内燃機関のピストン
【課題】各スカート部のシリンダ壁面に対する面圧の偏差を少なくすると共に、面圧荷重を低減して、フリクションの低減化を図り得るピストンを提供する。
【解決手段】アルミニウム合金材のピストン1は、燃焼室を画成する冠部7と、該冠部に一体に設けられ、シリンダ壁面3に摺動するスラスト側と反スラスト側の一対の円弧状のスカート部8,9と、該各スカート部の周方向の両側端に連結部位10を介して連結され、ピンボス13,14を有する一対の湾曲状のエプロン部11,12と、を備えている。該エプロン部の上端部内に凹部19,20を形成して該凹部の下部にくびれ部11d、12dを形成して、各スカート部の冠部側の少なくとも一部の剛性を低下させ、該冠部側のシリンダ壁との強い衝接を抑制してフリクションの低減化を図る。
【解決手段】アルミニウム合金材のピストン1は、燃焼室を画成する冠部7と、該冠部に一体に設けられ、シリンダ壁面3に摺動するスラスト側と反スラスト側の一対の円弧状のスカート部8,9と、該各スカート部の周方向の両側端に連結部位10を介して連結され、ピンボス13,14を有する一対の湾曲状のエプロン部11,12と、を備えている。該エプロン部の上端部内に凹部19,20を形成して該凹部の下部にくびれ部11d、12dを形成して、各スカート部の冠部側の少なくとも一部の剛性を低下させ、該冠部側のシリンダ壁との強い衝接を抑制してフリクションの低減化を図る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の部品である内燃機関のピストンの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関のピストンとしては、例えば以下の特許文献1に記載されているものがある。このピストンは、いわゆるスラスト側のスカート部に周方向で連結された両エプロン部の前記両連結箇所でかつ冠部の近傍に、周方向の一端側がピンボス部と連結された肉厚部がそれぞれ形成されている。一方、前記両エプロン部の反スラスト側のスカート部と連結した部位は狭幅に形成されていると共に、ピストン軸線方向に沿って垂直に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−27965号公報(図5,図6参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の内燃機関のピストンにあっては、前述のように、特に、スラスト側のスカート部側の両エプロン部に前記肉厚部がそれぞれ形成されていることから、冠部側の剛性が高くなってスラスト側のスカート部の適度な変形が得ることができない。この結果、シリンダ壁面とスカート部との間に発生するフリクションを十分に低減させることができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、とりわけ、少なくとも一方側のエプロン部の壁部の内外側面は、対向する他方側のエプロン部との間の距離が冠部付近で短くなり、該冠部側の短い部位から軸線方向の端縁側に離間する方向ではほぼ同等になるように形成することにより、スカート部の冠部側の少なくとも一部の剛性が、両エプロン部間の距離が短くなる前記冠部側の部位に比べて小さくなるように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ピストン作動中におけるスカート部のシリンダ壁面に対する強い当たりが小さくなって接触面圧を低減させることができ、これによってフリクションを効果的に低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態のピストンを示す図4のC−C線断面図である。
【図2】Aは本発明の第1実施形態に係るピストンの底面側から視た斜視図、BはAのA−A線断面図である。
【図3】同ピストンの底面側から別の角度からみた視た斜視図である。
【図4】同ピストンの一部を断面して示す正面図である。
【図5】同ピストンの側面図である。
【図6】同ピストンの底面図である。
【図7】同ピストンがシリンダブロックのシリンダ壁面に摺動する状態を示す断面図である。
【図8】本実施形態のピストンと従来のピストンのスラスト側スカート部の位置に対応した変形量を比較して示すグラフである。
【図9】同じく本実施形態のピストンと従来のピストンのスラスト側スカート部のクランク角に対応した摩擦力と摩擦損失を比較して示すグラフである。
【図10】本発明の第2実施形態に係るピストンの縦断面図である。
【図11】同第2実施形態に係るピストンを底面から視た斜視図である。
【図12】同ピストンの側面図である。
【図13】同ピストンの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る内燃機関のピストンの実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、本実施形態に供されるピストンは、4サイクル・ガソリンエンジンに適用したものである。
【0009】
〔第1実施形態〕
ピストン1は、図7に示すように、シリンダブロック2に形成されたほぼ円柱状のシリンダ壁面3に摺動自在に設けられ、該シリンダ壁面3と図外のシリンダヘッドとの間に燃焼室4を形成するようになっていると共に、ピストンピン5に連結されたコンロッド6を介して図外のクランクシャフトに連結されている。
【0010】
前記ピストン1は、全体がAC8A Al−Si系のアルミニウム合金によって一体に鋳造され、図1〜図6に示すように、ほぼ円筒状に形成されて、冠面7a上に前記燃焼室4を画成する冠部7と、該冠部7の下端外周縁に一体に設けられた円弧状の一対のスラスト側スカート部8及び反スラスト側スカート9と、該各スカート部8、9の円周方向の両側端に各連結部位10を介して連結された一対のエプロン部11,12と、を備えている。
【0011】
前記冠部7は、比較的肉厚に形成された円盤状を呈し、冠面7a上に吸排気弁との干渉を防止する図外のバルブリセスが形成されていると共に、外周部にプレッシャリングやオイルリングなどの3つのピストンリングを保持するリング溝7b、7c、7dが形成されている。
【0012】
前記両スカート部8,9は、ピストン1の軸線Pを中心とした左右の対称位置(図1では前後対称位置)に配置されて、横断面ほぼ円弧状に形成されていると共に、それぞれの肉厚はほぼ全体が比較的薄肉に形成されている。前記スラスト側スカート部8は、膨張行程時などにピストン1が下死点方向へストロークした際に、前記コンロッド6の角度との関係で前記シリンダ壁面3に傾きながら圧接するようになっている一方、反スラスト側のスカート部9は、圧縮行程時などにピストン1が上昇ストロークした際に、シリンダ壁面3に反対に傾きながら圧接するようになっている。前記各スカート部8,9のシリンダ壁面3に対する圧接荷重は、燃焼圧力を受けてシリンダ壁面3に圧接する前記スラスト側スカート部8の方が大きくなっている。
【0013】
また、この各スカート部8,9は、スラスト側スカート部8側からみた図5に示すように、前記冠部7側の上端部8a(9a)から下端部8b(9b)方向に渡って傾斜拡径状に形成されて、縦断面ハ字形状に形成されていると共に、下端縁8c(9c)がほぼ水平状に切欠形成されている。
【0014】
前記各エプロン部11,12は、図2A及び図3に示すように、上端縁が前記冠部7の下端に一体に結合されていると共に、前記各連結部位10間の円周方向の全体が各スカート部8,9よりも大きな曲率半径で僅かに外側へ膨らんだ湾曲状に形成されている。また、この各エプロン部11,12は、図1にも示すように、各スカート部8,9と同じく、ピストン1の軸方向の上端部から下端側に渡って傾斜拡径状に形成されて、縦断面ハ字形状に形成されている。各エプロン部11,12は、前記湾曲状の曲率半径は、150mm〜300mmの範囲内に設定されて、各壁部11a、12a全体が比較的肉厚に形成されている。
【0015】
また、各エプロン部11,12は、円周方向のほぼ中央位置に、前記ピストンピン5の両端部をピン孔13a、14aを介して支持するピンボス部13、14がそれぞれ形成されている。
【0016】
さらに、両エプロン部11,12の壁部11a、12aは、図1、図2Aに示すように、冠部7との連結部位である上端部11b、12bに凹部19、20がそれぞれ形成されて、斯かる各凹部19,20が形成された部位11d、12dの肉厚が上端部11b、12bとほぼ同一に形成されていると共に、該部位11d、12dは内方へ湾曲状に形成されて、いわゆるくびれ部11d、12dとして形成されている。そして、このくびれ部11d、12dからピストン1開口側の下端部11c、12cまでの肉厚が漸次厚くなるように形成されている。また、前記各くびれ部11d、12dは、前記ピンボス部13,14のピン孔13a、14aの中心Qよりも、上方位置に形成されている。
【0017】
具体的に説明すると、前記各凹部19,20は、図1の一点鎖線で示す元の壁部内側を円弧状に切欠形成したもので、図5及び図6の斜線で示すように、前記連結部位10の各上端部16a、17aから前記ピンボス部13,14の付け根部の各両側部付近まで形成されている。この各凹部19、20を形成した結果、この各凹部19,20が形成された部位の壁部が前記くびれ部11d、12dに形成されている。また、このくびれ部11d、12dから下端部11c、12cまでの下側の壁部11a、12aが漸次末広がり状に拡径形成されている。
【0018】
換言すれば、両エプロン部11、12の対向する壁部11a、12aの内側面間の距離で考察すると、図1に示すように、前記各凹部19,20間の距離Lは長く、前記くびれ部11d、12d間の距離L1では最も短くなり、また、このくびれ部11d、12dから前記ピストン軸線Pに沿って下方へ離間するにしたがってその距離が漸次大きくなって最下端部11c、12c間の距離L2が最大となるように形成されている。
【0019】
したがって、ピストン1は、前記凹部19,20が形成された上端部11b、12bからくびれ部11d、12dまでスカート部8,9の上端部側の剛性が小さくなり、このくびれ部11d、12dから下端部11c、12cまでのスカート部8,9の剛性が漸次大きくなるように形成されている。
【0020】
前記各連結部位10は、前記各スカート部8,9の各両側端からエプロン部11,12までの間で円周方向に沿って円弧状に形成され、かかる円弧状の各内周部16と各外周部17は、図2A及び図3の斜線で示すように、それぞれの曲率半径がピストン1の軸方向、つまり上端部16a、17aから下端部16b、17bまでに亘って漸次大きくなるように連続して形成されている。
【0021】
すなわち、各内周部16と外周部17のそれぞれの曲率半径は、小さな各上端部16a、17a側から大きな各下端部16b、17bまでが約10mm〜30mm程度の裾拡がり状に設定されて、その拡がりが比例的かつ連続的に大きくなっている。
【0022】
また、前記各連結部位10の内周部16側と外周部17側では、その円弧幅の長さW,W1と上下方向での円弧幅長さW,W1の変化率が相違している。すなわち、各外周部17側では、円弧幅の長さWは比較的小さく設定されていると共に、上端部17aから下端部17bまでの円弧幅長さWの変化率が小さく設定されている。一方、各内周部16側では、円弧幅の長さW1は比較的大きく設定されていると共に、上端部16aから下端部16bまでの円弧幅長さW1の変化率が前記外周部17側よりも大きく設定されている。
【0023】
このように、連結部位10の内周部16側の円弧幅長さW1を大きく、かつこの長さW1の変化率を外周部17側よりも大きく設定したことによって、連結部位10の肉厚を、冠部7側の上端部からピストン下端部まで漸次大きくすることができる。すなわち、連結部位10内周部17は、円弧面がほぼ平坦面状に形成されていることにより、前記各スカート部8,9の周方向及び上下方向の剛性、つまり全体の剛性をほぼ均一にすることができる。
【0024】
そして、前記各スカート部8,9と各連結部位10及びエプロン部11、12の円弧状及び湾曲状の形状によって、底面からみた全体の形状が、図2及び図6に示すように、ほぼ楕円形状に形成されていると共に、全体が袴状に形成されている。
【0025】
さらに、前記各連結部位10の内周部16の下端部16bには、局部的に肉盛部18がそれぞれ設けられている。この各肉盛部18は、図2Bにも示すように、前記各連結部位10の内周部16の下端部16b側に一体に設けられ、内面が円弧状に形成されていると共に、最も肉厚な下端縁が前記連結部位10の内周部16の下端縁と同一位置になっている。また、この肉盛部18は、下端縁18bから上方へ向かうにしたがって漸次薄肉に形成されて円弧状の上端縁18aは前記連結部位10の内周部16の下端部16bになだらかにかつ連続的に結合されている。
【0026】
この肉盛部18の存在により、前記両スカート部8,9のフリーな状態にある下端部側の剛性が高くなり、スカート部8,9全体の剛性をさらに均一化することができる。
【0027】
以上のように、本実施形態によれば、前記各連結部位10を円弧状に形成することによって、かかる各連結部位10全体がばね作用として働くため、ピストン1の往復ストローク時における前記各スカート部8,9の外周面とシリンダ壁面3との接触時において、スラスト側スカート部8と反スラスト側スカート部9の大きな変形を抑制することができる。
【0028】
しかも、本実施形態では、前記両エプロン部11,12も湾曲状に形成されていることから、かかる両エプロン部11,12も僅かながらも変形によるばね作用が働く。したがって、前記各連結部位10のばね作用と相俟って各スカート部8,9のシリンダ壁面3に対する接触面積が大きくなって局所的な面圧の増加を抑制することができる。
【0029】
つまり、前述のように、前記両スカート部8,9と、各連結部位10及び両エプロン部11,12全体がほぼ楕円形状となっていることから、各スカート部8,9に作用する接触圧力が前記各連結部位部10と各エプロン部11,12のばね作用によって吸収された状態になり、これによって、各スカート部8,9に掛かる面圧を分散化して過大な面圧の発生を抑制することができるのである。
【0030】
また、前記各連結部位10の曲率半径が、上端部16a、17a側から下端部16b、17b側に向かって漸次大きくなるように形成したことによって、前記スカート部8,9の両側端側の剛性、つまりエプロン部11,12側の剛性をピストン軸方向でほぼ均一にすることが可能になる。つまり、各連結部位10の下端部16b、17b側は、自由端(フリーな状態)になっていることから、上端部16a、17b側と同じ肉厚であればこれらの剛性は上端部16a、17a側に比較して低くなる。そこで、肉厚を上端部16a、17a側から下端部側16b、17bに向かって漸次大きくすることにより、剛性が全体として均一化されるのである。
【0031】
この結果、各スカート部8,9のシリンダ壁面3に対する面圧が均一化して接触面圧を低減させることができ、これによってフリクションを効果的に低減することが可能になる。
【0032】
図8に示すグラフは、膨張行程時においてシリンダ壁面3に当接する同一荷重条件下で、スラスト側スカート部の上端部と下端部間の位置と、この位置に対応したスラスト側スカート部の変形量を、本実施形態のピストン1(実線)と従来のピストン(破線)を実験により比較した結果を示したものである。
【0033】
これをみると、前記従来のピストンでは、上端部側よりも下端部側の変形量が急激に大きくなるが、本実施形態のピストン1では、上端部から僅かに下がった位置や最下端側で変形量が僅かに大きくなるものの、全体としては変形量が小さくなっていることが明らかである。
【0034】
これは、本実施形態では、前述した各連結部位10の特異な円弧形状や肉厚構造及び肉盛部18の存在などによって、スラスト側スカート部8全体の剛性が均一化したことによるものである。
【0035】
そして、本実施形態では、前述したように、前記各エプロン部11,12の各スカート部8,9との連結箇所に、それぞれ凹部19,20を形成したことから、スカート部8,9の冠部7側の径方向の剛性が従来のものに比較して僅かに低下する。このため、燃焼圧力などによりピストン1が傾いて前記各スカート部8,9がシリンダ壁3に衝接した際に、各スカート部8,9の冠部7側はシリンダ壁3との強い当たりが抑制される。つまり、前記凹部19、20による剛性の低下によってスカート部8,9の冠部7側の強い衝接が緩和されて、スカート部8,9の局部的な接触によるフリクションの増加を抑制できる。
【0036】
図9は本実施形態のピストン1と従来のピストンの摩擦力実測結果を示している。横軸が時間(クランク角N)、縦軸の左が摩擦力、縦軸の右が摩擦損失(W)を表しており、図中、上の波形が摩擦力を、下の波形が摩擦損失をそれぞれ表している。2つの波形はともに振幅が大きいほど摩擦力、摩擦損失が大きいことを意味する。時間軸はクランク角において、−360°〜360°までであり、内燃機関の1サイクル分(吸気−圧縮−膨張−排気の4行程)に当たる。
【0037】
この図から明らかなように、本実施形態のピストン1(実線)は、従来のピストン(破線)よりも行程中の摩擦力と摩擦損失がそれぞれ低くなり、特にクランク角0〜90°付近でその傾向が顕著になっている。これは、前述した本実施形態のピストン1の特異な構造、つまり、エプロン部11,12側の凹部19、20や、連結部位10の肉厚変化などによって初めて実現できるものであって、本実施形態のピストン1では従来のピストンに対して約25%の摩擦損失の低減が図れた。
【0038】
また、本実施形態では変化点である前記くびれ部11d、12dが、ピン孔13a、14aの中心Qより冠部7側にあることによって、ピストン1全体の軽量化が図れる。すなわち、前記くびれ部11d、12dがピン孔13a、14aの中心Qより冠部7側と反対側の下端部11c、12c側にある場合は、図1の一点鎖線で示すように、くびれ部11d、12dから外側への傾斜角度が大きくなって上端部11b、12bを冠部7の外周縁側に結合しなければならない。このため、軽量化のために冠部7の外周部下部を切り欠いて肉抜きをすることができなくなる。この結果、冠部7の外周部下部の肉厚を大きくしなければならないことから、重量の増加が余儀なくされるが、本実施形態のように冠部7側にある場合は肉厚にする必要がないので軽量化が図れるのである。
【0039】
〔第2実施形態〕
図10〜図13は第2実施形態を示し、第1実施形態の基本構造を前提として、前記各エプロン部11,12は、外方へ僅かに湾曲形成されているが、ピストン1の軸線P方向に沿って傾斜させずにほぼ垂直に形成したものである。つまり、第1実施形態のものとは異なり、縦断面ハ字形状の袴状ではなく両エプロン部11,12はほぼ平行に形成されている。
【0040】
また、前記各連結部位10は、外周部17側の曲率半径が上下方向で変化することなくほぼ同一に形成されている一方、内周部16側の曲率半径が上端部16aから下端部16bに渡って漸次大きくなるように形成されている。
【0041】
さらに、前記各凹部19,20は、第1実施形態と同じく図10の一点鎖線で示す元の壁部を円弧状に切欠形成したもので、図11の斜線で示すように、前記連結部位10の各上端部16a、17aから前記ピンボス部13,14の各両側部付近まで形成されている。この各凹部19、20を形成した結果、この各凹部19,20が形成された部位の壁部が前記くびれ部11d、12dに形成されている。また、このくびれ部11d、12dから下側の壁部11a、12aがほぼ平行に形成されていると共に、この下側の壁部11a、12aに肉厚が比較的厚くほぼ均一に形成されている。
【0042】
換言すれば、両エプロン部11、12の対向する壁部11a、12aの内側面間の距離で考察すると、図10に示すように、前記各凹部19,20間の距離Lが最も長く、前記くびれ部11d、12d間の距離L1では短くなり、このくびれ部11d、12dから前記ピストン軸線Pに沿って下方へ離間して最下端部11c、12c間までの距離L2がL1と同じとなるように形成されている。したがって、ピストン1は、前記凹部19,20が形成された部位、つまり、くびれ部11d、12dでのスカート部8,9の上端部11b、12b側の剛性が小さくなり、このくびれ部11d、12dから下端部11c、12cまでのスカート部8,9の剛性が高くかつほぼ同一の大きさになるように形成されている。
【0043】
よって、この実施形態では、前記エプロン部11,12の僅かな湾曲形状によってばね力が発揮されることは第1実施形態と同様であるが、特に各連結部位10は、外周部17では曲率半径が上下方向で殆ど変化なく、内周部16の上下方向で大きく変化するようになっていることから、剛性が低下し易い下端部の肉厚が上端部よりも十分に大きくなって、スカート部8,9全体の剛性の均一化を促進できる。
【0044】
よって、エプロン部11,12のばね作用及び各連結部位10のばね作用と、該各連結部位10の肉厚変化によって各スカート部8,9の剛性の偏りを抑制できることによって、該各スカート部8,9のシリンダ壁面3に対する面圧の偏りを十分に抑制することができる。
【0045】
さらに、前記各エプロン部11,12を、湾曲形状ではなくほぼ平坦状に形成することも可能である。これによって、各スカート部8,9がシリンダ壁面3に圧接した際に、各エプロン部11,12でのばね作用はほとんど働かず、もっぱら各連結部位10でのばね作用が働くことになる。
【0046】
また、前記凹部19,20による各スカート部8,9の上端部、つまり冠部7側の剛性が低下することによって、シリンダ壁3との強い衝接が抑制されて、局部的な摩擦力の増加を抑制できることは、第1実施形態と同様である。
【0047】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、前記連結部位10は、圧接荷重が大きくなるスラスト側スカート部8側のみ形成することも可能である。また、前記各連結部位10は、円弧状に形成することなく、例えば、面取り状のR形状であってもよい。
【0048】
さらに、前記各凹部19,20の形成範囲や深さなどは、ピストン1の仕様や大きさなどによって任意に設定することが可能である。
【0049】
また、各スカート部8,9の外周面に、シリンダ壁面3とのフリクションを低減させるための、低摩擦材をコーティングすることも可能である。
【0050】
さらに、ピストンの材質もアルミニウムだけではなく、鉄やマグネシウムなど様々な金属を採用することが可能である。
【0051】
また、本発明のピストンを、V型、W型などの種々の内燃機関に適用することや、さらに単気筒型や多気筒型など種々の内燃機関に適用することが可能である。
【0052】
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
〔請求項a〕請求項1に記載の内燃機関のピストンにおいて、
前記エプロン部の肉厚は、対向する相手側のエプロン部との距離が前記冠部側から軸線方向に離間するにしたがって小さくなる箇所の部位までほぼ同等となり、さらに離間するにしたがって厚くなることを特徴とする内燃機関のピストン。
【0053】
この発明によれば、ピストンの冠部と反対側の開放側の剛性が高くなることから、スカート部全体の剛性が均一化させることができ、これによって、スカート部の外周面とシリンダ壁面との接触時における該スカート部の大きな変形を抑制できる。この結果、フリクションを効果的に低減できる。
〔請求項b〕請求項1に記載の内燃機関のピストンにおいて、
対向する他方側のエプロン部との距離が小さくなるように変化する領域から大きくなるように変化する変化点は、前記ピンボスのピン孔の中心より冠部側に存することを特徴とする内燃機関のピストン。
【0054】
この発明によれば、前記変化点であるくびれ部がピン孔の中心より冠部側にあることによって、ピストン全体の軽量化が図れる。すなわち、前記くびれ部がピン孔の中心より冠部側と反対方向にある場合は、冠部の外周部下部の肉厚を大きくしなければならないことから、重量の増加が余儀なくされるが、本発明のように、冠部側にある場合は肉厚にする必要がないので軽量化が図れるのである。
〔請求項c〕請求項1に記載の内燃機関のピストンにおいて、
対向する他方側のエプロン部との距離が、前記冠部側から軸線方向に離間するにしたがって小さくなり、さらに離間すると大きくなる箇所の部位は少なくとも前記一方側のスカート部の側端に形成されていることを特徴とする内燃機関のピストン。
〔請求項d〕請求項cに記載の内燃機関のピストンにおいて、
対向する他方側のエプロン部との距離が前記冠部側から軸線方向に離間するにしたがって小さくなり、さらに離間すると大きくなる箇所の部位は、少なくとも前記スラスト側のスカート部側の端部に形成されていることを特徴とする内燃機関のピストン。
〔請求項e〕請求項1に記載の内燃機関のピストンにおいて、
対向する他方側のエプロン部との距離が前記冠部側から軸線方向に離間するにしたがって小さくなり、さらに離間すると大きくなるか箇所の部位は、前記一方側のエプロン部における前記ピンボス部を除く全範囲に形成されていることを特徴とする内燃機関のピストン。
〔請求項f〕請求項1に記載の内燃機関のピストンにおいて、
少なくとも前記一方側のスカート部は、前記冠部側から軸線方向に離間するにしたがって周方向幅が大きくなっていることを特徴とする内燃機関のピストン。
〔請求項g〕
燃焼室を画成する冠部と、該冠部に一体に設けられ、シリンダ壁面に摺動するスラスト側と反スラスト側の一対の円弧状のスカート部と、該各スカート部の周方向の両側端に連結され、ピストンピンの両端部を支持するピンボス部を有する一対のエプロン部と、を備え、
前記少なくとも一方側のエプロン部の壁部の内外側面は、前記冠部側付近では剛性が小さくなり、この部位から軸線方向の外端縁側に離間するにしたがって剛性が大きくなり、さらに離間すると剛性がほぼ同等となるように形成したことを特徴とする内燃機関のピストン。
【符号の説明】
【0055】
1…ピストン
2…シリンダブロック
3…シリンダ壁面
4…燃焼室
5…ピストンピン
7…冠部
7a…冠面
8…スラスト側スカート部
9…反スラスト側スカート部
10(10a、10b)…連結部位
11・12…エプロン部
11a・12a…壁部
11b・12b…上端部
11c・12c…下端部
11d・12d…くびれ部
13・14…ピンボス部
13a、14a…ピン孔
16…内周部
17…外周部
18…肉盛部
19・20…凹部
P…ピストン軸線
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の部品である内燃機関のピストンの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関のピストンとしては、例えば以下の特許文献1に記載されているものがある。このピストンは、いわゆるスラスト側のスカート部に周方向で連結された両エプロン部の前記両連結箇所でかつ冠部の近傍に、周方向の一端側がピンボス部と連結された肉厚部がそれぞれ形成されている。一方、前記両エプロン部の反スラスト側のスカート部と連結した部位は狭幅に形成されていると共に、ピストン軸線方向に沿って垂直に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−27965号公報(図5,図6参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の内燃機関のピストンにあっては、前述のように、特に、スラスト側のスカート部側の両エプロン部に前記肉厚部がそれぞれ形成されていることから、冠部側の剛性が高くなってスラスト側のスカート部の適度な変形が得ることができない。この結果、シリンダ壁面とスカート部との間に発生するフリクションを十分に低減させることができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、とりわけ、少なくとも一方側のエプロン部の壁部の内外側面は、対向する他方側のエプロン部との間の距離が冠部付近で短くなり、該冠部側の短い部位から軸線方向の端縁側に離間する方向ではほぼ同等になるように形成することにより、スカート部の冠部側の少なくとも一部の剛性が、両エプロン部間の距離が短くなる前記冠部側の部位に比べて小さくなるように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ピストン作動中におけるスカート部のシリンダ壁面に対する強い当たりが小さくなって接触面圧を低減させることができ、これによってフリクションを効果的に低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態のピストンを示す図4のC−C線断面図である。
【図2】Aは本発明の第1実施形態に係るピストンの底面側から視た斜視図、BはAのA−A線断面図である。
【図3】同ピストンの底面側から別の角度からみた視た斜視図である。
【図4】同ピストンの一部を断面して示す正面図である。
【図5】同ピストンの側面図である。
【図6】同ピストンの底面図である。
【図7】同ピストンがシリンダブロックのシリンダ壁面に摺動する状態を示す断面図である。
【図8】本実施形態のピストンと従来のピストンのスラスト側スカート部の位置に対応した変形量を比較して示すグラフである。
【図9】同じく本実施形態のピストンと従来のピストンのスラスト側スカート部のクランク角に対応した摩擦力と摩擦損失を比較して示すグラフである。
【図10】本発明の第2実施形態に係るピストンの縦断面図である。
【図11】同第2実施形態に係るピストンを底面から視た斜視図である。
【図12】同ピストンの側面図である。
【図13】同ピストンの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る内燃機関のピストンの実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、本実施形態に供されるピストンは、4サイクル・ガソリンエンジンに適用したものである。
【0009】
〔第1実施形態〕
ピストン1は、図7に示すように、シリンダブロック2に形成されたほぼ円柱状のシリンダ壁面3に摺動自在に設けられ、該シリンダ壁面3と図外のシリンダヘッドとの間に燃焼室4を形成するようになっていると共に、ピストンピン5に連結されたコンロッド6を介して図外のクランクシャフトに連結されている。
【0010】
前記ピストン1は、全体がAC8A Al−Si系のアルミニウム合金によって一体に鋳造され、図1〜図6に示すように、ほぼ円筒状に形成されて、冠面7a上に前記燃焼室4を画成する冠部7と、該冠部7の下端外周縁に一体に設けられた円弧状の一対のスラスト側スカート部8及び反スラスト側スカート9と、該各スカート部8、9の円周方向の両側端に各連結部位10を介して連結された一対のエプロン部11,12と、を備えている。
【0011】
前記冠部7は、比較的肉厚に形成された円盤状を呈し、冠面7a上に吸排気弁との干渉を防止する図外のバルブリセスが形成されていると共に、外周部にプレッシャリングやオイルリングなどの3つのピストンリングを保持するリング溝7b、7c、7dが形成されている。
【0012】
前記両スカート部8,9は、ピストン1の軸線Pを中心とした左右の対称位置(図1では前後対称位置)に配置されて、横断面ほぼ円弧状に形成されていると共に、それぞれの肉厚はほぼ全体が比較的薄肉に形成されている。前記スラスト側スカート部8は、膨張行程時などにピストン1が下死点方向へストロークした際に、前記コンロッド6の角度との関係で前記シリンダ壁面3に傾きながら圧接するようになっている一方、反スラスト側のスカート部9は、圧縮行程時などにピストン1が上昇ストロークした際に、シリンダ壁面3に反対に傾きながら圧接するようになっている。前記各スカート部8,9のシリンダ壁面3に対する圧接荷重は、燃焼圧力を受けてシリンダ壁面3に圧接する前記スラスト側スカート部8の方が大きくなっている。
【0013】
また、この各スカート部8,9は、スラスト側スカート部8側からみた図5に示すように、前記冠部7側の上端部8a(9a)から下端部8b(9b)方向に渡って傾斜拡径状に形成されて、縦断面ハ字形状に形成されていると共に、下端縁8c(9c)がほぼ水平状に切欠形成されている。
【0014】
前記各エプロン部11,12は、図2A及び図3に示すように、上端縁が前記冠部7の下端に一体に結合されていると共に、前記各連結部位10間の円周方向の全体が各スカート部8,9よりも大きな曲率半径で僅かに外側へ膨らんだ湾曲状に形成されている。また、この各エプロン部11,12は、図1にも示すように、各スカート部8,9と同じく、ピストン1の軸方向の上端部から下端側に渡って傾斜拡径状に形成されて、縦断面ハ字形状に形成されている。各エプロン部11,12は、前記湾曲状の曲率半径は、150mm〜300mmの範囲内に設定されて、各壁部11a、12a全体が比較的肉厚に形成されている。
【0015】
また、各エプロン部11,12は、円周方向のほぼ中央位置に、前記ピストンピン5の両端部をピン孔13a、14aを介して支持するピンボス部13、14がそれぞれ形成されている。
【0016】
さらに、両エプロン部11,12の壁部11a、12aは、図1、図2Aに示すように、冠部7との連結部位である上端部11b、12bに凹部19、20がそれぞれ形成されて、斯かる各凹部19,20が形成された部位11d、12dの肉厚が上端部11b、12bとほぼ同一に形成されていると共に、該部位11d、12dは内方へ湾曲状に形成されて、いわゆるくびれ部11d、12dとして形成されている。そして、このくびれ部11d、12dからピストン1開口側の下端部11c、12cまでの肉厚が漸次厚くなるように形成されている。また、前記各くびれ部11d、12dは、前記ピンボス部13,14のピン孔13a、14aの中心Qよりも、上方位置に形成されている。
【0017】
具体的に説明すると、前記各凹部19,20は、図1の一点鎖線で示す元の壁部内側を円弧状に切欠形成したもので、図5及び図6の斜線で示すように、前記連結部位10の各上端部16a、17aから前記ピンボス部13,14の付け根部の各両側部付近まで形成されている。この各凹部19、20を形成した結果、この各凹部19,20が形成された部位の壁部が前記くびれ部11d、12dに形成されている。また、このくびれ部11d、12dから下端部11c、12cまでの下側の壁部11a、12aが漸次末広がり状に拡径形成されている。
【0018】
換言すれば、両エプロン部11、12の対向する壁部11a、12aの内側面間の距離で考察すると、図1に示すように、前記各凹部19,20間の距離Lは長く、前記くびれ部11d、12d間の距離L1では最も短くなり、また、このくびれ部11d、12dから前記ピストン軸線Pに沿って下方へ離間するにしたがってその距離が漸次大きくなって最下端部11c、12c間の距離L2が最大となるように形成されている。
【0019】
したがって、ピストン1は、前記凹部19,20が形成された上端部11b、12bからくびれ部11d、12dまでスカート部8,9の上端部側の剛性が小さくなり、このくびれ部11d、12dから下端部11c、12cまでのスカート部8,9の剛性が漸次大きくなるように形成されている。
【0020】
前記各連結部位10は、前記各スカート部8,9の各両側端からエプロン部11,12までの間で円周方向に沿って円弧状に形成され、かかる円弧状の各内周部16と各外周部17は、図2A及び図3の斜線で示すように、それぞれの曲率半径がピストン1の軸方向、つまり上端部16a、17aから下端部16b、17bまでに亘って漸次大きくなるように連続して形成されている。
【0021】
すなわち、各内周部16と外周部17のそれぞれの曲率半径は、小さな各上端部16a、17a側から大きな各下端部16b、17bまでが約10mm〜30mm程度の裾拡がり状に設定されて、その拡がりが比例的かつ連続的に大きくなっている。
【0022】
また、前記各連結部位10の内周部16側と外周部17側では、その円弧幅の長さW,W1と上下方向での円弧幅長さW,W1の変化率が相違している。すなわち、各外周部17側では、円弧幅の長さWは比較的小さく設定されていると共に、上端部17aから下端部17bまでの円弧幅長さWの変化率が小さく設定されている。一方、各内周部16側では、円弧幅の長さW1は比較的大きく設定されていると共に、上端部16aから下端部16bまでの円弧幅長さW1の変化率が前記外周部17側よりも大きく設定されている。
【0023】
このように、連結部位10の内周部16側の円弧幅長さW1を大きく、かつこの長さW1の変化率を外周部17側よりも大きく設定したことによって、連結部位10の肉厚を、冠部7側の上端部からピストン下端部まで漸次大きくすることができる。すなわち、連結部位10内周部17は、円弧面がほぼ平坦面状に形成されていることにより、前記各スカート部8,9の周方向及び上下方向の剛性、つまり全体の剛性をほぼ均一にすることができる。
【0024】
そして、前記各スカート部8,9と各連結部位10及びエプロン部11、12の円弧状及び湾曲状の形状によって、底面からみた全体の形状が、図2及び図6に示すように、ほぼ楕円形状に形成されていると共に、全体が袴状に形成されている。
【0025】
さらに、前記各連結部位10の内周部16の下端部16bには、局部的に肉盛部18がそれぞれ設けられている。この各肉盛部18は、図2Bにも示すように、前記各連結部位10の内周部16の下端部16b側に一体に設けられ、内面が円弧状に形成されていると共に、最も肉厚な下端縁が前記連結部位10の内周部16の下端縁と同一位置になっている。また、この肉盛部18は、下端縁18bから上方へ向かうにしたがって漸次薄肉に形成されて円弧状の上端縁18aは前記連結部位10の内周部16の下端部16bになだらかにかつ連続的に結合されている。
【0026】
この肉盛部18の存在により、前記両スカート部8,9のフリーな状態にある下端部側の剛性が高くなり、スカート部8,9全体の剛性をさらに均一化することができる。
【0027】
以上のように、本実施形態によれば、前記各連結部位10を円弧状に形成することによって、かかる各連結部位10全体がばね作用として働くため、ピストン1の往復ストローク時における前記各スカート部8,9の外周面とシリンダ壁面3との接触時において、スラスト側スカート部8と反スラスト側スカート部9の大きな変形を抑制することができる。
【0028】
しかも、本実施形態では、前記両エプロン部11,12も湾曲状に形成されていることから、かかる両エプロン部11,12も僅かながらも変形によるばね作用が働く。したがって、前記各連結部位10のばね作用と相俟って各スカート部8,9のシリンダ壁面3に対する接触面積が大きくなって局所的な面圧の増加を抑制することができる。
【0029】
つまり、前述のように、前記両スカート部8,9と、各連結部位10及び両エプロン部11,12全体がほぼ楕円形状となっていることから、各スカート部8,9に作用する接触圧力が前記各連結部位部10と各エプロン部11,12のばね作用によって吸収された状態になり、これによって、各スカート部8,9に掛かる面圧を分散化して過大な面圧の発生を抑制することができるのである。
【0030】
また、前記各連結部位10の曲率半径が、上端部16a、17a側から下端部16b、17b側に向かって漸次大きくなるように形成したことによって、前記スカート部8,9の両側端側の剛性、つまりエプロン部11,12側の剛性をピストン軸方向でほぼ均一にすることが可能になる。つまり、各連結部位10の下端部16b、17b側は、自由端(フリーな状態)になっていることから、上端部16a、17b側と同じ肉厚であればこれらの剛性は上端部16a、17a側に比較して低くなる。そこで、肉厚を上端部16a、17a側から下端部側16b、17bに向かって漸次大きくすることにより、剛性が全体として均一化されるのである。
【0031】
この結果、各スカート部8,9のシリンダ壁面3に対する面圧が均一化して接触面圧を低減させることができ、これによってフリクションを効果的に低減することが可能になる。
【0032】
図8に示すグラフは、膨張行程時においてシリンダ壁面3に当接する同一荷重条件下で、スラスト側スカート部の上端部と下端部間の位置と、この位置に対応したスラスト側スカート部の変形量を、本実施形態のピストン1(実線)と従来のピストン(破線)を実験により比較した結果を示したものである。
【0033】
これをみると、前記従来のピストンでは、上端部側よりも下端部側の変形量が急激に大きくなるが、本実施形態のピストン1では、上端部から僅かに下がった位置や最下端側で変形量が僅かに大きくなるものの、全体としては変形量が小さくなっていることが明らかである。
【0034】
これは、本実施形態では、前述した各連結部位10の特異な円弧形状や肉厚構造及び肉盛部18の存在などによって、スラスト側スカート部8全体の剛性が均一化したことによるものである。
【0035】
そして、本実施形態では、前述したように、前記各エプロン部11,12の各スカート部8,9との連結箇所に、それぞれ凹部19,20を形成したことから、スカート部8,9の冠部7側の径方向の剛性が従来のものに比較して僅かに低下する。このため、燃焼圧力などによりピストン1が傾いて前記各スカート部8,9がシリンダ壁3に衝接した際に、各スカート部8,9の冠部7側はシリンダ壁3との強い当たりが抑制される。つまり、前記凹部19、20による剛性の低下によってスカート部8,9の冠部7側の強い衝接が緩和されて、スカート部8,9の局部的な接触によるフリクションの増加を抑制できる。
【0036】
図9は本実施形態のピストン1と従来のピストンの摩擦力実測結果を示している。横軸が時間(クランク角N)、縦軸の左が摩擦力、縦軸の右が摩擦損失(W)を表しており、図中、上の波形が摩擦力を、下の波形が摩擦損失をそれぞれ表している。2つの波形はともに振幅が大きいほど摩擦力、摩擦損失が大きいことを意味する。時間軸はクランク角において、−360°〜360°までであり、内燃機関の1サイクル分(吸気−圧縮−膨張−排気の4行程)に当たる。
【0037】
この図から明らかなように、本実施形態のピストン1(実線)は、従来のピストン(破線)よりも行程中の摩擦力と摩擦損失がそれぞれ低くなり、特にクランク角0〜90°付近でその傾向が顕著になっている。これは、前述した本実施形態のピストン1の特異な構造、つまり、エプロン部11,12側の凹部19、20や、連結部位10の肉厚変化などによって初めて実現できるものであって、本実施形態のピストン1では従来のピストンに対して約25%の摩擦損失の低減が図れた。
【0038】
また、本実施形態では変化点である前記くびれ部11d、12dが、ピン孔13a、14aの中心Qより冠部7側にあることによって、ピストン1全体の軽量化が図れる。すなわち、前記くびれ部11d、12dがピン孔13a、14aの中心Qより冠部7側と反対側の下端部11c、12c側にある場合は、図1の一点鎖線で示すように、くびれ部11d、12dから外側への傾斜角度が大きくなって上端部11b、12bを冠部7の外周縁側に結合しなければならない。このため、軽量化のために冠部7の外周部下部を切り欠いて肉抜きをすることができなくなる。この結果、冠部7の外周部下部の肉厚を大きくしなければならないことから、重量の増加が余儀なくされるが、本実施形態のように冠部7側にある場合は肉厚にする必要がないので軽量化が図れるのである。
【0039】
〔第2実施形態〕
図10〜図13は第2実施形態を示し、第1実施形態の基本構造を前提として、前記各エプロン部11,12は、外方へ僅かに湾曲形成されているが、ピストン1の軸線P方向に沿って傾斜させずにほぼ垂直に形成したものである。つまり、第1実施形態のものとは異なり、縦断面ハ字形状の袴状ではなく両エプロン部11,12はほぼ平行に形成されている。
【0040】
また、前記各連結部位10は、外周部17側の曲率半径が上下方向で変化することなくほぼ同一に形成されている一方、内周部16側の曲率半径が上端部16aから下端部16bに渡って漸次大きくなるように形成されている。
【0041】
さらに、前記各凹部19,20は、第1実施形態と同じく図10の一点鎖線で示す元の壁部を円弧状に切欠形成したもので、図11の斜線で示すように、前記連結部位10の各上端部16a、17aから前記ピンボス部13,14の各両側部付近まで形成されている。この各凹部19、20を形成した結果、この各凹部19,20が形成された部位の壁部が前記くびれ部11d、12dに形成されている。また、このくびれ部11d、12dから下側の壁部11a、12aがほぼ平行に形成されていると共に、この下側の壁部11a、12aに肉厚が比較的厚くほぼ均一に形成されている。
【0042】
換言すれば、両エプロン部11、12の対向する壁部11a、12aの内側面間の距離で考察すると、図10に示すように、前記各凹部19,20間の距離Lが最も長く、前記くびれ部11d、12d間の距離L1では短くなり、このくびれ部11d、12dから前記ピストン軸線Pに沿って下方へ離間して最下端部11c、12c間までの距離L2がL1と同じとなるように形成されている。したがって、ピストン1は、前記凹部19,20が形成された部位、つまり、くびれ部11d、12dでのスカート部8,9の上端部11b、12b側の剛性が小さくなり、このくびれ部11d、12dから下端部11c、12cまでのスカート部8,9の剛性が高くかつほぼ同一の大きさになるように形成されている。
【0043】
よって、この実施形態では、前記エプロン部11,12の僅かな湾曲形状によってばね力が発揮されることは第1実施形態と同様であるが、特に各連結部位10は、外周部17では曲率半径が上下方向で殆ど変化なく、内周部16の上下方向で大きく変化するようになっていることから、剛性が低下し易い下端部の肉厚が上端部よりも十分に大きくなって、スカート部8,9全体の剛性の均一化を促進できる。
【0044】
よって、エプロン部11,12のばね作用及び各連結部位10のばね作用と、該各連結部位10の肉厚変化によって各スカート部8,9の剛性の偏りを抑制できることによって、該各スカート部8,9のシリンダ壁面3に対する面圧の偏りを十分に抑制することができる。
【0045】
さらに、前記各エプロン部11,12を、湾曲形状ではなくほぼ平坦状に形成することも可能である。これによって、各スカート部8,9がシリンダ壁面3に圧接した際に、各エプロン部11,12でのばね作用はほとんど働かず、もっぱら各連結部位10でのばね作用が働くことになる。
【0046】
また、前記凹部19,20による各スカート部8,9の上端部、つまり冠部7側の剛性が低下することによって、シリンダ壁3との強い衝接が抑制されて、局部的な摩擦力の増加を抑制できることは、第1実施形態と同様である。
【0047】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、前記連結部位10は、圧接荷重が大きくなるスラスト側スカート部8側のみ形成することも可能である。また、前記各連結部位10は、円弧状に形成することなく、例えば、面取り状のR形状であってもよい。
【0048】
さらに、前記各凹部19,20の形成範囲や深さなどは、ピストン1の仕様や大きさなどによって任意に設定することが可能である。
【0049】
また、各スカート部8,9の外周面に、シリンダ壁面3とのフリクションを低減させるための、低摩擦材をコーティングすることも可能である。
【0050】
さらに、ピストンの材質もアルミニウムだけではなく、鉄やマグネシウムなど様々な金属を採用することが可能である。
【0051】
また、本発明のピストンを、V型、W型などの種々の内燃機関に適用することや、さらに単気筒型や多気筒型など種々の内燃機関に適用することが可能である。
【0052】
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
〔請求項a〕請求項1に記載の内燃機関のピストンにおいて、
前記エプロン部の肉厚は、対向する相手側のエプロン部との距離が前記冠部側から軸線方向に離間するにしたがって小さくなる箇所の部位までほぼ同等となり、さらに離間するにしたがって厚くなることを特徴とする内燃機関のピストン。
【0053】
この発明によれば、ピストンの冠部と反対側の開放側の剛性が高くなることから、スカート部全体の剛性が均一化させることができ、これによって、スカート部の外周面とシリンダ壁面との接触時における該スカート部の大きな変形を抑制できる。この結果、フリクションを効果的に低減できる。
〔請求項b〕請求項1に記載の内燃機関のピストンにおいて、
対向する他方側のエプロン部との距離が小さくなるように変化する領域から大きくなるように変化する変化点は、前記ピンボスのピン孔の中心より冠部側に存することを特徴とする内燃機関のピストン。
【0054】
この発明によれば、前記変化点であるくびれ部がピン孔の中心より冠部側にあることによって、ピストン全体の軽量化が図れる。すなわち、前記くびれ部がピン孔の中心より冠部側と反対方向にある場合は、冠部の外周部下部の肉厚を大きくしなければならないことから、重量の増加が余儀なくされるが、本発明のように、冠部側にある場合は肉厚にする必要がないので軽量化が図れるのである。
〔請求項c〕請求項1に記載の内燃機関のピストンにおいて、
対向する他方側のエプロン部との距離が、前記冠部側から軸線方向に離間するにしたがって小さくなり、さらに離間すると大きくなる箇所の部位は少なくとも前記一方側のスカート部の側端に形成されていることを特徴とする内燃機関のピストン。
〔請求項d〕請求項cに記載の内燃機関のピストンにおいて、
対向する他方側のエプロン部との距離が前記冠部側から軸線方向に離間するにしたがって小さくなり、さらに離間すると大きくなる箇所の部位は、少なくとも前記スラスト側のスカート部側の端部に形成されていることを特徴とする内燃機関のピストン。
〔請求項e〕請求項1に記載の内燃機関のピストンにおいて、
対向する他方側のエプロン部との距離が前記冠部側から軸線方向に離間するにしたがって小さくなり、さらに離間すると大きくなるか箇所の部位は、前記一方側のエプロン部における前記ピンボス部を除く全範囲に形成されていることを特徴とする内燃機関のピストン。
〔請求項f〕請求項1に記載の内燃機関のピストンにおいて、
少なくとも前記一方側のスカート部は、前記冠部側から軸線方向に離間するにしたがって周方向幅が大きくなっていることを特徴とする内燃機関のピストン。
〔請求項g〕
燃焼室を画成する冠部と、該冠部に一体に設けられ、シリンダ壁面に摺動するスラスト側と反スラスト側の一対の円弧状のスカート部と、該各スカート部の周方向の両側端に連結され、ピストンピンの両端部を支持するピンボス部を有する一対のエプロン部と、を備え、
前記少なくとも一方側のエプロン部の壁部の内外側面は、前記冠部側付近では剛性が小さくなり、この部位から軸線方向の外端縁側に離間するにしたがって剛性が大きくなり、さらに離間すると剛性がほぼ同等となるように形成したことを特徴とする内燃機関のピストン。
【符号の説明】
【0055】
1…ピストン
2…シリンダブロック
3…シリンダ壁面
4…燃焼室
5…ピストンピン
7…冠部
7a…冠面
8…スラスト側スカート部
9…反スラスト側スカート部
10(10a、10b)…連結部位
11・12…エプロン部
11a・12a…壁部
11b・12b…上端部
11c・12c…下端部
11d・12d…くびれ部
13・14…ピンボス部
13a、14a…ピン孔
16…内周部
17…外周部
18…肉盛部
19・20…凹部
P…ピストン軸線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を画成する冠部と、該冠部に一体に設けられ、シリンダ壁面に摺動するスラスト側と反スラスト側の一対の円弧状のスカート部と、該各スカート部の周方向の両側端に連結され、ピストンピンの両端部を支持するピンボス部を有する一対のエプロン部と、を備え、
前記少なくとも一方側のエプロン部の壁部の内外側面は、前記対向する他方側のエプロン部との間の距離が前記冠部付近で短くなり、該冠部側の短い部位から軸線方向の端縁側に離間する方向ではほぼ同等になるように形成することにより、前記スカート部の冠部側の少なくとも一部の剛性が、両エプロン部間の距離が短くなる前記冠部側の部位に比べて小さくなるように構成されていることを特徴とする内燃機関のピストン。
【請求項1】
燃焼室を画成する冠部と、該冠部に一体に設けられ、シリンダ壁面に摺動するスラスト側と反スラスト側の一対の円弧状のスカート部と、該各スカート部の周方向の両側端に連結され、ピストンピンの両端部を支持するピンボス部を有する一対のエプロン部と、を備え、
前記少なくとも一方側のエプロン部の壁部の内外側面は、前記対向する他方側のエプロン部との間の距離が前記冠部付近で短くなり、該冠部側の短い部位から軸線方向の端縁側に離間する方向ではほぼ同等になるように形成することにより、前記スカート部の冠部側の少なくとも一部の剛性が、両エプロン部間の距離が短くなる前記冠部側の部位に比べて小さくなるように構成されていることを特徴とする内燃機関のピストン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−76408(P2013−76408A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−5847(P2013−5847)
【出願日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【分割の表示】特願2009−289955(P2009−289955)の分割
【原出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【分割の表示】特願2009−289955(P2009−289955)の分割
【原出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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