説明

内部生息空間形成型投石礁

【課題】 イセエビ又はアラ類等根付性大型魚を対象とした投石漁場の基質として用いられている自然石は、空隙の形状や目詰り等の短所があるため、この発明の課題は、これらの短所を改善し、対象生物の習性に適合した内部空間形成のための補助施設と、この施設を配置した漁場施設の考案にある。
【解決手段】 図1のようなトンネル状で内部が中空で、なおかつ奥部が分岐した枠型構造物を設置し、その上から自然石を被覆することにより、イセエビ又はアラ類等根付性大型魚にとって最適な、広くて、奥行きがあり、目詰まりが少なく、外敵からの防御にも対応した内部空間を形成できる。また、これを投石漁場内に複数配置することで、最適生息空間が形成された理想的な漁場を効率的かつ安価に創造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、投石漁場内にイセエビ又はアラ等根付性大型魚の生息に最適なトンネル状の内部空間を形成し、資源涵養と漁獲量増加が期待できる投石礁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自然石を利用した人工魚礁の発明の多くは、魚礁の機能性向上を図るため、特許文献1、特許文献2のように、他の素材との組合せによる構造の改良や配置の工夫に目が向けられている。しかし、この発明では、自然石そのものが持つ基質としての優位性を生かしつつ、対象生物にとって最適の生息空間を、自然石間の隙間に効率的かつ安価に形成するという課題及び解決法を発想の原点としており、上記の特許文献とは技術的思想が大きく異なっている。この発明では、内部空間形成用の補助施設として枠型構造物を考案し、これを自然石で覆うことによって、課題の解決を図っている。
【特許文献1】 特開2003−219756号
【特許文献2】 特開2003−289746号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
市場価値の高いイセエビ又はアラ類等根付性大型魚を対象とした人工魚礁の基質として、自然石は、施工性、経済性、汎用性、自然素材であるなどの点において最も適した素材の一つであるが、投石漁場の内部に形成される空間部分は、比較的狭く、積み重なりにより形成される空隙の形状は施工時の偶然性に左右され、目詰りが大きい等の短所がある。従って、この発明の第1の課題は、これら自然石間の空間形状面での短所を改善するための補助施設の考案にある。
【0004】
イセエビの生態的特徴として、イセエビが蝟集する場所は、自然石が集積した比較的大きい内部空間のうち、外敵であるマダコ、ウツボ等から身を守るための逃避経路が奥部にみられる形状の空間を最も好む習性がある。また、高級魚であるクエに代表されるアラ類等根付性大型魚においても、外敵から身を守るために奥部に一定規模の奥行きのある穴を好む習性がある。しかしながら、従来型のコンクリートブロックや鋼製等の単体魚礁では、こうした習性に適合した構造物を効率的に製作することは困難なため、この発明の第2の課題は、自然石の集積箇所の奥部に、前記の補助施設を設置し、対象生物の習性に適合した内部空間を形成することにある。
【0005】
また、投石漁場にコンクリート魚礁や鋼製魚礁等を配置する従来方式では、魚礁を自然石の上部あるいは周囲に設置する方式や、自然石を構造体の内部に配置する方式等が取られているが、それらの方式では対象生物と自然石との接触面が少なく、対象生物が必要とする生息空間が充分に確保されていない等の問題点があり、自然石が元来持っている生息基質としての優位性が生かされていない。従って、この発明の第3の課題は、自然石の基質としての優位性を確保しつつ、上記の内部空間を効率的かつ安価に形成すための造成手法にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、イセエビを対象とする際は海底面と接触した自然石上に、アラ類等根付性大型魚を対象とする際は海底面に直接、トンネル状で内部が中空で、なおかつ奥部が分岐した枠型構造物を設置し、その上から自然石を被覆することにより、イセエビ又はアラ類等根付性大型魚の生息にとって最適な、広くて、奥行きがあり、目詰まりが少なく、外敵からの防御にも対応した空間を効率的に形成できる。
【0007】
また、上記の枠型構造物は、あくまで内部空間形成用の補助施設であり、上部の自然石の加重に耐え得る最低限の強度を確保した枠のみの構造体であるため、最小限の原材料で製作でき、これを投石漁場内に複数配置することにより、イセエビ又はアラ類等根付性大型魚にとって最適の漁場を安価に創造できる。
【0008】
さらに、イセエビを対象とする際は海底面に接触した自然石の上部に、アラ類等根付性大型魚を対象とする際は海底面に直接、上記の枠型構造物を設置し、その上から自然石で被覆する造成手法であるため、内部空間の形成状況を段階的に逐次確認しながら、正確な施工ができる。
【発明の効果】
【0009】
これらの発明により、着生基質として優れた自然石の特性を生かしつつ、イセエビ又はアラ類等根付性大型魚の最適生息空間を自由に形成でき、また外敵からの逃避経路も確保されるので、理想的な漁場造成が可能になると共に、生息空間が拡大することに伴う生存率の向上並びに資源涵養効果が期待できる。
【0010】
また、対象海域における波浪、潮流等の海象条件ならびに操業形態等に配慮した施設構造及び設置方向等を任意に選択できるので、造成後は効率的な操業が可能となり、漁獲量の増加が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
この発明の実施形態について、新規に投石漁場を造成する際の実施形態を例にとり、図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、イセエビの生息空間として最適なトンネル状の内部空間を形成するための枠型構造物の斜視図である。同図に示すように、枠型構造物は、鋼製骨材1cを用いて枠の全体範囲を囲み、加重が大きい上面も補強し、さらに側面は鉄筋1dで補強し、自然石がトンネル内部へ侵入することを防ぐ構造となっており、またY字状に分岐しているため奥部に外敵からの逃避経路も確保されているので、この枠型構造物を図2のように設置することにより、枠型構造物の枠の範囲により規定される空間が自然石間に形成され、イセエビにとって最適の内部空間が形成される。なお、図1の1aに示される侵入口の横幅は、イにとって最適の内部空間が形成される。なお、図1の1aに示される侵入口の横幅は、イイセエビの生態的要件から判断し、50cmから1m程度が適当である。
【0012】
図3は、高級魚のクエに代表されるアラ類等根付性大型魚の生息空間として最適なトンネル状の内部空間を形成するための枠型構造物の斜視図である。同図に示すように、枠の全体を鋼製枠で囲み、さらに上面と側面は鉄筋等で補強し、自然石がトンネル内部へ侵入することを防げる構造となっており、またT字状に分岐し、奥部は袋状となっているため外敵から身を守る広い空間も確保されているので、この枠型構造物を図4のように設置することにより、アラ類等根付性大型魚にとって最適の内部空間が形成される。なお、図3の3aに示される侵入口の横幅は、アラ類等の魚体サイズ及び生態的要件から判断し、1mから2m程度が適当である。
【0013】
図5は、イセエビを対象とする際の施設配置と造成手法を示した図である。同図に示すように、第1段階として基礎となる自然石を設置した後に、第2段階として枠型構造物を設置し、第3段階としてそれを被覆するように自然石を設置するため、内部空間の形成状況を逐次確認でき、正確な施工ができる。アラ類等根付性大型魚では、生態的要件から判断し、第1段階を省略した方がより効果的である。
【0014】
また、漁場に枠型構造物を配置する際には、図6、図7、図8に示すような配置パターンがある。図6ではイセエビの侵入口がすべて外部に向くよう配置している。図7では、図6のものを漁場内に2組配置したものである。図8では侵入口の方向をランダムに配置したものである。このように多様な施設配置が可能であり、これにより波浪、潮流、操業形態等に適合した漁場造成が可能である。
【0015】
以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、この技術的思想に基づく各種の変形が可能である。枠型構造物の形状は、対象生物の習性に応じて、断面形状を四角以外の多角形や円形としたり、奥部はより広い袋状または3つ以上の分岐構造とすることも可能である。また枠型構造物の素材は、上部の自然石の加重に耐え得る強度を確保できれば、鋼製の他に、FRP、コンクリート、木材等も適用可能である。また形成された内部空間に部分的に自然石を設置し、空間構造をより複雑にしたり、FRP、コンクリート、木材等で製作された構造物を内部空間に設置したりする等の工夫も自由にできる。また天然柴のような産卵施設や雑魚篭のような漁具を挿入することもできる。
【0016】
さらに、この発明の別の実施形態として、大型海藻が消失した磯焼け地帯や間隙の目詰まりにより漁場機能が低下した投石漁場の機能回復にも適用できる。この場合は、機能低下がみられる箇所の自然石の一部をいったん横に仮置きした上で、移動箇所に枠型構造物を設置し、その上に仮置きした自然石を被覆する方式で効率的な漁場機能回復効果が期待できる。
【0017】
さらに、通常の人工魚礁では、時間経過に伴い付着生物層の発達や目詰まり等がみられた際は、魚礁単体の重量が大きいために、それを船上に引き上げ回復処置を行うことは非常に困難である。その点、この発明では、付着物の発達や目詰まり等の多くは上部の自然石に限定されるため、機能低下の進行速度は遅く、従来のものに比べ魚礁機能は長期間持続する。また、仮に機能低下がみられても、造成手法が簡易的であるため、何度でも復元工事が可能であるというメリットがある。
【0018】
さらに、技術背景で述べているように、この発明では、内部空間形成用のための補助施設という新しい考え方を示しているので、この考え方が普及することにより、従来に比べより高度で多様な造成手法の創出が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】 イセエビを対象とした枠型構造物の斜視図である。
【図2】 イセエビを対象とした枠型構造物の設置状況図である。
【図3】 アラ類等根付性大型魚を対象とした枠型構造物の斜視図である。
【図4】 アラ類等根付性大型魚を対象とした枠型構造物の設置状況図である。
【図5】 イセエビを対象とした漁場の造成手順を示した図である。
【図6】 イセエビを対象とした漁場で侵入口を外部に向け施設を配置した例を示している。
【図7】 イセエビを対象とした漁場で施設を4列に配置した例を示している。
【図8】 イセエビを対象とした漁場で施設をランダムに配置した例を示している。
【符号の説明】
【0020】
1a イセエビの内部侵入口
1b イセエビの奥部生息空間及び逃避経路
1c 鋼製骨材
1d 補強用鉄筋
1e 溶接部分
2a 基礎部分の自然石
2b 枠型構造物
2c 枠型構造物の上部を被覆する自然石
2d 形成される内部空間の範囲
3a アラ類等根付性大型魚の内部侵入口
3b アラ類等根付性大型魚の奥部逃避空間
3c 鋼製骨材
3d 補強用鉄筋
3e 溶接部分
4a 枠型構造物
4b 枠型構造物の上部を被覆する自然石
4c 形成される内部空間の範囲
5a 第1段階の基礎部分の自然石設置
5b 第2段階の枠型構造物設置
5c 第3段階の被覆用自然石設置
6a 投石漁場
6b イセエビ用の枠型構造物
7a 投石漁場
7b イセエビ用の枠型構造物
8a 投石漁場
8b イセエビ用の枠型構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投石漁場を造成する際に、対象生物の生息に適合した内部空間を形成するための補助施設として、枠型構造物を自然石間に設置し、自然石そのものが持つ基質としての優位性を生かしつつ、効率的かつ安価に、効果的な投石漁場を造成する手法。
【請求項2】
請求項1の枠型構造物は、イセエビ又はアラ類等根付性大型魚の生息に最適なトンネル状の内部空間を形成するため、内部が中空で、奥部は分岐していることを特徴とする枠型構造物。
【請求項3】
イセエビを対象とした投石漁場を造成することを目的とし、請求項2の枠型構造物を、海底面に接触した自然石の上部に設置し、さらにその上から自然石で被覆することにより、イセエビの生息に最適な内部空間が形成された漁場施設。
【請求項4】
クエに代表されるアラ類等根付性大型魚を対象とした投石漁場を造成することを目的とし、請求項2の枠型構造物を、海底面に直接設置し、さらにその上から自然石で被覆することにより、アラ類等根付性大型魚の生息に最適な内部空間が形成された漁場施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−167731(P2008−167731A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28565(P2007−28565)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(307000961)
【出願人】(507027151)
【出願人】(507041386)
【Fターム(参考)】