説明

内燃機関のピストン

【課題】スカートの表面に万遍なく潤滑油を供給できると共に滞留させることなく排出することができる内燃機関のピストンを提供する。
【解決手段】ピストン1のスカート3の表面に、潤滑油を溜めることが可能な波状のコーティング部10をピストン1の周方向に沿って設けると共に該波状のコーティング部10をピストンの軸方向に間隔をおいて複数設けた内燃機関のピストン1であって、上記波状のコーティング部10にこれを分断することによりピストン1の往復動によって上記潤滑油がスカート3の表面をピストンの軸方向又は螺旋方向に沿って流通し得る潤滑油通路13を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のピストンにおいては、図4に示すように、ピストン1とシリンダブロックのボアすなわちシリンダ内壁(図示省略)との間の潤滑性を向上させるために、ピストン1のスカート3の表面にグラファイトないしは二硫化モリブデンのコーティング部16が施されている(特許文献1参照)。
【0003】
エンジンの長時間運転の後、スカート3とシリンダ内壁との摺動によりスカートのコーティング部16に剥がれ(摩耗)が生じ、摺動抵抗が増大する場合がある。
【0004】
そのために、図5に示すようにコーティング部16に複数の穴17が設けられたものや、図6に示すようにピストンの周方向に沿って連続する波状のコーティング部18がピストンの軸方向に間隔をおいて複数設けられたものがある。これらによれば、上記穴17の地肌部分19や上記波状のコーティング部18の間の地肌部分20に潤滑油が保持されるため、コーティング部16,18の剥がれがかなり防止される。図5、図6において、矢印Cはピストン上昇時の潤滑油の流れ方向を示している。
【0005】
【特許文献1】特開平7−189804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記ピストン1においては、潤滑油の流れが下流に行くほど地肌部分(穴17の中、波状コーティング部18の間)19,20の潤滑油量が減って行くため、下流側のコーティング部が未だに剥がれる可能性があり、摺動抵抗が増す可能性が残っている。
【0007】
また、上記地肌部分19,20に潤滑油が溜まることは良いとしても、その潤滑油が滞留して排出されないため、上記地肌部分19,20に保持されたまま劣化(酸化、摩耗粉堆積を含む。)して行く。これは、コーティング部16,18の異常摩耗につながる悪い状況であり、燃費の悪化やスカッフ(scuff:シリンダ内壁の油膜が切れ、直接接触したスカートやピストンリングによって焼付きの原因となる引っかき傷ができる現象)の発生原因にもなる。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、スカートの表面に万遍なく潤滑油を供給できると共に滞留させることなく排出することができる内燃機関のピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち、請求項1に係る発明は、ピストンのスカートの表面に、潤滑油を溜めることが可能な波状のコーティング部をピストンの周方向に沿って設けると共に該波状のコーティング部をピストンの軸方向に間隔をおいて複数設けた内燃機関のピストンであって、上記波状のコーティング部にこれを分断することによりピストンの往復動によって上記潤滑油がスカートの表面をピストンの軸方向又は螺旋方向に沿って流通し得る潤滑油通路を設けたことを特徴とする。
【0010】
上記波状のコーティング部は、V字状の第1コーティング部と逆V字状の第2コーティング部とをピストンの周方向に沿って所定間隔で交互に配置して構成されることにより、上記第1コーティング部と上記第2コーティング部との間にピストンの軸方向に沿って連続した上記潤滑油通路が形成されていることが好ましい。
【0011】
上記波状のコーティング部は、V字状の第1コーティング部と逆V字状の第2コーティング部とをピストンの周方向に沿って近接した状態で交互に配置して構成されると共に、各波状のコーティング部が順に周方向にずらして配置されることにより、上記第1コーティング部と上記第2コーティング部との間にピストンの螺旋方向に沿って連続した上記潤滑油通路が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、潤滑油がピストンの軸方向又は螺旋方向に沿って流通しうる潤滑油通路によりスカートの表面に万遍なく潤滑油を供給できると共に滞留させることなく排出することができる。よって、摺動抵抗が増すこともなく、潤滑油の滞留劣化に起因するコーティング部の異常摩耗の心配もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基いて詳述する。
【0014】
図1は本発明の実施の形態である内燃機関のピストンを概略的に示す一部断面側面図、図2は図1のA部拡大矢視図である。
【0015】
図1に示すように、内燃機関のピストン1は、例えばアルミ合金により形成された円筒状のクラウン2と、このクラウン2から下方に延び、シリンダブロックのボアであるシリンダ内壁(図示省略)を摺動するスカート3とを備えている。
【0016】
上記クラウン2の外周部には、上から順に、トップリング溝4、セカンドリング溝5及びオイルリング溝6がそれぞれ周方向に連続した環状に形成されている。上記トップリング溝4及びセカンドリング溝5には、コンプレッションリング(図示省略)がそれぞれ取付けられ、これらのコンプレッションリングはシリンダ内壁とトップリング溝4及びセカンドリング溝5に密着することにより燃焼室(図支省略)を密封することができる。
【0017】
上記オイルリング溝6には、オイルリング(図示省略)が取付けられ、このオイルリングは上記コンプレッションリングに潤滑油(図示省略)を供給すると共にシリンダ内壁に付着している余分な潤滑油を回収することができる。上記オイルリング溝6の底面には、オイルリングにより回収した潤滑油を捕集してピストン1の内側へ排出するための複数の排油孔7が形成されている。
【0018】
上記クラウン2から下方に延びるスカート3には前後方向(図1の紙面垂直方向)に貫通するピストンピン孔8が形成されており、このピストンピン孔8にはピストンピン(図示省略)を介してコンロッド(図示省略)が連結されている。
【0019】
上記スカート3の左右の部分及び上端部の外周面は、シリンダ内壁を摺動する摺動面になっており、この摺動面はピストン1を上方から見た場合、クラウン2の外周面よりも僅かに張り出して形成されている。上記スカート3の表面(摺動面)には、図2に示すように潤滑油を溜めることが可能な波状のコーティング部10がピストン1の周方向に沿って設けられていると共に該波状のコーティング部10がピストンの軸方向に所定の間隔p例えば4〜5mmをおいて複数(図示例では4段)設けられ、上記波状のコーティング部10にこれを分断することによりピストン1の往復動によって上記潤滑油がスカート3の表面をピストン1の軸方向に沿って流通し得る複数の潤滑油通路13が設けられている。
【0020】
すなわち、上記波状のコーティング部10は、本実施の形態ではV字状の第1コーティング部11と逆V字状の第2コーティング部12とをピストン1の周方向に沿って所定の間隔w例えば2〜3mmで交互に配置して構成され、第1コーティング部11と第2コーティング部12との間にピストン1の軸方向に沿って連続した上記潤滑油通路13が形成されている。
【0021】
第1コーティング部11と第2コーティング部12は同一の形状及び大きさで上下の向きが逆なだけであり、太さtは約3mm、横幅の半分の長さaと高さhは同じ寸法で例えば5〜8mmである。第1コーティング部11及び第2コーティング部12は、スカート3の表面(地金)にコーティング材である例えばグラファイト又は二硫化モリブデンをコーティングして設けられている。第1コーティング部11の上部に潤滑油が溜まるV字溝11aが形成され、第2コーティング部12の下部に潤滑油が溜まる逆V字溝12aが形成されている。
【0022】
上記潤滑油通路13によって、潤滑油は、ピストンの上昇時に矢印Cで示すように下方に流れ、ピストン1の下降時に矢印Dで示すように上方に流れることになる。矢印Cには各段の第1コーティング部11のV字溝11aに潤滑油を分配供給する分流を示す複数の矢印Caが分岐されている。矢印Dには各段の第2コーティング部の逆V字溝12aに潤滑油を分配供給する分流を示す複数の矢印Daが分岐されている。
【0023】
このように構成された内燃機関のピストン1によれば、ピストン上昇時に潤滑油が潤滑油通路13を通って矢印Cで示すように上方から下方に流れ、その際に、その流れから各第1コーティング部11のV字溝11a内に潤滑油が分流されて供給される一方、第2コーティング部12の逆V字溝12a内から矢印D、Daの逆方向に潤滑油が排出される。
【0024】
また、ピストン下降時に潤滑油が潤滑油通路13を通って矢印Dで示すように下方から上方に流れ、その際に、その流れから各第2コーティング部12の逆V字溝12a内に潤滑油が分流されて供給される一方、第1コーティング11のV字溝11a内から矢印C、Caの逆方向に潤滑油が排出される。
【0025】
従って、波状のコーティング部10により邪魔されることなくピストン1のスカート3の表面に万遍なく潤滑油を供給できると共に滞留させることなく排出することができる。このようにスカート3の表面全体に潤滑油を満遍なく供給することができるので、コーティング部10が剥がれることがなく、摺動抵抗が増えることはない。また、潤滑油を滞留させることなく排出することができるため、スカート3の表面に劣化した潤滑油や摩耗粉が留まることがなく、コーティング部10の異常摩耗を防止でき、内燃機関の燃費の向上が図れると共にスカッフの発生を防止することができ、耐久性の向上が図れる。
【0026】
図3はコーティング部の他の例を示す図である。図3の実施形態では、上記波状のコーティング部10は、V字状の第1コーティング部11と逆V字状の第2コーティング部12とをピストン1の周方向に沿って近接した状態で交互に配置して構成されると共に、各波状のコーティング部10が順に周方向(図示例では右方)に所定寸法q例えば2.5〜4mmずつずらして配置されることにより、上記第1コーティング部11と上記第2コーティング部12との間にピストン1の螺旋方向に沿って連続した潤滑油通路13が形成されている。この場合、ずれ方向に傾斜した第1コーティング部11の第1斜面11iと第2コーティング部12の第2斜面12iとの間にピストン1の螺旋方向に沿って連続した潤滑油通路13が形成されている。
【0027】
図3の実施の形態によれば、波状のコーティング部10により邪魔されることなくピストン1のスカート3の表面に万遍なく潤滑油を供給できると共に滞留させることなく排出することができる。このようにスカート3の表面全体に潤滑油を満遍なく供給することができるので、コーティング部10が剥がれることがなく、摺動抵抗が増えることはない。また、潤滑油を滞留させることなく排出することができるため、スカート3の表面に劣化した潤滑油や摩耗粉が留まることがなく、コーティング部10の異常摩耗を防止でき、内燃機関の燃費の向上が図れると共にスカッフの発生を防止することができ、耐久性の向上が図れる。
【0028】
また、図3の実施の形態では、潤滑油通路13の本数(図示例では2本)が第2の実施形態のもの(図示例では3本)よりも少なくなるが、第1コーティング部11と第2コーティング部12とをピストン1の周方向に沿って近接した状態で交互に配置して構成されているため、図2の実施の形態のものと同等の摺動性と耐久性を保つことができる。
以上、本発明の実施の形態ないし実施例を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態ないし実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態である内燃機関のピストンを概略的に示す側面図である。
【図2】図1のA部拡大矢視図である。
【図3】コーティング部の他の例を示す図である。
【図4】従来の内燃機関のピストンを概略的に示す側面図である。
【図5】図4のB部拡大矢視図である。
【図6】コーティング部の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ピストン
2 クラウン
3 スカート
4 トップリング溝
5 セカンドリング溝
6 オイルリング溝
7 排油孔
8 ピストンピン孔
10 波状のコーティング部
11 第1コーティング部
12 第2コーティング部
13 潤滑油通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンのスカートの表面に、潤滑油を溜めることが可能な波状のコーティング部をピストンの周方向に沿って設けると共に該波状のコーティング部をピストンの軸方向に間隔をおいて複数設けた内燃機関のピストンであって、上記波状のコーティング部にこれを分断することによりピストンの往復動によって上記潤滑油がスカートの表面をピストンの軸方向又は螺旋方向に沿って流通し得る潤滑油通路を設けたことを特徴とする内燃機関のピストン。
【請求項2】
上記波状のコーティング部は、V字状の第1コーティング部と逆V字状の第2コーティング部とをピストンの周方向に沿って所定間隔で交互に配置して構成されることにより、上記第1コーティング部と上記第2コーティング部との間にピストンの軸方向に沿って連続した上記潤滑油通路が形成されていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
上記波状のコーティング部は、V字状の第1コーティング部と逆V字状の第2コーティング部とをピストンの周方向に沿って近接した状態で交互に配置して構成されると共に、各波状のコーティング部が順に周方向にずらして配置されることにより、上記第1コーティング部と上記第2コーティング部との間にピストンの螺旋方向に沿って連続した上記潤滑油通路が形成されていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−133365(P2010−133365A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311167(P2008−311167)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】