説明

内視鏡の製造方法

【課題】 最表層における半田の流れ性を向上して密着強度の高い表面を短時間で得ることができる内視鏡の製造方法を提供すること。
【解決手段】 内視鏡1の製造方法は、レンズ枠2の母材2Aを加熱する工程と、イオンボンバード工程と、クロムを下地層5として成膜する工程と、ニッケルを中間層6として成膜する工程と、中間層6が成膜されたレンズ枠2を冷却する工程と、金を最表層7として成膜する工程とを有するレンズ枠2の成膜工程と、レンズ3の母材3Aを加熱する工程と、クロムを下地層5として成膜する工程と、ニッケルを中間層6として成膜する工程と、中間層6が成膜されたレンズ3を冷却する工程と、金を最表層7として成膜する工程とを有するレンズ3の成膜工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡の特に先端部を構成するレンズ及びレンズ枠の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の外筒の開口部にレンズ等のガラス部材を固定する際、内視鏡自身の小型化を損なわず、かつ、十分な接合強度と封止とを行うために、開口部の端部をメッキ等で半田付け可能に形成するとともに、ガラス部材の周囲端面に真空蒸着やスパッタリング等の真空プロセスによって下地層を形成した後、メッキ処理によって下地層を覆うメタライズ層とその上を覆う半田メッキ層とを形成し、ガラス部材の端面と開口部の端面とを半田にて接合している(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
医療用内視鏡の場合、上記半田接合部分を体内に挿入する必要があるため、半田接合の際、フラックスを使用する代わりに水素炉によって表面を還元する方法が採られている。
【0004】
しかしながら、水素炉ではフラックスを使用する場合に比べて表面の酸化膜を十分に除去しきれず、半田の回り込みが良くないために十分な密着強度を得ることが困難である。そのため、上記従来の製造方法では、半田メッキ層を施工するために真空プロセスとメッキ処理工程との両方を行う必要があり、生産のリードタイムが長くなってしまう。
【特許文献1】特開平9−265046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、最表層における半田の流れ性を向上して密着強度の高い表面を短時間で得ることができる内視鏡の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係る内視鏡の製造方法は、レンズと該レンズを支持するレンズ枠とが半田付けされた内視鏡の製造方法であって、前記レンズ枠の母材を加熱する工程と、前記母材と密着する成膜材料を下地層として成膜する工程と、半田と合金化可能な成膜材料を中間層として成膜する工程と、酸化を抑え半田と相性のよい成膜材料を最表層として成膜する工程とを有する前記レンズ枠成膜工程と、前記レンズの母材を加熱する工程と、前記母材と密着する成膜材料を下地層として成膜する工程と、半田と合金化可能な成膜材料を中間層として成膜する工程と、酸化を抑え半田と相性のよい成膜材料を最表層として成膜する工程とを有する前記レンズ成膜工程とを備え、前記レンズ枠成膜工程及び前記レンズ成膜工程のそれぞれが、前記中間層を成膜後に冷却する工程を備えていることを特徴とする。
【0007】
この内視鏡の製造方法は、レンズ及びレンズ枠のそれぞれの母材に成膜する際、何れも中間層を成膜した後に冷却する工程を備えているので、最表層を成膜する前の中間層形成後のレンズ及びレンズ枠のそれぞれの母材の表面温度を低下させることができる。従って、最表層を成膜した後に中間層の材料が最表層に析出してしまうのを好適に抑えることができ、水素炉を用いても半田の流れ性が良いため、十分な密着強度を得ることができる。
【0008】
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、前記レンズ枠成膜工程及び前記レンズ成膜工程が、真空中で行われることを特徴とする。
この内視鏡の製造方法は、成膜に関する工程をすべて真空中で行うので、成膜を容易に行うことができる。
【0009】
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、前記冷却する工程における冷却温度を250℃以下とすることを特徴とする。
この内視鏡の製造方法は、レンズ及びレンズ枠に最表層を成膜した後に中間層の材料が最表層に析出してしまうのを好適に抑えることができる。
【0010】
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、前記レンズ枠成膜工程が、前記レンズ枠の母材を加熱した後、所定の真空度下にてイオンを衝突させて表面のエッチングを行う工程を備えていることを特徴とする。
この内視鏡の製造方法は、表面をエッチングする工程を備えているので、成膜する前にレンズ枠の母材表面に形成された酸化膜を除去して膜の密着強度を向上することができる。
【0011】
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、前記下地層が、クロム、チタン、銅、シリコンの何れか一つを備えていることを特徴とする。
この内視鏡の製造方法は、レンズやレンズ枠の材料に特定されずに高い密着強度で成膜することができる。
【0012】
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、前記中間層が、ニッケル、白金、銅の何れか一つを備えていることを特徴とする。
この内視鏡の製造方法は、半田との合金化を高めることができる。
【0013】
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、前記最表層が、金、銀、ニッケル、白金、銅の何れか一つを備えていることを特徴とする。
この内視鏡の製造方法は、表面の酸化を抑えるとともに、使用される半田の流れ性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、少なくとも前記レンズ枠端面における前記下地層の成膜厚さを60nm以上とすることを特徴とする。
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、少なくとも前記レンズ側面における前記下地層の成膜厚さを20nm以上とすることを特徴とする。
この内視鏡の製造方法は、母材と成膜層との密着性を好適に維持することができる。
【0015】
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、少なくとも前記レンズ枠端面における前記中間層の成膜厚さを300nm以上4000nm以下とすることを特徴とする。
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、少なくとも前記レンズ側面における前記中間層の成膜厚さを100nm以上4000nm以下とすることを特徴とする。
【0016】
この内視鏡の製造方法は、レンズ枠端面における中間層の膜厚が300nm以上、又はレンズ側面における中間層の膜厚が100nm以上なので、中間層と下地層との界面まで半田合金化されることを好適に抑えることができる。また、膜厚が4000nm以下なので、自身の膜応力によって破壊されてしまうのを好適に抑えることができる。
【0017】
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、少なくとも前記レンズ枠端面における前記最表層の成膜厚さを30nm以上600nm以下とすることを特徴とする。
また、本発明は、前記内視鏡の製造方法であって、少なくとも前記レンズ側面における最表層の成膜厚さを20nm以上1000nm以下とすることを特徴とする。
【0018】
この内視鏡の製造方法は、レンズ枠端面における最表層の膜厚が30nm以上、又はレンズ側面における最表層の膜厚が20nm以上なので、半田を施工する前に中間層の材料が表面に析出することを好適に抑えることができる。また、レンズ枠端面における最表層の膜厚が600nm以下、又はレンズ側面における最表層の膜厚が1000nm以下なので、半田との合金化を好適な状態に維持することができ、半田の融点が高くなるのを抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、レンズ枠及びレンズの最表層における半田の流れ性を向上して密着強度の高い表面を短時間で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る第1の実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
本実施形態に係る内視鏡1は、図1に示すように、ステンレス製のレンズ枠2と、このレンズ枠2にて支持されるレンズ3とが、金―すずを有する図示しない半田によって半田付けされている。
【0021】
レンズ枠2には、レンズ3が嵌着する先端孔2aと、後端側の後端孔2bと、両者よりも小径とされてそれぞれを連通する貫通孔2cとが配されている。
レンズ枠2の先端孔2a及び貫通孔2cの内面には、レンズ枠2の母材2Aに対して密着性のよいクロム(成膜材料)からなる下地層5と、半田と合金化可能なニッケル(成膜材料)からなる中間層6と、酸化を抑え半田と相性のよい金(成膜材料)からなる最表層7とを有する枠用メタライズ膜8が成膜されている。
一方、レンズ3の外周面にも同様の構成を有するレンズ用メタライズ膜10がレンズ3の母材3Aに対して成膜されている。
【0022】
次に、本実施形態に係る内視鏡1の枠用メタライズ膜8及びレンズ用メタライズ膜10をそれぞれスパッタリングにて成膜する工程、及び、作用・効果について説明する。
レンズ枠2及びレンズ3を成膜するために、図2に示す成膜装置11を使用する。
この成膜装置11は、成膜前のレンズ枠2又はレンズ3のそれぞれの母材2A、3Aを収納するストッカー12と、ストッカー12を収納する大気雰囲気のストッカー室13と、成膜のためのスパッタリングを行うために常時真空状態とされるスパッタ室15と、ストッカー室13とスパッタ室15とを連結するロードロック室16とを備えている。
ストッカー室13、ロードロック室16及びスパッタ室15は直列に接続されて連通されており、それぞれの内部をストッカー12が移動可能とされている。
【0023】
スパッタ室15は、成膜に用いるターゲット別にさらに部屋が分かれており、下地層5を成膜するための第一の部屋15Aと、中間層6を成膜する第二の部屋15Bと、最表層7を成膜する第三の部屋15Cとを備えている。
第一の部屋15Aには、クロムを含む第一ターゲット17が移動してきた母材2A又は母材3Aに対向するように配されている。同様に、第二の部屋15Bにはニッケルを含む第二ターゲット18が、第三の部屋15Cには金を含む第三ターゲット20がそれぞれ母材2A又は母材3Aに対向するように配されている。
ストッカー12には、レンズ枠2の先端孔2aが開口する端面2d又はレンズ3の側面3aが各ターゲット17、18、20とそれぞれ対向するように母材2A又は母材3Aが配置される。
【0024】
ロードロック室16には、ストッカー室13とロードロック室16とを仕切る第一真空弁21と、ロードロック室16とスパッタ室15とを仕切る第二真空弁22とが配されており、図示しない真空ポンプと連動して大気圧下にある母材2A又は母材3Aをスパッタ室15に移動できるように真空引き可能とされている。
【0025】
この成膜装置11によるレンズ枠2の成膜工程(S1)は、レンズ枠2の母材2Aを加熱する工程(S01)と、イオンボンバード工程(S02)と、クロムを下地層5として成膜する工程(S03)と、ニッケルを中間層6として成膜する工程(S04)と、中間層6が成膜されたレンズ枠2を冷却する工程(S05)と、金を最表層7として成膜する工程(S06)とを備えている。
【0026】
また、レンズ3の成膜工程(S2)は、レンズ3の母材3Aを加熱する工程(S11)と、クロムを下地層5として成膜する工程(S12)と、ニッケルを中間層6として成膜する工程(S13)と、中間層6が成膜されたレンズ3を冷却する工程(S14)と、金を最表層7として成膜する工程(S15)とを備えている。
【0027】
まず、レンズ枠2の成膜工程(S1)について説明する。
レンズ枠2の母材2Aを加熱する工程(S01)では、レンズ枠2の母材2Aを収納するストッカー12をストッカー室13から第二真空弁22を閉じた状態で大気圧とされたロードロック室16内に移動する。
【0028】
ロードロック室16内に母材2Aを収納するストッカー12を移動後、第一真空弁21を閉じてロードロック室16内を不図示の真空ポンプによって真空引きする。
所定の真空度になった状態で第二真空弁22を開き、母材2Aを収納するストッカー12を第一の部屋15Aに移動する。
そして、常温から380℃まで1時間で昇温して母材2Aを加熱する。
【0029】
次に、イオンボンバード工程(S02)に移行する。
ここでは、第一の部屋15AにArガスを10−1〜数Paの圧力にて供給し、母材2Aに電圧を印加して放電させてArプラズマを発生する。そして、母材2AにArイオンを入射させて表面の酸化膜を取り除くとともに表面を活性化させる。この工程を5分間実施する。
【0030】
その後、クロムを下地層5として成膜する工程(S03)に移行する。
そのため、母材2Aを収納するストッカー12を第一ターゲット17と対向する位置まで第一の部屋15A内にて移動する。
そして、スパッタリング等の公知の方法によって少なくともレンズ枠2の端面2dとなる部分の膜厚が60nm以上になるまで下地層5を成膜する。
【0031】
続いて、母材2Aを収納するストッカー12を第一の部屋15Aから第二の部屋15Bに移動してニッケルを中間層6として成膜する工程(S04)を行う。
ここでは、下地層5が成膜された母材2Aを、第二ターゲット18と対向させ、スパッタリング等の公知の方法によって少なくともレンズ枠2の端面2dとなる部分の膜厚が300nm以上になるまで中間層6を成膜する。
【0032】
次に、冷却工程(S05)に移行する。
ここでは、雰囲気温度が250℃以下に低下するまで、母材2Aへの電圧供給及びストッカー12の移動を1時間停止する。なお、このとき、自然放冷ではなく、冷却器等を接触させて強制的に冷却して250℃以下としても構わない。
これによって、母材2A表面も250℃以下まで低下する。
【0033】
そして、金を最表層7として成膜する工程(S06)に移行する。
そのため、冷却後の母材2Aを収納するストッカー12を第二の部屋15Bから第三の部屋15Cに移動して、第三ターゲット20と対向させる。
その後、公知の方法によって少なくともレンズ枠2の端面2dとなる部分の膜厚が30nm以上になるまで最表層7を成膜する。
こうして、枠用メタライズ膜8が成膜されたレンズ枠2が得られる。
【0034】
次に、レンズ3の成膜工程(S2)について説明する。
レンズ3の母材3Aを加熱する工程(S11)では、レンズ枠2の場合の工程(S01)と同様に、レンズ3の母材3Aを収納するストッカー12をストッカー室13から第一の部屋15Aに移動する。
そして、常温から1時間で380℃まで昇温して母材3Aを加熱する。
【0035】
次に、クロムを下地層5として成膜する工程(S12)に移行する。
レンズ枠2の場合の工程(S03)と同様に、母材3Aを収納するストッカー12を第一ターゲット17と対向する位置まで第一の部屋15A内にて移動する。
そして、スパッタリング等の公知の方法によって少なくともレンズ3の側面3aとなる部分の膜厚が20nm以上になるまで下地層5を成膜する。
【0036】
続いて、母材3Aを収納するストッカー12を第一の部屋15Aから第二の部屋15Bに移動してニッケルを中間層6として成膜する工程(S13)を行う。
ここでは、下地層5が成膜された母材3Aを、第二ターゲット18と対向させ、スパッタリング等の公知の方法によって少なくともレンズ3の側面3aとなる部分の膜厚が100nm以上になるまで中間層6を成膜する。
【0037】
次に、冷却工程(S14)に移行する。
ここでは、レンズ枠2における冷却工程(S05)と同様に、雰囲気温度が250℃以下に低下するまで、母材3Aへの電圧供給及びストッカー12の移動を1時間停止する。なお、このとき、自然放冷ではなく、冷却器等を接触させて強制的に冷却して250℃以下としても構わない。
これによって、母材3A表面も250℃以下まで低下する。
【0038】
そして、金を最表層7として成膜する工程(S15)に移行する。
そのため、冷却後の母材3Aを収納するストッカー12を第二の部屋15Bから第三の部屋15Cに移動して、レンズ枠2の場合における工程(S06)と同様に少なくともレンズ3の側面3aとなる部分の膜厚が20nm以上になるまで最表層7を成膜する。
こうして、レンズ用メタライズ膜10が成膜されたレンズ3が得られる。
【0039】
このレンズ3をレンズ枠2の先端孔2aに嵌合させた状態にて、金―すずからなる不図示の半田をレンズ枠2の端面2d側から流し込み、レンズ3と密着させる。
【0040】
この内視鏡の製造方法によれば、レンズ枠2及びレンズ3のそれぞれの母材2A、3Aを成膜する際、何れも中間層6を成膜した後に冷却する工程を備えているので、最表層7を成膜する前に中間層6が形成されたレンズ枠2の母材2A及びレンズ3の母材3Aそれぞれの表面温度を低下させることができる。従って、最表層7を成膜した後に中間層6のニッケルが最表層7に析出してしまうのを好適に抑えることができる。
この結果、最表層7における半田の流れ性を向上して密着強度の高い表面を短時間で得ることができる。
【0041】
この際、冷却温度を例えば280℃としても半田による密着性が不十分であるのに対し、本実施形態では250℃以下としているので、ニッケルの析出を好適に抑えることができる。
また、レンズ枠2の成膜工程(S1)が表面をエッチングするイオンボンバード工程(S02)を備えているので、成膜する前にレンズ枠2の母材2A表面に形成された酸化膜を除去して膜の密着強度を向上することができる。
【0042】
さらに、下地層5がクロムを備えているので、レンズ3やステンレス製のレンズ枠2に対しても高い密着強度で成膜することができる。
特に、少なくともレンズ枠2の端面2dにおける下地層5の成膜厚さが60nm以上とされ、少なくともレンズ3の側面3aにおける下地層5の成膜厚さが20nm以上とされているので、母材2Aと枠用メタライズ膜8と、及び、母材3Aとレンズ用メタライズ膜10との密着性をそれぞれ好適に維持することができる。
【0043】
また、中間層6がニッケルを備えているので、半田との合金化を高めることができる。
特に、少なくともレンズ枠2の端面2dにおける中間層6の成膜厚さが300nm以上、レンズ3の側面3aにおける中間層6の成膜厚さが100nm以上とされているので、半田がニッケルと反応することがあっても下地層5までの半田合金化を好適に抑えることができる。
【0044】
また、最表層7が金を備えているので、成膜されたレンズ枠2及びレンズ3のそれぞれの表面の酸化を抑えるとともに、使用される半田の流れ性を向上させることができる。
特に、少なくともレンズ枠2の端面2dにおける最表層7の成膜厚さが30nm以上、レンズ3の側面3aにおける最表層7の成膜厚さが20nm以上とされているので、半田を施工する前に中間層6のニッケルが表面に析出することを好適に抑えることができる。
【0045】
次に、第2の実施形態について説明する。
なお、上述した第1の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第2の実施形態と第1の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る内視鏡の製造方法が、先端孔、後端孔、貫通孔のそれぞれが略同一径とされたレンズ枠を特に対象としている点である。
【0046】
本実施形態に係るレンズ枠の成膜工程について説明する。
まず、第1の実施形態と同様に、レンズ枠の母材を加熱する工程を実施する。
そして、第1の実施形態と同様のイオンボンバード工程を30分間実施した後、第1の実施形態と同様、クロムを下地層として成膜する工程に移行し、少なくともレンズ枠の端面となる部分の膜厚が600nmになるまで下地層を成膜する。
【0047】
続いて、レンズ枠の母材を第一の部屋15Aから第二の部屋15Bに移動してニッケルを中間層として成膜する工程を行う。
本実施形態では、第1の実施形態と同様の方法によって、少なくともレンズ枠の端面となる部分に2000nmの膜厚の中間層を成膜する。なお、中間層の膜厚は、300nm以上であればよい。
【0048】
次に、第1の実施形態と同様の冷却工程に移行する。
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に雰囲気温度が250℃以下に低下するまで、レンズ枠の母材への電圧供給及びストッカー12の移動を1時間停止する。
【0049】
そして、金を最表層として成膜する工程に移行して、第1の実施形態と同様の方法にて少なくともレンズ枠の端面となる部分に300nmの膜厚の最表層を成膜する。なお、最表層の膜厚は、30nm以上であればよい。
【0050】
こうして、枠用メタライズ膜が成膜されたレンズ枠が得られる。
この内視鏡の製造方法によれば、イオンボンバード工程を第1の実施形態の場合よりも長い時間実施し、かつ、下地層の膜厚を600nmとしているので、レンズ枠の孔形状が先端から後端まで略同一径のものであっても、貫通孔の先端側の端面から後端側の深い位置まで高い密着強度の枠用メタライズ層を形成することができる。
【0051】
次に、第3の実施形態について説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第3の実施形態と他の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る内視鏡の製造方法が、厚いレンズであってもレンズ枠との嵌合部分が短いレンズを特に対象としている点である。
【0052】
本実施形態に係るレンズの成膜工程について説明する。
まず、第1の実施形態と同様に、レンズの母材を加熱する工程を実施する。
そして、第1の実施形態と同様、クロムを下地層として成膜する工程に移行し、少なくともレンズ枠の端面となる部分の膜厚が500nmになるまで下地層を成膜する。
【0053】
続いて、レンズの母材を第一の部屋15Aから第二の部屋15Bに移動してニッケルを中間層として成膜する工程を行う。
本実施形態では、第1の実施形態と同様の方法によって、少なくともレンズの端面となる部分に2000nmの膜厚の中間層を成膜する。なお、中間層の膜厚は、100nm以上であればよい。
【0054】
次に、第1の実施形態と同様の冷却工程に移行する。
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に雰囲気温度が250℃以下に低下するまで、レンズの母材への電圧供給及びストッカー12の移動を1時間停止する。
【0055】
そして、金を最表層として成膜する工程に移行して、第1の実施形態と同様の方法にて少なくともレンズの側面となる部分の膜厚が1000nmになるまで最表層を成膜する。
【0056】
こうして、レンズ用メタライズ膜が成膜されたレンズが得られる。
この内視鏡の製造方法によれば、下地層の膜厚を500nmとし、かつ、最表層の膜厚を1000nmとしているので、レンズの厚みが厚く、かつ、レンズ枠との嵌合深さが浅い場合にもレンズとレンズ枠との密着強度を高め、半田の流れ性を向上することができる。また、最表層の膜厚が1000nmなので、半田との合金化を好適な状態に維持することができ、これを越える膜厚にして半田の合金化による融点の上昇を抑えることができる。
【0057】
次に、第4の実施形態について説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第4の実施形態と他の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る内視鏡の製造方法が、厚いレンズが嵌合するために先端孔の深さが深いレンズ枠及びそれに嵌着するレンズを特に対象としている点である。
【0058】
本実施形態に係るレンズ枠の成膜工程について説明する。
まず、第1の実施形態と同様に、レンズ枠の母材を加熱する工程及びイオンボンバード工程実施した後、クロムを下地層として成膜する工程に移行し、第2の実施形態と同様、少なくともレンズ枠の端面となる部分の膜厚が600nmになるまで下地層を成膜する。
【0059】
続いて、レンズ枠の母材を第一の部屋15Aから第二の部屋15Bに移動してニッケルを中間層として成膜する工程を行う。
本実施形態では、上記の実施形態と同様の方法によって、少なくともレンズ枠の端面となる部分の膜厚が3000nmになるまで中間層を成膜する。
【0060】
次に、第1の実施形態と同様の冷却工程に移行する。
本実施形態においても、上記の実施形態と同様に雰囲気温度が250℃以下に低下するまで、レンズ枠の母材への電圧供給及びストッカー12の移動を1時間停止する。
【0061】
そして、金を最表層として成膜する工程に移行して、第1の実施形態と同様の方法にて少なくともレンズ枠の端面となる部分の膜厚が600nmになるまで最表層を成膜する。なお、最表層の膜厚は、30nm以上であればよい。
こうして、枠用メタライズ膜が成膜されたレンズ枠が得られる。
【0062】
次に、レンズの成膜工程について説明する。
まず、第1の実施形態と同様に、レンズの母材を加熱する工程を実施する。
そして、第1の実施形態と同様、クロムを下地層として成膜する工程に移行し、少なくともレンズ枠の端面となる部分の膜厚が150nm以上になるまで下地層を成膜する。
【0063】
続いて、レンズの母材を第一の部屋15Aから第二の部屋15Bに移動してニッケルを中間層として成膜する工程を行う。
本実施形態では、第1の実施形態と同様の方法によって、少なくともレンズの端面となる部分の膜厚が3000nmになるまで中間層を成膜する。
【0064】
次に、第1の実施形態と同様の冷却工程に移行する。
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に雰囲気温度が250℃以下に低下するまで、レンズの母材への電圧供給及びストッカー12の移動を1時間停止する。
【0065】
そして、金を最表層として成膜する工程に移行して、第1の実施形態と同様の方法にて少なくともレンズの側面となる部分に500nmの膜厚の最表層を成膜する。
こうして、レンズ用メタライズ膜が成膜されたレンズが得られる。
【0066】
この内視鏡の製造方法によれば、レンズの厚みが厚く、かつ、レンズ枠との嵌合深さが深い場合に、レンズ枠の端面にて長時間半田に晒されていても中間層と下地層との界面まで半田合金化するのを抑えて、孔の奥のほうまで半田を良好に流すことができる。
また、中間層の膜厚が4000nm以下なので、自身の膜応力によって破壊されてしまうのを好適に抑えることができる。
さらに、レンズ枠の最表層の膜厚が600nm以下なので、半田との合金化を好適な状態に維持することができ、半田の融点が高くなるのを好適に抑えることができる。
【0067】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、下地層としてクロム、中間層としてニッケル、最表層として金をそれぞれ備えているとしているが、これら材料に限られることはない。例えば、下地層にあってはチタン、銅、シリコンの何れか一つを備えていてもよく、クロムの場合と同様の作用・効果を得ることができる。
【0068】
また、中間層にあっては、白金、銅の何れか一つを備えていてもよく、ニッケルの場合と同様の作用・効果を奏することができる。
さらに、最表層にあっては、銀、ニッケル、白金、銅の何れか一つを備えていてもよく、金の場合と同様の作用・効果を奏することができる。
また、これらの成膜は、スパッタリングのみならず、真空蒸着やイオンプレーティングによって行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る内視鏡を示す(a)要部断面図、(b)レンズ枠の成膜状態を示す構成図、(c)レンズの成膜状態を示す構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の製造方法に使用する成膜装置を示す概要図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の製造方法におけるレンズ枠の成膜工程を示すフロー図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る内視鏡の製造方法におけるレンズの成膜工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0070】
1 内視鏡
2 レンズ枠
2A 母材
2d 端面
3 レンズ
3A 母材
3a 側面
5 下地層
6 中間層
7 最表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズと該レンズを支持するレンズ枠とが半田付けされた内視鏡の製造方法であって、
前記レンズ枠の母材を加熱する工程と、前記母材と密着する成膜材料を下地層として成膜する工程と、半田と合金化可能な成膜材料を中間層として成膜する工程と、酸化を抑え半田と相性のよい成膜材料を最表層として成膜する工程とを有する前記レンズ枠成膜工程と、
前記レンズの母材を加熱する工程と、前記母材と密着する成膜材料を下地層として成膜する工程と、半田と合金化可能な成膜材料を中間層として成膜する工程と、酸化を抑え半田と相性のよい成膜材料を最表層として成膜する工程とを有する前記レンズ成膜工程とを備え、
前記レンズ枠成膜工程及び前記レンズ成膜工程のそれぞれが、前記中間層を成膜後に冷却する工程を備えていることを特徴とする内視鏡の製造方法。
【請求項2】
前記レンズ枠成膜工程及び前記レンズ成膜工程が、真空中で行われることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡の製造方法。
【請求項3】
前記冷却する工程における冷却温度を250℃以下とすることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡の製造方法。
【請求項4】
前記レンズ枠成膜工程が、前記レンズ枠の母材を加熱した後、所定の真空度下にてイオンを衝突させて表面のエッチングを行う工程を備えていることを特徴とする請求項1から3の何れか一つに記載の内視鏡の製造方法。
【請求項5】
前記下地層が、クロム、チタン、銅、シリコンの何れか一つを備えていることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載の内視鏡の製造方法。
【請求項6】
前記中間層が、ニッケル、白金、銅の何れか一つを備えていることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載の内視鏡の製造方法。
【請求項7】
前記最表層が、金、銀、ニッケル、白金、銅の何れか一つを備えていることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載の内視鏡の製造方法。
【請求項8】
少なくとも前記レンズ枠端面における前記下地層の成膜厚さを60nm以上とすることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載の内視鏡の製造方法。
【請求項9】
少なくとも前記レンズ枠端面における前記中間層の成膜厚さを300nm以上4000nm以下とすることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載の内視鏡の製造方法。
【請求項10】
少なくとも前記レンズ枠端面における前記最表層の成膜厚さを30nm以上600nm以下とすることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載の内視鏡の製造方法。
【請求項11】
少なくとも前記レンズ側面における前記下地層の成膜厚さを20nm以上とすることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載の内視鏡の製造方法。
【請求項12】
少なくとも前記レンズ側面における前記中間層の成膜厚さを100nm以上4000nm以下とすることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載の内視鏡の製造方法。
【請求項13】
少なくとも前記レンズ側面における最表層の成膜厚さを20nm以上1000nm以下とすることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載の内視鏡の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−239220(P2006−239220A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60541(P2005−60541)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】