説明

内燃機関用ピストン

【課題】 内燃機関の運転中におけるピストンの各位置において、スカート部とシリンダ壁との間で安定して油膜形成を行う。
【解決手段】 コンロッド16に連結するとともに内燃機関のシリンダボア内に移動自在に挿入したピストン13であって、このピストン13の下部スカート部137の外周面137bの周方向に環状溝137cを設け、この環状溝137cを、底面137dと、この底面137dの両縁からそれぞれ広がるように立上げた上テーパ面137e、下テーパ面137fとから構成し、底面137dにコンロッド16側からコンロッド給油通路75、ピストン給油通路100を介して供給される潤滑油の吐出口162aを開口させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用ピストンの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関用ピストンとして、スカート部にくさび部を形成してシリンダ穴との間に油膜を形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、従来の内燃機関用ピストンとして、スカート部に油溝を形成し、この油溝にシリンダ側から高圧オイルを供給することで油膜を形成するものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平11−153061号公報
【特許文献2】実開昭56−38104号公報
【0003】
特許文献1の図1を以下の図9で説明する。なお、符号は振り直した。
図9は従来の内燃機関用ピストンの説明図であり、図中の右側にはピストン200のスカート形状の拡大図を示す。
【0004】
図9では、ピストン200のスカート部201の中間部に逃がし溝202を設け、この逃がし溝202の上方に第1曲面203を形成し、この第1曲面203の上部及び下部にそれぞれくさび部204,205を形成し、逃がし溝202の下方に第2曲面206を形成し、この第2曲面206の上部及び下部にくさび部207,208を形成したことを示す。
【0005】
特許文献2の第1図を以下の図10で説明する。なお、符号は振り直した。
図10は本発明に係る内燃機関の要部断面図であり、シリンダブロック211に設けたシリンダ穴にピストン213を移動自在に挿入し、このピストン213のスラスト側及び反スラスト側のスカート部にそれぞれ油溝214を形成し、シリンダブロック211のシリンダ穴の内面、即ちシリンダ面216にピストン213の油溝214,214にそれぞれ潤滑油を供給する給油孔217,217を開けたことを示す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9において、ピストン200がシリンダ壁(不図示)に対して相対移動したときに、くさび部204,205,207,208のくさび形作用によって、スカート部201とシリンダ壁との間に油膜を形成することが可能であるが、例えば、ピストン200が上死点又は下死点、あるいはこれらの近傍に到達したときには、ピストン速度が0(ゼロ)又は非常に小さくなり、スカート部201とシリンダ壁との間にくさび形作用による油膜形成が期待できない。
【0007】
図10において、ピストン213が上死点、下死点あるいはこれらの近傍に到達したときでも、シリンダブロック211の給油孔217,217からピストン213の油溝214,214とシリンダ面216との間に潤滑油を供給して油膜を形成することが可能である。
【0008】
しかし、例えば、ピストン213が上死点に到達したときに、ピストン213の油溝214の下部が給油孔217に臨むため、油溝214の下部への給油量が多くなって油膜は厚くなるが、給油孔217から遠い油溝214の上部への給油量が少なるため、油溝214の下部とシリンダ面216との間の油膜が薄くなる。
【0009】
また同様に、ピストン213が下死点に到達したときに、ピストン213の油溝214の上部が給油孔217に臨むため、油溝214の上部への給油量が多くなって油膜が厚くなるが、給油孔217から遠い油溝214の下部への給油量が少なくなるため、油溝214の上部とシリンダ面216との間の油膜が薄くなる。このように、ピストン213の位置によって、ピストン213とシリンダ面216との間の各部の油膜厚さが変化し、油膜形成が安定しない。
【0010】
更に、ピストン213の位置が上死点、下死点、あるいは、これらの近傍では、コンロッドに対するピストン213の揺動中心の高さ位置(シリンダの軸方向の位置)に対して、給油孔217,217の高さ位置(シリンダの軸方向の位置)が下死点側、あるいは、上死点側にずれる。
【0011】
ピストン213の揺動中心と給油孔217との位置がずれた状態で、スラスト側の給油孔217と反スラスト側の給油孔217との供給油量(あるいは油圧)に差が生じれば、供給油量の多い側の供給孔217に近い部分のスカート部とシリンダ面216との間に厚い油膜が形成され、供給油量の少ない側の供給孔217に近い部分のスカート部とシリンダ面216との間に薄い油膜が形成されて、ピストン213がシリンダ面216に対して傾く、即ち首を振ることになり、スラップ音が発生し易くなる。
【0012】
本発明の目的は、内燃機関用ピストンを改良することで、内燃機関の運転中におけるピストンの各位置において、スカート部とシリンダ壁との間で安定して油膜形成を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、コンロッドに連結するとともに内燃機関のシリンダ内に移動自在に挿入したピストンであって、このピストンのスカート部外周面の周方向に環状の凹部を設け、この凹部を、底面と、この底面の両縁からそれぞれ広がるように立上げた2つの傾斜面とから構成し、底面にコンロッド側から給油通路を介して供給される潤滑油の吐出口を開口させたことを特徴とする。
【0014】
内燃機関の運転中に、ピストンが上死点又は下死点、あるいは、これらの近傍を除く位置でピストン速度が大きな状態で移動中は、2つの傾斜面のくさび形作用により、ピストンのスカート部とシリンダ壁との間の油膜形成を促進し、ピストンが上死点又は下死点、あるいは、これらの近傍でピストン速度が小さい状態で移動中は、凹部の底面に開けた吐出口から潤滑油を吐出してピストンのスカート部とシリンダ壁との間の油膜形成を促進する。
【0015】
請求項2に係る発明は、凹部を、トップランド上端からの高さが、コンプレッションハイトと概ね一致するようにしたことを特徴とする。
ピストンのスカート部の凹部に吐出口を設けることで、ピストンが移動中のどの位置にあっても、吐出口からスカート部とシリンダ壁との間に吐出した潤滑油が、ピストン上部側とピストン下部側とにほぼ均等に供給される。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、スカート外周面の凹部に2つの傾斜面を備えるので、2つの傾斜面のくさび形作用によって、ピストンが大きな速度で上死点側、あるいは下死点側に移動中にスカート部とシリンダ壁との間の油膜形成を促進することができるとともに、凹部の底面に潤滑油の吐出口を備えることによって、潤滑油を吐出口から吐出させることで、ピストンが上死点又は下死点、あるいは、その近傍でピストン速度が小さいときにもスカート部とシリンダ壁との間の油膜形成を強制的に行うことができる。
【0017】
従って、ピストンの全行程のどの位置においても、スカート部とシリンダ壁との間に安定して油膜形成を行うことができ、摩擦係数を常に小さく維持することができて、内燃機関の出力向上、燃料消費低減を図ることができ、更には、十分な潤滑油によるスカート部及びシリンダ壁の焼き付きを防止することができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、凹部を、トップランド上端からの高さが、コンプレッションハイトと概ね一致するようにしたので、ピストンが移動中のどの位置にあっても、凹部の吐出口からスカート部とシリンダ壁との隙間のピストン上部側とピストン下部側とにほぼ均等に潤滑油を供給することができ、ピストンの首振りを抑えることができて、スラップ音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係るピストンを備える内燃機関の断面図であり、内燃機関10は、シリンダブロック11と、このシリンダブロック11に設けたシリンダボア12に移動自在に挿入したピストン13と、このピストン13に球面継手14を介して連結したコンロッド16と、シリンダブロック11の下部に回転自在に取付けるとともに中空のクランクピン17でコンロッド16をスイング自在に支持する組立式のクランクシャフト18とを備える。
【0020】
シリンダブロック11は、上部に設けたシリンダ部21と、このシリンダ部21の内側に嵌合させるとともにシリンダボア12を形成した筒状のスリーブ22と、シリンダ部21の下部に取付けたアッパークランクケース23とからなる。
【0021】
コンロッド16は、ピストン13に連結した球形状の小端部24と、クランクピン17に連結した大端部25と、これらの小端部24及び大端部25のそれぞれを連結するロッド部26とを一体成形した部材であり、大端部25をクランクピン17に滑り軸受31を介して連結したものである。
【0022】
ここで、32はクランクシャフト18に設けたカウンタウエイト、33はシリンダブロック11の上部にヘッドガスケット(不図示)を介して取付けたシリンダヘッド、34は吸気バルブ、36は排気バルブ、37は燃焼室、38はアッパークランクケース23とでクランクケースを形成するためにアッパークランクケース23の下部に複数のボルト41で取付けたロワークランクケース、42はロワークランクケース38の下部に複数のボルト44で取付けたオイルパンである。
【0023】
図2は本発明に係るピストン、コンロッド及びクランクシャフトとの連結構造を示す断面図であり、クランクシャフト18は、端部に設けた第1シャフト51と、この第1シャフト51に複数のボルト52で取付けた第2シャフト53と、この第2シャフト53に複数のボルト(不図示)で取付けた第3シャフト54とを備える組立式のものである。
【0024】
第1シャフト51は、アッパークランクケース23及びロワークランクケース38で滑り軸受56を介して支持したジャーナル部57と、このジャーナル部57の端部に設けたアーム部58と、このアーム部58から径方向に延ばしたカウンタウエイト32とからなり、ジャーナル部57の内部に中空部59を設けたものである。なお56a,56bは滑り軸受56に開けたオイル穴、環状のオイル溝である。
【0025】
第2シャフト53は、アーム部61と、このアーム部61から側方に延ばした中空のクランクピン17と、アーム部61から径外方に延ばしたカウンタウエイト32とからなり、クランクピン17の内部に中空部62を設け、クランクピン17の端部を第1シャフト51のアーム部58に設けた凹部63に嵌合させるとともにクランクピン17の端部から内側に突出させたフランジ部53aを第1シャフト51のアーム部58に取付けたものである。なお、31a,31aは滑り軸受31に設けたオイル穴である。
【0026】
第3シャフト54は、アッパークランクケース23及びロワークランクケース38で滑り軸受56を介して支持したジャーナル部65を備え、このジャーナル部65の内部に中空部66を設け、第2シャフト53に設けた凹部67にジャーナル部65を嵌合させた部材である。
【0027】
クランクシャフト18は、潤滑油をシリンダブロック11側からコンロッド16側へ流すクランクシャフト給油通路70を形成した部材であり、クランクシャフト給油通路70は、第3シャフト54のジャーナル部65に開けた第1油路71と、この第1油路71に連通させるために第2シャフト53のアーム部61に開けた第2油路72とからなる。
【0028】
第1油路71の入口はジャーナル部65に嵌めた滑り軸受56のオイル穴56a及びオイル溝56bに連通し、第2油路72の出口は滑り軸受31のオイル穴31aに連通する。
【0029】
コンロッド16は、大端部25から小端部24に至るコンロッド給油通路75を形成した部材であり、コンロッド給油通路75は、コンロッド16に設けた大端部穴16aに開けることでオイル穴31aを介してクランクシャフト給油通路70の第2油路72に連通する大端部側油路76と、ロッド部26内に設けた中空部77と、ロッド部26内及び小端部24内に設けた先端側油路78と、この先端部油路78からそれぞれ分岐するとともに小端部24の球面81に開口する複数の分岐油路82とからなる。
【0030】
図3は本発明に係るピストン、コンロッド及びクランクシャフトの組立状態を示す斜視図であり、ピストン13にコンロッド16をスイング自在に取付け、クランクシャフト18にコンロッド16をスイング自在に取付けたことを示す。
【0031】
ピストン16は、例えば、材質AC8A[JIS H 5202]の素材を鋳造にて製造し、熱処理としてT6処理を施した後に機械加工を施した部材である。
コンロッド16としては、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、又はチタン合金製が好適である。
【0032】
図4は本発明に係るピストン及びコンロッドの断面図であり、ピストン13は、燃焼室37(図1参照)を形成する冠部90を備える上部ピストン91と、コンロッド16の小端部24の上半球部24aを滑り可能に保持するために上部ピストン91の冠部90の裏面93から突出する突出部94内に配置した上部保持部材96と、コンロッド16の小端部24の下半球部24bを滑り可能に保持する下部保持部材97と、この下部保持部材97を保持するために上部ピストン91にねじ結合した下部ピストン98とからなり、コンロッド16側から下部ピストン98とシリンダボア12(図1参照)との間に潤滑油を供給するピストン給油通路100を形成した組立体である。
【0033】
上部ピストン91は、円板状とした冠部90と、この冠部90の縁から下方に延ばした筒状で厚肉としたランド部101と、前述の突出部94とを一体成形した部材である。
冠部90は、燃焼室37(図1参照)に臨む平坦な冠面104を備える。
ランド部101は、冠面104側から順に、トップランド106、トップリング溝107、セカンドランド108、セカンドリング溝111、サードランド112及びオイルリング溝113を設けた部分であり、トップリング溝107にトップリング(不図示)を嵌め、セカンドリング溝111にセカンドリング(不図示)を嵌め、オイルリング溝113にオイルリング(不図示)を嵌める。
【0034】
突出部94は、上部保持部材96をピストン13の半径方向に移動可能に収納する凹部115と、この凹部115の開口部116側に近い外周面117に形成したおねじ118とを備え、凹部115は、底部121に小凹部122を形成した部分である。
【0035】
上部保持部材96は、耐熱性、耐摩耗性に優れた窒化ケイ素系セラミックス製であり、コンロッド16の小端部24の上半球部24aに滑り可能に嵌合する凹状の球面としての第1球面125と、上部ピストン91の小凹部122内に位置する小凸部126とを備え、凹部115の内周面127と上部保持部材96の外周面128とは片側にそれぞれ隙間Cを有し、同様に、小凹部122と小凸部126との間にも片側にそれぞれ隙間C(不図示)を有する。この隙間Cは凹部115の内周面127とコンロッド16の小端部24との間にも片側にそれぞれ有する。
上記の窒化ケイ素系セラミックスとしては、Si(窒化ケイ素)、BN(窒化ホウ素)、AlN(窒化アルミニウム)、TiN(窒化チタン)が好適である。
【0036】
下部保持部材97は、コンロッド16の小端部24の下半球部24bに滑り可能に嵌合する凹状の球面としての第2球面131と、下部ピストン98に嵌合する外周面132及びおすテーパ部133と、上部ピストン91の突出部94の端面94aに当接する当接面134とを備える4分割とした窒化ケイ素系セラミックス(上に上げた材料が好適である。)製の部材であり、回り止め用ピン(不図示)で上部ピストン91の突出部94に対して回転しないようにするとともに、コンロッド16のロッド部26に当てる被案内面を設けることでピストン13をコンロッド16に対して回転しないようにする部材でもある。なお、97a〜97d(97c,97dは不図示)は、下部保持部材97を構成する4つの分割体である。
【0037】
下部ピストン98は、上部ピストン91の突出部94の下部及び下部保持部材97を囲むように配置した筒部135と、この筒部135から放射状に延ばした複数のリブ136と、これらのリブ136の各先端に連結した円筒状の下部スカート部137とを一体成形した部材であり、全周に備える下部スカート部137の上端面137aを上部ピストン91のランド部101の下端面101aに当てた部材である。
【0038】
筒部135は、穴部138に、下部保持部材97のおすテーパ部133に密着させためすテーパ部141と、下部保持部材97の外周面132に所定の隙間を有して嵌合する内周面142と、上部ピストン91のおねじ118にねじ結合するために内周面142の上部に形成しためねじ143とを備える。
【0039】
下部スカート部137は、外周面137bに環状溝137cを形成した部分であり、環状溝137cは、底面137dと、この底面137dの両縁からそれぞれ外周面137bへ広がるように延ばした上テーパ面137e及び下テーパ面137fとからなる。
【0040】
おすテーパ部133とめすテーパ部141とは、嵌合させることにより筒部135の軸線に対して下部保持部材97の軸線を一致させることが可能な部分である。
上記した上部ピストン91のおねじ118及び下部ピストン98のめねじ143は、ねじ結合部144を構成する部分である。
【0041】
上部ピストン91と下部ピストン98とは、それらの質量をほぼ同一とした部材であり、上部保持部材96と下部保持部材97との質量をほぼ同一としているから、上部ピストン91及び上部保持部材96からなる上部ピストン半体145Aの質量と、下部ピストン98及び下部保持部材97からなる下部ピストン半体145Bの質量とはほぼ同一となる。
【0042】
コンロッド16は、ロッド部26の内部に軽量化のための中空部146,77,148を設けた部材であり、大端部25(図1参照)側から球面継手14の滑り面にオイルを供給するために先端側油路78、複数の分岐油路79を設けたものである。
【0043】
上記した突出部94、上部保持部材96、下部保持部材97、筒部135及び小端部24は、上記した球面継手14を構成する部分である。
157は球状の小端部24の中心を示す中心点であり、ピストン13の重心でもあるが、中心点157をピストン13の重心にほぼ一致させてもよい。
158はピストン13の軸線である。159は中心点157を通り且つ軸線158に直交する平面に含まれる直線である。
【0044】
ピストン給油通路100は、上部ピストン91の突出部94に開けた複数の第1横油路161と、下部ピストン98の筒部135、リブ136及び下部スカート部137を貫通させた複数の第2横油路162とからなり、一端を凹部115に開口し、他端を環状溝137cに開口させたものである。なお、162aは第2横油路162の環状溝137cに開口する吐出口である。
【0045】
ピストン給油通路100の位置、即ち、冠面104からの高さGHは、ピストン13のコンプレッションハイトCH(トップランド106の上端(即ち、冠面104に一致する。)から球状の小端部24の中心点157までの距離である。)にほぼ等しく、環状溝137cは、上テーパ面137eの上端を、ピストン給油通路100の中心線164から高さH1の位置に設け、下テーパ面137fの下端を中心線164から高さH2の位置に設け、上テーパ面137eの傾き角をθ1、下テーパ面137fの傾き角をθ2とした部分である。上記の高さH1,H2は、H1=H2の関係にあり、傾き角θ1,θ2は、θ1=θ2の関係にある。以上より、環状溝137c(の高さ方向の中央)の冠面104からの高さは、コンプレッションハイトCHにほぼ等しい。
【0046】
図5は本発明に係るピストン及びコンロッドを示す底面図(一部断面図)であり、下部ピストン98は、筒部135と下部スカート部137とを連結する複数のリブ136を備え、各リブ136に第2横油路162を形成したものである。
【0047】
ここでは、隣り合うリブ136のなす角度θを皆等しくしたが、これに限らず、隣り合うリブ136のなす角度を、スラスト側と反スラスト側とで異ならせてもよいし、あるいは、スラスト−反スラスト方向に直交する方向、例えば、クランクシャフトを車両前後方向に延ばした内燃機関ではフロント−リヤ方向のフロント側とリヤ側とで異ならせてもよい。また、このようなリブ136に相当するものを上部ピストン91(図3参照)に設けてもよく、これにより、上部ピストン91の冠部90(図3参照)に発生する応力を各リブ136へ均等に分散することができ、上部ピストン91に発生する応力の最大値を低くすることができる。
【0048】
コンロッド16は、小端部24(図3参照)に近いロッド部26の側面26a,26aに、平坦で且つコンロッド16がスイング(揺動)する方向(図の左右方向である。)に平行な案内面26b、26bをそれぞれ形成したものであり、下部保持部材97(形状の理解を容易にするために太線で示した部分である。)は、コンロッド16を通すために設けた矩形状開口部97eに各分割体97a〜97d毎に、上記の案内面26b,26bに当たりながら案内される被案内面97fを設けたものである。
【0049】
上記したように、コンロッド16に案内面26b、26bを設け、下部保持部材97に案内面26b,26bに案内される複数の被案内面97fを設けたことで、コンロッド16に対してピストン13のシリンダ軸回りの回転を防ぐことができる。
【0050】
以上に述べたピストン13の作用を図6〜図8で説明する。
図6は本発明に係るピストンの作用を示す第1作用図である。
潤滑油は、内燃機関の運転中は常時、シリンダブロック内からクランクシャフト給油通路70(図2参照)、コンロッド給油通路75(図2参照)及びピストン給油通路100を介して下部ピストン98の環状溝137cに矢印のように強制的に供給される。
【0051】
このように、環状溝137cに潤滑油が供給されると、環状溝137c内の潤滑油は、上テーパ面137e側の下部スカート部137とシリンダボア12との上隙間165と、下テーパ面137f側の下部スカート部137とシリンダボア12との下隙間166との間に流れ、油膜を形成する。
【0052】
従って、例えば、ピストン13が上死点、下死点、あるいは、これらの近傍に位置する場合のようなピストン速度が小さい位置でも、下部スカート部137とシリンダボア12との間の油膜形成を促進させることができ、十分な厚さの油膜を形成することができる。
【0053】
図7(a),(b)は本発明に係るピストンの作用を示す第2作用図である。
(a)において、白抜き矢印で示すように、ピストンが上死点側から下死点側へ移動中には、ピストン給油通路100を介して下部ピストン98の環状溝137cに供給された潤滑油は、上テーパ面137eのくさび形作用によって油路が次第に絞られ、ピストン速度が大きいほど上隙間165内の油圧が大きくなって十分な厚さの油膜が形成される。
【0054】
(b)において、白抜き矢印で示すように、ピストンが下死点側から上死点側へ移動中には、ピストン給油通路100を介して下部ピストン98の環状溝137cに供給された潤滑油は、下テーパ面136fのくさび形作用によって油路が次第に絞られ、ピストン速度が大きいほど下隙間166内の油圧が大きくなって十分な厚さの油膜が形成される。
【0055】
図8は本発明に係るピストンの作用を示す第3作用図である。
環状溝137cをピストン13のコンプレッションハイトとほぼ同等の位置に設け、ピストン13がシリンダボア12内を移動中に、コンロッド給油通路75、凹部115内、ピストン給油通路100、環状溝137cを介してピストン13とシリンダボア12との間の隙間に潤滑油を供給することで、例えば、環状溝をコンロッド16の小端部24の中心点157よりも大きく下方又は大きく上方に設けた場合よりも、本発明では、ピストン13とシリンダボア12との隙間のピストン上部側とピストン下部側とに一層均等に潤滑油を流すことができ、更に、環状溝137cに潤滑油を供給する給油通路をピストン13に設けているから、ピストン13の全行程のどの位置においても、ピストン上部側とピストン下部側とのそれぞれの隙間にほぼ均等に潤滑油を供給することができる。
従って、ピストン13の首振りを抑えることができ、ピストン13とシリンダボア12との衝突により発生するピストン打音(スラップ音を含む。)を防止することができる。
【0056】
以上の図1及び図4に示したように、本発明は第1に、コンロッド16に連結するとともに内燃機関10のシリンダボア12内に移動自在に挿入したピストン13であって、このピストン13の下部スカート部137の外周面137bの周方向に環状の凹部としての環状溝137cを設け、この環状溝137cを、底面137dと、この底面137dの両縁からそれぞれ広がるように立上げた2つの傾斜面としての上テーパ面137e、下テーパ面137fとから構成し、底面137dにコンロッド16側からコンロッド給油通路75、ピストン給油通路100を介して供給される潤滑油の吐出口162aを開口させたことを特徴とする。
【0057】
下部スカート部137の外周面137bの環状溝137cに2つの上テーパ面137e、下テーパ面137fを備えるので、2つの上テーパ面137e、下テーパ面137fのくさび形作用によって、ピストン13が大きな速度で上死点側、あるいは下死点側に移動中に下部スカート部137とシリンダボア12との間の油膜形成を促進することができるとともに、環状溝137cの底面137dに潤滑油の吐出口162aを備えることによって、潤滑油を吐出口162aから吐出させることで、ピストン13が上死点又は下死点、あるいは、その近傍でピストン速度が小さいときにも下部スカート部137とシリンダボア12との間の油膜形成を強制的に行うことができる。
【0058】
従って、ピストン13の全行程のどの位置においても、下部スカート部137とシリンダボア12との間に安定して十分な厚さの油膜形成を行うことができ、摩擦係数を常に小さく維持することができて、内燃機関10の出力向上、燃料消費低減を図ることができ、更には、十分な潤滑油による下部スカート部137及びシリンダボア12の焼き付きを防止することができる。
【0059】
本発明は第2に、環状溝137cを、トップランド106の上端からの高さGHが、コンプレッションハイトCHと概ね一致するようにしたことを特徴とする。
環状溝137cの高さGHをコンプレッションハイトCHと概ね一致するようにしたので、ピストン13が移動中のどの位置にあっても、環状溝137cの吐出口162aから下部スカート部137とシリンダボア12との隙間のピストン上部側とピストン下部側とにほぼ均等に潤滑油を供給することができ、ピストン13の首振りを抑えることができて、スラップ音を低減することができる。
【0060】
尚、本実施形態では、図4に示したように、環状溝137cの高さH1と高さH2とを同一としたが、これに限らず、高さH1と高さH2とを異ならせてもよい。また、傾き角θ1と傾き角θ2とを同一としたが、これに限らず、傾き角θ1と傾き角θ2とを異ならせてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、図4に示したように、環状溝137cを下部ピストン98に設けたが、これに限らず、上部ピストン91にスカート部を設け、このスカート部に環状溝を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のピストンは、二輪車、四輪車の内燃機関に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係るピストンを備える内燃機関の断面図である。
【図2】本発明に係るピストン、コンロッド及びクランクシャフトとの連結構造を示す断面図である。
【図3】本発明に係るピストン、コンロッド及びクランクシャフトの組立状態を示す斜視図である。
【図4】本発明に係るピストン及びコンロッドの断面図である。
【図5】本発明に係るピストン及びコンロッドを示す底面図である。
【図6】本発明に係るピストンの作用を示す第1作用図である。
【図7】本発明に係るピストンの作用を示す第2作用図である。
【図8】本発明に係るピストンの作用を示す第3作用図である。
【図9】従来の内燃機関用ピストンの説明図である。
【図10】本発明に係る内燃機関の要部断面図である。
【符号の説明】
【0064】
10…内燃機関、13…ピストン、16…コンロッド、21…シリンダ部、70,75,100…給油通路(クランクシャフト給油通路、コンロッド給油通路、ピストン給油通路)、137…スカート部(下部スカート部)、137b…外周面、137c…凹部(環状溝)、137d…底面、137e,137f…傾斜面(上テーパ面、下テーパ面)、157…ピストンとコンロッドとの連結部の中心(小端部の中心点)、158…ピストンの軸線、159…直線、162a…吐出口、CH…ピストンのコンプレッションハイト、GH…凹部の位置(環状溝の高さ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンロッドに連結するとともに内燃機関のシリンダ内に移動自在に挿入したピストンであって、
このピストンは、スカート部外周面の周方向に環状の凹部が設けられ、
この凹部は、底面と、この底面の両縁からそれぞれ広がるように立上げた2つの傾斜面とからなり、
前記底面に前記コンロッド側から給油通路を介して供給される潤滑油の吐出口を開口させたことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項2】
前記凹部は、トップランド上端からの高さが、コンプレッションハイトと概ね一致することを特徴とする請求項1記載の内燃機関用ピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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