説明

内燃機関の空燃比制御装置

【課題】 空燃比センサの応答周波数特性の変化にかかわらず、インバランス故障判定を精度よく行うことができる空燃比制御装置を提供する。
【解決手段】 空燃比振動制御を実行し、LAFセンサ出力信号に含まれる差周波数成分強度MDIF及び振動周波数成分強度MOSLが算出される。差周波数成分強度MDIFは、エンジン回転数NEに対応する周波数fNEの1/2に相当する0.5次周波数fIMBと、空燃比振動制御の振動周波数fOSLとの差の周波数fDIFに対応する成分強度である。差周波数成分強度MDIFを設定周波数成分強度MOSLで除算することにより、判定パラメータRSTが算出され、判定パラメータRSTと判定パラメータ閾値RSTTHとを比較することにより、気筒毎の空燃比が許容限度を超えてばらつくインバランス故障が判定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数気筒を有する内燃機関の空燃比制御装置に関し、特に複数気筒のそれぞれに対応する空燃比が許容限度を超えてばらつくインバランス故障を判定する機能を有する空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、機関排気系に設けられた空燃比センサの出力信号に基づいてインバランス故障を判定する機能を有する空燃比制御装置が示されている。この装置によれば、
機関運転中に空燃比を所定周波数で振動させる空燃比振動制御を実行し、その制御実行中における空燃比センサ出力信号に含まれる0.5次周波数成分強度を、所定周波数成分強度で除算することにより得られる判定パラメータを用いて、インバランス故障が判定される。0.5次周波数成分は、機関の回転速度に対応する周波数の1/2の周波数成分であり、インバランス故障が発生すると、この0.5次周波数成分の強度が増加し、インバランス度合が増加するほど判定パラメータの値が増加する。したがって、判定パラメータと所定閾値とを比較することによって、インバランス故障を判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−144754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空燃比センサの応答周波数特性は、基本的に高周波成分が減衰する低域通過フィルタ特性であり、0.5次周波数成分強度及び所定周波数成分強度は、この空燃比センサの周波数特性の影響を受ける。この空燃比センサの応答周波数特性は、経時劣化することが知られており、カットオフ周波数が徐々に低下する傾向がある。そのように応答周波数特性が変化すると、検出される所定周波数成分強度に対する0.5次周波数成分強度の比率である判定パラメータの値が変化し、インバランス故障の判定精度を低下させるおそれがある。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、空燃比センサの応答周波数特性の変化にかかわらず、インバランス故障判定を精度よく行うことができる空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、複数気筒を有する内燃機関の排気通路において空燃比を検出する空燃比検出手段(15)を備える内燃機関の空燃比制御装置において、前記機関の回転速度(NE)に対応する周波数(fNE)の1/2の周波数である0.5次周波数(fIMB)とは異なる設定周波数(fOSL)で前記空燃比を振動させるための振動信号を生成する振動信号生成手段と、前記振動信号に応じて前記空燃比を振動させる空燃比振動手段と、前記空燃比振動手段の作動中に、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記0.5次周波数(fIMB)と前記設定周波数(fOSL)の差に対応する差周波数の成分強度(MDIF)、及び前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記0.5次周波数(fIMB)と前記設定周波数(fOSL)の和に対応する和周波数の成分強度(MSUM)の少なくとも一方を算出する和差周波数成分強度算出手段と、前記差周波数成分強度(MDIF)及び和周波数成分強度(MSUM)の少なくとも一方に応じて、前記複数気筒のそれぞれに対応する空燃比のインバランス度合を判定するための判定パラメータ(RST)を算出する判定パラメータ算出手段と、前記判定パラメータ(RST)を用いて、前記空燃比のインバランス度合が許容限度を超えているインバランス故障を判定するインバランス故障判定手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記空燃比振動手段の作動中に、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記設定周波数成分の強度(MOSL)を算出する設定周波数成分強度算出手段をさらに備え、前記和差周波数成分強度算出手段は、前記差周波数成分強度(MDIF)及び和周波数成分強度(MSUM)をともに算出し、前記判定パラメータ算出手段は、前記差周波数成分強度(MDIF)を前記設定周波数成分強度(MOSL)で除算することにより、差周波数成分比率(RDIF)を算出する差周波数成分比率算出手段と、前記和周波数成分強度(MSUM)を前記差周波数成分強度(MDIF)で除算することにより、補正比率(RCR)を算出する補正比率算出手段とを有し、前記差周波数成分比率(MDIF)と前記補正比率(RCR)を乗算することにより、前記判定パラメータを算出することを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記空燃比振動手段の作動中に、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記設定周波数成分の強度(MOSL)を算出する設定周波数成分強度算出手段をさらに備え、前記和差周波数成分強度算出手段は、前記差周波数成分強度(MDIF)及び和周波数成分強度(MSUM)をともに算出し、前記判定パラメータ算出手段は、前記和周波数成分強度(MSUM)を前記設定周波数成分強度(MOSL)で除算することにより、和周波数成分比率(RSUM)を算出する和周波数成分比率算出手段と、前記差周波数成分強度(MDIF)を前記和周波数成分強度(MSUM)で除算することにより、補正比率(RCRa)を算出する補正比率算出手段とを有し、前記和周波数成分比率(RSUM)と前記補正比率(RCRa)を乗算することにより、前記判定パラメータ(RST)を算出することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記空燃比振動手段の作動中に、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記設定周波数成分の強度(MOSL)を算出する設定周波数成分強度算出手段をさらに備え、前記判定パラメータ算出手段は、前記差周波数成分強度(MDIF)または前記和周波数成分強度(MSUM)を前記設定周波数成分強度(MOSL)で除算することにより、前記判定パラメータ(RST)を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置において、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記0.5次周波数成分の強度(MIMB)を算出する0.5次周波数成分強度算出手段と、前記空燃比振動手段の作動中に、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記設定周波数成分の強度(MOSL)を算出する設定周波数成分強度算出手段とをさらに備え、前記和差周波数成分強度算出手段は、前記差周波数成分強度(MDIF)及び和周波数成分強度(MSUM)をともに算出し、前記判定パラメータ算出手段は、前記0.5次周波数成分強度(MIMB)を前記設定周波数成分強度(MOSL)で除算することにより、0.5次周波数成分比率(RIMB)を算出する0.5次周波数成分比率算出手段と、前記設定周波数(fOSL)が前記0.5次周波数(fIMB)より低いときは、前記差周波数成分強度(MDIF)を前記和周波数成分強度(MSUM)で除算することにより補正比率(RCR)を算出する一方、前記設定周波数(fOSL)が前記0.5次周波数(fIMB)より高いときは、前記和周波数成分強度(MSUM)を前記差波数成分強度(MDIF)で除算することにより補正比率(RCRa)を算出する補正比率算出手段とを有し、前記0.5次周波数成分比率(RIMB)と前記補正比率(RCR,RCRa)を乗算することにより、前記判定パラメータを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、機関の回転速度に対応する周波数の1/2の周波数である0.5次周波数とは異なる設定周波数で空燃比を振動させる空燃比振動制御が実行され、空燃比振動制御実行中に、空燃比検出手段の出力信号に含まれる0.5次周波数と設定周波数の差に対応する差周波数の成分強度、及び0.5次周波数と設定周波数の和に対応する和周波数の成分強度の少なくとも一方が算出され、差周波数成分強度及び和周波数成分強度の少なくとも一方に応じて、複数気筒のそれぞれに対応する空燃比のインバランス度合を判定するための判定パラメータが算出され、算出された判定パラメータを用いて、空燃比のインバランス度合が許容限度を超えているインバランス故障が判定される。差周波数成分強度及び和周波数成分強度は、何れも0.5次周波数成分強度及び設定周波数成分強度に比例するので、差周波数成分強度及び/または和周波数成分強度に応じて判定パラメータを算出することにより、空燃比検出手段の応答周波数特性の変化の影響を抑制すること、あるいは空燃比振動制御の振動振幅の影響を除去することが可能となり、インバランス故障判定を精度良く行うことができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、空燃比振動制御の実行中に、空燃比検出手段の出力信号に含まれる設定周波数成分の強度が算出され、差周波数成分強度を設定周波数成分強度で除算することにより、差周波数成分比率が算出され、和周波数成分強度を差周波数成分強度で除算することにより、補正比率が算出され、差周波数成分比率と補正比率を乗算することにより、判定パラメータが算出される。差周波数成分比率は、0.5次周波数成分強度に比例し、かつ振動制御振幅の影響を受けず、また補正比率には、0.5次周波数及び設定周波数を含む周波数範囲における空燃比検出手段の応答周波数特性が反映されるので、差周波数成分比率と補正比率を乗算することにより、空燃比検出手段の応答周波数特性の変化の影響を抑制すること、及び空燃比振動制御の振動振幅の影響を除去することが可能となり、インバランス故障判定を精度良く行うことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、空燃比振動制御の実行中に、空燃比検出手段の出力信号に含まれる設定周波数成分の強度が算出され、和周波数成分強度を設定周波数成分強度で除算することにより、和周波数成分比率が算出され、差周波数成分強度を和周波数成分強度で除算することにより、補正比率が算出され、和周波数成分比率と補正比率を乗算することにより、判定パラメータが算出される。和周波数成分比率は、0.5次周波数成分強度に比例し、かつ振動制御振幅の影響を受けず、また補正比率には、0.5次周波数及び設定周波数を含む周波数範囲における空燃比検出手段の応答周波数特性が反映されるので、差周波数成分比率と補正比率を乗算することにより、空燃比検出手段の応答周波数特性の変化の影響を抑制すること、及び空燃比振動制御の振動振幅の影響を除去することが可能となり、インバランス故障判定を精度良く行うことができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、空燃比検出手段の出力信号に含まれる設定周波数成分の強度が算出され、差周波数成分強度または和周波数成分強度を設定周波数成分強度で除算することにより、判定パラメータが算出される。差周波数成分強度または和周波数成分強度を設定周波数成分強度で除算することにより、0.5次周波数成分強度に比例し、かつ振動制御振幅の影響を受けない判定パラメータが得られる。したがって、空燃比振動制御の振動振幅の影響を除去し、インバランス故障判定を精度良く行うことができる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、空燃比検出手段の出力信号に含まれる0.5次周波数成分強度及び設定周波数成分強度が算出され、0.5次周波数成分強度を設定周波数成分強度で除算することにより、0.5次周波数成分比率が算出され、設定周波数が0.5次周波数より低いときは、差周波数成分強度を和周波数成分強度で除算することにより補正比率が算出される一方、設定周波数が0.5次周波数より高いときは、和周波数成分強度を差波数成分強度で除算することにより補正比率が算出され、0.5次周波数成分比率と補正比率を乗算することにより、判定パラメータが算出される。補正比率には、0.5次周波数及び設定周波数を含む周波数範囲における空燃比検出手段の応答周波数特性が反映され、かつ0.5次周波数と設定周波数の大小関係に応じた補正比率の算出が行われるため、空燃比検出手段の高域減衰特性が補正された判定パラメータが得られる。その結果、空燃比検出手段の応答周波数特性の変化の影響を抑制し、インバランス故障判定を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】従来技術の課題を説明するための図である。
【図3】空燃比振動制御の実行中における検出空燃比信号に含まれる周波数成分の強度を説明するための図である。
【図4】インバランス故障判定処理のフローチャートである(第1の実施形態)。
【図5】インバランス故障判定処理のフローチャートである(第1の実施形態の変形例)。
【図6】インバランス故障判定処理のフローチャートである(第2の実施形態)。
【図7】インバランス故障判定処理のフローチャートである(第2の実施形態の変形例)。
【図8】インバランス故障判定処理のフローチャートである(第3の実施形態)。
【図9】インバランス故障判定処理のフローチャートである(第3の実施形態の変形例)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関(以下「エンジン」という)及びその空燃比制御装置の全体構成図であり、例えば4気筒のエンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。スロットル弁3にはスロットル弁開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が連結されており、その検出信号は電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に供給される。
【0018】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0019】
スロットル弁3の上流側には吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ7が設けられている。またスロットル弁3の下流側には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8、及び吸気温TAを検出する吸気温センサ9が設けられている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。エンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出する冷却水温センサ10が装着されており、その検出信号はECU5に供給される。
【0020】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0021】
排気通路13には三元触媒14が設けられている。三元触媒14は、酸素蓄積能力を有し、エンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりリーン側に設定され、排気中の酸素濃度が比較的高い排気リーン状態では、排気中の酸素を蓄積し、逆にエンジン1に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりリッチ側に設定され、排気中の酸素濃度が低く、HC、CO成分が多い排気リッチ状態では、蓄積した酸素により排気中のHC,COを酸化する機能を有する。
【0022】
三元触媒14の上流側であって各気筒に連通する排気マニホールドの集合部より下流側には、比例型酸素濃度センサ15(以下「LAFセンサ15」という)が装着されており、このLAFセンサ15は排気中の酸素濃度(空燃比)にほぼ比例した検出信号を出力し、ECU5に供給する。
【0023】
ECU5には、エンジン1により駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ21及び当該車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ22が接続されており、それらセンサの検出信号がECU5に供給される。スロットル弁3は図示しないアクチュエータにより開閉駆動され、スロットル弁開度THはアクセルペダル操作量APに応じてECU5により制御される。
なお、図示は省略しているが、エンジン1には周知の排気還流機構が設けられている。
【0024】
ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、該CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、燃料噴射弁6に駆動信号を供給する出力回路を備えている。
【0025】
ECU5のCPUは、上述の各種センサの検出信号に基づいて、種々のエンジン運転状態を判別するとともに、該判別されたエンジン運転状態に応じて、次式(1)を用いて、TDCパルスに同期して開弁作動する燃料噴射弁6の燃料噴射時間TOUTを演算する。燃料噴射時間TOUTは、噴射される燃料量にほぼ比例するので、以下「燃料噴射量TOUT」という。
TOUT=TIM×KCMD×KAF×KTOTAL (1)
【0026】
ここに、TIMは基本燃料量、具体的には燃料噴射弁6の基本燃料噴射時間であり、吸入空気流量GAIRに応じて設定されたTIMテーブルを検索して決定される。TIMテーブルは、エンジンにおいて燃焼する混合気の空燃比AFがほぼ理論空燃比になるように設定されている。
【0027】
KCMDはエンジン1の運転状態に応じて設定される目標空燃比係数である。目標空燃比係数KCMDは、空燃比A/Fの逆数、すなわち燃空比F/Aに比例し、理論空燃比のとき値1.0をとるので、以下「目標当量比」という。後述するように、空燃比のインバランス故障判定を行うときは、1.0±DAFの範囲で時間経過に伴って正弦波状に変化するように設定される。
【0028】
KAFは、空燃比フィードバック制御の実行条件が成立するときは、LAFセンサ15の検出値から算出される検出当量比KACTが目標当量比KCMDに一致するようにPID(比例積分微分)制御あるいは適応制御器(Self Tuning Regulator)を用いた適応制御により算出される空燃比補正係数である。
【0029】
KTOTALは夫々各種エンジンパラメータ信号に応じて演算される他の補正係数(エンジン冷却水温TMに応じた補正係数KTW、吸気温TAに応じた補正係数KTAなど)の積である。
【0030】
ECU5のCPUは上述のようにして求めた燃料噴射量TOUTに基づいて燃料噴射弁6を開弁させる駆動信号を出力回路を介して燃料噴射弁6に供給する。また、ECU5のCPUは、以下に説明するように空燃比のインバランス故障判定を行う。
【0031】
本実施形態におけるインバランス故障判定手法は、特許文献1に示される手法を改良したものであり、エンジン運転中に空燃比を周波数fOSLで振動させる空燃比振動制御を実行し、その制御実行中におけるLAFセンサ15の出力信号SLAFに含まれる特定の周波数成分強度の比率に基づいて、インバランス故障が判定される。
【0032】
先ず特許文献1に示される手法(従来手法)における課題を以下に説明する。空燃比のインバランス度合が増加すると、エンジン回転数NE[rpm]に対応するエンジン回転周波数fNE(=NE/60)の1/2に相当する0.5次周波数fIMBの成分強度(以下「0.5次周波数成分強度」という)MIMBが増加することから、振動周波数fOSLの成分強度を振動周波数成分強度MOSLとすると、判定パラメータRTは下記式(2)で算出される。
RT=MIMB/MOSL (2)
【0033】
図2(a)は、LAFセンサ15の応答周波数特性(ゲイン)を示す図であり、実線L1が初期特性を示し、破線L2及び一点鎖線L3が劣化した特性を示す。これらの応答周波数特性は一次遅れ特性で近似できるものではないため、ゲイン比率RGAIN(=GIMB/GOSL)は、周波数fに依存して変化し、さらにLAFセンサ15の応答周波数特性の劣化度合によっても変化する。その結果、例えば振動周波数fOSLを0.4fNEに設定した場合に、振動周波数ゲインGOSLと、0.5次周波数ゲインGIMBとの関係は、図2(b)に示すように直線L10ではなく曲線L11〜L12で示される。実線L11,破線L12,及び一点鎖線L13は、それぞれ図2(a)の実線L1,破線L2,及び一点鎖線L3で示す劣化状態に対応し、かつエンジン回転数NEがそれぞれ1800rpm,2400rpm,及び1200rpmに対応する。したがって、空燃比のインバランス度合が一定であっても、判定パラメータRTはエンジン回転数NE及びLAFセンサ特性の劣化度合に依存して変化し、インバランス故障の判定精度を低下させる要因となる。
【0034】
また空燃比振動制御は、目標当量比KCMDを振動振幅DAFで変化させて燃料噴射量TOUTを変化させることにより行われるが、実際の当量比(空燃比)が、エンジンの運転環境によっては振動振幅DAFで変化しない可能性がある。
【0035】
そこで本実施形態では、空燃比振動制御を実行しているときにLAFセンサ出力信号SLAFに含まれる差周波数成分の強度及び振動周波数成分の強度に基づいて、以下に説明するようにインバランス故障判定を行う。
【0036】
ここで、空燃比制御系の入力信号としての0.5次周波数成分WIMB及び振動周波数成分WOSLを下記式(3)及び(4)で表すと、空燃比制御系の出力信号は式(5)に示すように、両成分の積WPRDで表すことができる。なお、式(3)〜(5)におけるωIMB及びωOSL[rad/sec]は、それぞれ(2π・fIMB)及び(2π・fOSL)に相当する。
【数1】

【0037】
式(5)から明らかなように、LAFセンサ出力信号SLAFには、第1項の0.5次周波数成分及び第2項の振動周波数成分とともに、0.5次周波数fIMBと振動周波数fOSLの和と差の周波数成分が含まれる。以下、0.5次周波数fIMBと振動周波数fOSLの和を和周波数fSUMといい、0.5次周波数fIMBと振動周波数fOSLの差を差周波数fDIFといい、和周波数fSUMに対応する周波数成分の強度を和周波数成分強度MSUMといい、差周波数fDIFに対応する周波数成分の強度を差周波数成分強度MDIFという。
【0038】
各周波数成分強度の理論値は、振幅AIMB,AOSL、及び(AIMB・AOSL/2)に比例するので、インバランス故障が発生している状態では例えば図3(a)に示すような相対関係となる。図3(a)のADIF及びASUMは、ともに(AIMB・AOSL/2)に等しい。
【0039】
図3(b)は、LAFセンサ15の応答周波数特性を示しており、LAFセンサ出力信号SLAFに含まれる各周波数成分の強度MDIF,MOSL,MIMB,及びMSUMは、振幅ADIF,AOSL,AIMB,及びASUMを用いて、それぞれ下記式(6)〜(9)で表すことができる。
MDIF=GDIF×ADIF=GDIF×(AIMB・AOSL/2) (6)
MOSL=GOSL×AOSL (7)
MIMB=GIMB×AIMB (8)
MSUM=GSUM×ASUM=GSUM×(AIMB・AOSL/2) (9)
【0040】
そこで本実施形態では、下記式(10)により判定パラメータRSTを算出し、この判定パラメータRSTを用いてインバランス故障の判定を行ようにしている。
RST=MDIF/MOSL=AIMB×GDIF/(GOSL×2) (10)
【0041】
式(10)では、振動信号振幅AOSLが消去されているため、実際の空燃比振動振幅が、制御入力の振幅と異なるような場合でもその影響を受けることなく、インバランス故障判定を行うことが可能となる。
【0042】
図4は、本実施形態におけるインバランス故障判定処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで所定クランク角度CACAL(例えば30度)毎に実行される。
【0043】
ステップS11では判定実行条件フラグFMCNDが「1」であるか否かを判別する。判定実行条件フラグFMCNDは、例えば下記の条件1)〜11)がすべて満たされると「1」に設定される。
【0044】
1)エンジン回転数NEが所定上下限値の範囲内にある。
2)吸気圧PBAが所定圧より高い(判定に必要な排気流量が確保されている)。
3)LAFセンサ15が活性化している。
4)LAFセンサ15の出力に応じた空燃比フィードバック制御が実行されている。
5)エンジン冷却水温TWが所定温度より高い。
6)エンジン回転数NEの単位時間当たりの変化量DNEが所定回転数変化量より小さい。
7)吸気圧PBAの単位時間当たりの変化量DPBAFが所定吸気圧変化量より小さい。
8)燃料の加速増量(急加速時に実行される)が行われていない。
9)排気還流率が所定値より大きい。
10)LAFセンサ出力が上限値または下限値に張り付いた状態ではない。
11)LAFセンサの応答特性が正常である(応答特性の劣化故障が発生しているとの判定が行われていない)。
【0045】
ステップS11の答が否定(NO)であるときは直ちに処理を終了する。FMCND=1であるときは、以下に説明するように空燃比振動制御を実行し、インバランス故障判定を行う。空燃比振動制御を実行するときは、空燃比補正係数KAFは「1.0」に固定される。
【0046】
ステップS12では、下記式(11)により目標当量比KCMDを算出する。式(11)のKfOSLは、例えば「0.4」に設定される振動周波数係数であり、kは本処理の実行周期CACALで離散化した離散化時刻である。
KCMD=DAF×sin(KfOSL×CACAL×k)+1 (11)
【0047】
ステップS13では、空燃比振動制御の開始時点から所定安定化時間TSTBLが経過したか否かを判別する。この答が否定(NO)である間は直ちに処理を終了する。ステップS13の答が肯定(YES)となると、ステップS14及びS15によりLAFセンサ15の出力信号SLAFに含まれる差周波数成分強度MDIF及び振動周波数成分強度MOSLの算出を行う。
【0048】
すなわち、ステップS14では、差周波数(fDIF)成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を実行し、抽出された信号の振幅を積算することにより、差周波数成分強度MDIFを算出する。ステップS15では、振動周波数(fOSL)成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を実行し、抽出された信号の振幅を積算することにより、振動周波数成分強度MOSLを算出する。
【0049】
ステップS16では、周波数成分強度の算出開始時点から所定積算時間TINTが経過したか否かを判別し、その答が否定(NO)である間は直ちに処理を終了する。ステップS16の答が肯定(YES)となると、算出された差周波数成分強度MDIFを振動周波数成分強度MOSLで除算すること(上記式(10))により、判定パラメータRSTを算出する(ステップS17)。
【0050】
ステップS18では、判定パラメータRSTが所定の判定パラメータ閾値RSTTH1より大きいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは空燃比のインバランス度合が許容限度を超えているインバランス故障が発生していると判定する(ステップS19)。一方、ステップS18の答が否定(NO)であるときは、インバランス度合は許容限度内にある(正常)と判定する(ステップS20)。
【0051】
以上のように本実施形態では、判定パラメータRSTを算出する式(10)において、振動信号振幅AOSLが消去されているため、実際の空燃比振動振幅が、制御入力の振幅と異なるような場合でもその影響を受けることなく、インバランス故障判定を行うことが可能となる。
【0052】
本実施形態では、LAFセンサ15が空燃比検出手段に相当し、燃料噴射弁6が空燃比振動手段の一部に相当し、ECU5が、振動信号生成手段、空燃比振動手段の一部、和差周波数成分強度算出手段、設定周波数成分強度算出手段、判定パラメータ算出手段、インバランス故障判定手段を構成する。具体的には、図4のステップS12が振動信号生成手段に相当し、ステップS14が和差周波数成分強度算出手段に相当し、ステップS15が設定周波数成分強度算出手段に相当し、ステップS17が判定パラメータ算出手段に相当し、ステップS18〜S20がインバランス故障判定手段に相当する。
【0053】
[変形例]
判定パラメータRSTは、上記式(10)に代えて、下記式(12)により算出するようにしてもよい。すなわち、和周波数成分強度MSUMを振動周波数成分強度MOSLで除算することにより、判定パラメータRSTを算出するようにしてもよい。
RST=MSUM/MOSL=AIMB×GSUM/(GOSL×2) (12)
【0054】
図5はこの変形例のフローチャートであり、図4のステップS14,S17,及びS18を、それぞれステップS14a,S17a,及びS18aに代えたものである。
【0055】
ステップS14aでは、和周波数(fSUM)成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を実行し、抽出された信号の振幅を積算することにより、和周波数成分強度MSUMを算出する。ステップS17aでは、和周波数成分強度MSUMを振動周波数成分強度MOSLで除算することにより、判定パラメータRSTを算出する。ステップS18aでは、判定パラメータRSTが判定パラメータ閾値RSTTH1aより大きいか否かを判別する。
判定パラメータ閾値RSTTH1aは、上記実施形態の判定パラメータ閾値RSTTH1より小さな値に設定される。
【0056】
本変形例においても、上記式(12)において振動信号振幅AOSLが消去されているため、実際の空燃比振動振幅が、制御入力の振幅と異なるような場合でもその影響を受けることなく、インバランス故障判定を行うことが可能となる。
【0057】
本変形例では、図5のステップS14aが和差周波数成分強度算出手段に相当し、ステップS17aが判定パラメータ算出手段に相当し、ステップS18a,S19,及びS20がインバランス故障判定手段に相当する。
【0058】
[第2の実施形態]
本実施形態は、空燃比振動制御実行中に0.5次周波数成分強度MIMB,振動周波数成分強度MOSL,差周波数成分強度MDIF,及び和周波数成分強度MSUMをすべて算出し、下記式(21)により0.5次周波数成分比率RIMBを算出するとともに、下記式(22)により補正比率RCRを算出し、0.5次周波数成分比率RIMBに補正比率RCRを乗算することにより(下記式(23))、判定パラメータRSTを算出するようにしたものである。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
RIMB=MIMB/MOSL (21)
RCR=MDIF/MSUM (22)
RST=RIMB×RCR (23)
【0059】
本実施形態においても振動周波数fOSLは、0.4fNEに設定されており、0.5次周波数fIMBより低い周波数である。したがって、LAFセンサ15の応答周波数特性における振動周波数ゲインGOSLは、0.5次周波数ゲインGIMBより大きい。そこで、本実施形態では、式(22)により差周波数成分強度MDIFを和周波数成分強度MSUMで除算することにより、補正比率RCRを算出し、0.5次周波数成分比率RIMBに補正比率RCRを乗算することによって、LAFセンサ応答周波数特性に対応した補正を行うようにしたものである。
【0060】
式(22)に式(6)及び(9)を適用すると、式(22)は下記式(22a)で示される。すなわち、補正比率RCRは、差周波数ゲインGDIFを和周波数ゲインGSUMで除算した値に等しい。ここで、GDIF>GSUMなる関係が成立するので、0.5次周波数成分比率RIMBに補正比率RCRを乗算することによって、LAFセンサ応答周波数特性に対応した補正を行うことができ、LAFセンサ応答周波数特性の変化の影響を抑制することができる。
【数2】

【0061】
図6は本実施形態におけるインバランス故障判定処理にフローチャートである。この処理のステップS31〜S35,及びS38は、それぞれ図4のステップS11〜S15,及びS16と同一である。
【0062】
ステップS36では、和周波数(fSUM)成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を実行し、抽出された信号の振幅を積算することにより、和周波数成分強度MSUMを算出する。ステップS37では、0.5次周波数(fIMB)成分を抽出するバンドパスフィルタ処理を実行し、抽出された信号の振幅を積算することにより、0.5次周波数成分強度MIMBを算出する。
【0063】
ステップS39では、差周波数成分強度MDIFを和周波数成分強度MSUMで除算することにより(式(22))、補正比率RCRを算出し、ステップS40では、0.5次周波数成分強度MIMBを振動周波数成分強度MOSLで除算することにより(式(21))、0.5次周波数成分比率RIMBを算出する。ステップS41では、0.5次周波数成分比率RIMBに補正比率RCRを乗算することにより(式(23))、判定パラメータRSTを算出する。
【0064】
ステップS42では、判定パラメータRSTが判定パラメータ閾値RSTTH2より大きいか否かを判別し、この答が肯定(YES)であるときはインバランス故障が発生していると判定する(ステップS43)。ステップS42の答が肯定(YES)であるときは、インバランス度合は許容限度内にあると判定する(ステップS44)。
【0065】
本実施形態では、図6のステップS32が振動信号生成手段に相当し、ステップS34及びS36が和差周波数成分強度算出手段に相当し、ステップS35が設定周波数成分強度算出手段に相当し、ステップS39〜S41が判定パラメータ算出手段に相当し、ステップS42〜S44がインバランス故障判定手段に相当する。
【0066】
[変形例]
第2の実施形態では、振動周波数fOSLを0.4fNEに設定する例を示したが、0.5fNEより高い周波数、例えば0.6fNEに設定するようにしてもよい。
【0067】
図7はこの変形例におけるインバランス故障判定処理のフローチャートである。この処理は、図6のステップS39,S41,及びS42を、それぞれステップS39a,S41a,及びS42aに代えたものである。
【0068】
ステップS39aでは、和周波数成分強度MSUMを差周波数成分強度MDIFで除算することにより、補正比率RCRaを算出し、ステップS41aでは、0.5次周波数成分比率RIMBに補正比率RCRaを乗算することにより、判定パラメータRSTを算出する。
ステップS42aでは、判定パラメータRSTが判定パラメータ閾値RSTTH2aより大きいか否かを判別する。
【0069】
本変形例では振動周波数fOSLは、0.6fNEに設定されており、0.5次周波数fIMBより高い周波数である。したがって、LAFセンサ15の応答周波数特性における振動周波数ゲインGOSLは、0.5次周波数ゲインGIMBより小さい。そこで、本実施形態では、和周波数成分強度MSUMを差周波数成分強度MDIFで除算することにより、補正比率RCRaを算出し、0.5次周波数成分比率RIMBに補正比率RCRaを乗算することによって、LAFセンサ応答周波数特性に対応した補正を行うようにしたものである。
【0070】
補正比率RCRaは、和周波数ゲインGSUMを差周波数ゲインGDIFで除算した値(GSUM/GDIF)に等しいので、0.5次周波数成分比率RIMBに補正比率RCRaを乗算することによって、LAFセンサ応答周波数特性に対応した補正を行うことができ、LAFセンサ応答周波数特性の変化の影響を抑制することができる。
【0071】
本変形例では、ステップS39a,S40,S41aが判定パラメータ算出手段に相当し、ステップS42a,S43,S44がインバランス故障判定手段に相当する。
【0072】
[第3の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態に第2の実施形態におけるLAFセンサ応答周波数特性に対応した補正を導入したものである。すなわち、差周波数成分強度MDIFを振動周波数成分強度MOSLで除算することにより、差周波数成分比率RDIF(第1の実施形態における判定パラメータRSTに相当する)を算出するとともに(式(31))、第2の実施形態に変形例における補正比率RCRaを算出し(式(32))、差周波数成分比率RDIFに補正比率RCRaを乗算することにより、判定パラメータRSTを算出する(式(33))ようにしたものである。なお、このようにして算出される判定パラメータRSTは、第1の実施形態の変形例における判定パラメータRSTと同一のものとなる。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
RDIF=MDIF/MOSL (31)
RCRa=MSUM/MDIF (32)
RST=RCRa×RDIF (33)
【0073】
図8は本実施形態におけるインバランス故障判定処理にフローチャートである。この処理のステップS51〜S56,及びS57は、それぞれ図6のステップS31〜S36,及びS38と同一である。
【0074】
ステップS58では、和周波数成分強度MSUMを差周波数成分強度MDIFで除算することにより、補正比率RCRaを算出し、ステップS59では差周波数成分強度MDIFを振動周波数成分強度MOSLで除算することにより、差周波数成分比率RDIFを算出する。ステップS60では、差周波数成分比率RDIFに補正比率RCRaを乗算することにより、判定パラメータRSTを算出する。
【0075】
ステップS61では、判定パラメータRSTが判定パラメータ閾値RSTTH1aより大きいか否かを判別し、この答が肯定(YES)であるときはインバランス故障が発生していると判定する(ステップS62)。ステップS61の答が肯定(YES)であるときは、インバランス度合は許容限度内にあると判定する(ステップS63)。
【0076】
本実施形態によれば、差周波数成分比率RDIFは、0.5次周波数成分強度MIMBに比例し、かつ振動制御振幅の影響を受けず、また補正比率RCRaには、0.5次周波数及び設定周波数を含む周波数範囲におけるLAFセンサ15の応答周波数特性が反映されるので、差周波数成分比率RDIFと補正比率RCRaを乗算することにより、LAFセンサ15の応答周波数特性の変化の影響を抑制すること、及び空燃比振動制御の振動振幅の影響を除去することが可能となり、インバランス故障判定を精度良く行うことができる。
【0077】
本実施形態では、図8のステップS52が振動信号生成手段に相当し、ステップS54及びS56が和差周波数成分強度算出手段に相当し、ステップS55が設定周波数成分強度算出手段に相当し、ステップS58〜S60が判定パラメータ算出手段に相当し、ステップS61〜S63がインバランス故障判定手段に相当する。
【0078】
[変形例]
図8の処理は図9に示すように変形してもよい。図9の処理は、図8のステップS58〜S61を、それぞれステップS58a〜S61aに代えたものである。
【0079】
ステップS58aでは、差周波数成分強度MDIFを和周波数成分強度MSUMで除算することにより、補正比率RCRを算出し、ステップS59aでは和周波数成分強度MSUMを振動周波数成分強度MOSLで除算することにより、和周波数成分比率RSUMを算出する。ステップS60aでは、和周波数成分比率RSUMに補正比率RCRを乗算することにより、判定パラメータRSTを算出する。
ステップS61aでは、判定パラメータRSTが判定パラメータ閾値RSTTH1より大きいか否かを判別する。
【0080】
本変形例によれば、和周波数成分比率RSUMは、0.5次周波数成分強度MIMBに比例し、かつ振動制御振幅の影響を受けず、また補正比率RCRには、0.5次周波数及び設定周波数を含む周波数範囲におけるLAFセンサ15の応答周波数特性が反映されるので、和周波数成分比率RSUMと補正比率RCRを乗算することにより、LAFセンサ15の応答周波数特性の変化の影響を抑制すること、及び空燃比振動制御の振動振幅の影響を除去することが可能となり、インバランス故障判定を精度良く行うことができる。
【0081】
本変形例では、図9のステップS58a〜S60aが判定パラメータ算出手段に相当し、ステップS61a,S62,S63がインバランス故障判定手段に相当する。
【0082】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した式(6)及び(9)を参照すれば明らかなように、差周波数成分強度MDIF及び和周波数成分強度MSUMは、0.5次周波数成分の振幅AIMBに比例するので、差周波数成分強度MDIFまたは和周波数成分強度MSUMをそのまま判定パラメータRSTとして使用するようにしてもよい。
【0083】
また上述した実施形態では、振動周波数fOSLをエンジン回転周波数fNEの定数倍の値(エンジン回転に同期した周波数)に設定したが、例えば4Hz程度の固定周波数に設定するようにしてもよい。ただし、固定周波数とする場合には、インバランス故障判定の実行条件におけるエンジン回転数NEの範囲を比較的狭い範囲に限定することが望ましい。
【0084】
また周波数成分強度の算出処理は、インバランス故障判定処理とは別に最適の実行周期で実行するようにしてもよい。その場合には、インバランス故障判定処理では周波数成分強度算出を行わず、並行して実行される周波数成分強度算出処理で算出された周波数成分強度(振動周波数成分強度MOSL,差周波数成分強度MDIF,和周波数成分強度MすM,0.5次周波数成分強度MIMB)を読み込んで、判定処理を行う。また、空燃比振動制御が安定化した時点から所定サンプリング期間において、最適周期でLAFセンサ出力信号SLAFのサンプリングを行って、サンプリングデータをメモリに格納し、所定サンプリング期間終了後にサンプリングデータを一括処理することによって、各周波数成分強度を算出するようにしてもよい。その場合には、FFT(高速フーリエ変換)処理を用いることもできる。
【0085】
また上述した実施形態では、0.5次周波数成分強度MIMBの算出を、空燃比振動制御実行中に行うようにしたが、空燃比振動制御を行っていないときに算出するようにしてもよい。その場合には、空燃比振動制御を実行して振動周波数成分強度MOSL、差周波数成分強度MDIF、及び和周波数成分強度MSUMを算出するエンジン運転領域を比較的狭い範囲に限定し、0.5次周波数成分強度MIMBの算出をその限定したエンジン運転領域において行うことが望ましい。
【0086】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの空燃比制御装置にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 内燃機関
5 電子制御ユニット(振動信号生成手段、空燃比振動手段の一部、和差周波数成分強度算出手段、設定周波数成分強度算出手段、判定パラメータ算出手段、インバランス故障判定手段、差周波数成分比率算出手段、和周波数成分比率算出手段、補正比率算出手段、0.5次周波数成分比率算出手段)
6 燃料噴射弁(空燃比変動手段)
15 比例型酸素濃度センサ(空燃比検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数気筒を有する内燃機関の排気通路において空燃比を検出する空燃比検出手段を備える内燃機関の空燃比制御装置において、
前記機関の回転速度に対応する周波数の1/2の周波数である0.5次周波数とは異なる設定周波数で前記空燃比を振動させるための振動信号を生成する振動信号生成手段と、
前記振動信号に応じて前記空燃比を振動させる空燃比振動手段と、
前記空燃比振動手段の作動中に、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記0.5次周波数と前記設定周波数の差に対応する差周波数の成分強度、及び前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記0.5次周波数と前記設定周波数の和に対応する和周波数の成分強度の少なくとも一方を算出する和差周波数成分強度算出手段と、
前記差周波数成分強度及び和周波数成分強度の少なくとも一方に応じて、前記複数気筒のそれぞれに対応する空燃比のインバランス度合を判定するための判定パラメータを算出する判定パラメータ算出手段と、
前記判定パラメータを用いて、前記空燃比のインバランス度合が許容限度を超えているインバランス故障を判定するインバランス故障判定手段とを備えることを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項2】
前記空燃比振動手段の作動中に、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記設定周波数成分の強度を算出する設定周波数成分強度算出手段をさらに備え、
前記和差周波数成分強度算出手段は、前記差周波数成分強度及び和周波数成分強度をともに算出し、
前記判定パラメータ算出手段は、
前記差周波数成分強度を前記設定周波数成分強度で除算することにより、差周波数成分比率を算出する差周波数成分比率算出手段と、
前記和周波数成分強度を前記差周波数成分強度で除算することにより、補正比率を算出する補正比率算出手段とを有し、
前記差周波数成分比率と前記補正比率を乗算することにより、前記判定パラメータを算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記空燃比振動手段の作動中に、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記設定周波数成分の強度を算出する設定周波数成分強度算出手段をさらに備え、
前記和差周波数成分強度算出手段は、前記差周波数成分強度及び和周波数成分強度をともに算出し、
前記判定パラメータ算出手段は、
前記和周波数成分強度を前記設定周波数成分強度で除算することにより、和周波数成分比率を算出する和周波数成分比率算出手段と、
前記差周波数成分強度を前記和周波数成分強度で除算することにより、補正比率を算出する補正比率算出手段とを有し、
前記和周波数成分比率と前記補正比率を乗算することにより、前記判定パラメータを算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項4】
前記空燃比振動手段の作動中に、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記設定周波数成分の強度を算出する設定周波数成分強度算出手段をさらに備え、
前記判定パラメータ算出手段は、
前記差周波数成分強度または前記和周波数成分強度を前記設定周波数成分強度で除算することにより、前記判定パラメータを算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項5】
前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記0.5次周波数成分の強度を算出する0.5次周波数成分強度算出手段と、
前記空燃比振動手段の作動中に、前記空燃比検出手段の出力信号に含まれる前記設定周波数成分の強度を算出する設定周波数成分強度算出手段とをさらに備え、
前記和差周波数成分強度算出手段は、前記差周波数成分強度及び和周波数成分強度をともに算出し、
前記判定パラメータ算出手段は、
前記0.5次周波数成分強度を前記設定周波数成分強度で除算することにより、0.5次周波数成分比率を算出する0.5次周波数成分比率算出手段と、
前記設定周波数が前記0.5次周波数より低いときは、前記差周波数成分強度を前記和周波数成分強度で除算することにより補正比率を算出する一方、前記設定周波数が前記0.5次周波数より高いときは、前記和周波数成分強度を前記差波数成分強度で除算することにより補正比率を算出する補正比率算出手段とを有し、
前記0.5次周波数成分比率と前記補正比率を乗算することにより、前記判定パラメータを算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−83200(P2013−83200A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223552(P2011−223552)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】