向に延びる複数の内歯スプライン１０３が円周方向に等間隔で形成される。この内歯スプライン１０３は周壁部１０２内に収容される図示しないクラッチ板がクラッチドラム１００に対して相対的に回転するのを防止するために形成されるものであり、クラッチ板の外周に内歯スプライン１０３の山部１０４が嵌入される複数の凹溝が形成されている。周壁部１０２の開口端部側の内周面に第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６が円周方向に形成されて各スナップリング溝１０５及び１０６にそれぞれ図示しない環状のスナップリングが装着される。
【０００３】
このように構成されるクラッチドラム１００の成形は、例えば特許文献１に開示されるように、外周に内歯スプライン成形部を有する円柱状の第１型と、第２型とにより板状材を挟持して回転させながら、板状材にフォーミングローラを押し当てて図１９に示すように周壁部１０２の内周に内歯スプライン１０３を有するクラッチドラム本体１００Ａを成形する。
【０００４】
そして、旋盤等によってクラッチドラム本体１００Ａの内周面に同じ溝幅の第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を順次溝入れ加工して図１８に示すクラッチドラム１００を成形する。
【０００５】
この第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を溝切り工具によって溝入れ加工する際に、図２０に示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１１１ａを有する溝切り工具１１１によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１１１ａによって削り出された切粉１０９は、前部切刃１１１ａの直後のすくい面１１１ｂ上をカールしながら矩形状に分断される。この切粉１０９は、図２１に斜視図を示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと同等の幅を有して湾曲する矩形板状の切粉形状となる。
【０００６】
このため、先に加工されたスナップリング溝１０５或いは１０６に、後から溝入れ加工する際に発生して飛散する切粉１０９が嵌り込むことがある。例えば、第１スナップリング溝１０５を溝入れ加工した後に、第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する場合には、先の第１スナップリング溝１０５を溝切り工具１１１によって溝入れ加工する際に、各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削して発生する切粉１０９が仮に溝入れ加工中の第１スナップリング溝１０５に入り込むことがあっても、溝切り工具１１１の前部切刃１１１ａによって排出されて第１スナップリング溝１０５内に切粉１０９が残存することはない。
【０００７】
一方、第１スナップリング溝１０５の溝入れ加工後に第２スナップリング溝１０６を溝切り工具１１１により溝入れ加工する際には、各内歯スプライン１０３の山部１０４の切削に伴って発生した切粉１０９が飛散し、既に加工された第１スナップリング溝１０５に嵌り込むことがある。この第１スナップリング溝１０５に嵌り込む切粉１０９は第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗと同じ幅を有する矩形板状であり、第１スナップリング溝１０５に嵌合して保持される。
【０００８】
同様に第２スナップリング溝１０６を先に加工し、しかる後第１スナップリング溝１０５を溝入れチップ１１１により溝入れ加工すると、第１スナップリング溝１０５の溝入れ加工の際に発生した切粉１０９が既に加工された第２スナップリング溝１０６に嵌り込むことが懸念される。
【０００９】
この第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６等に嵌入した切粉１０９が残存すると、クラッチドラム１００及びクラッチドラム１００を使用する自動変速機等の品質上の不具合を誘発する要因となることから切粉１０９を除去する必要があり、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の加工後に個々のクラッチドラム１００を目視チェックし、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６に嵌り込んだ切粉１０９を工具等により取り除く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【００１０】
【特許文献１】特開２００５−１０３５６３号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【００１１】
上記クラッチドラム１００の第１スナップリング溝１０５や第２スナックリング溝１０６に嵌入した切粉１０９は、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと一致乃至ほぼ一致した幅寸法を有することから、比較的強固に第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６に嵌り込まれた状態となり、その第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６に嵌り込んだ切粉１０９の目視によるチェック及び除去作業は極めて厄介でかつ作業者に多くの負担を掛ける。また、第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６に嵌り込んだ切粉１０９の除去に使用する際に工具等によって第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６及び内歯スプライン１０３等に不用意に損傷を与えることが懸念される。
【００１２】
同様の不具合は、クラッチドラムに限らず、同様に円筒状の周壁部の内周面に突出して軸方向に延びる複数の内歯スプライン状の突条部が円周方向に形成された部材の内周面に環状の複数の内径溝を溝入れ加工する際にも懸念される。
【００１３】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が円周方向に形成された被加工部材の内周面に複数の内径溝を溝入れ加工する際に切粉が内径溝に嵌り込むのを未然に防止し得る内径溝加工方法及び溝切り加工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【００１４】
請求項1に記載の内径溝加工方法の発明は、円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工する内径溝加工方法において、前記内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び該前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えた溝切り加工具で前記内径溝を溝入れ加工することを特徴とする。
【００１５】
これによると、内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えた溝切り加工具で複数の突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工することで溝幅と一致する幅で切削された切粉の幅が溝幅より小さい寸法に減縮変形されることから、内径溝の溝入れ加工の際に発生して飛散する切粉が溝入れ加工された内径溝内に入り込むことがあっても、内径溝に切粉が嵌り込むことがなくなる。これにより、内径溝に切粉が残存することがなく、内径溝に嵌り込まれた切粉の目視によるチェックや切粉の除去作業が省略或いは除去作業が極めて軽減されて作業者の負担が大幅に軽減されると共に、生産性の向上が得られる。
【００１６】
請求項２に記載の発明は、請求項１の内径溝加工方法において、前記切粉幅減縮付与手段は、前部切刃の後方におけるすくい面に突設された突起であることを特徴とする。これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉が前部切刃の後方の突起に圧接及び摺接して、切粉が幅方向に減縮変形する。
【００１７】
請求項３に記載の発明は、請求項１の内径溝加工方法において、前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面に凹設された凹部であることを特徴とする。
【００１８】
これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉が前部切刃の後方の凹部に倣って突出変形して、切粉が幅方向に減縮変形する。
【００１９】
請求項４に記載の溝切り加工具の発明は、円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に切削して複数の内径溝を溝入れ加工する溝切り加工具において、前記内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び該前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えたことを特徴とする。
【００２０】
これによると、内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び前部切刃で削り出された切粉の幅を減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えた溝切り加工具を用いて複数の突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工することで、溝幅と一致する幅で切削された切粉の幅が溝幅より小さい寸法に減縮変形される。これにより、内径溝の溝入れ加工の際に発生して飛散する切粉が溝入れ加工された内径溝に入り込むことがあっても内径溝に切粉が嵌り込むことが防止される。
【００２１】
請求項５の発明は、請求項４に記載の溝切り加工具において、前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面に幅方向に間隔をおいて突設された一対の突起であることを特徴とする。これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉の両側近傍が各突起に圧接及び摺接して幅方向に減縮変形する。
【００２２】
請求項６の発明は、請求項４に記載の溝切り加工具において、前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に突設された突起であることを特徴とする。これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉の幅方向中央部が突起に圧接及び摺接して変形付与されて、切粉が幅方向に減縮変形する。
【００２３】
請求項７の発明は、請求項４に記載の溝切り加工具において、前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に前後方向に連続して隆起するビード状の突起であることを特徴とする。これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉の幅方向中央部が前後方向に延在する突起に圧接してビード状に変形付与されて、切粉が幅方向に減縮変形する。
【００２４】
請求項８の発明は、請求項４に記載の溝切り加工具において、前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に凹設された凹部であることを特徴とする。これによると、前部切刃によって内径溝の溝幅に削り出された切粉が前部切刃の後方の凹部に倣って突出変形して、切粉が幅方向に減縮変形する。
【発明の効果】
【００２５】
本発明によると、内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えた溝切り加工具で複数の突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工することで切粉の幅が溝幅より小さい寸法に減縮変形されて、溝入れ加工の際に発生して飛散する切粉が内径溝に入り込むことがあっても、内径溝に切粉が嵌り込むことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【００２６】
【図１】第１実施の形態にかかる溝切り工具の説明図である
【図２】溝入れチップの斜視図である。
【図３】図２のＡ部拡大図である。
【図４】第１スナップリング溝及び第２スナップリング溝の溝入れ加工の説明図である。
【図５】切粉の説明図である。
【図６】第２実施の形態にかかる溝入れチップの斜視図である。
【図７】図６のＢ部拡大図である。
【図８】第１スナップリング溝及び第２スナップリング溝の溝入れ加工の説明図である。
【図９】切粉の説明図である。
【図１０】第３実施の形態にかかる溝入れチップの斜視図である。
【図１１】図１０のＣ部拡大図である。
【図１２】第１スナップリング溝及び第２スナップリング溝の溝入れ加工の説明図である。
【図１３】切粉の説明図である。
【図１４】第４実施の形態にかかる溝入れチップの斜視図である。
【図１５】図１４のＤ部拡大図である。
【図１６】第１スナップリング溝及び第２スナップリング溝の溝入れ加工の説明図である。
【図１７】切粉の説明図である。
【図１８】クラッチドラムの一部破断説明図である。
【図１９】クラッチドラム本体の一部破断説明図である。
【図２０】従来の溝入れ加工の説明図である。
【図２１】従来の切粉の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【００２７】
以下、本発明による内径溝加工方法及び溝切り加工具の実施の形態をクラッチドラムのスナップリング溝を溝切り加工する場合を例に説明する。
【００２８】
（第１実施の形態）
図１乃至図５及び図１８，図１９を参照して第１実施の形態を説明する。図１８はクラッチドラム１００の斜視図である。図１９は内径溝となるスナップリング溝を溝切り加工する前の被加工部材であるクラッチドラム本体１００Ａの斜視図である。
【００２９】
図１９に示すクラッチドラム本体１００Ａは、円板状の底壁部１０１と、この底壁部１０１の外周縁に形成された円筒状の周壁部１０２とからなり、この周壁部１０２の内周面に半径方向内向きに突出して周壁部１０２の軸方向に延びる突条部となる複数の内歯スプライン１０３が円周方向に等間隔で形成される。
【００３０】
このクラッチドラム本体１００Ａの周壁部１０２の開口端部の内周面に内径溝となる同一溝幅Ｗの第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工することで、図１８に示すようなクラッチドラム１００が形成される。
【００３１】
図１乃至図３は、クラッチドラム本体１００Ａに第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する溝切り工具の説明図である。この溝切り工具は、図１に示すようにホルダ１の先端に溝入れチップ１０がクランプ駒２及びスクリュー３によって固定される。ホルダ１に取り付けられる溝入れチップ１０は、図２に斜視図を示すように略三角形板状で固定部１１とこの固定部１１から突出する３つの切刃部１２を有する。
【００３２】
切刃部１２について図２のＡ部拡大図を示す図３を参照して説明する。切刃部１２は先端の前部切刃１３の幅寸法が第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと一致し、前部切刃１３の後方に緩やかに湾曲して連続形成されたすくい面１４の両側に沿って側部切刃１５が形成される。また、前部切刃１３の直後位置に前部切刃１３で削り出された切粉４０を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段となる一対の突起１６、１７が幅方向に間隔をおいて形成される。各突起１６、１７は前後方向に延在する長形乃至前切刃１３から離れるに従って幅広となる略くさび状ですくい面１４から隆起して頂部が滑らかな球面状に形成される。
【００３３】
そして、旋盤等によって回転駆動される被加工部材であるクラッチドラム本体１００Ａの内周面に溝入れチップ１０により第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を順次溝入れ加工して図１８に示すクラッチドラム１００を成形する。
【００３４】
この第１スナップリング溝１０５を溝入れ加工する際に、図４に示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有し、すくい面１４に一対の突起１６、１７が間隔おいて形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、両側近傍４０ａ、４０ｂが前部切刃１３の直後の各突起１６、１７の頂部に圧接してビード状に変形付与されて幅方向に減縮変形して渦巻き状に湾曲して矩形に分断される。
【００３５】
この切粉４０は、図５に示すように、両側部近傍４０ａ、４０ｂが各突起１６、１７の圧接及び摺接によって湾曲変形し、この湾曲変形に伴って溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）に減縮変形される。これにより加工中に切粉４０が第１スナップリング溝１０５に入り込むことがあっても第１スナップリング溝１０５に嵌り込むことはない。
【００３６】
第１スナップリング溝１０５の溝入れ加工に続いて第２スナップリング溝１０６を溝入れチップ１０によって溝入れ加工する。この第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有し、一対の突起１６、１７が間隔をおいて形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、両側部近傍４０ａ、４０ｂが前部切刃１３の直後の各突起１６及び１７の頂部１６ａ、１７ａ（図に指示願います）に圧接して該部に変形付与されて渦巻き状に湾曲して矩形に分断される。この切粉４０は、図５に示すように両側部近傍４０ａ、４０ｂが各突起１６及び１７の圧接によってビード状に湾曲変形し、この湾曲変形に溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）に減縮変形される。
【００３７】
従って、先に加工された加工済みの第１スナップリング溝１０５に、第２スナップリング溝１０６の溝入れ加工の際に発生して飛散する切粉４０が入り込むことがあっても、第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗに対して渦巻き状に湾曲した切粉４０の幅寸法が小さく、第１スナップリング溝１０５に切粉４０が嵌り込むことが未然に防止される。また、第２スナップリング溝１０６に切粉４０が嵌り込むことが防止できる。
【００３８】
同様に、第２スナップリング溝１０６を先に溝入れチップ１０により溝入れ加工し、その後第１スナップリング溝１０５を溝入れチップ１０により溝入れ加工しても、第１スナップリング溝１０５の溝入れ加工の際に発生した切粉４０が第２スナップリング溝１０６に嵌り込むことが防止できる。
【００３９】
これにより、成形されたクラッチドラム１００の第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６等に切粉４０が残存することがなく、厄介な第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６に嵌り込まれた切粉４０の目視によるチェックや切粉４０の除去作業が省略或いは除去作業が極めて軽減されて作業者の負担が大幅に軽減されると共に、生産性の向上が得られる。また、切粉の除去に伴うに工具等による第１スナップリング溝１０５や第２スナップリング溝１０６及び内歯スプライン１０３等の損傷がなくなり、製品品質の向上が得られる。
【００４０】
（第２実施の形態）
第２実施の形態を図６乃至図９を参照して説明する。本実施の形態は、第１実施の形態と溝入れチップ１０の切刃部１２に形成される切粉幅減縮付与手段の形状が異なり、他の構成は第１実施の形態と同様であり、溝入れチップ１０の切刃部１２を主に説明する。
【００４１】
溝入れチップ１０は、図６の斜視図に示すように略三角形板状で固定部１１とこの固定部１１から突出する３つの切刃部１２を有する。図７に図６のＢ部拡大図を示すように、切刃部１２は、その前部切刃１３の幅が第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと一致し、前部切刃１３の後方に緩やかに湾曲して連続するすくい面１４の両側に沿って側部切刃１５が形成される。また、前部切刃１３の直後の幅方向中央部に前部切刃１３で削り出された切粉４０の幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段となる突出する突起２１が形成される。突起２１は前部切刃１３に接離する前後方向に延在する長形乃至前切刃１３から離れるに従って幅広となる略くさび状ですくい面１４から隆起する形状で頂部が滑らかな球面状に形成される。
【００４２】
そして、旋盤等によってクラッチドラム本体１００Ａの内周面に溝入れチップ１０により第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を順次溝入れ加工して図１８に示すクラッチドラム１００を成形する。
【００４３】
この第１スナップリング溝１０５を溝入れ加工する際に、図８に示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有しすくい面１４の幅方向中央部に突起２１が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、幅方向中央部が前部切刃１３の直後の突起２１の頂部に圧接及び摺接して該部がビード状に変形付与されて幅方向が減縮変形されて渦巻き状に湾曲して矩形板状に分断される。この切粉４０は、図９に示すように、幅方向中央部４０ｃが突起２１の圧接によってビード状に湾曲変形し、切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。これにより加工中に切粉４０が第１スナップリング溝１０５に入り込むことがあっても第１スナップリング溝１０５に嵌り込むことはない。
【００４４】
第１スナップリング溝１０５に続いて第２スナップリング溝１０６をチップ１０によって溝入れする。この第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有し幅方向中央部に突起２１が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、幅方向中央部４０ｃが前部切刃１３の直後の突起２１の頂部に圧接して該部に変形が付与されて幅方向が減縮変形して渦巻き状に湾曲して分断される。この切粉４０は、図９に示すように幅方向中央部４０ｃが突起２１の圧接及び摺接によってビード状に湾曲変形し、溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。
【００４５】
従って、先に加工された第１スナップリング溝１０５に、第２スナップリング溝１０６の溝入れ加工の際に発生して飛散する切粉４０が入り込むことがあっても、第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗに対して渦巻き状に湾曲した切粉４０の幅寸法が小さく、第１スナップリング溝１０５に切粉４０が嵌り込むことが未然に防止される。また、第２スナップリング溝１０６に切粉４０が嵌り込むことが防止できる。
【００４６】
同様に、第２スナップリング溝１０６を先に溝入れチップ１０により溝入れ加工し、その後第１スナップリング溝１０５を溝入れチップ１０により溝入れ加工しても第２スナップリング溝１０５の溝入れ加工の際に発生した切粉４０が第２スナップリング溝１０６に嵌り込むことが防止できる。
【００４７】
（第３実施の形態）
第３実施の形態を図１０乃至図１３を参照して説明する。本実施の形態は、第１実施の形態と溝入れチップ１０の切刃部１２に形成される切粉幅減縮付与手段の形状が異なり、他の構成は第１実施の形態と同様であり、溝入れチップ１０の切刃部１２を主に説明する。
【００４８】
溝入れチップ１０は、図１０の斜視図に示すように略三角形板状で固定部１１とこの固定部１１から突出する３つの切刃部１２を有する。図１１に図１０のＣ部拡大図を示すように、切刃部１２には先端の前部切刃１３の幅が第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと一致し、前部切刃１３の後方に緩やかに湾曲して連続形成されるすくい面１４の両側に沿って側部切刃１５が形成される。また、前部切刃１３の直後の幅方向中央部に前部切刃１３で削り出された切粉４０の幅を減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段となる突起２２が形成される。突起２２は前部切刃１３に接離する前後方向に滑らか連続して隆起するビード状であって頂部が曲面に形成される。
【００４９】
そして、旋盤等によってクラッチドラム本体１００Ａの内周面に溝入れチップ１０により第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を順次溝入れ加工して図１８に示すクラッチドラム１００を成形する。
【００５０】
この第１スナップリング溝１０５を溝入れ加工する際に、図１２に示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有しすくい面１４に前後方向に連続する突起２２が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、幅方向中央部が前部切刃１３の直後の突起２２の頂部に連続的に圧接してビード状に変形付与されて幅方向が減縮変形して渦巻き状に湾曲して分断される。この切粉４０は、図１３に示すように、幅方向中央部４０ｃが突起２２の圧接によってビード状に湾曲変形し、この湾曲変形に第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。これにより加工中に切粉４０が第１スナップリング溝１０５に入り込むことがあっても第１スナップリング溝１０５に嵌り込むことはない。
【００５１】
第１スナップリング溝１０５に続いて第２スナップリング溝１０６をチップ１０によって溝入れする。この第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有しすくい面１４の幅方向中央部に突起２２が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、幅方向中央部４０ｃが前部切刃１３の直後に隆起する突起２２の頂部２２ａに圧接して変形付与されて幅方向が減縮変形して渦巻き状に湾曲して分断される。この切粉４０は、図１３に示すように幅方向中央部が突起２２の圧接によってビード状に湾曲変形し、この湾曲変形に溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。
【００５２】
従って、先に加工された第１スナップリング溝１０５に、後から第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に発生して飛散する切粉４０が入り込むことがあっても、第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗに対して渦巻き状に湾曲した切粉４０の幅寸法が小さく、第１スナップリング溝１０５に切粉４０が嵌り込むことが未然に防止される。また、第２スナップリング溝１０６に切粉４０が嵌り込むことが防止できる。
【００５３】
同様に、第２スナップリング溝１０６を先に溝入れチップ１０により溝入れ加工し、その後第１スナップリング溝１０５を溝入れチップ１０により溝入れ加工しても第２スナップリング溝１０５の溝入れ加工の際に発生した切粉２０が第２スナップリング溝１０６に嵌り込むことが防止できる。
【００５４】
（第４実施の形態）
第３実施の形態を図１４乃至図１７を参照して説明する。本実施の形態は、第１実施の形態と溝入れチップ１０の切刃部１２に形成される切粉幅減縮付与手段の形状が異なり、他の構成は第１実施の形態と同様であり、溝入れチップ１０の切刃部１２を主に説明する。
【００５５】
溝入れチップ１０は、図１４の斜視図に示すように略三角形板状で固定部１１とこの固定部１１から突出する３つの切刃部１２を有する。図１５に図１４のＤ部拡大図を示すように、切刃部１２の前部切刃１３の幅が第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと一致し、前部切刃１３の後方に緩やかに湾曲して連続したすくい面１４の両側に沿って側部切刃１５が形成される。また、前部切刃１３の直後の幅方向中央部に前部切刃１３で削り出された切粉４０を幅方向に減縮変形する切粉幅減縮付与手段となる前後方向に連続する溝状の凹部２３が形成される。
【００５６】
そして、旋盤等によってクラッチドラム本体１００Ａの内周面に溝入れチップ１０により第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６を順次溝入れ加工して図１８に示すクラッチドラム１００を成形する。
【００５７】
この第１スナップリング溝１０５を溝入れ加工する際に、図１６に示すように第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有しすくい面１４に前後方向に連続する凹部２３が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、すくい面１４に圧接して誘導されるが、その幅方向中央部４０ｃは凹部２３の形成によってすくい面に１４に圧接することなく凹部２３に倣って突出変形して幅方向に減縮変形して渦巻き状に湾曲した矩形板状に分断される。この切粉４０は、図１７に示すように、幅方向中央部４０ｃが外方に膨出変形し、この変形によって第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。これにより加工中に切粉４０が第１スナップリング溝１０５に入り込むことがあっても第１スナップリング溝１０５に嵌り込むことはない。
【００５８】
第１スナップリング溝１０５に続いて第２スナップリング溝１０６をチップ１０によって溝入れする。この第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に、第１スナップリング溝１０５及び第２スナップリング溝１０６の溝幅Ｗと幅寸法が一致した前部切刃１３を有しすくい面１４の幅方向中央部に凹部２３が形成された溝入れチップ１０によって各内歯スプライン１０３の山部１０４を断続的に切削することから、前部切刃１３によって溝幅Ｗに削り出された切粉４０は、すくい面１４に圧接して誘導されるが、その幅方向中央部４０ｃは凹部２３の形成によってすくい面に１４に圧接することなく凹部２３に倣って突出変形が付与されて渦巻き状に湾曲した矩形板状に分断される。この切粉４０は、図１７に示すように、幅方向中央部４０ｃが突出変形し、この突出変形によって第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗと一致する幅で切削された切粉４０の幅が溝幅Ｗより小さい寸法（Ｗ−α）となる。
【００５９】
従って、先に加工された第１スナップリング溝１０５に、後から第２スナップリング溝１０６を溝入れ加工する際に発生して飛散する切粉４０が入り込むことがあっても、第１スナップリング溝１０５の溝幅Ｗに対して渦巻き状に湾曲した切粉４０の幅寸法が小さく、第１スナップリング溝１０５に切粉４０が嵌り込むことが未然に防止される。また、第２スナップリング溝１０６に切粉４０が嵌り込むことが防止できる。
【００６０】
同様に、第２スナップリング溝１０６を先に溝入れチップ１０により溝入れ加工し、その後第１スナップリング溝１０５を溝入れチップ１０により溝入れ加工しても第２スナップリング溝１０５の溝入れ加工の際に発生した切粉４０が第２スナップリング溝１０６に嵌り込むことが防止できる。
【００６１】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第１実施の形態においては溝入れチップ１０のすくい面１４に一対の突起１６、１７を設けたが他の複数の突起を配置することも、また、第３実施の形態で突条２１の突起を幅方向中央部に１つ配置したが幅方向に複数配置することもできる。同様に第３実施の形態において凹部２３を複数形成することもできる。
【００６２】
また、上記実施の形態では工具として溝入れチップの例に説明したが溝入れチップに限らす溝入れバイト等の他の工具に適用することができる。
【００６３】
更に、クラッチドラムに限らず他の円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が円周方向に等間隔で形成された部材の内周面に複数の内径溝を溝入れ加工する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【００６４】
１００ クラッチドラム
１００Ａ クラッチドラム本体（被加工物）
１０２ 周壁部
１０３ 内歯スプライン（突状部）
１０５ 第１スナップリング溝（内径溝）
１０６ 第２スナップリング溝（内径溝）
１０ 溝入れチップ（溝入れ工具）
１２ 切刃部
１３ 前部切刃
１４ すくい面
１６、１７ 突起（切粉幅減縮付与手段）
１６ａ、１７ａ 頂部
２１ 突起（切粉幅減縮付与手段）
２２ 突起（切粉幅減縮付与手段）
２３ 凹部（切粉幅減縮付与手段）
４０ 切粉
４０ａ、４０ｂ 切粉の側部近傍
４０ｃ 切粉の幅方向中央部
【特許請求の範囲】
【請求項１】
円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工する内径溝加工方法において、
前記内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び該前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えた溝切り加工具で前記内径溝を溝入れ加工することを特徴とする内径溝加工方法。
【請求項２】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面に突設された突起であることを特徴とする請求項１に記載の内径溝加工方法。
【請求項３】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面に凹設された凹部であることを特徴とする請求項１に記載の内径溝加工方法。
【請求項４】
円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工する溝切り加工具において、
前記内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び該前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えたことを特徴とする溝切り加工具。
【請求項５】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面に幅方向に間隔をおいて突設された一対の突起であることを特徴とする請求項４に記載の溝切り加工具。
【請求項６】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に突設された突起であることを特徴とする請求項４に記載の溝切り加工具。
【請求項７】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に前後方向に連続して隆起するビード状の突起であることを特徴とする請求項４に記載の溝切り加工具。
【請求項８】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に凹設された凹部であることを特徴とする請求項４に記載の溝切り加工具。
【請求項１】
円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工する内径溝加工方法において、
前記内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び該前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えた溝切り加工具で前記内径溝を溝入れ加工することを特徴とする内径溝加工方法。
【請求項２】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面に突設された突起であることを特徴とする請求項１に記載の内径溝加工方法。
【請求項３】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面に凹設された凹部であることを特徴とする請求項１に記載の内径溝加工方法。
【請求項４】
円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に切削して内径溝を溝入れ加工する溝切り加工具において、
前記内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃及び該前部切刃で削り出された切粉を幅方向に減縮変形せしめる切粉幅減縮付与手段を備えたことを特徴とする溝切り加工具。
【請求項５】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面に幅方向に間隔をおいて突設された一対の突起であることを特徴とする請求項４に記載の溝切り加工具。
【請求項６】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に突設された突起であることを特徴とする請求項４に記載の溝切り加工具。
【請求項７】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に前後方向に連続して隆起するビード状の突起であることを特徴とする請求項４に記載の溝切り加工具。
【請求項８】
前記切粉幅減縮付与手段は、前記前部切刃の後方におけるすくい面の幅方向中央部に凹設された凹部であることを特徴とする請求項４に記載の溝切り加工具。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図１２】
【図１３】
【図１４】
【図１５】
【図１６】
【図１７】
【図１８】
【図１９】
【図２０】
【図２１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図１２】
【図１３】
【図１４】
【図１５】
【図１６】
【図１７】
【図１８】
【図１９】
【図２０】
【図２１】
【公開番号】特開２０１３−１３９４２（Ｐ２０１３−１３９４２Ａ）
【公開日】平成２５年１月２４日（２０１３．１．２４）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２０１１−１４６１８４（Ｐ２０１１−１４６１８４）
【出願日】平成２３年６月３０日（２０１１．６．３０）
【出願人】（０００００５３４８）富士重工業株式会社 (3,010)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２５年１月２４日（２０１３．１．２４）
【国際特許分類】
【出願日】平成２３年６月３０日（２０１１．６．３０）
【出願人】（０００００５３４８）富士重工業株式会社 (3,010)
【Ｆターム（参考）】
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