説明

内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室

【課題】磁気遮蔽室のドアを通過する打ち消しコイルの弛み部分に弛み防止器を配置して新たな雑音磁場の発生を防止し、さらに、所定値を超える強力な磁場が進入した場合には、その進入状況を履歴として記録、または警報を発することによって、正確な測定データの確保を実現することが出来る磁気遮蔽室を提供する。
【解決手段】磁場打ち消しコイルを備えた磁気遮蔽室と、磁気遮蔽室内に設けられて、外部から漏れてきた磁場を検知するセンサSと、センサSからの検知信号を受けて進入してきた磁界成分を分析し、その進入磁場を打ち消すための磁界成分を演算する信号制御部と、信号制御部からの信号を受けて、打ち消しコイルに励磁電流を供給する打ち消し電流供給回路と、センサSの測定値が所定値を超えた場合に、その測定値を記録すると共に、警報を発するレベル検出装置を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気遮蔽室内に漏れて入ってくる内部侵入磁場を打ち消すために、磁気遮蔽室外の周辺環境磁場を乱すことなく、内部侵入磁場を打ち消すようにした内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室に関する。
【背景技術】
【0002】
生体磁気計測では、数10pT以下の非常に微弱な磁気信号を計測する必要があるため、通常の生活空間における環境磁場中では、磁気信号成分はその雑音磁場中に完全に埋もれる。そこで、微弱な生体磁気を精確に計測するためには、数10μTの地磁気レベル程度の静磁場から電車や車両の移動による数100nT程度かそれ以下の変動磁場雑音は、絶対的に遮蔽あるいは低減させておく必要があり、その手段として磁気遮蔽室が必要になる。
【0003】
磁気遮蔽室の構造は、立方体あるいは直方体の小部屋構造が一般的で、図7にその一例を示す。磁気遮蔽室1の出入り口のドア1Cをはじめ、床、天井、四方の側壁を含めた六面には、高透磁率磁性材料であるパーマロイ、けい素鋼板、純鉄などの磁気遮蔽壁面材を貼り、外乱雑音となる変動磁場の磁束100が磁気遮蔽材を通過して磁気遮蔽室内部に入り込まないようにする。しかしながら、これでも完全に磁気遮蔽することは難しい。
【0004】
図8は、図7の磁気遮蔽室1において電車の通過時における変動磁場に対して、磁気遮蔽室の外側と内側中心部で同時計測したときの実測データの一部を示す。評価対象の磁気遮蔽室は、外側のパーマロイ壁面と内側のパーマロイ壁面との間に一定の空間を設けた2重構造であったが、変動磁場が磁気遮蔽室の内部に侵入したために、変動磁場成分を含む電磁波障害事例の証拠データとなった。本事例について更に説明すると、当該磁気遮蔽室の設置前では、基準計測点における静磁場の水平成分は30μTであって、設置後の磁気遮蔽室内における同一測定点の静磁場は約100nTであった。すなわち、地磁気に対する磁気遮蔽性能は約−50dB以下(約1/300以下)で非常に良好な磁気遮蔽効果があった。
【0005】
ところが、図8の電車通過時のデータ(a)において、たとえば変動磁場波形の右端Aにおける変動幅は190nTであり、これに対して磁気遮蔽室設置後の同一測定点における磁場データ(b)は5nTで、変動磁場については高々−32dB(約1/40)の磁気遮蔽性能しか示さなかった。電車通過時に磁気遮蔽性能が低下すると言うことは、磁気遮蔽室内部で計測された生体磁気などの微弱磁場計測値に、電車通過時の変動成分も混入することを意味する。見方を変えれば変動磁場に対しては、静磁場と同程度の磁気遮蔽性能が保証出来ていなかったことになる。このように、磁気遮蔽した室内において計測したデータと言えども、計測対象物から発生する真の磁気信号分だけを計測したことにならないため、内部侵入磁場の影響を除去しない限り、磁気遮蔽室内における計測データは信頼出来ないという大きな欠点があった。
【0006】
これに対する解決事例としてSQUID磁気センサを使用した生体磁気計測システムにおいては、差動形コイルによるグラジオメ−タを用いて内部侵入磁場からの影響を除去している例がある。しかし、本発明の目的とする磁気遮蔽室自体の磁気遮蔽性能向上については、別途に考えなければならない。
【0007】
磁気遮蔽室の性能向上対策の一つに、パーマロイなどの磁気遮蔽材を多重化して、磁気遮蔽性能を向上させる方法がある。しかし、これは磁気遮蔽材の増大によるコスト上昇になり、磁気遮蔽材を固定する構造材の補強追加の必要性も出てくる。また、磁気遮蔽室の総重量も増大し、設置床の補強工事も必要になるなど、別の問題が新たに生じて得策ではない。もう一つの対策として、磁気遮蔽室の外周に外部打ち消しコイルを巻き、磁気遮蔽室外から内部に侵入する磁場をこの外部打ち消しコイルで打ち消すようにしたアクティブ磁気シールド技術である。しかしながら、この従来方式のアクティブ磁気シールドでは、内部侵入磁場を打ち消す磁場を、磁気遮蔽室外側の打ち消しコイルで発生させるため、この外側打ち消しコイルで発生した強い磁場によって、磁気遮蔽室外側周辺に置いていた機器が新たに電磁波障害を起こす結果となった。
【0008】
変動磁場成分を含む電磁波障害事例は、鉄道沿線で生じる変動磁場を打ち消す場合などに顕著にあらわれる。この種の変動磁場は、地磁気レベル程の強い変動磁場も存在する。そこで、この変動磁場を打ち消すために従来方式のアクティブ磁気シールドの方法では、磁気遮蔽室の外側の打ち消しコイルで、それと同程度の強度の磁場を逆方向から発生させて、打ち消すことになる。ところが、外側打ち消しコイルで発生させる磁場は磁場勾配を持った屈曲した磁場になるため、鉄道沿線から生じる磁場の磁場強度分布にほぼ一致する領域では相殺されるが、磁場強度の不一致領域では新たな電磁波障害を引き起こす結果となった。
【0009】
逆の見方をすれば、磁気遮蔽室内部の内部侵入磁場を打ち消すためには、打ち消し磁場が磁気遮蔽室壁面を貫通して磁気遮蔽室内部に達する必要がある。磁気遮蔽室壁面は磁気遮蔽材で構成されているため、当然、磁束の貫通を阻止しようとする。それゆえ、磁気遮蔽室内に侵入した磁場を、磁気遮蔽室外部から打ち消すには、内部の侵入磁場よりも相当強い磁場を逆方向から磁気遮蔽室に印加しない限り、磁気遮蔽室内部までは届かない。そこで、外側打ち消しコイルに流す打ち消し電流は、大きな容量の電源を使用して流すことになる。しかし、電源の電流容量が大きくなると電流の安定性や瞬時応答性が悪くなるので、その結果、打ち消し磁場も不安定になり雑音も多くなる。状況によっては、磁気遮蔽材の磁化中に生じるバルクハウゼン雑音や磁壁移動のピンニングによるステップ状の磁場変化などの影響を受けて、結局のところ、総合してみれば外部アクティブ磁気シールド方式による変動磁場遮蔽性能の向上には、限界があるという結果になったのである。
【0010】
そして、上述した外部アクティブ磁気シールド方式による変動磁場遮蔽性能の問題点を解決する技術として本願出願人は先に、特開2002−232182号を出願している。
【特許文献1】特開2002−232182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記特開2002−232182号公報記載の技術は、磁気打ち消しコイルを遮蔽室のX軸、Y軸、Z軸の3方向にヘルムホルツコイル型の磁気シールドを配置して、進入磁場を排除する構成であるが、外部からの進入磁場を100%シャットアウトすることは困難である。
遮蔽室外部で強力な騒音等の磁場が発生した場合には、磁気遮蔽室内にもその磁場が進入するため、磁気遮蔽室内の精密計測機器に影響を及ぼす。そのため、計測データの信頼性を確保することができない。
また、磁気遮蔽室には打ち消しコイルを付帯するが、磁気遮蔽室の開閉部を通過する打ち消しコイルには、ドアの開閉に伴う伸縮に対応する構造が必要となる。このドアの開閉に伴う伸縮に対応する構造としては、打ち消しコイルに伸縮に対応する弛み部を形成して、この弛み部が伸縮に対応する構成としている。しかし、この弛み部はコイルの付帯ラインから湾曲して突設してしまい、この湾曲部分が新たな雑音磁場を発生させるという問題があった。
本発明は係る従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、磁気遮蔽室のドアを通過する打ち消しコイルの弛み部分に弛み防止器を配置して新たな雑音磁場の発生を防止し、さらに、所定値を超える強力な磁場が進入した場合には、その進入状況を履歴として記録、または警報を発することによって、正確な測定データの確保を実現する内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するための手段として、請求項1記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室では、磁場打ち消しコイルを備えた磁気遮蔽室と、前記磁気遮蔽室内に設けられて、外部から漏れてきた磁場を検知するセンサと、前記センサからの検知信号を受けて進入してきた磁界成分を分析し、その進入磁場を打ち消すための磁界成分を演算する信号制御部と、前記信号制御部からの信号を受けて、打ち消しコイルに励磁電流を供給する打ち消し電流供給回路と、前記センサの測定値が所定値を超えた場合に、その測定値を記録すると共に、警報を発するレベル検出装置を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室では、請求項1記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室において、磁気遮蔽室の開閉部を通過する打ち消しコイルに、開閉に伴う伸縮に対応するコイルの弛み部を確保し、その弛み部は、打ち消しコイルの付帯ラインに沿って折り返し、その折り返し部分の送り出しと折り戻しによって、コイルの伸縮に対応する構成とした。
【0014】
請求項3記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室では、請求項1〜2いずれか記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室において、複数本の電線を幅方向に隣接させた並列電線を周回させてコイルを形成し、そのコイルは、前記並列電線の始端と終端を、一芯スライドして接続することによって、電線が螺旋状に通過する構成とした。
【0015】
請求項4記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室では、請求項1〜3いずれか記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室において、コイル中心軸を同一軸上に一致させた複数個の内部打ち消しコイルで構成する一軸成分用内側打ち消しコイル3組を、この一軸成分用内側打ち消しコイルの各中心軸を互いに直交させて、磁気遮蔽室の磁気遮蔽材で囲まれた内側に付帯させたことを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室では、請求項1〜4いずれか記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室において、一軸成分用内側打ち消しコイルが、2個の内側打ち消しコイルを平行に対面させて構成するヘルムホルツコイル形であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の、磁気遮蔽室を採用することにより、無磁場に近い磁場管理空間でしか計測できない各種材料部品の磁気的精密非破壊検査の分野、各種生体磁気計測、医療診断機器や生体生理機能を解析するシステムで使用する極微弱磁場測定装置、磁気的応答による免疫診断システム、病原菌検査システムの精密測定に応用することができる。また、今後は、電子顕微鏡やMRI装置の分野において幅広く使用できるものである。
また、センサの測定値が所定値を超えた場合に、その測定値を記録すると共に、警報を発するレベル検出装置を備えているので、計測値からの突発的な雑音データの削除、または補償値を設定することが可能となり、それによって正確な測定データが確保される。
そして、磁気遮蔽室の開閉部を通過する打ち消しコイルに、開閉に伴う伸縮に対応するコイルの弛み部を確保し、その弛み部を、打ち消しコイルの付帯ラインに沿って折り返し、その折り返し部分の送り出しと折り戻しによって、コイルの伸縮に対応する構成としたので、弛み部による新たな雑音磁場の発生を防止する。
さらに、打ち消しコイルを、並列電線の始端と終端を、一芯スライドして接続することによって形成したので、打ち消しコイルの形成、付帯が容易に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は、一軸成分用の内側打ち消しコイルCを2個用意して、これらを平行に対面させてヘルムホルツコイル形一軸成分用内側打ち消しコイル(ここでは、対になった2個のコイルをいう)を作り、このヘルムホルツコイル形一軸成分用内側打ち消しコイルを更に3組使用して、X軸、Y軸、Z軸の各座標軸に一致させて設置した実施例である。1Aは磁気遮蔽室1の外壁、1Bは磁気遮蔽室1の内壁であって通常は建築用ボードや板を使用し、その上から壁紙等を貼って内装する。磁気遮蔽材は、外壁1Aと内壁1Bの間に存在する。1Cは開閉部であり、ここではドア付き出入口の例を示している。内側打ち消しコイルCは磁気遮蔽室の内壁面に固定されている。
【0020】
磁気遮蔽室内部に侵入する侵入磁場は、三軸型磁気センサSで磁場の3成分を検出するので、各軸成分の検出信号によって内部侵入磁場のX軸成分、Y軸成分、Z軸成分を同時個別に打ち消すことになる。すなわち、内部侵入磁場のX軸成分に対しては内側打ち消しコイルCX1とCX2で構成するヘルムホルツコイル形一軸成分用内側打ち消しコイルで打ち消し、Y軸成分に対しては内側打ち消しコイルCY1とCY2で構成するヘルムホルツコイル形一軸成分用内側打ち消しコイルで打ち消し、Z軸成分に対しては内側打ち消しコイルCZ1とCZ2で構成するヘルムホルツコイル形一軸成分用内側打ち消しコイルで打ち消す。なお、各軸成分の対面する内側打ち消しコイルCどうしのコイル間隔は使用目的に応じて任意に選定できる。
【0021】
図2は、ヘルムホルツコイル形一軸成分用内側打ち消しコイルと電気回路系に関する詳細説明図である。内側打ち消しコイルCが2個、平行に対面してヘルムホルツコイル形を作っている。ヘルムホルツコイル形コイルの中心でコイル面に対して直角に左右に貫く直線をコイルの中心軸という。ヘルムホルツコイル形では、内側打ち消しコイルの中心軸を一致させて、コイル面を平行に対面させることを原則としているが、現場の付帯工事の状況次第では、中心軸のずれやコイル形状の変形もありうる。内側打ち消しコイルCは、1回巻きから複数巻きまで実施可能である。
【0022】
磁気センサSは、磁場のX、Y、Zの各成分を検出する三軸型磁気センサであり、ヘルムホルツコイル形一軸成分用内側打ち消しコイルで作られる磁場がほぼ均一となる中央部の磁場均一空間内に設置される。しかし、生体磁気計測時には、この磁気センサの存在が邪魔になるので、磁場均一空間をできるだけ広く確保するためには、この磁場均一空間の周辺部に予め設置しておくことになる。この周辺部は、ヘルムホルツコイル形一軸成分用内側打ち消しコイルの中間中心部の上下、左右、前後に広がって存在する領域であって、磁場均一空間に属する外郭領域であり、磁気センサSは、この周辺部である外殻領域の内側であれば、どこに設置しても十分機能を発揮する。
【0023】
当然のことながら、所望する磁場の均一精度を高くすれば磁場均一空間も狭くなり、したがって、磁気センサSを設置可能な空間も狭くなり、ヘルムホルツコイルの中間中心部に近づくことになる。
前記磁気センサSで検出された三成分の検出信号は、センサ駆動と信号処理機能を有する信号処理回路10によって電気信号に処理される。処理された信号は静地場分を減算する加算回路20にて磁気遮蔽室内部侵入磁場の変動磁場の値となり、更に磁場の変動分は増幅回路30で増幅され、処理された信号は電流変換回路40に出力され、電流変換回路40によって、打ち消し用電源が供給され、打ち消しコイルC1とC2にて打ち消し磁場を発生させる。
ここで、信号処理回路10、加算回路20、増幅回路30が信号制御部を構成し、電流変換回路40が打ち消し電流供給回路を構成する。
また、電流変換された信号はレベル設定回路50を経て、測定値が記録されると共に、設定値以上の信号で有れば警報信号として発生する。
このレベル設定回路50が配置されていることにより、磁気遮蔽室の外で強力な磁場、騒音が発生した場合には、このデータ(発生時間、発生値等)を参酌して、突発的な雑音データの削除、または補償値を設定することが可能となり、正確な測定データが確保される。
【0024】
特殊な例として、例えば内部侵入磁場の垂直面内あるいは水平面内の一軸成分を打ち消すだけでよい場合には、内部侵入磁場の一方向だけを打ち消す一軸成分用の内側打ち消しコイルCと、磁気センサSを一軸型磁気センサに置き換えることによって構成すれば、その目的は達成できる。二軸成分を打ち消すだけでよい場合には、一軸成分用の内側打ち消しコイルCを2組直交するように配置し、互いに直交させて配置する一軸型磁気センサ2個も各内側打ち消しコイルCの中心軸と磁気センサの磁気検出軸が平行になるように配置することによって構成すれば、その目的は達成できる。これらの一軸型磁気センサを、三軸型磁気センサで代替できることは自明である。当然のことながら、磁気センサ、内側打ち消しコイルをはじめとする磁気遮蔽室に付帯設置する電気回路系の機器、電源、コ−ド類は、電磁波障害を起こす原因になるので、電波シールド、磁気シールドなどのEMC対策を十分取り、磁気遮蔽室の性能が乱されないように配慮して使用、あるいは設置することが必要である。
【0025】
なお、本発明で使用可能な磁気センサには、SQUID磁気センサ、フラックスゲート形磁気センサ、ホール素子による磁気センサ、磁気発振方式による磁気センサ、ブリッジ形磁気センサ、MI磁気センサなど、他にも種類はあるがこれを限定しない。また、磁気センサに付帯構成部品を必要とするもの、あるいは新規に付加された機能構成品からなる磁気センサに関しても、本発明の目的に使用可能な磁気検出機能を有するものであれば、これを限定しない。
【0026】
磁気センサSを固定する位置に関しては、磁気遮蔽室内のヘルムホルツコイルの中間位置を原則とする。しかし、特殊な場合として磁気遮蔽室外部、厳密には磁気遮蔽室の磁気遮蔽材より外側空間で変動磁場を検出し、検出信号を所定の演算処理手段で処理された後、電流変換回路40へと出力され、電流変換回路40から供給された電流によって、打ち消し磁場を内側打ち消しコイルCから発生させることも可能である。この場合には、外部の変動磁場と内部侵入磁場と打ち消し磁場の相関に基づいて、内側打ち消しコイルに流す電流値を適正に演算制御するアナログ回路あるいはデジタル回路(パソコンの使用を含む)を信号制御部に搭載することになる。更に、磁気遮蔽室の中央部以外、例えば磁気遮蔽室の磁気遮蔽材より内側空間に存在する内壁面、あるいはその近傍に、一軸磁気センサを各軸成分毎に分割設置することも可能である。この場合も、内部侵入磁場を打ち消したい磁場管理空間における磁場と磁気センサを固定した空間における磁場との相関に基づいて、内側打ち消しコイルに流す電流値を適正に演算制御するアナログ回路あるいはデジタル回路(パソコンの使用を含む)を信号制御部に搭載することになる。
【0027】
次に、図3は磁気遮蔽室の開閉部の平面図である
内側打ち消しコイルCX1、CZ1、CZ2の一部は、ドア1Cの位置と重なっているため、ドアの開閉を自在可能にする工夫が必要になる。
そこで、コイルの分断と接続が繰り返しできるようにコイルの一部に接続器具2を挿入する。また、必要に応じてコイルの端子と端子を接続するための中継端子を設け、中継端子どうしを結線する中継ケーブルを使用する(図3(a)(b))。
【0028】
打ち消しコイルCは、磁気遮蔽室の内壁1Bの表面に沿って付帯されている。
ドア1Cが大きく開く右側では、接続器具2,2でコイルの切断・接続が自在にできるようになっている。前述したように、接続器具2を接点式スイッチにすれば、ドア開放時にはコイルは切断され、ドア閉鎖時にはコイルが接続されようにする事も可能になる
一方、ドア1Cを磁気遮蔽室に取り付ける蝶番付近は、従来の開閉部では、図3(b)に示すように、内部打ち消しコイルCは充分ゆとりある長さを取って配線され、この部分が湾曲して突設されるために、雑音磁場が発生するという問題があった
そこで、本発明では打ち消しコイルCの弛み部3に弛み防止器を配置している。
【0029】
次に、図4は弛み防止器の説明図である。
弛み防止器4は弛み部3を付帯ライン上に折り返し、その折り返し部分の送り出しと折り戻しによって、打ち消しコイルCの伸縮に対応する構成としている。
弛み防止器のフレーム5内には、基端部分にコイルバネ6が収容され、そのコイルバネ6によって基端方向に引っ張られる滑車7、折り返しコイルCをガイドする折り返し軸8、送り出しコイルをガイドするリード軸9が収容されている。
【0030】
前記フレーム5は打ち消しコイルの付帯ライン上に沿って配置され、樹脂等のフレーム同士がスペーサ11を介して対合され、その対合された側面の間にコイルCを折り返して収容している。
また、前記フレーム5の先端にはコイルの入り口12が形成され、その入り口12からコイルが折り返し軸8を基点として、180度折り返して付帯ライン上を後退し、その後退したコイルが滑車7でさらに180度折り返して、再び付帯ライン上を前進してリード軸9にガイドされて送り出される。
【0031】
前記滑車7はフレーム5の基端方向にコイルバネ6によって引っ張られて、その半周に巻き付いた打ち消しコイルCを引っ張っている。
弛み部3は滑車7によって常に折り返し方向に付勢されており、ドア1Cを開いてコイルCが引っ張られると、バネ6に抗して滑車7が引っ張られて、コイルを折り戻し方向に送り出すことになる。
一方、ドア1Cを閉めるとコイルは弛むが、滑車7がコイルを引っ張っているために、コイルは滑車7に引っ張られて、フレーム5内を後退して折り返されることになる。
このように、滑車7がスライドして折り返し長さが調整されて、伸縮に対応する構成となっている。
【0032】
次に、図5は打ち消しコイルの説明図である。
前記コイルCは複数本の電線を幅方向に隣接させた並列電線を周回させてコイルを形成し、そのコイルは、前記並列電線の始端と終端を、一芯スライドして接続することによって、電線が螺旋状に通過する構成としている。
つまり、図5に示すように、11本の電線が幅方向に隣接して並列電線が形成され、この並列電線を磁気遮蔽室に周回させている。周回の回数は1回から複数回まで状況に応じて設定する。
そして、始端と終端は、幅方向に一芯スライドさせることにより、それぞれの電線が螺旋状に通過するコイルが形成される。
尚、床部分のコイルCの付帯は図6に示すように、床板下材によってコイルの付帯溝を形成して、それぞれクロスさせて上面に、床板上材を架設する。
【0033】
以上、実施例を説明したが、本発明の具体的な構成は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ヘルムホルツ型コイル2個による一軸成分用打ち消しコイル3組を磁気遮蔽室内に設けた状態を示す説明図である。
【図2】ヘルムホルツ型コイル型一軸成分用打ち消しコイルと電機回路系に関する説明図である。
【図3】磁場遮蔽室の打ち消しコイルの付帯状態を示す説明図である。
【図4】弛み防止器の説明図である。
【図5】打ち消しコイルの説明図である。
【図6】床面における打ち消しコイルの付帯状態を示す説明図である。
【図7】従来例に係る磁気遮蔽室の説明図である。
【図8】磁気遮蔽室の外側と内側中心部で同時計測した実測データを示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
C 打ち消しコイル
S センサ
CX1、CX2、CX3 進入磁場X成分用打ち消しコイル
CY1、CY2、CY3 進入磁場Y成分用打ち消しコイル
CZ1、CZ2、CZ3 進入磁場Z成分用打ち消しコイル
1 磁気遮蔽室
2 接続器具
3 弛み部
4 弛み防止器
5 フレーム
6 バネ
7 滑車
8 折り返し軸
9 リード軸
10 信号処理回路
11 スペーサ
12 入り口
20 加算回路
30 増幅回路
40 電流変換回路
50 レベル設定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場打ち消しコイルを備えた磁気遮蔽室と、
前記磁気遮蔽室内に設けられて、外部から漏れてきた磁場を検知するセンサと、
前記センサからの検知信号を受けて進入してきた磁界成分を分析し、その進入磁場を打ち消すための磁界成分を演算する信号制御部と、
前記信号制御部からの信号を受けて、打ち消しコイルに励磁電流を供給する打ち消し電流供給回路と、
前記センサの測定値が所定値を超えた場合に、その測定値を記録すると共に、警報を発するレベル検出装置を備えたことを特徴とする内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室。
【請求項2】
磁気遮蔽室の開閉部を通過する打ち消しコイルに、開閉に伴う伸縮に対応するコイルの弛み部を確保し、
その弛み部は、打ち消しコイルの付帯ラインに沿って折り返し、その折り返し部分の送り出しと折り戻しによって、コイルの伸縮に対応する構成とした請求項1記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室。
【請求項3】
複数本の電線を幅方向に隣接させた並列電線を周回させて打ち消しコイルを形成し、
そのコイルは、前記並列電線の始端と終端を、一芯スライドして接続することによって、電線が螺旋状に通過する構成とした請求項1〜2いずれか記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室。
【請求項4】
コイル中心軸を同一軸上に一致させた複数個の内部打ち消しコイルで構成する一軸成分用内側打ち消しコイル3組を、この一軸成分用打ち消しコイルの各中心軸を互いに直交させて、磁気遮蔽室の磁気遮蔽材で囲まれた内側に付帯させたことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室。
【請求項5】
一軸成分用内側打ち消しコイルが、2個の内側打ち消しコイルを平行に対面させて構成するヘルムホルツコイル形であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の内部アクティブ磁気シールド方式の磁気遮蔽室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−78529(P2008−78529A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258397(P2006−258397)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(594121763)株式会社エムティアイ (3)
【出願人】(595104574)株式会社オータマ (2)
【Fターム(参考)】