内燃機関用点火コイル及びその製造方法
【課題】熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生しにくくするとともに、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コアへ伸展してしまうことを効果的に防止することができる内燃機関用点火コイル及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】点火コイル1は、一次コイル21及び二次コイル22と、熱収縮チューブ231を外周に装着した中心コア23と、中心コア23と一次コイル21及び二次コイル22とを収容するケース3と、ケース3内の隙間に充填された熱硬化性樹脂5とを備えている。熱硬化性樹脂5は、二次コイル22が巻回された二次スプール221の内周と熱収縮チューブ231の外周との間に充填されて形成された環状充填部分51を有している。環状充填部分51の内周と熱収縮チューブ231の外周との間には、熱収縮チューブ231が収縮することによって隙間S2が形成されている。
【解決手段】点火コイル1は、一次コイル21及び二次コイル22と、熱収縮チューブ231を外周に装着した中心コア23と、中心コア23と一次コイル21及び二次コイル22とを収容するケース3と、ケース3内の隙間に充填された熱硬化性樹脂5とを備えている。熱硬化性樹脂5は、二次コイル22が巻回された二次スプール221の内周と熱収縮チューブ231の外周との間に充填されて形成された環状充填部分51を有している。環状充填部分51の内周と熱収縮チューブ231の外周との間には、熱収縮チューブ231が収縮することによって隙間S2が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室に配設するスパークプラグに、スパークを発生させるために用いる内燃機関用点火コイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の内燃機関に用いる点火コイルは、一次コイルと、一次コイルへの通電を遮断したときに誘導起電力を発生させる二次コイルとを同心状に内外周に重ねて配置し、一次コイル及び二次コイルの軸心位置に、軟磁性材料からなる中心コアを配置している。そして、一次コイル、二次コイル及び中心コア等をケース内に配置し、このケース内の隙間をエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂によって充填して、この熱硬化性樹脂によって、一次コイル、二次コイル及び中心コア等の絶縁及び固着を行っている。
【0003】
例えば、特許文献1の点火コイル及びその製造方法においては、一次コイル、二次コイル及び中心コアをケース内に配置し、ケース内の隙間を熱硬化性の充填樹脂によって充填して、点火コイルを形成している。また、この点火コイルにおいては、中心コアを構成する、多数枚積層した平板状の電磁鋼板を、樹脂絶縁層によって覆って互いに密着させている。これにより、一次コイル、二次コイル及び中心コアをケース内に組み付け、このケース内の隙間に液体状態の熱硬化性の充填樹脂を注入する際に、電磁鋼板同士の間に隙間が形成されていないことによって、電磁鋼板同士の間から気泡(ボイド)が発生することを防止している。この気泡が発生しないことによって、熱硬化後の充填樹脂に、気泡が残存することを効果的に抑制し、充填樹脂にクラックが発生することを効果的に抑制している。
また、特許文献2の点火コイルにおいては、中心コアの外周を、弾性緩衝部材としての熱収縮チューブによって覆うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−10629号公報
【特許文献2】特開2000−182856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2においては、充填樹脂(熱硬化性樹脂)に微細なクラックが発生したときに、この微細なクラックの伸展を抑制する工夫はなされていない。
具体的には、特許文献1、2においては、樹脂絶縁層(又は弾性緩衝部材)によって覆われた中心コアは、二次コイルを巻回した二次スプールの内周側に配置され、樹脂絶縁層と二次スプールとの間に充填樹脂が充填されている。そして、点火コイルが、内燃機関の発熱・冷却の温度サイクル及び自己発熱による温度変化を受ける際に、樹脂絶縁層を緩衝材として機能させ、中心コア、充填樹脂及び二次スプールの各線膨張係数の差によって生じる熱応力を低減させることはできる。しかし、充填樹脂中における微細な気泡の残存を完全になくすことは困難である。そのため、樹脂絶縁層(又は弾性緩衝部材)によって覆われた中心コアと、二次スプールとの間に充填された充填樹脂に、微細なクラック(割れ)が発生したときには、この微細なクラックが、樹脂絶縁層を経由して中心コアまで伸展するおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生しにくくするとともに、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コアへ伸展してしまうことを効果的に防止することができる内燃機関用点火コイル及びその製造方法を提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、内外周に重ねて同心状に配置された一次コイル及び二次コイルと、
該一次コイル及び二次コイルの軸心位置に配置され、熱収縮チューブを外周に装着した中心コアと、
該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを収容するケースと、
該ケース内に形成された隙間に充填された熱硬化性樹脂と、を備える内燃機関用点火コイルを製造する方法であって、
上記熱収縮チューブを加熱して、熱収縮がなくなる最大収縮率よりも低い所定の収縮率まで予備収縮させる予備収縮工程と、
上記予備収縮させた熱収縮チューブを上記中心コアの外周に装着し、該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを上記ケース内に収容して、コイル組付体を形成する組付工程と、
上記コイル組付体の上記ケース内に形成された隙間に上記熱硬化性樹脂を充填する充填工程と、
上記コイル組付体を加熱して、上記熱硬化性樹脂を硬化させる加熱硬化工程と、を含んでおり、
該加熱硬化工程においては、上記熱硬化性樹脂を硬化させる第1温度に上記コイル組付体の加熱温度を保って、上記熱硬化性樹脂を硬化させ、その後、上記第1温度よりも高い第2温度に上記加熱温度を保って、上記熱収縮チューブを熱収縮させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法にある(請求項1)。
【0008】
本発明の他の態様は、内外周に重ねて同心状に配置された一次コイル及び二次コイルと、
該一次コイル及び二次コイルの軸心位置に配置され、熱収縮チューブを外周に装着した中心コアと、
該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを収容するケースと、
該ケース内に形成された隙間に充填された熱硬化性樹脂と、を備えており、
該熱硬化性樹脂は、上記一次コイル及び二次コイルのうち内周側に位置するコイルが巻回された内周側スプールの内周と上記熱収縮チューブの外周との間に充填されて形成された環状充填部分を有しており、
該環状充填部分の内周と上記熱収縮チューブの外周との間には、該熱収縮チューブが収縮したことによる隙間が形成されていることを特徴とする内燃機関用点火コイルにある(請求項5)。
【発明の効果】
【0009】
上記内燃機関用点火コイルの製造方法は、熱収縮チューブの用い方に工夫を行い、熱収縮チューブと、その外周側に位置する熱硬化性樹脂との間に、意図的に隙間を形成するものである。
本製造方法においては、組付工程を行う前に、予備収縮工程として、熱収縮チューブを予め熱収縮(予備収縮)させておく。このとき、熱収縮チューブは、熱収縮がなくなる最大収縮率よりも低い所定の収縮率まで予備収縮させておく。これにより、組付工程及び充填工程を行った後、加熱硬化工程を行う際には、コイル組付体の加熱の初期段階において、熱硬化性樹脂が体積膨張する一方、熱収縮チューブが熱収縮を行わないようにすることができる。なお、熱収縮とは、熱によって収縮することをいう。
【0010】
また、加熱硬化工程においては、熱硬化性樹脂を硬化させる第1温度にコイル組付体の加熱温度を保って、熱硬化性樹脂を硬化させる。その後、第1温度よりも高い第2温度にコイル組付体の加熱温度を保って、熱収縮チューブを熱収縮させる。このとき、熱硬化性樹脂が硬化していることにより、熱収縮チューブが熱収縮(熱収縮チューブの外径が縮径)することに伴って生じるスペースへ熱硬化性樹脂が流れ込むことを阻止することができる。これにより、熱収縮チューブの外周と熱硬化性樹脂との間に隙間を形成することができる。
この隙間の形成により、製造後の点火コイルを使用する際に、点火コイルにおける各構成部品の線膨張係数の差に起因して点火コイル内に発生する熱応力を低減させることができる。そのため、熱硬化性樹脂に微細なクラック(割れ)が発生しにくくすることができる。また、熱硬化性樹脂中に残存する微細な気泡によって熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コアへ伸展してしまうことを効果的に防止することができる。
【0011】
それ故、上記内燃機関用点火コイルの製造方法によれば、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生しにくくするとともに、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コアへ伸展してしまうことを効果的に防止することができる点火コイルを製造することができる。
【0012】
上記内燃機関用点火コイルは、熱収縮チューブと、その外周側に位置する熱硬化性樹脂との間に、意図的に隙間が形成されたものである。
具体的には、熱硬化性樹脂の環状充填部分の内周と熱収縮チューブの外周との間には、熱収縮チューブが熱収縮することによって隙間が形成されている。これにより、上記内燃機関用点火コイルによれば、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生しにくくするとともに、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コアへ伸展してしまうことを効果的に防止することができる。
【0013】
また、上記内燃機関点火コイルにおいて、中心コアの外周に樹脂の層を設け、この樹脂の層の外周に熱収縮チューブを装着することができる。樹脂の層は、スプレー、ディップ(浸漬)等の種々のコーティング方法によって設けることができる。この場合にも、上述した内燃機関用点火コイル及びその製造方法と同様の効果を得ることができる。
また、参考として、熱収縮チューブを設ける代わりに、中心コアの外周に、スプレー、ディップ等の方法によって、樹脂の層を設けることも可能である。この場合、樹脂の層は、熱収縮チューブと同様に熱収縮を行う材料であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例にかかる、内燃機関用点火コイルを示す断面図。
【図2】実施例にかかる、内燃機関用点火コイルの一部を拡大して示す断面図。
【図3】実施例にかかる、横軸に加熱時間t(H)をとり、縦軸の上段にコイル組付体の加熱温度T(℃)、中段に熱硬化性樹脂の体積変化率V(%)、下段に熱収縮チューブの収縮率増加量C’(%)をとって、これらの時間変化を示すグラフ。
【図4】実施例にかかる、横軸に加熱温度T(℃)をとり、縦軸に収縮率C(%)をとって、熱収縮チューブの収縮率Cの温度変化を示すグラフ。
【図5】実施例にかかる、熱収縮チューブを拡径する治具示す説明図。
【図6】実施例にかかる、コイル組付体のケース内の隙間に熱硬化性樹脂を充填した状態を拡大して示す説明図。
【図7】実施例にかかる、加熱硬化工程における加熱の第2段階A2において、熱硬化性樹脂がゲル化を始めた状態を示す説明図。
【図8】実施例にかかる、加熱硬化工程における加熱の第2段階A3において、熱硬化性樹脂が硬化するとともに熱収縮チューブが熱収縮する状態を示す説明図。
【図9】実施例にかかる、加熱硬化工程における加熱の第2段階A4において、熱収縮チューブが熱収縮した状態を示す説明図。
【図10】実施例にかかる、熱収縮チューブの予備収縮率が異なる場合について、図3と同様の時間変化を示すグラフ。
【図11】実施例にかかる、熱収縮チューブの予備収縮率が異なる場合について、図3と同様の時間変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述した内燃機関用点火コイル及びその製造方法における好ましい実施の形態につき説明する。
上記内燃機関用点火コイルの製造方法において、上記充填工程においては、上記コイル組付体の上記ケース内における隙間を真空状態にして、この隙間に上記熱硬化性樹脂を充填してもよい。真空状態とは、絶対真空に近い状態、あるいは大気圧よりも圧力が低い状態のことをいう。
【0016】
また、上記予備収縮工程においては、上記熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度付近の温度まで上記熱収縮チューブを加熱して、該熱収縮チューブを上記所定の収縮率まで予備収縮させてもよい(請求項2)。
この場合には、組付工程及び充填工程を行った後、加熱硬化工程を行う際に、コイル組付体の加熱温度が上昇し、熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度付近になるときに、熱収縮チューブの熱収縮を開始させることができる。このとき、熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度付近にあることにより、熱収縮チューブが熱収縮することに伴って生じるスペースへ熱硬化性樹脂が流れ込むことを抑制することができる。これにより、熱収縮チューブの外周と熱硬化性樹脂との間に、より大きな隙間を形成することができる。
上記熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度付近とは、上記熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度の±20℃以内とすることができ、この温度の±10℃以内とすることが好ましい。また、上記予備収縮工程においては、熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度以上の温度まで熱収縮チューブを加熱しておくことがより好ましい。
【0017】
また、上記予備収縮工程においては、上記熱収縮チューブは、その内径が縮小することを治具によって阻止しながら加熱した後に冷却することによって上記所定の収縮率まで熱収縮させてもよい(請求項3)。
この場合には、治具の外径を、中心コアの外周に装着するときの熱収縮チューブの内径の規定寸法に設定しておく。そして、熱収縮チューブは、その内径を規定寸法に維持して、所定の収縮率まで熱収縮(予備収縮)させることができる。これにより、熱収縮チューブを、所定の収縮率まで規定寸法で熱収縮させることができる。
【0018】
また、上記内燃機関用点火コイル及びその製造方法において、上記熱収縮チューブは、撥油性及び絶縁性を有する、フッ素系、シリコーン系又はポリエチレンテレフタレートの樹脂もしくはゴムのいずれかによって構成されていてもよい(請求項4、6)。
この場合には、熱収縮チューブが撥油性を有することによって、コイル組付体のケース内における隙間に熱可塑性樹脂の充填を行う際に、隙間から抜け出す気泡が付着しにくくすることができる。
【実施例】
【0019】
以下に、内燃機関用点火コイル及びその製造方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
図1には、内燃機関用点火コイル1(以下、単に点火コイル1という。)を断面にして示す。
同図に示すごとく、点火コイル1は、内外周に重ねて同心状に配置された一次コイル21及び二次コイル22と、一次コイル21及び二次コイル22の軸心位置に配置され、熱収縮チューブ231を外周に装着した中心コア23と、中心コア23と一次コイル21及び二次コイル22とを収容するケース3と、ケース3内に形成された隙間に充填された熱硬化性樹脂5とを備えている。
【0020】
図2には、点火コイル1の一部を拡大して示す。
同図に示すごとく、熱硬化性樹脂5は、一次コイル21及び二次コイル22のうち内周側に位置するコイル(本例では二次コイル22)が巻回された内周側スプール(本例では二次スプール221)の内周と熱収縮チューブ231の外周との間に充填されて形成された環状充填部分51を有している。環状充填部分51の内周と熱収縮チューブ231の外周との間には、熱収縮チューブ231が収縮することによって隙間S2が形成されている。
【0021】
本例の点火コイル1の製造方法においては、以下の各工程を行って点火コイル1を製造する。
まず、予備収縮工程として、熱収縮チューブ231を加熱して、この熱収縮チューブ231を、熱収縮がなくなる最大収縮率Cmaxよりも低い所定の収縮率C1(以下、予備収縮率C1という。)まで熱収縮させる。次いで、組付工程として、予備収縮させた熱収縮チューブ231を中心コア23の外周に装着し、中心コア23と一次コイル21及び二次コイル22とをケース3内に収容して、コイル組付体10を形成する。次いで、充填工程として、コイル組付体10のケース3内に形成された隙間を真空状態にし、この隙間に熱硬化性樹脂5を充填する。次いで、加熱硬化工程として、コイル組付体10を加熱して、熱硬化性樹脂5を硬化させる。
【0022】
図3には、加熱硬化工程において、コイル組付体10の加熱温度T(℃)、熱硬化性樹脂5の体積変化率V(%)、及び熱収縮チューブ231の収縮率増加量C’(%)の加熱時間t(H)による変化を示す。ここで、体積変化率Vは、熱硬化性樹脂5が単位時間当たりにどれだけ体積が変化したかを示し、収縮率増加量C’は、熱収縮チューブ231が予備収縮率C1からどれだけ熱収縮したかを示す。
加熱硬化工程においては、熱硬化性樹脂5を硬化させる第1温度T1にコイル組付体10の加熱温度Tを保って、熱硬化性樹脂5を硬化させ、その後、第1温度T1よりも高い第2温度T2にコイル組付体10の加熱温度Tを保って、熱収縮チューブ231を熱収縮させる。
【0023】
以下に、本例の内燃機関用点火コイル1及びその製造方法につき、図1〜図11を参照して詳説する。
図1に示すごとく、本例の点火コイル1は、内燃機関としてのエンジンにおけるプラグホールに配置し、プラグホールに取り付けられたスパークプラグに装着して用いるものである。
一次コイル21は、樹脂からなる一次スプール211の外周に巻回された一次巻線(マグネットワイヤ)によって形成されている。二次コイル22は、樹脂からなる二次スプール221の外周に巻回された、一次巻線よりも細い二次巻線(マグネットワイヤ)によって形成されている。二次コイル22は、一次コイル21の内周側に配置されている。本例において、一次コイル21及び二次コイル22のうち内周側に位置するコイルは二次コイル22であり、内周側スプールは二次スプール221である。なお、一次コイル21は、一次スプール211を用いずに形成することもできる。
中心コア23は、軟磁性材料からなる多数の電磁鋼板を積層して形成されている。なお、中心コア23は、磁性粉体を圧縮成形して形成することもできる。中心コア23は、その外周に熱収縮チューブ231が装着された状態で、二次スプール221の内周側に配置されている。
【0024】
ケース3は、一次コイル21、二次コイル22及び中心コア23等を収容し、プラグホール内に配置される筒状部分31と、プラグホールの外部に配置されるコネクタ部分32とによって構成されている。筒状部分31の下部には、二次巻線の高電圧巻線端部を接続する高電圧端子41、高電圧端子41に導通されるスプリング42、及びスパークプラグに装着されるプラグキャップ43が設けられている。コネクタ部分32には、点火コイル1を外部に電気接続するためのコネクタ接続部321、及び点火コイル1をエンジンに取り付けるための取付フランジ部322が設けられている。
ケース3の筒状部分31の外周には、軟磁性材料からなる電磁鋼板によって形成された外周コア24が配置されている。
熱硬化性樹脂5は、ベースとなる樹脂に硬化剤を混合して、所定の温度に加熱すると硬化するエポキシ樹脂である。このエポキシ樹脂が硬化する温度は、熱収縮チューブ231の熱収縮が最大収縮率Cmaxになるときの温度よりも低い。
【0025】
熱収縮チューブ231は、撥油性及び絶縁性を有する樹脂又はゴムから構成されている。熱収縮チューブ231は、フッ素系の樹脂もしくはゴム、シリコーン系の樹脂もしくはゴム、又はポリエチレンテレフタレートの樹脂もしくはゴムによって構成することができる。
熱収縮チューブ231は、熱を加えると、内径及び外径が縮小するように収縮するものである。熱収縮チューブ231は、加熱する温度に応じて収縮量が増大し、所定の温度にて熱収縮がなくなる性質を有している。
【0026】
図4には、横軸に加熱温度Tをとり、縦軸に収縮率Cをとって、熱収縮チューブ231の収縮率Cの温度変化を示す。同図に示すごとく、収縮率Cは、加熱温度Tが低いときには、増加勾配が大きくなるように変化し、加熱温度Tが高くなったときには、増加勾配が小さくなるように変化する。本例で用いる熱収縮チューブ231の最大収縮率Cmaxは、20〜35%である。
そして、予備収縮工程においては、予備加熱温度T0にて熱収縮チューブ231を所定の予備収縮率C1まで熱収縮させておき、加熱硬化工程においては、第2温度T2にて熱収縮チューブ231がさらに熱収縮させて目的とする最終収縮率C2になるまで熱収縮させる。また、熱硬化性樹脂5を加熱硬化させる第1温度T1は、予備加熱温度T0と第2温度T2との間に設定される。
【0027】
次に、本例の点火コイル1の製造方法につき詳説する。
本例の点火コイル1の製造方法は、熱収縮チューブ231の用い方に工夫を行い、熱収縮チューブ231と、その外周側に位置する熱硬化性樹脂5との間に、意図的に隙間S2を形成するものである。
本製造方法においては、まず、予備収縮工程として、所定の予備収縮率C1に熱収縮させた熱収縮チューブ231を準備する。予備収縮工程においては、図5に示すごとく、熱収縮チューブ231内に挿通させる治具6を用い、この治具6によって熱収縮チューブ231を規定寸法に拡径しながら加熱及び冷却を行って、熱収縮チューブ231を所定の予備収縮率C1まで熱収縮させておく。ここで、同図は、熱収縮チューブ231を拡径する治具6示す。
熱収縮チューブ231は、予備収縮させた後の状態における厚みが、0.1〜0.5mmの範囲内になるようにすることができる。
【0028】
治具6は、円柱形状を有しており、その外径は、中心コア23の外周に装着するときの熱収縮チューブ231の内径の規定寸法に設定されている。治具6の端部には、熱収縮チューブ231の拡径を案内するテーパ部61が設けられている。治具6は、熱収縮チューブ231の所定の予備収縮率C1を得る時の所定の予備加熱温度T0まで加熱した加熱炉内に配置しておく。
【0029】
熱収縮チューブ231を、所定の予備加熱温度T0(例えば、90〜110℃)に加熱された加熱炉内の治具6の外周を通過させる。そして、熱収縮チューブ231は、治具6のテーパ部61によって拡径されて、治具6の外周を通過する。このとき、熱収縮チューブ231は、規定寸法に維持された状態で、所定の予備加熱温度T0の時の収縮率C(予備収縮率C1)まで熱収縮する。その後、治具6の外周に配置された熱収縮チューブ231を急冷することにより、規定寸法に拡径されたままの状態で、所定の予備収縮率C1まで熱収縮した熱収縮チューブ231を得ることができる。
また、上記所定の予備収縮率C1の熱収縮チューブ231は、熱硬化性樹脂5がゲル化を開始する温度T3(90〜110℃)付近の温度まで熱収縮チューブ231を加熱して得る。
【0030】
次いで、組付工程として、予備収縮させた熱収縮チューブ231を中心コア23の外周に装着し、この中心コア23を、二次コイル22を巻回した二次スプール221の内周側に配置する。また、一次コイル21を巻回した一次スプール211の内周側に、二次コイル22を巻回した二次スプール221と中心コア23とを配置する。そして、中心コア23、一次スプール211及び二次スプール221をケース3内に配置し、ケース3の外周に外周コア24を配置する。こうして、その他の構成部品の配置も行って、コイル組付体10を形成する(図1参照)。同図は、コイル組付体10の隙間に熱硬化性樹脂5が充填された状態で記載している。
【0031】
次いで、充填工程として、コイル組付体10のケース3内における隙間を真空状態にする。この真空状態の形成は、コイル組付体10を、真空ポンプによって真空にした真空タンク内に配置することによって行うことができる。そして、ケース3内における隙間に熱硬化性樹脂5を充填する。
図6には、コイル組付体10のケース3内の隙間に熱硬化性樹脂5を充填した状態を拡大して示す。
充填工程及び加熱硬化工程においては、中心コア23の外周に装着された熱収縮チューブ231の外周と、二次スプール221の内周との間に形成された隙間においては、熱収縮チューブ231が撥油性を有していることにより、隙間内に残存して上昇する気泡が熱収縮チューブ231の表面に付着しにくくすることができる。
【0032】
次いで、加熱硬化工程として、上記真空状態を保ったまま、コイル組付体10を加熱して、熱硬化性樹脂5を硬化させる。
コイル組付体10は、その外部からの熱伝達によって加熱することができ、一次コイル21と二次コイル22との少なくとも一方に通電を行って加熱することもできる。
図3に示すごとく、コイル組付体10の加熱の初期段階(第1段階)A1においては、熱収縮チューブ231が所定の予備収縮率C1まで予め予備収縮していることにより、熱硬化性樹脂5が体積膨張する一方、熱収縮チューブ231が熱収縮を行わないようにすることができる。
加熱の初期段階においては、体積変化率V(%)が大きくなる一方、収縮率増加量C’(%)は0%のままである。
【0033】
そして、コイル組付体10の加熱温度Tが上昇し、熱硬化性樹脂5がゲル化を開始する温度T3付近になるときに、熱収縮チューブ231の熱収縮を開始させることができる。図3において、加熱温度Tがゲル化温度T3を超えるときから、熱収縮チューブ231の収縮率増加量C’が増加を始める。また、ゲル化温度T3を超えた後には、熱硬化性樹脂5が硬化を始めることにより、その体積変化率Vが小さくなっていく。
図7には、加熱温度Tがゲル化温度T3に到達した後の加熱の第2段階A2における熱硬化性樹脂5の変化を拡大して示す。同図に示すごとく、第2段階A2においては、熱硬化性樹脂5がゲル化を始め、熱硬化性樹脂5の多数の微細な固形物52が発生し始める。
【0034】
図8には、加熱温度Tを第1温度T1に保つ加熱の第3段階A3における、熱硬化性樹脂5及び熱収縮チューブ231の変化を拡大して示す。同図に示すごとく、第3段階A3においては、加熱温度Tを第1温度T1に保って、熱硬化性樹脂5を硬化させる。このとき、熱収縮チューブ231が熱収縮してその外径が縮小する際に、熱収縮チューブ231の外周側には、ゲル化した熱硬化性樹脂5の多数の微細な固形物52が引き寄せられるようにして残存する。
そして、この多数の微細な固形物52が、熱収縮チューブ231の外周と接触するとともに互いに接触し、多数の微細な固形物52同士の間に、多数の微細スペースS1が形成される。そして、熱硬化性樹脂5の硬化によって、多数の微細スペースS1へ熱硬化性樹脂5が流れ込むことを抑制することができる。
第3段階A3においては、加熱温度Tが第1温度T1に一定に保たれるために、熱収縮チューブ231の収縮率増加量C’は変化しない。
【0035】
図9には、加熱温度Tを第2温度T2に保つ加熱の第4段階A4における、熱硬化性樹脂5及び熱収縮チューブ231の変化を拡大して示す。同図に示すごとく、第4段階A4においては、加熱温度Tを第1温度T1よりも高い第2温度T2に保って、熱収縮チューブ231を熱収縮させる。このとき、熱収縮チューブ231の収縮率増加量C’がさらに増加し、熱収縮チューブ231が、目的とする最終収縮率C2になるまで熱収縮する。
また、第4段階A4においては、熱硬化性樹脂5が硬化していることにより、熱収縮チューブ231がさらに熱収縮してその外径が縮小することに伴って生じるスペースへ、熱硬化性樹脂5が流れ込むことを阻止することができる。これにより、二次スプール221の内周側に熱硬化性樹脂5による環状充填部分51が形成されるとともに、熱収縮チューブ231の外周と環状充填部分51の内周との間に隙間S2を形成することができる。隙間S2は、0.2〜500μmの幅Wの範囲内で形成される(図9参照)。
その後、コイル組付体10を常温まで冷却し、二次スプール221の内周側に位置する熱硬化性樹脂5の内周と熱収縮チューブ231の外周との間に、隙間S2が形成された点火コイル1を製造することができる。
【0036】
上記隙間S2の形成により、製造後の点火コイル1を使用する際に、点火コイル1における各構成部品の線膨張係数の差に起因して点火コイル1内に発生する熱応力を低減させることができる。そのため、熱硬化性樹脂5に微細なクラックが発生しにくくすることができる。また、熱硬化性樹脂5中に残存する微細な気泡によって熱硬化性樹脂5に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コア23へ伸展してしまうことを効果的に防止することができる。
【0037】
それ故、上記点火コイル1の製造方法によれば、熱硬化性樹脂5に微細なクラックが発生しにくくするとともに、熱硬化性樹脂5に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コア23へ伸展してしまうことを効果的に防止することができる点火コイル1を製造することができる。
【0038】
なお、仮に、上記予備収縮工程を行わず、予備収縮を行っていない熱収縮チューブ231を加熱硬化工程において熱収縮させる場合には、次の問題が生じる。
すなわち、この場合には、コイル組付体10の加熱を開始すると同時に第1段階A1において熱収縮チューブ231が熱収縮を開始する。そして、熱収縮チューブ231が熱収縮することに伴って形成されるスペースには、ゲル化を始めていない熱硬化性樹脂5が流れ込むことになる。そのため、加熱硬化工程において、予備収縮させた熱収縮チューブ5を用いない場合には、熱収縮チューブ231の外周と、熱硬化性樹脂5の内周との間に隙間S2を形成することはできない。
【0039】
また、上記予備収縮工程において、熱収縮チューブ231の所定の予備収縮率C1は、熱収縮チューブ231を加熱する温度を異ならせて、適宜変更することができる。例えば、図10に示すごとく、予備収縮工程において、熱収縮チューブ231を加熱する予備加熱温度T0を高くし、予備収縮率C1を最終収縮率C2に近い値にすることができる。この場合には、加熱硬化工程の第1〜第3段階A1〜A3において、熱硬化性樹脂5がゲル化及び硬化を行っているときには、熱収縮チューブ231が熱収縮を行わず、第4段階A4において、コイル組付体10の加熱温度Tを第2温度T2にするときに初めて熱収縮チューブ231を熱収縮させることができる。この場合にも、二次スプール221の内周側に位置する熱硬化性樹脂5の内周と熱収縮チューブ231の外周との間に、若干の隙間S2を形成することができる。
【0040】
また、上記予備収縮工程において、例えば、図11に示すごとく、予備収縮工程において、熱収縮チューブ231を加熱する予備加熱温度T0を低くし、予備収縮率C1を小さな値にすることもできる。この場合には、加熱硬化工程の第1段階A1において、コイル組付体10の加熱温度Tを上昇させる際に、熱硬化性樹脂5のゲル化温度T3よりも低い温度から熱収縮チューブ231が熱収縮を開始することになる。この場合にも、二次スプール221の内周側に位置する熱硬化性樹脂5の内周と熱収縮チューブ231の外周との間に、若干の隙間S2を形成することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 内燃機関用点火コイル
21 一次コイル
22 二次コイル
221 二次スプール
23 中心コア
231 熱収縮チューブ
3 ケース
5 熱硬化性樹脂
51 環状充填部分
S1 多数の微細スペース
S2 隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室に配設するスパークプラグに、スパークを発生させるために用いる内燃機関用点火コイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の内燃機関に用いる点火コイルは、一次コイルと、一次コイルへの通電を遮断したときに誘導起電力を発生させる二次コイルとを同心状に内外周に重ねて配置し、一次コイル及び二次コイルの軸心位置に、軟磁性材料からなる中心コアを配置している。そして、一次コイル、二次コイル及び中心コア等をケース内に配置し、このケース内の隙間をエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂によって充填して、この熱硬化性樹脂によって、一次コイル、二次コイル及び中心コア等の絶縁及び固着を行っている。
【0003】
例えば、特許文献1の点火コイル及びその製造方法においては、一次コイル、二次コイル及び中心コアをケース内に配置し、ケース内の隙間を熱硬化性の充填樹脂によって充填して、点火コイルを形成している。また、この点火コイルにおいては、中心コアを構成する、多数枚積層した平板状の電磁鋼板を、樹脂絶縁層によって覆って互いに密着させている。これにより、一次コイル、二次コイル及び中心コアをケース内に組み付け、このケース内の隙間に液体状態の熱硬化性の充填樹脂を注入する際に、電磁鋼板同士の間に隙間が形成されていないことによって、電磁鋼板同士の間から気泡(ボイド)が発生することを防止している。この気泡が発生しないことによって、熱硬化後の充填樹脂に、気泡が残存することを効果的に抑制し、充填樹脂にクラックが発生することを効果的に抑制している。
また、特許文献2の点火コイルにおいては、中心コアの外周を、弾性緩衝部材としての熱収縮チューブによって覆うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−10629号公報
【特許文献2】特開2000−182856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2においては、充填樹脂(熱硬化性樹脂)に微細なクラックが発生したときに、この微細なクラックの伸展を抑制する工夫はなされていない。
具体的には、特許文献1、2においては、樹脂絶縁層(又は弾性緩衝部材)によって覆われた中心コアは、二次コイルを巻回した二次スプールの内周側に配置され、樹脂絶縁層と二次スプールとの間に充填樹脂が充填されている。そして、点火コイルが、内燃機関の発熱・冷却の温度サイクル及び自己発熱による温度変化を受ける際に、樹脂絶縁層を緩衝材として機能させ、中心コア、充填樹脂及び二次スプールの各線膨張係数の差によって生じる熱応力を低減させることはできる。しかし、充填樹脂中における微細な気泡の残存を完全になくすことは困難である。そのため、樹脂絶縁層(又は弾性緩衝部材)によって覆われた中心コアと、二次スプールとの間に充填された充填樹脂に、微細なクラック(割れ)が発生したときには、この微細なクラックが、樹脂絶縁層を経由して中心コアまで伸展するおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生しにくくするとともに、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コアへ伸展してしまうことを効果的に防止することができる内燃機関用点火コイル及びその製造方法を提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、内外周に重ねて同心状に配置された一次コイル及び二次コイルと、
該一次コイル及び二次コイルの軸心位置に配置され、熱収縮チューブを外周に装着した中心コアと、
該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを収容するケースと、
該ケース内に形成された隙間に充填された熱硬化性樹脂と、を備える内燃機関用点火コイルを製造する方法であって、
上記熱収縮チューブを加熱して、熱収縮がなくなる最大収縮率よりも低い所定の収縮率まで予備収縮させる予備収縮工程と、
上記予備収縮させた熱収縮チューブを上記中心コアの外周に装着し、該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを上記ケース内に収容して、コイル組付体を形成する組付工程と、
上記コイル組付体の上記ケース内に形成された隙間に上記熱硬化性樹脂を充填する充填工程と、
上記コイル組付体を加熱して、上記熱硬化性樹脂を硬化させる加熱硬化工程と、を含んでおり、
該加熱硬化工程においては、上記熱硬化性樹脂を硬化させる第1温度に上記コイル組付体の加熱温度を保って、上記熱硬化性樹脂を硬化させ、その後、上記第1温度よりも高い第2温度に上記加熱温度を保って、上記熱収縮チューブを熱収縮させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法にある(請求項1)。
【0008】
本発明の他の態様は、内外周に重ねて同心状に配置された一次コイル及び二次コイルと、
該一次コイル及び二次コイルの軸心位置に配置され、熱収縮チューブを外周に装着した中心コアと、
該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを収容するケースと、
該ケース内に形成された隙間に充填された熱硬化性樹脂と、を備えており、
該熱硬化性樹脂は、上記一次コイル及び二次コイルのうち内周側に位置するコイルが巻回された内周側スプールの内周と上記熱収縮チューブの外周との間に充填されて形成された環状充填部分を有しており、
該環状充填部分の内周と上記熱収縮チューブの外周との間には、該熱収縮チューブが収縮したことによる隙間が形成されていることを特徴とする内燃機関用点火コイルにある(請求項5)。
【発明の効果】
【0009】
上記内燃機関用点火コイルの製造方法は、熱収縮チューブの用い方に工夫を行い、熱収縮チューブと、その外周側に位置する熱硬化性樹脂との間に、意図的に隙間を形成するものである。
本製造方法においては、組付工程を行う前に、予備収縮工程として、熱収縮チューブを予め熱収縮(予備収縮)させておく。このとき、熱収縮チューブは、熱収縮がなくなる最大収縮率よりも低い所定の収縮率まで予備収縮させておく。これにより、組付工程及び充填工程を行った後、加熱硬化工程を行う際には、コイル組付体の加熱の初期段階において、熱硬化性樹脂が体積膨張する一方、熱収縮チューブが熱収縮を行わないようにすることができる。なお、熱収縮とは、熱によって収縮することをいう。
【0010】
また、加熱硬化工程においては、熱硬化性樹脂を硬化させる第1温度にコイル組付体の加熱温度を保って、熱硬化性樹脂を硬化させる。その後、第1温度よりも高い第2温度にコイル組付体の加熱温度を保って、熱収縮チューブを熱収縮させる。このとき、熱硬化性樹脂が硬化していることにより、熱収縮チューブが熱収縮(熱収縮チューブの外径が縮径)することに伴って生じるスペースへ熱硬化性樹脂が流れ込むことを阻止することができる。これにより、熱収縮チューブの外周と熱硬化性樹脂との間に隙間を形成することができる。
この隙間の形成により、製造後の点火コイルを使用する際に、点火コイルにおける各構成部品の線膨張係数の差に起因して点火コイル内に発生する熱応力を低減させることができる。そのため、熱硬化性樹脂に微細なクラック(割れ)が発生しにくくすることができる。また、熱硬化性樹脂中に残存する微細な気泡によって熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コアへ伸展してしまうことを効果的に防止することができる。
【0011】
それ故、上記内燃機関用点火コイルの製造方法によれば、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生しにくくするとともに、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コアへ伸展してしまうことを効果的に防止することができる点火コイルを製造することができる。
【0012】
上記内燃機関用点火コイルは、熱収縮チューブと、その外周側に位置する熱硬化性樹脂との間に、意図的に隙間が形成されたものである。
具体的には、熱硬化性樹脂の環状充填部分の内周と熱収縮チューブの外周との間には、熱収縮チューブが熱収縮することによって隙間が形成されている。これにより、上記内燃機関用点火コイルによれば、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生しにくくするとともに、熱硬化性樹脂に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コアへ伸展してしまうことを効果的に防止することができる。
【0013】
また、上記内燃機関点火コイルにおいて、中心コアの外周に樹脂の層を設け、この樹脂の層の外周に熱収縮チューブを装着することができる。樹脂の層は、スプレー、ディップ(浸漬)等の種々のコーティング方法によって設けることができる。この場合にも、上述した内燃機関用点火コイル及びその製造方法と同様の効果を得ることができる。
また、参考として、熱収縮チューブを設ける代わりに、中心コアの外周に、スプレー、ディップ等の方法によって、樹脂の層を設けることも可能である。この場合、樹脂の層は、熱収縮チューブと同様に熱収縮を行う材料であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例にかかる、内燃機関用点火コイルを示す断面図。
【図2】実施例にかかる、内燃機関用点火コイルの一部を拡大して示す断面図。
【図3】実施例にかかる、横軸に加熱時間t(H)をとり、縦軸の上段にコイル組付体の加熱温度T(℃)、中段に熱硬化性樹脂の体積変化率V(%)、下段に熱収縮チューブの収縮率増加量C’(%)をとって、これらの時間変化を示すグラフ。
【図4】実施例にかかる、横軸に加熱温度T(℃)をとり、縦軸に収縮率C(%)をとって、熱収縮チューブの収縮率Cの温度変化を示すグラフ。
【図5】実施例にかかる、熱収縮チューブを拡径する治具示す説明図。
【図6】実施例にかかる、コイル組付体のケース内の隙間に熱硬化性樹脂を充填した状態を拡大して示す説明図。
【図7】実施例にかかる、加熱硬化工程における加熱の第2段階A2において、熱硬化性樹脂がゲル化を始めた状態を示す説明図。
【図8】実施例にかかる、加熱硬化工程における加熱の第2段階A3において、熱硬化性樹脂が硬化するとともに熱収縮チューブが熱収縮する状態を示す説明図。
【図9】実施例にかかる、加熱硬化工程における加熱の第2段階A4において、熱収縮チューブが熱収縮した状態を示す説明図。
【図10】実施例にかかる、熱収縮チューブの予備収縮率が異なる場合について、図3と同様の時間変化を示すグラフ。
【図11】実施例にかかる、熱収縮チューブの予備収縮率が異なる場合について、図3と同様の時間変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述した内燃機関用点火コイル及びその製造方法における好ましい実施の形態につき説明する。
上記内燃機関用点火コイルの製造方法において、上記充填工程においては、上記コイル組付体の上記ケース内における隙間を真空状態にして、この隙間に上記熱硬化性樹脂を充填してもよい。真空状態とは、絶対真空に近い状態、あるいは大気圧よりも圧力が低い状態のことをいう。
【0016】
また、上記予備収縮工程においては、上記熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度付近の温度まで上記熱収縮チューブを加熱して、該熱収縮チューブを上記所定の収縮率まで予備収縮させてもよい(請求項2)。
この場合には、組付工程及び充填工程を行った後、加熱硬化工程を行う際に、コイル組付体の加熱温度が上昇し、熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度付近になるときに、熱収縮チューブの熱収縮を開始させることができる。このとき、熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度付近にあることにより、熱収縮チューブが熱収縮することに伴って生じるスペースへ熱硬化性樹脂が流れ込むことを抑制することができる。これにより、熱収縮チューブの外周と熱硬化性樹脂との間に、より大きな隙間を形成することができる。
上記熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度付近とは、上記熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度の±20℃以内とすることができ、この温度の±10℃以内とすることが好ましい。また、上記予備収縮工程においては、熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度以上の温度まで熱収縮チューブを加熱しておくことがより好ましい。
【0017】
また、上記予備収縮工程においては、上記熱収縮チューブは、その内径が縮小することを治具によって阻止しながら加熱した後に冷却することによって上記所定の収縮率まで熱収縮させてもよい(請求項3)。
この場合には、治具の外径を、中心コアの外周に装着するときの熱収縮チューブの内径の規定寸法に設定しておく。そして、熱収縮チューブは、その内径を規定寸法に維持して、所定の収縮率まで熱収縮(予備収縮)させることができる。これにより、熱収縮チューブを、所定の収縮率まで規定寸法で熱収縮させることができる。
【0018】
また、上記内燃機関用点火コイル及びその製造方法において、上記熱収縮チューブは、撥油性及び絶縁性を有する、フッ素系、シリコーン系又はポリエチレンテレフタレートの樹脂もしくはゴムのいずれかによって構成されていてもよい(請求項4、6)。
この場合には、熱収縮チューブが撥油性を有することによって、コイル組付体のケース内における隙間に熱可塑性樹脂の充填を行う際に、隙間から抜け出す気泡が付着しにくくすることができる。
【実施例】
【0019】
以下に、内燃機関用点火コイル及びその製造方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
図1には、内燃機関用点火コイル1(以下、単に点火コイル1という。)を断面にして示す。
同図に示すごとく、点火コイル1は、内外周に重ねて同心状に配置された一次コイル21及び二次コイル22と、一次コイル21及び二次コイル22の軸心位置に配置され、熱収縮チューブ231を外周に装着した中心コア23と、中心コア23と一次コイル21及び二次コイル22とを収容するケース3と、ケース3内に形成された隙間に充填された熱硬化性樹脂5とを備えている。
【0020】
図2には、点火コイル1の一部を拡大して示す。
同図に示すごとく、熱硬化性樹脂5は、一次コイル21及び二次コイル22のうち内周側に位置するコイル(本例では二次コイル22)が巻回された内周側スプール(本例では二次スプール221)の内周と熱収縮チューブ231の外周との間に充填されて形成された環状充填部分51を有している。環状充填部分51の内周と熱収縮チューブ231の外周との間には、熱収縮チューブ231が収縮することによって隙間S2が形成されている。
【0021】
本例の点火コイル1の製造方法においては、以下の各工程を行って点火コイル1を製造する。
まず、予備収縮工程として、熱収縮チューブ231を加熱して、この熱収縮チューブ231を、熱収縮がなくなる最大収縮率Cmaxよりも低い所定の収縮率C1(以下、予備収縮率C1という。)まで熱収縮させる。次いで、組付工程として、予備収縮させた熱収縮チューブ231を中心コア23の外周に装着し、中心コア23と一次コイル21及び二次コイル22とをケース3内に収容して、コイル組付体10を形成する。次いで、充填工程として、コイル組付体10のケース3内に形成された隙間を真空状態にし、この隙間に熱硬化性樹脂5を充填する。次いで、加熱硬化工程として、コイル組付体10を加熱して、熱硬化性樹脂5を硬化させる。
【0022】
図3には、加熱硬化工程において、コイル組付体10の加熱温度T(℃)、熱硬化性樹脂5の体積変化率V(%)、及び熱収縮チューブ231の収縮率増加量C’(%)の加熱時間t(H)による変化を示す。ここで、体積変化率Vは、熱硬化性樹脂5が単位時間当たりにどれだけ体積が変化したかを示し、収縮率増加量C’は、熱収縮チューブ231が予備収縮率C1からどれだけ熱収縮したかを示す。
加熱硬化工程においては、熱硬化性樹脂5を硬化させる第1温度T1にコイル組付体10の加熱温度Tを保って、熱硬化性樹脂5を硬化させ、その後、第1温度T1よりも高い第2温度T2にコイル組付体10の加熱温度Tを保って、熱収縮チューブ231を熱収縮させる。
【0023】
以下に、本例の内燃機関用点火コイル1及びその製造方法につき、図1〜図11を参照して詳説する。
図1に示すごとく、本例の点火コイル1は、内燃機関としてのエンジンにおけるプラグホールに配置し、プラグホールに取り付けられたスパークプラグに装着して用いるものである。
一次コイル21は、樹脂からなる一次スプール211の外周に巻回された一次巻線(マグネットワイヤ)によって形成されている。二次コイル22は、樹脂からなる二次スプール221の外周に巻回された、一次巻線よりも細い二次巻線(マグネットワイヤ)によって形成されている。二次コイル22は、一次コイル21の内周側に配置されている。本例において、一次コイル21及び二次コイル22のうち内周側に位置するコイルは二次コイル22であり、内周側スプールは二次スプール221である。なお、一次コイル21は、一次スプール211を用いずに形成することもできる。
中心コア23は、軟磁性材料からなる多数の電磁鋼板を積層して形成されている。なお、中心コア23は、磁性粉体を圧縮成形して形成することもできる。中心コア23は、その外周に熱収縮チューブ231が装着された状態で、二次スプール221の内周側に配置されている。
【0024】
ケース3は、一次コイル21、二次コイル22及び中心コア23等を収容し、プラグホール内に配置される筒状部分31と、プラグホールの外部に配置されるコネクタ部分32とによって構成されている。筒状部分31の下部には、二次巻線の高電圧巻線端部を接続する高電圧端子41、高電圧端子41に導通されるスプリング42、及びスパークプラグに装着されるプラグキャップ43が設けられている。コネクタ部分32には、点火コイル1を外部に電気接続するためのコネクタ接続部321、及び点火コイル1をエンジンに取り付けるための取付フランジ部322が設けられている。
ケース3の筒状部分31の外周には、軟磁性材料からなる電磁鋼板によって形成された外周コア24が配置されている。
熱硬化性樹脂5は、ベースとなる樹脂に硬化剤を混合して、所定の温度に加熱すると硬化するエポキシ樹脂である。このエポキシ樹脂が硬化する温度は、熱収縮チューブ231の熱収縮が最大収縮率Cmaxになるときの温度よりも低い。
【0025】
熱収縮チューブ231は、撥油性及び絶縁性を有する樹脂又はゴムから構成されている。熱収縮チューブ231は、フッ素系の樹脂もしくはゴム、シリコーン系の樹脂もしくはゴム、又はポリエチレンテレフタレートの樹脂もしくはゴムによって構成することができる。
熱収縮チューブ231は、熱を加えると、内径及び外径が縮小するように収縮するものである。熱収縮チューブ231は、加熱する温度に応じて収縮量が増大し、所定の温度にて熱収縮がなくなる性質を有している。
【0026】
図4には、横軸に加熱温度Tをとり、縦軸に収縮率Cをとって、熱収縮チューブ231の収縮率Cの温度変化を示す。同図に示すごとく、収縮率Cは、加熱温度Tが低いときには、増加勾配が大きくなるように変化し、加熱温度Tが高くなったときには、増加勾配が小さくなるように変化する。本例で用いる熱収縮チューブ231の最大収縮率Cmaxは、20〜35%である。
そして、予備収縮工程においては、予備加熱温度T0にて熱収縮チューブ231を所定の予備収縮率C1まで熱収縮させておき、加熱硬化工程においては、第2温度T2にて熱収縮チューブ231がさらに熱収縮させて目的とする最終収縮率C2になるまで熱収縮させる。また、熱硬化性樹脂5を加熱硬化させる第1温度T1は、予備加熱温度T0と第2温度T2との間に設定される。
【0027】
次に、本例の点火コイル1の製造方法につき詳説する。
本例の点火コイル1の製造方法は、熱収縮チューブ231の用い方に工夫を行い、熱収縮チューブ231と、その外周側に位置する熱硬化性樹脂5との間に、意図的に隙間S2を形成するものである。
本製造方法においては、まず、予備収縮工程として、所定の予備収縮率C1に熱収縮させた熱収縮チューブ231を準備する。予備収縮工程においては、図5に示すごとく、熱収縮チューブ231内に挿通させる治具6を用い、この治具6によって熱収縮チューブ231を規定寸法に拡径しながら加熱及び冷却を行って、熱収縮チューブ231を所定の予備収縮率C1まで熱収縮させておく。ここで、同図は、熱収縮チューブ231を拡径する治具6示す。
熱収縮チューブ231は、予備収縮させた後の状態における厚みが、0.1〜0.5mmの範囲内になるようにすることができる。
【0028】
治具6は、円柱形状を有しており、その外径は、中心コア23の外周に装着するときの熱収縮チューブ231の内径の規定寸法に設定されている。治具6の端部には、熱収縮チューブ231の拡径を案内するテーパ部61が設けられている。治具6は、熱収縮チューブ231の所定の予備収縮率C1を得る時の所定の予備加熱温度T0まで加熱した加熱炉内に配置しておく。
【0029】
熱収縮チューブ231を、所定の予備加熱温度T0(例えば、90〜110℃)に加熱された加熱炉内の治具6の外周を通過させる。そして、熱収縮チューブ231は、治具6のテーパ部61によって拡径されて、治具6の外周を通過する。このとき、熱収縮チューブ231は、規定寸法に維持された状態で、所定の予備加熱温度T0の時の収縮率C(予備収縮率C1)まで熱収縮する。その後、治具6の外周に配置された熱収縮チューブ231を急冷することにより、規定寸法に拡径されたままの状態で、所定の予備収縮率C1まで熱収縮した熱収縮チューブ231を得ることができる。
また、上記所定の予備収縮率C1の熱収縮チューブ231は、熱硬化性樹脂5がゲル化を開始する温度T3(90〜110℃)付近の温度まで熱収縮チューブ231を加熱して得る。
【0030】
次いで、組付工程として、予備収縮させた熱収縮チューブ231を中心コア23の外周に装着し、この中心コア23を、二次コイル22を巻回した二次スプール221の内周側に配置する。また、一次コイル21を巻回した一次スプール211の内周側に、二次コイル22を巻回した二次スプール221と中心コア23とを配置する。そして、中心コア23、一次スプール211及び二次スプール221をケース3内に配置し、ケース3の外周に外周コア24を配置する。こうして、その他の構成部品の配置も行って、コイル組付体10を形成する(図1参照)。同図は、コイル組付体10の隙間に熱硬化性樹脂5が充填された状態で記載している。
【0031】
次いで、充填工程として、コイル組付体10のケース3内における隙間を真空状態にする。この真空状態の形成は、コイル組付体10を、真空ポンプによって真空にした真空タンク内に配置することによって行うことができる。そして、ケース3内における隙間に熱硬化性樹脂5を充填する。
図6には、コイル組付体10のケース3内の隙間に熱硬化性樹脂5を充填した状態を拡大して示す。
充填工程及び加熱硬化工程においては、中心コア23の外周に装着された熱収縮チューブ231の外周と、二次スプール221の内周との間に形成された隙間においては、熱収縮チューブ231が撥油性を有していることにより、隙間内に残存して上昇する気泡が熱収縮チューブ231の表面に付着しにくくすることができる。
【0032】
次いで、加熱硬化工程として、上記真空状態を保ったまま、コイル組付体10を加熱して、熱硬化性樹脂5を硬化させる。
コイル組付体10は、その外部からの熱伝達によって加熱することができ、一次コイル21と二次コイル22との少なくとも一方に通電を行って加熱することもできる。
図3に示すごとく、コイル組付体10の加熱の初期段階(第1段階)A1においては、熱収縮チューブ231が所定の予備収縮率C1まで予め予備収縮していることにより、熱硬化性樹脂5が体積膨張する一方、熱収縮チューブ231が熱収縮を行わないようにすることができる。
加熱の初期段階においては、体積変化率V(%)が大きくなる一方、収縮率増加量C’(%)は0%のままである。
【0033】
そして、コイル組付体10の加熱温度Tが上昇し、熱硬化性樹脂5がゲル化を開始する温度T3付近になるときに、熱収縮チューブ231の熱収縮を開始させることができる。図3において、加熱温度Tがゲル化温度T3を超えるときから、熱収縮チューブ231の収縮率増加量C’が増加を始める。また、ゲル化温度T3を超えた後には、熱硬化性樹脂5が硬化を始めることにより、その体積変化率Vが小さくなっていく。
図7には、加熱温度Tがゲル化温度T3に到達した後の加熱の第2段階A2における熱硬化性樹脂5の変化を拡大して示す。同図に示すごとく、第2段階A2においては、熱硬化性樹脂5がゲル化を始め、熱硬化性樹脂5の多数の微細な固形物52が発生し始める。
【0034】
図8には、加熱温度Tを第1温度T1に保つ加熱の第3段階A3における、熱硬化性樹脂5及び熱収縮チューブ231の変化を拡大して示す。同図に示すごとく、第3段階A3においては、加熱温度Tを第1温度T1に保って、熱硬化性樹脂5を硬化させる。このとき、熱収縮チューブ231が熱収縮してその外径が縮小する際に、熱収縮チューブ231の外周側には、ゲル化した熱硬化性樹脂5の多数の微細な固形物52が引き寄せられるようにして残存する。
そして、この多数の微細な固形物52が、熱収縮チューブ231の外周と接触するとともに互いに接触し、多数の微細な固形物52同士の間に、多数の微細スペースS1が形成される。そして、熱硬化性樹脂5の硬化によって、多数の微細スペースS1へ熱硬化性樹脂5が流れ込むことを抑制することができる。
第3段階A3においては、加熱温度Tが第1温度T1に一定に保たれるために、熱収縮チューブ231の収縮率増加量C’は変化しない。
【0035】
図9には、加熱温度Tを第2温度T2に保つ加熱の第4段階A4における、熱硬化性樹脂5及び熱収縮チューブ231の変化を拡大して示す。同図に示すごとく、第4段階A4においては、加熱温度Tを第1温度T1よりも高い第2温度T2に保って、熱収縮チューブ231を熱収縮させる。このとき、熱収縮チューブ231の収縮率増加量C’がさらに増加し、熱収縮チューブ231が、目的とする最終収縮率C2になるまで熱収縮する。
また、第4段階A4においては、熱硬化性樹脂5が硬化していることにより、熱収縮チューブ231がさらに熱収縮してその外径が縮小することに伴って生じるスペースへ、熱硬化性樹脂5が流れ込むことを阻止することができる。これにより、二次スプール221の内周側に熱硬化性樹脂5による環状充填部分51が形成されるとともに、熱収縮チューブ231の外周と環状充填部分51の内周との間に隙間S2を形成することができる。隙間S2は、0.2〜500μmの幅Wの範囲内で形成される(図9参照)。
その後、コイル組付体10を常温まで冷却し、二次スプール221の内周側に位置する熱硬化性樹脂5の内周と熱収縮チューブ231の外周との間に、隙間S2が形成された点火コイル1を製造することができる。
【0036】
上記隙間S2の形成により、製造後の点火コイル1を使用する際に、点火コイル1における各構成部品の線膨張係数の差に起因して点火コイル1内に発生する熱応力を低減させることができる。そのため、熱硬化性樹脂5に微細なクラックが発生しにくくすることができる。また、熱硬化性樹脂5中に残存する微細な気泡によって熱硬化性樹脂5に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コア23へ伸展してしまうことを効果的に防止することができる。
【0037】
それ故、上記点火コイル1の製造方法によれば、熱硬化性樹脂5に微細なクラックが発生しにくくするとともに、熱硬化性樹脂5に微細なクラックが発生した場合でも、このクラックが中心コア23へ伸展してしまうことを効果的に防止することができる点火コイル1を製造することができる。
【0038】
なお、仮に、上記予備収縮工程を行わず、予備収縮を行っていない熱収縮チューブ231を加熱硬化工程において熱収縮させる場合には、次の問題が生じる。
すなわち、この場合には、コイル組付体10の加熱を開始すると同時に第1段階A1において熱収縮チューブ231が熱収縮を開始する。そして、熱収縮チューブ231が熱収縮することに伴って形成されるスペースには、ゲル化を始めていない熱硬化性樹脂5が流れ込むことになる。そのため、加熱硬化工程において、予備収縮させた熱収縮チューブ5を用いない場合には、熱収縮チューブ231の外周と、熱硬化性樹脂5の内周との間に隙間S2を形成することはできない。
【0039】
また、上記予備収縮工程において、熱収縮チューブ231の所定の予備収縮率C1は、熱収縮チューブ231を加熱する温度を異ならせて、適宜変更することができる。例えば、図10に示すごとく、予備収縮工程において、熱収縮チューブ231を加熱する予備加熱温度T0を高くし、予備収縮率C1を最終収縮率C2に近い値にすることができる。この場合には、加熱硬化工程の第1〜第3段階A1〜A3において、熱硬化性樹脂5がゲル化及び硬化を行っているときには、熱収縮チューブ231が熱収縮を行わず、第4段階A4において、コイル組付体10の加熱温度Tを第2温度T2にするときに初めて熱収縮チューブ231を熱収縮させることができる。この場合にも、二次スプール221の内周側に位置する熱硬化性樹脂5の内周と熱収縮チューブ231の外周との間に、若干の隙間S2を形成することができる。
【0040】
また、上記予備収縮工程において、例えば、図11に示すごとく、予備収縮工程において、熱収縮チューブ231を加熱する予備加熱温度T0を低くし、予備収縮率C1を小さな値にすることもできる。この場合には、加熱硬化工程の第1段階A1において、コイル組付体10の加熱温度Tを上昇させる際に、熱硬化性樹脂5のゲル化温度T3よりも低い温度から熱収縮チューブ231が熱収縮を開始することになる。この場合にも、二次スプール221の内周側に位置する熱硬化性樹脂5の内周と熱収縮チューブ231の外周との間に、若干の隙間S2を形成することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 内燃機関用点火コイル
21 一次コイル
22 二次コイル
221 二次スプール
23 中心コア
231 熱収縮チューブ
3 ケース
5 熱硬化性樹脂
51 環状充填部分
S1 多数の微細スペース
S2 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外周に重ねて同心状に配置された一次コイル及び二次コイルと、
該一次コイル及び二次コイルの軸心位置に配置され、熱収縮チューブを外周に装着した中心コアと、
該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを収容するケースと、
該ケース内に形成された隙間に充填された熱硬化性樹脂と、を備える内燃機関用点火コイルを製造する方法であって、
上記熱収縮チューブを加熱して、熱収縮がなくなる最大収縮率よりも低い所定の収縮率まで予備収縮させる予備収縮工程と、
上記予備収縮させた熱収縮チューブを上記中心コアの外周に装着し、該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを上記ケース内に収容して、コイル組付体を形成する組付工程と、
上記コイル組付体の上記ケース内に形成された隙間に上記熱硬化性樹脂を充填する充填工程と、
上記コイル組付体を加熱して、上記熱硬化性樹脂を硬化させる加熱硬化工程と、を含んでおり、
該加熱硬化工程においては、上記熱硬化性樹脂を硬化させる第1温度に上記コイル組付体の加熱温度を保って、上記熱硬化性樹脂を硬化させ、その後、上記第1温度よりも高い第2温度に上記加熱温度を保って、上記熱収縮チューブを熱収縮させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用点火コイルの製造方法において、上記予備収縮工程においては、上記熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度付近の温度まで上記熱収縮チューブを加熱して、該熱収縮チューブを上記所定の収縮率まで予備収縮させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内燃機関用点火コイルの製造方法において、上記予備収縮工程においては、上記熱収縮チューブは、その内径が縮小することを治具によって阻止しながら加熱した後に冷却することによって上記所定の収縮率まで予備収縮させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関用点火コイルの製造方法において、上記熱収縮チューブは、撥油性及び絶縁性を有する、フッ素系、シリコーン系又はポリエチレンテレフタレートの樹脂もしくはゴムのいずれかによって構成されていることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項5】
内外周に重ねて同心状に配置された一次コイル及び二次コイルと、
該一次コイル及び二次コイルの軸心位置に配置され、熱収縮チューブを外周に装着した中心コアと、
該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを収容するケースと、
該ケース内に形成された隙間に充填された熱硬化性樹脂と、を備えており、
該熱硬化性樹脂は、上記一次コイル及び二次コイルのうち内周側に位置するコイルが巻回された内周側スプールの内周と上記熱収縮チューブの外周との間に充填されて形成された環状充填部分を有しており、
該環状充填部分の内周と上記熱収縮チューブの外周との間には、該熱収縮チューブが収縮したことによる隙間が形成されていることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記熱収縮チューブは、撥油性及び絶縁性を有する、フッ素系、シリコーン系又はポリエチレンテレフタレートの樹脂もしくはゴムのいずれかによって構成されていることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項1】
内外周に重ねて同心状に配置された一次コイル及び二次コイルと、
該一次コイル及び二次コイルの軸心位置に配置され、熱収縮チューブを外周に装着した中心コアと、
該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを収容するケースと、
該ケース内に形成された隙間に充填された熱硬化性樹脂と、を備える内燃機関用点火コイルを製造する方法であって、
上記熱収縮チューブを加熱して、熱収縮がなくなる最大収縮率よりも低い所定の収縮率まで予備収縮させる予備収縮工程と、
上記予備収縮させた熱収縮チューブを上記中心コアの外周に装着し、該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを上記ケース内に収容して、コイル組付体を形成する組付工程と、
上記コイル組付体の上記ケース内に形成された隙間に上記熱硬化性樹脂を充填する充填工程と、
上記コイル組付体を加熱して、上記熱硬化性樹脂を硬化させる加熱硬化工程と、を含んでおり、
該加熱硬化工程においては、上記熱硬化性樹脂を硬化させる第1温度に上記コイル組付体の加熱温度を保って、上記熱硬化性樹脂を硬化させ、その後、上記第1温度よりも高い第2温度に上記加熱温度を保って、上記熱収縮チューブを熱収縮させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関用点火コイルの製造方法において、上記予備収縮工程においては、上記熱硬化性樹脂がゲル化を開始する温度付近の温度まで上記熱収縮チューブを加熱して、該熱収縮チューブを上記所定の収縮率まで予備収縮させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内燃機関用点火コイルの製造方法において、上記予備収縮工程においては、上記熱収縮チューブは、その内径が縮小することを治具によって阻止しながら加熱した後に冷却することによって上記所定の収縮率まで予備収縮させることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関用点火コイルの製造方法において、上記熱収縮チューブは、撥油性及び絶縁性を有する、フッ素系、シリコーン系又はポリエチレンテレフタレートの樹脂もしくはゴムのいずれかによって構成されていることを特徴とする内燃機関用点火コイルの製造方法。
【請求項5】
内外周に重ねて同心状に配置された一次コイル及び二次コイルと、
該一次コイル及び二次コイルの軸心位置に配置され、熱収縮チューブを外周に装着した中心コアと、
該中心コアと上記一次コイル及び二次コイルとを収容するケースと、
該ケース内に形成された隙間に充填された熱硬化性樹脂と、を備えており、
該熱硬化性樹脂は、上記一次コイル及び二次コイルのうち内周側に位置するコイルが巻回された内周側スプールの内周と上記熱収縮チューブの外周との間に充填されて形成された環状充填部分を有しており、
該環状充填部分の内周と上記熱収縮チューブの外周との間には、該熱収縮チューブが収縮したことによる隙間が形成されていることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関用点火コイルにおいて、上記熱収縮チューブは、撥油性及び絶縁性を有する、フッ素系、シリコーン系又はポリエチレンテレフタレートの樹脂もしくはゴムのいずれかによって構成されていることを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−105961(P2013−105961A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250008(P2011−250008)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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