説明

内燃機関のフェールセーフ制御装置

【課題】エンジンのクランク角センサの異常時にカム角センサの出力信号に基づいてエンジン回転速度を算出する際にエンジン回転速度算出値の変動を抑制できるようにする。
【解決手段】クランク角センサ24の異常時に、カム角センサ27から出力されるカム角信号の出力タイミングで疑似起動タイミングを生成すると共に、カム角信号が出力されてから次のカム角信号が出力される直前までの期間は既に出力されたカム角信号の出力タイミングの時間間隔を等分した時間間隔で疑似起動タイミングを生成する。この疑似起動タイミングの時間間隔の積算値に基づいてエンジン回転速度を算出するが、その際、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔(カム角信号出力時の疑似起動タイミングとその直前の疑似起動タイミングとの時間間隔)を除外することで、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔の変動の影響を受けずに、エンジン回転速度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク角センサの異常時にカム角センサの出力信号に基づいて内燃機関の回転速度を算出する機能を備えた内燃機関のフェールセーフ制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジン(内燃機関)の制御システムでは、エンジンのクランク軸の回転に同期してクランク角信号を出力するクランク角センサを設け、このクランク角センサから出力されるクランク角信号の出力タイミングの時間間隔に基づいてエンジン回転速度を算出するようにしている。
【0003】
また、特許文献1(特許第3775220号公報)に記載されているように、クランク角センサから出力されるクランク角信号に基づいて起動タイミングを生成し、この起動タイミングに基づいて各種の制御処理(燃料噴射制御処理、点火時期制御処理等)を実行するシステムにおいて、クランク角センサの異常が検出されたときには、カム角センサから出力されるカム角信号の発生間隔を分周して疑似起動タイミングを生成し、この疑似起動タイミングに基づいて各種の制御処理を実行すると共に、この各種の制御処理中にカム角信号の新たな発生があり、この際に疑似起動タイミングの未発行分があるときには、これに対応する疑似起動タイミングを直ちに生成するようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3775220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、クランク角センサの異常時に、カム角センサから出力されるカム角信号に基づいて疑似起動タイミングを生成し、この疑似起動タイミングの時間間隔に基づいてエンジン回転速度を算出するシステムを研究しているが、その研究過程で次のような新たな課題が判明した。
【0006】
図2に示すように、例えば、クランク角センサの異常時に、カム角信号の出力タイミングで疑似起動タイミングを生成すると共に、今回のカム角信号が出力されてから次回のカム角信号が出力される直前までの期間は前回と今回のカム角信号の出力タイミングの時間間隔T180を6つに等分した時間間隔T30で疑似起動タイミングを生成し、このようにして生成した疑似起動タイミング毎にクランクカウンタをカウントアップする。
【0007】
この場合、今回のカム角信号の出力時の疑似起動タイミングから次回のカム角信号が出力される直前の疑似起動タイミングまでは、疑似起動タイミングの時間間隔T30が全て等間隔になるが、次回のカム角信号の出力時の疑似起動タイミングとその直前の疑似起動タイミングとの時間間隔(以下「カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔」という)T30(x) は、次回のカム角信号の出力タイミングによって変化するため、他の疑似起動タイミングの時間間隔T30に比べて大きく変動する傾向がある。例えば、加速時には、次回のカム角信号の出力タイミングが早くなるため、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) が短くなる。一方、減速時には、次回のカム角信号の出力タイミングが遅くなるため、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) が長くなる。
【0008】
このため、カム角センサの出力信号(カム角信号)に基づいて生成した疑似起動タイミングの時間間隔T30に基づいてエンジン回転速度を算出する際に、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) を用いると、図6に二点鎖線で示すように、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) の変動の影響を受けて、エンジン回転速度の算出値が著しく変動するという問題がある。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、クランク角センサの異常時に、カム角センサの出力信号に基づいて生成した疑似起動タイミングに基づいて内燃機関の回転速度を算出する場合に、内燃機関の回転速度の算出値の変動を抑制することができる内燃機関のフェールセーフ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関のクランク軸の回転に同期してクランク角信号を出力するクランク角センサと、内燃機関のカム軸の回転に同期してカム角信号を出力するカム角センサとを備えた内燃機関のフェールセーフ制御装置において、クランク角センサの異常時に、カム角信号の出力タイミングで疑似起動タイミングを生成すると共に、カム角信号が出力されてから次のカム角信号が出力される直前までの期間は既に出力されたカム角信号の出力タイミングの時間間隔を複数に等分した時間間隔で疑似起動タイミングを生成する疑似起動タイミング生成手段と、クランク角センサの異常時に、疑似起動タイミングの時間間隔に基づいて内燃機関の回転速度を算出する異常時回転速度算出手段とを備え、この異常時回転速度算出手段によって、疑似起動タイミングの時間間隔に基づいて内燃機関の回転速度を算出する際に、疑似起動タイミングの時間間隔のうちのカム角信号出力時の疑似起動タイミングとその直前の疑似起動タイミングとの時間間隔(以下「カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔」という)を除外する構成としたものである。
【0011】
この構成では、クランク角センサの異常時に、疑似起動タイミングの時間間隔に基づいて内燃機関の回転速度を算出する際に、カム角信号出力時の疑似起動タイミングとその直前の疑似起動タイミングとの時間間隔(以下「カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔」という)を除外することができるため、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔の変動の影響を受けずに、内燃機関の回転速度を算出することができ、内燃機関の回転速度の算出値の変動を抑制することができる。
【0012】
この場合、請求項2のように、疑似起動タイミングの時間間隔の積算値に基づいて内燃機関の回転速度を算出するようにすると良い。このようにすれば、内燃機関の回転速度の算出精度を向上させることができる。
【0013】
疑似起動タイミングの時間間隔の積算値を求める場合には、疑似起動タイミングの時間間隔をそれぞれ実際に計測し、その疑似起動タイミングの時間間隔の計測値を積算して疑似起動タイミングの時間間隔の積算値を求めるようにしても良いが、請求項3のように、カム角信号の出力タイミングの時間間隔を複数に等分した時間間隔(=疑似起動タイミングの時間間隔)を積算して疑似起動タイミングの時間間隔の積算値を求めるようにしても良い。このようにすれば、疑似起動タイミングの時間間隔をそれぞれ実際に計測する必要が無く、疑似起動タイミングの時間間隔の積算値を求める際の演算処理を簡略化することができる。
【0014】
また、請求項4のように、クランク角センサの正常時に、クランク角信号の出力タイミングの時間間隔に基づいて内燃機関が正常時回転速度算出用の所定クランク角を回転するのに要する時間を算出し、該正常時回転速度算出用の所定クランク角を回転するのに要する時間に基づいて内燃機関の回転速度を算出する正常時回転速度算出手段を備え、異常時回転速度算出手段は、疑似起動タイミングの時間間隔に基づいて内燃機関が異常時回転速度算出用の所定クランク角を回転するのに要する時間を算出し、該異常時回転速度算出用の所定クランク角を回転するのに要する時間に基づいて内燃機関の回転速度を算出すると共に、異常時回転速度算出用の所定クランク角を正常時回転速度算出用の所定クランク角よりも大きくするようにしても良い。
【0015】
クランク角センサの異常時に、疑似起動タイミングの時間間隔に基づいて内燃機関の回転速度を算出するフェールセーフ中は、内燃機関の回転速度の変動を過敏に検知して精密に制御する必要はないため、正常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば90CA)よりも大きい異常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば360CA)を内燃機関が回転するのに要する時間に基づいて内燃機関の回転速度を算出することで、内燃機関の回転速度の算出値の変動を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は疑似起動タイミングの生成方法を説明するタイムチャートである。
【図3】図3はエンジン回転速度算出メインルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図4】図4は正常時エンジン回転速度算出ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図5】図5は実施例1の異常時エンジン回転速度算出ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図6】図6は実施例1の効果を説明するタイムチャートである。
【図7】図7は実施例2の異常時エンジン回転速度算出ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図8】図8は実施例2の効果を説明するタイムチャートである。
【図9】図9は実施例3のクランク角センサ異常時のエンジン回転速度の算出方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例1を図1乃至図6に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の構成を概略的に説明する。
エンジン11の吸気ポート12に接続された吸気管13の途中には、スロットルバルブ14が設けられ、このスロットルバルブ14の開度(スロットル開度)がスロットル開度センサ15によって検出される。また、スロットルバルブ14の下流側には、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ15が設けられ、各気筒の吸気ポート12の近傍には、それぞれ吸気ポート12に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁16が取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ17が取り付けられ、各気筒の点火プラグ17の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0019】
一方、エンジン11の排気ポート18に接続された排気管19の途中には、排気ガス浄化用の触媒20が設置されている。エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ21が設けられている。
【0020】
また、エンジン11のクランク軸22に取り付けられたシグナルロータ23の外周に対向してクランク角センサ24が設置され、このクランク角センサ24からシグナルロータ23(クランク軸22)の回転に同期して所定クランク角毎(例えば30CA毎)にクランク角信号(パルス信号)が出力される。クランク角センサ24の正常時には、クランク角信号の出力タイミング毎(例えばクランク角信号の立ち上がりタイミング又は立ち下がりタイミング毎)にクランクカウンタがカウントアップされる。
【0021】
更に、エンジン11のカム軸25に取り付けられたシグナルロータ26の外周に対向してカム角センサ27が設置され、このカム角センサ27からシグナルロータ26(カム軸25)の回転に同期して所定のカム角でカム角信号(パルス信号)が出力される。このカム角信号に基づいて気筒判別用のG2信号のオン/オフが切り替わり、例えば180CA毎にG2エッジのタイミング(G2信号の有効カムエッジのタイミング)となる。クランク角センサ24の異常時には、G2エッジのタイミングに相当するカム角信号の出力タイミングに基づいて疑似起動タイミングを生成し、この疑似起動タイミング毎にクランクカウンタがカウントアップされる。
【0022】
上述した各種センサの出力は、エンジン制御回路(以下「ECU」と表記する)28に入力される。このECU28は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁16の燃料噴射量や点火プラグ17の点火時期を制御する。
【0023】
その際、ECU28は、後述する図3乃至図5のエンジン回転速度算出用の各ルーチンを実行することで、エンジン回転速度Ne を次のようにして算出する。
ECU28は、クランク角センサ24の正常時には、クランク角センサ24から例えば30CA毎に出力されるクランク角信号の出力タイミングの時間間隔の積算値に基づいてエンジン回転速度Ne を算出する。
【0024】
具体的には、クランク角信号の出力タイミング毎に30CA割込処理によって、前回と今回の30CA割込タイミングの時間間隔(つまり前回と今回のクランク角信号の出力タイミングの時間間隔)を今回の30CA時間T30(クランク軸22が30CA回転するのに要する時間)として算出する。
【0025】
この後、2回前の30CA時間T30(n-2) と1回前の30CA時間T30(n-1) と今回の30CA時間T30(n) とを積算して、クランク軸22が正常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば90CA)を回転するのに要する時間である90CA時間T90を求める。
T90=T30(n-2) +T30(n-1) +T30(n)
【0026】
この後、90CA時間T90を用いてエンジン回転速度Ne [rpm]を次式により算出する。
Ne =60/(T90×4)
【0027】
また、ECU28は、図2に示すように、クランク角センサ24の異常時には、カム角センサ27から例えば180CA毎に出力されるカム角信号の出力タイミング(G2エッジのタイミング)で疑似起動タイミングを生成すると共に、今回のカム角信号が出力されてから次回のカム角信号が出力される直前までの期間は既に出力されたカム角信号(前回と今回のカム角信号)の出力タイミングの時間間隔T180を6つに等分した時間間隔T30で疑似起動タイミングを生成する疑似起動タイミング生成手段として機能し、このようにして生成した疑似起動タイミング毎にクランクカウンタをカウントアップする。
【0028】
この場合、今回のカム角信号の出力時の疑似起動タイミングから次回のカム角信号が出力される直前の疑似起動タイミングまでは、疑似起動タイミングの時間間隔T30が全て等間隔になるが、次回のカム角信号の出力時の疑似起動タイミングとその直前の疑似起動タイミングとの時間間隔(以下「カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔」という)T30(x) は、次回のカム角信号の出力タイミングによって変化するため、他の疑似起動タイミングの時間間隔T30に比べて大きく変動する傾向がある。例えば、加速時には、次回のカム角信号の出力タイミングが早くなるため、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) が短くなる。一方、減速時には、次回のカム角信号の出力タイミングが遅くなるため、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) が長くなる。
【0029】
このため、カム角センサ27の出力信号(カム角信号)に基づいて生成した疑似起動タイミングの時間間隔T30に基づいてエンジン回転速度Ne を算出する際に、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) を用いると、図6に二点鎖線で示すように、エンジン回転速度Ne の算出値が著しく変動するという問題がある。
【0030】
この対策として、ECU28は、クランク角センサ24の異常時には、疑似起動タイミングの時間間隔T30の積算値に基づいてエンジン回転速度Ne を算出するが、その際、疑似起動タイミングの時間間隔T30のうちのカム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) を除外して、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) 以外の疑似起動タイミングの時間間隔T30を用いてエンジン回転速度Ne を算出する。
【0031】
具体的には、カム角信号の出力タイミングに基づいて生成した疑似起動タイミング毎に30CA割込処理によって、前回と今回の30CA割込タイミングの時間間隔(つまり前回と今回の疑似起動タイミングの時間間隔)を今回の30CA時間T30として算出するが、カム角信号出力時の30CA割込処理(カム角信号出力時の疑似起動タイミングを割込タイミングとする30CA割込処理)の場合には、前回の30CA時間T30と同一の値を今回の30CA時間T30とすることで、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) を除外する。
【0032】
この後、2回前の30CA時間T30(n-2) と1回前の30CA時間T30(n-1) と今回の30CA時間T30(n) とを積算して、クランク軸22が異常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば90CA)を回転するのに要する時間である90CA時間T90を求める。
T90=T30(n-2) +T30(n-1) +T30(n)
【0033】
この後、90CA時間T90を用いてエンジン回転速度Ne [rpm]を次式により算出する。
Ne =60/(T90×4)
以下、ECU28が実行する図3乃至図5に示すエンジン回転速度算出用の各ルーチンの処理内容を説明する。
【0034】
[エンジン回転速度算出メインルーチン]
図3に示すエンジン回転速度算出メインルーチンは、ECU28の電源オン中に所定周期で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、クランク角センサ24が異常であるか否かを、例えば、図示しないクランク角センサ異常診断ルーチンによるクランク角センサ24の異常診断結果に基づいて判定する。
【0035】
このステップ101で、クランク角センサ24が異常ではない(正常である)と判定された場合には、ステップ102に進み、30CA割込処理によって後述する図4の正常時エンジン回転速度算出ルーチンを実行することで、クランク角センサ24から出力されるクランク角信号の出力タイミングの時間間隔T30の積算値に基づいてエンジン回転速度Ne を算出する。
【0036】
一方、上記ステップ101で、クランク角センサ24が正常であると判定された場合には、ステップ103に進み、30CA割込処理によって後述する図5の異常時エンジン回転速度算出ルーチンを実行することで、カム角センサ27の出力信号(カム角信号)に基づいて生成した疑似起動タイミングの時間間隔T30の積算値に基づいてエンジン回転速度Ne を算出する。
【0037】
[正常時エンジン回転速度算出ルーチン]
図4に示す正常時エンジン回転速度算出ルーチン(図3のステップ102)は、クランク角信号の出力タイミング毎に30CA割込処理によって繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう正常時回転速度算出手段としての役割を果たす。
【0038】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、前回と今回の30CA割込タイミングの時間間隔(つまり前回と今回のクランク角信号の出力タイミングの時間間隔)を計測(算出)し、その計測値を今回の30CA時間T30とする。
【0039】
この後、ステップ202に進み、ECU28のメモリに記憶されている30CA時間T30(n-2) 〜T30(n) のデータをそれぞれ更新する。
T30(n-2) =T30(n-1)
T30(n-1) =T30(n)
T30(n) =T30
【0040】
この後、ステップ203に進み、2回前の30CA時間T30(n-2) と1回前の30CA時間T30(n-1) と今回の30CA時間T30(n) とを積算して、クランク軸22が正常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば90CA)を回転するのに要する時間である90CA時間T90を求める。
T90=T30(n-2) +T30(n-1) +T30(n)
【0041】
この後、ステップ204に進み、90CA時間T90を用いてエンジン回転速度Ne を次式により算出する。
Ne =60/(T90×4)
【0042】
[異常時エンジン回転速度算出ルーチン]
図5に示す異常時エンジン回転速度算出ルーチン(図3のステップ103)は、カム角信号の出力タイミングに基づいて生成した疑似起動タイミング毎に30CA割込処理によって繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう異常時回転速度算出手段としての役割を果たす。
【0043】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ301で、カム角信号出力時の30CA割込処理(カム角信号出力時の疑似起動タイミングを割込タイミングとする30CA割込処理)であるか否かを判定する。
【0044】
このステップ301で、カム角信号出力時の30CA割込処理ではないと判定された場合には、ステップ302に進み、前回と今回の30CA割込タイミングの時間間隔(つまり前回と今回の疑似起動タイミングの時間間隔)を計測(算出)し、その計測値を今回の30CA時間T30とする。
【0045】
一方、上記ステップ301で、カム角信号出力時の30CA割込処理であると判定された場合には、ステップ303に進み、前回の30CA時間T30と同一の値を今回の30CA時間T30とすることで、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) を除外する。
【0046】
この後、ステップ304に進み、ECU28のメモリに記憶されている30CA時間T30(n-2) 〜T30(n) のデータをそれぞれ更新する。
T30(n-2) =T30(n-1)
T30(n-1) =T30(n)
T30(n) =T30
【0047】
この後、ステップ305に進み、2回前の30CA時間T30(n-2) と1回前の30CA時間T30(n-1) と今回の30CA時間T30(n) とを積算して、クランク軸22が異常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば90CA)を回転するのに要する時間である90CA時間T90を求める。
T90=T30(n-2) +T30(n-1) +T30(n)
【0048】
この後、ステップ306に進み、90CA時間T90を用いてエンジン回転速度Ne を次式により算出する。
Ne =60/(T90×4)
【0049】
以上説明した本実施例1では、クランク角センサ24の異常時には、カム角センサ27から出力されるカム角信号の出力タイミングで疑似起動タイミングを生成すると共に、今回のカム角信号が出力されてから次回のカム角信号が出力される直前までの期間は既に出力されたカム角信号(前回と今回のカム角信号)の出力タイミングの時間間隔T180を6つに等分した時間間隔T30で疑似起動タイミングを生成する。
【0050】
そして、クランク角センサ24の異常時には、疑似起動タイミングの時間間隔T30の積算値に基づいてエンジン回転速度Ne を算出するが、その際、疑似起動タイミングの時間間隔T30のうちのカム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) を除外して、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) 以外の疑似起動タイミングの時間間隔T30を用いてエンジン回転速度Ne を算出するようにしたので、図6に実線で示すように、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) の変動の影響を受けずに、エンジン回転速度Ne を算出することができ、エンジン回転速度Ne の算出値の変動を抑制することができる。
【0051】
尚、上記実施例1では、正常時回転速度算出用の所定クランク角と異常時回転速度算出用の所定クランク角を90CAに設定して、90CA時間T90を用いてエンジン回転速度Ne を算出するようにしたが、これに限定されず、正常時回転速度算出用の所定クランク角と異常時回転速度算出用の所定クランク角を適宜変更しても良く、例えば、正常時回転速度算出用の所定クランク角と異常時回転速度算出用の所定クランク角を、180CA、360CA、720CA等のいずれかに設定して、180CA時間T180、360CA時間T360、720CA時間T720等のいずれかを用いてエンジン回転速度Ne を算出するようにしても良い。
【実施例2】
【0052】
次に、図7及び図8を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0053】
本実施例2では、クランク角センサ24の正常時には、前記実施例1と同じように、クランク角信号の出力タイミングの時間間隔T30を積算して、クランク軸22が正常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば90CA)を回転するのに要する時間である90CA時間T90を求め、この90CA時間T90を用いてエンジン回転速度Ne を算出する。
【0054】
一方、クランク角センサ24の異常時には、ECU28により後述する図7の異常時エンジン回転速度算出ルーチンを実行することで、疑似起動タイミングの時間間隔T30を積算して、クランク軸22が異常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば360CA)を回転するのに要する時間である360CA時間T360を求め、この360CA時間T360を用いてエンジン回転速度Ne を算出する。つまり、異常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば360CA)を正常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば90CA)よりも大きくする。
【0055】
図7の異常時エンジン回転速度算出ルーチンは、前記実施例1で説明した図5のルーチンのステップ304〜306の処理を、ステップ304a〜306aの処理に変更したものであり、それ以外の各ステップの処理は図5と同じである。
【0056】
図7の異常時エンジン回転速度算出ルーチンでは、カム角信号出力時の30CA割込処理ではないと判定されれば、前回と今回の30CA割込タイミング時間間隔(つまり前回と今回の疑似起動タイミングの時間間隔)を計測(算出)し、その計測値を今回の30CA時間T30とするが、カム角信号出力時の30CA割込処理であると判定されれば、前回の30CA時間T30と同一の値を今回の30CA時間T30とすることで、カム角信号出力時の疑似起動タイミングの時間間隔T30(x) を除外する(ステップ301〜303)。
【0057】
この後、ステップ304aに進み、ECU28のメモリに記憶されている30CA時間T30(n-11)〜T30(n) のデータをそれぞれ更新する。
T30(n-11)=T30(n-10)
T30(n-10)=T30(n-9)
T30(n-9) =T30(n-8)
T30(n-8) =T30(n-7)
T30(n-7) =T30(n-6)
T30(n-6) =T30(n-5)
T30(n-5) =T30(n-4)
T30(n-4) =T30(n-3)
T30(n-3) =T30(n-2)
T30(n-2) =T30(n-1)
T30(n-1) =T30(n)
T30(n) =T30
【0058】
この後、ステップ305aに進み、11回前の30CA時間T30(n-11)から今回の30CA時間T30(n) までを積算して、正常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば90CA)よりも大きい異常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば360CA)をクランク軸22が回転するのに要する時間である360CA時間T360を求める。
【0059】
T360=T30(n-11)+T30(n-10)+・・・・・+T30(n-1) +T30(n)
この後、ステップ306aに進み、360CA時間T360を用いてエンジン回転速度Ne を次式により算出する。
Ne =60/T360
【0060】
以上説明した本実施例2では、クランク角センサ24の異常時には、疑似起動タイミングの時間間隔T30を積算して、正常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば90CA)よりも大きい異常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば360CA)をクランク軸22が回転するのに要する時間である360CA時間T360を求め、この360CA時間T360を用いてエンジン回転速度Ne を算出する。
【0061】
クランク角センサ24の異常時に、疑似起動タイミングの時間間隔T30に基づいてエンジン回転速度Ne を算出するフェールセーフ中は、エンジン回転速度Ne の変動を過敏に検知して精密に制御する必要はないため、正常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば90CA)よりも大きい異常時回転速度算出用の所定クランク角(例えば360CA)をクランク軸22が回転するのに要する時間である360CA時間T360を求め、この360CA時間T360を用いてエンジン回転速度Ne を算出することで、図8に実線で示すように、エンジン回転速度Ne の算出値の変動を効果的に抑制することができる。
【0062】
尚、上記実施例2では、異常時回転速度算出用の所定クランク角を360CAに設定するようにしたが、これに限定されず、異常時回転速度算出用の所定クランク角を適宜変更しても良く、例えば、異常時回転速度算出用の所定クランク角を、180CA、720CA等のいずれかに設定しても良く、要は異常時回転速度算出用の所定クランク角を正常時回転速度算出用の所定クランク角よりも大きくすれば良い。
【実施例3】
【0063】
次に、図9を用いて本発明の実施例3を説明する。但し、前記実施例2と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例2と異なる部分について説明する。
【0064】
前記実施例2では、クランク角センサ24の異常時に、疑似起動タイミングの時間間隔T30をそれぞれ実際に計測し、その疑似起動タイミングの時間間隔T30の計測値を積算して360CA時間T360(疑似起動タイミングの時間間隔T30の積算値)を求めるようにしたが、本実施例3では、クランク角センサ24の異常時に、カム角信号の出力タイミングの時間間隔T180を6つに等分した時間間隔T30(=疑似起動タイミングの時間間隔T30)を積算して360CA時間T360(疑似起動タイミングの時間間隔T30の積算値)を求めるようにしている。
【0065】
具体的には、図9に示すように、(1) クランク角カウンタccrnk=14の場合には、2回前のカム角信号の出力タイミング(G2信号の有効カムエッジのタイミング)の時間間隔T180aを6等分した時間間隔T30aを6つ積算した値(T30a×6=T180a×6/6)と、1回前のカム角信号の出力タイミングの時間間隔T180bを6等分した時間間隔T30bを6つ積算した値(T30b×6=T180b×6/6)とを積算して、360CA時間T360を求める。
【0066】
T360=(T180a×6/6)+(T180b×6/6)
この360CA時間T360を用いてエンジン回転速度Ne を次式により算出する。
Ne =60/T360
【0067】
(2) クランク角カウンタccrnk=15の場合には、2回前のカム角信号の出力タイミングの時間間隔T180aを6等分した時間間隔T30aを5つ積算した値(T30a×5=T180a×5/6)と、1回前のカム角信号の出力タイミングの時間間隔T180bを6等分した時間間隔T30bを6つ積算した値(T30b×6=T180b×6/6)と、今回のカム角信号の出力タイミングの時間間隔T180cを6等分した時間間隔T30cの値(T30c=T180c×1/6)とを積算して、360CA時間T360を求める。
【0068】
T360=(T180a×5/6)+(T180b×6/6)+(T180c×1/6)
この360CA時間T360を用いてエンジン回転速度Ne を次式により算出する。
Ne =60/T360
【0069】
(3) クランク角カウンタccrnk=16の場合には、2回前のカム角信号の出力タイミングの時間間隔T180aを6等分した時間間隔T30aを4つ積算した値(T30a×4=T180a×4/6)と、1回前のカム角信号の出力タイミングの時間間隔T180bを6等分した時間間隔T30bを6つ積算した値(T30b×6=T180b×6/6)と、今回のカム角信号の出力タイミングの時間間隔T180cを6等分した時間間隔T30cを2つ積算した値(T30c×2=T180c×2/6)とを積算して、360CA時間T360を求める。
【0070】
T360=(T180a×4/6)+(T180b×6/6)+(T180c×2/6)
この360CA時間T360を用いてエンジン回転速度Ne を次式により算出する。
Ne =60/T360
【0071】
以上説明した本実施例3では、クランク角センサ24の異常時に、カム角信号の出力タイミングの時間間隔T180を6つに等分した時間間隔T30(=疑似起動タイミングの時間間隔T30)を積算して360CA時間T360(疑似起動タイミングの時間間隔T30の積算値)を求めるようにしたので、疑似起動タイミングの時間間隔T30をそれぞれ実際に計測する必要が無く、360CA時間T360(疑似起動タイミングの時間間隔T30の積算値)を求める際の演算処理を簡略化することができる。
【0072】
尚、上記各実施例1〜3では、前回(1回前)と今回のカム角信号の出力タイミングの時間間隔を複数に等分した時間間隔で疑似起動タイミングを生成するようにしたが、これに限定されず、例えば、前々回(2回前)と前回(1回前)のカム角信号の出力タイミングの時間間隔を複数に等分した時間間隔で疑似起動タイミングを生成するようにしたり、或は、前々回(2回前)と今回のカム角信号の出力タイミングの時間間隔を複数に等分した時間間隔で疑似起動タイミングを生成するようにしても良い。
【0073】
また、本発明は、図1に示すような吸気ポート噴射式エンジンに限定されず、筒内噴射式エンジンや、吸気ポート噴射用の燃料噴射弁と筒内噴射用の燃料噴射弁の両方を備えたデュアル噴射式のエンジンにも適用して実施できる。
【0074】
更に、本発明は、エンジンのみを動力源とする車両に限定されず、エンジンとモータの両方を動力源とするハイブリッド車に適用しても良い。
【符号の説明】
【0075】
11…エンジン(内燃機関)、13…吸気管、14…スロットルバルブ、16…燃料噴射弁、17…点火プラグ、19…排気管、22…クランク軸、24…クランク角センサ、25…カム軸、27…カム角センサ、28…ECU(正常時回転速度算出手段,疑似起動タイミング生成手段,異常時回転速度算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の回転に同期してクランク角信号を出力するクランク角センサと、内燃機関のカム軸の回転に同期してカム角信号を出力するカム角センサとを備えた内燃機関のフェールセーフ制御装置において、
前記クランク角センサの異常時に、前記カム角信号の出力タイミングで疑似起動タイミングを生成すると共に、前記カム角信号が出力されてから次のカム角信号が出力される直前までの期間は既に出力されたカム角信号の出力タイミングの時間間隔を複数に等分した時間間隔で疑似起動タイミングを生成する疑似起動タイミング生成手段と、
前記クランク角センサの異常時に、前記疑似起動タイミングの時間間隔に基づいて内燃機関の回転速度を算出する異常時回転速度算出手段とを備え、
前記異常時回転速度算出手段は、前記疑似起動タイミングの時間間隔に基づいて内燃機関の回転速度を算出する際に、前記疑似起動タイミングの時間間隔のうちの前記カム角信号出力時の疑似起動タイミングとその直前の疑似起動タイミングとの時間間隔を除外することを特徴とする内燃機関のフェールセーフ制御装置。
【請求項2】
前記異常時回転速度算出手段は、前記疑似起動タイミングの時間間隔の積算値に基づいて内燃機関の回転速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のフェールセーフ制御装置。
【請求項3】
前記異常時回転速度算出手段は、前記カム角信号の出力タイミングの時間間隔を複数に等分した時間間隔を積算して前記疑似起動タイミングの時間間隔の積算値を求めることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関のフェールセーフ制御装置。
【請求項4】
前記クランク角センサの正常時に、前記クランク角信号の出力タイミングの時間間隔に基づいて内燃機関が正常時回転速度算出用の所定クランク角を回転するのに要する時間を算出し、該正常時回転速度算出用の所定クランク角を回転するのに要する時間に基づいて内燃機関の回転速度を算出する正常時回転速度算出手段を備え、
前記異常時回転速度算出手段は、前記疑似起動タイミングの時間間隔に基づいて内燃機関が異常時回転速度算出用の所定クランク角を回転するのに要する時間を算出し、該異常時回転速度算出用の所定クランク角を回転するのに要する時間に基づいて内燃機関の回転速度を算出すると共に、前記異常時回転速度算出用の所定クランク角を前記正常時回転速度算出用の所定クランク角よりも大きくすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関のフェールセーフ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−208509(P2011−208509A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74282(P2010−74282)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】