説明

内視鏡

【課題】簡易な構成でコスト高を招くことなく、体内への挿入中に全体を徒に動かすことなく、前方観察と後方観察とに容易に切り換えることができる使い勝手に優れた内視鏡を提供する。
【解決手段】体内に挿入する挿入部11は、直線状に延びて先端側に対物レンズ12aを設けたシャフト本体12と、該シャフト本体12が軸方向に沿って前後移動可能に内嵌するアウターチューブ20とを備え、アウターチューブ20の先端側に、対物レンズ12aより周囲を観察するための開口部21を形成し、開口部21内の先端側に反射鏡22を設け、アウターチューブ20に対するシャフト本体12の前後移動により、対物レンズ12aが反射鏡22より離隔した位置での前方観察と、対物レンズ12aが反射鏡22に近接した位置での該反射鏡22を介しての後方観察の二つを少なくとも行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に挿入する細長い挿入部に光学系を内蔵し、該挿入部に連なるケーブル部を介して体内の画像を体外に伝送する内視鏡に関し、そのうち特に、光ファイバーバンドル、またはCCDやC−MOS等の電子撮像素子で画像を得る内視鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内視鏡の撮像部分は、ファイバースコープにおいては対物レンズと、対物レンズで結像された像を伝送するファイバーバンドルで構成され、電子スコープでは対物レンズと、対物レンズで結像された像を電気信号に変換する1個のCCD素子とCCDを駆動する電源線および映像の信号を伝える信号線で構成され、全体が硬く曲がらない硬性鏡においては一般に、対物レンズと、対物レンズで結像された像を伝送する複数のリレーレンズで構成される。
【0003】
挿入部は軸方向の適度に坐屈荷重に耐えられる強度と太さを持つ細長い形状に構成されていた。かかる内視鏡の先端側における視野は前方視か、さらに反射鏡等を付加することによる側視に限られており、視野を変えるには前後運動の他に、先端を屈曲させる機構を用いるか、硬性鏡のシャフト自体を傾ける必要があった。そのため、挿入する際にその進行方向や屈曲に制限がある場合には、観察範囲に盲点が生じ易いという問題点があった。
【0004】
このような問題点を解決し得る従来の技術として、例えば、特許文献1に開示されているように、形状記憶材料を平板状に形成したカンチレバーと反射表面を備え、カンチレバーを加熱するための加熱手段を更に有し、カンチレバーをヒータで加熱して反射表面の角度を切り換えることにより、挿入方向の前方のみならず側方も観察できる内視鏡が既に知られている。
【0005】
さらに、特許文献2に開示されているように、凸型回転体ミラーの後方に光照射部を設けて撮像装置の側方を照射し、側方映像を撮像することができると共に、凸型回転体ミラーの前方に光照射部を設けて撮像装置の前方を照射し、凸型回転体ミラーの頂点部にその回転軸を含むように設けた孔から前方映像を撮像することができる撮像装置も既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−337843号公報
【特許文献2】特開2002−233494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した特許文献1に記載された従来の技術では、反射表面の角度を切り換える手段としてカンチレバーやヒータ等が必要となり、部品点数が多くなりコストが嵩むという問題点があった。また、観察できる視野は前方の他は側方(軸から90度側方)に限られるため、体内への挿入中に徒に動かすことなく、先端側より反対側の後方を再び観察するような使い方は困難であるという問題点があった。
【0008】
また、前述した特許文献2に記載された従来の技術では、撮像装置の周囲最大360°の広視野を一度に観察可能となり、カメラ進行方向の周辺部の視野をカバーすることができるが、このことが逆に観察範囲が広範囲になって絞りきれず、観察漏れが生じ易いという問題点があった。また、カメラ進行方向の周辺部に関しては広い範囲でカバーできるが、前記同様に進行方向と反対側の後方は、徒に動かすことなく再び観察するような使い方は困難であるという問題点があった。
【0009】
本発明は、以上のような従来技術が有する問題点に着目してなされたものであり、簡易な構成でコスト高を招くことなく、体内への挿入中に全体を徒に動かすことなく、前方観察と後方観察とに容易に切り換えることができる使い勝手に優れた内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]体内に挿入する細長い挿入部(11)に光学系を内蔵し、該挿入部(11)に連なるケーブル部(13)を介して体内の画像を体外に伝送する内視鏡(10)において、
前記挿入部(11)は、前記ケーブル部(13)に連なり直線状に延びて先端側に対物レンズ(12a)を設けたシャフト本体(12)と、該シャフト本体(12)が軸方向に沿って前後移動可能に内嵌するアウターチューブ(20)とを備え、
前記アウターチューブ(20)の先端側の外周の一部を、軸方向かつ周方向に所定範囲で広がる範囲に切り欠き、前記シャフト本体(12)の対物レンズ(12a)より周囲を観察するための開口部(21)を形成し、
前記アウターチューブ(20)の開口部(21)内における先端側に、軸方向の後方を視野に収める反射鏡(22)を設け、
前記アウターチューブ(20)に対する前記シャフト本体(12)の前後移動により、前記対物レンズ(12a)が前記反射鏡(22)より離隔した位置での前方観察と、前記対物レンズ(12a)が前記反射鏡(22)に近接した位置での該反射鏡(22)を介しての後方観察とに、少なくとも切り換え可能としたことを特徴とする内視鏡(10)。
【0011】
[2]体内に挿入する細長い挿入部(11)に光学系を内蔵し、該挿入部(11)に連なるケーブル部(13)を介して体内の画像を体外に伝送する内視鏡(10)において、
前記挿入部(11)は、前記ケーブル部(13)に連なり直線状に延びて先端側に対物レンズ(12a)を設けたシャフト本体(12)と、該シャフト本体(12)が軸方向に沿って前後移動可能に内嵌するアウターチューブ(20)とを備え、
前記アウターチューブ(20)を透明材質により形成し、該アウターチューブ(20)の先端側に、軸方向の後方を視野に収める反射鏡(22)を設け、
前記アウターチューブ(20)に対する前記シャフト本体(12)の前後移動により、前記対物レンズ(12a)が前記反射鏡(22)より離隔した位置での前方観察と、前記対物レンズ(12a)が前記反射鏡(22)に近接した位置での該反射鏡(22)を介しての後方観察とに、少なくとも切り換え可能としたことを特徴とする内視鏡(10)。
【0012】
[3]体内に挿入する細長い挿入部(11)に光学系を内蔵し、該挿入部(11)に連なるケーブル部(13)を介して体内の画像を体外に伝送する内視鏡(10)において、
前記挿入部(11)は、前記ケーブル部(13)に連なり直線状に延びるシャフト本体(12)と、該シャフト本体(12)が軸方向に沿って前後移動可能に内嵌するアウターチューブ(20)とを備え、
前記アウターチューブ(20)の先端側の外周の一部を、軸方向かつ周方向に所定範囲で広がる範囲に切り欠いて開口部(21)を形成し、該開口部(21)内における先端側に、軸方向の後方を向き周囲を観察するための対物レンズ(12a)を設け、
前記シャフト本体(12)の先端側に、軸方向の前方を視野に収める反射鏡(22)を設け、
前記アウターチューブ(20)に対する前記シャフト本体(12)の前後移動により、前記反射鏡(22)が前記対物レンズ(12a)より離隔した位置での後方観察と、前記反射鏡(22)が前記対物レンズ(12a)に近接した位置での該反射鏡(22)を介しての前方観察とに、少なくとも切り換え可能としたことを特徴とする内視鏡(10)。
【0013】
[4]体内に挿入する細長い挿入部(11)に光学系を内蔵し、該挿入部(11)に連なるケーブル部(13)を介して体内の画像を体外に伝送する内視鏡(10)において、
前記挿入部(11)は、前記ケーブル部(13)に連なり直線状に延びるシャフト本体(12)と、該シャフト本体(12)が軸方向に沿って前後移動可能に内嵌するアウターチューブ(20)とを備え、
前記アウターチューブ(20)を透明材質により形成し、該アウターチューブ(20)の先端側に、軸方向の後方を向き周囲を観察するための対物レンズ(12a)を設け、
前記シャフト本体(12)の先端側に、軸方向の前方を視野に収める反射鏡(22)を設け、
前記アウターチューブ(20)に対する前記シャフト本体(12)の前後移動により、前記反射鏡(22)が前記対物レンズ(12a)より離隔した位置での後方観察と、前記反射鏡(22)が前記対物レンズ(12a)に近接した位置での該反射鏡(22)を介しての前方観察とに、少なくとも切り換え可能としたことを特徴とする内視鏡(10)。
【0014】
[5]前記アウターチューブ(20)の先端側が挿入に適した硬い素材により構成されたことを特徴とする[1]、[2]、[3]または[4]に記載の内視鏡(10)。
【0015】
[6]前記反射鏡(22)は、軸方向に対して、平面、凹状曲面、凸状曲面、あるいは円錐形状の何れかの形状の鏡面を有するものであることを特徴とする[1]、[2]、[3]、[4]または[5]に記載の内視鏡(10)。
【0016】
[7]前記反射鏡(22)は、軸方向と垂直な基準面に対して一定の角度に傾斜する状態で設けられていることを特徴とする[1]、[2]、[3]、[4]、[5]または[6]に記載の内視鏡(10)。
【0017】
[8]前記アウターチューブ(20)の先端側に、軸方向の前方を照射するための前方観察用光源(25)を設けたことを特徴とする[1]、[2]、[3]、[4]、[5]、[6]または[7]に記載の内視鏡(10)。
【0018】
[9]前記アウターチューブ(20)の途中に、当該位置の周囲を照射するための後方観察用光源(26)を設けたことを特徴とする[1]、[2]、[3]、[4]、[5]、[6]、[7]または[8]に記載の内視鏡(10)。
【0019】
[10]前記アウターチューブ(20)の後方観察用光源(26)の前方位置に、該後方観察用光源(26)からの前記反射鏡(22)に対する直接的な光照射を防ぐための反射防止部材(27)を設けたことを特徴とする[9]に記載の内視鏡(10)。
【0020】
前記本発明は次のように作用する。
前記[1]に記載した内視鏡(10)は、体内に挿入する細長い挿入部(11)が、先端側に対物レンズ(12a)を設けたシャフト本体(12)と、該シャフト本体(12)が軸方向に移動可能に内嵌するアウターチューブ(20)とを備えて成り、対物レンズ(12a)よりアウターチューブ(20)の外周を切り欠いた開口部(21)を通じて体内を観察することができる。
【0021】
ここでアウターチューブ(20)に対してシャフト本体(12)を前後移動させるだけで、アウターチューブ(20)は動かすことなく、対物レンズ(12a)より観察する視野を前後逆方向に容易に切り換えることができる。
【0022】
すなわち、アウターチューブ(20)に対してシャフト本体(12)を後方寄りに移動させて、対物レンズ(12a)を開口部(21)内の先端側にある反射鏡(22)から離隔させると、そのまま前方観察を行うことができる。一方、アウターチューブ(20)に対してシャフト本体(12)を前方寄りに移動させて、対物レンズ(12a)を反射鏡(22)に近接させると、該反射鏡(22)を介して後方観察を行うことができる。もちろん、前方観察と後方観察との間の観察も、無段階で適宜行うことができるのは言うまでもない。
【0023】
前記反射鏡(22)は、例えば前記[6]に記載したように、軸方向の後方に対して、平面、凹状曲面、凸状曲面、あるいは円錐形状の何れかの形状の鏡面を採用すると良い。ここで凹状曲面である場合は、局所を高い拡大率で観察することが可能となる。また、凸状曲面、あるいは円錐形状である場合は、後方をその周囲も含めてより広範囲に観察することができる。
【0024】
また、前記[2]に記載したように、前記アウターチューブ(20)を透明材質により形成し、該アウターチューブ(20)の先端側に、軸方向の後方を視野に収める反射鏡(22)を設けるように構成しても良い。かかる場合には、開口部(21)を設けることなくアウターチューブ(20)の外周を通じての視認が可能となり、また、外周部の一部に視界が遮られることもなく、視野を拡大することができる。
【0025】
このように、前記アウターチューブ(20)を透明材質により形成したことで、機械的強度が弱くなり挿入時に曲がりや損傷が生じる場合は、前記[5]に記載したように、アウターチューブ(20)の先端側を金属等の強度の優れた硬い素材により構成すると良い。
【0026】
また、前記[1]に記載した内視鏡(10)では、シャフト本体(12)に対物レンズ(12a)を設け、アウターチューブ(20)に反射鏡(22)を設けたが、逆の態様として前記[3]に記載した内視鏡(10)のように、シャフト本体(12)に反射鏡(22)を設け、アウターチューブ(20)に対物レンズ(12a)を設けるように構成しても良い。
【0027】
同様に、前記[2]に記載した内視鏡(10)では、シャフト本体(12)に対物レンズ(12a)を設け、アウターチューブ(20)に反射鏡(22)を設けたが、逆の態様として前記[4]に記載した内視鏡(10)のように、シャフト本体(12)に反射鏡(22)を設け、アウターチューブ(20)に対物レンズ(12a)を設けるように構成しても良い。
【0028】
また、前記[7]に記載したように、前記反射鏡(22)を、軸方向と垂直な基準面に対して一定の角度に傾斜する状態で設ければ、後方のみならず側方をも視野に収めることが可能となる。
【0029】
また、前記[8]に記載したように、前記アウターチューブ(20)の先端側に、軸方向の前方を照射するための前方観察用光源(25)を設けても良い。これにより、通常の前方観察の際に明るい鮮明な画像を得ることが可能となる。
【0030】
また、前記[9]に記載したように、前記アウターチューブ(20)の途中に、当該位置の周囲を照射するための後方観察用光源(26)を設けても良い。これにより、後方観察の際も明るい鮮明な画像を得ることが可能となる。
【0031】
さらに、前記[10]に記載したように、前記アウターチューブ(20)の後方観察用光源(26)の前方位置に、該後方観察用光源(26)からの前記反射鏡(22)に対する直接的な光照射を防ぐための反射防止部材(27)を設けると良い。これにより、反射鏡(22)に対する光の写り込みを防いで鮮明な画像を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る内視鏡によれば、アウターチューブに対するシャフト本体の前後移動による対物レンズと反射鏡との相対的な位置関係の変化により、前方観察と後方観察とに切り換えるから、簡易な構成でコスト高を招くことなく、体内への挿入中に全体を徒に動かすことなく、前方観察と後方観察の二つを少なくとも行うことが可能となり、施術における使い勝手を良くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づき、本発明を代表する実施の形態を説明する。
図1〜図6は、本発明の実施の形態を示している。
図1〜図3は、本実施の形態に係る内視鏡10の概略構成を模式的に示しており、図1は、内視鏡10のうち体内に挿入する細長い挿入部11を拡大して示す側面図であり、図2は、挿入部11のシャフト本体12をアウターチューブ20から外した状態で示す側面図であり、図3は、シャフト本体12に連なる装置全体を示す側面図である。
【0034】
内視鏡10は、体内に挿入する細長い挿入部11に光学系を内蔵し、該挿入部11に連なるケーブル部13を介して体内の画像を体外に伝送する装置である。挿入部11は、光ファイバーの束よりなるケーブル部13に連なり直線状に延びて先端側に対物レンズ12aを設けたシャフト本体12と、該シャフト本体12が軸方向に沿って前後移動可能に内嵌するアウターチューブ20とを備えて成る。
【0035】
ケーブル部13は、柔軟に屈曲可能な可撓性を有しているが、該ケーブル部13の先端側が連なるシャフト本体12は、直線状に延びて容易に屈曲しない剛性を有している。シャフト本体12は、例えばケーブル部13の先端側を所定長さに亘りステンレスあるいは合成樹脂等の細管で被覆して構成すると良い。シャフト本体12の先端側には、可視光が透過する光透過性材料から成る対物レンズ12aが設けられている。
【0036】
ケーブル部13の基端には、この内部の光ファイバーにより伝送された画像を拡大した状態で目視可能な観察レンズ14が接続されている。また、観察レンズ14の代わりに、画像を映し出すモニター画面を接続して構成しても良い。なお、ケーブル部13の全長は任意に設定すれば良いが、シャフト本体12の全長は、例えば150mm、外径は2.1mm程度に設定すると良い。
【0037】
アウターチューブ20は、図1に示すものは、ステンレス等の金属細管20aに透明樹脂の薄肉なカバーチューブ20bを被覆して構成しているが、透明樹脂等の透明材質により細管状に形成しても良い。何れの構成にしろ、その内部に前記シャフト本体12を軸方向に沿って前後移動可能に内嵌する部材である。なお、カバーチューブ20bの具体的な材質としては、シリコーンゴムや軟質ポリ塩化ビニル等の医療機器として使用される透明樹脂が適している。
【0038】
アウターチューブ20の先端側には、軸方向かつ周方向に所定範囲で広がる範囲に外周の一部を切り欠き、前記シャフト本体12の対物レンズ12aより周囲を観察するための開口部21が形成されている。この開口部21内における先端側には、軸方向の後方を視野に収める反射鏡22が設けられている。なお、アウターチューブ20を透明材質により形成した場合には、開口部21を特に設けることなく、アウターチューブ20の先端側に反射鏡22を設ければ良い。
【0039】
開口部21は、外周の一部を軸方向と平行な直線状の部分だけ残して広範囲に切り欠かれており、十分な広さの視野を確保できる。また、反射鏡22は、その中心軸が軸方向に一致する状態で開口部21内の先端側に配設されており、具体的には反射鏡22は、軸方向の後方に対して、平面、凹状曲面、凸状曲面、あるいは円錐形状の何れかの形状の鏡面を有するものである。なお、鏡面自体は、鏡面効果を有する金属を蒸着またはメッキして形成したり、ミラー材としての金属をそのまま所定の表面形状に形成しても良い。
【0040】
図4、図5に示すように、内視鏡10は、アウターチューブ20に対するシャフト本体12の前後移動により、対物レンズ12aが反射鏡22より離隔した後方位置(図4参照)での前方観察と、対物レンズ12aが反射鏡22に近接した前方位置(図5参照)での該反射鏡22を介しての後方観察とに、少なくとも切り換え可能に構成されている。ここでシャフト本体12の基端側にはラッチジョイント部15が設けられ、一方、アウターチューブ20の基端側にはラッチ部23が設けられている。
【0041】
ラッチジョイント部15およびラッチ部23は、互いに組み合わされることにより、アウターチューブ20に対してシャフト本体12を前記後方位置(図4参照)と前記前方位置(図5参照)とにそれぞれロックできる構成である。具体的には例えば、一般的なボールペンのノック機構における周知技術のように、前記後方位置(図4参照)を基準として、ラッチジョイント部15のアウターチューブ20側に対する押し込み操作により、交互に突出ないし没入の動作を行えるような構成であれば良い。
【0042】
また、アウターチューブ20の最先端には、軸方向の前方を照射するための前方観察用光源25が設けられている。前方観察用光源25は、具体的には砲弾型に成形した透明樹脂の内部に、複数のチップLEDを前方に向けて放射状にモールドして構成される。前方観察用光源25に対する給電は、アウターチューブ20の先端側に収まる小型電池を付設したり、あるいは電線を光ファイバーに混じらせて延して接続するようにしても良い。
【0043】
さらに、アウターチューブ20の開口部21より基端側の位置には、当該位置の周囲を照射するための後方観察用光源26が設けられている。ここでシャフト本体12の全長が例えば150mmであれば、前方観察用光源25の先端側から後方観察用光源26の基端までの距離は、30〜50mm程度に設定すると良い。
【0044】
後方観察用光源26は、具体的にはアウターチューブ20の外周に、複数のチップLEDを全周方向に並べて配置して構成される。なお、前方観察用光源25に対する給電は、アウターチューブ20の内側に収まる小型電池を付設したり、あるいは電線を光ファイバーに混じらせて延して接続するようにしても良い。
【0045】
アウターチューブ20における後方観察用光源26の前方位置には、該後方観察用光源26からの前記反射鏡22に対する直接的な光照射を防ぐための反射防止部材27が設けられている。反射防止部材27は、後方観察用光源26からの光が反射鏡22に直接写り込むのを防ぐものであれば何でも良いが、具体的な材質として、例えば金属細管20aの一部を出っ張らせて構成したり、他の構成例として、アウターチューブ20全体を透明樹脂だけで形成した場合には、その樹脂材料に黒顔料を混ぜて形成すると良い。
【0046】
次に、本実施の形態に係る内視鏡10の作用を説明する。
図4に示すように、内視鏡10において体内に挿入する細長い挿入部11は、先端側に対物レンズ12aを設けたシャフト本体12と、該シャフト本体12が軸方向に移動可能に内嵌するアウターチューブ20とを備えて成り、対物レンズ12aよりアウターチューブ20の外周を切り欠いた開口部21を通じて体内を観察することができる。開口部21を通じて対物レンズ12aで捉えられた画像は、ケーブル部13を介して体外に伝送され、ケーブル部13の基端にある観察レンズ14(図3参照)を通じて観察することができる。
【0047】
このような観察時に、アウターチューブ20に対してシャフト本体12を前後移動させるだけで、アウターチューブ20は動かすことなく、対物レンズ12aより観察する視野を前後逆方向に容易に切り換えることができる。図4において、対物レンズ12aが反射鏡22より離隔した後方位置にある時は、前方観察用光源25によって光が照射された前方を観察することができる。
【0048】
一方、ラッチジョイント部15とラッチ部23によるロック状態を解除し、図5に示すように、アウターチューブ20に対してシャフト本体12を前方寄りに移動させて、対物レンズ12aを開口部21内の先端側にある反射鏡22に近接させると、該反射鏡22を介して、後方観察用光源26により光が照射された後方を観察することができる。ここで後方観察用光源26より前方へ向かう光は、反射防止部材27によって遮られるため、反射鏡22に対する光の写り込みを防いで鮮明な画像を得ることができる。もちろん、前方観察と後方観察との間の観察も、無段階で適宜行うことができるのは言うまでもない。
【0049】
また、前記アウターチューブ20を透明材質により形成し、該アウターチューブ20の先端側に、軸方向の後方を視野に収める反射鏡22を設けるように構成した場合には、開口部21を設けることなくアウターチューブ20の外周を通じての視認が可能となり、また、外周部の一部に視界が遮られることもなく、視野を拡大することができる。
【0050】
反射鏡22としては、軸方向の後方に対して、平面、凹状曲面、凸状曲面、あるいは円錐形状の何れかの形状の鏡面を採用すると良い。ここで凹状曲面である場合は、局所を高い拡大率で観察することが可能となる。また、凸状曲面、あるいは円錐形状である場合は、後方をその周囲も含めてより広範囲に観察することができる。さらに、反射鏡22に代えて同様の機能を持つプリズムを用いても良い。
【0051】
また、反射鏡22を、軸方向と垂直な基準面に対して一定の角度に傾斜する状態で設けても良い。これにより、後方のみならず側方をも視野に収めることが可能となる。例えば最大45度の傾斜に設定すれば、真横の像も見ることができる。なお、反射鏡22の角度は必ずしも一定である必要はなく、外部から操作者が自由に可変できても良い。ここで可変の手段としては、例えばワイヤーによる押し引きや、微小バルーンの膨張等を用いることが考えられる。
【0052】
このように本内視鏡10を用いれば、腹部内臓に経皮的にカテーテルを挿入する施術も容易に行うことが可能となる。図6,図7は、栄養剤の補給、体液の排出等の目的で行われる内視鏡的胃瘻造設術におけるカテーテル交換作業を模式的に示している。概略を説明すると、先ず図6(a)に示すように、内視鏡10を新たな交換用のカテーテルBに挿入しておく。次に図6(b)に示すように、内視鏡10の挿入部11を古いカテーテルAのメインルーメンを通し胃内まで挿入する。
【0053】
続いて、図6(c)に示すように、内視鏡10に沿って古いカテーテルAを挿入部11ないしケーブル部13に沿って抜く。この時、図7(d)に示すように、古いカテーテルAを分割して取り外し、図7(e)に示すように、交換用のカテーテルBをそのままケーブル部13ないし挿入部11に沿って胃壁を貫通させて挿入する。最後に図7(f)に示すように、内視鏡10を抜去する。このようにカテーテル交換作業を容易に行うことができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば前記実施の形態では、内視鏡10としてイヤースコープを改良して構成した例を説明したが、本発明はこのような医療用の内視鏡に限られるものではなく、配管や各種機械等の内部検査に適用しても良い。
【0055】
また、前記アウターチューブ20を透明材質により形成したことで、機械的強度が弱くなり挿入時に曲がりや損傷が生じる場合は、アウターチューブ20の先端側を金属等の強度の優れた硬い素材により構成すると良い。さらに、光ファイバーの束で画像を投影するファイバースコープのみならず、小型の電子撮像素子(CCD)やCMOS等の電子撮像素子(CCD)をスコープ先端側に配置した電子スコープとして構成しても良い。
【0056】
さらに、別の実施の形態として、前述した小型の電子撮像素子(CCD)を利用する場合には、この電子撮像素子(CCD)と対物レンズ12aをアウターチューブ20に切り欠いた開口部21内における先端側に、軸方向の後方を向くように設ける一方、シャフト本体12の先端側に、軸方向の前方を視野に収める反射鏡22を設けるように構成しても良い。
【0057】
すなわち、前述した内視鏡10では、シャフト本体12に対物レンズ12aを設け、アウターチューブ20に反射鏡22を設けたが、その逆の態様として、シャフト本体12に反射鏡22を設け、アウターチューブ20に対物レンズ12aと電子撮像素子(図示省略)を設けることになる。ここでアウターチューブ20を透明材質により形成した場合、前述したようにアウターチューブ20に開口部21を設ける必要はなく、アウターチューブ20の先端側に、そのまま軸方向の後方を向く対物レンズ12aと電子撮像素子(CCD)を設ければ良い。
【0058】
このような別の実施の形態の構成によれば、アウターチューブ20に対するシャフト本体12の前後移動により、反射鏡22が対物レンズ12aより離隔した位置での後方観察と、反射鏡22が対物レンズ12aに近接した位置での該反射鏡22を介しての前方観察とを、少なくとも切り換えて行うことができる。もちろん、後方観察と前方観察との中間位置での観察も適宜行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る内視鏡は、内視鏡的胃瘻造設術に利用するものとして特に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態に係る内視鏡のうち体内に挿入する挿入部を拡大して示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る内視鏡のシャフト本体をアウターチューブから外した状態で示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る内視鏡のうちアウターチューブを除く装置全体を示す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る内視鏡により前方観察する状態を示す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る内視鏡により後方観察する状態を示す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る内視鏡を用いて内視鏡的胃瘻造設術におけるカテーテル交換作業を模式的に示す説明図である。
【図7】図6の続きである内視鏡的胃瘻造設術におけるカテーテル交換作業を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10…内視鏡
11…挿入部
12…シャフト本体
12a…対物レンズ
13…ケーブル部
14…観察レンズ
15…ラッチジョイント部
20…アウターチューブ
20a…金属細管
20b…カバーチューブ
21…開口部
22…反射鏡
23…ラッチ部
25…前方観察用光源
26…後方観察用光源
27…反射防止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に挿入する細長い挿入部に光学系を内蔵し、該挿入部に連なるケーブル部を介して体内の画像を体外に伝送する内視鏡において、
前記挿入部は、前記ケーブル部に連なり直線状に延びて先端側に対物レンズを設けたシャフト本体と、該シャフト本体が軸方向に沿って前後移動可能に内嵌するアウターチューブとを備え、
前記アウターチューブの先端側の外周の一部を、軸方向かつ周方向に所定範囲で広がる範囲に切り欠き、前記シャフト本体の対物レンズより周囲を観察するための開口部を形成し、
前記アウターチューブの開口部内における先端側に、軸方向の後方を視野に収める反射鏡を設け、
前記アウターチューブに対する前記シャフト本体の前後移動により、前記対物レンズが前記反射鏡より離隔した位置での前方観察と、前記対物レンズが前記反射鏡に近接した位置での該反射鏡を介しての後方観察とに、少なくとも切り換え可能としたことを特徴とする内視鏡。
【請求項2】
体内に挿入する細長い挿入部に光学系を内蔵し、該挿入部に連なるケーブル部を介して体内の画像を体外に伝送する内視鏡において、
前記挿入部は、前記ケーブル部に連なり直線状に延びて先端側に対物レンズを設けたシャフト本体と、該シャフト本体が軸方向に沿って前後移動可能に内嵌するアウターチューブとを備え、
前記アウターチューブを透明材質により形成し、該アウターチューブの先端側に、軸方向の後方を視野に収める反射鏡を設け、
前記アウターチューブに対する前記シャフト本体の前後移動により、前記対物レンズが前記反射鏡より離隔した位置での前方観察と、前記対物レンズが前記反射鏡に近接した位置での該反射鏡を介しての後方観察とに、少なくとも切り換え可能としたことを特徴とする内視鏡。
【請求項3】
体内に挿入する細長い挿入部に光学系を内蔵し、該挿入部に連なるケーブル部を介して体内の画像を体外に伝送する内視鏡において、
前記挿入部は、前記ケーブル部に連なり直線状に延びるシャフト本体と、該シャフト本体が軸方向に沿って前後移動可能に内嵌するアウターチューブとを備え、
前記アウターチューブの先端側の外周の一部を、軸方向かつ周方向に所定範囲で広がる範囲に切り欠いて開口部を形成し、該開口部内における先端側に、軸方向の後方を向き周囲を観察するための対物レンズを設け、
前記シャフト本体の先端側に、軸方向の前方を視野に収める反射鏡を設け、
前記アウターチューブに対する前記シャフト本体の前後移動により、前記反射鏡が前記対物レンズより離隔した位置での後方観察と、前記反射鏡が前記対物レンズに近接した位置での該反射鏡を介しての前方観察とに、少なくとも切り換え可能としたことを特徴とする内視鏡。
【請求項4】
体内に挿入する細長い挿入部に光学系を内蔵し、該挿入部に連なるケーブル部を介して体内の画像を体外に伝送する内視鏡において、
前記挿入部は、前記ケーブル部に連なり直線状に延びるシャフト本体と、該シャフト本体が軸方向に沿って前後移動可能に内嵌するアウターチューブとを備え、
前記アウターチューブを透明材質により形成し、該アウターチューブの先端側に、軸方向の後方を向き周囲を観察するための対物レンズを設け、
前記シャフト本体の先端側に、軸方向の前方を視野に収める反射鏡を設け、
前記アウターチューブに対する前記シャフト本体の前後移動により、前記反射鏡が前記対物レンズより離隔した位置での後方観察と、前記反射鏡が前記対物レンズに近接した位置での該反射鏡を介しての前方観察とに、少なくとも切り換え可能としたことを特徴とする内視鏡。
【請求項5】
前記アウターチューブの先端側が挿入に適した硬い素材により構成されたことを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の内視鏡。
【請求項6】
前記反射鏡は、軸方向に対して、平面、凹状曲面、凸状曲面、あるいは円錐形状の何れかの形状の鏡面を有するものであることを特徴とする請求項1、2、3、4または5に記載の内視鏡。
【請求項7】
前記反射鏡は、軸方向と垂直な基準面に対して一定の角度に傾斜する状態で設けられていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6に記載の内視鏡。
【請求項8】
前記アウターチューブの先端側に、軸方向の前方を照射するための前方観察用光源を設けたことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7に記載の内視鏡。
【請求項9】
前記アウターチューブの途中に、当該位置の周囲を照射するための後方観察用光源を設けたことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7または8に記載の内視鏡。
【請求項10】
前記アウターチューブの後方観察用光源の前方位置に、該後方観察用光源からの前記反射鏡に対する直接的な光照射を防ぐための反射防止部材を設けたことを特徴とする請求項9に記載の内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−36301(P2011−36301A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184088(P2009−184088)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(591017836)
【Fターム(参考)】