説明

内燃機関のガバナ装置

【課題】 ガバナ装置の主要構成部品の位置を容易に調整することが可能なガバナ装置を提供すること。
【解決手段】 ガバナスライダの先端に当接するレバーを備えガバナスライダの移動を回転に換えガバナ軸を介してクランクケースの外部に伝えるガバナレバーと、前記ガバナ軸のクランクケース外側の軸端に固接されたリンクレバーと該リンクレバーの先端と気化器のスロットルレバーとを連結するガバナロッドと、前記リンクレバーとクランクケースの適宜な場所の間に付勢して設けられたガバナスプリングとにより構成された内燃機関のガバナ装置において、上記のガバナギヤシャフトの位置を軸方向に調整可能とする手段を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の回転数の制御値の経年変化を修正可能なガバナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関のガバナ装置010は、図4に示すように、クランクケース02に固設されたガバナギヤシャフト03上で回転するガバナギヤ04が、図示せぬクランクシャフトに装着されたガバナ駆動ギヤ09に噛み合って回転するとき、ガバナギヤ04に備えられたガバナアーム06とガバナウエイト06aに生じる遠心力による揺動を、ガバナギヤシャフト03に挿嵌し軸方向に自由に移動可能なガバナスライダ05の移動距離に変換してクランクケースの外に取り出し、移動動作を内燃機関の気化器018のスロットル回転軸018aにスロットルレバー015、ガバナレバー011等を介してリンク連結して、内燃機関の回転数を制御するものであり、ばね016は内燃機関の回転数(ガバナの回転数)制御値に見合うガバナウエイト06aに生じる遠心力にバランスする引張り力が生じるように設定してある。
【0003】
また、特許文献1で開示された従来のガバナ装置は、長期間の運転により、ガバナレバーに当接するガバナスライダの先端が摩耗し変形してスロットルにリンクの作動が不安定になり制御できなくなることを防止するために提案されたもので、ガバナスライダの先端を尖らせてガバナレバーに、ピンポイントで当接するようにしたものである。
【0004】
【特許文献1】実開平5−64436号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のガバナ装置及び特許文献1のガバナ装置は、ガバナウェイトのガバナアームとガバナスライダの受け面、ガバナスライダの頂部とガバナレバーとはガバナウエイトによる遠心力によりかなりの負荷がかけられており、同時にこれらの部品間は相対的に高速回転しているので、長期間運転をすれば、これらの部品間の接触面は摩耗が避けられない。部品間の接触面は摩耗が生じると、ガバナレバーのバランス位置がずれて気化器のスロットル開度が変化する(開く)ので、内燃機関の初期の設定回転数が維持できなくなる(早くなる)という問題がある。
【0006】
本発明のガバナ装置は、このようなガバナ装置の主要構成部品の摩耗による内燃機関の性能の変化に対して、気化器のスロットル開度が適正になるように、ガバナ装置の主要構成部品の位置を容易に調整することが可能なガバナ装置を提供することを狙いとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題点に対し、本発明は以下の各手段により課題の解決を図る。
(1) 第1の手段のガバナ装置は、クランクケースに固設されガバナ回転部を支えるガバナギヤシャフトと、該ガバナギヤシャフトに回転自在に挿通しクランクシャフトから回転が一定比で伝達されて回転するガバナギヤと、該ガバナギヤに半径方向に回転可能に支えられガバナギヤが回転するとき遠心力により外側に広がるように設置された遠心錘と、前記ガバナギヤシャフトに回転方向、軸方向とも自由に挿通し遠心錘が遠心力で外側に回動したとき遠心錘が備えた回転レバーにより軸方向に摺動するように設けられたガバナスライダと、該ガバナスライダの先端に当接するレバーを備えガバナスライダの移動を回転に換えガバナ軸を介してクランクケースの外部に伝えるガバナレバーと、前記ガバナ軸のクランクケース外側の軸端に固接されたリンクレバーと該リンクレバーの先端と気化器のスロットルレバーとを連結するガバナロッドと、前記リンクレバーとクランクケースの適宜な場所の間に付勢して設けられたガバナスプリングとにより構成された内燃機関のガバナ装置において、上記のガバナギヤシャフトの位置を軸方向に調整可能とする手段を設けたことを特徴とする。
【0008】
第2の手段の内燃機関のガバナ装置は、上記の第1の手段の内燃機関のガバナ装置装において、前記ガバナギヤシャフトの位置を調整する手段は、クランクケースに貫通ねじ孔を明け、該ねじ孔のねじに螺合する雄ねじを有し前記ガバナギヤシャフトを植え込んだフランジ付きのブッシュを前記クランクケースのねじ孔に螺合した構成であって、クランクケースの外で前記フランジによりブッシュを回して前記ガバナギヤシャフトの位置を調整し調整シムを挟んだ後、ロックナット、又は、ばね座金、又は、回り止めねじを用いて回り止めをすることを特徴とする。
【0009】
第3の手段の内燃機関のガバナ装置は、上記第1の手段の内燃機関のガバナ装置において、前記ガバナギヤシャフトの位置を調整する手段は、クランクケースに貫通円筒孔を明け、該円筒孔に嵌合する外径の円筒部を有し前記ガバナギヤシャフトを植え込んだフランジ付きのブッシュを前記クランクケースの円筒孔に嵌合し外からボルト締めした構成であって、前記ガバナギヤシャフト台の位置を調整した後、前記ブッシュのフランジとクランクケースの外面との間に調整シムを挟みボルトで締め付け固定することを特徴とする。
【0010】
第4の手段の内燃機関のガバナ装置は、上記第1の手段の内燃機関のガバナ装置において、前記ガバナギヤシャフトの位置を調整する手段は、クランクケースにガバナギヤシャフトと同芯の貫通ねじ孔を明け、該ねじ孔のねじに螺合する雄ねじとガバナ回転部を支えるフランジを有するガバナギヤシャフトを前記クランクケースのねじ孔に螺合した構成であって、クランクケースの外で前記ブッシュを回して前記ガバナギヤシャフトの位置を調整した後、ロックナット、又は、回り止めねじを用いて回り止めをすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係わる発明は上記第1の手段の内燃機関のガバナ装置であり、長期間運転によりガバナの構成部品間の接触面に摩耗が生じても、ガバナギヤシャフトの位置を軸方向に調整し、初めの位置に戻すことが可能で、内燃機関の初期の設定性能を容易に維持することができる。
【0012】
請求項2〜請求項4に係わる発明は上記第2〜第4の手段の内燃機関のガバナ装置であり、上記第1の手段の効果を得るための具体的な構造であり、クランクケースの外でガバナギヤシャフトの位置の調整ができるので、調整容易であり、構成が簡単なので低コストである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施の形態)
この実施の形態の構成を図に基づいて説明する。図1は本実施の形態に係わるガバナ装置の側面断面図と該ガバナ装置の制御動作を気化器へ伝えるリンクの模式図である。
【0014】
図において、ガバナ装置10は、クランクケース2に取付けられたガバナギヤシャフト3の位置調整部とガバナ回転部とで構成されている。ガバナギヤシャフト3の位置調整部は、クランクケース2の突き通し孔の一部にねじ孔2aを設け、そのねじ孔2aの雌ねじに螺合する雄ねじ21cを有するフランジ21aを有するブッシュ21を螺合し、調整シム22を挟み、ばね座金24を間挿してクランクケース2に締め付けてある。ブッシュ21の円筒部21bはクランクケース2の円筒孔2bに挿通し、円筒部21bに設けたリング状溝21eにシールリング23を嵌装してクランクケース2から潤滑油が洩れないようにシールしている。また、ブッシュ21の中心の穴21dにガバナギヤシャフト3が圧入して植え込まれている。
【0015】
ガバナ回転部は、ガバナギヤシャフト3に座板8を挟んで、回転自在に挿通し図示しないクランクシャフトのガバナ駆動ギヤ9により回転が一定比でギヤ4aに伝達されて回転する椀状のガバナギヤ4と、ガバナギヤ4の内側にピン7で半径方向に回転可能に支えられ、ガバナギヤ4が回転するとき遠心力により外側に広がるように対称に複数設置された遠心錘6aを有するガバナアーム6と、フランジ5aを有するガバナスライダ5で構成されている。ガバナスライダ5は、ガバナギヤシャフト3に回転方向、軸方向とも自由に挿通し、遠心錘6が遠心力で外側に回動したとき、ガバナアーム6に一体に設けられた回転レバー6bにより押されて軸方向に摺動するように設けられている。座板8は高速回転するガバナギヤ4のスラストを受けるので耐摩耗性の材質で作られている。
【0016】
次に、ガバナ装置10のガバナスライダ5の制御動作を内燃機関の気化器18へ伝えるリンク手段について説明する。ガバナスライダ5の先端に当接するガバナレバー11はガバナスライダ5の移動を回転に換えてガバナ軸12に伝え、ガバナ軸12は図示しないクランクケース2の外部においてリンクレバー13にその回転を伝え、リンクレバー13の先端と気化器18のスロットルレバー15の先端はガバナロッド14で連結されている。リンクレバー13とクランクケース2の取付け部17の間に付勢してガバナスプリング16が設けられている。リンクレバー13に設けられた複数の孔13aはガバナスプリング16によるリンクレバー13のトルクを調整するためである。
【0017】
内燃機関が始動し、ガバナ装置10のガバナギヤ4が高速回転すると、遠心錘6aによる遠心力により回転レバー6bとガバナスライダ5の受け面、ガバナスライダ5の頂部とガバナレバー11、座板8等はかなりの負荷がかかる。同時にこれらの部品間は相対的に高速回転しているので、長期間運転したとき、これらの部品間の接触面は摩耗が避けられない。部品間の接触面に摩耗が生じると、ガバナレバー11のバランス位置がずれて気化器18のスロットル開度が開く方向に変化するので、内燃機関の初期の設定回転数が維持できなくなる(早くなる)。
【0018】
このような部品間の接触面の摩耗を修正し、内燃機関の制御回転数に戻すため、ガバナギヤシャフト3の位置を軸方向に調整する必要がある。その方法は、ブッシュ21をフランジ21aの多角形、又は、等分に備えられた溝を用いて回して雄ねじ21cを弛め、挟んである調整シム22の厚さ又は枚数を変えてガバナギヤシャフト3の軸方向位置を調整し、ブッシュ21を回して締め、ばね座金24を用いて回り止めをする。
(第2の実施の形態)
【0019】
第2の実施の形態を図に基づいて説明する。図2は本実施の形態に係わるガバナ装置の側面断面図である。このガバナ装置20は、クランクケース32に円筒孔32aを明け、円筒孔32aと同径の円筒部31bを有するブッシュ31をクランクケース32の円筒孔32aに嵌め合せ、フランジ31aにおいて複数のボルト33で取付けた構成である。ブッシュ31にはガバナギヤシャフト3が圧入して植え込まれている。ブッシュ31の円筒部31bにリング状溝31cが設けられ、リング状溝31cにシールリング23を嵌装してクランクケース32から潤滑油が洩れないようにシールしている。
【0020】
ブッシュ31の中心の穴31dに圧入して植込まれたガバナギヤシャフト3には、第1の実施の形態のガバナ装置10と同じ構成の、座板8、ガバナギヤ4、ガバナギヤ4にピン7で支えられた複数の遠心錘6aと軸方向に摺動するガバナスライダ5が嵌装している。このガバナ回転部と、ガバナ装置20から制御動作を気化器18へ伝えるリンク手段は、第1の実施の形態のガバナ装置10と同じであるので説明は省略する。
【0021】
内燃機関が始動し、ガバナ装置20のガバナギヤ4が高速回転し、部品間の接触面が摩耗したとき、制御速度のずれを修正し、内燃機関の制御回転数に戻すため、ガバナギヤシャフト3の位置を軸方向に調整するには、ボルト33を抜き取り、ブッシュ31のフランジ31aとクランクケース32の外面との間に挟んだ調整シム22の厚さ、又は、枚数を変えてブッシュ31の軸方向位置を調整した後、ボルト33で締め付け固定する。
(第3の実施の形態)
【0022】
第3の実施の形態を図に基づいて説明する。図3は本実施の形態に係わるガバナ装置の側面断面図である。このガバナ装置30のガバナギヤシャフト36の位置を調整する手段は、クランクケース35を貫通して円筒孔35cとねじ孔35dを明け、この円筒孔35cに嵌合する円筒部36cと、ねじ孔35dのねじに螺合する雄ねじ36eとガバナ回転部を支えるフランジ36bを有するガバナギヤシャフト36を、クランクケース35のねじ孔35dに螺合し、ロックナット37で止めた構成である。ガバナギヤシャフト36の円筒部36cにリング状溝36dが設けられ、リング状溝36dにシールリング38を嵌装してクランクケース35から潤滑油が洩れることを防止している。
【0023】
ガバナギヤシャフト36には、第1の実施の形態のガバナ装置10と同じ構成の、座板8と、ガバナギヤ4と、ガバナギヤ4にピン7で支えられた複数の遠心錘6aと軸方向に摺動するガバナスライダ5が嵌装している。このガバナ回転部と、ガバナ装置30から制御動作を気化器18へ伝えるリンク手段は、第1の実施の形態のガバナ装置10と同じであるので説明は省略する。
【0024】
内燃機関が始動し、ガバナ装置30のガバナギヤ4が高速回転し、部品間の接触面が摩耗したとき、内燃機関の制御回転数に戻すため、ガバナギヤシャフト36の位置を軸方向に調整するには、ロックナット37を回してガバナギヤシャフト36の回り止めを外し、ガバナギヤシャフト36を回して、ガバナギヤシャフト36の位置を調整した後、ロックナット37を用いて回り止めをする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わるガバナ装置の側面断面図と該ガバナ装置の制御動作を気化器へ伝えるリンクの模式図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係わるガバナ装置の側面断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係わるガバナ装置の側面断面図である。
【図4】従来のガバナ装置の側面断面図である。
【符号の説明】
【0026】
2、32、35 クランクケース
3、36 ガバナギヤシャフト
4 ガバナギア
5 ガバナスライダ
6a 遠心錘
10、20、30 ガバナ装置
11 ガバナレバー
15 スロットルレバー
16 ガバナスプリング
22 調整シム
21、31 ブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースに固設されガバナ回転部を支えるガバナギヤシャフトと、該ガバナギヤシャフトに回転自在に挿通しクランクシャフトから回転が一定比で伝達されて回転するガバナギヤと、該ガバナギヤに半径方向に回転可能に支えられガバナギヤが回転するとき遠心力により外側に広がるように設置された遠心錘と、前記ガバナギヤシャフトに回転方向、軸方向とも自由に挿通し遠心錘が遠心力で外側に回動したとき遠心錘が備えた回転レバーにより軸方向に摺動するように設けられたガバナスライダと、該ガバナスライダの先端に当接するレバーを備えガバナスライダの移動を回転に換えガバナ軸を介してクランクケースの外部に伝えるガバナレバーと、前記ガバナ軸のクランクケース外側の軸端に固接されたリンクレバーと該リンクレバーの先端と気化器のスロットルレバーとを連結するガバナロッドと、前記リンクレバーとクランクケースの適宜な場所の間に付勢して設けられたガバナスプリングとにより構成された内燃機関のガバナ装置において、上記のガバナギヤシャフトの位置を軸方向に調整可能とする手段を設けたことを特徴とする内燃機関のガバナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載する内燃機関のガバナ装置において、前記ガバナギヤシャフトの位置を調整する手段は、クランクケースに貫通ねじ孔を明け、該ねじ孔のねじに螺合する雄ねじを有し前記ガバナギヤシャフトを植え込んだフランジ付きのブッシュを前記クランクケースのねじ孔に螺合した構成であって、クランクケースの外で前記フランジによりブッシュを回して前記ガバナギヤシャフトの位置を調整し調整シムを挟んだ後、ロックナット、又は、ばね座金、又は、回り止めねじを用いて回り止めをすることを特徴とする内燃機関のガバナ装置。
【請求項3】
請求項1に記載する内燃機関のガバナ装置において、前記ガバナギヤシャフトの位置を調整する手段は、クランクケースに貫通円筒孔を明け、該円筒孔に嵌合する外径の円筒部を有し前記ガバナーギヤシャフトを植え込んだフランジ付きのブッシュを前記クランクケースの円筒孔に嵌合し外からボルト締めした構成であって、前記ガバナギヤシャフト台の位置を調整した後、前記ブッシュのフランジとクランクケースの外面との間に調整シムを挟みボルトで締め付け固定することを特徴とする内燃機関のガバナ装置。
【請求項4】
請求項1に記載する内燃機関のガバナ装置において、前記ガバナギヤシャフトの位置を調整する手段は、クランクケースにガバナギヤシャフトと同芯の貫通ねじ孔を明け、該ねじ孔のねじに螺合する雄ねじとガバナ回転部を支えるフランジを有するガバナギヤシャフトを前記クランクケースのねじ孔に螺合した構成であって、クランクケースの外で前記ブッシュを回して前記ガバナギヤシャフトの位置を調整した後、ロックナット、又は、回り止めねじを用いて回り止めをすることを特徴とする内燃機関のガバナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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