説明

内燃機関の排気浄化方法

【課題】 本発明は、車両の高地走行時に、パティキュレートフィルタの過昇温を抑制しつつ効率的にPM強制再生処理を行うことができる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明は、高地においてPM強制再生処理を実行する場合に、車両の走行高度:Hが所定高度:Ht以下であれば平地のPM強制再生処理より少ない目標PM捕集量:cp1及び平地のPM強制再生処理と同等の目標フィルタ温度:tf0に従ってPM強制再生処理を行い、走行高度:Hが所定高度:Htより高ければ平地のPM強制再生処理と同等の目標PM捕集量:cp0及び平地のPM強制再生処理より低い目標フィルタ温度:tf1に従ってPM強制再生処理を実行することにより、PM強制再生処理実行時間の増加や燃費の悪化を最小限に抑えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化技術に関し、特に高地においてパティキュレートフィルタのPM捕集能力を再生させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
パティキュレートフィルタが捕集可能なパティキュレート(以下、PMと記す)の量には限りがあるため、PM捕集時間が所定時間以上となったときにパティキュレートフィルタの捕集能力を強制的に再生させる処理(以下、PM強制再生処理と記す)を実行する技術が知られている。
【0003】
また、内燃機関を搭載した車両が高地を走行する際には、大気圧が高くなるほどPM捕集時間を短くする技術も提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開平10−196347号公報
【特許文献2】特開2002−364342号公報
【特許文献3】特許2543607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、PM捕集時間を短くしてPM強制再生処理を実行する方法は全ての高度(大気圧)において有効であるとは限らず、高度(大気圧)によってはPM強制再生処理実行時間の増加や燃費の悪化が助長される可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は高地においてパティキュレートフィルタの過昇温を抑制しつつ効率的にPM強制再生処理を行うことが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するために以下のような手段を採用した。この発明の特徴は、パティキュレートフィルタを備えた内燃機関の排気浄化方法において、内燃機関を搭載した車両が高地を走行している場合に、平地走行時とは異なるPM強制再生処理を実行すると同時に、そのPM強制再生処理の実行方法を高度に応じて変更する点にある。
【0007】
PM強制再生処理の実行時にはパティキュレートフィルタにおいてPMの酸化反応が生起されるため、その際の反応熱によってパティキュレートフィルタの温度が目標フィルタ温度を大きく上回る可能性がある。しかしながら、パティキュレートフィルタを通過する排気によって該パティキュレートフィルタの熱が奪われるため、パティキュレートフィルタの過剰な昇温が抑制される。
【0008】
ところで、車両の走行高度が平地の高度より高い場合、すなわち車両が高地走行している場合にPM強制再生処理が実行されると、吸入空気の密度低下に伴って排気の密度も低下する。排気の密度が低下すると排気の熱容量が小さくなるため、パティキュレートフィルタから排気へ伝達される熱量が減少する。その結果、高地走行時のPM強制再生処理が平地走行時と同様に行われると、パティキュレートフィルタが過昇温する可能性がある。
【0009】
これに対し、高地走行時のPM強制再生処理(以下、高地PM強制再生処理と記す)に係る目標PM捕集量を平地走行時のPM強制再生処理(以下、平地PM強制再生処理と記
す)に係る目標PM捕集量より少なくし、或いは高地PM強制再生処理に係る目標フィルタ温度を平地PM強制再生処理に係る目標フィルタ温度より低くすることにより、パティキュレートフィルタの過昇温を抑制する方法が考えられる。尚、ここでいう平地は、気圧が略1気圧となる高度の土地を示すものとする。
【0010】
高地PM強制再生処理の目標PM捕集量が平地PM強制再生処理の目標PM捕集量より少なくなると、パティキュレートフィルタのPM捕集量が平地PM強制再生処理の目標PM捕集量より少ないときに高地PM強制再生処理が実行されることになる。このため、高地PM強制再生処理の実行時に発生するPM酸化反応熱の量は、平地PM強制再生処理の実行時より少なくなる。その結果、高地PM強制再生処理の実行時におけるパティキュレートフィルタの過昇温が抑制される。
【0011】
また、高地PM強制再生処理の目標フィルタ温度が平地PM強制再生処理の目標フィルタ温度より低くなると、高地PM強制再生処理実行時におけるパティキュレートフィルタの温度は平地PM強制再生処理実行時より低くなる。
【0012】
高地PM強制再生処理の目標PM捕集量を平地PM強制再生処理より少なくする方法によれば、高地PM強制再生処理の一回当たりの実行時間が平地PM強制再生処理より短くなる。
【0013】
しかしながら、高地PM強制再生処理の実行頻度が平地PM強制再生処理より高くなる。このため、高地における走行距離(運転時間)がある程度長くなると、PM強制再生処理実行時間の総和が平地PM強制再生処理より増加し、燃費の悪化が生じる。
【0014】
また、高地PM強制再生処理の目標フィルタ温度を平地PM強制再生処理より低くする方法によれば、高地PM強制再生処理実行時のパティキュレートフィルタの温度が平地PM強制再生処理実行時より低くなるため、パティキュレートフィルタを昇温させる際に必要となる燃料量が平地PM強制再生処理より少なくなる。
【0015】
しかしながら、一回当たりのPM強制再生処理実行時間が平地PM強制再生処理より長くなり易いため、燃費の悪化が生じる。
【0016】
本願の発明者は、上記した二つの方法について鋭意の実験及び比較検証を行った結果、走行高度が所定の高度以下のときは目標フィルタ温度を低下させる方法に対して目標PM捕集量を減少させる方法の方がPM強制再生処理実行時間の増加や燃費の悪化が少なく、且つ、走行高度が所定高度を超えるときは目標PM捕集量を減少させる方法に対して目標フィルタ温度を低下させる方法の方がPM強制再生処理実行時間の増加や燃費の悪化が少なくなるという特性を見出した。
【0017】
上記の特性に関して本願発明者が更なる実験及び検証を行った結果、上記の所定高度は内燃機関や排気浄化装置の諸元によって異なるものの、同一諸元の内燃機関及び排気浄化装置については略一定の高度であることも見出された。
【0018】
そこで、本発明は、走行高度が基準高度である場合はパティキュレートフィルタのPM捕集量が第1の目標PM捕集量に達した時にパティキュレートフィルタを第1の目標フィルタ温度まで昇温させてPM強制再生処理を行う内燃機関の排気浄化方法において、走行高度が基準高度より高く且つ基準高度より高い所定高度以下である場合にはPM捕集量が第1の目標PM捕集量より少ない第2の目標PM捕集量に達した時にパティキュレートフィルタを第1の目標フィルタ温度まで昇温させてPM強制再生処理を行い、走行高度が所定高度より高い場合にはPM捕集量が第1の目標PM捕集量に達したときにパティキュレ
ートフィルタを第1の目標フィルタ温度より低い第2の目標フィルタ温度まで昇温させてPM強制再生処理を行うようにした。
【0019】
すなわち、高地PM強制再生処理を行う場合に、車両の走行高度が所定高度以下であれば平地PM強制再生処理より少ない目標PM捕集量(第2の目標PM捕集量)及び平地PM強制再生処理と同等の目標フィルタ温度(第1の目標フィルタ温度)に従って高地PM強制再生処理を行い、車両の走行高度が所定高度より高ければ平地PM強制再生処理と同等の目標PM捕集量(第1の目標フィルタ温度)及び平地PM強制再生処理より低い目標フィルタ温度(第2の目標フィルタ温度)に従って高地PM強制再生処理を実行するようにした。
【0020】
尚、ここでいう基準高度は、平地の高度(すなわち、気圧が略1気圧となる高度)を示すものとする。
【0021】
このような方法によれば、高地走行時においてパティキュレートフィルタの過昇温を抑制しつつPM強制再生処理を実行することが可能となる上、PM強制再生処理実行時間の増加や燃費の悪化を最小限に抑えることが可能となる。
【0022】
本発明において、車両の走行高度が前記所定高度より高い限界高度を超えたときには、第2の目標PM捕集量と第2の目標フィルタ温度に従って高地PM強制再生処理が行われるようにしてもよい。
【0023】
この場合、走行高度が非常に高い状況下においてもパティキュレートフィルタの過昇温を抑制しつつPM強制再生処理を行うことが可能となる。その結果、車両が限界高度を超える場所で頻繁に使用されるような場合であっても、パティキュレートフィルタのPM捕集能力を再生させることが可能となる。
【0024】
また、本発明は、車両の走行高度が所定高度を超える頻度を求め、その頻度が低い場合には走行高度が所定高度を超えても第2の目標PM捕集量及び第1の目標フィルタ温度に従って高地PM強制再生処理を実行するようにしてもよい。
【0025】
走行高度が所定高度を超える頻度が低い場合には、走行高度が所定高度を超える期間に高地PM強制再生処理が実行される可能性が低くなる。特に、高地PM強制再生処理が上記の期間内に複数回実行される可能性は極めて低いと言える。
【0026】
従って、走行高度が所定高度を超えたときに第2の目標PM捕集量及び第1の目標フィルタ温度に従って高地PM強制再生処理が実行されれば、高地PM強制再生処理の一回当たりの実行時間が短くなるため、PM強制再生処理実行時間の増加や燃費の悪化を少なくすることができる。
【0027】
本発明において、第2の目標PM捕集量は、走行高度が高くなるほど少なくなるようにしてもよい。その際、第2の目標PM捕集量は、走行高度に反比例して減少するようにしてもよく、走行高度が所定量上がる毎に段階的に減少するようにしてもよい。
【0028】
これは、走行高度が高くなるほど排気の熱容量が小さくなり、それに応じてパティキュレートフィルタから排気へ伝達される熱量が減少するためである。
【0029】
また、本発明において、第2の目標フィルタ温度は、走行高度が高くなるほど低くなるようにしてもよい。その際、第2の目標フィルタ温度は、走行高度に反比例して減少するようにしてもよく、走行高度が所定量上がる毎に段階的に低下するようにしてもよい。
【0030】
これは、走行高度が高くなるほど排気の熱容量が小さくなり、それに応じてパティキュレートフィルタから排気へ伝達される熱量が減少するためである。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る内燃機関の排気浄化方法によれば、高地においてPM強制再生処理を行う場合に目標PM捕集量を減少させる方法と目標フィルタ温度を低下させる方法とを走行高度に応じて切り換えることにより、パティキュレートフィルタの過昇温を抑制しつつPM強制再生処理を実行することが可能となる上、PM強制再生処理実行時間の増加や燃費の悪化を最小限に抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。
【0033】
図1は、本発明を適用する内燃機関の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、圧縮着火式の内燃機関(ディーゼルエンジン)である。内燃機関1は、複数のシリンダ2を有し、各シリンダ2にはシリンダ2内へ直接燃料を噴射する燃料噴射弁3が配置されている。
【0034】
内燃機関1には吸気通路4が接続されている。吸気通路4には遠心過給器(ターボチャージャ)5のコンプレッサハウジング50が配置されている。コンプレッサハウジング50より下流の吸気通路4には給気冷却器(インタークーラ)6が配置されている。インタークーラ6より下流の吸気通路4には吸気絞り弁13が配置されている。
【0035】
また、内燃機関1には排気通路7が接続されている。排気通路7の途中には、ターボチャージャ5のタービンハウジング51が配置されている。タービンハウジング51より下流の排気通路7にはパティキュレートフィルタ8が配置されている。パティキュレートフィルタ8は、排気中のPMを捕集するフィルタと、フィルタの担体に担持された酸化触媒とを具備している。
【0036】
タービンハウジング51より上流の排気通路7には、該排気通路7内を流れる排気中へ燃料を添加する燃料添加弁9が配置されている。パティキュレートフィルタ8より下流の排気通路7には排気温度センサ10が配置されている。
【0037】
このように構成された内燃機関1には、ECU11が併設されている。ECU11は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等から構成される算術論理演算回路である。
【0038】
ECU11は、上記した排気温度センサ10に加え大気圧センサ12等の各種センサと電気的に接続され、各種センサの出力信号を入力可能となっている。また、ECU11は、燃料噴射弁3、燃料添加弁9、吸気絞り弁13等と電気的に接続され、それらを電気的に制御することができるようになっている。
【0039】
ECU11は、各種センサの出力信号に基づいて燃料噴射制御等の既知の制御に加え、本発明の要旨となるPM強制再生処理を実行する。以下、PM強制再生処理について具体的に述べる。
【0040】
先ず、車両の走行高度:Hが平地の高度(基準高度):Hsである場合、すなわち、車両が平地走行している場合には、ECU11は、平地PM強制再生処理を実行する。平地
PM強制再生処理では、ECU11は、パティキュレートフィルタ8のPM捕集量が第1の目標PM捕集量:cp0に達した時点でパティキュレートフィルタ8を第1の目標フィルタ温度:tf0まで昇温させることにより、パティキュレートフィルタ8に捕集されたPMを酸化させる。
【0041】
また、車両の走行高度が基準高度より高い場合、すなわち、車両が高地走行している場合には、ECU11は、高地PM強制再生処理を実行する。高地PM強制再生処理では、ECU11は、内燃機関1を搭載した車両の走行高度に応じて高地PM強制再生処理の実行方法を変更する。
【0042】
具体的には、ECU11は、第1の目標PM捕集量:cp0より少ない第2の目標PM捕集量:cp1及び第1の目標フィルタ温度:tf0に従った高地PM強制再生処理(以下、第1の高地PM強制再生処理)と、第1の目標PM捕集量:cp0及び第1の目標フィルタ温度:tf0より低い第2の目標フィルタ温度:tf1に従った高地PM強制再生処理(以下、第2の高地PM強制再生処理)とを、走行高度に応じて切り換える。
【0043】
図2は、平地PM強制再生処理に対する高地PM強制再生処理の効率低下割合を示す図である。図2中の一点鎖線は第1の高地PM強制再生処理を示し、実線は第2の高地PM強制再生処理を示している。
【0044】
上記の効率低下割合は、平地PM強制再生処理に対する高地PM強制再生処理の燃料消費量の増加量、及び平地PM強制再生処理に対する高地PM強制再生処理の実行時間の増加量をパラメータとして算出された値である。
【0045】
その際の燃料消費量は車両が一定距離(平地PM強制再生処理が少なくとも2回以上実行される距離)を走行した際に消費される燃料消費量であり、実行時間は車両が前記一定距離を走行した際に行われたPM強制再生処理の実行時間の総和である。
【0046】
図2において、高度が所定高度:Ht以下であるときには第2の高地PM強制再生処理に比して第1の高地PM強制再生処理の方が効率低下割合が低く、高度が所定高度:Htより高いときには第1の高地PM強制再生処理に比して第2の高地PM強制再生処理の方が効率低下割合が低くなっている。
【0047】
このような特性に関し本願発明者が実験及び検証を行った結果、所定高度:Htは内燃機関や排気浄化装置の諸元によって異なるものの、同一諸元の内燃機関及び排気浄化装置については略一定の高度であることが見出された。
【0048】
そこで、本実施形態の高地PM強制再生処理では、ECU11は、走行高度が所定高度:Ht以下であるときには第1の高地PM強制再生処理を実行し、走行高度が所定高度:Htを超えたときには第2の高地PM強制再生処理を行うようにした。
【0049】
但し、走行高度が所定高度:Htを越える頻度が少ない場合は、走行高度が所定高度:Htを超えたときであっても第1の高地PM強制再生処理を行うことが好ましい。
【0050】
走行高度が所定高度を超える頻度が低い場合は、走行高度が所定高度:Htを超えている期間内に、第1の高地PM強制再生処理が複数回実行される可能性が少なくなる。
【0051】
従って、走行高度が所定高度:Htを超えたときも第1の高地PM強制再生処理が実行されるようにすれば、第1の高地PM強制再生処理の一回当たりの実行時間が第2の高地PM強制再生処理より短いため、第2の高地PM強制再生処理が実行される場合よりPM
強制再生処理実行時間の増加及び燃費の悪化を少なくすることができる。
【0052】
次に、本実施形態における高地PM強制再生処理について図3、4、5に基づいて説明する。図3は、PM再生方法選択ルーチンを示すフローチャートである。このPM再生方法選択ルーチンは、PM強制再生処理に係る目標PM捕集量:cpと目標フィルタ温度:tfを選択及び設定するためのルーチンであり、所定時間毎にECU11が実行するルーチンである。
【0053】
PM再生方法選択ルーチンでは、ECU11は、先ずS101において車両の走行高度:Hを演算する。具体的には、ECU11は、大気圧センサ12の出力信号(大気圧)を走行高度:Hへ換算する。
【0054】
S102では、ECU11は、前記S101で演算された走行高度:Hが基準高度:Hsより高いか否かを判別する。
【0055】
尚、上記S101及びS102の処理では、ECU11は、大気圧センサ12の出力信号が標準大気圧(=1hpa)より低いか否かを判別することにより、走行高度:Hが平地の高度:Hsより高いか否かを判別するようにしてもよい。
【0056】
前記S102において走行高度:Hが基準高度:Hsより高くない(H≦Hs)と判定された場合は、ECU11は、平地PM強制再生処理を選択する。具体的には、ECU11は、S109において目標PM捕集量:cpとして第1の目標PM捕集量:cp0を設定し、続いてS110において目標フィルタ温度:tfとして第1の目標フィルタ温度:tf0を設定する。これら目標PM捕集量:cp及び目標フィルタ温度:tfはRAMやバックアップRAMの所定領域に記憶される。
【0057】
前記S102において走行高度:Hが基準高度:Hsより高いと判定された場合は、ECU11はS103へ進む。S103では、ECU11は走行頻度判定フラグに“1”が記憶されているか否かを判別する。
【0058】
前記の走行頻度判定フラグは、予めバックアップRAM等に設定された記憶領域であり、車両の走行高度が所定高度を超える頻度が所定頻度以上のときに“1”が記憶され、所定頻度未満であるときには“0”が記憶される。
【0059】
ECU11は、走行高度が所定高度:Htを超える頻度が所定頻度以上であるか否かを判定する場合に、図4に示すような高地走行頻度判定ルーチンを実行する。この高地走行頻度判定ルーチンは、内燃機関1の始動時に実行されるルーチンである。
【0060】
高地走行頻度判定ルーチンでは、ECU11は先ずS201において、タイマ:Tを起動させる。このタイマ:Tは内燃機関1の始動から停止までの時間(すなわち、内燃機関1の運転時間)を計時するタイマである。
【0061】
S202では、ECU11は、大気圧センサ12の出力信号を走行高度:Hへ換算する。
【0062】
S203では、ECU11は、前記S202で算出された走行高度:Hが所定高度:Htより高いか否かを判別する。
【0063】
尚、上記S202及びS203の処理では、ECU11は、大気圧センサ12の出力信号と所定高度における大気圧とを比較することにより、走行高度:Hが所定高度:Htよ
り高いか否かを判別するようにしてもよい。
【0064】
前記S203において走行高度:Hが所定高度:Htより高いと判定された場合は、ECU11は、S204においてカウンタ:Cの値を“1”インクリメントする。このカウンタ:Cは、車両が所定高度:Ht以上の高地を走行した時間をカウントするものである。
【0065】
前記S203において走行高度:Hが所定高度:Htより高くない(H≦Ht)と判定された場合は、ECU11は、S204をスキップしてS205へ進む。
【0066】
S205では、ECU11は内燃機関1が運転停止されたか否かを判別する。内燃機関1の運転停止を判定する方法としては、イグニションスイッチがオフへ切り換えられたときに内燃機関1が運転停止されたと判定する方法、若しくは機関回転数が“0”になったときに内燃機関1が運転停止されたと判定する方法等を例示することができる。
【0067】
前記S205において内燃機関1が運転停止されていないと判定された場合は、ECU11は上記したS202以降の処理を繰り返し実行する。
【0068】
前記S205において内燃機関1が運転停止されたと判定された場合は、ECU11は、S206へ進む。S206では、ECU11は、カウンタ:Cの値をタイマ:Tの計測時間で除算して高地走行頻度:F(=C/T)を求める。
【0069】
尚、高地走行頻度は、カウンタ:Cの値を車両の走行距離で除算することにより定められるようにしてもよく、或いは、ナビゲーションシステムが記憶している走行路の履歴に基づいて一定の走行距離あたりに所定高度:Htより高い高度を走行した距離を求めるようにしてもよい。
【0070】
S207では、ECU11は、前記高地走行頻度:Fが所定頻度:Fs以上であるか否かを判別する。
【0071】
前記S207において高地走行頻度:Fが所定頻度:Fs以上であると判定された場合は、ECU11は、S208において走行頻度判定フラグに“1”を記憶させる。
【0072】
前記S207において高地走行頻度:Fが所定頻度:Fs未満であると判定された場合は、ECU11はS209において走行頻度判定フラグに“0”を記憶させる。
【0073】
前記したS208又はS209の処理を実行し終えたECU11は、S210へ進み、タイマ:T及びカウンタ:Cをリセットする。
【0074】
ここで図3のPM再生方法選択ルーチンに戻り、ECU11は、S103において走行頻度判定フラグに“1”が記憶されていると判定した場合は、S104へ進む。S104では、ECU11は、前記S101で算出された走行高度:Hが所定高度:Htより高いか否かを判別する。
【0075】
前記S104において走行高度:Hが所定高度:Htより高いと判定された場合は、ECU11は、第2の高地PM強制再生処理を選択する。具体的には、ECU11は、S105において目標PM捕集量:cpとして第1の目標PM捕集量:cp0を設定し、続いてS106において目標フィルタ温度:tfとして第2の目標フィルタ温度:tf1を設定する。これら目標PM捕集量:cp及び目標フィルタ温度:tfはRAMやバックアップRAMの所定領域に記憶される。
【0076】
尚、第2の目標フィルタ温度:tf1は、走行高度:Hをパラメータとする関数やマップに従って定められるようにしてもよい。その際、前記した関数やマップは、第2の目標フィルタ温度:tf1が走行高度:Hに反比例して低くなるように定められてもよく、或いは走行高度:Hが一定高度上がる毎に所定温度ずつ低くなるように定められてもよい。
【0077】
前記S103において走行頻度判定フラグに“0”が記憶されていると判定された場合、及び前記S104において走行高度:Hが所定高度:Htより高くない(H≦Ht)と判定された場合は、ECU11は、第1の高地PM強制再生処理を選択する。具体的には、ECU11は、S107において目標PM捕集量:cpとして第2の目標PM捕集量:cp1を設定し、続いてS108において目標フィルタ温度:tfとして第1の目標フィルタ温度:tf0を設定する。これら目標PM捕集量:cp及び目標フィルタ温度:tfはRAMやバックアップRAMの所定領域に記憶される。
【0078】
尚、第2の目標PM捕集量:cp1は、走行高度:Hをパラメータとする関数やマップに従って定められるようにしてもよい。その際、前記した関数やマップは、第2の目標PM捕集量:cp1が走行高度:Hに反比例して少なくなるように定められてもよく、或いは走行高度:Hが一定高度上がる毎に所定量ずつ少なくなるように定められてもよい。
【0079】
このようにPM再生方法選択ルーチンによって目標PM捕集量:cp及び目標フィルタ温度:tfが定められると、ECU11は、図5に示すようなPM強制再生処理ルーチンに従ってPM強制再生処理を実行する。PM強制再生処理ルーチンは、上記したPM再生方法選択ルーチンとは別途にECU11が繰り返し実行するルーチンである。
【0080】
PM強制再生処理ルーチンでは、ECU11は、先ずS301においてパティキュレートフィルタ8のPM捕集量:ΣPMを演算する。PM捕集量:ΣPMを演算する方法としては、パティキュレートフィルタ8の前後差圧をPM捕集量:ΣPMに換算する方法、機関負荷と機関回転数をパラメータとして内燃機関1から排出されるPM量を求めそのPM量を積算することによりPM捕集量:ΣPMを算出する方法等を例示することができる。
【0081】
S302では、ECU11は、先ずRAM又はバックアップRAMの所定領域から目標PM捕集量:cpを読み出す。次いでECU11は、S301で算出されたPM捕集量:ΣPMが目標PM捕集量:cpを超えているか否かを判別する。
【0082】
前記S302においてPM捕集量:ΣPMが目標PM捕集量:cpを超えていない(ΣPM≦cp)と判定された場合は、ECU11は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0083】
一方、前記S302においてPM捕集量:ΣPMが目標PM捕集量:cpを超えている(ΣPM>cp)と判定された場合は、ECU11は、S303へ進む。S303では、ECU11は、先ずRAM又はバックアップRAMの所定領域から目標フィルタ温度:tfを読み出す。次いでECU11は、パティキュレートフィルタ8の温度を目標フィルタ温度:Tfまで昇温させるための昇温制御を実行する。
【0084】
昇温制御の実行方法としては、(1)燃料添加弁9から燃料を噴射させることによりパティキュレートフィルタ8へ燃料を供給し、パティキュレートフィルタ8において燃料を酸化させる方法、(2)膨張行程およびまたは排気行程中に燃料噴射弁3から燃料を噴射(ポスト噴射)させることによりパティキュレートフィルタ8へ燃料を供給し、パティキュレートフィルタ8において燃料を酸化させる方法、(3)燃料噴射弁3からの主噴射時期を遅角或いはポスト噴射時期を主噴射に近づけることにより燃料を後燃えさせて排気温度を上昇させる方法、(4)上記した(1)〜(3)の方法を適宜組み合わせる方法等を
例示することができる。
【0085】
S304では、ECU11は、パティキュレートフィルタ8の温度(フィルタ温度):Tを演算する。その際、ECU11は、排気温度センサ10の出力信号をフィルタ温度:Tとして用いてもよく、或いは排気温度とパティキュレートフィルタ8の熱容量と排気流量と添加燃料量などをパラメータとして推定演算してもよい。
【0086】
S305では、ECU11は、先ずRAM又はバックアップの所定領域から目標フィルタ温度:tfを読み出す。次いでECU11は、前記S304で算出されたフィルタ温度:Tが目標フィルタ温度:tfと等しいか否かを判別する。
【0087】
前記S305においてフィルタ温度:Tが目標フィルタ温度:tfと等しくないと判定された場合は、ECU11は、S303〜S304の処理を再度実行する。
【0088】
前記S305においてフィルタ温度:Tが目標フィルタ温度:tfと等しいと判定された場合は、ECU11は、S306へ進む。S306では、ECU11は、パティキュレートフィルタ8において酸化されたPMの総量(PM酸化量):ΣOpmを演算する。パティキュレートフィルタ8において単位時間当たりに酸化されるPM量はパティキュレートフィルタ8の温度によって変化する。このため、パティキュレートフィルタ8の温度とPM強制再生処理の実行時間とをパラメータとしてPM酸化量:ΣOpmを求めることができる。
【0089】
S307では、ECU11は目標PM捕集量:cpから前記PM酸化量:ΣOpmを減算した値が“0”以下であるか否かを判別する。すなわち、ECU11は、パティキュレートフィルタ8に残存しているPM量(=cp−ΣOpm)が“0”以下であるか否かを判別する。
【0090】
S307においてPMの残存量が“0”以下ではない((cp−ΣOpm)>0)であると判定された場合は、ECU11は、S306以降の処理を再度実行する。
【0091】
S307においてPMの残存量が“0”以下である((cp−ΣOpm)≦0)と判定された場合は、ECU11は、S308へ進み、昇温制御の実行を終了する。
【0092】
尚、本実施形態のPM強制再生処理では、パティキュレートフィルタ8に残存しているPM量が“0”以下となった時点でPM強制再生処理が終了されるが、パティキュレートフィルタ8に残存しているPM量が“0”より大きな所定量以下となった時点でPM強制再生処理が終了されるようにしてもよく、或いはPM強制再生処理の実行時間が所定時間以上となった時点でPM強制再生処理が終了されるようにしてもよい。
【0093】
以上述べた実施形態によれば、走行高度:Hが基準高度:Hsより高く且つ所定高度:Ht以下である場合には第1の高地PM強制再生処理が実行され、走行高度:Hが所定高度:Htより高い場合には第2の高地PM強制再生処理が実行されるようになる。
【0094】
走行高度:Hが所定高度:Ht以下であるときには第1の高地PM強制再生処理の効率低下割合が第2の高地PM強制再生処理より低くなるため、走行高度:Hが所定高度:Ht以下である時に第1の高地PM強制再生処理が実行されればPM強制再生処理実行時間の増加や燃費の悪化を少なくすることができる。
【0095】
走行高度:Hが所定高度:Htを越えるときには第2の高地PM強制再生処理の効率低下割合が第1のPM強制再生処理より低くなるため、走行高度:Hが所定高度:Htより
高い時に第2の高地PM強制再生処理が実行されればPM強制再生処理実行時間の増加や燃費の悪化を少なくすることができる。
【0096】
従って、本実施形態によれば、高地走行時にパティキュレートフィルタ8の過昇温を抑制しつつPM強制再生処理を実行することが可能になるとともに、PM強制再生処理実行時間の増加や燃費の悪化を最小限に抑えることが可能となる。
【0097】
更に、走行高度:Hが所定高度:Htを越える頻度が少ない場合には、走行高度:Hが所定高度:Htを超えても第1の高地PM強制再生処理が実行されるため、所定高度:Htを超えた際のPM強制再生処理実行時間の増加及び燃費の悪化を少なくすることが可能となる。
【0098】
尚、本実施形態では、大気圧センサの出力信号をパラメータとして走行高度を求める例について述べたが、吸気圧センサの出力信号、パティキュレートフィルタ8の差圧を求めるセンサの出力信号、エアフローメータの出力信号等から推定演算するようにしてもよく、或いはナビゲーションシステムから直接取得するようにしてもよい。
【0099】
また、車両の走行高度:Hが所定高度:Htより高い限界高度を超えたときには、ECU11は、第1の目標PM捕集量:Cp1と第2の目標フィルタ温度:Tf2に従ってPM強制再生処理を行うようにしてもよい。
【0100】
この場合、走行高度が非常に高い状況下においてもパティキュレートフィルタ8を過昇温させることなくPM強制再生処理を行うことが可能となる。このため、車両が限界高度を超える場所で頻繁に使用されるような場合であっても、パティキュレートフィルタ8のPM捕集能力を飽和させることなく再生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明を適用する内燃機関の概略構成を示す図
【図2】高地PM強制再生処理の効率低下割合を示す図
【図3】PM再生方法選択ルーチンをフローチャート
【図4】高地走行頻度判定ルーチンを示すフローチャート
【図5】PM強制再生処理ルーチンを示すフローチャート
【符号の説明】
【0102】
1・・・・・内燃機関
3・・・・・燃料噴射弁
7・・・・・排気通路
8・・・・・パティキュレートフィルタ
11・・・・ECU
12・・・・大気圧センサ
13・・・・吸気絞り弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を搭載した車両の走行高度が基準高度にある場合は、内燃機関の排気通路に設けられたパティキュレートフィルタのPM捕集量が第1の目標PM捕集量に達した時に前記パティキュレートフィルタを第1の目標フィルタ温度まで昇温させてPM強制再生処理を行う内燃機関の排気浄化方法であって、
前記走行高度が前記基準高度より高く且つ前記基準高度より高い所定高度以下である場合は、PM捕集量が第1のPM捕集量より少ない第2の目標PM捕集量に達したときにパティキュレートフィルタを第1の目標フィルタ温度まで昇温させてPM強制再生処理を行い、
前記走行高度が前記所定高度より高い場合は、PM捕集量が第1のPM捕集量に達したときにパティキュレートフィルタを第1の目標フィルタ温度より低い第2の目標フィルタ温度まで昇温させてPM強制再生処理を行うことを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。
【請求項2】
請求項1において、走行高度が前記所定高度より高い限界高度を超える場合は、PM捕集量が前記第2の目標PM捕集量に達したときに前記パティキュレートフィルタを前記第2の目標フィルタ温度まで昇温させてPM強制再生処理を行うことを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記第2の目標PM捕集量は、前記走行高度が高くなるほど少なく設定されることを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一において、前記第2の目標フィルタ温度は、前記走行高度が高くなるほど低く設定されることを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一において、走行高度が前記所定高度を超える頻度を演算し、その頻度が所定頻度より低い場合には、走行高度が前記所定高度を超えても前記第2の目標PM捕集量及び前記第1の目標フィルタ温度に基づいてPM強制再生処理を行うことを特徴とする内燃機関の排気浄化方法。
【請求項6】
内燃機関の排気通路に設けられたパティキュレートフィルタと、
パティキュレートフィルタのPM捕集量を求めるPM捕集量取得手段と、
PM捕集量が目標PM捕集量に達したときにパティキュレートフィルタを目標フィルタ温度まで昇温させてPM強制再生処理を行うPM強制再生手段と、
を備えた内燃機関の排気浄化装置であって、
内燃機関を搭載した車両の走行高度が基準高度にある場合は、目標PM捕集量を第1のPM捕集量に設定するとともに目標フィルタ温度を第1の目標フィルタ温度に設定し、
走行高度が基準高度より高く且つ基準高度より高い所定高度以下である場合は、目標PM捕集量を第1の目標PM捕集量より少ない第2の目標PM捕集量に設定するとともに目標フィルタ温度を第1の目標フィルタ温度に設定し、
走行高度が所定高度より高い場合は、目標PM捕集量を第1の目標PM捕集量に設定するとともに目標フィルタ温度を第1の目標フィルタ温度より低い第2の目標フィルタ温度に設定する再生条件設定手段を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−46174(P2006−46174A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228043(P2004−228043)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】