説明

内耳細胞の生成

例えば、間葉系幹細胞等の幹細胞から、例えば、有毛細胞および支持細胞等の内耳の細胞を生成するための方法、ならびに内耳細胞を含む組成物を提供する。また、難聴の治療のための内耳細胞の治療上の使用のための方法も記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2006年11月15日に出願された米国暫定特許出願第60/859,041号の利益を主張するものであり、その全体の内容は、参照することにより本願明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府の支援による研究または開発
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)の国立聴覚・伝達障害研究所(National Institute on Deafness and other Communicative Disorders:NIDCD)からの認可番号F33 DC006789、RO1 DC007174、およびP30 DC05209の下で政府支援によりなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、内耳損傷を治療するために、骨髄間葉系幹細胞を使用し、例えば、有毛細胞および支持細胞等の内耳細胞を再生する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
神経細胞および有毛細胞は、難聴の細胞補充療法に用いられ得るため、内耳細胞を再生するための感覚細胞および神経細胞の源は、臨床的応用のための有益な手段を提供するであろう。最近の研究は、有毛細胞および神経細胞が内耳の内因性幹細胞と区別されることを示し(Li et al.,Nat Med 9,1293−1299(2003);Rask−Andersen et al.,Hear Res 203,180−191(2005))、他の研究は、前神経転写因子Atoh1が外因的に発現される時に、感覚上皮の内因性細胞を、有毛細胞に転換できることを示しているが(Izumikawa et al.,Nat Med 11,271−276(2005)、Zheng and Gao,Nat Neurosci 3,580−586(2000))、内耳の内因性幹細胞は、有毛細胞を自発的には生成しない。致死的な放射線を浴びたマウスを再構成するための、全骨髄の注入は、内耳間葉系細胞および線維細胞によって占有された領域内においてこれらの細胞の生着をもたらしたが、有毛細胞は得られなかった(Lang et al.,J Comp Neurol 496,187−201(2006))。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、少なくとも一部分において、幹細胞を誘発して有毛細胞および支持細胞に分化させるために使用することができる方法の発見に基づいている。したがって、有毛細胞および/または支持細胞の集団を提供するための方法、該細胞を含む組成物、ならびに、例えば、難聴である、または難聴を発症する危険性がある対象を治療するためにそれを使用する方法に関して本明細書に記載する。
【0006】
一態様において、本発明は、有毛細胞および/または支持細胞の集団を提供するための方法を提供する。該方法は、
神経性潜在力を有する幹細胞の集団を取得するステップと、
内耳前駆細胞への少なくとも一部の該幹細胞の分化を誘発するのに十分な条件下で、該幹細胞を培養するステップと、
(i)少なくとも一部の該内耳前駆細胞が有毛細胞に分化することを誘発するのに十分な量および時間で、該内耳前駆細胞内でAtoh1の発現を誘発するステップ、
(ii)少なくとも一部の該内耳前駆細胞が有毛細胞に分化することを誘発するのに十分な量および時間で、該内耳前駆細胞をNotchシグナル阻害剤(例えば、γセクレターゼ阻害剤または阻害性核酸)と接触させるステップ、または
(iii)該内耳前駆細胞の少なくとも一部が、有毛細胞に分化するのに十分な時間および条件下で、ニワトリ耳胞細胞の存在下において該内耳前駆細胞を培養し、
それによって、有毛細胞および/または支持細胞の集団を提供するステップ、
のうちの1つ(または1つ以上)を行うステップと、を含む。
【0007】
一部の実施形態においては、該方法は、内耳前駆細胞、有毛細胞、および/または支持細胞を単離し、例えば、それらの精製集団を提供するステップを含む。
【0008】
一部の実施形態においては、該内耳前駆細胞は、ネスチン、sox2、musashi、Brn3C、Pax2、およびAtoh1を発現する。
【0009】
一部の実施形態においては、該有毛細胞は、Atoh1、jagged2、Brn3c、p27Kip、Ngn1、NeuroD、ミオシンVIIaおよびエスピンから成る群から選択される1つ以上の遺伝子を発現する。一部の実施形態においては、該有毛細胞は、jagged2、Brn3c、ミオシンVIIaおよびエスピンを発現する。一部の実施形態においては、該有毛細胞該細胞の頂端膜側上にVパターンでFアクチンを発現する。
【0010】
一部の実施形態においては、該支持細胞は、クローディン14、コネキシン26、p75Trk、Notch 1、およびS100Aのうちの1つ以上を発現する。
【0011】
一部の実施形態においては、該方法は、それを必要としている対象に、例えば、該対象の感覚上皮またはその付近に、該細胞を移植するステップをさらに含む。一部の実施形態においては、幹細胞の集団は、該移植を必要としている対象から取得される。
また、本明細書に記載した方法によって取得される有毛細胞、支持細胞、および内耳前駆細胞の単離集団に関しても本明細書に記載する。
【0012】
別の態様において、本発明は、例えば、聴覚障害または前庭障害等の障害を有する、または発症する危険性がある対象を治療するための方法を特徴とし、該障害は、有毛細胞および/または支持細胞の移植で治療可能であり、該方法は、本明細書に記載した方法によって取得された細胞を、該対象の蝸牛に移植し、それによって、該対象を治療するステップを含む。これらの実施形態においては、これは、幹細胞の集団が、該移植を必要としている該対象から取得された場合に好適である。
【0013】
一部の実施形態においては、該細胞内でAtoh1の発現を誘発するステップは、例えば、アデノウイルス、レンチウイルス、またはレトロウイルス等の、例えば、プラスミドベクターまたはウイルスベクター等のAtoh1ポリペプチドをコードするベクターを有する該細胞を形質導入することによって、該細胞内で外因性Atoh1の発現を誘発するステップを含む。
【0014】
一部の実施形態においては、該幹細胞内で外因性Atoh1の発現を誘発するステップは、例えば、Atoh1プロモーターの活性を増加させることによって、または内因性Atoh1プロモーターを、より高活性プロモーターで置換することによって、内因性Atoh1の発現を増加させるステップを含む。
一部の実施形態においては、少なくとも一部の該幹細胞が、有毛細胞に分化するのに十分な時間および条件下で、ニワトリ耳胞細胞の存在下において該幹細胞を培養するステップは、IGF、EGF、およびFGFを含む培地中で該幹細胞を培養するステップを含む。
【0015】
一部の実施形態においては、本明細書に記載した方法で使用される幹細胞は、間葉系幹細胞である。一部の実施形態においては、本明細書に記載した方法で使用される幹細胞は、ヒト幹細胞である。
【0016】
上記のように、本発明は、本明細書に記載した方法によって単離される細胞、ならびにそれらを含有する組成物も特徴とする。
【0017】
難聴である、または発症する危険性のある対象(例えば、ヒト等の哺乳類)を治療するための方法もまた本明細書に記載する。これらの方法は、細胞または細胞の集団(本明細書に記載されているように、例えば、幹細胞の集団を分化することによって取得された有毛細胞の集団)を、患者の耳に、例えば、蝸牛に投与するステップを含む。該投与された細胞は、本明細書に記載した方法によって取得され得、出発物質は、治療される患者から取得された幹細胞であり得る。
【0018】
難聴を治療するために、本明細書に記載した該細胞を利用する特定の利点があり得る。例えば、該幹細胞は、臨床的応用のためにヒトから取得することができる。該幹細胞はヒトから採取することができ、具体的には、治療を必要としているヒトから採取することができるため、異種および同種移植実験によく見られる免疫学的障害を大幅に回避することができる。
【0019】
特に定義のない限り、本明細書で使用する全ての技術および科学用語は、本発明の属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明において使用するための方法および材料を本明細書に記載し、また、当技術分野において既知の他の適切な方法および材料も使用することができる。該材料、方法、および実施例は、例示的であるに過ぎず、限定することを意図するものではない。全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、および本明細書に言及される他の参考文献は、参照することによってそれら全体が本願明細書に組み込まれる。矛盾する場合、定義を含み、本明細書が優先する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、以下の発明を実施するための形態および図面から、ならびに特許請求項の範囲から明らかになろう。
【図1A】CD44、CD45、CD34およびSca−1に対する抗体、続いて、TRITC(ミディアムグレー、原文では赤で示される)で標識されたマウス免疫グロブリンに対する2次抗体で免疫染色した3代継代からの骨髄MSCの4つの顕微鏡写真の列である。CD34およびCD45に対する染色は陰性であったが、CD44およびSca−1が発現された。核は、DAPI(暗いグレー、原文では青)で染色した。
【図1B】CD44(最初のパネル、ミディアムグレー、原文では赤で示される)およびネスチン(2番目のパネル、明るいグレー、緑で示される)に対して免疫標識された3代継代からの骨髄MSCの4つの顕微鏡写真の列である。3番目のパネルは、DAPI核染色(原文では青)である。最も右のパネルの混合画像は、両方のマーカー(最も明るいグレー、原文では黄色/オレンジ)を有する細胞の集団の共染色を示す。
【図1C】Sca−1(最初のパネル、原文では赤)およびネスチン(2番目のパネル、原文では緑)の同時発現に対して染色された3代継代からの骨髄MSCの4つの顕微鏡写真の列である。最も右のパネルの混合画像は、共染色を示す。
【図1D】列挙した抗体(CD44は最初のパネル、Sca−1は2番目のパネル、CD34は3番目のパネル、およびCD45は最後のパネル)のそれぞれに対する免疫陽性細胞の割合を示すチップフローサイトメトリーによる骨髄MSCの分析結果を示す4つの図の列であり、軸は、「蛍光」および「現象数」である。
【図1E】TGF−βでの骨髄MSCの治療後の軟骨細胞および細胞外基質の形成によって示される、系列分化の可能性を示す一対の顕微鏡写真である。微小凝集塊(左)から増殖した細胞は、II型コラーゲン(右)に対して染色した。
【図1F】神経細胞増殖補充剤およびbFGFを含有する無血清培地中の分化による、神経細胞への骨髄MSCの分化を示す一対の顕微鏡写真である。神経フィラメント(NF−M)に対する染色を、これらの細胞において示す。
【図2A】IGF−1、EGFおよびbFGFで14日間処理し、続いて分析したMSCのRT−PCRによる神経前駆体マーカーに関する遺伝分析結果を示すゲルである。MSC(骨髄MSC)、NP(前駆体形成の誘発後2週間の神経前駆体)。分析したこれらの遺伝子をゲルの左側に示す。
【図2B】FITC(2B、2C右上パネル、原文では緑で示される)で標識された2次抗体を使用し、免疫組織化学で可視化した神経前駆体マーカーであるネスチンが、CD44(2B、左上パネル、原文では赤で示される)およびSca−1(2C、左上パネル、原文では赤で示される)と同時発現されたことを示す2セットの2つの顕微鏡写真である。DAPIは、青で示す(各図の左下パネル)。スケールバーは50μmである。各図の右下パネルにおける混合画像は、ネスチンおよびCD44(2B)またはSca1(2C)(全ての細胞は、原文では緑で表示され、同時発現を示す)の同時発現を示す。
【図2C】FITC(2B、2C右上パネル、原文では緑で示される)で標識された2次抗体を使用し、免疫組織化学で可視化した神経前駆体マーカーであるネスチンが、CD44(2B、左上パネル、原文では赤で示される)およびSca−1(2C、左上パネル、原文では赤で示される)と同時発現されたことを示す2セットの2つの顕微鏡写真である。DAPIは、青で示す(各図の左下パネル)。スケールバーは50μmである。各図の右下パネルにおける混合画像は、ネスチンおよびCD44(2B)またはSca1(2C)(全ての細胞は、原文では緑で表示され、同時発現を示す)の同時発現を示す。
【図3A】NT3、FGFおよびBDNF(内耳内の神経および感覚細胞前駆体を支持する)中でインキュベートされた前駆体細胞のRT−PCRによる遺伝分析結果を示すゲルである。遺伝子プロファイルは、Oct4、ネスチン、Otx2、およびMusashi、ならびに前神経転写因子である、GATA3、NeuroD、Ngn1、Atoh1、Brn3c、およびZic2の発現を含んだ。これらの細胞は、有毛細胞遺伝子ミオシンVIIaおよびエスピンを発現しなかった。
【図3B】NT3、FGF、およびBDNFでの誘発後に取得された細胞のRT−PCRによる遺伝分析結果を示すゲルである。支持細胞(クローディン14、コネキシン26、p75Trk、Notch1、およびS100A)の特徴を示す遺伝子も観察された。したがって、これらの前駆細胞は、神経または感覚前駆体の特徴を示す発現プロファイルを有した。分析した遺伝子をゲルの左側に示す。
【図4A】骨髄MSC中のAtoh1の外因性発現を示す顕微鏡写真であり、発現(原文では緑)は、ベクターからのGFPの発現に起因して、細胞および核で観察された。
【図4B】Atoh1を形質移入し、次いで、NT3、FGFおよびBDNFでの細胞で処理した細胞内の遺伝子発現の結果を示すゲルである。結果は、このプロトコルが、前神経遺伝子であるNgn1およびNeuroDに加えて、エスピン、ミオシンVIIa、jagged2、およびBrn3c、ならびにp27Kipを含む、有毛細胞遺伝子を発現する細胞にその後成長する前駆細胞を生じさせることを示す。
【図4C】4Bに記述した分化条件下における、細胞のさらなる遺伝分析結果を示すゲルであり、結果は、細胞が、支持細胞表現型を有する一部の細胞と一致して、S100A、p75Trk、クローディン14、コネキシン26、およびNotch1もまた発現したことを示した。
【図4D】Zeocin中で選択されたMSC細胞株の顕微鏡写真であり、細胞は、血清中で培養された時に、GFP発現(原文では緑)の高い割合を有した。
【図4E】Myo7a(最初のパネル)、Math1/Atoh1(2番目のパネル)、またはDAPI(3番目のパネル)に対して染色した細胞の4つの顕微鏡写真の列であり、最後のパネルは混合画像である。分化後、DAPI核当たりの有毛細胞様の細胞の数は上昇し、これらの細胞を、ミオシンVIIa(最初のパネルに赤で示される)およびAtoh1(2番目のパネルに緑で示される、2番目および最後のパネルの矢印)に対して染色した。
【図4F】Brn3c(2番目の縦列、原文では緑、矢印で示される)に対して免疫陽性であり、ミオシンVIIa(最初の縦列、原文では赤、矢印で示される)に対して細胞質陽性であった、核を有する細胞に分化した細胞株を発現するAtoh1の2列の4つの顕微鏡写真である。核は、DAPI(3番目の列、原文では青)で染色した。
【図4G】分化した細胞が、不動毛束(矢印)の形で細胞の尖部から突出するFアクチンに対して陽性であったことを示す3つの顕微鏡写真の列である。
【図4H】Fアクチン染色が、頂端膜側上に特徴的なVパターンで整列されたことを示す3つの顕微鏡写真の列である。
【図5A】骨髄MSC由来の前駆体が、マイトマイシンC(MitoC)で処理されたニワトリ耳胞細胞とともに、21日間同時培養した遺伝子分析の結果を示すゲルであり、結果は、jagged2、p27Kip、Atoh1、Brn3c、ミオシンVIIaおよびエスピンの発現が増加した一方で、ニワトリ細胞内のこれらの遺伝子の発現が検出不可能であったことを示した。パラホルムアルデヒドでのインキュベーションによって固定されたニワトリ耳胞細胞は、固定されていない細胞よりも効果が弱かった(PFA)が、前駆体の分化を生じさせた。ニワトリ細胞(Cnd Med)からの馴化培地は、効果が無かった(これらのマーカーの発現レベルは、分化条件に関して以前に示されたデータと同様)。
【図5B】Atoh1−GFPマウスからの細胞におけるAtoh1(Math−1、中央パネル、原文では緑)およびミオシンVIIa(上パネル、原文では赤)の発現が、核においてこのマーカーの誘発に対応して緑色蛍光を示し、細胞質においてミオシンVIIaの発現を有したことを示す3つの顕微鏡写真のセットである。
【図6A】Atoh1を発現する細胞への骨髄細胞の転換を示唆する蛍光(原文では緑)の増加を示す4つの顕微鏡写真のセットである。細胞は、Atoh1(Math1、左下、原文では緑)、ミオシンVIIa(左上、原文では赤)およびDAPI(右上、原文では青)に対して染色した。混合画像はを右下パネルに示す。
【図6B】Atoh1を発現する細胞が、ニワトリ4耳上皮の組織内に取り込まれたことが発見されたことを示す顕微鏡写真である。ニワトリ有毛細胞は、ニワトリに特異的なマーカーであるHCA(原文では白)およびミオシンVIIa(原文では赤)で染色したが、Atoh−1を発現するマウス細胞は、GFP(矢印)の発現のために緑色であった。
【図6C】緑色蛍光を有さなかった細胞内のHCA(矢印、下パネル)の存在によって示される細胞融合の欠乏およびニワトリ細胞のためのマーカーであるHCAに対して染色しなかった細胞内でのみのAtoh1−GFP(矢印、右縦列)の欠乏を示す4つの顕微鏡写真のセットである。これらの実験において、GFPおよびHCAの両方を有する細胞は観察されなかった。スケールバーは、100μmである。
【図7】γセクレターゼの阻害剤よるNotchシグナルの阻害が有毛細胞マーカーの発現を増加させる後の、細胞の遺伝子分析の結果を示すゲルである。γセクレターゼ阻害剤で処理したMSCにおける遺伝子発現は、Notchシグナルの損失がAtoh1発現を増加させたことを示した。阻害のタイミングは非常に重要であり、生体外における合計10日間の分化において、第1日目に添加したγセクレターゼ阻害剤は、有毛細胞マーカーであるミオシンVIIaおよびエスピンの増加をもたらしたが、その一方で、第3日目で添加した阻害剤は、有毛細胞マーカーを誘発しなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
幹細胞は、内耳に存在するが(Li et al.,Trends Mol Med 10,309−315(2004)、Li et al.,Nat Med 9,1293−1299(2003)、Rask−Andersen et al.,Hear Res 203,180−191(2005))、有毛細胞は損傷後に再生せず、したがって、これらの感覚細胞の治療的置換における細胞移植のために使用される可能性がある細胞源は、感音難聴の治療にとって重要な意味を有する。骨髄は採取され、臨床的応用において広範に使用されており、また、患者の骨髄からの細胞が、免疫拒絶の問題なく移植され得る可能性があるので、極めて望ましい源である。本発明の方法は、本明細書に記載した方法によって取得された有毛細胞の移植を含む、難聴の治療計画を含む。
【0022】
内耳における有毛細胞形成に必要とされる、増殖因子刺激および転写因子であるAtoh1の発現の組み合わせによって、本発明者らは、幹細胞、例えば、骨髄に由来する間葉系幹細胞を有毛細胞に分化するように誘発することができることを実証する。さらに、骨髄から取得した神経感覚前駆体は、Atoh1発現の非存在下においてさえも、発生中の感覚上皮の細胞とともに同時培養することによって、感覚細胞に転換することができる。
【0023】
骨髄中の幹細胞は、全てのリンパ球および赤血球細胞のための前駆物質として既知であるが、骨髄中の間葉系幹細胞も骨、軟骨、および脂肪細胞への前駆物質の役割を果たす(Colter et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 97,3213−3218(2000);Pittenger et al.,Science 284,143−147(1999))。間葉組織に加えて、これらの幹細胞は、膵臓細胞(Hess et al.,Nat Biotechnol 21,763−770(2003))、筋細胞(Doyonnas et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 101,13507−13512(2004))および神経細胞(Dezawa et al.,J Clin Invest 113,1701−1710(2004);Hermann et al.,J Cell Sci 117,4411−4422(2004)、Jiang et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 100 Suppl 1,11854−11860(2003))を含む、他の系列の細胞を生じさせることを示した。本明細書に提供した根拠は、感覚神経系列の細胞を含み、さらに内耳の有毛細胞への分化を含む、これらの骨髄由来の細胞に利用可能な広範囲の細胞の運命を実証する。
【0024】
内耳の細胞を生成するための方法
前駆細胞ならびに有毛細胞および支持細胞を含む分化した内耳細胞を含む、内耳の細胞を生成するための方法を提供する。幹細胞は、広範な増殖が可能な未分化の細胞である。幹細胞は、多能性であり、神経細胞、筋細胞、血液細胞、上皮細胞,皮膚細胞、および内耳の細胞(例えば、有毛細胞およびらせん神経節の細胞)を含む、体内の殆どの細胞型に分化する能力を有すると考えられる(Pedersen,Scientif.Am.280:68(1999))。幹細胞は、分化することなく、生体外の継続的増殖が可能である。それらが分裂するにつれて、正常核型を保持して、成体細胞型するために分化する能力を保持する。
【0025】
骨髄内にある造血幹細胞は、血液細胞源であるが、これらの造血幹細胞に加えて、骨髄は、全ての3つの胚葉の細胞型に分化することができる間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)を含有する(Colter et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 97,3213−3218(2000)、Doyonnas et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 101,13507−13512(2004)、Herzog et al.,Blood 102,3483−3493(2003)、Hess et al.,Nat Biotechnol 21,763−770(2003)、Jiang et al.,Nature 418,41−49(2002)、Pittenger et al.,Science 284,143−147(1999))。これは、常在組織型に分化することができる特定の組織へ移植された骨髄細胞を追跡する研究において、生体内で実証されている(Mezey et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 100,1364−1369(2003)、Weimann et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 100,2088−2093(2003))。
【0026】
これらの細胞の多くは移植のために使用されており、移植された細胞が、治療される患者から採取される時に免疫学的に一致するため、およびそれらの安全性が分かるように臨床的応用において広範に使用されているため、治療のための好適な新しい細胞源である。
【0027】
幹細胞は、様々な程度に分化することができる。例えば、幹細胞は、懸滴培養において胚様体と称される細胞集合体を形成することができる。胚様体は、中間フィラメントタンパク質をコードする、Sox1およびネスチン遺伝子等の初期マーカー遺伝子のそれらの発現によって選択することができる神経前駆細胞を含有する(Lee et al.,Nat.Biotech.18:675−9,2000)。
【0028】
神経性幹細胞
内耳細胞または内耳細胞前駆体は、哺乳類幹細胞から生成することができる。本明細書に記載されているように、本発明の方法における使用に適切な幹細胞は、神経性潜在力を有する任意の幹細胞、つまり、神経細胞、グリア、星状膠細胞、網膜の光受容器、乏突起膠細胞、嗅細胞、有毛細胞、支持細胞等の神経細胞に分化する可能性を有する任意の幹細胞であることができる。骨髄間葉系幹細胞等のヒト成体幹細胞を含む神経性幹細胞は、有毛細胞および支持細胞を含む成熟内耳細胞を生じさせることが可能な内耳前駆細胞に分化するように誘発することができる。本明細書に記載した方法において有用な神経性幹細胞は、ネスチン、sox1、sox2、およびmusashi等の特定の神経性幹細胞マーカーの発現によって同定することができる。代替的にまたは付加的に、これらの細胞は、高レベルのヘリックスループヘリックス転写因子であるNeuroD、Atoh1、およびニューロゲニン1を発現する。
【0029】
神経性幹細胞の例は、耳(例えば、内耳)、中枢神経系、血液、皮膚、眼または骨髄等の成熟(例えば、成体)組織に由来する胚幹細胞または幹細胞を含む。一部の実施形態においては、幹細胞は、間葉系幹細胞である。幹細胞を培養し、内耳細胞(例えば、有毛細胞または支持細胞)への分化を誘発するための本明細書に記載した方法のいずれをも使用することができる。
【0030】
内耳の細胞を生成するのに有用な幹細胞は、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、ヤギ、または非ヒト霊長類等の哺乳類から得ることができる。例えば、幹細胞は、マウス卵形嚢斑から同定および単離されている(Li et al.,Nature Medicine 9:1293−1299,2003)。
【0031】
神経前駆細胞の生成
増殖因子処理(例えば、本明細書に記載されているように、EGF、FGF、およびIGFを用いる処理)およびニューロトロフィン(例えば、本明細書に記載されているように、NT3およびBDNFを用いる処理)を含む、神経性潜在力を有する幹細胞の、神経前駆細胞への分化を誘発するための、当技術分野において既知の多くの誘発プロトコルがある。他の分化プロトコルは、当技術分野において既知であり、例えば、Corrales et al.,J.Neurobiol.66(13):1489−500(2006)、Kim et al.,Nature 418,50−6(2002)、Lee et al.,Nat Biotechnol 18,675−9(2000)、およびLi et al.,Nat Biotechnol 23,215−21(2005)を参照されたい。
【0032】
誘発プロトコルの一例として、幹細胞は、前駆細胞への分化を誘発する補足的増殖因子の存在下において増殖する。これらの補足的増殖因子を、培養培地に添加する。補足的増殖因子の種類および濃度は、細胞の増殖特性を調節するように(例えば細胞が分化するように刺激または感作すること)、および神経細胞、グリア細胞、支持細胞または有毛細胞等の分化した細胞の生存を可能にするように調整される。
【0033】
例示的な補足増殖因子は、下記に詳述され、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth Factor:bFGF)、インスリン様の増殖因子(insulin−like growth Factor:IGF)、および上皮増殖因子(epidermal growth Factor:EGF)を含むが、これらに限定されない。代替として、補足的増殖因子は、神経栄養因子ニューロトロフィン−3(NT3)および脳由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic Factor:BDNF)を含むことができる。増殖因子の濃度は、約100ng/mLから約0.5 ng/mL(例えば、約60ng/mL、約50ng/mL、約40ng/mL、約30ng/mL、約20ng/mL、約10ng/mL、または約5ng/mL等の約80ng/mLから約3ng/mL)の範囲に及ぶことができる。
【0034】
これらの方法によって産生される神経前駆細胞は、内耳前駆細胞、つまり、有毛細胞および支持細胞等の内耳細胞を生じさせることができる内耳前駆細胞を含む。内耳前駆細胞は、特定の内耳に特異的なマーカー遺伝子Brn3C、Pax2、およびAtoh1に加えて、ネスチン、sox2、およびmusashi等のマーカー遺伝子の発現によって同定することができる。本発明は、ネスチン、sox2、musashi、Brn3C、Pax2、およびAtoh1を発現する精製された内耳前駆細胞の集団を含む。これらの内耳前駆細胞は、系列拘束され、本明細書に記載した方法によって、有毛細胞および支持細胞にさらに分化するように誘発することができる。
本明細書に記載した方法によって調製された前駆細胞は、今後の使用のために任意で凍結することができる。
【0035】
細胞培養方法
本明細書に記載した方法においては、概して、標準的な培養方法を使用する。適切な培養培地は、Liら(上記参照)等の当技術分野において記述されている。例えば、幹細胞は、血清を含まないDMEM/高グルコースおよびF12培地(1:1で混合)中で培養することができ、N2およびB27溶液ならびに増殖因子を補充することができる。EGF、IGF−1、およびbFGF等の増殖因子は、培養中の球形成を増大させることが実証されている。生体外で、幹細胞は、単一細胞の増殖によって球を形成する特有の可能性を示すことが多い。したがって、球の同定および単離は、内耳の分化した細胞を作るのに用いる成熟組織から幹細胞を単離する工程に役立つことができる。培養した幹細胞の増殖培地は、1つ以上の、または任意の組み合わせの増殖因子を含有することができる。これは、幹細胞が分化することを防ぐ血病抑制因子(leukemia inhibitory Factor:LIF)を含む。細胞(および球の細胞)が分化するように誘発するため、培地は、培地を欠いている増殖因子と交換することができる。例えば、培地は、N2およびB27溶液を補充される無血清DMEM/高グルコースおよびF12培地(1:1で混合)であることができる。また、同等の代替的な培地および栄養分も使用することができる。培養条件は、当技術分野において既知の方法を使用して最適化することができる。
【0036】
Atoh1の発現による分化
本明細書に記載されているように、幹細胞由来の前駆細胞内でのAtoh1の発現は、有毛細胞マーカーを採用するように、それらを駆動させるのに十分であった。耳内でのAtoh1発現の研究は、このヘリックスループヘリックス転写因子が、有毛細胞の分化に対する内耳転写因子の階層において重要な位置を占めることを示している。
【0037】
Atoh1核酸およびポリペプチドは、当技術分野において既知であり、例えば、米国特許第6,838,444号および第7,053,200号、ならびに特許付与前公開第2004/0237127号および第2004/0231009号に記載されており、参照することによってそれら全体が本願明細書に組み込まれる。一部の実施形態においては、Atoh1は、ヒトアトナール相同体1(ATOH1)、ATH1、およびHATH1であるか、またはそれらと少なくとも80%、85%、90%、93%、または95%同一である(さらなる情報は、Ben−Arie et al.,Molec.Genet.5:1207−1216(1996)、Bermingham et al.,Science 284:1837−1841 (1999)、OMIM *601461、UniGene Hs.532680、GenBankアクセッション番号NM_005172.1(核酸)およびNP_005163.1(ポリペプチド)を参照)。例えば、マウスAtoh1(Math1としても知られている。GenBankアクセッション番号NM_007500.2)、ニワトリAtoh1(Cath1としても知られている。GenBankアクセッション番号AF467292.1)等の他の種も使用することができる。
【0038】
ヒトAtoh1mRNA(CDS=−1065)およびポリペプチド配列は、以下の通りである。
1 atgtcccgcc tgctgcatgc agaagagtgg gctgaagtga aggagttggg agaccaccat
61 cgccagcccc agccgcatca tctcccgcaa ccgccgccgc cgccgcagcc acctgcaact
121 ttgcaggcga gagagcatcc cgtctacccg cctgagctgt ccctcctgga cagcaccgac
181 ccacgcgcct ggctggctcc cactttgcag ggcatctgca cggcacgcgc cgcccagtat
241 ttgctacatt ccccggagct gggtgcctca gaggccgctg cgccccggga cgaggtggac
301 ggccgggggg agctggtaag gaggagcagc ggcggtgcca gcagcagcaa gagccccggg
361 ccggtgaaag tgcgggaaca gctgtgcaag ctgaaaggcg gggtggtggt agacgagctg
421 ggctgcagcc gccaacgggc cccttccagc aaacaggtga atggggtgca gaagcagaga
481 cggctagcag ccaacgccag ggagcggcgc aggatgcatg ggctgaacca cgccttcgac
541 cagctgcgca atgttatccc gtcgttcaac aacgacaaga agctgtccaa atatgagacc
601 ctgcagatgg cccaaatcta catcaacgcc ttgtccgagc tgctacaaac gcccagcgga
661 ggggaacagc caccgccgcc tccagcctcc tgcaaaagcg accaccacca ccttcgcacc
721 gcggcctcct atgaaggggg cgcgggcaac gcgaccgcag ctggggctca gcaggcttcc
781 ggagggagcc agcggccgac cccgcccggg agttgccgga ctcgcttctc agccccagct
841 tctgcgggag ggtactcggt gcagctggac gctctgcact tctcgacttt cgaggacagc
901 gccctgacag cgatgatggc gcaaaagaat ttgtctcctt ctctccccgg gagcatcttg
961 cagccagtgc aggaggaaaa cagcaaaact tcgcctcggt cccacagaag cgacggggaa
1021 ttttcccccc attcccatta cagtgactcg gatgaggcaa gttag(配列番号1)

MSRLLHAEEWAEVKELGDHHRQPQPHHLPQPPPPPQPPATLQAREHPVYPPELSLLDSTDPRAWLAPTLQGICTARAAQYLLHSPELGASEAAAPRDEVDGRGELVRRSSGGASSSKSPGPVKVREQLCKLKGGVVVDELGCSRQRAPSSKQVNGVQKQRRLAANARERRRMHGLNHAFDQLRNVIPSFNNDKKLSKYETLQMAQIYINALSELLQTPSGGEQPPPPPASCKSDHHHLRTAASYEGGAGNATAAGAQQASGGSQRPTPPGSCRTRFSAPASAGGYSVQLDALHFSTFEDSALTAMMAQKNLSPSLPGSILQPVQEENSKTSPRSHRSDGEFSPHSHYSDS
DEAS(配列番号2)
【0039】
マウスAtoh1mRNA(CDS=196−1251)およびポリペプチド配列、以下の通りである。
1 tcgacccacg cgtccgccca cgcgtccgga tctccgagtg agagggggag ggtcagagga
61 ggaaggaaaa aaaaatcaga ccttgcagaa gagactagga aggtttttgt tgttgttgtt
121 cggggcttat ccccttcgtt gaactgggtt gccagcacct cctctaacac ggcacctccg
181 agccattgca gtgcgatgtc ccgcctgctg catgcagaag agtgggctga ggtaaaagag
241 ttgggggacc accatcgcca tccccagccg caccacgtcc cgccgctgac gccacagcca
301 cctgctaccc tgcaggcgag agaccttccc gtctacccgg cagaactgtc cctcctggat
361 agcaccgacc cacgcgcctg gctgactccc actttgcagg gcctctgcac ggcacgcgcc
421 gcccagtatc tgctgcattc tcccgagctg ggtgcctccg aggccgcggc gccccgggac
481 gaggctgaca gccagggtga gctggtaagg agaagcggct gtggcggcct cagcaagagc
541 cccgggcccg tcaaagtacg ggaacagctg tgcaagctga agggtggggt tgtagtggac
601 gagcttggct gcagccgcca gcgagcccct tccagcaaac aggtgaatgg ggtacagaag
661 caaaggaggc tggcagcaaa cgcaagggaa cggcgcagga tgcacgggct gaaccacgcc
721 ttcgaccagc tgcgcaacgt tatcccgtcc ttcaacaacg acaagaagct gtccaaatat
781 gagaccctac agatggccca gatctacatc aacgctctgt cggagttgct gcagactccc
841 aatgtcggag agcaaccgcc gccgcccaca gcttcctgca aaaatgacca ccatcacctt
901 cgcaccgcct cctcctatga aggaggtgcg ggcgcctctg cggtagctgg ggctcagcca
961 gccccgggag ggggcccgag acctaccccg cccgggcctt gccggactcg cttctcaggc
1021 ccagcttcct ctgggggtta ctcggtgcag ctggacgctt tgcacttccc agccttcgag
1081 gacagggccc taacagcgat gatggcacag aaggacctgt cgccttcgct gcccgggggc
1141 atcctgcagc ctgtacagga ggacaacagc aaaacatctc ccagatccca cagaagtgac
1201 ggagagtttt ccccccactc tcattacagt gactctgatg aggccagtta ggaaggcaac
1261 agctccctga aaactgagac aaccaaatgc ccttcctagc gcgcgggaag ccccgtgaca
1321 aatatccctg caccctttaa tttttggtct gtggtgatcg ttgttagcaa cgacttgact
1381 tcggacggct gcagctcttc caatcccctt cctcctacct tctccttcct ctgtatgtag
1441 atactgtatc attatatgta cctttacgtg gcatcgtttc atggtccatg ctgccaatat
1501 gctgctaaaa tgtcgtatct ctgcctctgg tctgggtttc acttatttta taccttggga
1561 gttcatcctt gcgtgttgcg ctcactcaca aataagggag ttagtcaatg aagttgtttc
1621 cccaactgct tgagacccgc attgggtact ttactgaaca cggactattg tgttgttaaa
1681 atgcaggggc agataagagt atctgtagag cttagacacc aagtgtgtcc agcagtgtgt
1741 ctagcggacc cagaatacac gcacttcatc actggccgct gcgccgcctt gaagaaactc
1801 aactgccaat gcagagcaac ttttgatttt aaaaacagcc actcataatc attaaactct
1861 ttgcaaatgt ttgtttttgc aaatgaaaat taaaaaaaaa catgtagtgt caaaggcatt
1921 tggtcaattt tattttgctt tgttaacatt agaaaagtta tttattattg cgtatttgga
1981 cccatttcta cttaattgcc ttttttttac attttctact cgagatcgtt ttattttgat
2041 ttagcaaatc cagttgccat tgctttatgt atgtatgctc ttttacaaat gataaaataa
2101 actcggaaaa aaaaaaaaaa aaaaaaaaaa aaaaaaaaaa aaaa(配列番号3)

MSRLLHAEEWAEVKELGDHHRHPQPHHVPPLTPQPPATLQARDLLVRRSGCGGLSKSPGPVKVREQLCKLKGGVVVDELGCSRQRAPSSKQVNGVQKQRRLAANARERRRMHGLNHAFDQLRNVIPSFNNDKKLSKYETLQMAQIYINALSELLQTPNVGASSGGYSVQLDALHFPAFEDRALTAMMAQKDLSPSLPGGILQPVQEDNSKTSPRSHRSDGEFSPHSHYSDSDEAS(配列番号4)
【0040】
ニワトリCath1mRNA(CDS=1−717)およびポリペプチド配列は、以下の通りである。
1 atggccccag gaggtagcga gtgttgttgc agtgatgccg cgcacatcac ttggaggcag
61 tgggagtaca cgcacgagaa ccaactgtgc gtggcaggaa ctgtcagcag gatgaggccc
121 aggacgtggg tctgcaccgg atctttgtgg gaccaggaag cgggaattac tttgatgggc
181 ccccaaatac ccaaagtgga tgaggcagga gtgatgaccc acccggcaag gtcgctttgc
241 agcactgggg cacatccgtg tcccggggtg gtcgtgctgc ccacgggtgg gatagggcag
301 ccttcaaaga agctctccaa gtacgagacg ctgcagatgg cgcaaatcta catcagcgcc
361 ctcgccgagc ttctgcacgg gccgcccgcg ccccccgagc cgcccgccaa ggccgagctc
421 cgcggggccc ccttcgagcc tcccccgccg ccccctcctc cgccgccccg cgcctcgccc
481 cccgcgcccg ccaggactcg cttccccccg gcggcggccg cgggcggttt cgcggcgctt
541 ctcgagccgc tgcgcttccc ttctttcccg gcgcagaaag cgccttctcc cgcgctgctc
601 ctggggccgc ccgcgccgca gcagcccgag aggagcaaag cgtcgccgcg ctctcaccgc
661 agcgacgggg agttctcgcc gcgctcccac tacagtgact cggacgaggc cagctag
(配列番号5)

MAPGGSECCCSDAAHITWRQWEYTHENQLCVAGTVSRMRPRTWVCTGSLWDQEAGITLMGPQIPKVDEAGVMTHPARSLCSTGAHPCPGVVVLPTGGIGQPSKKLSKYETLQMAQIYISALAELLHGPPAPPEPPAKAELRGAPFEPPPPPPPPPPRASPPAPARTRFPPAAAAGGFAALLEPLRFPSFPAQKAPSPALLLGPPAPQQPERSKASPRSHRSDGEFSPRSHYSDSDEAS(配列番号6)
【0041】
2つのアミノ酸配列、または2つの核酸配列のパーセント同一性を決定するため、配列は、最適に比較できるように整列される(例えば、ギャップは、最適な整列のために、第1および第2のアミノ酸または核酸配列の一方または両方に導入することができ、非相同配列は、比較目的のために無視することができる)。比較目的で整列された参照配列の長さは、参照配列の少なくとも80%の長さであり、一部の実施形態においては、少なくとも90%または100%である。次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置で、アミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列中の位置が、第2の配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占められるなら、分子は、その位置で同一である(本明細書で使用するアミノ酸または核酸の「同一性」は、アミノ酸または核酸の「相同性」と同等である)。2つの配列間の同一率(%)は、2つの配列の最適な整列のために導入する必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮した上での、配列によって共有される同一の位置の数の関数である。
【0042】
本発明の目的のために、配列の比較および2つの配列間同一率の決定は、12のギャップペナルティ、4のギャップ拡張ペナルティ、および5のフレームシフトギャップペナルティを適用するBlossum62スコアリングマトリックスを使用して達成することができる。
【0043】
一部の実施形態においては、該方法は、ストリンジェントな条件下で、ヒトAtoh1mRNAとハイブリダイズする核酸によってコードされるAtoh1ポリペプチドを細胞内で発現するステップを含む。本明細書で使用する「ストリンジェントな条件」という用語は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する条件を表す。本明細書で使用されるストリンジェントな条件は、65℃での0.5Mリン酸ナトリウム、7%SDS、続いて、65℃での0.2XSSC、1%SDSでの1回以上の洗浄のことである。例えば、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,N.Y.(2006)を参照されたい。
【0044】
一部の実施形態においては、該方法は、幹細胞内で外因性Atoh1を発現するステップを含む。これは、例えば、細胞内に発現ベクターを導入することによって達成することができる。本明細書で使用する「ベクター」という用語は、それに連結され、プラスミド、コスミドまたはウイルスベクターを含むことができる別の核酸を運搬することが可能な核酸分子を指す。ベクターは、自己複製が可能であり得るか、または宿主DNAに統合することができる。ウイルスベクターは、例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスを含む。
【0045】
ベクターは、宿主細胞内の核酸の発現に適切な形でAtoh1核酸を含むことができる。概して、発現ベクターは、発現される核酸配列に操作可能なように連結される1つ以上の調節配列を含む。「調節配列」という用語は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含む。調節配列は、ヌクレオチド配列、ならびに組織特異的な調節および/または誘導性配列の恒常的発現を方向付けるものを含む。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、所望されるタンパク質の発現レベル等の因子に依存し得る。発現ベクターは、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈、DEAE−デキストラン媒介の形質移入、リポフェクション、または電気穿孔を含む、当技術分野において既知の方法を使用して、宿主細胞に導入することができる。例えば、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,N.Y.(2006)を参照されたい。
【0046】
本発明の方法において、幹細胞内に発現されたAtoh1ポリペプチドは、本明細書に記載されているように、有毛細胞および/または支持細胞への間葉系幹細胞の分化を誘発する能力を有するであろう。
【0047】
ニワトリ耳胞での培養による分化
また、本明細書に記載されているように、幹細胞由来の前駆細胞は、外因性Atoh1を必要とすることなく、感覚上皮細胞に分化させることによって、ニワトリ胚からの発生中の耳胞細胞との物理的接触にも応答した。これは、本明細書に記載されているように、同時培養および分化後の、Atoh1エンハンサー−GFPレポーター構築からのnGFP発現およびミオシンVIIaの同時発現から明らかであった。胎生期マウスからの耳胞および後脳条件培地でのインキュベーションによる先行研究(Kondo et al.,Proc Natl Acad Sci U S A102,4789−4794(2005))において、感覚細胞のマーカーを発現する神経細胞は、骨髄MSCから誘発された。
【0048】
したがって、本明細書に記載した方法は、例えば、本明細書に記載されているように、E3胎生期ニワトリから単離された細胞等の耳胞細胞と、前駆細胞を接触させるステップを含むことができる。
【0049】
一部の実施形態においては、方法は、耳胞細胞の融合層当たり約50,000細胞の割合で、または無傷耳胞(下記の実施例を参照)内に100,000細胞を注入することによって、耳胞細胞とともに前駆細胞を培養するステップを含む。代替として、幹細胞は、当技術分野において既知の方法を使用して、例えば、約4日間ニワトリ耳胞の培養と接触した培地を使用して産生することができるニワトリ耳胞条件培地の存在下において、培養することができる。
【0050】
Notchシグナルの阻害による分化
Notchは、原形質膜受容体であり、Notch経路は、Notchおよびそのリガンド、ならびにNotchシグナルを核に伝達する細胞内タンパク質から成る。Notch経路内には、経路のエフェクター機能を有する転写因子が含まれる。
Notchシグナルは、1つの細胞が所与の運命の間、(例えば、有毛細胞への分化)細胞クラスターから選抜される側方抑制に関与する。分化は、分化するように選択されなかったそれらの細胞内で阻害され、その結果、細胞のクラスターの多くの部分への特定の運命拘束が予防される。側方抑制は、発生時に繰り返し生じる。この過程の中心となるのは、Delta、ScabrousおよびSerrateを含む、幾つかのリガンドのうちの1つのNotch受容体への結合である。Notchリガンドへのリガンド結合は、側方抑制をもたらす一連の細胞内事象を引き起こす。Notch経路に関するレビューは、Artavanis−Tsakonas et al.,Science 268:225−232(1995)に記載されている。本明細書に記載されているように、本明細書に記載した内耳前駆細胞におけるNotchの阻害は、有毛細胞および支持細胞への細胞の分化をもたらす。
【0051】
したがって、本明細書に記載した方法の一部の実施形態においては、前駆細胞は、Notchシグナル経路阻害剤の存在下において増殖する。例示的なNotch経路阻害剤は、γセクレターゼ阻害剤を含み、その多くは当技術分野において既知である(例えば、アリールスルホンアミド(AS)、ジベンザゼピン(DBZ)、ベンゾジアゼピン(BZ)、N−[N−(3,5−ジフルオロフェナセチル)−L−アラニル]−(S)−フェニルグリシンt−ブチルエステル(DAPT)、L−685,458(Sigma−Aldrich)、およびMK0752(Merck)。有用な濃度は、選択した阻害剤に依存する。
【0052】
他のNotch阻害剤は、阻害性核酸(例えば、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、およびモルホリノオリゴであり、例えば、阻害配列を選択および最適化するための遺伝子ウォーク方法等のそれらを設計する、作る、および使用するための方法は、当技術分野において既知であり、例えば、Engelke,RNA Interference(RNAi):The Nuts&Bolts of siRNA Technology,(DNA Press,2004)、Mol,Antisense Nucleic Acidand Proteins,(CRC,1994)、Sioud,Ribozymes and Sirna Protocols(Methodsin Molecular Biology),(Humana Press、2nd edition 2004)、およびPhilips,Antisense Therapeutics (Methods in Molecular Medicine),(Humana Press 2004)を参照)を含み、Notch(例えば、Presente et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.101(6):1764−1768(2004)、Ivanov et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.101(46):16216−16221(2004)を参照)またはそのリガンド、つまり、DeltaもしくはJagged(例えば、Patzel et al.,Nature Biotechnology 23,1440−1444(2005)、Purow et al.,Cancer Research 65:2353−2363(2005)、またはStallwood et al.,J.Immunol.177:885−895(2006)を参照)を標的にする。代替として、細胞は、m−Numb(GenBankアクセッション番号NP_001005743.1)を発現するように修飾することができ、または乱すことができる(Dvl;ヒト相同体は、GenBankアクセッション番号NM_004421.2(変異体1)、NM_004422.2(変異体2)、およびNM_004423.3(変異体3)にあり、両方ともNotchシグナリングの内因性阻害剤である。
【0053】
分化をアッセイ
幹細胞が、前駆細胞に、または例えば有毛細胞もしくは支持細胞等の内耳の細胞に分化されたことを判定するために、様々な方法を利用することができる。例えば、細胞は、細胞マーカー遺伝子の発現に対して検査することができる。有毛細胞マーカー遺伝子は、ミオシンVIIa(myoVIIa)、Atoh1、α9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3、およびBrn3cを含む。支持細胞マーカーは、クローディン14、コネキシン26、p75Trk、Notch1およびS100Aを含む。多能性幹細胞は、概して、これらの遺伝子を発現しない。これらの遺伝子の1つ以上を発現する細胞を伝播および産生する幹細胞は、有毛細胞を産生しており、つまり、幹細胞は、少なくとも部分的に有毛細胞に分化した。内耳前駆細胞(有毛細胞の前駆物質)に分化した幹細胞は、ネスチン、sox2、musashi、Brn3C、Pax2、およびAtoh1等の初期耳マーカー遺伝子を発現する。前駆細胞は、これらの遺伝子の1つ以上を発現することができる。前駆細胞は、増殖因子の存在下において、無血清培地中で伝播することができる。増殖因子の除去およびAtoh1の発現、またはニワトリ耳胞での同時培養は、細胞が、さらに有毛細胞および支持細胞等に分化するように誘発するであろう。
【0054】
有毛細胞または有毛細胞前駆体(例えば、幹細胞から分化した有毛細胞、支持細胞、または前駆細胞)の同定は、本明細書に記載されているように、マーカー遺伝子の発現を検出することによって容易にすることができる。遺伝子発現の産物の検出は、免疫細胞化学によって行うことができる。免疫細胞化学技術は、適切な抗原に対する抗体を使用した細胞または組織の染色を伴う。この場合、適切な抗原は、組織特異的な遺伝子発現のタンパク質産物である。原理上は、第1の抗体(つまり、抗原を結合する抗体)は標識することができるが、第1の抗体に対して作られた第2の抗体(例えば、抗IgG)を使用することがより一般的である(および可視化を改善させる)。この第2の抗体は、1次抗体の位置、したがって抗原を認識できるように、蛍光色素、または比色反応のために適切な酵素、またはゴールドビーズ(電子顕微鏡法のため)、あるいはオチン−アビジン系に抱合される。タンパク質マーカーは、これらの抗原に対する抗体を使用するフローサイトメトリーによって、または細胞抽出物のウエスタンブロット分析によって検出することもできる。
【0055】
代替的にまたは付加的に、遺伝子発現は、直接的に分析することができ、例えば、発現レベルを検出および比較するために使用することができる定量的RT−PCR等の定量的PCRを含む、当技術分野において既知のPCR方法を使用して分析することができる。
【0056】
治療方法
本明細書に記載した方法は、治療上の使用のために、細胞を生成するために使用することができる。治療方法は、それを必要としているヒトの耳に移植するための本明細書に記載した方法を使用して、幹細胞から、内耳の細胞(例えば、有毛細胞または支持細胞)を生成するステップを含む。対象の内耳への細胞の移植は、対象の聴力を回復もしくは改善するために、または前庭機能不全の症状を減少させるために有用であり得る。本明細書に記載した方法によれば、幹細胞に由来する内耳細胞は、治療上有用となるように完全に分化する必要はない。対象における聴覚障害の任意の症状を改善させる部分的に分化した細胞は、治療的組成物および本明細書に記載した方法にとって有用である。
【0057】
内耳の障害を有する、またはそのような障害を発症する危険性があるヒトは、本明細書に記載する方法を使用して幹細胞から生成された内耳細胞(有毛細胞または支持細胞)で治療することができる。成功した生着において、少なくとも一部の移植された有毛細胞は、例えば、らせん神経節細胞とのシナプス接合を形成し、内耳の感覚上皮に統合されるであろう。細胞が生着する能力を改善するため、幹細胞を、分化に先立って修飾することができる。例えば、細胞は、前駆体または分化した細胞内で1つ以上の抗アポトーシス遺伝子を過剰発現させるように操作することができる。FakチロシンキナーゼまたはAkt遺伝子は、この目的に有用であり得る候補抗アポトーシス遺伝子であり、FAKまたはAktの過剰発現は、らせん神経節細胞内における細胞死を防止して、外植したコルチ器官(例えば、Mangi et al.,Nat.Med.9:1195−201(2003)を参照)等の別の組織に移植される時に、生着を促進することができる。αβインテグリンを過剰発現させる神経前駆細胞は、インテグリンが、ラミニン基質(Aletsee et al.,Audiol.Neurootol.6:57−65(2001))上のらせん神経節神経細胞からの神経突起伸長を媒介することが証明されているため、神経突起を組織外植片内に伸長させる増強された能力を有し得る。別の実施例において、エフリンB2およびエフリンB3の発現は、EphA4シグナル伝達事象を修飾するために、RNAiでのサイレンシングまたは外因的に発現されたcDNAでの過剰発現等によって変化させることができる。らせん神経節神経細胞は、エフリン−B2および−B3(Brors et al.,J.Comp.Neurol.462:90−100(2003))の細胞表面発現によって媒介されるEphA4からのシグナルによって誘導されることが証明されている。この誘導シグナルの不活性化は、成体内耳におけるそれらの標的に到達する神経細胞の数を増強し得る。ニューロトロフィンBDNFおよびNT3、ならびにLIF等の外因性因子は、神経突起の伸長ならびに生体内の標的組織および生体外組織培養に向けたそれらの増殖を増強させるために、組織移植片に添加することができる。感覚神経細胞の神経突起伸長は、ニューロトロフィン(BDNF、NT3)およびLIFの添加によって増強することができる(Gillespie et al.,NeuroReport 12:275−279(2001))。またソニックヘッジホッグ(Shh)ポリペプチドまたはポリペプチド断片(例えば、SHH−N)も、神経突起伸長を増強させるために、内因性因子として有用であり得る。Shhは、内耳に対する発生的修飾因子であり、軸索(Charron et al.,細胞113:11 23(2003))に対する化学誘引物質である。
【0058】
難聴を経験しているまたは発症する危険性があるいなかるヒトも、本明細書に記載する治療方法の候補者である。例えば、そのようなヒトは、本明細書に記載した方法によって生成された内耳有毛細胞または支持細胞の移植片を受け取ることができる。難聴である、または難聴を発症する危険性があるヒトは、平均的ヒトほど良好に聞こえず、または難聴を経験する前のヒトほど良好に聞こえない。例えば、聴覚は、少なくとも5、10、30、50%以上減少し得る。ヒトは、耳の感覚部分(蝸牛)もしくは神経部分(聴神経)の損傷もしくは機能不全に起因する感音難聴、または外耳および/または中耳内の妨害もしくは損傷によって生じる伝音難聴である可能性があり、あるいはヒトは、伝音経路(外耳または中耳内)および神経経路(内耳)の両方における問題によって生じる混合性難聴である可能性がある。混合性難聴の実施例は、加齢に付随する損傷に起因する感音障害と同時に発生する中耳感染症に起因する伝音障害である。
【0059】
対象は、任意の理由で、または任意の種類の事象の結果として、聾または難聴である可能性がある。例えば、ヒトは、遺伝子または先天性欠損のために聾である可能性があり、例えば、ヒトは、生まれつき聾である可能性があるか、または遺伝子または先天性欠損に起因して聴覚が徐々に失われた結果として、聾または聴力低下である可能性がある。別の例において、ヒトは、耳の身体的外傷、または突然の大きな騒音、あるいは大きな騒音への長時間暴露等の外傷性の事象の結果として聾または聴力低下である可能性がある。例えば、コンサート会場、空港の滑走路、および建設地域への長時間暴露は、内耳損傷およびその後の難聴を引き起こし得る。ヒトは、化学的に誘発された聴器毒性を経験する可能性があり、聴器毒性薬物は、抗悪性腫瘍薬、サリチル酸、キニーネ、およびアミノグリコシド系抗菌薬を含む治療薬、食物または医薬品中の混合物、ならびに環境または産業性汚染物質を含む。ヒトは、加齢によって生じる聴覚障害であり得るか、またはヒトは、耳鳴(耳の中で鳴り響く音に特徴付けられる)を有し得る。
【0060】
細胞は、任意の適切な方法で投与することができる。例えば、聴覚を回復するため、本明細書に記載する方法によって生成された内耳細胞は、細胞懸濁液等の形で、注入によって蝸牛の管腔等の耳に移植することができる。例えば、Corrales et al.,J.Neurobiol.66(13):1489−500(2006)およびHu et al.,Experimental Cell Research 302:40−47(2005)に記載された方法を参照。例えば、耳の正円窓を通じて、または蝸牛周囲の骨嚢を通じて注入することができる。細胞は、正円窓を通じて、内耳道内の聴神経幹に、または鼓室階に注入することができる。好適な実施形態において、細胞は、対象の感覚上皮に、またはその付近に、例えば、感覚上皮の上または下の液体(外リンパ)で充填された空間、つまり中心階、鼓室階、または前庭階に投与される。
【0061】
代替として、治療的組成物および本明細書に記載する方法に適切なヒトは、両側性および片側性前庭機能不全を含む、前庭機能不全を有するヒトを含む。前庭機能不全は、浮動性眩暈、不均衡、眩暈、悪心、および不鮮明な視覚を含む症状に特徴付けられる内耳機能不全であり、聴覚問題、疲労、認知機能の変化を伴う場合がある。前庭機能不全は、遺伝子もしくは先天性欠損、ウイルスもしくは細菌感染症等の感染症、または外傷性もしくは非外傷性障害等の障害の結果であり得る。前庭機能不全は、障害の個々の症状(例えば、眩暈、悪心、および不鮮明な視覚)を測定することによって検査することが最も多い。これらの実施形態においては、本明細書に記載した方法によって生成された内耳細胞は、例えば注入によって、細胞懸濁液等の形で、前庭系の器官に、例えば、卵形嚢、膨大部および球形嚢に移植することができる。細胞は、概して、これらの器官の外リンパ内に、または前庭(3器官を連結させる)内に注入されるであろう。
【0062】
本明細書に記載する内耳細胞または内耳細胞前駆体での治療後に、ヒトを、聴覚または内耳障害に関連する他の症状の改善に関して検査することができる。聴覚を測定するための方法は既知であり、純音聴力検査、気導、および骨伝導テストを含む。これらの検査は、ヒトが聞くことができる音量(強度)および音階(周波数)の限界を測定する。ヒトにおける聴覚試験は、一般行動聴力検査(7ヶ月までの乳児に対して)、視覚強化詮索聴力検査(7ヶ月から3歳の子供に対して)および3歳より上の子供に対する遊戯聴力検査を含む。耳音響放射検査は、蝸牛の有毛細胞の機能をテストするために使用することができ、蝸電図法は、蝸牛の機能および脳への神経経路の基部に関する情報を提供する。
【0063】
治療的組成物および本明細書に記載した方法は、難聴、聴覚消失、または内耳機能の損失に付随する他の聴力障害を予防できるように、予防的に使用することができる。例えば、分化剤を含有する組成物は、聴覚障害に影響を及ぼし得る治療等の第2の治療とともに投与することができる。そのような耳毒性薬物は、抗生物質ネオマイシン、カナマイシン、アミカシン、バイオマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、エリスロマイシン、バンコマイシン、およびストレプトマイシン、シスプラチン等の化学療法剤、トサルチル酸コリンマグネシウム、ジクロフェナク、ジフルニサル、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メクロフェナム酸、ナブメトン、ナプロキセン、オキサプロジン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、サルサラート、スリンダク、およびトルメチン等の非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti−inflammatory drug:NSAID)、利尿薬、アスピリン等のサリチル酸、ならびにキニーネおよびクロロキン等の特定のマラリア治療を含む。
【0064】
また、例えば、化学療法中のヒトは、本明細書に記載した方法によって、本明細書に記載される内耳細胞または内耳細胞前駆体を投与することができる。例えば、化学療法剤シスプラチンは、難聴を生じさせることが既知である。したがって、分化剤を含有する組成物は、シスプラチン副作用の重度を予防する、または和らげるために、シスプラチン療法とともに投与することができる。本明細書に記載される内耳細胞または内耳細胞前駆体は、第2の治療剤の前、その後および/またはそれと同時に投与することができる。2つの治療は、概して、異なる投与経路によって投与される。
本発明において特徴とされる組成物および方法は、感音有毛細胞損失または聴覚性神経障害によって生じる聴覚障害の治療に適している。例えば、感音有毛細胞損失のある患者は、蝸牛の有毛細胞の変性を経験し、これは、有毛細胞損失の領域におけるらせん神経節神経細胞の損失に繋がることが多く、また、コルチ器官における支持細胞の損失、ならびに側頭骨材料における角膜縁、らせん靱帯、および血管条の変性も経験し得る。そのような患者は、内耳への支持細胞および/または有毛細胞の投与から特に恩恵を受け得る。
【0065】
実施例
本発明を、以下の実施例においてさらに説明するが、これらは、特許請求の範囲において記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0066】
実施例1:間葉系幹細胞からの感覚前駆体
間葉系幹細胞は、高血清条件下において、髄からの接着細胞を培養することによって、マウス骨髄から取得した。
簡潔に述べると、細胞は、10%ウシ胎仔血清(FBS、BioWhittaker,Cambrex,NY)および1mMグルタミン(Gibco/BRL)を含有するMEM−α(Gibco/BRL)で、骨髄を洗い流すことによって、4週齢C57BL/6またはAtoh1−nGFPマウス(Helms et al.,Development 127,1185−1196(2000))の両側性大腿骨および脛骨から取得した。ペレット細胞は再懸濁し、RBC溶解緩衝液(Gibco/BRL)と混合した。約5×10細胞は、5%CO大気中37℃で、9%ウマ血清、9%FBS、1%Gluta−Max(Invitrogen)ならびに100単位/mlペニシリンおよびストレプトマイシン(100μg/ml、Sigma)を有するMEM−αにおいて、一晩10cmディッシュ上で培養した。非接着造血幹細胞を除去して、接着骨髄間質細胞を残した。細胞が集密的になった時に、トリプシン処理を行い、細胞を培養して3から5回継代し、培地は3〜4日ごとに交換した。これらの細胞を間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)と称する。
【0067】
免疫組織化学は、以下の通りに行った。細胞を、PBS中4%パラホルムアルデヒドで10分間固定した。免疫染色は、1%BSAおよび5%ヤギ血清(PBT1)を補充したPBS中0.1%TritonX−100で、1時間切片を再水和し、遮断することによって開始した。固定および透過処理された細胞または再水和された切片を、PBT1中で一晩インキュベートした。1:40に希釈したCD34、CD44、CD45、Sca−1抗体(BD Biosciences)を、抽出した骨髄細胞の特徴付けのために使用した。有毛細胞および骨髄前駆体は、1:500に希釈したニワトリ有毛細胞特異的抗原に対するモノクローナル抗体(Guy Richardsonからのギフト(Bartolami et al.,J Comp Neurol 314,777−788(1991))、ミオシンVIIaに対するポリクローナル抗体、1:500(Oshima et al.,J Assoc Res Otolaryngol.8(1):18−31(2007))、ネスチンに対するモノクローナル抗体、1,000(Developmental Studies Hybridoma Bank,Iowa City,IA)、パルブアルブミン3に対するポリクローナル抗体、1:2,000(Heller et al.,J Assoc Res Otolaryngol 3,488−498 (2002))、Atoh1に対するモノクローナル抗体、1:100(Developmental Studies Hybridoma Bank)、神経フィラメントMに対するモノクローナル抗体、1:200(Chemicon)、II型コラーゲンに対するポリクローナル抗体、1:40(Chemicon)、Brn3cに対するポリクローナル抗体(Covance,Princeton)、Cy−5抱合型Fアクチン1:1000(Molecular probe)を使用して特徴付けした。試料は、20分3回それぞれPBSで洗浄した。FITC−、TRITC−、およびCy−5−(Jackson ImmunoResearch)に抱合された抗ウサギ、抗モルモットおよび抗マウス2次抗体を、1次抗体を検出するために使用した。試料は、10分間DAPIで対比染色し(Vector Laboratories)、射蛍光顕微鏡(Axioskop 2 Mot Axiocam,Zeiss)または共焦点顕微鏡(TCS,Leica)で観察した。免疫陽性細胞の計数は、20の無作為に選択された顕微鏡視野中300の細胞を計数することによって行い、有意性をスチューデントt−検定で計算した。
【0068】
また、フローサイトメトリー分析も行った。MSCは、CD34、CD44、CD45またはSca−1(BD Biosciences)に対する抗体でインキュベートし、TRITCと抱合された2次抗マウス抗体でさらにインキュベートした。データを取得し、Agilent 2100 Bioanalyzerシステムおよびフローサイトメトリーチップ(Agilent Technology Inc.,Palo Alto,CA)を使用して分析した。2次抗体単独からの蛍光が2%未満となるように参照窓を設定した。
【0069】
MSCは、骨髄中の造血幹細胞に対するマーカーであるCD34およびCD45に陰性であり(Jiang et al.,Nature 418,41−49(2002);Pittenger et al.,Science 284,143−147(1999))、MSCに対するマーカーであるCD44およびSca−1に陽性であった(Dezawa et al.,J Clin Invest 113,1701−1710(2004))。免疫組織化学に基づくと、Sca−1は5.2%の細胞上に存在し、CD44は11.5%の細胞上に存在し、フローサイトメトリーで決定した割合は同様であった(図1Aおよび1Dならびに表1)。CD44およびネスチンの同時発現ならびに少ない割合の細胞上にSca−1およびネスチンを検出した(図1Bおよび1C)。
【0070】
【表1】

【0071】
陽性細胞は、DAPIによって染色した合計核との関連で計数した。データは、10回の別々の実験についての平均±標準誤差である。ネスチンでの細胞染色の増加は有意であり(p<0.001)、ネスチンおよびCD44(p<0.001)ならびにネスチンおよびSca−1(p<0.05)の両方に対する細胞染色が増加も同様であった。
【0072】
MSCの、以前に報告されている、軟骨細胞(Pittenger et al.,Science 284,143−147(1999))および神経細胞(Dezawa et al.,J Clin Invest 113,1701−1710(2004))に転換される能力を確認した。軟骨細胞分化のために、MSCをミクロペレット内に形成し、10ng/ml TGFbeta1、6.25ug/mlトランスフェリンおよび6.25ug/mlインスリンで2週間培養した。軟骨細胞に分化するそれらの可能性を図1Eに示す。神経分化のために、MSCを、bFGF(10ng/ml)を補充したN2/B27を含有するDMEM/F12 1:1中で、14日間およびFGFなしで7日間培養した。これは、神経マーカー(図1F)によって示すように、神経細胞への分化をもたらした(Dezawa et al.,J Clin Invest 113,1701−1710(2004))。
【0073】
内耳前駆細胞の初期発生において重要な耳胞増殖因子が、MSCへの効果と同様の効果を有し得るかどうかを判定するために、3〜5代継代後にMSCから血清を除去し、IGF−1、EGFおよびbFGFを含有する無血清培地中で細胞を培養した。
【0074】
前駆細胞の誘発のために、3〜5代継代MSCをトリプシン処理し、5×10細胞/mlでポリ−L−オルニチンおよびゼラチンまたはフィブロネクチン(Sigma)で被覆した6−ウェルプレートまたは4ウェルプレート(BD Bioscience)に移動した。細胞を5〜7日間培養し、次いで、N2/B27 補充剤(Invitrogen)を含有するDMEM/F12 1:1で構成される無血清培地中で培養した。前駆細胞誘発のために、EGF(20ng/ml)およびIGF(50ng/ml、R&D Systems,Minneapolis,MN)の組み合わせを2週間、続いて、bFGF(10ng/ml)に加えて他の増殖因子の添加をさらに2週間、またはNT3(30ng/ml)およびbFGF(10ng/ml)の組み合わせを4〜5日間、続いてNT3(30ng/ml)およびBDNF(10ng/ml)を7日間使用した。
【0075】
半定量的RT−PCRを以下の通りに行った。総RNAは、製造業者の使用説明書に従って、RNAeasyミニキット(Qiagen,Valencia,CA)を用いて抽出した。逆転写のために、6μgの総RNAをSuperScriptIII転写酵素(Invitrogen)およびオリゴ−dTプライマーとともに使用した。PCRサイクリング条件は、パイロット実験において最適化した。特定のサイクリングパラメータは、初回変性ステップを94℃で2分間、変性を94℃で30秒、56〜60℃間で最適化されたアニーリング温度で30秒、72℃60秒間の伸長、72℃60秒間の伸長、および続いて、最後のサイクル後に72℃で末端伸長を7分間であった。サイクル数は、30から35で最適化し、条件は、各プライマーに対して一定を保った。これらの提示されるデータは、少なくとも5回繰り返された実験からのものである。逆転写酵素を有さない対照PCRは、特異的なバンドを産生しなかった。プライマー対およびcDNA産物の長さは以下の通りであった。
【0076】
【表2】




【0077】
結果として生じた培養物における神経前駆細胞マーカーの発現を評価した際、Otx2、ネスチン、Sox2、およびMusashiは、RT−PCR(図2A)に基づくMSCと比べて、本明細書においてその後前駆細胞と称されるこれらの細胞において増加量で発現された。Pax6は、前駆細胞内で発見されたが、MSC内では発見されなかった(図2A)。Pax2は発現されなかった。低レベルのPax5が検出されたが、Pax8は発現されなかった(データは図示せず)。同様のパターンの発現は、前駆細胞内で発現された幹細胞マーカーOct4に対して見られが、興味深いことに、幹細胞の多能性を維持する役割を考慮すると、MSC内では発見されなかった。MSC(図2A)と比較した前駆細胞内のネスチンの発現の増加は、免疫組織化学(図2Bおよび図2Cならびに表1)で確認され、有意(p<0.001)であった。有毛細胞および神経系列(Atoh1、Brn3c、GATA3)の付加的なマーカーならびに神経マーカー(TrkBおよびTrkC)もまた前駆体内で発現された(図2A)。
【0078】
前駆細胞集団におけるTrkBおよびTrkCの発現のために、これらの受容体に結合するニューロトロフィンであるNT−3およBDNFとのインキュベーションが、前駆細胞の産出を増加させるか、または有毛細胞への遺伝子の発現もしくは神経運命を変化させるどうかを試験した。これらの条件下において、Otx2、Sox2、ネスチン、およびMusashiの発現の増加ならびにOct4発現の増加を見出し(図3A)、これは、細胞が、神経前駆細胞運命を採用し得ることが示唆される。ニューロトロフィン媒介の前駆細胞への転換は、EGF、IGF−1およびbFGF単独に対して発見したものより早急な時間的経過を有した。前神経転写因子であるNeuroDおよびNgn1、ならびに神経および有毛細胞系列マーカーGATA3、Atoh1、およびBrn3cの発現もまた増加し、内耳内の有毛細胞運命にわたる神経を選択する(Kim et al.,Development 128,417−426(2001);Matei et al.,Dev Dyn.234(3):633−50(2005))Ngn1およびNeuroDの発現は、NT−3およびBDNFが分化培地に含まれた時により高かった。発生時に耳前駆物質内に発現される他の転写因子Zic2およびPax6は、MSCと比べて前駆細胞において上昇し、Zic1発現は観察されなかった。これにより、NT−3およびBDNFが、神経細胞および有毛細胞の両方になるように潜在的に運命付けられた神経系列の細胞の形成を誘発したことが示唆される。しかしながら、これらの細胞に対するマーカーが発見されなかった(図3A、有毛細胞マーカーミオシンVIIaおよびエスピン)ために、細胞は、有毛細胞または神経細胞に転換しなかった。また、有毛細胞に対する前駆体が、これらの細胞を含むか、または生じさせることができ、前駆体が、S100A、p75trk、クローディン14、コネキシン26、およびNotch1を発現させたことが分かったため、支持細胞等の内の他の上皮細胞の特徴を示す遺伝子の発現に関しても検査した。
【0079】
増殖因子誘発後のMSC由来の前駆細胞からの支持細胞マーカーの観察は、生体内発生時に、共通前駆体からのそれらの起源と相関し得る(Matei et al.,Dev Dyn.234(3):633−50(2005);Satoh and Fekete,Development 132,1687−1697(2005))。有毛細胞は、Atoh1遺伝子の導入後に支持細胞から発生するように誘発することができるので(Izumikawa et al.,Nat Med 11,271−276(2005);Zheng and Gao,Nat Neurosci 3,580−586(2000))、分化転換を介した有毛細胞に対する潜在的な前駆体としての支持細胞の役割が検討されている(Izumikawa et al.,Nat Med 11,271−276(2005))。支持細胞遺伝子の発現は、有毛細胞となる途中の中間体または付随する段階を反映している可能性があり、Atoh1ノックアウトマウスにおいて、支持細胞のマーカーを有する未分化細胞は、Atoh1遺伝子を活性化させることが観察されている(Fritzsch et al.,Dev Dyn 233,570−583(2005);Woods et al.,Nat Neurosci 7,1310−1318(2004))。代替として、支持細胞は、発生中の有毛細胞によって誘発される可能性があり、より大きな上皮隆線内の異所性有毛細胞は、細胞周囲の支持細胞マーカーを誘発した(Woods et al.,Nat Neurosci 7,1310−1318(2004))。MSCは、bFGF、EGFおよびIGF−1によって有毛細胞前駆体となるように誘発される可能性があり、bFGF、EGFおよびIGF−1は、これらの前駆体の生体内形成を潜在的に刺激する因子であり(Leon et al.,.Endocrinology 136,3494−3503(1995)、Pauley et al.,Dev Dyn 227,203−215(2003)、Zheng et al.,J Neurosci 17,216−226(1997))、これらの前駆体は、Atoh1の過剰発現後に有毛細胞を生じさせることができた。神経前駆体マーカーの発現の増加は、これらのマーカーを発現する細胞の増殖によって、または神経前駆体表現型へのMSCの分化によってもたらされる可能性がある。
【0080】
本明細書に記載されているように、MSC由来の前駆細胞は、ニューロトロフィン受容体を発現した。BDNFおよびNT−3は、内耳神経細胞の成熟(Fritzsch et al.,J Neurosci 17,6213−6225 (1997);Pirvola and Ylikoski,Curr Top Dev Biol 57,207−223(2003))、および神経細胞への神経幹細胞の分化(Ito et al.,J Neurosci Res 71,648−658(2003))において重要な役割を担い、したがって、前駆体の運命が、ニューロトロフィンによって調節され得るかどうかを試験した。これらの因子のインキュベーションが、その後のAtoh1過剰発現(Izumikawa et al.,Nat Med 11,271−276(2005)、Zheng and Gao,Nat Neurosci 3,580−586(2000))またはニワトリ耳胞細胞との同時培養によって、有毛細胞に転換され得る前駆体の濃縮をもたらした。NT−3およびBDNFが、神経幹細胞においてAtoh1発現および分化の両方を増加させることが分かったため(Ito et al.,J Neurosci Res 71,648−658(2003))、ニューロトロフィンは、MSCの分化を直接的に増加させる可能性があるか、または過剰発現されたAtoh1に応答するように、それらの応答能を増加させる可能性がある。
【0081】
MSCから取得した前駆細胞の分析は、内耳感覚上皮の自然発生との類似点を明らかにした。MSC由来の前駆体は、発生中の耳胞において、その後の有毛細胞分化のために存在していなければならないSox2を発現した(Kiernan et al.,Nature 434,1031−1035(2005))。ミオシンVIIaを有さなかった細胞内のAtoh1の発現および後の時点でのミオシンVIIaの出現は、免疫組織化学に基づいた発生時のそれらの発現順序と一致する(Chen et al.,Development 129,2495−2505(2002))。ペアードボックス転写因子が、耳胞内に遍在性に発現されたため、Pax2発現の欠乏は驚くべきことであった(Burton et al.,Dev Biol 272,161−175(2004);Li et al.,J Neurobiol 60,61−70(2004))。これは、有毛細胞へのMSCの転換のために、Pax2が必要とされないこと、または別の因子で置換することができることを示唆し得る。Pax5が検出され、これは、それらの機能等価に基づいてPax2の代わりをし得る(Bouchard et al.,Development.127(5):1017−28(2000))。これは、Pax2ヌルマウスの分析と一致しており(Burton et al.,Dev Biol 272,161−175(2004))、蝸牛の正常形態の重度の破損にかかわらず、有毛細胞を発生させるように考えられる。また、Zic2に対するZic1発現の欠乏は、耳胞内の感覚神経細胞と比較すると、有毛細胞表現型の発生時に発見されており(Warner et al.,Dev Dyn 226,702−712(2003))、したがって、有毛細胞表現型の発生と一致する。条件培地中に存在しないニワトリ耳胞細胞上の誘導的分子の同定は、有毛細胞分化に関するさらなる洞察を提供する。
【0082】
内耳内で観察される、起源の組織を生じさせることができる前駆細胞の単離は(Li et al.,Trends Mol Med 10,309−315(2004);Li et al.,Nat Med 9,1293−1299(2003a))、予測可能な場合があるが、しかし、恐らく、誕生後に内耳幹細胞の数が減少するために、細胞は障害後に再生しない(Oshima et al.,J Assoc Res Otolaryngol.8(1):18−31(2007))。したがって、これらの感覚細胞の置換を提供するための細胞源が非常に望ましい。骨髄が、殆ど前駆体を有さずに、器官内の新しい細胞の源としての機能を果たし得るとはいえ、再生におけるMSCの生体外の役割は、概して不透明なままである。骨髄からの細胞が、成体の脳および心臓に移動し(Mezey et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 100,1364−1369(2003);Weimann et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 100,2088−2093(2003))、脳内で神経細胞に分化するという実証にもかかわらず、骨髄からの造血幹細胞は、注入後に心筋細胞に転換されず(Murry et al.,Nature 428,664−668(2004))、および神経細胞への転換は、極めてまれであった(Wagers et al.,Science297,2256−2259(2002);Weimann et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 100,2088−2093(2003))。成体幹細胞による他の組織からの再生への試みで最も成功したものは、破壊後に得られており、Doyonnas et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 101,13507−13512(2004);Edge,Transplant Proc 32,1169−1171(2000);Hess et al.,Nat Biotechnol 21,763−770(2003);Pagani et al.,J Am Coll Cardiol 41,879−888(2003))および組織障害は、骨髄由来の細胞による細胞置換を目視するために必要であり得る。骨髄由来の細胞が、生体内の障害に自発的に応じて、感覚または末梢神経系において任意の再生役割を担うかどうかは未解決の問題であるが、しかし、生体内の骨髄細胞による有毛細胞の低レベルの置換が除外できないとはいえ、感覚細胞の自発的置換は、成体蝸牛および前庭系に見られる有毛細胞再生の欠乏を考慮すると、可能性があるとは考えられない(Hawkins and Lovett,Hum Mol Genet 13(Spec No 2):R289−296(2004);White et al.,Nature 441,984−987(2006))。
【実施例2】
【0083】
実施例2:Atoh1発現プラスミドでの形質移入が、前駆体を有毛細胞に転換させる
前駆細胞が内耳前駆体細胞として機能し得るかどうかを試験するため、コンピテント前駆体を有毛細胞運命(Izumikawa et al.,Nat Med 11,271−276(2005);Zheng and Gao,Nat Neurosci 3,580−586(2000))へと進ませることが知られる転写因子Atoh1の過剰発現が、有毛細胞マーカーの発現を増加させるかどうかを評価した。
Atoh1形質移入の効率は、Atoh1に加えてGFP発現をコード化するベクターを形質移入した後、緑色蛍光細胞を計数することによって試験した。CMVプロモーターの下でGFP−Zeocin融合配列を有するpTracer−EFベクター(Invitrogen)内のEF1αプロモーター制御下で配列をコード化するAtoh1を含有するベクターを構成した。遺伝子形質移入は、LIPOFECTAMINE(登録商標)形質移入試薬(Sigma)を使用し、前駆細胞状態で、またはMSCとして行った。細胞は、Zeocin(Invitrogen)中で培養して、安定な形質移入体を取得した。形質移入されたMSCは、増殖因子を併用した無血清条件において培養した。
【0084】
MSCが形質移入された後、2%もの細胞が24時間でGFP陽性であった(図4A)。14日目のRT−PCRは、形質移入された細胞集団が、p27Kip、Brn3cおよびjagged2、ならびに成熟有毛細胞マーカーであるミオシンVIIaおよびエスピン等の発生中の感覚上皮のマーカーを発現し(図4B)、Ngn1およびNeuroDの発現を増加させたことを示した。また、支持細胞マーカー、S100A、p75Trk、クローディン14、コネキシン26、およびNotch1の発現も検出し、これは前駆細胞が有毛細胞および支持細胞を生じさせ得ることを示唆する(図4C)。安定したAtoh1発現を伴うMSC形質移入体の選択は、GFP陽性の割合を増加させた(図4D)。上記の増殖因子におけるこれらの細胞のインキュベーションと、それに続く免疫組織化学は、Atoh1およびミオシンVIIaの発現が、総細胞のそれぞれ7.7%および7.1%の細胞を産出した(図4E)。増殖因子刺激下での分化は、核内にBrn3および細胞質内にミオシンVIIaを有する細胞を生じさせた。これらの細胞は、同じ細胞内において、両方のマーカーに陽性であり、92%のAtoh1陽性細胞はミオシンVIIaに対する染色を示し、および77%のBrn3c陽性細胞はミオシンVIIaに対する染色を示した。Fアクチンに対するミオシンVIIa陽性細胞の検査(図4GおよびH)は、一部の細胞(4.9%のミオシンVIIa陽性細胞)が、それらの頂極で突出を発生したことを示した。これらの突出は、不動毛束の極性化した出現を有し、エスピンに陽性であった(図4G)。
【0085】
Atoh1発現は、ヘリックスループヘリックス転写因子であるNgn1およびNeuroDの強発現を導いた。以前の幾つかの研究は、Atoh1発現が、これらの転写因子を増加させることができることを示している。マウス小脳において、Atoh1発現は、NeuroDの過剰発現を導く(Helms et al.,Mol Cell Neurosci 17,671−682(2001))。ゼブラフィッシュにおいて、NeuroDは、Atoh1の非存在下で発現されず(Sarrazin et al.,Dev Biol 295,534−545(2006))、有毛細胞形成が必要である。関連するマウスachaete−scute(Mash1)はNgn1を上方制御する(Cau et al.,Development 124,1611−1621(1997))。しかしながら、Ngn1は、ニワトリ神経管においてAtoh1の過剰発現によって下方制御された(Gowan et al.,Neuron 31,219−232(2001))。
これらのデータは、増殖因子によって誘発された前駆細胞におけるAtoh1の過剰発現が、有毛細胞への一定の割合のそれらの細胞の分化を誘発することを示す。
【実施例3】
【0086】
実施例3:前駆体の有毛細胞への転換は、発生中の耳胞細胞によって刺激される
発生中の耳胞が、有毛細胞へのMSCの分化を増加させる因子を産生したかどうかを試験するために、MSCとのE3ニワトリ耳胞細胞の同時培養実験を行った。
白色レグホン系統(Charles River)の胚は、受精卵を、38℃で維持した加湿した恒温器の固定プラットフォームに置いた後72時間で採取した。抽出した胚からの耳胞の解離は、内耳周囲の間葉組織を除去した後、pH7.2の冷却PBS中で行った。耳胞は、トリプシン処理し、プレーティングするために単一細胞に解離し、2×10細胞を、10%FBS中4つのウェルプレートで一晩培養した。プレーティングの1日後、耳胞細胞を4%パラホルムアルデヒドで20分間固定するか、またはマイトマイシンC(10μg/ml)で3時間不活性化し、次いで、PBSで4回洗浄した。培養した細胞からの馴化培地を収集し、前駆体細胞に使用する前に凍結した。無血清培地中で増殖因子によって誘発された前駆細胞(5×10細胞/ml)で、ニワトリ耳胞細胞を覆い、EGF/IGFで5〜7日間、続いてEGF/IGF/FGFで10日間培養して、さらに5〜10日間増殖因子を取り除いた。細胞は、本明細書に記載されるように、RT−PCRまたは免疫組織化学で分析した。
ニワトリ耳胞細胞の存在下で21日間培養した後、RT−PCRによるミオシンVIIa、jagged2、p27Kip、Brn3cおよびAtoh1の発現の増加が発見された(図5A)。細胞の固定は、14日間の曝露後に、分化を促進する能力を減少させず、一方で、条件培地が14日の間に効果がなくなったために、因子は、分泌された分子ではないようであった(図5A)。幹細胞の有毛細胞への転換の後に、Atoh1エンハンサー要素が活性化された時に、増強したGFPの核バージョンを発現するトランスジェニックAtoh1−nGFPマウスに由来するMSCを使用した、培養物における緑色蛍光の出現が起こり得る(Chen et al.,Development 129,2495−2505(2002);Lumpkin et al.,Gene Expr Patterns 3,389−395(2003))。これらの緑色細胞は、ニワトリ耳胞細胞との同時培養で観察され(図5B)、細胞は、ミオシンVIIaに対する抗体で同時標識した。
【0087】
E3ニワトリ胚からの耳胞を、前駆細胞の注入に使用した。解離した耳胞を、ゼラチン被覆の組織培養ディッシュ上で、N2およびB27を含有する7mlの無血清DMEM/F121:1に移した。無傷耳胞の付着後、MSC(5×10細胞/ml)からの前駆細胞を、2μlの培地においてマイクロピペットで耳胞に注入した。左耳小胞は、細胞移植片を受け取らず、対照として機能を果たした。耳胞は、10〜14日後に採取し、パラホルムアルデヒド(PBS中4%)中で30分間固定し、ショ糖(PBS中30%)中で一晩凍結保護し、TissueTek(EMS)に包埋して、クリオスタット(CM3050,Leica,Nussloch,Germany)で連続的に区分化した。
【0088】
前駆細胞が、E3で取得したニワトリ耳胞に注入された時に、有毛細胞特性(5%のミオシンVIIa−陽性細胞は、nGFPに陽性であった)を有する細胞への前駆体の転換が観察された(図6A)。マウスの有毛細胞は、GFPの発現によって検出されるように、発生中のニワトリ耳胞の上皮を有する有毛細胞に取り込まれると見なされた(図6B)。同時培養中のMSC由来の細胞による有毛細胞遺伝子の発現に関する1つの可能な説明は、ニワトリ細胞との融合である。これを排除するために、ニワトリ有毛細胞抗原に対する抗体を有する細胞を標識した(Bartolami et al.,J Comp Neurol 314,777−788(1991))。天然ニワトリ有毛細胞は、耳胞の内部空洞を裏打ちすることを検出することができ(ミオシンVIIaに対して染色した15の耳胞注入による、51%の1,352細胞が、ニワトリ有毛細胞抗原に陽性であった)、nGFPおよび有毛細胞マーカーを発現した細胞は、ニワトリ有毛細胞抗原を同時発現せず(図6C)、したがって、マウス起源であったが、細胞融合の産物ではなかった。
【0089】
発生中の耳胞細胞とのMSCの接触が、有毛細胞へのそれらの分化を誘発するシグナルを、どうように提供したかを理解しようとするために行われたこれらの実験は、誘導的効果が、分泌因子ではなく、細胞表面分子を介したことを示した。生体外の発生中の耳胞へのMSCの注入は、幹細胞から分化した有毛細胞が、ニワトリ耳胞上皮に統合されたことを示唆し、発生中のニワトリ耳胞細胞によって提供された環境が、分化および適切な前駆細胞の統合を誘導し得ることを示した。また、有益な影響が、内耳由来の幹細胞およびマウスのES細胞由来の前駆細胞でも以前に見られている(Li et al.,Trends Mol Med 10,309−315(2004)、Li et al.,Nat Med 9,1293−1299(2003)、Li et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 100,13495−13500(2003)。
【0090】
耳胞細胞との同時インキュベーションの効果は、Atoh1発現を単純に活性化することであり得、およびMSCが低レベルのAtoh1は有するが、検出可能な感覚上皮細胞マーカーを有さなかったので、十分な量のAtoh1が、有毛細胞分化を可能にするために必要であり得る。このタイプの高レベルの発現が、Atoh1タンパク質と相互作用する既存の内因性阻害剤のレベルを克服するために、Atoh1のために必要であり得る。マウスの細胞は、nGFPのそれらの発現によって、および種特異的な抗体を用いたニワトリ有毛細胞の免疫標識によって同時に分化したニワトリ有毛細胞と明確に区別され得る。その細胞は、決して共染色されず(1,352の細胞の検査に基づく)、マウス有毛細胞が幹細胞から分化し、細胞融合から生じなかったことが示唆される。
【実施例4】
【0091】
実施例4:Notchシグナルの阻害は、有毛細胞の分化を誘発する
Notch経路は、支持細胞からの有毛細胞の分化を抑止することによって、生体内の有毛細胞および支持細胞の交互のパターンを維持し、胚におけるNotchの活性化は、前駆体からの有毛細胞の発生を遮断するように思われる。
有毛細胞の分化へのNotch経路の効果を検討するため、NT3/BDNF処置の前駆体を、γセクレターゼ阻害剤とともにインキュベートした。NT3、BDNF、FGFとのインキュベーションによって生成され、その後γセクレターゼ阻害剤で処理された前駆体における遺伝子発現の分析は、ノッチシグナルの損失が、Atoh1発現を増加させたことを示した。Atoh1レベルは、阻害剤を1μMで使用した時に、RT−PCRに基づく増殖因子単独での処理と比べて上昇した(図7)。阻害剤添加のタイミングは、後の段階(生体外分化の3日後)での阻害で非常に重要であり、0日目に開始し、10日間継続する阻害ほど、有毛細胞マーカーを誘発しない。低濃度で、γセクレターゼ阻害剤は、ngn1およびNeuroDを活性化し、Atoh1または有毛細胞マーカーを増加させない。γセクレターゼ阻害剤は、高濃度で、Atoh1およびBrn3c発現を増加させる。増加したAtoh1は、細胞が、ミオシン7a、p27Kip等の有毛細胞に対するマーカーを発現させるにつれて、有毛細胞を産生できるように見えた。HLH転写因子が、Notch経路の効果を媒介するため、この結果は、Notchの役割と一致し、通常の条件下で有毛細胞分化を予防する機構を示唆する。
【実施例5】
【0092】
実施例5:ヒト幹細胞における有毛細胞分化の阻害
ヒト間葉系幹細胞(human mesenchymal stem cell:hMSC)が、有毛細胞または感覚神経細胞を含む内耳細胞型に分化することができるかどうかを判定するため、健常成人からのヒト骨髄細胞を評価した。
ヒト骨髄細胞を採取し、16時間組織培養プラスチック上にプレートして培養し、非接着造血幹細胞を吸引した。
【0093】
まず、接着細胞は、9%ウマ血清および9%ウシ胎仔血清を含有するαMEM中で培養し、造血細胞マーカー、CD34およびCD45に陰性であった。これらの細胞は、TGFβ、トランスフェリンおよびインスリンの存在下での培養後に、II型およびIV型コラーゲンを発現する軟骨細胞を生じさせた。
【0094】
10日間NT−3、BDNF、ソニックヘッジホッグおよびレチノイン酸の存在下で、N2およびB27を含有し、血清の無いDMEM/F12培地中のhMSCの培養は、Musashi、ネスチン、Pax6、Brn3a、NeuroD、Ngn1、およびGATA3、ならびに感覚神経マーカー、ペリフェリンおよびTrkC等のRT−PCRによって検出される感覚神経前駆体マーカーを発現した細胞を生じさせた。これらの分化したhMSCは、β−IIIチューブリンに陽性であり(総細胞の2.1%は、免疫組織化学に基づいて陽性であった)、これらの細胞のうち、28%がペリフェリンに対して共染色され、31%がBrn3aに対して共染色された。
【0095】
有毛細胞への分化のために、hMSCは、真核生物細胞に対する選択可能なマーカーを用いて、発現ベクターにおいてヒトAtoh1を形質移入された。選択された前駆細胞は、RT−PCRに基づき、Atoh1を発現し、ならびに10日間のNT−3およびBDNFでのN2およびB27を含有するDMEM/F12培地中の分化後、有毛細胞マーカー、Atoh1、ミオシンVIIa、p27Kip、Jag2およびエスピンを発現した。
【0096】
コルチ器官内に生着するこれらの細胞の能力、Atoh1を形質移入された細胞は、マウスからの生体外のコルチ器官とともに同時培養した。これは、免疫染色によって検出されたミオシンVIIaおよびエスピンを発現する細胞、つまり、分化した有毛細胞を生じさせた。生体外のマウスコルチ器官が毒素で処理されて、有毛細胞変性を誘発した時に、同時培養された骨髄由来の細胞は、マウス感覚上皮内に生着することが観察され、したがって、取得した細胞の能力が示される。
【0097】
したがって、ヒトMSCは、有毛細胞または感覚神経細胞を含む内耳細胞型に分化することができ、内耳の構造に上手く移植することができるため、難聴の細胞ベースの治療への潜在的な代替物である。
【実施例6】
【0098】
実施例6:Math1−エストロゲン受容体(ER)融合コンストラクト
Math1の恒常的発現の1つの代替案は、細胞培地または蝸牛環境に添加される誘導因子を用いてMath1を上方制御するために、遺伝子発現の条件的または誘導系を使用することである。誘導モデルは、遺伝子発現の一時的効果を検討する時に、特に有用である。
【0099】
この実施例は、合成エストロゲンアゴニストであるタモキシフェンの投与が、Math1の発現を誘発する系に関して記述する。Math1−エストロゲン受容体(ER)融合タンパク質(そこでは、ERが、エストロゲンではなくタモキシフェンに選択可能に結合するように変異されている)が恒常的に発現される。タモキシフェンの非存在下において、Math1−ERコンストラクトは、サイトゾル内で静止状態のままであり、熱ショックタンパク質によって不活性化されている。形質移入した細胞へのタモキシフェンの添加は、核へのMath1−ERコンストラクトの用量依存的な局在性をもたらし、Math1の発現増加に繋がるように転写される。Math1の配列は上に記載される。
【0100】
使用したERの配は、以下の通りである(配列番号59)。
ATGTCCAATTTACTGACCGTACACCAAAATTTGCCTGCATTACCGGTCGATGCAACGAGTGATGAGGTTCGCAAGAACCTGATGGACATGTTCAGGGATCGCCAGGCGTTTTCTGAGCATACCTGGAAAATGCTTCTGTCCGTTTGCCGGTCGTGGGCGGCATGGTGCAAGTTGAATAACCGGAAATGGTTTCCCGCAGAACCTGAAGATGTTCGCGATTATCTTCTATATCTTCAGGCGCGCGGTCTGGCAGTAAAAACTATCCAGCAACATTTGGGCCAGCTAAACATGCTTCATCGTCGGTCCGGGCTGCCACGACCAAGTGACAGCAATGCTGTTTCACTGGTTATGCGGCGGATCCGAAAAGAAAACGTTGATGCCGGTGAACGTGCAAAACAGGCTCTAGCGTTCGAACGCACTGATTTCGACCAGGTTCGTTCACTCATGGAAAATAGCGATCGCTGCCAGGATATACGTAATCTGGCATTTCTGGGGATTGCTTATAACACCCTGTTACGTATAGCCGAAATTGCCAGGATCAGGGTTAAAGATATCTCACGTACTGACGGTGGGAGAATGTTAATCCATATTGGCAGAACGAAAACGCTGGTTAGCACCGCAGGTGTAGAGAAGGCACTTAGCCTGGGGGTAACTAAACTGGTCGAGCGATGGATTTCCGTCTCTGGTGTAGCTGATGATCCGAATAACTACCTGTTTTGCCGGGTCAGAAAAAATGGTGTTGCCGCGCCATCTGCCACCAGCCAGCTATCAACTCGCGCCCTGGAAGGGATTTTTGAAGCAACTCATCGATTGATTTACGGCGCTAAGGATGACTCTGGTCAGAGATACCTGGCCTGGTCTGGACACAGTGCCCGTGTCGGAGCCGCGCGAGATATGGCCCGCGCTGGAGTTTCAATACCGGAGATCATGCAAGCTGGTGGCTGGACCAATGTAAATATTGTCATGAACTATATCCGTAACCTGGATAGTGAAACAGGGGCAATGGTGCGCCTGCTGGAAGATGGGGATCAGGCTGGTGCCATGGGCGATCCACGAAATGAAATGGGTGCTTCAGGAGACATGAGGGCTGCCAACCTTTGGCCAAGCCCTCTTGTGATTAAGCACACTAAGAAGAATAGCCCTGCCTTGTCCTTGACAGCTGACCAGATGGTCAGTGCCTTGTTGGATGCTGAACCGCCCATGATCTATTCTGAATATGATCCTTCTAGACCCTTCAGTGAAGCCTCAATGATGGGCTTATTGACCAACCTAGCAGATAGGGAGCTGGTTCATATGATCAACTGGGCAAAGAGAGTGCCAGGCTTTGGGGACTTGAATCTCCATGATCAGGTCCACCTTCTCGAGTGTGCCTGGCTGGAGATTCTGATGATTGGTCTCGTCTGGCGCTCCATGGAACACCCGGGGAAGCTCCTGTTTGCTCCTAACTTGCTCCTGGACAGGAATCAAGGTAAATGTGTGGAAGGCATGGTGGAGATCTTTGACATGTTGCTTGCTACGTCAAGTCGGTTCCGCATGATGAACCTGCAGGGTGAAGAGTTTGTGTGCCTCAAATCCATCATTTTGCTTAATTCCGGAGTGTACACGTTTCTGTCCAGCACCTTGAAGTCTCTGGAAGAGAAGGACCACATCCACCGTGTCCTGGACAAGATCACAGACACTTTGATCCACCTGATGGCCAAAGCTGGCCTGACTCTGCAGCAGCAGCATCGCCGCCTAGCTCAGCTCCTTCTCATTCTTTCCCATATCCGGCACATGAGTAACAAACGCATGGAGCATCTCTACAACATGAAATGCAAGAACGTGGTACCCCTCTATGACCTGCTCCTGGAGATGTTGGATGCCCACCGCCTTCATGCCCCAGCCAGTCGCATGGGAGTGCCCCCAGAGGAGCCCAGCCAGACCCAGCTGGCCACCACCAGCTCCACTTCAGCACATTCCTTACAAACCTACTACATACCCCCGGAAGCAGAGGGCTTCCCCAACACGATCTGA
【0101】
追加の参考文献
Kicic et al.,J Neurosci 23,7742−7749(2003).
Ma et al.,J Assoc Res Otolaryngol 1,129−143 (2000).
Wang et al.,Nature 422,897−901(2003).
【0102】
別の実施形態
本発明を、その発明を実施するための形態とともに説明したが、前述の説明は、例証であり、本発明の範囲を限定することを意図せず、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されると理解されたい。他の態様、利点、および変更は、以下の特許請求の範囲内にある。

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有毛細胞の集団を提供する方法であって、
神経性潜在力を有する幹細胞の集団を取得するステップと、
内耳前駆細胞への少なくとも一部の前記幹細胞の分化を誘発するのに十分な条件下で、前記幹細胞を培養するステップと、
少なくとも一部の前記内耳前駆細胞が、有毛細胞に分化することを誘発するのに十分な量および時間で、前記内耳前駆細胞内のAtoh1の発現を誘発し、それによって、有毛細胞の集団を提供するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
有毛細胞の集団を提供する方法であって、
神経性潜在力を有する幹細胞の集団を取得するステップと、
内耳前駆細胞への少なくとも一部の前記幹細胞の分化を誘発するのに十分な条件下で、前記幹細胞を培養するステップと、
少なくとも一部の前記内耳前駆細胞が、有毛細胞に分化することを誘発するのに十分な量および時間で、前記内耳前駆細胞をNotchシグナル阻害剤と接触させ、それによって、有毛細胞の集団を提供するステップと、
を含む、方法。
【請求項3】
有毛細胞の集団を提供する方法であって、
神経性潜在力を有する幹細胞の集団を取得するステップと、
内耳前駆細胞への少なくとも一部の前記幹細胞の分化を誘発するのに十分な条件下で、前記幹細胞を培養するステップと、
少なくとも一部の前記内耳前駆細胞が、有毛細胞に分化するのに十分な時間および条件下で、ニワトリ耳胞の存在下において前記内耳前駆細胞を培養し、それによって、有毛細胞の集団を提供するステップと、
を含む、方法。
【請求項4】
前記Notchシグナル阻害剤は、γセクレターゼ阻害剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆細胞を単離するステップをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記有毛細胞を単離するステップをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記内耳前駆細胞は、ネスチン、sox2、musashi、Brn3C、Pax2、およびAtoh1を発現する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記有毛細胞は、Atoh1、jagged2、Brn3c、p27Kip、Ngn1、NeuroD、ミオシンVIIaおよびエスピンから成る群から選択される1つ以上の遺伝子を発現する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記有毛細胞は、jagged2、Brn3c、ミオシンVIIaおよびエスピンを発現する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記有毛細胞は、前記細胞の頂端膜側上にVパターンでFアクチンを発現する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
支持細胞の集団を提供する方法であって、
神経性潜在力を有する幹細胞の集団を取得するステップと、
内耳前駆細胞への少なくとも一部の前記幹細胞の分化を誘発するのに十分な条件下で、前記幹細胞を培養するステップと、を含み、
(i)少なくとも一部の前記内耳前駆細胞が支持細胞に分化することを誘発するのに十分な量および時間で、前記内耳前駆細胞内でAtoh1の発現を誘発するステップ、
(ii)少なくとも一部の前記前駆細胞が支持細胞に分化することを誘発するのに十分な量および時間で、前記内耳前駆細胞をNotchシグナル阻害剤と接触させるステップ、または
(iii)少なくとも一部の前記内耳前駆細胞が、支持細胞に分化するのに十分な時間および条件下で、ニワトリ耳胞細胞の存在下において前記内耳前駆細胞を培養し、
それによって、支持細胞の集団を提供するステップ、
のうちの1つ以上を含む、方法。
【請求項12】
前記支持細胞を単離するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記支持細胞は、クローディン14、コネキシン26、p75Trk、Notch1、およびS100Aのうちの1つ以上を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記内耳前駆細胞は、ネスチン、sox2、musashi、Brn3C、Pax2、およびAtoh1を発現する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
それを必要としている対象に、前記細胞を移植するステップをさらに含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記幹細胞の集団は、前記移植を必要としている対象から取得される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項6に記載の方法によって取得される、有毛細胞の単離集団。
【請求項18】
請求項12に記載の方法によって取得される、支持細胞の単離集団。
【請求項19】
有毛細胞および/または支持細胞の移植で治療可能な障害を有する、または発症する危険性がある対象を治療する方法であって、請求項17または18に記載の前記細胞を、前記対象の蝸牛に移植し、それによって、前記対象を治療する、方法。
【請求項20】
幹細胞の集団は、前記移植を必要としている前記対象から取得された、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞内でAtoh1の発現を誘発するステップは、前記細胞内で外因性Atoh1の発現を誘発するステップを含む、請求項1または11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞内で外因性Atoh1の発現を誘発するステップは、Atoh1ポリペプチドをコードするベクターを有する前記細胞を形質導入するステップを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ベクターは、プラスミドベクターある、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記幹細胞内で外因性Atoh1の発現を誘発するステップは、内因性Atoh1の発現を増加させるステップを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも一部の前記幹細胞が、有毛細胞に分化するのに十分な時間および条件下で、ニワトリ耳胞細胞の存在下において前記幹細胞を培養するステップは、IGF、EGF、およびFGFを含む培地中で前記幹細胞を培養するステップを含む、請求項3または11に記載の方法。
【請求項27】
前記幹細胞は、間葉系幹細胞である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記幹細胞は、ヒト幹細胞である、前記請求項のいずれかに記載の方法。

【図7】
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【公表番号】特表2010−509919(P2010−509919A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537328(P2009−537328)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/084654
【国際公開番号】WO2008/076556
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(596114853)マサチューセッツ・アイ・アンド・イア・インファーマリー (11)
【Fターム(参考)】