説明

内燃機関用のスパークプラグ

【課題】着火性に優れた内燃機関用のスパークプラグを提供すること。
【解決手段】外周に取付け用ネジ部21を設けた取付金具2と、取付金具2の中心軸側に保持される絶縁碍子3と、絶縁碍子3の中心軸側に保持される中心電極4と、取付金具2に取付けられると共に中心電極4の先端部41との間に火花放電ギャップGを形成する接地電極5とを備えた内燃機関用のスパークプラグ1。中心電極4の先端部41には、Oイオンを発生させるOイオン発生部6を配設してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、コージェネレーション、ガス圧送用ポンプ等に使用する内燃機関用のスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、コージェネレーション、ガス圧送用ポンプ等に使用する内燃機関においては、燃料と空気とを混合した混合気を燃焼室に導入し、燃焼室において燃料と酸素とを反応させることにより燃焼を起こし、その膨張力を動力源としている。
そして、この燃料と酸素との反応は、スパークプラグによる火花放電によって生じさせる。
【0003】
しかしながら、燃料と酸素との反応を生じさせるためには、図8に示すごとく、ある程度の活性化エネルギーE1,E2が必要である。図8は、燃料(Cnm)を燃焼(酸化)させてCO2とH2Oとする際のエネルギー曲線を示し、曲線Lが、通常の状態の酸素(O2)と燃料(Cnm)とを反応させる際のエネルギー曲線であり、曲線Mが、Oイオンと燃料(Cnm)とを反応させる際のエネルギー曲線である。曲線Lに示すごとく、酸素(O2)と燃料(Cnm)とを反応させるための活性化エネルギーE1は比較的大きい。そのため、混合気へ与えるエネルギーが不充分となると着火性が低下するおそれがある。特に、希薄燃焼エンジン等においては、着火性の低下が問題となる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−75431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、酸素(O2)よりも活性化エネルギーE2の低いOイオンを燃料と反応させることにより、着火性を向上させることが考えられる。即ち、例えば特許文献1に開示されたOイオン発生装置を用いて、Oイオンを発生させ、内燃機関の燃焼室に導入することが考えられる。
しかしながら、Oイオンの寿命は数m秒以下と短いため、外部からOイオンを供給すると、燃料と反応する前にその殆どが消滅してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、着火性に優れた内燃機関用のスパークプラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、外周に取付け用ネジ部を設けた取付金具と、該取付金具の中心軸側に保持される絶縁碍子と、該絶縁碍子の中心軸側に保持される中心電極と、上記取付金具に取付けられると共に上記中心電極の先端部との間に火花放電ギャップを形成する接地電極とを備えた内燃機関用のスパークプラグであって、
上記中心電極の先端部には、Oイオンを発生させるOイオン発生部を配設してなることを特徴とする内燃機関用のスパークプラグにある(請求項1)。
【0008】
次に、本発明の作用効果につき説明する。
上記スパークプラグは、上記中心電極の先端部に上記Oイオン発生部を配設してなる。そして、Oイオン発生部から発生したOイオンを、スパークプラグの火花放電により燃料と反応させて、容易に混合気に着火することができる。
即ち、Oイオンは、活性化エネルギーが小さいため、低エネルギーで燃料と反応しやすく、燃焼を起こしやすい。それ故、混合気の着火性を向上させることができる。
【0009】
また、上記Oイオンは寿命が極めて短いが、Oイオン発生部がスパークプラグの中心電極の先端部に備え付けてあることにより、Oイオンが消滅する前に燃料との反応を行うことが可能となる。即ち、Oイオンを外部から導入して燃料と反応させようとしても、反応前にOイオンが消滅してしまうおそれがある。これに対し、中心電極の先端部に備え付けたOイオン発生部から発生したOイオンは、即座に火花放電ギャップ付近における燃焼反応に用いることができる。即ち、火花放電ギャップ付近にOイオンと燃料とが充分に共存した状態において火花放電することができ、これにより効率的な着火を行うことができる。
また、上記Oイオン発生部が中心電極の先端部に設けてあるため、中心電極と接地電極との間の電圧を用いて、Oイオン発生部からOイオンを発生させることができる。そのため、簡単な構成で、効果的にOイオンを発生させることができる。
【0010】
また、Oイオンを火花放電ギャップ付近に存在させることにより、火花放電ギャップにおける絶縁破壊が生じやすくなり、低電圧で放電させることが可能となる。かかる観点からも、着火性を向上させることができる。
【0011】
以上のごとく、本発明によれば、着火性に優れた内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明(請求項1)において、上記内燃機関用のスパークプラグは、例えば、自動車、コージェネレーション、ガス圧送用ポンプ等の内燃機関における点火手段として用いることができる。
【0013】
また、上記Oイオン発生部は、イオン導電性の固体電解質体からなることが好ましい請求項2)。
この場合には、Oイオンを効果的に発生させることができる。
【0014】
また、上記Oイオン発生部は、12CaO−7Al23、Ca12Al10Si435、及びCaFe25のいずれかからなることが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記の各物質が活性酸素含有物質であり、Oイオンを一層効果的に発生させることができる。
【0015】
また、上記Oイオン発生部は、多孔質導電体を介して上記中心電極の先端部に接続されていることが好ましい(請求項4)。
この場合には、Oイオン発生部に対して、中心電極側の面からも酸素(O2)を供給することができる。即ち、Oイオン発生部のあらゆる方向から酸素(O2)を供給することができる。そのため、Oイオン発生部において、より多くのOイオンを発生させることができる。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる内燃機関用のスパークプラグにつき、図1〜図4を用いて説明する。
本例のスパークプラグ1は、図1に示すごとく、外周に取付け用ネジ部21を設けた取付金具2と、該取付金具2の中心軸側に保持される絶縁碍子3と、該絶縁碍子3の中心軸側に保持される中心電極4と、上記取付金具2に取付けられると共に上記中心電極4の先端部41との間に火花放電ギャップGを形成する接地電極5とを備えてなる。
そして、図1、図2に示すごとく、上記中心電極4の先端部41には、Oイオンを発生させるOイオン発生部6が配設してある。
【0017】
また、上記Oイオン発生部6は、イオン導電性の固体電解質体からなる。該固体電解質体は、活性酸素含有物質からなり、具体的には、12CaO−7Al23(アルミナセメント)、Ca12Al10Si435、CaFe25等を用いることができる。
図2に示すごとく、上記Oイオン発生部6は、中心電極4の先端部41において、接地電極5に対向する位置に設けてある。また、中心電極4は負極となり、接地電極5が正極となる。
【0018】
そして、スパークプラグ1を使用する際には、図3の曲線Sに示すごとく、放電タイミングの直前に、中心電極4と接地電極5との間に、放電しない範囲の電圧をかける(図3のS1参照)。例えば1V〜10kVの電圧を0.1〜5m秒間かける。このとき、中心電極4の先端部41に配されたOイオン発生部6からOイオンが発生する。
次いで、中心電極4と接地電極5との間に、例えば10〜30kVという大きな電圧をかけ、火花放電ギャップGに火花放電を生じさせる(図3のS2参照)。これにより、上記のごとく発生したOイオンと、燃料とが反応して、着火することとなる。
【0019】
次に、Oイオン発生部6におけるOイオン発生の推定メカニズムにつき、図4を用いて説明する。
即ち、Oイオン発生部6が取付けられた中心電極4は、接地電極5に対して、マイナスの電圧がかけられる。そして、正極となる接地電極5の中心電極4側の面には、プラス電荷が現れる。これにより、Oイオン発生部6に包蔵されていたOが、接地電極5側すなわち火花放電ギャップGへ放出される。
【0020】
また、Oイオン発生部6(固体電解質)には、燃焼室に供給される空気中の酸素O2が付着し、負極である中心電極4から電子eが供給される。これにより、Oイオン発生部6(固体電解質)においては、酸素O2が電子eを得てイオン化してO2となり、更に、OとOとが分かれてOイオンが発生し、Oイオン発生部6に補充される。そして、またこのOイオンが火花放電ギャップGへ次々と供給されることとなる。
【0021】
また、中心電極4は、基端側において電圧を供給する接続端子404を有する基端側中心電極部402と、先端部41を有する先端側中心電極部401とからなり、基端側中心電極部402と先端側中心電極部401とは抵抗体403によって接合されている。
なお、本例の内燃機関用のスパークプラグ1は、自動車のエンジンにおける点火手段として用いることができる。
【0022】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記スパークプラグ1は、上記中心電極4の先端部41に上記Oイオン発生部6を配設してなる。そして、Oイオン発生部6から発生したOイオンを、スパークプラグ1の火花放電により燃料と反応させて、容易に混合気に着火することができる。
即ち、Oイオンは、活性化エネルギーが小さいため、燃料と反応しやすく、低エネルギーで燃焼を起こしやすい(図8参照)。それ故、混合気の着火性を向上させることができる。
【0023】
また、上記Oイオンは寿命が極めて短いが、Oイオン発生部6がスパークプラグ1の中心電極4の先端部41に備え付けてあることにより、Oイオンが消滅する前に燃料との反応を行うことが可能となる。即ち、Oイオンを外部から導入して燃料と反応させようとしても、反応前にOイオンが消滅してしまうおそれがある。これに対し、中心電極4の先端部41に備え付けたOイオン発生部6から発生したOイオンは、即座に火花放電ギャップG付近における燃焼反応に用いることができる。即ち、火花放電ギャップG付近にOイオンと燃料とが充分に共存した状態において火花放電することができ、効率的な着火を行うことができる。
【0024】
また、Oイオンを火花放電ギャップG付近に存在させることにより、火花放電ギャップGにおける絶縁破壊が生じやすくなり、低電圧で放電させることが可能となる。かかる観点からも、着火性を向上させることができる。
【0025】
また、Oイオン発生部6が中心電極4の先端部41に設けてあるため、中心電極4と接地電極5との間の電圧を用いて、Oイオン発生部6からOイオンを発生させることができる。そのため、簡単な構成で、効果的にOイオンを発生させることができる。
また、上記Oイオン発生部6は、イオン導電性の固体電解質体からなるため、Oイオンを効果的に発生させることができる。
【0026】
以上のごとく、本例によれば、着火性に優れた内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
【0027】
(実施例2)
本例は、図5に示すごとく、Oイオン発生部6と中心電極4との間に、多孔質導電体12を配設してなるスパークプラグ1の例である。
多孔質導電体12としては、例えば、白金系の多孔質導電体を用いることができる。
その他は、実施例1と同様である。
【0028】
本例の場合には、Oイオン発生部6に対して、中心電極4側の面からも酸素(O2)を供給することができる。即ち、Oイオン発生部6のあらゆる方向から酸素(O2)を供給することができる。
そのため、Oイオン発生部6において、より多くのOイオンを発生させることができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0029】
(実施例3)
本例は、図6に示すごとく、Oイオンによる酸化速度を、酸素(O2)による酸化速度と比較した例である。
本例においては、NOをNO2に酸化する場合の酸化速度を測定した。測定結果を図6に示す。
同図より、Oイオンによる酸化速度は、酸素(O2)による酸化速度の約3×107倍と極めて大きいことが分かる。
従って、上述したごとく、内燃機関の燃焼室において、Oイオンを燃料と反応させることにより、容易に燃焼し、着火性を向上させることができることが分かる。
【0030】
(実施例4)
本例は、図7に示すごとく、火花放電ギャップG付近におけるOイオンの濃度と、着火性との関係を調べた例である。
即ち、火花放電ギャップG付近におけるOイオンの濃度を種々変更したときの、リーン燃焼限界となる空燃比A/Fを測定した。このリーン燃焼限界空燃比が高くなるほど、着火性に優れていることとなる。
測定結果を図7に示す。
【0031】
同図より分かるように、Oイオン濃度が高くなるほどリーン燃焼限界空燃比が高くなる。そして、例えば、Oイオン濃度を1000ppm以上に高めると、リーン燃焼限界空燃比がA/F=約25以上と高くなる。
従って、火花放電ギャップ付近におけるOイオン濃度を高くすることにより、着火性を向上させることができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1における、スパークプラグの縦断面図。
【図2】実施例1における、スパークプラグのOイオン発生部付近の説明図。
【図3】実施例1における、中心電極にかける電圧波形を示す線図。
【図4】実施例1における、Oイオン発生の推定メカニズムを示す説明図。
【図5】実施例2における、スパークプラグのOイオン発生部付近の説明図。
【図6】実施例3における、酸化速度の測定結果を示す線図。
【図7】実施例4における、Oイオン濃度とリーン燃焼限界空燃比との関係を示す線図。
【図8】燃料(Cnm)を燃焼(酸化)させる際のエネルギー曲線を示す線図。
【符号の説明】
【0033】
1 スパークプラグ
2 取付金具
3 絶縁碍子
4 中心電極
41 先端部
5 接地電極
6 Oイオン発生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に取付け用ネジ部を設けた取付金具と、該取付金具の中心軸側に保持される絶縁碍子と、該絶縁碍子の中心軸側に保持される中心電極と、上記取付金具に取付けられると共に上記中心電極の先端部との間に火花放電ギャップを形成する接地電極とを備えた内燃機関用のスパークプラグであって、
上記中心電極の先端部には、Oイオンを発生させるOイオン発生部を配設してなることを特徴とする内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項2】
請求項1において、上記Oイオン発生部は、イオン導電性の固体電解質体からなることを特徴とする内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項3】
請求項2において、上記Oイオン発生部は、12CaO−7Al23、Ca12Al10Si435、及びCaFe25のいずれかからなることを特徴とする内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記Oイオン発生部は、多孔質導電体を介して上記中心電極の先端部に接続されていることを特徴とする内燃機関用のスパークプラグ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−48563(P2007−48563A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230880(P2005−230880)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】