説明

内装具の製造方法

【課題】基材の表面に皮革を貼り付けることによって製造される内装具の製造方法において、外観が良好な内装具の製造方法を提供する。
【解決手段】皮革素材を所定の形状に切断する切断工程S3と、皮革素材から切断された皮革5、7を基材3に貼り付ける貼り付け工程S5と、貼り付けられた皮革5、7に、シボ加工を施す加工工程S7とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革が設けられている内装具の製造方法に係り、特に、皮革の表面にシボ加工等がされているものの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のシフトノブの表皮に設けられている皮革の意匠性(美観等)を高めるために、ロールプレス機や平板プレス機で平板状の皮革素材に加工を施し、種々の模様(シボ)をつけることが一般的に行われている。ところで、シフトノブの皮革に模様(シボ)をつける場合には、まず、平板状の皮革素材に模様をつける加工を施しておいて、この加工後に皮革素材を適宜の形状に切断してシフトノブの基材に貼り付けている。
【0003】
なお、上述した製造方法に関連する特許文献として、たとえば特許文献1を掲げることができる。
【特許文献1】特開平7−138600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の製造方法では、曲面の曲がり具合1がきつい部品(シフトノブの基材)に皮革を接着する場合、たるみがでないように、皮革を基材の曲面にあわせて強く引っ張りながら接着する必要がある。このために、皮革の模様(シボ)が伸ばされてしまい、シフトノブの外観が悪化するという問題がある。
【0005】
上記問題は、シフトノブだけでなく、ドアパネル(自動車のドアの内側に設置されるパネル)、自動車のパーキングブレーキノブ、自動車のステアリングホイール、自動車のインパネ(インストルメントパネル)、自動車のドアの取手等の自動車の内装具、家具や部屋の壁等の室内の内装具においても同様に発生する問題である。
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、基材の表面に皮革を貼り付けることによって製造される内装具の製造方法において、外観が良好な内装具の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、皮革素材を所定の形状に切断する切断工程と、前記切断工程で皮革素材から切断された皮革を基材に貼り付ける貼り付け工程と、前記貼り付け工程で貼り付けられた皮革に、シボ加工、ディンプル加工、小さな貫通孔を所定の間隔をあけて多数設ける加工のうちの少なくともいずれかの加工を施す加工工程とを有する内装具の製造方法である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内装具の製造方法において、前記加工工程は、型を用いて前記加工を行う工程であり、前記型は、離型の際アンダーカットが生じないように、複数片に分割されている内装具の製造方法である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、基材に皮革を貼り付けることによって製造される内装具の製造方法において、前記基材に、または、前記皮革が貼り付けられる前記基材の部位と同形状に形成された部位を備えた冶具に、皮革素材を倣うように密着させ設置する設置工程と、前記設置工程で設置された皮革素材に、シボ加工、ディンプル加工、小さな貫通孔を所定の間隔をあけて多数設ける加工のうちの少なくともいずれかの加工を程施す加工工程と、前記加工工程で加工がされた皮革素材を所定の形状に切断する切断工程と、前記切断工程で皮革素材から切断された皮革を、前記基材に貼り付ける貼り付け工程とを有する内装具の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材の表面に皮革を貼り付けることによって製造される内装具の製造方法において、外観が良好な内装具の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るシフトノブ1の概略構成を示す図であり、図1(a)は、シフトノブ1の完成品を示し、図1(b)は、シフトノブ1を分解した状態を示している。図2は、図1におけるII−II断面を示す図である。
【0012】
シフトノブ1は、たとえば自動車の変速機のチェンジレバーの先端部に装着されて使用されるものであり、本体部を構成している基材(芯材;ボディ)3を備えていると共に、基材3が、シート状に形成されている皮革5や皮革7で被覆されている(覆われている)。そして、たとえば、各皮革5、7の縁部の端同士が互いに近接状態(接触しまたは互いにごく接近した状態;突き合わされた状態)になっている。
【0013】
各皮革5、7の端部は図2(a)に示すようにキメコミがされている。キメコミは、各皮革5、7の端縁およびこの近傍の部位を、基材3に設けられた溝9に挿入し接着することによってなされている。
【0014】
このようにキメコミが行われることによって、各皮革5、7の突き合わせ部位では、各皮革5、7の端面が露出しないで隠れており美観が保たれている。なお、各皮革5、7の端部を、図2(b)に示すように折り返して、各皮革5、7を突き合わせてあってもよい。
【0015】
各皮革5、7の表面には、図2(a)に示すように、小さな貫通孔11を所定の間隔をあけて多数設ける加工、図2(a)や図2(b)に示すようなディンプル加工(各皮革5、7の表面にたとえば円形状の小さな多数の凹部13a、13bをお互いが離反するようにして設ける加工)、シボ加工(各皮革5、7の表面に、皺や小さな溝を複数設ける等の小さな凹凸の模様をつける加工)のうちの少なくともいずれかの加工が施されている。なお、図2(a)に示す凹部13aは直径よりも深さが大きい凹部であり、図2(b)に示す凹部13bは直径が深さよりも大きい凹部である。
【0016】
シフトノブ1では、皮革5になされる加工と皮革7になされる加工が同じ加工(たとえばシボ加工)であってもよいし、皮革5になされる加工と皮革7になされる加工が異なる加工であってもよい。たとえば、皮革5にシボ加工を施し、皮革7にディンプル加工を施してあってもよい。
【0017】
また、皮革5に異なる種類の加工を施してあってもよい。たとえば、皮革5の一部にシボ加工を施し他の一部にディンプル加工を施してあってもよい。
【0018】
また、シフトノブ1では、基材3を2枚の皮革5、7で覆っているが、図3に示すように1枚の皮革15で基材3を覆っている構成であってもよいし、3枚以上の複数の皮革で基材3を覆っている構成であってもよい。
【0019】
さらに、シフトノブ1では、基材3のほぼ総ての表面を皮革5、7で覆っていると共に、皮革5、7のほぼ総ての表面にシボ等の加工を施しているが、基材3の一部のみを皮革で覆っている構成であってもよいし、皮革の一部の表面にのみ、シボ加工等が施されている構成であってもよい。
【0020】
次に、シフトノブ1の製造方法について説明する。
【0021】
図4は、シフトノブ1の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【0022】
基材3は予めモールド成形等によって成形されているものとする。まず、牛皮等で構成されている皮革素材に前処理を施す(S1)。この前処理は、脱毛処理や鞣し処理等の処理、スプレーによって皮革素材のたとえば銀面にベースコートを設ける処理、皮革素材の表面の皺を除くための表面プレス処理、スプレーによってベースコートの上にカラーコートを設ける処理、スプレーによってカラーコートの上にトップコートを設ける処理等で構成されている。
【0023】
トップコートは、皮革素材の表面に光沢を与え、皮革素材に耐摩耗性を与える等のためになされているものであり、透明なウレタン等の素材を用いてなされている。
【0024】
ここで、皮革(皮革素材)の銀面、床面について説明する。皮革は合成皮革でもよいが、前述したように牛革等の皮革が用いられる。銀面とは牛の表皮面に相当する面をいい、床面とは牛の肉側の面をいう。また、皮革を構成している繊維成分は、銀面側では密になっており、床面側では粗くなっている。したがって、銀面側では、引っ張り強度等の機械的強度が高く、床面側では、機械的強度が低くなっている。
【0025】
なお、各皮革5、7では、たとえば、基材3に密着する側の面が床面になっており、シフトノブ1の表面に表れる面が銀面になっている。
【0026】
ステップS1において前処理がなされている皮革素材を、所定の形状の皮革に切断する(S3)。ここで、所定形状の皮革とは、次のステップS5で基材3に貼り付けられる各皮革5、7の元になる形状の皮革であり、この元形状の各皮革が、ステップS5で基材3にたるみなく貼り付けられる際に適宜延びて変形し、基材3の表面を覆うようになっている。前記元形状の各皮革の形状は、試験等をすることによって予め決めておけばよい。なお、既に理解されるように、前記元形状の各皮革は、キメコミ代を含んでいる。
【0027】
ステップS3で皮革素材から切断された各皮革5、7を延ばして変形させることにより、基材3の曲面状の表面に倣うように密着させて(各皮革5、7の床面側のほぼ全面を基材3に密着させて)基材3に貼り付ける(たとえば接着剤を用いて接着する;ステップS5)。
【0028】
なお、基材3は、たとえば、芯金をポリ塩化ビニル等の硬質の樹脂で覆って構成されており、ある程度の硬さを備えている。したがって、各皮革5、7の基材3への貼り付けの際に押圧を行っても自動車シートのように基材3が大きく変形することはなく、貼り付け後に各皮革5、7にディンプル加工等を施すことができる硬さになっている。
【0029】
ステップS5で貼り付けられた皮革の表面のたとえばほぼ全面に、シボ加工、ディンプル加工、小さな貫通孔を所定の間隔をあけて多数設ける加工のうちの少なくともいずれかの加工を施す(S7)。ステップS7の加工工程では、図5に示すように、型(たとえば金型)Mを用いて皮革5、7を基材側に押圧して加工を行っている。このときの型Mの押し力は、2kgf/cm〜4kgf/cm(19.6N/cm〜39.2N/cm)であり、型Mはたとえば電熱線で加熱され温度が80℃〜120℃になっている。押圧加熱の時間は5秒〜30秒である。
【0030】
図5では、型Mが2つの片M1、M2に分割されているが、皮革の成形部(シボ加工等による小さな凹凸の模様)に、離型の際アンダーカットが生じないように、型を複数片(たとえば、3つ以上の複数片)に分割してあってもよい(図6参照)。
【0031】
図6は、3つの片M3、M4、M5の分割された型Maの概略構成を示す図であり、図6(b)は、図6(a)におけるVI−VI断面を示す図である。
【0032】
ところで、基材3に貼り付けられる皮革を、各皮革5、7等の2つ以上の複数片に分割した場合には、分割されている型の境界(型の片と片との境界)の少なくとも一部と前記分割されている各皮革5、7の境界の少なくとも一部とがお互いにほぼ一致するようにして、シボ加工等がなされることが望ましい。
【0033】
さらに、図3に示すように、1枚の皮革15で基材3を覆う場合であっても、皮革15の端部の突き合わせ部位と、分割されている型の境界とをお互いにほぼ一致させることが望ましい。
【0034】
このようにして製造されたシフトノブ1によれば、貼り付け接着後に皮革5、7にシボ加工等を行うので、基材3の曲面状の表面に合わせて変形済みの皮革5、7にシボ加工等がなされることになり、基材3の表面の曲率半径が小さくカーブかきつい場合であっても、皮革5、7がたるむことはなく、しかも、シボ加工等による加工模様がくずれることがない。したがって、外観の良好なシフトノブ1を得ることができる。
【0035】
また、シボ加工後に皮革を基材に貼り付け接着する従来の方式では、前記貼り付けのために皮革を伸ばす場合、この伸び量において個体差が生じ、シボ加工による模様にばらつきが発生するが、皮革5、7を基材3に貼り付け接着後にシボ加工する本件明細書の方法によれば、シフトノブ1の個体差において、シボ加工で形成される模様のばらつきを無くすことができ、外観の良好なシフトノブ1を得ることができる。
【0036】
また、シボ加工等を行うことによって隠蔽効果がはたらき、皮革5、7に存在しているごく小さい孔や傷が目立たなくなる。また、皮革5、7の表面の摩擦係数が大きくなり滑り防止の効果を得ることができる。
【0037】
さらに、離型のときにアンダーカットが生じないようになっているので、型M(Ma)で皮革5、7に成形された模様が離型の際に崩れることがなく、外観の良好なシフトノブ1を得ることができる。
【0038】
さらに、分割されている型M(Ma)の境界と分割されている皮革の境界とがお互いにほぼ一致していれば、型M(Ma)の各片の境界において皮革に筋が入る等の弊害を防止することができる。
【0039】
ところで、上記説明では、皮革の基材への貼り付け後に、皮革にシボ加工等の加工を施しているが、シボ加工等の加工を皮革素材に施した後に皮革素材を適切な形状に切断し皮革を得て、この皮革を基材に貼り付けるようにしてもよい。
【0040】
すなわち、基材に、または、皮革が貼り付けられる前記基材の部位と同形状に形成された部位を備えた冶具に、皮革素材を延ばして変形させて倣うように密着させて着脱自在に設置(仮設置)し、この設置後皮革素材の表面に、シボ加工、ディンプル加工、小さな貫通孔を所定の間隔をあけて多数設ける加工のうちの少なくともいずれかの加工を施し、前記加工がされた皮革素材を所定の形状(皮革が貼り付けられる基材の面の形状に合致した形状)に切断し、この切断で得られた皮革を、前記設置の場合と同様に延ばして変形することにより前記基材の曲面状の表面に倣うように密着させて前記基材に接着して貼り付けるようにしてもよい。
【0041】
なお、前述した仮設置は、皮革が貼り付けられる基材や冶具の面に、皮革素材を延ばして変形させて一時的に密着させることでなされる。たとえば、皮革が貼り付けられる面よりも大きな皮革素材の周辺部を、工具等を用いて外側に適宜の力で引っ張ると共に、皮革が貼り付けられる面側に押し付けると、皮革素材が延びて変形し、皮革が貼り付けられる基材や冶具の面に密着する。
【0042】
前述した切断は、貼り付けられる基材や冶具の面に密着するように皮革素材を変形させた状態(前記仮設置をした状態)で行われる。なお、前述した切断を、皮革素材が変形していない状態で行ってもよい。すなわち、貼り付けられる基材や冶具の面に密着するように皮革素材を変形させた状態(前記仮設置をした状態)で前記皮革素材に所定形状のマーキングをし、この後、前記仮設置を解除し前記マーキングの形状に沿って皮革素材を切断してもよい。
【0043】
なお、上記説明では、シフトノブを例に掲げて説明したが、シフトノブだけでなく、ドアパネル(自動車のドアの内側に設置されるパネル)、自動車のパーキングブレーキノブ、自動車のステアリングホイール、自動車のインパネ(インストルメントパネル)、自動車のドアの取手等の自動車の内装具、家具や部屋の壁等の室内の内装具にも、上述した方法を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係るシフトノブの概略構成を示す図である。
【図2】図1におけるII−II断面を示す図である。
【図3】皮革の変形例を示す図である。
【図4】シフトノブの製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図5】型を用いて加工を施す場合を示す図である。
【図6】型の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 シフトノブ
3 基材
5、7、15 皮革
11 貫通孔
13a、13b 凹部
M、Ma 型
M1、M2、M3、M4。M5 型の片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮革素材を所定の形状に切断する切断工程と;
前記切断工程で皮革素材から切断された皮革を基材に貼り付ける貼り付け工程と;
前記貼り付け工程で貼り付けられた皮革に、シボ加工、ディンプル加工、小さな貫通孔を所定の間隔をあけて多数設ける加工のうちの少なくともいずれかの加工を施す加工工程と;
を有することを特徴とする内装具の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の内装具の製造方法において、
前記加工工程は、型を用いて前記加工を行う工程であり、前記型は、離型の際アンダーカットが生じないように、複数片に分割されていることを特徴とする内装具の製造方法。
【請求項3】
基材に皮革を貼り付けることによって製造される内装具の製造方法において、
前記基材に、または、前記皮革が貼り付けられる前記基材の部位と同形状に形成された部位を備えた冶具に、皮革素材を倣うように密着させ設置する設置工程と;
前記設置工程で設置された皮革素材に、シボ加工、ディンプル加工、小さな貫通孔を所定の間隔をあけて多数設ける加工のうちの少なくともいずれかの加工を程施す加工工程と;
前記加工工程で加工がされた皮革素材を所定の形状に切断する切断工程と;
前記切断工程で皮革素材から切断された皮革を、前記基材に貼り付ける貼り付け工程と;
を有することを特徴とする内装具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−285609(P2008−285609A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133205(P2007−133205)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】