説明

内燃機関用ピストン

【課題】低負荷時の摩擦損失の低減と、高負荷時の耐焼き付き性の向上と、を両立することができる内燃機関用ピストンを提供する。
【解決手段】内燃機関用ピストンは、ピストン頂部3の外周から下方に延びるスカート部6を備え、スカート部6には、当該スカート部6の幅方向の両端部6aから中央部6bに向かうに従って徐々に剛性が増加するように、両端部6aから中央部6bに向かうに従って徐々に厚くなる肉厚6hが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頂部の外周から下方に延びるスカート部を備え、内燃機関のシリンダボア内に往復運動可能な状態で収容されるべき内燃機関用ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
スカート部の中央部に帯状リブが設けられた内燃機関用ピストンが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、スカート部の幅方向両端の少なくとも下端部がピストンを構成する金属材料よりも弾性が高い材料にて形成されている内燃機関用ピストンも知られている(例えば、特許文献2参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献3又は4が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−304040号公報
【特許文献2】特開2004−150326号公報
【特許文献3】特開平03−199657号公報
【特許文献4】特開平11−153061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関用ピストンには、圧縮工程及び、膨張行程の各工程にて、スカート部に負荷(スラスト荷重)が発生する。この負荷により、スカート部はシリンダボアと接触し、或いは衝突する場合もある。また、その衝突等する位置は、スカート部への負荷の上昇に伴ってスカート部の中央部から両端部へと拡大する傾向にある。特許文献1の内燃機関用ピストンでは、帯状リブにより中央部の剛性の向上が図られている。しかし、この内燃機関用ピストンは、スカート部の幅方向両端側の剛性を必ずしも低下させるものではない。このため、高負荷時のスカート部の剛性が増加し、シリンダボアとの衝突の衝撃が少なくとも両端部において十分に緩和されない可能性があるので、焼き付きの可能性が向上してしまう場合がある。一方、特許文献2の内燃機関用ピストンでは、スカート部の幅方向両端の少なくとも下端部に弾性の高い材料を使用することにより、シリンダボアとの接触圧力を低下させて下端部における摩耗及び焼き付きのおそれの低減が図られている。しかし、低負荷時には接触面積の増加により摩耗損失が増加してしまう可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、低負荷時の摩擦損失の低減と、高負荷時の耐焼き付き性の向上と、を両立することができる内燃機関用ピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関用ピストンは、頂部の外周から下方に延びるスカート部を備え、内燃機関のシリンダボア内に往復運動可能な状態で収容されるべき内燃機関用のピストンであって、前記スカート部には、当該スカート部の幅方向の両端部から中央部に向かうに従って徐々に剛性が増加するように、前記両端部から前記中央部に向かうに従って徐々に厚くなる肉厚が形成されているものである(請求項1)。
【0007】
この内燃機関用ピストンによれば、主として低負荷時にシリンダボアと衝突するスカート部の中央部の剛性が高く、主として高負荷時にシリンダボアと衝突するスカート部の両端部の剛性が低い。このため、低負荷時の中央部の変形が抑制される一方で、高負荷時の両端部の変形が促進される。これにより、低負荷時には、シリンダボアとの接触面積を低減することができるので、摩擦損失を低減することができる。一方、高負荷時には、シリンダボアとの接触面積を確保することができるので、接触部分の面圧を低減することができる。これにより、高負荷時の耐焼き付き性を向上させることができる。つまり、低負荷時の摩擦損失の低減と、高負荷時の耐焼き付き性の向上と、を両立することができる。また、中央部から両端部に向かうに従って徐々に剛性が低下するので、スカート部とシリンダ部との間の接触面積の急激な変化を抑制することもできる。
【0008】
また、本発明の内燃機関用ピストンの一態様において、前記スカート部には、前記肉厚として、前記両端部から前記中央部に向かうに従って線形に増加する剛性を当該スカート部に与えるような肉厚が形成されていてもよい(請求項2)。剛性が低下すれば負荷に対する変形量が増加する。また、変形量が増加するに従ってシリンダボアとの接触面積は増加する。この場合、スカート部の剛性が両端部から中央部に向かうに従って線形に増加するため、スカート部とシリンダ部との間の接触面積の変化を線形に近づけることができる。これにより、接触面積の制御性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上、説明したように、本発明によれば、低負荷時にはシリンダボアとの接触面積を低減することができるので、摩擦損失を低減することができる一方で、高負荷時にはシリンダボアとの接触面積を確保して接触部分の面圧を低減することができるので、耐焼き付き性を向上させることができる。つまり、低負荷時の摩擦損失の低減と、高負荷時の耐焼き付き性の向上と、を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態に係る内燃機関用ピストンがシリンダに収容された状態における正面側の断面図。
【図2】ピストンを下から見た場合の部分平面図。
【図3】図2の一部の拡大模式図。
【図4】スカート部の位置毎の剛性分布を説明するための図。
【図5】スカート部とシリンダボアとの間の接触面積の変化とスカート部への負荷(スラスト荷重)の変化との間の関係を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一形態に係る内燃機関用ピストンがシリンダに収容された状態における正面側の断面図である。図1に示すように、ピストン1は内燃機関のシリンダボア2内に往復運動可能な状態で収容される。ピストン1は、ピストン頂部3と、ピストン頂部3の外周に設けられたリングランド部4と、を有している。リングランド部4には、複数のリング溝4aが設けられている。複数のリング溝4aには、ピストンリング5が取り付けられている。
【0012】
また、ピストン1には、一対のスカート部6と、一対のピンボス部7とが設けられている。各ピンボス部7は、ピストン頂部3の裏面側に配置されている。また、各ピンボス部7は、ピストン1の中心線CL1に関して対照的位置にそれぞれ設けられている。各ピンボス部7には、中心線CL1と直交する方向に延びるピン穴7aがそれぞれに形成されている。ピン穴7aには、ピストン1とコネクティングロッド(不図示)とを連結するためのピストンピン(不図示)が挿入される。ピストン1とコネクティングロッドとがピストンピンを介して連結されることにより、燃焼圧力がクランク軸に伝達される。
【0013】
各スカート部6は、いずれもピストン頂部3の外周からリングランド部4に続いて下方に延びるように形成されている。また、各スカート部6は、各ピンボス部7を挟むように、中心線CL1に関して対照的位置にそれぞれ設けられ、全体として円筒状に形成されている。図2は、ピストン1を下から見た場合の部分平面図である。図2では、対照的に形成されている右半分を省略し、左半分のみを示している。図2に示すように、各スカート部6は、ピン穴7aの中心線CL2を挟んで互いに対照的な位置に配置されている。また、スカート部6の幅方向、つまりピン穴7aの中心線CL2方向の端部6aには、サイドウォール8が設けられている。サイドウォール8は、各スカート部6の端部6aを接続するように、一対のスカート部6のうちの一方のスカート部6の端部6aから他方のスカート部6の端部6aに向かって延びている。
【0014】
また、各スカート部6には、肉厚が形成されている。図3は、スカート部6の肉厚を説明するために図2の一点鎖線で囲った部分を拡大して模式的に示した拡大模式図である。図3に示すように、ピストン1の中心線CL1とピン穴7aの中心線CL2とが直交する直交点(図3では、中心線CL1として図示)を中心とした場合、スカート部6の幅方向の中央部6bは、ピン穴7aの中心線CL2方向の角度が0°の位置に対応する。一方、スカート部6の幅方向の端部6aは、ピン穴7aの中心線CL2方向の角度が20°の位置に対応する。つまり、スカート部6は、直交点CL1を中心とした場合、中心線CL2方向の角度が0°の位置を中央部6bとしつつ中心線CL2方向の角度がマイナス20°の位置からプラス20°の位置まで広がる幅を有している。そして、スカート部6には、両端部6aから中央部6bに向かうに従って徐々に厚さを増す肉厚6hが形成されている。
【0015】
図4及び図5を参照して、肉厚6hにより与えられるスカート部6の剛性について説明する。ここでいう剛性は、材料に一定の外力が与えられた場合の変形量として定義され、その変形量が大きいほど剛性が低いことを意味する。図4は、スカート部6の位置毎の剛性分布を説明するための図である。図4のスカート部6の位置は、図3における直交点CL1を中心とした場合の中心線CL2方向の角度に対応する。即ち、図4では、角度0°の位置に対応する中央部6bから角度20°の位置に対応する端部6aに到るまでの各位置における剛性分布を示している。また、図4の縦軸は変形量を、横軸はスカート部6の位置(直交点CL1を中心とする中心線CL2方向の角度)を、それぞれ示す。つまり、図4では、縦軸の値が高いほど変形量が大きく剛性が低いことを、横軸の値が大きいほど中央部6bから離れ、端部6aに近づくことを、それぞれ示す。図4の実線11で示すように、本形態に係るスカート部6の剛性分布は、中央部6bから端部6aに向かうに従って変化量が線形に(一次関数的に)上昇するように変化する。即ち、肉厚6hは、各端部6aから中央部6bに向かうに従って線形に増加する剛性をスカート部6に与えるように形成されている。
【0016】
また、スカート部6の各位置の変化量に応じてスカート部6とシリンダボア2との間の接触面積は変化し、変化量が増加するに従って接触面積も増加する。また、スカート部6の変化量は、スカート部6への負荷に応じて変化し、負荷の増加に伴って変化量も増加する。このため、シリンダボア2との接触面積は、剛性の変化に対応するような変化を示す。図5は、この接触面積の変化とスカート部6への負荷(スラスト荷重)の変化との間の関係を説明するための図である。図5の縦軸はスカート部6とシリンダボア2との間の接触面積を、横軸はスカート部6への負荷を、それぞれ示している。また、縦軸は上方ほど接触面積が大きいことを、横軸は右側に位置するほど負荷が高いことを、それぞれ示している。そして、図5の実線15で示すように、スカート部6とシリンダボア2との間の接触面積は、剛性の変化と対応するように、スカート部6への負荷の上昇に伴って徐々に接触面積が増加する線形に近い変化を示す。
【0017】
この形態によれば、スカート部6には、端部6aから中央部6bに向かうに従って徐々に増加する剛性を与える肉厚6hが形成されている。このため、中央部6bの変形が抑制される一方で、端部6aの変形が促進される。また、シリンダボア2と衝突する位置は、負荷の上昇に伴って中央部6bから端部6aへと拡大する。従って、スカート部6は、低負荷時から衝突する中央部6bの剛性が高く変形が抑制され、かつ、高負荷時に衝突する端部6aの剛性が低く変形が促進されるように構成されている。このため、低負荷時にはシリンダボア2との接触面積を低減して摩擦損失を低減することができる一方で、高負荷時にはシリンダボア2との接触面積を確保して接触部分の面圧を低減することができる。これにより、低負荷時の摩擦損失の低減と、高負荷時の耐焼き付き性の向上と、を両立することができる。
【0018】
更に、この形態によれば、スカート部6の肉厚6hは、両端部6aから中央部6bに向かうに従って剛性が線形に増加するように形成されている。これにより、スカート部6とシリンダボア2との間の接触面積の急激な変化を抑制することができる。また、剛性の線形の変化に対応して、スカート部6とシリンダボア2との間の接触面積も線形に変化する。これにより、接触面積の変化の制御性を向上させることができる。
【0019】
但し、本発明は上述の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の形態にて実施できる。上述の形態では、肉厚6hは、スカート部6に各端部6aから中央部6bに向かうに従って線形に増加するような剛性を与えるように形成されているが、このような形態に限定されない。例えば、肉厚6hは、スカート部6の剛性に完全な線形の変化を与えるようなものに限定されず、線形に近い変化を与えるものでもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 ピストン
2 シリンダボア
3 ピストン頂部
6 スカート部
6a 端部
6b 中央部
6h 肉厚
7 ピンボス部
7a ピン穴
CL1 ピストンの中心線
CL2 ピン穴の中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂部の外周から下方に延びるスカート部を備え、内燃機関のシリンダボア内に往復運動可能な状態で収容されるべき内燃機関用のピストンであって、
前記スカート部には、当該スカート部の幅方向の両端部から中央部に向かうに従って徐々に剛性が増加するように、前記両端部から前記中央部に向かうに従って徐々に厚くなる肉厚が形成されている、ことを特徴とする内燃機関用ピストン。
【請求項2】
前記スカート部には、前記肉厚として、前記両端部から前記中央部に向かうに従って線形に増加する剛性を当該スカート部に与えるような肉厚が形成されている請求項1に記載の内燃機関用ピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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