説明

内燃機関におけるノッキングを識別する方法および装置

【課題】フィルタ特性の切換フェーズ中のノッキング識別における信頼性を向上させることができる方法を提供する。
【解決手段】フィルタ特性が変化するフェーズの間に、補正されたノッキング識別方法を実施し、該補正されたノッキング識別方法ではノッキング識別閾値を比較的鈍感に切り換える、及び/又は、基準レベル追従を修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関におけるノッキングを識別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノッキング調節装置を備えた内燃機関においてノッキングを識別する方法が実施されることが公知であり、この方法では1つまたは複数のノッキングセンサによって受信されて、電気信号に変換される個体伝播音が信号処理装置において処理される。例えば内燃機関の制御装置内に設けられている信号処理装置はディジタルまたはアナログ信号処理を行う。信号処理ないし所属の評価回路の重要な構成要素はバンドパスフィルタである。バンドパスフィルタの特性すなわち中間周波数、質などは、ノッキング周波数のエネルギ論的な重点が通過帯域内にあり、一方ノイズの周波数は可能な限り通過帯域外にあるように設計される。これによってノイズが実質的に抑制される。
【0003】
複数のサブユニット及びアクチュエータを備える現代のエンジンないし内燃機関では、ノイズの周波数は場合によっては回転数に大きく依存する。したがって、回転数帯の全体にわたり良好なノッキング識別を保障できるようにするために、このようなエンジンないし内燃機関では、回転数に依存するフィルタ特性を用いて処理が行われる。上述のノッキング識別を行う装置は刊行物EP 0 576 650 B1に記載されている。
【0004】
EP 0 576 650から公知のノッキング識別装置は、信号処理経路にバンドパスフィルタを包含し、このバンドパスフィルタの中間周波数はエンジン回転数に依存して可変である。中間周波数は、ノッキングに起因する信号成分が可能な限り殆どフィルタリングされず、バックグラウンド信号及びノイズ信号は可能な限り大部分フィルタリング除去されるように設計される。周波数は回転数に依存してずらすことができるので、可変の中間周波数を有するバンドパスフィルタが使用される。ノッキングは公知の装置では通常の場合、ノッキングの典型的な信号成分から形成される積分値が、所定のようにしてバックグラウンド信号に依存する値と異なる場合に識別される。
【0005】
フィルタ特性が変化することにより、燃焼のノイズの尺度を表すフィルタリングされた信号も変化する。目下の燃焼のノイズ、ないしいわゆるノッキング積分値ikrと、同一のシリンダにおける過去の複数の燃焼にわたり平均化されたノイズ、いわゆる基準レベルrkrとの比率virkrを形成することによりノッキングを識別するので、フィルタ特性が変わる際に問題が発生する可能性がある。virkr=ikr/rkr(old)の値がノッキング識別閾値keを上回る場合にノッキングが識別される。すなわちikr>rkr(old)*keの場合にノッキングが識別される。
【0006】
基準レベルの算出は通常の場合、ノッキングのない動作時に次式または類似の式によりに帰納的に行われる、また例えばDE−P195 456 49.1に記載されている。
rkr(new)=(1-1/KRFTP)*rkr(old)+1/KRFTP*ikr
係数KRFTPはここではいわゆる追従係数と称される。
【0007】
ある燃焼から次の燃焼までにフィルタ特性が変化されると、すなわち、例えばフィルタの中間周波数が新たなないし変化した状況に適応されると、目下の燃焼ノイズないしノッキング積分値ikrは場合によっては顕著に変化するが、一方基準レベルrkrは緩慢にしか変化せず、ないし緩慢にしか追従されない。ikrの変化が例えば顕著な上昇である場合には、ノッキングがいわゆる誤識別される可能性がある。すなわち、ノッキングのない燃焼が誤ってノッキングのあるものとして識別される。したがって本来は必要の無い、点火角の変化が惹起される。この最初の誤識別の結果、さらなる誤識別が生じる可能性があり、何故ならば、ノッキングのある燃焼について測定されたノッキング積分値ikrは基準レベルrkrにおいては完全には考慮されず、ノッキングノイズと推定されてrkrが上昇することを回避するために係数keによって即座に除算されるからである。計算は次式により行われる。
rkr(new)=(1-1/KRFTP)*rkr(old)+1/KRFTP*(ikr/ke)
【0008】
これとは反対に、燃焼ノイズが顕著に低減した場合のノッキング識別は所定の時間機能せず、すなわちノッキングのある燃焼が場合によっては識別されない。したがってフィルタ特性の変化は、ノッキング識別における時間的に制限された不確定要素となる。さらには、ノッキングの各々の誤識別は不必要に点火角度を後調整し、したがって出力及び効率の相応の損失に繋がる。他方ノッキングのある燃焼が識別されないことは、エンジンの磨耗を高めることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP 0 576 650 B1
【特許文献2】DE−P195 456 49.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、フィルタ特性の切換フェーズ中のノッキング識別における信頼性を向上させることができる方法と装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
方法に関する課題は、ノッキングセンサの出力信号を、可変の特性を備えた少なくとも1つのフィルタ有する評価回路に供給し、検知され処理されたノッキングセンサの出力信号が、内燃機関のノイズに依存して変化する基準値を所定のように上回る場合にノッキングを識別する、内燃機関におけるノッキングを識別する方法において、フィルタ特性が変化するフェーズの間に、補正されたノッキング識別方法を実施し、該補正されたノッキング識別方法ではノッキング識別閾値を比較的鈍感に切り換える、及び/又は、基準レベル追従を修正することによって解決される。
【0012】
装置に関する課題は、装置が、請求項1から6のいずれか1項記載の方法のうちの少なくとも1つを実施する手段を包含することによって解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の特徴は、基準レベルを算出する以下のように規定されたアルゴリズムを包含する。すなわちこのアルゴリズムは、フィルタ特性の切換フェーズにおけるノッキングの誤識別ないしノッキングの非識別の問題が最小限にされ、同時に従前通りに実際のノッキングの識別を可能にするように規定されている。本発明によれば、切換フェーズの所定の継続時間に対する2つの措置が提案される。すなわち1つは、比較的小さい基準レベル追従係数KRFTPを選択することにより基準レベルを追従する。したがって内燃機関ないしエンジンのバックグラウンドノイズの変化がより早く検知される。もう1つは、比較的大きなバックグラウンドノイズが生じるフィルタ特性の切換の際に、ノッキング識別閾値keが係数FKEFMU1>1で補正される。すなわち、ノッキング識別は誤識別を回避するために比較的鈍感になる。
【0014】
相応にして、比較的小さなバックグラウンドノイズが生じる切換の際に、FKEFMU2<1で補正が行われる。したがってさらに確実なノッキング識別が保証される。
【0015】
発明の利点
独立請求項記載の特徴を有する本発明による方法及び本発明による装置は、フィルタの切換フェーズの間でも、すなわちフィルタ特性が変化している間でもノッキングの誤識別が確実に回避されるという利点を有する。同時にノッキングはこのフェーズにおいても確実に識別される。この利点は、切換フェーズの間に修正されたノッキング識別方法が実施されることによって達成され、このノッキング識別方法ではノッキング識別閾値が比較的鈍感に切り換えられる、及び/又は、基準レベル追従が修正される。
【0016】
本発明の別の利点は、従属請求項に記載された措置によって達成される。有利には切換フェーズに対して所定の継続時間がとられ、この継続時間の経過は例えばカウンタを用いて検出される。
【0017】
修正されたノッキング識別に必要である、ノッキング識別閾値及び/又は基準レベル追従に対する値は、有利には通常の値に与えられる適切な係数を用いて形成される。
【0018】
従属請求項に記載されている解決手段の別の利点は、ノッキングセンサの個々のシリンダへの異なる距離が考慮されることである。何故ならば、ノッキングセンサの個々のシリンダへの距離が異なることに基づいて、シリンダ内の燃焼に基づき発生する信号及び妨害信号の周波数がずれるからである。さらには、回転数が異なる場合には燃焼に起因する信号及び妨害信号の周波数のずれが生じることが考慮され、その結果ここでもまた最適な周波数領域が監視され、相応にノッキングを最適に識別することができる。
【0019】
殊に有利には、バンドパスフィルタの中間周波数がずらされる際に、通過帯域がシリンダ固有に及び/又は回転数に依存して変化される。同様に、バンドパスフィルタの通過帯域は、通過帯域の上側のコーナー周波数及び/又は下側のコーナー周波数がずらされることにより簡単にずらされる。中間周波数または通過帯域の下側のコーナー周波数または上側のコーナー周波数を有利に迅速に読み出すことは、中間周波数及び/又は下側のコーナー周波数及び/又は上側のコーナー周波数がそれぞれの特性マップから読み出されることによって行われ、特性マップの値は回転数の値及び/又はそれぞれのシリンダに対応付けられている。
【0020】
さらに有利には、ノッキング識別閾値及び/又は積分されたノッキング信号のシリンダ固有の基準値を、バンドパスフィルタの通過帯域が変化される際に可能な限り迅速に適応させる。これに加え有利には、ノッキング識別閾値も積分されたノッキング信号のシリンダ固有の基準値の追従係数も、通過帯域が変化される際にそれぞれ補正係数と乗算され、その結果ノッキング識別が変化された予期すべき積分されたノッキング信号に迅速に適合される。
【0021】
ノッキングを識別するための本発明による方法は、内燃機関の調節に使用される制御装置のプロセッサにおいて実行され、この制御装置はもちろんメモリ、コネクションなどの、計算のために必要であり、必要な全ての情報を有し、ノッキングを識別した後にノッキングを阻止する対策を講じる全ての手段を包含する。
【0022】
別の有利な実施形態及び改善実施形態は以下の説明から得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ノッキング識別する本発明による第1の装置を示す。
【図2】本発明による方法のフローチャートを示す。
【図3】ノッキング識別する本発明による第2の装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1には、以下に説明する内燃機関のノッキングを識別する本発明による装置が示されている。この本発明による装置は、内燃機関のノッキングを識別する本発明による方法を実施することができる。
【0025】
ノッキングセンサ1a、1bから1nを用いて、内燃機関のシリンダ(図示していない)において行われる燃焼に基づき発生する信号を検知することができる。ここでノッキングセンサはシリンダの燃焼室からの信号も、シリンダの近傍における信号も検知することができ、これらのノッキングセンサは燃焼室にも、燃焼室外にも配置することができる。このようなセンサは例えば、燃焼室圧力用の圧力センサ、イオン電流識別器、加速度センサ、光学センサ、マイクロフォン、圧電セラミックセンサであり、これらのセンサは例えばシリンダヘッドボルト、クランクシャフト主軸受けにおけるボルト、点火プラグ、シリンダボディのパッキングまたはエンジンブロックに取り付けられている。今日製造されている大部分の内燃機関においては、同種の複数のノッキングセンサが設けられているが、ノッキングセンサを1つだけ設けることも可能である。異なる種類のノッキングセンサを組み合わせることも同様に考えられる。
【0026】
ノッキングセンサ1a,1b,...1nによって検知された振動は、電気信号として送出され、評価回路20においてさらに処理される。評価回路20内には先ず乗算器21が設けられており、この乗算器21には個々のノッキングセンサ1a,1b,...1nの信号が転送される。ここで、目下燃焼が行われており、したがってノッキング信号も予想され得るそれぞれのシリンダに依存して、設定可能な所定のノッキングセンサ1a,1b,...1nの信号が乗算器21によって選定される。この選定はマイクロコンピュータ30の、乗算器21と接続されている制御ユニット31によって制御される。乗算器21の出力信号は引き続き評価回路20内の増幅器23に供給され、この増幅器23において別の評価の要求に応じて増幅される。この増幅された信号は引き続きバンドパスフィルタ25に転送され、このバンドパスフィルタ25は所定の周波数帯域を増幅された信号から選択する。バンドパスフィルタ25によって、ノッキングを特徴付ける周波数が存在する周波数帯域が選定される。このような帯域通過フィルタリングによって、他の領域にある妨害信号を効果的に取り除くことができる。
【0027】
帯域通過フィルタリングされた信号はバンドパスフィルタ25から整流器27に転送され、この整流器27において整流される。整流された信号は引き続き積分器29によって積分され、その結果内燃機関の所定のシリンダにおけるノッキングの強度の特徴を示す信号が生じる。整流器から伝送された信号の積分は所定の時間ウィンドウの間に行われ、ここで測定ウィンドウとも称されるこの時間ウィンドウは、ノッキング信号の発生の特徴を示す期間を包含する。時間ウィンドウを選定することにより、周波数帯域の選定と同様に妨害信号を除去することができる。時間ウィンドウはマイクロコンピュータ30の制御ユニット31によって設定され、ここで制御ユニット31は積分器29と接続されている。
【0028】
以下ではノッキング信号と称する、評価回路20において積分され得られた信号は続いてマイクロコンピュータ30に転送され、この信号は先ずアナログ/ディジタル変換器(A/D変換器)33によってディジタル信号に変換される。ディジタル信号は、同様にマイクロコンピュータ30内に設けられているノッキング識別ユニット35に転送される。ノッキング識別ユニット35においては、ディジタルノッキング信号がノッキング識別閾値と比較される。ノッキング識別ユニット35はノッキング識別閾値を、同様にマイクロコンピュータ30内に設けられているメモリユニット37から得る。簡単な実施例においては、ディジタルノッキング信号がノッキング識別閾値を上回った場合に、ノッキング識別ユニット35によってノッキングが識別される。ノッキング識別閾値を上回らない場合には、ノッキング識別ユニット35はノッキングが生じていないことを識別する。
【0029】
別の有利な実施例においては、目下のディジタルノッキング信号UINT,aktuellが、その都度の目下のシリンダの基準値UREF,altと比較される。この比較は相対的なノッキング強度RKIの算出を内容とし、このノッキング強度RKIは目下のノッキング信号とシリンダ固有の基準値の商として生じる。すなわち、
【数1】

【0030】
相対的なノッキング強度RKIは、続いてノッキング識別ユニット35においてノッキング識別閾値と比較される。この実施例においてもノッキング識別閾値はやはりメモリユニット37から供給される。有利な実施例においては、メモリユニット37によって、目下のシリンダに対するシリンダ固有のノッキング識別閾値が供給される。
【0031】
別の有利な実施例では、相対的なノッキング強度RKIの算出に必要とされるシリンダ固有の基準値UREF,altが継続的に内燃機関の目下の動作状態に適合される。この適合は追従係数Nを用いて行われ、この追従係数Nを用いることにより新たなシリンダ固有の基準値UREF,neuが算出され、この基準値では目下のノッキング信号UINT,aktuellが考慮される。新たなシリンダ固有の基準値UREF,neuは、有利には次式を用いて算出される。
【数2】

【0032】
内燃機関のどのシリンダで今現在燃焼が行われているか、すなわちノッキングが生じる可能性があるかを識別するために、内燃機関にはシリンダ識別ユニット40が設けられており、このシリンダ識別ユニット40を用いてどのシリンダにおいて今現在燃焼が行われているかを識別することができる。シリンダの識別及び対応付けは有利にはクランクシャフト発生器またはカムシャフト発生器に基づいて行われる。シリンダ識別ユニット40によって求められた、目下燃焼過程にあるシリンダに関する情報は、ノッキング識別ユニット35にもメモリユニット37にも、また同様にマイクロコンピュータ30内に設けられている評価回路31用の制御ユニットにも転送される。ノッキング識別ユニット35では目下のシリンダに関する情報が、相対的なノッキング強度RKIを算出するためのシリンダ固有の基準値を供給するために必要とされる。メモリユニット37では目下のシリンダに関する情報が、目下のシリンダに相応するノッキング識別閾値をノッキング識別ユニット35に転送するために使用される。
【0033】
ノッキングを識別する本発明による装置では、評価回路31用の制御ユニットを用いてバンドパスフィルタ25を、バンドパスフィルタの通過帯域が変化するように制御することができる。このために評価回路31用の制御ユニットは、評価回路20のバンドパスフィルタ25と接続されている。本発明の第1の実施例では、バンドパスフィルタ25の通過帯域をシリンダ固有に変化させることができる。このことは、ノッキングセンサは内燃機関のシリンダから異なる距離をおいて設けられているので重要である。さらにはシリンダが構造的な差異を有することも可能であり、この構造的な差異によって、ノッキング過程の特徴を示す周波数帯域はシリンダ毎に異なるものとなる。制御ユニット31はシリンダ識別ユニット40から目下のシリンダに関する情報を得る。
【0034】
本発明の別の有利な実施例では、さらに回転数センサ50が設けられており、この回転数センサ50は内燃機関の目下の回転数を測定する。有利には回転数を測定するためにクランクシャフトに取り付けられているセンサを使用する。回転数に関する情報は回転数センサ50から評価回路用の制御ユニット31に転送される。評価ユニット31はこの情報を使用し、回転数に依存してバンドパスフィルタ25の通過帯域を変化させる。バンドパスフィルタ25の通過帯域の変化は、前述の実施例と同様に制御ユニット31とバンドパスフィルタ25との間のコネクションを介して行われる。
【0035】
バンドパスフィルタ25の通過帯域を変化させるために、有利な実施例においては制御ユニット31によってバンドパスフィルタ25の中間周波数を変化させることができる。別の有利な実施例では、バンドパスフィルタの下側のコーナー周波数及び/又はバンドパスフィルタの上側のコーナー周波数を変化させることができる。ここではバンドパスフィルタの共振周波数が中間周波数である。バンドパスフィルタの上側ないし下側のコーナー周波数は、その周波数以下ないしその周波数以上では信号が大幅に減衰し、その結果信号は無視される強度を示すようになる周波数である。例えばこのために3dBの減衰量の周波数を使用することができる。しかしながらフィルタの形式に依存して、このコーナー周波数を他の方式によっても規定することができる。殊に有利な実施例では、中間周波数及び/又は下側のコーナー周波数及び/又は上側のコーナー周波数はメモリユニット37においてそれぞれの特性マップに保持され、これらの値はそれぞれ回転数及び/又はシリンダ番号に対応付けられている。中間周波数及び/又は下側のコーナー周波数及び/又は上側のコーナー周波数を読み出すために、メモリユニット37は制御ユニット31と接続されている。
【0036】
本発明の別の有利な実施例では、バンドパスフィルタの通過帯域を変化させる際に、ノッキング識別が迅速にこの変化に適合される。このために第1の実施例においては、メモリユニット37に保持されているノッキング識別閾値が、バンドパスフィルタの通過帯域を変化させる際に、同様にメモリユニット37に保持されている閾値補正係数と乗算される。このようにして補正されたノッキング識別閾値は、次にノッキング識別ユニット35において相対的なノッキング強度RKIと比較される。ノッキング識別閾値を補正することは、ノッキング識別時に検知された周波数帯域の変化と共に、変化したノッキング信号UINT,aktuell、したがって変化した相対的なノッキング強度RKIが算出されるので有利である。この変化は幾つかのステップが行われた後に初めて、シリンダ固有の基準値UREF,altの適合によって調整される。有利な実施例では、このような閾値補正係数は適用可能に設定することができ、別の実施例ではシリンダ固有の閾値補正係数を設けることもできる。有利な実施例では、メモリユニット37に保持されているシリンダ固有のノッキング識別閾値は付加的に負荷及び回転数に依存し、有利にはメモリユニット37に保持されている負荷、回転数及び/又はシリンダ番号に依存する特性マップから読み出される。
【0037】
別の有利な実施例では、同様に追従係数Nのために、メモリユニット37には追従補正係数が設けられており、この追従補正係数は追従係数Nと乗算される。このように補正された追従係数NKORRはバンドパスフィルタの通過帯域が変化される際に、シリンダ固有の基準値UREF,neuを算出するために追従係数Nの代わりに使用される。補正された追従係数NKORRに基づいて、新たなシリンダ固有の基準値を算出する際に、目下の積分されたノッキング信号を算出の際により一層考慮することを可能にする。ノッキング識別は、バンドパスフィルタの通過帯域が変化されることにより変化した条件に迅速に適合される。追従補正係数は有利な実施例においてはシリンダ固有であり、適応可能である。
【0038】
図2には本発明の別の実施例が示されており、この実施例では以下の本発明による方法が例えば内燃機関の制御装置の計算機において実行される。
【0039】
切換可能なフィルタ例えばバンドパスフィルタを有し、例えばEP 0 576 650 B1から公知であるノッキング識別装置において、ステップSCH1でフィルタ特性の変化が確認されると、ステップSCH2において動作サイクルカウンタが適応可能な開始値にセットされ、基準レベル追従係数KRFTPが(比較的小さい)値KRFTP0にセットされる。基準レベル追従係数KRFTPの規定は前述の刊行物から得ることができる。動作サイクルカウンタは切換フェーズの継続時間を検出する。ステップSCH3では、フィルタ特性の変化がエンジンバックグラウンドノイズないし内燃機関のバックグラウンドノイズを増加または減少させるか否かが検出される。相応にステップSCH4.1ないしSCH4.2では、ノッキング識別閾値KEに対する補正係数FKが値FKEFMU1>1ないしFKEFMU2<1にセットされる。
【0040】
ステップSCH5及びSCH6では必要に応じて動作サイクルカウンタが減分される。切換フェーズの終了後に、ステップSCH7において動作サイクルカウンタが零である、ないし値0に達した場合には措置が取り消される。すなわち、ノッキング識別閾値補正係数FKが1にセットされ、基準レベル追従係数KRFTPが標準値KRFTP1にセットされる。その後プログラムの実行が新たに開始される。
【0041】
ステップSCH1においてフィルタ特性の変化が識別されなければ、ステップSCH9において切換フェーズが開始されているか否かが検査される。ステップSCH9において、切換フェーズがアクティブである、すなわち先行の過程の内の1つにおいて切換フェーズが開始されたこと、動作サイクルカウンタ>0であることが確認されると、ステップSCH5では動作サイクルカウンタが減分される。これに対してステップSCH9において、動作サイクルカウンタがアクティブでないことが識別されると、ステップSCH1でプログラムが新たに開始される。
【0042】
図2における略号の意味は以下のものである。
AS:動作サイクル
FK:ノッキング識別閾値に対する補正係数
FKEFMU1:1よりも大きいまたは1と等しい、エンジンノイズが増加する際のノッキング識別閾値に対する補正係数
FKEFMU2:1よりも小さいまたは1と等しい、エンジンノイズが減少する際のノッキング識別閾値に対する補正係数
KRFTP:基準レベル追従係数
KRFTP0:エンジンノイズが一定でない場合(切換フェーズ)の基準レベル追従係数
KRFTP1:エンジンノイズが一定である場合(切換フェーズではない)の基準レベル追従係数
【0043】
切換フェーズの継続時間を動作サイクルカウンタの代わりに、例えば燃焼カウンタ及びタイマによっても実現することができる。KRFTP0を例えばKRFTPと補正係数との乗算によっても検出することができる。
【0044】
図3は、内燃機関におけるノッキングを識別する装置の一例を示し、これを用いて本発明の方法も実施することができる。詳細には、参照記号10はノッキングセンサを表し、このノッキングセンサ10は内燃機関のシリンダに配置されており、シリンダ内のノイズないし内燃機関のノイズを検知し、このノイズに依存する出力信号を供給する。検知されたノイズは調節可能な増幅器11及びフィルタ12を介して復調回路13に供給される。
【0045】
復調回路13の整流器は積分器15と接続されている。増幅係数を調節することにより、出力信号の基準レベルを十分に一定に、且つ、エンジン回転数に依存せずに保つことができる。積分器15はクランクシャフトと同期する測定ウィンドウの間に測定信号ikrを形成し、この測定ウィンドウは回転数発生器17の出力信号に依存して制御装置16によって形成される。測定信号は比較器19において、制御装置によって設定されたノッキング閾値KSと比較され、比較器19の出力信号はノッキング識別信号として使用される。ノッキング調節のために制御装置16から、該当するシリンダにおける点火をトリガするための出力信号が出力段20aに供給される。
【0046】
フィルタ12の特性は可変である。例えば、バンドパスフィルタを例えば制御装置16の適切な制御パルスによって、所定の周波数が通過帯域内にあるように切り換えることができる。切換ないし周波数変化を、例えば制御装置16のマイクロプロセッサの相応の制御パルスによってトリガすることができる。例えばその周波数において除去すべきバックグラウンドノイズは回転数に依存しているので、フィルタ特性は回転数に依存して変化される、ないし切り換えられる。
【0047】
フィルタ装置、整流器及び積分器、必要に応じて別の構成素子をディジタル及び/又はアナログ、またアナログ素子とディジタル素子を組み合わせても実現することができ、内燃機関の制御装置16、例えば制御装置のプロセッサにも組み込むことができる。必要なステップは例えば同様に制御装置16において実行される。制御装置16、例えば内燃機関の慣例の制御装置は、本発明による方法を実施する適切なプロセッサ手段及びメモリ手段を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのノッキングセンサを有する、内燃機関におけるノッキングを識別する方法であって、
前記ノッキングセンサの出力信号を、可変の特性を備えた少なくとも1つのフィルタ有する評価回路に供給し、
検知され処理された前記ノッキングセンサの出力信号が、内燃機関のノイズに依存して変化する基準値を所定のように上回る場合にノッキングを識別する、内燃機関におけるノッキングを識別する方法において、
フィルタ特性が変化するフェーズの間に、補正されたノッキング識別方法を実施し、該補正されたノッキング識別方法ではノッキング識別閾値を比較的鈍感に切り換える、及び/又は、基準レベル追従を修正することを特徴とする、内燃機関におけるノッキングを識別する方法。
【請求項2】
切換のフェーズに対して所定の継続時間をとり、該継続時間の間に補正されたノッキング識別方法を実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記切換フェーズが既に経過しているか否かを識別するために、例えば動作サイクルカウンタであるカウンタを減分する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ノッキング識別閾値KEに対する補正係数FKを前記切換フェーズの間に値FKEFMU1>1またはFKEFMU2<1にセットする、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記フィルタ特性の切換がバックグラウンドノイズを増加させる場合には値FKEFMU1>1を選定し、前記フィルタ特性の切換がバックグラウンドノイズを減少させる場合には値FKEFMU2<1を選定する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
切換フェーズの間の基準レベル追従を、該切換フェーズ以外の基準レベル追従係数KRFTP1よりも小さい基準レベル追従係数KRFTP0を選定することにより補正する、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
評価回路と接続されており、可変の特性を備えた少なくとも1つのフィルタを包含する少なくとも1つのノッキングセンサを有する、内燃機関におけるノッキングを識別する装置において、
請求項1から6のいずれか1項記載の方法のうちの少なくとも1つを実施する手段を包含することを特徴とする、内燃機関におけるノッキングを識別する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−17745(P2012−17745A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233229(P2011−233229)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【分割の表示】特願2002−519905(P2002−519905)の分割
【原出願日】平成13年8月3日(2001.8.3)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】